説明

シロキサン樹脂含有塗布組成物

【課題】経時劣化による増粘がなく、塗布性に優れた塗布組成物と、それを用いたが硬化膜の形成方法の提供。
【解決手段】本発明によれば、シラノール基またはアルコキシシリル基を有するシロキサン樹脂と、エーテル結合を有していてよい、炭素数2〜5の直鎖炭化水素鎖の両末端に水酸基を有するポリオールとを含んでなることを特徴とする、塗布組成物が提供される。この塗布組成物を用いることで、透明性および絶縁性が高く、比誘電率の低い硬化膜を形成させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シロキサン樹脂、特にシラノール基またはアルコキシシリル基を含有するシロキサン樹脂を含む塗布組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シロキサン樹脂は、焼成して硬化させること(以下、簡単に「硬化」ということがある)により、高耐熱性、高耐久性、高硬度、低誘電性、高絶縁性、および高透明性の被膜を形成することができる材料として知られており、各種用途において使用されている。例えば、半導体素子や液晶表示素子等における絶縁膜、平坦化膜、または保護膜を形成させるための材料や、半導体素子を封止するための材料として使用されている。また、高透明性であることから、このような電子材料分野だけでなく、光学部材や車などの表面保護膜を形成させるための材料としても利用されている。
【0003】
バインダーとしてのシロキサン樹脂と溶媒とを含む塗布組成物を用いて硬化被膜を形成させる場合において、アルコキシ基や水酸基を有する多官能ポリシロキサンを用いる方法が知られている(特許文献1、2参照)。しかしながら、本発明者らの知る限り、このような多官能ポリシロキサンは溶液中での安定性の観点からは改良の余地があった。特に塗布組成物の粘度が高い場合、または固形分濃度が高い場合には、硬化剤または触媒、例えば酸性化合物、塩基性化合物、金属アルコキシド、金属キレート化合物など、を添加するとすぐに増粘したりゲル化したりするという問題があった。また、添加後すぐに増粘やゲル化が起こらない場合でも、保管中に増粘することもあった。
【0004】
このような問題はシロキサン樹脂がアルコキシ基や水酸基を有するために起こると推測されており、それを解決するためには、アルコキシ基や水酸基を有さないシロキサン樹脂を用いることが検討されている。しかしながら、そのようなシロキサン樹脂は反応性に乏しくなり、その結果、焼成によって十分に硬化することができないことがある。また、アルコキシ基や水酸基を他の有機系反応基に置き換えたシロキサン樹脂を用いることも検討されているが、そのようなシロキサン樹脂を用いた場合には、得られる被膜の熱安定性低下や電気特性変化等が十分な特性を有していないことが多い。さらに、一般的ではない反応性基や構造を有する多官能ポリシロキサンを使用することによって。コスト的に不利になることが多い(特許文献3〜6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−99879号公報
【特許文献2】特開2009−7390号公報
【特許文献3】特開2002−105316号公報
【特許文献4】特開2003−137944号公報
【特許文献5】特開2001−354771号公報
【特許文献6】特開平8−334901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記従来の問題点がないシロキサン樹脂を含む塗布組成物を提供することである。具体的には、改良された保存安定性を有し、高い透明性、高絶縁性、低誘電率を有する硬化膜を形成させることができる、シラノール基またはアルコキシシリル基含有シロキサン樹脂を含む塗布組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、シラノール基またはアルコキシシリル基を有するシロキサン樹脂と、特定のポリオールとを組み合わせることで、保存安定性とシロキサン樹脂の優れた物性を両立させる塗布組成物を作成することができることを見出し、この知見に基づいて本発明を成したものである。
【0008】
本発明による塗布組成物は、
シラノール基またはアルコキシシリル基を有するシロキサン樹脂と、
下記一般式(1):
HOCH−(CH−(CH(OH))−(O)−CHOH (1)
(式中、lは0〜3であり、mは0または1であり、nは0または1であり、0≦l+m+n≦3であり、繰り返し単位−(CH)−、−(CH(OH))−、および−(O)−はそれぞれランダムに結合していてよい)
で表されるポリオールと
を含んでなることを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明によるシリカ質膜は、前記の塗布組成物を基材上に塗布し、さらに不活性ガスまたは大気中において150〜450℃で焼成することにより得られたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明においては、シロキサン樹脂としてシラノール基またはアルコキシシリル基含有樹脂を任意の溶媒で希釈された塗布組成物に、特定のアルコールを添加することによって、塗布組成物の経時劣化による増粘を防ぎ、塗布性に優れた、具体的には塗布ムラの少ない塗布組成物が提供される。さらに、本発明による塗布組成物によれば、優れた透明性、高絶縁性、および低誘電率を兼ね備えた硬化膜を形成させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0012】
以下、本発明のシラノール基またはアルコキシシリル基含有シロキサンを含む塗布組成物を詳細に説明すると以下の通りである。
【0013】
塗布組成物
本発明による塗布組成物は、特定のシロキサン樹脂と、特定のポリオールとを含んでなり、さらに必要に応じてその他の溶媒およびその他の添加剤を含んでなる。
【0014】
(a)シロキサン樹脂
本発明において用いられるシロキサン樹脂は、シラノール基またはアルコキシシリル基を有するものである。本発明において、シラノール基およびアルコキシシリル基とはシロキサン骨格を形成するケイ素に直接結合した水酸基およびアルコキシ基を意味する。これらの基は、塗布組成物を硬化反応させるときの反応性基として寄与する。
【0015】
本発明において用いられるシロキサン樹脂は、シラノール基および/またはアルコキシシリル基を反応性基として含むシロキサン樹脂であれば何れのものであってよく、その構造は特に制限されない。シロキサン樹脂の骨格構造は、ケイ素原子に結合している酸素数に応じて、シリコーン骨格(ケイ素原子に結合する酸素原子数が2)、シルセスキオキサン骨格(ケイ素原子に結合する酸素原子数が3)、およびシリカ骨格(ケイ素原子に結合する酸素原子数が4)に分類できる。本発明においては、これらのいずれであってもよいが、これらのシロキサン樹脂の骨格構造は複数の組み合わせでもよく、シロキサン樹脂は、それぞれの構造を有する樹脂の混合物であってもよい。しかし、シリコーン構造が多いと、高温において樹脂が壊れやすい傾向にある。このため、シリコーン構造の割合はシロキサン樹脂全体の10mol%以下であることが好ましい。特に、被膜形成の際の硬化反応が進み易く、塗布後のべたつきが少ないなどの取り扱い性がよいことから、シルセスキオキサン構造またはシルセスキオキサン構造とシリカ構造との混合物であることが好ましい。このような場合、シルセスキオキサン構造が最も多いことが好ましい。また、シリカ構造が多いと安定性が低く、組成物が増粘する傾向にあるので、シリカ構造の割合はシロキサン樹脂全体の20mol%以下であることが好ましく、10mol%以下であることがより好ましい。
【0016】
また、本発明において用いられるシロキサン樹脂は、シラノール基またはアルコキシシラン基を有する。前記したとおり、これらの基は、硬化反応に寄与するとともに、保存安定性にも影響すると考えられている。本発明においては、シロキサン樹脂にシラノール基およびアルコキシシラン基がわずかでも含まれていれば本発明の効果を奏するが、その数はシロキサン樹脂の分子量に依存すると考えられている。このため、シロキサン樹脂の分子量が後述する特定の範囲にあることが適切な数のシラノール基またはアルコキシシラン基を有するために好ましい。
【0017】
なお、本発明の効果を損なわない範囲で、シラノール基またはアルコキシシラン基以外の反応性基、例えばカルボキシル基、スルホニル基、アミノ基などがシロキサン樹脂に含まれてもよいが、これらの反応性基は一般に塗布組成物の保存安定性を劣化させる傾向にあるため、少ないことが好ましい。具体的にはケイ素原子に結合している水素または置換基の総数に対して、10mol%以下であることが好ましく、全く含まれないことが特に好ましい。ここで、置換基とは、シロキサン構造を構成するSi−O結合を含まない置換基、具体的にはアルキル基、アルケニル基、アリル基、ヒドロキシアルキル基などを意味する。
【0018】
本発明における塗布組成物に含まれるシロキサン樹脂の含有量は、用いるシロキサン樹脂の種類や、組成物の用途などに応じて適切に調整され、特に限定されない。しかし、十分な塗布膜の厚さを得るためにはシロキサン樹脂の含有量が高いことが好ましく、また塗布組成物の経時安定性の観点からは一定以下であることが好ましい。このため、塗布組成物に含まれるシロキサン樹脂の含有量は、後述する溶媒などを含む、組成物の全重量を基準として1〜60重量%であることが好ましく、5〜50重量%であることがより好ましい。
【0019】
本発明で用いることのできる代表的なシロキサン樹脂は、例えば、下記一般式(A)で表されるアルコキシシランの1種以上を有機溶剤中、加水分解して得られるものである。
(RSi(OR4−a (A)
【0020】
式中、Rは水素原子、置換基を有していてもよい、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基、炭素数15以下のα位の炭素原子に水素原子が結合していないアラルキル基、炭素数6〜15のアリール基または炭素数1〜6のアルケニル基を表し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基を表し、aは0〜3の整数である。
【0021】
上記一般式(A)中、置換基Rの具体例としては、(i)メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、n−デシル基、トリフルオロメチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、3−ヒドロキシプロピル基、3−グリシドキシプロピル基、2−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチル基、3−アミノプロピル基、3−メルカプトプロピル基、3−イソシアネートプロピル基、4−ヒドロキシ−5−(p−ヒドロキシフェニルカルボニルオキシ)ペンチル基などの置換または非置換のアルキル基、(ii)シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などの置換または非置換のシクロアルキル基、(iii)フェニルイソプロピル基などの置換または非置換のアラルキル基、(iv)フェニル基、トリル基、p−ヒドロキシフェニル基、ナフチル基などの置換または非置換のアリール基、(v)ビニル基、アリル基、3−アクリロキシプロピル基、3−メタクリロキシプロピル基などの置換または非置換のアルケニル基が挙げられる。
【0022】
一方、置換基Rの具体例としては、置換基Rの置換基を有していてもよいアルキル基として例示したと同様の基が例示でき、置換基を有さない炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。
【0023】
より具体的には、上記一般式(A)で示されるアルコキシシラン化合物としては、下記の化合物が例示される。
【0024】
(イ)テトラアルコキシシラン:テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン等
(ロ)モノアルキルトリアルコキシシラン:モノメチルトリメトキシシラン、モノメチルトリエトキシシラン、モノエチルトリメトキシシラン、モノエチルトリエトキシシラン、モノプロピルトリメトキシシラン、モノプロピルトリエトキシシラン等
(ハ)モノアリールトリアルコキシシラン:モノフェニルトリメトキシシラン、モノフェニルトリエトキシシラン、モノナフチルトリメトキシシラン等
(ニ)トリアルコキシシラン:トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリプロポキシシラン、トリブトキシシラン等
(ホ)ジアルキルジアルコキシシラン:ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジプロピルジメトキシシラン、ジプロピルジエトキシシラン等
(ヘ)ジフェニルジアルコキシシラン:ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン等
(ト)アルキルフェニルジアルコキシシラン:メチルフェニルジメトキシシラン、メチルフェニルジエトキシシラン、エチルフェニルジメトキシシラン、エチルフェニルジエトキシシラン、プロピルフェニルジメトキシシラン、プロピルフェニルジエトキシシラン等
(チ)トリアルキルアルコキシシシラン:トリメチルメトキシシラン、トリn−ブチルエトキシシラン等
【0025】
これらの中で好ましい化合物は、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、モノメチルトリメトキシシラン、モノメチルトリエトキシシラン、モノナフチルトリメトキシシラン、モノフェニルトリメトキシシランである。
【0026】
本発明において用いられるシラノール基またはアルコキシシリル基を含有するシロキサン樹脂は、反応性基がシラノール基のみからなるまたはシラノール基とアルコキシシリル基からなるシロキサン樹脂が好ましい。すなわち、シロキサン樹脂中には、原料由来の未反応のアルコキシシリル基が含まれていてもよい。このような反応性基がシラノール基のみからなるまたはシラノール基とアルコキシシリル基からなるシラノール基含有シロキサン樹脂は、前記一般式(A)で示されるアルコキシシランの1種または2種以上を用いて製造することができる。また、本発明において用いられるシラノール基またはアルコキシシリル基含有シロキサン樹脂は、必要であればアルコキシシランとして、前記RおよびRに水酸基などの反応基を含まないアルコキシシランの1種または2種以上とRおよび/またはRに水酸基などの反応基を有するアルコキシシランの1種または2種以上との混合物を用い、これらを加水分解縮合することによって得られるシロキサン樹脂が用いられてもよい。また、本発明においては、原料アルコキシシランとして、上記一般式(A)において、aが0または1であるアルコキシシランを用いることが好ましく、このとき必要に応じてaが2または3のアルコキシシランがさらに用いられてもよい。
【0027】
また、他の代表的なシラノール基またはアルコキシシリル基含有シロキサン樹脂としては、下記一般式(B)で表されるハロシランの1種以上を有機溶剤中、加水分解して得られるものも挙げられる。
(RSiX4−a (B)
式中、R1およびaは前記した通りであり、
Xはハロゲン原子を表す。
【0028】
なお、一般式(B)中のRおよびaとしては、上記一般式(A)で挙げたものと同じものが好ましい。またXとしては、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子が挙げられる。
【0029】
このようなハロシラン化合物を用いることにより、一般式(A)で示されるようなアルコキシシランを用いる場合と同様の方法で、シラノール基含有シロキサン樹脂を製造することができる。例えば、トリクロロシラン化合物では、一部のクロロシリル基が加水分解・縮合反応してSi−O―Siの結合を形成し、残りは加水分解し、クロロシリル基がシラノール基となる。形成されるシロキサン樹脂中のシラノール基の含有量は、使用するハロシラン化合物の種類、量、反応条件などを制御することにより調整可能である。原料としてハロシラン化合物のみを用いる場合には、得られたシラノール基含有シロキサン樹脂の反応基は全部がシラノール基となる。
【0030】
また、一般式(A)の化合物と一般式(B)の化合物を組み合わせてシロキサン樹脂を製造することもできる。
【0031】
シロキサン樹脂を得るためのシラン化合物の加水分解縮合反応は、通常有機溶剤中で行なわれる。アルコキシシラン溶液の溶剤成分としては、形成される樹脂を溶解又は分散することのできる有機溶剤であれば特に限定されない。このような溶剤としては、公知の有機溶剤を適宜使用でき、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコールイソブチルアルコール、イミアミルアルコール等の一価アルコール;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール等の多価アルコール;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、3−メチル−3−メトキシブタノール等の多価アルコールのモノエーテル類およびそれらのアセテート類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソアミルケトン等のケトン類;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジプロピルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等の多価アルコールの水酸基をすべてアルキルエーテル化した多価アルコールエーテル類等が挙げられる。アルコキシシランの反応において用いられる溶剤は、引き続き基材に塗布される塗布組成物の溶剤としても利用されることが一般的である。
【0032】
シロキサン樹脂の分子量は、組成物の濃度やシロキサン樹脂に含まれる反応性基の含有量などに応じて適切に選択される。しかし、塗布組成物を基板などに塗布した後、過剰な溶媒を除去するためのプリベーク工程において、溶媒とともにシロキサン樹脂が揮発してしまうことを防ぐために、分子量は一定以上であることが好ましい。一方、硬化反応を進行させて十分に硬化させるためには分子量は一定以下であることが好ましい。このような観点から、シロキサン樹脂の重量平均分子量(Mw)が300〜20,000であるものが好ましく、400〜10,000であることがより好ましく、600〜5,000であることが特に好ましい。ここで、重量平均分子量とは、ゲル浸透クロマトグラフィーによるスチレン換算重量平均分子量をいう。
【0033】
(b)溶剤
本発明による塗布組成物は、特定のポリオールを含んでなる。このポリオールは、下記一般式(1)で表されるものである。
HOCH−(CH−(CH(OH))−(O)−CHOH (1)
式中、lは0〜3であり、mは0または1であり、nは0または1であり、0≦l+m+n≦3であり、繰り返し単位−(CH)−、−(CH(OH))−、および−(O)−はそれぞれランダムに結合していてよい。
【0034】
この一般式から明らかなように、この特定のポリオールは直鎖炭化水素鎖の両末端に水酸基を有するものである。この直鎖炭化水素鎖は、炭化水素からなる側鎖を有さず、環状構造も有さない。ただし、炭素原子とほかの炭素原子が酸素を介して結合していてもよい。この結果、直鎖炭化水素鎖中にエーテル結合が含まれることがある。
【0035】
また、直鎖炭化水素鎖の両末端に水酸基を有するほか、末端以外の炭素に水酸基を有してもよい。すなわち、直鎖炭化水素の両末端に水酸基を有するジオールだけでなく、末端以外にも水酸基を含むトリオールやテトラオールであってもよい。
【0036】
このようなポリオールのうち好ましいものは、
【0037】
このようなポリオールのうち、好ましいものとして、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセロール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、ジグリセロールが挙げられる。これらのうち、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、グリセロール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオールがより好ましく、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、グリセロールが最も好ましい。これらのポリオールは、複数種を組み合わせて用いることでより高い効果が得られることがある。
【0038】
なお、本発明においてポリオールはエーテル結合を含んでもよいが、エーテル結合を含まないポリオールのほうが塗布液の保存安定性を改良する効果が大きい傾向にあり、エーテル結合を含まないものがより好ましい。
【0039】
本発明において、塗布組成物に含まれるポリオールの含有量は特に限定されず、用いられるシロキサン樹脂の分子量や構造、用いられるポリオールの種類、あるいは塗布組成物の用途などに応じて適当に調整される。しかしながら、ポリオールの含有量が高いほど塗布液の保存安定性の改良効果が大きい傾向にある。一方、ポリオールは比較的沸点が高いため、ポリオールの含有量が低いほど塗布後の乾燥工程などにおいて被膜中からポリオールを除去するのが容易となる。ポリオールの除去が不十分であると、被膜のべた付きや、それによって引き起こされる装置汚染等の問題が起こりやすい。このような観点から、本発明による塗布組成物に含まれるポリオールの含有量は、組成物の全重量を基準として0.5〜40重量%であることが好ましく、1〜30重量%であることがより好ましい。
【0040】
本発明による塗布組成物は、溶媒として前記のポリオールのほかに、別の溶媒を含むこともできる。このような溶媒として、アルキレングリコールモノアルキルエーテルが挙げられる。アルキレングリコールモノアルキルエーテルを併用することで、塗布液のさらなる経時安定性の向上が達成できる。
【0041】
このようなアルキレングルコールモノアルキルエーテルとして好ましいものは、下記一般式(2)で表されるものである。
HO−[(CH−O−]−(CHH (2)
式中、pは1〜6、好ましくは1〜3であり、qは1〜3、好ましくは1であり、rは1〜6、好ましくは1〜3である。
【0042】
このようなポリオールのうち、好ましいものとして、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、3−メチル−3−メトキシブタノール等の多価アルコールのモノエーテル類が挙げられる。これらのうちエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルが特に好ましい。
【0043】
本発明の塗布組成物におけるポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルの含有量は特に限定されない。しかし、一般に含有量が多いほど経時安定性改良効果が大きく、また蒸発による塗布組成物の増粘を抑制するためには少ないほうが好ましい。このような観点から、本発明による塗布組成物に含まれるアルキレングルコールモノアルキルエーテルの含有量は、組成物の全重量を基準として5〜90重量%であることが好ましく、10〜70重量%であることがより好ましい。
【0044】
本発明による塗布組成物は、経時安定性を改良するために、前記のポリオールと、必要に応じてアルキレングリコールモノアルキルエーテルを含む。しかしながら、取り扱い性や塗布性の観点から、さらに希釈溶媒を含むことが好ましい。このような希釈溶媒としては、塗布組成物に一般的に使用されるものから任意に選択して用いることができる。また、アルコキシシランの加水分解縮合反応の際の溶剤を、そのまま塗布組成物の有機溶剤として用いることもできる。
【0045】
具体的には、(i)ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジプロピルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテルなどのジエチレングリコールジアルキルエーテル類、(ii)メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテートなどのエチレングリコールアルキルエーテルアセテート類、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテートなどのプロピレングリコールアルキルエーテルアセテート類、(iii)酢酸エチル、酢酸ブチル、3−メチル−3−メトキシブチルアセテートなどのカルボン酸エステル類、(iv)ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、(v)メチルエチルケトン、アセトン、メチルアミルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類などが挙げられる。
【0046】
本発明において用いられる希釈溶媒の含有量は特に限定されない。しかしながら、用いられる希釈溶媒は、前記のポリオールやアルキレングリコールモノアルキルエーテルなどと相溶性が十分高くないことがある。これらの溶媒混合物が均一にならないと塗布時に欠陥が起きる原因となり易い。このため、溶媒は均一に相溶する割合で配合することが好ましい。
【0047】
また、塗布組成物における溶媒の合計含有量は、用いられる樹脂やその他の添加剤の種類、望まれる組成物の粘度などに応じて任意に選択することができるが、塗布組成物の全重量を基準として、一般に1〜99重量%、好ましくは40〜97.5重量%、さらに好ましくは60〜95重量%である。このような溶媒含有量を選択することにより、電子部品の絶縁膜を作成するにあたって好適な膜厚を得やすくなる。
【0048】
(c)添加剤
本発明による塗布組成物は、必要に応じてその他の添加剤を含んでもよい。用いることができる添加剤としては、例えば、界面活性剤、感光剤、硬化剤、増粘剤、平滑剤などが挙げられる。界面活性剤は、塗布組成物の塗布特性、基材への濡れ特性などを改善するために用いられる。界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤などが知られているが、塗布組成物の保存安定性を損なう可能性のある極性基が少ない、ノニオン系界面活性剤が好ましい。
【0049】
本発明において用いることができるノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル類やポリオキシエチレン脂肪酸ジエステル、ポリオキシ脂肪酸モノエステル、ポリオキシエチレンポリオキシピロピレンブロックポリマー、アセチレンアルコール、アセチレングリコール、アセチレンアルコールのポリエトキシレート、アセチレングリコールのポリエトキシレートなどのアセチレングリコール誘導体、フッ素含有界面活性剤、例えばフロラード(商品名、住友スリーエム株式会社製)、メガファック(商品名、DIC株式会社製)、スルフロン(商品名、旭硝子株式会社製)、又は有機シロキサン界面活性剤、例えばKP341(商品名、信越化学工業株式会社製)などが挙げられる。前記アセチレングリコールとしては、3−メチル−1−ブチン−3−オール、3−メチル−1−ペンチン−3−オール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、2,5−ジメチル−3−ヘキシン−2,5−ジオール、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジオールなどが挙げられる。
【0050】
塗布組成物に含まれる界面活性剤の含有量は、塗布組成物の全重量を基準として50ppm〜100,000ppmであることが好ましく、100ppm〜50,000ppmであることがより好ましい。少なすぎると界面活性が得られにくく濡れ性改良効果が不十分となることがあり、多すぎると泡立ちが激しく、塗布機に泡噛みなどが起こり、取り扱いが困難となることがあるので注意が必要である。
【0051】
また、本発明による塗布組成物に感光剤を配合することにより感光性シロキサン組成物とすることができる。このような感光性シロキサン組成物は、露光部が、アルカリ現像液に可溶になることにより現像によって除去されるポジ型組成物である。本発明において好ましく用いることができる感光剤は、ジアゾナフトキノン誘導体である。ジアゾナフトキノン誘導体は、フェノール性水酸基を有する化合物にナフトキノンジアジドスルホン酸がエステル結合した化合物であり、特に構造について制限されないが、好ましくはフェノール性水酸基を1つ以上有する化合物とのエステル化合物であることが好ましい。ナフトキノンジアジドスルホン酸としては、4−ナフトキノンジアジドスルホン酸、あるいは5−ナフトキノンジアジドスルホン酸を用いることができる。4−ナフトキノンジアジドスルホン酸エステル化合物はi線(波長365nm)領域に吸収を持つため、i線露光に適している。また、5−ナフトキノンジアジドスルホン酸エステル化合物は広範囲の波長領域に吸収が存在するため、広範囲の波長での露光に適している。露光する波長によって4−ナフトキノンジアジドスルホン酸エステル化合物、5−ナフトキノンジアジドスルホン酸エステル化合物を選択することが好ましい。4−ナフトキノンジアジドスルホン酸エステル化合物と5−ナフトキノンジアジドスルホン酸エステル化合物を混合して用いることもできる。
【0052】
フェノール性水酸基を有する化合物としては特に限定されないが、例えば、以下の化合物が挙げられる(名称はビスフェノールAを除いてそれぞれ商品名、本州化学工業株式会社製)。
【化1】

【0053】
【化2】

【0054】
【化3】

【0055】
ジアゾナフトキノン誘導体を感光剤として用いる場合、その添加量は、ナフトキノンジアジドスルホン酸のエステル化率、あるいは使用されるポリシロキサンの物性、要求される感度、露光部と未露光部との溶解コントラストにより最適量は異なるが、好ましくはシロキサン樹脂の全重量を基準として3〜20重量%であり、さらに好ましくは5〜15重量%である。ジアゾナフトキノン誘導体の添加量が3重量%より少ない場合、露光部と未露光部との溶解コントラストが低すぎて、現実的な感光性を有さないことがある。また、さらに良好な溶解コントラストを得るためには8重量%以上が好ましい。一方、ジアゾナフトキノン誘導体の添加量が20重量%より多い場合、ポリシロキサンとキノンジアジド化合物との相溶性が悪くなることによる塗布膜の白化が起こったり、熱硬化時に起こるキノンジアジド化合物の分解による着色が顕著になるため硬化膜の無色透明性が低下することがある。また、ジアゾナフトキノン誘導体の耐熱性は、ポリシロキサンに比較すると劣るため、添加量が多くなると熱分解により硬化物の電気絶縁性の劣化やガス放出の原因となって、後工程の問題になることがある。また、硬化物がモノエタノールアミン等を主剤とするようなフォトレジスト剥離液に対する耐性が低下することがある。
【0056】
また、硬化剤は熱によって反応促進剤を発生する化合物である。このような硬化剤は一般的によく知られているが、熱酸発生剤、あるいは熱塩基発生剤が好ましい。具体的には、熱酸発生剤としては、ベンゾイントシレート、トリ(ニトロベンジル)フォスフェート、トリアニソインフォスフェート、ジアリールヨードニウム塩、トリアリールスルホニウム塩など、熱塩基発生剤としては、ニトロベンジルシクロヘキシルカルバメート、ジ(メトキシベンジル)ヘキサメチレンジカルバメート、1,8−ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデセン−7−オルソフタル酸塩などを挙げることができる。これらの化合物の含有量は、シロキサンポリマーの重量を基準として、0.001〜5重量%の範囲にあることが好ましく、0.05〜2重量%であることがより好ましい。
【0057】
本発明による塗布組成物は経時安定性に優れたものであり、透明性に優れ、高絶縁性、低誘電率を有した優れた特性を有するシリカ質膜を形成させることができるものである。
【0058】
シリカ質膜
本発明の一実施態様によるシリカ質膜は、前記の塗布組成物をシリコン基板、ガラス基板、樹脂フィルム、配線済み基板、FPDなどの表示素子の光取り出し部分等の機材表面に塗布して被膜を形成させ、その被膜を焼成することにより形成される。
【0059】
本発明における塗布組成物の被膜の形成は、一般的な塗布方法、即ち、浸漬塗布、ロールコート、バーコート、刷毛塗り、スプレーコート、ドクターコート、フローコート、スピンコート、スリット塗布等、従来感光性組成物の塗布方法と知られた任意の方法により行うことができる。基材がフィルムである場合にはグラビア塗布も可能である。所望により被膜から溶媒を除去する乾燥工程を別に設けることもできる。被膜は必要に応じて1回又は2回以上繰り返して塗布することにより所望の膜厚とすることができる。
【0060】
基板上に形成された被膜を、次いでプリベークに付して、塗膜中の有機溶剤の少なくとも一部を除去することができる。プリベーク温度は、組成物に含まれる有機溶剤の種類によって調整されるが、温度が低すぎると、一般的に有機溶剤の残留分が多くなり、基板運搬機器などをおかす原因となる場合があり、一方、温度が高すぎると急激に乾燥され、塗布ムラが生じてしまう、またはシラノール基またはアルコキシシリル基含有シロキサン樹脂が昇華するなどの問題が起こる場合がある。このため、プリベーク温度は60〜200℃が好ましく、80〜150℃が更に好ましい。プリベークは、例えばホットプレート、オーブンなどの加熱装置を用いて行うことができ、プリベークの時間は、使用した有機溶剤の種類とプリベークの温度に応じて調整されるが、30秒〜10分が好ましく、1〜5分がより好ましい。
【0061】
塗布組成物が感光性材料である場合、プリベーク後の被膜は所望のパターンが形成されるように像様に露光される。露光の方法は従来知られている任意の方法により行うことができる。具体的にはマスク露光、走査露光など、が用いられる。また、光源には、一般的にはg線、h線、i線、およびg線とh線とi線とを組み合わせたブロードバンド、KrFエキシマーレーザー、ArFエキシマーレーザー、電子線などが用いられる。
【0062】
露光後の被膜は任意の方法により現像される。現像は水またはアルカリ水溶液によって行われるが、アルカリ水溶液を用いることが好ましい。現像方法は特に限定されず、アルカリ水溶液への浸漬(ディップ)、パドル、シャワー、スリット、キャップコート、スプレーといった一般的方法で行うことができる。
【0063】
アルカリ水溶液に含まれるアルカリ性化合物としては任意のものを用いることができるが、有機アルカリ性化合物を用いることが好ましい。有機アルカリ性化合物としては、例えば、第四級アンモニウム化合物、アミノアルコール類(アルカノールアミン類)、アンモニア水、アルキルアミン、複素環式アミンなどが挙げられる。第四級アンモニウム化合物としては、例えば、水酸化テトラメチルアンモニウム(テトラメチルアンモニウムヒドロキシド;以下、「TMAH」ということがある。)、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化トリメチルエチルアンモニウム、水酸化トリメチル(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム(コリン)、水酸化トリエチル(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム、水酸化トリプロピル(2一ヒドロキシエチル)アンモニウム、水酸化トリメチル(2一ヒドロキシプロピル)アンモニウムが好ましいものとして挙げられる。これらの中で特に好ましいのは、TMAHである。
【0064】
無機アルカリ性化合物を含む水溶液は、ハードコート膜など電気特性や半導体特性への問題がない用途で用いることは構わないが、水溶液中にナトリウム、カリウムなどの金属イオンが含まれていることから、TFTの層間絶縁膜や平坦化膜など、電気特性、半導体特性を考慮しなければならないような用途での使用は好ましくない。
【0065】
本発明においては、現像に用いられるアルカリ水溶液の濃度は、使用されるアルカリの種類、濃度、処理されるシラノール基またはアルコキシシリル基含有シロキサン樹脂の種類や膜厚など種々の要因によって変わり、特に限定されるものではない。具体的には一般に用いられるアルカリ水溶液濃度から、アルカリ水溶液のアルカリ濃度範囲は1%〜5%、好ましくは1.5〜3%である。
【0066】
現像時間は一般的には、15秒〜3分程度とされることが好ましい。製造効率の観点からは現像時間が短いことが好ましく、現像結果のばらつきを低減させるためには短いことが好ましい。また、現像温度は常温で行うことができる。
【0067】
現像後の被膜を、引き続きリンス処理に付すことができる。このリンス処理は現像処理された被膜面に残留するアルカリ水溶液や残留物を水で洗い流すために行われる。したがって、被膜面のアルカリ水溶液等が洗い流されればいずれの方法によってもよい。例えば、被膜を水中に浸漬する、あるいは被膜面に水を流す、水をシャワー状に掛けるなど、従来リンス方法として知られた適宜の方法を採用することができる。リンス処理時間は、被膜上のアルカリ水溶液が除去される時間であればよく特に限定されるものではないが、例えば浸漬による場合では、30秒〜5分程度、流水による場合では15秒〜3分程度行えばよい。また、リンス処理で用いられる水としては、電気特性や半導体特性を必要とする用途であれば、イオン交換水または純水が好ましいものである。なお、浸漬によるリンスにおいては、浴を変えて複数回浸漬リンスを行ってもよい。
【0068】
被膜硬化時の焼成温度は、被膜が硬化する温度であれば任意に選択できる。しかし、焼成温度が低すぎると反応が十分に進行せず十分に硬化しないことがある。このために焼成温度は150℃以上であることが好ましい。しかしながら、添加剤として硬化剤を添加することで150℃前後であっても十分に硬化させることができる。また、OH基は極性を有するため、OH基が残存すると誘電率が高くなる傾向にある。したがって、シリカ質膜の誘電率を低く維持したい場合は高い温度、具体的には200℃以上で硬化させることがより好ましい。また、反対に焼成温度が高すぎると、熱エネルギーコストが増大してしまうため好ましくない。このため、焼成温度は450℃以下であることが好ましく、350℃以下であることがより好ましい。また、焼成時間は特に限定されないが、15分〜3時間とされることが好ましい。焼成時間が長すぎると被膜にクラックが発生しやすくなるので注意が必要である。また、焼成処理は空気雰囲気下で行うことが一般的であるが、必要に応じて窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行うこともできる。
【0069】
このような本発明によるシリカ質膜は優れた物性を有する。具体的には、本発明によるシリカ質膜は400℃以上の耐熱性を有し、また膜の光透過率は95%以上、比誘電率も3.3以下、屈折率は、1.6以上を有する。このため、通常のシリコン材料にはない高屈折率、低比誘電率及び高透過率を有しており、光デバイス、LED及びOLEDなどの光学用途に使用することができる。より具体的には、フレキシブル基板、固体撮像素子、反射防止フィルム、反射防止板、光学フィルター、高輝度発光ダイオード、太陽電池、光導波路等の光学デバイスや半導体素子における、光取り出し部分の被膜、タッチパネル、ハードコート、または保護膜などとして用いることができる。
【0070】
以下に実施例、比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例、比較例により何ら限定されるものではない。
【0071】
製造例1(シロキサン樹脂Xの製造)
メチルトリメトキシシラン47.6g(0.35モル)、フェニルトリメトキシシラン29.7g(0.15モル)、3,3´,4,4´−ベンゾフェノンテトラカルボン酸2無水物4.83g(0.015モル)を3−メチル−3−メトキシブタノ−ル200gに溶解し、60℃で撹拌しながら、34.2gの蒸留水を加え、1時間加熱撹拌し、加水分解・縮合を行なった。その後、水で5回以上洗浄し、酢酸エチル油層を回収した。次に、その酢酸エチル油層を濃縮し、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに置換し、メチルフェニルシルセスキオキサン縮重合物40%溶液を得た。
【0072】
得られたシロキサン樹脂Xは、重量平均分子量(Mw)2,000のメチルフェニルシルセスキオキサン(メチル基:フェニル基=7:3mol比)であった。
【0073】
なお、ここで重量平均分子量(Mw)の測定には、株式会社島津製作所製HPLC(GPCシステム)と、東ソー株式会社製GPCカラム(SuperMultiporeHZ−N(商品名) 2本)を用い、流量0.7ミリリットル/分、溶出溶媒テトラヒドロフラン、カラム温度40℃の分析条件で、単分散ポリスチレンを標準とするゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定した。
【0074】
製造例2(シロキサン樹脂Yの製造)
撹拌機、環流冷却器、滴下ろう斗、および温度計を備えた300mL4つ口フラスコに、水14.8gと、35質量%塩酸1.4gと、トルエン44.8gとを仕込み、該4つ口フラスコに、3−アセトキシプロピルトリメトキシシラン(0.05モル)とメチルトリメトキシシラン40.8g(0.3モル)、フェニルトリメトキシシラン29.7g(0.15モル)をトルエン30gに溶解させ、その混合液15〜25℃で滴下した。滴下終了後、同温度で30分間攪拌後、水を加えて静置後、分液を行い、油層を回収した。
【0075】
その後、水で3回洗浄し、トルエン油層を回収した。次に、そのトルエン油層をナス型フラスコに入れ、エバポレーターで濃縮、メタノールで希釈することで溶媒をメタノールに置換し、全体量が250gになる様調整した。本溶液に、水50gを加えて、室温で炭酸カリウム30.8g(0.223モル)を投入した。その後、1時間攪拌した。攪拌終了後、酢酸エチルと水とを加えて分液を行い、油層を回収した。
【0076】
その後、水で5回以上洗浄し、酢酸エチル油層を回収した。次に、その酢酸エチル油層を濃縮し、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに置換し、3−ヒドロキシプロピルシルセスキオキサン縮重合物40%溶液を得た。
【0077】
得られた3−ヒドロキシプロピルシルセスキオキサン縮重合物Yは、重量平均分子量(Mw)3,000のメチル、3−ヒドロキシプロピル、フェニルシルセスキオキサン(メチル基:3−ヒドロキシプロピル:フェニル基=6:1:3mol比)であった。
【0078】
製造例3(シロキサン樹脂Zの製造)
メチルトリメトキシシラン47.6g(0.35モル)、フェニルトリメトキシシラン29.7g(0.15モル)、3,3´,4,4´−ベンゾフェノンテトラカルボン酸2無水物4.83g(0.015モル)を3−メチル−3−メトキシブタノ−ル200gに溶解し、室温で撹拌しながら、34.2gの蒸留水を加え、1時間加熱撹拌し、加水分解・縮合を行なった。その後、水で5回以上洗浄し、酢酸エチル油層を回収した。次に、その酢酸エチル油層を濃縮し、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに置換し、メチルフェニルシルセスキオキサン縮重合物40%溶液を得た。
【0079】
得られたシロキサン樹脂Zは、アルカリ水溶液可溶性であり、重量平均分子量(Mw)1,000のメチルフェニルシルセスキオキサン(メチル基:フェニル基=7:3mol比)であった。
【0080】
製造例4(シロキサン樹脂Wの製造)
反応器に600mlの水を導入し、30℃で撹拌しながらp−メトキシベンジルトリクロロシラン283.5g(1モル)およびトルエン300mlの混合液を2時間かけて滴下し、加水分解を行った。その後、分液操作により水層を除去し、有機層をエバポレーターにより溶媒留去した。その濃縮液を減圧下200℃で2時間加熱し、重合反応を行った。得られた重合物にアセトニトリル200gを加えて溶解し、p−メトキシベンジルシルセスキオキサンの溶液を得た。
【0081】
こうして得た溶液中に、60℃以下でトリメチルシリルアイオダイド240gを滴下し、60℃で10時間反応させた。反応終了後、水200gを加えて加水分解を行い、次いでデカンテーションによりポリマー層を得た。そのポリマー層を真空乾燥することにより、p−ヒドロキシベンジルシルセスキオキサン165gを得た。このポリマーの重量平均分子量をGPCにより測定したところ、3,000であった。
【0082】
実施例1
製造例1で製造された重量平均分子量(Mw)2,000のメチルフェニルシルセスキオキサン(メチル基:フェニル基=7:3mol比)溶液61.25g、界面活性剤KF−54(信越化学工業株式会社製)0.5g、溶剤として1,3−プロパンジオール5.00g、PGMEA33.25g加えて攪拌溶解し、これにより25%溶液を作成した。この溶液をアドバンテック東洋株式会社製フィルター(47mmφ、PTFE、ろ過精度0.1μm)で0.05Mpa加圧ろ過し、アイセロ化学株式会社製クリーンポリエチレン容器「AC100−H(商品名)」に受け、塗布組成物を調製した。
【0083】
実施例2〜15、比較例1〜10
実施例1に対して、シロキサン樹脂の種類、溶媒の種類、配合比などを表1〜3の通りに変更して、塗布組成物を調製した。
【0084】
保存安定性試験
調製した塗布組成物について、保存安定性を評価した。保存安定性は、室温放置された各塗布液の動粘度を定期的に測定し、初期値より5%以上増大するまでの日数により評価した。動粘度は株式会社離合社製自動粘度測定装置VMC−252(商品名)により測定した。
【0085】
透過率
得られた硬化膜の紫外可視吸収スペクトルを分光光度計MultiSpec−1500(商品名、島津製作所株式会社製)を用いて測定し、波長400nmでの透過率を求めた。
【0086】
比誘電率
上記実施例1〜15および比較例1〜10で得られた被膜形成用組成物を、スピンコーターMS−A100(商品名、ミカサ株式会社製)を用い、スピンコート法にてシリコンウエハーに乾燥膜厚0.5μmに塗布し、それぞれ250℃の温度で1時間硬化させた。得られた硬化膜を水銀プローブ方式のキャパシタンス測定装置(Solid State Instrument社製)にて、C−V測定を実施し、得られた飽和キャパシタンスより誘電率も求めた。
得られた結果は表1に示す通りであった。
【0087】
【表1】

【0088】
【表2】

【0089】
【表3】

表中、
感光剤P:下記式で表されるナフトキノン感光剤:
【化4】

硬化剤H: 1,8−ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデセン−7−オルソフタル酸塩
DMSO: ジメチルスルホキシド
DMAc: ジメチルアセトン
である。
また、比較例10の比誘電率は、被膜が絶縁体となり測定することができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シラノール基またはアルコキシシリル基を有するシロキサン樹脂と、
下記一般式(1):
HOCH−(CH−(CH(OH))−(O)−CHOH (1)
(式中、lは0〜3であり、mは0または1であり、nは0または1であり、0≦l+m+n≦3であり、繰り返し単位−(CH)−、−(CH(OH))−、および−(O)−はそれぞれランダムに結合していてよい)
で表されるポリオールと
を含んでなることを特徴とする、塗布組成物。
【請求項2】
前記ポリオールが、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、グリセロール、1,2,4−ブタントリオール、および1,2,5−ペンタントリオールからなる群から選択される、請求項1に記載の塗布組成物。
【請求項3】
アルキレングリコールモノアルキルエーテルをさらに含む、請求項1または2に記載の塗布組成物。
【請求項4】
前記アルキレングリコールモノアルキルエーテルが、下記一般式(2):
HO−[(CH−O−]−(CHH (2)
(式中、pは1〜6であり、qは1〜3であり、rは1〜6である)
で表されるものである、請求項3に記載の塗布組成物。
【請求項5】
前記アルキレングリコールモノアルキルエーテルが、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、3−メチル−3−メトキシブタノールからなる群から選択される、請求項3に記載の塗布組成物。
【請求項6】
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、および酢酸ブチルからなる群から選ばれる溶媒をさらに含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の塗布組成物。
【請求項7】
前記シロキサン樹脂の重量平均分子量が、400〜20,000である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の塗布組成物。
【請求項8】
前記シロキサン樹脂が、シルセスキオキサン構造を有するものである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の塗布組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の塗布組成物を基材上に塗布し、さらに不活性ガスまたは大気中において150〜450℃で焼成することにより得られたことを特徴とするシリカ質膜。

【公開番号】特開2012−219219(P2012−219219A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−88330(P2011−88330)
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【出願人】(312001188)AZエレクトロニックマテリアルズIP株式会社 (14)
【Fターム(参考)】