説明

シロアリを防除するための脱皮促進化合物、エクジステロイド、それらのアナログ、およびキチン合成阻害剤の使用方法

【課題】地下シロアリ防除方法の提供。
【解決手段】脱皮促進化合物およびキチン合成阻害剤を含む、組成物。脱皮促進化合物がエクジステロイドおよびそのアナログまたは、ハロフェノジド、テブフェノジド等である。エクジステロイドおよびそのアナログは、例えば、エクジソン、ある種のエクジソンアナログ、および20-ヒドロキシエクジソンである。キチン合成阻害剤は、例えばヘキサフルムロンおよび/またはノビフルムロンである。これらの活性成分の組み合わせは、キチン合成の抑制と共に促進された脱皮をもたらし、どちらかの化合物群単独と比較して、シロアリに対する活性を増強する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は2004年2月19日出願の米国特許仮出願第60/546,356号の恩典を主張する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
地下シロアリはほとんどの場合、構造物およびその内容物の木または他のセルロース材料を摂食するため、周辺の土壌から構造物に入り込む。検査されない場合、シロアリは重大な損傷を引き起こし得る。その結果、構造物にシロアリが入り込むのを防ぐために物理的もしくは化学的バリアを構築するか、またはシロアリが構造物に侵入した後でそれらを駆除するための努力が社会にとって相当な出費となっている。
【0003】
地下シロアリは土壌表層のすぐ下に、大規模な採餌通路を構築する。単一のコロニーには数百フィートわたる採餌テリトリーを有する数百万のシロアリが含まれ得る(Su, N.Y., R.H. Scheffrahn [1988] Sociobiol. 14(2):353-359)。地下シロアリは潜在性の動物であるため、それらの存在は何らかの損傷、採餌管、または生きたシロアリ(群れなど)が見いだされる後まで、通常知られない。
【0004】
現在のところ、地下シロアリの防除については2つの基本的なアプローチが存在する:予防的防除および補修的防除である。米国の一部において、シロアリのインフェステーションを防ぐため新規に構築された建物の基礎の下にある土壌を殺虫剤(本明細書において殺シロアリ剤(termiticide)ともいう)を用いて前処置することが義務づけられている。しかしながら、バリアはしばしばその連続性を失い、現在入手可能な土壌殺シロアリ剤はそれらの生物学的活性を数年後に失う傾向にある。土壌中に確立されたシロアリコロニーは、追加の化学物質が構造の下および周囲に適用されない場合、その後構造物に侵入し得る。
【0005】
家屋または他の建物に地下シロアリがはびこった場合、1つの選択肢はコンクリートの基礎の下の土壌に注入するか、建物の外周の周辺土壌に注ぐか、または双方の組み合わせにより、建物の基礎の周囲に殺シロアリ剤を導入することである。この種の構築後処置は労働集約的であり、かつ適切に連続的なバリアを産生しない可能性がある。他の補修的処置としては、建物の壁の内部に殺シロアリ剤(亜ヒ酸など)を散布するかまたは注入するなどの、スポット処置が含まれる。
【0006】
環境影響がより小さく、シロアリに対して活性を示すいくつかの毒物が公知である。しかしながら、1995年より前には、これらの毒物は、毒物を標的害虫に効率的にかつ有効に送達する方法とともに用いられなかった。
【0007】
1995年の最初の市販のシロアリベイトシステム、SENTRICON(登録商標)の導入により、地下シロアリの防除手法は大きく変化した。以前の処置とは異なり、SENTRICON(登録商標)などのモニタリング-ベイティングプログラムはコロニー全体の除去が可能である。国際公開公報第93/23998号、米国特許第6,370,812号、および米国特許第6,397,516号を参照されたい。標的特異的なアプローチであるため、数十万匹のシロアリを含む可能性のあるコロニーを除去するのに、わずか数グラムのヘキサフルムロン(hexaflumuron)が必要である(Su 1994, J. Econ. Entomol. 87:389- 397)。ヘキサフルムロンは、その環境影響の小ささから、EPAのReduced Risk Pesticide Initiativeに最初に登録された化合物であった。SENTRICON(登録商標)システムは2000年にEPAのPresidential Green Chemistry Awardを受賞した。
【0008】
環境悪影響がほとんどないかまたは全くないさらなるシロアリ毒物の必要性が残っている。例えば、米国特許第5,753,249号;第6,214,364号;および第5,558,862号はエクジステロイド代謝経路を乱す酵素の投与により昆虫を防除する方法に関する。
【0009】
昆虫は、気候および天敵などの外部要素からそれらを守る、外骨格(大部分がキチンおよびタンパク質から作られる)を有する。しかしながら外部のクチクラは、継続的な成長のために周期的に脱ぎ換える必要がある。内分泌産物、最も顕著には脳ホルモン、幼若ホルモン、およびエクジソン(図1A)が昆虫の脱皮を調節することが公知である(Chapman 1976)。エクジソンは、昆虫血リンパへのその放出後、速やかに20-ヒドロキシエクジソン(または「20E」、図1B)に変換される(Nation 2002)。幼若ホルモン(JH)、セスキテルペノイドの存在は、昆虫が幼形を保持する(つまり、より若い幼虫期から次の幼虫期に脱皮する)ことを保証する。昆虫が段階的に脱皮をするにつれ、JH濃度は低下し、最終幼虫齢において完全に無くなることさえあり得る。JHの非存在下において、次に幼虫は脱皮してサナギまたは成虫期に入る。
【0010】
JH、そのアナログ(JHA)、および模造品(JHM)のシロアリに対する影響は十分に研究されている(Su and Scheffrahn 1990)。JHAおよびJHM(幼若ホルモン様物質(juvenoid)とよぶ)はコロニー防御のために機能する兵隊シロアリを過剰に生じることが公知である。兵隊アリ階級は働きアリにより養われなければならないため、シロアリコロニーは最適な割合の兵隊アリ階級を含む(Wilson 1971、Haverty 1977)。過剰な兵隊アリ形成を誘導する幼若ホルモン様物質を用いてシロアリ社会の完全性を乱し、コロニー全体の破壊に至らせることが可能であると提案されていた(Haverty 1977、Hrdy and Krecek l972、Hrdy 1973)。しかしながら、さらなる研究から幼若ホルモン様物質は天然に兵隊アリの割合が低いシロアリ種、例えばヤマトシロアリ属(Reticulitermes)の種にのみ有効であることが明らかとなった(Su and Scheffrahn 1990)。比較的高い割合の兵隊アリを有するイエシロアリ属(Coptotermes)の種に、世界中で経済的に重要なシロアリのかなりの割合が含まれる(Su 2003)。
【0011】
地下シロアリの防除における、比較的最近のひとつの進展は、地下シロアリの広大なコロニーを除去するために、ヘキサフルムロンまたはノビフルムロン(noviflumuron)などのキチン合成阻害剤(CSI)を含むシロアリベイトを使用することである(Su 1994, Su 2003)。シロアリコロニー全体を除去するために、死に至る前にシロアリにより活性成分(AI)がコロニー全体に散布されるように、ベイトのAIは忌避性でなく、遅効性で、かつその致死時間が用量非依存的でなくてはならない(Su and Scheffrahn 1998)。幼若ホルモン様物質およびCSIのような昆虫成長制御剤(IGR)はこれらの3つの要件を全て満たす。しかしながら、多くのIGRは種特異的である(Su 2003)。CSIは一般的にキチンの生合成を阻害するが、その全プロセスはほとんど分かっていないままである(Nation 2002)。
【0012】
米国特許第6,093,415号は、シロアリベイト中の幼若ホルモン様物質殺虫剤およびCSIの間の相乗効果に関する。エクジソンおよびそのアナログは言及されていない。
【0013】
幼若ホルモン様物質およびCSIはシロアリ防除に対するそれらの潜在能力について十分に調べられているが、シロアリにおけるエクジソンの正常な機能でさえ限られた情報しか入手できない。Luscher and Karson(1958)およびLuscher(1960)は、エクジソンが正常なシロアリの生態で果たす役割を、もしあるならば、決定しようと試行する一方(シロアリの防除に対しては試行せず)、エクジソンを単独またはJHと組み合わせて注入すると、下等シロアリ、カロテルメスフラビコリス(Kalotermes flavicollis)の正常な偽脱皮を誘導することを報告した。彼らの研究以来、エクジソンのシロアリ内、またはシロアリに対する効果についての公知の調査はなかった。
【0014】
合成バージョンのエクジソンは農業上重要ないくつかの害虫防除に用いられているが、シロアリ防除には用いられていない。これらのアナログは成熟前脱皮を引き起こす20Eの活性を典型的に模倣している(Wing et al. 1988)。通常の条件下において脱皮の終わり頃に、20Eは分解および排出され、それにより羽化ホルモンにプロセスを完了させる(Nation 2002)。しかしながら、アナログは20Eよりも安定であり、かつ容易に分解または排出されない(Wing et al. 1998)。結果的に、昆虫血リンパ中にそれらが継続的に存在するために完全な脱皮が妨げられ、かつ高エクジソン症(hyperecdysonism)(終了が成功しない成熟前脱皮)を引き起こす。したがって、これらのアナログをエクジステロイドアゴニストと呼ぶことができる(Dhadialla et al. 1998)。
【0015】
米国特許第6,123,756号および第6,248,159号は、ハウスロングホーン(house longhorn)(ハイロトルーペスバユラス(Hylotrupes bajulus))、木食い虫(woodworm)(シバンムシ(Anobium punctatum))、およびキクイムシ(bark beetle)(ヒラタキクイムシ(Lyctus brunneus))などの乾燥木材破壊昆虫から木材を守るための木材防腐剤に関する。これらの特許は幼若ホルモンおよびエクジソンアゴニストを組み合わせて処置された木材(昆虫ベイトではない)に関する。地下シロアリは乾燥木材シロアリとは異なり、乾燥木材破壊昆虫ではなく、これらの特許において言及または示唆されていない。例えば、それらを液体窒素を用いて凍結することによる、上記の土壌シロアリ、つまり乾燥木材シロアリに対して使用することを意図した系を記載する米国特許第5,027,546号を参照されたい。
【0016】
エクジステロイドアゴニストRH-5849をいくつかの昆虫種に対して試験した場合に肯定的な結果が得られた(Darvas et al. 1992)が、シロアリに対するエクジステロイドアゴニストの潜在的な影響については限定的な情報しか得られない。Raina et al. (2003)はそのようなアゴニストの一つ、ハロフェノジド(halofenozide)がイエシロアリ(C. formosanus)の有翅若虫の生殖生理に影響を与え得ると報告した。しかしながら、地下シロアリコロニーを除去するためにベイト中に用いるためには、コロニー個体群の大部分を占める働きアリ階級にとってベイトが致死的でなくてはならない。コロニーのほんの小さな部分を占める有翅若虫は、最終的に巣を離れ、他の場所で新しいコロニーを始める。しかしながら、それらは働きアリのように採餌しない。したがって、若い有翅若虫を除去することはコロニー全体の個体群およびその損傷可能性に影響しない。
【0017】
ハロフェノジドはDow AgroSciences所有のいくつかの脱皮促進化合物(MAC)の一つである。ハロフェノジドは鱗翅目およびいくつかの甲虫目の種に対し活性を有する。都会の有害生物管理ビジネスにおいて、ハロフェノジドは、住宅および商業地の芝生ならびにゴルフコースにおける白い地虫および表面摂食性鱗翅目の防除のために、米国においてMACH2(商標)という商標名のもとに現在登録されている。
【0018】
シロアリに対してハロフェノジドを試したといういくつかの限定的な報告がある。例えば、 Florida Entomological Society 2002 Annual Meeting (Monteagudo & Su [2002])の要旨は、東洋地下シロアリ(レティキュリテルメスフラバイペス(Reticulitermes flavipes))の働きアリに対する、昆虫成長制御剤ベイトのハロフェノジドの好み、抑止、および致死性を調べるために実施された選択試験の予備的な結果に関する。相当する「10分間論文」は、ハロフェノジドを東洋地下シロアリに対するベイト毒物としてのその可能性について、選択試験において評価したことを述べている。木材切片からなる摂食ブロックはさまざまな濃度のハロフェノジドを用いて真空含浸され、4,000ppmより高い濃度では摂食抑制が生じた。イエシロアリの有翅虫および若虫における卵巣の発育に重大な影響を有するとして、RH-0345 (別名、ハロフェノジド)を記したUSDA内部メモも存在した。しかしながら、試験で用いられた低用量の影響は一時的なものであった。そのメモは変異体兵隊アリ形成を誘導するための幼若ホルモンアナログの使用についても論じていた。ニューオリンズにおけるUSDAシロアリプログラムは、イエシロアリにおける潜在的殺卵性効果についてハロフェノジド調べ、2001 meeting of the Entomological Society of America (論文0269)において10分間の口頭発表で結果を提示した
【0019】
シロアリ防除のためのハロフェノジド以外のエクジステロイドまたはそのアナログの試験についての公知の報告はない。さらに、シロアリを含む昆虫に対するCSI+MAC(またはエクジステロイド)クラスの化学物質の組み合わせについての公知の試験もない。
【発明の概要】
【0020】
発明の概要
本発明は部分的に、キチン合成阻害剤(CSI)、例えばヘキサフルムロンおよび/またはノビフルムロン、ならびにエクジステロイド(およびそのアナログ)または脱皮促進化合物(MAC)、例えばハロフェノジドの使用によるシロアリ防除に関する。本発明は、これら2つの活性成分を含む混合物にも関する。MAC/エクジステロイドアナログが働きシロアリにおいて早期の脱皮事象を誘導することで、次にCSIが脱皮を中断し、かつ死亡を引き起こすことを可能にする。驚いたことに、キチン合成の阻害と共に促進された脱皮を引き起こすこれらの活性成分の組み合わせは、どちらかの化合物群単独と比較して、シロアリに対する活性を増強することが本明細書において示される。
【0021】
本発明は部分的に、採餌性の働き地下シロアリに対する、エクジステロイドおよびそれらのアナログの経口投与に関する。本発明のエクジステロイドを摂食した後、シロアリは脱皮を誘導された。しかしながら、それらは脱皮を完了できず最終的に死亡した。これは、シロアリに対するエクジソンの致命的な影響を初めて示したものである。本発明に従って用いられる好ましいエクジステロイドは、例えば、エクジソン、そのアナログ、および20-ヒドロキシエクジソンである。本発明に従ってCSIとともに用いられる場合、この組み合わせは、驚いたことにどちらかの殺虫剤群単独と比較して、シロアリに対しより迅速な(およびより完全な)有効性を提供する。
【0022】
本発明は全てのシロアリ種の防除のため、任意の所定のMAC殺虫剤(例えば、ハロフェノジドおよび/またはテブフェノジド(tebufenozide))と任意の所定のCSIとの全ての組み合わせを含む。本発明は任意のさまざまなタイプの製剤および送達系も含む(例えば、ベイト、粉末、および液状の製剤)。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1Aはエクジソンの化学構造を示す。図1Bはその活性ホルモン20-ヒドロキシエクジソンを示す。
【図2】図2Aはエクジソンアナログ、テブフェノジドの化学構造を示す。図2Bはハロフェノジドの化学構造を示す。
【図3】東洋地下シロアリに対するハロフェノジドおよびヘキサフルムロンの影響を図示する。
【図4】東洋地下シロアリに対するハロフェノジドおよびノビフルムロンの影響を図示する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
発明の詳細な説明
本発明は部分的に、キチン合成阻害剤(CSI)、例えばヘキサフルムロンおよび/またはノビフルムロン、ならびにエクジステロイド(およびそのアナログ)または脱皮促進化合物(MAC)、例えばハロフェノジドの使用によるシロアリ防除に関する。本発明は、これら2つの活性成分を含む混合物にも関する。MAC/エクジステロイドアナログが働きシロアリにおいて早期の脱皮事象を誘導することで、次にCSIが脱皮を中断し、かつ死亡を引き起こすことを可能にする。驚いたことに、キチン合成の阻害と共に促進された脱皮をもたらすこれらの活性成分の組み合わせは、どちらかの化合物群単独と比較して、シロアリに対する活性を増強することが本明細書において示される。
【0025】
本発明は全てのシロアリ種の防除のため、任意の所定のMAC殺虫剤(例えば、ハロフェノジドおよび/またはテブフェノジド)と任意の所定のCSIとの全ての組み合わせを含む。本発明は任意のさまざまなタイプの製剤および送達系も含む(例えば、ベイト、粉末、および液状の製剤)。
【0026】
本発明は部分的に、地下シロアリ防除のための、エクジステロイドおよびそれらのアナログの経口投与に関する。本発明のエクジステロイドに(摂食または他の方法での摂取後)暴露された場合、シロアリは脱皮を誘導された。しかしながら、それらは脱皮を完了できず最終的に死亡した。これは、シロアリに対するエクジソンの致命的な影響の初めての公知の報告である。
【0027】
本発明の組成物を用いて、標的シロアリに対し、その他の悪い(しかしながら所望の)影響、例えば冒されたシロアリにおける摂食停止および顕在的な毒性などをもたらすすこともできる。さらに有効量のエクジステロイドを用いて脱皮を誘導できる;このことは本明細書において記載されているように、CSIの効果を「相乗」または増強するために用いられる場合、有用である。本発明はシロアリを抑制する(つまり、それらをおよびさらに好ましくはコロニー全体を死滅させる、それらを病気にする、木製の構造物上での摂食を防ぐなど)ための活気的な新しい選択肢を提供する。
【0028】
本発明に従って用いられる好ましいエクジステロイドは、例えば、エクジソン、そのアナログ、および20-ヒドロキシエクジソン(「20E」または「20E-エクジソン」;通常昆虫内で作られるエクジソンの副産物)である。しかしながら、エクジソンおよび20Eに加えて他のエクジステロイドを、以下にさらに詳細に説明するように、本発明にしたがってシロアリに給餌する(および/または餌中に投与する、ベイト中に提供するなど)こともできる。本発明に従ってCSIとともに用いられる場合、この組み合わせは、驚いたことにどちらかの殺虫剤群単独と比較して、シロアリに対しより迅速な(およびより完全な)有効性を提供する。
【0029】
エクジソンおよびその他のアナログが優れたシロアリ防除を提供するという発見は非常に意外なことであった。この発見は、シロアリへのエクジソンの注入が何ら悪影響なしに単に脱皮を成功させたという先行研究(Luscher and Karson 1958; Luscher 1960)に特に留意すると、完全に予想外でかつ驚くべきことであった。したがって本発明のいくつかの態様において、エクジステロイド成分はCSI成分なしで用いることができる。RH-0345ともよばれるハロフェノジドはテブフェノジドの甲虫類特異的な変種である。CSIなしにエクジステロイド(またはアナログ)が使用される態様において、ハロフェノジドはそのような態様から除外される。記載されているように、本明細書において用いられているように「脱皮促進化合物」は天然および合成化合物、エクジステロイド、それらのアナログ、ハロフェノジド、ならびにシロアリにおいて促進されたおよび/または成熟前の脱皮を誘導するのに有用かつ機能的な、関連する全ての殺虫剤を含む。
【0030】
本明細書において報告される他の結果のいくつかを要約すると、ハロフェノジドを用いた経口摂取選択試験において、東洋地下シロアリ(EST)、レティキュリテルメスフラバイペス(コラール(Kollar))の生存率および摂食応答を決定するために一連の実験室での試験が実施された。キチン合成阻害剤のヘキサフルムロンまたはノビフルムロンと組み合わされた場合の、(さまざまな濃度の)ハロフェノジドの潜在的な相加/相乗効果を評価する目的でもまた試験が実施された。ハロフェノジドにCSI殺虫剤を加えた組み合わせは、どちらかの殺虫剤タイプ単独と比較した場合、増強された有効性をもたらす。ハロフェノジドの効果はヘキサフルムロンと組み合わされた場合、向上するようであるが、ノビフルムロンとの組み合わせでは活性速度の上昇もまた見られる。5000ppmヘキサフルムロンに対し、26日以内に有意な相加効果をもたらすためには5000ppmハロフェノジドが必要であった。より低濃度のハロフェノジド(2500〜1250ppm)は14日以内に5000ppmノビフルムロンを増強した。アミテルメスウィーレリ(Amitermes wheeleri)に対するより小規模な研究もまたハロフェノジドがCSI殺虫剤と組み合わされた場合、有効性を増強できることを示した。
【0031】
本発明によれば、使用される(または使用適応可能な)エクジステロイドアナログの他の例には、元々鱗翅目害虫の防除のために設計された殺虫剤であるテブフェノジドが含まれる。それは他の害虫の防除のために、益虫、捕食性虫、および寄生虫の天然の個体群には影響を与えない。図2Aは1996 Farm Chemicals Handbookからの、テブフェノジドの化学構造を示す。RH-5849 (1,2-ジベンゾイル-1-tert-ブチルヒドラジン)はテブフェノジドの甲虫類特異的代替物である。RH-0345ともよばれるハロフェノジドは、テブフェノジドの甲虫類特異的変種である。本発明によれば、ハロフェノジドはまたCSIと共に用いるのに好ましいMACである。図2Bはハロフェノジドの化学構造を示す。他のいくつかのエクジステロイドアゴニストには、メトキシフェノジド(methoxyfenozide)およびクロマフェノジド(chromafenozide)が含まれる。このように、本発明はテブフェノジド、テブフェノジドアナログ、RH-5849、およびクロマフェノジドの使用を含み得る。他の可能性はメトキシフェノジドまたはRH-2485である。
【0032】
本明細書を通して「MAC」という用語が使用されているが、MACは脱皮抑制化合物としても考えられ得ることが留意されるべきである。本明細書において他の部分に記載されているように、MACは脱皮を誘導できるがその脱皮は完了されない。したがって、「脱皮抑制」という用語も適切である。
【0033】
「第二の」活性成分(「第一の」AIは本発明のMAC、エクジステロイド、またはアナログである)は好ましくは、外クチクラの形成を妨げる化学物質、例えばキチン合成阻害剤(CSI)を含み得る。CSIはキチン合成手順を妨げることが公知であるが、所定の天然の生物時計の下で昆虫がエクジソンを産生するまではそのような手順は行われない。したがって、CSIは天然の脱皮が行われるのを受動的に待たなくてはならない。CSIと組み合わされて相乗的に用いられる場合、エクジステロイドまたはエクジステロイドアゴニストは(経口摂取後に)、シロアリが致死未満量(高エクジソン症を引き起こし得ないが脱皮を開始する用量)を摂取した場合でさえ、シロアリに脱皮を誘導することができ、次に脱皮プロセスがCSIにより抑制される。好ましい第二のAIの例には、上記のように、例えば毒物含有マトリックスの作製中に、セルロース材料に含浸または取り込ませることができる、ヘキサフルムロン、ノビフルムロン、ジフルベンズロン(diflubenzuron)、フルフェノクスロン(flufenoxuron)、クロルフルアズロン(chlorfluazuron)、ビストリフルロン(bistrifluron)、アザジラクチン(azadirachtin)、ルフェヌロン(lufenuron)、および他のアクリル尿素が含まれる。
【0034】
本エクジステロイドまたはアナログ「AI」(活性成分)を他の毒物またはAI(例えば、「第三の」AI)と併せて使用することができる。本エクジソンタイプAIおよび他の好ましいAIは、遅効性、標的昆虫を忌避しない濃度で致死、かつ上記のようにマトリックスと組み合わせることが可能である。
【0035】
本毒物に直接接触したかまたは摂取した害虫が直ちに殺されず、それらのコロニーまで、および/またはコロニーを通って移動し他の同巣個体(nestmate)を毒物に動員し、それにより多数のコロニーメンバーの防除をもたらすことが意図される。本発明の毒物に遭遇してから数日、数週間、または数ヶ月も後に害虫が死亡することが好ましい。
【0036】
本発明に従って使用される化合物は、SENTRICON様ステーション収納容器、地上ステーション、および密封されたベイトのベイトマトリックスにおいて用いることができる。本化合物は採餌性の働き地下シロアリに給餌され、かつそれらにより同じコロニーの同巣個体に送達され得る。(具体的に記載のない限り、本明細書において「シロアリ」と総称された場合、それは地下シロアリを意味する。地下シロアリは乾燥木材シロアリとは異なる。)
【0037】
モニタリング-ベイティングシステム(SENTRICON様)およびCSIは地下シロアリ防除における比較的最近の進歩である。キチン合成阻害剤(CSI)、例えばヘキサフルムロンまたはノビフルムロンを含むシロアリベイトを用いて有利に地下シロアリの広大なコロニーを除去することができる(Su 1994, Su 2003)。これは従来の液状殺虫剤を用いることでは実現できない成果である。死に至る前にシロアリにより活性物質(AI)がコロニー全体に散布されるように、ベイトのAIは忌避性でなく、遅効性で、かつその致死時間が用量非依存的でなくてはならない(Su and Scheffrahn 1998)。
【0038】
シロアリに対してCSIが遅効性の特性を持つことは、広大なコロニーにAIを完全に散布してその除去を行うためには望ましいものの、ヘキサフルムロンベイトがコロニーを抹殺するために必要な非常に長い時間はいくつかの場合において短所となり得る。そのようなシロアリベイトがコロニーを除去するための時間は3つのセグメントに分けられ得る:1)シロアリによりベイトステーションが発見されるのに必要な時間、2)シロアリが致死量を摂取するのに必要な時間、および3)シロアリが脱皮を開始するのに必要な時間(それにより摂取されたCSIが脱皮の成功を妨げることができ、個体が死亡に至る)。比較的最近のノビフルムロンの使用により2番目のセグメント(致死量を摂取するのに必要な時間)が短縮された。ノビフルムロンはヘキサフルムロンより致死性が高く、致死量に達するのにより少ない量(および、したがって、致死量を摂取するのに必要な時間)が必要である。脱皮プロセスが始まるまでCSIは影響しないので、CSIが用いられた場合3番目の時間セグメントは同じままである。
【0039】
本発明において、レティキュリテルメスフラバイペス(R. flavipes)およびイエシロアリに対するエクジソンおよび20Eの高エクジソン症が初めて記載される。これら2つのシロアリ種は世界中のシロアリの最も経済的に重要な属を代表する。本発明によれば、エクジステロイドおよびエクジステロイドアゴニストをベイトマトリックスに用いて働きシロアリの遅発性致死を招き、コロニーの除去を引き起こすことができる。影響が生じ得るより前に、シロアリが脱皮するのを受動的に待つ代わりに、エクジステロイドは能動的に脱皮を誘導することから、エクジステロイドまたはこれらのエクジステロイドアゴニストの使用はCSIより有利である。したがって、本発明は有利に(かつ驚くほどに)シロアリコロニー除去のために必要な時間の3番目のセグメントを除く(または削減する)。致死未満量に暴露されたシロアリが脱皮するよう誘導されるが、CSIにより脱皮プロセスが抑制されるように、ベイト中にエクジステロイドまたは本エクジステロイドアゴニストをCSIと組み合わせて相乗的に用いることもできる。
【0040】
成長制御剤という特定のエクジソンアナログはシロアリの特定の種に対してはより有効であり得る。多くの昆虫成長制御剤(IGR)も種特異的であり得る。したがって、それらは所定の状況のために選択および最適化され得る。本発明の開示より前には、ハロフェノジド以外のエクジステロイドおよびそれらのアナログはそれらのシロアリ防除能力について調べられていなかった。しかしながら、本発明の開示を考慮して、今後はシロアリ防除プログラムにおける使用のために、エクジソンなどのエクジステロイド、それらのアナログ、およびそれらの副産物が検討される。本発明より前の当技術分野の状況と対照的に、天然のホルモンであるエクジソンおよび20Eが肯定的な結果を示した事実から、今や他のエクジソンアゴニスト、特に所望の構造特性を有するものを用いて有利にシロアリ防除ができることを、当業者が確信しかつ予期するようになる。好ましい態様において、ベイト中にエクジソンおよび20Eを用いて採餌性の働きアリ階級(および栄養交換による非採餌性)の地下シロアリに高エクジソン症を引き起こすことができる。
【0041】
前述の事項を考慮し、本方法を用いることにより(選択的に)標的にできるシロアリ種の例には、イエシロアリ、レティキュリテルメスフラバイペス、R.ヘスペラス(R. hesperus)、R.バージニカス(R. virginicus)、R.ティビアリス(R. tibialis)、およびヘテロテルメスアウレウス(Heterotermes aureus)、ならびにムカシシロアリ科(Mastotemitidae)(マサトテルメス(Mastotermes)種)、シュウカクシロアリ科(Hodotermitidae)(アンカントテルメス(Anacanthotermes)、ズーテルモプシス(Zootermopsis)種)、ミゾガシラシロアリ科(Rhinotermitidae)(コプトテルメス(Coptotermes)、ヘテロテルメス(Heterotermes)、レティキュリテルメス(Reticulitermes)、プサモテルメス(Psammotermes)、プロルヒノテルメス(Prorhinotermes)、シェドルヒノテルメス(Schedorhinotermes)種)、レイビシロアリ科 (Kalotermitidae)(グリプトテルメス(Glyptotermes)、ネオテルメス(Neotermes)、クリプトテルメス(Cryptotermes)、インサイジテルメス(Incisitermes)、カロテルメス(Kalotermes)、マルジニテルメス(Marginitermes)種)、ノコギリシロアリ科(Serritermitidae)、およびシロアリ科(Termitidae)(ペリカプリテルメス(Pericapritermes)、アロドンテルメス(Allodontermes)、マイクロテルメス(Microtermes)、オドントテルメス(Odontotermes)、ナスチテルメス(Nasutitermes)、テルメス(Termes)、アミテルメス(Amitermes)、グロビテルメス(Globitermes)、マイクロセロテルメス(Microcerotermes)種)、オオシロアリ科(Termopsidae)(ホドテルモプシス(Hodotermopsis)、ズーテルモプシス種)ならびにシロアリ種の他の害虫のファミリー(および害虫属)のシロアリ種が含まれる。好ましくは、本発明の方法は地下シロアリを標的にするよう用いられる。
【0042】
本発明はさまざまな方法で実践され得る。いくつかの好ましい器具が国際公開公報第93/23998号、米国特許第6,370,812号、および米国特許6,397,516号に記載される。本発明のいくつかの態様は、モニタリング装置および/または毒物含有マトリックスを封入するよう設計された収納容器を含み得る。この収納容器はモニタリング装置および/または毒物含有マトリックスを環境から保護するのに有用である。モニタリング装置またはマトリックスは、採餌性のシロアリへの混乱を最小限にしてそれらを除去できるように、そのような方法で収納容器内に封入できる。この収納容器は好ましくは耐久性のある、非生分解性材料で作製される。好ましくは、ひとたびシロアリがはびこった場合は、モニタリング装置は穏やかに土壌またはステーション収納容器から除かれ得る(採餌用トンネルへの混乱を最小限にするためにはステーション収納容器を利用するのが有利である)。モニタリング装置を除き、次いでエクジステロイドまたはそのアナログ(および望ましい場合CSI)を含む毒物含有マトリックスをステーション収納容器に配置できる。モニタリング装置および毒物マトリックスは好ましくはセルロースを含む。
【0043】
毒物含有マトリックスを容器に入れるために、望ましい場合、さまざまな材料を用いることができる。毒物含有マトリックスをパッケージ化するための本方法を用いて、適切な量の毒物を正確に提供する「用量パック」が作製され得る。殺害する、病気にするおよび/または保護される構造物もしくは区域のシロアリ摂食を防ぐのに十分な「有効量」の本エクジステロイド毒物が投与され得る。「有効量」は天然に見いだされ得る、自然発生的な(相対的に非常に低い)レベルのエクジソンまたはそのアナログに対しても区別される。シロアリ防除のための「有効量」もまた、正常なシロアリ脱皮プロセスを引き起こす、天然のまたは非経口的に投与された量のエクジソンに対して区別され得る。
【0044】
使用されたMACおよびCSI(またはCSIが使用された場合)、ならびに所定の適用の状況の全体に依存して、(毒物マトリックス中に存在する)本発明のエクジステロイドが、10,000ppm未満、7,500ppm以下、5,000ppm以下、および1,000ppm以下の濃度で採餌性の働きシロアリに投与/入手可能とされ得る。同様に、4,000ppm未満の濃度も好ましい。これらの見本「上限」を考慮に入れて、見本「下限」が決定され得、かつ本明細書において具体的に例示された任意の濃度を含み得る。例えば、ハロフェノジドを用いる(および使用されるCSIに依存する)態様についての好ましい濃度範囲は2500〜5000ppmである。
【0045】
さらに、本発明を実践するために利用できるさまざまな方法および器具が存在する。特定の標的害虫の最適な防除のためおよび環境設定に対して的確な方法および器具が選択され得る。そのような適用は本明細書に提供される教示を用いる当業者には明らかである。例えば、著しく「用心深い」シロアリ種に対しては、本発明の毒物はそれに応じて選択され得、かつ国際公開公報第03/082000号、US-2003-0177689-A1、および米国特許第6,857,223号に記載の密封ベイト中で使用され得る。フェロモンおよび情報化学物質、ならびに国際公開公報第03/092376号およびUS-2003-0180343-A1に記載の非セルロースポリマー送達装置を用いることにより、本毒物を用いるベイトステーションを(一般的におよび/または特異的に)シロアリに対してより「魅力的」にすることもできる。本発明のいくつかの態様において電子的なモニタリングも用いられ得る。例えば米国特許第6,404,210号;第6,052,066号;および第5,815,090号を参照されたい。
【0046】
本発明はMAC/エクジステロイド(およびアナログ)の1つまたは複数のタイプの組み合わせおよび混合物ならびにCSIの1つまたは複数のタイプの組み合わせおよび混合物(例えば、ヘキサフルムロンおよびノビフルムロンの両方)を含む。さらに、本発明の2つ(またはそれ以上)の活性物質(「AI」)は、同時投与されるかまたは全く同時に提供される必要はない。本発明は、少なくとも1つのAIの後、本発明の作用を増強させる有効時間において、他のクラスのAIの少なくとも1つが投与される連続投与を含む。例えば、MACが最初に提供され得る。望ましい時間に(例えば、脱皮を開始させるのに十分な時間が経過した時点で)、次いでCSIが提供され得る。CSIは最初に提供されてもよい(例えば、コロニー中で分散させるため)。次にMAC/エクジステロイド/エクジステロイドアナログが提供される(例えば、脱皮を開始させ、向上したシロアリの殺害/防除を提供するため)。時期および投与量などの因子は、本発明にしたがって最適化され得る(例えば、コロニー全体または複数のコロニーに影響を与えるため、コロニー中への適切な分散を確実にするためなど)。
【0047】
本明細書において言及または引用された全ての特許、特許出願、仮出願、および刊行物は、本明細書の明示的な教示に矛盾しない範囲で、その全体が参照により組み入れられる。
【0048】
以下は本発明を実践するための手順を明示する実施例である。これらの実施例は限定的なものと解釈されるべきではない。特に記載のない限り、全ての百分率は重量により、かつ全ての溶媒の混合割合は体積による。
【実施例】
【0049】
実施例1 - 地下シロアリにエクジソンを給餌しその影響を決定するためのプロトコル
イエシロアリおよびR.フラバイペスのそれぞれ3つのコロニーからシロアリを回収し、使用前に実験室で26±1℃および98±2 % RHに維持した。工業用(technical grade)エクジソンをメタノールに溶解し段階希釈により0.1、1、10、100、および1,000ppmの溶液を得た。メタノール溶液(つまり、0ppm AI)を未処置対照として用いた。各濃度の溶液(0.2ml)を直径5cmのガラスペトリ皿にはめこまれた直径55mmのWhatman No.1ろ紙上にピペットで移し、一晩蒸発させた。
【0050】
このろ紙は、0.175mlの脱イオン水を用いてろ紙を湿らせた後にそれぞれのペトリ皿に導入された、R.フラバイペスの兵隊アリ1匹またはイエシロアリの兵隊アリ3匹を加えた25匹のシロアリのセルロース食料原となる。各種について、3つのコロニーにつきそれぞれ2つの副試料を各濃度に対して用い、総計72実験単位となった。この生物学的アッセイ単位を26±1℃で維持した。12日間毎日観察を行った。不完全な脱皮の症状を示したシロアリを計数し、各単位から死亡したシロアリを除いた。冒されたシロアリは回復しなかったため、それらを死亡率データに含めた。処置と種の組み合わせそれぞれについて、濃度に沿って12日目における不完全な脱皮の症状を示したシロアリの平均割合および死亡率を逆正弦平方根変換し、分散解析(ANOVA)に供した。濃度間の有意差(α=0.05)をフィッシャーの最小有意差(LSD)検定を用いて抽出した(SAS Institute 1999)。
【0051】
実施例2-地下シロアリにエクジソンを給餌した結果
高エクジソン症の症状(不完全な脱皮)は、1,000ppmのエクジソンへの暴露後、両方のシロアリ種で明らかであった(表I)。暴露約7日後に、何匹かのシロアリが不完全な脱皮のために「ジャックナイフ」姿勢を示した。症状はSu & Scheffrahn (1993)により報告されたように、キチン合成阻害剤ヘキサフルムロンに暴露された症状、またはエクジソンアゴニストを用いて処置された場合、甲虫類および鱗翅類の幼虫から観察された症状であって、開始されるが終了しない成熟前脱皮の後に死亡する症状(Dhadialla et al. 1998)に類似していた。そのような不完全な脱皮の症状がシロアリから記録されたのはこれでまだ2回目である(1回目はCSIにより引き起こされたもの)。CSIを用いた場合、既定の生物学的スケジュールの下でエクジソンが自然な脱皮を開始した後でシロアリの脱皮が抑制される。この実験において記載したようにエクジソン暴露を用いた場合、シロアリは人為的に成熟前脱皮を誘導されたが終了は成功しなかった。これがエクジソン(7日間)でCSI(4〜8週間)より早期に不完全な脱皮の症状が現れた理由である。>100ppmのエクジソンに暴露された両方のシロアリ種について12日目における著しい死亡率が記録され(表I)、大きな割合のR.フラバイペスが高エクジソン症の症状を示した。驚いたことに、100ppmエクジソンに暴露されたイエシロアリから100%の死亡率が記録された。イエシロアリは一般的にR.フラバイペスよりIGRに対し応答性が低いが、エクジソンを用いた場合はこれは逆転するようである。
【0052】
(表I)エクジソンへの12日間の暴露の後のR.フラバイペスおよびイエシロアリの不完全な脱皮を示すシロアリの割合(±SE)および死亡率(±SE)

後ろに同じ文字がある列中の平均値は有意差がない(α=0.05; ANOVA [SAS Institute 1999])。
【0053】
実施例3-地下シロアリに20-ヒドロキシエクジソンを給餌しその影響を決定するためのプロトコル
20-ヒドロキシエクジソンはエクジソンの副産物である。工業用20-ヒドロキシエクジソン(20E)を溶解し、上記実施例1に論じたようにエクジソンと同じ方法で使用した。結果を以下の実施例に示す。
【0054】
実施例4-地下シロアリに20-ヒドロキシエクジソンを給餌した結果
高エクジソン症の症状は、1,000ppmでの20Eへの暴露後、両方のシロアリ種で明らかであった(表II)。 暴露約7日後に、上記実施例2に論じたように、何匹かのシロアリが不完全な脱皮のために「ジャックナイフ」姿勢を示した。エクジソンと同様に、20EもCSIより早い速度で不完全な脱皮を引き起こした。
【0055】
>100ppmの20Eに暴露されたR.フラバイペスから著しい死亡率が記録され、1,000ppmに暴露されたものについては100%の死亡率であった(表II)。20Eに対しイエシロアリはR.フラバイペスより応答性が低く、1,000ppmで約75%の死亡率を示した。それでもなお、エクジソンおよび20Eの結果は、類似の条件下で試験された場合、イエシロアリが10,000ppmで50%の死亡率しかもたらさなかった、ハロフェノジドの結果(Monteagudo and Su 2002)よりずっと優れていた。
【0056】
(表II)20-ヒドロキシエクジソンへの12日間の暴露の後のR.フラバイペスおよびイエシロアリの不完全な脱皮を示すシロアリの割合(±SE)および死亡率(±SE)

後ろに同じ文字がある列中の平均値は有意差がない(α=0.05; ANOVA [SAS Institute 1999])。
【0057】
実施例5-キチン合成阻害剤(ヘキサフルムロンおよびノビフルムロン)と組み合わされ、かつ東洋地下シロアリ(EST)を用いた摂食選択試験において試験された場合のMAC殺虫剤ハロフェノジドの相加効果
この実施例はハロフェノジドを用いた経口摂取選択試験における東洋地下シロアリ(EST)、レティキュリテルメスフラバイペス(コラール)の生存率および摂食応答を決定した一連の実験室での試験を要約する。キチン合成阻害剤のヘキサフルムロンまたはノビフルムロンと組み合わされた場合、(さまざまな濃度の)ハロフェノジドの潜在的な相加/相乗効果を評価する目的でも試験を実施した。
【0058】
試験番号1. 選択摂食ベイト試験、ハロフェノジド+ヘキサフルムロン
ろ紙(アセトンキャリア)上に処置した工業用ハロフェノジドおよびヘキサフルムロンのさまざまな組み合わせにより引き起こされた摂食応答および結果的な死亡率を比較するために対選択摂食試験を実施した。試験器具は7cmの長さの直径(ID)2.5mmのタイゴンチューブにより連結された2つの丸いプラスチック容器からなる。既知の数の働きシロアリを、約1:1:1のバーミキュライト/砂/水の混合物を含む中心の避難室(換気ふた付きの5.5cmの丸い容器)に導入した。中心の避難室はタイゴンチューブにより対採餌選択肢を含む(砂/バーミキュライトマトリックスなしの)ベイト採餌室に連結される。
【0059】
ESTにサザンイエローパイン(southern yellow pine)(SYP)の未処置片と処置されたろ紙の間の摂食の選択を課した。ハロフェノジドを1250、2500、および5000ppmの濃度で個々に試験した。ヘキサフルムロンを5000ppmで試験し、かつ上記の濃度の各ハロフェノジドともまた組み合わせた。比較のために、工業用ノビフルムロンも5000ppmで試験した。12日後に全ての処置を除き、オーブン乾燥し、消費量が量られた。さらに14日間維持した全ての生物学的アッセイ単位内にろ紙を配置した。その後各反復実験において生存するシロアリを計数した。したがって、毒物への最初の暴露から26日後に生存個体を計数した。各処置は4回反復され、反復実験あたり50匹のシロアリが用いられた。
【0060】
ESTはろ紙(FP)上の全ての処置に対し、著しく正か、または中性の摂食応答のいずれかを示した(表III)。単独の処置については、26日後に、5000ppmノビフルムロンは5000ppmハロフェノジドまたは5000ppmヘキサフルムロンより著しく高い有効性をもたらし、一方5000ppmハロフェノジドは5000ppmヘキサフルムロンより著しく有効であった。5000ppmハロフェノジド+5000ppmヘキサフルムロンの組み合わせは、どちらか単独の処置と比較した場合、著しく低いレベルの生存率をもたらした。さらに、ハロフェノジド+ヘキサフルムロンの組み合わせは、5000ppmノビフルムロンにより提供された有効性レベルと有意に同等であった。5000ppmヘキサフルムロンとより低い濃度のハロフェノジドの組み合わせは、5000ppmヘキサフルムロン単独を超える、有意に増強された有効性をもたらさなかったことに留意されたい。表IIIのデータを図示した図3を参照されたい。
【0061】
(表III)ヘキサフルムロン+ハロフェノジド試験:未処置SYPおよび処置FP間の選択試験におけるESTの相対消費量および結果的な生存率

a 各選択試験は4回反復された(50匹のシロアリ/回)
b 各選択試験内で、後ろに同じ文字がある対は有意差がない(LSD; p>0.10)
c 後ろに同じ文字がある平均値は有意差がない(LSD; p>0.10)
【0062】
試験番号2. 選択摂食ベイト試験、ハロフェノジド+ノビフルムロン
ろ紙(アセトンキャリア)上に処置した工業用ハロフェノジドおよびノビフルムロンのさまざまな組み合わせにより引き起こされた摂食応答および結果的な死亡率を比較するために、試験番号1において記載されたのと同じ方法を用いて、標準的な対選択摂食試験を実施した。ESTにサザンイエローパイン(SYP)の未処置片と処置されたろ紙の間の摂食の選択を課した。ハロフェノジドおよびノビフルムロンを5000ppmの濃度で個々に試験した。5000ppmのノビフルムロンはまた1250、2500、または5000ppmのハロフェノジドと組み合わせて試験された。14日後に全ての処置を除き、オーブン乾燥し、消費量が量られた。ノビフルムロンの急速な作用のため、各反復実験においてわずか14日間の摂食後には、生存するシロアリもまた計数された。各処置は4回反復され、反復実験あたり50匹のシロアリが用いられた。
【0063】
数値的には5000ppmハロフェノジドを加えたFPの受容性は低いが、試験番号1における結果と同様に、任意の処置について有意の忌避性は指摘されなかった(表IV)。わずか14日後に、5000ppmノビフルムロンは既に著しく高い有効性を提供した(わずか27%の生存率)。5000ppmハロフェノジド単独の処置でも27日後の生存率に著しい効果をもたらした。しかしながら、ノビフルムロンにハロフェノジドを加えると、特に低い方から2つの濃度のハロフェノジドを加えた場合、さらにより活性速度が上がるようであった。これも図4に図示したのを見ることができる。最も有効な組み合わせは5000ppmノビフルムロン+2500ppmハロフェノジドであり、これは5000ppmのノビフルムロンまたはハロフェノジド単独で試験したもののいずれと比較しても著しく高い有効性をもたらした。
【0064】
(表IV)ノビフルムロン+ハロフェノジド試験:未処置SYPおよび処置FP間の選択試験におけるESTの相対消費量および結果的な生存率

a 各選択試験は4回反復された(50匹のシロアリ/回)
b 各選択試験内で、後ろに同じ文字がある対は有意差がない(LSD; p>0.10)
c 後ろに同じ文字がある平均値は有意差がない(LSD; p>0.10)
【0065】
概要
これらの研究結果はハロフェノジドにCSI殺虫剤を加えた組み合わせが、どちらかの殺虫剤タイプ単独と比較した場合、増強された活性をもたらし得ることを示す。ハロフェノジドの効果はヘキサフルムロンと組み合わされた場合に向上するようであるが、ノビフルムロンとの組み合わせにおいて活性速度の上昇もまた見られた。5000ppmヘキサフルムロンに対し、26日以内に有意な相加効果をもたらすためには5000ppmハロフェノジドの濃度が必要であった。より低濃度のハロフェノジド(2500〜1250ppm)は14日以内に5000ppmノビフルムロンを増強した。ハロフェノジドはヘキサフルムロンまたはノビフルムロン単独と比較した場合、シロアリベイトの低い受容性をもたらす傾向を有し得るが、この研究において任意の濃度のハロフェノジドについて有意な忌避性は観察されなかった。
【0066】
実施例6-ノビフルムロンと組み合わされ、かつアミテルメスウィーレリを用いた強制摂食試験において試験された場合のMAC殺虫剤ハロフェノジドの相加効果
この実施例は、ハロフェノジド、ノビフルムロン、およびこれら2つの活性成分の組み合わせを用いた経口摂取選択試験におけるアルテルメスウィーレリの生存率および摂食応答を決定した実験室での試験を要約する。アルテルメスウィーレリはシロアリ系統群(シロアリ科)に属し、これは実施例5に示した東洋地下シロアリ(ミゾガシラシロアリ科)とは異なる分類である。
【0067】
強制摂食試験は、精製されたセルロースベイト上に処置した異なる活性成分によりもたらされる死亡率を比較するために実施された。試験器具は実施例5において記載されたものと同じであった。ノビフルムロンを5000ppmの濃度でベイト上で試験し、5000ppmハロフェノジドと組み合わせても試験した。空のベイトも試験した。生存するシロアリも毒物への最初の暴露から28日後に計数された。ノビフルムロンはシロアリ生存率を空の対照と比較した場合、半分に減少させた。しかしながら、ノビフルムロンおよびハロフェノジドの組み合わせは100%の死滅をもたらし、このことからさらに、ハロフェノジドがCSI殺虫剤の有効性速度を向上できることが示唆される。
【0068】
(表V)ヘキサフルムロン+ハロフェノジド試験:強制摂食ベイト試験におけるアルテルメスウィーレリの相対消費量および結果的な生存率

【0069】
参考文献



【特許請求の範囲】
【請求項1】
シロアリを防除するための組成物であって、脱皮促進化合物およびキチン合成阻害剤を含む、組成物。
【請求項2】
シロアリ損傷から区域を守る方法であって、シロアリに摂取させるエクジステロイドを提供する段階、および該シロアリに摂取させるキチン合成阻害剤を提供する段階を含む、方法。
【請求項3】
エクジステロイドが脱皮促進化合物である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
脱皮促進化合物がエクジステロイドである、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
脱皮促進化合物がエクジステロイドアナログである、請求項1記載の組成物。
【請求項6】
エクジステロイドがエクジソン、エクジソンアナログ、および20-ヒドロキシエクジソンより選択される、請求項2記載の方法。
【請求項7】
脱皮促進化合物がハロフェノジド(halofenozide)である、請求項1記載の組成物。
【請求項8】
脱皮促進化合物がテブフェノジド(tebufenozide)、RH-5849、クロマフェノジド(chromafenozide)、およびメトキシフェノジド(methoxyfenozide)(RH-2485)より選択される、請求項1記載の組成物。
【請求項9】
キチン合成阻害剤がヘキサフルムロン(hexaflumuron)、ノビフルムロン(noviflumuron)、ジフルベンズロン(diflubenzuron)、アザジラクチン(azadirachtin)、フルフェノクスロン(flufenoxuron)、クロルフルアズロン(chlorfluazuron)、ビストリフルロン(bistrifluron)、およびルフェヌロン(lufenuron)より選択される、請求項1記載の組成物。
【請求項10】
セルロースベイト、粉末、および液状の製剤より選択された形状をとる、請求項1記載の組成物。
【請求項11】
耐久性のある収納容器内のベイト中にある、請求項1記載の組成物。
【請求項12】
密封されたベイト中にある、請求項1記載の組成物。
【請求項13】
エクジステロイドおよびキチン合成阻害剤が該エクジステロイドおよび該キチン合成阻害剤を含むベイト中に提供される、請求項2記載の方法。
【請求項14】
エクジステロイドおよびキチン合成阻害剤が順次提供される、請求項2記載の方法。
【請求項15】
シロアリがレティキュリテルメスフラバイペス(Reticulitermes flavipes)およびイエシロアリ(Coptotermes formosanus)より選択される、請求項2記載の方法。
【請求項16】
エクジステロイドおよびキチン合成阻害剤がシロアリの公知のインフェステーションに提供され、かつ該シロアリはシロアリ科に属する、請求項2記載の方法。
【請求項17】
区域が木を含む構造物である、請求項2記載の方法。
【請求項18】
区域が森林である、請求項2記載の方法。
【請求項19】
シロアリを防除するための方法であって、シロアリに摂取させる脱皮促進化合物を提供する段階を含む方法であって、該脱皮促進化合物がハロフェノジド以外である、方法。
【請求項20】
脱皮促進化合物がエクジステロイドである、請求項19記載の方法。
【請求項21】
脱皮促進化合物がエクジステロイドアナログである、請求項19記載の方法。
【請求項22】
脱皮促進化合物がエクジソン、エクジソンアナログ、および20-ヒドロキシエクジソンより選択される、請求項19記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−168595(P2011−168595A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61897(P2011−61897)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【分割の表示】特願2006−554198(P2006−554198)の分割
【原出願日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(507371168)ユニバーシティ オブ フロリダ リサーチ ファンデーション インコーポレーティッド (38)
【出願人】(505412443)ダウ アグロサイエンシズ リミテッド ライアビリティー カンパニー (10)
【Fターム(参考)】