シートカバー
【課題】加工工程が多くなることのない簡単な作業で容易に縫合ラインの蛇行を抑制することができるシートカバーを得る。
【解決手段】本シートカバー10では、カバー本体20の裏面側に配置された拘束布50が、隣り合う一対の縫合部46、48にそれぞれ縫合されて両者の間に掛け渡されている。この拘束布50は、一方の縫合部46における縫い代22A、24Aに対して他方の縫合部48側へ向いた張力Tを付与している。これにより、縫い代22A、24Aが拘束布50によって他方の縫合部48側へ倒れた状態に拘束されており、縫い代22A、24Aの倒れ方向が一定方向に規制されている。
【解決手段】本シートカバー10では、カバー本体20の裏面側に配置された拘束布50が、隣り合う一対の縫合部46、48にそれぞれ縫合されて両者の間に掛け渡されている。この拘束布50は、一方の縫合部46における縫い代22A、24Aに対して他方の縫合部48側へ向いた張力Tを付与している。これにより、縫い代22A、24Aが拘束布50によって他方の縫合部48側へ倒れた状態に拘束されており、縫い代22A、24Aの倒れ方向が一定方向に規制されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用シート、家具用シート等のシートに被せられるシートカバーに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車用シートのシートバックやシートクッション、ヘッドレストにおいては、クッション材であるパッドにシートカバーが被せられている。このようなシートカバーは、革や布等からなる複数の表皮片が縫い代において互いに縫合されることにより袋状に縫製され、内側にパッドを収容するようになっている。各表皮片の縫い代は、シートカバーの裏面側に配置されてパッドに押し当てられるが、当該押し当てによる縫い代の倒れ方向が均一でない場合、縫合ラインが蛇行してシートカバーの外観品質が低下するという問題がある。特に、縫合ラインがパッドに設けられた角部の稜線に沿って配置される場合には、縫合ラインの蛇行が生じやすい。
【0003】
上述の如き縫合ラインの蛇行を防止するため、第1の従来例においては、複数の表皮片の縫い代に幅狭部分を形成することにより、縫合ラインの蛇行を抑制するようにしている(下記、特許文献1参照)。
【0004】
また、第2の従来例においては、縫い代が一定方向に倒れるように、ウレタンテープなどの樹脂テープを縫い代に貼り合わせ、樹脂テープの貼り合わせ状態で縫い代を縫い付けることがなされている。この場合、樹脂テープによって縫い代の倒れ方向を規制し、縫合ラインの蛇行を抑制するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−222404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、第1の従来例においては、複数の表皮片を縫合してシートカバーを縫製する工程の後で、複数の表皮片の縫い代を部分的に切り欠いて幅狭部分を形成する工程が必要になる。このため、加工工程が多くなり、作業が複雑になるという問題がある。
【0007】
また、第2の従来例においては、樹脂テープが剥がれ易く、樹脂テープの剥がれにより縫い代部分の倒れ方向の規制がなくなって縫い目の蛇行が発生している。すなわち、第2の従来例においては、安定した外観品質とすることができない問題がある。
【0008】
本発明は上記事実を考慮し、加工工程が多くなることのない簡単な作業で容易に縫合ラインの蛇行を抑制することができるシートカバーを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明に係るシートカバーは、複数の表皮片が縫い代において互いに縫合されることにより複数の縫合部が設けられた袋状に縫製され、シートのクッション材であるパッドに被せられると共に、前記パッドと接触する裏面側に前記縫い代が配置されたカバー本体と、前記カバー本体の裏面側に設けられ、隣り合う一対の前記縫合部にそれぞれ縫合されて前記一対の縫合部間に掛け渡され、前記一対の縫合部のうちの一方の前記縫合部における前記縫い代を、他方の前記縫合部側へ倒れた状態に拘束する拘束布と、を備えている。
【0010】
なお、請求項1に記載の拘束布には、前記一方の縫合部における前記縫い代を前記他方の縫合部側へ倒れた状態に拘束するのみならず、前記他方の縫合部における前記縫い代を前記一方の縫合部側へ倒れた状態に拘束するものも含まれる。
【0011】
請求項1に記載のシートカバーでは、カバー本体がシートのクッション材であるパッドに被せられる。このカバー本体は、複数の表皮片によって縫製されている。複数の表皮片は、カバー本体の裏面側(パッドと接触する側)に配置された縫い代において互いに縫合されている。さらに、カバー本体の裏面側には、拘束布が設けられている。この拘束布は、隣り合う一対の縫合部にそれぞれ縫合されて当該一対の縫合部間に掛け渡されており、当該一対の縫合部のうちの一方の縫合部における縫い代を他方の縫合部側へ倒れた状態に拘束している。これにより、当該一方の縫合部における縫い代の倒れ方向を一定方向に規制することができるので、当該一方の縫合部の縫合ラインが蛇行することを抑制できる。しかも、複数の表皮片の縫製工程において拘束布の縫合作業を完了することができるので、加工工程が多くなることのない簡単な作業で容易に縫合ラインの蛇行を抑制することができる。
【0012】
請求項2に記載の発明に係るシートカバーは、請求項1に記載のシートカバーにおいて、前記拘束布は、前記一方の縫合部に縫合された端部が前記一方の縫合部における前記縫い代を覆っている。
【0013】
請求項2に記載のシートカバーでは、隣り合う一対の縫合部のうちの一方の縫合部に縫合された拘束布の端部が、当該一方の縫合部における縫い代を覆っている。これにより、パッドにカバー本体を被せる際に、上記縫い代がパッドと直接干渉することを防止できるので、当該縫い代の倒れ方向がパッドとの干渉により不均一になることを回避できる。
【0014】
請求項3に記載の発明に係るシートカバーは、請求項1又は請求項2に記載のシートカバーにおいて、前記拘束布は、前記一方の縫合部に縫合された端部が前記他方の縫合部側へ折り返されると共に前記一方の縫合部における前記縫い代に更に縫合されている。
【0015】
請求項3に記載のシートカバーでは、隣り合う一対の縫合部のうちの一方の縫合部に縫合された拘束布の端部が、他方の縫合部側へ折り返されている。このように、拘束布を折り返す構成にすることにより、一の表皮片と他の表皮片と拘束布とを一方の縫合部において縫合する際に、これらの布材の縫い代を揃える作業を容易なものにすることができる。また、折り返された拘束布の端部が更に一方の縫合部における縫い代に縫合されることにより、拘束布の端部を折り返し状態に拘束することができる。これにより、その後の縫合作業を容易なものにすることができる。
【0016】
請求項4に記載の発明に係るシートカバーは、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載のシートカバーにおいて、前記拘束布は、前記他方の縫合部に縫合された端部が、前記他方の縫合部とは別に、前記一対の縫合部の間に配置された一の前記表皮片の前記縫い代に縫合されている。
【0017】
請求項4に記載のシートカバーでは、隣り合う一対の縫合部のうちの他方の縫合部に縫合された拘束布の端部が、他方の縫合部とは別に、一対の縫合部の間に配置された一の表皮片の縫い代に縫合されている。このため、他方の縫合部において一の表皮片と他の表皮片とを縫合する前に、他方の縫合部に縫合されるべき拘束布の端部を、一の表皮片に仮止めすることができる。これにより、一の表皮片と他の表皮片との縫合作業を容易なものにすることができる。
【0018】
請求項5に記載の発明に係るシートカバーは、請求項1〜請求項4の何れか1項に記載のシートカバーにおいて、前記一方の縫合部における前記縫い代は、前記パッドに設けられた角部の稜線に沿って配置されている。
【0019】
請求項5に記載のシートカバーでは、隣り合う一対の縫合部のうちの一方の縫合部における縫い代が、パッドに設けられた角部の稜線に沿って配置される。ここで、拘束布が省略されている場合には、縫い代が角部の稜線と干渉することによって、縫い代の倒れ方向が不均一になる恐れがあるが、本発明では、拘束布が縫い代を一定方向に倒れた状態に拘束するによってこれを回避することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明に係るシートカバーでは、加工工程が多くなることのない簡単な作業で容易に縫合ラインの蛇行を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態に係るシートカバーが適用されて構成された車両用の部分的な構成を示す斜視図である。
【図2】図1に示される車両用シートの平面図である。
【図3】図1及び図2に示されるシートバックの一部を示す縦断面図である。
【図4】本発明の実施形態に係るシートカバーの構成部材である複数の表皮片及び拘束布の縫合手順を説明するための断面図である。
【図5】図1及び図2に示されるシートバックに設けられた突出部の構成を示す斜視図である。
【図6】本発明の実施形態に係る拘束布が省略された場合の問題点について説明するための縦断面図である。
【図7】本発明の実施形態に係る拘束布が省略された場合の問題点について説明するための斜視図であり、図5に対応した図である。
【図8】本発明の実施形態に係るシートカバーの変形例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図1〜図7を参照して、本発明の実施形態に係るシートカバー10について説明する。
【0023】
図1及び図2に示されるように、本実施形態に係るシートカバー10は、車両用シート12におけるシートバック14の表皮を構成している。このシートバック14の下端部は、図示しないシートクッションの後端部に連結されており、シートバック14の上端部には、ヘッドレスト16が取り付けられている。このヘッドレスト16の左右両側において、シートバック14の上部には、上方側へ突出した左右一対の突出部14Aが設けられており、これらの突出部14Aによってヘッドレスト16とシートバック14のデザイン的な一体感が向上している。
【0024】
図3に示されるように、シートバック14は、そのクッション材を構成するシートバックパッド18を備えている。このシートバックパッド18は、上述した左右一対の突出部14Aを構成する部位が上方側へ突出した突出部18Aとされている。このシートバックパッド18には、シートカバー10の本体部を構成するカバー本体20が被せられている。
【0025】
カバー本体20は、図1、図2に適宜示される表皮片22、24、26、28、30、32、34、36、38を含む複数の表皮片が互いに縫合されることにより袋状に縫製されている。上記複数の表皮片は裏返し状態で縫合されることによりカバー本体20が裏返し状態の袋状に縫製され、この裏返し状のカバー本体20がシートバックパッド18に被せられながら表裏反転される。なお、上記複数の表皮片の材料としては、革、厚布、その他の材料が適用される。
【0026】
表皮片22は、突出部18Aの上面を覆うと共に、突出部18Aの後面を含むシートバックパッド18の幅方向側部における後面を覆っている。また、表皮片24は、突出部18Aにおけるヘッドレスト16側の側面を覆っており、表皮片26は、シートバックパッド18の側面を覆っている。
【0027】
図3に示されるように、表皮片22と表皮片24は、それぞれの縫い代22A、24Aが縫糸40によって縫合されることにより互いに結合されている。なお、表皮片24の下端部には、表皮片30が縫合されている。また、表皮片22と表皮片26は、それぞれの縫い代22B、26Aが縫糸42によって縫合されることにより互いに結合されている。これにより、表皮片22の両端側には、隣り合う一対の縫合部46、48が設けられている。
【0028】
縫合部46における縫い代22A、24Aは、突出部18Aの上面におけるヘッドレスト16側の端部に形成された鋭角な角部18A1の稜線に沿って配置されている。また、縫合部48における縫い代22B、26Aは、突出部18Aの上面におけるヘッドレスト16とは反対側の端部に形成された鈍角な角部18A2の稜線に沿って配置されている。これらの縫合部46、48における縫い代22A、24A、22B、26Aは、カバー本体20の裏面側に配置されている(なお、図3においては、角部18A1、18A2の先端側がシートカバー10からの圧力によって押し潰された状態が図示されている)。
【0029】
カバー本体20の裏面側において表皮片22とシートバックパッド18との間には、カバー本体20と共にシートカバー10を構成する拘束布50が配置されている。この拘束布50の材料としては、不織布、服生地、薄皮の他、クインズコート(「桐生トリコット株式会社」が製造しているポリエステル不織布の商品名)等の廉価な布地が用いられる。この拘束布50の一端部50Aは、縫糸40によって一方の縫合部46に縫合(共縫い)されており、拘束布50の他端部50Bは、縫糸42によって他方の縫合部48に縫合(共縫い)されている。これにより、一対の縫合部46、48の間に拘束布50が掛け渡されている。この拘束布50は、一方の縫合部46における縫い代22A、24Aに対して他方の縫合部48側へ向いた張力T(図3参照)を付与しており、これにより、縫い代22A、24Aを他方の縫合部48側へ倒れた状態に拘束している。また、この拘束布50は、一端部50Aが縫い代22A、24Aに対してシートバックパッド18側に配置されており、一端部50Aによって縫い代22A、24Aを覆っている。
【0030】
また、拘束布50の一端部50Aは、縫糸40によって縫い代22A、24Aに縫合された後に、他方の縫合部48側へ折り返されており、縫糸40よりも縫合部48側において、更に別の縫糸52によって縫い代22A、24Aに縫合(捨て縫い)されている。この拘束布50の一端部50Aは、縫い代22A、24Aに対してシートバックパッド18側に配置されており、拘束布50の一端部50Aによって縫い代22A、24Aが覆われている。
【0031】
拘束布50の他端部50Bは、縫い代22Bの先端側と共に一方の縫合部46側へ折り返されて重ね合わされている。この重ね合わせ部分は、縫糸54によって縫い代22B及び表皮片22の本体部(縫い代22A、22Bの以外の部分)に縫合されている。さらに、拘束布50の他端部は、縫糸54よりも縫い代22Bの先端側で別の縫糸56により縫い代22Bに縫合(捨て縫い)されている。また、表皮片22に縫合された表皮片26の縫い代26Aは、縫合部48とは反対側へ折り返されると共に、縫糸58によって表皮片26の本体部(縫い代26A以外の部分)に縫合されている。なお、上述の縫糸54、58は、図1及び図2に示されるように、縫合部46における縫合ライン46Aに沿って延在しており、飾りステッチとしてシートカバー10のデザイン性を向上させている。
【0032】
次に、上述した表皮片22、24、26及び拘束布50の縫合手順を図4に基づいて説明する。図4(A)に示されるように、表皮片22、24は、表面同士が突き合わされ、裏面が露出した状態で重ねられる。拘束布50は、表皮片24を介して表皮片22とは反対側に重ね合わされる。このとき、縫い代22A、24Aと拘束布50の一端部50Aが上下に並ぶように揃えられる。この状態で、縫糸40により縫い代22A、24Aと拘束布50の一端部50Aとが縫合される。
【0033】
次いで、図4(B)に示されるように、拘束布50が一端部50Aにおいて折り返されて重ね合わされると共に、当該重ね合わせ部分が縫糸52によって縫い代22A、24Aに縫合(捨て縫い)される。
【0034】
次いで、図4(C)に示されるように、表皮片22が拘束布50の他端部50B側へ折り返され、表皮片22の縫い代22Bと拘束布50の他端部50Bとが重ね合わされる。この状態で、縫い代22Bと他端部50Bとが縫糸56によって縫合(捨て縫い)される。
【0035】
次いで、図4(D)に示されるように、表皮片26がその表面を表皮片22の表面に突き合わせた状態で表皮片22に重ねられる。このとき、縫い代22B、26Aが上下に並ぶように揃えられる。この状態で、縫い代22B、26Aと拘束布50の他端部50が縫糸42によって縫合される。その後、縫い代26Aが表皮片26の本体部側へ折り返されて縫糸58により表皮片26に縫合されると共に、縫い代22B及び一端部50Bが縫合部46側へ折り返されて縫糸54により表皮片22の本体部に縫合される(図示省略)。この状態で、表皮片26が図4(D)の矢印A方向へ折り返されると共に、表皮片24が図4(D)の矢印B方向へ折り曲げられると、図3に示されるような状態になる。
【0036】
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0037】
上記構成のシートカバー10では、カバー本体20の裏面側に配置された拘束布50が、隣り合う一対の縫合部46、48の間に掛け渡されている。この拘束布50は、一方の縫合部46における縫い代22A、24Aに対して他方の縫合部48側へ向いた張力T(図3参照)を付与している。これにより、縫い代22A、24Aが拘束布50によって他方の縫合部48側へ倒れた状態に拘束されており、縫い代22A、24Aの倒れ方向が一定方向に規制されている。これにより、図5に示されるように、縫合部46における縫合ライン46Aの蛇行が防止されている。
【0038】
つまり、拘束布50が省略されている場合、カバー本体20をシートバックパッド18に被せる際には、図6(A)及び図6(B)に示される如く、作業者が指60などによって縫い代22A、24Aを一定方向に倒す必要がある。このような作業は非常に煩雑であるため、作業効率が著しく低下してしまう。しかも、作業のむらなどにより、図6(C)及び図6(D)に示される如く、縫い代22A、24Aの倒れ方向が不均一になることがある(なお、図6(C)及び図6(D)では異なる断面が図示されている)。この場合、図7に示される如く、縫合部46の周辺に凸凹が生じると共に、縫合ライン46Aの蛇行が発生し、車両用シートの外観品質が低下してしまう。
【0039】
この点、本実施形態では、上述の如く拘束布50によって縫い代22A、24Aの倒れ方向が一定方向に規制されることにより、上述の如き凸凹の発生や縫合ライン46Aの蛇行が防止されるので、シートバック14の外観品質を向上させることができる。特に、本実施形態のように、縫い代22A、24Aがシートバックパッド18に設けられた角部18A1の稜線に沿って配置される場合でも、拘束布50によって縫い代22A、24Aと角部18A1の稜線との干渉が防止されるので、角部18A1において生じやすい縫合ライン46Aの蛇行を良好に防止することができる。
【0040】
しかも、表皮片22、24、26の縫製工程において拘束布50の縫合作業を完了することができるので、加工工程が多くなることのない簡単な作業で容易に縫合ラインの蛇行を抑制することができる。さらに、カバー本体20をシートバックパッド18に被せる(カバーリング)に際して、縫い代22A、24Aを一定方向に倒す作業を省略することができるので、カバーリングの作業効率を大幅に向上させることができる。これにより、車両用シート12の製造コストを低下させることができる。
【0041】
また、本実施形態では、拘束布50の一端部50Aが縫い代22A、24Aとシートバックパッド18と間に配置されており、拘束布50の一端部50Aによって縫い代22A、24Aが覆われている。このため、シートバックパッド18にカバー本体20を被せる際に、縫い代22A、24Aがシートバックパッド18の角部18A1と直接干渉することがないので、縫い代22A、24Aの倒れ方向が角部18A1との干渉によって不均一になることを回避できる。
【0042】
さらに、本実施形態では、一方の縫合部46に縫合された拘束布50の一端部50Aが、他方の縫合部48側へ折り返されている。このように、拘束布50の一端部50Aが折り返される構成であるため、表皮片22、表皮片24、及び拘束布50を縫合する際には、図4(A)に示されるように、表皮片22、表皮片24、及び拘束布50を単純に重ね合わせることにより、縫い代22A、24A、及び拘束布50の一端部50Aを容易に揃えることができる。したがって、これらの布材の縫合作業を容易なものにすることができる。また、折り返された拘束布50の一端部50Aが更に縫い代22A、24Aに縫合されることにより、拘束布50の一端部50Aを折り返し状態に拘束することができる。これにより、その後の縫合作業(図4(B)及び図4(C)参照)を容易なものにすることができる。
【0043】
また、本実施形態では、拘束布50の他端部50Bは、縫糸42よりも縫い代22Bの先端側で別の縫糸56により縫い代22Bに縫合(捨て縫い)されている。これにより、表皮片22と表皮片26を縫合する前に、拘束布50の他端部50Bを、表皮片22に仮止めすることができる(図4(C)図示状態)。これにより、表皮片22と表皮片26との縫合作業(図4(D)参照)を容易なものにすることができる。
【0044】
なお、上記実施形態においては、拘束布50によって倒れた状態に拘束されるのが、一方の縫合部46における縫い代22A、24Aだけである場合について説明したが、請求項1〜請求項5に係る発明はこれに限らず、図8に示される変形例のように構成してもよい。この変形例では、一方の縫合部46における縫い代22A、24Aが拘束布50の張力Tによって他方の縫合部48側へ倒れた状態に拘束されると共に、他方の縫合部46における縫い代22B、26Aが拘束布50の張力Tによって一方の縫合部48側へ倒れた状態に拘束されている。この構成においては、他方の縫合部48における縫合ラインの蛇行も防止することができる。つまり、本願請求項1〜5に係る発明では、両方の縫合部46、48における縫い代(22A、24Aと22B、26A)を、互いに接近する側へ倒れた状態に拘束するものが含まれる。
【0045】
また、上記実施形態では、拘束布50の一端部50Aが縫い代22A、24Aに対してシートバックパッド18側に配置され、縫い代22A、24Aを覆った構成にしたが、請求項1に係る発明はこれに限らず、図8に示されるように、拘束布50の一端部50Aが縫い代22A、24Aに対してシートバックパッド18とは反対側に配置された構成にしてもよい。
【0046】
また、上記実施形態では、拘束布50の一端部50Aが他方の縫合部48側へ折り返された構成にしたが、請求項1及び請求項2に係る発明はこれに限らず、図8に示されるように、拘束布50の一端部50Aを折り返さない構成にしてもよい。
【0047】
さらに、上記実施形態では、拘束布50の一端部50Aが縫糸52によって縫い代22A、24Aに捨て縫いされると共に、拘束布50の他端部50Bが縫糸56によって縫い代22Bに捨て縫いされた構成にしたが、請求項1及び請求項2に係る発明はこれに限らず、縫糸52、56が省略された構成にしてもよい。
【0048】
また、上記実施形態では、縫い代22A、24Aがシートバックパッド18の角部18A1に沿って配置された構成にしたが、請求項1〜請求項4に係る発明はこれに限らず、縫い代22A、24Aの配置は適宜変更することができる。
【0049】
また、上記実施形態では、拘束布50が縫い代22A、24Aに対して張力Tを付与する構成にしたが、請求項1に係る発明はこれに限らず、拘束布50は、縫い代22A、24Aを倒れた状態から起き上がらないように拘束するものであればよい。
【0050】
さらに、上記実施形態では、本発明がシートバック14のシートカバー10に対して本発明が適用された場合について説明したが、本発明は、シートクッションのシートカバーやヘッドレストのシートカバーに対しても適用することができる。また、本発明は、車両用シート以外のシートのシートカバーに対しても適用することができる。
【0051】
その他、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更して実施できる。また、本発明の権利範囲が上記実施形態に限定されないことはいうまでもない。
【符号の説明】
【0052】
10 シートカバー
18 シートバックパッド(パッド)
18A1 角部
20 カバー本体
22 表皮片
22A、22B 縫い代
24 表皮片
24A 縫い代
26 表皮片
26A 縫い代
46 一方の縫合部
48 他方の縫合部
50 拘束布
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用シート、家具用シート等のシートに被せられるシートカバーに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車用シートのシートバックやシートクッション、ヘッドレストにおいては、クッション材であるパッドにシートカバーが被せられている。このようなシートカバーは、革や布等からなる複数の表皮片が縫い代において互いに縫合されることにより袋状に縫製され、内側にパッドを収容するようになっている。各表皮片の縫い代は、シートカバーの裏面側に配置されてパッドに押し当てられるが、当該押し当てによる縫い代の倒れ方向が均一でない場合、縫合ラインが蛇行してシートカバーの外観品質が低下するという問題がある。特に、縫合ラインがパッドに設けられた角部の稜線に沿って配置される場合には、縫合ラインの蛇行が生じやすい。
【0003】
上述の如き縫合ラインの蛇行を防止するため、第1の従来例においては、複数の表皮片の縫い代に幅狭部分を形成することにより、縫合ラインの蛇行を抑制するようにしている(下記、特許文献1参照)。
【0004】
また、第2の従来例においては、縫い代が一定方向に倒れるように、ウレタンテープなどの樹脂テープを縫い代に貼り合わせ、樹脂テープの貼り合わせ状態で縫い代を縫い付けることがなされている。この場合、樹脂テープによって縫い代の倒れ方向を規制し、縫合ラインの蛇行を抑制するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−222404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、第1の従来例においては、複数の表皮片を縫合してシートカバーを縫製する工程の後で、複数の表皮片の縫い代を部分的に切り欠いて幅狭部分を形成する工程が必要になる。このため、加工工程が多くなり、作業が複雑になるという問題がある。
【0007】
また、第2の従来例においては、樹脂テープが剥がれ易く、樹脂テープの剥がれにより縫い代部分の倒れ方向の規制がなくなって縫い目の蛇行が発生している。すなわち、第2の従来例においては、安定した外観品質とすることができない問題がある。
【0008】
本発明は上記事実を考慮し、加工工程が多くなることのない簡単な作業で容易に縫合ラインの蛇行を抑制することができるシートカバーを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明に係るシートカバーは、複数の表皮片が縫い代において互いに縫合されることにより複数の縫合部が設けられた袋状に縫製され、シートのクッション材であるパッドに被せられると共に、前記パッドと接触する裏面側に前記縫い代が配置されたカバー本体と、前記カバー本体の裏面側に設けられ、隣り合う一対の前記縫合部にそれぞれ縫合されて前記一対の縫合部間に掛け渡され、前記一対の縫合部のうちの一方の前記縫合部における前記縫い代を、他方の前記縫合部側へ倒れた状態に拘束する拘束布と、を備えている。
【0010】
なお、請求項1に記載の拘束布には、前記一方の縫合部における前記縫い代を前記他方の縫合部側へ倒れた状態に拘束するのみならず、前記他方の縫合部における前記縫い代を前記一方の縫合部側へ倒れた状態に拘束するものも含まれる。
【0011】
請求項1に記載のシートカバーでは、カバー本体がシートのクッション材であるパッドに被せられる。このカバー本体は、複数の表皮片によって縫製されている。複数の表皮片は、カバー本体の裏面側(パッドと接触する側)に配置された縫い代において互いに縫合されている。さらに、カバー本体の裏面側には、拘束布が設けられている。この拘束布は、隣り合う一対の縫合部にそれぞれ縫合されて当該一対の縫合部間に掛け渡されており、当該一対の縫合部のうちの一方の縫合部における縫い代を他方の縫合部側へ倒れた状態に拘束している。これにより、当該一方の縫合部における縫い代の倒れ方向を一定方向に規制することができるので、当該一方の縫合部の縫合ラインが蛇行することを抑制できる。しかも、複数の表皮片の縫製工程において拘束布の縫合作業を完了することができるので、加工工程が多くなることのない簡単な作業で容易に縫合ラインの蛇行を抑制することができる。
【0012】
請求項2に記載の発明に係るシートカバーは、請求項1に記載のシートカバーにおいて、前記拘束布は、前記一方の縫合部に縫合された端部が前記一方の縫合部における前記縫い代を覆っている。
【0013】
請求項2に記載のシートカバーでは、隣り合う一対の縫合部のうちの一方の縫合部に縫合された拘束布の端部が、当該一方の縫合部における縫い代を覆っている。これにより、パッドにカバー本体を被せる際に、上記縫い代がパッドと直接干渉することを防止できるので、当該縫い代の倒れ方向がパッドとの干渉により不均一になることを回避できる。
【0014】
請求項3に記載の発明に係るシートカバーは、請求項1又は請求項2に記載のシートカバーにおいて、前記拘束布は、前記一方の縫合部に縫合された端部が前記他方の縫合部側へ折り返されると共に前記一方の縫合部における前記縫い代に更に縫合されている。
【0015】
請求項3に記載のシートカバーでは、隣り合う一対の縫合部のうちの一方の縫合部に縫合された拘束布の端部が、他方の縫合部側へ折り返されている。このように、拘束布を折り返す構成にすることにより、一の表皮片と他の表皮片と拘束布とを一方の縫合部において縫合する際に、これらの布材の縫い代を揃える作業を容易なものにすることができる。また、折り返された拘束布の端部が更に一方の縫合部における縫い代に縫合されることにより、拘束布の端部を折り返し状態に拘束することができる。これにより、その後の縫合作業を容易なものにすることができる。
【0016】
請求項4に記載の発明に係るシートカバーは、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載のシートカバーにおいて、前記拘束布は、前記他方の縫合部に縫合された端部が、前記他方の縫合部とは別に、前記一対の縫合部の間に配置された一の前記表皮片の前記縫い代に縫合されている。
【0017】
請求項4に記載のシートカバーでは、隣り合う一対の縫合部のうちの他方の縫合部に縫合された拘束布の端部が、他方の縫合部とは別に、一対の縫合部の間に配置された一の表皮片の縫い代に縫合されている。このため、他方の縫合部において一の表皮片と他の表皮片とを縫合する前に、他方の縫合部に縫合されるべき拘束布の端部を、一の表皮片に仮止めすることができる。これにより、一の表皮片と他の表皮片との縫合作業を容易なものにすることができる。
【0018】
請求項5に記載の発明に係るシートカバーは、請求項1〜請求項4の何れか1項に記載のシートカバーにおいて、前記一方の縫合部における前記縫い代は、前記パッドに設けられた角部の稜線に沿って配置されている。
【0019】
請求項5に記載のシートカバーでは、隣り合う一対の縫合部のうちの一方の縫合部における縫い代が、パッドに設けられた角部の稜線に沿って配置される。ここで、拘束布が省略されている場合には、縫い代が角部の稜線と干渉することによって、縫い代の倒れ方向が不均一になる恐れがあるが、本発明では、拘束布が縫い代を一定方向に倒れた状態に拘束するによってこれを回避することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明に係るシートカバーでは、加工工程が多くなることのない簡単な作業で容易に縫合ラインの蛇行を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態に係るシートカバーが適用されて構成された車両用の部分的な構成を示す斜視図である。
【図2】図1に示される車両用シートの平面図である。
【図3】図1及び図2に示されるシートバックの一部を示す縦断面図である。
【図4】本発明の実施形態に係るシートカバーの構成部材である複数の表皮片及び拘束布の縫合手順を説明するための断面図である。
【図5】図1及び図2に示されるシートバックに設けられた突出部の構成を示す斜視図である。
【図6】本発明の実施形態に係る拘束布が省略された場合の問題点について説明するための縦断面図である。
【図7】本発明の実施形態に係る拘束布が省略された場合の問題点について説明するための斜視図であり、図5に対応した図である。
【図8】本発明の実施形態に係るシートカバーの変形例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図1〜図7を参照して、本発明の実施形態に係るシートカバー10について説明する。
【0023】
図1及び図2に示されるように、本実施形態に係るシートカバー10は、車両用シート12におけるシートバック14の表皮を構成している。このシートバック14の下端部は、図示しないシートクッションの後端部に連結されており、シートバック14の上端部には、ヘッドレスト16が取り付けられている。このヘッドレスト16の左右両側において、シートバック14の上部には、上方側へ突出した左右一対の突出部14Aが設けられており、これらの突出部14Aによってヘッドレスト16とシートバック14のデザイン的な一体感が向上している。
【0024】
図3に示されるように、シートバック14は、そのクッション材を構成するシートバックパッド18を備えている。このシートバックパッド18は、上述した左右一対の突出部14Aを構成する部位が上方側へ突出した突出部18Aとされている。このシートバックパッド18には、シートカバー10の本体部を構成するカバー本体20が被せられている。
【0025】
カバー本体20は、図1、図2に適宜示される表皮片22、24、26、28、30、32、34、36、38を含む複数の表皮片が互いに縫合されることにより袋状に縫製されている。上記複数の表皮片は裏返し状態で縫合されることによりカバー本体20が裏返し状態の袋状に縫製され、この裏返し状のカバー本体20がシートバックパッド18に被せられながら表裏反転される。なお、上記複数の表皮片の材料としては、革、厚布、その他の材料が適用される。
【0026】
表皮片22は、突出部18Aの上面を覆うと共に、突出部18Aの後面を含むシートバックパッド18の幅方向側部における後面を覆っている。また、表皮片24は、突出部18Aにおけるヘッドレスト16側の側面を覆っており、表皮片26は、シートバックパッド18の側面を覆っている。
【0027】
図3に示されるように、表皮片22と表皮片24は、それぞれの縫い代22A、24Aが縫糸40によって縫合されることにより互いに結合されている。なお、表皮片24の下端部には、表皮片30が縫合されている。また、表皮片22と表皮片26は、それぞれの縫い代22B、26Aが縫糸42によって縫合されることにより互いに結合されている。これにより、表皮片22の両端側には、隣り合う一対の縫合部46、48が設けられている。
【0028】
縫合部46における縫い代22A、24Aは、突出部18Aの上面におけるヘッドレスト16側の端部に形成された鋭角な角部18A1の稜線に沿って配置されている。また、縫合部48における縫い代22B、26Aは、突出部18Aの上面におけるヘッドレスト16とは反対側の端部に形成された鈍角な角部18A2の稜線に沿って配置されている。これらの縫合部46、48における縫い代22A、24A、22B、26Aは、カバー本体20の裏面側に配置されている(なお、図3においては、角部18A1、18A2の先端側がシートカバー10からの圧力によって押し潰された状態が図示されている)。
【0029】
カバー本体20の裏面側において表皮片22とシートバックパッド18との間には、カバー本体20と共にシートカバー10を構成する拘束布50が配置されている。この拘束布50の材料としては、不織布、服生地、薄皮の他、クインズコート(「桐生トリコット株式会社」が製造しているポリエステル不織布の商品名)等の廉価な布地が用いられる。この拘束布50の一端部50Aは、縫糸40によって一方の縫合部46に縫合(共縫い)されており、拘束布50の他端部50Bは、縫糸42によって他方の縫合部48に縫合(共縫い)されている。これにより、一対の縫合部46、48の間に拘束布50が掛け渡されている。この拘束布50は、一方の縫合部46における縫い代22A、24Aに対して他方の縫合部48側へ向いた張力T(図3参照)を付与しており、これにより、縫い代22A、24Aを他方の縫合部48側へ倒れた状態に拘束している。また、この拘束布50は、一端部50Aが縫い代22A、24Aに対してシートバックパッド18側に配置されており、一端部50Aによって縫い代22A、24Aを覆っている。
【0030】
また、拘束布50の一端部50Aは、縫糸40によって縫い代22A、24Aに縫合された後に、他方の縫合部48側へ折り返されており、縫糸40よりも縫合部48側において、更に別の縫糸52によって縫い代22A、24Aに縫合(捨て縫い)されている。この拘束布50の一端部50Aは、縫い代22A、24Aに対してシートバックパッド18側に配置されており、拘束布50の一端部50Aによって縫い代22A、24Aが覆われている。
【0031】
拘束布50の他端部50Bは、縫い代22Bの先端側と共に一方の縫合部46側へ折り返されて重ね合わされている。この重ね合わせ部分は、縫糸54によって縫い代22B及び表皮片22の本体部(縫い代22A、22Bの以外の部分)に縫合されている。さらに、拘束布50の他端部は、縫糸54よりも縫い代22Bの先端側で別の縫糸56により縫い代22Bに縫合(捨て縫い)されている。また、表皮片22に縫合された表皮片26の縫い代26Aは、縫合部48とは反対側へ折り返されると共に、縫糸58によって表皮片26の本体部(縫い代26A以外の部分)に縫合されている。なお、上述の縫糸54、58は、図1及び図2に示されるように、縫合部46における縫合ライン46Aに沿って延在しており、飾りステッチとしてシートカバー10のデザイン性を向上させている。
【0032】
次に、上述した表皮片22、24、26及び拘束布50の縫合手順を図4に基づいて説明する。図4(A)に示されるように、表皮片22、24は、表面同士が突き合わされ、裏面が露出した状態で重ねられる。拘束布50は、表皮片24を介して表皮片22とは反対側に重ね合わされる。このとき、縫い代22A、24Aと拘束布50の一端部50Aが上下に並ぶように揃えられる。この状態で、縫糸40により縫い代22A、24Aと拘束布50の一端部50Aとが縫合される。
【0033】
次いで、図4(B)に示されるように、拘束布50が一端部50Aにおいて折り返されて重ね合わされると共に、当該重ね合わせ部分が縫糸52によって縫い代22A、24Aに縫合(捨て縫い)される。
【0034】
次いで、図4(C)に示されるように、表皮片22が拘束布50の他端部50B側へ折り返され、表皮片22の縫い代22Bと拘束布50の他端部50Bとが重ね合わされる。この状態で、縫い代22Bと他端部50Bとが縫糸56によって縫合(捨て縫い)される。
【0035】
次いで、図4(D)に示されるように、表皮片26がその表面を表皮片22の表面に突き合わせた状態で表皮片22に重ねられる。このとき、縫い代22B、26Aが上下に並ぶように揃えられる。この状態で、縫い代22B、26Aと拘束布50の他端部50が縫糸42によって縫合される。その後、縫い代26Aが表皮片26の本体部側へ折り返されて縫糸58により表皮片26に縫合されると共に、縫い代22B及び一端部50Bが縫合部46側へ折り返されて縫糸54により表皮片22の本体部に縫合される(図示省略)。この状態で、表皮片26が図4(D)の矢印A方向へ折り返されると共に、表皮片24が図4(D)の矢印B方向へ折り曲げられると、図3に示されるような状態になる。
【0036】
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0037】
上記構成のシートカバー10では、カバー本体20の裏面側に配置された拘束布50が、隣り合う一対の縫合部46、48の間に掛け渡されている。この拘束布50は、一方の縫合部46における縫い代22A、24Aに対して他方の縫合部48側へ向いた張力T(図3参照)を付与している。これにより、縫い代22A、24Aが拘束布50によって他方の縫合部48側へ倒れた状態に拘束されており、縫い代22A、24Aの倒れ方向が一定方向に規制されている。これにより、図5に示されるように、縫合部46における縫合ライン46Aの蛇行が防止されている。
【0038】
つまり、拘束布50が省略されている場合、カバー本体20をシートバックパッド18に被せる際には、図6(A)及び図6(B)に示される如く、作業者が指60などによって縫い代22A、24Aを一定方向に倒す必要がある。このような作業は非常に煩雑であるため、作業効率が著しく低下してしまう。しかも、作業のむらなどにより、図6(C)及び図6(D)に示される如く、縫い代22A、24Aの倒れ方向が不均一になることがある(なお、図6(C)及び図6(D)では異なる断面が図示されている)。この場合、図7に示される如く、縫合部46の周辺に凸凹が生じると共に、縫合ライン46Aの蛇行が発生し、車両用シートの外観品質が低下してしまう。
【0039】
この点、本実施形態では、上述の如く拘束布50によって縫い代22A、24Aの倒れ方向が一定方向に規制されることにより、上述の如き凸凹の発生や縫合ライン46Aの蛇行が防止されるので、シートバック14の外観品質を向上させることができる。特に、本実施形態のように、縫い代22A、24Aがシートバックパッド18に設けられた角部18A1の稜線に沿って配置される場合でも、拘束布50によって縫い代22A、24Aと角部18A1の稜線との干渉が防止されるので、角部18A1において生じやすい縫合ライン46Aの蛇行を良好に防止することができる。
【0040】
しかも、表皮片22、24、26の縫製工程において拘束布50の縫合作業を完了することができるので、加工工程が多くなることのない簡単な作業で容易に縫合ラインの蛇行を抑制することができる。さらに、カバー本体20をシートバックパッド18に被せる(カバーリング)に際して、縫い代22A、24Aを一定方向に倒す作業を省略することができるので、カバーリングの作業効率を大幅に向上させることができる。これにより、車両用シート12の製造コストを低下させることができる。
【0041】
また、本実施形態では、拘束布50の一端部50Aが縫い代22A、24Aとシートバックパッド18と間に配置されており、拘束布50の一端部50Aによって縫い代22A、24Aが覆われている。このため、シートバックパッド18にカバー本体20を被せる際に、縫い代22A、24Aがシートバックパッド18の角部18A1と直接干渉することがないので、縫い代22A、24Aの倒れ方向が角部18A1との干渉によって不均一になることを回避できる。
【0042】
さらに、本実施形態では、一方の縫合部46に縫合された拘束布50の一端部50Aが、他方の縫合部48側へ折り返されている。このように、拘束布50の一端部50Aが折り返される構成であるため、表皮片22、表皮片24、及び拘束布50を縫合する際には、図4(A)に示されるように、表皮片22、表皮片24、及び拘束布50を単純に重ね合わせることにより、縫い代22A、24A、及び拘束布50の一端部50Aを容易に揃えることができる。したがって、これらの布材の縫合作業を容易なものにすることができる。また、折り返された拘束布50の一端部50Aが更に縫い代22A、24Aに縫合されることにより、拘束布50の一端部50Aを折り返し状態に拘束することができる。これにより、その後の縫合作業(図4(B)及び図4(C)参照)を容易なものにすることができる。
【0043】
また、本実施形態では、拘束布50の他端部50Bは、縫糸42よりも縫い代22Bの先端側で別の縫糸56により縫い代22Bに縫合(捨て縫い)されている。これにより、表皮片22と表皮片26を縫合する前に、拘束布50の他端部50Bを、表皮片22に仮止めすることができる(図4(C)図示状態)。これにより、表皮片22と表皮片26との縫合作業(図4(D)参照)を容易なものにすることができる。
【0044】
なお、上記実施形態においては、拘束布50によって倒れた状態に拘束されるのが、一方の縫合部46における縫い代22A、24Aだけである場合について説明したが、請求項1〜請求項5に係る発明はこれに限らず、図8に示される変形例のように構成してもよい。この変形例では、一方の縫合部46における縫い代22A、24Aが拘束布50の張力Tによって他方の縫合部48側へ倒れた状態に拘束されると共に、他方の縫合部46における縫い代22B、26Aが拘束布50の張力Tによって一方の縫合部48側へ倒れた状態に拘束されている。この構成においては、他方の縫合部48における縫合ラインの蛇行も防止することができる。つまり、本願請求項1〜5に係る発明では、両方の縫合部46、48における縫い代(22A、24Aと22B、26A)を、互いに接近する側へ倒れた状態に拘束するものが含まれる。
【0045】
また、上記実施形態では、拘束布50の一端部50Aが縫い代22A、24Aに対してシートバックパッド18側に配置され、縫い代22A、24Aを覆った構成にしたが、請求項1に係る発明はこれに限らず、図8に示されるように、拘束布50の一端部50Aが縫い代22A、24Aに対してシートバックパッド18とは反対側に配置された構成にしてもよい。
【0046】
また、上記実施形態では、拘束布50の一端部50Aが他方の縫合部48側へ折り返された構成にしたが、請求項1及び請求項2に係る発明はこれに限らず、図8に示されるように、拘束布50の一端部50Aを折り返さない構成にしてもよい。
【0047】
さらに、上記実施形態では、拘束布50の一端部50Aが縫糸52によって縫い代22A、24Aに捨て縫いされると共に、拘束布50の他端部50Bが縫糸56によって縫い代22Bに捨て縫いされた構成にしたが、請求項1及び請求項2に係る発明はこれに限らず、縫糸52、56が省略された構成にしてもよい。
【0048】
また、上記実施形態では、縫い代22A、24Aがシートバックパッド18の角部18A1に沿って配置された構成にしたが、請求項1〜請求項4に係る発明はこれに限らず、縫い代22A、24Aの配置は適宜変更することができる。
【0049】
また、上記実施形態では、拘束布50が縫い代22A、24Aに対して張力Tを付与する構成にしたが、請求項1に係る発明はこれに限らず、拘束布50は、縫い代22A、24Aを倒れた状態から起き上がらないように拘束するものであればよい。
【0050】
さらに、上記実施形態では、本発明がシートバック14のシートカバー10に対して本発明が適用された場合について説明したが、本発明は、シートクッションのシートカバーやヘッドレストのシートカバーに対しても適用することができる。また、本発明は、車両用シート以外のシートのシートカバーに対しても適用することができる。
【0051】
その他、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更して実施できる。また、本発明の権利範囲が上記実施形態に限定されないことはいうまでもない。
【符号の説明】
【0052】
10 シートカバー
18 シートバックパッド(パッド)
18A1 角部
20 カバー本体
22 表皮片
22A、22B 縫い代
24 表皮片
24A 縫い代
26 表皮片
26A 縫い代
46 一方の縫合部
48 他方の縫合部
50 拘束布
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の表皮片が縫い代において互いに縫合されることにより複数の縫合部が設けられた袋状に縫製され、シートのクッション材であるパッドに被せられると共に、前記パッドと接触する裏面側に前記縫い代が配置されたカバー本体と、
前記カバー本体の裏面側に設けられ、隣り合う一対の前記縫合部にそれぞれ縫合されて前記一対の縫合部間に掛け渡され、前記一対の縫合部のうちの一方の前記縫合部における前記縫い代を、他方の前記縫合部側へ倒れた状態に拘束する拘束布と、
を備えたシートカバー。
【請求項2】
前記拘束布は、前記一方の縫合部に縫合された端部が前記一方の縫合部における前記縫い代を覆っている請求項1に記載のシートカバー。
【請求項3】
前記拘束布は、前記一方の縫合部に縫合された端部が前記他方の縫合部側へ折り返されると共に前記一方の縫合部における前記縫い代に更に縫合されている請求項1又は請求項2に記載のシートカバー。
【請求項4】
前記拘束布は、前記他方の縫合部に縫合された端部が、前記他方の縫合部とは別に、前記一対の縫合部の間に配置された一の前記表皮片の前記縫い代に縫合されている請求項1〜請求項3の何れか1項に記載のシートカバー。
【請求項5】
前記一方の縫合部における前記縫い代は、前記パッドに設けられた角部の稜線に沿って配置されている請求項1〜請求項4の何れか1項に記載のシートカバー。
【請求項1】
複数の表皮片が縫い代において互いに縫合されることにより複数の縫合部が設けられた袋状に縫製され、シートのクッション材であるパッドに被せられると共に、前記パッドと接触する裏面側に前記縫い代が配置されたカバー本体と、
前記カバー本体の裏面側に設けられ、隣り合う一対の前記縫合部にそれぞれ縫合されて前記一対の縫合部間に掛け渡され、前記一対の縫合部のうちの一方の前記縫合部における前記縫い代を、他方の前記縫合部側へ倒れた状態に拘束する拘束布と、
を備えたシートカバー。
【請求項2】
前記拘束布は、前記一方の縫合部に縫合された端部が前記一方の縫合部における前記縫い代を覆っている請求項1に記載のシートカバー。
【請求項3】
前記拘束布は、前記一方の縫合部に縫合された端部が前記他方の縫合部側へ折り返されると共に前記一方の縫合部における前記縫い代に更に縫合されている請求項1又は請求項2に記載のシートカバー。
【請求項4】
前記拘束布は、前記他方の縫合部に縫合された端部が、前記他方の縫合部とは別に、前記一対の縫合部の間に配置された一の前記表皮片の前記縫い代に縫合されている請求項1〜請求項3の何れか1項に記載のシートカバー。
【請求項5】
前記一方の縫合部における前記縫い代は、前記パッドに設けられた角部の稜線に沿って配置されている請求項1〜請求項4の何れか1項に記載のシートカバー。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2012−90677(P2012−90677A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−238697(P2010−238697)
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【出願人】(000004640)日本発條株式会社 (1,048)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【出願人】(000004640)日本発條株式会社 (1,048)
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