説明

シンジオタクチックポリスチレン系シート状積層体、その製造方法およびシンジオタクチックポリスチレン系シート状ハードコート積層体

【課題】 シンジオタクチックポリスチレン系シートと接着性改質層との層間の密着性が高く、該層上にラミネートまたは粘接着のための接着剤層、表面硬度向上のためのハードコート層を積層した場合の密着性に優れたシンジオタクチックポリスチレン系シート状積層体を提供する。
【解決手段】 シンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体を含むスチレン樹脂からなるシートの少なくとも片面に、JIS K7215(1979年制定、1986年改正)に準じたデュロメータD硬さが5〜30またはデュロメータA硬さが60〜85の少なくとも一方を満たす熱可塑性エラストマーを80質量%以上含有する樹脂組成物からなる接着性改質層を設けたことを特徴とするシンジオタクチックポリスチレン系シート状積層体およびその製造方法、さらに、該シート上にハードコート層を設けたハードコート積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シンジオタクチックポリスチレン構造を有するスチレン系重合体を含むスチレン樹脂からなるシート上に接着剤、改質剤、ハードコート剤との密着性に優れた接着性改質層を有したシンジオタクチックポリスチレン系シート状積層体、その製造方法および該積層体の接着性改質層上に耐擦傷性に優れたハードコート層を形成したシンジオタクチックポリスチレン系シート状ハードコート積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体(以下、「SPS」と略称することがある。)からなる延伸シートは、耐熱性,耐薬品性,剛性,透明性,易カット性,デッドフォールド性,耐湿性,離型性などの各種特性に優れているため、各種のフィルム用途への応用が期待されており、その製造方法,フィルム特性やその用途について種々提案されている。
【0003】
延伸フィルムを各種用途に展開する多くの場合、フィルム表面の改質、接着性改善、蒸着性改善、機能特性付与、印刷性改良のために、易接着処理などの表面処理がなされる。例えば、包装材料として使用される場合には、印刷性向上のためのインク受理層、機密性を向上するためのガスバリア層、ラミネートのための接着剤加工などがあり、これらの機能層とシートの密着性向上のためにプライマー層を設けることがある。また、粘着テープとして使用される場合には、粘着剤との密着性向上のためのコロナ処理、プラズマ処理などがある。更には、ディスプレイなどの光学用フィルムに使用する場合には、傷つき防止のための耐擦傷性ハードコート層が必要となり、ハードコート材料との接着性改善にプライマー層を積層するなどの処理が施される。
【0004】
SPSシートに関しても、これらの用途に使用する場合には、同様な表面処理や改質が必要となり、種々の方法が検討されている。特許文献1〜3には、SPSとポリオレフィンとを接着剤層を介して積層した積層フィルムが開示されている。しかしながら、これらの積層フィルムは接着強度が充分ではなかった。また、特許文献4〜6には、密着性の向上のためにコート法による改質層を設けることが記載されている。しかしながら、これらの方法では改質層とシートとの密着性が充分でなかった。更に、特許文献7〜9には水分散性または水溶解性の樹脂を、SPSフィルムの延伸加工工程中に塗布し熱処理することで易接着層を積層することが記載されているが、密着性が充分とは言えず、また、加工方法においてSPSフィルムの製造中に塗布する必要があるため汎用性に劣るものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−338089号公報
【特許文献2】特開2002−86636号公報
【特許文献3】特開2004−51688号公報
【特許文献4】特開平3−109453号公報
【特許文献5】特開平8−48008号公報
【特許文献6】特開2000−6330号公報
【特許文献7】特開2004−284070号公報
【特許文献8】特開2004−284071号公報
【特許文献9】特開2004−284072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、シンジオタクチックポリスチレン系シートは、充分な密着性を得られる接着性改質層を設けることが困難であった。特にシート状に加工されたシンジオタクチックポリスチレンはその結晶配向性が強く、表面エネルギーが低いために、水溶解または水分散性の溶液の塗布は困難であり、これら課題に対する解決が強く望まれていた。
【0007】
本発明は、シンジオタクチックポリスチレン系シートと接着性改質層との層間の密着性が高く、該層上にラミネートまたは粘接着のための接着剤層、表面硬度向上のためのハードコート層を積層した場合の密着性に優れたシンジオタクチックポリスチレン系シート状積層体を提供することを目的とする。さらに、製造時の簡便性、汎用性、経済性に優れたシンジオタクチックポリスチレン系シート状積層体の製造方法、ならびに、更にハードコート層を積層した耐擦傷性に優れたシンジオタクチックポリスチレン系シート状ハードコート積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第一の態様によれば、シンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体を含むスチレン樹脂からなるシートの少なくとも片面に、JIS K7215(1979年制定、1986年改正)に準じたデュロメータD硬さが5〜30またはデュロメータA硬さが60〜85の少なくとも一方を満たす熱可塑性エラストマーを80質量%以上含有する樹脂組成物からなる接着性改質層を設けたことを特徴とするシンジオタクチックポリスチレン系シート状積層体が提供される。
【0009】
本発明の第二の態様によれば、熱可塑性エラストマーが熱可塑性ポリアミドエラストマーであるシンジオタクチックポリスチレン系シート状積層体が提供される。
【0010】
本発明の第三の態様によれば、接着性改質層が0.1〜10μmの厚みで積層されたシンジオタクチックポリスチレン系シート状積層体が提供される。
【0011】
本発明の第四の態様によれば、接着性改質層に熱硬化性樹脂または紫外線硬化樹脂を20質量%以下で含有するシンジオタクチックポリスチレン系シート状積層体が提供される。
【0012】
本発明の第五の態様によれば、接着性改質層の表面抵抗が1.0×10Ω/cm以上、1.0×1012Ω/cm以下であるシンジオタクチックポリスチレン系シート状積層体が提供される。
【0013】
本発明の第六の態様によれば、シート/接着性改質層間の剥離強度が、JIS−K5600−5−6(1999年制定)に準じた接着性改質層の密着性残存率で90%以上であるシンジオタクチックポリスチレン系シート状積層体が提供される。
【0014】
本発明の第七の態様によれば、シンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体を含むスチレン樹脂からなるシートの少なくとも片面の表面エネルギーを45mN/m以上に表面改質した後、その表面改質面に対して熱可塑性エラストマーを80質量%以上含有する樹脂組成物を溶解または分散した塗料を流延し乾燥させることで接着性改質層を設けるシンジオタクチックポリスチレン系シート状積層体の製造方法が提供される。
【0015】
本発明の第八の態様によれば、請求項1〜6のいずれかに記載の接着性改質層上に、ハードコート層を積層したシンジオタクチックポリスチレン系シート状ハードコート積層体が提供される。
【0016】
本発明の第九の態様によれば、シート/ハードコート層間の剥離強度が、JIS−K5600−5−6(1999年制定)に準じたハードコート層の密着性残存率で90%以上であり、且つJIS−K7105(1981年制定)により測定した全光線透過率が90%以上であるシンジオタクチックポリスチレン系シート状ハードコート積層体が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明のシンジオタクチックポリスチレン系シート状積層体は優れた密着性、非タック性、透明性、帯電防止性を有しており、その加工性も簡便なことから、SPSシートの特性を充分に生かした各種用途への展開が可能な接着性改質シートを提供することができる。更に、本発明のシンジオタクチックポリスチレン系シート状ハードコート積層体は優れた密着性、透明性、耐擦傷性を有しており、その加工性も良好なことから、ディスプレイなどの光学用途への展開が可能なシートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明のシンジオタクチックポリスチレン系シート状積層体(以下、「積層体」または「SPS積層体」と略称することがある)について詳細に説明する。
【0019】
本発明のシンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体としては、高度なシンジオタクチック構造を有するものであるが、ここで高度なシンジオタクチック構造とは、立体化学構造が高度なシンジオタクチック構造、即ち炭素−炭素結合から形成される主鎖に対して側鎖であるフェニル基や置換フェニル基が交互に反対方向に位置する立体構造を有するものであり、そのタクティシティーは同位体炭素による核磁気共鳴法(13C−NMR法)により定量される。13C−NMR法により測定されるタクティシティーは、連続する複数個の構成単位の存在割合、例えば2個の場合はダイアッド,3個の場合はトリアッド,5個の場合はペンタッドによって示すことができるが、本発明に言うSPSとは、通常はダイアッドで75%以上、好ましくは85%以上、若しくはペンタッド(ラセミペンタッド)で30%以上、好ましくは50%以上のシンジオタクティシティーを有するポリスチレン,ポリ(アルキルスチレン),ポリ(ハロゲン化スチレン),ポリ(アルコキシスチレン),ポリ(ビニル安息香酸エステル)およびこれらの混合物、あるいはこれらを主成分とする共重合体を指称する。なお、ここでポリ(アルキルスチレン)としては、ポリ(メチルスチレン),ポリ(エチルスチレン),ポリ(イソプロピルスチレン),ポリ(ターシャリーブチルスチレン)などがあり、ポリ(ハロゲン化スチレン)としては、ポリ(クロロスチレン),ポリ(ブロモスチレン),ポリ(フルオロスチレン) などがある。また、ポリ(アルコキシスチレン)としては、ポリ(メトキシスチレン),ポリ(エトキシスチレン)などがある。これらのうち特に好ましいスチレン系重合体としては、ポリスチレン,ポリ(p−メチルスチレン),ポリ(m−メチルスチレン),ポリ(p−ターシャリーブチルスチレン),ポリ(p−クロロスチレン),ポリ(m−クロロスチレン),ポリ(p−フルオロスチレン) 、更にはスチレンとp−メチルスチレンとの共重合体をあげることができる。
【0020】
また、本発明に用いるSPSは、分子量については制限はないが、質量平均分子量が10,000以上のものが好ましく、とりわけ50,000以上のものが最適である。さらに、分子量分布についてもその広狭は制約がなく、様々なものを充当することが可能である。このSPSは、融点が200〜310℃であって、従来のアタクチック構造のスチレン系重合体に比べて耐熱性が格段に優れている。このようなSPSは、例えば不活性炭化水素溶媒中または溶媒の不存在下に、チタン化合物、及び水とトリアルキルアルミニウムの縮合生成物を触媒として、スチレン系単量体(上記スチレン系重合体に対応する単量体)を重合することにより製造することができる(特開昭62−187708号公報)。
【0021】
本発明に用いられるシンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体は、アタクチック構造やアイソタクチック構造のポリスチレン系重合体との混合物や共重合体およびそれらの混合物であってもかまわないが、少なくとも40質量%以上はシンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体からなるものである。
【0022】
本発明のシンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体には、本発明の効果を妨げない範囲で、公知の各種添加剤、例えば、アンチブロッキング剤、酸化防止剤、核剤、可塑剤、離型剤、帯電防止剤、顔料等を含有してもよい。
【0023】
本発明のシンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体を含むスチレン樹脂からなるシートは、通常、厚さが5〜500μm程度のシート状物を指す。シート状物の製造方法は公知の方法が用いられる。例えば、スチレン系重合体を250〜300℃程度で溶融押出する。押出に用いられるダイスとしては、コートハンガーダイ、T−ダイおよび円環ダイなどを用いることができる。溶融押出後、冷却し、延伸することでシンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体の結晶化度を向上させるとともに、透明性を発現させることができる。延伸の方法としては、例えば一軸延伸、同時二軸延伸、逐次二軸延伸及びこれらを組み合わせた多段延伸法を用いることができる。なかでも同時又は逐次二軸延伸法を用いることが好ましい。また、その場合の面積延伸倍率は3〜20倍程度が好ましく、5〜10倍がより好ましい。この延伸温度は、90〜200℃が好ましく、90〜150℃がより好ましい。なお、延伸後、熱処理を行うことが好ましく、緊張下において、好ましくは100〜270℃、より好ましくは150〜270℃で、好ましくは1〜300秒間、より好ましくは1〜60秒間行えばよい。このようにして、本発明に用いられる厚さが5〜500μm程度のシンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体を含むスチレン樹脂からなるシート状物を得ることができる。
【0024】
本発明の積層体の接着性改質層に用いられる熱可塑性エラストマーは、特定の硬さ、柔軟性を有することを必須とし、デュロメータD硬さが5〜30またはデュロメータA硬さが60〜85の少なくとも一方を満たすであることが必要である。本発明で指すデュロメータD硬さとはJIS K7215(1979年制定、1986年改正)に準じて測定される樹脂の硬さであり、厚さ4mm、シェアDで測定された硬さのことを言う。一方、本発明で指すデュロメータA硬さは、厚さ4mm、シェアAで測定された硬さのことを言う。デュロメータD硬さおよびデュロメータA硬さはプラスチックの粘弾性、柔軟性、硬さを示す重要なパラメータであり、これらのパラメータは相関性があるものであり、通常、デュロメータD硬さとデュロメータA硬さはほぼ相似関係にある。DおよびAはシェアと呼ばれ、デュロメータが測定樹脂を押すときのスプリングの強弱、端子の形状で規定されている。数値は大きい方が硬く、小さい方が柔軟となる。DシェアとAシェアではDシェアの方が硬い材料の場合に用いられ、Aシェアの方が柔らかい材料に用いられる。また、DシェアとAシェアの間は、より詳細に区分され、C、DO、Bが存在するが、ゴム、プラスチック、エラストマーなどは、デュロメータのDまたはAシェアで表されることが多く、一般化している。したがって、本発明ではいずれか一方あるいは両方が上記範囲にあることによって用いられる熱可塑性エラストマーの硬さを規定することとする。デュロメータD硬さが5より小さいか、またはデュロメータA硬さが60より小さいエラストマーの場合、接着性改質層が柔らかくなりすぎてタック性が強くなりハンドリングの面から好ましくない。また、デュロメータD硬さが30より大きいまたはデュロメータA硬さが85より大きいエラストマーの場合、充分な密着性をえることができない。より好ましいデュロメータD硬さの範囲は15〜30であり、より好ましいデュロメータA硬さの範囲は70〜80であり、タック性がなく密着性の強い接着性改質層が得られる。
【0025】
本発明で用いられる熱可塑性エラストマーとしては、スチレン・ブタジエン・スチレンブロックコポリマー(SBS)、スチレン・イソプレン・スチレンブロックコポリマー(SIS)、エポキシ化スチレン系エラストマー(ESBS)、水添TPS(ニートポリマー)、非架橋水添TPS(コンパウンド)、単純ブレンドタイプオレフィン系エラストマー(s−TPO)、架橋型エラストマー(TPV)、オレフィン系エラストマー(重合タイプ)(RTPO)、塩ビ系エラストマー(TPVC)、塩素化エチレンコポリマー架橋体アロイ(Alcryn)、塩素化ポリエチレン系エラストマー(CPE)、シンジオタクチック1,2−ポリブタジエン(RB)、ウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)、ポリエステル系エラストマー(TPEE)、ポリアミド系エラストマー(TPAE)、フッ素系熱可塑性エラストマー、シリコーン系熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。本発明では、SBS、TPU、TPEE、TPAEがコスト、環境影響、多くの粘弾性樹脂グレードの入手の容易さなどが優れており、またSPSとの密着性にも優れており好適に用いられる。
【0026】
特に、本発明で規定されるデュロメータD硬さまたはデュロメータA硬さを有する樹脂の具体例としては、SBSとしては旭化成工業社製のタフプレン315(デュロメータA硬さ:62)、アサプレンT411(デュロメータA硬さ:75)、アサプレンT412(デュロメータA硬さ:60)、アサプレンT413(デュロメータA硬さ:81)、アサプレンT426(デュロメータA硬さ:75)、アサプレンT436(デュロメータA硬さ:70)、アサプレンT437(デュロメータA硬さ:75)、アサプレンT438(デュロメータA硬さ:80)が挙げられ、TPUとしてはBASF社製のエラストランC80A(デュロメータA硬さ:80)、エラストランS80A(デュロメータA硬さ:80)、エラストラン1180A(デュロメータA硬さ:80)、エラストランET680A(デュロメータA硬さ:80)、エラストランET880A(デュロメータA硬さ:80)、日本ミラクトラン社製のE180(デュロメータA硬さ:80)、E380(デュロメータA硬さ:80)、E480(デュロメータA硬さ:80)、E580(デュロメータA硬さ:80)、E680(デュロメータA硬さ:80)、E880(デュロメータA硬さ:80)、E980(デュロメータA硬さ:80)、P22M(デュロメータA硬さ:82)、日本ポリウレタン工業社製のP480RSUI(デュロメータA硬さ:80)、P22MRNAT(デュロメータA硬さ:82)、P22SRNAT(デュロメータA硬さ:82)が挙げられ、TPEEとしては、東レ・デュポン社のハイトレル3046(デュロメータD硬さ:27)が挙げられ、TPAEとしては富士化成工業社製のTPAE−12(デュロメータD硬さ:18、デュロメータA硬さ:72)、TPAE−H471EP(デュロメータD硬さ:26、デュロメータA硬さ:78)、東レ社製のAQ−ナイロンP−70(デュロメータD硬さ:30)を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。また、これら熱可塑性エラストマーの2種類以上を混合して用いることも可能であるが、互いに相溶する樹脂であることが密着性、透明性の発現において好ましい。更に、最も好ましい樹脂はTPAEである。TPAEは、溶剤溶解性、透明性が他の樹脂に比べて優れており、かつ窒素原子の持つ高い極性の効果で、シンジオタクチックポリスチレンとの高い密着性と、ハードコート層の高い接着性が得られるために好適に用いられる。
【0027】
本発明の接着性改質層は、上記熱可塑性エラストマーを用いることで、0.1〜10μmの薄膜で充分な密着性と接着力を得ることができる。0.1μmより薄い場合は、密着力の低下の可能性があり好ましくない。10μm超の厚みは実質的に密着性に寄与しないためその必要性がない。より好ましい厚みは、0.1〜5μmであり、更に好ましくは0.1〜1μmである。1μm以下の厚みでも充分な密着性と接着力が得られ、薄膜、軽量化に繋がり、且つ、更にハードコート層を積層した場合などに表面硬度を妨げないためにも薄膜であることが好ましい。接着性改質層はSPSシートの片面上に隣接して積層することができる。
【0028】
本発明の接着性改質層は、上記熱可塑性エラストマーを80質量%以上含有した樹脂組成物であり、本発明の効果を損なわない範囲で他の樹脂を添加することが可能である。添加できる他の樹脂としては、上記熱可塑性エラストマーと相溶する樹脂であることが好ましく、添加量は20質量%以下であり、つまり熱可塑性エラストマーが80質量%以上含有することが好ましい。熱可塑性エラストマーが80質量%未満になると、密着性の低下につながり好ましくない。より好ましい熱可塑性エラストマーの範囲は90質量%以上であり、高い密着性が得られる。他の樹脂の例としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化樹脂などが挙げられる。なかでも、熱硬化性樹脂および紫外線硬化樹脂は、接着性樹脂改質層のブロッキング性を軽減、耐溶剤性を向上するために好ましい。熱硬化性樹脂の例としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、レゾール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂などが挙げられる。紫外線硬化樹脂の例としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、多官能アクリレート樹脂などが挙げられる。熱硬化性樹脂を添加する場合、硬化剤、触媒、促進剤などを併用し、硬化速度を向上することが好ましい。また、紫外線硬化樹脂を添加する場合、光重合開始剤などを併用する必要があり、硬化速度の点からは紫外線硬化樹脂のほうが好ましい。更に、本発明のシンジオタクチックポリスチレン系シート状積層体を光学用途で使用する場合においては、高い透明性が必要とされるため、樹脂の選択には相容性の良い材料を選択する必要がある。
【0029】
本発明の接着性改質層には、2次加工時の加工性を向上する目的で帯電防止性能を有することが好ましい。特にシンジオタクチックポリスチレンは絶縁性が高いために静電気を取り込みやすい。静電気を除くために必要な表面抵抗は1.0×1012Ω/cm以下であり、1.0×10Ω/cm以上であれば問題ない。本発明で言う表面抵抗値は、JIS K 6911(1962年制定、2006年改正)において測定された値のことをいい、接着性改質層表面を測定した値である。帯電防止性能を有するためには、用いられる熱可塑性樹脂エラストマー自身に帯電防止性が付与されている樹脂を用いるか、あるいは、添加剤として帯電防止剤を加える方法がある。帯電防止性能を有する熱可塑性樹脂エラストマーの具体例としては、富士化成工業社製のTPAE−H471EP(デュロメータD硬さ:26)が挙げられる。該TPAEは、分子内部に親水性の構造を有するために帯電防止性能を発現するものであり、添加剤と比べてブリードアウトがなく、半永久的な帯電防止性能を発揮できるために好ましく用いられる。添加剤としての帯電防止剤の例としては公知の技術を用いることができ、導電性ポリマー、導電性フィラー、界面活性剤、金属塩などが挙げられる。
【0030】
本発明の接着性改質層には、帯電防止剤のほかに必要に応じて各種添加剤、例えば、滑剤、顔料、酸化防止剤、紫外線吸収剤、レベリング剤、分散剤を添加することができる。これらの添加量は本発明の硬化を妨げない範囲で添加し、最終的な熱可塑性エラストマーの含有量を80質量%以上にすることが必要である。さらに、光学用途として使用する場合は、全光線透過率が90%以上となる範囲で添加することが好ましい。
【0031】
次いで、本発明のシンジオタクチックポリスチレン系シート状積層体の製造方法について説明する。
【0032】
本発明のシンジオタクチックポリスチレン系シート状積層体は、基材となるシンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体を含むスチレン樹脂からなるシートの少なくとも片面に、コロナ処理、プラズマ処理またはフレーム処理等により、表面エネルギーを45mN/m以上に表面改質することが好ましい。本発明における表面エネルギーは、JIS K6768(1971年制定、1999年改正)に準拠して測定される数値である。シンジオタクチックポリスチレンは結晶性が高いために表面エネルギーが通常35mN/m以下と非常に低く、塗料の表面張力との関係から、塗料が弾きやすく均一な塗布が難しく、また、塗布した接着性改質層の密着性も劣る。そこで、シンジオタクチックポリスチレンの表面エネルギーをコロナ処理、プラズマ処理またはフレーム処理等によって向上させることで、塗料の濡れ性、接着性改質層の密着性を向上することが可能である。処理方法は、上記いずれの場合でもかまわず、何れの方法でも処理条件を適宜選択することで、必要な45mN/m以上の表面エネルギーを得ることができる。なかでも、プラズマ処理では60mN/m以上の表面エネルギーを得ることも可能であり、処理方法としては最も好ましい。この場合、表面張力がたかい水分散塗料も均一に塗布することができ、密着性も向上する。
【0033】
熱可塑性エラストマーを含む樹脂組成物は、該樹脂組成物が溶解可能な溶媒に溶解もしくは、分散可能な分散媒に分散することで塗料とすることができる。溶媒、分散媒の選択に制限はなく、均一な塗料ができれば何れのものも使用できる。分散塗料とする場合、用いられるエラストマーが微粒子である必要がある。塗料の濃度は用いられるエラストマーの溶解性、分散性から適宜選択されるが、5〜70質量%であれば塗布に問題なく使用できる。
【0034】
塗布方法としては、公知の塗布方式を適用することが可能であり、例えば、ロールコート法、グラビアコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアーナイフコート法、含浸法およびカーテンコート法などを挙げることができる。これらの方法は単独で用いてもよいし、複数を組合わせて使用することもできる。これらは塗料の濃度、粘度、目標とする塗布厚みによって適宜選択される。
【0035】
スチレン系重合体を含むスチレン樹脂からなるシートを上記の方法にて適切に表面処理した後、この表面処理した面上に塗料を流延した後、熱風乾燥炉、電熱乾燥炉、赤外線乾燥炉などにおいて乾燥する。乾燥温度は、50〜150℃であることが好ましく、生産性を考慮して100℃前後で乾燥される。また、熱硬化性樹脂を配合した場合、さらに50〜150℃の範囲内で加熱処理を行い硬化させる。一方、紫外線硬化樹脂を配合した場合、紫外線を照射して硬化させる。このようにして製造されたシンジオタクチックポリスチレン系シート状積層体は、均一性が良く、タック性が低く、且つ密着性の良好な薄膜の接着性改質層を有することができる。
【0036】
ここで言う密着性が良好とは、JIS−K5600−5−6(1999年制定)に準じた接着性改質層の密着性残存率で90%以上であることを意味する。本発明のシンジオタクチックポリスチレン系シート状積層体は、90%以上の残存率を維持することが可能で、シンジオタクチックポリスチレン系シートの表面処理により、100%を達することも可能である。
【0037】
本発明の第二の目的として、更にハードコート層を積層することで耐擦傷性に優れたシンジオタクチックポリスチレン系シート状ハードコート積層体(以下、「ハードコート積層体」と略称することがある)を得ることができる。本発明でいうハードコート層は紫外線硬化性樹脂により形成されることが好ましい。紫外線硬化性樹脂は公知のものを使用することができるが、一般に、多官能性モノマー、単官能性モノマー、重合性オリゴマー、光重合開始剤および添加剤から構成される。また、紫外線硬化性樹脂にシリコーンを含有させることもできる。ハードコート層は接着性改質層上に隣接して積層することができる。
【0038】
多官能性モノマーとしては、例えば、2官能の1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ビスフェノールAジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、3官能のトリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールトリアクリレート、4官能のペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタアクリレート、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、6官能のジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等やこれら変性体を使用することができる。
【0039】
単官能性モノマーとしては、例えば、アクリル酸、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、イソオクチルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、イソボルニルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、2−メトキシエチルアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、2−エトキシエチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、ベンジルアクリレート、エチルカルビトールアクリレート、フェノキシエチルアクリレート等を使用することができる。
【0040】
重合性オリゴマーとしては、例えば、エチレン性二重結合(好ましくはアクリロイル基またはメタクリロイル基)を複数有するウレタンオリゴマー、ポリエステルオリゴマーまたはエポキシオリゴマー等のオリゴマーを使用することができる。
【0041】
光重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾフェノン、ベンゾイルメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ジベンジル、5−ニトロアセナフテン、ヘキサクロロシクロペンタジエン、p−ニトロジフェニル、p−ニトロアニリン、2,4,6−トリニトロアニリン、1,2−ベンズアントラキノン、3−メチル−1,3−ジアザ−1,9−ベンズアンスロン;アセトフェノン、アセトフェノンベンジルケタール、アントラキノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、キサントン系化合物、トリフェニルアミン、カルバゾール、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4'−ジメトキシベンゾフェノン、4,4'−ジアミノベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、カルバゾール、キサントン、1,1−ジメトキシデオキシベンゾイン、3,3'−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン、チオキサントン系化合物、ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、1−(4−ドデシルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−プロパン−1−オン、トリフェニルアミン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシド、ビスアシルフォスフィンオキシド、ベンジルジメチルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、フルオレノン、フルオレン、ベンズアルデヒド、ミヒラーケトン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オン、3−メチルアセトフェノン、3,3',4,4'−テトラ(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン(BTTB)等が挙げることができる。これらのうち、特にベンゾフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンが好ましい。
【0042】
上記の多官能性モノマー、単官能性モノマー、重合性オリゴマー、光重合開始剤は単独で用いてもよいし、又は2種以上組み合わせて使用することもできる。また重合性オリゴマー、多官能性モノマー、単官能性モノマーおよび光重合開始剤は、それぞれ1種用いても良く、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0043】
添加剤としては、該添加剤を含有させるハードコート層の光透過率が90%以上であれば、必要に応じて適宜添加することができる。具体的には、例えば、着色剤、無機系充填剤、有機系充填剤等を挙げることができる。
【0044】
シリコーンを紫外線硬化性樹脂に含有させたハードコート層は、撥水性および滑り性が向上するため、ハードコート層表面に汚れが付着しにくくなる。シリコーンの添加量は、ハードコート層の樹脂組成物100質量部に対して0.01〜0.1質量部とすることが好ましい。0.01質量部未満であると、撥水性や滑り性が不十分になる恐れがあり、0.1質量部超では可撓性が増してしまい表面硬度が減少してしまう場合がある。
【0045】
本発明を構成するハードコート層は接着性改質層上に形成されていれば良いのであって、その塗布方法は接着性改質層の塗布方法と同様に、下記の中から適宜選択することができる。例えば、ロールコート法、グラビアコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアーナイフコート法、含浸法およびカーテンコート法などを挙げることができる。これらの方法は単独で用いてもよいし、複数組合わせて使用することもできる。
【0046】
塗料は溶剤に溶解したものでも良く、反応性低粘度モノマーによる粘度調整によるものでもよく、必要に応じて流延塗膜を乾燥する。その後、紫外線照射によってハードコート層を硬化させる。
【0047】
ハードコート層の厚さは1〜20μmであることが好ましい。1μm未満では表面硬度が十分得られない。また、20μm超の厚みは必要なく、また光透過率が減少する恐れがある。表面硬度と光透過率のバランスの良い塗布厚の範囲は5〜10μmであり、最も好ましい範囲である。
【0048】
本発明による接着性改質層およびハードコート層を積層したシンジオタクチックポリスチレン系シート状積層体は、ハードコート層の90%以上の残存率を維持することが可能で、シンジオタクチックポリスチレン系シートの表面処理により、100%を達することも可能である。ここで言う密着性が良好な接着性改質層とは、JIS−K5600−5−6(1999年制定)に準じたハードコート層の密着性残存率を意味する。
【0049】
本発明による接着性改質層およびハードコート層を積層したシンジオタクチックポリスチレン系シート状積層体は、JIS−K7105(1981年制定)により測定した全光線透過率が90%以上となることが可能である。90質量%以上の光透過率は、ディスプレイなどの表示体、窓貼りフィルム、意匠性包装材などに用いる際に必要となる透明性を得るためのものである。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0051】
(製造例)SPSシートの製造
シンジオタクチックポリスチレンコポリマー(出光興産社製、81AC)のペレットに、アンチブロッキング剤としてアルミノシリケート(水澤化学社製、シルトンAMT08L)10,000質量ppmを粉体混合し、2軸混錬機にて300℃で溶融押出することで得られたマスターバッチ(MB)と、シンジオタクチックポリスチレンコポリマー(出光興産社製、81AC)のペレット(SPS)を、SPS/MB=90/10の質量比でペレットブレンドした。該混合ペレットを、50mmφの単軸押出機にて、シリンダー及びコートハンガーダイの温度を300℃に設定して押出し、85℃の冷却ロールで冷却して、300μm厚みの単層未延伸シートを得た。この未延伸シートを連続的に縦方向に150℃で3.3倍に延伸し、次いで横方向に115℃で3.6倍に延伸後、200℃で幅方向に5%弛緩させながら10秒間熱処理を施し、厚みが約25μmの単層2軸延伸シート(SPSシート)を得た。得られたシートの表面エネルギーをJIS K6768(1971年制定、1999年改正)に準拠して測定したところ、33mN/mであった。実施例及び比較例には、該SPSシートを用いた。
【0052】
(実施例1)
熱可塑性エラストマーとしてSBSのタフプレン315(旭化成工業社製、デュロメータA硬さ:62)10質量部をトルエン190質量部に加熱しながら溶解し、帯電防止剤としてアーモスタット410(ライオン・アクゾ社製)0.3質量部を添加混合し接着性改質層の塗料1を得た。製造例1で得られたSPSシートを表面処理せずに、塗料1をバーコート法により塗布し、100℃で3分間乾燥させたところ、1μmの接着性改質層を有するSPS積層体を得た。
【0053】
(実施例2)
熱可塑性エラストマーとしてTPUのP22MRNAT(日本ポリウレタン社製、デュロメータA硬さ:82)10質量部をトルエン/メチルイソブチルケトン(MIBK)の1:1質量比の混合溶剤90質量部に加熱しながら溶解し、帯電防止剤としてアーモスタット410(ライオン・アクゾ社製)0.3質量部を添加混合し接着性改質層の塗料1を得た。製造例2で得られたSPSシートをコロナ処理にて表面エネルギーを45mN/mに調節し、該処理面上に、塗料2をバーコート法により塗布し、100℃で2分間乾燥させたところ、10μmの接着性改質層を有するSPS積層体を得た。
【0054】
(実施例3)
熱可塑性エラストマーとしてTPAEのTPAE−12(富士化成工業社製、デュロメータD硬さ:18、デュロメータA硬さ:72)10質量部をトルエン/2−プロパノール(IPA)の1:1質量比の混合溶剤190質量部に加熱しながら溶解し、帯電防止剤としてアーモスタット410(ライオン・アクゾ社製)0.3質量部を添加混合し接着性改質層の塗料3を得た。製造例1で得られたSPSシートをコロナ処理にて表面エネルギーを55mN/mに調節し、該処理面上に、塗料3をバーコート法により塗布し、100℃で3分間乾燥させたところ、1μmの接着性改質層を有するSPS積層体を得た。
【0055】
(実施例4)
熱可塑性エラストマーとしてTPAEのAQナイロンP−70(東レ社製、デュロメータD硬さ:30)10質量部を水/IPAの9:1質量比の混合溶剤190質量部に加熱しながら溶解し、帯電防止剤としてデノン733(丸菱油化工業社製)0.5質量部を添加混合し、接着性改質層の塗料4を得た。製造例1で得られたSPSシートを窒素封入下のプラズマ処理にて表面エネルギーを65mN/mに調節し、該処理面上に、塗料4をバーコート法により塗布し、100℃で3分間乾燥させたところ、1μmの接着性改質層を有するSPS積層体を得た。
【0056】
(実施例5)
熱可塑性エラストマーとしてTPAEのTPAE−H471EP(富士化成工業社製、デュロメータD硬さ:26、デュロメータA硬さ:78)10質量部をトルエン/IPAの1:1質量比の混合溶剤190質量部に加熱しながら溶解し、接着性改質層の塗料5を得た。製造例1で得られたSPSシートをコロナ処理にて表面エネルギーを55mN/mに調節し、該処理面上に、塗料5をバーコート法により塗布し、100℃で3分間乾燥させたところ、1μmの接着性改質層を有するSPS積層体を得た。
【0057】
(実施例6)
熱可塑性エラストマーとしてTPAEのTPAE−H471EP(富士化成工業社製、デュロメータD硬さ:26、デュロメータA硬さ:78)8.0質量部をトルエン/IPAの1:1質量比の混合溶剤190質量部に加熱しながら溶解した後、冷却した。次いで、紫外線硬化樹脂としてジペンタエリスリトールヘキサアクリレート2.0質量部、光重合開始剤としてIRGACURE184(チバスペシャリティケミカル)0.08質量部を添加混合し接着性改質層の塗料6を得た。製造例1で得られたSPSシートをコロナ処理にて表面エネルギーを55mN/mに調節し、該処理面上に、塗料6をバーコート法により塗布し、100℃で3分間乾燥させ冷却後、500mJ/cmのUV照射を行い、UV硬化樹脂成分を硬化させたところ、1μmの接着性改質層を有するSPS積層体を得た。
【0058】
(比較例1)
ハードコート材料であるジペンタエリスリトールヘキサアクリレートと1,6−ヘキサンジオールジアクリレートを8:2の質量比で混合したアクリレート10質量部をトルエン20質量部に希釈し、光重合開始剤としてIRGACURE184(チバスペシャリティケミカル)0.5質量部を混合し比較塗料1を調製した。製造例1で得られたSPSシート上に表面処理せずに、比較塗料1をバーコート法により塗布し、100℃で3分間乾燥させ冷却後、500mJ/cmのUV照射を行い、UV硬化樹脂成分を硬化させ、10μmのハードコート層を接着性改質層を介さずに直接SPS積層した比較用の積層体を得た。
【0059】
(比較例2)
熱可塑性エラストマーとしてTPAEのTPAE−32(富士化成工業社製、デュロメータD硬さ:31、デュロメータA硬さ:88)10質量部をトルエン/IPAの1:1質量比の混合溶剤190質量部に加熱しながら溶解し接着性改質層の比較塗料2を得た。製造例1で得られたSPSシートをコロナ処理にて表面エネルギーを55mN/mに調節し、該処理面上に、比較塗料2をバーコート法により塗布し、100℃で3分間乾燥させたところ、1μmの接着性改質層を有する比較用のSPS積層体を得た。
【0060】
(比較例3)
熱可塑性エラストマーとしてSBSのQuintac3460(日本ゼオン社製、固形分濃度25質量%、デュロメータA硬さ:55)を比較塗料3とした。製造例1で得られたSPSシートをコロナ処理にて表面エネルギーを55mN/mに調節し、該処理面上に、比較塗料3をバーコート法により塗布し、100℃で3分間乾燥させたところ、5μmの接着性改質層を有する比較用のSPS積層体を得た。
【0061】
(比較例4)
熱可塑性エラストマーとしてTPAEのTPAE−H471EP(富士化成工業社製、デュロメータD硬さ:26、デュロメータA硬さ:78)7.5質量部をトルエン/IPAの1:1質量比の混合溶剤190質量部に加熱しながら溶解した後、冷却した。次いで、紫外線硬化樹脂としてジペンタエリスリトールヘキサアクリレート2.5質量部、光重合開始剤としてIRGACURE184(チバスペシャリティケミカル)0.15質量部を添加混合し接着性改質層の比較塗料4を得た。製造例1で得られたSPSシートをコロナ処理にて表面エネルギーを55mN/mに調節し、該処理面上に、比較塗料4をバーコート法により塗布し、100℃で3分間乾燥させ冷却後、500mJ/cmのUV照射を行い、UV硬化樹脂成分を硬化させたところ、1μmの接着性改質層を有するSPS積層体を得た。
【0062】
実施例1〜6および比較例1〜4で得られた積層体について、製造条件を表1にまとめた。
【0063】
【表1】

【0064】
(密着性)
実施例1〜6および比較例1〜4で得られた積層体において、SPSシートと接着性改質層間の密着性をJIS−K5600−5−6(1999年制定)に準拠したクロスカット密着性試験で評価した。クロスカットの間隔は1mmとし、クロスカットのマス目は100マスとした。残存率が90%以上であるものを○、100%であったものを◎とし、90%未満のものを×とし結果を表2に示した。
【0065】
(タック性)
実施例1〜6および比較例1〜4で得られた積層体において、触指試験にてタック性の有無を評価した。指で触れた特にタックを生じるものを×、生じないものを○で、表2に示した。
【0066】
(表面抵抗の測定)
実施例1〜6で得られた積層体において、積層体表面の接着性改質層側の表面抵抗値をJIS K 6911(1962年制定、2006年改正)に準拠して測定した。比較例については密着性またはタック性の結果を考慮して表面抵抗値の測定は実施していない。測定値の結果が1.0×10〜1.0×1012Ω/cmの範囲内であったものを○、それ以外の範囲であったものを×として結果を表2に示した。
【0067】
【表2】

【0068】
表2の結果から分かるように、実施例1〜6の積層体の密着性は良好であり、特に実施例3〜6の積層体においては残存率が100%でありSPSシートとの優れた密着性を示した。また、何れの実施例もタック性がなく、且つ、帯電防止に充分な表面抵抗値となっており、2次加工性の優れた積層体である。一方、比較例1、2および4の積層体はタック性はないものの充分な密着が得られず実用性に問題がある。比較例3の積層体は密着性が得られているがタック性が強く、2次加工性には実用上の問題がある。
【0069】
(実施例7〜12、比較例5〜7)
実施例1〜6および比較例2〜4で得られた接着性改質層を有するSPS積層体の接着性改質層面上にハードコート層を更に積層し評価した。ハードコート材料であるジペンタエリスリトールヘキサアクリレートと1,6−ヘキサンジオールジアクリレートを8:2の質量比で混合したアクリレート10質量部をトルエン/IPAの2:1質量比の混合溶剤20質量部に希釈し、光重合開始剤としてIRGACURE184(チバスペシャリティケミカル)0.5質量部を混合しハードコート塗料を調製した。実施例1〜6および比較例2〜4で得られた積層体の接着性改質層上に、ハードコート塗料をバーコート法により塗布し、100℃で3分間乾燥させ冷却後、500mJ/cmのUV照射を行い、UV硬化樹脂成分を硬化させ、10μmのハードコート層を接着性改質層を介してSPS積層したハードコート積層体を得た。得られたハードコート積層体は、それぞれ実施例7〜12、比較例5〜7として表3にまとめた。
【0070】
【表3】

【0071】
(密着性)
実施例7〜12および比較例5〜7で得られたハードコート積層体において、ハードコート層と接着性改質層の密着性をJIS−K5600−5−6(1999年制定)に準拠したクロスカット密着性試験で評価した。クロスカットの間隔は1mmとし、クロスカットのマス目は100マスとした。残存率が90%以上であるものを○、100%であったものを◎とし、90%未満のものを×とし結果を表4に示した。
【0072】
(耐擦傷性)
耐摩耗性は、ハードコート層上にスチールウール磨耗試験(荷重250g/cm)において、目視により傷が認められなかったものを○、認められたものを×とした。
【0073】
(全光線透過率)
全光線透過率はJIS−K7105(1981年制定)により測定し、90%以上を○、90%未満を×とした。
【0074】
【表4】

【0075】
表4の結果から明らかな通り、実施例7〜12のハードコート積層体は優れた密着性を有しており、特に、実施例9〜11のハードコート積層体は残存率が100%であり大変優れている。また、ハードコート性および全光線透過率も充分であった。一方、比較例5〜7の密着性は乏しく実用上問題のあるものであった。比較例6においてはハードコート層との接着性改質層の密着性が悪いことが分かり、また、光透過性も充分得られないことが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体を含むスチレン樹脂からなるシートの少なくとも片面に、JIS K7215(1979年制定、1986年改正)に準じたデュロメータD硬さが5〜30またはデュロメータA硬さが60〜85の少なくとも一方を満たす熱可塑性エラストマーを80質量%以上含有する樹脂組成物からなる接着性改質層を設けたことを特徴とするシンジオタクチックポリスチレン系シート状積層体。
【請求項2】
熱可塑性エラストマーが熱可塑性ポリアミドエラストマーであることを特徴とする請求項1に記載のシンジオタクチックポリスチレン系シート状積層体。
【請求項3】
接着性改質層が0.1〜10μmの厚みで積層されることを特徴とする請求項1または2に記載のシンジオタクチックポリスチレン系シート状積層体。
【請求項4】
接着性改質層に熱硬化性樹脂または紫外線硬化樹脂を20質量%以下で含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のシンジオタクチックポリスチレン系シート状積層体。
【請求項5】
接着性改質層の表面抵抗が1.0×10Ω/cm以上、1.0×1012Ω/cm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のシンジオタクチックポリスチレン系シート状積層体。
【請求項6】
シート/接着性改質層間の剥離強度が、JIS−K5600−5−6(1999年制定)に準じた接着性改質層の密着性残存率で90%以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のシンジオタクチックポリスチレン系シート状積層体。
【請求項7】
シンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体を含むスチレン樹脂からなるシートの少なくとも片面の表面エネルギーを45mN/m以上に表面改質した後、その表面改質面に対して熱可塑性エラストマーを80質量%以上含有する樹脂組成物を溶解または分散した塗料を流延し乾燥させることで接着性改質層を設けることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のシンジオタクチックポリスチレン系シート状積層体の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の接着性改質層上に、ハードコート層を積層したことを特徴とするシンジオタクチックポリスチレン系シート状ハードコート積層体。
【請求項9】
シート/ハードコート層間の剥離強度が、JIS−K5600−5−6(1999年制定)に準じたハードコート層の密着性残存率で90%以上であり、且つJIS−K7105(1981年制定)により測定した全光線透過率が90%以上ことを特徴とする請求項8に記載のシンジオタクチックポリスチレン系シート状ハードコート積層体。

【公開番号】特開2011−126190(P2011−126190A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−287995(P2009−287995)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(000153591)株式会社巴川製紙所 (457)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【出願人】(500163366)出光ユニテック株式会社 (128)
【Fターム(参考)】