説明

シートモールディングコンパウンド用補強繊維及びこれを用いたシートモールディングコンパウンドの製造方法

【課題】シートモールディングコンパウンドの作製過程における、樹脂コンパウンドの養生時間を短縮する。
【解決手段】補強繊維にBET比表面積が40〜200m2/gである増粘剤を付着してなるシートモールディングコンパウンド用補強繊維とする。不飽和ポリエステル樹脂、重合性単量体、低収縮剤を少なくとも含有する樹脂コンパウンドを作製した後に、該樹脂コンパウンドに前記増粘剤を付着させたシートモールディング用補強繊維を配合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、シートモールディングコンパウンド用補強繊維及びこれを用いたシートモールディングコンパウンドの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
繊維強化プラスチック(FRP)は、ガラス繊維等の補強繊維を熱硬化性樹脂中で硬化させた材料であり、機械的強度、耐薬品性、耐熱性、電気的性質に優れた複合材料として様々な分野で利用されている。FRPの成形方法としては種々存在するが、なかでもシートモールディングコンパウンド法(SMC法)は簡便なことから幅広く利用されている。
【0003】
ここで、SMC法は、不飽和ポリエステル樹脂、重合性単量体、充填剤、低収縮剤、硬化剤、増粘剤、着色剤等を配合して未硬化の不飽和ポリエステル樹脂を含む樹脂コンパウンドを調製し、この樹脂コンパウンドにガラス繊維などの補強繊維を配合してシート状成形材料、所謂シートモールディングコンパウンド(SMC)にプレ加工し、これを一定期間養生させて粘度を向上させたのち、成形に用いるものである。
【0004】
このようにSMCを製造するにあたり、樹脂コンパウンドに充填剤等を分散して混合する段階や、樹脂コンパウンドに補強繊維を配合する初期段階では、樹脂コンパウンドは充填剤や補強繊維等への含浸性・分散性を良くするため、粘性が低い液状であるのが好ましい。一方、製造されるSMCは、成形の際のハンドリングを良くするために半固形状であることが必要である。
【0005】
従来、増粘剤としては特許文献1、2等に記載されているように、酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属の酸化物が一般的に使用され、各種の材料を混合して樹脂コンパウンドを調製する段階からその全量が樹脂コンパウンドに配合されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005‐15953号公報
【特許文献2】特開2008‐7571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述したような樹脂コンパウンドに増粘剤を全量配合しておく方法では、養生に24時間以上、数日程度という長期間を要し、養生に時間が掛かる問題がある。養生時間を短縮させる方法としては、樹脂コンパウンドに表面積の大きい増粘剤を配合することが考えられるが、補強繊維を樹脂コンパウンドに配合するまでに増粘が進行して粘度が上がってしまい、補強繊維に樹脂コンパウンドの未含浸部分が生じる問題があった。
【0008】
本願発明は、上記背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、SMC作製過程において、補強繊維への樹脂コンパウンドの含浸性を良好としながら、SMCがハンドリングできるまでの養生時間を短縮することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本願請求項1記載の発明では、補強繊維にBET比表面積が40〜200m2/gである増粘剤が付着してなることを特徴とするシートモールディングコンパウンド用補強繊維を提供している。
【0010】
又、本願請求項2記載の発明では、不飽和ポリエステル樹脂、重合性単量体、低収縮剤を少なくとも含有する樹脂コンパウンドを作製した後に、該樹脂コンパウンドに請求項1に記載のシートモールディング用補強繊維を配合することを特徴とするシートモールディングコンパウンドの製造方法を提供している。
【0011】
又、本願請求項3記載の発明では、上記請求項2記載のシートモールディングコンパウンドの製造方法において、補強繊維を配合する前の樹脂コンパウンドにも増粘剤を含有することを特徴としている。
【0012】
又、本願請求項4記載の発明では、上記請求項2又は3記載のシートモールディングコンパウンドの製造方法において、配合する増粘剤の総量がシートモールディングコンパウンド100質量部中0.2〜0.4質量部であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本願請求項1記載のシートモールディングコンパウンド用補強繊維およびこれを用いた本願請求項2記載のシートモールディングコンパウンドの製造方法によれば、増粘剤を予め補強繊維側に付着させているので、補強繊維を樹脂コンパウンドへ配合する際に樹脂コンパウンドに増粘剤が配合される。そのため、増粘のコントロールがし易く、ハンドリング性にも優れる。さらに、増粘剤のBET比表面積を40〜200m2/gとし、高めの増粘活性を有するものとすることで、補強繊維への樹脂コンパウンドの含浸性を保ちながら、その後の養生工程で増粘が充分に進行し、粘度上昇が平行に達するまでの時間(養生時間)を大幅に短縮することができる。
【0014】
又、本願請求項3記載の発明のシートモールディングコンパウンドの製造方法においては、特に、補強繊維を配合する前のコンパウンドにも増粘剤を含有させ、補強繊維の配合前にもある程度は増粘を進行させておき、補強繊維の配合後にさらに増粘を進行させるようにしているのでハンドリング性に優れ、均一かつ確実に増粘でき、増粘のコントロールもしやすい利点がある。
【0015】
又、本願請求項4記載の発明のシートモールディングコンパウンドの製造方法においては、特に、配合する増粘剤の総量をシートモールディングコンパウンド100質量部中0.2〜0.4質量部とすると、補強繊維への樹脂コンパウンドの含浸性を良好にしながら、確実に増粘することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本願発明のSMCの製造方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本願発明の実施形態について説明する。
【0018】
本願発明のSMC用補強繊維は、BET比表面積が40〜200m2/gである増粘剤が付着してなるものとしている。これを用いるSMCの製造方法は、不飽和ポリエステル樹脂、重合性単量体、低収縮剤を少なくとも含有する樹脂コンパウンドを作製した後に、該樹脂コンパウンドに上記SMC用補強繊維を配合し、補強繊維に樹脂コンパウンドを含浸させるものとしている。
【0019】
次にSMC用補強繊維について詳細を説明する。
【0020】
本願発明のSMC用補強繊維に用いる補強繊維の種類は、特に制限されるものではなく、ガラス繊維、炭素繊維、ポリエステル繊維、フェノール樹脂、ポリビニルアルコール繊維、アラミド繊維、ナイロン繊維など、SMCの製造に用いられるあらゆるものが使用可能である。なかでも、ガラス繊維を好適に用いることができる。これらの補強繊維の形態も特に限定されるものではなく、チョップドストランド、チョップドストランドマット、ロービング、織物などを例示することができる。
【0021】
ガラス繊維や炭素繊維等の補強繊維においては、単繊維を集束剤で集束した市販品が多く提供されている。本願発明においても、繊維表面の保護や樹脂コンパウンドとの付着の確保および取扱い易さ等を考慮して、集束剤が使用されているものを使用することが好ましい。集束剤としては、後述する重合性単量体に可溶なものであればよく、一般に繊維集束剤として使用されるシラン系カップリング剤、ポリ酢酸ビニル、ポリエステル、エポキシ系重合体、ポリウレタン系重合体等の有機成分からなるものが挙げられる。これら集束剤には必要に応じて、帯電防止剤、乳化剤、レベリング剤、架橋剤などが配合されていてもよい。
【0022】
上記補強繊維に付着させておく増粘剤としては、特に制限されるものではないが、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウムなどの無機増粘剤を好ましく用いることができる。これらのなかでも、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムを好適に用いることができる。
【0023】
前述したように、補強繊維に付着させている増粘剤のBET比表面積の範囲を40〜200m2/gとし、比較的増粘活性が高い範囲としているので、増粘剤が補強繊維を樹脂コンパウンドに配合するタイミングで配合されても、短時間で高粘度に増粘することができる。上記範囲未満であると比表面積が小さいために増粘剤の増粘作用が低く、増粘速度が遅くなって養生時間を短くする効果が弱くなる。逆にBET比表面積が上記の範囲を超えて大きくなると、増粘剤の増粘作用が大きくなり過ぎ、増粘が不均一となり、補強繊維近傍で未含浸部分が発生するおそれがある。BET比表面積は60〜150m2/gとするのがさらに好ましい。増粘剤のBET比表面積の範囲を40〜200m2/gとするためには、所定の粒径の増粘剤を用いてもよいし、多孔質構造の増粘剤を用いるようにしてもよい。尚、このBET比表面積は窒素ガス吸着法により求めたものである。
【0024】
増粘剤の粒子の大きさは、特に限定されるものではないが、平均粒子径が0.1〜10μmの範囲であることが好ましく、2〜8μmの平均粒子径がより好ましい。増粘剤の平均粒子径がこの範囲の下限未満であると、BET比表面積が大きくなり過ぎ、増粘が速くなりすぎるおそれがある。また増粘剤の平均粒子径がこの範囲を超えて大きいと、樹脂コンパウンドへの不飽和ポリエステル樹脂組成物に増粘剤を配合して混合する際の分散性が悪くなり、増粘効果が低下するおそれがある。増粘剤としては、なかでも、2〜8μmの平均粒子径を有する、BET比表面積40〜200m2/gの多孔質構造のものが特に好ましく用いられる。
【0025】
集束剤の有機成分と補強繊維に付着している増粘剤は固形分比(質量比)で1:0.8〜1.6の範囲にあることが好ましい。これは、補強繊維に増粘剤を過度に付着させると、樹脂コンパウンドにおいて補強繊維が分散しにくくなったり、補強繊維に未含浸部分が生じやすくなったりするおそれがあるからであり、増粘剤が少なすぎると十分な増粘効果が得られないからである。
【0026】
補強繊維に増粘剤を付着させる方法として、特に限定されるものではないが、例えば、下記(1)〜(3)の方法が考えられる。
(1)予め集束剤で集束された補強繊維の表面に増粘剤を含む溶液を噴霧又は含浸等して増粘剤を付着させる。この場合、集束剤で集束された市販の補強繊維を用いて、本願の製造方法を適用することができる利点がある。
(2)予め集束剤で集束された補強繊維の表面に増粘剤粒子を付着させる。その後、増粘剤粒子をまぶした後で集束剤の溶液もしくは重合性単量体(スチレン)を噴霧し、補強繊維に増粘剤を固定化していることが好ましい。
(3)補強繊維の集束剤中に増粘剤を含有させる。この場合、補強繊維の繊維間に確実に樹脂コンパウンドを含浸させることが出来る利点がある。
【0027】
次に、図1を参照して上記SMC用補強繊維を用いた本願発明のSMCの製造方法について説明する。
【0028】
本願発明のSMCの製造工程は、材料混合工程(樹脂コンパウンドの作製)、SMCをシート化する工程を含む。
【0029】
材料混合工程は不飽和ポリエステル樹脂、重合性単量体、低収縮剤を少なくとも含有する樹脂コンパウンド1を作製する工程である。本願発明において樹脂コンパウンド1は、不飽和ポリエステル樹脂、重合性単量体、その他低収縮剤、硬化剤、充填剤などを含有して調製したものを用いることができる。配合は、不飽和ポリエステル樹脂、重合性単量体等の主原料を混合したのち、充填剤を混合し、さらに副原料である低収縮剤、増粘剤、硬化促進剤、硬化遅延剤、離型剤、顔料、希釈剤等を混合する順とするのが好ましい。
【0030】
重合性単量体としては、不飽和ポリエステル樹脂の重合に使用されるものであれば、特に制限されることなく用いることができるものであり、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、α−クロロスチレン、ジクロロスチレン、ジビニルベンゼンなどを挙げることができる。これらのなかでも、スチレンが最も好適に用いることができる。
【0031】
増粘剤は、前述したように補強繊維に付着させることによって樹脂コンパウンド1に導入するため、樹脂コンパウンド1の作製段階では必ずしも配合する必要はない。しかし、均一に増粘させる観点及びハンドリング性を良くする観点から、樹脂コンパウンド1の作製段階でも配合されていることが好ましい。この場合、SMCに配合される増粘剤の全量の20質量%〜60質量%が配合されていることが好ましい。即ち、増粘剤の全量の40質量%〜80質量%が補強繊維によって樹脂コンパウンド1に導入されることが好ましい。
【0032】
そして、不飽和ポリエステル樹脂に、上記の重合性単量体、上記の増粘剤、さらにポリスチレン等の低収縮剤、硬化剤、炭酸カルシウム等の充填剤などを配合し、これらを攪拌して良く混合することによって、樹脂コンパウンド1を得ることができるものである。
【0033】
各成分の配合量は特に制限されるものではないが、例えば、不飽和ポリエステル樹脂100質量部に対して、重合性単量体を5〜20質量部、増粘剤を0.2〜0.6質量部、さらに低収縮剤を5〜25質量部、硬化剤を0.5〜2.5質量部、充填剤を100〜250質量部の範囲に設定するのが好ましい。なお、不飽和ポリエステル樹脂、低収縮剤にはあらかじめ重合性単量体が30〜70質量%含有されている。
【0034】
次にこのようにして得られた樹脂コンパウンド1とSMC用補強繊維2を原料として用い、SMC製造装置を用いてSMCシート4を製造する。製造方法の一例を次に述べる。
【0035】
はじめに、樹脂コンパウンド1をドクターブレード等でフィルム5に塗布する。フィルム5はローラー8で順次搬送され、樹脂コンパウンド1はフィルム5の上面に連続的に塗布される。次に、その上に前述した増粘剤を付着させた補強繊維(SMC用補強繊維2)を配合する。この際、ロービング状のSMC用補強繊維2を切断し、散布して含浸させることが好ましい。
【0036】
次いで、補強繊維を散布した樹脂コンパウンド1の上にさらに補強繊維を含まない前記樹脂コンパウンドの未硬化樹脂シート6を積載し、ロール9で含浸、脱泡し、シート3へ成型する。加工されたシート3は通常35〜50℃で養生させることによって、SMC4を製造することができるものである。本願発明では養生時間を短縮することができるので、12時間から24時間程度で充分に増粘させることができる。
【0037】
得られたSMC4は、例えば図1に示すように、2枚重ねにして成型用金型10,11で加熱プレスすることにより、所望の形状に成型することができる。
【0038】
増粘剤の総量(予め樹脂コンパウンドに配合する量+補強繊維によって樹脂コンパウンドに導入される量)がシートモールディングコンパウンド100質量部中0.2〜0.4質量部となるように配合されることが好ましい。増粘剤の総量を上記範囲内とすることで、樹脂コンパウンド1の補強繊維への含浸性を良好にしながら、シート3の養生時間の短縮を図ることができる。即ち、上記範囲未満では増粘効果が充分ではないおそれがあり、上記範囲より大きいと補強繊維に樹脂コンパウンド1の未含浸部分が生じるおそれがあるからである。
【0039】
このように樹脂コンパウンド1を調製し、さらに樹脂コンパウンド1に補強繊維を配合するSMC4の製造方法において、補強繊維に予め増粘剤を付着させておき、補強繊維への配合時にも樹脂コンパウンド1に増粘剤が添加されるようにするので、補強繊維に樹脂コンパウンド1を含浸させた後で速やかに粘度を上昇させることができる。従って、補強繊維への樹脂コンパウンド1の含浸を容易に且つ均一に行なうことができるものであり、含浸不良の発生を防ぐことができるものである。
【0040】
樹脂コンパウンド1に増粘剤を付着させた補強繊維(SMC用補強繊維2)が含浸されると、補強繊維に付着した増粘剤が樹脂コンパウンド1に溶解して拡散し、樹脂コンパウンド1の粘度が上昇する。このとき、増粘剤は上記のようにBET比表面積が40〜200m2/gであって、増粘効果が高いものであり、短時間で樹脂コンパウンド1を高粘度に増粘することができ、かつ、補強繊維への含浸性も良好に保つことができる。
【0041】
このようにして得られたSMC4は、24時間養生後の押し込み硬さ変位量(底面が球状のおもり(3kg)により3分間荷重をかけた後の変位)が2.0mm〜3.0mmの範囲内であることが好ましい。さらに好ましくは2.2〜2.7mmである。シート化後のSMCは粘度測定が不可能であるため、押し込み硬さ測定器によりその押し込み変位を測定するものとしている。この範囲の押し込み硬さ変位量であると成形時にハンドリングしやすい。
【0042】
本願発明で得られたSMCは、種々の成形品に用いることができるが、浴槽、浄化槽、浴室の洗い場、防水パン、パネル、キッチンのカウンター等に好ましく用いることができる。
【実施例】
【0043】
次に、本願発明を実施例によって具体的に説明する。
【0044】
(実施例1)
[SMC用補強繊維の作製]
補強繊維としてガラス繊維(日東紡績(株)製「RS480PB−549」;シラン系カップリング剤とポリ酢酸ビニルの混合物からなる集束剤で集束されたもの)を用意し、これに増粘剤である酸化マグネシウムの粉末(BET表面積150m2/g、平均粒子径6.4μm)をまぶし、さらに少量のスチレンモノマーを噴霧して増粘剤を補強繊維に固定化してSMC用補強繊維を作製した。補強繊維には集束剤が4質量%付着しているものとし、集束剤と増粘剤の固形分の質量比率は1:1になるように調整した。
[SMCの作製]
不飽和ポリエステル80質量部と、ポリスチレン/スチレン溶液(低収縮剤としてのポリスチレンと重合性単量体としてのスチレンを質量比1:2で混合した溶液)15質量部に、充填剤である炭酸カルシウム(CaCO3)150質量部を配合し、よく攪拌したものをA液とした。別に、増粘剤である酸化マグネシウム(BET表面積40m2/g、平均粒子径6.4μm)をポリスチレン/スチレン溶液(低収縮剤としてのポリスチレンと重合性単量体としてのスチレンを質量比1:2で混合した溶液)5質量部に対して0.3質量部配合して攪拌したものをB液とした。これらA液とB液を速やかに混合し、樹脂コンパウンドを得た。
【0045】
次に、このように調整した樹脂コンパウンドをドクターブレードでフィルムに塗布し、予め作製したSMC用補強繊維60質量部を切断しながら散布した。別に前述したものと同一の樹脂コンパウンドを塗布した未硬化樹脂付きフィルムを用意し、該未硬化樹脂付きフィルムの樹脂コンパウンド塗布面とSMC用補強繊維を散布した面とを張り合わせて、ロールで押さえることにより、ガラス繊維に樹脂コンパウンドを含浸させ、SMCを得た。
【0046】
得られたSMCは40℃環境下に保管したのち、以下の手法により押し込み硬さと含浸性の評価を行った。
[押し込み硬さ]
押し込み硬さ測定器(東海精機(株)製)により測定した。具体的には、底面が球状のおもり(3kg)により3分間荷重をかけた後の変位を測定した。
40℃環境下での保管を開始した後、12、24、48時間後のSMCの硬さを押し込み硬さ測定器により測定した。24時間後における押し込み硬さが2.0〜3.0mmであることが好ましい。
[補強繊維への含浸性]
以下の基準で外観によって補強繊維への含浸性を評価した。
【0047】
○:含浸性良好のもの
×:一部でも未含浸部分が見られたもの
(実施例2〜10、比較例1、2)
表1に示すように、SMC用補強繊維の作製条件と、B液に含まれる酸化マグネシウムの部数を変えて、実施例1と同様にSMCを作製した。得られたSMCは40℃環境下に保管し、実施例1と同様に評価を行い、その結果を表1に示した。
(比較例3)
実施例1と同様に作製したA液と、増粘剤を0.9質量部とした以外は実施例1と同様に作製したB液を速やかに混合し、樹脂コンパウンドを得た。次いで、増粘剤である酸化マグネシウムを付着させていないガラス繊維を用いた以外は実施例1と同様にしてSMCを得た。
【0048】
得られたSMCは40℃環境下に保管したのち、実施例1と同様に評価を行い、その結果を表1に示した。
【0049】
【表1】

【0050】
表1にみられるように、実施例1〜10は、ガラス繊維に増粘剤を付着させておくことで、初期粘度を抑えてガラス繊維への含浸性が良好でありながら、養生工程では増粘を十分に進行させることができ、養生時間の短縮を図ることができた。
【0051】
一方、ガラス繊維に増粘剤を付着していない比較例3では、24時間後の押し込み硬さが3.0mmを超え、24時間後では粘度が不十分であった。
【0052】
また、ガラス繊維に付着させる増粘剤のBET比表面積が大きい比較例1では、ガラス繊維が樹脂コンパウンドに含浸された際に急激に増粘が進むため、ガラス繊維への未含浸が発生した。
【0053】
また、ガラス繊維に付着させる増粘剤のBET比表面積が小さい比較例2では、48時間後の押し込み硬さは3.0mmを下回ったものの、増粘速度が遅く、24時間後の押し込み硬さが3.0mmを超え、24時間を経過しても目標値の粘度に到達しないものであり、養生に長時間を要するものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
補強繊維にBET比表面積が40〜200m2/gである増粘剤が付着してなることを特徴とするシートモールディングコンパウンド用補強繊維。
【請求項2】
不飽和ポリエステル樹脂、重合性単量体、低収縮剤を少なくとも含有する樹脂コンパウンドを作製した後に、該樹脂コンパウンドに請求項1に記載のシートモールディング用補強繊維を配合することを特徴とするシートモールディングコンパウンドの製造方法。
【請求項3】
補強繊維を配合する前の樹脂コンパウンドにも増粘剤を含有することを特徴とする請求項2に記載のシートモールディングコンパウンドの製造方法。
【請求項4】
配合する増粘剤の総量がシートモールディングコンパウンド100質量部中0.2〜0.4質量部である請求項2又は3に記載のシートモールディングコンパウンドの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−63764(P2011−63764A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−217449(P2009−217449)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】