説明

シート成形装置

【課題】賦形ロール温度に依存することなく、薄物の樹脂シートであっても、微細パターンを高精度に賦形し、高性能な光学用樹脂シートを歩留まりよく製造すること。
【解決手段】賦形ロール12とTダイ16との間の空間部に、高周波電源22により作動するコロナ放電装置20の放電電極21を配置し、放電電極21によるコロナ放電によって溶融樹脂シート100の溶融樹脂シート100の被賦形表面100Aにコロナ放電処理を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、シート成形装置および方法に関し、特に、賦形ロールを用いて押出成形法によって、プリズムシート等、シート表面に微細凹凸形状(微細パターン)を有する光学用樹脂シート等を高精度に転写(賦形)成形するシート成形装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プリズムシート等の微細パターンを有する光学用樹脂シートを成形する方法として、Tダイよりのシート状の溶融樹脂シートの一方の表面を、外周面に微細な賦形パターン(微細パターン)を形成されている賦形ロールの前記外周面に、タッチロール等を用いて密着させることにより、溶融樹脂の表面に微細パターンを賦形する押出成形法によるものが知られている。
【0003】
最近の微細賦形のパターンは、配列のピッチや形状の凹凸が微細であるばかりではなく、個々のパターン要素のシャープなエッジを要求される例が多い。一般的に、溶融樹脂を賦形成形する場合には、賦形ロールに刻まれた賦形パターンに、上流でTダイによって板状(シート状)に成形された溶融樹脂を供給し、この樹脂を挟み込む形で設置された押付けロールによって賦形ロール側に強力に押付ける方法が取られる。
【0004】
対象となる樹脂シートが比較的厚物で、賦形パターンの起伏が緩やかで、賦形パターン谷部(成形品山部)のエッジが、緩やかな形状である場合には問題は発生し難いが、対象シートが薄物で、賦形パターンの起伏が直線的で、競形パターン谷部(成形品山部)のエッジがシャープな形状である場合には、ロール賦形部の谷部(成形品の山部)での成形が、期待される形状に成形できないという問題が発生し易い。
【0005】
これに対して従来の成形法では、賦形ロールを一定の温度に温度調整し、前段のTダイから高温の板状樹脂を供給し、この樹脂を賦形ロールと挟み込む形で配置した押付けロールで、強力に押し付けて賦形成形する(例えば、特許文献1、2)。
【0006】
この従来法は、基本的には、賦形パターンの粗さには関係なく、また樹脂の種類にも関係なく同じ手法が取られてきた。賦形されるパターンは、従来では150μm以上のピッチが一般的には多かったが、最近の要求では、数10μmのピッチで、高さも数10μmというように微細になってきている。この賦形パターンの微細化の推移とともに、現状光学用途で要求されるシートの厚さは、0.5mm〜3.0mm程度から、0.1mm〜0.5mm程度に薄くなる傾向がある。
【特許文献1】特開2000−211024号公報
【特許文献2】特開2006−315295号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
成形されるシートの厚さが薄く、賭形パターンが微細でシャープなエッジを有する場合には、樹脂が賦形ロールに接触し始めると、樹脂の賦形ロールとの接触表面が急激に冷却される。シート厚さが薄いほど、樹脂シートの単位長さ当りの熱エネルギも低く、賦形ロールでの賦形成形部において、シートの厚さ中央部から表面へ移動できる熱エネルギも低くなる。これに対して賦形パターンが微細になるほど、樹脂表面は鏡面ロールで冷却される状況に近づき、賦形面全面の粘度上昇も速くなる。
【0008】
このことにより、賦形ロールによる賦形成形部において、賦形ロールの賦形パターンの谷部(成形品の山部)への樹脂の入り込みが悪くなる。この結果として、成形された樹脂シートの微細パターンの山部のシャープエッジが得られず、樹脂の温度−粘度特性と賭形パターン、ロール温度等の組合せ条件に見合った丸みを持った形状になってしまうという欠陥が出易くなる。
【0009】
このことに対して、従来は、賦形ロールの表面温度を上げて賦形部での樹脂表面温度をできるだけ下げず粘度の上昇を抑えているが、賦形面の全面を、均一に高精度に温度維持しないと、賦形パターンのピッチ精度等に支障を来すことになる。ロール温度自身を内部の温調熱媒体により高く維持する方法もあるが、この場合には、成形後の樹脂シートを賦形ロールから離型する場合に、樹脂シートの賦形面が高温で、賦形ロールへの付着力が強く、ロール賦形面から、容易に離型しなくなるという障害が出易くなる。
【0010】
この発明が解決しようとする課題は、賦形ロール温度に依存することなく、薄物の樹脂シートであっても、微細パターンを高精度に賦形し、高性能な光学用樹脂シートを歩留まりよく製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明によるシート成形装置は、外周面に賦形パターンを形成されている賦形ロールの前記外周面に、Tダイよりのシート状の溶融樹脂シートの一方の表面を密着させて、前記溶融樹脂の表面に賦形パターンを賦形するシート成形装置において、前記賦形ロールと前記Tダイとの間の空間部に、高周波電源により作動するコロナ放電装置の放電電極が配置され、前記放電電極によるコロナ放電によって前記溶融樹脂の前記一方の表面にコロナ放電処理を施すことを特徴としている。
【0012】
この発明によるシート成形装置は、好ましくは、前記放電電極は前記第2のロールのロール軸線方向に沿って配置された放電ワイヤによって構成されていることを特徴としている。
【0013】
この発明によるシート成形装置は、好ましくは、更に、前記溶融樹脂の前記一方の表面とは当該溶融樹脂を隔てた反対の側に、放電電極によるコロナ放電を収束させる放電収束バーが配置されていることを特徴としている。
【0014】
この発明によるシート成形装置は、好ましくは、更に、前記溶融樹脂の前記一方の表面とは当該溶融樹脂を隔てた反対の側に、帯電装置の帯電電極が配置され、前記溶融樹脂に帯電処理を施すことを特徴としている。
【0015】
この発明によるシート成形方法は、外周面に微細パターンを形成されている賦形ロールの前記外周面に、Tダイよりのシート状の溶融樹脂シートの一方の表面を密着させて、前記溶融樹脂の表面に微細パターンを賦形するシート成形方法において、高周波電源により作動するコロナ放電装置の放電電極によるコロナ放電によって前記溶融樹脂の前記一方の表面にコロナ放電処理を施し、コロナ放電による改質作用によって、前記溶融樹脂の前記一方の表面の、前記賦形ロールの前記外周面に対する密着性を高めることを特徴としている。
【0016】
この発明によるシート成形方法は、好ましくは、更に、前記溶融樹脂の前記一方の表面とは当該溶融樹脂を隔てた反対の側において、放電電極によるコロナ放電を放電収束バーによって収束させることを特徴としている。
【0017】
この発明によるシート成形方法は、好ましくは、更に、帯電装置の帯電電極によって前記溶融樹脂に帯電処理を施し、静電作用によって、前記溶融樹脂の前記一方の表面の、前記賦形ロールの前記外周面に対する付着性を高めることを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
この発明によるシート成形装置によれば、コロナ放電装置の放電電極によるコロナ放電によって溶融樹脂の一方の表面(賦形ロールの賦形外周面に接する表面で、以下、この一方の表面を被賦形表面と云うことがある)にコロナ放電処理を施すとが行われ、コロナ放電による改質作用によって、溶融樹脂の被賦形表面が活性化され、濡れ性が向上する。これにより、溶融樹脂の被賦形表面の、賦形ロールの賦形外周面に対する密着性が向上する。このことにより、賦形ロール温度に依存することなく、薄物の樹脂シートであっても、微細パターンを高精度に賦形し、高性能な光学用樹脂シートを歩留まりよく製造することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
この発明によるシート成形装置の実施形態を、図1を参照して説明する。
【0020】
本実施形態のシート成形装置は、微小間隔をおいて互いに平行に配置された押付ロール(タッチロール)11と賦形ロール(パターンロール)12とを有する。押付ロール11は反時計廻り方向に、賦形ロール12は時計廻り方向に、同一周速度で、各々回転駆動される。
【0021】
賦形ロール12の外周面には賦形用の微細凹凸形状(賦形パターン)を形成されている。微細凹凸形状は、凹凸ピッチが0.1mm以下の微細な賦形(転写)パターンであり、例えば、プリズムシート成形のために、ロール軸線方向に稜線をもつ高さ50〜100μm程度の尖った三角山形をロール周方向に50〜100μm程度のピッチをもって形成されている。
【0022】
押付ロール11と賦形ロール12との対峙部の上方部にはTダイ15が設けられている。Tダイ15は、ロール軸線方向に細長い下向きのリップ開口16を有し、リップ開口16より熱可塑性の溶融樹脂をシート状にして押付ロール11と賦形ロール12との間に供給する。このシート状の溶融樹脂を溶融樹脂シート100と呼ぶ。
【0023】
溶融樹脂シート100は、一方の面(被賦形表面)100Aが賦形ロール12の外周面に、他方の面100Bが押付ロール11の外周面に接触し、ロール回転によってシート成形されると共に、被賦形表面100Aに賦形ロール12の外周面の賦形パターンを転写賦形される。これにより、一方の面100Aが微細凹凸形状になっているプリズムシートのような樹脂シートが成形される。
【0024】
賦形ロール11とTダイ15との間の空間部には、コロナ放電装置20の放電電極21が配置されている。放電電極21は、棒状電極あるいはワイヤ電極により構成され、ロール軸線方向に沿って賦形ロール11のロール幅全域に亘って賦形ロール11の外相面と平行に配置されている。コロナ放電装置20には高周波電源22が接続されており、コロナ放電装置20は10KV〜15KV程度の高周波によって作動する。
【0025】
放電電極21は、360度全方位へ空中放電(コロナ放電)し、溶融樹脂シート100の被賦形表面100Aにコロナ放電処理を施す。
【0026】
コロナ放電は、高周波高電圧の気中に、電解雰囲気内で起きる原子、分子、電気イオン間でのそれぞれの衝突などによって電気エネルギの励起を生じる。これにより、溶融樹脂シート100の被賦形表面100Aがエネルギを受け、表面エネルギが高くなり、活性化された状態になる。このことにより、溶融樹脂シート100の被賦形表面100Aに極性基が生成され、溶融樹脂シート100の被賦形表面100Aの濡れ性が向上する。
【0027】
ここでのコロナ放電は、交流電源による交流式のものであり、直流式に比べて安定したイオン発生を行うから、安定した濡れ性向上効果を期待できる。
【0028】
放電電極21は、ロール軸線方向に沿って賦形ロール12のロール幅全域に宜って賦形ロール12の外周面と平行に配置されているから、コロナ放電による溶融樹脂シート100の被賦形表面100Aの濡れ性向上は、溶融樹脂シート100の被賦形表面100Aの幅方向全域に亘って一様に行われる。
【0029】
放電電極21の近くに導体が存在すると、放電電極21は、その導体との間に空中放電
を行い、溶融樹脂シート100の被賦形表面100Aに対してコロナ放電が行われなくな
るから、放電電極21の近くに導体が存在しないことを要求される。このため、放電電極
21と溶融樹脂シート100の被賦形表面100Aとの距離は10mm程度に設定するの
に対して、放電電極21とTダイ15との最短距離、放電電極21と賦形ロール12との
最短距離は50mm程度に設定されればよい。
【0030】
溶融樹脂シート100の被賦形表面100Aとは当該溶融樹脂シート100を隔てた反対の側、つまり、溶融樹脂シート100の裏面100B側に、放電電極21によるコロナ放電を収束させる導電性の放電収束バー23が放電電極21に平行に配置されている。
【0031】
これにより、放電電極21によるコロナ放電が溶融樹脂100の被賦形表面100Aが収束し、指向性を持つようになる。このことにより、放電電極21によりコロナ放電が融樹脂シート100の被賦形表面100Aに有効に作用する割合が増え、コロナ放電効率が向上する。
【0032】
更に、溶融樹脂シート100の被賦形表面100Aとは当該溶融樹脂100を隔てた反対の側、つまり、溶融樹脂シート100の裏面100B側に、帯電装置25の帯電電極24が配置されている。帯電装置25は、直流高圧電源26を電源としており、帯電電極24をもって溶融樹脂シート100に所定レベルの静電印加(帯電処理)を行う。
【0033】
この静電作用によって、溶融樹脂シート100の被賦形表面100Aの、賦形ロール12の外周面に対する付着性が向上する。
【0034】
コロナ放電による効果は、高温樹脂(溶融樹脂シート100)の賦形面表面の密着性の改善である。密着性の改善とは、同じ樹脂温度であっても、未処理の樹脂表面に比較して、処理済みの樹脂表面は、濡れ特性が向上し、相手口ール賦形面への密着性の向上が得られるものである。
【0035】
コロナ放電により得られる効果は、あくまで密着性の向上であり、賦形面への付着力は向上しない。
【0036】
ここで、密着性とは、相手表面への馴染み性を意味し、外力に対して容易に剥れる特性を意味する。付着性とは、相手表面にある力で付着し、外力がないと剥れない特性を意味する。
【0037】
コロナ放電による効果を補助する意味で、帯電装置25の帯電電極24によって高温樹脂(溶融樹脂シート100)を所定レベルに静電印加させる。この静電印加の効果は、コロナ処理で賦形面に密着した高温樹脂が、成形部を通過するまで賭形面より剥れずに付着する効果を与えるものである。
【0038】
コロナ放電、静電印加が、高温樹脂に残存する時間は、2〜3分程度であり、成形完了して形状が固定化され時点で、樹脂に与える影響力は消滅する。
【0039】
本実施形態の効果を要約すると、以下の通りである。
【0040】
(1)賦形直前のロール賦形表面の温度を上げることなく、高温樹脂の賭形面への馴染み性を改善できる。これにより、賦形ロール12の賦形パターン面の凹部(谷部)に高温樹脂が剥離し易くなり、賦形率が向上する。
【0041】
(2)賦形ロール12の設定温度を、通常の成形温度に維持することが可能になり、賦形完了後の賦形シートの賦形ロールからの離型にも障害を来さない。
【0042】
(3)高温樹脂に対するコロナ放電状態、帯電状態は、2〜3分程度で消滅するから、その状態が賦形後の樹脂に残ることがない。
【0043】
なお、両面賦形の場合には、図2に示されているように、コロナ放電装置20の放電電極21を溶融樹脂シート100の両側に配置すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】この発明によるシート成形装置の一つの実施形態を示す全体構成図である。
【図2】この発明によるシLト成形装置の他の実施形態を示す全体構成図である。
【符号の説明】
【0045】
11 押付ロール
12 賦形ロール
15 Tダイ
16 リップ開ロ
20 コロナ放電装置
21 放電電極
22 高周波電源
23 放電収束バー
24 帯電電極
25 帯電装置
26 直流高圧電源
100 溶融樹脂シート
100A 被賦形表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に賦形パターンを形成されている賦形ロールの前記外周面に、Tダイよりのシート状の溶融樹脂シートの一方の表面を密着させて、前記溶融樹脂の表面に賦形パターンを賦形するシート成形装置において、
前記賦形ロールと前記Tダイとの間の空間部に、高周波電源により作動するコロナ放電装置の放電電極が配置され、前記放電電極によるコロナ放電によって前記溶融樹脂の前記一方の表面にコロナ放電処理を施すことを特徴とするシート成形装置。
【請求項2】
前記放電電極は前記第2のロールのロール軸線方向に沿って配置された放電ワイヤによって構成されていることを特徴とする請求項1に記載のシート成形装置。
【請求項3】
前記溶融樹脂の前記一方の表面とは当該溶融樹脂を隔てた反対の側に、放電電極によるコロナ放電を収束させる放電収束バーが配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載のシート成形装置。
【請求項4】
前記溶融樹脂の前記一方の表面とは当該溶融樹脂を隔てた反対の側に、帯電装置の帯電電極が配置され、前記溶融樹脂に帯電処理を施すことを特徴とする請求項1から3の何れか一項に記載のシート成形装置。
【請求項5】
外周面に微細パターンを形成されている賦形ロールの前記外周面に、Tダイよりのシート状の溶融樹脂シートの一方の表面を密着させて、前記溶融樹脂の表面に微細パターンを賦形するシート成形方法において、
高周波電源により作動するコロナ放電装置の放電電極によるコロナ放電によって前記溶融樹脂の前記一方の表面にコロナ放電処理を施し、コロナ放電による改質作用によって、前記溶融樹脂の前記一方の表面の、前記賦形ロールの前記外周面に対する密着性を高めることを特徴とするシート成形方法。
【請求項6】
前記溶融樹脂の前記一方の表面とは当該溶融樹脂を隔てた反対の側において、放電電極によるコロナ放電を放電収束バーによって収束させることを特徴とするシート成形方法。
【請求項7】
帯電装置の帯電電極によって前記溶融樹脂に帯電処理を施し、静電作用によって、前記溶融樹脂の前記一方の表面の、前記賦形ロールの前記外周面に対する付着性を高めることを特徴とする請求項5または6シート成形方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−66988(P2009−66988A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−239740(P2007−239740)
【出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【出願人】(000003458)東芝機械株式会社 (843)
【Fターム(参考)】