シングル丸編地およびワイシャツ
【課題】防透け性や仕立て映え性に優れて軽量であるとともに、通気性や吸汗速乾性にも優れたシングル丸編地および該シングル丸編地を用いて縫製したワイシャツを提供する。
【解決手段】シングル丸編地は、1インチ当たりのコースの数が50以上150以下であり、編成時にウエルトが含まれており、シンカーループ面において、ウエルトにより編目間で橋渡し状となる部分の間隔が1編目以上8編目以下である橋渡し部を有し、目付が100g/m2以上200g/m2以下であり、肌面の吸水速度が3秒以下であり、表面と肌面の吸水拡散面積比が3倍以上であり、かつ拡散性残留水分率が10%以下になるまでの時間が45分以内である。
【解決手段】シングル丸編地は、1インチ当たりのコースの数が50以上150以下であり、編成時にウエルトが含まれており、シンカーループ面において、ウエルトにより編目間で橋渡し状となる部分の間隔が1編目以上8編目以下である橋渡し部を有し、目付が100g/m2以上200g/m2以下であり、肌面の吸水速度が3秒以下であり、表面と肌面の吸水拡散面積比が3倍以上であり、かつ拡散性残留水分率が10%以下になるまでの時間が45分以内である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シングル丸編地および該シングル丸編地を用いて縫製したワイシャツに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、衣料用編物としてシングル丸編地が知られている。図16は、シングル丸編地の一例である天竺組織の要部の構成を示す編地断面モデル図である。同図に示す天竺組織4は、表糸41のみの構成糸で1コースを形成する一層構造シングル丸編地である。図17は、図16の編方図である。図17に示すように、天竺組織4は、1給糸のみで編成されている。
【0003】
図18は、シングル丸編地の別な例である鹿の子組織の要部の構成を示す編地断面モデル図である。同図に示す鹿の子組織5も、表糸51のみの構成糸で1コースを形成する一層構造シングル丸編地である。図19は、図18の編方図である。図19に示すように、鹿の子組織5は、ニットによる編目a、c、e、gとタックによる編目b、d、f、hとを交互に形成したものであり(a→b→c→d→e→f→g→h)、編地表面に凹凸形状変化を付与する変形組織である。
【0004】
上記以外のシングル丸編地としては、ポリエステルフィラメントの異形断面糸などを用いたものも知られている。
【0005】
これらのシングル丸編地は、薄く、軽量で通気性に優れるとともに、ストレッチ性も有することから、Tシャツ、ポロシャツなどに多く使用されている。また、ポリエステルフィラメントの異形断面糸などを用いたシングル丸編地は、吸汗速乾性に優れており、スポーツ用のシャツ地にも使用されている。
【0006】
その一方で、上述したシングル丸編地は、形態安定性に乏しく、ボリューム感が無く、透けやすかった。また、上述したシングル丸編地は、生地の表裏が同一糸種で構成されるため、吸水した水分が生地の表裏で拡散されてしまい、発汗時のべとつき感が高かった。さらに、上述したシングル丸編地は、ハリコシが不足しているため仕立て映えが悪かった。このため、上述したシングル丸編地を、ビジネスシャツやドレスシャツ、カジュアルシャツなどのワイシャツ用の素材として適用することができなかった。
【0007】
このような状況の下、例えば特許文献1では、紡績糸を使用したワイシャツ用の編地に関する技術が開示されている。この技術によれば、上述したシングル丸編地の課題であるハリコシの不足に起因する仕立て映えの悪さを解消することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−303403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、近年の地球温暖化に伴う夏場のクールビズ対策用に、通気性や吸汗速乾性を有するワイシャツ素材へのニーズが高まってきている。このようなワイシャツ用の素材として、上記特許文献1の技術を適用することも考えられる。しかしながら、上記特許文献1では紡績糸を使用しているため、合成繊維フィラメントを主素材とするスポーツ素材と同等の吸汗速乾性を得ることができなかった。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、防透け性や仕立て映え性に優れて軽量であるとともに、通気性や吸汗速乾性にも優れたシングル丸編地および該シングル丸編地を用いて縫製したワイシャツを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るシングル丸編地は、1インチ当たりのコースの数が50以上150以下であり、編成時にウエルトが含まれるシングル丸編地であって、シンカーループ面において、ウエルトにより編目間で橋渡し状となる部分の間隔が1編目以上8編目以下である橋渡し部を有し、目付が100g/m2以上200g/m2以下であり、肌面の吸水速度が3秒以下であり、表面と肌面の吸水拡散面積比が3倍以上であり、かつ拡散性残留水分率が10%以下になるまでの時間が45分以内であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係るシングル丸編地は、上記発明において、合成繊維マルチフィラメントを60%以上含むことを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係るシングル丸編地は、上記発明において、前記合成繊維マルチフィラメントを80%以上含むことを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係るシングル丸編地は、上記発明において、肌面保水率が40%以下であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係るシングル丸編地は、上記発明において、通気量が80cm3/cm2/sec以上であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係るシングル丸編地は、上記発明において、少なくとも表糸と裏糸とによって構成され、前記裏糸は、前記表糸よりなる表1編目の内側に、該表糸と相似形状をなしてニットにより配置される二重編目部を有し、前記橋渡し部は、前記裏糸が前記二重編目部の間で橋渡し状をなすことによって形成されることを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係るシングル丸編地は、上記発明において、前記橋渡し部は、インレイ組織の一部をなすことを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係るシングル丸編地は、上記発明において、親水性樹脂が付与されていることを特徴とする。
【0019】
また、本発明に係るワイシャツは、上記いずれかに記載のシングル丸編地を用いて縫製したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、防透け性や仕立て映え性に優れて軽量であるとともに、通気性や吸汗速乾性にも優れたシングル丸編地および該シングル丸編地を用いて縫製したワイシャツを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明の実施の形態1に係るシングル丸編地の要部の構成を示す編地断面モデル図である。
【図2】図2は、図1の編地に対応する編方図である。
【図3】図3は、本発明の実施の形態1に係る衣料品の構成を示す図である。
【図4】図4は、本発明の実施の形態2に係るシングル丸編地の要部の構成を示す編地断面モデル図である。
【図5】図5は、図4の編地に対応する編方図である。
【図6】図6は、本発明の実施の形態3に係るシングル丸編地の要部の構成を示す編地断面モデル図である。
【図7】図7は、図6の編地に対応する編方図である。
【図8】図8は、本発明の実施例1に係るシングル丸編地に対応する編方図である。
【図9】図9は、本発明の実施例2に係るシングル丸編地に対応する編方図である。
【図10】図10は、本発明の実施例3に係るシングル丸編地に対応する編方図である。
【図11】図11は、本発明の実施例4に係るシングル丸編地に対応する編方図である。
【図12】図12は、本発明の比較例1に係るシングル丸編地に対応する編方図である。
【図13】図13は、本発明の比較例2に係るシングル丸編地に対応する編方図である。
【図14】図14は、本発明の比較例3に係るシングル丸編地に対応する編方図である。
【図15】図15は、本発明の比較例4に係るシングル丸編地に対応する編方図である。
【図16】図16は、天竺組織の要部の構成を示す編地断面モデル図である。
【図17】図17は、図16の編地に対応する編方図である。
【図18】図18は、鹿の子組織の要部の構成を示す編地断面モデル図である。
【図19】図19は、図18の編地に対応する編方図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態(以下、「実施の形態」という)を説明する。なお、以下の説明で参照する図面は模式的なものである。
【0023】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係るシングル丸編地の要部の構成を示す編地断面モデル図である。同図に示すシングル丸編地1は、編成時にウェルトが含まれるシングル丸編地であり、表糸11および裏糸12の2種類の構成糸からなる。
【0024】
表糸11は、ニットにより表編目a、b、c、d、e、f、g、hを形成する。
裏糸12は、表編目a、c、e、gの内側に表糸11と相似形状をなしてそれぞれ配置され、表糸11とともに二重編目部121を形成する。また、裏糸12は、シンカーループ面において、ウエルトにより表編目b、d、f、hの裏側の編目間を橋渡し状に1編目ずつ飛ばした橋渡し部122を有している。このような橋渡し部122を有することにより、シングル丸編地1を用いて縫製した衣料品は、肌面(裏面)が着用者の肌と点接触することとなり、着用者が発汗した場合のべとつき感が抑制される。
【0025】
橋渡し部122は、1編目以上8編目以下であることが好ましく、1編目以上7編目以下であればより好ましい。橋渡し部122がないと、肌面が着用者の肌と点接触するような組織とならないため、発汗時のべとつき感が高くなる。また、橋渡し部122が9編目以上であると長過ぎるため、発汗時に肌にくっついてしまい、べとつき感が高まる他、着用時に引っ掛かりの原因となる。
【0026】
シングル丸編地1では、表糸11の表編目b、d、f、hと裏糸12の橋渡し部122との間に空間Aが形成される。この空間Aは、表編目が編地の幅方向であるウエル方向に収縮することにより、安定した状態で一定の体積を保つことができる。
【0027】
図2は、図1の編地に対応する編方図である。図2に示すように、シングル丸編地1を編成する編機は、表糸11による表編目を形成させる給糸口F1、および裏糸12による裏編目を形成させる給糸口F2の計2給糸口によって編成される。この場合、編機のカム形状を、給糸口F2における編機の編針(シリンダー針)C1〜C8を完全なニットクリア位置をとらないで上下させる形状であり、かつシンカーを不均一に前後させるシンカーキャップの形状とすることで、二重構造の編目を製造することができる。
【0028】
本実施の形態1では、給糸口F1で表糸11による表編目a〜hを編成した後、次の給糸口F2で裏糸12を編針C1、C3、C5、C7で編目を編成させる際、給糸口F1における編針C1での編成後の編目a、編針C3での編成後の編目c、編針C5での編成後の編目e、編針C7での編成後の編目gをクリアさせないようにする。これにより、1編目二重ニット構造と、裏糸12の橋渡し部122とを有し、表編目b、d、f、hと橋渡し部122との間に空間Aが形成された二層構造のシングル丸編地1を得ることができる。
【0029】
以上の構成を有するシングル丸編地1には、親水性樹脂を付与する吸水加工を施すことが望ましい。これは、シングル丸編地1は、肌面が橋渡し構造となっているため、親水性樹脂を付与しないと、水分が橋渡し部122へ移り、水分接触時の吸水性が阻害され易くなってしまうためである。
ここで、親水性樹脂とは、水酸基やエーテル基に代表される親水基を持った樹脂のことであり、布帛の製造に使用する場合、吸水加工剤に含まれるものである。例えば、ポリエステル系素材に使用する親水性樹脂としては、ポリエステル系樹脂を含有した吸水剤を用いることができる。また、ポリアミド系素材に使用する親水性樹脂としては、ポリアミド系樹脂を含有した吸水剤を用いることができる。
【0030】
吸水加工を施す工程は、使用する加工剤に応じて定められる。この工程は、例えば浴中処理またはパッド・ドライ処理によって実現される。また、濃度、温度等の吸水加工条件についても、使用する加工剤に応じて定められる。
【0031】
シングル丸編地1は、1インチ(2.54cm)当たりのコースの数が50以上150以下であることが好ましく、55以上145以下であればより好ましい。1インチ当たりのコースの数が50未満であると、生地が薄くなり、透け感が強くなる他、伸びがなくなる。また、1インチ当たりのコースが150より大きいと、目が詰まりすぎてふかつき感が強くなったり、通気性が低下したりする。
【0032】
シングル丸編地1は、1インチ当たりのウエルが40以上80以下であることが好ましく、45以上75以下であればより好ましい。1インチ当たりのウエルが40以下であると、コースの場合と同様、生地が薄くなり、透け感が強くなる。また、1インチ当たりのウエルが80より大きいと、目が詰まりすぎ、シャツ地に適さないふかつき感が強くなる。
【0033】
シングル丸編地1は、目付が100g/m2以上200g/m2以下であることが好ましい。目付が100g/m2より小さいと、生地が薄くなり過ぎ、透け感が強くなる。また、目付が200g/m2より大きいと、生地が厚くなり過ぎ、ふかつき感が強くなったり、通気性が低下したりする。
【0034】
シングル丸編地1は、クールビス用としては、通気量が80cm3/cm2/sec以上であることが好ましく、90cm3/cm2/sec以上であればより好ましい。通気量が80cm3/cm2/secより小さいと、通気性が低く、蒸れ感が強くなったり、衣服内温度が上がり、着用時の不快感が強まってしまう。
なお、寒さを感じる程度に温度が低い室内での着用や、秋冬移行時の寒い日の着用を想定する場合には、通気量が80cm3/cm2/secより小さい場合であっても保温効果が得られるため、好適に使用することができる。
【0035】
シングル丸編地1は、吸水速度が3秒以下であることが好ましく、2秒以下であればより好ましく、1秒以下であればさらに好ましい。吸水速度が3秒より大きいと、発汗時の汗の吸収が遅いため、べとつき感の原因となる。
【0036】
シングル丸編地1は、肌面保水率が40%以下であることが好ましく、30%以下であればより好ましい。肌面保水率が40%より大きいと、吸汗後の汗が肌面に残存する割合が大きいため、べとつき感の原因となる他、冷え感の原因となる。
【0037】
シングル丸編地1は、肌面に滴下吸水後の肌面に対する表面の吸水拡散面積比が3倍以上であることが好ましく、4倍以上であればより好ましい。吸水拡散面積比は、表面に汗を移動させ、表面での拡散の度合いを示すもので、この面積比が大きいほど、大気との接触効率が良くなるので乾燥性にも優れている。吸水拡散面積比が3倍未満であると、肌面からの移行が少なく、肌面の保水率が高くなる原因となるか、あるいは、表面での拡散効果が低く、乾燥性に劣ったものとなる。
【0038】
シングル丸編地1は、拡散性残留水分率が10%以下になる時間が45分以内であることが好ましく、40分以内であればより好ましく、35分以内であればさらに好ましい。拡散性残留水分率が10%以下になる時間が45分を超えると乾燥性が低く、汗処理性に劣った生地となってしまう。
【0039】
シングル丸編地1の表糸11と裏糸12では、合成繊維マルチフィラメントを60%以上使用することが好ましく、80%以上であればより好ましい。吸汗後の速乾性を満たすためには、表糸11および裏糸12として公定水分率の低い合成繊維マルチフィラメントを主として使用するのが望ましい。これに対して、綿などの吸水保水性の高い天然繊維の混率が高いと、吸水後の拡散性および乾燥性が低下してしまう。なお、吸湿性や天然性の風合いなどが求められる場合には、上述した肌面保水率、吸水拡散面積比および拡散性残留水分率の好適な範囲内で、レーヨン、綿、麻などの吸湿性に優れた天然繊維を用いることも可能である。
【0040】
ここで、合成繊維マルチフィラメントとしては、例えばナイロン6、ナイロン66に代表されるポリアミド系繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメンチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系繊維、ポリ乳酸繊維等の生分解性繊維を用いることができる。なお、これらの繊維は、酸化チタン等の添加物を含んでいてもよいし、吸湿性向上等の機能性付与のためにポリマー改質したものであってもよい。
【0041】
また、合成繊維マルチフィラメントにおける単繊維単位の断面形状も限定されるものではなく、丸形、三角形、八葉形、扁平形、Y字形などに代表される様々な異形断面糸を使用することができる。
【0042】
シングル丸編地1の表糸11および裏糸12に対し、種類の異なるポリマー、例えば粘度の異なるポリマーからなる芯鞘またはサイドバイサイド型の複合糸を使用することもできる。
【0043】
シングル丸編地1には、上述した原糸に仮撚加工を施した仮撚加工糸を用いることが好ましい。仮撚加工糸の使用割合は、50%以上であることが好ましく、80%以上であればより好ましく、100%であってもよい。合成繊維マルチフィラメントの仮撚加工糸は、捲縮が付与されているため、生地に伸びや膨らみ感を生じることに加え、表面タッチ感がソフトになる他、防透け性も高くなる。これに対して、仮撚加工を施していない合成繊維マルチフィラメントを100%使用すると、生地が薄く、透け感が強くなる他、捲縮による単糸間の絡みが少なく、引っ掛かりによって糸が引き出され易くなるため、スナッグが発生しやすいという問題がある。
【0044】
合成繊維マルチフィラメントには、ポリアクリルニトリル、ポリプロピレンなどの合成繊維、レーヨン、ポリノジック、キュプラなどの再生繊維、アセテート、トリアセテートなどの半合成繊維などをニーズに合わせて使用してもよい。すなわち、合成繊維マルチフィラメントは、ニーズによって最適な素材を選定すればよい。
【0045】
また、合成繊維マルチフィラメントの単糸繊度は、0.3以上7.0以下であることが好ましく、0.4以上6.0以下であればより好ましい。合成繊維マルチフィラメントの単糸繊度が0.3未満であると、単糸数が多く、単糸間の空気層が多くなり、保温効果が出る他、単糸が切れ、毛玉になるピリングが発生し易くなる。また、合成繊維マルチフィラメントの単糸繊度が7.0より大きいと、単糸繊度が太すぎるため、風合いが硬くなる他、肌荒れの原因となる。
【0046】
合成繊維マルチフィラメントを用いる場合、肌面保水率を下げ、肌面に対する表面の吸水拡散面積比を大きくするためには、表糸11の単糸繊維間が作る空隙が橋渡し部122の繊維間が作る空隙より小さく、かつ多くなるようにすればよい。これにより、毛細管現象の効果が得られ、肌面から吸水された汗が表面に素早く移行して拡散することにより、肌面が迅速に乾燥し、高い汗処理性を実現することができる。そのため、表糸11には、橋渡し部122よりも単糸繊度が細くて単糸数が多い糸や、異形断面の糸を使用することが好ましい。
【0047】
シングル丸編地1は、シングル丸編機で製編可能である。ゲージは特に限定されないが、28ゲージ以上60ゲージ以下であることが好ましい。上述した1インチ当たりのコースの数に対する条件を満たすためには、28ゲージ以上であることが好ましい。ただし、60ゲージを超えると、密度が密に成り過ぎて通気性が低下してしまうため、60ゲージ以下であることが好ましい。
【0048】
シングル丸編地1は、生機を製編した後、精練、染色、熱セットなどの染色加工を行うことによって得られる。加工方法は、通常の丸編地の加工方法に準じて行えばよい。また、染色段階での付帯加工として、上述した吸水加工に加えて防汚加工、抗菌加工、消臭加工、防臭加工、吸水加工、吸湿加工、制電加工、減量加工などを行うとともに、2次加工として、プリント加工、カレンダー加工、エンボス加工、シワ加工、起毛加工、オパール加工などを行うことが好ましい。どの加工を行うかは、ワイシャツの特性に応じて適宜選択すればよい。
【0049】
なお、本実施の形態1において、肌面には橋渡し部を形成する必要があるが、表面の組織は特に限定されない。このため、表面に、例えばニット、タック、ウエルトを自在に組み合わせることによって形成される変形柄を適用してもよい。
【0050】
また、本実施の形態1において、表糸11と裏糸12の太さは特に限定されるものではなく、目標目付や要求される意匠性等の条件に応じて適宜設定すればよい。
【0051】
図3は、以上の構成を有するシングル丸編地1を用いて縫製したワイシャツの構成を示す図である。同図に示すワイシャツ100は、二重編目構造を有するとともに裏糸12の橋渡し形状による空間Aが形成されたシングル丸編地1を用いて縫製されているため、通気性や吸汗速乾性に優れており、薄地で軽量であるとともに、防透け性やハリコシ感がアップしており仕立て映え性にも優れている。したがって、ワイシャツ100は、クールビズ用として好適である。
【0052】
なお、本実施の形態1に係るワイシャツには、図3に示すような形状を有するもの以外にも、例えばドレスシャツやカジュアルシャツなども含まれる。この点は、本発明の全ての実施の形態に共通する事項である。
【0053】
以上説明した本発明の実施の形態1によれば、シンカーループ面において、ウエルトにより編目間で橋渡し状となる部分の間隔が1編目以上8編目以下である橋渡し部を有し、目付が100g/m2以上200g/m2以下であり、肌面の吸水速度が3秒以下であり、表面と肌面の吸水拡散面積比が3倍以上であり、かつ拡散性残留水分率が10%以下になるまでの時間が45分以内であるため、防透け性や仕立て映え性に優れて軽量であるとともに、通気性や吸汗速乾性にも優れたシングル丸編地および該シングル丸編地を用いて縫製したワイシャツを提供することができる。
【0054】
また、本実施の形態1によれば、橋渡し部は、表糸のループに比べて緊張度が低く、単糸間が開繊傾向にあるため、水分が毛細管現象で表糸へ移行しやすい構造となっている。そのため、肌面側の保水率が低く、吸汗後の表面と肌面の吸水拡散面積比が大きく、べとつき感が軽減される。
【0055】
また、本実施の形態1によれば、通気性が高く、低目付のため、乾燥速度も速い。したがって、汗処理性にも優れている。
【0056】
(実施の形態2)
図4は、本発明の実施の形態2に係るシングル丸編地の要部の構成を示す編地断面モデル図である。図5は、図4の編地に対応する編方図である。図4および図5に示すシングル丸編地2は、編成時にウェルトが含まれるシングル丸編地であり、表糸21および裏糸22の2種類の構成糸からなる。
【0057】
表糸21は、ニットにより表編目a、b、c、d、e、f、g、hを形成する。
裏糸22は、表編目a、c、e、gで、タック編により表編目に引っ掛かった形で変形編目を形成し、シンカーループ面において、ウエルトにより表編目b、d、f、hの裏側の編目間を橋渡し状に1編目すつ飛ばした橋渡し部221を有している。このような橋渡し部221を有することにより、表編目b、d、f、hの内側と橋渡し部221との間には、空間Bが形成される。
【0058】
シングル丸編地2が満たすべき各種条件は、実施の形態1に係るシングル丸編地1が満たすべき各種条件(実施の形態1を参照)と同様である。
【0059】
本実施の形態2においても、シングル丸編地2を用いて縫製したワイシャツがクールビズ用に好適であることは、上記実施の形態1と同様である。
【0060】
以上説明した本発明の実施の形態2によれば、上記実施の形態1と同様、通気性や吸汗速乾性に優れており、薄地で軽量であるとともに、防透け性や仕立て映え性にも優れたシングル丸編地および該シングル丸編地を用いて縫製したワイシャツを提供することができる。
【0061】
(実施の形態3)
図6は、本発明の実施の形態3に係るシングル丸編地の要部の構成を示す編地断面モデル図である。図7は、図6の編地に対応する編方図である。図6および図7に示すシングル丸編地3は、編成時にウェルトが含まれるシングル丸編地であり、表糸31および裏糸32の2種類の構成糸からなる。
【0062】
表糸31は、ニットにより表編目b、c、d、f、g、hを形成し、ウエルトにより表編目a、eでは編目を形成しない。
裏糸32は、ニットにより表編目a、eを形成し、ウエルトにより表編目b、c、d、f、g、hでは編目を形成しない。
【0063】
このような構成を有するシングル丸編地3は、シンカーループ面において、ウェルトにより表編目b、c、d、f、g、hの裏側の編目間を橋渡し状に3編目ずつ飛ばした橋渡し部321を有する。これにより、表編目b、c、d、f、g、hの内側と橋渡し部321との間には、空間Cが形成される。
【0064】
シングル丸編地3が満たすべき各種条件は、実施の形態1に係るシングル丸編地1が満たすべき各種条件(実施の形態1を参照)と同様である。
【0065】
本実施の形態3においても、シングル丸編地3を用いて縫製したワイシャツがクールビズ用に好適であることは、上記実施の形態1と同様である。
【0066】
以上説明した本発明の実施の形態3によれば、上記実施の形態1と同様、通気性や吸汗速乾性に優れており、薄地で軽量であるとともに、防透け性や仕立て映え性にも優れたシングル丸編地および該シングル丸編地を用いて縫製したワイシャツを提供することができる。
【0067】
ここまで、本発明を実施するための形態を説明してきたが、本発明は上述した実施の形態1〜3によってのみ限定されるべきものではない。すなわち、本発明は、ここでは記載していない様々な実施の形態等を含みうるものである。
【実施例】
【0068】
以下、本発明の実施例を説明する。なお、本発明は、後述する実施例によって限定されるものではない。
本発明の実施例においては、各種編地の性能を評価するための評価方法として、以下に説明する(1)〜(7)の方法を採用した。
【0069】
(1)ウエル、コース
ウエル、コースは、JISL1096の編物の密度の測定方法に準じて行う。すなわち、試料を平らな台の上に置き、不自然なしわや張力を除いた後、異なる5ヶ所について、1インチ(2.54cm)当たりのウエルとコースの数を数え、それぞれ平均値を算出する。
【0070】
(2)目付
目付は、JISL1096A法の標準状態における単位面積当たりの質量の測定方法に準じて測定する。すなわち、サイズ20cm×20cmの試験片を2枚採取し、それぞれの標準状態での質量(g)を測定し、標準状態での単位面積(1m2)当たりの質量Sm(g/m2)を、Sm=W/Aにより算出する。この式で、右辺のWは標準状態における試験片の質量(g)であり、Aは標準状態における試験片の面積(m2)である。
この後、2枚のSmの平均値を、小数第2位を四捨五入することによって小数第1位まで算出する。以下、ある演算を行う際、小数第(n+1)位を四捨五入することによって小数第n位まで算出することを、単に「小数第n位まで算出する」という(n:自然数)。
【0071】
(3)吸水速度
編地からサイズ約15cm×15cmの試験片を3枚採取し、各試験片を直径10cm以上の刺繍枠あるいはビーカーに、余分な張力がかからないように、肌面側を上にして、試験片の表面が水平となるように置いて固定する。
また、1滴(約0.005cc)の蒸留水が垂直に滴下するように調整した注射針(TERUMO26G1/2,0.45×13mm,注射器の容量1cc)の先端が、水平に置いた試験片の表面から5cm離れるように所定のホルダーに固定する。
この状態で、水滴を試験片上に1滴滴下した時から、試験片上の水滴が特別な反射をしなくなるまでの吸水時間をストップウォッチで測定し、0.1秒単位で読み取る。ここで、「特別な反射をしなくなる」状態とは、試験片が水滴を吸収するにつれて鏡面反射が消え、湿潤だけが残った状態をいう。
以上の操作を全ての試験片について行い、吸水速度の平均値をその編地の吸水速度とする。
【0072】
(4)肌面保水率
まず、温度20℃、湿度65%RHで調湿した編地からサイズ10cm×10cmの試験片を3枚採取する。
ガラス板上に蒸留水1.0mlを滴下した後、そのガラス板上に試験片1枚を肌に接する面が蒸留水に接するように載せ、60秒間放置する。
この後、試験片を別のガラス板上に移し、同一サイズにカットした濾紙を2枚使用してその試験片をサンドイッチ上に挟み、荷重5g/cm2を加えて60秒間放置する。
続いて、吸水前後の重量の差から得た試験片の保水重量、および肌面に接した濾紙の含水重量から、試験片の肌面保水率を算出する。
この操作を全ての試験片に対して行い、肌面保水率の平均値をそのシングル丸編地の肌面保水率とする。
【0073】
表面の保水率が大きく、かつ、表面と肌面の保水率比が大きい編地は、滴下された蒸留水を表面層側へ効率よく移動する能力(いわゆる透水能力)に優れている。したがって、そのような編地を用いて縫製した衣料品を着用する場合には、着用者が発汗した時のべとつき感が少なくなる。
【0074】
(5)吸水拡散面積比
まず、編地からサイズ10cm×10cmの試験片を3枚採取する。
この後、採取した試験片に対し、ガラス板上に市販の水性インクを2倍に水で希釈したインク液を0.1cc滴下し、その上にサイズ10cm×10cmの試験片の肌面を下にして置き、60秒間放置してインク液を吸収させる。
続いて、試験片を別のガラス板上に移動し、肌面側を下にして3分間放置する。
続いて、試験片の表面および裏面のインク液の拡散面積をそれぞれ測定し、その測定値に基づいて面積比(表面の拡散面積/肌面の拡散面積)を算出する。
以上の操作を全ての試験片に対して行い、面積比の平均値をその編地の吸水拡散面積比とする。
【0075】
吸水拡散面積比の大小は、インク液の吸収状態を示すものである。すなわち、吸水拡散面積比が大きいものは、滴下されたインク液を効率よく表面層側に移動するいわゆる吸水、透水、拡散能力に優れている。また、表面層側の拡散面積が大きいことは、大気との接触効率が良好で乾燥性に優れていることを示しており、その編地を用いて縫製した衣料品を着用する場合には、着用者が発汗した時のべとつき感が少なくなる。
【0076】
(6)拡散性残留水分率
まず、温度20℃、湿度65%RHで調湿した編地からサイズ10cm×10cmの試験片を3枚採取した後、各試験片の重量を測定し、これを元重量とする。
続いて、ガラス板上に蒸留水0.3mlを滴下し、試験片の肌面が蒸留水に接するように載せ、5秒間放置する。
試験片を上記の如くガラス板上に載せてから5秒経過した後、直ちに試験片をハンガー型重量測りにつり下げて重量測定を行う。その後、5分ごとに試験片の重量を測定する。なお、重量の測定値は小数第3位まで求める。そして、5分ごとに測定した重量と元重量とを用いることにより、次式で定義される拡散性残留水分率(%)を算出する。
拡散性残留水分率(%)
={[測定時重量−元重量]/[測定開始時重量−元重量]}×100
5分ごとの試験片の重量測定および拡散性残留水分率の算出は、拡散性残留水分率の値が10%以下になるまで継続して行い、その値が10%以下になった時点の測定時間を求める。
以上の操作を全ての試験片に対して行い、得られた測定時間(拡散性残留水分率が10%以下になった時点の測定時間)の平均値を算出する。
【0077】
(7)通気量
まず、温度20℃、湿度65%RHで調湿した編地からサイズ20cm×20cmの試験片を5枚採取する。
各試験片に対して、JISL1096A 法(フラジール形法)に準じて、フラジール型試験機で通気量(cm3/cm2/sec)を測定し、5枚の平均値を小数第1位まで算出する。
【0078】
以下、表1を参照して、本発明の実施例1〜4および比較例1〜4を詳細に説明する。
【表1】
【0079】
(実施例1)
本発明の実施例1は、表糸に84デシテックス36フィラメントのポリエステル仮撚加工糸を用いるとともに、裏糸に56デシテックス24フィラメントのポリエステル仮撚加工糸を用いて、36ゲージのシングル丸編機で編成したものである。
【0080】
図8は、本実施例1に係るシングル丸編地に対応する編方図である。本実施例1において、表糸は給糸口F1、F3、F4、F6で編成し、裏糸は給糸口F2、F5で編成した。これにより、部分的に二重編目となり、裏糸のウエルトの部分が橋渡し部を形成するシングル丸編地の生機を得た。この生機は、実施の形態1に係るシングル丸編地1を含んでいる。
【0081】
上記の如く得られた生機を、通常のポリエステル丸編地の染色加工条件のもと、液流染色機内でリラックス、精錬、染色加工、吸水加工を行った後、熱セット機で仕上げセットを行った。その結果、1インチ当たり43ウエル、1インチ当たり87コース、目付148g/m2、吸水速度1秒未満、肌面保水率11.4%、吸水拡散面積比11.6、拡散性残留水分率が10%以下となるまでの時間(拡散性残留水分率10%以下達成時間)30分、通気量202cm3/cm2/secの生地を得た。得られた生地は、吸汗速乾性、汗処理性、通気性に優れており、クールビズに好適であることが分かった。また、得られた生地は適度なハリコシを有しており、防透け性や仕立て映え性がよく、ワイシャツに好適な素材であることも分かった。
【0082】
(実施例2)
本発明の実施例2は、表糸に110デシテックス48フィラメントのポリエステル仮撚加工糸を用いるとともに、裏糸に84デシテックス36フィラメントのポリエステル仮撚加工糸を用いて、32ゲージのシングル丸編機で編成したものである。
【0083】
図9は、本実施例2に係るシングル丸編地に対応する編方図である。本実施例2において、表糸は給糸口F1、F3、F5で編成し、裏糸は給糸口F2、F4、F6で編成した。これにより、部分的に表編目が二重編目となり、裏糸のウエルトの部分が橋渡し部を形成するシングル丸編地の生機を得た。この生機は、実施の形態1に係るシングル丸編地1を含んでいる。
【0084】
上記の如く得られた生機を、通常のポリエステル丸編地の染色加工条件のもと、液流染色機内でリラックス、精錬、染色加工、吸水加工を行った後、熱セット機で仕上げセットを行った。その結果、1インチ当たり48ウエル、1インチ当たり70コース、目付182g/m2、吸水速度1秒未満、肌面保水率12.7%、吸水拡散面積比9.2、拡散性残留水分率10%以下達成時間40分、通気量105cm3/cm2/secの生地を得た。
【0085】
得られた生地は、吸汗速乾性、汗処理性、通気性に優れており、クールビズに好適であることが分かった。また、得られた生地は適度なハリコシを有しており、防透け性や仕立て映え性がよく、ワイシャツに好適な素材であることも分かった。
【0086】
(実施例3)
本発明の実施例3は、表糸に84デシテックス48フィラメントのポリエステル仮撚加工糸を用いるとともに、裏糸に84デシテックス24フィラメントのポリエステル仮撚加工糸を用いて、36ゲージのシングル丸編機で編成したものである。
【0087】
図10は、本実施例3に係るシングル丸編地に対応する編方図である。本実施例3において、表糸は給糸口F1、F3、F4、F6で編成し、裏糸は給糸口F2、F5で編成した。これにより、裏糸のウエルトの部分が橋渡し部を形成するインレイ組織のシングル丸編地の生機を得た。この生機は、実施の形態2に係るシングル丸編地2を含んでいる。
【0088】
上記の如く得られた生機を、通常のポリエステル丸編地の染色加工条件のもと、液流染色機内でリラックス、精錬、染色加工、吸水加工を行った後、熱セット機で仕上げセットを行った。その結果、1インチ当たり55ウエル、1インチ当たり58コース、目付121g/m2、吸水速度1秒未満、肌面保水率19.4%、吸水拡散面積比6.5、拡散性残留水分率10%以下達成時間35分、通気量121cm3/cm2/secの生地を得た。
【0089】
得られた生地は、吸汗速乾性、汗処理性、通気性に優れており、クールビズに好適であることが分かった。また、得られた生地は、実施例1、2には劣るものの適度なハリコシを有しており、防透け性や仕立て映え性がよく、ワイシャツに好適な素材であることも分かった。
【0090】
(実施例4)
本発明の実施例4は、84デシテックス48フィラメントのポリエステル仮撚加工糸を用いて、32ゲージのシングル丸編機で編成したものである。
【0091】
図11は、本実施例4に係るシングル丸編地に対応する編方図である。本実施例4において、表糸は給糸口F1、F2で編成し、裏糸は給糸口F3で編成した。これにより、裏糸のウエルトの部分が橋渡し部を形成するシングル丸編地の生機を得た。この生機は、実施の形態1に係るシングル丸編地1を含んでいる。
【0092】
上記の如く得られた生機を、通常のポリエステル丸編地の染色加工条件のもと、液流染色機内でリラックス、精錬、染色加工、吸水加工を行った後、熱セット機で仕上げセットを行った。その結果、1インチ当たり56ウエル、1インチ当たり97コース、目付116g/m2、吸水速度1秒未満、肌面保水率24.9%、吸水拡散面積比4.5、拡散性残留水分率10%以下達成時間35分、通気量136cm3/cm2/secの生地を得た。
【0093】
得られた生地は、吸汗速乾性、汗処理性、通気性に優れており、クールビズに好適であることが分かった。また、得られた生地は、実施例1、2には劣るものの適度なハリコシを有しており、ワイシャツに好適な素材であることも分かった。
【0094】
(比較例1)
本発明の比較例1は、84デシテックス72フィラメントのポリエステル仮撚加工糸を36ゲージのシングル丸編機で編成したものである。具体的には、本比較例1に係る編地は、図12の編方図に示すように、天竺組織で形成されている。
【0095】
本比較例1では、シングル丸編機で編成することによって得られた生機を、通常のポリエステル丸編地の染色加工条件のもと、液流染色機内でリラックス、精錬、染色加工、吸水加工を行った後、熱セット機で仕上げセットを行った。その結果、1インチ当たり62ウエル、1インチ当たり85コース、目付123g/m2、吸水速度1秒未満、肌面保水率62.5%、吸水拡散面積比1.2、拡散性残留水分率10%以下達成時間35分、通気量154cm3/cm2/secの生地を得た。
【0096】
得られた生地は、特に肌面保水率が劣り、ハリコシも弱く、ワイシャツには適さない素材であった。
【0097】
(比較例2)
本発明の比較例2は、表糸に84デシテックス72フィラメントのポリエステル仮撚加工糸を用いるとともに、裏糸に56デシテックス72フィラメントのポリエステル仮撚加工糸を用いて、32ゲージのシングル丸編機で編成したものである。
【0098】
図13は、本比較例2に係るシングル丸編地に対応する編方図である。本比較例2において、表糸は給糸口F1、F3、F5、F7で編成し、裏糸は給糸口F2、F4、F6、F8で編成した。これにより、部分的に表編目が二重編目となり、裏糸のウエルトの部分が橋渡し部を形成するシングル丸編地の生機を得た。
【0099】
上記の如く得られた生機を、通常のポリエステル丸編地の染色加工条件のもと、液流染色機内でリラックス、精錬、染色加工、吸水加工を行った後、熱セット機で仕上げセットを行った。その結果、1インチ当たり49ウエル、1インチ当たり48コース、目付94g/m2、吸水速度1秒未満、肌面保水率43.2%、吸水拡散面積比2.4、拡散性残留水分率10%以下達成時間35分、通気量152cm3/cm2/secの生地を得た。
【0100】
得られた生地は、吸汗速乾性、通気性に優れるものの、肌面保水率に劣り、透け感が強く、ハリコシが弱いものであり、ワイシャツに適さない素材であった。
【0101】
(比較例3)
本発明の比較例3は、表糸に167デシテックス144フィラメントのポリエステル仮撚加工糸を用いるとともに、裏糸に84デシテックス72フィラメントのポリエステル仮撚加工糸を用いて、32ゲージのシングル丸編機で編成したものである。
【0102】
図14は、本比較例3に係るシングル丸編地に対応する編方図である。本比較例3において、表糸は給糸口F1、F3で編成し、裏糸は給糸口F2、F4で編成した。これにより、部分的に二重編目となり、裏糸のウエルトの部分が橋渡し部を形成するシングル丸編地の生機を得た。
【0103】
上記の如く得られた生機を、通常のポリエステル丸編地の染色加工条件のもと、液流染色機内でリラックス、精錬、染色加工、吸水加工を行った後、熱セット機で仕上げセットを行った。その結果、1インチ当たり44ウエル、1インチ当たり62コース、目付225g/m2、吸水速度1秒未満、肌面保水率16.5%、吸水拡散面積比7.2、拡散性残留水分率10%以下達成時間50分、通気量75cm3/cm2/secの生地を得た。
【0104】
得られた生地は、吸汗速乾性、通気性が劣り、ふかつき感が強く、ワイシャツには適さない素材であった。
【0105】
(比較例4)
本発明の比較例4は、表糸に110デシテックス48フィラメントのポリエステル仮撚加工糸を用いるとともに、裏糸に60Sの綿糸を用いて、32ゲージのシングル丸編機で編成したものである。
【0106】
図15は、本実施例4に係るシングル丸編地に対応する編方図である。本実施例4において、表糸は給糸口F1、F3で編成し、裏糸は給糸口F2、F4で編成した。これにより、鹿の子組織の生機を得た。
【0107】
上記の如く得られた生機を、通常のポリエステル丸編地の染色加工条件のもと、液流染色機内でリラックス、精錬、染色加工、吸水加工を行った後、熱セット機で仕上げセットを行った。その結果、1インチ当たり52ウエル、1インチ当たり72コース、目付142g/m2、吸水速度1.6秒、肌面保水率48.2%、吸水拡散面積比1.4、拡散性残留水分率10%以下達成時間50分、通気量115cm3/cm2/secの生地を得た。
【0108】
得られた生地は、特に肌面保水率、乾燥性が悪く、透け感が強く、ワイシャツには適さない素材であった。
【符号の説明】
【0109】
1、2、3 シングル丸編地
4 天竺組織
5 鹿の子組織
11、21、31 表糸
12、22、32 裏糸
100 ワイシャツ
121 二重編目部
122、221、321 橋渡し部
A、B、C 空間
a〜h 編目
C1〜C8 編針
F1〜F8 給糸口
【技術分野】
【0001】
本発明は、シングル丸編地および該シングル丸編地を用いて縫製したワイシャツに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、衣料用編物としてシングル丸編地が知られている。図16は、シングル丸編地の一例である天竺組織の要部の構成を示す編地断面モデル図である。同図に示す天竺組織4は、表糸41のみの構成糸で1コースを形成する一層構造シングル丸編地である。図17は、図16の編方図である。図17に示すように、天竺組織4は、1給糸のみで編成されている。
【0003】
図18は、シングル丸編地の別な例である鹿の子組織の要部の構成を示す編地断面モデル図である。同図に示す鹿の子組織5も、表糸51のみの構成糸で1コースを形成する一層構造シングル丸編地である。図19は、図18の編方図である。図19に示すように、鹿の子組織5は、ニットによる編目a、c、e、gとタックによる編目b、d、f、hとを交互に形成したものであり(a→b→c→d→e→f→g→h)、編地表面に凹凸形状変化を付与する変形組織である。
【0004】
上記以外のシングル丸編地としては、ポリエステルフィラメントの異形断面糸などを用いたものも知られている。
【0005】
これらのシングル丸編地は、薄く、軽量で通気性に優れるとともに、ストレッチ性も有することから、Tシャツ、ポロシャツなどに多く使用されている。また、ポリエステルフィラメントの異形断面糸などを用いたシングル丸編地は、吸汗速乾性に優れており、スポーツ用のシャツ地にも使用されている。
【0006】
その一方で、上述したシングル丸編地は、形態安定性に乏しく、ボリューム感が無く、透けやすかった。また、上述したシングル丸編地は、生地の表裏が同一糸種で構成されるため、吸水した水分が生地の表裏で拡散されてしまい、発汗時のべとつき感が高かった。さらに、上述したシングル丸編地は、ハリコシが不足しているため仕立て映えが悪かった。このため、上述したシングル丸編地を、ビジネスシャツやドレスシャツ、カジュアルシャツなどのワイシャツ用の素材として適用することができなかった。
【0007】
このような状況の下、例えば特許文献1では、紡績糸を使用したワイシャツ用の編地に関する技術が開示されている。この技術によれば、上述したシングル丸編地の課題であるハリコシの不足に起因する仕立て映えの悪さを解消することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−303403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、近年の地球温暖化に伴う夏場のクールビズ対策用に、通気性や吸汗速乾性を有するワイシャツ素材へのニーズが高まってきている。このようなワイシャツ用の素材として、上記特許文献1の技術を適用することも考えられる。しかしながら、上記特許文献1では紡績糸を使用しているため、合成繊維フィラメントを主素材とするスポーツ素材と同等の吸汗速乾性を得ることができなかった。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、防透け性や仕立て映え性に優れて軽量であるとともに、通気性や吸汗速乾性にも優れたシングル丸編地および該シングル丸編地を用いて縫製したワイシャツを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るシングル丸編地は、1インチ当たりのコースの数が50以上150以下であり、編成時にウエルトが含まれるシングル丸編地であって、シンカーループ面において、ウエルトにより編目間で橋渡し状となる部分の間隔が1編目以上8編目以下である橋渡し部を有し、目付が100g/m2以上200g/m2以下であり、肌面の吸水速度が3秒以下であり、表面と肌面の吸水拡散面積比が3倍以上であり、かつ拡散性残留水分率が10%以下になるまでの時間が45分以内であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係るシングル丸編地は、上記発明において、合成繊維マルチフィラメントを60%以上含むことを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係るシングル丸編地は、上記発明において、前記合成繊維マルチフィラメントを80%以上含むことを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係るシングル丸編地は、上記発明において、肌面保水率が40%以下であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係るシングル丸編地は、上記発明において、通気量が80cm3/cm2/sec以上であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係るシングル丸編地は、上記発明において、少なくとも表糸と裏糸とによって構成され、前記裏糸は、前記表糸よりなる表1編目の内側に、該表糸と相似形状をなしてニットにより配置される二重編目部を有し、前記橋渡し部は、前記裏糸が前記二重編目部の間で橋渡し状をなすことによって形成されることを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係るシングル丸編地は、上記発明において、前記橋渡し部は、インレイ組織の一部をなすことを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係るシングル丸編地は、上記発明において、親水性樹脂が付与されていることを特徴とする。
【0019】
また、本発明に係るワイシャツは、上記いずれかに記載のシングル丸編地を用いて縫製したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、防透け性や仕立て映え性に優れて軽量であるとともに、通気性や吸汗速乾性にも優れたシングル丸編地および該シングル丸編地を用いて縫製したワイシャツを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明の実施の形態1に係るシングル丸編地の要部の構成を示す編地断面モデル図である。
【図2】図2は、図1の編地に対応する編方図である。
【図3】図3は、本発明の実施の形態1に係る衣料品の構成を示す図である。
【図4】図4は、本発明の実施の形態2に係るシングル丸編地の要部の構成を示す編地断面モデル図である。
【図5】図5は、図4の編地に対応する編方図である。
【図6】図6は、本発明の実施の形態3に係るシングル丸編地の要部の構成を示す編地断面モデル図である。
【図7】図7は、図6の編地に対応する編方図である。
【図8】図8は、本発明の実施例1に係るシングル丸編地に対応する編方図である。
【図9】図9は、本発明の実施例2に係るシングル丸編地に対応する編方図である。
【図10】図10は、本発明の実施例3に係るシングル丸編地に対応する編方図である。
【図11】図11は、本発明の実施例4に係るシングル丸編地に対応する編方図である。
【図12】図12は、本発明の比較例1に係るシングル丸編地に対応する編方図である。
【図13】図13は、本発明の比較例2に係るシングル丸編地に対応する編方図である。
【図14】図14は、本発明の比較例3に係るシングル丸編地に対応する編方図である。
【図15】図15は、本発明の比較例4に係るシングル丸編地に対応する編方図である。
【図16】図16は、天竺組織の要部の構成を示す編地断面モデル図である。
【図17】図17は、図16の編地に対応する編方図である。
【図18】図18は、鹿の子組織の要部の構成を示す編地断面モデル図である。
【図19】図19は、図18の編地に対応する編方図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態(以下、「実施の形態」という)を説明する。なお、以下の説明で参照する図面は模式的なものである。
【0023】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係るシングル丸編地の要部の構成を示す編地断面モデル図である。同図に示すシングル丸編地1は、編成時にウェルトが含まれるシングル丸編地であり、表糸11および裏糸12の2種類の構成糸からなる。
【0024】
表糸11は、ニットにより表編目a、b、c、d、e、f、g、hを形成する。
裏糸12は、表編目a、c、e、gの内側に表糸11と相似形状をなしてそれぞれ配置され、表糸11とともに二重編目部121を形成する。また、裏糸12は、シンカーループ面において、ウエルトにより表編目b、d、f、hの裏側の編目間を橋渡し状に1編目ずつ飛ばした橋渡し部122を有している。このような橋渡し部122を有することにより、シングル丸編地1を用いて縫製した衣料品は、肌面(裏面)が着用者の肌と点接触することとなり、着用者が発汗した場合のべとつき感が抑制される。
【0025】
橋渡し部122は、1編目以上8編目以下であることが好ましく、1編目以上7編目以下であればより好ましい。橋渡し部122がないと、肌面が着用者の肌と点接触するような組織とならないため、発汗時のべとつき感が高くなる。また、橋渡し部122が9編目以上であると長過ぎるため、発汗時に肌にくっついてしまい、べとつき感が高まる他、着用時に引っ掛かりの原因となる。
【0026】
シングル丸編地1では、表糸11の表編目b、d、f、hと裏糸12の橋渡し部122との間に空間Aが形成される。この空間Aは、表編目が編地の幅方向であるウエル方向に収縮することにより、安定した状態で一定の体積を保つことができる。
【0027】
図2は、図1の編地に対応する編方図である。図2に示すように、シングル丸編地1を編成する編機は、表糸11による表編目を形成させる給糸口F1、および裏糸12による裏編目を形成させる給糸口F2の計2給糸口によって編成される。この場合、編機のカム形状を、給糸口F2における編機の編針(シリンダー針)C1〜C8を完全なニットクリア位置をとらないで上下させる形状であり、かつシンカーを不均一に前後させるシンカーキャップの形状とすることで、二重構造の編目を製造することができる。
【0028】
本実施の形態1では、給糸口F1で表糸11による表編目a〜hを編成した後、次の給糸口F2で裏糸12を編針C1、C3、C5、C7で編目を編成させる際、給糸口F1における編針C1での編成後の編目a、編針C3での編成後の編目c、編針C5での編成後の編目e、編針C7での編成後の編目gをクリアさせないようにする。これにより、1編目二重ニット構造と、裏糸12の橋渡し部122とを有し、表編目b、d、f、hと橋渡し部122との間に空間Aが形成された二層構造のシングル丸編地1を得ることができる。
【0029】
以上の構成を有するシングル丸編地1には、親水性樹脂を付与する吸水加工を施すことが望ましい。これは、シングル丸編地1は、肌面が橋渡し構造となっているため、親水性樹脂を付与しないと、水分が橋渡し部122へ移り、水分接触時の吸水性が阻害され易くなってしまうためである。
ここで、親水性樹脂とは、水酸基やエーテル基に代表される親水基を持った樹脂のことであり、布帛の製造に使用する場合、吸水加工剤に含まれるものである。例えば、ポリエステル系素材に使用する親水性樹脂としては、ポリエステル系樹脂を含有した吸水剤を用いることができる。また、ポリアミド系素材に使用する親水性樹脂としては、ポリアミド系樹脂を含有した吸水剤を用いることができる。
【0030】
吸水加工を施す工程は、使用する加工剤に応じて定められる。この工程は、例えば浴中処理またはパッド・ドライ処理によって実現される。また、濃度、温度等の吸水加工条件についても、使用する加工剤に応じて定められる。
【0031】
シングル丸編地1は、1インチ(2.54cm)当たりのコースの数が50以上150以下であることが好ましく、55以上145以下であればより好ましい。1インチ当たりのコースの数が50未満であると、生地が薄くなり、透け感が強くなる他、伸びがなくなる。また、1インチ当たりのコースが150より大きいと、目が詰まりすぎてふかつき感が強くなったり、通気性が低下したりする。
【0032】
シングル丸編地1は、1インチ当たりのウエルが40以上80以下であることが好ましく、45以上75以下であればより好ましい。1インチ当たりのウエルが40以下であると、コースの場合と同様、生地が薄くなり、透け感が強くなる。また、1インチ当たりのウエルが80より大きいと、目が詰まりすぎ、シャツ地に適さないふかつき感が強くなる。
【0033】
シングル丸編地1は、目付が100g/m2以上200g/m2以下であることが好ましい。目付が100g/m2より小さいと、生地が薄くなり過ぎ、透け感が強くなる。また、目付が200g/m2より大きいと、生地が厚くなり過ぎ、ふかつき感が強くなったり、通気性が低下したりする。
【0034】
シングル丸編地1は、クールビス用としては、通気量が80cm3/cm2/sec以上であることが好ましく、90cm3/cm2/sec以上であればより好ましい。通気量が80cm3/cm2/secより小さいと、通気性が低く、蒸れ感が強くなったり、衣服内温度が上がり、着用時の不快感が強まってしまう。
なお、寒さを感じる程度に温度が低い室内での着用や、秋冬移行時の寒い日の着用を想定する場合には、通気量が80cm3/cm2/secより小さい場合であっても保温効果が得られるため、好適に使用することができる。
【0035】
シングル丸編地1は、吸水速度が3秒以下であることが好ましく、2秒以下であればより好ましく、1秒以下であればさらに好ましい。吸水速度が3秒より大きいと、発汗時の汗の吸収が遅いため、べとつき感の原因となる。
【0036】
シングル丸編地1は、肌面保水率が40%以下であることが好ましく、30%以下であればより好ましい。肌面保水率が40%より大きいと、吸汗後の汗が肌面に残存する割合が大きいため、べとつき感の原因となる他、冷え感の原因となる。
【0037】
シングル丸編地1は、肌面に滴下吸水後の肌面に対する表面の吸水拡散面積比が3倍以上であることが好ましく、4倍以上であればより好ましい。吸水拡散面積比は、表面に汗を移動させ、表面での拡散の度合いを示すもので、この面積比が大きいほど、大気との接触効率が良くなるので乾燥性にも優れている。吸水拡散面積比が3倍未満であると、肌面からの移行が少なく、肌面の保水率が高くなる原因となるか、あるいは、表面での拡散効果が低く、乾燥性に劣ったものとなる。
【0038】
シングル丸編地1は、拡散性残留水分率が10%以下になる時間が45分以内であることが好ましく、40分以内であればより好ましく、35分以内であればさらに好ましい。拡散性残留水分率が10%以下になる時間が45分を超えると乾燥性が低く、汗処理性に劣った生地となってしまう。
【0039】
シングル丸編地1の表糸11と裏糸12では、合成繊維マルチフィラメントを60%以上使用することが好ましく、80%以上であればより好ましい。吸汗後の速乾性を満たすためには、表糸11および裏糸12として公定水分率の低い合成繊維マルチフィラメントを主として使用するのが望ましい。これに対して、綿などの吸水保水性の高い天然繊維の混率が高いと、吸水後の拡散性および乾燥性が低下してしまう。なお、吸湿性や天然性の風合いなどが求められる場合には、上述した肌面保水率、吸水拡散面積比および拡散性残留水分率の好適な範囲内で、レーヨン、綿、麻などの吸湿性に優れた天然繊維を用いることも可能である。
【0040】
ここで、合成繊維マルチフィラメントとしては、例えばナイロン6、ナイロン66に代表されるポリアミド系繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメンチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系繊維、ポリ乳酸繊維等の生分解性繊維を用いることができる。なお、これらの繊維は、酸化チタン等の添加物を含んでいてもよいし、吸湿性向上等の機能性付与のためにポリマー改質したものであってもよい。
【0041】
また、合成繊維マルチフィラメントにおける単繊維単位の断面形状も限定されるものではなく、丸形、三角形、八葉形、扁平形、Y字形などに代表される様々な異形断面糸を使用することができる。
【0042】
シングル丸編地1の表糸11および裏糸12に対し、種類の異なるポリマー、例えば粘度の異なるポリマーからなる芯鞘またはサイドバイサイド型の複合糸を使用することもできる。
【0043】
シングル丸編地1には、上述した原糸に仮撚加工を施した仮撚加工糸を用いることが好ましい。仮撚加工糸の使用割合は、50%以上であることが好ましく、80%以上であればより好ましく、100%であってもよい。合成繊維マルチフィラメントの仮撚加工糸は、捲縮が付与されているため、生地に伸びや膨らみ感を生じることに加え、表面タッチ感がソフトになる他、防透け性も高くなる。これに対して、仮撚加工を施していない合成繊維マルチフィラメントを100%使用すると、生地が薄く、透け感が強くなる他、捲縮による単糸間の絡みが少なく、引っ掛かりによって糸が引き出され易くなるため、スナッグが発生しやすいという問題がある。
【0044】
合成繊維マルチフィラメントには、ポリアクリルニトリル、ポリプロピレンなどの合成繊維、レーヨン、ポリノジック、キュプラなどの再生繊維、アセテート、トリアセテートなどの半合成繊維などをニーズに合わせて使用してもよい。すなわち、合成繊維マルチフィラメントは、ニーズによって最適な素材を選定すればよい。
【0045】
また、合成繊維マルチフィラメントの単糸繊度は、0.3以上7.0以下であることが好ましく、0.4以上6.0以下であればより好ましい。合成繊維マルチフィラメントの単糸繊度が0.3未満であると、単糸数が多く、単糸間の空気層が多くなり、保温効果が出る他、単糸が切れ、毛玉になるピリングが発生し易くなる。また、合成繊維マルチフィラメントの単糸繊度が7.0より大きいと、単糸繊度が太すぎるため、風合いが硬くなる他、肌荒れの原因となる。
【0046】
合成繊維マルチフィラメントを用いる場合、肌面保水率を下げ、肌面に対する表面の吸水拡散面積比を大きくするためには、表糸11の単糸繊維間が作る空隙が橋渡し部122の繊維間が作る空隙より小さく、かつ多くなるようにすればよい。これにより、毛細管現象の効果が得られ、肌面から吸水された汗が表面に素早く移行して拡散することにより、肌面が迅速に乾燥し、高い汗処理性を実現することができる。そのため、表糸11には、橋渡し部122よりも単糸繊度が細くて単糸数が多い糸や、異形断面の糸を使用することが好ましい。
【0047】
シングル丸編地1は、シングル丸編機で製編可能である。ゲージは特に限定されないが、28ゲージ以上60ゲージ以下であることが好ましい。上述した1インチ当たりのコースの数に対する条件を満たすためには、28ゲージ以上であることが好ましい。ただし、60ゲージを超えると、密度が密に成り過ぎて通気性が低下してしまうため、60ゲージ以下であることが好ましい。
【0048】
シングル丸編地1は、生機を製編した後、精練、染色、熱セットなどの染色加工を行うことによって得られる。加工方法は、通常の丸編地の加工方法に準じて行えばよい。また、染色段階での付帯加工として、上述した吸水加工に加えて防汚加工、抗菌加工、消臭加工、防臭加工、吸水加工、吸湿加工、制電加工、減量加工などを行うとともに、2次加工として、プリント加工、カレンダー加工、エンボス加工、シワ加工、起毛加工、オパール加工などを行うことが好ましい。どの加工を行うかは、ワイシャツの特性に応じて適宜選択すればよい。
【0049】
なお、本実施の形態1において、肌面には橋渡し部を形成する必要があるが、表面の組織は特に限定されない。このため、表面に、例えばニット、タック、ウエルトを自在に組み合わせることによって形成される変形柄を適用してもよい。
【0050】
また、本実施の形態1において、表糸11と裏糸12の太さは特に限定されるものではなく、目標目付や要求される意匠性等の条件に応じて適宜設定すればよい。
【0051】
図3は、以上の構成を有するシングル丸編地1を用いて縫製したワイシャツの構成を示す図である。同図に示すワイシャツ100は、二重編目構造を有するとともに裏糸12の橋渡し形状による空間Aが形成されたシングル丸編地1を用いて縫製されているため、通気性や吸汗速乾性に優れており、薄地で軽量であるとともに、防透け性やハリコシ感がアップしており仕立て映え性にも優れている。したがって、ワイシャツ100は、クールビズ用として好適である。
【0052】
なお、本実施の形態1に係るワイシャツには、図3に示すような形状を有するもの以外にも、例えばドレスシャツやカジュアルシャツなども含まれる。この点は、本発明の全ての実施の形態に共通する事項である。
【0053】
以上説明した本発明の実施の形態1によれば、シンカーループ面において、ウエルトにより編目間で橋渡し状となる部分の間隔が1編目以上8編目以下である橋渡し部を有し、目付が100g/m2以上200g/m2以下であり、肌面の吸水速度が3秒以下であり、表面と肌面の吸水拡散面積比が3倍以上であり、かつ拡散性残留水分率が10%以下になるまでの時間が45分以内であるため、防透け性や仕立て映え性に優れて軽量であるとともに、通気性や吸汗速乾性にも優れたシングル丸編地および該シングル丸編地を用いて縫製したワイシャツを提供することができる。
【0054】
また、本実施の形態1によれば、橋渡し部は、表糸のループに比べて緊張度が低く、単糸間が開繊傾向にあるため、水分が毛細管現象で表糸へ移行しやすい構造となっている。そのため、肌面側の保水率が低く、吸汗後の表面と肌面の吸水拡散面積比が大きく、べとつき感が軽減される。
【0055】
また、本実施の形態1によれば、通気性が高く、低目付のため、乾燥速度も速い。したがって、汗処理性にも優れている。
【0056】
(実施の形態2)
図4は、本発明の実施の形態2に係るシングル丸編地の要部の構成を示す編地断面モデル図である。図5は、図4の編地に対応する編方図である。図4および図5に示すシングル丸編地2は、編成時にウェルトが含まれるシングル丸編地であり、表糸21および裏糸22の2種類の構成糸からなる。
【0057】
表糸21は、ニットにより表編目a、b、c、d、e、f、g、hを形成する。
裏糸22は、表編目a、c、e、gで、タック編により表編目に引っ掛かった形で変形編目を形成し、シンカーループ面において、ウエルトにより表編目b、d、f、hの裏側の編目間を橋渡し状に1編目すつ飛ばした橋渡し部221を有している。このような橋渡し部221を有することにより、表編目b、d、f、hの内側と橋渡し部221との間には、空間Bが形成される。
【0058】
シングル丸編地2が満たすべき各種条件は、実施の形態1に係るシングル丸編地1が満たすべき各種条件(実施の形態1を参照)と同様である。
【0059】
本実施の形態2においても、シングル丸編地2を用いて縫製したワイシャツがクールビズ用に好適であることは、上記実施の形態1と同様である。
【0060】
以上説明した本発明の実施の形態2によれば、上記実施の形態1と同様、通気性や吸汗速乾性に優れており、薄地で軽量であるとともに、防透け性や仕立て映え性にも優れたシングル丸編地および該シングル丸編地を用いて縫製したワイシャツを提供することができる。
【0061】
(実施の形態3)
図6は、本発明の実施の形態3に係るシングル丸編地の要部の構成を示す編地断面モデル図である。図7は、図6の編地に対応する編方図である。図6および図7に示すシングル丸編地3は、編成時にウェルトが含まれるシングル丸編地であり、表糸31および裏糸32の2種類の構成糸からなる。
【0062】
表糸31は、ニットにより表編目b、c、d、f、g、hを形成し、ウエルトにより表編目a、eでは編目を形成しない。
裏糸32は、ニットにより表編目a、eを形成し、ウエルトにより表編目b、c、d、f、g、hでは編目を形成しない。
【0063】
このような構成を有するシングル丸編地3は、シンカーループ面において、ウェルトにより表編目b、c、d、f、g、hの裏側の編目間を橋渡し状に3編目ずつ飛ばした橋渡し部321を有する。これにより、表編目b、c、d、f、g、hの内側と橋渡し部321との間には、空間Cが形成される。
【0064】
シングル丸編地3が満たすべき各種条件は、実施の形態1に係るシングル丸編地1が満たすべき各種条件(実施の形態1を参照)と同様である。
【0065】
本実施の形態3においても、シングル丸編地3を用いて縫製したワイシャツがクールビズ用に好適であることは、上記実施の形態1と同様である。
【0066】
以上説明した本発明の実施の形態3によれば、上記実施の形態1と同様、通気性や吸汗速乾性に優れており、薄地で軽量であるとともに、防透け性や仕立て映え性にも優れたシングル丸編地および該シングル丸編地を用いて縫製したワイシャツを提供することができる。
【0067】
ここまで、本発明を実施するための形態を説明してきたが、本発明は上述した実施の形態1〜3によってのみ限定されるべきものではない。すなわち、本発明は、ここでは記載していない様々な実施の形態等を含みうるものである。
【実施例】
【0068】
以下、本発明の実施例を説明する。なお、本発明は、後述する実施例によって限定されるものではない。
本発明の実施例においては、各種編地の性能を評価するための評価方法として、以下に説明する(1)〜(7)の方法を採用した。
【0069】
(1)ウエル、コース
ウエル、コースは、JISL1096の編物の密度の測定方法に準じて行う。すなわち、試料を平らな台の上に置き、不自然なしわや張力を除いた後、異なる5ヶ所について、1インチ(2.54cm)当たりのウエルとコースの数を数え、それぞれ平均値を算出する。
【0070】
(2)目付
目付は、JISL1096A法の標準状態における単位面積当たりの質量の測定方法に準じて測定する。すなわち、サイズ20cm×20cmの試験片を2枚採取し、それぞれの標準状態での質量(g)を測定し、標準状態での単位面積(1m2)当たりの質量Sm(g/m2)を、Sm=W/Aにより算出する。この式で、右辺のWは標準状態における試験片の質量(g)であり、Aは標準状態における試験片の面積(m2)である。
この後、2枚のSmの平均値を、小数第2位を四捨五入することによって小数第1位まで算出する。以下、ある演算を行う際、小数第(n+1)位を四捨五入することによって小数第n位まで算出することを、単に「小数第n位まで算出する」という(n:自然数)。
【0071】
(3)吸水速度
編地からサイズ約15cm×15cmの試験片を3枚採取し、各試験片を直径10cm以上の刺繍枠あるいはビーカーに、余分な張力がかからないように、肌面側を上にして、試験片の表面が水平となるように置いて固定する。
また、1滴(約0.005cc)の蒸留水が垂直に滴下するように調整した注射針(TERUMO26G1/2,0.45×13mm,注射器の容量1cc)の先端が、水平に置いた試験片の表面から5cm離れるように所定のホルダーに固定する。
この状態で、水滴を試験片上に1滴滴下した時から、試験片上の水滴が特別な反射をしなくなるまでの吸水時間をストップウォッチで測定し、0.1秒単位で読み取る。ここで、「特別な反射をしなくなる」状態とは、試験片が水滴を吸収するにつれて鏡面反射が消え、湿潤だけが残った状態をいう。
以上の操作を全ての試験片について行い、吸水速度の平均値をその編地の吸水速度とする。
【0072】
(4)肌面保水率
まず、温度20℃、湿度65%RHで調湿した編地からサイズ10cm×10cmの試験片を3枚採取する。
ガラス板上に蒸留水1.0mlを滴下した後、そのガラス板上に試験片1枚を肌に接する面が蒸留水に接するように載せ、60秒間放置する。
この後、試験片を別のガラス板上に移し、同一サイズにカットした濾紙を2枚使用してその試験片をサンドイッチ上に挟み、荷重5g/cm2を加えて60秒間放置する。
続いて、吸水前後の重量の差から得た試験片の保水重量、および肌面に接した濾紙の含水重量から、試験片の肌面保水率を算出する。
この操作を全ての試験片に対して行い、肌面保水率の平均値をそのシングル丸編地の肌面保水率とする。
【0073】
表面の保水率が大きく、かつ、表面と肌面の保水率比が大きい編地は、滴下された蒸留水を表面層側へ効率よく移動する能力(いわゆる透水能力)に優れている。したがって、そのような編地を用いて縫製した衣料品を着用する場合には、着用者が発汗した時のべとつき感が少なくなる。
【0074】
(5)吸水拡散面積比
まず、編地からサイズ10cm×10cmの試験片を3枚採取する。
この後、採取した試験片に対し、ガラス板上に市販の水性インクを2倍に水で希釈したインク液を0.1cc滴下し、その上にサイズ10cm×10cmの試験片の肌面を下にして置き、60秒間放置してインク液を吸収させる。
続いて、試験片を別のガラス板上に移動し、肌面側を下にして3分間放置する。
続いて、試験片の表面および裏面のインク液の拡散面積をそれぞれ測定し、その測定値に基づいて面積比(表面の拡散面積/肌面の拡散面積)を算出する。
以上の操作を全ての試験片に対して行い、面積比の平均値をその編地の吸水拡散面積比とする。
【0075】
吸水拡散面積比の大小は、インク液の吸収状態を示すものである。すなわち、吸水拡散面積比が大きいものは、滴下されたインク液を効率よく表面層側に移動するいわゆる吸水、透水、拡散能力に優れている。また、表面層側の拡散面積が大きいことは、大気との接触効率が良好で乾燥性に優れていることを示しており、その編地を用いて縫製した衣料品を着用する場合には、着用者が発汗した時のべとつき感が少なくなる。
【0076】
(6)拡散性残留水分率
まず、温度20℃、湿度65%RHで調湿した編地からサイズ10cm×10cmの試験片を3枚採取した後、各試験片の重量を測定し、これを元重量とする。
続いて、ガラス板上に蒸留水0.3mlを滴下し、試験片の肌面が蒸留水に接するように載せ、5秒間放置する。
試験片を上記の如くガラス板上に載せてから5秒経過した後、直ちに試験片をハンガー型重量測りにつり下げて重量測定を行う。その後、5分ごとに試験片の重量を測定する。なお、重量の測定値は小数第3位まで求める。そして、5分ごとに測定した重量と元重量とを用いることにより、次式で定義される拡散性残留水分率(%)を算出する。
拡散性残留水分率(%)
={[測定時重量−元重量]/[測定開始時重量−元重量]}×100
5分ごとの試験片の重量測定および拡散性残留水分率の算出は、拡散性残留水分率の値が10%以下になるまで継続して行い、その値が10%以下になった時点の測定時間を求める。
以上の操作を全ての試験片に対して行い、得られた測定時間(拡散性残留水分率が10%以下になった時点の測定時間)の平均値を算出する。
【0077】
(7)通気量
まず、温度20℃、湿度65%RHで調湿した編地からサイズ20cm×20cmの試験片を5枚採取する。
各試験片に対して、JISL1096A 法(フラジール形法)に準じて、フラジール型試験機で通気量(cm3/cm2/sec)を測定し、5枚の平均値を小数第1位まで算出する。
【0078】
以下、表1を参照して、本発明の実施例1〜4および比較例1〜4を詳細に説明する。
【表1】
【0079】
(実施例1)
本発明の実施例1は、表糸に84デシテックス36フィラメントのポリエステル仮撚加工糸を用いるとともに、裏糸に56デシテックス24フィラメントのポリエステル仮撚加工糸を用いて、36ゲージのシングル丸編機で編成したものである。
【0080】
図8は、本実施例1に係るシングル丸編地に対応する編方図である。本実施例1において、表糸は給糸口F1、F3、F4、F6で編成し、裏糸は給糸口F2、F5で編成した。これにより、部分的に二重編目となり、裏糸のウエルトの部分が橋渡し部を形成するシングル丸編地の生機を得た。この生機は、実施の形態1に係るシングル丸編地1を含んでいる。
【0081】
上記の如く得られた生機を、通常のポリエステル丸編地の染色加工条件のもと、液流染色機内でリラックス、精錬、染色加工、吸水加工を行った後、熱セット機で仕上げセットを行った。その結果、1インチ当たり43ウエル、1インチ当たり87コース、目付148g/m2、吸水速度1秒未満、肌面保水率11.4%、吸水拡散面積比11.6、拡散性残留水分率が10%以下となるまでの時間(拡散性残留水分率10%以下達成時間)30分、通気量202cm3/cm2/secの生地を得た。得られた生地は、吸汗速乾性、汗処理性、通気性に優れており、クールビズに好適であることが分かった。また、得られた生地は適度なハリコシを有しており、防透け性や仕立て映え性がよく、ワイシャツに好適な素材であることも分かった。
【0082】
(実施例2)
本発明の実施例2は、表糸に110デシテックス48フィラメントのポリエステル仮撚加工糸を用いるとともに、裏糸に84デシテックス36フィラメントのポリエステル仮撚加工糸を用いて、32ゲージのシングル丸編機で編成したものである。
【0083】
図9は、本実施例2に係るシングル丸編地に対応する編方図である。本実施例2において、表糸は給糸口F1、F3、F5で編成し、裏糸は給糸口F2、F4、F6で編成した。これにより、部分的に表編目が二重編目となり、裏糸のウエルトの部分が橋渡し部を形成するシングル丸編地の生機を得た。この生機は、実施の形態1に係るシングル丸編地1を含んでいる。
【0084】
上記の如く得られた生機を、通常のポリエステル丸編地の染色加工条件のもと、液流染色機内でリラックス、精錬、染色加工、吸水加工を行った後、熱セット機で仕上げセットを行った。その結果、1インチ当たり48ウエル、1インチ当たり70コース、目付182g/m2、吸水速度1秒未満、肌面保水率12.7%、吸水拡散面積比9.2、拡散性残留水分率10%以下達成時間40分、通気量105cm3/cm2/secの生地を得た。
【0085】
得られた生地は、吸汗速乾性、汗処理性、通気性に優れており、クールビズに好適であることが分かった。また、得られた生地は適度なハリコシを有しており、防透け性や仕立て映え性がよく、ワイシャツに好適な素材であることも分かった。
【0086】
(実施例3)
本発明の実施例3は、表糸に84デシテックス48フィラメントのポリエステル仮撚加工糸を用いるとともに、裏糸に84デシテックス24フィラメントのポリエステル仮撚加工糸を用いて、36ゲージのシングル丸編機で編成したものである。
【0087】
図10は、本実施例3に係るシングル丸編地に対応する編方図である。本実施例3において、表糸は給糸口F1、F3、F4、F6で編成し、裏糸は給糸口F2、F5で編成した。これにより、裏糸のウエルトの部分が橋渡し部を形成するインレイ組織のシングル丸編地の生機を得た。この生機は、実施の形態2に係るシングル丸編地2を含んでいる。
【0088】
上記の如く得られた生機を、通常のポリエステル丸編地の染色加工条件のもと、液流染色機内でリラックス、精錬、染色加工、吸水加工を行った後、熱セット機で仕上げセットを行った。その結果、1インチ当たり55ウエル、1インチ当たり58コース、目付121g/m2、吸水速度1秒未満、肌面保水率19.4%、吸水拡散面積比6.5、拡散性残留水分率10%以下達成時間35分、通気量121cm3/cm2/secの生地を得た。
【0089】
得られた生地は、吸汗速乾性、汗処理性、通気性に優れており、クールビズに好適であることが分かった。また、得られた生地は、実施例1、2には劣るものの適度なハリコシを有しており、防透け性や仕立て映え性がよく、ワイシャツに好適な素材であることも分かった。
【0090】
(実施例4)
本発明の実施例4は、84デシテックス48フィラメントのポリエステル仮撚加工糸を用いて、32ゲージのシングル丸編機で編成したものである。
【0091】
図11は、本実施例4に係るシングル丸編地に対応する編方図である。本実施例4において、表糸は給糸口F1、F2で編成し、裏糸は給糸口F3で編成した。これにより、裏糸のウエルトの部分が橋渡し部を形成するシングル丸編地の生機を得た。この生機は、実施の形態1に係るシングル丸編地1を含んでいる。
【0092】
上記の如く得られた生機を、通常のポリエステル丸編地の染色加工条件のもと、液流染色機内でリラックス、精錬、染色加工、吸水加工を行った後、熱セット機で仕上げセットを行った。その結果、1インチ当たり56ウエル、1インチ当たり97コース、目付116g/m2、吸水速度1秒未満、肌面保水率24.9%、吸水拡散面積比4.5、拡散性残留水分率10%以下達成時間35分、通気量136cm3/cm2/secの生地を得た。
【0093】
得られた生地は、吸汗速乾性、汗処理性、通気性に優れており、クールビズに好適であることが分かった。また、得られた生地は、実施例1、2には劣るものの適度なハリコシを有しており、ワイシャツに好適な素材であることも分かった。
【0094】
(比較例1)
本発明の比較例1は、84デシテックス72フィラメントのポリエステル仮撚加工糸を36ゲージのシングル丸編機で編成したものである。具体的には、本比較例1に係る編地は、図12の編方図に示すように、天竺組織で形成されている。
【0095】
本比較例1では、シングル丸編機で編成することによって得られた生機を、通常のポリエステル丸編地の染色加工条件のもと、液流染色機内でリラックス、精錬、染色加工、吸水加工を行った後、熱セット機で仕上げセットを行った。その結果、1インチ当たり62ウエル、1インチ当たり85コース、目付123g/m2、吸水速度1秒未満、肌面保水率62.5%、吸水拡散面積比1.2、拡散性残留水分率10%以下達成時間35分、通気量154cm3/cm2/secの生地を得た。
【0096】
得られた生地は、特に肌面保水率が劣り、ハリコシも弱く、ワイシャツには適さない素材であった。
【0097】
(比較例2)
本発明の比較例2は、表糸に84デシテックス72フィラメントのポリエステル仮撚加工糸を用いるとともに、裏糸に56デシテックス72フィラメントのポリエステル仮撚加工糸を用いて、32ゲージのシングル丸編機で編成したものである。
【0098】
図13は、本比較例2に係るシングル丸編地に対応する編方図である。本比較例2において、表糸は給糸口F1、F3、F5、F7で編成し、裏糸は給糸口F2、F4、F6、F8で編成した。これにより、部分的に表編目が二重編目となり、裏糸のウエルトの部分が橋渡し部を形成するシングル丸編地の生機を得た。
【0099】
上記の如く得られた生機を、通常のポリエステル丸編地の染色加工条件のもと、液流染色機内でリラックス、精錬、染色加工、吸水加工を行った後、熱セット機で仕上げセットを行った。その結果、1インチ当たり49ウエル、1インチ当たり48コース、目付94g/m2、吸水速度1秒未満、肌面保水率43.2%、吸水拡散面積比2.4、拡散性残留水分率10%以下達成時間35分、通気量152cm3/cm2/secの生地を得た。
【0100】
得られた生地は、吸汗速乾性、通気性に優れるものの、肌面保水率に劣り、透け感が強く、ハリコシが弱いものであり、ワイシャツに適さない素材であった。
【0101】
(比較例3)
本発明の比較例3は、表糸に167デシテックス144フィラメントのポリエステル仮撚加工糸を用いるとともに、裏糸に84デシテックス72フィラメントのポリエステル仮撚加工糸を用いて、32ゲージのシングル丸編機で編成したものである。
【0102】
図14は、本比較例3に係るシングル丸編地に対応する編方図である。本比較例3において、表糸は給糸口F1、F3で編成し、裏糸は給糸口F2、F4で編成した。これにより、部分的に二重編目となり、裏糸のウエルトの部分が橋渡し部を形成するシングル丸編地の生機を得た。
【0103】
上記の如く得られた生機を、通常のポリエステル丸編地の染色加工条件のもと、液流染色機内でリラックス、精錬、染色加工、吸水加工を行った後、熱セット機で仕上げセットを行った。その結果、1インチ当たり44ウエル、1インチ当たり62コース、目付225g/m2、吸水速度1秒未満、肌面保水率16.5%、吸水拡散面積比7.2、拡散性残留水分率10%以下達成時間50分、通気量75cm3/cm2/secの生地を得た。
【0104】
得られた生地は、吸汗速乾性、通気性が劣り、ふかつき感が強く、ワイシャツには適さない素材であった。
【0105】
(比較例4)
本発明の比較例4は、表糸に110デシテックス48フィラメントのポリエステル仮撚加工糸を用いるとともに、裏糸に60Sの綿糸を用いて、32ゲージのシングル丸編機で編成したものである。
【0106】
図15は、本実施例4に係るシングル丸編地に対応する編方図である。本実施例4において、表糸は給糸口F1、F3で編成し、裏糸は給糸口F2、F4で編成した。これにより、鹿の子組織の生機を得た。
【0107】
上記の如く得られた生機を、通常のポリエステル丸編地の染色加工条件のもと、液流染色機内でリラックス、精錬、染色加工、吸水加工を行った後、熱セット機で仕上げセットを行った。その結果、1インチ当たり52ウエル、1インチ当たり72コース、目付142g/m2、吸水速度1.6秒、肌面保水率48.2%、吸水拡散面積比1.4、拡散性残留水分率10%以下達成時間50分、通気量115cm3/cm2/secの生地を得た。
【0108】
得られた生地は、特に肌面保水率、乾燥性が悪く、透け感が強く、ワイシャツには適さない素材であった。
【符号の説明】
【0109】
1、2、3 シングル丸編地
4 天竺組織
5 鹿の子組織
11、21、31 表糸
12、22、32 裏糸
100 ワイシャツ
121 二重編目部
122、221、321 橋渡し部
A、B、C 空間
a〜h 編目
C1〜C8 編針
F1〜F8 給糸口
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1インチ当たりのコースの数が50以上150以下であり、編成時にウエルトが含まれるシングル丸編地であって、
シンカーループ面において、ウエルトにより編目間で橋渡し状となる部分の間隔が1編目以上8編目以下である橋渡し部を有し、
目付が100g/m2以上200g/m2以下であり、肌面の吸水速度が3秒以下であり、表面と肌面の吸水拡散面積比が3倍以上であり、かつ拡散性残留水分率が10%以下になるまでの時間が45分以内であること
を特徴とするシングル丸編地。
【請求項2】
合成繊維マルチフィラメントを60%以上含むことを特徴とする請求項1に記載のシングル丸編地。
【請求項3】
前記合成繊維マルチフィラメントを80%以上含むことを特徴とする請求項2に記載のシングル丸編地。
【請求項4】
肌面保水率が40%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のシングル丸編地。
【請求項5】
通気量が80cm3/cm2/sec以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のシングル丸編地。
【請求項6】
少なくとも表糸と裏糸とによって構成され、
前記裏糸が前記表糸よりなる表1編目の内側に該表糸と相似形状をなして配置される二重編目部を有し、
前記橋渡し部は、前記裏糸が前記二重編目部の間で橋渡し状をなすことによって形成されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のシングル丸編地。
【請求項7】
前記橋渡し部は、インレイ組織の一部をなすことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のシングル丸編地。
【請求項8】
親水性樹脂が付与されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のシングル丸編地。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のシングル丸編地を用いて縫製したことを特徴とするワイシャツ。
【請求項1】
1インチ当たりのコースの数が50以上150以下であり、編成時にウエルトが含まれるシングル丸編地であって、
シンカーループ面において、ウエルトにより編目間で橋渡し状となる部分の間隔が1編目以上8編目以下である橋渡し部を有し、
目付が100g/m2以上200g/m2以下であり、肌面の吸水速度が3秒以下であり、表面と肌面の吸水拡散面積比が3倍以上であり、かつ拡散性残留水分率が10%以下になるまでの時間が45分以内であること
を特徴とするシングル丸編地。
【請求項2】
合成繊維マルチフィラメントを60%以上含むことを特徴とする請求項1に記載のシングル丸編地。
【請求項3】
前記合成繊維マルチフィラメントを80%以上含むことを特徴とする請求項2に記載のシングル丸編地。
【請求項4】
肌面保水率が40%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のシングル丸編地。
【請求項5】
通気量が80cm3/cm2/sec以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のシングル丸編地。
【請求項6】
少なくとも表糸と裏糸とによって構成され、
前記裏糸が前記表糸よりなる表1編目の内側に該表糸と相似形状をなして配置される二重編目部を有し、
前記橋渡し部は、前記裏糸が前記二重編目部の間で橋渡し状をなすことによって形成されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のシングル丸編地。
【請求項7】
前記橋渡し部は、インレイ組織の一部をなすことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のシングル丸編地。
【請求項8】
親水性樹脂が付与されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のシングル丸編地。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のシングル丸編地を用いて縫製したことを特徴とするワイシャツ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2013−104158(P2013−104158A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−250158(P2011−250158)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(597052053)ミツカワ株式会社 (14)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(597052053)ミツカワ株式会社 (14)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】
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