説明

シートのたるみ評価方法および評価装置

【課題】比較的構造が簡単でメンテナンスが容易な装置を用いて、精度よくシートのたるみを評価すること。
【解決手段】空間を移送されるシート1の表面にタッチローラー2を押し当て、該タッチローラーの変位量を測定することにより、タッチローラーを押し当てた位置におけるシートのたるみを評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートのたるみを評価する方法およびシートのたるみを評価するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シートは現代社会において様々な分野で利用されており、多種多様な材料組成のシートが工業的に生産されている。そして、利用される対象物や使用態様等に応じて様々な規格品が提供されている。例えば、厚みが一定で、長手方向や幅方向の長さが一定であるシートが製造されている。しかしながら、このような規格品のシートであっても、生産時や保管時の条件等によってシートにたるみが生じているものもある。これは一端から他端までの長さが本来一定であるはずのシートが、両端に張力をかけたときに長さにムラがあることによるものである。例えば、長手方向の長さにムラがあると、幅方向にたるみが生じてしまう。このようなたるみを有するシートを巻き取ると、巻き固さに差があるため、巻き上げたロールが変形したり皺が生じたりしてしまう。また、このようなシートを利用したり、対象物に適用したりすると様々な不具合を生じてしまう。例えば、印刷に利用する場合は、トンボが合わず、多色刷りの場合は印刷ずれが生じてしまう。
【0003】
このようにたるみがあるシートは種々の問題を生じることから、シートの製造段階や出荷前にシートのたるみを評価することが必要とされている。特に、シートを連続製造したり連続処理したりするために移送しながらシートのたるみを評価することが工業的に求められている。
【0004】
このような移送中のシートのたるみを評価する方法として、例えば、シートを移送するローラー上に設けられたエアーテーブルの頂部にある複数の孔からシートに向けて圧縮空気を送出してたるみの程度を評価する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この方法では、エアーテーブルとシートの間にシート張力に応じた空気の漏れが生じ、その漏れ量に応じて空気吹出口に圧力変化が生じる。この圧力を空気圧センサーで計測することにより、幅方向のシート張力に応じた圧力値が得られる。これをグラフ化すれば、シート幅方向の張力プロファイルが得られ、幅方向のたるみを評価することができる。
【0005】
移送中のシートのたるみを評価する別の方法として、内筒と多数の分割された外筒からなる二重構造ローラーを用いてたるみの程度を評価する方法もある(例えば、特許文献2参照)。この方法では、外筒は内筒の空気孔から供給される空気により浮遊状態で保持される。ここにシートを抱かせて走行させると、外筒はシート張力に応じた力で押し下げられる。すると外筒と内筒の間の空隙が変化して、シートに接している上部とシートに接していない下部(Pb)とで圧力差が生ずる。これを空気圧センサーで計測し、その差からシート張力に応じた測定結果を得る。これをグラフ化すれば、シート幅方向の張力プロファイルが得られ、幅方向のたるみを評価することができる。
【特許文献1】特開2001−33229号公報
【特許文献2】実公平3−11691号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これらの従来法には解決すべき課題がある。
【0007】
エアーテーブルによる第1の方法には、空気吹出口に空気中の汚れ成分が付着して孔径が変化し、測定誤差が生じてしまうという課題がある。このため、定期的な掃除等が必要となり、メンテナンスに時間を必要とする。また、空気吹き出し口より出た空気は、シート移送方向にのみ流出するのではなく幅方向にも流れて互いに干渉が生じるため、幅方向のたるみ評価の信頼性が落ちるという原理的な問題もある。
【0008】
また、二重構造ローラーを用いる第2の方法には、ローラーの構造が複雑で製作が困難であるという課題がある。特に、幅方向の分割数を多くすることは構造上困難である。また、エアーノズルや、外筒と内筒の中間部に空気中の汚れ成分が溜まると測定誤差が生じるという課題もあり、その掃除は困難でメンテナンス性が悪いという問題もある。
【0009】
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、比較的構造が簡単でメンテナンスが容易な装置を用いて、精度よくシートのたるみを評価することを目的として検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために鋭意検討を行なった結果、本発明者らは、移送されるシートの表面にタッチローラーを押し当てて、タッチローラーの変位量を測定することにより、簡便に精度よくたるみを評価することができることを見出した。すなわち、課題を解決する手段として、以下の本発明を提供するに至った。
[1] 空間を移送されるシートの表面にタッチローラーを押し当て、該タッチローラーの変位量を測定することにより、タッチローラーを押し当てた位置におけるシートのたるみを評価する工程を含むことを特徴とするシートのたるみ評価方法。
[2] 前記シートの幅方向に複数の測定点を設け、各測定点においてタッチローラーの変位量を測定して、幅方向のたるみプロファイルを作成することを特徴とする[1]に記載のシートのたるみ評価方法。
[3] 前記複数の測定点にそれぞれタッチローラーを押し当てて、各タッチローラーの変位量を測定することにより、幅方向のたるみプロファイルを作成することを特徴とする[2]に記載のシートのたるみ評価方法。
[4] 前記シートの幅方向にタッチローラーを移動させて前記複数の測定点におけるタッチローラーの変位量を測定することにより、幅方向のたるみプロファイルを作成することを特徴とする[2]に記載のシートのたるみ評価方法。
[5] 前記タッチローラーの変位量を、接触式の力センサー、または接触式もしくは非接触式の変位センサーにより測定することを特徴とする[1]〜[4]のいずれか一項に記載のシートのたるみ評価方法。
[6] 前記力センサーが、歪みセンサー、またはピエゾを利用した圧電センサーであることを特徴とする[5]に記載のシートのたるみ評価方法。
[7] 前記変位センサーが、レーザ光、赤外光もしくは超音波を利用した測距センサー、磁気センサー、差動トランス、またはリニアゲージであることを特徴とする[5]に記載のシートのたるみ評価方法。
[8] 前記タッチローラーの変位量の測定を、タッチローラーを支持する部材にかかる歪みを計測することにより行うことを特徴とする[1]〜[7]のいずれか一項に記載のシートのたるみ評価方法。
[9] 前記タッチローラーが板バネの一端に固定されており、該板バネの他端に歪センサー付き支持体が固定されており、該歪センサーにより支持体の歪みを計測することによりタッチローラーの変位量を測定することを特徴とする[8]に記載のシートのたるみ評価方法。
[10] 第一ローラーと該第一ローラーから離れた位置に第二ローラーを設置し、前記シートを第一ローラーと第二ローラーが同方向に回転するように接触させながら、第一ローラーから第二ローラーへ向けて移送し、前記タッチローラーを第一ローラーと第二ローラーとの区間に配置することを特徴とする[9]に記載のシートのたるみ評価方法。
[11] 前記タッチローラーによる変位量の測定前に、前記タッチローラーを何にも接触しない状態で前記第一ローラーの直下に移動させ、次いで前記歪みセンサーによる前記支持体の歪みを計測しながら前記タッチローラーを上方向に垂直移動させ、前記タッチローラーが前記第一ローラーに接触して歪みの計測値が変化し始める点をもって、前記歪みセンサーの零点とすることを特徴とする[10]に記載のシートのたるみ評価方法。
[12] 前記タッチローラーによる変位量の測定前に、前記タッチローラーを何にも接触しない状態で前記第一ローラーの直下に移動させ、次いで前記歪みセンサーによる前記支持体の歪みを計測しながら前記タッチローラーを上方向に垂直移動させ、前記タッチローラーが前記第一ローラーに接触して歪みの計測値が変化し始める点から、垂直方向移動量を数段階に変位させて歪みの計測値を読み取り、次いでこの読み取り値が前記タッチローラーの変位量となるように利得パラメータを補正して、前記歪みセンサーの感度合わせとすることを特徴とする[10]または[11]に記載のシートのたるみ評価方法。
[13] 張力センサーを用いてシートの張力を測定し、測定した張力により前記タッチローラーの変位量の測定結果を補正することを特徴とする[10]〜[12]のいずれか一項に記載のたるみ評価方法。
[14] シートを移送するために互いに離れた位置に設置された2つのローラー、該2つのローラー間に移送されるシートの表面に押し当てることができるタッチローラー、該タッチローラーのシート面に垂直な方向の変位量を測定する手段を含むシートのたるみ評価装置。
[15] 前記タッチローラーが板バネの一端に固定されており、該板バネの他端に歪センサー付き支持体が固定されており、該支持体に支持体の歪みを計測する歪センサーが設置されていることを特徴とする[14]に記載のシートのたるみ評価装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明のたるみ評価方法によれば、シートを移送しながら精度よく簡便にシートのたるみを評価することができる。また、本発明のたるみ評価装置は、比較的構造が簡単でメンテナンスが容易であり、なおかつ精度よくシートのたるみを評価することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下において、本発明のシートのたるみ評価方法および評価装置について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
(評価対象となるシート)
本発明のたるみ評価方法は、シートのたるみを張力がかかった状態で(例えば移送しながら)評価する方法である。シートは、使用されるまでの間のさまざまな段階で移送される。例えば、シートを製造後にロール状に巻き取ったり、巻き取られたシートを別の巻き芯に巻き替えたり、ロール状のシートを使用時に引き出したりする際に、シートは長手方向に移送される。また、シートに表面処理を施したり、シートを対象物に適用したりする際にもシートは移送される。このように空間を移送されるシート、すなわち連続したシートであってローラー等を介して長手方向に移送されるシートに対して、本発明のたるみ評価方法は幅広く適用することができる。本発明のたるみ評価方法はシートを移送しながら適用することが可能であることから、実際のシート製造ラインやシート加工ラインに適用しやすく、工業上の利用可能性が高いという特徴を有する。
【0013】
シートの移送は、シートに張力をかけながら行う。通常は、移送方向に張力をかけながら移送する。例えば、回転する駆動ローラーにシートをかけ、或いは回転する駆動ローラーとニップローラーとの間にシートを挟み、或いは巻き取り装置により、シート移送方向に張力をかけつつ空間を移送する態様が挙げられる。移送速度は、例えば5〜2,000m/minにすることができ、10〜350m/minにすることが好ましく、30〜200m/minにすることが特に好ましい。本発明のたるみ評価方法は、このように空間を移送中のシートに対して適用することができる。ここでいう「空間を移送」とは、シートの表裏面に何も接触していない状態で移送することを意味する。したがって、台座の上にシートを搭載してシートを移動させる態様等は含まれない。
【0014】
本発明の評価対象となるシートの材質は特に制限されない。例えば、プラスチック、紙、金属などの材料から構成されるシートを挙げることができ、なかでもプラスチックや紙から構成されるシートに好ましく適用することができる。シートの厚みも特に制限されないが、通常は10μm〜1mm、好ましくは30μm〜350μmのシートに対して適用する。本発明の評価方法は、空間を移送可能であればさまざまな形状のシートに対して適用可能である。典型的な形状は、一定の幅を有しており、その幅よりも長い長手方向を有するシートである。工業的にはロールに巻き上げることができるシートに好ましく適用される。
(タッチローラーと変位量測定機構)
本発明の評価方法では、空間を移送中のシートの表面にタッチローラーを押し当てる。
【0015】
タッチローラーは、移送されるシートに接触したときに移送方向に自在に回転する回転体とその回転体を回転させるための軸を少なくとも有する。タッチローラーの材質は特に制限されない。好ましくは応力による変形がほとんど無く耐磨耗性の良好な材質であり、例えば金属、鉱物、セラミック、ガラス、エンジニアリングプラスチックなどの材料から構成させるタッチローラーを挙げることができ、なかでもステンレスなどの金属から構成されるタッチローラーを好ましく適用することができる。タッチローラーを構成する回転体の形状は特に制限されないが、シートに局所的な負荷が集中することを避けるためにある程度の幅を有していることが好ましい。例えば10〜100mm程度に設定することができるが、この範囲内であれば30〜100mmに設定することがシートの傷つき防止の観点から好ましい。また、同じ観点から、回転体のシート接触側表面は中央部が平坦で両側部に向かってテーパーが施されていることが好ましい。回転体は、自在に回転してシートの移送を阻害しないように構成される。回転体が回転しやすくなるように、ボールベアリングや、オイルベアリング等の流体を利用した軸受よりなるベアリング機構を備えていてもよい。タッチローラーは、移送されるシートの張力に応じてシート面に対して垂直またはほぼ垂直な方向に移動することができるようになっており、移送するシートに押し当てたときにシートのたるみに応じた力を受けて変位する。本発明の評価方法では、このときの垂直方向のタッチローラーの変位量を測定する。
【0016】
図1は、図の左から右方向へ移送されるシート1に対して上向きにFaの力でタッチローラー2を押し当てた状態を示したものである。シートは張力をかけて移送されているため、タッチローラー2にはその張力によるFfとFbで合成される力Ftが下向きにかかる。このとき、上向きの力Faと下向きの力Ftが等しくなければ、タッチローラー2は上下いずれかの方向に移動し、これらの力が等しくなった地点で停止する。タッチローラーを押し当てる力Faを常に一定にしておけば、タッチローラーの停止位置はシート1にかかる張力の大きさに応じて決まる。すなわち、シート1がたるんでいる箇所ではタッチローラーが受ける張力は小さいため、タッチローラー2は上方で停止することとなり、逆にシート1のたるみが少ない箇所ではタッチローラーが受ける張力が大きくなるため、タッチローラー2は下方で停止することとなる。本発明では、このようなタッチローラーの上下の変位量を測定することにより、シートのたるみを評価するものである。
【0017】
なお、シートの移送方向とタッチローラーを押し当てる方向は、必ずしも図1に示す方向に限定されない。例えば、図1においてタッチローラーをシート上方から下向きに押し当ててもよい。また、シートを下方から上方に鉛直方向に移送させ、タッチローラーを水平方向からシートに押し当ててもよい。また、シートに対してタッチローラーを押し当てる角度は、通常はシート面に対して垂直またはほぼ垂直とする。このようにして押し当てられたタッチローラーは、シートのたるみに応じて、シート面の垂直方向またはほぼ垂直方位に変位することができる。
【0018】
本発明でいうタッチローラーの変位量は、特定の基準点からの距離を意味する。基準点の定め方は特に制限されないが、シートにたるみが無い状態を理想状態として、この際のタッチローラーの変位量をゼロとすることが好ましい。より具体的には、タッチローラーの変位量は、ローラー(バックアップローラー)に接する点を零点として、その零点を基準として測定される変位量とすることが好ましい。
【0019】
タッチローラーの変位量を測定する機構として、例えば図2に示す機構を例示することができる。図2に示す機構では、回転体3、軸4、軸支持体5からなるタッチローラー2が板バネ6の左端上に固定されている。軸4は軸支持体5に固定され、軸4を中心として回転体3が自在に回転できるようになっている。ここで、軸4と軸支持体5は同一材料からなる一体の部材であってもよい。軸支持体5の底面は板バネ6の左端上面にビス(図示せず)で固定されているが、図3に示すように回転軸18によりタッチローラー2が自在に回転するように構成されていてもよい。また、板バネ6の右端下面は、水平板8と垂直板9が連接してなるL字形状の支持板7の水平板8の上面にビス(図示せず)で固定されている。垂直板9の下端は金属製の固定板10に固定されており、固定板10は水平方向および垂直方向にモーターで移動させることができる移動装置にさらに固定されている。固定板10上には、測距センサー11がタッチローラー2の下方に位置するように取り付けられている。測距センサー11は、下向きの圧力を受けて変位するタッチローラー2の変位量を光(レーザ)12、赤外光、超音波等により測定する。このような図2の機構によれば、タッチローラーの変位量を直接的に測定することができる。
【0020】
図2に示す機構は、当業者に自明なように種々の改変を加えることが可能である。例えば、板バネ6の代わりにアーム機構とスプリングを用いた機構などを採用することが可能である。また、非接触の測距センサー11の代わりに、接触式の差動トランス、接触式もしくは非接触式のリニアゲージ、非接触式の磁気センサー等の変位センサーを採用してもよい。
【0021】
タッチローラーの変位量を測定する別の機構として、例えば図4に示す機構を例示することができる。図4の機構では、測距センサー11の代わりに、垂直板9に歪センサー13が取り付けられている。タッチローラー2が下向きの圧力を受けると、板バネ6の左端が下向きにたわみ、それに応じて支持板7を構成する垂直板9が歪み、歪センサー13が歪み量を感知する。歪センサー13は歪ゲージのように感知した歪み量を電圧として出力する。このときの電圧は、図2の機構により測定されるタッチローラーの変位量と線形な関係にあることが確認されている。したがって、あらかじめ電圧と変位量との関係式を求めておくことにより、図4の機構でタッチローラーの変位量の絶対値を求めることが可能である。なお、本発明においてシートのひずみを評価するためには、タッチローラーの変位量の絶対値を換算することは必ずしも必要とされない。このため、図4の機構による電圧のように、タッチローラーの変位量と線形な関係にあるデータを取得する場合も、本発明でいう「タッチローラーの変位量を測定する」という概念に含まれる。図4に示す機構を採用すれば、紙粉などの粉塵によって測定誤差や障害を生じにくいため、安定な測定を行うことができる。
【0022】
なお、図4に示す機構についても、変位量の測定を目的として、当業者に自明なように種々の改変を加えることが可能である。例えば、タッチローラーから伝わる変位量を、歪センサー13の代わりに取付けたピエゾ効果を利用した圧電センサー等によって測定することも可能である。このように、直接力を感知するセンサーをここでは力センサーと総称する。
【0023】
図5は、タッチローラーの設置位置を移動させるための機構の一態様を示す側面図である。ここでは、図の左右方向をx方向、紙面に垂直な方向をy方向、図の上下方向をz方向と規定している。タッチローラーのz方向の移動は、z方向移動用モーター14と、外周に雄ねじを刻設したスクリュー15と、その雄ねじに螺合する雌ねじを貫通させた固定板10を含む機構によりなされる。すなわち、z方向移動用モーター14によりスクリュー15を回転させることによって、固定板10およびタッチローラーをz方向へ移動させる。同様にして、x方向移動用モーター16によりスクリュー17を回転させることによって、タッチローラーをx方向へ移動させる。図示していないが、同じ機構によりy方向へも移動させることも可能である。また、y方向への移動にはスクリュー以外にタイミングベルトやスティルベルトを利用することも可能である。
(制御機構と出力機構)
次に、タッチローラーの変位量測定機構に対する制御機構と出力機構について説明する。ここでは一例として、図4の変位量測定機構に対する制御機構と出力機構について図6を参照しながら説明する。
【0024】
図6の制御機構21はCPU(中央処理装置)23、A/Dコンバーター24、モータードライバー25、張力センサー28、A/Dコンバーター29からなり、出力機構22はディプレイ26、プリンター27からなる。CPU23は、モータードライバー25に指令を送り、タッチローラー2をシート1に押し当てる位置決めを行う。移送されるシートのたるみに応じてタッチローラー2が下向きの圧力を受け歪みセンサー13がそれを電圧として出力すると、A/Dコンバーター24は出力データをデジタルデータに変換しCPU23へ導く。また、ローラーR2にかかるシート張力を張力センサー28が測定し、その測定値をA/Dコンバーター29がデジタルデータに変換しCPU23へ導く。CPU23にて適切な補正等を行った後、出力回路にしたがってデータを数値化ないしグラフ化してディスプレイ26に表示させ、プリンター27によりそれらを印刷させる。
(シートのたるみ評価手順)
変位量測定機構、制御機構、出力機構を備えた装置を用いて、タッチローラーを空中を移送されるシートの表面に押し当ててシートのたるみを評価する手順を具体的に説明する。ここでは説明の便宜上、シートの移送方向をx方向、シートの幅方向(シート面内における移送方向に直交する方向)をy方向、シート面に直交する方向をz方向とする。また、変位量測定機構として図4に示す機構を例にとって説明する。
【0025】
まず、実際に計測を行う前にセンサーの感度合わせと零点調整を行う。タッチローラーが何も接触していない状態で歪センサー13の出力をA/Dコンバータ24を介して取り込んだ歪センサー出力値を零データとして読み取り、このセンサー出力値を記録して以降の零補正に用いる。x軸移動用モーター16でタッチローラーをバックアップローラー30の直下に移動させる(図7左の位置)。次いで図6に示すz方向移動用モーター14でタッチローラーを上方向に移動させ、A/Dコンバータ24で歪センサー出力値を読み取りながら歪センサー出力値が変化し始めるポイントを探す。接触し始めた点からモーターの送り量を数段階でバックアップローラーに押し付け各位置における出力値を記録する。この記録値を理想とする出力特性と比較し不足すれば読取値を補正する利得パラメータを上げ、逆ならば下げて補正する。この動作は、本発明のたるみ評価に使用する全ての歪センサーに対して実施する。また、これらの一連の動作は予めコンピュータにプログラムとしておき、CPU23の指令によりモータードライバー25やA/Dコンバーター24を介して自動で実施させることが可能である。
【0026】
感度合わせと零点調整を行った後、各タッチローラーの位置をバックアップローラー直下から測定ポイントに移動させる(図7右の位置)。このときx方向とz方向に移動させるのが一般的であるが、y方向にも移動させてもよい。z方向の移動により、タッチローラーがシートに押し当てられることになる。タッチローラーが接触していないときのシートパスライン31に対して、タッチローラーは図7のhで示す分だけ高い位置に設置して測定を行う。歪センサーの出力電圧は、タッチローラーがシートからの圧力を受けていないときに0Vであり、シートにより下向きの圧力を受けているときに0Vを超え5V以下の電圧を増幅器を介して出力するように調整することが好ましい。また、移送されるシートを連続的に測定している間の平均電圧は、2〜3Vとなるように調整することが好ましい。このような調整は、歪センサーの出力レベルを見ながら測定ポイントを決定することにより行うことができる。各歪センサーからの出力値は上記のとおりA/Dコンバーター24を介してCPU23に取込まれる。
【0027】
歪センサーからの出力データは、CPU23において補正される。このとき、シート張力による補正を行うことが好ましい。シートは張力をかけて移送されているため、図1に示すように、タッチローラー2にはその張力によるFfとFbで合成される力Ftが下向きにかかる。張力が常に一定であれば力Ftは一定であるが、実際のシート製造ライン等においてはシートにかかる張力は温度変動等の外乱要因により常に変動する。このため、シートを移送するために用いているローラーを介してシートの張力をセンサー28で測定し、その測定値をA/Dコンバーター29でデジタルデータに変換してCPU23に導く。CPU23において、シート張力に応じて歪センサーからの出力データを補正することにより、シートのたるみをより精度よく評価することが可能になる。特にシート移送方向のたるみのトレンドを評価する際には、この補正は有用である。
【0028】
CPU23において補正されたたるみデータは、ディスプレー26に数値或いはグラフで表示させ、プリンター27により印刷することができる。得られたたるみデータは、たるみを修正するために各種機器の制御を行ったり、シートの実用性評価に用いたりして利用することができる。
(測定位置)
本発明のたるみ評価方法によれば、移送されるシートの所望の位置でたるみを評価することができる。例えば、移送されるシートの中央部のたるみをモニターしたい場合は、シート中央部にタッチローラーを押し当ててたるみを評価することができる。また、シートの複数箇所のたるみを同時にモニターしたい場合は、タッチローラーを測定箇所の数だけ用意して連続的に複数箇所のたるみを評価することができる。このとき、シートの幅方向にタッチローラーを適当な間隔を空けて配置して測定すれば、幅方向のたるみプロファイルを得ることができる。例えば、幅500mmのシートのたるみを評価するために、幅方向に5個のタッチローラーを並設して本発明を実施することができる。
【0029】
タッチローラーは必ずしも特定の位置に固定して測定する必要はなく、シート面内を移動させながら測定してもよい。例えば、シートの幅方向に移動させながら各箇所の測定をすることにより、幅方向のたるみプロファイルを得てもよい。このとき、複数のタッチローラーを同時に移動させながら測定すれば効率よくたるみプロファイルを得ることができる。例えば、2個の可動式タッチローラーを用意しておき、一方のタッチローラーは移送シートの幅方向の中央部から一端までを往復運動しつつ測定し、他方のタッチローラーは移送シートの幅方向の中央部から他端までを往復運動しつつ測定する態様を挙げることができる。この方式は、n個の可動式タッチローラーを用いて、幅方向をn等分して測定する方法として一般化することができる。
(評価)
本発明にしたがって得られたタッチローラーの変位量に基づいて、シートのたるみを評価することができる。ここでいう評価とは、たるみに関するシートの価値を判断することを指し、極めて広い概念を意味する。例えば、タッチローラーの変位量の絶対値に応じてたるみの大きさを評価してもよいし、タッチローラーの変位量の変動幅に基づいてたるみの振れ幅を評価してもよい。また、温度や湿度などの条件を変えて測定したときのタッチローラーの変位量に基づいて環境によるたるみの変化を評価してもよいし、シートを構成する材料の違いによるタッチローラーの変位量の測定結果の違いに基づいて材料のたるみ易さを評価してもよい。
【0030】
本発明にしたがって作成された幅方向のたるみプロファイルは、特定の長さに切断したシートに長手方向の張力をかけたときの幅方向の長さプロファイルと相関がある。このため、本発明の評価方法は、このような張力下におけるシートの長さムラの検出や評価、および該評価に連動したシートのたるみの改善にも利用することが可能である。
【0031】
本発明のたるみ評価方法は、再現性に優れている。例えば、シートを巻き上げたロールを用いて、まずシートを展開しながらタッチローラーの変位量を測定し、次いで同じシートを巻き上げてロールとし、さらに再びシートを展開しながら測定しても測定結果として得られる変位量やプロファイルはほぼ同等である。また、本発明のたるみ評価方法は、タッチローラーの形状や板バネを変更することにより、シートに新たなたるみを生じさせたり、表面に傷を生じさせたりすることもない。
【実施例】
【0032】
以下に実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
(実施例1)
厚み80μm、幅3,300mmのポリプロピレン製シートを第一ローラーR1,第二ローラーR2を介して図8のAに示す方向へ85mm/秒の速度で移送させた。図4に示すタッチローラーを8台用意し、図8のBに示す方向からシートに押し当てた。8台のタッチローラーは、移送されるシートを図8のBに示す方向から見た図9(a)のP1〜P8に示す箇所にそれぞれ押し当てた。P1〜P8にタッチローラーを配置にすれば、第一ローラーR1と第二ローラーR2の間隔が短くても測定が可能であり、限られたスペースを有効に効率よく利用することができる。また、第一ローラーR1と第二ローラーR2の間隔を短くできれば、たるみ測定精度を一段と高めることができる。8台のタッチローラーはそれぞれ零点補正および感度補正済みであり、いずれもコロの幅は50mmである。タッチローラーのシート接触側表面は中央部が平面で両側部に向かってテーパーが施されている。また、タッチローラーはシートパスラインから5mm上方に移動させることにより押し当てた。移送されるシートによりタッチローラーが下方に押し下げられたとき、押し下げ量1mmあたり歪センサーは増幅器を介して1Vを出力するように調整した。この状態で各タッチローラーの変位量を40分間にわたって測定し、その平均値を計算し、横軸にP1〜P8の幅方向のシート端部からの距離をとり、縦軸に各箇所におけるタッチローラーの平均変位量をとったグラフを表示させ、幅方向のたるみプロファイルを得た。
(実施例2)
P1〜P8の代わりに、図9(b)のP11〜P18の箇所に各タッチローラーを押し当てたこと以外は、実施例1と同様にして計測を行い、幅方向のたるみプロファイルを得た。図9(b)のP11〜P18に示すように互い違いにタッチローラーを押し当てることにより、タッチローラー同士の接触を避けながら幅方向の間隔が密なたるみプロファイルが得やすくなり、より精密な幅方向のたるみ評価が可能になる。
(実施例3)
P1〜P8の固定点でタッチローラーを押し当てる代わりに、2台のタッチローラーを用意して図9(c)のQ1とQ2の領域において各タッチローラーを往復させたこと以外は、実施例1と同様にして計測を行い、幅方向のたるみプロファイルを得た。往復回数は1回/分とした。このとき、2台のタッチローラーは互いに同じ方向に移動して、2台の間隔が常に一定に維持されるようにして互いの接触を回避した。このような態様を採用することにより、少ない台数のタッチローラーで効率よくたるみ評価を行うことが可能になる。
(実施例4)
Q1とQ2の領域の代わりに、図9(d)に示すQ11とQ12の領域を往復させたこと以外は、実施例3と同様にして計測を行い、幅方向のたるみプロファイルを得た。このような態様を採用することにより、2台のタッチローラーの接触を回避しながら互いに自由にタッチローラーを往復させることができる。
(実施例5)
P1〜P8の代わりに、幅方向の中央部にタッチローラーを1台押し当てたこと以外は、実施例1と同様にして計測を行った。タッチローラーの変位量の1分ごとの平均値を計算し、横軸に時間、縦軸に各時間におけるタッチローラーの平均変位量をとったグラフを表示させ、長手方向のたるみプロファイルを得た。この態様を採用することにより、長手方向のたるみの変化を知ることができる。
【0033】
実施例5の態様は、実施例1〜4と同時に行うことも可能である。
(実施例6)
実施例1〜5のそれぞれについて、温度条件および/または湿度条件を変更して同じシートのたるみプロファイルを得た。これによって、シートが置かれた環境条件の変化によってシートのたるみがどのように変化するのかを知ることができる。また、いったん温度条件および/または湿度条件を変更した後に、再び元の条件に戻して再測定を行うことにより、たるみ変化の復元性(可逆性)やたるみの解消具合を評価することができる。
(その他)
上記実施例1〜5のたるみ評価をそれぞれ複数回実施したが、いずれも再現性は良好であった。また、ロール状のシートを展開し、巻き上げ、再び展開し、巻き上げて、それぞれの状況でたるみ評価を実施したところ、いずれもほぼ同じ結果が得られた。また、たるみ評価後のシート表面を観察したが、表面に傷つきは見られず、シートの変形等も認められなかった。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】タッチローラーをシートに押し当てたときの力関係を説明する概略図である。
【図2】タッチローラーの変位量を測定する機構の一態様を示す側面図である。
【図3】回転可能なタッチローラーの構造の一態様を示す側面図である。
【図4】タッチローラーの変位量を測定する機構の別の一態様を示す側面図である。
【図5】タッチローラーの設置位置を移動させるための機構の一態様を示す側面図である。
【図6】変位量測定機構と制御機構と出力機構の関係を示す概略図である。
【図7】たるみ評価の際のタッチローラーの位置を説明する概略図である。
【図8】実施例におけるシート移送方向とタッチローラーの押し当て方向を説明する概略図である。
【図9】実施例におけるタッチローラーの押し当て箇所を説明する概略図である。
【符号の説明】
【0035】
1 シート
2 タッチローラー
3 回転体
4 軸
5 軸支持体
6 板バネ
7 支持板
8 水平板
9 垂直板
10 固定板
11 測距離センサー
12 光(レーザ)
13 歪センサー
14 z方向移動用モーター
15 スクリュー
16 x方向移動用モーター
17 スクリュー
18 回転軸
21 制御機構
22 出力機構
23 CPU
24 A/Dコンバーター
25 モータードライバー
26 ディスプレイ
27 プリンター
28 張力センサー
29 A/Dコンバーター
30 バックアップローラー
31 シートパスライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空間を移送されるシートの表面にタッチローラーを押し当て、該タッチローラーの変位量を測定することにより、タッチローラーを押し当てた位置におけるシートのたるみを評価する工程を含むことを特徴とするシートのたるみ評価方法。
【請求項2】
前記シートの幅方向に複数の測定点を設け、各測定点においてタッチローラーの変位量を測定して、幅方向のたるみプロファイルを作成することを特徴とする請求項1に記載のシートのたるみ評価方法。
【請求項3】
前記複数の測定点にそれぞれタッチローラーを押し当てて、各タッチローラーの変位量を測定することにより、幅方向のたるみプロファイルを作成することを特徴とする請求項2に記載のシートのたるみ評価方法。
【請求項4】
前記シートの幅方向にタッチローラーを移動させて前記複数の測定点におけるタッチローラーの変位量を測定することにより、幅方向のたるみプロファイルを作成することを特徴とする請求項2に記載のシートのたるみ評価方法。
【請求項5】
前記タッチローラーの変位量を、接触式の力センサー、または接触式もしくは非接触式の変位センサーにより測定することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のシートのたるみ評価方法。
【請求項6】
前記力センサーが、歪みセンサー、またはピエゾを利用した圧電センサーであることを特徴とする請求項5に記載のシートのたるみ評価方法。
【請求項7】
前記変位センサーが、レーザ光、赤外光もしくは超音波を利用した測距センサー、磁気センサー、差動トランス、またはリニアゲージであることを特徴とする請求項5に記載のシートのたるみ評価方法。
【請求項8】
前記タッチローラーの変位量の測定を、タッチローラーを支持する部材にかかる歪みを計測することにより行うことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のシートのたるみ評価方法。
【請求項9】
前記タッチローラーが板バネの一端に固定されており、該板バネの他端に歪センサー付き支持体が固定されており、該歪センサーにより支持体の歪みを計測することによりタッチローラーの変位量を測定することを特徴とする請求項8に記載のシートのたるみ評価方法。
【請求項10】
第一ローラーと該第一ローラーから離れた位置に第二ローラーを設置し、前記シートを第一ローラーと第二ローラーが同方向に回転するように接触させながら、第一ローラーから第二ローラーへ向けて移送し、前記タッチローラーを第一ローラーと第二ローラーとの区間に配置することを特徴とする請求項9に記載のシートのたるみ評価方法。
【請求項11】
前記タッチローラーによる変位量の測定前に、前記タッチローラーを何にも接触しない状態で前記第一ローラーの直下に移動させ、次いで前記歪みセンサーによる前記支持体の歪みを計測しながら前記タッチローラーを上方向に垂直移動させ、前記タッチローラーが前記第一ローラーに接触して歪みの計測値が変化し始める点をもって、前記歪みセンサーの零点とすることを特徴とする請求項10に記載のシートのたるみ評価方法。
【請求項12】
前記タッチローラーによる変位量の測定前に、前記タッチローラーを何にも接触しない状態で前記第一ローラーの直下に移動させ、次いで前記歪みセンサーによる前記支持体の歪みを計測しながら前記タッチローラーを上方向に垂直移動させ、前記タッチローラーが前記第一ローラーに接触して歪みの計測値が変化し始める点から、垂直方向移動量を数段階に変位させて歪みの計測値を読み取り、次いでこの読み取り値が前記タッチローラーの変位量となるように利得パラメータを補正して、前記歪みセンサーの感度合わせとすることを特徴とする請求項10または11に記載のシートのたるみ評価方法。
【請求項13】
張力センサーを用いてシートの張力を測定し、測定した張力により前記タッチローラーの変位量の測定結果を補正することを特徴とする請求項10〜12のいずれか一項に記載のたるみ評価方法。
【請求項14】
シートを移送するために互いに離れた位置に設置された2つのローラー、該2つのローラー間に移送されるシートの表面に押し当てることができるタッチローラー、該タッチローラーのシート面に垂直な方向の変位量を測定する手段を含むシートのたるみ評価装置。
【請求項15】
前記タッチローラーが板バネの一端に固定されており、該板バネの他端に歪センサー付き支持体が固定されており、該支持体に支持体の歪みを計測する歪センサーが設置されていることを特徴とする請求項14に記載のシートのたるみ評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−145262(P2009−145262A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−324677(P2007−324677)
【出願日】平成19年12月17日(2007.12.17)
【出願人】(000244028)明産株式会社 (9)
【出願人】(000122313)株式会社ユポ・コーポレーション (73)
【Fターム(参考)】