説明

シロキサン系コーティング組成物及びそれを用いるコーティング方法

【課題】被コーティング材料に直接塗布でき、優れた接着性が得られ、形成される塗膜の特性を変化させないシロキサン系コーティング組成物及びコーティング方法を提供する。
【解決手段】シロキサン系コーティング組成物は、アクリル基、メタクリル基、アリール基、ヒドロキシル基からなる群から選択される少なくとも1種の置換基を有するシルセスキオキサン化合物と、シロキサン系塗料とを含む。前記置換基を有するシルセスキオキサン化合物を、前記シロキサン系塗料に対し、0.5〜3.0重量%の範囲で含む。前記置換基を有するシルセスキオキサン化合物と、熱硬化性シロキサン系塗料とを混合して、得られたシロキサン系コーティング組成物を、被コーティング材料に塗布して塗膜層し、該塗膜層を熱処理して被覆層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シロキサン系コーティング組成物及びコーティング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シロキサン系化合物からなる皮膜は耐候性、耐汚染性に優れることが知られている。そこで、シロキサン系化合物からなるコーティング組成物は、建材等の屋外で用いられる材料のコーティングに多用されている。
【0003】
前記シロキサン系化合物は、分子中にシロキサン結合(−Si−O−Si−)を有する化合物の総称である。前記シロキサン系化合物を用いる前記コーティング組成物として、例えば、オルガノシロキサン系塗料が知られている。
【0004】
ところが、前記オルガノシロキサン系塗料は、被コーティング材料等の他の材料との密着性に劣るという問題がある。そこで、前記問題を解決するために、まず被コーティング材料に下塗塗料を塗装し、次に該下塗塗料上に中塗塗料を塗装し、該中塗塗料上に上塗塗料として前記オルガノシロキサン系塗料を塗布することが行われている。
【0005】
ここで、前記下塗塗料としては、通常、被コーティング材料に対する密着性に優れるウレタン樹脂系塗料やエポキシ樹脂系塗料が用いられる。また、前記中塗塗料としては、前記下塗塗料及び前記オルガノシロキサン系塗料の双方との密着性に優れる、両親和性のものが用いられる。前記両親和性の中塗塗料として、例えば、−(CR−(COOR)−CH−(A{(SiR−O)−SiR})−で表される前記シロキサン系化合物とアクリル化合物との共重合体が知られている(例えば特許文献1参照)。特許文献1によれば、前記両親和性の中塗塗料を使用することにより、ウレタン系塗料である前記下塗塗料と、オルガノシロキサン系塗料である前記上塗塗料とを接合することができるとされている。
【0006】
しかし、前記下塗塗料及び中塗塗料を用いる場合には、下塗、中塗、上塗の各塗料をそれぞれ塗布、乾燥させ、さらに硬化させなければならないため、工程が増加し、煩雑になるという問題がある。
【0007】
このため塗装工程を減少させる試みもなされており、例えば、一般式RSi(OR4−nで表される前記シロキサン系化合物の液状加水分解物、固形状オルガノシラン縮合物、オルガノシラン化合物及びエポキシ樹脂を含有してなるコーティング組成物が知られている。
【0008】
前記コーティング組成物によれば、下塗塗料及び中塗塗料を用いることなく、被コーティング材料に直接塗布して、密着性、耐食性、耐候性、耐屈曲性等に優れた塗膜を得ることができる(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−161824号公報
【特許文献2】特開2009−96922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、前記シロキサン系化合物とアクリル化合物の共重合体からなる中塗塗膜を用いるコーティング組成物では、塗装工程が多くなるため、費用が増大したり塗装時間が長大になるという不都合がある。
【0011】
また、前記シロキサン系化合物とエポキシ樹脂とからなるコーティング組成物では、得られた塗膜の特性がエポキシ樹脂の影響を受けてしまい、所望の特性が得られないことがあるという不都合がある。
【0012】
例えば、前記シロキサン系化合物からなるコーティング組成物により形成される塗膜を防護膜として用いるときには、該塗膜表面に高い硬度が要求される。しかし、前記シロキサン系化合物にエポキシ樹脂を添加すると、形成される塗膜が軟化して所望の硬度を得ることができないことがある。
【0013】
そこで、本発明は、かかる不都合を解消して、被コーティング材料に直接塗布することができ、優れた接着性を得ることができると共に、形成される塗膜の特性を変化させることのないシロキサン系コーティング組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
かかる目的を達成するために、本発明のシロキサン系コーティング組成物は、アクリル基、メタクリル基、アリール基、ヒドロキシル基からなる群から選択される少なくとも1種の置換基を有するシルセスキオキサン化合物と、シロキサン系塗料とを含むことを特徴とする。
【0015】
前記シルセスキオキサン化合物は、シロキサン化合物に属し、主骨格として、Si原子に対し3個の酸素原子が結合した構造を備える化合物である。また、前記アクリル基、メタクリル基、アリール基、ヒドロキシル基からなる群から選択される少なくとも1種の置換基は、前記シルセスキオキサン化合物の環状骨格部分の外縁部に位置している。
【0016】
そこで、前記置換基を有するシルセスキオキサン化合物は、前記主骨格の構造により、シロキサン系塗料に対して高い親和性を備えている。一方、前記置換基は、被コーティング材料や、該被コーティング材料に各種機能を付与する目的で形成される有機系塗膜に対して高い親和性を備えている。
【0017】
また、前記置換基を有するシルセスキオキサン化合物は、該置換基の存在により、シロキサン系塗料から疎外される。そこで、本発明のシロキサン系コーティング組成物を被コーティング材料に塗布して塗膜を形成すると、前記置換基を有するシルセスキオキサン化合物は該塗膜中を移動して、該塗膜と被コーティング材料表面との界面付近に局在することとなる。
【0018】
この結果、本発明のシロキサン系コーティング組成物によれば、下塗塗料及び中塗塗料を用いることなく被コーティング材料に直接塗布することができ、優れた接着性を得ることができる。また、前記置換基を有するシルセスキオキサン化合物が塗膜中で局在化されているため、形成された塗膜は該置換基の影響を受けにくく、シロキサン化合物本来の特性を発現させることができる。
【0019】
本発明のシロキサン系コーティング組成物は、前記置換基を有するシルセスキオキサン化合物を、前記シロキサン系塗料に対し、0.5〜3.0重量%の範囲で含むことが好ましい。前記置換基を有するシルセスキオキサン化合物の含有量が、前記シロキサン系塗料に対し0.5重量%未満では、形成される塗膜の被コーティング材料に対する接着性を改良する効果を得ることができない。
【0020】
また、前記置換基を有するシルセスキオキサン化合物の含有量が、前記シロキサン系塗料に対し3.0重量%を超えると、形成される塗膜中において該置換基を有するシルセスキオキサン化合物を充分に局在化させることができないことがある。この場合には、形成された塗膜において、シロキサン化合物本来の特性が損なわれることがある。
【0021】
本発明のコーティング方法は、前記置換基を有するシルセスキオキサン化合物と、熱硬化性シロキサン系塗料とを混合してシロキサン系コーティング組成物を得る工程と、該シロキサン系コーティング組成物を、被コーティング材料に塗布して、該コーティング材料上に塗膜層を形成する工程と、該塗膜層を熱処理して被覆層を形成する工程とを備えることを特徴とする。本発明のコーティング方法によれば、前記シロキサン系コーティング組成物により、前記被コーティング材料上に被覆層を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本実施形態に用いるシルセスキオキサン化合物の分子構造の一例を示す図。
【図2】本実施形態に用いるシルセスキオキサン化合物の分子構造の他の例を示す図。
【図3】本実施形態に用いるシルセスキオキサン化合物の分子構造の好適例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0024】
本実施形態のシロキサン系コーティング組成物は、アクリル基、メタクリル基、アリール基、ヒドロキシル基からなる群から選択される少なくとも1種の置換基を有するシルセスキオキサン化合物と、シロキサン系塗料とを含んでいる。ここで、前記置換基を有するシルセスキオキサン化合物の含有量は、シロキサン系塗料に対し、0.5〜3.0重量%の範囲となっている。
【0025】
前記置換基を有するシルセスキオキサン化合物は、図1または図2に示すシルセスキオキサン化合物において、アクリル基、メタクリル基、アリール基、ヒドロキシル基からなる群から選択される少なくとも1種の置換基Rを備える化合物である。
【0026】
図1(a)に示すシルセスキオキサン化合物は、シロキサン結合(−Si−O−Si−)による正六面体が形成され、該正六面体の頂角に位置する各Si原子に置換基Rが結合した構造を備えている。また、図1(b)に示すシルセスキオキサン化合物は、シロキサン結合による五角柱が形成され、該五角柱の頂角に位置する各Si原子に置換基Rが結合した構造を備えている。
【0027】
また、前記置換基を有するシルセスキオキサン化合物は、図2(a)に示すように、シロキサン結合が梯子状の構造を備えているもの、又は図2(b)に示すように、シロキサン結合がランダムな構造を備えるものであってもよい。そして、図2(a)又は図2(b)のいずれの構造においても、各Si原子に置換基Rが結合した構造を備えている。
【0028】
本実施形態の前記シロキサン系塗料は、シロキサン結合を備える塗料であればどのようなものであってもよい。前記シロキサン結合を備える化合物として、例えば、図1または図2に示すシルセスキオキサン化合物において、置換基Rがビニル−イソブチル基またはジメチルシロキシ基である化合物を挙げることができる。また、硬化反応用触媒としては、例えばPt触媒を用いることができる。
【0029】
本実施形態のコーティング組成物は、形成された塗膜における接着性及びシロキサン化合物本来の特性が損なわれない範囲で、顔料、充填剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0030】
前記顔料としては、無機顔料又は有機顔料のいずれも用いることができる。前記無機顔料としては、例えば、亜鉛華、鉛白、リトポン、二酸化チタン、沈降性硫酸バリウム、バライト粉、鉛丹、酸化鉄赤、黄鉛、亜鉛黄、ウルトラマリン青、プロシア青、カーボンブラック等を挙げることができる。また、前記有機顔料としては、例えば、アゾ系顔料、多環式系顔料、レーキ顔料等の各種顔料を挙げることができる。
【0031】
また、前記充填剤としては、例えば、ホウ素硫酸塩、沈降性硫酸バリウム、硫酸カルシウム、タルク、アスベスト類、カオリン、パイロフィライト、アルミニウム、ベントナイト、マイカ、珪灰石、カルシウム、ナトリウム(曹灰長石)、ケイ酸塩、ケイ酸塩沈殿、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ホウ素炭酸塩等を挙げることができる。
【0032】
本実施形態のコーティング組成物は、被コーティング材料に塗布して塗膜層を形成した後、該塗膜層を処理して被覆層を形成することにより、該被コーティング材料にコーティングを施すことができる。
【0033】
前記コーティング組成物の被コーティング材料に対する塗布は、例えば、吹付、エアレススプレー、ハケ塗り、ローラー塗り、ロールコート、ディップコート、静電付着等の方法により行うことができる。
【0034】
前記塗膜層の処理は、例えば、乾燥処理、湿気処理、酸化処理、硬化剤処理、熱処理、紫外線処理、電子線処理等の方法により行うことができる。また、熱処理としては、例えば、50〜140℃の範囲の温度に、5分〜12時間の範囲の時間で保持することにより行うことができる。
【0035】
次に、実施例及び比較例を示す。
【実施例1】
【0036】
本実施例では、まず、図3に示す構造を備えるメタクリル−フェニル−ヒドロキシル基置換かご形シルセスキオキサン化合物(以下、シルセスキオキサン化合物Aと略記する)を用意した。図3において、−MMAはメタクリル基を示し、−Phはフェニル基を示し、−OHはヒドロキシル基を示す。
【0037】
次に、シルセスキオキサン化合物Aを、シロキサン系塗料に対し、1.0重量%の量で添加し、混合して、シロキサン系コーティング組成物を調製した。前記シロキサン系塗料は、全量に対し、ビニル−イソブチル基置換かご形シルセスキオキサン化合物59.0重量%、ジメチルシロキシ基置換かご形シルセスキオキサン化合物38.4重量%、硬化反応用プラチナ触媒2.6重量%からなる。
【0038】
次に、本実施例で得られたシロキサン系コーティング組成物をポリカーボネート樹脂基板に塗布して、厚さ10μmの塗膜層を形成し、130℃の温度に4時間保持して該塗膜層を硬化させ、被覆層を形成した。
【0039】
次に、得られた被覆層の接着強度を、JIS K 5600−5−77,3,2に規定されているプルオフ法による付着性測定手順に従って測定した。具体的には、前記ポリカーボネート樹脂基板に形成された前記被膜に直径20mmの円筒状治具をエポキシ樹脂系接着剤により接着し、株式会社島津製作所製オートグラフAGS−1000A(商品名)を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0040】
次に、得られた被覆層の硬度を、ナノインデンター(Elionix社製ENT−2100(商品名))を用い、最大荷重5mNでの負荷−除荷試験により測定した。結果を表1に示す。
【実施例2】
【0041】
本実施例では、まず、シルセスキオキサン化合物Aをシロキサン系塗料に対し2.0重量%の量で添加し、混合したことを除いて、実施例1と全く同一にして、シロキサン系コーティング組成物を調製した。
【0042】
次に、本実施例で得られたシロキサン系コーティング組成物を用いたことを除いて、実施例1と全く同一にして、ポリカーボネート樹脂基板に被覆層を形成した。
【0043】
次に、得られた被覆層の接着強度及び硬度を、実施例1と全く同一にして測定した。結果を表1に示す。
【実施例3】
【0044】
本実施例では、まず、シルセスキオキサン化合物Aをシロキサン系塗料に対し3.0重量%の量で添加し、混合したことを除いて、実施例1と全く同一にして、シロキサン系コーティング組成物を調製した。
【0045】
次に、本実施例で得られたシロキサン系コーティング組成物を用いたことを除いて、実施例1と全く同一にして、ポリカーボネート樹脂基板に被覆層を形成した。
【0046】
次に、得られた被覆層の接着強度及び硬度を、実施例1と全く同一にして測定した。結果を表1に示す。
〔比較例1〕
本比較例では、まず、シルセスキオキサン化合物Aをシロキサン系塗料に対し4.0重量%の量で添加し、混合したことを除いて、実施例1と全く同一にして、シロキサン系コーティング組成物を調製した。
【0047】
次に、本比較例で得られたシロキサン系コーティング組成物を用いたことを除いて、実施例1と全く同一にして、ポリカーボネート樹脂基板に被覆層を形成した。
【0048】
次に、得られた被覆層の接着強度及び硬度を、実施例1と全く同一にして測定した。結果を表1に示す。
〔比較例2〕
本比較例では、まず、シルセスキオキサン化合物Aをシロキサン系塗料に対し全く用いなかったことを除いて、実施例1と全く同一にして、シロキサン系コーティング組成物を調製した。
【0049】
次に、本比較例で得られたシロキサン系コーティング組成物を用いたことを除いて、実施例1と全く同一にして、ポリカーボネート樹脂基板に被覆層を形成した。
【0050】
次に、得られた被覆層の接着強度及び硬度を、実施例1と全く同一にして測定した。結果を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
表1から、シルセスキオキサン化合物Aをシロキサン系塗料に対し1〜3重量%の範囲で含む実施例1〜3のシロキサン系コーティング組成物によれば、優れた接着強度及び硬度を得ることができることが明らかである。
【0053】
一方、シルセスキオキサン化合物Aをシロキサン系塗料に対し3重量%を超えて4重量%含む比較例1のシロキサン系コーティング組成物によれば、十分な硬度を得ることができないことが明らかである。また、シルセスキオキサン化合物Aをシロキサン系塗料に対し全く含まない比較例2のシロキサン系コーティング組成物によれば、十分な接着強度を得ることができないことが明らかである。
【0054】
尚、前記実施例では、メタクリル−フェニル−ヒドロキシル基置換かご形シルセスキオキサン化合物を用いる例を示しているが、メタクリル基に代えてアクリル基を用いてもよく、フェニル基に代えて他のアリール基を用いてもよい。また、前記シルセスキオキサン化合物の置換基は、アクリル基、メタクリル基、アリール基、ヒドロキシル基からなる群から選択される少なくとも1種であればよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル基、メタクリル基、アリール基、ヒドロキシル基からなる群から選択される少なくとも1種の置換基を有するシルセスキオキサン化合物と、シロキサン系塗料とを含むことを特徴とするシロキサン系コーティング組成物。
【請求項2】
請求項1記載のシロキサン系コーティング組成物において、前記置換基を有するシルセスキオキサン化合物を、前記シロキサン系塗料に対し、0.5〜3.0重量%の範囲で含むことを特徴とするシロキサン系コーティング組成物。
【請求項3】
アクリル基、メタクリル基、アリール基、ヒドロキシル基からなる群から選択される少なくとも1種の置換基を有するシルセスキオキサン化合物と、熱硬化性シロキサン系塗料とを混合してシロキサン系コーティング組成物を得る工程と、
該シロキサン系コーティング組成物を、被コーティング材料に塗布して、該コーティング材料上に塗膜層を形成する工程と、
該塗膜層を熱処理して被覆層を形成する工程とを備えることを特徴とするコーティング方法。
【請求項4】
請求項3記載のコーティング方法において、前記シロキサン系コーティング組成物は、前記置換基を有するシルセスキオキサン化合物を、前記熱硬化性シロキサン系塗料に対し、0.5〜3.0重量%の範囲で含むことを特徴とするコーティング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−202001(P2011−202001A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−69970(P2010−69970)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】