説明

シンクイムシ類の防除剤及び防除方法

【課題】安全でかつ経済的にシンクイムシ類を防除することができる防除剤及び防除方法を得る。
【解決手段】リンゴ、ナシ、モモ、スモモなどの果実の表面にシンクイムシ類が産卵するのを防止するため、果実の表面に塗布する防除剤であって、炭酸カルシウムまたは炭酸マグネシウムからなる無機粉体と、無機粉体を果実表面に固着するための固着剤とを含有することを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リンゴ、ナシ、モモ、スモモなどの果実に、シンクイムシ類が産卵するのを防止するため、果実の表面に塗布する防除剤及び該防除剤を用いた防除方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モモシンクイガなどのシンクイムシ類は、リンゴ、ナシ、モモ、スモモなどの果実の表面に産卵し、孵化した幼虫は果実内部に潜り込むため、通常の薬剤散布等では駆除することができない。このため、果実の袋掛けなどで、従来より防除がなされているが、袋掛けは労力がかかるなどの問題があった。近年、殺虫剤、フェロモン撹乱剤が開発され、物理的な袋掛けに代えて、これらの薬剤を散布することにより防除がなされている。
【0003】
しかしながら、殺虫剤の効果は、一時的であるため、頻繁に防除することが必要である。また、フェロモン撹乱剤は高価であり、フェロモン撹乱剤を含浸させた材料を果樹に設置する必要があり、その設置に労力がかかるなどの問題がある。
【0004】
本発明のシンクイムシ類の防除剤は、後述するように、炭酸カルシウムなどの無機粉体と固着剤とを含有させたものである。特許文献1及び特許文献2においては、炭酸カルシウムなどの無機粉体と固着剤を含有するスリップス類の防除剤が開示されている。しかしながら、このような防除剤がシンクイムシ類の防除剤として有効であることについては、これらの先行技術には開示されていない。これらの先行技術においては、防除剤を散布することにより、植物全体を白くして、その反射光によりスリップス類を防除することができることが開示されている。
【0005】
しかしながら、モモシンクイガなどのシンクイガ類の果実表面への産卵は、非特許文献1に開示されているように、夜間においてなされるものである。このため、当業者にとって、スリップス類の防除におけるこのような作用効果は、シンクイムシ類の夜間における果実表面への産卵に対して期待することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−119813号公報
【特許文献2】特開昭60−149508号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】青森県農林総合研究センターりんご試験場研究報告 第35号(2008):川嶋 浩二「モモシンクイガの生態に関する基礎的研究」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、安全でかつ経済的なシンクイムシ類の防除剤及び防除方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の防除剤は、シンクイムシ類が果実に産卵するのを防止するため、果実の表面に塗布する防除剤であって、炭酸カルシウムまたは炭酸マグネシウムからなる無機粉体と、無機粉体を果実表面に固着させるための固着剤とを含有することを特徴としている。
【0010】
本発明の防除剤は、無機粉体と固着剤とを含有するものであるので、安全でかつ経済的な防除剤である。
【0011】
無機粉体の平均粒子径は、0.1〜3μmの範囲内であることが好ましい。
【0012】
無機粉体としては、炭酸カルシウムが特に好ましい。
【0013】
固着剤は、合成樹脂エマルション、ポリアクリル酸塩、ポリビニルアルコール、ポリオキシエチレン、ワックス、ポリビニルアルキルエーテル、アルキルフェノールのホルマリン縮合物、デンプンのリン酸エステル及びパラフィンからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0014】
本発明においては、無機粉体100質量部に対し、固着剤が0.5〜10質量部含有されていることが好ましい。
【0015】
本発明のシンクイムシ類の防除方法は、上記本発明の防除剤を含む散布液を調製する工程と、散布液を果実の表面に散布して、果実の表面に防除剤を塗布する工程とを備えることを特徴としている。
【0016】
本発明の防除方法によれば、安全でかつ経済的にシンクイムシ類を防除することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、安全でかつ経済的にシンクイムシ類を防除することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0019】
<無機粉体>
本発明において用いる無機粉体としては、炭酸カルシウムまたは炭酸マグネシウムである。炭酸マグネシウムには、塩基性炭酸マグネシウムも含まれる。また、炭酸カルシウムと炭酸マグネシウムの複塩鉱物であるドロマイトを本発明の無機粉体として用いてもよい。これらの中でも、特に、炭酸カルシウムが好ましく用いられる。
【0020】
炭酸カルシウムとしては、重質炭酸カルシウム、沈降性炭酸カルシウムなどを用いることができる。
【0021】
無機粉体の平均粒子径は、0.1〜5μmの範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは、0.1〜3μmの範囲内であり、さらに好ましくは、0.5〜1μmの範囲内である。無機粉体の平均粒子径が小さ過ぎると、嵩が高くなり、取り扱いにくい場合がある。無機粉体の平均粒子径が大き過ぎると、本発明の効果が十分に得られない場合がある。
【0022】
<固着剤>
本発明において用いる固着剤としては、合成樹脂エマルション、ポリアクリル酸塩、ポリビニルアルコール、ポリオキシエチレン、ワックス、ポリビニルアルキルエーテル、アルキルフェノールのホルマリン縮合物、デンプンのリン酸エステル及びパラフィンからなる群より選ばれる少なくとも1種などが挙げられる。
【0023】
<防除剤>
本発明の防除剤において、無機粉体100質量部に対し、固着剤は0.5〜10質量部含有されていることが好ましく、さらに好ましくは、1〜5質量部含有されていることが好ましい。固着剤の量が少な過ぎると、無機粉体の固着性が低下し、効果の持続性が問題となる場合がある。固着剤の含有量が多過ぎると、果実を収穫する際に、果実の表面に白い汚れが残る場合がある。
【0024】
本発明における防除剤の形態は、特に限定されるものではなく、無機粉体と固着剤が含有されていればよい。例えば、粉体の形態であってもよいし、固着剤を溶解し無機粉体を分散した分散液の形態であってもよい。分散液の形態とする場合には、現場において水で希釈して散布液として用いることができるような、濃縮した分散液の状態であってもよい。分散媒としては、一般に水が用いられる。
【0025】
<防除方法>
本発明に従う防除方法においては、本発明の防除剤を含む散布液を先ず調製する。防除剤は、上述のように、粉体の形態であってもよいし、分散液の形態であってもよい。好ましくは、濃縮された原液としての分散液を用い、この分散液を水に希釈することにより、散布液として用いる。
【0026】
散布液中の無機粉体の濃度は、質量比(分散媒/防除剤固形分)で、10倍〜300倍の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは、20倍〜200倍の範囲であり、特に好ましくは、25倍〜100倍の範囲である。
【0027】
固着剤の散布液中における濃度は、上記の散布液中の無機粉体の含有量に応じて適宜調整される。
【0028】
本発明における散布液は、例えば、無機粉体と固着剤とを混合した混合粉体を、分散媒としての水に分散させることにより調製することができる。
【0029】
本発明の防除方法において、散布液の散布量は、特に限定されるものではないが、例えば、ほ場10アール当たり200〜700リットルとすることが好ましい。散布量が少な過ぎると、本発明の効果が十分に得られない場合がある。散布量が多過ぎると、散布量の増加に比例した効果を得ることができず、経済的に好ましくない場合がある。
【0030】
本発明の防除剤を、果実の表面に塗布することにより、シンクイムシ類の産卵を防止することができる。上述のように、シンクイムシ類の果実表面への産卵は、夜間において行われるので、スリップス類の防除における塗布表面を白くし、反射させることによる防除の効果は期待できない。シンクイムシ類の産卵防止の効果は、スリップス類の防除の作用効果と異なるものであると考えられ、シンクイムシ類の防除は、本発明の防除剤を果実表面に塗布することにより、果実表面に凹凸が形成されることによるものであると考えられる。
【0031】
すなわち、果実表面に本発明の防除剤を塗布することにより、果実表面に凹凸を形成し、シンクイムシ類が凹凸の形成された表面を果実表面ではないと認識することによるものと思われる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を具体的な実施例により説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0033】
(実施例)
<防除剤の調製>
無機粉体として、平均粒径1μmの重質炭酸カルシウムを用いた。この炭酸カルシウム95質量部と、固着剤としての酢酸ビニル樹脂(エマルションパウダー)5質量部とを混合し、粉体としての防除剤を調製した。
【0034】
<散布液の調製>
上記のようにして調製した防除剤を、防除剤に対し質量比で50倍の水に添加し攪拌混合して、散布液を調製した。
【0035】
<散布液の散布>
上記のようにして調製した散布液を、背負式充電型噴霧器を用いて1主枝当たり約5リットル散布した。
【0036】
調査果実数を100とし、I区及びII区で、それぞれ調査果実数を50とした。
【0037】
約2週間おきに3回散布を行い、最後の散布から約80日後に果実を収穫した。
【0038】
<評価結果及び考察>
収穫した果実を解体し、シンクイムシ類(モモシンクイガ)が産卵したものを被害果とし、被害果数及び被害果率を求めた。結果を表1に示す。
【0039】
また、散布液を散布していないものについても、同様にして調査果実数を100とし、被害果数及び被害果率を求めた。
【0040】
【表1】

【0041】
表1に示す結果から明らかなように、本発明に従う防除剤を用いた散布液を散布することにより、非常に高い防除効果が認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シンクイムシ類が果実に産卵するのを防止するため、果実の表面に塗布する防除剤であって、
炭酸カルシウムまたは炭酸マグネシウムからなる無機粉体と、無機粉体を果実表面に固着させるための固着剤とを含有することを特徴とするシンクイムシ類の防除剤。
【請求項2】
無機粉体の平均粒子径が、0.1〜3μmの範囲内であることを特徴とする請求項1に記載のシンクイムシ類の防除剤。
【請求項3】
無機粉体が、炭酸カルシウムであることを特徴とする請求項1または2に記載のシンクイムシ類の防除剤。
【請求項4】
固着剤が、合成樹脂エマルション、ポリアクリル酸塩、ポリビニルアルコール、ポリオキシエチレン、ワックス、ポリビニルアルキルエーテル、アルキルフェノールのホルマリン縮合物、デンプンのリン酸エステル及びパラフィンからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のシンクイムシ類の防除剤。
【請求項5】
無機粉体100質量部に対し、固着剤が0.5〜10質量部含有されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のシンクイムシ類の防除剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の防除剤を含む散布液を調製する工程と、
散布液を果実の表面に散布して、果実の表面に防除剤を塗布する工程とを備えることを特徴とするシンクイムシ類の防除方法。

【公開番号】特開2013−87091(P2013−87091A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229412(P2011−229412)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(593119527)白石カルシウム株式会社 (17)
【Fターム(参考)】