説明

シンジオタクチックポリスチレン系樹脂フィルム

【課題】接着性と電気特性に優れたシンジオタクチックポリスチレン系樹脂フィルムを提供する。
【解決手段】200℃、50kgf/cm、1分間で銅板に熱圧着したときの碁盤目剥離試験において、全マス数に対し剥離したマス数が20%以下であるシンジオタクチックポリスチレン系樹脂フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シンジオタクチックポリスチレン系樹脂フィルム、それを含む積層体及びこの積層体を用いたフレキシブルプリント基盤用カバーレイフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の配線盤には、板状のリジッドタイプのプリント配線盤と耐熱性フィルム上に回路を形成するフレキシブルプリント基盤の2種類がある。
フレキシブルプリント配線盤は、ポリイミドや液晶ポリマーフィルム上に銅配線を形成し、銅配線の酸化防止や保護を目的としてさらにポリイミドや液晶ポリマーフィルムからなるカバーレイフィルムを貼り合わせて構成する(特許文献1,2)。
一般的にカバーレイフィルムに用いられるポリイミドフィルム、液晶ポリマーフィルムは耐熱性が高く難燃性を有するが、誘電正接が比較的高く電気信号のロスが大きい。
【0003】
一方、特許文献3,4はシンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂組成物と熱可塑性樹脂を主成分とするカバーレイフィルムを開示している。シンジオタクチックポリスチレン系樹脂フィルムは電気特性に優れるが、表面張力が低く、他素材との接着が困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−286537号公報
【特許文献2】特開2006−261383号公報
【特許文献3】特開2001−53422号公報
【特許文献4】特開2001−40115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、接着性と電気特性に優れたシンジオタクチックポリスチレン系樹脂フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、以下のシンジオタクチックポリスチレン系樹脂フィルム等が提供される。
1.200℃、50kgf/cm、1分間で銅板に熱圧着したときの碁盤目剥離試験において、全マス数に対し剥離したマス数が20%以下であるシンジオタクチックポリスチレン系樹脂フィルム。
2.少なくとも片面を紫外線照射したシンジオタクチックポリスチレン系樹脂フィルム。
3.前記シンジオタクチックポリスチレン系樹脂が、スチレンのホモポリマー、スチレンとパラメチルスチレンとの共重合体、又はスチレンとエチレンとの共重合体である1又は2記載のシンジオタクチックポリスチレン系樹脂フィルム。
4.1〜3いずれか記載のシンジオタクチックポリスチレン系樹脂フィルムに少なくとも1つの層を積層した積層体。
5.前記層がポリイミドフィルム又は液晶ポリマーフィルムである4記載の積層体。
6.前記シンジオタクチックポリスチレン系樹脂フィルムと、前記ポリイミドフィルム又は液晶ポリマーフィルムが接着層を介して積層された5記載の積層体。
7.1〜3いずれか記載のシンジオタクチックポリスチレン系樹脂フィルム又は4〜6いずれか記載の積層体を用いたフレキシブルプリント基盤用カバーレイフィルム。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、接着性と電気特性に優れたシンジオタクチックポリスチレン系樹脂フィルムが提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の積層体の一実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のシンジオタクチックポリスチレン系樹脂フィルムは、碁盤目剥離試験において、全マス数に対し剥離したマス数が20%以下である。碁盤目剥離試験は200℃、50kgf/cm、1分間でSPSフィルムを銅板に熱圧着して行う。剥離したマス数は好ましくは15%以下であり、より好ましくは10%以下である。碁盤目剥離試験方法は実施例に記載する。
【0010】
シンジオタクチックポリスチレン系樹脂(SPS)が有するシンジオタクチック構造とは、立体化学構造がシンジオタクチック構造、即ち炭素−炭素結合から形成される主鎖に対して側鎖であるフェニル基が交互に反対方向に位置する立体構造を有するものであり、そのタクティシティーは同位体炭素による核磁気共鳴法(13C−NMR)により定量される。13C−NMR法により測定されるタクティシティーは、連続する複数個の構成単位の存在割合、例えば2個の場合はダイアッド、3個の場合はトリアッド、5個の場合はペンタッドによって示すことができる。本発明で用いるSPSとしては、通常はラセミダイアッドで75%以上、好ましくは85%以上、又はラセミペンタッドで30%以上、好ましくは50%以上のシンジオタクティシティーを有するポリスチレン、ポリ(アルキルスチレン)、ポリ(ハロゲン化スチレン)、ポリ(ハロゲン化アルキルスチレン) 、ポリ(アルコキシスチレン)、ポリ(ビニル安息香酸エステル)、これらの水素化重合体及びこれらの混合物、又はこれらを主成分とする共重合体等が挙げられる。ポリ(アルキルスチレン)としては、ポリ(メチルスチレン)、ポリ(エチルスチレン)、ポリ(イソピルスチレン)、ポリ(ターシャリーブチルスチレン)、ポリ(フェニルスチレン)、ポリ(ビニルナフタレン)、ポリ(ビニルスチレン)等があり、ポリ(ハロゲン化スチレン)としては、ポリ(クロロスチレン)、ポリ(ブロモスチレン)、ポリ(フルオロスチレン)等がある。また、ポリ(ハロゲン化アルキルスチレン)としては、ポリ(クロロメチルスチレン)等、またポリ(アルコキシスチレン)としては、ポリ(メトキシスチレン)、ポリ(エトキシスチレン)等が挙げられる。
【0011】
好ましいSPSは、スチレンのホモポリマー、スチレンとパラメチルスチレンとの共重合体、又はスチレンとエチレンとの共重合体である。スチレンとパラメチルスチレンとの共重合体におけるパラメチルスチレン含有量は1〜20モル%、スチレンとエチレンとの共重合体におけるエチレン含有量は1〜50モル%が好ましい。
【0012】
また、本発明のSPSフィルムは少なくとも片面が紫外線照射(UV処理)されている。紫外線照射をすることにより、SPSフィルムのプリント基盤等への接着性を向上でき、上記の碁盤目剥離試験において剥離率を20%以下にできる。また、UV処理はSPSフィルムの両面に行うこともできる。
紫外線照射は、紫外線照射機等を用いて、好ましくは照射量500〜2000mJ/cm、より好ましくは1000〜2000mJ/cmで行う。
本発明において紫外線とは、波長が380nm以下である電磁波をいう。
また、コロナ処理、窒素プラズマ処理では熱圧着後のフィルムの剥離率を20%以下にできず、好ましくない。
【0013】
SPSフィルムはSPSを延伸して得ることができる。延伸法としては、逐次、同時ニ軸延伸等が挙げられ、テンター延伸が好適である。延伸温度は好ましくは100℃〜110℃である。SPSフィルムの厚さは限定されないが通常、1μm〜200μm程度である。
【0014】
本発明の積層体は、上記SPSフィルムと、1以上の他の層を積層してなる。他の層は、好ましくはポリイミドフィルム又は液晶ポリマーフィルムである。
【0015】
ポリイミドフィルムとしてはポリイミド樹脂フィルム等が挙げられる。
液晶ポリマーとしては、芳香族若しくは脂肪族ジヒドロキシ化合物、芳香族若しくは脂肪族ジカルボン酸、芳香族ヒドロキシカルボン酸、又は芳香族ジアミン、芳香族ヒドロキシアミン若しくは芳香族アミノカルボン酸等の化合物及びその誘導体から得られる液晶ポリマー等が挙げられる。
【0016】
SPSフィルムは電気特性に優れるが、耐熱性、難燃性が上記フィルムより低い。従って、SPSフィルムと上記フィルムを積層させた積層体は、電気特性、接着性だけでなく、耐熱性、難燃性にも優れる。カバーレイフィルムに使用した場合、回路接点の接合で用いられるリフローでの耐熱性にも問題がなくなる。積層体は、SPSフィルム面を回路側(内層)、ポリイミドフィルム、液晶フィルム等を外層として、回路に熱プレスで密着させる。これにより回路面側の電気ロスを低減でき、かつ基盤として耐熱性、難燃性を有するフレキシブルプリント基板(FPC)を提供することができる。
【0017】
本発明の積層体は、押出成形、Tダイ製膜延伸法、ラミネート体延伸法、インフレーション等により製造できる。また、SPSフィルムと上記層は接着層を介して積層させることができる。接着層としては例えばアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、マレイミド系樹脂、フェノキシ系樹脂等の熱可塑性樹脂等を用いることができ、熱硬化性樹脂を含むこともできる。
【0018】
図1に本発明の積層体の一実施形態を示す。この積層体1は、SPSフィルム10とポリイミドフィルム又は液晶ポリマーフィルム20が接着層30を介して積層している。限定されないが、例えば、SPSフィルム10の厚みは10〜100μm、ポリイミドフィルム又は液晶ポリマーフィルム20の厚みは10〜100μm、接着層30の厚みは5〜50μmである。
【0019】
本発明のSPSフィルム、酸化防止剤等の添加剤を0.05重量%以上含むことができる。
また、本発明の積層体は、SPSフィルムの他に、ポリイミドフィルム又は液晶ポリマーフィルム、接着層を含むことができる。
【実施例】
【0020】
実施例1
出光興産株式会社製シンジオタクチックポリスチレン樹脂(SPS)ザレック90ZCをテンター延伸により延伸温度110℃で延伸し、厚さ20μmのフィルムを得た。このフィルムの片面に、紫外線照射機を用いて1000mJ/cmでUV処理を実施した。UV処理面を厚さ100μmの銅板に密着させ、200℃、50kgf/m、1分間の条件で熱プレスを実施した。
【0021】
その後カッターナイフにてSPSフィルム側から100マス(1マス:5mm×5mm)の碁盤目状に切り込みを入れ、3M社製セロハンテープ「Scotch313」を碁盤目に押し付け、剥離した。100マス中剥離した数をマス総数で除し、下記式により100分率とした。結果を表1に示す。
碁盤目試験による剥離率=(剥離したマス数÷マス総数)×100(%)
【0022】
実施例2
SPSを出光興産株式会社製ザレックF2907とした以外は実施例1と同様にフィルム作成、UV処理、フィルム評価を行った。結果を表1に示す。
【0023】
実施例3
下記の合成法によりスチレン−エチレン共重合体(EtCopoly1、Et含量5%)を得た後、実施例1と同様にフィルム作成、UV処理、フィルム評価を行った。結果を表1に示す。
【0024】
加熱乾燥した5リットルオートクレーブに、窒素雰囲気下、室温でトルエン2,800mL、トリイソブチルアルミニウム(TIBA)1.0mmol、スチレン412mlを加えた。攪拌しながら温度を70℃にした後、(9−エチル−1,2,3,4−テトラヒドロフルオレンニル)ビス(N,N−ジメチルアミノベンジル)スカンジウム0.07mmolとトリn−ブチルアルミニウム7.0mmolとを25℃で接触させ30分後にジメチルアニリニウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレート0.084mmolを上記接触生成物に加え、15分後にエチレンで圧力を0.09MPaに保ちながら10分間重合した。
【0025】
重合反応終了後、反応生成物をメタノール−塩酸溶液中に投入し、充分攪拌した後ろ別し、さらにメタノールで充分洗浄後乾燥し、スチレン/エチレン共重合体420gを得た。触媒活性は800kg/gSc・hrであった。得られたポリマーの分子量はMw=280,000、Mn=117,000、Mw/Mn=2.39、エチレン単位含量は5mol%であった。
【0026】
実施例4
実施例1と同様にSPSザレック90ZCを延伸し、厚さ10μmのフィルムを得た。このフィルムの両面に紫外線照射機を用いて1000mJ/cmでUV処理を施した。
【0027】
さらにこのフィルムの片面に東洋インキ製接着剤ダイナレオVA−3020をバーコーターにて3g/mで塗布し、さらに三菱エンプラ製ポリイミドフィルム「ユーピレックス」50μmを張り合わせて積層体を作成し、70℃の温度で押さえつけた。その後50℃の温度雰囲気下で4日間エージングした。
SPSフィルム面を銅板に密着させ、実施例1と同様に熱プレスし、その後カッターナイフにてポリイミドフィルム側から100マスの碁盤目状に切り込みを入れ、3M社性セロハンテープ「Scotch313」を碁盤目に押し付け剥離した。結果を表1に示す。
【0028】
実施例5
ポリイミドフィルム「ユーピレックス」の代わりにクラレ製液晶ポリマーフィルム「ベクスター」を用いた以外は実施例4と同様に積層体を作成し、評価した。結果を表1に示す。
【0029】
実施例6
SPSをF2907とした以外は実施例4と同様に積層体を作成し、評価した。結果を表1に示す。
【0030】
実施例7
SPSを実施例3で合成したスチレン−エチレン共重合体とした以外は実施例4と同様に積層体を作成し、評価した。結果を表1に示す。
【0031】
比較例1
SPSフィルムのUV処理を行わなかった以外は実施例1と同様にしてフィルムを作成し、評価した。結果を表1に示す。
【0032】
比較例2
UV処理の代わりに、SPSフィルム表面に0.6kW、ラインスピード10m/分でコロナ処理を行った以外は、実施例1と同様にフィルム作成、フィルム評価を行った。結果を表1に示す。
【0033】
比較例3
UV処理の代わりに、SPSフィルム表面に1.0kW、ラインスピード0.5m/分で窒素プラズマ処理を行った以外は、実施例1と同様にフィルム作成、フィルム評価を行った。結果を表1に示す。
【0034】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明のシンジオタクチックポリスチレン系樹脂フィルム又は積層体は、電子機器等のフレキシブルプリント基盤に用いられるカバーレイフィルムとして使用できる。
【符号の説明】
【0036】
1 積層体
10 SPSフィルム
20 ポリイミドフィルム又は液晶ポリマーフィルム
30 接着層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
200℃、50kgf/cm、1分間で銅板に熱圧着したときの碁盤目剥離試験において、全マス数に対し剥離したマス数が20%以下であるシンジオタクチックポリスチレン系樹脂フィルム。
【請求項2】
少なくとも片面を紫外線照射したシンジオタクチックポリスチレン系樹脂フィルム。
【請求項3】
前記シンジオタクチックポリスチレン系樹脂が、スチレンのホモポリマー、スチレンとパラメチルスチレンとの共重合体、又はスチレンとエチレンとの共重合体である請求項1又は2記載のシンジオタクチックポリスチレン系樹脂フィルム。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか記載のシンジオタクチックポリスチレン系樹脂フィルムに少なくとも1つの層を積層した積層体。
【請求項5】
前記層がポリイミドフィルム又は液晶ポリマーフィルムである請求項4記載の積層体。
【請求項6】
前記シンジオタクチックポリスチレン系樹脂フィルムと、前記ポリイミドフィルム又は液晶ポリマーフィルムが接着層を介して積層された請求項5記載の積層体。
【請求項7】
請求項1〜3いずれか記載のシンジオタクチックポリスチレン系樹脂フィルム又は請求項4〜6いずれか記載の積層体を用いたフレキシブルプリント基盤用カバーレイフィルム。

【図1】
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【公開番号】特開2011−121993(P2011−121993A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−278096(P2009−278096)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】