説明

シロキサン変性シアネート樹脂組成物、ならびにそれを用いる接着フィルム、樹脂付き金属箔および多層プリント配線板

【課題】シアネート樹脂の優れた誘電特性を損なうことなく、硬化物の脆さを改善した樹脂組成物、およびこれを用いた多層プリント配線板を提供する。
【解決手段】シアネートエステル化合物と、シアナト基と反応する官能基を分子内に少なくとも1個有する反応性ポリオルガノシロキサンとを反応させ、シアネート樹脂の優れた誘電特性を損なうことなく、硬化物の脆さを改善した樹脂組成物を得る。得られた樹脂組成物を内層板に積層して、その後回路形成することにより、多層プリント配線板を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐衝撃性を改善したシロキサン変性シアネート樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物ならびに該組成物を用いた接着フィルム、樹脂付き金属箔および多層プリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のプリント基板においては、信号伝播遅延時間の短縮および誘電体損失の低減を目的として、使用される樹脂の低誘電率化が要求されてきている。このような要求から、プリント配線板用材料として誘電特性に優れるシアネート樹脂が用いられるようになってきている。現在、一般的に用いられているシアネート樹脂モノマーとして、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)プロパンが挙げられるが、この単独硬化物は、脆いために耐衝撃性が劣るという欠点がある。これを克服するために、従来よりビスマレイミド樹脂やエポキシ樹脂による変性が行われてきたが、このような変性を行うことによって、シアネート樹脂が本来有する優れた誘電特性が大きく損なわれてしまう。また、誘電特性が良好なポリブタジエンやポリシロキサンを配合して耐衝撃性を向上させようとしても、シアネート樹脂との相溶性が低いため、これらを混合した場合は、ワニスが分離したり、硬化物の耐熱性が低下したりする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、シアネート樹脂の優れた誘電特性を損なうことなく、硬化物の耐衝撃性を改善した熱硬化性樹脂組成物、ならびに該組成物を用いた接着フィルム、樹脂付き金属箔および多層プリント配線板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記の課題を解決するために検討を重ねた結果、シアネートエステル化合物を、該シアネートエステル化合物のシアナト基と反応しうる炭素官能性基を有する反応性ポリオルガノシロキサンと反応させることによってシロキサン変性シアネート樹脂を合成し、それを主成分とする熱硬化性樹脂組成物を用いて、接着フィルム、樹脂付き金属箔および多層プリント配線板を製造することによって、その課題を達成できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0005】
すなわち、本発明は、(A)後述の一般式〔1〕で示されるシアネートエステル化合物と、(B)一般式〔2〕で示される反応性ポリオルガノシロキサンとを反応させることで得られるシロキサン変性シアネート樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物に関する。また、本発明は、該組成物を用いた接着フィルム、樹脂付き金属箔および多層プリント配線板に関する。
【0006】
上記の(A)シアネートエステル化合物は、一般式〔1〕:
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、R1は、
【0009】
【化2】

【0010】
を表し;
2およびR3は、たがいに同一でも異なっていてもよく、水素原子またはメチル基を表す)
で示される。
【0011】
また、反応性ポリオルガノシロキサンは、一般式〔2〕:
【0012】
【化3】

【0013】
(式中、mおよびnは、たがいに独立して0または正の数であり;
aおよびRbは、たがいに独立してメチル基またはRcであり、Rcは、たがいに同一でも異なっていてもよく、シアネートエステル化合物と反応する炭素官能性基、好ましくはシアナト基、フェノール性水酸基、アルコール性水酸基、アミノ基、エポキシ基、マレイミド基、およびカルボキシル基で置換され、酸素原子または窒素原子で中断されていてもよい1価の炭化水素基を表す)
で示され、分子中に少なくとも1個のRcを有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の樹脂組成物、ならびに該組成物を用いた接着フィルムおよび樹脂付き金属箔を用いることにより、コンピュータの高速化や高周波関連機器の低損失化に適した多層プリント配線板を、容易に製造することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明によると、シアネートエステル化合物と、フェノール性水酸基などのような炭素官能性基を有する反応性ポリオルガノシロキサンとを反応させることにより、架橋点間の一部が適度にポリシロキサンで置換されたシロキサン変性シアネート樹脂を得ることができる。ポリシロキサンは屈曲性に富むため、硬化物の耐衝撃性が向上し、また、ポリシロキサンは、元来、誘電特性に優れるため、樹脂硬化物の誘電特性を損なうことはない。
【0016】
本発明で使用される(A)シアネートエステル化合物は、前記一般式〔1〕で示される、1分子中にシアナト基を2個有するものである。
【0017】
一般式〔1〕で示される化合物としては、たとえば、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)プロパン、ビス(4−シアナトフェニル)エタン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−シアナトフェニル)メタン、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、α,α′−ビス(4−シアナトフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼン、ジシクロペンタジエン骨格を有するシアネートエステル化合物等が挙げられる。その中でも、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)プロパンは、硬化物の誘電特性と硬化性のバランスが特に良好であり、安価に入手できることから好ましい。シアネートエステル化合物は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。また、あらかじめ一部が、三量体や五量体にオリゴマー化されていてもよい。
【0018】
本発明で使用される(B)ポリオルガノシロキサンは、前記一般式〔2〕で示される、1分子中に、(A)シアネートエステル化合物のシアナト基と反応する官能基を少なくとも1個有するものである。
【0019】
反応性ポリオルガノシロキサンのRa、Rbおよび/またはRcに含まれる炭素官能性基は、シアネートエステル化合物のシアナト基と反応する基であり、たがいに同一でも異なっていてもよく、優れた反応性が得られることから、シアナト基、フェノール性水酸基、アルコール性水酸基、アミノ基、エポキシ基、マレイミド基およびカルボキシル基が好ましい。シアネートエステル化合物と反応する官能基の中でもフェノール性水酸基は、シアネートエステル化合物との反応性が高いことから最も好ましい。この場合、シアナト基とフェノール性水酸基の割合を100/1〜100/50にすることにより、耐衝撃性と誘電特性および耐熱性のバランスの良好な硬化物が得られる。このようなフェノール性水酸基を有する反応性ポリオルガノシロキサンとしては、たとえば、両末端にフェノール性水酸基を有するX−22−1821(フェノール性水酸基価、30KOHmg/g、信越化学工業株式会社製)、X−22−1822(フェノール性水酸基価、20KOHmg/g、信越化学工業株式会社製)などを用いることができる。
【0020】
シアネートエステル化合物と反応する上記の官能基は、ケイ素原子に結合する1価の炭化水素基に、置換基として結合して、Ra、Rbおよび/またはRcを形成する。該炭化水素基は、アルキル鎖のような脂肪族性炭素鎖を有するもの、シクロヘキサン環のような脂肪族性環を有するもの、ベンゼン環のような芳香環を有するもの、またはそれらの2種以上の構造を併せて有するもののいずれであってもよく、脂肪族性炭素鎖は、酸素原子または窒素原子で中断されていてもよい。脂肪族性炭素鎖の場合、該官能基がケイ素原子からβ−位に存在すると安定性が悪いので、該官能基は、通常、ケイ素原子から3個以上の炭素原子を介して結合する。このようなRa、Rbおよび/またはRcの例として、3−シアナトプロピル、4−ヒドロキシフェニル、2−(4−ヒドロキシフェニル)エチル、3−(4−ヒドロキシフェニル)プロピル、3−(4−ヒドロキシフェニルオキシ)プロピル、3−(4−ヒドロキシフェニルメチルオキシ)プロピル、3−〔3−(4−ヒドロキシフェニルオキシ)−2−ヒドロキシ〕プロピル、3−(2−ヒドロキシ−3−t−ブチルフェニル)プロピル、3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピル、3−ヒドロキシプロピル、3−(2−ヒドロキシエチルオキシ)プロピル、3−アミノプロピル、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピル、3−グリシドキシプロピル、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル、3−マレイミドプロピル、2−(ヒドロキシカルボニル)エチル、10−(ヒドロキシカルボニル)デシルなどが例示されるが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0021】
該反応性ポリオルガノシロキサンは、1分子中に少なくとも1個の、上記の官能基を有している。たとえば該官能基が上記のRaまたはRbのいずれかに存在し、他方のRaまたはRbがメチル基である場合、該反応性ポリオルガノシロキサンは片末端反応性ポリオルガノシロキサンであり、RaおよびRbの両方に存在する場合、両末端反応性ポリオルガノシロキサンであり、1分子中に3個以上の官能基が存在する場合、多官能反応性ポリオルガノシロキサンである。
【0022】
本発明の樹脂組成物は、(A)シアネートエステル化合物と(B)反応性ポリオルガノシロキサンを反応させて得られるシロキサン変性シアネート樹脂を含む。この反応は、溶液中で行ってもよい。また、混合物をフィルムや金属箔に塗布する際に行ってもよいし、混合物を基板に積層した後の熱硬化の際に行ってもよい。反応を溶液中で行う場合、反応は、通常60〜180℃の範囲で行う。溶媒としては、主としてベンゼン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼンのような芳香族炭化水素系溶媒が用いられる。反応系の粘度を調整する場合や、あらかじめ溶解させる熱可塑性樹脂の溶解性を向上させる場合には、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、アルコール系溶媒、エーテルアルコール系溶媒またはアミド系溶媒のような、反応に不活性な溶媒を併用してもよい。反応時間は、反応系の濃度、触媒量などによって、適宜、調整することができる。なお、溶液中で反応させる場合は、シアネートエステル化合物のトリアジン環への転化率T(%)を、溶液の粘度が大きくなって取扱いが困難になることを防ぐために、0≦T≦60の範囲に制御することが好ましい。
【0023】
また、上記のポリシロキサン変性シアネート樹脂を含む本発明の熱硬化性組成物に、さらに、(C)熱硬化性樹脂の1種以上を配合してもよい。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ビスマレイミド樹脂、ベンゾシクロブテン樹脂などが例示される。特にエポキシ樹脂を混合した場合は、硬化物の耐湿性が大きく向上するので好ましい。エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、アルキルフェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂、フェノール類とフェノール性水酸基を有する芳香族アルデヒドとの縮合物であるエポキシ化物、トリグリシジルイソシアヌレート、脂環式エポキシ樹脂など公知のものを、単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。また、テトラブロモビスフェノールAのジグリシジルエーテルやその同族体、ブロモ含有フェノールノボラックのグリシジルエーテルのような臭素化されたエポキシ樹脂、リン含有フェノールノボラック型エポキシ樹脂のようなリン原子を含むエポキシ樹脂など、難燃性の高いエポキシ樹脂を、その一部または全部として用いてもよい。これらのエポキシ樹脂を配合すると、誘電特性やTgが低下する場合もあるが、ジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂を用いると、このような物性の低下が少ないのでさらに好ましい。ジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂の配合量は、誘電特性と耐湿性のバランスに優れる硬化物が得られることから、シアナト基とエポキシ基の当量比が100/20〜100/100になる量が特に好ましい。
【0024】
本発明の熱硬化性樹脂組成物に、さらに、(D)熱可塑性樹脂の1種以上を配合してもよい。熱可塑性樹脂としては、フッ素樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリレートなどが例示される。そのうち、ポリフェニレンエーテルを配合すると、硬化物の誘電特性が向上するのでさらに好ましい。ポリフェニレンエーテル樹脂としては、たとえば、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテルおよびポリ(2,6−ジブロモ−1,4−フェニレン)エーテルが挙げられ、さらに、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテルとポリスチレンのポリマーアロイ、およびポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテルとスチレン−ブタジエンコポリマのポリマーアロイのように、ポリマーアロイを形成したものが挙げられる。ポリフェニレンエーテルの配合量は、シアネートエステル化合物とポリフェニレンエーテルの重量比は、誘電特性と耐熱性のバランスのよい樹脂が得られることから、100/20〜100/150が特に好ましい。
【0025】
なお、このような熱可塑性樹脂を、(A)シアネートエステル化合物と(B)反応性ポリオルガノシロキサンを反応させる際に、あらかじめ配合しておくと、反応によって容易にセミIPN構造が構築され、樹脂組成物のモルホロジーを制御できる効果があるが、本発明は、これに限定されるものではない。
【0026】
硬化反応を促進させるために、本発明の熱硬化性樹脂組成物に、硬化触媒や硬化促進剤を配合してもよい。硬化触媒としては、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛などの金属の化合物が用いられ、具体的には、オクタン酸塩、2−エチルヘキサン酸塩、ナフテン酸塩などの有機金属塩;およびアセチルアセトン錯体などの有機金属錯体が用いられる。これらは、単独で使用しても、2種以上を混合して使用してもよい。硬化促進剤としては、フェノール類を使用することが望ましく、ノニルフェノール、パラクミルフェノールなどの単官能フェノール類や、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールSなどの二官能フェノール類、またはフェノールノボラック、クレゾールノボラックなどの多官能フェノール類などを用いることができる。これらは、単独で使用しても、2種以上を混合して使用してもよい。
【0027】
また、本発明の熱硬化性樹脂組成物に、無機フィラーを混合してもよい。無機フィラーとしては、アルミナ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、溶融シリカ、石英粉、酸化亜鉛、クレー、タルク、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、ガラス粉、シラスバルーンなどが挙げられる。これら無機フィラーは、単独で使用しても、2種類以上を混合して使用してもよい。
【0028】
さらに、必要に応じて、難燃剤を任意に添加してもよい。難燃剤としては、分子中に臭素や塩素などを含むハロゲン化合物や、リン化合物、窒素化合物、金属水酸化物、金属複酸化物などを挙げることができる。代表的な臭化物としては、デカブロモジフェニレンエーテル、トリス(トリブロモフェノキシ)トリアジンのほか、前述の臭素化されたエポキシ樹脂が挙げられる。代表的なリン化合物としては、リン酸トリフェニル、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフート)、リン酸レゾルシニルジフェニル、前述のリン原子を含むエポキシ樹脂などが挙げられる。これらの難燃剤のうち、シアナト基、フェノール性水酸基、アルコール性水酸基、アミノ基、エポキシ基、マレイミド基、カルボキシル基などの反応性官能基を有するものは、高温におけるブリードやめっき液の汚染を防ぐことができるため、特に望ましい。このような反応性基を有する難燃剤の代表的なものとして、テトラブロモビスフェノールAのジグリシジルエーテル、ブロモ含有フェノールノボラックのグリシジルエーテル、リン酸レゾルシニルジフェニル、リン含有フェノールノボラック型エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0029】
本発明の熱硬化性樹脂組成物を、樹脂ワニスとして用いるために、有機溶媒を含有してもよい。有機溶媒としては、通常、主としてベンゼン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼンのような芳香族炭化水素系溶媒が用いられる。ワニスの粘度を調整する場合や、あらかじめ溶解させる熱可塑性樹脂の溶解性を向上させる場合には、必要に応じて、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンのようなケトン系溶媒;テトラヒドロフランのようなエーテル系溶媒;イソプロパノール、ブタノールのようなアルコール系溶媒;2−メトキシエタノール、2−ブトキシエタノールのようなエーテルアルコール系溶媒;N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドのようなアミド系溶媒などを、適宜、併用してもよい。
【0030】
次に、本発明の熱硬化性樹脂組成物を用いた多層プリント配線板の製造法について説明する。まず、本発明の熱硬化性樹脂組成物をパターン加工された内層回路基板上に積層する。その方法は、有機溶媒を含む該樹脂組成物を、内層回路基板に塗布し、乾燥後、加熱硬化させるか、または本発明の樹脂組成物からなる接着フィルムを用いて、加圧、加熱条件下で基板上に積層し、またはプレスし、ついで支持フィルムを剥離した後、加熱硬化させる。なお、内層回路基板としては、ガラスエポキシ基板、ポリエステル基板、ポリイミド基板、BTレジン基板、熱硬化型PPE基板、金属基板などを使用することができる。回路表面は、あらかじめ粗化処理してもよい。加熱硬化の条件は、通常120℃以上、好ましくは170〜220℃の温度で、通常15〜300分、好ましくは60〜150分かければ充分である。上記のように基板上に本発明の熱硬化性樹脂組成物を積層して硬化させた後、ドリルおよび/またはレーザを用いて穴あけを行い、スルーホールやバイアホールを形成させる。レーザ穴明け機には、炭酸ガスレーザ、YAGレーザ、エキシマレーザなどを用いることができる。その後、サンドブラスト処理、プラズマ処理、過マンガン酸塩や重クロム酸塩などの酸化剤を用いた薬品処理などを行なって、表面を粗化する。この工程では、レーザ穴あけの際に発生する樹脂残さも、同時に除去される。さらに無電解銅めっき、金属蒸着、スパッタリング、イオンプレーティングなどの手法を用いて、内層と外層の電気的導通を得た後は、通常のビルドアップ配線板における回路形成方法を用いて、積層した本発明の熱硬化性樹脂組成物の表面に回路形成を行う。
【0031】
本発明の熱硬化性樹脂組成物を、金属箔に塗布し、樹脂付き金属箔として使用することもできる。まず、樹脂付き金属箔を加圧、加熱条件下で基板上に積層し、またはプレスして加熱硬化させる。その後、使用する金属箔が薄い場合は、金属箔と樹脂を同時に穴あけでき。この場合、金属箔表面は、粗化処理されてあってもよい。使用する金属箔が厚い場合は、コンフォーマルマスク法またはラージウィンド法を用いて窓穴を形成した後、レーザ穴あけを行う。穴あけ後は、先に記述したような樹脂残さの除去を行い、内層と外層の電気的導通を得た後、通常のビルドアップ配線板における回路形成方法を用いて、積層した本発明の熱硬化性樹脂組成物の表面に回路形成を行う。
【実施例】
【0032】
以下に、実施例および比較例を示して、本発明を具体的に説明する。本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0033】
実施例1
温度計、冷却管、攪拌装置を備えた1リットルの4つ口セパラブルフラスコに、トルエン100g、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)プロパン(ArocyB−10、旭チバ株式会社製商品名)100gおよび両末端フェノール変性ポリオルガノシロキサン(X−22−1822、信越化学株式会社製商品名)88gを投入して溶解した後、ナフテン酸マンガン(Mn含有量=6重量%、日本化学産業株式会社製)をトルエンでMn分1%に希釈した溶液0.2gを添加し、105℃で4時間反応させ、本発明のシロキサン変性シアネート樹脂を得た。得られた樹脂組成物を銅箔(GTS−12、古河サーキットフォイル株式会社製商品名)に塗布した後、樹脂面を貼り合わせ、200℃で90分プレスして、樹脂硬化物を作製した。銅箔をエッチングした後、樹脂硬化物の伸び率を、島津製作所株式会社製オートグラフAC−100Cを用い、引張り速度50mm/minで測定したところ、2.5%であった。また、樹脂硬化物の1GHzにおける比誘電率および誘電正接をヒューレットパッカード株式会社製インピーダンス−マテリアルアナライザHP4291Bで測定したところ、比誘電率は2.95、誘電正接は0.0055であった。
【0034】
実施例2
温度計、冷却管、攪拌装置を備えた1リットルの4つ口セパラブルフラスコに、トルエン117gとポリフェニレンエーテル(ノニルPKN4752、日本ジーイープラスチックス株式会社製商品名)20gを投入し、攪拌しつつ80℃に加熱して溶解した。次に2,2−ビス(4−シアナトフェニル)プロパン(ArocyB−10、旭チバ株式会社製商品名)40gおよび両末端フェノール変性ポリオルガノシロキサン(X−22−1822、信越化学株式会社製商品名)36gを投入して溶解した後、ナフテン酸マンガン(Mn含有量=6重量%、日本化学産業株式会社製)をトルエンでMn分1%に希釈した溶液0.24gを添加し、還流温度で8時間反応させた。室温まで冷却し、ジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂(EXA7200L、大日本インキ化学株式会社製商品名)42gを加え、本発明のシロキサン変性シアネートを含む樹脂組成物を得た。実施例1と同様にして測定した樹脂硬化物の伸び率は4.8%、1GHzにおける比誘電率は2.59、誘電正接は0.0053であった。
【0035】
比較例1
実施例1で使用した両末端フェノール変性ポリオルガノシロキサンの代わりに、p−(α−クミル)フェノール(サンテクノケミカル株式会社製)12gを使用する以外は実施例1と同様にして、樹脂硬化物を得た。フェノール配合量が実施例1と異なるのは、フェノール当量が異なるためであり、シアナト基とフェノール性水酸基の当量比が実施例1と等しくなるように配合した。実施例1と同様にして測定した樹脂硬化物の伸び率は0.08%で、1GHzにおける比誘電率は2.93、誘電正接は0.0056であった。
【0036】
比較例2
実施例2で使用した両末端フェノール変性ポリオルガノシロキサンの代わりに、p−(α−クミル)フェノール(サンテクノケミカル株式会社製)5gを使用する以外は実施例1と同様にして、樹脂硬化物を得た。フェノール配合量が実施例2と異なるのは、フェノール当量が異なるためであり、シアナト基とフェノール性水酸基の当量比が実施例2と等しくなるように配合した。実施例1と同様にして測定した樹脂硬化物の伸び率は1.9%で、1GHzにおける比誘電率は2.50、誘電正接は0.0056であった。
【0037】
比較例3
実施例1で使用した両末端フェノール変性ポリオルガノシロキサンの代わりに、p−(α−クミル)フェノール(サンテクノケミカル株式会社製)12gを使用し、さらに、有機樹脂との相溶性が良好とされる長鎖アルキル変性ポリオルガノシロキサン(KF−414、信越化学株式会社製商品名)88gを配合した。それ以外は実施例1と同様にした。フェノール配合量が実施例1と異なっているのは、フェノール当量が異なるためであり、シアナト基とフェノール性水酸基の当量比が実施例1と等しくなるように配合した。配合後のワニスは、相分離してしまい、銅箔に塗布したが、溶媒の揮発とともにポリオルガノシロキサンが樹脂表面に浮き出てきてしまった。
【0038】
実施例1と比較例1の比較により、本発明のように反応性ポリオルガノシロキサンとシアネートエステル化合物を反応させることにより、伸び率が大きく上昇することがわかる。このことにより、従来のシアネート樹脂の欠点であった硬化物の脆さが改善され、靭性が向上した。また、ポリシロキサンの誘電特性は元来優れているため、硬化物の誘電特性を低下させることはない。
【0039】
さらに、実施例2と比較例2の比較から、本発明の効果はポリフェニレンエーテルなどの熱可塑性樹脂やジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を配合した場合でも大きく発現されることがわかる。なお、比較例3からわかるように、アルキル変性ポリオルガノシロキサンをシアネートエステル化合物に配合しても、相溶性が大きく異なるため均一な樹脂組成物を得ることは不可能である。したがって、均一な樹脂組成物を得るためには、本発明のように反応性ポリオルガノシロキサンとシアネートエステル化合物を反応させる必要がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)一般式〔1〕:
【化4】


(式中、R1は、
【化5】


を表し;
2およびR3は、たがいに同一でも異なっていてもよく、水素原子またはメチル基を表す)
で示されるシアネートエステル化合物と、
(B)一般式〔2〕:
【化6】


(式中、mおよびnは、たがいに独立して0または正の数であり;
aおよびRbは、たがいに独立してメチル基またはRcであり、Rcは、たがいに同一でも異なっていてもよく、シアネートエステル化合物と反応する炭素官能性基で置換され、酸素原子または窒素原子で中断されていてもよい1価の炭化水素基を表す)
で示され、分子中に少なくとも1個のRcを有する反応性ポリオルガノシロキサンとを
反応させて得られるシロキサン変性シアネート樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
(B)中の炭素官能性基が、たがいに同一でも異なっていてもよく、シアナト基、フェノール性水酸基、アルコール性水酸基、アミノ基、エポキシ基、マレイミド基、およびカルボキシル基からなる群より選ばれる反応性基である、請求項1記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
さらに、(C)エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ビスマレイミド樹脂、ベンゾシクロブテン樹脂からなる群より選ばれる熱硬化性樹脂を含む、請求項1または請求項2記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
さらに、(D)フッ素樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリレートからなる群より選ばれる熱可塑性樹脂を含む、請求項1〜3のいずれか1項記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
(A)シアネートエステル化合物が、2,2−ビス(4−シアナトフェニル)プロパンであり、 かつ(B)反応性ポリオルガノシロキサンの反応性基がフェノール性水酸基であり、シアナト基とフェノール性水酸基の当量比が100/1〜100/50である、請求項1〜4のいずれか1項記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
(C)熱硬化性樹脂が、ジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂であり、シアナト基/エポキシ基の当量比が100/20〜100/100である、請求項1〜5のいずれか1項記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
(D)熱可塑性樹脂が、ポリフェニレンエーテルであり、シアネートエステル化合物とポリフェニレンエーテルの重量比が100/20〜100/150である、請求項1〜6のいずれか1項記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項記載の熱硬化性樹脂組成物を、支持フィルムに塗布して得られる接着フィルム。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項記載の熱硬化性樹脂組成物を、金属箔に塗布して得られる樹脂付き金属箔。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか1項記載の熱硬化性樹脂組成物を、内層基板上に積層した後、回路を形成して得られる多層プリント配線板。

【公開番号】特開2011−202175(P2011−202175A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119230(P2011−119230)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【分割の表示】特願2001−114235(P2001−114235)の分割
【原出願日】平成13年4月12日(2001.4.12)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】