説明

シロスタゾールを含むカルボスチリル誘導体の脂肪肝治療剤

【課題】脂肪肝の治療薬の開発。
【解決手段】本発明は、シロスタゾールまたはその薬学的に許容し得る塩を有効成分とする、脂肪肝の予防および/または治療剤に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪肝の予防及び/又は治療剤、さらに詳しくは、一般式(1):
【化1】

[式中、Aは低級アルキレン基、Rはシクロアルキル基、カルボスチリル骨格の3位と4位間の結合は1重結合又は2重結合を示す]
で示されるカルボスチリル誘導体またはその塩を有効成分とする脂肪肝予防及び/又は治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
前記一般式(1)で示されるカルボスチリル誘導体またはその塩ならびにその製法は、特許文献1に記載されており、それが血小板凝集抑制作用、ホスホジエステラーゼ(PDE)の阻害作用、抗潰瘍作用、降圧作用及び消炎作用を有し、抗血栓症剤、脳循環改善剤、消炎剤、抗潰瘍剤、降圧剤、抗喘息剤、ホスホジエステラーゼ阻害剤などとして有用であることが知られている。
【0003】
また、特許文献2には、前記カルボスチリル誘導体が肝実質細胞増殖因子(HGF)産生増加剤として有用であることが報告されており、劇症肝炎等の病態の治療や、肝切除手術後の肝再生促進の適応において、その肝細胞増殖作用が期待されている。
【0004】
近年、メタボリックシンドロームへの関心が高まりつつあり、その基準の中に内臓脂肪がその一つの指標として取り上げられており、この内臓脂肪の中でも特に脂肪肝に対する関心が高まってきている。脂肪肝とは、肝臓に脂肪が蓄積した状態をいい、自覚症状がほとんどなく無症状であり、放置すればさらに進行して重症化することあり、脂肪肝から肝炎、肝硬変、肝癌に至る患者も多い。
【0005】
脂肪肝には、大きくアルコール性脂肪肝と非アルコール性脂肪肝に分類される。そして、非飲酒者においても発症する脂肪肝に肝実質の壊死、炎症、線維化所見が加わった非アルコール性脂肪性肝炎(non-alcoholic steatohepatitis:NASH)に対する関心が、メタボリックシンドロームの増加に伴い、我が国でも急速に高まっている。NASHの原因は未だ不明な点が多いが、少なくとも脂肪肝が原因の一つであると考えられており、その治療には栄養療法の徹底が重要であり、難治症例には薬物療法が検討されている(日本薬理学雑誌 Vol.128(2006), No.4 235-238 米田正人ら)。
【0006】
このように、進行すれば重症化する大きな危険要因を含んだ疾患にもかかわらず、脂肪肝に対する効果的な予防及び治療薬はほとんどなく、その開発が切望されてきており、特にその原因に不明な点の多いNASH、およびそれに至る非アルコール性脂肪肝の予防及び治療薬の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭63−20235号公報
【特許文献2】特開平9−157170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
かくして、上記のとおり、脂肪肝については、十分に満足のいく予防薬および治療薬は未だ見出されておらず、国内外において脂肪肝の予防薬および治療薬の開発が切望されていた。またNASHに至っては、新しい疾患概念でもあり、治療薬はほとんどないのが現状であった。それに加えNASH病態は種々の要因が複雑に絡み合って病態を形成していると考えられるため、単剤での処置では十分な治療効果は得られず、複剤での処置により治療を余儀なくされているのが現状である。したがって、この新たなNASHに対する治療ニーズの観点からも、新たな治療薬の開発や既存治療薬の同疾患への臨床応用が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、種々研究を重ねるうちに、前記一般式(1)で表されるカルボスチリル誘導体、特に6−[4−(1−シクロヘキシル−1H−テトラゾール−5−イル)ブトキシ]−3,4−ジヒドロカルボスチリル(シロスタゾール)又はその塩が脂肪肝の予防及び又は治療に有効であることを見出した。上記のとおり該カルボスチリル誘導体は、HGF産生増加剤として肝細胞増殖作用を有することは既に知られていたが、脂肪肝の病状にも効果があることは同じ肝臓という臓器ではあるがメカニズムの観点からは予測外のことであり、驚くべきことであった。
【0010】
本発明者らは、脂肪肝モデルラットにおいて、6−[4−(1−シクロヘキシル−1H−テトラゾール−5−イル)ブトキシ]−3,4−ジヒドロカルボスチリル(シロスタゾール)又はその塩を投与することによって脂肪肝の治療を改善することを初めて見出し、本発明を完成させた。
【0011】
本発明によれば、一般式:
【化2】

[式中、Aは低級アルキレン基、Rはシクロアルキル基、カルボスチリル骨格の3位と4位間の結合は1重結合又は2重結合を示す]
で示されるカルボスチリル誘導体またはその塩を有効成分とする脂肪肝の予防及び/又は治療剤を提供する。
【0012】
また本発明によれば、6−[4−(1−シクロヘキシル−1H−テトラゾール−5−イル)ブトキシ]−3,4−ジヒドロカルボスチリル(シロスタゾール)又はその塩を有効成分とする脂肪肝の予防及び/又は治療剤を提供する。
【0013】
本発明によれば、脂肪肝の予防及び/又は治療用の上記カルボスチリル誘導体(1)を含む組成物を提供する。
【0014】
本発明によれば、脂肪肝の予防及び/又は治療剤を製造するための上記カルボスチリル誘導体(1)の使用を提供する。
【0015】
本発明によれば、脂肪肝の患者に、治療上の有効量の上記カルボスチリル誘導体(1)を投与することを特徴とする脂肪肝の予防及び/又は治療方法を提供する。
【0016】
本発明によれば、6−[4−(1−シクロヘキシル−1H−テトラゾール−5−イル)ブトキシ]−3,4−ジヒドロカルボスチリル(シロスタゾール)又はその塩は脂肪肝の予防及び/又は治療することによって、NASHに至る初期段階を防ぎ、NASHにおいても効果がある。さらに、本発明によれば、上記カルボスチリル誘導体(1)を有効成分とするNASHの予防及び/又は治療剤を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】普通食だけを与えたコントロール群ラットの6週間後の肝臓のヘマトキシリ・エオジン染色の結果を示す。
【図2】CDAA食を与えたCDAA群ラットの6週間後の肝臓のヘマトキシリ・エオジン染色の結果を示す。
【図3】CDAA食とシロスタゾール6mg/kgを連日投与したシロスタゾール処置群ラットの6週間後の肝臓のヘマトキシリ・エオジン染色の結果を示す。
【図4】CDAA食とアスピリン5mg/kgを連日投与したアスピリン処置群ラットの6週間後の肝臓のヘマトキシリ・エオジン染色の結果を示す。
【図5】CDAA食とチクロピジン10mg/kgを連日投与したチクロピジン処置群ラットの6週間後の肝臓のヘマトキシリ・エオジン染色の結果を示す。
【図6】CDAA食を与えたCDAA群ラットの6週間後の肝臓のマッソン染色の結果を示す。
【図7】CDAA食とシロスタゾール6mg/kgを連日投与したシロスタゾール処置群ラットの6週間後の肝臓のマッソン染色の結果を示す。
【図8】CDAA食とアスピリン5mg/kgを連日投与したアスピリン処置群ラットの6週間後の肝臓のマッソン染色の結果を示す。
【図9】CDAA食とチクロピジン10mg/kgを連日投与したチクロピジン処置群ラットの6週間後の肝臓のマッソン染色の結果を示す。
【図10】CDAA群、チクロピジン群、アスピリン群、シロスタゾール群、およびコントロール群のラットにおける6週間後の肝臓のトリグリセリド値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
上記カルボスチリル誘導体(1)において、「シクリアルキル基」には、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチルなどのようなC3−8シクロアルキル基が含まれ、好ましくはシクロヘキシルである。「低級アルキレン基」には、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレンなどのようなC1−6アルキレン基が含まれ、好ましくはブチレンである。
【0019】
好ましいカルボスチリル誘導体(1)は、6−[4−(1−シクロヘキシル−1H−テトラゾール−5−イル)ブトキシ]−3,4−ジヒドロカルボスチリルであり、抗血小板薬としてシロスタゾールの商品名で市場に出ている。
【0020】
本発明のカルボスチリル誘導体(1)は、医薬的に許容される酸を作用させることによって容易に塩を形成し得る。該酸としては、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、臭化水素酸等の無機酸、シュウ酸、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸等の有機酸を挙げることができる。
【0021】
これらのカルボスチリル誘導体(1)およびその塩、並びにその製造方法については、例えば特許文献1に開示されている。
【0022】
本発明のカルボスチリル誘導体(1)は、バルクで、または好ましくは通常の医薬担体もしくは希釈剤で医薬製剤の形態で用いられ得る。投与形態は特定の形態に制限されないが、特開平10−175864号公報に挙げられている製剤が挙げられ、具体的には、いずれの通常の投与形態、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤のような経口投与の製剤、経口投与に適した様々な液体製剤、または注射剤、坐剤のような非経口投与用製剤であってもよい。用量は特定の範囲に制限されないが、通常、成人(体重50kg)で100〜400 mg/日の範囲にあり、1回または2〜数回に分けて投与してもよい。活性化合物はその製剤の組成物に対して0.1〜70重量%含まれ、好ましくは、投与単位あたり50〜100 mgの量で製剤中含まれる。
【0023】
注射用製剤は通常、液剤、乳濁液、または懸濁液の形態で調製され、無菌化し、更に好ましくは血液に対して等張にされる。液体、乳濁液または懸濁液の形態の製剤は一般的に、通常の医薬希釈剤、例えば、水、エチルアルコール、プロピレングリコール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルを用いて調製される。これらの製剤には、カルボスチリル誘導体(1)を、塩化ナトリウム、ブドウ糖、グリセリンのような等張剤と、等張にするのに十分な量で混合してもよく、更に通常の可溶化剤、緩衝剤、麻酔剤、および適宜、着色剤、保存剤、芳香物質、香料、甘味料、および他の薬剤で混合してもよい。
【0024】
錠剤、カプセル剤、経口投与用液剤のような製剤は、通常の方法で調製され得る。錠剤は、ゼラチン、デンプン、乳糖、ステアリン酸マグネシウム、タルク、アラビアガムなどのような通常の医薬担体と混合して調製され得る。カプセル剤は、不活性な医薬充填剤または希釈剤と共に混合して調製し、硬ゼラチンカプセルまたは軟カプセルに詰められ得る。シロップ剤またはエリキシル剤のような経口液体製剤は、カルボスチリル誘導体(1)と、甘味料(例えば、ショ糖)、保存剤(例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン)、着色料、香料などとを混合して調製する。非経口投与用製剤はまた、通常の方法、例えばカルボスチリル誘導体(1)を無菌の水性担体、好ましくは水または生理食塩水溶液に溶解しても調製され得る。非経口投与に適した好ましい液体製剤は、約50〜100 mgのカルボスチリル誘導体(1)を、水および有機溶媒中に、更に分子量300〜5000を有するポリエチレングリコール中に溶解して調製し、好ましくは、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、およびポリビニルアルコールのような滑沢剤と混合される。上記の液体製剤には好ましくは更に、消毒剤(例えば、ベンジルアルコール、フェノール、チメロサール)、殺菌剤、および更に適宜、等張剤(例えば、ショ糖、塩化ナトリウム)、局所麻酔剤、安定化剤、緩衝剤などを加えてよい。安定性を保つために、非経口投与用製剤は、小さな容器に充填し、続いて通常の凍結乾燥技術で水性溶媒を除いてもよく、これを使用に際して水性溶媒に溶解して液体製剤に戻す。
【実施例】
【0025】
Fisher344系ラットに普通食だけを与えたものをコントロール群とし、脂肪肝モデルとしてコリン欠乏アミノ酸(CDAA:choline-deficiented, L-amino acid-defined Diet)食を与えたCDAA群とした。以下の3つの薬物処置群を以下の3剤をCDAA群に連日投与して調製した(アスピリンおよびチクロピジンはシロスタゾールと同抗血小板活性を有する薬剤である)。
シロスタゾール6mg/kg
アスピリン5mg/kg
チクロピジン10mg/kg
各群のラットの肝臓を6週間後に取り出し、ヘマトキシリ・エオジン染色、マッソン染色し、脂肪滴を観察した。ヘマトキシリ・エオジン染色の結果を図1〜図5に、マッソン染色の結果を図6〜図9に示す。これらの結果からは、シロスタゾール投与群(すなわち、シロスタゾール6mg/kg+CDAA)は、シロスタゾール投与をしていない群またはアスピリン/チクロピジン投与群よりも顕著に肝臓の脂肪滴が少なかった。また同実験から得られた肝臓に含まれるトリグリセリドの量並びにこれらのラットのトリグリセリドの血清中濃度を測定した。全群の各ラットにおけるトリグリセリドの血清中濃度を図10に示す。この結果からわかるように、シロスタゾール6mg/kg投与群におけるトリグリセリドの血清中濃度は、コントロール群および他の薬剤投与群よりも有意にその値が低いことがわかった。よって、シロスタゾールは脂肪肝の予防及び/又は治療に有効な薬剤であることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:
【化1】

[式中、Aは低級アルキレン基、Rはシクロアルキル基、カルボスチリル骨格の3位と4位間の結合は1重結合又は2重結合を示す]
で示されるカルボスチリル誘導体またはその塩を有効成分とする脂肪肝の予防及び/又は治療剤。
【請求項2】
有効成分が6−[4−(1−シクロヘキシル−1H−テトラゾール−5−イル)ブトキシ]−3,4−ジヒドロカルボスチリル又はその塩である請求項1に記載の薬剤。
【請求項3】
脂肪肝の予防及び/又は治療剤を製造するための請求項1または2に記載のカルボスチリル誘導体又はその塩の使用。
【請求項4】
脂肪肝の患者に、治療上の有効量の請求項1または2に記載のカルボスチリル誘導体又はその塩を投与することを特徴とする脂肪肝の予防及び/又は治療方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2010−533166(P2010−533166A)
【公表日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−515728(P2010−515728)
【出願日】平成20年7月9日(2008.7.9)
【国際出願番号】PCT/JP2008/062771
【国際公開番号】WO2009/008539
【国際公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(000206956)大塚製薬株式会社 (230)
【Fターム(参考)】