説明

シンナミド化合物の製造法

本発明は、以下に示す化合物11および12の混合物の新規な製法、中間体および前駆体に関する。また、実質的に立体化学的に純粋である12を得る立体異性体の分割方法にも関連するものである。本発明の製法は、以下に示す化合物7および化合物10の調製、ならびにそれらの反応による化合物11および12の混合物の製造法を含む。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多環式シンナミド化合物を調製するための新規な製造法、中間体および前駆体に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病は、神経細胞の変性や、脱落とともに、老人斑の形成および神経原繊維変化を特徴とする疾患である。現在、アルツハイマー病の治療は、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤に代表される症状改善剤による対症療法に限られていて、病気の進行を抑制する根本療法剤は開発されていない。アルツハイマー病の根本療法剤の創出には、病態の発症原因を制御する方法の開発が必要である。
【0003】
アミロイド前駆体タンパク(以下、APPという。)の代謝産物であるAβタンパクは、神経細胞の変性・脱落、さらには痴呆症状の発現に大きくかかわると考えられている(例えば、非特許文献1、2参照)。Aβタンパクの主要な分子種は、アミノ酸40個からなるAβ40とC末が2アミノ酸増えたAβ42である。これらのAβ40および42は、凝集性が高く(例えば、非特許文献3参照)、老人斑の主要構成成分であり(例えば、非特許文献3、4、5参照)、さらに、家族性アルツハイマー病で見られるAPPおよびプレセニリン遺伝子の変異は、これらのAβ40および42を増加させることが知られている(例えば、非特許文献6、7、8参照)。したがって、Aβ40および42の産生を低下させる化合物は、アルツハイマー病の進行抑制剤または予防薬として期待されている。
【0004】
Aβは、APPがベータセクレターゼにより切断され、続いてガンマセクレターゼにより切り出されることにより産生する。このことより、Aβ産生低下を目的として、ガンマセクレターゼおよびベータセクレターゼの阻害剤の創出が試みられている。既に知られているこれらのセクレターゼ阻害剤の多くは、例えばL−685,458(例えば、非特許文献9参照)、LY−411,575(例えば、非特許文献10、11、12参照)、LY−450,139(非特許文献13,14,15参照)等、ペプチドまたはペプチドミメティックである。また、非ペプチド性化合物としては、例えばMRK−560(非特許文献16、17参照)、特許文献1に、複数の芳香族環を有する化合物群が開示されている。APPからAβ42の産生を強力に抑制する、ある種のシンナミド化合物が、特許文献2に開示されている。APPからAβ42の産生を強力に抑制する多環式のシンナミド化合物についても、特許文献3に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO 2004/110350
【特許文献2】US 2006/0004013
【特許文献3】WO 2007/102580
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Klein WL,他,Alzheimer’s disease−affected brain:Presence of oligomeric Aβ ligands(ADDLs)suggests a molecular basis for reversible memory loss,Proceeding of the National Academy of Science USA,2003,Sep,2;100(18),p.10417−10422.
【非特許文献2】Nitsch RM,他,Antibodies against β−amyloid slow cognitive decline in Alzheimer’s disease,Neuron,2003,May 22;38,p.547−554.
【非特許文献3】Jarrett JT,他,The carboxy terminus of the β amyloid protein is critical for the seeding of amyloid formation:Implications for the pathogenesis of Alzheimers’ disease,Biochemistry,1993,32(18),p.4693−4697.
【非特許文献4】Glenner GG,他,Alzheimer’s disease:initial report of the purification and characterization of a novel cerebrovascular amyloid protein,Biochemical and Biophysical Research Communications,1984,May 16,120(3),p.885−890.
【非特許文献5】Masters CL,他,Amyloid plaque core protein in Alzheimer disease and Down syndrome,Proceeding of the National Academy of Science USA,1985,Jun,82(12),p.4245−4249.
【非特許文献6】Gouras GK,他,Intraneuronal Aβ42 accumulation in human brain,American Journal of Pathology,2000,Jan,156(1),p.15−20.
【非特許文献7】Scheuner D,他,Secreted amyloid β−protein similar to that in the senile plaques of Alzheimer’s disease is increased in vivo by the presenilin 1 and 2 and APP mutations linked to familial Alzheimer’s disease,Nature Medicine,1996,Aug,2(8),p.864−870.
【非特許文献8】Forman MS,他,Differential effects of the swedish mutant amyloid precursor protein on β−amyloid accumulation and secretion in neurons and nonneuronal cells,The Journal of Biological Chemistry,1997,Dec,19,272(51),p.32247−32253.
【非特許文献9】Shearman MS,他,L−685,458,an Aspartyl Protease Transition State Mimic,Is a Potent Inhibitor of Amyloid β−Protein Precursor γ−Secretase Activity,Biochemistry,2000,Aug,1,39(30),p.8698−8704.
【非特許文献10】Shearman MS,他,Catalytic Site−Directed γ−Secretase Complex Inhibitors Do Not Discriminate Pharmacologically betweeen Notch S3 and β−APP Clevages,Biochemistry,2003,Jun,24,42(24),p.7580−7586.
【非特許文献11】Lanz TA,他,Studies of Aβ pharmacodynamics in the brain,cerebrospinal fluid,and plasma in young(plaque−free)Tg2576 mice using the γ−secretase inhibitor N2−[(2S)−2−(3,5−difluorophenyl)−2−hydroxyethanoyl]−N1−[(7S)−5−methyl−6−oxo−6,7−dihydro−5H−dibenzo[b,d]azepin−7−yl]−L−alaninamide(LY−411575),The Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics,2004,Apr,309(1),p.49−55.
【非特許文献12】Wong GT,他,Chronic treatment with the γ−secretase inhibitor LY−411,575 inhibits β−amyloid peptide production and alters lymphopoiesis and intestinal cell differentiation,The Journal of Biological Chemistry,2004,Mar,26,279(13),p.12876−12882.
【非特許文献13】Gitter BD,他,Stereoselective inhibition of amyloid beta peptide secretion by LY450139,a novel functional gamma secretase inhibitor,Neurology of Aging 2004,25,sup2,p.571.
【非特許文献14】Lanz TA,他,Concentration−dependent modulation of amyloid−β in vivo and in vitro using the γ−secretase inhibitor,LY−450139,The Journal of Pharmacology and Experimantal Therapeutics,2006,Nov,319(2)p.924−933.
【非特許文献15】Siemers ER,他,Effects of a γ−secretase inhibitor in a randamized study of patients with Alzheimer disease,Neurology,2006,66,p.602−604.
【非特許文献16】Best JD,他,In vivo characterization of Aβ(40)changes in brain and cerebrospinal fluid using the novel γ−secretase inhibitor N−[cis−4−[(4−chlorophenyl)sulfonyl]−4−(2,5−difluorophenyl)cyclohexyl]−1,1,1−trifluoromethanesulphonlamide(MK−560)in the rat,The Journal of Pharmacology and Experimantal Therapeutics,2006,May 317(2)p.786−790.
【非特許文献17】Best JD,他 The novel γ−secretase inhibitor N−[cis−4−[(4−chlorophenyl)sulfonyl]−4−(2,5−difluorophenyl)cyclohexyl]−1,1,1−trifluoromethanesulphonlamide(MK−560)reduces amylid plaque deposition without evidence notch−related pathology in the Tg2576 mouse,The Journal of Pharmacology and Experimantal Therapeutics,2007,Feb,320(2)p.552−558.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の如く、APPからAβ40および42の産生を抑制する化合物は、アルツハイマー病に代表されるAβに起因する疾患の治療剤または予防剤として期待されている。
WO2009/028588に報告されている通り、化合物12((−)−2−{(E)−2−[6−メトキシ−5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)ピリジン−2−イル]ビニル}−8−[2−(トリフルオロメチル)フェニル]−5,6,7,8−テトラヒドロ[1,2,4]トリアゾロ[1,5−a]ピリジン)は、APPからAβ42の産生を強力に低下させる非ペプチド性化合物である。従って、治療薬として使用可能な化合物12のような化合物やその前駆体を製造する方法を開発する必要がある。本発明は、化合物12のような化合物の製造に用いる中間体、および立体異性体混合物から実質上立体化学的に純粋な化合物12のような化合物を製造する際用いる中間体の改良製造法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このように、本発明は、以下の(1)から(18)に関するものである。
(1) a)以下に示す、式Iの化合物と式IVの化合物とを反応させることにより、化合物11および12の混合物を生成させる工程
【化1】

[式中、Xは脱離基であり、Rは直鎖もしくは分枝C1−C6アルキル基または直鎖もしくは分枝C2−C6アルケニル基であり、炭素原子1の立体化学がRおよびS異性体の混合物である];
b)化合物11および12の混合物をキラルなカルボン酸化合物と処理することによる、化合物11および12のジアステレオマー塩混合物を生成させる工程;
c)化合物11および12のジアステレオマー塩溶液から生成した化合物12のジアステレオマー塩を結晶化させる工程;
d)得られた化合物12のジアステレオマー塩から、化合物12を生成させる工程、
を含む、実質的に立体化学的に純粋な化合物12((−)−2−{(E)−2−[6−メトキシ−5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)ピリジン−2−イル]ビニル}−8−[2−(トリフルオロメチル)フェニル]−5,6,7,8−テトラヒドロ[1,2,4]トリアゾロ[1,5−a]ピリジン)の製造法;
(2) 以下に示す、式Iの化合物またはその塩と式IVの化合物またはその塩とを反応させる工程;
【化2】

[式中、X、Rおよび炭素1の立体配置は上記(1)に定義した通りである]
を含む、化合物11および化合物12の混合物の製造法;
(3) 反応が、メタノール、テトラヒドロフランまたはそれらの混合溶媒中、イミダゾールまたは酢酸ナトリウム存在下で行われ、任意にトリエチルアミンを付加してもよい上記(1)または(2)に記載の製造法;
(4) a)化合物11((+)−2−{(E)−2−[6−メトキシ−5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)ピリジン−2−イル]ビニル}−8−[2−(トリフルオロメチル)フェニル]−5,6,7,8−テトラヒドロ[1,2,4]トリアゾロ[1,5−a]ピリジン)および12の混合物をキラルなカルボン酸化合物と処理することによる、化合物11および12のジアステレオマー塩混合物を生成させる工程;
b)化合物11および12のジアステレオマー塩溶液から生成した化合物12のジアステレオマー塩を結晶化させる工程;
および
c)得られた化合物12のジアステレオマー塩から、化合物12を生成させる工程、
を含む、実質的に立体科学的に純粋な化合物12((−)−2−{(E)−2−[6−メトキシ−5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)ピリジン−2−イル]ビニル}−8−[2−(トリフルオロメチル)フェニル]−5,6,7,8−テトラヒドロ[1,2,4]トリアゾロ[1,5−a]ピリジン)の製造法;
(5) キラルなカルボン酸化合物が、D−ジベンゾイル酒石酸(D−DBTA)、D−ジピバロイル酒石酸(D−DPTA)および(+)−N−(1−フェニルエチル)フタルアミド酸である、上記(1)、(3)および(4)の任意の1項に記載の製造法;
(6) 溶媒が、2−プロパノールおよびアセトニトリルの混合溶媒である、上記(1)、(3)、(4)および(5)の任意の1項に記載の製造法;
(7) 溶媒が、メタノールおよびアセトニトリルの混合溶媒である、上記(1)、(3)、(4)および(5)の任意の1項に記載の製造法。
(8) 化合物12を調製する前に、化合物12のジアステレオマー塩の第二の結晶化工程をさらに含む、上記(1)、(3)、(4)、(5)、(6)および(7)の任意の1項に記載の製造法;
(9) 第二の結晶化に用いる溶媒が、2−プロパノールおよびアセトニトリルの混合溶媒である、上記(8)に記載の製造法;
(10) 化合物12のD−DBTA塩;
(11) 化合物12のD−DPTA塩;
(12) 化合物12の(+)−N−(1−フェニルエチル)フタルアミド酸塩;
(13) 式Iの化合物またはその塩;
【化3】

[式中、X、Rおよび炭素1の立体配置は上記(1)に定義した通りである];
(14) 式IIIの化合物またはその塩;
【化4】

[式中、Zは水素または窒素保護基を意味する];
(15) Zが水素原子である、上記(14)記載の式IIIの化合物またはその塩;
(16) a)下記に示す、2−(トリフルオロメチル)フェニルアセトニトリルと化合物X(CHとを反応させることによる式VIの化合物を生成する工程
【化5】

[式中、XおよびXは脱離基を意味する]と、
b)下記に示す、式VIの化合物とROHとを酸存在下で反応させることにより式VIの化合物を生成する工程、
【化6】

ここで、X、R、および炭素原子1の立体化学は上記(1)で定義した通りである、
とを含む、式I記載の化合物の製造法;
(17) 酸が、低級アルカノイルハライド、チオニルクロリドまたはトリメチルシリルハライドをROHと反応させることにより系内で調製される、上記(16)記載の製造法;
(18) a)N’保護アクリロヒドラジド5またはその塩と式IIの化合物またはその塩とを、以下に示す通り、パラジウム触媒、置換ホスフィンPRおよび塩基存在下、反応させることによる式IIIの化合物またはその塩を生成する工程
【化7】

[式中、Yは脱離基であり、Rは、直鎖もしくは分枝のC1−C6アルキルであるか、または置換されてもよいフェニル基である]と、
b)以下に示す通り、式IIIの化合物の保護基を除去することにより式IVの化合物を生成する工程
【化8】

とを含む、
化合物IVまたはその塩を製造する方法;
(19) 式(IV)に示す化合物の二塩酸塩が、式(III)の化合物を1−プロパノール中で塩酸と反応させることにより生成される、上記(18)記載の製造法;
(20) 式II記載の化合物またはその塩、
【化9】

ここで、Yは上記(18)に記載された通りである;
(21) Yが臭素原子である、上記(20)記載の化合物。
本発明の詳細な説明
【0009】
本明細書および特許請求の範囲を通じて、以下の定義を適用する;
「溶媒」とは、単一溶媒および一種より多くの溶媒の混合溶媒の双方を含む。
「アルキル基」とは、直鎖または分枝の飽和炭化水素基を示す。例えばメチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、ブチル基、i−ブチル基、ターシャリーブチル基、n−ペンチル基、およびn−ヘキシル基が挙げられるが、これらに限定されない。
「アルケニル基」とは、少なくとも1個の炭素炭素二重結合を有する、直鎖または分枝の不飽和炭化水素基を示す。例えばビニル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ターシャリーブテニル基、n−ペンテニル基およびn−ヘキセニル基が挙げられるが、これらに限定されない。
「ハロ基」とは、1または複数のフルオロ基、クロロ基、ブロモ基またはヨード基を示す。
「脱離基」とは、ハロ基、メタンスルフォネート基のようなC1−6アルキルスルフォネート基、またはp−トルエンスルフォネート基のようなC6−14アリールスルフォネート基を示す。
「それらの塩」とは、例えばフッ化水素酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩などのハロゲン化水素酸塩、例えば硫酸塩、硝酸塩、過塩素酸塩、リン酸塩、炭酸塩または重炭酸塩のような無機酸塩、例えば酢酸塩、シュウ酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩またはクエン酸塩のような有機カルボン酸塩、例えばメタンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩またはカンファースルホン酸塩等の有機スルホン酸塩、例えばアスパラギン酸塩、グルタミン酸塩等のアミノ酸塩、および四級アミン塩が挙げられる。
「異性体」とは、同数の同一原子を有しているため同一の分子量を有するが、原子の配列または立体配置が異なる化合物を表す。
「立体異性体」とは、原子の空間上の配列のみが異なる化合物を表す。
「ジアステレオマー」とは、互いに鏡像の関係ではない立体異性体を表す。
「エナンチオマー」とは、互いに重ね合わせることのできない鏡像の関係にある立体異性体を表す。「エナンチオマー」には、例えば、90%、92%、95%、98%または99%に等しいか、またはそれ以上の、あるいは100%に等しい一方のエナンチオマーを含有する、実質的にエナンチオメリックに純粋な異性体も含まれる。
異性体を表す「R」および「S」という用語は、非対称に置換された炭素原子の立体化学的配置を記述するものである。非対称置換炭素原子の「R」または「S」配置への帰属は、カー ン・インゴルド・プレローグ順位則の適用により定められるが、これらは当業者によく知られており、国際純正および応用化学連合(IUPAC)による有機化学命名規則E節、立体化学にも記載されている。
エナンチオマーは、化学分野の当業者によく知られている通り、平面偏光を回転する方向で特徴付けられる。もし、異性体が偏光を時計回りに回転する場合(光源に向かって観察する観測者から見た際)には、その異性体は(+)と記述され、右旋性と示される。その鏡像体は、平面偏光を反時計回りに回転し、(−)または左旋性と記述される。旋光性を示す記号で表される、エナンチオメリックに純粋な異性体による平面偏光の方向は、旋光計と呼ばれる一般的な装置で容易に測定することができる。
「ラセミ体」とは、それぞれのエナンチオマーの等量混合物である。
「非ラセミ体」とは、それぞれのエナンチオマーが等量ではない混合物である。非ラセミ体混合物には、R/S異性体比またはS/R異性体比が、およそ50/50、およそ60/40およびおよそ70/30である混合物を含むR−またはS−異性体過剰の混合物を含むが、これらに限定されない。
「実質的に立体化学的に純粋」および「実質的な立体化学的純度」とは、それぞれエナンチオマー過剰率またはジアステレオマー過剰率が80%以上のエナンチオマー混合物またはジアステレオマー混合物を示すものである。「実質的に立体化学的に純粋」および「実質的な立体化学的純度」とは、それぞれエナンチオマー過剰率またはジアステレオマー過剰率が87%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上または99%以上のエナンチオマー混合物またはジアステレオマー混合物を示すものである。
エナンチオマーの「エナンチオマー過剰率(ee)」は、
[(主エナンチオマーのモル比)−(副エナンチオマーのモル比)]X100
である。ジアステレオマー混合物中のジアステレオマー過剰率(de)は、類似に定義される。
【0010】
本発明は、実質的に立体化学的に純粋な化合物12の新規製造法、ならびにその中間体および前駆体を提供するものである。本発明の一つの具体例を以下スキーム1に説明する。
スキーム1
【化10】

【0011】
化合物11および12は、スキーム1中に1と注記した、非対称に置換された炭素原子を有する。ここに記載したいくつかの中間体化合物についても非対称に置換された炭素原子を有しており、これらについてもスキーム中および式中で1と注記した。本発明の製造法は、スキーム1中に示す通り、化合物9から化合物10の合成および化合物4から化合物6を経由する化合物7の合成から開始する。次に化合物10と化合物7を反応させて、化合物11および12のジアステレオマー混合物を生成させる。
実質的に立体化学的に純粋な化合物12は、立体異性体混合物のD−ジベンゾイル酒石酸(D−DBTA)塩、D−ジピバロイル酒石酸(D−DPTA)塩または(+)−N−(1−フェニルエチル)フタルアミド酸塩を調製し、結晶化することによって、化合物12の平面偏光が左旋性である(−)体として得ることができる。化合物4、化合物6、化合物7および化合物10は、それぞれ本発明の具体的な例である。
スキーム1において、化合物4、化合物6から12は、全てそれらの塩であってもよい。
【0012】
本発明の一つの具体例は式Iに示す化合物、
【化11】

またはその塩、
ここでXは脱離基であり、Rは直鎖もしくは分枝C1−6アルキル基、または直鎖もしくは分枝C2−6アルケニル基であり、炭素1の立体化学はR、Sまたはそれらの混合物である;
で示される。いくつかの具体例では、Xは、ハロ基、C1−6アルキルスルフォネート基、またはC6−14アリールスルフォネート基から選択される脱離基を示す。また、いくつかの具体例では、Xは、ハロ基、メシレート基、トシレート基から選択される脱離基を示す。さらに、いくつかの具体例では、Xは、クロロ基、ブロモ基およびヨード基から選択されるハロ基を示す。いくつかの具体例では、Rは、直鎖または分枝のC2−4アルキル基を示す。また、いくつかの具体例では、Rは、直鎖または分枝のC1−3アルキル基を示す。さらに、いくつかの具体例では、Rは、直鎖または分枝のC3−5アルキル基を示す。また、いくつかの具体例では、Rは、直鎖または分枝のC3−5アルキル基を示す。さらに、いくつかの具体例では、Rは、直鎖または分枝のC4−6アルキル基を示す。また、いくつかの具体例では、Rは、エチル基を示す。
また、スキーム1のイミデート化合物10は、式Iの化合物(XがクロロかつRがエチル基)の具体例を示す。
【0013】
本発明の他の具体例は式IIに示す化合物、
【化12】

またはその塩、
ここでYは脱離基であり、好ましくはハロ基またはトリフレート基である。いくつかの具体例では、Yは、ブロモ基またはヨード基である。また、スキームIのブロモ化合物4は、式IIの化合物に相当する。
【0014】
本発明の他の具体例は式IIIに示す化合物、
【化13】

またはその塩、
ここでZは水素であるか、窒素保護基である。使用される窒素保護基は原料により異なり、式IIIの製造を妨げず、式IIIの化合物の他の置換基に影響を与えずに除去可能な限り特に限定されるものではない。具体的な窒素保護基の例は、ベンジルオキシカルボニル(Cbz)基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、ターシャリーブトキシカルボニル(tBoc)基、9−フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)基、およびトリクロロエトキシカルボニル(Troc)基である。
一つの具体例として、スキームIの置換ピリジン化合物6は、Zがターシャリーブトキシカルボニル(tBoc)基である式IIIの化合物に相当する。
【0015】
本発明の他の具体例は式IVに示す化合物、
【化14】

またはその塩である。スキームIにおける化合物7は、式IVの化合物に相当する。式IVの化合物は、(Zが水素である)式IIIの化合物の一つの具体例に相当する。
【0016】
本発明の他の具体例は、スキーム2に示す、式Iの化合物と式IVの化合物とを反応させる工程を含む、化合物Vの製造方法である。
スキーム2
【化15】

【0017】
いくつかの具体例においては、メタノール中イミダゾール存在下で反応が進行する。
スキーム2において、式Iの化合物と式IVの化合物とは、塩であってもよい。
【0018】
本発明の他の具体例は、式Iの化合物11と化合物12の混合物をキラルなカルボン酸化合物で処理し、次いで一方のジアステレオマー塩を選択的に結晶化させることによる、化合物Vを2つのエナンチオマー、化合物11と化合物12とに分割する方法である。
本発明の他の具体例は、化合物11と化合物12の、D−DBTA塩の溶液から選択的に結晶化させることによる、式Vの(−)−エナンチオマーである化合物12の調製法である。化合物11は、式Vの右旋性((+)の旋光性)のエナンチオマーであり、化合物12は、式Vの左旋性((−)の旋光性)のエナンチオマーである。
いくつかの具体例においては、キラルなカルボン酸化合物としては、D−ジベンゾイル酒石酸(D−DBTA)、D−ジピバロイル酒石酸(D−DPTA)または(+)−N−(1−フェニルエチル)フタルアミド酸((+)−PEPA)である。
【0019】
本発明の他の具体例は、化合物12のキラルなカルボン酸塩である。
いくつかの具体例においては、塩としては、スキーム3に示す化合物12のD−ジベンゾイル酒石酸(D−DBTA)塩、D−ジピバロイル酒石酸(D−DPTA)塩または(+)−N−(1−フェニルエチル)フタルアミド酸塩((+)−PEPA)である。
スキーム3
【化16】

【0020】
スキーム4は、化合物11と化合物12の製造工程を示す、ここで化合物11と化合物12は立体異性体混合物として製造され、その後キラルカラムを用いて分離することができる。
本工程は、スキーム1の工程およびスキーム4の工程において共通して用いられる、化合物11および12の種結晶を得るために用いてもよい。
スキーム4
【化17】

【0021】
式Iのイミデートの製造法
式Iのイミデートは、スキーム5に示すように、ニトリル化合物VIを例えば塩化水素ガスのような酸の存在下に、例えばメタノール、エタノールおよび1−プロパノールのような低級アルコールと反応させることにより製造することができる。
スキーム5
【化18】

【0022】
本工程は、例えば、Journal of the American Chemical Society.,1990,Vol.112,p.6672−6679に記載された方法に従って実施することができる。本反応は、溶媒存在下または溶媒非存在下に行うことができる。本反応に使用する溶媒は、反応を阻害せず出発原料をある程度溶解するものであれば特に限定されず、いかなる有機溶媒でもよいが、好ましくは、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、エーテル、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタンまたはそれらの混合物を含み、さらに好ましい例は、トルエン、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノールまたは酢酸エチルを含む。
本反応に使用する酸は、反応を阻害せず好ましくない副反応を引き起こさないものであれば特に限定されないが、好ましい酸の例としては、塩化水素または臭化水素のようなハロゲン化水素を含み、さらに好ましい酸の例は、塩化水素ガスである。
本工程はまた、例えば、European Journal of Organic Chemistry,2005,p.452−456に記載された方法によっても実施することができる。この方法では、ニトリル化合物VIと低級アルコールとの混合物中に低級アルカノイルハライドを加えることにより系中で酸を発生させることが含まれる。この方法ではハロゲン化水素ガスを用いないため、簡素であり、反応のスケールアップが容易である。また、反応混合物中からのイミデートIの単離も容易に行うことができる。低級アルカノイルハライドの代わりに、チオニルクロリドのようなハロゲン化チオニルまたは、トリメチルシリルクロリドのようなトリメチルシリルハライドを用いてもよい。
本反応に使用する低級アルコールの量は、適宜増減してもよいが、ニトリル化合物VIに対して、好ましくは、例えば、3ないし24モル当量、さらに好ましくは、例えば、5ないし20モル当量である。
本反応に使用する酸の量は、適宜増減してもよいが、ニトリル化合物VIに対して、好ましくは、例えば、2ないし20モル当量、さらに好ましくは、例えば、4ないし16モル当量である。
低級アルコールに対する酸の量は、アルコールの量が酸に対して過剰であり、過剰量がニトリル化合物VIのモル数に等しいか過剰である限り、適宜増減してもよい。好ましい比率は、1.2:1ないし1.5:1である。
本反応の温度は、一般に本反応に用いる出発原料、溶媒および試薬に応じて異なり、適宜加減してもよい。好ましい反応温度は、例えば、−10℃ないし30℃であり、さらに好ましくは、例えば、0℃ないし10℃である。
本反応の時間は、反応温度や反応の進行状況に加えて、一般に反応に用いる出発原料、溶媒および試薬に応じて異なるものであり、適宜加減してもよい。前述の反応温度において、酸添加後の反応完結は、好ましくは、例えば、4ないし120時間であり、さらに好ましくは、例えば、12ないし72時間である。
【0023】
ニトリル化合物VIは、以下に示す通り、2−(トリフルオロメチル)フェニルアセトニトリルと化合物X(CHX1とを反応させることにより製造する;
【化19】

ここで、XおよびX1は脱離基を表す。
スキーム1中のニトリル化合物9は、(X=Clである)式VIの化合物の具体例の一つである。本工程は、例えば、Journal of Medicinal Chemistry,1999,Vol.42,p.4680−4694に記載された方法によって実施することができる。
本反応に使用する溶媒は、反応を阻害せず出発原料をある程度溶解するものであれば特に限定されず、いかなる有機溶媒でもよいが、好ましくは、例えば、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、エーテル、1,2−ジメトキシエタン、N,N−ジメチルホルムアミドまたはそれらの混合物を含み、さらに好ましい例は、テトラヒドロフラン、エーテルまたは1,2−ジメトキシエタンを含む。
本反応に使用する塩基は、反応を阻害せず好ましくない副反応を引き起こさないものであれば特に限定されないが、好ましい塩基の例としては、水素化ナトリウム、カリウムターシャリブトキシド、ナトリウムアミド、リチウムジイソプロピルアミド、リチウムヘキサメチルジシラジドまたはブチルリチウムのような塩基を含む。
本反応に使用する化合物X(CHX1は、反応を阻害せず好ましくない副反応を引き起こさないものであれば特に限定されないが、好ましい例としては、1−ブロモ−3−クロロプロパン、1−クロロ−3−ヨードプロパン、3−クロロプロピル メタンスルフォネート、3−クロロプロピル p−トルエンスルフォネートのような化合物を含む。
本反応に使用する塩基の量は、適宜増減してもよいが、2−(トリフルオロメチル)フェニルアセトニトリルに対して、好ましくは、例えば、0.9ないし1.8モル当量、さらに好ましくは、例えば、1.0ないし1.5モル当量である。
本反応に使用する化合物X(CHX1の量は、適宜増減してもよいが、2−(トリフルオロメチル)フェニルアセトニトリルに対して、好ましくは、例えば、1.0ないし4.0モル当量、さらに好ましくは、例えば、1.0ないし2.0モル当量である。
化合物X(CHX1に対する塩基の量は、化合物X(CHX1の量が塩基の量と等しいか過剰である限り、適宜増減してもよい。好ましい比率は、1:1ないし1:1.5である。
本反応の温度は、一般に反応に用いる出発原料、溶媒および試薬に応じて異なり、適宜加減してもよい。本反応の好ましい温度は、例えば、−90℃ないし30℃であり、さらに好ましくは、例えば、−78℃ないし10℃である。
本反応の時間は、反応温度や反応の進行状況に加えて、一般に反応に用いる溶媒および試薬に応じて異なるものであり、適宜加減してもよい。前述の反応温度において、塩基添加後の撹拌時間は、好ましくは、例えば、5分ないし4時間である。その後、化合物X(CHX1を加える。前述の反応温度において、化合物X(CHX1添加後の撹拌時間は、好ましくは、例えば、10分ないし12時間であり、さらに好ましくは、例えば、30分ないし4時間である。
【0024】
あるいは、式Iのイミデートは、スキーム5aに示す通り、2−(トリフルオロメチル)フェニル酢酸から製造することができる。
スキーム5a
【化20】

【0025】
置換フェニル酢酸VIIは、スキーム5aに示す通り、2−(トリフルオロメチル)フェニル酢酸のジアニオンを生成させ、化合物X(CHX1と反応させることにより製造する。
置換フェニル酢酸VIIは、適当なクロロ化試薬によりカルボン酸基を酸クロリドに変換した後、アンモニア水と反応させることによりアミドVIIIに変換することができる。
アミドVIIIは、スキーム5aに示す通り、ジアルキル硫酸と反応させることにより式Iのイミデートのアルキル硫酸塩とすることができる。あるいは、アミドVIIIはトリアルキルオキソニウム塩、次いで水酸化ナトリウムと反応させて、遊離塩基として式Iのイミデートに変換することができる。
【0026】
式IIのピリジン類の製造法
スキーム6に示すように、式IIのピリジン類は、適宜置換された3−(2−オキソプロピルホルムアミド)ピリジン類またはその塩を氷酢酸中、アンモニアまたは酢酸アンモニウムのようなアンモニウム塩と反応させることにより製造することができる。
スキーム6
【化21】

【0027】
本反応は、溶媒存在下または溶媒非存在下に行うことができる。本反応に使用する溶媒は、反応を阻害せず出発原料をある程度溶解するものであれば特に限定されず、いかなる有機溶媒でもよいが、好ましくは、例えば、トルエン、キシレン、酢酸、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ホルムアミド、アセトアミド、1−メチル−2−ピロリドンまたはそれらの混合物を含み、さらに好ましい例は、例えば、酢酸またはホルムアミドを含む。
本反応に使用するアンモニウム塩は、反応を阻害せず好ましくない副反応を引き起こさないものであれば特に限定されないが、好ましい例としては、例えば酢酸アンモニウムまたはギ酸アンモニウムのような化合物を含む。
本反応に使用するアンモニウム塩の量は、適宜増減してもよいが、置換ピリジンに対して、好ましくは、例えば、3ないし20モル当量、さらに好ましくは、例えば、5.0ないし10モル当量である。
好ましい例においては、本反応は、10ないし20モル当量の酢酸中、5ないし10モル当量の酢酸アンモニウムを用いて行われる。
一例としては、置換ピリジンが、N−(6−ブロモ−2−メトキシピリジン−3−イル)−N−(2−オキソプロピル)ホルムアミドである。
【0028】
式IIIの保護ピリジルヒドラジンカルボン酸類の製造法
化合物6およびこれに類似する化合物の製造は、式IIのピリジン類またはその塩を、適当な条件下N−保護アクリロイルヒドラジンカルボン酸またはその塩と反応させることにより、式IIIの保護ピリジルヒドラジンカルボン酸を製造する反応を含む。本反応はスキーム7に示されている。
スキーム7
【化22】

【0029】
スキーム7において、使用されるN−保護基Zは出発原料に応じて異なり、式IIIの化合物の生成を阻害せず、式IIIの化合物の他の官能基に影響を及ぼさずに除去できるものであれば特に限定されない。
上記N−保護基の選択、導入および除去は化学分野において周知である。[P.G.M Wuts and T.H.Green,Green’s Protective Groups in Organic Synthesis,4th Edition,John Wiley & Sons 2007,Chapter 7.]
好ましいN−保護基の例としては、ベンジルオキシカルボニル(Cbz)基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、ターシャリールブトキシカルボニル(tBoc)基、9−フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)基、トリクロロエチルオキシカルボニル(Troc)基のような保護基を含む。さらに好ましい例として、Zがターシャリールブトキシカルボニル(tBoc)基の場合を含む。
式II中のYは脱離基であり、好ましくはブロモまたはトリフルオロメタンスルフォニル(トリフレート)であり、ブロモが特に好ましい。スキーム7の反応は、置換ホスフィンおよび塩基存在下、パラジウム触媒を用いて行われてもよい。好ましいパラジウム触媒は、例えば、酢酸パラジウム(II)もしくはトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(O)、Pd(dba)のような触媒である。さらに好ましい例として、パラジウム触媒は、酢酸パラジウム(II)である。
好ましいホスフィンとしては、例えば、トリス(o−トリル)ホスフィンまたはトリフェニルホスフィンのようなホスフィンを含む。さらに好ましい例として、ホスフィンは、トリス(o−トリル)ホスフィンである。
本反応においては、有機塩基および無機塩基のいずれも用いることができる。好ましい塩基の例としては、ジイソプロピルエチルアミン、トリエチルアミンまたは炭酸カリウムのような塩基を含む。さらに好ましい例として、塩基はジイソプロピルエチルアミンである。
本反応に使用する溶媒は、反応を阻害せず出発原料をある程度溶解するものであれば特に限定されず、いかなる有機溶媒または含水溶媒でもよいが、好ましくは、例えば、トルエン、キシレン、エタノール、1−プロパノール、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、1−メチル−2−ピロリドン、アセトニトリル、水またはそれらの混合物を含む。さらに好ましい例においては、溶媒は、N,N−ジメチルホルムアミドである。
ホスフィンに対するパラジウム触媒の量は、ホスフィンの量がパラジウムの量と等しいか過剰である限り、適宜増減してもよい。好ましい比率は、1:1ないし1:4であり、さらに好ましい比率は、1:2である。
本反応の温度は、一般に反応に用いる出発原料、溶媒および試薬に応じて異なり、適宜加減してもよい。本反応の好ましい温度は、例えば、50℃ないし120℃であり、さらに好ましくは、例えば、90℃ないし110℃である。
本反応の生成物は、結晶化により抽出することなく単離することができる。
【0030】
式IVのヒドラジド類の製造法
ヒドラジド化合物IVは、式IIIの化合物またはその塩を、適当な脱保護の条件で処理することにより、式IIIのN−保護化合物またはその塩から製造することができる。本反応はスキーム8に示されている。
スキーム8
【化23】

【0031】
このような脱保護の条件は、保護基に依存するものであり、有機合成の分野における当業者には周知である。
N−保護基の代表的な脱保護方法は、例えば、Greene,4th Edition,Chapter7を参照することができる。
例えば、ベンジルオキシカルボニル(Cbz)基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基は、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムのような水酸化アルカリによる塩基性下の加水分解によって除去することができる。9−フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)基は、ある種の二級アミンによって除去することができ、トリクロロエチルオキシカルボニル(Troc)基は、亜鉛によって除去することができる。
好ましい例として、ターシャリーブトキシカルボニル(tBoc)基を保護基として使用し、酸存在下に脱保護基することができる。
反応に使用する酸は、特に限定されないが、好ましい酸の例としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸またはトリフルオロ酢酸のような酸を含む。さらに好ましい例としては、アルコール溶媒中塩酸で処理する脱保護条件を含む。
本反応に使用する溶媒は、反応を阻害せず出発原料をある程度溶解するものであれば特に限定されず、いかなる有機溶媒または含水溶媒でもよいが、好ましくは、例えば、トルエン、キシレン、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトニトリル、水またはそれらの混合物を含む。さらに好ましい例においては、溶媒は、1−プロパノールである。
出発原料に対する酸の量は、酸の量が出発原料の量と等しいか過剰である限り、適宜増減してもよい。好ましい比率は、5:1ないし20:1であり、さらに好ましい比率は、10:1ないし15:1である。
本反応の温度は、一般に反応に用いる出発原料、溶媒および試薬に応じて異なり、適宜加減してもよい。本反応の好ましい温度は、例えば、10℃ないし60℃であり、さらに好ましくは、例えば、40℃ないし50℃である。
特に好ましい例として、濃塩酸と1−プロパノールとの混合物中に出発原料を加え、結晶化した反応産物を分離収集する処理方法を含む。
【0032】
式Vの化合物の製造法
スキーム9に示すように、化合物11および化合物12は、式Iの化合物と式IVの化合物とを適当な条件下で反応させて製造することができる。
スキーム9
【化24】

【0033】
本反応は、塩基の存在下に行うことができる。本反応に使用する塩基は、特に限定されないが、好ましい塩基の例としては、ジイソプロピルエチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、コリジンまたはイミダゾールのような有機塩基、および炭酸カリウム、酢酸アンモニウムまたは酢酸ナトリウムのような無機塩基を含む。好ましい例として、イミダゾール、酢酸ナトリウム、イミダゾールとトリエチルアミンの混合物、および酢酸ナトリウムとトリエチルアミンの混合物を含む。
本反応に使用する溶媒は、反応を阻害せず出発原料をある程度溶解するものであれば特に限定されず、いかなる有機溶媒または含水溶媒でもよいが、好ましくは、例えば、トルエン、キシレン、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトニトリル、水またはそれらの混合物を含む。さらに好ましい例においては、溶媒は、メタノール、テトラヒドロフランまたはそれらの混合物である。
出発原料に対する塩基の量は、酸の量が出発原料に対して過剰である限り、適宜増減してもよい。好ましい比率は、4:1ないし15:1であり、さらに好ましい比率は、6:1ないし12:1である。
式IVの化合物に対する式Iの化合物の量は、反応条件に応じて異なり、適宜増減してもよい。好ましい比率は、1:1ないし2:1であり、さらに好ましい比率は、1:1ないし1.5:1である。
本反応の温度は、一般に反応に用いる出発原料、溶媒および試薬に応じて異なり、適宜加減してもよい。本反応の好ましい温度は、例えば、0℃ないし70℃であり、さらに好ましくは、例えば、10℃ないし40℃である。
反応条件の一例として、メタノール中イミダゾールを用いる方法が含まれる。
好ましい例として、メタノール、テトラヒドロフランまたはそれらの混合物中、塩基としてイミダゾールまたは酢酸ナトリウムを用いることができる。
さらに好ましい例として、上記の溶媒および塩基の条件下、任意にトリエチルアミンを追加する処理方法を含む。
スキーム9に示すように、式Iの化合物が炭素1に関するRおよびS立体異性体の混合物からなる場合、化合物11および化合物12の混合物が得られる。
本反応の時間は、反応温度や反応の進行状況に加えて、一般に反応に用いる出発原料、溶媒および試薬に応じて異なるものであり、適宜加減してもよい。本反応の時間は、好ましくは、例えば、4時間ないし120時間であり、さらに好ましくは、例えば、24時間ないし72時間である。
スキーム9において、式Iの化合物および式IVの化合物は、塩を形成していてもよい。
【0034】
化合物11および化合物12の混合物からの化合物12の精製方法
スキーム10に示すように、化合物11および化合物12の混合物を適当な単一溶媒または混合溶媒に溶解させ、キラルなカルボン酸を添加することによりジアステレオマー塩を形成させ、次いで一方のジアステレオマー塩を溶液から結晶化させることにより、実質的な立体化学的純度で化合物12を得ることができる。初めに得られたジアステレオマー塩を単一溶媒または混合溶媒から2度目の再結晶を行うことにより、更に高い光学純度のものを得ることができる。
スキーム10
【化25】

【0035】
本反応に用いるキラルなカルボン酸は、化合物11および化合物12のジアステレオマー塩混合物を形成するものであれば特に限定されないが、好ましい酸の例は、2,3−ビス−(ベンゾイルオキシ)酒石酸(D−DBTA)、ジピバロイル酒石酸(D−DPTA)塩およびN−(1−フェニルエチル)フタルアミド酸塩(PEPA)のような酸である。
さらに好ましい例としては、酸が(2S,3S)−2,3−ビス−(ベンゾイルオキシ)酒石酸(D−DBTA)、(2S,3S)−2,3−ビス−(2,2−ジメチルプロパノイルオキシ)コハク酸(D−DPTA)塩および(R)−(+)−N−(1−フェニルエチル)フタルアミド酸塩((+)−PEPA)の場合である。
本反応に使用する溶媒は、出発原料および各ジアステレオマー塩をある程度溶解するものであれば特に限定されず、いかなる有機溶媒または含水溶媒でもよいが、好ましくは、例えば、トルエン、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトニトリル、水またはそれらの混合物を含む。好ましい一例としては、溶媒は、イソプロパノールおよびアセトニトリルの混合物である。他の好ましい一例としては、溶媒は、メタノールおよびアセトニトリルの混合物である。
出発原料に対する酸の量は、適宜増減してもよいが、好ましい比率は、0.5:1ないし1.3:1であり、さらに好ましい比率は、0.5:1ないし0.6:1である。
本反応の温度は、一般に反応に用いる出発原料、溶媒および試薬に応じて異なり、適宜加減してもよい。本反応の好ましい温度は、例えば、0℃ないし70℃であり、さらに好ましくは、例えば、0℃ないし50℃である。
エナンチオマー純度を向上させるため、本工程においては2度目の再結晶を行うことができる。
最初の結晶化に好ましい条件は、2−プロパノールおよびアセトニトリルの混合溶媒中、キラルなカルボン酸として(2S,3S)−2,3−ビス−(ベンゾイルオキシ)酒石酸を用いるものである。
他の好ましい最初の結晶化条件は、メタノールおよびアセトニトリルの混合溶媒中、キラルなカルボン酸として(2S,3S)−2,3−ビス−(ベンゾイルオキシ)酒石酸を用いるものである。
2度目の再結晶化に好ましい条件は、2−プロパノールおよびアセトニトリルの1:1混合溶媒を用いるものである。
他の好ましい2度目の再結晶化条件は、2−プロパノールおよびアセトニトリルの2:1混合溶媒を用いるものである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下の実施例においては下記の略号を使用する。
D−DBTA:D−ジベンゾイル酒石酸
別名:(2S,3S)−2,3−ビス−(ベンゾイルオキシ)コハク酸
D−DPTA:D−ジピバロイル酒石酸
別名:(2S,3S)−2,3−ビス−(2,2−ジメチルプロパノイルオキシ)コハク酸
(+)−PEPA:(+)−N−(1−フェニルエチル)フタルアミド酸塩
別名:2−{[(1R)−1−フェニルエチル]カルバモイル}安息香酸
AcCl:アセチルクロリド
DMF:N,N−ジメチルホルムアミド
THF:テトラヒドロフラン
EDC:1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩
HOBT:1−ヒドロキシベンゾトリアゾール
IPEA:ジイソプロピルエチルアミン
IPA:2−プロパノール
tert−:ターシャリー
【0037】
クロマトグラフィーに関して、特に記載のない場合は、担体として冨士シリシア化学製BW−300を用いた。
【0038】
LC−MS:マススペクトルを用いて目的化合物を分取する高圧液体クロマトグラフィー。溶出溶媒として、0.1%トリフルオロ酢酸含有水と0.1%トリフルオロ酢酸含有アセトニトリルの10%から99%のリニアグラジエントシステムを用いた。
【0039】
精製したエナンチオマー化合物11および化合物12の旋光度は、化学分野において知られている標準的な方法で旋光計により測定した。
【0040】
ジアステレオマー過剰率(de)は、キラルHPLC法で測定した。
カラム:CHIRAL Tech IB(150 x 4.6mm)
移動相;エタノール/ヘキサン=40:60
流速:1mL/min、)15分間均一溶媒
温度:25度C
UV:254nm
実施例1
【0041】
スキーム2の工程およびキラルクロマトグラフィーを用いたエナンチオマー混合物の分離による(+)−2−{(E)−2−[6−メトキシ−5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)ピリジン−2−イル]ビニル}−8−(2−トリフルオロメチルフェニル)−5,6,7,8−テトラヒドロ[1,2,4]トリアゾロ[1,5−a]ピリジン(化合物11)および(−)−2−{(E)−2−[6−メトキシ−5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)ピリジン−2−イル]ビニル}−8−(2−トリフルオロメチルフェニル)−5,6,7,8−テトラヒドロ[1,2,4]トリアゾロ[1,5−a]ピリジン(化合物12)の合成
(1) 1−アミノ−3−(2−トリフルオロメチルフェニル)ピペリジン−2−オン(1)の合成
【化26】

【0042】
2−トリフルオロメチルフェニル酢酸(1.9g)のメタノール(38ml)溶液に、チオニルクロリド(2.72ml)を加え、室温にて3時間撹拌した。反応溶液を減圧濃縮して得られた残渣をDMFで希釈した。 氷冷下水素化ナトリウム(40%ミネラルオイル含有、410mg)を加え、反応溶液を10分間攪拌した。さらに室温にて30分間攪拌した後、再度氷冷した。反応液に、1−クロロ−3−ヨードプロパン(1.02mL)を14分滴下して加え、室温にて一晩攪拌した。反応液に、水および酢酸エチルを加えて、有機層を分離した。得られた有機層を飽和塩化ナトリウム水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下濃縮した。得られた残渣をエタノール(26.6mL)で希釈し、ヒドラジン一水和物(7.6mL)を加え、その反応液を室温で2時間撹拌後、さらに60℃にて3時間撹拌した。反応混合物を減圧下濃縮し、残渣に飽和炭酸水素ナトリウム水および酢酸エチルを加え、有機層を分配した。得られた有機層を飽和塩化ナトリウム水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(担体:クロマトレックスNH;溶出溶媒:ヘプタン−酢酸エチル系)で精製することにより、表題化合物を1.68g得た。このものの物性値は以下の通りである。
ESI−MS;m/z 259[M+H].H−NMR(400MHz;CDCl)δ(ppm):1.82−2.10(m,3H),2.18−2.26(m,1H),3.58−3.76(m,2H),4.07(dd,J=10.0,5.6Hz,1H),4.60(s,2H),7.24(d,J=7.6Hz,1H),7.35(d,t=7.6Hz,1H),7.51(t,J=7.6Hz,1H),7.66(d,J=7.6Hz,1H).
【0043】
(2) (E)−3−[6−メトキシ−5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)ピリジン−2−イル]−N−[2−オキソ−3−(2−トリフルオロメチルフェニル)ピペリジン−1−イル]アクリルアミド(3)の合成
【化27】

【0044】
(E)−3−[6−メトキシ−5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)ピリジン−2−イル]アクリル酸 トリフルオロ酢酸塩(2)(1.42g)と1−アミノ−3−(2−トリフルオロメチルフェニル)ピペリジン−2−オン(1)(750mg)のDMF(30mL)懸濁液に、EDC(834mg)、HOBt(588mg)およびIPEA(2.03mL)を加えた。室温で14時間攪拌した後、反応液に飽和重曹水と酢酸エチルを加え有機層を分離した。得られた有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(担体:クロマトレックスNH;溶出溶媒:酢酸エチル−メタノール系)で精製することにより、表題化合物を1.23g得た。このものの物性値は以下の通りである。
ESI−MS;m/z 500[M+H].
【0045】
(3) (+)−2−{(E)−2−[6−メトキシ−5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)ピリジン−2−イル]ビニル}−8−(2−トリフルオロメチルフェニル)−5,6,7,8−テトラヒドロ−[1,2,4]トリアゾロ[1,5−a]ピリジンおよび(−)−2−{(E)−2−[6−メトキシ−5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)ピリジン−2−イル]ビニル}−8−(2−トリフルオロメチルフェニル)−5,6,7,8−テトラヒドロ−[1,2,4]トリアゾロ[1,5−a]ピリジンの合成
【化28】

【0046】
(E)−3−[6−メトキシ−5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)ピリジン−2−イル]−N−[2−オキソ−3−(2−トリフルオロメチルフェニル)ピペリジン−1−イル]アクリルアミド(3)(1.23g)にオキシ塩化リン(24.2mL)を加え、その反応液を100度で1時間攪拌後、減圧下濃縮した。続いて残渣を酢酸(24.2mL)で希釈後、酢酸アンモニウム(1.9g)を加え、150度で2時間攪拌した。反応液を室温まで放冷した後、減圧下濃縮した。得られた残渣に飽和重曹水と酢酸エチルを加え、有機層を分配した。得られた有機層を、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(担体:クロマトレックスNH;溶出溶媒:ヘプタン:酢酸エチル系)で精製することにより、表題化合物のラセミ体(750mg)を得た。得られたラセミ体(410mg)をダイセル化学製CHIRALPAKTM IA(2cm x 25cm,移動相;ヘキサン:エタノール=8:2,流速:10mL/min)にて分取し、保持時間が28分で(+)の旋光性を示す表題光学活性体(化合物11;174mg)および保持時間が33分で(−)の旋光性を示す表題光学活性体(化合物12;170mg)を得た。
【0047】
保持時間が28分の表題光学活性体(化合物11)の物性値は以下の通りである。
H−NMR(400MHz;CDCl)δ(ppm):1.90−2.01(m,1H),2.10−2.35(m,2H),2.29(d,J=1.2Hz,3H),2.42−2.51(m,1H),4.03(s,3H),4.28−4.41(m,2H),4.70(dd,J=8.4,6.0Hz,1H),6.92(d,J=8.0Hz,1H),6.95(t,J=1.2Hz,1H),7.01(d,J=7.6Hz,1H),7.39(t,J=7.6Hz,1H),7.44(d,J=16.0Hz,1H),7.45(d,J=8.0Hz,1H),7.49(t,J=7.6Hz,1H),7.63(d,J=16.0Hz,1H),7.72(d,J=7.6Hz,1H),7.76(d,J=1.2Hz,1H).
【0048】
保持時間が33分の表題光学活性体(化合物12)の物性値は以下の通りである。
H−NMR(400MHz;CDCl)δ(ppm):1.90−2.01(m,1H),2.10−2.35(m,2H),2.29(d,J=1.2Hz,3H),2.42−2.51(m,1H),4.03(s,3H),4.28−4.41(m,2H),4.70(dd,J=8.4,6.0Hz,1H),6.92(d,J=8.0Hz,1H),6.95(t,J=1.2Hz,1H),7.01(d,J=7.6Hz,1H),7.39(t,J=7.6Hz,1H),7.44(d,J=16.0Hz,1H),7.45(d,J=8.0Hz,1H),7.49(t,J=7.6Hz,1H),7.63(d,J=16.0Hz,1H),7.72(d,J=7.6Hz,1H),7.76(d,J=1.2Hz,1H).
実施例2
【0049】
5−クロロ−2−フェニルペンタンニトリル(9)の合成
【化29】

【0050】
室温で窒素雰囲気下、2−(トリフルオロメチル)フェニルアセトニトリル(12.47g、67.3mmol)をTHF(87.3mL)に溶解した。反応溶液を−10℃に冷却したのち、カリウム tert−ブトキシド(7.93g、70.7mmol)を加え、−10℃で10分間攪拌した。反応液に、1−ブロモ−3−クロロプロパン(6.99mL、70.7mmol)を14分滴下して加え、0℃で2時間攪拌した。反応液に、10%塩化アンモニウム溶液(8.6mL)を加えて、反応を停止した。混合液を攪拌した後、水層を分離した。有機層を減圧濃縮して、表題化合物(23.24g)を得た。収率をHPLC外部標準法により求めたところ、99%以上であった。
H−NMR(400MHz;CDCl)δ(ppm):2.18−1.88(m,4H),3.58(m,2H),4.18(m,1H),7.47(t,1H,J=7.6Hz),7.65(t,1H,J=7.6Hz)7.71(m,2H).
実施例3
【0051】
5−クロロ−2−フェニルペンタンイミジック酸 エチルエステル 塩酸塩(10)の合成
【化30】

【0052】
室温で窒素雰囲気下、化合物9(2.0g、7.64mmol)をエタノール(5.36mL、91.72mmol)に溶解した後、溶液を0℃まで冷却した。その溶液にアセチルクロリド(4.34mL、61.14mmol)を滴下し、室温で67時間攪拌した。反応溶液を10℃に冷却し、本反応と同様の工程にて得られた表題化合物の微量の種結晶とtert−ブチルメチルエーテル(以下、「MTBE」と称す)(40mL)を加え、攪拌した。固体を濾過により回収し、MTBEで洗浄して、表題化合物(2.14g、収率81.6%)を得た。
H−NMR(400MHz;CDCl)δ(ppm):1.38(t,3H,J=7.2Hz),1.78−1.65(m,1H),1.95−1.83(m,1H),2.43−2.32(m,1H),2.65−2.50(m,1H),3.62−3.55(m,2H),4.47(t,1H,J=8Hz),4.65(q,2H,J=7.2Hz),7.47(t,1H,J=8.0Hz),7.66(t,1H,J=8.0Hz),7.71(d,1H,J=8.0Hz),7.85(d,1H,J=8.0Hz),12.05(br s,1H),12.58(br s,1H).
実施例4
【0053】
6−ブロモ−2−メトキシ−3−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)ピリジン(化合物4)の合成
【化31】

【0054】
酢酸アンモニウム(267g)およびN−(6−ブロモ−2−メトキシピリジン−3−イル)−N−(2−オキソプロピル)ホルムアミド(199g)の酢酸(400mL)懸濁液を130度で1時間10分攪拌した。反応液を室温まで放冷し、氷水、酢酸エチルを加えて氷冷した。次いで濃アンモニア水(500mL)を加え有機層を分配した。得られた有機層を水、飽和塩化ナトリウム水で順次洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下濃縮した。
有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧下濃縮した。残渣を、短いシリカゲルカラムクロマトグラフィー(担体:ワコーゲルC−200、溶出溶媒:酢酸エチル)で精製した。溶出したフラクションを濃縮し、得られた残渣を酢酸エチルおよびtert−ブチル メチルエーテルでトリチュレーションし、減圧下乾燥することにより、表題化合物107.7gを得た。
【0055】
トリチュレーションした母液を濃縮し、得られた残渣を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(担体:ワコーゲルC−200、溶出溶媒:トルエン−酢酸エチル系)で精製した。溶出したフラクションを濃縮し、得られた残渣をtert−ブチル メチルエーテルでトリチュレーションして、減圧下乾燥することにより、表題化合物12.9gを得た。
【0056】
このものの物性値は以下の通りである。
H−NMR(400MHz;CDCl)δ(ppm):2.29(d,J=0.8Hz,3H),4.03(s,3H),6.92(dd,J=1.2,0.8Hz,1H),7.16(d,J=8.0Hz,1H),7.40(d,J=8.0Hz,1H),7.73(dd,J=1.2Hz,1H).
ESI−MS;m/z 268[M+H].
実施例5
【0057】
2−{(2E)−3−[6−メトキシ−5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)ピリジン−2−イル]−2−プロペノイルヒドラジンカルボン酸 tert−ブチルエステル(化合物6)の合成
【化32】

【0058】
室温で窒素雰囲気下、6−ブロモ−2−メトキシ−3−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)ピリジン(13.0g、48.5mmol)とアクリロイルヒドラジンカルボン酸 tert−ブチルエステル(9.9g、53.3mmol)にDMF(52mL)加え、その混合液を50℃で10分攪拌した。その混合物に、トリ(o−トリル)ホスフィン(885mg、2.90mmol)、酢酸パラジウム(II)(327mg、1.45mmol)およびN,N−ジイソプロピルエチルアミン(12.7mL、72.7mmol)を添加し、その反応混合物を100℃で4時間攪拌した。反応混合物を室温に冷却した後、セライト濾過を行った。残渣をDMF(6mL)で2回洗浄した。濾液に水(104mL)を室温で10分間滴下して加え、混合液を室温で15時間攪拌した。
反応混合物を濾過後、残渣を水−DMF(2:1)(30mL)、MTBE(30mL)で洗浄した。得られた固体をMTBE(50mL)で懸濁させて室温で2時間攪拌した後、濾過および減圧乾燥により、表題化合物(15.8g、収率87%)を得た。
H−NMR(400MHz;CDCl)δ(ppm):1.50(s,9H),2.28(d,J=1.2Hz,3H),4.03(s,3H),6.83(brs,1H),6.92−7.02(m,3H),7.51(d,J=8.0Hz,1H),7.59(d,J=15.2Hz,1H),7.82(s,1H),8.01(br s,1H).
実施例6
【0059】
(2E)−3−[6−メトキシ−5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)ピリジン−2−イル]アクリル酸ヒドラジド(化合物7)の合成
【化33】

【0060】
2−{(2E)−3−[6−メトキシ−5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)ピリジン−2−イル]−2−プロペノイルヒドラジンカルボン酸 tert−ブチルエステル(1.17g、3.13mmol)のメタノール(5.85mL)懸濁液に氷冷下、濃塩酸(5.85mL)を添加した。反応混合物を室温で30分間攪拌した。1−ブタノール(5.85mL)およびMTBE(5.85mL)を混合液に加え、氷冷下20分攪拌した。混合液をろ過して、残渣を1−ブタノール−MTBE(2:8)(5.85mL)で洗浄し、減圧乾燥することにより、表題化合物(937mg、収率78.2%)を得た。
H−NMR(400MHz;d−DMSO)δ(ppm):2.36(d,J=0.8Hz,3H),3.82(brs,2H),4.04(s,3H),7.28(d,J=15.2Hz,1H),7.54(d,J=8.0Hz,1H),7.70(d,J=15.2Hz,1H),7.83(d,J=1.6Hz,1H),8.15(d,J=7.6Hz),9.44(d,J=1.6Hz,1H),11.56(S,1H).
【0061】
(2E)−3−[6−メトキシ−5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)ピリジン−2−イル]アクリル酸ヒドラジド(化合物7)の別途合成法
1−プロパノール(415mL)および濃塩酸(180mL)混合液に45℃で、2−{(2E)−3−[6−メトキシ−5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)ピリジン−2−イル]−2−プロペノイルヒドラジンカルボキシレート(58.62g)を添加した。反応混合物を45℃で25分間攪拌し、1−プロパノール(300mL)を添加して、氷冷下撹拌した。混合液をろ過して、残渣を1−プロパノール(150mL)で洗浄し、減圧乾燥することにより、表題化合物(47.26g、収率87%)を得た。
H−NMRは、前記と同一であった。
実施例7
【0062】
2−{(E)−2−[6−メトキシ−5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)ピリジン−2−イル]ビニル}−8−[2−(トリフルオロメチル)フェニル]−5,6,7,8−テトラヒドロ[1,2,4]トリアゾロ[1,5−a]ピリジン(化合物11/化合物12)の合成
【化34】

【0063】
窒素雰囲気下、イミダゾール(4.75g、69.7mmol)および5−クロロ−2−フェニルペンタンイミド酸エチル 塩酸塩(2.00g、5.81mmol)を(2E)−3−[6−メトキシ−5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)ピリジン−2−イル]アクリル酸ヒドラジド 二塩酸塩のメタノール溶液(10mL)に0℃で添加した。反応液を30℃で40時間攪拌した。反応液を5N塩酸水溶液でpH6.5に調整し、酢酸エチル(22mL)で抽出後、有機層を水(4mL)で洗浄した。溶媒留去後、2−プロパノールで共沸濃縮を行い、表題化合物(2.4g、収率86%)を得た。
粗体表題化合物の2−プロパノール(10mL)溶液にスキーム2の工程にて得られた表題化合物の種結晶の微量を加えて、室温で13.5時間攪拌した。懸濁液を氷冷下2時間攪拌した後、固体を濾取し、2−プロパノールで洗浄し、50℃で減圧乾燥して、表題化合物(1.55g、収率56%)を得た。
H−NMR(400MHz;CDCl3)δ(ppm):1.91−2.01(1H,m),2.10−2.21(1H,m),2.23−2.28(1H,m),2.29(3H,d,J=1.0),2.43−2.50(1H,m),4.03(3H,s),4.29−4.40(2H,m),4.71(1H,dd,J=6.0,8.4Hz),6.93(1H,d,J=7.8Hz),6.95(1H,dd,J=1.0Hz),7.02(1H,d,J=7.8Hz),7.39(1H,dd,J=7.6Hz),7.43(1H,d,J=15.6Hz),7.46(1H,d,J=7.8Hz),7.49(1H,dd,J=7.3Hz),7.64(1H,d,J=15.6Hz),7.73(1H,d,J=7.1Hz),7.76(1H,d,J=1.2Hz).
実施例8
【0064】
(−)−(8S)−2−{(E)−2−[6−メトキシ−5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)ピリジン−2−イル]ビニル}−8−[2−(トリフルオロメチル)フェニル]−5,6,7,8−テトラヒドロ[1,2,4]トリアゾロ[1,5−a]ピリジン(2S,3S)−2,3−ビス−(ベンゾイルオキシ)酒石酸(1/1)(化合物化合物12のD−DBTA塩)の合成
【化35】

【0065】
2−{(E)−2−[6−メトキシ−5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)ピリジン−2−イル]ビニル}−8−[2−(トリフルオロメチル)フェニル]−5,6,7,8−テトラヒドロ[1,2,4]トリアゾロ[1,5−a]ピリジン(100mg、0.208mmol)を、2−プロパノール(1.6mL)およびアセトニトリル(2.0mL)の混合溶媒に45℃で溶解し、D−DBTA(89.5mg、0.250mmol)のアセトニトリル(1.6mL)溶液を添加した。溶媒温度を60℃とし、種結晶を用いない他は本反応と同様である工程にて得られた表題化合物の種結晶の微量を、その溶液に33℃で添加し、室温で18時間攪拌した。得られた固体を濾取し、アセトニトリル/2−プロパノール=2/1(0.5mL)で洗浄後、50℃で減圧乾燥して、表題化合物(62.3mg、収率35.7%、90.7%de)を得た。化合物9(50.7mg、90.7%de)にアセトニトリル/2−プロパノール=1/1(0.5mL)を加え、その混合液を80℃で25分攪拌後、室温で15時間攪拌した。固体を濾取し、50℃で減圧乾燥し、表題化合物(35.9mg、収率70.8%、98.1%de)を得た。
H−NMR(400MHz;d−DMSO)δ(ppm):
1.90−2.00(1H,m),2.12−2.20(1H,m),2.15(3H,s),2.27−2.32(2H,m),3.98(3H,s),4.27−4.31(2H,m),4.48−4.52(1H,dd,J=5.9,9.5Hz),5.84(2H,s),7.24−7.34(4H,m),7.44−7.51(2H,m),7.56−7.63(5H,m),7.69−7.80(4H,m),7.96−8.00(5H,m).
実施例9
【0066】
(−)−(8S)−2−{(E)−2−[6−メトキシ−5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)ピリジン−2−イル]ビニル}−8−[2−(トリフルオロメチル)フェニル]−5,6,7,8−テトラヒドロ[1,2,4]トリアゾロ[1,5−a]ピリジン(化合物12)の合成
【化36】

【0067】
(−)−(8S)−2−{(E)−2−[6−メトキシ−5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)ピリジン−2−イル]ビニル}−8−[2−(トリフルオロメチル)フェニル]−5,6,7,8−テトラヒドロ[1,2,4]トリアゾロ[1,5−a]ピリジン(2S,3S)−2,3−ビス−(ベンゾイルオキシ)酒石酸(1/1)(20mg、0.024mmol)を酢酸エチル(0.1mL)と5N塩酸水溶液(0.1mL)の混合溶媒に添加して、有機層を分液した。水層に酢酸エチル(0.2mL)と5N水酸化ナトリウム水溶液(0.1mL)を加え、有機層を分液した。有機層を水(0.1mL)で2回洗浄した後、減圧濃縮して、表題化合物(11.5mg、収率99.9%)を得た。(−)の旋光性
実施例10
【0068】
(−)−(8S)−2−{(E)−2−[6−メトキシ−5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)ピリジン−2−イル]ビニル}−8−[2−(トリフルオロメチル)フェニル]−5,6,7,8−テトラヒドロ[1,2,4]トリアゾロ[1,5−a]ピリジン(2S,3S)−2,3−ビス[(2,2−ジメチルプロパノイル)オキシ)コハク酸(1/1)(化合物12のD−DPTA塩)の合成
【化37】

【0069】
(−)−(8S)−2−{(E)−2−[6−メトキシ−5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)ピリジン−2−イル]ビニル}−8−[2−(トリフルオロメチル)フェニル]−5,6,7,8−テトラヒドロ[1,2,4]トリアゾロ[1,5−a]ピリジン(48.0mg、0.10mmol)およびD−DPTA(31.8mg、0.10mmol)を2−プロパノール(1.0mL)中で2.5時間攪拌した。固体を濾取し、2−プロパノールおよびヘプタンで洗浄後、50℃で減圧乾燥して、表題化合物(74.6mg、収率93.4%)を得た。
H−NMR(400MHz;d−DMSO)δ(ppm):1.15(18H,s),1.90−2.00(1H,m),2.12−2.20(1H,m),2.15(3H,s),2.27−2.32(1H,m),3.98(3H,s),4.25−4.34(2H,m),4.49−4.53(1H,dd,J=6.1,9.3Hz),5.41(2H,s),7.23−7.33(4H,m),7.44−7.51(2H,m),7.61(1H,t,J=7.3Hz),7.75−7.79(2H,m),7.93(1H,d,J=1.2Hz).
実施例11
【0070】
(−)−(8S)−2−{(E)−2−[6−メトキシ−5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)ピリジン−2−イル]ビニル}−8−[2−(トリフルオロメチル)フェニル]−5,6,7,8−テトラヒドロ[1,2,4]トリアゾロ[1,5−a]ピリジン(2S,3S)−2,3−ビス[(2,2−ジメチルプロパノイル)オキシ)コハク酸(1/1)(化合物12のD−DPTA塩)の合成(化合物11および化合物12の混合物から)
【化38】

【0071】
2−{(E)−2−[6−メトキシ−5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)ピリジン−2−イル]ビニル}−8−[2−(トリフルオロメチル)フェニル]−5,6,7,8−テトラヒドロ[1,2,4]トリアゾロ[1,5−a]ピリジン(192mg、0.40mmol)を、2−プロパノール(0.64mL)およびアセトニトリル(0.64mL)の混合溶媒に50℃で溶解し、D−DPTA(76.4mg、0.24mmol)のアセトニトリル(0.64mL)溶液を添加した。実施例10にて得られた表題化合物の種結晶の微量を、その溶液に添加し、10℃に冷却した。固体を濾取し、アセトニトリル/2−プロパノール=3/1(1.5mL)で洗浄後、50℃で減圧乾燥して、表題化合物(139.6mg、収率43.7%、86.3%de)を得た。
実施例12
【0072】
(−)−(8S)−2−{(E)−2−[6−メトキシ−5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)ピリジン−2−イル]ビニル}−8−[2−(トリフルオロメチル)フェニル]−5,6,7,8−テトラヒドロ[1,2,4]トリアゾロ[1,5−a]ピリジンの合成(化合物12(化合物12のD−DPTA塩から))
【化39】

【0073】
(−)−(8S)−2−{(E)−2−[6−メトキシ−5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)ピリジン−2−イル]ビニル}−8−[2−(トリフルオロメチル)フェニル]−5,6,7,8−テトラヒドロ[1,2,4]トリアゾロ[1,5−a]ピリジン(2S,3S)−2,3−ビス−(2,2−ジメチルプロパノイルオキシ)コハク酸(1/1)(20mg、0.0250mmol)を酢酸エチル(0.2mL)と5N塩酸水溶液(0.1mL)の混合溶媒に添加して、有機層を分液した。水層に酢酸イソプロピル(0.18mL)、メタノール(0.02mL)および5N水酸化ナトリウム水溶液(0.11mL)を加え、有機層を分液した。有機層を水で3回(0.2mL×2,0.1mL×1)洗浄した後、減圧濃縮して、表題化合物(11.0mg、収率91.4%)を得た。(−)の旋光性
実施例13
【0074】
(−)−(8S)−2−{(E)−2−[6−メトキシ−5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)ピリジン−2−イル]ビニル}−8−[2−(トリフルオロメチル)フェニル]−5,6,7,8−テトラヒドロ[1,2,4]トリアゾロ[1,5−a]ピリジン 2−{[(1R)−1−フェニルエチル]カルバモイル}安息香酸(1/1)の合成(化合物12の(+)−PEPA塩)
【化40】

【0075】
(−)−(8S)−2−{(E)−2−[6−メトキシ−5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)ピリジン−2−イル]ビニル}−8−[2−(トリフルオロメチル)フェニル]−5,6,7,8−テトラヒドロ[1,2,4]トリアゾロ[1,5−a]ピリジン(48.0mg、0.10mmol)および(+)−PEPA(53.9mg、0.20mmol)を、2−プロパノール(1.5mL)に50℃で溶解し、室温まで放冷した。固体を濾取して2−プロパノールで洗浄し、50℃で減圧乾燥して、表題化合物(49.5mg、収率66.0%)を得た。
H−NMR(400MHz,CDCl3)δ(ppm):1.41(3H,d,J=4.9Hz),1.90−2.00(1H,m),2.12−2.20(2H,m),2.14(3H,s),2.25−2.35(1H,m),3.98(3H,s),4.27−4.31(2H,m),4.49−4.53(1H,dd,J=6.1,9.3Hz),5.06−5.14(1H,m),7.19−7.33(6H,m),7.39−7.63(8H,m),7.75−7.78(3H,m),7.87(1H,d,J=1.5Hz),8.69(1H,d,J=8.8Hz).
実施例14
【0076】
(−)−(8S)−2−{(E)−2−[6−メトキシ−5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)ピリジン−2−イル]ビニル}−8−[2−(トリフルオロメチル)フェニル]−5,6,7,8−テトラヒドロ[1,2,4]トリアゾロ[1,5−a]ピリジン 2−{[(1R)−1−フェニルエチル]カルバモイル}安息香酸(1/1)の合成(化合物12の(+)−PEPA塩(化合物11および化合物12の混合物から))
【化41】

【0077】
2−{(E)−2−[6−メトキシ−5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)ピリジン−2−イル]ビニル}−8−[2−(トリフルオロメチル)フェニル]−5,6,7,8−テトラヒドロ[1,2,4]トリアゾロ[1,5−a]ピリジン(96.1mg、0.20mmol)および(+)−PEPA(53.9mg、0.20mmol)を、2−プロパノール(1.0mL)に40℃で溶解し、室温まで放冷した。固体を濾取して2−プロパノールで洗浄し、50℃で減圧乾燥して、表題化合物(47.0mg、収率31.3%、93.2%de)を得た。
実施例15
【0078】
(−)−(8S)−2−{(E)−2−[6−メトキシ−5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)ピリジン−2−イル]ビニル}−8−[2−(トリフルオロメチル)フェニル]−5,6,7,8−テトラヒドロ[1,2,4]トリアゾロ[1,5−a]ピリジン(化合物12(化合物12の(+)−PEPA塩)から)
【化42】

【0079】
(−)−(8S)−2−{(E)−2−[6−メトキシ−5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)ピリジン−2−イル]ビニル}−8−[2−(トリフルオロメチル)フェニル]−5,6,7,8−テトラヒドロ[1,2,4]トリアゾロ[1,5−a]ピリジン 2−{[(1R)−1−フェニルエチル]カルバモイル}安息香酸(100mg、0.133mmol)を酢酸エチル(1.0mL)と5N塩酸水溶液(0.5mL)の混合溶媒に添加して、有機層を分液した。水層に酢酸イソプロピル(0.9mL)、メタノール(0.1mL)および5N水酸化ナトリウム水溶液(0.55mL)を加え、有機層を分液した。有機層を水で3回(1.0mL×2,0.5mL×1)洗浄した後、減圧濃縮して、表題化合物(50.8mg、収率79.3%)を得た。(−)の旋光性
実施例16
【0080】
5−クロロ−2−(2−トリフルオロメチルフェニル)ペンタン酸の合成
【化43】

【0081】
窒素雰囲気下、1Lの三つ口丸底フラスコに2−(トリフルオロメチル)フェニル酢酸20.4gおよび無水THF200mLを充填し、ドライアイス/IPA浴中で−60℃に冷却した後、内温を−50℃以下に維持しながら、n−ヘキシルリチウム(2.3Mヘキサン溶液、43ml)を滴下して加えた。反応液を−60℃で1時間攪拌した。再度、内温を−50℃以下に維持しながら、追加のn−ヘキシルリチウム(2.3Mヘキサン溶液、44ml)を滴下して加えた。得られた黄色の溶液を−60℃で1時間攪拌した後、13mlの1−ブロモ−3−クロロプロパンを滴下して加えた。3時間後、反応液を室温まで昇温し、終夜攪拌した。反応液を0℃に冷却して、内温を15℃以下に維持しながら、300mLの1N水酸化ナトリウム溶液で処理した。添加後10分間撹拌し、液層を分離した。水層を0℃に冷却して、内温を15℃以下に維持しながら、6N塩酸を加えpH2−3に調製した。反応液をトルエン(200mL)で抽出し、トルエン層を水洗(2×80mL)した。有機層を乾燥(硫酸ナトリウム)し、ろ過後、ロータリーエバポレータで濃縮することにより、生成物26.9gを得た。(98%)
H−NMR(400MHz;CDCl)δ(ppm):1.65(m,1H),1.82(m,1H),1.93(m,1H),2.32(m,1H),3.49(m,2H),4.09(m,1H),7.41(m,1H),7.59(m,2H)7.70(m,1H).
実施例17
【0082】
5−クロロ−2−(2−トリフルオロメチルフェニル)ペンタン酸アミドの合成
【化44】

【0083】
100mLの丸底フラスコに5−クロロ−2−(2−トリフルオロメチルフェニル)ペンタン酸5.07g(18.1mmol)のジクロロメタン溶液(50ml)を充填した。フラスコに1N水酸化ナトリウムを含むスクラバーを接続し、DMF(70μL、0.05当量)を加えた。反応混合物を室温で12時間撹拌した。この酸クロリド溶液を0℃に冷却して、高速撹拌し、内温が15℃に維持されるように、2.2mLのアンモニア水(28−30重量%アンモニア)を滴下して加えた。一旦、内温を5−7℃以下に戻した後、室温まで暖めて1時間撹拌した。水(25mL)を加えて20分間撹拌し、液層を分離した。下層の有機層を濃縮して生成物を得た。
H−NMR(400MHz;CDCl)δ(ppm):1.65(m,1H),1.80−2.00(m,2H),2.28(m,1H),3.52(m,2H),3.83(m,1H),5.35−5.58(br,2H),7.38(m,1H),7.57(m,1H),7.65−7.74(m,1H).
実施例18
【0084】
5−クロロ−2−(2−トリフルオロメチルフェニル)ペンタンイミド酸エチルの合成
【化45】

【0085】
25mgの丸底フラスコにトリエチルオキソニウムテトラフルオロボラート(0.851g,4.48mmol,1.24当量)を充填し、ジクロロメタン(1.0mL)に溶解した。この溶液に5−クロロ−2−(2−トリフルオロメチルフェニル)ペンタン酸アミドの13.6重量%ジクロロメタン溶液7.45g(アミド1.014g、3.62mmol、1.0当量)のジクロロメタン溶液(50ml)を加えた。得られた反応混合物を窒素雰囲気下、室温で24時間撹拌した。混合物を1N水酸化ナトリウム(5ml,5.0mmol,1.38当量)で処理して、二層の混合物を10分間撹拌した。二層を分液して有機層を水洗(1x5mL)した。ジクロロメタン(5mL)を加えた後、溶液を濃縮して乾燥し、油状の生成物を得た。
H−NMR(400MHz;CDCl)δ(ppm):1.28(t,3H),1.58−1.69(m,1H),1.75−1.87(m,1H),1.90−2.01(m,1H),2.18−2.28(m,1H),3.48−3.56(m,2H),3.92−3.98(t,1H),4.14(q,2H),7.35−7.43(m,1H),7.55−7.62(m,2H),7.69(d,1H).
実施例19
【0086】
5−クロロ−2−(2−トリフルオロメチルフェニル)ペンタンイミド酸エチル メチル硫酸塩の合成
【化46】

【0087】
25mLの丸底フラスコに5−クロロ−2−(2−トリフルオロメチルフェニル)ペンタン酸アミドの13.6重量%ジクロロメタン溶液6.6g(アミド0.898g、3.2mmol、1.0当量)のジクロロメタン溶液(50ml)を充填した。混合物をロータリーエバポレータでほぼ乾固させ、ジメチル硫酸(0.64mL,6.72mmol,2.10当量)を加えた。フラスコに還流冷却器と窒素導入口を接続して油浴に浸し、70℃に加熱して16時間温度を維持した。混合物を室温に冷却し、MTBE(5ml)を加えた。溶液を0℃に冷却して1時間この温度を維持し、この間に白色固体の沈殿が生成した。混合物を0℃でろ過して湿潤ケークを冷MTBE(0℃)(2x0.5mL)で洗浄後乾燥した。白色固形物のメチル硫酸塩(0.916g)が70%の収率で得られた。
H−NMR(400MHz;CDCl)δ(ppm):1.62−1.74(m,1H),1.84−1.96(m,1H),2.31−2.46(m,2H),3.52−3.60(m,2H),3.76(s,3H),4.25(s,3H),4.55−4.58(m,1H),7.46−7.52(t,1H),7.64−7.75(m,3H).
【0088】
本発明は、その具体的な実施形態に言及して説明されているが、種々の変更を加えることができ、本発明の真の意図および範囲を逸脱することなく等価物で置き換えてよいことが当業者には理解されるはずである。さらに、多くの改変を加えて、本発明の意図および範囲に特定の状況、材料、組成物、方法、方法の工程を適合させてよい。このような改変の全ては、本明細書に添付される特許請求の範囲の範囲内であることを意図する。さらに、上記で引用した全ての特許および出版物は、本明細書に参照により組み込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明は、非ペプチド性化合物で、APPからAβ42の産生を強力に抑制する化合物12のような化合物の新規な製造方法を提供する。
また、本発明は、化合物12のような化合物を製造するための中間体の改良製造法、および立体異性体混合物中から実質的に立体化学的に純粋な化合物12を調製するための改良製造法を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)以下に示す、式Iの化合物と式IVの化合物とを反応させることにより、化合物11および12の混合物を生成させる工程
【化1】

[式中、Xは脱離基であり、Rは直鎖もしくは分枝C1−C6アルキル基または直鎖もしくは分枝C2−C6アルケニル基であり、炭素原子1の立体化学がRおよびS異性体の混合物である];
b)化合物11および12の混合物をキラルなカルボン酸化合物と処理することによる、化合物11および12のジアステレオマー塩混合物を生成させる工程;
c)化合物11および12のジアステレオマー塩溶液から生成した化合物12のジアステレオマー塩を結晶化させる工程;
d)得られた化合物12のジアステレオマー塩から、化合物12を生成させる工程、
を含む、実質的に立体科学的に純粋な化合物12((−)−2−{(E)−2−[6−メトキシ−5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)ピリジン−2−イル]ビニル}−8−[2−(トリフルオロメチル)フェニル]−5,6,7,8−テトラヒドロ[1,2,4]トリアゾロ[1,5−a]ピリジン)の製造法。
【請求項2】
以下に示す、式Iの化合物またはその塩と式IVの化合物またはその塩とを反応させる工程;
【化2】

[式中、X、Rおよび炭素1の立体配置は請求項1に定義した通りである]
を含む、化合物11および化合物12の混合物の製造法。
【請求項3】
反応が、メタノール、テトラヒドロフランまたはそれらの混合溶媒中、イミダゾールまたは酢酸ナトリウム存在下で行われ、その後任意にトリエチルアミンを付加してもよい、請求項1または2に記載の製造法。
【請求項4】
a)化合物11((+)−2−{(E)−2−[6−メトキシ−5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)ピリジン−2−イル]ビニル}−8−[2−(トリフルオロメチル)フェニル]−5,6,7,8−テトラヒドロ[1,2,4]トリアゾロ[1,5−a]ピリジン)および12の混合物をキラルなカルボン酸化合物と処理することによる、化合物11および12のジアステレオマー塩混合物を生成させる工程;
b)化合物11および12のジアステレオマー塩溶液から生成した化合物12のジアステレオマー塩を結晶化させる工程;
および
c)得られた化合物12のジアステレオマー塩から、化合物12を生成させる工程、
を含む、実質的に立体科学的に純粋な化合物12((−)−2−{(E)−2−[6−メトキシ−5−(4−メチル−1H−イミダゾール−1−イル)ピリジン−2−イル]ビニル}−8−[2−(トリフルオロメチル)フェニル]−5,6,7,8−テトラヒドロ[1,2,4]トリアゾロ[1,5−a]ピリジン)の製造法。
【請求項5】
キラルなカルボン酸化合物が、D−ジベンゾイル酒石酸(D−DBTA)、D−ジピバロイル酒石酸(D−DPTA)および(+)−N−(1−フェニルエチル)フタルアミド酸である、請求項1、3および4の任意の1項に記載の製造法。
【請求項6】
溶媒が、2−プロパノールおよびアセトニトリルの混合溶媒である、請求項1、3、4および5の任意の1項に記載の製造法。
【請求項7】
溶媒が、メタノールおよびアセトニトリルの混合溶媒である、請求項1、3、4および5の任意の1項に記載の製造法。
【請求項8】
化合物12を調製する前に、化合物12のジアステレオマー塩の第二の結晶化工程をさらに含む、請求項1、3、4、5、6および7の任意の1項に記載の製造法。
【請求項9】
第二の結晶化に用いる溶媒が、2−プロパノールおよびアセトニトリルの混合溶媒である、請求項8記載の製造法。
【請求項10】
化合物12のD−DBTA塩。
【請求項11】
化合物12のD−DPTA塩。
【請求項12】
化合物12の(+)−N−(1−フェニルエチル)フタルアミド酸((+)−PEPA)塩。
【請求項13】
式Iの化合物またはその塩;
【化3】

[式中、X、Rおよび炭素1の立体配置は請求項1に定義した通りである]。
【請求項14】
式IIIの化合物またはその塩;
【化4】

[式中、Zは水素または窒素保護基を意味する]。
【請求項15】
Zが水素原子である、請求項14記載の式IIIの化合物またはその塩。
【請求項16】
a)下記に示す、2−(トリフルオロメチル)フェニルアセトニトリルと化合物X(CHとを反応させることによる式VIの化合物を生成する工程
【化5】

[式中、XおよびXは脱離基を意味する]と、
b)下記に示す、式VIの化合物とROHとを酸存在下で反応させることにより式VIの化合物を生成する工程、
【化6】

ここで、X、R、および炭素原子1の立体化学は請求項1で定義した通りである、
とを含む、式I記載の化合物の製造法。
【請求項17】
酸が、低級アルカノイルハライド、チオニルクロリドまたはトリメチルシリルハライドをROHと反応させることにより系内で調製される、請求項16記載の製造法。
【請求項18】
a)N’保護アクリロヒドラジドまたはその塩と式IIの化合物またはその塩とを、以下に示す通り、パラジウム触媒、置換ホスフィンPRおよび塩基存在下、反応させることによる式IIIの化合物またはその塩を生成する工程、
【化7】

[式中、Yは脱離基であり、Rは、直鎖もしくは分枝のC1−C6アルキルであるか、または置換されてもよいフェニル基である]と、
b)以下に示す通り、式IIIの化合物の保護基を除去することにより式IVの化合物を生成する工程
【化8】

とを含む、
化合物IVまたはその塩を製造する方法。
【請求項19】
式(IV)に示す化合物の二塩酸塩が、式(III)の化合物を1−プロパノール中で塩酸と反応させることにより生成される、請求項18記載の製造法。
【請求項20】
式II記載の化合物またはその塩、
【化9】

ここで、Yは請求項18に記載された通りである。
【請求項21】
Yが臭素原子である、請求項20記載の化合物。

【公表番号】特表2012−501336(P2012−501336A)
【公表日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−525177(P2011−525177)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【国際出願番号】PCT/US2009/055079
【国際公開番号】WO2010/025197
【国際公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(506137147)エーザイ・アール・アンド・ディー・マネジメント株式会社 (215)
【Fターム(参考)】