説明

シンチレータ結晶、その製造方法及びその適用

【課題】本発明は、小さい遅延時間定数、特に少なくともCe:LSOと同等な遅延時間定数を有することができる物質を与える。
【解決手段】本発明は、一般式M1−xCexBr3の無機シンチレーション物質に関する。ここで、Mは、La、Gd、Yからなる群のランタニド又はランタニドの混合から選択され、特にLa、Gdからなる群のランタニド又はランタニドの混合から選択され、またxは、セリウムによるMの置換の程度であり、0.01mol%又はそれよりも大きく、厳密に100mol%未満である。また本発明は、単結晶シンチレーション物質を成長させる方法、並びに産業、医療及び/又は原油掘削探知の用途のためのシンチレーション検知器の部品としてシンチレーション物質の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シンチレータ結晶、それを得るための製造方法、並びにその使用、特にγ線及び/又はx線検知でのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
シンチレータ結晶は、γ線、x線、宇宙線、及びエネルギーが1keV程度又はそれよりも大きいの粒子の検知に関して広く使用されている。
【0003】
シンチレータ結晶は、シンチレーション波長範囲において透明な結晶であり、これは入射に対して光パルスの放出によって反応する。
【0004】
一般に単結晶であるこのような結晶によって、検知器が有する結晶によって放出される光が光検知手段に入り、受け取られた光のパルス数及びそれらの強度に比例する電気信号をもたらす検知装置を作ることが可能である。そのような検知装置は特に、厚さ及び重量測定のために産業的に、並びに核医療、物理、化学及び石油探査の分野において特に使用されている。
【0005】
広く使用されている一連の既知のシンチレータ結晶は、タリウムをドープした要素化ナトリウムTl:NaIタイプのものである。1948年にRobert Hofstadterによって発見され、近代のシンチレータの基礎となったこのシンチレーション物質は、この物質の発見から50年を経過しているにもかかわらず、この分野における主要な物質である。しかしながら、これらの結晶のシンチレーション遅延はあまり早くない。
【0006】
CsIも使用されている。これは、用途に依存して、純粋なものであっても、タリウム(Tl)又はナトリウム(Na)によってドープされていてもよい。
【0007】
かなり研究されてきたシンチレータ結晶の1つのタイプは、ゲルマニウム酸塩ビスマス(BGO)タイプのものである。BGOタイプの結晶は、遅延時間定数が大きく、このことは、これらの結晶の用途を低計測速度のものに限定する。
【0008】
比較的新しいタイプのシンチレータ結晶は1990年代に開発されており、これらはセリウム活性化ルテチウムオキシオルトシリケートCe:LSOタイプのものである。しかしながらこれらの結晶は非常に不均一であり、融点が非常に高い(約2,200℃)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
性能の改良のための新しいシンチレーション物質の開発は、多くの研究の課題である。
【0010】
改良することが望まれるパラメータの1つは、エネルギー分解能である。
【0011】
これは、多くの核検知の用途において良好なエネルギー分解能が望まれていることによる。核放射検知器のエネルギー分解能は実際に、核放射検知装置が、非常に近い放射エネルギーを区別する能力を決定する。通常、所定のエネルギーで所定の検知器について、例えばピークの平均エネルギーに対して、検知器で得られるエネルギースペクトルにおける対象ピークの中間高さ幅を決定する。(特にG.F.Knollの「Radiation Detection and Measurement」、John Wiley and Sons社、第2版、p.114を参照)。本明細書の記載及び行った全ての測定において、分解能は、137Csの主γ線放射エネルギーである662keVで測定した。
【0012】
エネルギー分解能の値が比較的小さいことは、検知器の質が比較的良好であることを意味する。エネルギー分解能が約7%である場合には良好な結果が得られると考えられる。しかしながらやはり、分解能の値が比較的小さいことはかなり有益である。
【0013】
例えば様々な放射性同位体を解析するために使用する検知器では、改良されたエネルギー分解能は、これらの同位体の改良された識別を可能にする。
【0014】
エネルギー分解能の増加は医療用画像装置、例えばアンガー(Anger)γ線カメラ又は陽電子放出断層撮影(PET)タイプの装置で特に有利である。これは、エネルギー分解能の増加が、画像の質及びコントラストをかなり改良し、腫瘍のより正確で早期の検知が可能になることによる。
【0015】
他の非常に重要なパラメータは、シンチレーション遅延時間定数である。このパラメータは通常、「スタートストップ(Start Stop)」又は「マルチヒット(Multi−hit)」法によって測定する(W.W.Moses(Nucl.Instr and Meth.A336(1993年)253)によって説明されている)。
【0016】
検知器の操作周波数を大きくするために、可能な最小遅延時間定数が望ましい。核医療画像の分野においては、これは例えば、検査時間をかなり短くすることを可能にする。あまり大きくない遅延時間定数は、瞬時に起こる現象を検知する装置の瞬間的な分解能を改良することも可能にする。これは、陽電子放出断層撮影(PET)の場合にあてはまり、ここではシンチレータ遅延時間定数の減少が、より正確に、瞬時に起こるものではない現象を除くことによって画像を有意に改良することが可能になる。
【0017】
一般に、時間の関数としてのシンチレーション遅延のスペクトルは、それぞれが遅延時間定数によって特徴付けられる指数関数の合計であるということができる。
【0018】
シンチレータの質は本質的に、最も早い放出成分の性質によって決定される。
【0019】
標準的なシンチレーション物質では、良好なエネルギー分解能と小さい遅延時間定数の両方を得ることはできない。
【0020】
これは、Tl:NaIのような物質は、γ線励起でのエネルギー分解能が約7%と良好であるが、遅延時間定数が約230ナノ秒と大きいことによる。同様に、Tl:CsI及びNa:CsIは、遅延時間定数が大きく、特に500ナノ秒超である。
【0021】
大きすぎない遅延時間定数はCe:LSOで得られ、これは特に約40ナノ秒であるが、この物質の662keVのγ線励起でのエネルギー分解能は、一般に10%よりも大きい。
【0022】
最近では、O.Guillot−Noeel等によってシンチレータ物質が開示されている(「Optical and scintillation properties of cerium doped LaCl3,LuBr3 and LuCl3」、Journal of Luminescence 85(1999年) 21〜35)。この文献は、セリウムでドープした化合物、例えば0.57mol%のCeでドープしたLaCl3;0.021mol%、0.46mol%及び0.76mol%のCeでドープしたLuBr3;0.45mol%のCeでドープしたLuCl3のシンチレーション性質を示している。これらのシンチレーション物質は、7%程度の非常に有益なエネルギー分解能を有し、早いシンチレーション成分の遅延時間定数が非常に小さく、特に25〜50ナノ秒である。しかしながらこれらの物質の早い成分の強度は小さく、特に1,000〜2,000光子/MeV程度である。このことは、高性能検知器の部品としてはこれらを使用できないことを意味する。
【0023】
本発明の目的は、小さい遅延時間定数、特に少なくともCe:LSOと同等な遅延時間定数を有することができる物質に関する。ここでは、早いシンチレーション成分の強度は、高性能の検知器を作るために適当なものであり、特に4,000ph/MeV(光子/MeV)超、特に8,000ph/MeV(光子/MeV)超であり、また好ましい態様では、エネルギー分解能が良好であり、特に少なくともTl:NaIと同じぐらいエネルギー分解能が良好である。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明では、一般式M1−xCexBr3の無機シンチレーション物質によってこの目的を達成する。ここでMは、La、Gd、Yの群のランタニド又はランタニドの混合から選択され、特にLa、Gdの群のランタニド又はランタニドの混合から選択される。またxは、セリウムによるMの置換の程度であり、「セリウム含有率」として言及する。ここでxは、0.01mol%又はそれよりも大きく、厳密に100mol%未満である。
【0025】
「ランタニド」という用語は、本発明の技術分野で標準的であるように、原子番号57〜71の遷移金属及びイットリウム(Y)に言及している。
【0026】
本発明の無機シンチレーション物質は実質的に、M1−xCexBr3からなっており、本発明の技術分野で一般的な不純物を含有していてもよい。一般的な不純物質は、原料に起因する不純物であり、その含有率は特に0.1%未満、より特に0.01%未満であり、及び/又は望ましくない相であり、その堆積分率は特に1%未満である。
【0027】
実際に本発明の発明者等は、セリウムを含有する上述のM1−xCexBr3化合物がかなりの性質を有することを示す方法を知っている。本発明の物質のシンチレーション放出は、強い早い成分(少なくとも10,000ph/MeV)と、20〜40ナノ秒程度の小さい遅延時間定数とを有する。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の好ましい物質は、式La1−xCexBr3で表され、実際にこの物質は同時に662keVにおけるエネルギー分解能が良好であり、特に5%未満、より特に4%未満のエネルギー分解能を有する。
【0029】
1つの態様では、本発明のシンチレーション物質は、662keVでのエネルギー分解能が5%未満である。
【0030】
他の態様では、本発明のシンチレーション物質は、40ナノ秒未満、特に30ナノ秒未満の小さい遅延時間定数を有する。
【0031】
好ましい態様では、本発明のシンチレーション物質は、662keVで5%未満のエネルギー分解能と、40ナノ秒未満、特に30ナノ秒未満の小さい遅延時間定数の両方を有する。
【0032】
好ましい様式では、セリウム含有率xは、少なくとも1mol%、特に1mol%〜90mol%、より特に2mol%又はそれよりも大きく、また更により特に4mol%又はそれよりも大きく、及び/又は好ましくは50mol%又はそれよりも小さく、特に30mol%又はそれよりも小さい。
【0033】
他の態様では、セリウム含有率xは、0.01mol%〜1mol%、特に少なくとも0.1mol%、より特に少なくとも0.2mol%である。好ましい態様では、セリウム含有率は、実質的に0.5mol%に等しい。
【0034】
他の態様では、本発明のシンチレーション物質は、透明性が高く、高エネルギーを含む検知する放射を効果的に停止し且つ検知するのに十分な大きさの部品を得ることを可能にする単結晶である。これらの単結晶の体積は特に、10mm3程度、特に1cm3超、より特に10cm3超である。
【0035】
他の態様では、本発明のシンチレーション物質は粉末又は多結晶であり、例えばゾル−ゲルの形のバインダー等と混合された粉末状のものである。
【0036】
また本発明は、特に商業的なMBr3とCeBr3粉末の混合物から、例えば減圧シールされた石英アンプル中において、ブリッジマン(Bridgman)成長法によって、単結晶の上述のシンチレーション物質M1−xCexBr3を得る方法に関する。
【0037】
また本発明は、特にγ線及び/又はx線の放射を検知する検知器の部品としての、上述のシンチレーション物質の使用に関する。
【0038】
そのような検知器は特に、シンチレータによってもたらされる光パルスの放出に応じて電気的な信号を与えるために、シンチレータと光学的に組み合わされた光検知器を有する。
【0039】
検知器の光検知器は特に、光電子倍増管、又は光ダイオード、又はCCDセンサーでよい。
【0040】
このタイプの検知器の好ましい用途は、γ線又はx線放射の測定に関する。またこの系は、α及びβ放射並びに電子を検知することができる。また本発明は、核医療装置、特にアンガータイプのγ線カメラ及び陽電子放出断層撮影スキャナでの上述の検知器の使用に関する(例えばC.W.E. Van Eijk、「Inorganic Scintillator for Medical Imaging」、International Seminar New Types of Detectors、1995年5月15〜19日、フランス国Archamp、「Physica Medica」、Vol.XII、補遺1、6月96を参照)。
【0041】
他の変形では、本発明は原油掘削のための検知装置での上述の検知器の使用に関する(例えば「Photomultiplier tube, principle and application」、第7章、Philipsの「Applications of scintillation counting and analysis」)。
【0042】
他の詳細及び特徴は、限定をしない好ましい態様及び本発明の単結晶に含まれる試料でのデータに関する下記の説明から明らかになる。
【実施例】
【0043】
表1は、本発明の例(例1〜5)及び比較例(例A〜G)に関する特徴的なシンチレーションを示している。
【0044】
xは、原子Mを置換しているセリウムの含有率(mol%)である。
【0045】
測定は、662keVのγ線励起条件で行う。測定条件は、上述のO.Guillot−Noeelによる文献で特定されている。
【0046】
放出強度は、MeV当たりの光子数で示されている。
【0047】
放出強度は、0.5、3及び10マイクロ秒までの時間積分の関数として記録している。
【0048】
早いシンチレーション成分は、その遅延時間定数τ(ナノ秒)及びそのシンチレーション強度(光子/MeV)によって特徴付けられている。シンチレーション強度は、シンチレータによって放出される光子の全数に対するこの成分の寄与を示している。
【0049】
例の測定において使用した試料は、約10mm3の小さい単結晶であった。
【0050】
表1から、セリウムを含有するM1−xCexBr3タイプの本発明の化合物(試料1〜5)の全てで、早い蛍光成分の遅延時間定数が20〜40ナノ秒で有利であり、この早い成分のシンチレーション強度はかなりのものであり、10,000ph/MeVよりもかなり大きいことが分かる。実際にこれは、約40,000ph/MeVに達している。
【0051】
更に、MがLaである場合の本発明の例(例1〜4)の分解能(R%)は良好であり、3〜4%という予想外の性質を有している。これは、Tl:NaIと比較してかなりの改良である。
【0052】
これは、既知の臭素化ランタニド化合物(例A、B及びC)が、顕著なシンチレーション性質を持たないことによる。例えばセリウムでドープした臭素化ルテチウム(例B及びC)は、良好な分解能(R%)を有するが、早い成分の強度が小さく、実質的に4,000ph/MeV未満である。既知のフッ素化ランタニド(例D、E、F、G)では、放射エネルギー強度が非常に小さい。
【0053】
特に予想外に、本発明の発明者等は、セリウムを含有する臭素化La及びGdの早い放出成分の強度がかなり増加することを見出した。
【0054】
本発明のシンチレーション物質、特に一般式La1−xCexBr3の物質は、エネルギー分解能、瞬時の分解能及び計測速度に関して、検知器の性能を向上させるために特に適当な性質を有する。
【0055】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式M1−xCexBr3の無機シンチレーション物質(Mは、La、Gd、Yの群のランタニド又はランタニドの混合から選択され、特にLa、Gdの群のランタニド又はランタニドの混合から選択され、またxは、セリウムによるMの置換の程度であり、0.01mol%又はそれよりも大きく、厳密に100mol%未満)。
【請求項2】
Mがランタン(La)であることを特徴とする、請求項1に記載のシンチレーション物質。
【請求項3】
xが1mol%超、及び/又は90mol%若しくはそれ未満、特に50mol%若しくはそれ未満、より特に30mol%若しくはそれ未満であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のシンチレーション物質。
【請求項4】
xが2mol%以上30mol%以下であることを特徴とする、請求項3に記載のシンチレーション物質。
【請求項5】
xが0.01mol%以上1mol%以下、特に0.1mol%又はそれ未満、より特に実質的に0.5mol%であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のシンチレーション物質。
【請求項6】
前記シンチレーション物質が単結晶で、特に10mm超、より特に1cm超であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のシンチレーション物質。
【請求項7】
前記シンチレーション物質が粉末又は多結晶であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のシンチレーション物質。
【請求項8】
請求項6に記載の単結晶シンチレーション物質を成長させる方法であって、前記単結晶を、ブリッジマン成長法、特に減圧シールされた石英アンプル中における、例えばMBr3及びCeBr3粉末の混合物から得ることを特徴とする、請求項6に記載の単結晶シンチレーション物質を成長させる方法。
【請求項9】
シンチレーション検知器、特に産業、医療及び/又は原油掘削探知の用途のためのシンチレーション検知器の部品としての、請求項1〜7のいずれかに記載のシンチレーション物質の使用。
【請求項10】
アンガータイプのγ線カメラ又は陽電子放出断層撮影スキャナの構成要素としての、請求項9に記載のシンチレーション検知器の使用。

【公開番号】特開2012−177120(P2012−177120A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−87192(P2012−87192)
【出願日】平成24年4月6日(2012.4.6)
【分割の表示】特願2001−560317(P2001−560317)の分割
【原出願日】平成13年2月16日(2001.2.16)
【出願人】(502296763)
【Fターム(参考)】