説明

シロキサン耐久試験機

【課題】シロキサンに起因する電気接点部の接触不良が起こりにくい接点構造及び材料の開発を容易にする。
【解決手段】シロキサン耐久試験機1は、シロキサンガス発生装置10と、テスト室20と、シロキサン濃度計測部30と、制御部40とを有している。シロキサンガス発生装置10は、2つのマスフローコントローラ12、13と、バブラー11とを含んでいる。シロキサン濃度計測部30は、テスト室20のテストエリア内のシロキサン濃度を計測する。制御部40は、その計測結果を用いて、シロキサンガス発生装置10のマスフローコントローラ12、13を制御する。これにより、テストエリアのシロキサン濃度を所望濃度とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シロキサン耐久試験機に関する。
【背景技術】
【0002】
シロキサン(低分子環状シロキサン)は常温で簡単にガス化し、電気接点部において電気エネルギーを受けることでシリカと炭化物との化合体となる。シリカは絶縁物質であり、接点に対して強固に付着する性質を持っているため、電気接点部の接触不良の原因となる(特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2006−124489公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シロキサンは一般的なプラスチック、合成ゴム、接着剤、化粧品、ヘアスプレーなど身近な製品に大量に含まれているので、身近な電気製品などにも不具合をもたらす原因となっている。
【0005】
特に自動車の場合、夏場の駐車中の車室内が高温になることと密閉状態であることから、内装材やその接着剤、各種プラスチック材料から大量のシロキサンがガス化するため、車室内の電気・電子機器が非常に高い濃度のシロキサンにさらされ、スイッチONによる通電時に接点部において電気エネルギーによって絶縁物であるシリカが生成され、接触不良を発生させる。また、エンジンルームにおいてもエンジンの発熱によりシロキサンがガス化し、同様の接触不良を発生させる。これらは機器の動作接点においてだけでなく、各種コネクタ類においても接触不良を発生させる。これはシロキサン存在下で自動車の振動によりコネクタの接点が通電されながらミクロ的に動くことが原因である。
【0006】
こうした電気接点の接触不良を背景として、各メーカーはシロキサンに耐えうる接点構造や材料の開発に迫られている。
【0007】
本発明の目的は、シロキサンに起因する電気接点部の接触不良が起こりにくい接点構造及び材料の開発を容易にする技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るシロキサン耐久試験機は、濃度可変にシロキサンガスを発生させるシロキサンガス発生装置と、前記シロキサンガス発生装置で発生したシロキサンガスが供給される、密閉されたテストエリアと、前記テストエリア内のシロキサン濃度を測定するシロキサン濃度センサと、前記シロキサン濃度センサが検出したシロキサン濃度に基づいて、前記テストエリア内のシロキサン濃度が所定濃度となるように前記シロキサンガス発生装置を制御する制御手段とを備えている。
【0009】
本発明によると、テストエリア内のシロキサン濃度を所望濃度とすることができるので、シロキサンに起因する電気接点部の接触不良が起こりにくい接点構造及び材料の開発が容易となる。
【0010】
前記シロキサンガス発生装置が、シロキサンを含まない第1気体でシロキサン貯溜槽に貯溜されたシロキサン液をバブリングすることによって飽和シロキサンガスを発生させるバブラーと、前記バブラーに供給される前記第1気体の流量を調整する第1流量調整機構と、シロキサンを含まない第2気体の流量を調整する第2流量調整機構と、前記バブラーで発生した飽和シロキサンガスと、前記第2流量調整機構で流量が調整された前記第2気体とを混合した混合ガスを前記テストエリアに供給する供給ガス流路とを有している。これにより、市販されていないシロキサン標準ガスを、市販されているシロキサン液から所望濃度を有するように発生させることができる。
【0011】
本発明のシロキサン耐久試験機は、シロキサンを含まない第3気体の流量を調整する第3流量調整機構と、前記テストエリアから抽出されたサンプリングガスと、前記第3流量調整機構で流量が調整された前記第3気体とを混合した混合ガスを前記シロキサン濃度センサに供給する計測ガス流路とをさらに備えていることが好ましい。これにより、テストエリアから抽出されたサンプリングガスの濃度がシロキサン濃度センサの計測可能レンジを超えて高い場合であっても、希釈されたガスをシロキサン濃度センサに供給することでサンプリングガスの濃度計測が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0013】
図1は、本発明の一実施の形態に係るシロキサン耐久試験機の概略構成図である。図1に示すシロキサン耐久試験機1は、シロキサンガス発生装置10と、密閉されたテストエリアを画定するテスト室20と、シロキサン濃度計測部30と、制御部40との4つの部分に大別される。
【0014】
シロキサンガス発生装置10は、バブラー方式によりシロキサンガスを発生させるバブラー11を含んでいる。バブラー11には、マスフローコントローラ12からシロキサンを含まない窒素ガス(N2)が供給される。マスフローコントローラ12は、バブラー11に供給する窒素ガスを、制御部40からの制御出力にしたがって調整する。
【0015】
図2に、バブラーの詳細図を示す。バブラー11は、シロキサン液が貯溜されたシロキサン貯溜槽101を含んでいる。シロキサン貯溜槽101内には、その中央部付近までシロキサン液が貯溜された温水部となっている。シロキサン貯溜槽101の内部のシロキサン液以外の部分は、シロキサンガスで充満した気相部となっている。
【0016】
シロキサン貯溜槽101の下端近傍には、マスフローコントローラ12で流量が調整された窒素ガスの入口101aが設けられている。入口101aからシロキサン貯溜槽101の温水部に供給された窒素ガスが気泡となって温水部を上昇することで発生したシロキサンガスが、気相部に蓄えられる。気相部に蓄えられたシロキサンガス(シロキサン飽和蒸気)は、シロキサン貯溜槽101の上端に設けられた出口101bから排出される。
【0017】
シロキサン貯溜槽101には、温度センサ103が取り付けられている。温度センサ103は、シロキサン貯溜槽101の天井から挿入されて気相部を通過し、先端が温水部にまで達している。温度センサ103は、気相部及び温水部に対応する位置にそれぞれ熱電対103a、103bを有しており、各熱電対103a、103bにおいて温度検出を行う。なお、一般的に、気相部のシロキサンガス温度は、温水部のシロキサン液温度と同じである。
【0018】
温水部内には、U字管状のヒーター105が配置されている。ヒーター105は、制御部40からの制御出力にしたがって、温水部のシロキサン液温度を上昇させる。
【0019】
また、バブラー11は、気相部のシロキサンガス及び温水部のシロキサン液の温度を調整する温調装置110を有している。温調装置110は、水が循環する循環管路となっており、シロキサン貯溜槽101の気相部相当部分を取り囲むウォータージャケット111を含んでいる。ウォータージャケット111は、気相部内のシロキサンガス温度を調整する。その他に温調装置110は、ウォータージャケット111から排出された水と外部から供給された冷却水との熱交換を行う熱交換器113と、温水部内に設けられてシロキサン液の温度調整を行うU字管状の蛇管115と、ポンプ117と、ウォータージャケット111に供給される水を加熱するヒーター119とを含んでいる。また、ウォータージャケット111内の水温は、水温センサ120によって測定される。ウォータージャケット111と熱交換器113との間には、熱交換器113に流れる水量を調整する三方弁112が配置されている。
【0020】
バブラー11内のヒータ105及び温調装置110は、制御部40からの制御出力にしたがって制御される。これにより、シロキサン貯溜槽101の出口101bから排出されるシロキサンガスの温度を調整することができる。
【0021】
本実施の形態に係るシロキサン耐久試験機1はバブラー11を有しているので、市販されていないシロキサン標準ガスを、市販されているシロキサン液から所望濃度を有するように発生させることができる。
【0022】
シロキサンガス発生装置10は、マスフローコントローラ13を含んでいる。マスフローコントローラ13は、マスフローコントローラ12に供給される窒素ガスと同じ供給源から供給された窒素ガスの流量を調整する。
【0023】
シロキサンガス発生装置10には、バブラー11で発生したシロキサンガスと、マスフローコントローラ13で流量調整された窒素ガスとが混合点14aにおいて混合され、混合ガスがテスト室20内のテストエリアに供給されるような供給ガス流路14が設けられている。
【0024】
マスフローコントローラ13と混合点14aとの間、及び、バブラー11と混合点14aとの間には、それぞれ、ヒーター15、16が配置されている。これらヒーター15、16は、窒素ガス及びシロキサンガスを加熱することによって、これらのガスが混合時に液化(結露)するのを防止する。また、供給ガス流路14の混合点14aとテスト室20との間は、保温用のヒーター17によって覆われている。これによって、混合ガスがテスト室20に到るまでに液化するのを防止している。
【0025】
このように、シロキサンガス発生装置10は、窒素ガスを分流した後に窒素ガスとシロキサンガスとを混合することで、必要な濃度のシロキサンガスをテスト室20に供給する。
【0026】
密閉容器であるテスト室20は、シロキサンを含まない材料(例えば金属)からなる。テスト室20とこれに接続された管路とのジョイント部に使用されるパッキンなどにも金属(SUS)が用いられる。
【0027】
テスト室20には、テストエリアの環境を調整するためのファン21、ヒーター22、及び、クーラー23が配置されている。これにより、テストエリア内の温度を所望温度に調整することができる。例えば、夏場の自動車室内の環境を再現できるように、制御部40は、テスト室20内を高温とする高温運転機能を有していることが好ましい。本例では、室温から120℃までの温度環境を提供できるが。80℃程度の試験が普通である。テストエリアでのシロキサンガス濃度は、通常試験では10〜500ppm、加速試験では1000〜5000ppm程度である。
【0028】
テスト室20には、試験開始時にシロキサンゼロ状態を再現できるように、カセット交換式のシロキサン吸着ユニット25が接続されている。シロキサン吸着ユニット25は、活性炭繊維布をフィルター状に加工したものであり、有効吸着面積の増加とユニット25のコンパクト化とを両立させるものである。
【0029】
シロキサン濃度計測部30は、シロキサン濃度センサ31とマスフローコントローラ32とを有している。マスフローコントローラ32は、マスフローコントローラ12、13に供給される窒素ガスと同じ供給源から供給された窒素ガスの流量を調整する。また、シロキサン濃度計測部30には、テスト室20からオーバーフローしてきたシロキサンガスと、マスフローコントローラ32で流量が調整された窒素ガスとが混合点33aにおいて混合され、混合ガスがシロキサン濃度センサ31に供給されるような計測ガス流路33が設けられている。シロキサン濃度センサ31は、供給された混合ガスの濃度を計測する。
【0030】
計測ガス流路33の混合点33aとマスフローコントローラ32との間には、ヒーター35が配置されている。ヒーター35は、窒素ガスを加熱することによって、窒素ガスが混合時に液化(結露)するのを防止する。計測ガス流路33の混合点33aとテスト室20との間及び混合点33aとヒーター35との間、さらには、混合点33aとシロキサン濃度センサ31との間は、保温用のヒーター37によって覆われている。これによって、ガスがシロキサン濃度センサ31に到るまでに液化するのを防止している。
【0031】
このように、テストエリアから抽出されたシロキサンガスのサンプリングガスとマスフローコントローラ32で流量を調整された窒素ガスとの混合ガスをシロキサン濃度センサ31に供給するようにしているので、テストエリアから抽出されたサンプリングガスの濃度がシロキサン濃度センサ31の計測可能レンジを超えて高い場合であっても、希釈されたガスをシロキサン濃度センサ31に供給することでサンプリングガスの濃度計測が可能となる。
【0032】
制御部40には、シロキサン濃度センサ31の検出出力が供給される。制御部40は、フィードバック制御に基づいて生成された制御出力によって、マスフローコントローラ12、13を制御する。これにより、マスフローコントローラ12、13から下流へと流れるガスの単位時間あたりの流量が調整されるので、テストエリア内のシロキサン濃度を所望濃度とすることができる。したがって、テストエリアにおいて、シロキサンに起因する電気接点部の接触不良が起こりにくい接点構造及び材料の開発が容易となる。
【0033】
また、制御部40は、制御出力によって、バブラー11内のヒータ105及び温調装置110を制御する。これにより、バブラー11から排出されるシロキサンガス温度の制御が可能となっている。そのほか、制御部40には、温度センサ103及び水温センサ120の出力などの各種出力が供給される。そして、制御部40は、これら出力に基づいて、シロキサン耐久試験機1の全体的な動作を制御する。
【0034】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な設計変更を上述の実施の形態に施すことが可能である。例えば、バブラー以外の方式でシロキサンガスを発生させてもよい。また、テストエリア内のシロキサンガス濃度調整は、マスフローコントローラの流量を調整する以外の方法で行ってもよい。3つのマスフローコントローラ12、13、32にそれぞれ別の種類のシロキサンを含まないガスを与えてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施の形態に係るシロキサン耐久試験機の概略構成図である。
【図2】図1に示すシロキサン耐久試験機に含まれるバブラーの詳細図である。
【符号の説明】
【0036】
1 シロキサン耐久試験機
10 シロキサンガス発生装置
11 バブラー
12、13、32 マスフローコントローラ
14 供給ガス流路
15、16 ヒーター
20 テスト室
25 シロキサン吸着ユニット
30 シロキサン濃度計測部
31 シロキサン濃度センサ
33 計測ガス流路
40 制御部
101 シロキサン貯溜槽
105 ヒーター
110 温調装置
111 ウォータージャケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
濃度可変にシロキサンガスを発生させるシロキサンガス発生装置と、
前記シロキサンガス発生装置で発生したシロキサンガスが供給される、密閉されたテストエリアと、
前記テストエリア内のシロキサン濃度を測定するシロキサン濃度センサと、
前記シロキサン濃度センサが検出したシロキサン濃度に基づいて、前記テストエリア内のシロキサン濃度が所定濃度となるように前記シロキサンガス発生装置を制御する制御手段とを備えていることを特徴とするシロキサン耐久試験機。
【請求項2】
前記シロキサンガス発生装置が、
シロキサンを含まない第1気体でシロキサン貯溜槽に貯溜されたシロキサン液をバブリングすることによって飽和シロキサンガスを発生させるバブラーと、
前記バブラーに供給される前記第1気体の流量を調整する第1流量調整機構と、
シロキサンを含まない第2気体の流量を調整する第2流量調整機構と、
前記バブラーで発生した飽和シロキサンガスと、前記第2流量調整機構で流量が調整された前記第2気体とを混合した混合ガスを前記テストエリアに供給する供給ガス流路とを有していることを特徴とする請求項1に記載のシロキサン耐久試験機。
【請求項3】
シロキサンを含まない第3気体の流量を調整する第3流量調整機構と、
前記テストエリアから抽出されたサンプリングガスと、前記第3流量調整機構で流量が調整された前記第3気体とを混合した混合ガスを前記シロキサン濃度センサに供給する計測ガス流路とをさらに備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載のシロキサン耐久試験機。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−224485(P2008−224485A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−64694(P2007−64694)
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【出願人】(000108797)エスペック株式会社 (282)
【Fターム(参考)】