説明

シロキサン含有ガス中のシロキサンの分析装置および分析方法

【課題】バイオガス中のシロキサン濃度を、リアルタイムに精度よく連続的に分析することのできる分析装置および該装置を用いたシロキサンの分析方法を提供する。
【解決手段】シロキサン含有ガス中のシロキサン濃度を分析する赤外線シロキサン分析装置であって、波数1250cm−1〜770cm−1の赤外線のみを通過させる光学フィルターを有することを特徴とする非分散型赤外線シロキサン分析装置;ならびに、該分析装置を用いてシロキサン含有バイオガス中のシロキサン濃度を連続的にモニタリングすることを特徴とするシロキサンの分析方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学的処理に際して発生するシロキサン含有バイオガスをエネルギー源として有効に利用するための、バイオガス中のシロキサンの分析装置および分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下水処理場、食品工場、ビール製造工場、家畜の飼育場等で生じる有機性廃棄物を生物学的に処理すると、メタンの他、二酸化炭素、水分、硫化水素等を含むバイオガスが発生する。
【0003】
近年、かかるバイオガスをエネルギー源として有効利用するために、例えば下水処理施設では、集積した下水を濃縮処理して各種有機物を含有する汚泥を得て、これを微生物の作用により嫌気性消化し、この過程で得られたメタンを主とする可燃性ガス(消化ガス)を、ガスエンジンおよびガスタービン等の発電設備に供して電力を得る方式が主流となりつつある。
【0004】
しかしながら、下水場の普及率向上や生活形態の変化に伴なって、シャンプーやリンス等の頭髪仕上げ剤、カーワックス等の撥水剤などの消費が増加し、これらに含有されているシロキサン化合物が下水中に多量に流下するようになってきた。
【0005】
なお、シロキサン化合物とは、シロキサン結合(Si−O−Si)を基本骨格とした鎖状または環状構造の化合物をさす。鎖状化合物としては、例えば、メトキシトリメチルシラン、ジメトキシジメチルシラン、ヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、およびドデカメチルペンタシロキサン等が挙げられ、環状化合物としては、例えばヘキサメチルシクロトリシロキサン(D3体)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4体)、デカメチルシクロペンタシロキサン(D5体)、およびドデカメチルシクロヘキサシロキサン(D6体)などが挙げられる。ここに列挙した化合物は、化合物中の官能基がメチル基で構成されているが、メチル基に類する炭化水素基で置換された化合物、または水素の代わりにフッ素、塩素等で置換された化合物も含まれ、さらには分子量の大きい多重合化合物も存在する。
【0006】
シロキサン化合物は、その多くは水に不溶であるために汚泥に吸着した形で下水中に存在するが、引き続いて行なわれる消化過程で消化ガス側に揮散する。すなわち、シロキサン化合物は、発電用の燃料ガスであるメタンとともに存在して、その後段のガスエンジンに流入する。ガスエンジンに流入したシロキサン化合物は、エンジン内の燃焼室でシリカ(SiO)となって、エンジン内のシリンダーヘッドやその他各部品に付着・析出する。その結果、エンジンを摩耗・劣化させてしまうという不具合を生じていた。
【0007】
また、さらにガスエンジン等の発電設備を経たエンジン排ガスは、例えば窒素酸化物処理のため、脱硝触媒塔に導入されて処理されるが、この排ガス中にシリカ(SiO)が含まれているために、触媒の表面に排ガス中の粉体状シリカ(SiO)が析出する。粉体状シリカは、こうして触媒の表面を覆い、その一部は触媒の内部まで浸透してしまうため、触媒活性が劣化して所望の窒素酸化物除去が達成されないという不具合も生じていた。
【0008】
これらの問題を解決するためには、シロキサンの濃度を分析して適切に処理する必要があり、そのための分析方法としては、例えば、シロキサンを溶媒に一旦吸収させた後にガスクロマトグラフィーにより分析する方法が知られている(非特許文献1参照)。
【0009】
しかしながら、このような分析方法は、サンプリングが煩雑であり、また現場にて連続的に分析することが困難であった。さらに、数時間の平均の値しか得ることができなかった。このような状況のために、シロキサン化合物を含有している未処理のバイオガス中のシロキサン濃度、または処理後のバイオガス中のシロキサン濃度を、現場で実質的に連続的に分析し、その結果に基づいてバイオガス精製装置の運転諸元(例えば、シロキサン吸着処理剤の交換時期)を特定することがなされていなかった。そのため、十分な吸着性能が残存しているにもかかわらず、シロキサン吸着処理剤を廃棄または再生処理に供してしまうという不具合や、逆に、既にシロキサン吸着処理剤が破過に十分達しているにもかかわらず、運転を継続してしまい、上述のガスエンジンの摩耗・劣化等の問題を引き起こしてしまうといった危険性があった。
【0010】
【非特許文献1】第38回下水道研究発表会講演集,2001年,p.695−697
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、バイオガス中のシロキサン濃度を、リアルタイムに精度よく連続的に分析することのできる分析装置および該装置を用いたシロキサンの分析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、鋭意検討した結果、特定波数の赤外線を通過させる光学フィルターを有する非分散型赤外線シロキサン分析装置が、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、下記に示すとおりのシロキサン含有ガス中のシロキサンの分析装置および分析方法を提供するものである。
項1. シロキサン含有ガス中のシロキサン濃度を分析する赤外線シロキサン分析装置であって、波数1250cm−1〜770cm−1の赤外線のみを通過させる光学フィルターを有することを特徴とする非分散型赤外線シロキサン分析装置。
項2. シロキサン含有ガスがシロキサン含有バイオガスであることを特徴とする項1に記載の非分散型赤外線シロキサン分析装置。
項3. BaFからなる光学フィルターにより波数770cm−1未満の赤外線を吸収することを特徴とする項1または2に記載の非分散型赤外線シロキサン分析装置。
項4. フィルターサイズ10μm以下の浮遊微粒子除去用ガスフィルターを試料ガス導入口の前に装着したことを特徴とする項1〜3のいずれかに記載の非分散型赤外線シロキサン分析装置。
項5. バイオガス中の二酸化炭素濃度を分析する装置を有することを特徴とする項1〜4のいずれかに記載の非分散型赤外線シロキサン分析装置。
項6. 二酸化炭素濃度を分析する装置が赤外分析装置であることを特徴とする項5に記載の非分散型赤外線シロキサン分析装置。
項7. バイオガス中の水分量を分析する装置を有することを特徴とする項1〜6に記載の非分散型赤外線シロキサン分析装置。
項8. バイオガス中の水分量を一定量にする除湿機を試料ガス導入口の前に装着したことを特徴とする項7に記載の非分散型赤外線シロキサン分析装置。
項9. シロキサンを吸着する吸着材を充填したフィルターを試料ガス導入口の前に装着したことを特徴とする項1〜8のいずれかに記載の非分散型赤外線シロキサン分析装置。
項10. 波数1250cm−1〜770cm−1の赤外線の吸収を検出する装置および波数850cm−1〜770cm−1の赤外線の吸収を検出する装置を有することを特徴とする項1〜9のいずれかに記載の非分散型赤外線シロキサン分析装置。
項11. シロキサン含有ガス中のシロキサン濃度を分析する赤外線シロキサン分析装置であって、波数1250cm−1〜770cm−1の赤外線を含む赤外線を通過させる光学フィルターを有すると共に、バイオガス中の二酸化濃度及び水分量の少なくとも一方を分析する装置を有することを特徴とする非分散型赤外線シロキサン分析装置。
項12. シロキサン含有ガス中のシロキサン濃度を分析する赤外線シロキサン分析装置であって、波数1250cm−1〜770cm−1の赤外線を含む赤外線を通過させる光学フィルターを有すると共に、バイオガス中の水分量を一定量にする除湿機を試料ガス導入口の前に装着したことを特徴とする非分散型赤外線シロキサン分析装置。
項13. バイオガス中の二酸化炭素濃度を分析する装置を有することを特徴とする項12に記載の非分散型赤外線シロキサン分析装置。
項14. シロキサン含有ガス中のシロキサン濃度を分析する赤外線シロキサン分析装置であって、波数1250cm−1〜770cm−1の赤外線を含む赤外線を通過させる光学フィルターを有すると共に、シロキサンを吸着する吸着材を充填したフィルターを試料ガス導入口の前に装着したことを特徴とする非分散型赤外線シロキサン分析装置。
項15. バイオガス中の二酸化炭素濃度及び水分量の少なくとも一方を分析する装置を有することを特徴とする項14に記載の非分散型赤外線シロキサン分析装置。
項16. バイオガス中の水分量を一定量にする除湿機を試料ガス導入口の前に装着したことを特徴とする項14又は15に記載の非分散型赤外線シロキサン分析装置。
項17. 項1〜16のいずれかに記載の非分散型赤外線シロキサン分析装置を用いてシロキサン含有バイオガス中のシロキサン濃度を連続的にモニタリングすることを特徴とするシロキサンの分析方法。
項18. 項10に記載の非分散型赤外線シロキサン分析装置を用いて分析した波数1250cm−1〜770cm−1の赤外線の吸収量および波数850cm−1〜770cm−1の赤外線の吸収量から、シロキサン含有バイオガス中の有機系シロキサン濃度および無機系シロキサン濃度を算出することを特徴とするシロキサンの分析方法。
項19. 項1〜16のいずれかに記載の非分散型赤外線シロキサン分析装置において、シロキサン含有バイオガス中のシロキサン濃度の実測値を、同バイオガス中の二酸化炭素濃度及び水分量の少なくとも一方の値により補正することを特徴とするシロキサンの分析方法。
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
非分散型赤外線シロキサン分析装置の構成としては、例えば、図1に示すように、光源、チョッパー、試料セル、比較セル、光学フィルター、検出セル、アンプ、演算部および表示部よりなる。光源から放出された赤外線は、回転するチョッパーにより断続光となり、試料セルおよび比較セルを通過した後に、光学フィルターを経て検出セルに入る。試料セルを通過する赤外線が試料ガスによって吸収されると、検出セルに入射する赤外線に光量の差を生じる。検出セルによりその差を検知し、シロキサン濃度を測定する。
【0016】
比較セルに封入するガスとしては、測定波数に吸収を有しないガスであれば使用できる。好ましくは、窒素、空気、およびシロキサンが入っていないバイオガス等が使用できる。
【0017】
検出法としては、一般的に使用されている方式が適用できるが、特に検出セルに設けられた薄膜の振動により検出する方法が好ましい。薄膜の振動による検出セルは二部屋よりなり、その間が薄膜により仕切られている。それぞれの部屋に前記試料セルおよび比較セルを通過した赤外線が入射される。それぞれの部屋における赤外線吸収の違いによる薄膜の振動により、シロキサンの濃度を測定することができる。
【0018】
検出セル中には、基準となるガスが封入されている。基準となるガスとしては、測定波数に吸収を有するものが使用できる。通常は、測定対象のガスであるシロキサンまたは測定対象ガスであるシロキサンの吸収波数にて吸収を有するガス(例えばアンモニア)が封入されている。
【0019】
光学フィルターとしては、分析対象ガスであるシロキサンの吸収域である1150cm−1〜1000cm−1および/または850cm−1〜770cm−1の領域以外の赤外線を通過させないものが好ましい。具体的には、波数1250cm−1〜770cm−1の赤外線のみを通過させる光学フィルターである。波数770cm−1未満の赤外線を吸収するためには、例えばBaFからなる光学フィルターを用いることができる。波数1250cm−1を超える赤外線を吸収するためには、例えばアンモニア計等に使用されている多層コーティング膜の光学フィルターを用いることができる。
【0020】
試料ガス中に吸収波数域が測定成分の波数域と一部重なるような成分が含まれるような場合には、必要に応じて、検出セルを通過した後にさらに光学フィルターおよび同様の検出セルを設けて、その影響を受けないようにすることも可能である。
【0021】
測定波数域の1250cm−1〜770cm−1に吸収を有する浮遊微粒子(例えば、金属酸化物、リン酸等)により分析精度に影響を受けないようにするために、試料ガスから浮遊微粒子を除去するためのガスフィルターを、非分散型赤外線シロキサン分析装置における試料ガス導入口の前に装着してもよい。この試料ガス導入口は、図1において試料セルに試料ガスが矢線で示されるように導入される導入口である。浮遊微粒子除去用ガスフィルターとしては、シリコン系の物質を使用していない一般的なガスフィルターが使用できる。フィルターサイズとしては、10μm以下が好ましく、0.01〜5μmがより好ましく、0.01〜1μmが特に好ましい。
【0022】
二酸化炭素を含むバイオガスに含まれるシロキサンを分析する際に、二酸化炭素による干渉の問題が生じるおそれがある。具体的には、校正時の基準ガス中の二酸化炭素の濃度と実測ガス中の二酸化炭素濃度に差がある場合、その差分に応じて測定値の精度が下がる。そこで、同時にバイオガス中の二酸化炭素の濃度を分析することで、シロキサン濃度の実測値を、シロキサンの干渉成分である二酸化炭素の濃度により補正して(基準ガス濃度との差分に対して補正して)、シロキサンの濃度を正確に分析することが可能である。
二酸化炭素濃度を分析する装置の分析法として赤外分析法を用いれば、同一の光源により分析が可能であり好ましい。
【0023】
水分を含むバイオガスに含まれるシロキサンを分析する際に、水分による干渉の問題が生じるおそれがある。そこで、同時に、バイオガス中の水分の量を分析する、又は、バイオガス中の水分量を除湿機により一定量とすることで、シロキサン濃度の実測値を、シロキサンの干渉成分である水分の量により補正して、シロキサンの濃度を正確に分析することが可能である。
水分を分析する装置所謂水分計としては、一般的に使用されているガス中の水分を測定できる分析計が適用できる。例えば、赤外線、近赤外線方式、半導体センサー方式、誘電率方式およびカールフィッシャー方式等の水分計が使用できる。好ましくは赤外線、近赤外線方式、半導体センサー方式、誘電率方式である。
また、除湿機としては、一般的なものが使用できる。好ましくは、冷却式除湿機である。除湿程度は、ガス中のシロキサンが再凝縮しない程度でればよく、水分露点が0℃から20℃が好ましく、0℃〜10℃がより好ましい。また、除湿後の水分露点は分析対象ガスの温度より低いことが好ましい。除湿後の水分露点が分析対象ガス温度より高い場合は、除湿機の手前で水分をバブリングさせることが好ましい。
【0024】
更に、バイオガス中の水分量を除湿機により一定量とするのに加えて、上述したようにバイオガス中の二酸化炭素濃度を分析することで、シロキサン濃度の実測値を、シロキサンの干渉成分である水分量と二酸化炭素濃度との両方により補正して、シロキサンの濃度をより一層正確に分析することが可能となる。
【0025】
シロキサンを吸着する吸着材を充填したフィルターを、赤外線シロキサン分析装置における上記試料ガス導入口の前に装着すれば、その状態でより高い精度のゼロ点補正が可能となり、同フィルターを取り外した状態でシロキサンの濃度を正確に分析することが可能な構造を有する赤外線シロキサン分析装置とすることができる。このようにすることにより、二酸化炭素や水分による干渉の影響および各種サイトにおける二酸化炭素や水分の変動による分析精度への影響を抑えることが可能である。吸着材としては、シロキサンを吸着することができる一般的な吸着材が使用できる。吸着材として活性炭を使用する場合には、比表面積が500〜2400m/gのものが好ましく、600〜1800m/gのものがより好ましい。比表面積が500m/g未満のものであると、単位重量当たりの吸着量が小さくなる傾向がある。また、比表面積が2400m/gを超えるものであると、充填密度が低くなり、単位体積当たりの吸着量が小さくなる傾向がある。また、細孔容積に関しても同じ理由から、0.2〜1.5cm/gのものが好ましく、0.3〜1.0cm/gのものがより好ましい。平均細孔径に関しては、7〜20Åのものが好ましく、8〜15Åのものがより好ましい。
【0026】
更に、シロキサンを吸着する吸着材を充填したフィルターを上記試料ガス導入口の前に装着するのに加えて、上述したようにバイオガス中の二酸化炭素濃度及び水分量の少なくとも一方を分析することで、高い精度のゼロ点補正に加えて、シロキサン濃度の実測値に対する水分量又は二酸化炭素濃度の少なくとも一方による補正が可能となり、シロキサンの濃度をより一層正確に分析することが可能となる。
【0027】
更にまた、シロキサンを吸着する吸着材を充填したフィルターを上記試料ガス導入口の前に装着するのに加えて、上述したように除湿機を試料ガス導入口の前に装着することでも、高い精度のゼロ点補正に加えて、シロキサン濃度の実測値に対する水分量による補正が可能となり、シロキサンの濃度をより一層正確に分析することが可能となる。
【0028】
また、上述したように、バイオガス中の二酸化炭素濃度及び水分量の少なくとも一方を分析する構成、バイオガス中の水分量を一定量にする除湿機を試料ガス導入口の前に装着する構成、シロキサンを吸着する吸着材を充填したフィルターを試料ガス導入口の前に装着する構成については、上述したように波数1250cm−1〜770cm−1の赤外線のみを通過させる光学フィルターを設けることが好ましいが、別に、上記好適な波数範囲外をも含むような一般的な波数の赤外線、即ち波数1250cm−1〜770cm−1の赤外線を含む赤外線を通過せる光学フィルターを設けた場合でも、シロキサンの濃度を正確に分析することが可能である。
【0029】
試料セルおよび比較セルを通過した後の赤外線を必要に応じて分割し、波数1250cm−1〜770cm−1の赤外線の吸収を検出する検出セルと波数850cm−1〜770cm−1の赤外線の吸収を検出する検出セルに入射することにより、有機系シロキサンおよび無機系シロキサンの合計のSi−Oの振動に由来する波数1250cm−1〜770cm−1の赤外線の吸収量と、有機系シロキサンのSi−Cの振動に由来する波数850cm−1〜770cm−1の赤外線の吸収量とを分析することにより、有機系シロキサン濃度および無機系シロキサン濃度をそれぞれ算出することが可能である。すなわち、Si−Oの振動に由来する波数1250cm−1〜770cm−1の赤外線の吸収量から算出した有機系シロキサンおよび無機系シロキサンの合計濃度から、Si−Cの振動に由来する波数850cm−1〜770cm−1の赤外線の吸収量から算出した有機系シロキサンの濃度を差し引くことにより、無機系シロキサンの濃度を求めることができる。
【0030】
本発明の非分散型赤外線シロキサン分析装置(以下、単に「本発明の分析装置」と呼ぶ場合がある。)を、吸着式バイオガス貯蔵装置や吸着式バイオガス精製装置のガス入り口、容器の途中、ガス出口等に設置し、ガス入り口、容器の途中、ガス出口等のガスの一部を本発明の分析装置に導入することにより、リアルタイムにシロキサンの濃度を分析できる。従って、バイオガスを利用したガスエンジンのトラブルを防止することができるとともに、シロキサン吸着除去装置の破過の時期を的確に把握することができる。
【0031】
ここで、吸着式バイオガス貯蔵装置とは、バイオガス用の活性炭等の吸着材が充填された貯蔵タンクを用いて、発生するバイオガスを吸着貯蔵し、バイオガスの使用時に圧力を低下させて吸着貯蔵されているバイオガスを脱着させて払い出すことのできる貯蔵装置である。本貯蔵装置を用いると、バイオガス中に含まれるシロキサンが吸着除去されるため、従来のようなシロキサンの除去装置を別個に設置する必要がない。本発明の分析装置を設置することにより、バイオガスの貯蔵前後におけるシロキサン濃度を連続的に分析することができ、貯蔵装置のシロキサン除去性能を常に把握できる。
【0032】
また、吸着式バイオガス精製装置とは、シロキサン含有バイオガスを、多孔質吸着材が充填された充填層に通過させて、多孔質吸着材にシロキサンを吸着させることにより、バイオガス中に含まれるシロキサンを除去して精製ガスを得ることのできる精製装置である。本発明の分析装置を設置することにより、バイオガスの精製前後におけるシロキサン濃度を連続的に分析することができ、精製装置の性能を常に把握でき、精製装置に充填されている吸着材の適切な交換時期が明らかとなる。
【0033】
本発明の分析装置は、半導体製造工程において発生するシロキサン含有ガス等の分析に用いることもできる。
【発明の効果】
【0034】
本発明の分析装置を用いれば、バイオガス中のシロキサン濃度を、現場にてリアルタイムに精度よく連続的に分析することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
次に、実施例によって本発明をより詳細に説明する。
【0036】
〔実施例1〕
二酸化炭素35%+メタンバランスの混合ガスに所定量の環状のオクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)を混合し、表1の左欄に示す各シロキサン濃度の分析用の標準ガスを作製した。この標準ガスを500ml/分の流速で図1に示す非分散型赤外線シロキサン分析装置に導入し、シロキサンの濃度を分析した。その結果を表1の右欄に示す。表1より明らかなように、本発明の非分散型赤外線シロキサン分析装置を用いれば、精度よくシロキサンの濃度を分析できる。
【0037】
【表1】

【0038】
〔実施例2〕
下水処理場のバイオガスを、シロキサンの吸着材である比表面積1207m/g、細孔容積0.541cm/g、平均細孔径9Å、粒径0.212〜4.75mm(メディアン径1.15mm)の活性炭を通過させ、シロキサンを完全に吸着除去した後のガスを非分散型赤外線分析のゼロ点ガスとして校正した。その後、バイオガスを500ml/分の流速で図1に示す非分散型赤外線シロキサン分析装置に導入し、シロキサンの濃度をリアルタイムに連続分析した。その結果を図2に示す。また、参考のために、溶剤吸収(四塩化炭素とアルカリ水溶液)とGC−MSからなる従来の分析法により、バイオガス中の疎水性のシロキサンと親水性のシロキサンを分析した。その結果、疎水性シロキサンが4.30ppm、親水性シロキサンが0ppmであった。
【0039】
図2から明らかなように、吸着材を通過させたバイオガスをゼロ点ガスにすることにより、実際のバイオガスにおいても精度よく分析することが可能である。
【0040】
〔実施例3〕
下水処理場における水分が飽和状態のバイオガスを、まず除湿機を通して露点が5℃となるように除湿して水分量を一定量にし、その後、そのバイオガスを図1に示す非分散型赤外線シロキサン分析装置に導入し、シロキサンの濃度を分析した。その結果を図3における実施例3−1に示す。
更に、同様の水分が飽和状態のバイオガスを、上記除湿機を通すことなく、直接非分散型赤外線シロキサン分析装置に導入し、シロキサンの濃度を分析した。その結果を図3における実施例3−2に示す。
また、参考のために、参考のために、溶剤吸収(四塩化炭素とアルカリ水溶液)とGC−MSからなる従来の分析法により、バイオガス中のシロキサンを分析した。その結果、有機性のシロキサンの濃度は1.32ppmであった。
図3のから明らかなように、バイオガス中の水分量を少なくすれば、水分による干渉が除去されて、比較的精度よくシロキサンの濃度を分析することが可能である。また、実際のシロキサン濃度に対して、実施例3−1及び実施例3−1の実測値が、水分量の応じてシフトしていることから、シロキサン濃度の実測値を、水分量により補正すれば、シロキサンの濃度を正確に分析することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の非分散型赤外線シロキサン分析装置の一例の概略を示す図である。
【図2】実施例2におけるシロキサン濃度と経過時間の関係を示す図である。
【図3】実施例3におけるシロキサン濃度と経過時間の関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シロキサン含有ガス中のシロキサン濃度を分析する赤外線シロキサン分析装置であって、波数1250cm−1〜770cm−1の赤外線のみを通過させる光学フィルターを有することを特徴とする非分散型赤外線シロキサン分析装置。
【請求項2】
シロキサン含有ガスがシロキサン含有バイオガスであることを特徴とする請求項1に記載の非分散型赤外線シロキサン分析装置。
【請求項3】
BaFからなる光学フィルターにより波数770cm−1未満の赤外線を吸収することを特徴とする請求項1または2に記載の非分散型赤外線シロキサン分析装置。
【請求項4】
フィルターサイズ10μm以下の浮遊微粒子除去用ガスフィルターを試料ガス導入口の前に装着したことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の非分散型赤外線シロキサン分析装置。
【請求項5】
バイオガス中の二酸化炭素濃度を分析する装置を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の非分散型赤外線シロキサン分析装置。
【請求項6】
二酸化炭素濃度を分析する装置が赤外分析装置であることを特徴とする請求項5に記載の非分散型赤外線シロキサン分析装置。
【請求項7】
バイオガス中の水分量を分析する装置を有することを特徴とする請求項1〜6に記載の非分散型赤外線シロキサン分析装置。
【請求項8】
バイオガス中の水分量を一定量にする除湿機を試料ガス導入口の前に装着したことを特徴とする請求項1〜6に記載の非分散型赤外線シロキサン分析装置。
【請求項9】
シロキサンを吸着する吸着材を充填したフィルターを試料ガス導入口の前に装着したことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の非分散型赤外線シロキサン分析装置。
【請求項10】
波数1250cm−1〜770cm−1の赤外線の吸収を検出する装置および波数850cm−1〜770cm−1の赤外線の吸収を検出する装置を有することを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の非分散型赤外線シロキサン分析装置。
【請求項11】
シロキサン含有ガス中のシロキサン濃度を分析する赤外線シロキサン分析装置であって、波数1250cm−1〜770cm−1の赤外線を含む赤外線を通過させる光学フィルターを有すると共に、バイオガス中の二酸化炭素濃度及び水分量の少なくとも一方を分析する装置を有することを特徴とする非分散型赤外線シロキサン分析装置。
【請求項12】
シロキサン含有ガス中のシロキサン濃度を分析する赤外線シロキサン分析装置であって、波数1250cm−1〜770cm−1の赤外線を含む赤外線を通過させる光学フィルターを有すると共に、バイオガス中の水分量を一定量にする除湿機を試料ガス導入口の前に装着したことを特徴とする非分散型赤外線シロキサン分析装置。
【請求項13】
バイオガス中の二酸化炭素濃度を分析する装置を有することを特徴とする請求項12に記載の非分散型赤外線シロキサン分析装置。
【請求項14】
シロキサン含有ガス中のシロキサン濃度を分析する赤外線シロキサン分析装置であって、波数1250cm−1〜770cm−1の赤外線を含む赤外線を通過させる光学フィルターを有すると共に、シロキサンを吸着する吸着材を充填したフィルターを試料ガス導入口の前に装着したことを特徴とする非分散型赤外線シロキサン分析装置。
【請求項15】
バイオガス中の二酸化炭素濃度及び水分量の少なくとも一方を分析する装置を有することを特徴とする請求項14に記載の非分散型赤外線シロキサン分析装置。
【請求項16】
バイオガス中の水分量を一定量にする除湿機を試料ガス導入口の前に装着したことを特徴とする請求項14又は15に記載の非分散型赤外線シロキサン分析装置。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれかに記載の非分散型赤外線シロキサン分析装置を用いてシロキサン含有バイオガス中のシロキサン濃度を連続的にモニタリングすることを特徴とするシロキサンの分析方法。
【請求項18】
請求項10に記載の非分散型赤外線シロキサン分析装置を用いて分析した波数1250cm−1〜770cm−1の赤外線の吸収量および波数850cm−1〜770cm−1の赤外線の吸収量から、シロキサン含有バイオガス中の有機系シロキサン濃度および無機系シロキサン濃度を算出することを特徴とするシロキサンの分析方法。
【請求項19】
請求項1〜16のいずれかに記載の非分散型赤外線シロキサン分析装置において、シロキサン含有バイオガス中のシロキサン濃度の実測値を、同バイオガス中の二酸化炭素濃度及び水分量の少なくとも一方の値により補正することを特徴とするシロキサンの分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−98387(P2006−98387A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−145587(P2005−145587)
【出願日】平成17年5月18日(2005.5.18)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】