説明

シート定着装置、この装置に用いられる係止部材、及びシート定着構造

【課題】固定部材における係止部材の収容空間の省スペース化を図り且つシート定着作業での作業負荷を低減するシート定着装置、これに用いられる係止部材、及びシート定着構造を提供する。
【解決手段】本発明は、係止部材210と、固定部材220と、固定部材220との間に係止部材210とこれから延出するシート30とを挟む押さえ部材230とを備え、係止部材210は本体部211とこれから突出する被係止片212とを有し、本体部211は、シート30が通る切欠き部213と、これと被係止片212との間に湾曲状の支持面部214とを有し、固定部材220は、支持面部214からの力を受ける凹湾曲状の受け面222と被係止片212を係止する係止部224とを有し、被係止片212は、支持面部214が受け面222に沿うように係止部材210を回動させると係止部224に係止されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートを用いてエアドームやテント等の膜構造建築物等を組み立てるときに、その建築物においてシートを定着させるシート定着装置、係止部材、及びシート定着構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、膜構造建築物等の組み立て等においてシートを定着させるときに、建築物等の所定の位置に配置された固定部材にシートの縁部を係止させるシート定着装置として、特許文献1に記載のものがある。
【0003】
このシート定着装置では、図7に示されるように、建築物の支持部材等の固定体100に固定される固定部材110と、この固定部材110にシート102の縁部102aを係止させるための係止部材120と、係止部材120を固定部材110に向けて押さえ付ける押さえ部材130と、が用いられる。
【0004】
具体的に、固定部材110は、シート102の縁部102aに沿って延びる長尺部材であり、その内部に係止部材120が挿入される取付凹部112を有する。この取付凹部112は、図7において下方に向かって凹み、固定部材110の幅方向外側の側面114から内側に向けて係合片116が突出している。係止部材120は、シート102の縁部102aを保持する本体部122と、本体部122の下端から外側に向かって突出し、前記取付凹部112の係合片116と係合する係合部124とを有する。係合部124は、図7の略下方に延びてその先端部が外向きに屈曲している。そして、この係合部124の先端部が取付凹部112の係合片116に係止されることによって係止部材120が取付凹部112内に固定される。
【0005】
このシート定着装置では、シート102を定着させるときに、係合部124を係合片116の下側に嵌め込むべく、シート102の縁部102aを保持した状態の係止部材120を固定位置よりも幅方向内側までシート102の張力に逆らって引っ張る必要がある。そして、係止部材120を取付凹部112内に挿入して、係止部材120を固定部材110の幅方向外側に僅かに移動させることで、係止部材120の係合部124が取付凹部112内の係合片116と係合する。これにより、シート102の縁部102aが固定部材110に係止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−314990号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の係止部材120では、係合部124が固定部材110の係合片116と係合することによって固定部材110に係止されるため、本体部122から突出する係合部124をシート102の張力に対向して係合片116との係合状態を維持できるだけの十分な強度を確保できるような大きさ等にしなければならない。また、固定部材110も、その取付凹部112内において、係合部124を係合片116に係合させるために本体部122を固定部材110の幅方向に移動できる余裕を持たせた大きさの収容空間(係止部材120が挿入される空間)を確保できる大きさにしなければならず、省スペース化を図ることが困難である。
【0008】
また、上記の係止部材120では、シート102を定着させるときに、当該係止部材120を取付凹部112内における固定位置よりも固定部材110の幅方向内側までシート102の張力に逆らって引っ張ってから固定部材110の取付凹部112内に挿入しなければならず、一時的にシート102に必要以上の大きな負荷がかかる。そのため、シートの定着作業における作業負担が大きいと共に、定着作業中にシート102にダメージを与える要因にもなりかねない。
【0009】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、固定部材における係止部材の収容空間の省スペース化を図ることができ、且つシートの定着作業における作業負荷を低減することが可能なシート定着装置、このシート定着装置に用いられる係止部材、及びシート定着構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、上記課題を解消すべく、本発明は、シートを固定体に定着させる装置であって、前記シートの縁部を保持する長尺状の係止部材と、前記固定部材との間に前記シートを挟み込む押さえ部材と、を備える。そして、前記係止部材は、前記シートの縁部を挿入可能な本体部と、この本体部から突出する被係止片と、を有すると共に、前記固定部材と前記押さえ部材との間に形成される空間に配設され、前記本体部は、当該本体部に挿入された前記縁部から延出するシートを挿通させる切欠き部と、この切欠き部と前記被係止片との間に設けられ且つ外面が外側に向かって膨出する湾曲状の支持面部と、を有し、前記固定部材は、前記空間に面する受け面であって、前記シートの張力によって作用する前記支持面部からの力を受ける凹湾曲状の受け面と、前記被係止片を係止させるための係止部と、を有し、前記被係止片は、前記空間内で、前記支持面部が前記受け面に沿うように前記係止部材が回動されることにより、前記係止部に係止される。
【0011】
この発明では、被係止片と本体部の一部である支持面部とによって係止部材を固定部材に固定させるので、当該係止部材を細く(即ち、長手方向と直交する方向の寸法を小さく)することができる。従って、従来のシート定着装置における係止部材のように本体部から突出する大きな係合部を設ける必要がない。即ち、従来の係止部材では、係合部のみで当該係止部材を固定部材に固定するため、シートの張力に対向するための十分な強度を確保するために本体部から大きな係合部を突出させていた。これに対し、上述の構成の係止部材によれば、シートの張力によって作用する力を被係止片と支持面部とに分散することができるため、本体部から突出する被係止片を従来の係合部に比べて十分に小さくすることができる。しかも、上述の構成のシート定着装置によれば、支持面部が受け面に沿うように係止部材を回動することにより係止部材が固定部材に固定されるため、従来の固定部材のように、係合部を係止片に係合させるために本体部を移動できる余裕を持たせた大きさの収容空間(図7において係止部材120が挿入される空間)を確保しなくてもよい。その結果、係止部材が収容される空間の省スペース化を図ることが可能となり、固定部材の小型化等を図ることが可能となる。
【0012】
また、上述の構成のシート定着装置によれば、固定部材における係止部材の固定位置(支持面部が受け面に面接触する位置)で本体部を回動させるだけで、係止部材を固定部材に固定することができるため、シートの定着作業における労力の低減を図ることができる。即ち、上述の構成のシート定着装置では、シートを定着させるときに、係止部材を介してシートを引っ張った状態で当該係止部材の支持面部を受け面に受けさせ、その位置で支持面部が受け面に沿うように係止部材を回動させることで固定部材に係止部材が固定される。これに対し、従来のシート定着装置では、シートを定着させるときに、シートの面方向における固定位置よりもさらにシートの張力に逆らって係止部材を引っ張った上で当該係止部材を固定部材に嵌め込まなくてはならない。従って、上述の構成のシート定着装置によれば、係止部材をシートの張力に逆らって引っ張る距離を従来のシート定着装置よりも縮めることができ、これにより、シートを定着させるときの作業負荷を低減することが可能となると共に、定着作業中にシートへのダメージを与える可能性も低減することが可能となる。
【0013】
本発明に係るシート定着装置においては、前記被係止片は、前記本体部において前記切欠き部と反対側に設けられ、前記本体部は、前記シートの定着作業において前記係止部材が前記固定部材に係止するように当該本体部を回動させるときに用いられる冶具を着脱可能な冶具取付部を前記支持面部と反対側に有することが好ましい。
【0014】
かかる構成によれば、冶具取付部に冶具を取り付けることで、シートの張力が作用した状態で支持面部が受け面に沿うように係止部材を回動させ易くなると共に、シートの張力に逆らって係止部材を固定部材における係止位置まで移動させ易くなる。しかも、支持面部と反対の側に冶具を取り付けることができるため、冶具を取り付けた状態のままで係止部材を固定部材における固定位置まで移動させ、支持面部が受け面に沿うように係止部材を回動させることができる。
【0015】
また、被係止片が切欠き部と反対側に設けられる、即ち、被係止片が支持面部と冶具取付部との間に設けられることで、冶具を取り付けた状態で係止部材を固定部材の固定位置まで移動させる作業、及び、被係止片を固定部材の係止部に係止させるために係止部材を回動させる作業において冶具取付部に取り付けた冶具が邪魔にならない。
【0016】
前記冶具取付部は、前記本体部の周方向において、保持したシートに加わる張力方向と直交する方向よりもシート側に向かって開口する溝部を有することが好ましい。
【0017】
かかる構成によれば、冶具を溝部に挿入し、シートによって引っ張られる方向と反対向きに冶具を押すことで係止部材を引っ張ることができる。即ち、溝部が本体部の周方向においてシート側に向かって開口することにより、冶具を溝部に引っ掛けた状態で係止部材を移動させることができるため、冶具を溝部内に固定しなくてもシートの張力に逆らって係止部材を移動させることができる。
【0018】
しかも、係止部材の固定部材への固定後は、冶具を溝部内に挿入しているだけであるため、冶具を引き抜くだけで本体部から容易に取り外すことができる。
【0019】
前記係止部は、前記係止部材を挟んで前記受け面と反対側に設けられ且つ前記固定部材と前記押さえ部材との間に形成される前記空間に面する前記固定部材の側面から前記本体部に向かって突出することが好ましい。
【0020】
かかる構成によれば、被係止片を係止部に係止させるために本体部を回動させる労力を軽減することができる。具体的には、冶具取付部の溝部がシート側に向かって開口しているため、この溝部に挿入した冶具をシートから離れる方向に押圧することにより、本体部の周方向において、シートに引っ張られる方向と反対方向に本体部を回動させることができる。そして、回動させた状態で冶具による前記押圧を止めると、本体部は、シートの張力によって先ほどとは反対向きに回動する。これにより、冶具を押圧して本体部を回動させた状態で係止部材を被係止片側から先に受け面と前記側面との間に挿入でき、しかも、前記押圧の力を緩めると、本体部がシートの張力によって回動して被係止部が前記側面から突出する係止部に当接するため、シートの張力を利用しながら係止部材を固定部材に固定することができる。
【0021】
また、上記課題を解消すべく、本発明は、上述のいずれかのシート定着装置に用いられる係止部材であって、シートの縁部を挿入可能な本体部と、前記本体部から突出する被係止片と、を備え、前記本体部は、当該本体部に挿入された前記縁部から延出するシートを相通させる切欠き部と、この切欠き部と前記被係止片との間に設けられ且つ外面が外側に向かって膨出する湾曲状の支持面部と、を有している。
【0022】
この発明では、従来の係止部材のように本体部から突出する大きな係合部を設けなくても、被係止片と本体部の一部である支持面部とによって係止部材を固定部材に固定させることができ、当該係止部材を細くすることができる。
【0023】
また、上記課題を解消すべく、本発明は、上述のいずれかのシート定着装置と、前記シート定着装置における係止部材の本体部にその縁部が保持されるシートと、を備える。
【0024】
この発明では、従来のシート定着構造における係止部材のように本体部から突出する大きな係合部を設けなくても、被係止片と本体部の一部である支持面部とによって係止部材を固定部材に固定させることにより、当該係止部材を細くすることができる。しかも、上述の構成のシート定着構造によれば、支持面部が受け面に沿うように係止部材を回動することにより係止部材が固定体に固定されるため、係合部を係止片に係合させるために本体部を移動できる余裕を持たせた大きさの収容空間を確保しなくてもよく、その結果、係止部材が収容される空間の省スペース化を図ることが可能となる。
【0025】
また、上述の構成のシート定着構造によれば、固定部材における係止部材の固定位置で本体部を回動させるだけで、係止部材を固定体に固定することができるため、シートの定着作業における労力の低減を図ることができる。
【発明の効果】
【0026】
以上より、本発明によれば、固定部材における係止部材の収容空間の省スペース化を図ることができ、且つシートの定着作業における作業負荷を低減することが可能なシート定着装置、このシート定着装置に用いられる係止部材、及びシート定着構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本実施形態に係るシート定着構造を適用した構造物を模式的に示した図である。
【図2】シートの配置状態を説明するための図である。
【図3】前記シート定着構造を示す縦断面図である。
【図4】前記シート定着構造を示す分解図である。
【図5】前記シートの定着作業を説明するための図である。
【図6】前記シートの定着作業を説明するための図である。
【図7】従来のシートの定着構造を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の一実施形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
【0029】
図1は、本発明のシート定着構造を適用した構造物の一例を模式的に表す正面図である。
【0030】
本実施形態に係るシート定着構造は、構造物の支持部材10にシート30を定着させるための構造であり、シート30と、このシート30の縁部を支持部材10に定着させるためのシート定着装置20とを備えている。
【0031】
構造物は、所定の間隔をおいて並ぶ複数(本実施形態の例では3つ)の支持部材(固定体)10を有する。支持部材10は、当該支持部材10の並ぶ方向と直交し且つ水平に延びる水平板10aと、この水平板10aを支持するために当該水平板10aの下側に当該水平板10aの延びる方向に所定間隔で並ぶ支柱10b、10b、…とを有する。この水平板10aの上にシート定着装置20が配置され、このシート定着装置20によって両側のシート30、30が支持部材10に定着させられる。
【0032】
各シート30は、図2にも示されるように、複数の膜体32a、32b、34aを備え、シート本体32と接続部34とを有する。シート本体32は、シート定着装置20の外側(図1においては支持部材10の間)に主として存在するものであり、このシート本体32は、複数の膜体32a、32bの周縁部が積層された状態で互いに固着された構成である。そして、各膜体間(例えば膜体32a、32b間)は気密状態となっている。このシート本体32は、積層された膜体32a、32b間に流体(本実施形態では空気)が充填されており、これにより中央部がシートの厚み方向に膨出した形状を有する。
【0033】
接続部34は、シート本体32の周縁部に接続される部位であり、シート定着装置20の内部に存在する。接続部34の一端34bは、シート本体32を構成する膜体32a、32bの端部と重ね合わされると共に固着されている。即ち、シート30は、シート本体32の膜体32a、32bと接続部34の膜体34aとが固着された固着部36を有している。本実施形態では、シート30が3つの膜体32a、32b、34aを有し、そのうちの2つの膜体32a,32bがシート本体32を構成し、1つの膜体34aが接続部34を構成している。尚、固着部36では、熱溶着や接着剤による接着、強度の必要ないところでは両面テープによる貼着によって膜体32a、32b、34a同士が固着されている。
【0034】
膜体32a、32b、34aは、フッ素樹脂やポリ塩化ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂等の合成樹脂によって形成されたフィルムや、繊維織布や編物等によって形成された芯材の少なくとも片方の面に上記合成樹脂を被覆したシート等である。本実施形態の膜体32a、32b、34aは、例えば、フッ素樹脂により形成されたフィルムであり、フッ素樹脂として、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)が使用され、大きさが例えば4×4mの正方形で、厚さが例えば50〜500μmである。
【0035】
このようなシート30の縁部33は、係止部材210に保持される被保持部を構成する。この被保持部33は、シート本体32において当該被保持部33と隣接する部位と比べて、厚さ寸法(図2における上下方向の寸法)が大きくなるように構成される。具体的に、本実施形態の被保持部33は、シート本体32を構成するために積層されている膜体32a、32bのうちのいずれかの膜体(図2に示す例では、下側の膜体32a)の端部を、長尺状の芯材38を内包するように折り返すことによって形成されている。この膜体32aの折り返された部位の先端は、固着部36において他の膜体32b,34aと共に積層された状態で固着されている。
【0036】
一方のシート30の接続部34は、他方のシート30の接続部34と接続されている。即ち、一方のシート30の接続部34は、他方のシート30の接続部34に向かって延びている。一方のシート30の接続部34の一端34bは、前記のように固着部36でシート本体32の膜体32a、32bと固着され、他端34cは、他方のシート30の接続部34の他端34cと重ねられる。本実施形態では、接続部34の他端34c、34c同士は、両面テープ39によって接合されているが、これに限定されない。
【0037】
図3は、本実施形態のシート定着構造を示す縦断面図であり、図4は、その分解図である。
【0038】
本実施形態のシート定着構造におけるシート定着装置20は、シート30の被保持部(縁部)33を保持する長尺状の係止部材210と、支持部材10に固定される固定部材220と、この固定部材220に取り付けられる押さえ部材230と、を備える。
【0039】
係止部材210は、シート30の縁部33に沿って延び、この縁部(被保持部)33を挿入可能な本体部211と、この本体部211から突出する被係止片212と、を有し、固定部材220と押さえ部材230との間に形成される空間(係止部材収容空間)S1に配設される。
【0040】
本体部211は、当該本体部211に挿入された被保持部33から延出するシート30を挿通させる切欠き部213と、この切欠き部213と被係止片212との間に設けられる支持面部214とを有する。切欠き部213は、本体部211の内側の空間(被保持部収容空間)S2と本体部211の外側の空間とを連通させる部位である。切欠き部213は、本体部211において、長さ方向の全体に亘って形成される。この切欠き部213におけるシート30の通過する部位の間隔は、被保持部33の芯材38の径よりも小さい。
【0041】
支持面部214の外面214aは、外側に向かって膨出する湾曲形状を有する。詳しくは、支持面部214の外面214aは、本体部211の長手方向と直交する断面が外側に向かって膨出する円弧となる湾曲状の面である。
【0042】
また、本体部211は、シート30の定着作業において、係止部材210が固定部材220に係止するように当該本体部211を回動させるときに用いられる冶具を着脱可能な冶具取付部215を有する。この冶具取付部215は、本体部211において、支持面部214と被保持部収容空間S2を挟んで反対側に設けられる。
【0043】
冶具取付部215は、本体部211から突出し、本体部211の周方向において、保持したシート30に加わる張力方向(図3の矢印T参照)と直交する方向よりもシート30側に向かって開口する溝部215aを有する。この溝部215aには、冶具の先端部が挿入される(図5参照)。尚、この冶具取付部215の溝部215aは、本体部211に沿って連続してもよく、断続していてもよい。
【0044】
被係止片212は、本体部211において、切欠き部213と被保持部収容空間S2を挟んで反対側に設けられる。この被係止片212は、係止部材収容空間S1内で支持面部214が固定部材220の受け面222に沿うように係止部材210が回動されることにより、固定部材220の係止部224によって係止される。
【0045】
固定部材220は、一方向(シート30の縁部に沿う方向)に延びる形状を有する。この固定部材220は、前記一方向と直交する断面において、両サイドの肉厚の部位220a、220aと、中央の突設部位220bと、肉厚の部位220a及び突設部位220bの間に設けられる取付凹部221、221と、を備える。
【0046】
突設部位220bには、固定部材220に押さえ部材230を固定するためのボルトB2が螺入される雌ねじ穴部220cが設けられる。
【0047】
肉厚の部位220aには、固定部材220を支持部材10(水平板10a)に固定するためのボルトB1を受けるボルト受け部220dが設けられる。肉厚の部位220aの支持部材10と反対側の端部には、傾斜したシート受け面225が形成されている。このシート受け面225は、固定部材220の幅方向において、取付凹部221の外側に形成されている。そして、シート受け面225は、外側に向かって支持部材10から離れる方向(例えば、図3においては、外側に向かって高くなる方向)に傾斜している。本実施形態の固定部材220は、このシート受け面225上に当該シート受け面225に沿って配置される防水部材226を有する。この防水部材226の表面(固定部材220と反対側の面)は、シート受け面225と略平行である。そして、係止部材210に挿入された被保持部33から延出するシート30がこの防水部材226上に配置される。このとき、シート30の固着部36は、固定部材220の幅方向において、防水部材226の外側端部よりも内側に位置する。本実施形態の防水部材226は、ゴムにより形成されている。
【0048】
取付凹部221は、シート30の縁部33に沿って延び、係止部材210が挿入される部位である。この取付凹部221は、押さえ部材230との間に空間(係止部材収容空間)S1を形成する。取付凹部221は、係止部材収容空間S1に面する受け面222を有し、この受け面222は、シート受け面225の内端からほぼ垂直に延びる面227と連続するように形成されている。このほぼ垂直に延びる面227は、上側が固定部材220の幅方向外側(隣接するシート受け面225側)に向ってわずかに傾斜している。
【0049】
受け面222は、シート30の張力Tによって作用する支持面部214からの力を受ける面であり、凹湾曲形状を有する。具体的に、受け面222は、係止部材210の支持面部214の外面214aと対応する湾曲形状を有し、係止部材収容空間S1内に配置された(即ち、取付凹部221内に挿入された)係止部材210の支持面部214における外面214aと面接触している。そのため、支持面部214を受け面222に沿って回動させることができ、これにより、係止部材210を固定部材220における固定位置で回動させることができる。
【0050】
また、取付凹部221は、係止部材210を挟んで受け面222と反対側に設けられ且つ係止部材収容空間S1に面する側面(突設部位220bの側面)223を有する。この側面223からは、係止部材210の本体部211に向かって係止部224が突出している。この係止部224は、前記のように被係止片212を係止させるための部位である。具体的に、係止部224は、係止部材収容空間S1内に配置された係止部材210を支持面部214が受け面222に沿うように回動させることにより被係止片212が当接する当接面224aを有する。この当接面224aは、例えば図3に示す姿勢で固定部材220を支持部材10に固定した場合、固定部材220の側面223から下を向いた状態で水平若しくは先端側が斜め下に向かって延びている。
【0051】
このような取付凹部221内に係止部材210を挿入することにより、固定部材220に係止部材210が固定される。具体的に、支持面部214の外面214aが受け面222と面接触し、且つ、被係止片212が係止部224に係止された(当接した)状態で固定部材220の取付凹部221内に係止部材210を配置することにより、係止部材210が固定部材220に固定される。
【0052】
以上のように構成される固定部材220は、支持部材10の水平板10aに対してボルトB1によって固定されている。
【0053】
押さえ部材230は、固定部材220との間にシート30を挟み込む。本実施形態の押さえ部材230は、固定部材220に沿って延びる板状の部材である。この押さえ部材230の裏面(固定部材220側の面)231の幅方向の両側には、固定部材220のシート受け面225と対応する傾斜面であるシート押圧面232が形成されている。この押さえ部材230のシート押圧面232と固定部材220のシート受け面225との間に係止部材210から延出するシート30が配置される。換言すると、シート押圧面232によって係止部材210から延出するシート30がシート受け面225に向けて押圧される。本実施形態では、係止部材210及びシート30が配置された状態の固定部材220の上(押さえ部材230側)に防水カバー233が配置された状態で、押さえ部材230が固定部材220との間にシート30を挟み込んでいる。
【0054】
これにより、係止部材210から延出するシート30は、防水部材226と防水カバー233とによって挟持される。この防水カバー233は、防水部材226と同様にゴムによって形成されており、シート30に密着した状態で当該シート30を挟み込むことによってシート本体32に沿って雨水等が流れてきても、シート定着装置20内への雨水等の浸入を防ぐ。これにより、シート30が定着された構造物内への前記雨水等の浸が防がれる。
【0055】
シート30の固着部36は、押さえ部材230(固定部材220)の幅方向において、シート押圧面232及び防水カバー233の外側端部よりも内側に位置する。また、この押さえ部材230との間にシート30を挟み込む固定部材220においても、シート30の固着部36が固定部材220の外側端部よりも内側に位置している。このため、押さえ部材230と固定部材220とは、前記幅方向において、シート30の固着部36を超えた部位までを挟み込んだ状態で係止部材210を保持している。尚、本実施形態では、前記幅方向において、押さえ部材230のシート押圧面232の端部よりも固定部材220の防水部材226の端部の方が前記幅方向において外側に突出している(図3参照)。
【0056】
このような押さえ部材230は、当該押さえ部材230を介してボルトB2を突設部位220bの雌ねじ穴部220cに螺入することにより固定部材220に取り付けられている。
【0057】
次に、以上のようなシート定着構造を用いた支持部材10へのシート30の定着作業を図5及び図6を参照しつつ説明する。
【0058】
支持部材10の水平板10a上に固定部材220を取り付ける。そして、シート本体32を構成する膜体32a、32b間に空気を充填する前の状態のシート30の被保持部(縁部)33を係止部材210に挿入して、係止部材210にシート30を保持させる。具体的には、係止部材210の軸方向の端面開口から前記軸方向に沿ってシート30の被保持部33を挿入する。そして、冶具取付部215の溝部215a内に冶具の先端部を挿入する。この冶具は、溝部215aの幅と対応する厚さの板状部材の先端部を屈曲させた部位を備える。
【0059】
この冶具を係止部材210の周方向におけるシート30から離れる方向(図5に示す例では、矢印Aの方向)に押圧することにより、係止部材210(本体部211)を回動させる(図5の矢印B参照)。このとき、本体部211から突出する被係止片212の先端が取付凹部221の底部を向く位置まで回動させる。具体的には、取付凹部221において、側面223から突出する係止部224をかわして被係止片212を係止部224よりも奥まで挿入できる姿勢(図5に示すような姿勢)になるまで回動させる。
【0060】
そして、この回動させた状態で、係止部材210を被係止片212側から先に受け面222と突設部位220bの側面223との間隙に挿入する(図5の矢印C参照)。本体部211の支持面部214が受け面222と面接触するまで係止部材210を取付凹部221内に挿入し、その後、冶具への押圧の力を緩める。そうすると、シート30にはその自重等による張力(図5及び図6の矢印T参照)が働いているため、このシート30の張力Tによって本体部211が先ほどとは反対向き(図6の矢印D参照)に回動する。これにより、支持面部214が受け面222に沿うように係止部材210が取付凹部221内で回動して被係止片212が係止部224に当接して係止される。このように、上述のシート定着装置20によれば、シート30の張力Tを利用しながら係止部材210を固定部材220に固定することができる。このとき、係止部材210を固定部材220における固定位置で回動させるため、係止のために張力Tに抗して係止部材210を移動させる必要はない。
【0061】
次に、冶具の先端部を溝部215aから引き抜く(図6の矢印E参照)。
【0062】
このようにして、固定部材220の両側の取付凹部221、221内にシート30を保持した状態の係止部材210をそれぞれ固定した後、防水カバー233と押さえ部材230とを順に被せ、ボルトB2によって押さえ部材230を固定部材220に固定する。
【0063】
以上のようにして、シート30が支持部材10に定着させられる。そして、このシート30のシート本体32を構成する膜体32a、32b間に空気を充填してシート30を膨らませる。
【0064】
上述のシート定着構造に用いられるシート定着装置20によれば、被係止片212と本体部211の一部である支持面部214とによって係止部材210を固定部材220に固定させるので、当該係止部材210を細く(即ち、長手方向と直交する方向の寸法を小さく)することができる。従って、従来のシート定着装置における係止部材のように本体部から突出する大きな係合部を設ける必要がない。即ち、従来の係止部材では、係合部のみで当該係止部材を固定部材に固定するため、シートの張力に対向するための十分な強度を確保するために本体部から大きな係合部を突出させていた。これに対し、上述の構成の係止部材210によれば、シート30の張力Tによって作用する力を被係止片212と支持面部214とに分散することができるため、本体部211から突出する被係止片212を従来の係合部に比べて十分に小さくすることができる。しかも、上述の構成のシート定着装置20によれば、支持面部214が受け面222に沿うように係止部材210を回動することにより係止部材210が固定部材220に固定されるため、従来の固定部材のように、係合部を係止片に係合させるために本体部を移動できる余裕を持たせた大きさの係止部材収容空間を確保しなくてもよい。その結果、係止部材210が収容される係止部材収容空間S1の省スペース化を図ることが可能となり、固定部材220の小型化等を図ることが可能となる。
【0065】
また、上述のシート定着装置20によれば、固定部材220における係止部材210の固定位置(支持面部214が受け面222に面接触する位置)で本体部211を回動させるだけで、係止部材210を固定部材220に固定することができるため、シート30の定着作業における労力の低減を図ることができる。即ち、上述の構成のシート定着装置20では、シート30を定着させるときに、係止部材210を介してシート30を引っ張った状態で当該係止部材210の支持面部214を受け面222に受けさせ、その位置で支持面部214が受け面222に沿うように係止部材210を回動させることで固定部材220に係止部材210が固定される。これに対し、従来のシート定着装置では、シートを定着させるときに、シートの面方向における固定位置よりもさらにシートの張力に逆らって係止部材を引っ張った上で当該係止部材を固定部材に嵌め込まなくてはならない。従って、上述の構成のシート定着装置20によれば、係止部材210をシート30の張力Tに逆らって引っ張る距離を従来のシート定着装置よりも縮めることができ、これにより、シート30を定着させるときの作業負荷を低減することが可能となる。
【0066】
また、上述のシート定着装置20においては、冶具取付部215に冶具を取り付けることで、シート30の張力Tが作用した状態で支持面部214が受け面222に沿うように係止部材210を回動させ易くなると共に、シート30の張力Tに逆らって係止部材210を固定部材220における係止位置まで移動させ易くなる。しかも、支持面部214と反対の側に冶具を取り付けることができるため、冶具を取り付けた状態のままで係止部材210を固定部材220における固定位置まで移動させ、支持面部214が受け面222に沿うように係止部材210を回動させることができる。
【0067】
また、被係止片212が切欠き部213と反対側に設けられる、即ち、被係止片212が支持面部214と冶具取付部215との間に設けられることで、冶具を取り付けた状態で係止部材210を固定部材220の固定位置まで移動させる作業、及び、被係止片212を固定部材220の係止部224に係止させるために係止部材210を回動させる作業において冶具取付部215に取り付けた冶具が邪魔にならない。
【0068】
また、上述のシート定着装置20における係止部材210によれば、冶具取付部215が本体部211の周方向において、張力Tの方向と直交する方向よりもシート30側に向かって開口する溝部215aを有することにより、冶具を溝部215aに挿入し、シート30によって引っ張られる方向と反対向きに係止部材210を押すこと引っ張ることができる。即ち、溝部215aが本体部211の周方向においてシート30側に向かって開口することにより、冶具を溝部215aに引っ掛けた状態で係止部材210を移動させることができるため、冶具を溝部215a内に固定しなくてもシート30の張力Tに逆らって係止部材210を移動させることができる。
【0069】
しかも、係止部材210の固定部材220への固定後は、冶具を溝部内に挿入しているだけであるため、冶具を引き抜くだけで本体部211から容易に取り外すことができる。
【0070】
尚、本発明のシート定着装置、この装置に用いられる係止部材、及びシート定着構造は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0071】
シート本体32を構成する膜体の数は、2つに限定されず、例えば、1つでもよく、また、3つ以上でもよい。
【0072】
また、上記実施形態では、固定部材220に設けられる取付凹部221の数は2つであるが、これに限定されず1つでもよい。
【0073】
また、上記実施形態では、冶具取付部215は冶具の先端部が挿入される溝部215aを有しているがこの構成に限定されない。冶具取付部は、シートの張力がかかった状態で係止部材を移動及び回動させるための冶具が着脱可能に取り付けることができればよく、例えば、ねじ等によって取り付ける構成でもよい。
【0074】
また、上記実施形態では、受け面222と係止部224とによって固定部材220に対して係止部材210を固定しているが、これに限定されない。受け面222及び係止部224による押圧に加え、例えば、押さえ部材230により係止部材210を押さえることによって固定部材に対して係止部材210を固定してもよい。
【符号の説明】
【0075】
10 支持部材(固定体)
20 シート定着装置
30 シート
33 被保持部(縁部)
210 係止部材
211 本体部
212 被係止片
213 切欠き部
214 支持面部
214a 支持面部の外面
215 冶具取付部
220 固定部材
222 受け面
224 係止部
230 押さえ部材
S1 係止部材収容空間
T シートの張力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートを固定体に定着させる装置であって、
前記シートの縁部を保持する長尺状の係止部材と、
前記固定体に固定される固定部材と、
前記固定部材との間に前記シートを挟み込む押さえ部材と、を備え、
前記係止部材は、前記シートの縁部を挿入可能な本体部と、この本体部から突出する被係止片と、を有すると共に、前記固定部材と前記押さえ部材との間に形成される空間に配設され、
前記本体部は、当該本体部に挿入された前記縁部から延出するシートを挿通させる切欠き部と、この切欠き部と前記被係止片との間に設けられ且つ外面が外側に向かって膨出する湾曲状の支持面部と、を有し、
前記固定部材は、前記空間に面する受け面であって、前記シートの張力によって作用する前記支持面部からの力を受ける凹湾曲状の受け面と、前記被係止片を係止させるための係止部と、を有し、
前記被係止片は、前記空間内で、前記支持面部が前記受け面に沿うように前記係止部材が回動されることにより、前記係止部に係止されるシート定着装置。
【請求項2】
前記被係止片は、前記本体部において前記切欠き部と反対側に設けられ、
前記本体部は、前記シートの定着作業において前記係止部材が前記固定部材に係止するように当該本体部を回動させるときに用いられる冶具を着脱可能な冶具取付部を前記支持面部と反対側に有する請求項1に記載のシート定着装置。
【請求項3】
前記冶具取付部は、前記本体部の周方向において、保持したシートに加わる張力方向と直交する方向よりもシート側に向かって開口する溝部を有することを特徴とする請求項2に記載のシート定着装置。
【請求項4】
前記係止部は、前記係止部材を挟んで前記受け面と反対側に設けられ且つ前記固定部材と前記押さえ部材との間に形成される前記空間に面する前記固定部材の側面から前記本体部に向かって突出する請求項3に記載のシート定着装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のシート定着装置に用いられる係止部材であって、
シートの縁部を挿入可能な本体部と、
前記本体部から突出する被係止片と、を備え、
前記本体部は、当該本体部に挿入された前記縁部から延出するシートを相通させる切欠き部と、この切欠き部と前記被係止片との間に設けられ且つ外面が外側に向かって膨出する湾曲状の支持面部と、を有している係止部材。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のシート定着装置と、
前記シート定着装置における係止部材の本体部にその縁部が保持されるシートと、を備えるシート定着構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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