シンチレータ結晶体、その製造方法及び放射線検出器
【課題】 X線CT装置のような放射線検出に用いるシンチレータにおいて、クロストーク防止のための隔壁形成を不要とする光導波機能を有する一方向性相分離構造からなるシンチレータ結晶体を提供する。
【解決手段】 第一の結晶相と、前記第一の結晶相よりも屈折率が大きい第二の結晶相とを備え、互いに同一面上に位置しない第一の主面と第二の主面とを有するシンチレータであって、
前記シンチレータは、前記第一の主面と第二の主面とに第二の結晶相が露出する部分を有し、 前記第二の結晶相の第一の主面に露出する部分と第二の主面に露出する部分とがつながっている。
【解決手段】 第一の結晶相と、前記第一の結晶相よりも屈折率が大きい第二の結晶相とを備え、互いに同一面上に位置しない第一の主面と第二の主面とを有するシンチレータであって、
前記シンチレータは、前記第一の主面と第二の主面とに第二の結晶相が露出する部分を有し、 前記第二の結晶相の第一の主面に露出する部分と第二の主面に露出する部分とがつながっている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シンチレータ結晶体、その製造方法および放射線検出器に関し、特に放射線により発光を呈するシンチレータ結晶体、その製造方法および前記シンチレータ結晶体を用いた放射線検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
医療現場等で用いられているX線CT(Computed Tomography)装置では、被写体を通過したX線をシンチレータで受け、そのシンチレータが発した光を光検出器で検出している。また、それらの検出器は2次元アレイ状に配置されており、各々のシンチレータは光のクロストークが生じないように隔壁にて分離されている。
【0003】
そして、その隔壁はX線検出に寄与しないことや、空間分解能を劣化させる観点から可能な限り薄く形成されることが望まれていた。例えば特許文献1では、多数のシンチレータ結晶を接着剤で接合してシンチレータアレイを形成した後、接着剤をエッチングにより除去し、それにより生じた空隙に酸化チタン粉末を隔壁材として充填することが行われている。この場合、隔壁の厚みを1μm程度と薄くできることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−145335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のシンチレータは、シンチレータに光を導波する機能が無かったために散乱面や反射面となる隔壁が必要であった。しかし、特開2008−145335号公報では、隔壁を薄く形成できるとしても隔壁の存在をなくすことは出来ない。また、製造工程において、シンチレータのカッティングから隔壁形成のための張り合わせなど多くの工程が必要であった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するシンチレータ結晶体は、
第一の結晶相と、前記第一の結晶相よりも屈折率が大きい第二の結晶相とを備え、互いに同一面上に位置しない第一の主面と第二の主面とを有するシンチレータであって、
前記シンチレータは、前記第一の主面と第二の主面とに第二の結晶相が露出する部分を有し、
前記第二の結晶相の第一の主面に露出する部分と第二の主面に露出する部分とがつながっていることを特徴とする。
【0007】
上記の課題を解決するシンチレータ結晶体の製造方法は、
第一の結晶相を構成する材料と第二の結晶相を構成する材料とを混合する工程と、
混合された第一の結晶相を構成する材料と第二の結晶相を構成する材料とを溶解する工程と、
溶解された第一の結晶相を構成する材料と第二の結晶相を構成する材料とを一方向に沿って凝固させて共晶体を生成させることを特徴とする。
【0008】
上記の課題を解決する放射線検出器は、上記のシンチレータ結晶体と、光検出器を有し、該シンチレータ結晶体は、前記光検出器に前記第一の主面または第二の主面が対向するように配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、光を導波することができるシンチレータ結晶体及びその製造方法を提供することができる。また、本発明は、光を導波することができるシンチレータ結晶体を用いた放射線検出器を提供することができる。
【0010】
本発明では、シンチレータ結晶体そのものが光を導波する機能を有しているので、従来のシンチレータのカッティングから隔壁形成という製造プロセスが不要である。また、光検出器アレイ上にシンチレータ結晶体を配置するだけで光利用効率の高い放射線検出器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のシンチレータ結晶体の一実施態様を示す模式図である。
【図2】本発明のシンチレータ結晶体の製造方法を示す概略図である。
【図3】本発明のシンチレータ結晶体の走査型電子顕微鏡像である。
【図4A】InIを添加したCsI−NaCl系相分離シンチレータ結晶体の電子線励起発光スペクトルを示す図である。
【図4B】CsI−NaCl系相分離シンチレータ結晶体の走査型電子顕微鏡像である。
【図4C】TlIを添加したCsI−NaCl系相分離シンチレータ結晶体の電子線励起発光スペクトルを示す図である。
【図5】CsI−NaCl系における発光量と発光ピーク波長のTl濃度依存性を示す図である。
【図6】CsI−NaCl系の平衡状態図である。
【図7】シンチレータ結晶体の組成による相分離構造の相違を示す走査型電子顕微鏡像である。
【図8】CsI−NaCl系相分離構造の構造周期と直径の凝固速度依存性を示す図である。
【図9A】本発明の実施例5のシンチレータ結晶体の導波性を示す顕微鏡像である。
【図9B】本発明の実施例5のシンチレータ結晶体の導波性を示す模式図である。
【図9C】本発明の実施例5のシンチレータ結晶体の導波性を示す光学顕微鏡像である。
【図10】第二の結晶相のCsIにRbI、CsBr、RbBrのいずれかが添加された場合のシンチレータ結晶体の導波性を示す顕微鏡像である。
【図11】CsI針状結晶とCsI−NaCl結晶体の光導波性を比較した図である。
【図12】相分離シンチレータ結晶体の透過光学顕微鏡像
【図13】本発明のNaI:Tl含有相分離シンチレータの励起スペクトルと発光スペクトル
【図14】NaI−RbI系の平衡状態図の概略図
【図15】相分離シンチレータ結晶体の透過光学顕微鏡像
【図16】相分離シンチレータ結晶体の透過光学顕微鏡像
【図17】相分離シンチレータ結晶体の透過光学顕微鏡像
【図18】相分離シンチレータ結晶体の透過光学顕微鏡像
【図19】CsBr−NaCl系の平衡状態図の概略図
【図20】相分離シンチレータ結晶体の透過光学顕微鏡像
【図21】放射線検出器の概要を示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面等を用いて本発明を実施するための形態を説明する。尚、本発明を実施するための形態としては、様々な形態(様々な構成や、様々な材料)があるが、全ての実施形態に共通することは、第一の結晶相と、第一の結晶相よりも屈折率が大きい第二の結晶相との2相を備える相分離構造を有するシンチレータ結晶体が、互いに同一面上に位置しない第一の主面と第二の主面とに第二の結晶相が露出する部分を有し、第二の結晶相の第一の主面に露出する部分と第二の主面に露出する部分とがつながっていることである。これによって、高屈折率の結晶相内の光は、高屈折率相の周りに位置する低屈折率の結晶相によって全反射され、結果、高屈折率結晶内を導波されながら進む。その際、高屈折率の結晶相は、第一の主面と第二の主面とに露出するとともに、この露出部がつながっているため、導波(光ガイディング)は、第一の主面または第二の主面に向けて行われる。これらは換言すると、シンチレータ結晶体内で生じた光は、第二の結晶相内に閉じ込められながら(つまり光が広がることなく)、第一の主面または第二の主面に向けて進行するといえる。このようにして、本発明の全ての実施形態は、シンチレータ結晶体自体が、導波機能(光ガイディング機能)を有する。
尚、以下に説明する各実施形態においては、低屈折率相である第一の結晶相も、第一の主面と第二の主面とに露出する部分を有し、これら露出部がつながっている構成が好ましい。これによって、第二の結晶相内の光を、より確実に、第一の主面または第二の主面に、広がることなく導波(光ガイディング)することが可能となる。
【0013】
また、低屈折率相である第一の結晶相が、高屈折率相である第二の結晶相中に位置している構成が好ましい。これによって、シンチレータ結晶体における第一の結晶相が占める割合を抑えながら、十分な導波機能(光ガイディング機能)を得ることができる。
以下、各実施形態について、説明する。
【0014】
(第一の実施形態:柱状晶構造、第二の結晶相の主成分がシンチレータ材料からなる(CsI))
図1(A)は、本発明のシンチレータ結晶体の第一実施形態を示す模式図である。図1(A)に示す本実施形態の2相の相分離構造を有するシンチレータ結晶体は、第一の主面と第二の主面とに第二の結晶相が露出する部分を有し、第二の結晶相の第一の主面に露出する部分と第二の主面に露出する部分とがつながっている。尚、図1(A)に示す形態では、第二の結晶相の中に、一方向性を有する多数の柱状晶からなる第一の結晶相を有している。具体的には、第一の結晶相11と、第一の結晶相11の側面を埋める第二の結晶相12の2相の相分離構造から構成されている。なお、相分離構造とは、一様な状態から状況を変化させたときに複数相に分離して得られる構造である。本実施形態では、構成材料が溶融している構造のない一様な液体状態から、凝固状態に至るとき、2相の結晶相が同時に晶出し、ある程度の周期性を有して形成された構造を表す。
【0015】
第一の結晶相11を構成する柱状晶18の断面形状は円形、楕円、四角形に限らず、複数の結晶面から構成され、多角形を構成してよい。また、柱状晶18の直径13は50nm以上30μm以下、好ましくは200nm以上10μm以下の範囲であることが望ましい。また、第一の結晶相の柱状晶18の周期14は500nm以上50μm以下、好ましくは1μm以上20μm以下の範囲であることが望ましい。ただし、シンチレータ結晶体と検出器ないし検出器アレイと組み合わせた場合、光検出器の受光部領域上に多数の柱状晶が配置されるような構造サイズを有したものを組み合わせることが好ましい。例えば、受光領域が正方で一辺が20μmの場合、柱状晶の直径は5μm、周期は8μmの構造サイズを有していることが好ましい。従って、受光領域のサイズに合わせて、上記構造サイズの範囲にとらわれず、構造サイズの小さいものを組み合わせることが好ましい。また、構造体のサイズの範囲は、材料系の選択と製造時の条件で決定されるものであり、傾向については後述する。
【0016】
さらに、シンチレータ結晶体の厚み15は、製法にも依存するが、任意の厚みに調整することが可能である。シンチレータ結晶体は、放射線を検出するため、そのエネルギーを十分吸収できる厚みであることが必要となる。例えばシンチレータ結晶体の主たる構成材料であるCsIを想定すると、高エネルギー領域の場合に放射長が1.86cm(放射長は、入射エネルギーが1/eになる距離)である。放射長の21倍(39.06cm)が100%吸収したという計算になるため、シンチレータ結晶体の厚みは40cm以下で十分である。
【0017】
例えば、1MeV以下の低エネルギー領域で用いることが多い医療用での使用を考慮すると厚み15は1μm以上10cm以下、好ましくは10μm以上10mm以下の範囲であることが望ましい。また、放射線の吸収率の設定によっても厚みが左右されるので、この範囲に限らず用いることは可能である。
【0018】
柱状晶は、厚み方向16に渡って真っ直ぐ続いていることが好ましいが、途中で途切れたり、枝分かれや融合が生じたり、一直線でなく曲がった部分が含まれていたり、また直径が部分的に変化している場合などでもよい。凝固時の固液界面の方向を適宜制御することで、柱状晶を曲げることも可能である。
【0019】
第一の結晶相は、NaBr(臭化ナトリウム),NaCl(塩化ナトリウム),NaF(フッ化ナトリウム),KCl(塩化カリウム)のいずれかを含有する材料から構成されていることが好ましい。さらに好ましくは、NaClである。第一の結晶相に含有されるNaBr,NaCl,NaF,KClのいずれかの第一の結晶相における含有量は、50mol%以上、好ましくは80mol%以上100mol%以下が望ましい。
【0020】
第二の結晶相は、CsI(ヨウ化セシウム)を主成分として含有することが好ましい。ここで主成分とは、第二の結晶相における含有量が50mol%以上の材料のことを言い、より好ましくは、この主成分材料が第二の結晶相中に80mol%以上100mol%以下で含有されていることが望ましい。
【0021】
この主成分材料がCsIの場合、CsI以外に第二の結晶相に含有される材料としては、RbI(ヨウ化ルビジウム)、CsBr(臭化セシウム)、RbBr(臭化ルビジウム)が好ましい。より好ましくは、第二の結晶相にCsIとRbIが含有される場合は、RbIのCsIに対する比率は0mol%より多く、20mol%以下であることが望ましい。より好ましくは、15mol%以下である。同様に、CsBrが含有される場合は、0mol%より多く、50mol%未満であることが望ましい。より好ましくは、20mol%以下である。同様に、RbBrが含有される場合は、0mol%より多く、10mol%以下であることが望ましい。この場合、CsBrはCsIを主成分として最大限の50mol%未満まで添加可能であるが、RbIとRbBrの添加では、それぞれ20mol%、10mol%より多い場合には、結晶体の柱状晶に沿った方向の透過率の低下が著しい。これは、第二の結晶相内でCsIに固溶出来なくなったRbIやRbBr成分が析出する固相分離が生じるためと考えられる。
上記材料系の選択において、本実施形態のシンチレータ結晶体で重要なのは、第一の結晶相と第二の結晶相の材料の組成である。
【0022】
本発明のシンチレータ結晶体に含有される第一の結晶相および前記第二の結晶相を構成する材料の組成は、共晶点における組成であることが好ましい。共晶点とは、平衡状態図における共晶反応が生じる点であり、液相から2種の固溶体を同時に排出して凝固が完了する点を表す。
具体的には、本実施形態の第一の結晶相と第二の結晶相の材料系の好ましい組み合わせの組成比の例を以下の表1に示す。
【0023】
【表1】
【0024】
表1に示す材料の平衡状態図は入手できるデータがなく、本発明者らがDTA(Differential Thermal Analysis)等にて鋭意検討した結果である。図1(A)に示すような良好な相分離構造を得るためには、概ね上記組成で作製することが好ましい。これら組成は共晶点に対応している。ただし、上記組成から全く外れてはいけないものではなく、その組成に対して±4mol%の範囲は許容範囲とすることが好ましい。より好ましくは±2mol%の範囲である。これらの組成近傍の範囲を限定する要因は、構造形成において各相間が共晶関係にあり、共晶組成近傍では一方向性凝固により図1(A)のような良質な構造体を得ることができる。その他の組成範囲、つまり2mol%以上逸脱している場合では、一方の相が先に析出し構造形成の観点からは構造を乱す要因となる。ただし、表1の共晶組成にも測定誤差があるため、概念としては共晶組成から±2mol%であることが重要であるが、実質良好な構造が得られるならば±4mol%程度逸脱してもよい。また、表1に記載の共晶温度に関しても同様に測定誤差等があるため上記温度付近であることを示しており、なんらかの制限を与えるものではない。
【0025】
次に、第一と第二の結晶相には、上記以外の成分が含有されていてもよく、特に、第一の結晶相11を構成する材料に含有する成分は、第一の結晶相11に固溶し、かつ第二の結晶相12には固溶しない成分であることが好ましい。例えば、NaClにNaBrを、またNaClにKClを添加してもよい。さらに、第二の結晶相12を構成する材料に含有する成分は、第一の結晶相11に固溶せず、かつ第二の結晶相12に固溶する成分であることが好ましい。例えば、CsIにRbIを添加することができるなど、前述の通りである。尚、第二の結晶相12の主成分がCsIで、これにRbI、CsBr、RbBrのいずれかが添加されて第二の結晶相が構成されている場合には、第二の結晶相を構成する材料組成に対する共晶組成を採用することが望ましい。
【0026】
また、RbI、CsBr、RbBr以外の添加材料が追加、ないし単独で添加されてもよい。また、相分離構造の形成に支障がなければ、双方に固溶する成分を添加してもよい。尚このように、次に述べる発光中心のような極微量の添加ではなく1mol%以上添加するような場合の目的は、格子定数の制御やバンドギャップの制御、さらに発光色の制御などである。
【0027】
本実施形態における相分離構造において、シンチレータ材料を主成分とする第二の結晶相12が、放射線照射によって励起され、発光する。しかしこれに限らず、本発明では、前記第一の結晶相および前記第二の結晶相の少なくとも一方が放射線励起により発光すればよく、双方が発光することはより好ましい。したがって、第二の結晶相の主成分にCsIを用いた場合、放射線吸収能はCsIより下がるが、第一の結晶相11を構成するNaBr,NaCl,NaF,KClも発光するのが好ましい。特に、発光効率を高めるためには、第一の結晶相11および第二の結晶相12を構成する母材に対して発光中心となる成分を微量添加することも好ましい。ただし、光の反射・屈折のみを考慮すれば、少なくとも高屈折率側である第二の結晶相が放射線で光ることが重要であり、低屈折率側が発光しても構わないというのは散乱等の効果などが少なからず生じる可能性から言及しているもので、光導波性の観点からではない。また、ここで言う、双方の発光とは、第一の結晶相が発光した光を第二の結晶相が吸収するような場合、またはその逆を除外するものではない。また、第一の結晶相で生成されたキャリアが発光前に第二の結晶相へ拡散し流入するような状況、またはその逆を除外するものではない。
【0028】
発光中心としては、用途などにより多数選択することが可能で、単一ないし複数元素を添加してもよい。例えばアルカリハライド中で電子配置が(ns)2タイプとなり得るCu,Ag,Au,Ga,In,Tl,Sn,Pb,Sb,Biや、希土類元素のCe,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luから選択することが好ましい。また、Naも選択肢としてよい。高輝度という観点でより好ましくは、シンチレータ結晶体の発光中心としてTl,In,Gaの少なくとも一つを含有することが好ましい。上記発光中心を添加する場合、用途により輝度や発光波長、発光減衰時間などの要求に対して適宜選択できる。また、このような発光中心を添加することにより相分離構造に起因して、一方の相に添加されやすいなど、濃度分布が生じても問題ない。また、本発明における放射線にて発光するという表現は、通常のシンチレーション(放射線照射による発光)に加えて、輝尽蛍光(放射線照射により生じたキャリアのトラップサイトを光の照射によって励起して発光する)を呈するものも含んだ範囲である。
本発明の一方向性を有する相分離シンチレータ結晶体の重要な特性として、光を導波することが挙げられる。第一の結晶相11と第二の結晶相12を構成する材料系の屈折率を表2に示す。
【0029】
【表2】
【0030】
表2に示した屈折率は、波長依存性や添加物による変化などがあるため厳密なものではなく、構成材料間に屈折率の差(表中は比率表示)があることを示すためのものである。スネルの法則によれば、屈折率の異なる材質間では高屈折率媒質から低屈折率媒質へある角度で入射すると全反射が生じ、それより狭角では反射と屈折が生じているはずである。したがって、本発明の相分離シンチレータ結晶体において、表2に示す屈折率の比が生じていることは、高屈折率媒質において全反射により光が広がらない状況があるということを示している。つまり屈折や反射を繰り返し、高屈折率媒質の方が比較的光を閉じ込めて伝播することになる。よって、少なからず屈折率比(=低屈折率の結晶相/高屈折率の結晶相)が1より小さいことが望まれる。また、全反射条件のみを考慮すれば、低屈折率/高屈折率の比が小さいほど光が広がり難いことを表している。屈折率のみ考慮すれば、表2からはCsIとの組み合わせはNaFが最もよく、次いでKCl、NaCl、NaBrの順で良好となることがわかる。
【0031】
ただし、本実施形態では、高屈折率媒質を構成するCsIが第二の結晶相12を構成する。つまり本実施形態においては第二の結晶相は、柱状晶の周りのマトリックスを構成するため、柱状晶を構成する第一の結晶相11の組成比率(表1参照)が低い場合(例えばNaF:5mol%)は光が柱状晶の脇を抜けて広がりやすくなる傾向を示す。また、第一の結晶相の組成比率が高い場合(例えばNaCl:31.5mol%)は、X線応答性の高いCsIからなる第二の結晶相が少なくなるため、相対的に発光量が少なくなる傾向を示す。したがって、双方の効果の兼ね合いとなり、光の導波の観点では上記4種類の材料系において、NaClが第一の結晶相11を構成する場合がより好ましい。ただし、放射線励起による発光効率なども加味して、用途ごとに良し悪しが判定されるべきであるから、屈折率比と組成比から優劣が決定するわけではないので、いずれの材料系も重要である。
【0032】
このように、本発明の相分離シンチレータ結晶体は、柱状晶の高さ方向と平行方向(第一の主面と第二の主面とを結ぶ方向)に光を導波し、垂直方向で散乱や反射等により導波しない特性を有するのが特徴である。よって、従来のように単結晶群に隔壁を設けることなく光のクロストークを押さえることができる。
【0033】
(第二の実施形態:柱状またはラメラ構造、第二の結晶相の主成分がシンチレータ材料からなる(NaI))
次に第二の実施形態について説明する。第二の実施形態においては、第二の結晶相の主成分として、NaI(ヨウ化ナトリウム)を用い、前述の図1(A)または図1(c)に示す柱状晶構造、または図1(B)に示すラメラ構造の相分離構造を得た。これにつて、以下に詳述する。
【0034】
図1(A)、(B)、(C)は本実施形態のシンチレータ結晶体の一実施態様を示す模式図である。図1(A)に示す構成は、先の実施形態1と同様故、説明を一部省略する。尚、図1(A)に示すように一方向性を有する多数の柱状晶をなす第一の結晶相11と、第一の結晶相11の側面を埋める第二の結晶相12の2相から構成されている場合を以後、第一の構成と呼ぶ。また、図1(B)に示すように第一の結晶相11と第二の結晶相12の双方が一方向に立った板状結晶からなり、それらが交互に密接して構成されている場合を以後、第二の構成と呼ぶ。また、図1(C)に示すように、一方向性を有する多数の柱状晶をなす第二の結晶相12と、第二の結晶相12の側面を埋める第一の結晶相11の2相から構成されている場合を以後、第三の構成と呼ぶ。
【0035】
図1(A)に示す第一の構成における第一の結晶相の直径13、または図1(C)に示す第三の構成における第二の結晶相の直径13と図1(A)、(C)における周期14の好ましい範囲は、実施形態1で説明した通りである。また、図1(B)に示す第二の構成においても、板状結晶であるが、短辺側を直径と周期という定義とした場合、板状結晶の第一の結晶相の直径13と構造周期14は、第一の構成と同様の値の範囲であることが好ましい。
【0036】
また、本実施形態のシンチレータ結晶体と検出器又は検出器アレイとを組み合わせる場合、第一の実施形態で述べたとおり、光検出器の受光部領域の上に複数の柱状晶ないし板状結晶が配置されるようなサイズの組み合わせとすることが好ましい。その際、第二の構成における板状結晶の場合は、短辺側は柱状晶の場合と同様のサイズで問題ない。しかし、長辺側では用途によっては図1(B)に記載の第一のドメイン境界17と図示しない第二のドメイン境界17とで囲われる領域のサイズが検出画素の受光領域のサイズ以下であることが好ましい。このようなサイズが好ましい理由は、長辺側に沿って伝播する光は検出器側に向かわず横に広がってしまう懸念があるからである。ただし、事前に検出器アレイに対応して短辺側と長辺側の光導波特性が分かっていれば検出器アレイで撮像後に補正することが可能であるので、検出画素よりもドメイン境界で囲われるサイズが大きい場合に本発明の効果が得られないということではない。少なくとも短辺側に良好な光導波特性を有していればよい。
【0037】
シンチレータ結晶体の厚み15に関しては、第一の実施形態と同様である。
本実施形態では、第二の結晶相がNaIを主成分として含有することで実現されるが、より好ましくは第一の結晶相としてCsI、RbI、NaCl、又はNaFのいずれかを含有するのが良い。これは、第一の結晶相を構成する材料が、NaIと共晶関係にある材料系であれば、本実施形態の構造を形成するのに好ましいということである。第一の結晶相と第二の結晶相の材料の取りうる関係の一例は、表3に示すとおりである。つまり、NaIとCsIの組み合わせの場合、第二の構成(図1(B))になり第二の結晶相がNaIで第一の結晶相がCsIである。また、NaIとRbIの組み合わせの場合、第三の構成(図1(C))になり第二の結晶相がNaIで第一の結晶相がRbIである。また、NaIとNaClの組み合わせの場合、第一の構成(図1(A))になり第一の結晶相がNaClで第二の結晶相がNaIである。さらに、NaIとNaFの組み合わせの場合、第二の構成(図1(B))になり第二の結晶相がNaIで第一の結晶相がNaFである。
【0038】
【表3】
【0039】
次に、上記材料系の選択において、本実施形態で重要になってくるのは、第一の結晶相と第二の結晶相をそれぞれ構成する材料の組成である。
【0040】
表3に示した本実施形態の材料系の組み合わせ4種類において好ましい組成比は、以下の表4の通りであり、共晶点における組成であることが好ましい。
【0041】
【表4】
【0042】
上記組成の許容範囲については、上記組成に対して±4mol%、より好ましくは、±2mol%の範囲であることは、上述の第一の実施形態と同様である。
【0043】
尚、第一の実施形態で述べたとおり、第一の結晶相と第二の結晶相には上記以外の材料が添加されてもよい。例えば、NaIにKIを添加する、CsIにRbIを添加する、RbIにCsIを添加することが好ましい。また、構造形成に支障がなければ双方に固溶する材料を添加してもよい。また、これら各結晶相を構成する材料であるNaI,CsI,RbI,NaCl,NaFのいずれかの、各結晶相における含有量は、50mol%以上で、80mol%以上100mol%以下が好ましい。
【0044】
本実施形態のように相分離構造において第二の結晶相にシンチレータ材料であるNaIを用いるので、放射線照射によってNaIは励起され、発光させることが可能である。尚、本実施形態では、少なくとも一方の結晶相が発光することが好ましいが、双方が発光することはより好ましい。特に、発光効率を高めるためには、第一の結晶相11や第二の結晶相12を構成する母材に対して発光中心となる元素(以下、単に「発光中心」とも表記する)を微量添加することも好ましい。発光中心としては、第一の実施形態と同様のものが適用できる。
【0045】
本実施形態の一方向性を有する相分離シンチレータの重要な特性として、光を導波するということが挙げられる。上記の第一の結晶相11と第二の結晶相12を構成する材料系について、その屈折率を表5に示す。
【0046】
【表5】
【0047】
全反射条件のみを考慮すれば、低屈折率/高屈折率の比が小さいほど光が広がり難い。よって屈折率のみで判断すると、この表から、NaF−NaIの系が最も光が広がり難く、次にNaCl−NaI、次にRbI−NaI、次にCsI−NaIの順で光が広がり難いことがわかる。
【0048】
ただし、第一の実施形態でも説明したように、第一の結晶相を構成する低屈折率材料の占める体積が少ない場合、高屈折率側での見通しが良くなり、光が横方向に抜けて広がりやすくなる可能性がある。このような状況は、NaCl−NaI(第一の構成)やCsI−NaI(第二の構成)の系いずれも想定されるが、これらにおいて導波の効果が得られないのではなく、NaI単結晶に比べれば光を十分ガイディングするが、本実施形態の他の材料系ほどではないということである。なお、NaF−NaIの系は第二の構成に属するが、NaFの形が三叉に分岐している頻度が高いため、CsI−NaIの系よりも高屈折率側での見通しが悪く、光が横方向に抜け難い状況になっている。尚、NaIが柱状晶となる場合、つまり第三の構成となるRbI−NaIの系では、光が柱状晶の中を進むため横に広がり難い構成と言える。このように、光を導波する能力は、屈折率の比(低屈折率の材料と高屈折率の材料の屈折率の差)だけでは決定されない。
【0049】
一方で、放射線を受けて光るということを考えると、発光機構や発光中心として添加したものにもよるが、CsIが放射線阻止能力が高く、次いでRbI、NaI、NaCl、NaFの順になる。その結果発光中心をTlで考えると、CsI、RbIやNaIが良く光る。したがって、相分離シンチレータの材料系として見ると、CsI−NaI、RbI−NaIの系は双方が良く光り大きな信号強度を取れる利点がある。この状況で組成比も考慮した放射線阻止能力の順序は、概ねCsI−NaICsI、RbI−NaI、NaF−NaI、NaCl−NaIの順である。なお、放射線阻止能力はエネルギー依存性を有するため、CsI、RbI、NaI、NaCl、NaFの順に放射線阻止能力が高いと言えない場合もある。
【0050】
本実施形態のもう一つの大きな特性として、NaI:Tlなどでは発光の減衰時間が短いことが挙げられる。特に、NaI:Tlは一般的に200nsec(ナノ秒)程度の減衰時間(初期輝度から1/eまで減衰する時間)を有しており、高速で多数の画像を取得していくCT装置などで用いるのに適している。比較例として、CsI:Tlの発光減衰時間を見ると、500nsec程度と約2.5倍遅い。本発明の材料系の発光減衰時間を表6に示す。
【0051】
【表6】
【0052】
本実施形態の材料系は2相に分離しているため、発光減衰時間も2相に対応した値が出てきている。この結果は、測定データに対して2成分のフィッティングがよく収束したことからも納得がいく。表6を見ると各系の遅い方の減衰時間(例えば、CsI−NaIの系ではCsIの減衰時間)で見ると、NaCl−NaI、RbI−NaI、NaF−NaI、CsI−NaIの順で早い事がわかる。表6は、どちらの相がどちらの減衰時間を呈しているかは明らかではないので、系全体としてみたときに二つの時定数があるということのみを表している。
最後に、全体を以下にまとめる
【0053】
【表7】
【0054】
表中の各欄の数字は、順位を表しており、構成のところの順位は、導波性能のとして、(1)高屈折率材料が柱状晶である第三の構成が最もよく、(2)低屈折率材料が柱状晶である第一の構成と(2)特異的な(三叉などがある)第二の構成とが同順となり、(3)特異的でない第二の構成が他に比べてやや劣るものとなった。
【0055】
以上をすべて俯瞰して見ると、平均点としてはRbII−NaI系が良好であることが分かるし、NaF−NaI系も構成と屈折率比の観点では優れていることが分かる。このように、何を重視するかによって、どの系が適しているかを判断し、選択して用いることが好ましい。
【0056】
このように、本実施形態のNaIを含有する相分離シンチレータ結晶体は、柱状晶や板状結晶と平行方向で光を導波し、垂直方向で散乱や反射等により導波しない特性が備わっているのが特徴である。よって、従来のように単結晶群に隔壁を設けることなく光のクロストークを抑えることができる。
【0057】
(第三の実施形態:柱状またはラメラ構造、第二の結晶相の主成分がシンチレータ材料に限らない形態)
次に第三の実施形態について説明する。第三の実施形態においては、第二の結晶相の主成分が、シンチレータ材料に限らない形態である。本実施形態ではシンチレータ材料でないものとして、NaBrや、NaClを用いた。また、シンチレータ材料でも良く、その場合本実施形態では、RbI、CsBr、RbBr、CsCl、RbClのいずれかを用いた。これらいずれかの材料を第二の結晶相の主成分として、前述の図1(A)または図1(c)に示す柱状晶構造、または図1(B)に示すラメラ構造の相分離構造を得た。これについて、以下に詳述する。尚、図1(A),(B),(C)の構成概要については、上述の実施形態、特に第二の実施形態で説明済故、省略し、本実施形態の特徴部分についてのみ、以下に詳述する。シンチレータ結晶体の厚み15に関しては、製法にも依存するが、任意の厚みに調整することが可能である。放射線を検出するため、そのエネルギーを十分吸収できる厚みであることが重要である。例えば、高エネルギー領域の場合に主たる構成材料の放射長はRbIが2.7cm、CsBrが2.1cm、RbBrが3.4cm、CsClが2.4cm、RbClが4.6cmである。RbClの放射長の21倍(96.6cm)が100%エネルギーを吸収したという目安になるので、もっとも厚い場合でも厚み15は97cm以下で十分である。なお、放射長は、入射エネルギーが1/eに減少するまでに通過する平均距離である。
【0058】
例えば、1MeV以下の低エネルギー領域で用いることが多い医療用での使用を考慮すると厚み15は1μm以上15cm以下、好ましくは10μm以上30mm以下の範囲であることが好ましい。また、放射線の吸収率の設定によっても厚みが左右されるので、この範囲に限らず用いることは可能である。
【0059】
本実施形態では、少なくとも1相がシンチレータとして機能するRbI、CsBr、RbBr、CsCl、又はRbClのいずれかを主成分とすることで実現される。より有力な材料系はRbI、CsBr、又はRbBrのいずれかに対して、NaF、NaCl、又はNaBrのいずれかを組み合わせたものである。また、CsClに対しては、NaClを組み合わせたものである。また、RbClに対しては、NaF、又はNaClのいずれかを組み合わせたものである。これは、互いに共晶関係にある材料系であれば、本発明の構造形成の観点からは選択可能ということである。それから、第一の結晶相と第二の結晶相と材料の取りうる関係の一例は、表8に示すとおりである。ここで、本実施形態においては、高屈折率層である第二の結晶相が、主成分としてシンチレータ材料以外のものからなる場合を含んでいることである。例えば、RbIとNaBrの組み合わせの場合、第二の構成(図1(B))になり高屈折率相である第二の結晶相が、シンチレータ材料ではないNaBrを主成分とし、第一の結晶相がシンチレータ材料であるRbIを主成分としている。
【0060】
【表8】
【0061】
次に、上記材料系の選択において、本発明で重要になってくるのは、第一の結晶相と第二の結晶相をそれぞれ構成する材料の組成である。
【0062】
表8にある代表的な材料系の組み合わせ12種類において好ましい組成比は、以下の表9の通りであり、共晶点における組成であることが好ましい。共晶点とは、平衡状態図における共晶反応が生じる点であり、液相から2種以上の結晶を同時に晶出して凝固が完了する点を表す。
【0063】
【表9】
【0064】
上記組成の許容範囲については、上記組成に対して±4mol%、より好ましくは、±2mol%の範囲であることは、上述の第一の実施形態と同様である。
【0065】
尚、第一の実施形態で述べたとおり、第一の結晶相と第二の結晶相には上記以外の材料が添加されてもよい。例えば、NaClにNaBrを添加する、RbIにCsIやRbBrを添加する、CsBrにCsIやRbBrやCsClを添加する、RbBrにRbIやCsBrを添加してもよい。前記のRbIが含有されている相分離構造体であって、RbIが主成分である第二の結晶相にCsIが0mol%より多く20mol%以下の範囲で添加されている、または該結晶相にRbBrが0mol%より多く50mol%より少ない範囲で添加されていることが好ましい。
【0066】
前記のCsBrが含有されている相分離構造体であって、CsBrが主成分である第二の結晶相にCsIが0mol%より多く50mol%以下の範囲で添加されている、または該結晶相にRbBrが0mol%より多く25mol%以下の範囲で添加されている、またはCsClが0mol%より多く50mol%より少ない範囲で添加されていることが好ましい。
【0067】
前記のRbBrが含有されている相分離構造体であって、RbBrが主成分である第二の結晶相にRbIが0mol%より多く50mol%以下の範囲で添加されている、または該結晶相にCsBrが0mol%より多く15mol%以下の範囲で添加されていることが好ましい。
【0068】
本実施形態においても相分離構造においてシンチレータ材料であるRbI、CsBr、RbBr、CsCl、又はRbClのいずれかを用いるので、放射線照射によってそれらが励起され、発光させることが可能である。本実施形態でも、少なくとも一方の結晶相が発光することが好ましいが、双方が発光することはより好ましい。特に、発光効率を高めるためには、第一の結晶相11や第二の結晶相12を構成する母材に対して発光中心となる元素(以下、単に「発光中心」とも表記する)を微量添加することも好ましい。発光中心としては、第一の実施形態と同様のものが適用できる。
【0069】
本発明の一方向性を有する相分離シンチレータの重要な特性として、光を導波するということが挙げられる。上記の第一の結晶相11と第二の結晶相12を構成する材料系について、その屈折率を表10に示す。
【0070】
【表10】
【0071】
全反射条件のみを考慮すれば、低屈折率/高屈折率の比が小さいほど光が広がり難い。よって屈折率のみで判断すると、表10に示す系では、CsBr−NaFが最も光が広がり難いことがわかる。ただし、表10においてRbI−NaBr、RbBr−NaCl、RbBr−NaBr、RbCl−NaClに関しては、シンチレータとして作用するRbI、RbBr、RbCl側が低屈折率相を構成する形となる。このため、放射線励起で発光する相と光のガイディングを担う相が異なるためその他の組み合わせよりも性能が劣るが、散乱等の効果などが少なからず生じる可能性から単一相からシンチレータ結晶体が構成される場合に比較すると、すぐれた光ガイド機能を有する。
【0072】
また、表10において最も高屈折率であるCsBrが、第一の構成にて第二の結晶相を占め、かつNaFとの組合せの場合のように第一の結晶相を構成する低屈折率材料の占める体積が少ない(組成比と密度で決まる)場合、光が横方向に抜けて広がりやすくなる可能性がある。また、第二の構成の場合も、光が横方向に抜けて広がりやすくなる可能性がある。このような状況は、本実施形態の効果が得られないのではなく、例えばCsBr単結晶に比べれば光を十分ガイディングするが、本実施形態の他の材料系ほどではないということである。逆に、第三の構成、つまりRbBr−NaBrの系では、光が横に広がりにくい構成といえる。つまりNaBrを主成分とする、高屈折率の第二の結晶相が柱状晶を構成するので、RbBrを主成分とする第一の結晶相で発した光のうち、柱状晶からなる第二の結晶相に入射した光のうち散乱等により光路が変更された光は、場合によって光ガイド機能によって導波され、広がりが抑えられる。このように、光を導波する能力は、屈折率の比(低屈折率の材料と高屈折率の材料の屈折率の差)だけでは決定されない。
【0073】
一方で、放射線を受けて光るということを考えると、発光機構や発光中心として添加したものにもよるが、RbI、CsBr、RbBr、CsCl、RbClは、X線エネルギーが16KeVから33KeV付近の場合、CsIの線減弱係数に匹敵する。そして、CsClを除けばCsIを上回る値を有するので、高輝度に発光させるためには上記範囲のエネルギーで使うことも望ましい。
【0074】
このように、本実施形態のRbI、CsBr、RbBr、CsCl、又はRbClを主成分として含有する相分離シンチレータ結晶体は、柱状晶や板状結晶と平行方向に光を導波し、垂直方向に散乱や反射等により導波しない特性が備わっているのが特徴である。よって、従来のように単結晶群に隔壁を設けることなく光のクロストークを抑えることができる。
【0075】
(第四の実施形態:ラメラ構造、第二の結晶相の主成分がシンチレータ材料からなる(アルカリ土類ハライド))
次に第四の実施形態について説明する。第四の実施形態においては、第二の結晶相の主成分として、アルカリ土類ハライドを用い、前述の図1(B)に示すラメラ構造の相分離構造を得た。これについて、以下に詳述する。尚、図1(B)の概要については、上述の実施形態において説明済故、本実施形態の特徴のみを以下に説明する。
【0076】
本実施形態に係るシンチレータ結晶体は、一方向性を有する第一の結晶相と第二の結晶相からなる相分離構造体であって、第二の結晶相が主成分としてアルカリ土類ハライドであるヨウ化バリウム(BaI2)、臭化バリウム(BaBr2)、塩化バリウム(BaCl2)、臭化ストロンチウム(SrBr2)、塩化ストロンチウム(SrCl2)のいずれかを有する材料から構成される。そして、前記構造体の少なくとも一方の相が放射線励起によって発光することを特徴とする。
【0077】
尚、上記第二の結晶相に相対する相は、それぞれヨウ化バリウム(BaI2)に対してはヨウ化ナトリウム(NaI)が好ましく、臭化バリウム(BaBr2)に対しては臭化ナトリウム(NaBr)が好ましく、塩化バリウム(BaCl2)に対しては塩化ナトリウム(NaCl)が好ましい。また、臭化ストロンチウム(SrBr2)に対しては臭化ナトリウム(NaBr)が好ましく、塩化ストロンチウム(SrCl2)に対しては塩化ナトリウム(NaCl)が好ましい。ただし、上記アルカリ土類ハライドに対して共晶関係にある材料系であれば、相分離構造を形成できる可能性があるため、他の組み合わせを排除するものではない。
【0078】
また、第一の結晶相又は前記第二の結晶相の少なくとも一方が発光中心としてユーロピウム(Eu)、セリウム(Ce)、タリウム(Tl)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)の少なくとも一つを含有することが好ましい。
【0079】
第一の結晶相及び第二の結晶相の組成は、共晶点における組成であることが好ましい。第一の結晶相と第二の結晶相と材料の取りうる関係の一例は、表11に示すとおりである。
【0080】
【表11】
【0081】
次に、上記材料系の選択において、本実施形態で重要になってくるのは、第一の結晶相と第二の結晶相をそれぞれ構成する材料の組成である。
表11に示した本実施形態の材料系の組み合わせ5種類において好ましい組成比は、以下の表12の通りであり、共晶点における組成であることが好ましい。
【0082】
【表12】
【0083】
上記組成の許容範囲については、上記組成に対して±4mol%、より好ましくは、±2mol%の範囲であることは、上述の第一の実施形態と同様である。
本実施形態のように相分離構造において第二の結晶相にシンチレータ材料であるアルカリ土類ハライドを用いるので、放射線照射によって励起され、発光させることが可能である。尚、本実施形態では、少なくとも一方の結晶相が発光することが好ましいが、双方が発光することはより好ましい。特に、発光効率を高めるためには、第一の結晶相11や第二の結晶相12を構成する母材に対して発光中心となる元素を微量添加することも好ましい。発光中心としては、ユーロピウム(Eu)、セリウム(Ce)、タリウム(Tl)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)の少なくとも一つを含有することが好ましい。
【0084】
本実施形態の一方向性を有する相分離シンチレータの重要な特性として、光を導波するということが挙げられる。上記の第一の結晶相11と第二の結晶相12を構成する材料系について、その屈折率を表13に示す。
【0085】
【表13】
【0086】
このように、本実施形態のアルカリ土類ハライドを含有する相分離シンチレータ結晶体は、板状結晶と平行方向で光を導波し、垂直方向で散乱や反射等により導波しない特性が備わっているのが特徴である。よって、従来のように単結晶群に隔壁を設けることなく光のクロストークを抑えることができる。
【0087】
次に、上述の各実施形態のシンチレータ結晶体の製造方法について説明する。
本実施形態に係るシンチレータ結晶体の製造方法は、第一の結晶相を構成する材料と第二の結晶相を構成する材料とを混合する工程と、
混合された第一の結晶相を構成する材料と第二の結晶相を構成する材料とを溶解する工程と、
溶解された第一の結晶相を構成する材料と第二の結晶相を構成する材料とを一方向に沿って凝固させて共晶体を生成させることを特徴とする。
【0088】
本実施形態のシンチレータ結晶体の製造方法は、所望の材料系を最適組成にて一方向性を持たせて熔融凝固する方法であればいずれの方法でも可能である。特に、固液界面を平滑にするよう温度勾配を制御することが要求され、混合物の固液界面における温度勾配が30℃/mm以上の条件で行うことが好ましい。ただし、結晶への熱応力によるクラック等を解消するために、上述の各実施形態の構造形成に支障ない範囲で温度勾配を低下させてもよい。また、すでに結晶体となった部分を溶融しない程度に再加熱してクラック等を抑制することを行うことも望ましい。また、共晶組織の形成可能な組成範囲というのは、前述のように共晶組成±4mol%、好ましくは2mol%と記述しているが、この範囲と温度勾配と凝固速度の間には材料系固有の相間関係が成り立ち、いわゆるCoupled Eutectic Zoneと称される範疇で本件の結晶体は作製されるべきであると主張する。
【0089】
図2は、本実施形態のシンチレータ結晶体の製造方法を示す概略図である。
図2に示すように、ブリッジマン法では、材料が酸化しないよう円筒状の石英管等に封じた試料を縦型に配置し、ヒーターないし試料を一定速度で移動させることにより、試料の凝固界面の位置を制御できるので、本実施形態の相分離シンチレータ結晶体を製造することが可能である。
【0090】
特に、図2(A)に示す装置のように、試料23の長さに匹敵するヒーター部21と、混合物である試料23の固液界面の温度勾配が30℃/mm以上を実現するための水冷部22から構成される。
【0091】
また、図2(B)に示す装置のように、水冷部22が上下にあり、ヒーター部21が試料23の一部の領域にしか対応していない場合でも構わない。さらに、同等の手段を講じる製法でも可能である。ただし、固液界面が平滑にできるのであれば、温度勾配は30℃/mm未満であっても構わない。
【0092】
また、チョクラルスキー法のように融液からの結晶引上げでも同様に作製可能である。この場合は、ブリッジマン法における試料容器内での凝固ではないために、容器壁面の影響を受けずに固液界面を形成できる点でより好ましい。さらに、フローティングゾーン法でも作製可能性はあるが、本実施形態の材料系に着目すれば赤外吸収がほとんど無いために、加熱手段として赤外線による直接加熱ができないので添加材料などの工夫が必要となる。
【0093】
特にブリッジマン法においては、試料の凝固速度は固液界面がなるべく平面になるように設定されなければならないが、熱のやり取りが試料側面からが主であるので、試料の直径に依存する。つまり、試料の直径が大きければ熱の出入りに時間がかかり凝固速度を低速にしなければ、固液界面はかなり湾曲し、柱状晶が曲がって形成されることになる。これは、柱状晶の成長方向が固液界面にほぼ垂直となるからである。さらに、試料サイズに対して凝固速度がより速い場合には、固液界面が平坦でないだけでなく平滑に保つことができず、ミクロに起伏が生じて樹枝状結晶の発生を伴う状況に至るので、これも避けることが重要である。従って、十分試料の固液界面領域の温度勾配をとると同時に、試料の凝固速度(装置では、試料の引き下げ速度)が850mm/時以下で行うことが好ましい。より好ましくは、500mm/時以下であり、さらには300mm/時以下である。
【0094】
また、製法に関わらず、光学的に結晶体が単一グレインとなるために、固液界面を固体から融液に向かって凸に制御し、単一グレイン化した後に凸から平面に制御することも望ましい。ただし、実用上問題にならなければ凸形状のまま形成したものを切り出して用いても構わない。
【0095】
また、相分離シンチレータ結晶体の柱状晶の直径やその周期は、試料の凝固速度に依存し、特に柱状晶の周期に関しては次式の相関があるとされる。周期をλとし、凝固速度をvとすれば、λ2・v=一定である。したがって、所望の構造周期があれば、必然的に凝固速度が大まかに制限される関係である。逆に、製法上の制限として固液界面を平面かつ平滑に制御できる凝固速度があるため、周期λの範囲は500nm以上50μm以下の範囲となる。また、それに対応して柱状晶の直径も50nm以上30μm以下の範囲となる。
【0096】
ここで、柱状晶の直径とは円形で無い場合もあり、不定形であれば最短直径が上記範囲に含まれる。また、多数の柱状晶の平均値で、最長直径と最短直径の比が10以下であることが好ましい。これ以上では、ラメラ構造とするのが適切である。しかし、無数の柱状晶の中で幾つかの柱状晶のみが10以上の値を有したとしても平均値が下回っていれば許容範囲である。また、作製条件上、第一の結晶相と第二の結晶相を構成する材料のモル比率が1:1に近いほどラメラ構造を採りやすいため、これらを考慮して、作製条件や添加材料を選択することが好ましい。
【0097】
次に、作製する試料の原材料の仕込み組成について述べる。上記の相分離シンチレータ結晶体の第一の結晶相と第二の結晶相を構成する材料の組成比率は各表に示す値であるが、仕込み組成に関しては±4mol%以上に逸脱していても構わない。つまり、ブリッジマン法の場合は試料全体を熔融した状態から一方向凝固させるようにすれば、凝固初期に共晶組成から逸脱している分の材料が先に析出することになり、残された融液が共晶組成となる。また、チョクラルスキー法では、引上げ初期に共晶組成からの逸脱分が引きあがるため、一度ダミーで引き上げて融液が共晶組成になってから再度引き上げることも好ましい。結晶体作製後に不要部分は切り離せばよい。
【0098】
次に、上述の各実施形態の放射線検出器は、上記のシンチレータ結晶体と、光検出器を有し、シンチレータ結晶体は、前記光検出器に前記第一の主面または第二の主面が対向するように配置されていることを特徴とする。前記シンチレータ結晶体は、直接または一層以上の保護層を介して光検出器上に配置されているのが好ましい。
【0099】
本実施形態の相分離シンチレータ結晶体は、光検出器と組み合わせることで医療用・産業用・高エネルギー物理用・宇宙用の放射線検出器として用いることが可能である。特に、隔壁等を設けずとも光の導波機能を有しているために、検出器に向けて特定の方向に光を導波する必要がある状況に適用することが好ましい。また、隔壁形成が必要なX線CT装置での使用や、X線フラットパネルディテクタ(FPD)のCsI針状結晶の代替においても有効である。特に、RbI、CsBr、RbBr、CsCl、又はRbClが含有されているので、マンモグラフィーで撮像に用いるX線エネルギーが20KeV近傍の場合、CsI(ヨウ化セシウム)に匹敵する線減弱係数を有するので好ましい。以上の用途において、検出器の受光感度特性に適合するようにシンチレータの発光波長を母材への他材料添加や発光中心の添加によって調整することも可能である。
【0100】
さらに、検出器と本実施形態の相分離シンチレータ結晶体間は、直接以外に各々の保護層や反射防止等の機能を有した膜や層を介して接合または配置することも好ましい。
【実施例1】
【0101】
以下に記載の実施例1〜8は、上述の第一の実施形態に対応する実施例である。実施例1から順に説明していく。本実施例1においては、
まず、CsI(第二の結晶相構成する材料)に対して、NaBr,NaCl,NaF,KCl(第一の結晶相を構成する材料)をそれぞれ40mol%,31.5mol%,5mol%,40mol%混合した粉末を準備し、それらを個別に石英管に真空封じし、試料とした。次に、それらの試料を図2(A)のようなブリッジマン炉に導入し、800℃まで昇温させ試料全体が溶解(溶融)した後30分保持してから、融液温度を表1にある共晶温度より20℃高い温度まで降温した。その後、各々の試料を約10mm/時の速度で引き下げて試料下部より逐次凝固するようにした。
【0102】
また、試料の引き下げにより、炉の冷却水が循環している領域に突入することで、試料が溶解している部分と凝固している部分の境界である固液界面での温度差が30℃/mm以上となるようにする。このようにして、一方向に沿って凝固させることで、共晶体を生成した。
【0103】
このようにして作製した試料4種を切り出し、走査型電子顕微鏡(SEM)にて構造観察を行った。その結果、図3に示すようにCsI−NaCl系は、凝固方向に垂直面の構造(第一の主面及び第二の主面からみた構造)が図3(A)であり、平行方向の構造が図3(B)のようであった。また、SEMに付属している組成分析により柱状晶はNaClを有しており、その周辺部はCsIを有していることが判明した。このように、多数のNaClの柱状晶が一方向性を有して、その周辺部をCsIが取り囲む構造が形成されていることが示された。
【0104】
尚、ここで、第一の主面及び第二の主面からみた構造の説明として、1つの図を用いて説明したが、これは第一の主面からみた構造と第二の主面からみた構造は酷似しているので、その一方のみを代表して図示しただけであり、第一の主面と第二の主面とのそれぞれに、柱状晶である第一の結晶相と、高屈折率の第二の結晶相のいずれもが露出していることが確認された。そして図3(B)に示すように、それらの露出部がつながっていることも確認された。
【0105】
以下に説明する他の実施例においても、第一の主面からみた構造と第二の主面からみた構造を、一部の図面のみを用いて説明するが、これは上述の通り、両主面の構造が酷似していることに基づくためであると理解されたい。
【0106】
同様に、CsI−NaF系は、凝固方向に垂直面の構造(第一の主面、第二の主面からみた構造)が図3(C)であり、平行方向の構造が図3(D)のようであった。そして、柱状晶はNaFを有しており、その周辺部はCsIを有していることが判明した。
【0107】
残りのCsI−NaBr系とCsI−KCl系についても、凝固方向に垂直な面(第一の主面、第二の主面からみた構造)を観察するとそれぞれ図3(E)と(F)のようであり、柱状晶がそれぞれNaBrとKClを有していることが判明した。ここで、KCl系は、作製条件に乱れがあったためか、像の一部領域で柱状晶がいくつも繋がったかのように見えるが、本発明の本質を揺るがすものではない。
以上から、本発明の第二の結晶相がCsIから構成される相分離シンチレータ構造を確認した。
【実施例2】
【0108】
実施例1で作製されたCsI−NaCl系を例に発光中心の添加による効果を示す。まず、実施例1で作製された発光中心を添加していない試料では、X線励起(タングステン管球;60kV;1mA)による発光色は青白く、添加なしでも放射線励起で発光することが判明した。ただし、この場合材料系の性質上、自然にCsIに微量のNa(CsI:Naも発光機構は不明だが光ることが知られている)が添加された状態となるため、それに起因する発光が含まれているが、意図的に発光中心を添加したものではない。
【0109】
次に、実施例1と同様の作製方法で、CsI−NaCl系にInI(ヨウ化インジウム(I))を0.01mol%添加した試料とTlI(ヨウ化タリウム(I))を0.01mol%添加した試料とGaを0.01mol%添加した(金属状態で添加)試料を作製した。同様にX線励起でそれぞれ発光を確認すると、発光の目視の色見は、InI添加が緑で、TlI添加とGa添加が白で非常に高輝度であった。このように、In、Tl、Gaいずれの発光中心の添加によっても発光することが確認できた。ここで、発光中心の添加組成は、いずれも0.01mol%に限定するものではない。
【0110】
そこで、InI添加した試料において、この相分離シンチレータ結晶体のどこがどのように発光しているのかを電子線励起の局所発光を計測できるカソードルミネッセンス(CL)にて調べた。5keVの電子線を絞りNaClを有する柱状晶とその周辺部のCsIを有する領域に分けて発光スペクトルを計測した。このとき、励起源の電子線が、結晶体内で大きく広がり他方を励起しないように慎重に計測した。また、X線励起と電子線励起では多少のスペクトルの差が生じることがあるが、電子線のエネルギーも5keVあるため、発光中心の直接励起というよりはX線励起に近い母材励起が主に生じていると考えられるので、この手法で発光特性を評価する。
【0111】
図4に、その結果を示す。図4(A)の2つのスペクトルはそれぞれ図4(B)に示した2つの走査型電子顕微鏡画像内で各々6点づつ電子線励起して得られたスペクトルの平均をとったものである。そして、励起した各6点のうち図4(B)には各3点が例示されている。まず、実線スペクトルは、CsIを有する領域からの発光について示し、緑色発光しているのがわかる。また、同様に破線スペクトルは、NaClを有する柱状晶を励起した時のものであり、ほとんど発光ピーク位置が同じで緑色発光であることが確認できた。このように、本発明の相分離シンチレータ結晶体は、発光中心を添加しなくても、添加しても放射線励起にて発光すると同時に、一例としてIn中心の場合には第一と第二の結晶相の双方が発光することを示した。
【0112】
同様に、CsI−NaClにTlIを添加した試料においても実施し、そのスペクトルを図4(C)に示す。InI添加の場合と同様に、いずれの相を励起しても発光していることが確認できた。
【0113】
以上のNaCl相を励起した場合に、InI、TlI添加の両方において、In添加NaCl固有の410nm付近の発光は530nmの発光に比べても少なく、Tl添加NaCl固有の350nm付近の発光に関してはそのものが観測されなかった。しかし、NaCl相励起で何らかの光が外部に取り出せると言う点で、本発明においては双方の相が発光したという表現を用いている。
【実施例3】
【0114】
本実施例は相分離シンチレータ結晶体であるCsI−NaClにTlIが添加された系におけるTl濃度に対する発光量に関する。
【0115】
発光量は、タングステン管球を用い、60kV、1mA、Alフィルター無しの条件で得られるX線を照射し、発光した光を積分球で積算した値を元に相対比較した。
【0116】
図5には、CsI−NaClのTlI添加濃度に対する発光波長と相対輝度を示す。これより、Tl濃度の発光量に対する最適値は、0.04mol%〜1.0mol%の範囲であることが判明した。ただし、発光波長が濃度に比例して長波長になっており、受光素子の感度曲線との関係で最適濃度が上記範囲のみに限定するものではなく、双方を勘案して決定してよい。
【実施例4】
【0117】
本発明の相分離シンチレータ結晶体の組成として、図6に示す状態図の矢印が示すCsI−NaCl(20mol%)、CsI−NaCl(29.5mol%)、CsI−NaCl(31.5mol%)の3種類の試料を、図2(A)に示す実施例1と同様の装置にて作製した場合と、図2(B)に示すようにヒーター部分が狭く局所的に熔融させて作製する場合のものを合計6種類準備する。
実施例1と同様に初期に試料全体を融解してから凝固が開始される場合においては、第一の主面、第二の主面の構造が、いずれの組成の試料においても図7(A)の走査型電子顕微鏡(SEM)画像にあるような良好な構造を有するものが得られることが判明した。ただし、NaCl(20mol%)の場合には、試料の凝固初期領域に図7(B)のようなCsIの樹枝状結晶の析出を伴う結晶が形成されており、その後には図7(A)のような良好な領域が形成されていることが見受けられる。その他のNaCl(29.5mol%)やNaCl(31.5mol%)の場合では、20mol%の時のような試料の凝固初期領域が明確に形成されてはおらず、大きな差は見られなかった。ただ、2mol%という組成の違いによる差は、原料の不純物等の影響もあるため、全く差がないということを主張するものではない。
【0118】
このように、試料全体を融解した場合は、試料の凝固初期領域に共晶組成から逸脱した材料が共晶温度よりも高温で析出するために、残された融液部分が共晶組成となり、それ以降良好な構造の形成がなされると考えられる。
【0119】
また、図2(B)のように試料の局所領域のみ融解しながら凝固した場合では、NaCl(20mol%)の系で試料のいずれの場所でも図7(B)のようにCsIの樹枝状結晶が存在しており、その隙間には一部NaClの柱状晶が形成されているが目的とする構造とは言えない。ただし、NaCl(29.5mol%)とNaCl(31.5mol%)の場合では、図7(A)のようにNaClの柱状晶が全体に渡って形成されており、良好な試料を得ることができる。
ただし、不純物等の影響もあるが、NaCl(31.5mol%)の場合に比べて、NaCl(29.5mol%)の試料の方が構造の乱れが多いように見受けられる。したがって、局所的に融解して凝固する場合には、全体を融解した場合に生じる試料内での最適組成に向かうプロセスを経ることができず、組成と構造が敏感に影響しあっていることが分かる。
【0120】
よって、本発明の相分離シンチレータ結晶体は、2mol%程度の僅かな組成の揺らぎは構造形成に大きく悪影響を与えないが、10mol%以上という大きなずれは影響するので最適組成は共晶組成近傍であるということが明らかである。また、製法上試料全体を融解してから凝固を制御すれば、組成が逸脱していたとしても、試料の凝固初期領域に逸脱分の材料が優先的に析出し、残された共晶組成の融液から良好な領域を得ることができることを明らかにしたことは重要である。
【実施例5】
【0121】
CsI−NaCl系を例として、構造サイズの制御性について示す。石英封入管にCsIに対してNaClを31.5mol%の割合で混合した試料を4個準備し、実施例1と同様の製法にて試料を作製した。試料の引き下げ速度は、10.4,31.3,94.0,232mm/時であった。
【0122】
作製された試料を凝固方向に対して垂直面で切り出し、その表面(第一の主面、第二の主面)をSEMで観察して相分離構造におけるNaCl柱状晶の直径と周期を割り出した。
【0123】
その結果、図8に示すグラフの通り、周期と直径ともに引き下げ速度、つまり凝固速度が遅くなるにつれて大きくなるという依存性が得られた。周期に対しては、大よそλ(周期)=0.0897+11.7(v^(−1/2))の関係式が得られた。なお、vは引き下げ速度(凝固速度)を表す。
【0124】
従って、非常に遅い速度の目安である1mm/日の近傍である0.055mm/時(1.319mm/日)で50μmの構造周期が得られる換算である。早い速度の上限である850mm/時の近傍である813mm/時で500nmの構造周期が得られる換算である。また、直径に関しては、λ(直径)=0.0412+4.78(v^(−1/2))の関係式が得られた。よって、周期の場合と同様に0.055mm/時で直径20.4μm程度、813mm/時で直径209nm程度が得られる換算である。
【0125】
よって、凝固速度の制御により構造サイズが幅広く制御が可能であることを示した。ただし、本実施例は一例であり、他の材料系でもλ2・v=一定(vは凝固速度)の相関が成り立つが、定数が異なる。
【実施例6】
【0126】
本実施例は、相分離シンチレータ結晶体の光導波に関する。
図9(A)は、ブリッジマン法で作製したInドープCsI−NaCl(31.5mol%)の相分離シンチレータ結晶体を紙面上に配置したものである。結晶体の厚みは、約4mmである。結晶体中心部では、紙面に印刷された文字が結晶体を通して浮き出て見えることが観察でき、文字が印刷された紙面の垂直方向には光の散乱要因がないことを示している。また、結晶体周辺部では、紙面に印刷された文字を視認することはできず、白く見えていることが観察でき、紙面垂直方向には光が散乱されていることを示している。この状況は、図9(B)に模式的に示すように結晶体中央部は文字が印刷された紙面の垂直方向に第一の結晶相であるNaCl柱状晶が向いており、周辺部は凝固界面が外側で湾曲しているという製法上の理由で側面から上面へと曲がっている状況にあることから説明できる。まず、文字が印刷された紙面の垂直方向に柱状晶が向いている部分では、散乱要因(文字が印刷された紙面の垂直方向での屈折率変化や構造不均一など)がないので、紙面上の文字が浮き出て見え、厚み4mmにわたって導波されているということである。
【0127】
さらに、周辺部は柱状晶が曲がっていることから、紙面から上面に至る柱状晶がなく光が散乱され白く見えており、上面に向けて導波していないことが明らかである。つまり、柱状晶に沿った方向で導波が見られ、柱状晶の伸びる方向に垂直な方向では導波が生じていないということである。なお、結晶側面にものを配置すると曲がって結晶上面に導波されることも確認しており、曲がっていても柱状晶に沿って導波される。
【0128】
次いで、図9(A)のような結晶の文字が透けている部分を光学顕微鏡にて拡大し、透過画像を観察すると図9(C)が得られる(つまり、第一の主面、第二の主面の画像)。透過像には、明瞭にNaCl柱状晶が暗点として観察され、マトリックス側であるCsIの方が明るく見える。つまり、高屈折率材料であるCsIマトリックス側を光が多く導波するという状況も忠実に観察できている。
よって、本発明の相分離シンチレータ結晶体は、確実に柱状晶方向にのみ導波する特性を有していることが確認できた。
【実施例7】
【0129】
第二の結晶相がCsIを主成分として、RbI、CsBr、RbBrのいずれかが添加された場合に関する。
本実施例においては、CsI−NaCl系に対して、CsIに対するRbIの組成が15mol%、30mol%、50mol%の試料、CsBrの組成が20mol%、50mol%の試料、さらにRbBrの組成が10mol%、15mol%、50mol%の試料を実施例1同様の製法にて作製した。
【0130】
それらの試料をNaCl柱状晶に垂直面で約200・μm]の厚みに切り出し、第一の主面または第二の主面に関する透過配置で光学顕微鏡像を取得した。その結果、以下の表14のようになった。表中では、CsIにA材料をXmol%添加した場合の光導波性にて分類している。表中のX[mol%]は、第二の結晶相におけるA材料の割合を示しており、CsIとA材料の合計を100%としている。また、光導波性については、◎:導波良好、○:少し導波に劣化が見られる、△:導波性は悪いが、構造に沿った導波が見られる、×:構造に起因した導波がない、の4分類で表記している。
【0131】
【表14】
【0132】
この結果より、主成分CsIへの添加範囲は、RbIにおいては0mol%より多く、20mol%以下の範囲とするのが妥当であることが判った。さらに、CsBrにおいては0mol%より多く、50mol%未満の範囲とするのが妥当で、RbBrにおいては0mol%より多く、10mol%以下の範囲とするのが妥当であることが判った。
図10には、導波が良好であった試料の第一の主面または第二の主面の透過顕微鏡写真を示す。図10(A)はRbIが15mol%添加されており、図10(B)はCsBrが20mol%添加されており、図10(C)はRbBrが10mol%添加されている試料である。また、図中のスクラッチや欠陥は、切り出し時の生じたものであり、本発明の本質を揺るがす物ではない。このように、第二の結晶相でCsIを主成分として、RbI、CsBr、RbBrを添加しても本発明の相分離シンチレータ結晶体を構成できることを示した。
【実施例8】
【0133】
本実施例は、上述のいずれかの実施例で説明した相分離シンチレータを用いた放射線検出に関する。
【0134】
厚み1mmに切り出した相分離シンチレータ結晶体を光検出器アレイの上に第一の主面または第二の主面が光検出器に対向するように配置し、図21に示す放射線検出器を作成した。そして、この放射線検出器の相分離シンチレータ結晶体にX線を照射した場合、隔壁の無い単結晶体に照射した場合には結晶面内に光が拡散伝播していくのに対して、広がりが抑制されていることが検出器アレイの出力より確認できた。さらに、相分離シンチレータ結晶体と光検出器アレイの接合において、樹脂にて空間が空かないように接続した場合は、検出器アレイの出力が増すことが確認され、結晶体から検出器部への光の取り出しを考慮した層構成を採ることを示すものである。
【0135】
また、比較例として汎用的に用いられている蒸着法で作製したTl添加CsI針状結晶膜の430μm厚のものを準備し、本発明の相分離シンチレータ結晶体としてTl添加CsI−NaCl系の1.42mm厚のものと光の広がりについて比較した。タングステン管球用い、60kV、1mA、Alフィルター無しの条件で得られるX線を2mm厚のタングステン板にあるφ100μm開口を通して試料に照射し、試料底面における光強度分布を計測した。計測は50μmピッチのCCDにて行った。その分布のピーク値を通る断面の強度プロファイルを図11に示す。図11では、各々のプロファイルをピーク値で規格化し、ピーク位置で相対位置を合わせてある。CsI針状結晶膜では、半値幅で340μm程度であるのに対して、本発明のCsI−NaCl結晶体では、160μm程度であり半分以下の広がりに押さえられていることが判明した。これにより、本発明の結晶体は1.42mmもの厚みがありながらも、従来光ガイディング効果があるとされている430μm厚のCsI針状結晶膜より光の広がりが抑制されており、光導波機能を有したシンチレータとして優位性があることが確認された。
【実施例9】
【0136】
実施例9〜11は、上述の第二の実施形態に対応する実施例である。本実施例9においては、第二の結晶相の主成分としてNaIを用いた。具体的には、
まず、NaIに対してCsI,RbI,NaCl,NaFをそれぞれ51mol%,50mol%,40mol%,18mol%混合した粉末を準備し、それらを個別に石英管に真空封じし試料とした。次に、それらを図2(A)の模式図のようなブリッジマン炉に導入し、800℃まで昇温させ試料全体が融解した後30分保持してから、融液温度を表4にある共晶温度より20℃高い温度まで降温した。その後、各々の試料を約10mm/時の速度で引き下げて試料下部より逐次凝固するようにした。また、試料の引き下げにより、炉の冷却水が循環している領域に突入することで試料が融解している部分と凝固している部分の境界である固液界面での温度差が30℃/mm以上となるようにする。このようにして作製した試料4種を切り出し、第一の主面または第二の主面について光学顕微鏡による透過画像を取得した。その結果を図12に示す。
【0137】
図12(A)は、NaI−CsI系の凝固方向に垂直な面(第一の主面、第二の主面)を示す。図12(A)から、板状結晶が交互に密接して配置されている構造、つまり第二の構成であることが確認できた。図12(B)は、NaI−RbI系の凝固方向に垂直な面(第一の主面、第二の主面)を示す。図12(B)から、多数のNaI柱状晶がRbIに取り囲まれた構造、つまり第三の構成であることが確認できた。図12(C)は、NaI−RbI系の凝固方向に平行な面を示す。図12(C)から、NaI柱状晶が凝固方向に向かって長く成長していることが確認できた。つまり、一方向性相分離構造を有しているということである。
【0138】
図12(D)は、NaI−NaCl系の凝固方向に垂直な面(第一の主面、第二の主面)を示す。
図12(E)は、NaI−NaF系の凝固方向に垂直な面(第一の主面、第二の主面)を示す。図12(E)から、NaF板状結晶が3つ又構造を有していることが判明した。
【0139】
ここで、画像の一部領域での傷や乱れは観察試料作製時や研磨痕によるものであり、像のボケに関しては材料の潮解によるところと試料の傾きによるピントのズレによるもので、本発明の本質を揺るがすものではない。
【0140】
図12に示す各光学顕微鏡像は透過配置で撮影しており、NaI−CsI系ではNaI板状結晶側が、NaI−RbI系ではNaI柱状晶側が、NaI−NaCl系ではNaIマトリックス側が、NaI−NaF系ではNaIマトリックス側が明るく観察できている。このことからも、これらの系に光を導波する機能が備わっていることが示されている。
以上から、本発明の2相のうちいずれかがNaIから構成される相分離シンチレータが構造として成り立っており、光導波特性も有していることが確認された。
【実施例10】
【0141】
本実施例は、発光中心の添加に関する。
実施例9と同様の作製方法にて4つの材料系、NaI−CsI,NaI−RbI,NaCl−NaI,NaI−NaF系にTlI(ヨウ化タリウム)を0.01mol%添加した試料を作成した。それらをX線励起で発光を確認すると、発光色はNaI−CsIが青白色で、それ以外は青色で非常に高輝度であった。これらの試料の紫外線励起での励起スペクトルと発光スペクトルを図13に示す。横軸は波長に対応しており、短波長側のスペクトルが励起スペクトルであり、長波長側のスペクトルが発光スペクトルである。励起スペクトルは発光スペクトルのピーク位置で測定した。NaI−CsI系は図13(A)に、NaI−RbI系は図13(B)に、NaCl−NaI系は図13(C)に、NaI−NaF系は図13(D)に対応している。これらのスペクトルから高輝度で知られるNaI:Tlの青の高輝度発光を基調としていることが確認できる。このように、本発明の相分離シンチレータ結晶体は、放射線励起にて発光を呈する。
【実施例11】
【0142】
本実施例は、相分離シンチレータの組成に関する。
図14に示すNaI−RbI系の平衡状態図において矢印が示すNaI−RbI(40mol%、48mol%又は50mol%)の3種類の試料から、図2(A)に示す実施例9と同様の装置を用いて3種類の相分離シンチレータを作製した。また、これら3種類の試料から、図2(B)に示すヒーター部分が狭く、試料を局所的に熔融させる装置を用いて3種類の相分離シンチレータを作製した。このようにして合計6種類の相分離シンチレータを準備した。なお、NaI−RbI(40mol%)は、NaIとRbIとのモル比が40:60であることを示す。同様に、NaI−RbI(48mol%)はNaIとRbIとのモル比が48:52であることを、NaI−RbI(50mol%)はNaIとRbIとのモル比が50:50であることを示す。
【0143】
実施例9と同様に初期に試料全体を融解してから凝固が開始される場合においては、いずれの組成の試料においても図12(B)ないし(C)のような良好な構造を有するものが得られた。ただし、NaI−RbI(40mol%)の場合には、試料の凝固初期領域にNaIの樹枝状結晶の析出を伴う結晶体が形成されており、その後に良好な一方向性相分離構造の領域が形成された。NaI−RbI(48mol%)やNaI−RbI(50mol%)については、NaI−RbI(40mol%)のような試料の凝固初期に樹枝状結晶領域が明確に形成されず、大きな差は見られなかった。ただ、2mol%という組成の違いによる差は、原料の不純物等の影響もあるため、全く差がないということを意味するものではない。このように、試料全体を融解した場合は、試料の凝固初期領域に共晶組成から逸脱した材料が共晶温度よりも高温で析出する。従って、残された融液部分が共晶組成に収束し、それ以降良好な構造形成がなされると考えられる。
【0144】
また、図2(B)のように試料の局所領域のみ融解しながら凝固した場合、NaI−RbI(40mol%)の系では試料のいずれの場所でもNaIの樹枝状結晶が存在しており目的とする構造とは言えなかった。ただし、NaI−RbI(48mol%)とNaI−RbI(50mol%)の場合では、NaIの柱状晶が全体に渡って形成されており、良好な試料を得ることができた。ただし、不純物等の影響もあるが、NaI−RbI(50mol%)の場合に比べて、NaI−RbI(48mol%)の試料の方が構造の乱れが多いように見受けられた。したがって、局所的に融解して凝固する場合には、全体を融解した場合に生じる試料内での最適組成に向かうプロセスを経ることができず、組成と構造が敏感に影響しあっていることが分かる。
【0145】
よって、本発明の相分離シンチレータ結晶体は、2mol%程度の僅かな組成の揺らぎは構造形成に大きく悪影響を与えないが、10mol%という大きなずれは影響するので最適組成は共晶組成近傍であるということが明らかである。また、製法上試料全体を融解してから凝固を制御すれば、組成が共晶組成から逸脱していたとしても、試料の凝固初期領域に逸脱分の材料が優先的に析出し、残された共晶組成の融液から良好な領域を得ることができることを明らかにしたことは重要である。
【実施例12】
【0146】
実施例12〜15は上述の第三の実施形態に対応する実施例である。以下、順に説明する。
本実施例12においては、まず、表9にある材料系を同じく表中の共晶組成に調合した粉末を準備し、それらを個別に石英管に真空封じして試料とした。次に、それらを図2(A)の模式図のようなブリッジマン炉に導入し、800℃まで昇温させ試料全体が融解した後30分保持してから、融液温度を表9にある共晶温度より20℃高い温度まで降温した。その後、各々の試料を約10mm/時の速度で引き下げて試料下部より逐次凝固するようにした。また、試料の引き下げにより、炉の冷却水が循環している領域に突入することで試料が融解している部分と凝固している部分の境界である固液界面での温度差が30℃/mm以上となるようにする。このようにして作製した試料を引き下げ方向に垂直面(第一の主面または第二の主面)で切り出し、光学顕微鏡による透過画像を取得した。その結果を図15に示す。
【0147】
図15(A)は、RbI−NaF系の画像である。図15(A)から、NaFの柱状晶がRbIに囲われた構造であることがわかる。これは、第一の構成で、第一の結晶相がNaF、第二の結晶相がRbIである。
【0148】
図15(B)は、RbI−NaCl系の画像である。図15(B)から、NaClの柱状晶がRbIに囲われた構造であることがわかる。これは、第一の構成で、第一の結晶相がNaCl、第二の結晶相がRbIである。
【0149】
図15(C)は、RbI−NaBr系の画像である。図15(C)から、NaBrの板状結晶とRbIの板状結晶が交互に密接した構造であることがわかる。これは、第二の構成で、第一の結晶相がRbI、第二の結晶相がNaBrである。
【0150】
図15(D)は、CsBr−NaF系の画像である。図15(D)から、NaFの柱状晶がCsBrに囲われた構造であることがわかる。これは、第一の構成で、第一の結晶相がNaF、第二の結晶相がCsBrである。
【0151】
図15(E)は、CsBr−NaCl系の画像である。図15(E)から、NaClの柱状晶がCsBrに囲われた構造であることがわかる。これは、第一の構成で、第一の結晶相がNaCl、第二の結晶相がCsBrである。
【0152】
図15(F)は、CsBr−NaBr系の画像である。図15(F)から、NaBrの柱状晶がCsBrに囲われた構造であることがわかる。これは、第一の構成で、第一の結晶相がNaBr、第二の結晶相がCsBrである。
【0153】
図16(G)は、RbBr−NaF系の画像である。図16(G)から、NaFの柱状晶がRbBrに囲われた構造であることがわかる。これは、第一の構成で、第一の結晶相がNaF、第二の結晶相がRbBrである。
【0154】
図16(H)は、RbBr−NaCl系の画像である。図16(H)から、NaClの板状結晶とRbBrの板状結晶が交互に密接した構造であることがわかる。これは、第二の構成で、第一の結晶相がRbBr、第二の結晶相がNaClである。
【0155】
図16(I)は、RbBr−NaBr系の画像である。図16(I)から、NaBrの柱状晶がRbBrに囲われた構造であることがわかる。これは、第三の構成で、第一の結晶相がRbBr、第二の結晶相がNaBrである。
【0156】
図16(J)は、CsCl−NaCl系の画像である。図16(J)から、NaClの柱状晶がCsClに囲われた構造であることがわかる。これは、第一の構成で、第一の結晶相がNaCl、第二の結晶相がCsClである。
【0157】
図16(K)は、RbCl−NaCl系の画像である。図16(K)から、NaClの柱状晶がRbClに囲われた構造であることがわかる。これは、第三の構成で、第一の結晶相がRbCl、第二の結晶相がNaClである。
【0158】
図16(L)は、RbCl−NaF系の画像である。図16(L)から、NaFの柱状晶がRbClに囲われた構造であることがわかる。これは、第一の構成で、第一の結晶相がNaF、第二の結晶相がRbClである。
【0159】
これらの画像は、引き下げ方向に垂直な面(第一の主面、第二の主面)で切り出しているため、柱状晶が点ないし板状として観察されているが、引き下げ方向に平行面では柱状晶が一方向に連続して形成されていることを確認しており、一方向凝固により本発明の相分離構造体が形成されていることが確認できた。
【0160】
ここで、画像の一部領域での傷や乱れは観察試料作製時の研磨痕等によるものであり、像のボケに関しては材料の潮解によるところと試料の傾きによるピントのズレによるもので、本発明の本質を揺るがすものではない。
【0161】
また、図15及び図16に示す各光学顕微鏡像は透過配置で撮影しており、各画像中の明るく見える結晶相は表10に示される高屈折率側(第二の結晶相)の材料であることが確認できており、本発明の屈折率差による光導波の機能が備わっていることが示されている。
【0162】
以上から、高屈折率結晶相である第二の結晶相の主成分が、シンチレータ材料以外の材料で構成される場合であっても、の2相のうちいずれかがRbI、CsBr、RbBr、CsCl、又はRbClのうちいずれかを主成分として有している相分離シンチレータ構造が、光導波特性も有していることが確認された。
【実施例13】
【0163】
本実施例は、一方の結晶相を構成するRbIやCsBrやRbBrに他材料が添加された場合の具体例に関する。
実施例12と同様に次に挙げる材料系を石英管に真空封じして試料とした。
【0164】
主成分であるRbIにCsIやRbBrを添加した場合の具体例として、(RbI85−CsI15)−NaCl、(RbI80−RbBr20)−NaClを作製した。また、主成分であるCsBrにCsIやRbBrやCsClを添加した場合の具体例として、(CsBr80−CsI20)−NaCl、(CsBr50−CsI50)−NaCl、(CsBr80−RbBr20)−NaCl、(CsBr80−CsCl20)−NaCl、(CsBr60−CsCl40)−NaClを作製した。さらに、主成分であるRbBrにRbIやCsBrを添加した場合の具体例として、(RbBr95−RbI5)−NaCl、(RbBr50−RbI50)−NaCl、(RbBr90−CsBr10)−NaClを作製した。
【0165】
以上の組成表記は、(RbI85−CsI15)−NaClの場合、RbIとCsIの組成比率が85:15mol%であるということを示している。また、一方の結晶相を構成する材料が混晶化した場合の他方の結晶相を構成する材料との共晶組成を各組成ごとに算出するのは煩雑なため、他方の結晶相の主成分の代表例としてNaClを選択し、一方の結晶相に対して35mol%の仕込み組成として作製した。ただし、図2(A)に示す作製装置にて作製し、組成逸脱分が求める構造に影響を与えないように実施した。
【0166】
作製された試料を実施例12同様に引き下げ方向に垂直面(第一の主面、第二の主面)で切り出し、光学顕微鏡による透過画像を取得した。その結果を図17に示す。
【0167】
図17(A)は、(RbI85−CsI15)−NaCl系の画像である。図17(A)から、NaCl柱状晶が(RbI85−CsI15)混晶に囲われた構造であることがわかる。これは、第一の構成で、第一の結晶相がNaCl、第二の結晶相が(RbI85−CsI15)である。
【0168】
図17(B)は、(RbI80−RbBr20)−NaCl系の画像である。図17(B)から、NaCl柱状晶が(RbI80−RbBr20)混晶に囲われた構造であることがわかる。これは、第一の構成で、第一の結晶相がNaCl、第二の結晶相が(RbI80−RbBr20)である。
【0169】
図17(C)は、(CsBr80−CsI20)−NaCl系の画像である。図17(C)から、NaCl柱状晶が(CsBr80−CsI20)混晶に囲われた構造であることがわかる。これは、第一の構成で、第一の結晶相がNaCl、第二の結晶相が(CsBr80−CsI20)である。
【0170】
図17(D)は、(CsBr50−CsI50)−NaCl系の画像である。図17(D)から、NaCl柱状晶が(CsBr50−CsI50)混晶に囲われた構造であることがわかる。これは、第一の構成で、第一の結晶相がNaCl、第二の結晶相が(CsBr50−CsI50)である。
【0171】
図17(E)は、(CsBr80−RbBr20)−NaCl系の画像である。図17(E)から、NaCl柱状晶が(CsBr80−RbBr20)混晶に囲われた構造であることがわかる。これは、第一の構成で、第一の結晶相がNaCl、第二の結晶相が(CsBr80−RbBr20)である。尚、この試料に関しては、試料作製時の影響でNaCl柱状晶が真っ直ぐではない領域が発生し、そのため透過画像中に本来の見えるべき暗点より大きな暗い領域が点在する状況となったが、本発明の本質に影響を与えるものではない。
【0172】
図17(F)は、(CsBr80−CsCl20)−NaCl系の画像である。図17(F)から、NaCl柱状晶が(CsBr80−CsCl20)混晶に囲われた構造であることがわかる。これは、第一の構成で、第一の結晶相がNaCl、第二の結晶相が(CsBr80−CsCl20)である。
【0173】
図18(G)は、(CsBr60−CsCl40)−NaCl系の画像である。図18(G)から、NaCl柱状晶が(CsBr60−CsCl40)混晶に囲われた構造であることがわかる。これは、第一の構成で、第一の結晶相がNaCl、第二の結晶相が(CsBr60−CsCl40)である。
【0174】
図18(H)は、(RbBr95−RbI5)−NaCl系の画像である。図18(H)から、NaCl板状結晶と(RbBr95−RbI5)混晶の板状結晶が交互に密接した構造であることがわかる。これは、第二の構成で、第一の結晶相が(RbBr95−RbI5)、第二の結晶相がNaClである。
【0175】
図18(I)は、(RbBr50−RbI50)−NaCl系の画像である。図18(I)から、NaCl柱状晶が(RbBr50−RbI50)混晶に囲われた構造であることがわかる。これは、第一の構成で、第一の結晶相がNaCl、第二の結晶相が(RbBr50−RbI50)である。
【0176】
図18(J)は、(RbBr90−CsBr10)−NaCl系の画像である。図18(J)から、NaCl板状結晶と(RbBr90−CsBr10)混晶の板状結晶が交互に密接した構造であることがわかる。これは、第二の構成で、第一の結晶相が(RbBr90−CsBr10)、第二の結晶相がNaClである。
また、図17及び図18に示す各光学顕微鏡像は透過配置で撮影しており、各画像中の明るく見える結晶相の方が高屈折率側(第二の結晶相)を構成する材料であることが確認できており、本発明の屈折率差による光導波の機能が備わっていることが示されている。
【0177】
以上から、本発明の一方の結晶相において単一材料ではなく、混晶化した場合にも相分離シンチレータが構造として成り立っており、光導波特性も有していることを確認した。
【実施例14】
【0178】
本実施例は、発光中心の添加に関する。
実施例12と同様の作製方法を用いて、材料系すべてにTlI(ヨウ化タリウム)、InI(ヨウ化インジウム)、Ga(ガリウム)を別々に0.01mol%添加する組み合わせの試料を作製した。それらをタングステン管球60kV、1mAで発したX線で励起すると、いずれの組み合わせにおいても結晶体の発光が目視で確認できた。
【0179】
よって、本発明の相分離構造体は、放射線励起にて発光することが確認できる、シンチレータ結晶体として機能することが示された。
【実施例15】
【0180】
本実施例は、相分離シンチレータの組成に関する。
図19に示すCsBr−NaCl系の平衡状態図において矢印が示すCsBr−NaCl(30mol%、38mol%又は40mol%)の3種類の試料から、図2(A)に示す実施例1と同様の装置を用いて3種類の相分離シンチレータを作製した。また、これら3種類の試料から、図2(B)に示すヒーター部分が狭く、試料を局所的に熔融させる装置を用いて3種類の相分離シンチレータを作製した。このようにして合計6種類の相分離シンチレータを準備した。なお、CsBr−NaCl(30mol%)は、CsBrとNaClとのモル比が70:30であることを示す。その他も同様に、CsBrとNaClとのモル比が62:38と60:40であることを示す。
【0181】
実施例12と同様に初期に試料全体を融解してから凝固が開始される場合においては、いずれの組成の試料においても図15(E)のような良好な構造を有するものが得られた。ただし、CsBr−NaCl(30mol%)の場合には、試料の凝固初期領域にCsBrの樹枝状結晶の析出を伴う結晶体が形成されており、その後に良好な一方向性相分離構造の領域が形成された。CsBr−NaCl(38mol%)やCsBr−NaCl(40mol%)については、CsBr−NaCl(30mol%)のような試料の凝固初期に樹枝状結晶領域が明確に形成されず、大きな差は見られなかった。ただ、2mol%という組成の違いによる差は、原料の不純物等の影響もあるため、全く差がないということを意味するものではない。このように、試料全体を融解した場合は、試料の凝固初期領域に共晶組成から逸脱した材料が共晶温度よりも高温で析出する。従って、残された融液部分が共晶組成に収束し、それ以降良好な構造形成がなされると考えられる。
【0182】
また、図2(B)のように試料の局所領域のみ融解しながら凝固した場合、CsBr−NaCl(30mol%)の系では試料のいずれの場所でもCsBrの樹枝状結晶が存在しており目的とする構造とは言えなかった。ただし、CsBr−NaCl(38mol%)とCsBr−NaCl(40mol%)の場合では、CsBrの柱状晶が全体に渡って形成されており、良好な試料を得ることができた。ただし、不純物等の影響もあるが、CsBr−NaCl(40mol%)の場合に比べて、CsBr−NaCl(38mol%)の試料の方が構造の乱れが多いように見受けられた。したがって、局所的に融解して凝固する場合には、全体を融解した場合に生じる試料内での最適組成に向かうプロセスを経ることができず、組成と構造が敏感に影響しあっていることが分かる。
【0183】
よって、本発明の相分離シンチレータ結晶体は、2mol%程度の僅かな組成の揺らぎは構造形成に大きく悪影響を与えないが、10mol%という大きなずれは影響するので最適組成は共晶組成近傍であるということが明らかである。また、製法上試料全体を融解してから凝固を制御すれば、組成が共晶組成から逸脱していたとしても、試料の凝固初期領域に逸脱分の材料が優先的に析出し、残された共晶組成の融液から良好な領域を得ることができることを明らかにしたことは重要である。
【実施例16】
【0184】
実施例16、17は、上述の第四の実施形態に対応する実施例であり、以下順に説明する。
本実施例においては、まず、BaI2−NaI、BaBr2−NaBr、BaCl2−NaCl、SrBr2−NaBr、SrCl2−NaClの5つの材料系をそれぞれ50:50、40:60、40:60、60:40、52:48の比率で混合した粉末を準備し、それらを個別に石英管に真空封じし試料とした。次に、それらを図2(A)の模式図のようなブリッジマン炉に導入し、800℃まで昇温させ試料全体が十分溶解した後30分保持してから、融液温度を表12にある共晶温度より20℃高い温度まで降温した。その後、各々の試料を約10mm/時の速度で引き下げて試料下部より逐次凝固するようにした。
また、試料の引き下げにより、炉の冷却水が循環している領域に突入することで試料が溶解している部分と凝固している部分の境界である固液界面での温度差が30℃/mm以上となるようにする。このようにして作製した試料5種を切り出し、光学顕微鏡による透過画像(第一の主面、第二の主面の画像)を取得した。その結果、5つの材料系に対して各々図20(A)から(E)の画像を得た。屈折率の高いBaI2,BaBr2,BaCl2,SrBr2,SrCl2の相が明るく見え、低屈折率相が暗く見えることから、本発明の所望の構造が形成できていると同時に光導波機能を有することが確認できた。
【0185】
ここで、画像の一部領域での傷や乱れは観察試料作製時や研磨痕によるものであり、像のボケに関しては材料の潮解によるところと試料の傾きによるピントのズレによるもので、本発明の本質を揺るがすものではない。
【実施例17】
【0186】
本実施例は、発光中心の添加に関する。
実施例16と同様の作製方法にて5つの材料系BaI2−NaI、BaBr2−NaBr、BaCl2−NaCl、SrBr2−NaBr、SrCl2−NaClにハロゲンが一致するようにEuI2,EuBr2,EuCl2から選択して0.5mol添加した試料を作成した。それらをX線励起で発光を確認すると、それぞれ約420nm,約400nm,約400nm,約400nm,約410nmにピークを持つスペクトルが得られ、発光中心を添加することにより放射線に対する応答が得られることが判明した。
【0187】
尚、上述の実施例8と同様に、上記の実施例9〜17で説明した相分離シンチレータ結晶体を用いて、光検出器アレイの上に第一の主面または第二の主面が光検出器に対向するように配置し、図21に示す放射線検出器を作成した場合にも、隔壁の無い単結晶体シンチレータを用いた放射線検出器に比較して光の広がりが抑制されていることが検出器アレイの出力より確認できた。
【0188】
本発明の相分離シンチレータ結晶体は、放射線により発光し、かつ発光光を導波する特性を有しているため、従来の隔壁を形成することなく、光検出器と組み合わせて用いることで放射線検出器として有用である。特に、X線等の放射線を用いた医療用・産業用・高エネルギー物理用・宇宙用の計測装置等に用いることが可能である。
【符号の説明】
【0189】
1 シンチレータ
2 光検出器
11 第一の結晶相
12 第二の結晶相
【技術分野】
【0001】
本発明は、シンチレータ結晶体、その製造方法および放射線検出器に関し、特に放射線により発光を呈するシンチレータ結晶体、その製造方法および前記シンチレータ結晶体を用いた放射線検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
医療現場等で用いられているX線CT(Computed Tomography)装置では、被写体を通過したX線をシンチレータで受け、そのシンチレータが発した光を光検出器で検出している。また、それらの検出器は2次元アレイ状に配置されており、各々のシンチレータは光のクロストークが生じないように隔壁にて分離されている。
【0003】
そして、その隔壁はX線検出に寄与しないことや、空間分解能を劣化させる観点から可能な限り薄く形成されることが望まれていた。例えば特許文献1では、多数のシンチレータ結晶を接着剤で接合してシンチレータアレイを形成した後、接着剤をエッチングにより除去し、それにより生じた空隙に酸化チタン粉末を隔壁材として充填することが行われている。この場合、隔壁の厚みを1μm程度と薄くできることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−145335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のシンチレータは、シンチレータに光を導波する機能が無かったために散乱面や反射面となる隔壁が必要であった。しかし、特開2008−145335号公報では、隔壁を薄く形成できるとしても隔壁の存在をなくすことは出来ない。また、製造工程において、シンチレータのカッティングから隔壁形成のための張り合わせなど多くの工程が必要であった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するシンチレータ結晶体は、
第一の結晶相と、前記第一の結晶相よりも屈折率が大きい第二の結晶相とを備え、互いに同一面上に位置しない第一の主面と第二の主面とを有するシンチレータであって、
前記シンチレータは、前記第一の主面と第二の主面とに第二の結晶相が露出する部分を有し、
前記第二の結晶相の第一の主面に露出する部分と第二の主面に露出する部分とがつながっていることを特徴とする。
【0007】
上記の課題を解決するシンチレータ結晶体の製造方法は、
第一の結晶相を構成する材料と第二の結晶相を構成する材料とを混合する工程と、
混合された第一の結晶相を構成する材料と第二の結晶相を構成する材料とを溶解する工程と、
溶解された第一の結晶相を構成する材料と第二の結晶相を構成する材料とを一方向に沿って凝固させて共晶体を生成させることを特徴とする。
【0008】
上記の課題を解決する放射線検出器は、上記のシンチレータ結晶体と、光検出器を有し、該シンチレータ結晶体は、前記光検出器に前記第一の主面または第二の主面が対向するように配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、光を導波することができるシンチレータ結晶体及びその製造方法を提供することができる。また、本発明は、光を導波することができるシンチレータ結晶体を用いた放射線検出器を提供することができる。
【0010】
本発明では、シンチレータ結晶体そのものが光を導波する機能を有しているので、従来のシンチレータのカッティングから隔壁形成という製造プロセスが不要である。また、光検出器アレイ上にシンチレータ結晶体を配置するだけで光利用効率の高い放射線検出器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のシンチレータ結晶体の一実施態様を示す模式図である。
【図2】本発明のシンチレータ結晶体の製造方法を示す概略図である。
【図3】本発明のシンチレータ結晶体の走査型電子顕微鏡像である。
【図4A】InIを添加したCsI−NaCl系相分離シンチレータ結晶体の電子線励起発光スペクトルを示す図である。
【図4B】CsI−NaCl系相分離シンチレータ結晶体の走査型電子顕微鏡像である。
【図4C】TlIを添加したCsI−NaCl系相分離シンチレータ結晶体の電子線励起発光スペクトルを示す図である。
【図5】CsI−NaCl系における発光量と発光ピーク波長のTl濃度依存性を示す図である。
【図6】CsI−NaCl系の平衡状態図である。
【図7】シンチレータ結晶体の組成による相分離構造の相違を示す走査型電子顕微鏡像である。
【図8】CsI−NaCl系相分離構造の構造周期と直径の凝固速度依存性を示す図である。
【図9A】本発明の実施例5のシンチレータ結晶体の導波性を示す顕微鏡像である。
【図9B】本発明の実施例5のシンチレータ結晶体の導波性を示す模式図である。
【図9C】本発明の実施例5のシンチレータ結晶体の導波性を示す光学顕微鏡像である。
【図10】第二の結晶相のCsIにRbI、CsBr、RbBrのいずれかが添加された場合のシンチレータ結晶体の導波性を示す顕微鏡像である。
【図11】CsI針状結晶とCsI−NaCl結晶体の光導波性を比較した図である。
【図12】相分離シンチレータ結晶体の透過光学顕微鏡像
【図13】本発明のNaI:Tl含有相分離シンチレータの励起スペクトルと発光スペクトル
【図14】NaI−RbI系の平衡状態図の概略図
【図15】相分離シンチレータ結晶体の透過光学顕微鏡像
【図16】相分離シンチレータ結晶体の透過光学顕微鏡像
【図17】相分離シンチレータ結晶体の透過光学顕微鏡像
【図18】相分離シンチレータ結晶体の透過光学顕微鏡像
【図19】CsBr−NaCl系の平衡状態図の概略図
【図20】相分離シンチレータ結晶体の透過光学顕微鏡像
【図21】放射線検出器の概要を示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面等を用いて本発明を実施するための形態を説明する。尚、本発明を実施するための形態としては、様々な形態(様々な構成や、様々な材料)があるが、全ての実施形態に共通することは、第一の結晶相と、第一の結晶相よりも屈折率が大きい第二の結晶相との2相を備える相分離構造を有するシンチレータ結晶体が、互いに同一面上に位置しない第一の主面と第二の主面とに第二の結晶相が露出する部分を有し、第二の結晶相の第一の主面に露出する部分と第二の主面に露出する部分とがつながっていることである。これによって、高屈折率の結晶相内の光は、高屈折率相の周りに位置する低屈折率の結晶相によって全反射され、結果、高屈折率結晶内を導波されながら進む。その際、高屈折率の結晶相は、第一の主面と第二の主面とに露出するとともに、この露出部がつながっているため、導波(光ガイディング)は、第一の主面または第二の主面に向けて行われる。これらは換言すると、シンチレータ結晶体内で生じた光は、第二の結晶相内に閉じ込められながら(つまり光が広がることなく)、第一の主面または第二の主面に向けて進行するといえる。このようにして、本発明の全ての実施形態は、シンチレータ結晶体自体が、導波機能(光ガイディング機能)を有する。
尚、以下に説明する各実施形態においては、低屈折率相である第一の結晶相も、第一の主面と第二の主面とに露出する部分を有し、これら露出部がつながっている構成が好ましい。これによって、第二の結晶相内の光を、より確実に、第一の主面または第二の主面に、広がることなく導波(光ガイディング)することが可能となる。
【0013】
また、低屈折率相である第一の結晶相が、高屈折率相である第二の結晶相中に位置している構成が好ましい。これによって、シンチレータ結晶体における第一の結晶相が占める割合を抑えながら、十分な導波機能(光ガイディング機能)を得ることができる。
以下、各実施形態について、説明する。
【0014】
(第一の実施形態:柱状晶構造、第二の結晶相の主成分がシンチレータ材料からなる(CsI))
図1(A)は、本発明のシンチレータ結晶体の第一実施形態を示す模式図である。図1(A)に示す本実施形態の2相の相分離構造を有するシンチレータ結晶体は、第一の主面と第二の主面とに第二の結晶相が露出する部分を有し、第二の結晶相の第一の主面に露出する部分と第二の主面に露出する部分とがつながっている。尚、図1(A)に示す形態では、第二の結晶相の中に、一方向性を有する多数の柱状晶からなる第一の結晶相を有している。具体的には、第一の結晶相11と、第一の結晶相11の側面を埋める第二の結晶相12の2相の相分離構造から構成されている。なお、相分離構造とは、一様な状態から状況を変化させたときに複数相に分離して得られる構造である。本実施形態では、構成材料が溶融している構造のない一様な液体状態から、凝固状態に至るとき、2相の結晶相が同時に晶出し、ある程度の周期性を有して形成された構造を表す。
【0015】
第一の結晶相11を構成する柱状晶18の断面形状は円形、楕円、四角形に限らず、複数の結晶面から構成され、多角形を構成してよい。また、柱状晶18の直径13は50nm以上30μm以下、好ましくは200nm以上10μm以下の範囲であることが望ましい。また、第一の結晶相の柱状晶18の周期14は500nm以上50μm以下、好ましくは1μm以上20μm以下の範囲であることが望ましい。ただし、シンチレータ結晶体と検出器ないし検出器アレイと組み合わせた場合、光検出器の受光部領域上に多数の柱状晶が配置されるような構造サイズを有したものを組み合わせることが好ましい。例えば、受光領域が正方で一辺が20μmの場合、柱状晶の直径は5μm、周期は8μmの構造サイズを有していることが好ましい。従って、受光領域のサイズに合わせて、上記構造サイズの範囲にとらわれず、構造サイズの小さいものを組み合わせることが好ましい。また、構造体のサイズの範囲は、材料系の選択と製造時の条件で決定されるものであり、傾向については後述する。
【0016】
さらに、シンチレータ結晶体の厚み15は、製法にも依存するが、任意の厚みに調整することが可能である。シンチレータ結晶体は、放射線を検出するため、そのエネルギーを十分吸収できる厚みであることが必要となる。例えばシンチレータ結晶体の主たる構成材料であるCsIを想定すると、高エネルギー領域の場合に放射長が1.86cm(放射長は、入射エネルギーが1/eになる距離)である。放射長の21倍(39.06cm)が100%吸収したという計算になるため、シンチレータ結晶体の厚みは40cm以下で十分である。
【0017】
例えば、1MeV以下の低エネルギー領域で用いることが多い医療用での使用を考慮すると厚み15は1μm以上10cm以下、好ましくは10μm以上10mm以下の範囲であることが望ましい。また、放射線の吸収率の設定によっても厚みが左右されるので、この範囲に限らず用いることは可能である。
【0018】
柱状晶は、厚み方向16に渡って真っ直ぐ続いていることが好ましいが、途中で途切れたり、枝分かれや融合が生じたり、一直線でなく曲がった部分が含まれていたり、また直径が部分的に変化している場合などでもよい。凝固時の固液界面の方向を適宜制御することで、柱状晶を曲げることも可能である。
【0019】
第一の結晶相は、NaBr(臭化ナトリウム),NaCl(塩化ナトリウム),NaF(フッ化ナトリウム),KCl(塩化カリウム)のいずれかを含有する材料から構成されていることが好ましい。さらに好ましくは、NaClである。第一の結晶相に含有されるNaBr,NaCl,NaF,KClのいずれかの第一の結晶相における含有量は、50mol%以上、好ましくは80mol%以上100mol%以下が望ましい。
【0020】
第二の結晶相は、CsI(ヨウ化セシウム)を主成分として含有することが好ましい。ここで主成分とは、第二の結晶相における含有量が50mol%以上の材料のことを言い、より好ましくは、この主成分材料が第二の結晶相中に80mol%以上100mol%以下で含有されていることが望ましい。
【0021】
この主成分材料がCsIの場合、CsI以外に第二の結晶相に含有される材料としては、RbI(ヨウ化ルビジウム)、CsBr(臭化セシウム)、RbBr(臭化ルビジウム)が好ましい。より好ましくは、第二の結晶相にCsIとRbIが含有される場合は、RbIのCsIに対する比率は0mol%より多く、20mol%以下であることが望ましい。より好ましくは、15mol%以下である。同様に、CsBrが含有される場合は、0mol%より多く、50mol%未満であることが望ましい。より好ましくは、20mol%以下である。同様に、RbBrが含有される場合は、0mol%より多く、10mol%以下であることが望ましい。この場合、CsBrはCsIを主成分として最大限の50mol%未満まで添加可能であるが、RbIとRbBrの添加では、それぞれ20mol%、10mol%より多い場合には、結晶体の柱状晶に沿った方向の透過率の低下が著しい。これは、第二の結晶相内でCsIに固溶出来なくなったRbIやRbBr成分が析出する固相分離が生じるためと考えられる。
上記材料系の選択において、本実施形態のシンチレータ結晶体で重要なのは、第一の結晶相と第二の結晶相の材料の組成である。
【0022】
本発明のシンチレータ結晶体に含有される第一の結晶相および前記第二の結晶相を構成する材料の組成は、共晶点における組成であることが好ましい。共晶点とは、平衡状態図における共晶反応が生じる点であり、液相から2種の固溶体を同時に排出して凝固が完了する点を表す。
具体的には、本実施形態の第一の結晶相と第二の結晶相の材料系の好ましい組み合わせの組成比の例を以下の表1に示す。
【0023】
【表1】
【0024】
表1に示す材料の平衡状態図は入手できるデータがなく、本発明者らがDTA(Differential Thermal Analysis)等にて鋭意検討した結果である。図1(A)に示すような良好な相分離構造を得るためには、概ね上記組成で作製することが好ましい。これら組成は共晶点に対応している。ただし、上記組成から全く外れてはいけないものではなく、その組成に対して±4mol%の範囲は許容範囲とすることが好ましい。より好ましくは±2mol%の範囲である。これらの組成近傍の範囲を限定する要因は、構造形成において各相間が共晶関係にあり、共晶組成近傍では一方向性凝固により図1(A)のような良質な構造体を得ることができる。その他の組成範囲、つまり2mol%以上逸脱している場合では、一方の相が先に析出し構造形成の観点からは構造を乱す要因となる。ただし、表1の共晶組成にも測定誤差があるため、概念としては共晶組成から±2mol%であることが重要であるが、実質良好な構造が得られるならば±4mol%程度逸脱してもよい。また、表1に記載の共晶温度に関しても同様に測定誤差等があるため上記温度付近であることを示しており、なんらかの制限を与えるものではない。
【0025】
次に、第一と第二の結晶相には、上記以外の成分が含有されていてもよく、特に、第一の結晶相11を構成する材料に含有する成分は、第一の結晶相11に固溶し、かつ第二の結晶相12には固溶しない成分であることが好ましい。例えば、NaClにNaBrを、またNaClにKClを添加してもよい。さらに、第二の結晶相12を構成する材料に含有する成分は、第一の結晶相11に固溶せず、かつ第二の結晶相12に固溶する成分であることが好ましい。例えば、CsIにRbIを添加することができるなど、前述の通りである。尚、第二の結晶相12の主成分がCsIで、これにRbI、CsBr、RbBrのいずれかが添加されて第二の結晶相が構成されている場合には、第二の結晶相を構成する材料組成に対する共晶組成を採用することが望ましい。
【0026】
また、RbI、CsBr、RbBr以外の添加材料が追加、ないし単独で添加されてもよい。また、相分離構造の形成に支障がなければ、双方に固溶する成分を添加してもよい。尚このように、次に述べる発光中心のような極微量の添加ではなく1mol%以上添加するような場合の目的は、格子定数の制御やバンドギャップの制御、さらに発光色の制御などである。
【0027】
本実施形態における相分離構造において、シンチレータ材料を主成分とする第二の結晶相12が、放射線照射によって励起され、発光する。しかしこれに限らず、本発明では、前記第一の結晶相および前記第二の結晶相の少なくとも一方が放射線励起により発光すればよく、双方が発光することはより好ましい。したがって、第二の結晶相の主成分にCsIを用いた場合、放射線吸収能はCsIより下がるが、第一の結晶相11を構成するNaBr,NaCl,NaF,KClも発光するのが好ましい。特に、発光効率を高めるためには、第一の結晶相11および第二の結晶相12を構成する母材に対して発光中心となる成分を微量添加することも好ましい。ただし、光の反射・屈折のみを考慮すれば、少なくとも高屈折率側である第二の結晶相が放射線で光ることが重要であり、低屈折率側が発光しても構わないというのは散乱等の効果などが少なからず生じる可能性から言及しているもので、光導波性の観点からではない。また、ここで言う、双方の発光とは、第一の結晶相が発光した光を第二の結晶相が吸収するような場合、またはその逆を除外するものではない。また、第一の結晶相で生成されたキャリアが発光前に第二の結晶相へ拡散し流入するような状況、またはその逆を除外するものではない。
【0028】
発光中心としては、用途などにより多数選択することが可能で、単一ないし複数元素を添加してもよい。例えばアルカリハライド中で電子配置が(ns)2タイプとなり得るCu,Ag,Au,Ga,In,Tl,Sn,Pb,Sb,Biや、希土類元素のCe,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luから選択することが好ましい。また、Naも選択肢としてよい。高輝度という観点でより好ましくは、シンチレータ結晶体の発光中心としてTl,In,Gaの少なくとも一つを含有することが好ましい。上記発光中心を添加する場合、用途により輝度や発光波長、発光減衰時間などの要求に対して適宜選択できる。また、このような発光中心を添加することにより相分離構造に起因して、一方の相に添加されやすいなど、濃度分布が生じても問題ない。また、本発明における放射線にて発光するという表現は、通常のシンチレーション(放射線照射による発光)に加えて、輝尽蛍光(放射線照射により生じたキャリアのトラップサイトを光の照射によって励起して発光する)を呈するものも含んだ範囲である。
本発明の一方向性を有する相分離シンチレータ結晶体の重要な特性として、光を導波することが挙げられる。第一の結晶相11と第二の結晶相12を構成する材料系の屈折率を表2に示す。
【0029】
【表2】
【0030】
表2に示した屈折率は、波長依存性や添加物による変化などがあるため厳密なものではなく、構成材料間に屈折率の差(表中は比率表示)があることを示すためのものである。スネルの法則によれば、屈折率の異なる材質間では高屈折率媒質から低屈折率媒質へある角度で入射すると全反射が生じ、それより狭角では反射と屈折が生じているはずである。したがって、本発明の相分離シンチレータ結晶体において、表2に示す屈折率の比が生じていることは、高屈折率媒質において全反射により光が広がらない状況があるということを示している。つまり屈折や反射を繰り返し、高屈折率媒質の方が比較的光を閉じ込めて伝播することになる。よって、少なからず屈折率比(=低屈折率の結晶相/高屈折率の結晶相)が1より小さいことが望まれる。また、全反射条件のみを考慮すれば、低屈折率/高屈折率の比が小さいほど光が広がり難いことを表している。屈折率のみ考慮すれば、表2からはCsIとの組み合わせはNaFが最もよく、次いでKCl、NaCl、NaBrの順で良好となることがわかる。
【0031】
ただし、本実施形態では、高屈折率媒質を構成するCsIが第二の結晶相12を構成する。つまり本実施形態においては第二の結晶相は、柱状晶の周りのマトリックスを構成するため、柱状晶を構成する第一の結晶相11の組成比率(表1参照)が低い場合(例えばNaF:5mol%)は光が柱状晶の脇を抜けて広がりやすくなる傾向を示す。また、第一の結晶相の組成比率が高い場合(例えばNaCl:31.5mol%)は、X線応答性の高いCsIからなる第二の結晶相が少なくなるため、相対的に発光量が少なくなる傾向を示す。したがって、双方の効果の兼ね合いとなり、光の導波の観点では上記4種類の材料系において、NaClが第一の結晶相11を構成する場合がより好ましい。ただし、放射線励起による発光効率なども加味して、用途ごとに良し悪しが判定されるべきであるから、屈折率比と組成比から優劣が決定するわけではないので、いずれの材料系も重要である。
【0032】
このように、本発明の相分離シンチレータ結晶体は、柱状晶の高さ方向と平行方向(第一の主面と第二の主面とを結ぶ方向)に光を導波し、垂直方向で散乱や反射等により導波しない特性を有するのが特徴である。よって、従来のように単結晶群に隔壁を設けることなく光のクロストークを押さえることができる。
【0033】
(第二の実施形態:柱状またはラメラ構造、第二の結晶相の主成分がシンチレータ材料からなる(NaI))
次に第二の実施形態について説明する。第二の実施形態においては、第二の結晶相の主成分として、NaI(ヨウ化ナトリウム)を用い、前述の図1(A)または図1(c)に示す柱状晶構造、または図1(B)に示すラメラ構造の相分離構造を得た。これにつて、以下に詳述する。
【0034】
図1(A)、(B)、(C)は本実施形態のシンチレータ結晶体の一実施態様を示す模式図である。図1(A)に示す構成は、先の実施形態1と同様故、説明を一部省略する。尚、図1(A)に示すように一方向性を有する多数の柱状晶をなす第一の結晶相11と、第一の結晶相11の側面を埋める第二の結晶相12の2相から構成されている場合を以後、第一の構成と呼ぶ。また、図1(B)に示すように第一の結晶相11と第二の結晶相12の双方が一方向に立った板状結晶からなり、それらが交互に密接して構成されている場合を以後、第二の構成と呼ぶ。また、図1(C)に示すように、一方向性を有する多数の柱状晶をなす第二の結晶相12と、第二の結晶相12の側面を埋める第一の結晶相11の2相から構成されている場合を以後、第三の構成と呼ぶ。
【0035】
図1(A)に示す第一の構成における第一の結晶相の直径13、または図1(C)に示す第三の構成における第二の結晶相の直径13と図1(A)、(C)における周期14の好ましい範囲は、実施形態1で説明した通りである。また、図1(B)に示す第二の構成においても、板状結晶であるが、短辺側を直径と周期という定義とした場合、板状結晶の第一の結晶相の直径13と構造周期14は、第一の構成と同様の値の範囲であることが好ましい。
【0036】
また、本実施形態のシンチレータ結晶体と検出器又は検出器アレイとを組み合わせる場合、第一の実施形態で述べたとおり、光検出器の受光部領域の上に複数の柱状晶ないし板状結晶が配置されるようなサイズの組み合わせとすることが好ましい。その際、第二の構成における板状結晶の場合は、短辺側は柱状晶の場合と同様のサイズで問題ない。しかし、長辺側では用途によっては図1(B)に記載の第一のドメイン境界17と図示しない第二のドメイン境界17とで囲われる領域のサイズが検出画素の受光領域のサイズ以下であることが好ましい。このようなサイズが好ましい理由は、長辺側に沿って伝播する光は検出器側に向かわず横に広がってしまう懸念があるからである。ただし、事前に検出器アレイに対応して短辺側と長辺側の光導波特性が分かっていれば検出器アレイで撮像後に補正することが可能であるので、検出画素よりもドメイン境界で囲われるサイズが大きい場合に本発明の効果が得られないということではない。少なくとも短辺側に良好な光導波特性を有していればよい。
【0037】
シンチレータ結晶体の厚み15に関しては、第一の実施形態と同様である。
本実施形態では、第二の結晶相がNaIを主成分として含有することで実現されるが、より好ましくは第一の結晶相としてCsI、RbI、NaCl、又はNaFのいずれかを含有するのが良い。これは、第一の結晶相を構成する材料が、NaIと共晶関係にある材料系であれば、本実施形態の構造を形成するのに好ましいということである。第一の結晶相と第二の結晶相の材料の取りうる関係の一例は、表3に示すとおりである。つまり、NaIとCsIの組み合わせの場合、第二の構成(図1(B))になり第二の結晶相がNaIで第一の結晶相がCsIである。また、NaIとRbIの組み合わせの場合、第三の構成(図1(C))になり第二の結晶相がNaIで第一の結晶相がRbIである。また、NaIとNaClの組み合わせの場合、第一の構成(図1(A))になり第一の結晶相がNaClで第二の結晶相がNaIである。さらに、NaIとNaFの組み合わせの場合、第二の構成(図1(B))になり第二の結晶相がNaIで第一の結晶相がNaFである。
【0038】
【表3】
【0039】
次に、上記材料系の選択において、本実施形態で重要になってくるのは、第一の結晶相と第二の結晶相をそれぞれ構成する材料の組成である。
【0040】
表3に示した本実施形態の材料系の組み合わせ4種類において好ましい組成比は、以下の表4の通りであり、共晶点における組成であることが好ましい。
【0041】
【表4】
【0042】
上記組成の許容範囲については、上記組成に対して±4mol%、より好ましくは、±2mol%の範囲であることは、上述の第一の実施形態と同様である。
【0043】
尚、第一の実施形態で述べたとおり、第一の結晶相と第二の結晶相には上記以外の材料が添加されてもよい。例えば、NaIにKIを添加する、CsIにRbIを添加する、RbIにCsIを添加することが好ましい。また、構造形成に支障がなければ双方に固溶する材料を添加してもよい。また、これら各結晶相を構成する材料であるNaI,CsI,RbI,NaCl,NaFのいずれかの、各結晶相における含有量は、50mol%以上で、80mol%以上100mol%以下が好ましい。
【0044】
本実施形態のように相分離構造において第二の結晶相にシンチレータ材料であるNaIを用いるので、放射線照射によってNaIは励起され、発光させることが可能である。尚、本実施形態では、少なくとも一方の結晶相が発光することが好ましいが、双方が発光することはより好ましい。特に、発光効率を高めるためには、第一の結晶相11や第二の結晶相12を構成する母材に対して発光中心となる元素(以下、単に「発光中心」とも表記する)を微量添加することも好ましい。発光中心としては、第一の実施形態と同様のものが適用できる。
【0045】
本実施形態の一方向性を有する相分離シンチレータの重要な特性として、光を導波するということが挙げられる。上記の第一の結晶相11と第二の結晶相12を構成する材料系について、その屈折率を表5に示す。
【0046】
【表5】
【0047】
全反射条件のみを考慮すれば、低屈折率/高屈折率の比が小さいほど光が広がり難い。よって屈折率のみで判断すると、この表から、NaF−NaIの系が最も光が広がり難く、次にNaCl−NaI、次にRbI−NaI、次にCsI−NaIの順で光が広がり難いことがわかる。
【0048】
ただし、第一の実施形態でも説明したように、第一の結晶相を構成する低屈折率材料の占める体積が少ない場合、高屈折率側での見通しが良くなり、光が横方向に抜けて広がりやすくなる可能性がある。このような状況は、NaCl−NaI(第一の構成)やCsI−NaI(第二の構成)の系いずれも想定されるが、これらにおいて導波の効果が得られないのではなく、NaI単結晶に比べれば光を十分ガイディングするが、本実施形態の他の材料系ほどではないということである。なお、NaF−NaIの系は第二の構成に属するが、NaFの形が三叉に分岐している頻度が高いため、CsI−NaIの系よりも高屈折率側での見通しが悪く、光が横方向に抜け難い状況になっている。尚、NaIが柱状晶となる場合、つまり第三の構成となるRbI−NaIの系では、光が柱状晶の中を進むため横に広がり難い構成と言える。このように、光を導波する能力は、屈折率の比(低屈折率の材料と高屈折率の材料の屈折率の差)だけでは決定されない。
【0049】
一方で、放射線を受けて光るということを考えると、発光機構や発光中心として添加したものにもよるが、CsIが放射線阻止能力が高く、次いでRbI、NaI、NaCl、NaFの順になる。その結果発光中心をTlで考えると、CsI、RbIやNaIが良く光る。したがって、相分離シンチレータの材料系として見ると、CsI−NaI、RbI−NaIの系は双方が良く光り大きな信号強度を取れる利点がある。この状況で組成比も考慮した放射線阻止能力の順序は、概ねCsI−NaICsI、RbI−NaI、NaF−NaI、NaCl−NaIの順である。なお、放射線阻止能力はエネルギー依存性を有するため、CsI、RbI、NaI、NaCl、NaFの順に放射線阻止能力が高いと言えない場合もある。
【0050】
本実施形態のもう一つの大きな特性として、NaI:Tlなどでは発光の減衰時間が短いことが挙げられる。特に、NaI:Tlは一般的に200nsec(ナノ秒)程度の減衰時間(初期輝度から1/eまで減衰する時間)を有しており、高速で多数の画像を取得していくCT装置などで用いるのに適している。比較例として、CsI:Tlの発光減衰時間を見ると、500nsec程度と約2.5倍遅い。本発明の材料系の発光減衰時間を表6に示す。
【0051】
【表6】
【0052】
本実施形態の材料系は2相に分離しているため、発光減衰時間も2相に対応した値が出てきている。この結果は、測定データに対して2成分のフィッティングがよく収束したことからも納得がいく。表6を見ると各系の遅い方の減衰時間(例えば、CsI−NaIの系ではCsIの減衰時間)で見ると、NaCl−NaI、RbI−NaI、NaF−NaI、CsI−NaIの順で早い事がわかる。表6は、どちらの相がどちらの減衰時間を呈しているかは明らかではないので、系全体としてみたときに二つの時定数があるということのみを表している。
最後に、全体を以下にまとめる
【0053】
【表7】
【0054】
表中の各欄の数字は、順位を表しており、構成のところの順位は、導波性能のとして、(1)高屈折率材料が柱状晶である第三の構成が最もよく、(2)低屈折率材料が柱状晶である第一の構成と(2)特異的な(三叉などがある)第二の構成とが同順となり、(3)特異的でない第二の構成が他に比べてやや劣るものとなった。
【0055】
以上をすべて俯瞰して見ると、平均点としてはRbII−NaI系が良好であることが分かるし、NaF−NaI系も構成と屈折率比の観点では優れていることが分かる。このように、何を重視するかによって、どの系が適しているかを判断し、選択して用いることが好ましい。
【0056】
このように、本実施形態のNaIを含有する相分離シンチレータ結晶体は、柱状晶や板状結晶と平行方向で光を導波し、垂直方向で散乱や反射等により導波しない特性が備わっているのが特徴である。よって、従来のように単結晶群に隔壁を設けることなく光のクロストークを抑えることができる。
【0057】
(第三の実施形態:柱状またはラメラ構造、第二の結晶相の主成分がシンチレータ材料に限らない形態)
次に第三の実施形態について説明する。第三の実施形態においては、第二の結晶相の主成分が、シンチレータ材料に限らない形態である。本実施形態ではシンチレータ材料でないものとして、NaBrや、NaClを用いた。また、シンチレータ材料でも良く、その場合本実施形態では、RbI、CsBr、RbBr、CsCl、RbClのいずれかを用いた。これらいずれかの材料を第二の結晶相の主成分として、前述の図1(A)または図1(c)に示す柱状晶構造、または図1(B)に示すラメラ構造の相分離構造を得た。これについて、以下に詳述する。尚、図1(A),(B),(C)の構成概要については、上述の実施形態、特に第二の実施形態で説明済故、省略し、本実施形態の特徴部分についてのみ、以下に詳述する。シンチレータ結晶体の厚み15に関しては、製法にも依存するが、任意の厚みに調整することが可能である。放射線を検出するため、そのエネルギーを十分吸収できる厚みであることが重要である。例えば、高エネルギー領域の場合に主たる構成材料の放射長はRbIが2.7cm、CsBrが2.1cm、RbBrが3.4cm、CsClが2.4cm、RbClが4.6cmである。RbClの放射長の21倍(96.6cm)が100%エネルギーを吸収したという目安になるので、もっとも厚い場合でも厚み15は97cm以下で十分である。なお、放射長は、入射エネルギーが1/eに減少するまでに通過する平均距離である。
【0058】
例えば、1MeV以下の低エネルギー領域で用いることが多い医療用での使用を考慮すると厚み15は1μm以上15cm以下、好ましくは10μm以上30mm以下の範囲であることが好ましい。また、放射線の吸収率の設定によっても厚みが左右されるので、この範囲に限らず用いることは可能である。
【0059】
本実施形態では、少なくとも1相がシンチレータとして機能するRbI、CsBr、RbBr、CsCl、又はRbClのいずれかを主成分とすることで実現される。より有力な材料系はRbI、CsBr、又はRbBrのいずれかに対して、NaF、NaCl、又はNaBrのいずれかを組み合わせたものである。また、CsClに対しては、NaClを組み合わせたものである。また、RbClに対しては、NaF、又はNaClのいずれかを組み合わせたものである。これは、互いに共晶関係にある材料系であれば、本発明の構造形成の観点からは選択可能ということである。それから、第一の結晶相と第二の結晶相と材料の取りうる関係の一例は、表8に示すとおりである。ここで、本実施形態においては、高屈折率層である第二の結晶相が、主成分としてシンチレータ材料以外のものからなる場合を含んでいることである。例えば、RbIとNaBrの組み合わせの場合、第二の構成(図1(B))になり高屈折率相である第二の結晶相が、シンチレータ材料ではないNaBrを主成分とし、第一の結晶相がシンチレータ材料であるRbIを主成分としている。
【0060】
【表8】
【0061】
次に、上記材料系の選択において、本発明で重要になってくるのは、第一の結晶相と第二の結晶相をそれぞれ構成する材料の組成である。
【0062】
表8にある代表的な材料系の組み合わせ12種類において好ましい組成比は、以下の表9の通りであり、共晶点における組成であることが好ましい。共晶点とは、平衡状態図における共晶反応が生じる点であり、液相から2種以上の結晶を同時に晶出して凝固が完了する点を表す。
【0063】
【表9】
【0064】
上記組成の許容範囲については、上記組成に対して±4mol%、より好ましくは、±2mol%の範囲であることは、上述の第一の実施形態と同様である。
【0065】
尚、第一の実施形態で述べたとおり、第一の結晶相と第二の結晶相には上記以外の材料が添加されてもよい。例えば、NaClにNaBrを添加する、RbIにCsIやRbBrを添加する、CsBrにCsIやRbBrやCsClを添加する、RbBrにRbIやCsBrを添加してもよい。前記のRbIが含有されている相分離構造体であって、RbIが主成分である第二の結晶相にCsIが0mol%より多く20mol%以下の範囲で添加されている、または該結晶相にRbBrが0mol%より多く50mol%より少ない範囲で添加されていることが好ましい。
【0066】
前記のCsBrが含有されている相分離構造体であって、CsBrが主成分である第二の結晶相にCsIが0mol%より多く50mol%以下の範囲で添加されている、または該結晶相にRbBrが0mol%より多く25mol%以下の範囲で添加されている、またはCsClが0mol%より多く50mol%より少ない範囲で添加されていることが好ましい。
【0067】
前記のRbBrが含有されている相分離構造体であって、RbBrが主成分である第二の結晶相にRbIが0mol%より多く50mol%以下の範囲で添加されている、または該結晶相にCsBrが0mol%より多く15mol%以下の範囲で添加されていることが好ましい。
【0068】
本実施形態においても相分離構造においてシンチレータ材料であるRbI、CsBr、RbBr、CsCl、又はRbClのいずれかを用いるので、放射線照射によってそれらが励起され、発光させることが可能である。本実施形態でも、少なくとも一方の結晶相が発光することが好ましいが、双方が発光することはより好ましい。特に、発光効率を高めるためには、第一の結晶相11や第二の結晶相12を構成する母材に対して発光中心となる元素(以下、単に「発光中心」とも表記する)を微量添加することも好ましい。発光中心としては、第一の実施形態と同様のものが適用できる。
【0069】
本発明の一方向性を有する相分離シンチレータの重要な特性として、光を導波するということが挙げられる。上記の第一の結晶相11と第二の結晶相12を構成する材料系について、その屈折率を表10に示す。
【0070】
【表10】
【0071】
全反射条件のみを考慮すれば、低屈折率/高屈折率の比が小さいほど光が広がり難い。よって屈折率のみで判断すると、表10に示す系では、CsBr−NaFが最も光が広がり難いことがわかる。ただし、表10においてRbI−NaBr、RbBr−NaCl、RbBr−NaBr、RbCl−NaClに関しては、シンチレータとして作用するRbI、RbBr、RbCl側が低屈折率相を構成する形となる。このため、放射線励起で発光する相と光のガイディングを担う相が異なるためその他の組み合わせよりも性能が劣るが、散乱等の効果などが少なからず生じる可能性から単一相からシンチレータ結晶体が構成される場合に比較すると、すぐれた光ガイド機能を有する。
【0072】
また、表10において最も高屈折率であるCsBrが、第一の構成にて第二の結晶相を占め、かつNaFとの組合せの場合のように第一の結晶相を構成する低屈折率材料の占める体積が少ない(組成比と密度で決まる)場合、光が横方向に抜けて広がりやすくなる可能性がある。また、第二の構成の場合も、光が横方向に抜けて広がりやすくなる可能性がある。このような状況は、本実施形態の効果が得られないのではなく、例えばCsBr単結晶に比べれば光を十分ガイディングするが、本実施形態の他の材料系ほどではないということである。逆に、第三の構成、つまりRbBr−NaBrの系では、光が横に広がりにくい構成といえる。つまりNaBrを主成分とする、高屈折率の第二の結晶相が柱状晶を構成するので、RbBrを主成分とする第一の結晶相で発した光のうち、柱状晶からなる第二の結晶相に入射した光のうち散乱等により光路が変更された光は、場合によって光ガイド機能によって導波され、広がりが抑えられる。このように、光を導波する能力は、屈折率の比(低屈折率の材料と高屈折率の材料の屈折率の差)だけでは決定されない。
【0073】
一方で、放射線を受けて光るということを考えると、発光機構や発光中心として添加したものにもよるが、RbI、CsBr、RbBr、CsCl、RbClは、X線エネルギーが16KeVから33KeV付近の場合、CsIの線減弱係数に匹敵する。そして、CsClを除けばCsIを上回る値を有するので、高輝度に発光させるためには上記範囲のエネルギーで使うことも望ましい。
【0074】
このように、本実施形態のRbI、CsBr、RbBr、CsCl、又はRbClを主成分として含有する相分離シンチレータ結晶体は、柱状晶や板状結晶と平行方向に光を導波し、垂直方向に散乱や反射等により導波しない特性が備わっているのが特徴である。よって、従来のように単結晶群に隔壁を設けることなく光のクロストークを抑えることができる。
【0075】
(第四の実施形態:ラメラ構造、第二の結晶相の主成分がシンチレータ材料からなる(アルカリ土類ハライド))
次に第四の実施形態について説明する。第四の実施形態においては、第二の結晶相の主成分として、アルカリ土類ハライドを用い、前述の図1(B)に示すラメラ構造の相分離構造を得た。これについて、以下に詳述する。尚、図1(B)の概要については、上述の実施形態において説明済故、本実施形態の特徴のみを以下に説明する。
【0076】
本実施形態に係るシンチレータ結晶体は、一方向性を有する第一の結晶相と第二の結晶相からなる相分離構造体であって、第二の結晶相が主成分としてアルカリ土類ハライドであるヨウ化バリウム(BaI2)、臭化バリウム(BaBr2)、塩化バリウム(BaCl2)、臭化ストロンチウム(SrBr2)、塩化ストロンチウム(SrCl2)のいずれかを有する材料から構成される。そして、前記構造体の少なくとも一方の相が放射線励起によって発光することを特徴とする。
【0077】
尚、上記第二の結晶相に相対する相は、それぞれヨウ化バリウム(BaI2)に対してはヨウ化ナトリウム(NaI)が好ましく、臭化バリウム(BaBr2)に対しては臭化ナトリウム(NaBr)が好ましく、塩化バリウム(BaCl2)に対しては塩化ナトリウム(NaCl)が好ましい。また、臭化ストロンチウム(SrBr2)に対しては臭化ナトリウム(NaBr)が好ましく、塩化ストロンチウム(SrCl2)に対しては塩化ナトリウム(NaCl)が好ましい。ただし、上記アルカリ土類ハライドに対して共晶関係にある材料系であれば、相分離構造を形成できる可能性があるため、他の組み合わせを排除するものではない。
【0078】
また、第一の結晶相又は前記第二の結晶相の少なくとも一方が発光中心としてユーロピウム(Eu)、セリウム(Ce)、タリウム(Tl)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)の少なくとも一つを含有することが好ましい。
【0079】
第一の結晶相及び第二の結晶相の組成は、共晶点における組成であることが好ましい。第一の結晶相と第二の結晶相と材料の取りうる関係の一例は、表11に示すとおりである。
【0080】
【表11】
【0081】
次に、上記材料系の選択において、本実施形態で重要になってくるのは、第一の結晶相と第二の結晶相をそれぞれ構成する材料の組成である。
表11に示した本実施形態の材料系の組み合わせ5種類において好ましい組成比は、以下の表12の通りであり、共晶点における組成であることが好ましい。
【0082】
【表12】
【0083】
上記組成の許容範囲については、上記組成に対して±4mol%、より好ましくは、±2mol%の範囲であることは、上述の第一の実施形態と同様である。
本実施形態のように相分離構造において第二の結晶相にシンチレータ材料であるアルカリ土類ハライドを用いるので、放射線照射によって励起され、発光させることが可能である。尚、本実施形態では、少なくとも一方の結晶相が発光することが好ましいが、双方が発光することはより好ましい。特に、発光効率を高めるためには、第一の結晶相11や第二の結晶相12を構成する母材に対して発光中心となる元素を微量添加することも好ましい。発光中心としては、ユーロピウム(Eu)、セリウム(Ce)、タリウム(Tl)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)の少なくとも一つを含有することが好ましい。
【0084】
本実施形態の一方向性を有する相分離シンチレータの重要な特性として、光を導波するということが挙げられる。上記の第一の結晶相11と第二の結晶相12を構成する材料系について、その屈折率を表13に示す。
【0085】
【表13】
【0086】
このように、本実施形態のアルカリ土類ハライドを含有する相分離シンチレータ結晶体は、板状結晶と平行方向で光を導波し、垂直方向で散乱や反射等により導波しない特性が備わっているのが特徴である。よって、従来のように単結晶群に隔壁を設けることなく光のクロストークを抑えることができる。
【0087】
次に、上述の各実施形態のシンチレータ結晶体の製造方法について説明する。
本実施形態に係るシンチレータ結晶体の製造方法は、第一の結晶相を構成する材料と第二の結晶相を構成する材料とを混合する工程と、
混合された第一の結晶相を構成する材料と第二の結晶相を構成する材料とを溶解する工程と、
溶解された第一の結晶相を構成する材料と第二の結晶相を構成する材料とを一方向に沿って凝固させて共晶体を生成させることを特徴とする。
【0088】
本実施形態のシンチレータ結晶体の製造方法は、所望の材料系を最適組成にて一方向性を持たせて熔融凝固する方法であればいずれの方法でも可能である。特に、固液界面を平滑にするよう温度勾配を制御することが要求され、混合物の固液界面における温度勾配が30℃/mm以上の条件で行うことが好ましい。ただし、結晶への熱応力によるクラック等を解消するために、上述の各実施形態の構造形成に支障ない範囲で温度勾配を低下させてもよい。また、すでに結晶体となった部分を溶融しない程度に再加熱してクラック等を抑制することを行うことも望ましい。また、共晶組織の形成可能な組成範囲というのは、前述のように共晶組成±4mol%、好ましくは2mol%と記述しているが、この範囲と温度勾配と凝固速度の間には材料系固有の相間関係が成り立ち、いわゆるCoupled Eutectic Zoneと称される範疇で本件の結晶体は作製されるべきであると主張する。
【0089】
図2は、本実施形態のシンチレータ結晶体の製造方法を示す概略図である。
図2に示すように、ブリッジマン法では、材料が酸化しないよう円筒状の石英管等に封じた試料を縦型に配置し、ヒーターないし試料を一定速度で移動させることにより、試料の凝固界面の位置を制御できるので、本実施形態の相分離シンチレータ結晶体を製造することが可能である。
【0090】
特に、図2(A)に示す装置のように、試料23の長さに匹敵するヒーター部21と、混合物である試料23の固液界面の温度勾配が30℃/mm以上を実現するための水冷部22から構成される。
【0091】
また、図2(B)に示す装置のように、水冷部22が上下にあり、ヒーター部21が試料23の一部の領域にしか対応していない場合でも構わない。さらに、同等の手段を講じる製法でも可能である。ただし、固液界面が平滑にできるのであれば、温度勾配は30℃/mm未満であっても構わない。
【0092】
また、チョクラルスキー法のように融液からの結晶引上げでも同様に作製可能である。この場合は、ブリッジマン法における試料容器内での凝固ではないために、容器壁面の影響を受けずに固液界面を形成できる点でより好ましい。さらに、フローティングゾーン法でも作製可能性はあるが、本実施形態の材料系に着目すれば赤外吸収がほとんど無いために、加熱手段として赤外線による直接加熱ができないので添加材料などの工夫が必要となる。
【0093】
特にブリッジマン法においては、試料の凝固速度は固液界面がなるべく平面になるように設定されなければならないが、熱のやり取りが試料側面からが主であるので、試料の直径に依存する。つまり、試料の直径が大きければ熱の出入りに時間がかかり凝固速度を低速にしなければ、固液界面はかなり湾曲し、柱状晶が曲がって形成されることになる。これは、柱状晶の成長方向が固液界面にほぼ垂直となるからである。さらに、試料サイズに対して凝固速度がより速い場合には、固液界面が平坦でないだけでなく平滑に保つことができず、ミクロに起伏が生じて樹枝状結晶の発生を伴う状況に至るので、これも避けることが重要である。従って、十分試料の固液界面領域の温度勾配をとると同時に、試料の凝固速度(装置では、試料の引き下げ速度)が850mm/時以下で行うことが好ましい。より好ましくは、500mm/時以下であり、さらには300mm/時以下である。
【0094】
また、製法に関わらず、光学的に結晶体が単一グレインとなるために、固液界面を固体から融液に向かって凸に制御し、単一グレイン化した後に凸から平面に制御することも望ましい。ただし、実用上問題にならなければ凸形状のまま形成したものを切り出して用いても構わない。
【0095】
また、相分離シンチレータ結晶体の柱状晶の直径やその周期は、試料の凝固速度に依存し、特に柱状晶の周期に関しては次式の相関があるとされる。周期をλとし、凝固速度をvとすれば、λ2・v=一定である。したがって、所望の構造周期があれば、必然的に凝固速度が大まかに制限される関係である。逆に、製法上の制限として固液界面を平面かつ平滑に制御できる凝固速度があるため、周期λの範囲は500nm以上50μm以下の範囲となる。また、それに対応して柱状晶の直径も50nm以上30μm以下の範囲となる。
【0096】
ここで、柱状晶の直径とは円形で無い場合もあり、不定形であれば最短直径が上記範囲に含まれる。また、多数の柱状晶の平均値で、最長直径と最短直径の比が10以下であることが好ましい。これ以上では、ラメラ構造とするのが適切である。しかし、無数の柱状晶の中で幾つかの柱状晶のみが10以上の値を有したとしても平均値が下回っていれば許容範囲である。また、作製条件上、第一の結晶相と第二の結晶相を構成する材料のモル比率が1:1に近いほどラメラ構造を採りやすいため、これらを考慮して、作製条件や添加材料を選択することが好ましい。
【0097】
次に、作製する試料の原材料の仕込み組成について述べる。上記の相分離シンチレータ結晶体の第一の結晶相と第二の結晶相を構成する材料の組成比率は各表に示す値であるが、仕込み組成に関しては±4mol%以上に逸脱していても構わない。つまり、ブリッジマン法の場合は試料全体を熔融した状態から一方向凝固させるようにすれば、凝固初期に共晶組成から逸脱している分の材料が先に析出することになり、残された融液が共晶組成となる。また、チョクラルスキー法では、引上げ初期に共晶組成からの逸脱分が引きあがるため、一度ダミーで引き上げて融液が共晶組成になってから再度引き上げることも好ましい。結晶体作製後に不要部分は切り離せばよい。
【0098】
次に、上述の各実施形態の放射線検出器は、上記のシンチレータ結晶体と、光検出器を有し、シンチレータ結晶体は、前記光検出器に前記第一の主面または第二の主面が対向するように配置されていることを特徴とする。前記シンチレータ結晶体は、直接または一層以上の保護層を介して光検出器上に配置されているのが好ましい。
【0099】
本実施形態の相分離シンチレータ結晶体は、光検出器と組み合わせることで医療用・産業用・高エネルギー物理用・宇宙用の放射線検出器として用いることが可能である。特に、隔壁等を設けずとも光の導波機能を有しているために、検出器に向けて特定の方向に光を導波する必要がある状況に適用することが好ましい。また、隔壁形成が必要なX線CT装置での使用や、X線フラットパネルディテクタ(FPD)のCsI針状結晶の代替においても有効である。特に、RbI、CsBr、RbBr、CsCl、又はRbClが含有されているので、マンモグラフィーで撮像に用いるX線エネルギーが20KeV近傍の場合、CsI(ヨウ化セシウム)に匹敵する線減弱係数を有するので好ましい。以上の用途において、検出器の受光感度特性に適合するようにシンチレータの発光波長を母材への他材料添加や発光中心の添加によって調整することも可能である。
【0100】
さらに、検出器と本実施形態の相分離シンチレータ結晶体間は、直接以外に各々の保護層や反射防止等の機能を有した膜や層を介して接合または配置することも好ましい。
【実施例1】
【0101】
以下に記載の実施例1〜8は、上述の第一の実施形態に対応する実施例である。実施例1から順に説明していく。本実施例1においては、
まず、CsI(第二の結晶相構成する材料)に対して、NaBr,NaCl,NaF,KCl(第一の結晶相を構成する材料)をそれぞれ40mol%,31.5mol%,5mol%,40mol%混合した粉末を準備し、それらを個別に石英管に真空封じし、試料とした。次に、それらの試料を図2(A)のようなブリッジマン炉に導入し、800℃まで昇温させ試料全体が溶解(溶融)した後30分保持してから、融液温度を表1にある共晶温度より20℃高い温度まで降温した。その後、各々の試料を約10mm/時の速度で引き下げて試料下部より逐次凝固するようにした。
【0102】
また、試料の引き下げにより、炉の冷却水が循環している領域に突入することで、試料が溶解している部分と凝固している部分の境界である固液界面での温度差が30℃/mm以上となるようにする。このようにして、一方向に沿って凝固させることで、共晶体を生成した。
【0103】
このようにして作製した試料4種を切り出し、走査型電子顕微鏡(SEM)にて構造観察を行った。その結果、図3に示すようにCsI−NaCl系は、凝固方向に垂直面の構造(第一の主面及び第二の主面からみた構造)が図3(A)であり、平行方向の構造が図3(B)のようであった。また、SEMに付属している組成分析により柱状晶はNaClを有しており、その周辺部はCsIを有していることが判明した。このように、多数のNaClの柱状晶が一方向性を有して、その周辺部をCsIが取り囲む構造が形成されていることが示された。
【0104】
尚、ここで、第一の主面及び第二の主面からみた構造の説明として、1つの図を用いて説明したが、これは第一の主面からみた構造と第二の主面からみた構造は酷似しているので、その一方のみを代表して図示しただけであり、第一の主面と第二の主面とのそれぞれに、柱状晶である第一の結晶相と、高屈折率の第二の結晶相のいずれもが露出していることが確認された。そして図3(B)に示すように、それらの露出部がつながっていることも確認された。
【0105】
以下に説明する他の実施例においても、第一の主面からみた構造と第二の主面からみた構造を、一部の図面のみを用いて説明するが、これは上述の通り、両主面の構造が酷似していることに基づくためであると理解されたい。
【0106】
同様に、CsI−NaF系は、凝固方向に垂直面の構造(第一の主面、第二の主面からみた構造)が図3(C)であり、平行方向の構造が図3(D)のようであった。そして、柱状晶はNaFを有しており、その周辺部はCsIを有していることが判明した。
【0107】
残りのCsI−NaBr系とCsI−KCl系についても、凝固方向に垂直な面(第一の主面、第二の主面からみた構造)を観察するとそれぞれ図3(E)と(F)のようであり、柱状晶がそれぞれNaBrとKClを有していることが判明した。ここで、KCl系は、作製条件に乱れがあったためか、像の一部領域で柱状晶がいくつも繋がったかのように見えるが、本発明の本質を揺るがすものではない。
以上から、本発明の第二の結晶相がCsIから構成される相分離シンチレータ構造を確認した。
【実施例2】
【0108】
実施例1で作製されたCsI−NaCl系を例に発光中心の添加による効果を示す。まず、実施例1で作製された発光中心を添加していない試料では、X線励起(タングステン管球;60kV;1mA)による発光色は青白く、添加なしでも放射線励起で発光することが判明した。ただし、この場合材料系の性質上、自然にCsIに微量のNa(CsI:Naも発光機構は不明だが光ることが知られている)が添加された状態となるため、それに起因する発光が含まれているが、意図的に発光中心を添加したものではない。
【0109】
次に、実施例1と同様の作製方法で、CsI−NaCl系にInI(ヨウ化インジウム(I))を0.01mol%添加した試料とTlI(ヨウ化タリウム(I))を0.01mol%添加した試料とGaを0.01mol%添加した(金属状態で添加)試料を作製した。同様にX線励起でそれぞれ発光を確認すると、発光の目視の色見は、InI添加が緑で、TlI添加とGa添加が白で非常に高輝度であった。このように、In、Tl、Gaいずれの発光中心の添加によっても発光することが確認できた。ここで、発光中心の添加組成は、いずれも0.01mol%に限定するものではない。
【0110】
そこで、InI添加した試料において、この相分離シンチレータ結晶体のどこがどのように発光しているのかを電子線励起の局所発光を計測できるカソードルミネッセンス(CL)にて調べた。5keVの電子線を絞りNaClを有する柱状晶とその周辺部のCsIを有する領域に分けて発光スペクトルを計測した。このとき、励起源の電子線が、結晶体内で大きく広がり他方を励起しないように慎重に計測した。また、X線励起と電子線励起では多少のスペクトルの差が生じることがあるが、電子線のエネルギーも5keVあるため、発光中心の直接励起というよりはX線励起に近い母材励起が主に生じていると考えられるので、この手法で発光特性を評価する。
【0111】
図4に、その結果を示す。図4(A)の2つのスペクトルはそれぞれ図4(B)に示した2つの走査型電子顕微鏡画像内で各々6点づつ電子線励起して得られたスペクトルの平均をとったものである。そして、励起した各6点のうち図4(B)には各3点が例示されている。まず、実線スペクトルは、CsIを有する領域からの発光について示し、緑色発光しているのがわかる。また、同様に破線スペクトルは、NaClを有する柱状晶を励起した時のものであり、ほとんど発光ピーク位置が同じで緑色発光であることが確認できた。このように、本発明の相分離シンチレータ結晶体は、発光中心を添加しなくても、添加しても放射線励起にて発光すると同時に、一例としてIn中心の場合には第一と第二の結晶相の双方が発光することを示した。
【0112】
同様に、CsI−NaClにTlIを添加した試料においても実施し、そのスペクトルを図4(C)に示す。InI添加の場合と同様に、いずれの相を励起しても発光していることが確認できた。
【0113】
以上のNaCl相を励起した場合に、InI、TlI添加の両方において、In添加NaCl固有の410nm付近の発光は530nmの発光に比べても少なく、Tl添加NaCl固有の350nm付近の発光に関してはそのものが観測されなかった。しかし、NaCl相励起で何らかの光が外部に取り出せると言う点で、本発明においては双方の相が発光したという表現を用いている。
【実施例3】
【0114】
本実施例は相分離シンチレータ結晶体であるCsI−NaClにTlIが添加された系におけるTl濃度に対する発光量に関する。
【0115】
発光量は、タングステン管球を用い、60kV、1mA、Alフィルター無しの条件で得られるX線を照射し、発光した光を積分球で積算した値を元に相対比較した。
【0116】
図5には、CsI−NaClのTlI添加濃度に対する発光波長と相対輝度を示す。これより、Tl濃度の発光量に対する最適値は、0.04mol%〜1.0mol%の範囲であることが判明した。ただし、発光波長が濃度に比例して長波長になっており、受光素子の感度曲線との関係で最適濃度が上記範囲のみに限定するものではなく、双方を勘案して決定してよい。
【実施例4】
【0117】
本発明の相分離シンチレータ結晶体の組成として、図6に示す状態図の矢印が示すCsI−NaCl(20mol%)、CsI−NaCl(29.5mol%)、CsI−NaCl(31.5mol%)の3種類の試料を、図2(A)に示す実施例1と同様の装置にて作製した場合と、図2(B)に示すようにヒーター部分が狭く局所的に熔融させて作製する場合のものを合計6種類準備する。
実施例1と同様に初期に試料全体を融解してから凝固が開始される場合においては、第一の主面、第二の主面の構造が、いずれの組成の試料においても図7(A)の走査型電子顕微鏡(SEM)画像にあるような良好な構造を有するものが得られることが判明した。ただし、NaCl(20mol%)の場合には、試料の凝固初期領域に図7(B)のようなCsIの樹枝状結晶の析出を伴う結晶が形成されており、その後には図7(A)のような良好な領域が形成されていることが見受けられる。その他のNaCl(29.5mol%)やNaCl(31.5mol%)の場合では、20mol%の時のような試料の凝固初期領域が明確に形成されてはおらず、大きな差は見られなかった。ただ、2mol%という組成の違いによる差は、原料の不純物等の影響もあるため、全く差がないということを主張するものではない。
【0118】
このように、試料全体を融解した場合は、試料の凝固初期領域に共晶組成から逸脱した材料が共晶温度よりも高温で析出するために、残された融液部分が共晶組成となり、それ以降良好な構造の形成がなされると考えられる。
【0119】
また、図2(B)のように試料の局所領域のみ融解しながら凝固した場合では、NaCl(20mol%)の系で試料のいずれの場所でも図7(B)のようにCsIの樹枝状結晶が存在しており、その隙間には一部NaClの柱状晶が形成されているが目的とする構造とは言えない。ただし、NaCl(29.5mol%)とNaCl(31.5mol%)の場合では、図7(A)のようにNaClの柱状晶が全体に渡って形成されており、良好な試料を得ることができる。
ただし、不純物等の影響もあるが、NaCl(31.5mol%)の場合に比べて、NaCl(29.5mol%)の試料の方が構造の乱れが多いように見受けられる。したがって、局所的に融解して凝固する場合には、全体を融解した場合に生じる試料内での最適組成に向かうプロセスを経ることができず、組成と構造が敏感に影響しあっていることが分かる。
【0120】
よって、本発明の相分離シンチレータ結晶体は、2mol%程度の僅かな組成の揺らぎは構造形成に大きく悪影響を与えないが、10mol%以上という大きなずれは影響するので最適組成は共晶組成近傍であるということが明らかである。また、製法上試料全体を融解してから凝固を制御すれば、組成が逸脱していたとしても、試料の凝固初期領域に逸脱分の材料が優先的に析出し、残された共晶組成の融液から良好な領域を得ることができることを明らかにしたことは重要である。
【実施例5】
【0121】
CsI−NaCl系を例として、構造サイズの制御性について示す。石英封入管にCsIに対してNaClを31.5mol%の割合で混合した試料を4個準備し、実施例1と同様の製法にて試料を作製した。試料の引き下げ速度は、10.4,31.3,94.0,232mm/時であった。
【0122】
作製された試料を凝固方向に対して垂直面で切り出し、その表面(第一の主面、第二の主面)をSEMで観察して相分離構造におけるNaCl柱状晶の直径と周期を割り出した。
【0123】
その結果、図8に示すグラフの通り、周期と直径ともに引き下げ速度、つまり凝固速度が遅くなるにつれて大きくなるという依存性が得られた。周期に対しては、大よそλ(周期)=0.0897+11.7(v^(−1/2))の関係式が得られた。なお、vは引き下げ速度(凝固速度)を表す。
【0124】
従って、非常に遅い速度の目安である1mm/日の近傍である0.055mm/時(1.319mm/日)で50μmの構造周期が得られる換算である。早い速度の上限である850mm/時の近傍である813mm/時で500nmの構造周期が得られる換算である。また、直径に関しては、λ(直径)=0.0412+4.78(v^(−1/2))の関係式が得られた。よって、周期の場合と同様に0.055mm/時で直径20.4μm程度、813mm/時で直径209nm程度が得られる換算である。
【0125】
よって、凝固速度の制御により構造サイズが幅広く制御が可能であることを示した。ただし、本実施例は一例であり、他の材料系でもλ2・v=一定(vは凝固速度)の相関が成り立つが、定数が異なる。
【実施例6】
【0126】
本実施例は、相分離シンチレータ結晶体の光導波に関する。
図9(A)は、ブリッジマン法で作製したInドープCsI−NaCl(31.5mol%)の相分離シンチレータ結晶体を紙面上に配置したものである。結晶体の厚みは、約4mmである。結晶体中心部では、紙面に印刷された文字が結晶体を通して浮き出て見えることが観察でき、文字が印刷された紙面の垂直方向には光の散乱要因がないことを示している。また、結晶体周辺部では、紙面に印刷された文字を視認することはできず、白く見えていることが観察でき、紙面垂直方向には光が散乱されていることを示している。この状況は、図9(B)に模式的に示すように結晶体中央部は文字が印刷された紙面の垂直方向に第一の結晶相であるNaCl柱状晶が向いており、周辺部は凝固界面が外側で湾曲しているという製法上の理由で側面から上面へと曲がっている状況にあることから説明できる。まず、文字が印刷された紙面の垂直方向に柱状晶が向いている部分では、散乱要因(文字が印刷された紙面の垂直方向での屈折率変化や構造不均一など)がないので、紙面上の文字が浮き出て見え、厚み4mmにわたって導波されているということである。
【0127】
さらに、周辺部は柱状晶が曲がっていることから、紙面から上面に至る柱状晶がなく光が散乱され白く見えており、上面に向けて導波していないことが明らかである。つまり、柱状晶に沿った方向で導波が見られ、柱状晶の伸びる方向に垂直な方向では導波が生じていないということである。なお、結晶側面にものを配置すると曲がって結晶上面に導波されることも確認しており、曲がっていても柱状晶に沿って導波される。
【0128】
次いで、図9(A)のような結晶の文字が透けている部分を光学顕微鏡にて拡大し、透過画像を観察すると図9(C)が得られる(つまり、第一の主面、第二の主面の画像)。透過像には、明瞭にNaCl柱状晶が暗点として観察され、マトリックス側であるCsIの方が明るく見える。つまり、高屈折率材料であるCsIマトリックス側を光が多く導波するという状況も忠実に観察できている。
よって、本発明の相分離シンチレータ結晶体は、確実に柱状晶方向にのみ導波する特性を有していることが確認できた。
【実施例7】
【0129】
第二の結晶相がCsIを主成分として、RbI、CsBr、RbBrのいずれかが添加された場合に関する。
本実施例においては、CsI−NaCl系に対して、CsIに対するRbIの組成が15mol%、30mol%、50mol%の試料、CsBrの組成が20mol%、50mol%の試料、さらにRbBrの組成が10mol%、15mol%、50mol%の試料を実施例1同様の製法にて作製した。
【0130】
それらの試料をNaCl柱状晶に垂直面で約200・μm]の厚みに切り出し、第一の主面または第二の主面に関する透過配置で光学顕微鏡像を取得した。その結果、以下の表14のようになった。表中では、CsIにA材料をXmol%添加した場合の光導波性にて分類している。表中のX[mol%]は、第二の結晶相におけるA材料の割合を示しており、CsIとA材料の合計を100%としている。また、光導波性については、◎:導波良好、○:少し導波に劣化が見られる、△:導波性は悪いが、構造に沿った導波が見られる、×:構造に起因した導波がない、の4分類で表記している。
【0131】
【表14】
【0132】
この結果より、主成分CsIへの添加範囲は、RbIにおいては0mol%より多く、20mol%以下の範囲とするのが妥当であることが判った。さらに、CsBrにおいては0mol%より多く、50mol%未満の範囲とするのが妥当で、RbBrにおいては0mol%より多く、10mol%以下の範囲とするのが妥当であることが判った。
図10には、導波が良好であった試料の第一の主面または第二の主面の透過顕微鏡写真を示す。図10(A)はRbIが15mol%添加されており、図10(B)はCsBrが20mol%添加されており、図10(C)はRbBrが10mol%添加されている試料である。また、図中のスクラッチや欠陥は、切り出し時の生じたものであり、本発明の本質を揺るがす物ではない。このように、第二の結晶相でCsIを主成分として、RbI、CsBr、RbBrを添加しても本発明の相分離シンチレータ結晶体を構成できることを示した。
【実施例8】
【0133】
本実施例は、上述のいずれかの実施例で説明した相分離シンチレータを用いた放射線検出に関する。
【0134】
厚み1mmに切り出した相分離シンチレータ結晶体を光検出器アレイの上に第一の主面または第二の主面が光検出器に対向するように配置し、図21に示す放射線検出器を作成した。そして、この放射線検出器の相分離シンチレータ結晶体にX線を照射した場合、隔壁の無い単結晶体に照射した場合には結晶面内に光が拡散伝播していくのに対して、広がりが抑制されていることが検出器アレイの出力より確認できた。さらに、相分離シンチレータ結晶体と光検出器アレイの接合において、樹脂にて空間が空かないように接続した場合は、検出器アレイの出力が増すことが確認され、結晶体から検出器部への光の取り出しを考慮した層構成を採ることを示すものである。
【0135】
また、比較例として汎用的に用いられている蒸着法で作製したTl添加CsI針状結晶膜の430μm厚のものを準備し、本発明の相分離シンチレータ結晶体としてTl添加CsI−NaCl系の1.42mm厚のものと光の広がりについて比較した。タングステン管球用い、60kV、1mA、Alフィルター無しの条件で得られるX線を2mm厚のタングステン板にあるφ100μm開口を通して試料に照射し、試料底面における光強度分布を計測した。計測は50μmピッチのCCDにて行った。その分布のピーク値を通る断面の強度プロファイルを図11に示す。図11では、各々のプロファイルをピーク値で規格化し、ピーク位置で相対位置を合わせてある。CsI針状結晶膜では、半値幅で340μm程度であるのに対して、本発明のCsI−NaCl結晶体では、160μm程度であり半分以下の広がりに押さえられていることが判明した。これにより、本発明の結晶体は1.42mmもの厚みがありながらも、従来光ガイディング効果があるとされている430μm厚のCsI針状結晶膜より光の広がりが抑制されており、光導波機能を有したシンチレータとして優位性があることが確認された。
【実施例9】
【0136】
実施例9〜11は、上述の第二の実施形態に対応する実施例である。本実施例9においては、第二の結晶相の主成分としてNaIを用いた。具体的には、
まず、NaIに対してCsI,RbI,NaCl,NaFをそれぞれ51mol%,50mol%,40mol%,18mol%混合した粉末を準備し、それらを個別に石英管に真空封じし試料とした。次に、それらを図2(A)の模式図のようなブリッジマン炉に導入し、800℃まで昇温させ試料全体が融解した後30分保持してから、融液温度を表4にある共晶温度より20℃高い温度まで降温した。その後、各々の試料を約10mm/時の速度で引き下げて試料下部より逐次凝固するようにした。また、試料の引き下げにより、炉の冷却水が循環している領域に突入することで試料が融解している部分と凝固している部分の境界である固液界面での温度差が30℃/mm以上となるようにする。このようにして作製した試料4種を切り出し、第一の主面または第二の主面について光学顕微鏡による透過画像を取得した。その結果を図12に示す。
【0137】
図12(A)は、NaI−CsI系の凝固方向に垂直な面(第一の主面、第二の主面)を示す。図12(A)から、板状結晶が交互に密接して配置されている構造、つまり第二の構成であることが確認できた。図12(B)は、NaI−RbI系の凝固方向に垂直な面(第一の主面、第二の主面)を示す。図12(B)から、多数のNaI柱状晶がRbIに取り囲まれた構造、つまり第三の構成であることが確認できた。図12(C)は、NaI−RbI系の凝固方向に平行な面を示す。図12(C)から、NaI柱状晶が凝固方向に向かって長く成長していることが確認できた。つまり、一方向性相分離構造を有しているということである。
【0138】
図12(D)は、NaI−NaCl系の凝固方向に垂直な面(第一の主面、第二の主面)を示す。
図12(E)は、NaI−NaF系の凝固方向に垂直な面(第一の主面、第二の主面)を示す。図12(E)から、NaF板状結晶が3つ又構造を有していることが判明した。
【0139】
ここで、画像の一部領域での傷や乱れは観察試料作製時や研磨痕によるものであり、像のボケに関しては材料の潮解によるところと試料の傾きによるピントのズレによるもので、本発明の本質を揺るがすものではない。
【0140】
図12に示す各光学顕微鏡像は透過配置で撮影しており、NaI−CsI系ではNaI板状結晶側が、NaI−RbI系ではNaI柱状晶側が、NaI−NaCl系ではNaIマトリックス側が、NaI−NaF系ではNaIマトリックス側が明るく観察できている。このことからも、これらの系に光を導波する機能が備わっていることが示されている。
以上から、本発明の2相のうちいずれかがNaIから構成される相分離シンチレータが構造として成り立っており、光導波特性も有していることが確認された。
【実施例10】
【0141】
本実施例は、発光中心の添加に関する。
実施例9と同様の作製方法にて4つの材料系、NaI−CsI,NaI−RbI,NaCl−NaI,NaI−NaF系にTlI(ヨウ化タリウム)を0.01mol%添加した試料を作成した。それらをX線励起で発光を確認すると、発光色はNaI−CsIが青白色で、それ以外は青色で非常に高輝度であった。これらの試料の紫外線励起での励起スペクトルと発光スペクトルを図13に示す。横軸は波長に対応しており、短波長側のスペクトルが励起スペクトルであり、長波長側のスペクトルが発光スペクトルである。励起スペクトルは発光スペクトルのピーク位置で測定した。NaI−CsI系は図13(A)に、NaI−RbI系は図13(B)に、NaCl−NaI系は図13(C)に、NaI−NaF系は図13(D)に対応している。これらのスペクトルから高輝度で知られるNaI:Tlの青の高輝度発光を基調としていることが確認できる。このように、本発明の相分離シンチレータ結晶体は、放射線励起にて発光を呈する。
【実施例11】
【0142】
本実施例は、相分離シンチレータの組成に関する。
図14に示すNaI−RbI系の平衡状態図において矢印が示すNaI−RbI(40mol%、48mol%又は50mol%)の3種類の試料から、図2(A)に示す実施例9と同様の装置を用いて3種類の相分離シンチレータを作製した。また、これら3種類の試料から、図2(B)に示すヒーター部分が狭く、試料を局所的に熔融させる装置を用いて3種類の相分離シンチレータを作製した。このようにして合計6種類の相分離シンチレータを準備した。なお、NaI−RbI(40mol%)は、NaIとRbIとのモル比が40:60であることを示す。同様に、NaI−RbI(48mol%)はNaIとRbIとのモル比が48:52であることを、NaI−RbI(50mol%)はNaIとRbIとのモル比が50:50であることを示す。
【0143】
実施例9と同様に初期に試料全体を融解してから凝固が開始される場合においては、いずれの組成の試料においても図12(B)ないし(C)のような良好な構造を有するものが得られた。ただし、NaI−RbI(40mol%)の場合には、試料の凝固初期領域にNaIの樹枝状結晶の析出を伴う結晶体が形成されており、その後に良好な一方向性相分離構造の領域が形成された。NaI−RbI(48mol%)やNaI−RbI(50mol%)については、NaI−RbI(40mol%)のような試料の凝固初期に樹枝状結晶領域が明確に形成されず、大きな差は見られなかった。ただ、2mol%という組成の違いによる差は、原料の不純物等の影響もあるため、全く差がないということを意味するものではない。このように、試料全体を融解した場合は、試料の凝固初期領域に共晶組成から逸脱した材料が共晶温度よりも高温で析出する。従って、残された融液部分が共晶組成に収束し、それ以降良好な構造形成がなされると考えられる。
【0144】
また、図2(B)のように試料の局所領域のみ融解しながら凝固した場合、NaI−RbI(40mol%)の系では試料のいずれの場所でもNaIの樹枝状結晶が存在しており目的とする構造とは言えなかった。ただし、NaI−RbI(48mol%)とNaI−RbI(50mol%)の場合では、NaIの柱状晶が全体に渡って形成されており、良好な試料を得ることができた。ただし、不純物等の影響もあるが、NaI−RbI(50mol%)の場合に比べて、NaI−RbI(48mol%)の試料の方が構造の乱れが多いように見受けられた。したがって、局所的に融解して凝固する場合には、全体を融解した場合に生じる試料内での最適組成に向かうプロセスを経ることができず、組成と構造が敏感に影響しあっていることが分かる。
【0145】
よって、本発明の相分離シンチレータ結晶体は、2mol%程度の僅かな組成の揺らぎは構造形成に大きく悪影響を与えないが、10mol%という大きなずれは影響するので最適組成は共晶組成近傍であるということが明らかである。また、製法上試料全体を融解してから凝固を制御すれば、組成が共晶組成から逸脱していたとしても、試料の凝固初期領域に逸脱分の材料が優先的に析出し、残された共晶組成の融液から良好な領域を得ることができることを明らかにしたことは重要である。
【実施例12】
【0146】
実施例12〜15は上述の第三の実施形態に対応する実施例である。以下、順に説明する。
本実施例12においては、まず、表9にある材料系を同じく表中の共晶組成に調合した粉末を準備し、それらを個別に石英管に真空封じして試料とした。次に、それらを図2(A)の模式図のようなブリッジマン炉に導入し、800℃まで昇温させ試料全体が融解した後30分保持してから、融液温度を表9にある共晶温度より20℃高い温度まで降温した。その後、各々の試料を約10mm/時の速度で引き下げて試料下部より逐次凝固するようにした。また、試料の引き下げにより、炉の冷却水が循環している領域に突入することで試料が融解している部分と凝固している部分の境界である固液界面での温度差が30℃/mm以上となるようにする。このようにして作製した試料を引き下げ方向に垂直面(第一の主面または第二の主面)で切り出し、光学顕微鏡による透過画像を取得した。その結果を図15に示す。
【0147】
図15(A)は、RbI−NaF系の画像である。図15(A)から、NaFの柱状晶がRbIに囲われた構造であることがわかる。これは、第一の構成で、第一の結晶相がNaF、第二の結晶相がRbIである。
【0148】
図15(B)は、RbI−NaCl系の画像である。図15(B)から、NaClの柱状晶がRbIに囲われた構造であることがわかる。これは、第一の構成で、第一の結晶相がNaCl、第二の結晶相がRbIである。
【0149】
図15(C)は、RbI−NaBr系の画像である。図15(C)から、NaBrの板状結晶とRbIの板状結晶が交互に密接した構造であることがわかる。これは、第二の構成で、第一の結晶相がRbI、第二の結晶相がNaBrである。
【0150】
図15(D)は、CsBr−NaF系の画像である。図15(D)から、NaFの柱状晶がCsBrに囲われた構造であることがわかる。これは、第一の構成で、第一の結晶相がNaF、第二の結晶相がCsBrである。
【0151】
図15(E)は、CsBr−NaCl系の画像である。図15(E)から、NaClの柱状晶がCsBrに囲われた構造であることがわかる。これは、第一の構成で、第一の結晶相がNaCl、第二の結晶相がCsBrである。
【0152】
図15(F)は、CsBr−NaBr系の画像である。図15(F)から、NaBrの柱状晶がCsBrに囲われた構造であることがわかる。これは、第一の構成で、第一の結晶相がNaBr、第二の結晶相がCsBrである。
【0153】
図16(G)は、RbBr−NaF系の画像である。図16(G)から、NaFの柱状晶がRbBrに囲われた構造であることがわかる。これは、第一の構成で、第一の結晶相がNaF、第二の結晶相がRbBrである。
【0154】
図16(H)は、RbBr−NaCl系の画像である。図16(H)から、NaClの板状結晶とRbBrの板状結晶が交互に密接した構造であることがわかる。これは、第二の構成で、第一の結晶相がRbBr、第二の結晶相がNaClである。
【0155】
図16(I)は、RbBr−NaBr系の画像である。図16(I)から、NaBrの柱状晶がRbBrに囲われた構造であることがわかる。これは、第三の構成で、第一の結晶相がRbBr、第二の結晶相がNaBrである。
【0156】
図16(J)は、CsCl−NaCl系の画像である。図16(J)から、NaClの柱状晶がCsClに囲われた構造であることがわかる。これは、第一の構成で、第一の結晶相がNaCl、第二の結晶相がCsClである。
【0157】
図16(K)は、RbCl−NaCl系の画像である。図16(K)から、NaClの柱状晶がRbClに囲われた構造であることがわかる。これは、第三の構成で、第一の結晶相がRbCl、第二の結晶相がNaClである。
【0158】
図16(L)は、RbCl−NaF系の画像である。図16(L)から、NaFの柱状晶がRbClに囲われた構造であることがわかる。これは、第一の構成で、第一の結晶相がNaF、第二の結晶相がRbClである。
【0159】
これらの画像は、引き下げ方向に垂直な面(第一の主面、第二の主面)で切り出しているため、柱状晶が点ないし板状として観察されているが、引き下げ方向に平行面では柱状晶が一方向に連続して形成されていることを確認しており、一方向凝固により本発明の相分離構造体が形成されていることが確認できた。
【0160】
ここで、画像の一部領域での傷や乱れは観察試料作製時の研磨痕等によるものであり、像のボケに関しては材料の潮解によるところと試料の傾きによるピントのズレによるもので、本発明の本質を揺るがすものではない。
【0161】
また、図15及び図16に示す各光学顕微鏡像は透過配置で撮影しており、各画像中の明るく見える結晶相は表10に示される高屈折率側(第二の結晶相)の材料であることが確認できており、本発明の屈折率差による光導波の機能が備わっていることが示されている。
【0162】
以上から、高屈折率結晶相である第二の結晶相の主成分が、シンチレータ材料以外の材料で構成される場合であっても、の2相のうちいずれかがRbI、CsBr、RbBr、CsCl、又はRbClのうちいずれかを主成分として有している相分離シンチレータ構造が、光導波特性も有していることが確認された。
【実施例13】
【0163】
本実施例は、一方の結晶相を構成するRbIやCsBrやRbBrに他材料が添加された場合の具体例に関する。
実施例12と同様に次に挙げる材料系を石英管に真空封じして試料とした。
【0164】
主成分であるRbIにCsIやRbBrを添加した場合の具体例として、(RbI85−CsI15)−NaCl、(RbI80−RbBr20)−NaClを作製した。また、主成分であるCsBrにCsIやRbBrやCsClを添加した場合の具体例として、(CsBr80−CsI20)−NaCl、(CsBr50−CsI50)−NaCl、(CsBr80−RbBr20)−NaCl、(CsBr80−CsCl20)−NaCl、(CsBr60−CsCl40)−NaClを作製した。さらに、主成分であるRbBrにRbIやCsBrを添加した場合の具体例として、(RbBr95−RbI5)−NaCl、(RbBr50−RbI50)−NaCl、(RbBr90−CsBr10)−NaClを作製した。
【0165】
以上の組成表記は、(RbI85−CsI15)−NaClの場合、RbIとCsIの組成比率が85:15mol%であるということを示している。また、一方の結晶相を構成する材料が混晶化した場合の他方の結晶相を構成する材料との共晶組成を各組成ごとに算出するのは煩雑なため、他方の結晶相の主成分の代表例としてNaClを選択し、一方の結晶相に対して35mol%の仕込み組成として作製した。ただし、図2(A)に示す作製装置にて作製し、組成逸脱分が求める構造に影響を与えないように実施した。
【0166】
作製された試料を実施例12同様に引き下げ方向に垂直面(第一の主面、第二の主面)で切り出し、光学顕微鏡による透過画像を取得した。その結果を図17に示す。
【0167】
図17(A)は、(RbI85−CsI15)−NaCl系の画像である。図17(A)から、NaCl柱状晶が(RbI85−CsI15)混晶に囲われた構造であることがわかる。これは、第一の構成で、第一の結晶相がNaCl、第二の結晶相が(RbI85−CsI15)である。
【0168】
図17(B)は、(RbI80−RbBr20)−NaCl系の画像である。図17(B)から、NaCl柱状晶が(RbI80−RbBr20)混晶に囲われた構造であることがわかる。これは、第一の構成で、第一の結晶相がNaCl、第二の結晶相が(RbI80−RbBr20)である。
【0169】
図17(C)は、(CsBr80−CsI20)−NaCl系の画像である。図17(C)から、NaCl柱状晶が(CsBr80−CsI20)混晶に囲われた構造であることがわかる。これは、第一の構成で、第一の結晶相がNaCl、第二の結晶相が(CsBr80−CsI20)である。
【0170】
図17(D)は、(CsBr50−CsI50)−NaCl系の画像である。図17(D)から、NaCl柱状晶が(CsBr50−CsI50)混晶に囲われた構造であることがわかる。これは、第一の構成で、第一の結晶相がNaCl、第二の結晶相が(CsBr50−CsI50)である。
【0171】
図17(E)は、(CsBr80−RbBr20)−NaCl系の画像である。図17(E)から、NaCl柱状晶が(CsBr80−RbBr20)混晶に囲われた構造であることがわかる。これは、第一の構成で、第一の結晶相がNaCl、第二の結晶相が(CsBr80−RbBr20)である。尚、この試料に関しては、試料作製時の影響でNaCl柱状晶が真っ直ぐではない領域が発生し、そのため透過画像中に本来の見えるべき暗点より大きな暗い領域が点在する状況となったが、本発明の本質に影響を与えるものではない。
【0172】
図17(F)は、(CsBr80−CsCl20)−NaCl系の画像である。図17(F)から、NaCl柱状晶が(CsBr80−CsCl20)混晶に囲われた構造であることがわかる。これは、第一の構成で、第一の結晶相がNaCl、第二の結晶相が(CsBr80−CsCl20)である。
【0173】
図18(G)は、(CsBr60−CsCl40)−NaCl系の画像である。図18(G)から、NaCl柱状晶が(CsBr60−CsCl40)混晶に囲われた構造であることがわかる。これは、第一の構成で、第一の結晶相がNaCl、第二の結晶相が(CsBr60−CsCl40)である。
【0174】
図18(H)は、(RbBr95−RbI5)−NaCl系の画像である。図18(H)から、NaCl板状結晶と(RbBr95−RbI5)混晶の板状結晶が交互に密接した構造であることがわかる。これは、第二の構成で、第一の結晶相が(RbBr95−RbI5)、第二の結晶相がNaClである。
【0175】
図18(I)は、(RbBr50−RbI50)−NaCl系の画像である。図18(I)から、NaCl柱状晶が(RbBr50−RbI50)混晶に囲われた構造であることがわかる。これは、第一の構成で、第一の結晶相がNaCl、第二の結晶相が(RbBr50−RbI50)である。
【0176】
図18(J)は、(RbBr90−CsBr10)−NaCl系の画像である。図18(J)から、NaCl板状結晶と(RbBr90−CsBr10)混晶の板状結晶が交互に密接した構造であることがわかる。これは、第二の構成で、第一の結晶相が(RbBr90−CsBr10)、第二の結晶相がNaClである。
また、図17及び図18に示す各光学顕微鏡像は透過配置で撮影しており、各画像中の明るく見える結晶相の方が高屈折率側(第二の結晶相)を構成する材料であることが確認できており、本発明の屈折率差による光導波の機能が備わっていることが示されている。
【0177】
以上から、本発明の一方の結晶相において単一材料ではなく、混晶化した場合にも相分離シンチレータが構造として成り立っており、光導波特性も有していることを確認した。
【実施例14】
【0178】
本実施例は、発光中心の添加に関する。
実施例12と同様の作製方法を用いて、材料系すべてにTlI(ヨウ化タリウム)、InI(ヨウ化インジウム)、Ga(ガリウム)を別々に0.01mol%添加する組み合わせの試料を作製した。それらをタングステン管球60kV、1mAで発したX線で励起すると、いずれの組み合わせにおいても結晶体の発光が目視で確認できた。
【0179】
よって、本発明の相分離構造体は、放射線励起にて発光することが確認できる、シンチレータ結晶体として機能することが示された。
【実施例15】
【0180】
本実施例は、相分離シンチレータの組成に関する。
図19に示すCsBr−NaCl系の平衡状態図において矢印が示すCsBr−NaCl(30mol%、38mol%又は40mol%)の3種類の試料から、図2(A)に示す実施例1と同様の装置を用いて3種類の相分離シンチレータを作製した。また、これら3種類の試料から、図2(B)に示すヒーター部分が狭く、試料を局所的に熔融させる装置を用いて3種類の相分離シンチレータを作製した。このようにして合計6種類の相分離シンチレータを準備した。なお、CsBr−NaCl(30mol%)は、CsBrとNaClとのモル比が70:30であることを示す。その他も同様に、CsBrとNaClとのモル比が62:38と60:40であることを示す。
【0181】
実施例12と同様に初期に試料全体を融解してから凝固が開始される場合においては、いずれの組成の試料においても図15(E)のような良好な構造を有するものが得られた。ただし、CsBr−NaCl(30mol%)の場合には、試料の凝固初期領域にCsBrの樹枝状結晶の析出を伴う結晶体が形成されており、その後に良好な一方向性相分離構造の領域が形成された。CsBr−NaCl(38mol%)やCsBr−NaCl(40mol%)については、CsBr−NaCl(30mol%)のような試料の凝固初期に樹枝状結晶領域が明確に形成されず、大きな差は見られなかった。ただ、2mol%という組成の違いによる差は、原料の不純物等の影響もあるため、全く差がないということを意味するものではない。このように、試料全体を融解した場合は、試料の凝固初期領域に共晶組成から逸脱した材料が共晶温度よりも高温で析出する。従って、残された融液部分が共晶組成に収束し、それ以降良好な構造形成がなされると考えられる。
【0182】
また、図2(B)のように試料の局所領域のみ融解しながら凝固した場合、CsBr−NaCl(30mol%)の系では試料のいずれの場所でもCsBrの樹枝状結晶が存在しており目的とする構造とは言えなかった。ただし、CsBr−NaCl(38mol%)とCsBr−NaCl(40mol%)の場合では、CsBrの柱状晶が全体に渡って形成されており、良好な試料を得ることができた。ただし、不純物等の影響もあるが、CsBr−NaCl(40mol%)の場合に比べて、CsBr−NaCl(38mol%)の試料の方が構造の乱れが多いように見受けられた。したがって、局所的に融解して凝固する場合には、全体を融解した場合に生じる試料内での最適組成に向かうプロセスを経ることができず、組成と構造が敏感に影響しあっていることが分かる。
【0183】
よって、本発明の相分離シンチレータ結晶体は、2mol%程度の僅かな組成の揺らぎは構造形成に大きく悪影響を与えないが、10mol%という大きなずれは影響するので最適組成は共晶組成近傍であるということが明らかである。また、製法上試料全体を融解してから凝固を制御すれば、組成が共晶組成から逸脱していたとしても、試料の凝固初期領域に逸脱分の材料が優先的に析出し、残された共晶組成の融液から良好な領域を得ることができることを明らかにしたことは重要である。
【実施例16】
【0184】
実施例16、17は、上述の第四の実施形態に対応する実施例であり、以下順に説明する。
本実施例においては、まず、BaI2−NaI、BaBr2−NaBr、BaCl2−NaCl、SrBr2−NaBr、SrCl2−NaClの5つの材料系をそれぞれ50:50、40:60、40:60、60:40、52:48の比率で混合した粉末を準備し、それらを個別に石英管に真空封じし試料とした。次に、それらを図2(A)の模式図のようなブリッジマン炉に導入し、800℃まで昇温させ試料全体が十分溶解した後30分保持してから、融液温度を表12にある共晶温度より20℃高い温度まで降温した。その後、各々の試料を約10mm/時の速度で引き下げて試料下部より逐次凝固するようにした。
また、試料の引き下げにより、炉の冷却水が循環している領域に突入することで試料が溶解している部分と凝固している部分の境界である固液界面での温度差が30℃/mm以上となるようにする。このようにして作製した試料5種を切り出し、光学顕微鏡による透過画像(第一の主面、第二の主面の画像)を取得した。その結果、5つの材料系に対して各々図20(A)から(E)の画像を得た。屈折率の高いBaI2,BaBr2,BaCl2,SrBr2,SrCl2の相が明るく見え、低屈折率相が暗く見えることから、本発明の所望の構造が形成できていると同時に光導波機能を有することが確認できた。
【0185】
ここで、画像の一部領域での傷や乱れは観察試料作製時や研磨痕によるものであり、像のボケに関しては材料の潮解によるところと試料の傾きによるピントのズレによるもので、本発明の本質を揺るがすものではない。
【実施例17】
【0186】
本実施例は、発光中心の添加に関する。
実施例16と同様の作製方法にて5つの材料系BaI2−NaI、BaBr2−NaBr、BaCl2−NaCl、SrBr2−NaBr、SrCl2−NaClにハロゲンが一致するようにEuI2,EuBr2,EuCl2から選択して0.5mol添加した試料を作成した。それらをX線励起で発光を確認すると、それぞれ約420nm,約400nm,約400nm,約400nm,約410nmにピークを持つスペクトルが得られ、発光中心を添加することにより放射線に対する応答が得られることが判明した。
【0187】
尚、上述の実施例8と同様に、上記の実施例9〜17で説明した相分離シンチレータ結晶体を用いて、光検出器アレイの上に第一の主面または第二の主面が光検出器に対向するように配置し、図21に示す放射線検出器を作成した場合にも、隔壁の無い単結晶体シンチレータを用いた放射線検出器に比較して光の広がりが抑制されていることが検出器アレイの出力より確認できた。
【0188】
本発明の相分離シンチレータ結晶体は、放射線により発光し、かつ発光光を導波する特性を有しているため、従来の隔壁を形成することなく、光検出器と組み合わせて用いることで放射線検出器として有用である。特に、X線等の放射線を用いた医療用・産業用・高エネルギー物理用・宇宙用の計測装置等に用いることが可能である。
【符号の説明】
【0189】
1 シンチレータ
2 光検出器
11 第一の結晶相
12 第二の結晶相
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の結晶相と、前記第一の結晶相よりも屈折率が大きい第二の結晶相とを備え、互いに同一面上に位置しない第一の主面と第二の主面とを有するシンチレータであって、
前記シンチレータは、前記第一の主面と第二の主面とに第二の結晶相が露出する部分を有し、
前記第二の結晶相の第一の主面に露出する部分と第二の主面に露出する部分とがつながっていることを特徴とするシンチレータ結晶体。
【請求項2】
前記第一の主面と第二の主面とに第一の結晶相が露出する部分を有し、
前記第一の結晶相の第一の主面に露出する部分と第二の主面に露出する部分とがつながっていることを特徴とする請求項1に記載のシンチレータ結晶体。
【請求項3】
前記第一の結晶相が、前記第二の結晶相中に位置していることを特徴とする請求項1または2に記載のシンチレータ結晶体。
【請求項4】
前記第一の結晶相の形状が、柱状であることを特徴とする請求項3に記載のシンチレータ結晶体。
【請求項5】
前記柱状の結晶相を複数有し、該複数の柱状結晶相の周期が500nm以上50μm以下であることを特徴とする請求項4に記載のシンチレータ結晶体。
【請求項6】
前記第二の結晶相が、放射線励起によって発光することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のシンチレータ結晶体。
【請求項7】
前記第一の結晶相および前記第二の結晶相を構成する材料の組成は、共晶点における組成であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のシンチレータ結晶体。
【請求項8】
前記シンチレータ結晶体は発光中心としてTl,In,Gaの少なくとも一つを含有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のシンチレータ結晶体。
【請求項9】
前記第一の結晶相または第二の結晶相の一方の相の主成分がCsIであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のシンチレータ結晶体。
【請求項10】
前記一方の相にRbI、CsBr、RbBrのいずれかを更に含有し、該含有量が、RbIにおいては該一方の相における組成で0mol%より多く20mol%以下、CsBrにおいては0mol%より多く50mol%未満、RbBrにおいては0mol%より多く10mol%以下の範囲であることを特徴とする請求項9に記載のシンチレータ結晶体。
【請求項11】
前記第一の結晶相または第二の結晶相の他方の相が、NaBr,NaCl,NaF,KClのいずれかを含有することを特徴とする請求項9また10に記載にシンチレータ結晶体。
【請求項12】
前記第一の結晶相または第二の結晶相の一方の相の主成分がNaIであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のシンチレータ結晶体。
【請求項13】
前記第一の結晶相または第二の結晶相の他方の相が、NaF、NaCl、RbI又はCsIのいずれかを含有することを特徴とする請求項12に記載にシンチレータ結晶体。
【請求項14】
前記第一の結晶相または第二の結晶相の一方の相の主成分がRbIであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のシンチレータ結晶体。
【請求項15】
前記一方の相にCsIまたはRbBrを更に含有し、該含有量が、CsIにおいては該一方の相における組成で0mol%より多く20mol%以下、RbBrにおいては0mol%より多く50mol%未満の範囲であることを特徴とする請求項14に記載のシンチレータ結晶体。
【請求項16】
前記第一の結晶相または第二の結晶相の一方の相の主成分がCsBrであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のシンチレータ結晶体。
【請求項17】
前記一方の相にCsI、RbBr、CsClのいずれかを更に含有し、該含有量が、CsIにおいては該一方の相における組成で0mol%より多く50mol%以下、RbBrにおいては0mol%より多く25mol%未満、CsClにおいては0mol%より多く50mol%未満の範囲であることを特徴とする請求項16に記載のシンチレータ結晶体。
【請求項18】
前記第一の結晶相または第二の結晶相の一方の相の主成分がRbBrであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のシンチレータ結晶体。
【請求項19】
前記一方の相にRbIまたはCsBrを更に含有し、該含有量が、RbIにおいては該一方の相における組成で0mol%より多く50mol%以下、CsBrにおいては0mol%より多く15mol%以下の範囲であることを特徴とする請求項18に記載のシンチレータ結晶体。
【請求項20】
前記第一の結晶相または第二の結晶相の他方の相が、NaF、NaCl、又はNaBrのいずれかを含有することを特徴とする請求項14〜19のいずれか1項に記載にシンチレータ結晶体。
【請求項21】
前記第二の結晶相の主成分が、BaI2、BaBr2、BaCl2、SrBr2、SrCl2のいずれかであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のシンチレータ結晶体。
【請求項22】
前記シンチレータ結晶体は発光中心としてユーロピウム(Eu)、セリウム(Ce)、タリウム(Tl)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)の少なくとも一つを含有することを特徴とする請求項21に記載のシンチレータ結晶体。
【請求項23】
第一の結晶相を構成する材料と第二の結晶相を構成する材料とを混合する工程と、
混合された第一の結晶相を構成する材料と第二の結晶相を構成する材料とを溶解する工程と、
溶解された第一の結晶相を構成する材料と第二の結晶相を構成する材料とを一方向に沿って凝固させて共晶体を生成させることを特徴とするシンチレータ結晶体の製造方法。
【請求項24】
光検出器と、前記光検出器に対向して配置されたシンチレータ結晶体とを有する放射線検出器であって、
前記シンチレータ結晶体が請求項1〜22のいずれか1項に記載のシンチレータ結晶体であり、該シンチレータ結晶体は、前記光検出器に前記第一の主面または第二の主面が対向するように配置されていることを特徴とする放射線検出器。
【請求項25】
前記光検出器と前記シンチレータ結晶体とが、直接ないし1層以上の保護層を介して対向配置されていることを特徴とする請求項24に記載の放射線検出器。
【請求項1】
第一の結晶相と、前記第一の結晶相よりも屈折率が大きい第二の結晶相とを備え、互いに同一面上に位置しない第一の主面と第二の主面とを有するシンチレータであって、
前記シンチレータは、前記第一の主面と第二の主面とに第二の結晶相が露出する部分を有し、
前記第二の結晶相の第一の主面に露出する部分と第二の主面に露出する部分とがつながっていることを特徴とするシンチレータ結晶体。
【請求項2】
前記第一の主面と第二の主面とに第一の結晶相が露出する部分を有し、
前記第一の結晶相の第一の主面に露出する部分と第二の主面に露出する部分とがつながっていることを特徴とする請求項1に記載のシンチレータ結晶体。
【請求項3】
前記第一の結晶相が、前記第二の結晶相中に位置していることを特徴とする請求項1または2に記載のシンチレータ結晶体。
【請求項4】
前記第一の結晶相の形状が、柱状であることを特徴とする請求項3に記載のシンチレータ結晶体。
【請求項5】
前記柱状の結晶相を複数有し、該複数の柱状結晶相の周期が500nm以上50μm以下であることを特徴とする請求項4に記載のシンチレータ結晶体。
【請求項6】
前記第二の結晶相が、放射線励起によって発光することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のシンチレータ結晶体。
【請求項7】
前記第一の結晶相および前記第二の結晶相を構成する材料の組成は、共晶点における組成であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のシンチレータ結晶体。
【請求項8】
前記シンチレータ結晶体は発光中心としてTl,In,Gaの少なくとも一つを含有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のシンチレータ結晶体。
【請求項9】
前記第一の結晶相または第二の結晶相の一方の相の主成分がCsIであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のシンチレータ結晶体。
【請求項10】
前記一方の相にRbI、CsBr、RbBrのいずれかを更に含有し、該含有量が、RbIにおいては該一方の相における組成で0mol%より多く20mol%以下、CsBrにおいては0mol%より多く50mol%未満、RbBrにおいては0mol%より多く10mol%以下の範囲であることを特徴とする請求項9に記載のシンチレータ結晶体。
【請求項11】
前記第一の結晶相または第二の結晶相の他方の相が、NaBr,NaCl,NaF,KClのいずれかを含有することを特徴とする請求項9また10に記載にシンチレータ結晶体。
【請求項12】
前記第一の結晶相または第二の結晶相の一方の相の主成分がNaIであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のシンチレータ結晶体。
【請求項13】
前記第一の結晶相または第二の結晶相の他方の相が、NaF、NaCl、RbI又はCsIのいずれかを含有することを特徴とする請求項12に記載にシンチレータ結晶体。
【請求項14】
前記第一の結晶相または第二の結晶相の一方の相の主成分がRbIであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のシンチレータ結晶体。
【請求項15】
前記一方の相にCsIまたはRbBrを更に含有し、該含有量が、CsIにおいては該一方の相における組成で0mol%より多く20mol%以下、RbBrにおいては0mol%より多く50mol%未満の範囲であることを特徴とする請求項14に記載のシンチレータ結晶体。
【請求項16】
前記第一の結晶相または第二の結晶相の一方の相の主成分がCsBrであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のシンチレータ結晶体。
【請求項17】
前記一方の相にCsI、RbBr、CsClのいずれかを更に含有し、該含有量が、CsIにおいては該一方の相における組成で0mol%より多く50mol%以下、RbBrにおいては0mol%より多く25mol%未満、CsClにおいては0mol%より多く50mol%未満の範囲であることを特徴とする請求項16に記載のシンチレータ結晶体。
【請求項18】
前記第一の結晶相または第二の結晶相の一方の相の主成分がRbBrであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のシンチレータ結晶体。
【請求項19】
前記一方の相にRbIまたはCsBrを更に含有し、該含有量が、RbIにおいては該一方の相における組成で0mol%より多く50mol%以下、CsBrにおいては0mol%より多く15mol%以下の範囲であることを特徴とする請求項18に記載のシンチレータ結晶体。
【請求項20】
前記第一の結晶相または第二の結晶相の他方の相が、NaF、NaCl、又はNaBrのいずれかを含有することを特徴とする請求項14〜19のいずれか1項に記載にシンチレータ結晶体。
【請求項21】
前記第二の結晶相の主成分が、BaI2、BaBr2、BaCl2、SrBr2、SrCl2のいずれかであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のシンチレータ結晶体。
【請求項22】
前記シンチレータ結晶体は発光中心としてユーロピウム(Eu)、セリウム(Ce)、タリウム(Tl)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)の少なくとも一つを含有することを特徴とする請求項21に記載のシンチレータ結晶体。
【請求項23】
第一の結晶相を構成する材料と第二の結晶相を構成する材料とを混合する工程と、
混合された第一の結晶相を構成する材料と第二の結晶相を構成する材料とを溶解する工程と、
溶解された第一の結晶相を構成する材料と第二の結晶相を構成する材料とを一方向に沿って凝固させて共晶体を生成させることを特徴とするシンチレータ結晶体の製造方法。
【請求項24】
光検出器と、前記光検出器に対向して配置されたシンチレータ結晶体とを有する放射線検出器であって、
前記シンチレータ結晶体が請求項1〜22のいずれか1項に記載のシンチレータ結晶体であり、該シンチレータ結晶体は、前記光検出器に前記第一の主面または第二の主面が対向するように配置されていることを特徴とする放射線検出器。
【請求項25】
前記光検出器と前記シンチレータ結晶体とが、直接ないし1層以上の保護層を介して対向配置されていることを特徴とする請求項24に記載の放射線検出器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2012−131964(P2012−131964A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−11155(P2011−11155)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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