説明

シートベルト装置

【課題】主にリトラクタの組み立てやすさを向上させたシートベルト装置を提供することを目的としている。
【解決手段】シートベルト装置100は、シートバック106に設けられ加速度センサユニット128を有するリトラクタ108、シートバック106に連動して回転する角度検出部114、角度検出部114の回転を加速度センサユニット内の加速度センサ130に伝達するワイヤ112を備える。加速度センサユニット128は、ワイヤ112と連結しこれを巻き取るプーリ138、プーリ138を覆うケース146・カバー148、カバー148とプーリ138とに接続しプーリ138を回転させるスプリング142を含む。カバー148・ケース146は、スプリング142を蓄勢した状態で組み合わされる。カバー148はトルクR1を受けていて、このトルクR1を妨げるようケース146に干渉する突起部156を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の座席に設置され、帯状のウェビングで乗員を拘束するシートベルト装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シートベルト装置は、急停止や衝突などによって車両に大きな減速度が作用した際に、慣性力による乗員の前方への飛出しを防ぐための安全装置である。シートベルト装置は、帯状のウェビングを利用して乗員を座席に拘束する。ウェビングは、その根元側がリトラクタに巻かれて収納されていて、その先端側に設けられたタングプレートを引っ張ることでリトラクタから引き出して装着する構成になっている。近年では、リトラクタは、座席の上部、具体的には背もたれであるシートバックの側部上側に内蔵されるタイプのものが普及している。
【0003】
リトラクタの多くは加速度センサを有している。この加速度センサは、車両に急激に生じた加速度を検知するものであって、衝突等の緊急事態に備えるために設けられている。リトラクタは、衝突時に生じるような大きな加速度(減速度)を加速度センサが検知するとスピンドル(ウェビングを巻き取る軸部材)を固定し、これによってウェビングによる乗員の拘束を行う構成となっている。
【0004】
一般的な加速度センサは、内蔵されているボールやウェイトなどの移動によって加速度を検知する構造となっている。このような構造の加速度センサは、正常に機能するために、初期状態として設定された姿勢をシートバックの傾斜角度にかかわらず常に一定に保つ必要がある。そのために、例えば特許文献1に記載されているリトラクタでは、シートバックの傾斜動作の中心となる回転軸にケーブル進退装置を設けていて、このケーブル進退装置とリトラクタとをケーブルで接続している。そして、ケーブル進退装置がシートバックの動きに合わせてケーブルを送り出したり引き取ったりすることで、リトラクタが備える加速度センサの姿勢を制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−52921号公報
【発明の概要】
【0006】
特許文献1に記載のリトラクタの内部には、ケーブルがたるまないよう、ケーブルを巻き取るホイールが設けられている。このホイールにはスプリングが備えられていて、このスプリングでホイールを付勢し回転させることでケーブルを巻き取っている。このようなスプリングを備えた構成のリトラクタでは、スプリングに弾性エネルギーを蓄積した状態(蓄勢という)で各部位の組立作業が行われる場合がある。その場合、蓄勢したスプリングは周囲の部材に常に負荷を与えるため、それらの部材が動かないよう手で押さえながら作業を行う必要があるなど、作業効率が低下するおそれがある。
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような課題に鑑み、主にリトラクタの組み立てやすさを向上させたシートベルト装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明にかかるシートベルト装置の代表的な構成は、車両前後方向へ傾斜可能なシートバックに設けられ加速度センサユニットを有するリトラクタと、シートバックを傾斜可能に支える軸部材にシートバックと同心に設けられてシートバックの傾斜動作に連動して回転する角度検出部と、角度検出部とリトラクタとを接続し、角度検出部の回転を加速度センサユニット内の加速度センサに伝達するワイヤと、を備え、加速度センサユニットは、回転可能であって、ワイヤと連結してワイヤを巻き取るプーリと、プーリを覆うハウジングであって、ケースとカバーとを有するハウジングと、ケースまたはカバーとプーリとに接続してプーリを付勢し回転させるスプリングと、を含み、ケースおよびカバーは、スプリングに弾性エネルギーを蓄積した状態で組み合わされ、ケースおよびカバーのうち少なくとも一方は、スプリングからプーリと同心かつ逆向きのトルクを受けていて、他方へ向かって突出しトルクによる回転を妨げるように他方と干渉する突起部を有することを特徴とする。
【0009】
上記のケースとカバーとは、お互いを組み合わせると、どちらか少なくとも一方が有している突起部が他方と干渉する構成となっている。特に上記構成では、この干渉をスプリングから受けるトルクを妨げるよう生じさせている。そのため、これらケースおよびカバーは、弾性エネルギーを蓄積した状態のスプリングからトルクを受けても回転するおそれがなくなっている。したがって上記構成であれば、主に加速度センサユニットの組立作業時に、ケースとカバーがずれないように手で押さえるなどの必要がなくなっていて、作業効率が向上する。
【0010】
当該シートベルト装置はさらに、管状であってワイヤの周囲を覆うワイヤケーシングを備え、ケースおよびカバーはさらに、それぞれワイヤケーシングが連結する延長部を有し、突起部は、延長部に設けられているとよい。この構成であっても、ケースとカバーとが、スプリングからのトルクで回転するおそれはなくなる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、主にリトラクタの組み立てやすさを向上させたシートベルト装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施形態にかかるシートベルト装置を例示した図である。
【図2】図1のリトラクタの分解図である。
【図3】図2のカバーの裏側を拡大してそれぞれ例示した図である。
【図4】図2のケースとカバーとを組み合わせた図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0014】
図1は、本発明の第1実施形態にかかるシートベルト装置100を例示した図である。当該シートベルト装置100を構成する要素の一部は、座席102の内部に設置されている。座席102は車両の前部座席を想定したものであって、シートクッション104とシートバック106とを含んでいる。特にシートバック106は、車両前後方向へ向かって傾斜可能な構成となっている。
【0015】
シートバック106には、シートベルト装置100に含まれるリトラクタ108が内蔵されている。リトラクタ108は、帯状のウェビング110を巻き取って収納する部位である。リトラクタ108は、シートバック106に内蔵されているために、シートバック106の傾斜動作と共に位置および姿勢が変化する。リトラクタ108の内部には、後述する加速度センサ130(図2参照)が備えられている。そしてリトラクタ108には、この加速度センサ130の姿勢を一定に保つためのワイヤ112が接続している。
【0016】
ワイヤ112は、リトラクタ108と角度検出部114とを接続している。角度検出部114は、ワイヤ112を介して、加速度センサ130(図2参照)の姿勢をシートバック106の傾斜角度に合わせて制御する部位である。角度検出装置は、シートバック106を傾斜可能に支えている軸部材116に取り付けられている。角度検出部114のうち、レバー部118はシートクッション104に固定されているが、外装であるケース部120はシートバック106に固定されている。
【0017】
ケース部120は軸部材116に対してシートバック106と同心に設けられていて、シートバック106の傾斜動作に連動して回転する。ワイヤ112はケース部120に接続していて、ケース部120が回転することによって、ワイヤ112が送り出されたり巻き取られたりする仕組みとなっている。そして、このワイヤ112の動きによってケーブ120の回転がリトラクタ108へと伝達され、加速度センサ130(図2参照)の姿勢が制御される仕組みとなっている。
【0018】
図2は、図1のリトラクタ108の分解図である。図2に例示する各部材は、図1の奥側から手前側を向いてリトラクタ108を見た状態で図示を行っている。
【0019】
図2に例示するように、リトラクタ108には骨格となるフレーム122が含まれていて、このフレーム122にスピンドル124が回転可能に設置されている。スピンドル124は、ウェビング110(図1参照)を巻き取る際にその軸となる部位である。スピンドル124にはロック機構126が付属している。このロック機構126は、衝突等の緊急等にスピンドル124をロックして、ウェビング110の引き出しを停止させてその拘束力を高めるための機構である。このロック機構126は、加速度センサユニット128による加速度(または減速度)の検知に起因して作動する。
【0020】
加速度センサユニット128は、加速度センサ130と姿勢操作部129とを含んで構成されている。加速度センサ130は、衝突等の緊急事態に生じる加速度の検知を行うセンサである。加速度センサ130は主に、ボール状のウェイト132と、ウェイト132を収容するハウジング134、およびレバー136を含んで構成されている。リトラクタ108は、ウェイト132が加速度によって動いた場合にレバー136等を通じてロック機構126を作動させる構成となっている。
【0021】
上記構造の加速度センサ130は、正常に機能するために、初期状態として設定された姿勢を常に一定に保つ必要がある。しかし、加速度センサ130はシートバック106(図1参照)の内部に設けられているために、通常であればシートバック106の傾斜動作と共に姿勢が変ってしまう。そこで、加速度センサユニット128には、姿勢操作部129が付属している。この姿勢操作部129には、図1を参照して説明した角度検出部114から伸びるワイヤ112が接続していて、このワイヤ112の動きによって加速度センサ130の姿勢を一定に保っている。
【0022】
ワイヤ112はプーリ138に連結している。プーリ138は円板形状であって、回転することができる。プーリ138の縁には溝140が設けられていて、ワイヤ112はこの溝140に巻き取られる構成となっている。プーリ138の動きを簡単に説明する。まず、図1のシートバック106を後方に倒した場合、ワイヤ112は角度検出部114によってプーリ138(図2参照)から引っ張られる。このようにしてワイヤ112に引っ張られることでプーリ138が回転し、この回転が加速度センサ130へ伝えられる。これによって、シートバック106(図1参照)を後方へ倒した場合であっても、加速度センサ130の姿勢は変わることなく一定に保たれる。
【0023】
次に、図1のシートバック106を、後方へ倒した状態から起き上がらせた場合を説明する。シートバック106を起き上がらせた場合、角度検出部114によるワイヤ112の引っ張りは徐々に弱くなる。ここで、図4に例示するように、プーリ138にはスプリング142が接続していて、このスプリング142によってプーリ138にはワイヤ112を巻き取る方向へトルク(図3(b)のトルクR2)が加えられている。角度検出部114によるワイヤ112の引っ張りが弱まると、プーリ138はスプリング142に付勢されてワイヤ112の引張り方向とは逆であるワイヤ112の巻取り方向へ回転する。この回転によって、シートバック106(図1参照)を起き上がらせた場合もまた、加速度センサ130の姿勢は変わることなく一定に保たれる。
【0024】
上述したプーリ138はハウジング144に覆われている。このハウジング144は、ケース146とカバー148とによって構成されている。そして本実施形態では、プーリ138に接続しているスプリング142は、カバー148にも接続している。
【0025】
図3は、図2のカバー148の裏側を拡大してそれぞれ例示した図である。図3(a)に例示したように、カバー148の裏側の中央にはボス部150が設けられていて、その周囲は窪んでいてスプリング格納部152が設けられている。また、ボス部150にはスプリング142(図3(b)参照)のフック部142aを引っ掛けるフック連結部154が設けられている。
【0026】
図3(b)は、図3(a)のカバー148にスプリング142を取り付けた状態を例示した図である。図3(b)に例示するように、スプリング142は、ボス部150を中心にして、スプリング格納部152およびフック連結部154へ取り付けられる。ここで、スプリング142は、カバー148に対して図中時計周り(トルクR1)に巻かれることで弾性エネルギーが蓄積(蓄勢)され、その復元力が図中反時計回り(トルクR2)に働く。このトルクR2を受けて、仮想線で示すプーリ138は図中反時計回りに回転する。
【0027】
図3(b)のカバー148は、スプリング142を蓄勢した状態で、ケース146(図2参照)へ組み合わされる。しかしこの組合せ作業において、カバー148にはスプリング142から図中時計回り方向へ、プーリ138にかかるトルクR2と同心かつ逆向きのトルクR1がかかっている。そのため、カバー148は手で押さえていなければ回転してケース146から外れてしまうおそれがある。そこで、カバー148には、スプリング142のトルクR1によって回転しないよう、突起部156が設けられている。
【0028】
再び図3(a)を参照する。図3(a)に例示するように、突起部156は片側がカバー148から垂直に立ち上がっている(垂直面158)。この垂直面158は、ケース146(図2参照)に干渉するための面である。また、突起部156は、カバー148のうちの延長部148aに設けられている。図2に例示したように、ケース146にもまた延長部146aが設けられている。これら延長部146a・148aは、ワイヤ112の周囲を覆う管状のワイヤケーシング160が連結する部位である。
【0029】
図4は、図2のケース146とカバー148とを組み合わせた図である。ここで、図4(a)に例示しているのはカバー148の表面であって、図3(b)で例示していたのはカバー148の裏面である。そのため、図3(b)のケース146へかけられているスプリング142による図中時計回り方向へのトルクR1は、図4(a)では図中反時計回り方向となっている。
【0030】
図4(b)は、図4(a)のA−A断面図である。図4(b)に例示するように、カバー148に設けられた突起部156は、ケース146へ向かって突出しこれに干渉している。特に垂直面158がケース146へ、トルクR1による回転を妨げるように干渉している。したがって、作業員がケース146から手を離したとしても、ケース146が回転して外れることはない。このように、カバー148は突起部156を利用してケース146へ仮止めできるため、その後のボルト締め等の作業において、作業員の作業効率が向上する。
【0031】
なお、本実施形態では、カバー148に突起部156を設けた構成としている。しかしこれに限らず、ケース146に突起部を設けてその突起部がカバー148に干渉する構成としてもよい。これによっても、蓄勢した状態のスプリング142からトルクを受けても、両部材は回転するおそれがなくなる。なお、突起部は、ケース146とカバー148のうち、スプリング142からトルクを受けている側に限ることなく設けてよい。
【0032】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、以上に述べた実施形態は、本発明の好ましい例であって、これ以外の実施態様も、各種の方法で実施または遂行できる。特に本願明細書中に限定される主旨の記載がない限り、この発明は、添付図面に示した詳細な部品の形状、大きさ、および構成配置等に制約されるものではない。また、本願明細書の中に用いられた表現および用語は、説明を目的としたもので、特に限定される主旨の記載がない限り、それに限定されるものではない。
【0033】
したがって、当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、車両の座席に設置され、帯状のウェビングで乗員を拘束するシートベルト装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0035】
R1・R2 …矢印、100 …シートベルト装置、102 …座席、104 …シートクッション、106 …シートバック、108 …リトラクタ、110 …ウェビング、112 …ワイヤ、114 …角度検出部、116 …軸部材、118 …レバー部、120 …ケース部、122 …フレーム、124 …スピンドル、126 …ロック機構、128 …加速度センサユニット、129 …姿勢操作部、130 …加速度センサ、132 …ウェイト、134 …ハウジング、136 …レバー、138 …プーリ、140 …溝、142 …スプリング、142a …フック部、144 …ハウジング、146 …ケース、146a …延長部、148 …カバー、148a …延長部、150 …ボス部、152 …スプリング格納部、154 …フック連結部、156 …突起部、158 …垂直面、160 …ワイヤケーシング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前後方向へ傾斜可能なシートバックに設けられ加速度センサユニットを有するリトラクタと、
前記シートバックを傾斜可能に支える軸部材に該シートバックと同心に設けられて該シートバックの傾斜動作に連動して回転する角度検出部と、
前記角度検出部とリトラクタとを接続し、該角度検出部の回転を前記加速度センサユニット内の加速度センサに伝達するワイヤと、を備え、
前記加速度センサユニットは、
回転可能であって、前記ワイヤと連結して該ワイヤを巻き取るプーリと、
前記プーリを覆うハウジングであって、ケースとカバーとを有するハウジングと、
前記ケースまたはカバーとプーリとに接続して該プーリを付勢し回転させるスプリングと、を含み、
前記ケースおよびカバーは、前記スプリングに弾性エネルギーを蓄積した状態で組み合わされ、
前記ケースおよびカバーのうち少なくとも一方は、前記スプリングから前記プーリと同心かつ逆向きのトルクを受けていて、他方へ向かって突出し該トルクによる回転を妨げるように該他方と干渉する突起部を有することを特徴とするシートベルト装置。
【請求項2】
当該シートベルト装置はさらに、管状であって前記ワイヤの周囲を覆うワイヤケーシングを備え、
前記ケースおよびカバーはさらに、それぞれ前記ワイヤケーシングが連結する延長部を有し、
前記突起部は、前記延長部に設けられることを特徴とする請求項1に記載のシートベルト装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−91391(P2013−91391A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234159(P2011−234159)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(503358097)オートリブ ディベロップメント エービー (402)
【復代理人】
【識別番号】110000349
【氏名又は名称】特許業務法人 アクア特許事務所
【Fターム(参考)】