説明

シートのシートバック構造

【課題】 フレームに架設されたばね組体によって、シートバック背面の凹部の形状、特にその深さが制約される。
【解決手段】 骨格となる略矩形形状のフレーム14fを囲んでパッド14pが配置され、前身頃、後見頃を持つトリムカバー14cでシートバックフレーム、シートパッドを被覆している。バックボード16が略矩形の凹み16aをその中央部に持つ略矩形形状に軟質樹脂から成形され、後見頃に相当するトリムカバーに形成された切欠きの端末に連結されてパッドの背後に設けられることにより、バックボードの凹みをシートバック背面の凹部としている。後突などによって着座者に後方への衝撃力が加わると、衝撃力はパッドを大きく圧縮させ、パッドを介在してバックボードに作用してバックボードを撓ませ、軟質樹脂からなるバックボードは撓んで弾性変形して着座者を弾性支持し、衝撃吸収材として機能する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートバック背面に凹部の形成されたシートのシートバック構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用シートなどのシートは、シートクッションと、シートクッション後端にその下端が連結されたシートバックとを有してなり、通常、シートバックはリクライニング装置のもとで傾動可能に設けられている。
【0003】
ここで、シートバックは、衝撃吸収材としてのSばねなどのばね組体をその内部に架設した略矩形形状のフレーム(シートバックフレーム)に、発泡材から成形されたパッド(シートパッド)を被せてシートバック本体とし、複数、たとえば2枚のトリムカバー片(前身頃、後見頃)を略袋状に縫製したトリムカバーでシートバック本体を被覆して形成されている。
【0004】
たとえば、特開2010−012093号公報では、ばね組体の前面にばね受けプレートを設けてパッドを前方の表層クッション体と後方の芯材とに分断し、ばね受けプレートでフレーム、芯材を被覆しながらばね受けプレートを後面のトリムカバー片(後見頃)に縫製している。そして、表層クッション体でばね受けプレートを覆いながら、前後のトリムカバー片を縫製してシートバックを構成している。
【0005】
ここで、フレーム内部に架設されたばね組体の前面のばね受けプレート、ばね組体の背面のトリムカバー片(後見頃)は、合成樹脂材を含浸させてプレス加工、または、真空加工された不織布からいずれも成形されている。
【0006】
なお、トリムカバー片(後見頃)にはその中央部に凹みを形成してシートバック背面に凹部を形成し、この凹部は後部シートの着座者の膝(ニー)を収納するための二―スペースとしたり、シートバックを前傾させて水平にしたときにテーブルとしたり、凹部の下半部を網掛けして収納ポケットなどとして利用されている。
【0007】
骨格となる略矩形形状のフレーム(シートバックフレーム)の内部に衝撃吸収材としてのSばねなどのばね組体を架設させているため、後突などによって着座者に作用する衝撃が十分に吸収される。また、合成樹脂材を含浸させた不織布から成形したばね受けプレート、トリムカバー片(後見頃)でばね組体を前後から挟むことによって、高いクッション性が得られるとともにばね組体からの異音の発生を抑制できる。
【0008】
さらに、トリムカバー片(後見頃)が合成樹脂材を含浸させてプレス加工、または、真空加工された不織布から成形されているため、シートバック背面の凹部が容易に得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−012093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
フレーム(シートバックフレーム)の内部にばね組体を架設するとともに、ばね組体の前面にばね受けプレートを設けた構成では、シートバックの複雑化、重量化が避けられない。また、合成樹脂材を含浸させてプレス加工、または、真空加工された不織布からトリムカバー片(後見頃)を成形しているため、シートバック背面の凹部が容易に形成できるにも拘らず、フレーム(シートバックフレーム)に架設されたばね組体によって、シートバック背面の凹部の形状、特にその深さが制約される。
【0011】
本発明は、構成が簡単かつ軽量で、シートバック背面の凹部の形状を制約しないシートのシートバック構造の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に係る本発明によれば、略矩形形状のシートバックフレームに発泡材から成形されたシートパッドを組み合わせてシートバック本体とし、前身頃、後見頃を持つトリムカバーでシートバック本体を被覆しシートバック背面に凹部を設けたシートのシートバック構造において、シートバック背面の凹部となる凹みをその中央部に持つ形状に軟質樹脂から成形されたバックボードを、シートパッドの背後で後見頃に相当するトリムカバーに形成された切欠きの端末に連結している。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る本発明では、バックボードが軟質樹脂から成形されて弾性変形可能であるため、弾性変形することによってバックボードが衝撃を吸収し、着座者を弾性支持する。そのため、略矩形形状のシートバックフレームに架設される衝撃吸収材としてのばね組体が省略でき、ばね組体による制約を受けることなく、バックボード中央部の凹みの形状、すなわち、シートバック背面の凹部の形状を設定できる。
また、ばね組体が省略されるため、シートバックの構成を簡単化でき、シートバックが軽量化される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施例に係るシートバック構造を持つシートの背面斜視図を示す。
【図2】(A)〜(C)は図1の線X−Xに沿ったシートバックの横断面図をそれぞれ示し、(A)は着座しない状態、(B)は衝撃が加わらない着座状態、(C)は衝撃が加わった着座状態に対応する。
【図3】(A)(B)は、別実施例(実施例2、3)に係るシートバック構造を持つシートの図1の線X−Xに沿った図2(A)に対応するシートバックの横断面図をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
略矩形形状のシートバックフレームにシートパッドを組み合わせてシートバック本体とし、前身頃、後見頃を持つトリムカバーでシートバック本体を被覆している。バックボードが軟質樹脂から凹みをその中央部に持つ形状に成形され、トリムカバーは後見頃に相当する部分に切欠きを持っている。そして、バックボードがトリムカバーの切欠きの端末に連結されてパッドの背面に設けられることによって、バックボードの凹みをシートバック背面の凹部としている。
【実施例】
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明の実施例を詳細に説明する。本発明の一実施例に係るシートバック構造を持つシートの背面斜視図、図2(A)は着座しない状態での図1の線X−Xに沿ったシートバックの横断面図をそれぞれ示す。
【0017】
図1に示すように、シート10は、シートクッション12と、リクライニング装置(図示しない)によって傾動可能にシートクッションの後端に設けられたシートバック14とを有した車両用シートとされ、ヘッドレスト14hがシートバック上面に取り外し可能に設けられている。
シートクッション12の側面下部はサイドカバー12aで覆われ、リクライニングレバー12bがシートクッションの側面に設けられている。
【0018】
車両用シートのシートクッション12、シートバック14の基本的な構造は周知であり、シートバックについてその構成を簡単に述べると、図1に加えて図2(A)を見ると分かるように、骨格となる略矩形形状のシートバックフレーム(フレーム)14fを囲んでウレタンフォームなどの発泡成形材からなるシートパッド(パッド)14pを配置してシートバック本体14aを形成している。そして、トリムカバー(表皮)14cがシートバック本体14aに被覆されている。
なお、実施例では、衝撃吸収材としてのSばねなどのばね組体は、略矩形形状のフレーム14fの内部に架設されず、省略されている。
【0019】
トリムカバー14cは、通気性および伸縮性のある生地、たとえば、ポリ塩化ビニール(PVC)、ポリエステルなどからなる2枚のトリムカバー片(前身頃、後見頃)をその縫い代が内側になるように略袋状に縫製される。シートバック14では、下端が開放された略袋状に縫製され、ヘッドレスト14hの取付け前にシートバック本体14aに上方から被せて装着される。
【0020】
バックボード16がパッド14pの背面に取り付けられており、トリムカバー14cはパッド背面のバックボードに対応した切欠きを持ち、トリムカバーの切欠きの周縁14c’にバックボードを連結させてトリムカバーの端末が処理されている。切欠きを持ち、バックボード16が連結されるトリムカバー14cは後身頃のトリムカバー片に相当する。
【0021】
バックボード16は、中央部に凹み16aを持つ形状に、たとえば、エラストマーなどの軟質樹脂から成形されている。バックボード16は、通常、略矩形形状とされ、中央部の凹み16aも対応した略矩形形状となっている。
【0022】
略矩形形状の凹み16aを持つバックボード16が、シートバックの背面でトリムカバー14cに連結されることによって、バックボードの凹みから規定される略矩形形状の凹部14bがシートバック背面に形成される。
【0023】
バックボード中央部の凹み16aからなるシートバック背面の凹部14bは、後部シートの着座者の膝(ニー)を収納するための二―スペースとしたり、凹部の下半部を網掛けして収納ポケットなどとして利用される。
【0024】
図2(B)(C)は、衝撃が加わらない着座状態、衝撃が加わった着座状態での図1の線X−Xに沿ったシートバックの横断面図をそれぞれ示す。なお、図2(B)(C)では、着座者の着座位置を一点鎖線で示している。
【0025】
図2(B)に示すように、衝撃が加わらない着座状態、つまり、通常の着座状態では着座者は、トリムカバーの前身頃とバックボードとの間のパッド14pを圧縮させ、パッドの反発力のもとで着座者の背部がシートバック14に弾性支持される。
【0026】
後突などによって、着座者に後方への衝撃力が加わると、パッド14pを大きく圧縮させるだけでなく、衝撃力はパッドを介在してパッド背面のバックボード16にも作用し、図2(C)に示すように、バックボードは後方に大きく撓んで弾性変形する。撓んで弾性変形することにより、バックボード16は衝撃力を吸収して着座者を弾性支持し、衝撃吸収材としても機能する。
【0027】
このように、バックボード中央部の凹み16aがシートバック背面の凹部14bとなるだけでなく、軟質樹脂からなる弾性変形可能なバックボードは衝撃吸収材としても機能する。
【0028】
このように軟質樹脂から成形されたバックボード16が撓んで弾性変形することにより着座者を弾性支持し、衝撃吸収材を兼ねるため、衝撃吸収材としてのSばねなどのばね組体を略矩形形状のフレーム14fの内部に架設する必要がなく、省略できる。そして、ばね組体がフレーム14fに架設されないため、略矩形形状のフレーム14fを構成するフレーム部材(アッパーフレーム、ロアフレーム、左右のサイドフレーム)の間の空間を有効利用でき、シートバック背面の凹部14b(具体的には、バックボードの凹み16a)の形状、特にその深さが制約されることなく設定できる。
【0029】
矩形形状のフレーム14fを構成するサイドフレームなどに制約されることなくシートバック背面の凹部14b(バックボードの凹み16a)の形状を大きく、かつ、その深さを深く設定できるため、大きな容積のニースペースや収納ポケットが得られる。
【0030】
バックボード16が軟質樹脂から成形されているため、バックボード中央部の凹み形状16aを自由に設計でき、広範な形状の凹部14bをシートバック背面に容易に設定できる。
【0031】
ばね組体が省略されるため、シートバック14の構成を簡単化でき、シートバックを軽量化できる。そして、ばね組体がないため、ばね組体による異音の発生は皆無となる。
【0032】
さらに、後見頃に相当するトリムカバーは、合成樹脂材を含浸させた不織布からその中央部に凹みを持つ形状に成形する必要はなく、ポリ塩化ビニールなどの素材から形成できる。
【0033】
図3(A)(B)は、別実施例(実施例2、3)に係るシートバック構造を持つシートの図1の線X−Xに沿った図2(A)に対応するシートバックの横断面図を示す。図3(A)(B)でも、着座者の着座位置を一点鎖線で示している。
【0034】
上記実施例(実施例1)の構成部材と同じ機能を有するこれら2つの別実施例(実施例2、3)の対応する構成部材には同じ参照番号を付してその説明を省略し、上記実施例と異なる構成を主として説明する。
【0035】
図3(A)の実施例2では、バックボード16がその縁16’、つまり、中央の凹みの周縁においてフレーム14fに連結部材18によって連結されている点で実施例1と相違する。バックボードの縁16’がフレーム14fに連結されてフレームに固定されることによって、バックボードの弾性力(ばね力)を強められるため、衝撃力に対して着座者を確実かつ強力に弾性支持できる。
連結部材18は、バックボード16をフレーム14fに連結して固定するものであればよく、その材質、形状などに格別の制限はない。
【0036】
図3(B)の実施例3では、フレーム(シートバックフレーム)114fは、シートバックの背面でパッド14pを覆うシェルフレームからなり、シェルフレームは、たとえば、CFRFのような硬質樹脂から成形されている。そして、シェルフレーム114fは開口を持ち、開口を規定するその縁114f’にバックボードの縁16’が係止、つまりは連結されてバックボード16がシートバック本体14aに取付けられている点で実施例1と相違する。
【0037】
なお、トリムカバー14cはシェルフレーム114fの開口に対応した切欠きを持ち、バックボード16をシェルフレームの開口に係止するとき、バックボード、シェルフレームの間に切欠きの周縁14c’を挟持してトリムカバーの端末が処理されている。
【0038】
シェルフレームの開口の縁114f’にバックボードの縁16’を係止させてバックボード16をシェルフレームに連結した実施例3においても、バックボードがシェルフレーム141fに固定されて、バックボードの弾性力(ばね力)を強められ、衝撃力に対して着座者を確実かつ強力に弾性支持できる。
【0039】
さらに、バックボード16、シェルフレーム114fの間に切欠きの周縁14c’を挟持しながらバックボードをシェルフレームの開口に取付けているため、シェルフレームへのバックボード16の係止、連結と同時にトリムカバーの端末が処理できる。
【0040】
なお、実施例2、3においても、矩形形状のフレームを構成するサイドフレームなどに制約されることなくシートバック背面の凹部14bの形状を大きく、かつ、その深さを深く設定できるため、大きな容積のニースペースや収納ポケットが得られるなどという実施例1の効果がすべて確保されることはいうまでもない。
【0041】
上記のように、本発明によれば、バックボードが軟質樹脂から成形されて弾性変形可能であるため、弾性変形することによってバックボードが衝撃を吸収して、着座者を弾性支持する。バックボードが衝撃吸収材としても機能するため、略矩形形状のシートバックフレームに架設される衝撃吸収材としてのばね組体を省略でき、ばね組体による制約を受けることなく、バックボード中央部の凹みの形状、すなわち、シートバック背面の凹部の形状を設定できる。
また、ばね組体が省略されるため、シートバックの構成を簡単化でき、シートバックを軽量化できる。
【0042】
上述した実施例は、この発明を説明するためのものであり、この発明を何等限定するものでなく、この発明の技術範囲内で変形、改造等の施されたものも全てこの発明に包含されることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、背面に凹部の規定されたシートバックを持つシートに広範囲に応用でき、自動車などの車両用シートのシートに限定されず、たとえば、電車、飛行機等のシートはもちろん、シートが前後方向に連続して設けられる映画館、劇場、コンサート会場などのシートにも応用できる。
【符号の説明】
【0044】
10 シート
12 シートクッション
14 シートバック
14a シートバック本体
14b シートバック背面の凹部
14c トリムカバー
14c’ トリムカバー端末
14p シートパッド(パッド)
14f シートバックフレーム(フレーム)
114f シェルフレーム
114f’シェルフレームの開口の縁
16 バックボード
16’ バックボードの縁
16a 中央部の凹み
18 連結部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略矩形形状のシートバックフレームに発泡材から成形されたシートパッドを組み合わせてシートバック本体とし、前身頃、後見頃を持つトリムカバーでシートバック本体を被覆しシートバック背面に凹部を設けたシートのシートバック構造において、
シートバック背面の凹部となる凹みをその中央部に持つ形状に軟質樹脂から成形されたバックボードを、シートパッドの背後で後見頃に相当するトリムカバーに形成された切欠きの端末に連結したことを特徴とするシートのシートバック構造。
【請求項2】
バックボードが中央部の凹みの周縁でシートバックフレームに連結されている請求項1記載のシートのシートバック構造。
【請求項3】
シートバックフレームは、硬質樹脂から成形されてシートバックの背面でシートパッドを覆うシェルフレームからなり、シェルフレームは開口を持ち、開口を規定するその縁にバックボードの縁が係止、連結されている請求項1記載のシートのシートバック構造。
【請求項4】
後見頃に相当するトリムカバーに形成された切欠きの端末を挟持して、バックボードの縁がシェルフレームの開口の縁に係止、連結されている請求項3記載のシートのシートバック構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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