説明

シロキサン樹脂組成物の硬化被膜形成方法

【課題】シロキサン樹脂組成物を用いて、透明性に優れ、高引っかき傷硬度、高絶縁性、低誘電率を有し、さらに平坦性に優れ、焼成時の膜減りがなく、厚膜にしてもクラックの発生がなく、かつ基板界面での膜剥れがなく、密着性に優れている焼成硬化膜を形成する。
【解決手段】シラノール基またはアルコキシシリル基含有シロキサン樹脂組成物を基材に塗布し、プリベーク処理した後、アルカリ水溶液で処理してからリンス、焼成を行うことにより、シラノール基またはアルコキシシリル基含有シロキサン樹脂組成物の焼成硬化被膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シラノール基またはアルコキシシリル基含有シロキサン樹脂組成物の硬化被膜を形成する方法に関し、更に詳細には、透明性に優れ、高引っかき傷硬度、高絶縁性、低誘電率を有し、さらに平坦性に優れ、厚膜にしてもクラックの発生がなく、かつ基板界面での膜剥れがなく、密着性に優れている、シラノール基またはアルコキシシリル基含有シロキサン樹脂組成物の硬化被膜を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シロキサン樹脂は、高耐熱性、高硬度、高絶縁性、高透明性の材料として知られており、各種用途において使用されている。このような用途の一つとして、シロキサン樹脂を含有する組成物の硬化(以下では、「焼成硬化」ということもある。)被膜が、耐久性、低誘電性で絶縁性に優れ、高硬度を有することを利用して、半導体素子や液晶表示素子等における絶縁膜や平坦化膜、保護膜、さらには半導体封止材などとして使用されている。また、高透明性であることから、このような電子材料分野だけでなく、光学部材や車などの表面保護膜としても利用されている。
【0003】
シロキサン樹脂をバインダーとして用いたシロキサン樹脂組成物を用いて硬化被膜を形成する場合、アルコキシ基や水酸基を有する多官能ポリシロキサンを含む組成物を調製し、これを塗布し、加熱乾燥する等して硬化させることにより被膜を形成する方法が知られている(特許文献1参照)。このとき、硬化剤(「触媒」ともいわれている。)としては、酸性化合物や塩基性化合物、金属アルコキシド、金属キレート化合物などが用いられるが、多官能ポリシロキサンの粘度が高かったり、固形分濃度が高い場合には、上記硬化剤を多官能ポリシロキサンに添加するとすぐに増粘したりゲル化したりするという問題があった。また、添加後すぐに増粘やゲル化が起こらない場合でも、保管中に増粘することがあり、触媒が弱酸性であれば硬化しにくいといった問題もあった。さらに、このような材料を用いた硬化被膜を形成するには、塗膜を高温で処理する必要があり、またその際膜減り量が大きいといった問題もあった。
【0004】
このような問題を解決するため、硬化剤として酸性化合物および該酸性化合物と沸点が異なる塩基性化合物を用いることも提案されている(特許文献2参照)。この組成物は、アルコキシ基および/または水酸基を複数有する多官能ポリシロキサンに、酸性化合物および該酸性化合物と沸点が異なる塩基性化合物を含有する硬化剤を添加してもすぐには硬化しないこと、さらに酸性化合物と塩基性化合物の沸点が異なる場合にこれらの沸点の間の温度にポリシロキサン化合物を加熱することによって酸性化合物または塩基性化合物が硬化剤として作用することを利用した保存安定性に優れたポリシロキサン組成物であり、低温で縮合させ且つ膜の硬化を図ることが可能とされるが、硬化剤を用いるためにクラック現象が起こりやすくなるといった問題や経時安定性の低下抑止が不十分であるという問題がある。
【0005】
ところで、シラノール基硬化型シロキサン樹脂は、塗膜を低温で硬化でき、硬度が高いといった特性を有する。さらに、これに加え、シラノール基硬化型シロキサン樹脂は、被膜の透明性が高く、高耐熱性、低誘電性、絶縁性といった特性をも有することから注目されている。中でも、ケイ素原子の4つの結合手に1つの炭素原子と3つの酸素原子が結合するシルセスキオキサン樹脂およびケイ素原子の4つの結合手全てに酸素原子が結合しているシリカ樹脂は、ケイ素と酸素による強固な3次元架橋を形成し、上述の特性をより顕著に示すため、特にフレキシブルディスプレイ向けのプラスチック基板上のコーティング剤や薄膜トランジスタ(以下、TFTと略すことがある)上のバリヤ膜や平坦化剤として期待されるが、250℃以上で硬化被膜を形成すると、特にTFTの電気特性が下がるため、硬化は250℃未満で行う必要がある。これまでに、アルコキシシランの加水分解生成物とシリコーン系界面活性剤を含有するシリカ系被膜形成用塗布液を、250〜500℃の温度で熱処理してシリカ系皮膜を形成する方法が開示されている(特許文献3参照)が、この方法によれば平坦性、クラック限界の特性を損なうことなく、密着性に優れた被膜を形成できるとされるものの、250℃以上の高温で硬化を行うことが必要とされるし、シリコーン系界面活性剤が必須であり、また厚膜とする場合、重量平均分子量(Mw)の大きい材料しか選択できないという問題を有している。他方、薄膜であれば、Mwが小さくてもよいが、焼成中の昇華物が増え、膜減り量が大きくなってしまい、硬化はするが昇華しないといったMw範囲が狭く、実用化に適したものではない。
【0006】
3次元のシロキサン樹脂の被膜は、生成された膜厚が厚い程、また高温下(250℃未満であっても)にさらされる程、膜を常温に戻した時の応力が増加し、クラック現象が起こり易い傾向にある。シロキサン樹脂の硬化被膜のクラック現象を起こし難くするため、ケイ素原子の4つの結合手のうち、2つに炭素原子、2つに酸素原子が結合しているシリコーン樹脂を用いる、あるいはシロキサン樹脂に有機樹脂(例えばアクリル樹脂)を加えるといった方法があるが、これらの方法はいずれも上述の被膜特性を阻害してしまう傾向にある。また、シリコーン樹脂を別途添加する又はシロキサン樹脂の高分子の繰り返し単位中に加えると、流動性が上がるとともに昇華性も高くなることから、成膜時のオーブンの汚染、流動跡による皺が形成されてしまうし、硬化後の膜硬度が低くなるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−99879号公報
【特許文献2】特開2008−208200号公報
【特許文献3】特許第4079383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記従来の問題点がない、すなわち半導体素子や液晶素子などにシロキサン樹脂硬化被膜を形成する際に、250℃未満あるいは250℃を超える温度での焼成を行っても、透明性に優れ、高引っかき傷硬度、高絶縁性、低誘電率を有し、膜減りがなく、さらに平坦性に優れ、厚膜にしてもクラックの発生がなく、かつ基板界面での膜剥れがなく、密着性に優れている被膜を形成することのできる、シロキサン樹脂組成物の硬化被膜形成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討の結果、シラノール基またはアルコキシシリル基含有シロキサン樹脂組成物を基材に塗布した後、プリベークを行い、このプリベーク膜をアルカリ水溶液で処理した後焼成硬化することにより、250℃以下あるいは250℃を超える温度で焼成を行っても、また膜の厚さに関係なく、透明性に優れ、高引っかき傷硬度、高絶縁性、低誘電率を有し、厚膜塗布した場合においてもクラックの発生のない、密着性に優れた硬化膜を形成することができることを見出し、この知見に基づいて本発明を成したものである。
【0010】
すなわち、本発明は、シラノール基またはアルコキシシリル基含有シロキサン樹脂組成物を用いて少なくともシラノール基またはアルコキシシリル基の重合により硬化し被膜を形成するシロキサン樹脂組成物の硬化被膜形成方法において、前記組成物を基材に塗布し、プリベーク処理した後、アルカリ水溶液で処理してからリンス、焼成を行うことを特徴とするシロキサン樹脂組成物の硬化被膜形成方法に関する。
【0011】
また、本発明は、上記方法において、前記アルカリ水溶液での処理が、アルカリ水溶液への浸漬、パドルまたはシャワーにより行われることを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、上記方法において、前記アルカリ水溶液が、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、上記方法において、前記焼成が、120〜400℃の温度で行われることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明においては、シロキサン樹脂としてシラノール基またはアルコキシシリル基含有樹脂を用い、またシラノール基またはアルコキシシリル基含有シロキサン樹脂組成物を塗布後、塗布膜のプリベークを行い、このプリベーク膜をアルカリ水溶液で処理することにより、その後の焼成温度、膜厚に関係なく、透明性に優れ、高引っかき傷硬度、高絶縁性、低誘電率を有し、また膜減りせず、厚膜塗布した場合においてもクラックの発生のない、密着性に優れた硬化膜を形成することができる。このため、半導体素子や液晶表示素子等における絶縁膜や平坦化膜、保護膜、光学部材や車などの表面保護膜などの形成に好ましく用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のシラノール基またはアルコキシシリル基含有シロキサン樹脂組成物の硬化被膜形成方法を更に詳細に説明する。
【0016】
上記したように、本発明のシラノール基またはアルコキシシリル基含有シロキサン樹脂組成物の硬化被膜形成方法は、シラノール基またはアルコキシシリル基含有シロキサン樹脂組成物を基材に塗布し、プリベーク処理した後、アルカリ水溶液で処理してから膜のリンス、焼成を行うことを特徴とするものであるが、本発明のシロキサン樹脂組成物の硬化被膜形成方法で使用される材料、方法について、以下、順次詳細に説明する。
【0017】
(i)シラノール基またはアルコキシシリル基含有シロキサン樹脂組成物
まず、本発明の硬化被膜を形成するために用いられるシラノール基またはアルコキシシリル基含有シロキサン樹脂組成物であるが、当該組成物は、(a)シラノール基またはアルコキシシリル基含有シロキサン樹脂、(b)有機溶剤、(c)必要に応じ用いられる添加剤からなる。
【0018】
(a)シラノール基またはアルコキシシリル基含有シロキサン樹脂
本発明において用いられるシラノール基またはアルコキシシリル基含有シロキサン樹脂としては、従来知られたシラノール基および/またはアルコキシシリル基を反応性基として含むシロキサン樹脂であれば何れのものであってよく、ポリシロキサンの構造は特に制限されない。本発明で用いることのできる代表的なシラノール基またはアルコキシシリル基含有シロキサン樹脂を例示すると、例えば、下記一般式(1)で表されるアルコキシシランの1種以上を有機溶剤中、加水分解して得られるシロキサン樹脂(ポリシロキサン)が挙げられる。
【0019】
【化1】

【0020】
(式中、Rは水素原子、置換基を有していてもよい、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基、炭素数15以下のα位の炭素原子に水素原子が結合していないアラルキル基、炭素数6〜15のアリール基または炭素数1〜6のアルケニル基を表し、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基を表し、nは0〜3の整数である。)
【0021】
上記一般式中、Rの置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、n−デシル基、トリフルオロメチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、3−ヒドロキシプロピル基、3−グリシドキシプロピル基、2−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチル基、3−アミノプロピル基、3−メルカプトプロピル基、3−イソシアネートプロピル基、4−ヒドロキシ−5−(p−ヒドロキシフェニルカルボニルオキシ)ペンチル基などが挙げられる。また、置換基を有していてもよい炭素数3〜6のシクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが、置換基を有していてもよい、α位の炭素原子に水素原子が結合していない炭素数15以下のアラルキル基としては、フェニルイソプロピル基などが、置換基を有していてもよいアリール基としては、フェニル基、トリル基、p−ヒドロキシフェニル基、ナフチル基などが、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルケニル基としては、ビニル基、アリル基、3−アクリロキシプロピル基、3−メタクリロキシプロピル基などが挙げられる。
【0022】
一方、Rの置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基としては、Rの置換基を有していてもよいアルキル基として例示したと同様の基が例示でき、置換基を有さない炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。
【0023】
上記一般式(1)で示されるアルコキシシラン化合物の具体例としては、例えば下記の化合物が例示される。
【0024】
(イ)テトラアルコキシシラン:テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン等
(ロ)モノアルキルトリアルコキシシラン:モノメチルトリメトキシシラン、モノメチルトリエトキシシラン、モノエチルトリメトキシシラン、モノエチルトリエトキシシラン、モノプロピルトリメトキシシラン、モノプロピルトリエトキシシラン等
(ハ)モノアリールトリアルコキシシラン:モノフェニルトリメトキシシラン、モノフェニルトリエトキシシラン、モノナフチルトリメトキシシラン等
(ニ)トリアルコキシシラン:トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリプロポキシシラン、トリブトキシシラン等
(ホ)ジアルキルジアルコキシシラン:ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジプロピルジメトキシシラン、ジプロピルジエトキシシラン等
(ヘ)ジフェニルジアルコキシシラン:ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン等
(ト)アルキルフェニルジアルコキシシラン:メチルフェニルジメトキシシラン、メチルフェニルジエトキシシラン、エチルフェニルジメトキシシラン、エチルフェニルジエトキシシラン、プロピルフェニルジメトキシシラン、プロピルフェニルジエトキシシラン等
(チ)トリアルキルアルコキシシシラン:トリメチルメトキシシラン、トリn−ブチルエトキシシラン等
【0025】
これらの中で好ましい化合物は、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、モノメチルトリメトキシシラン、モノメチルトリエトキシシラン、モノナフチルトリメトキシシラン、モノフェニルトリメトキシシランである。
【0026】
本発明において用いられるシラノール基またはアルコキシシリル基を含有するシロキサン樹脂は、反応性基がシラノール基のみからなるまたはシラノール基とアルコキシシリル基からなるシロキサン樹脂(ポリシロキサン)が好ましい。すなわち、シロキサン樹脂中には、シロキサン樹脂を合成した際の未反応のアルコキシシリル基が含まれていてもよい。このような反応性基がシラノール基のみからなるまたはシラノール基とアルコキシシリル基からなるシラノール基含有シロキサン樹脂は、前記一般式(1)で示されるアルコキシシランの1種または2種以上を用いで製造することができる。また、本発明において用いられるシラノール基またはアルコキシシリル基含有シロキサン樹脂は、必要であればアルコキシシランとして、前記RおよびRに水酸基などの反応基を含まないアルコキシシランの1種または2種以上とRおよび/またはRに水酸基などの反応基を有するアルコキシシランの1種または2種以上との混合物を用い、これらを加水分解縮合することによって得られるシロキサン樹脂が用いられてもよい。また、本発明においては、原料アルコキシシランとして、上記一般式(1)において、nが0または1であるアルコキシシランを用いることが好ましく、このとき必要に応じnが2または3のアルコキシシランがさらに用いられてもよい。
【0027】
分子量は、重量平均分子量(Mw)が400〜20,000であるものが好ましく、より好ましくは400〜10,000である。重量平均分子量が400未満では、プリベーク時溶剤と一緒に揮発してしまう可能性があり、20,000より大きいと硬化し難くい。
【0028】
アルコキシシランの加水分解縮合反応は、通常有機溶剤中で行なわれる。アルコキシシラン溶液の溶剤成分としては、形成される樹脂を溶解又は分散することのできる有機溶剤であれば特に限定されない。このような溶剤としては、公知の有機溶剤を適宜使用でき、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコールイソブチルアルコール、イミアミルアルコール等の一価アルコール;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール等の多価アルコール;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、3−メチル−3−メトキシブタノール等の多価アルコールのモノエーテル類およびそれらのアセテート類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソアミルケトン等のケトン類;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジプロピルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等の多価アルコールの水酸基をすべてアルキルエーテル化した多価アルコールエーテル類等が挙げられる。アルコキシシランの反応において用いられる溶剤は、引き続き基材に塗布されるシロキサン樹脂組成物の溶剤としても利用されることが一般的である。
【0029】
有機溶剤は、沸点100〜300℃の液体であることが好ましく、また、分子内に少なくとも一個の水酸基および/またはエーテル結合を有する液体、あるいは分子内に少なくとも一個のエーテル結合を有する酢酸エステルであることが好ましい。これら有機溶剤は、単独で用いられてもよく、あるいは2種以上が組み合わせて用いてられてもよい。なお、シロキサン樹脂の硬化被膜をフラットパネルディスプレイなどに形成する際、従来プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)などの多価アルコールのエーテル類、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)などの多価アルコールのエーテルエステル類が一般的に用いられていることから、このような分野でシロキサン樹脂組成物を用いる場合には、PGMEあるいはPGMEAなどの多価アルコールのエーテル類、エーテルエステル類を用いることが好ましい。また、3−メチル−3−メトキシブタノール、3−メチル−3−メトキシブチルアセテートなども好ましい溶剤として挙げられる。有機溶剤は、通常アルコキシシラン1モルに対し、10〜30モル倍量の割合で用いられる。
【0030】
アルコキシシランの加水分解縮合反応は、触媒なしでもある程度進行するが、塗布性、保存安定性を付与するためには、触媒を用いることが好ましい。触媒としては、従来公知のいずれの触媒をも用いることができるが、樹脂の安定性から酸触媒を用いることが好ましい。酸触媒としては、有機酸、無機酸のいずれも使用することができる。有機酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸等の有機カルボン酸が挙げられる。無機酸としては、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸等の無機酸が挙げられる。酸触媒は、水を液中に添加した後に加えてもよく、あるいは水と混合して酸水溶液として添加してもよい。酸触媒の添加量は、適宜選択される。加水分解反応は通常5〜100時間程度で完了するが、60〜70℃を超えない温度で加熱し、アルコキシシラン化合物を含む有機溶媒に酸触媒水溶液を滴下して反応させることにより、短い反応時間で反応を完了させることもできる。
【0031】
加水分解度は触媒の存在下、水の添加量により調整することができる。一般に、一般式(1)で表されるアルコキシシラン化合物のアルコキシ基の総モル数に対し、水を20〜1000モル%、好ましくは50〜500モル%の割合で反応させることが望ましい。水の添加量が上記範囲より少な過ぎると加水分解度が低くなり、被膜形成が困難となるので好ましくなく、一方、多過ぎるとゲル化を起こし易いので好ましくない。
【0032】
また、他の代表的なシラノール基またはアルコキシシリル基含有シロキサン樹脂としては、下記一般式(2)で表されるハロシランの1種以上を有機溶剤中、加水分解して得られるシロキサン樹脂(ポリシロキサン)が挙げられる。
【0033】
【化2】

【0034】
(式中、Rは水素原子、置換基を有していてもよい、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基、炭素数15以下のα位の炭素原子に水素原子が結合していないアラルキル基、炭素数6〜15のアリール基または炭素数1〜6のアルケニル基を表し、Xはハロゲン原子を表し、nは0〜3の整数である。)
【0035】
なお、一般式(2)中のRとしては、上記一般式(1)のRとして示されたものと同様のものが好ましいものとして挙げられる。またXとしては、塩素原子、臭素原子、沃素原子が挙げられる。また、nも上記一般式(1)同様、0〜1が好ましいもので、必要に応じこれとともにnが2または3のハロシラン化合物が用いられればよい。このようなハロシラン化合物を用いることにより、一般式(1)で示されるようなアルコキシシランを用いる場合と同様の方法で、シラノール基含有シロキサン樹脂を製造することができる。例えば、トリクロロシラン化合物では、一部のクロロシリル基が加水分解・縮合反応してSi−O―Siの結合を形成し、残りは加水分解し、クロロシリル基がシラノール基となる。形成されるシロキサン樹脂中のシラノール基の含有量は、使用するハロシラン化合物の種類、量、反応条件などを制御することにより調整可能である。ハロシラン化合物を用いる場合には、得られたシラノール基含有シロキサン樹脂の反応基は全部がシラノール基となる。
【0036】
(b)有機溶剤
本発明のシラノール基またはアルコキシシリル基含有シロキサン樹脂組成物には、シラノール基またはアルコキシシリル基含有シロキサン樹脂を溶解あるいは分散させるために有機溶剤が用いられる。有機溶剤としては、上記アルコキシシランの加水分解縮合反応を行う際に用いられた有機溶剤と同様のものを用いることができる。前記したように、本発明のシラノール基またはアルコキシシリル基含有シロキサン樹脂組成物の有機溶剤としては、アルコキシシランの加水分解縮合反応の際の溶剤を、そのままシラノール基またはアルコキシシリル基含有シロキサン樹脂組成物の有機溶剤として利用してもよいし、これに更に他の溶剤を加えてもよいし、反応で得られるシロキサン樹脂を溶剤から単離し、溶剤を含まないシロキサン樹脂を新たな溶剤に溶解あるいは分散するなどして組成物として用いてもよい。前記したように、PGMEAなどのエーテルエステル系、PGMEなどのエーテル系が一般的なフラットパネルディスプレイ向けに使用されているので、このような分野でシロキサン樹脂組成物を用いる場合には、PGMEあるいはPGMEAなどのエーテル系、あるいはエーテルエステル系溶剤を用いることが好ましい。また、3−メチル−3−メトキシブタノール、3−メチル−3−メトキシブチルアセテートなども好ましい溶剤として挙げられる。
【0037】
(c)添加剤
添加剤としては、例えば、界面活性剤、増粘剤などが挙げられる。界面活性剤は、シラノール基またはアルコキシシリル基含有シロキサン樹脂組成物の塗布特性、基材への濡れ特性などを改善するために用いられる。界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤などが知られているが、アニオン・カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤は、触媒作用としてシロキサン樹脂組成物の経年劣化を促進してしまうため、ノニオン系界面活性剤が好ましい。ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル類やポリオキシエチレン脂肪酸ジエステル、ポリオキシ脂肪酸モノエステル、ポリオキシエチレンポリオキシピロピレンブロックポリマー、アセチレンアルコール、アセチレングリコール、アセチレンアルコールのポリエトキシレート、アセチレングリコールのポリエトキシレートなどのアセチレングリコール誘導体、フッ素含有界面活性剤、例えばフロラード(商品名、住友3M(株)製)、メガファック(商品名、DIC(株)製)、スルフロン(商品名、旭硝子(株)製)、または有機シロキサン界面活性剤、例えばKF−53、KF−54(いずれも信越化学工業(株)製)、SH7PA、SH21PA、SH28PA、SH30PA、ST94PA(いずれも東レ・ダウコーニング(株)製)等が挙げられる。前記アセチレングリコールとしては、3−メチル−1−ブチン−3−オール、3−メチル−1−ペンチン−3−オール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、2,5−ジメチル−3−ヘキシン−2,5−ジオール、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジオールなどが挙げられる。
【0038】
シラノール基またはアルコキシシリル基含有シロキサン樹脂組成物におけるシラノール基またはアルコキシシリル基含有シロキサン樹脂の含有量は、溶剤100重量部に対し、1〜40重量部であることが好ましい。40重量部を超えると、樹脂の経年劣化速度が上がり、好ましくない。
【0039】
また、界面活性剤の含有量は、組成物中50ppm〜100,000ppm、好ましくは100ppm〜50,000ppmの範囲である。少なすぎると界面活性が得られにくく濡れが良くならないし、多すぎると泡立ちが激しく、塗布機に泡噛みなどが起こり、取り扱いが困難である。
【0040】
(ii)塗布
シラノール基またはアルコキシシリル基含有シロキサン樹脂組成物は、基材に塗布され、シラノール基またはアルコキシシリル基含有シロキサン樹脂被膜とされる。基材としては、特に限定されるものではないが、シリコン基板、ガラス板、金属板、セラミックス板等の各種基板が挙げられ、特に、絶縁膜を必要とする液晶ディスプレーのTFT表面等は、本発明の基板として好ましいものである。塗布方法は、特に限定されず、例えばスピンコート法、ディップコート法、ナイフコート法、ロールコート法、スプレーコート法、スリットコート法等の各種の方法を採用することができる。なお、塗布溶液におけるシラノール基またはアルコキシシリル基含有シロキサン樹脂の濃度は、用いられるシラノール基またはアルコキシシリル基含有シロキサン樹脂の種類(例えば、Rの種類、分子量などの違い)や塗布方法、所望の塗布膜厚などにより変わり、特に限定されるものではなく、任意でよい。
【0041】
(iii)プリベーク
こうして基板上に形成されたシラノール基またはアルコキシシリル基含有シロキサン樹脂組成物被膜は、次いでプリベークされて、組成物中の有機溶剤が除去される。プリベーク温度は、組成物に用いられた有機溶剤の種類によっても異なるが、温度が低すぎると、有機溶剤の残留分が多くなり、基板運搬機器などをおかす原因となる場合があり、一方、温度が高すぎると急激に乾燥され、もやムラが生じてしまう、またはシラノール基またはアルコキシシリル基含有シロキサン樹脂が昇華する場合があることから、60〜200℃が好ましく、70〜180℃が更に好ましい。プリベークは、例えばホットプレート、オーブンなどの加熱装置を用いて行われ、プリベークの時間は、使用した有機溶剤の種類とプリベークの温度により異なるが、30秒〜10分が好ましく、1〜5分が更に好ましい。
【0042】
(iv)アルカリ水溶液処理
プリベーク後、被膜はアルカリ水溶液処理に付される。アルカリ水溶液処理は、特に限定されず、アルカリ水溶液への浸漬(ディップ)、パドル、シャワー、スリット、キャップコート、スプレーといった一般的方法で行うことができる。当該組成物が界面活性剤を含む場合は、浸漬(ディップ)で行うことが好ましい。また、界面活性剤を含んでいても、浸水処理を施していれば他の方法、例えばパドル塗布も可能である。
【0043】
アルカリとしては、無機アルカリでも、有機アルカリでもよい。無機アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムのようなアルカリ金属水酸化物、アルカリ金属メタ珪酸塩(水和物)、アルカリ金属燐酸塩(水和物)などが挙げられるが、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物が好ましい。
【0044】
また、有機アルカリとしては、例えば、第四級アンモニウム化合物、アミノアルコール類(アルカノールアミン類)、アンモニア水、アルキルアミン、複素環式アミンなどが挙げられる。第四級アンモニウム化合物としては、例えば、水酸化テトラメチルアンモニウム(テトラメチルアンモニウムヒドロキシド;以下、「TMAH」ということがある。)、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化トリメチルエチルアンモニウム、水酸化トリメチル(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム(コリン)、水酸化トリエチル(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム、水酸化トリプロピル(2一ヒドロキシエチル)アンモニウム、水酸化トリメチル(2一ヒドロキシプロピル)アンモニウムが好ましいものとして挙げられる。これらの中で特に好ましいのは、TMAHおよびコリンである。
【0045】
アミノアルコール類(アルカノールアミン類)としては、例えば2−エタノールアミン、2−アミノエタノールなどのモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、トリプロパノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、モノブタノールアミン、ジブタノールアミン、ネオペンタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−ジメチルプロパノールアミン、N,N−ジエチルプロパノールアミン、N−(β−アミノエチル)エタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−n−ブチルエタノールアミン、N−tert−ブチルエタノールアミン、N‐tert−ブチルジエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−ジn−ブチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミンなどが挙げられ、中でもエタノールアミン類を使用するのが好ましく、特にモノエタノールアミンが好ましい。
【0046】
しかし、入手経路や生体毒性、また硬化すれば気化するといった利便性から、TMAH水溶液での処理が好ましい。
【0047】
本発明においては、アルカリ水溶液処理に用いられるアルカリ水溶液の濃度は、使用されるアルカリの種類、濃度、処理されるシラノール基またはアルコキシシリル基含有シロキサン樹脂の種類や膜厚など種々の要因によって変わり、特に限定されるものではない。アルカリ濃度が高い場合には、シラノール基またはアルコキシシリル基含有シロキサン樹脂が溶解することがあることから、溶解しない濃度のアルカリ水溶液を用いることが好ましい。一般に、シラノール基またはアルコキシシリル基含有シロキサン樹脂分子量に対するシラノール基の割合が高くなると、アルカリ水溶液に溶解し易くなる。さらに、アルカリの種類によっても、溶解力の違いがある。一般的には、アルカリ水溶液のアルカリ濃度範囲は、0.1〜10%が好ましく、より好ましくは0.1〜7.5%、更に好ましくは0.1〜5%である。また、前記したように、シラノール基またはアルコキシシリル基含有シロキサン樹脂分子量に対するシラノール基の割合が高い場合は、樹脂がアルカリ水溶液に溶解するため、アルカリ強度によるが、アルカリ水溶液の濃度を低くすることが好ましい。なお、アルカリ水溶液処理による膜減りは、10%以下が好ましい。10%を超えると、被膜内の溶解量差が大きくなり、ムラにつながるので好ましくない。
【0048】
処理時間も、使用するアルカリの種類、アルカリ水溶液のアルカリ濃度、処理されるシラノール基またはアルコキシシリル基含有シロキサン樹脂の種類や膜厚などにより大きく変わり、特に限定されるものではないが、一般的には、15秒〜3分程度の処理時間とされることが好ましい。処理時間が短いとプロセスのブレがあり、長いと効率が悪い。また、処理温度は常温で行うことができる。
【0049】
本発明において、アルカリ処理により、前記したように、塗布膜厚に関係なく、透明性に優れ、高引っかき傷硬度、高絶縁性、低誘電率を有し、また膜減りせず、厚膜塗布した場合においてもクラックの発生のない、密着性に優れた硬化膜を形成することができるが、これは膜中に残留しているアルコキシシリル基をシラノール基とし、また十分に重合化されていない化合物が重合化されることにより分子量が増大され、小さな分子量の化合物がなくなり、これにより焼成硬化する際の加熱による塗膜中の化合物の昇華量が減少されることによって硬化膜の膜減り量が減少することがその一因になっているものと推測されるが、本発明がこれにより限定されるものではない。
【0050】
さらに、無機アルカリ水溶液は、ハードコート膜など電気特性や半導体特性への問題がない用途で用いることは構わないが、水溶液中にナトリウム、カリウムなどの金属イオンが含まれていることから、TFTの層間絶縁膜や平坦化膜など、電気特性、半導体特性を考慮しなければならないような用途での使用は好ましくない。
【0051】
(v)リンス処理
リンス処理は、アルカリ水溶液処理された被膜面に残留するアルカリ水溶液を水で洗い流すために行われる。したがって、被膜面のアルカリ水溶液が洗い流されればいずれの方法によってもよい。例えば、被膜を水中に浸漬する、あるいは被膜面に水を流す、水をシャワー状に掛けるなど、従来リンス方法として知られた適宜の方法を採用することができる。リンス処理時間は、被膜上のアルカリ水溶液が除去される時間であればよく特に限定されるものではないが、例えば浸漬による場合では、30秒〜5分程度、流水による場合では15秒〜3分程度行えばよい。また、リンス処理で用いられる水としては、電気特性や半導体特性を必要とする用途であれば、イオン交換水または純水が好ましいものである。なお、浸漬によるリンスにおいては、浴を変えて複数回浸漬リンスを行ってもよい。
【0052】
(vi)焼成(硬化)処理
焼成処理は、好ましくは、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下または空気中で、ホットプレート、オーブンなどの加熱装置を用いて、120〜400℃の温度で15分〜3時間行うことが好ましく、150〜350℃の温度で30分〜2時間行うことが更に好ましい。焼成時の膜厚の減少はできるだけ少ない方がよく、一般的には、焼成前後の膜厚減少率は7.5%以下、好ましくは5%以下、更に好ましくは3%以下である。焼成膜厚減少率が7.5%より大きいと、膜ムラが大きく、また焼成時に膜からの化合物の昇華が多いことから、昇華した化合物により機器が汚れるという問題がある。
【0053】
硬化後の膜厚は用途により異なり特に限定されないが、20μm以下、好ましくは15μm以下であれば良い。そしてこのような硬化膜厚となるよう、シラノール基またはアルコキシシリル基含有シロキサン樹脂組成物中のシロキサン樹脂の濃度および組成物の塗布量が決定される。膜厚が分厚すぎると、硬化(キュア)中に膜中の樹脂同士が層分離を起こすこともあるため、好ましくない。
【0054】
このようにして形成されたシラノール基またはアルコキシシリル基含有シロキサン樹脂焼成被膜は、焼成による膜減りがほとんどなく、透明性に優れ、高引っかき傷硬度、高絶縁性、低誘電率を有し、さらに平坦性に優れ、厚膜にしてもクラックの発生がなく、かつ基板界面での膜剥れがなく、密着性に優れている。
【実施例】
【0055】
以下に実施例、比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例、比較例により何ら限定されるものではない。
【0056】
製造例1
メチルトリメトキシシラン47.6g(0.35モル)、フェニルトリメトキシシラン29.7g(0.15モル)、3,3´,4,4´−ベンゾフェノンテトラカルボン酸2無水物4.83g(0.015モル)を3−メチル−3−メトキシブタノ−ル200gに溶解し、45℃で撹拌しながら、34.2gの蒸留水を加え、1時間加熱撹拌し、加水分解・縮合を行なった。その後、水で5回以上洗浄し、酢酸エチル油層を回収した。次に、その酢酸エチル油層を濃縮し、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに置換し、メチルフェニルシルセスキオキサン縮重合物40%溶液を得た。
【0057】
得られたシロキサン樹脂は、重量平均分子量(Mw)1,000のメチルフェニルシルセスキオキサン(メチル基:フェニル基=7:3mol比)であった。
【0058】
重量平均分子量(Mw)の測定は、以下の装置、条件で行われた(なお、以下の例においても、同様の条件で測定が行われた。)。
使用装置、使用方法:島津製作所製HPLC(GPCシステム)
カラム:東ソー(株)製GPCカラム(G2000HXL 1本、G4000HXL 1本)
上記装置を用い、流量0.7ミリリットル/分、溶出溶媒テトラヒドロフラン、カラム温度40℃の分析条件で、単分散ポリスチレンを標準とするゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定した。
【0059】
製造例2
製造例1において、反応温度を45℃から60℃とすることを除き製造例1と同様の方法を行った。これにより、重量平均分子量(Mw)2,000のメチルフェニルシルセスキオキサン(メチル基:フェニル基=7:3mol比)を得た。
【0060】
製造例3
製造例1において、反応温度を45℃から60℃、反応時間を1時間から6時間とすることを除き製造例1と同様の方法を行い、重量平均分子量(Mw)4,000のメチルフェニルシルセスキオキサン(メチル基:フェニル基=7:3mol比)を得た。
【0061】
製造例4
撹拌機、環流冷却器、滴下ろう斗、および温度計を備えた300mL4つ口フラスコに、水14.8gと、35質量%塩酸1.4gと、トルエン44.8gとを仕込み、該4つ口フラスコに、3−アセトキシプロピルトリメトキシシラン11.1g(0.05モル)とメチルトリメトキシシラン40.8g(0.3モル)、フェニルトリメトキシシラン29.7g(0.15モル)をトルエン30gに溶解させ、その混合液15〜25℃で滴下した。滴下終了後、同温度で30分間攪拌後、水を加えて静置後、分液を行い、油層を回収した。
【0062】
その後、水で3回洗浄し、トルエン油層を回収した。次に、そのトルエン油層をナス型フラスコに入れ、エバポレーターで濃縮、メタノールで希釈することで溶媒をメタノールに置換し、全体量が250gになる様調整した。本溶液に、水50gを加えて、室温で炭酸カリウム30.8g(0.22モル)を投入した。その後、1時間攪拌した。攪拌終了後、酢酸エチルと水とを加えて分液を行い、油層を回収した。
【0063】
その後、水で5回以上洗浄し、酢酸エチル油層を回収した。次に、その酢酸エチル油層を濃縮し、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートに置換し、3−ヒドロキシプロピルシルセスキオキサン縮重合物40%溶液を得た。
【0064】
得られた3−ヒドロキシプロピルシルセスキオキサン縮重合物は、重量平均分子量(Mw)3,000のメチル、3−ヒドロキシプロピル、フェニルシルセスキオキサン(メチル基:3−ヒドロキシプロピル:フェニル基=6:1:3mol比)であった。
【0065】
製造例5
反応器に600mlの水を仕込み30℃で撹拌しながらp−メトキシベンジルトリクロロシラン283.5g(1モル)およびトルエン300mlの混合液を2時間かけて滴下し、加水分解を行った。その後、分液操作により水層を除去し、有機層をエバポレーターにより溶媒留去した。その濃縮液を減圧下200℃で2時間加熱し、重合反応を行った。得られた重合物にアセトニトリル200gを加えて溶解し、p−メトキシベンジルシルセスキオキサンの溶液を得た。
【0066】
こうして得た溶液中に、60℃以下でトリメチルシリルアイオダイド240gを滴下し、60℃で10時間反応させた。反応終了後、水200gを加えて加水分解を行い、次いでデカントによりポリマー層を得た。そのポリマー層を真空乾燥することにより、p−ヒドロキシベンジルシルセスキオキサン165gを得た。このポリマーの分子量をGPC(ゲルパーミエィションクロマトグラフィー)を用いて測定したところ、ポリスチレン換算でMw=3,000であった。
【0067】
製造例6
還流冷却管、滴下ロート、および攪拌器を備えた反応容器に、水400mlを入れて攪拌し、これにn−酢酸ブチル400mlを加えた。反応容器外部を氷冷し、攪拌速度は有機層と水層が保持できる程度に低速にした。次いで、メチルトリクロロシラン52.2g(0.35モル)、フェニルトリクロロシラン31.7g(0.15モル)を滴下ロートから10分かけて滴下した。この際反応混合物の温度は40℃まで上昇した。さらにそのまま30分間攪拌した。反応終了後、有機層を洗浄水が中性になるまで洗浄し、次いで有機層の溶媒を減圧で留去し、PGMEAで40%へ希釈して、目的となるメチルフェニルシルセスキオキサンを得た。このポリマーの分子量をGPC(ゲルパーミエィションクロマトグラフィー)を用いて測定したところ、ポリスチレン換算でMw=2,000(メチル基:フェニル基=7:3mol比)であった。
【0068】
実施例1
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)に、製造例1で製造された重量平均分子量(Mw)1,000のメチルフェニルシルセスキオキサン(メチル基:フェニル基=7:3mol比)溶液10g、界面活性剤KF−54(信越化学工業社製)(5%PGMEA溶液)0.08gを1,000ppmとなる量加えて攪拌溶解し、これにより35%溶液を作成した。この溶液をアドバンテック東洋(株)製シリンジフィルター(25mmφ、PTFE、ろ過精度0.20μm)でろ過し、シロキサン組成物を調製した。この組成物を、ミカサスピンコーター(ミカサ株式会社製)を用い、6インチシリコンウェハー上に600rpm/10secでスピンコートを行い、110℃、2分間ホットプレートにてプリベーク後、5μm厚のシロキサン樹脂膜を得た。この樹脂膜を0.4重量%水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)水溶液に30秒間浸漬した後、イオン交換水によりリンス処理を行い、よく水を切った後、オーブンにて250℃で60分間焼成処理した。
【0069】
得られた膜について行った透過率(400nm)、鉛筆硬度、焼成による膜厚の減少率(以下、「焼成膜減少率」という。)、焼成膜のクラックの有無の評価結果を表1に示す。なお、各評価は、以下の方法で行われた。
【0070】
(透過率)
得られた硬化膜の紫外可視吸収スペクトルを(株)島津製作所製MultiSpec−1500を用いて測定し、波長400nmでの透過率を求めた。
【0071】
(鉛筆硬度)
JIS K5600−5−4に準拠して測定した。鉛筆硬度がHB以下であると、基板搬送等の際傷つく可能性があることから、鉛筆硬度はH以上、好ましくは3H以上であることが望ましい。
【0072】
(焼成膜厚減少率)
焼成前の膜厚と焼成後の膜厚を、ラムダエースVM−1200(大日本スクリーン製)を用いて行い、予めパラメータを絶対膜厚が既知のサンプルを用いて計測し、そのパラメータを使用して光学的に測定し、下式により、焼成による膜厚の減少率を算出した。
焼成膜厚減少率(%)=〔(焼成前の膜厚−焼成後の膜厚)/焼成前の膜厚〕×100
【0073】
(焼成膜のクラックの有無)
焼成膜のクラックの有無は、膜を焼成した後1昼夜静置し、4インチウェハの中心4cmφの円内において、クラックがあるかどうか目視により確認を行った。
【0074】
実施例2
シロキサン樹脂として製造例2で得られた分子量2,000のメチルフェニルシルセスキオキサンを用い、またアルカリ処理液として2.38重量%水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)水溶液を用いることを除き実施例1と同様にして、シロキサン樹脂焼成硬化被膜を形成した。得られた焼成硬化膜の評価を実施例1と同様に行い、表1の結果を得た。
【0075】
実施例3
シロキサン樹脂として製造例4で得られた分子量3,000のメチル、3−ヒドロキプロピル、フェニルシルセスキオキサン(メチル基:3−ヒドロキシプロピル基:フェニル基=6:1:3mol比)を用い、またアルカリ処理液として2.38重量%水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)水溶液を用いることを除き実施例1と同様にして、シロキサン樹脂焼成硬化被膜を形成した。得られた焼成硬化膜の評価を実施例1と同様に行い、表1の結果を得た。
【0076】
実施例4
アルカリ水溶液として0.3重量%エタノールアミン水溶液を用いることを除き実施例1と同様にして、シロキサン樹脂焼成硬化被膜を形成した。得られた焼成硬化膜の評価を実施例1と同様に行い、表1の結果を得た。
【0077】
実施例5
界面活性剤KF−54を用いないことを除き実施例1と同様にして、シロキサン焼成硬化被膜を形成した。得られた焼成硬化膜の評価を実施例1と同様に行い、表1の結果を得た。
【0078】
実施例6
シロキサン樹脂として製造例3で得られた分子量4,000のメチルフェニルシルセスキオキサンを用い、アルカリ水溶液として5重量%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)水溶液を用いること、および焼成温度を300℃とすることを除き実施例1と同様にして、シロキサン樹脂焼成硬化被膜を形成した。得られた焼成硬化膜の評価を実施例1と同様に行い、表1の結果を得た。
【0079】
実施例7
焼成温度を180℃とすることを除き実施例1と同様にして、シロキサン樹脂焼成硬化被膜を形成した。得られた焼成硬化膜の評価を実施例1と同様に行い、表1の結果を得た。
【0080】
実施例8
焼成温度を300℃とすることを除き実施例1と同様にして、シロキサン樹脂焼成硬化被膜を形成した。得られた焼成硬化膜の評価を実施例1と同様に行い、表1の結果を得た。
【0081】
実施例9
膜厚を7μmとすることを除き実施例2と同様にして、シロキサン樹脂焼成硬化被膜を形成した。得られた焼成硬化膜の評価を実施例1と同様に行い、表1の結果を得た。
【0082】
実施例10
シロキサン樹脂として製造例6で得られた分子量2,000のメチルフェニルシルセスキオキサンを用いることを除き実施例2と同様にして、シロキサン樹脂焼成硬化被膜を形成した。得られた焼成硬化膜の評価を実施例1と同様に行い、表1の結果を得た。
【0083】
比較例1
アルカリ水溶液での処理を行わないことを除き実施例1と同様にして、シロキサン樹脂焼成硬化被膜を形成した。得られた焼成硬化膜の評価を実施例1と同様に行い、表1の結果を得た。
【0084】
比較例2
アルカリ水溶液での処理を行わないことを除き実施例2と同様にして、シロキサン樹脂焼成硬化被膜を形成した。得られた焼成硬化膜の評価を実施例1と同様に行い、表1の結果を得た。
【0085】
比較例3
アルカリ水溶液での処理を行わないこと、および製造例5で得た重量平均分子量3,000のシロキサン樹脂を用いることを除き実施例1と同様にして、シロキサン樹脂焼成硬化被膜を形成した。得られた焼成硬化膜の評価を実施例1と同様に行い、表1の結果を得た。
【0086】
比較例4
アルカリ水溶液での処理を行わないことを除き実施例6と同様にして、シロキサン樹脂焼成硬化被膜を形成した。得られた焼成硬化膜の評価を実施例1と同様に行い、表1の結果を得た。
【0087】
比較例5
テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)水溶液処理に代えて1N塩酸水溶液処理を行うことを除き実施例1と同様にして、シロキサン樹脂焼成硬化被膜を形成した。得られた焼成硬化膜の評価を実施例1と同様に行い、表1の結果を得た。
【0088】
比較例6
アルカリ水溶液での処理を行わないことを除き実施例10と同様にして、シロキサン樹脂焼成硬化被膜を形成した。得られた焼成硬化膜の評価を実施例1と同様に行い、表1の結果を得た。
【0089】
比較例7
テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)水溶液処理に代えてイオン交換水による処理とすることを除き実施例1と同様にして、シロキサン樹脂焼成硬化被膜を形成した。得られた焼成硬化膜の評価を実施例1と同様に行い、表1の結果を得た。
【0090】
【表1】

【0091】
表1から明らかなように、アルカリ水溶液処理を行うことにより、透明性に優れ、高引っかき傷硬度、高絶縁性、低誘電率を有し、さらに平坦性に優れ、厚膜にしてもクラックの発生がなく、かつ基板界面での膜剥れがなく、密着性に優れている、シラノール基またはアルコキシシリル基含有シロキサン樹脂組成物の硬化被膜を形成することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シラノール基またはアルコキシシリル基含有シロキサン樹脂組成物を用いて少なくともシラノール基またはアルコキシシリル基の重合により硬化し被膜を形成するシロキサン樹脂組成物の硬化被膜形成方法において、前記組成物を基材に塗布し、プリベーク処理した後、アルカリ水溶液で処理してからリンス、焼成を行うことを特徴とするシロキサン樹脂組成物の硬化被膜形成方法。
【請求項2】
前記アルカリ水溶液での処理が、アルカリ水溶液への浸漬、パドルまたはシャワーにより行われることを特徴とする請求項1に記載のシロキサン樹脂組成物の硬化被膜形成方法。
【請求項3】
前記アルカリ水溶液が、有機アルカリの水溶液であることを特徴とする請求項1または2に記載のシロキサン樹脂組成物の硬化被膜形成方法。
【請求項4】
前記アルカリ水溶液が、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液であることを特徴とする請求項3に記載のシロキサン樹脂組成物の硬化被膜形成方法。
【請求項5】
前記焼成が、120〜400℃の温度で行われることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のシロキサン樹脂組成物の硬化被膜形成方法。

【公開番号】特開2012−35190(P2012−35190A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177140(P2010−177140)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(504435829)AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社 (79)
【Fターム(参考)】