説明

シート挿入用ディバイス

【課題】 内視鏡下手術において合成吸収性癒着防止シートなどのシートをトロカーの内腔を通じて体内の目的部位へ簡単に挿入することができ、小口径のトロカーも使用することができるシート挿入用ディバイスを提供すること。
【解決手段】 前後端が開口し、内部がシート収納部に形成された円筒状の外套管2と、この外套管内に管軸方向となる前後方向に進退可能、かつ回転可能に挿入されるシート押し出し用の押出部材3とを具え、前記押出部材は、外套管より長さの長いシャフト11と、該シャフトの先端部に設けられた二股状のシート巻取部12と、前記シャフトの後端部に設けられた操作用把持部14と、を有し、前記シート巻取部は、前記押出部材の前進により外套管の前端開口から突出されるとともに、後退により外套管内に収納され、前記外套管は、前端部の相対向する壁に前記シートを差し込める大きさの軸方向スリット5がシート巻取部の長さと同程度の長さにわたり形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内視鏡下手術に用いられるシート挿入用ディバイスに関し、詳しくは体内の目的部位である術部の組織同士が癒着しないようにする合成吸収性癒着防止シートなどのシートを、簡易にトロカーを通して体内へ挿入することができ、挿入操作が便利なディバイス技術に係るものである。
【背景技術】
【0002】
現在、内視鏡下の外科手術において切除部の止血や臓器の癒着を防止するために、セプラフィルム(登録商標)などの合成吸収性癒着防止シートを用いる場合がある。これらのシートを患部に貼り付ける際、術野が広い開腹手術では簡単に行えるが、直接治療部を触れることができない内視鏡下手術では、所謂「内視鏡挿入用補助具」などのトロカーを通して鉗子や電気メスを体内へ挿入し手術を行うため、該シートの体内への挿入も同様にトロカーを通す必要がある。
【0003】
すなわち、前記シートの体内への挿入に際しては、例えば鉗子でシートを挟みながら鉗子外周面に巻き付けて鉗子ごとトロカーに挿入し体内へ挿入する方法があるが、前記セプラフィルムなどの各種医療用シートの中には水分と触れることで粘着力が活性化するものがあり、前記のようにシートを鉗子外周面に巻き付ける際にシートに添える術者の手やトロカー内に付着している水や血液でシートが粘着力を有してしまい、上手く患部に貼り付けることができないという問題があった。
【0004】
関連する特許文献としては、特開2010−207417号公報(特許文献1)に示すようなディバイスが提案されている。すなわち、この特許文献1に開示されている内視鏡下手術用ディバイスは、その特許請求の範囲の請求項1に記載のように、外部に開口する先端側開口部を有し、複数のシートが該先端側開口部に向かって直列的に収納される収納領域が内部に設けられたディバイス本体と、該ディバイス本体内の前記収納領域に収納された前記複数のシートを、前記先端側開口部を通じて、該ディバイス本体から順次に外部へ押し出す押出部材と、前記シートを術部に圧迫するための圧迫部と、を有するものである。そして、本ディバイスは、このような構成を有することにより、内視鏡下手術において、体液への接触を回避しつつシートを術部へ容易に適用することができるとともに、シートの術部への圧迫も容易に行うことができ、しかもかかるシートの複数枚を術部に対して連続的に適用することも可能となるとされている。
【0005】
しかし、特許文献1のディバイスでは、シートの端を鉗子の縦溝で挟み把持した後、該シートを術者が軽く手を添えながら鉗子の上に筒状に巻き付けるものであるが、シートには術中に術者の手などによる粘着性があるので、術部への挿入後の巻き解き作業のときにうまく巻き解けず、段落0003でも指摘したように、上手く患部に貼り付けることができないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−207417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、この発明は、前記のような従来の問題点に鑑み、内視鏡下手術において合成吸収性癒着防止シートなどのシートをトロカーの内腔を通じて体内の目的部位へ簡単に挿入することができ、しかもシートを上手く貼り付けることができるとともに、小口径のトロカーも使用することができるシート挿入用ディバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、内視鏡下手術において合成吸収性癒着防止シートなどのシートをトロカーの内腔を通じて体内の目的部位へ挿入するのに用いられるものであって、前後端が開口し、内部がシート収納部に形成された円筒状の外套管と、この外套管内に管軸方向となる前後方向に進退可能、かつ回転可能に挿入されるシート押し出し用の押出部材と、を具え、前記押出部材は、外套管より長さの長いシャフトと、該シャフトの先端部に設けられた二股状のシート巻取部と、前記シャフトの後端部に設けられた操作用把持部と、を有し、前記シート巻取部は、前記押出部材の前進により外套管の前端開口から突出されるとともに、後退により外套管内に収納され、前記外套管は、前端部の相対向する壁に前記シートを差し込める大きさの軸方向スリットがシート巻取部の長さと同程度の長さにわたり形成されていることを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、押出部材の把持部と外套管の後端部との間には、押出部材のシート巻取部を外套管内のシート収納部に収納する方向に付勢する付勢部材が設けられ、外套管に対して押出部材を押し込んで前進させたときは付勢部材が圧縮されてシート巻取部を外套管から外部へ突出させ、後退させたときは付勢部材が伸張してシート巻取部を外套管内に収納することを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2において、押出部材のシート巻取部は、シートを差し込める大きさの空隙をおいて相対向して配置された二つの部分を有し、その軸方向の長さは外套管のスリットの軸方向の長さよりやや長くなっているとともに、先端は外向きに拡開状になっていることを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1ないし3のいずれかにおいて、外套管の内周面と押出部材のシャフトの外周面には外套管のスリットとシャフトのシート巻取部の空隙の円周方向の位置合わせを行う位置合わせ手段が設けられていることを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項1ないし4のいずれかにおいて、外套管の内周面に設けられた第1の係止部材と押出部材のシャフトの外周面に設けられた第2の係止部材とからなり、シャフトの後退により第2の係止部材が第1の係止部材に係止してシャフトがそれ以上後退するのを阻止するストッパ機構が設けられていることを特徴とする。
【0013】
請求項6に記載の発明は、請求項1ないし5のいずれかにおいて、軸方向スリットは、相対向する両方のスリットとも外套管の前端開口からシート巻取部の長さと同程度の長さにわたり形成されていることを特徴とする。
【0014】
請求項7に記載の発明は、請求項1ないし5のいずれかにおいて、軸方向スリットは、相対向する一方のスリットが外套管の前端開口からシート巻取部の長さと同程度の長さにわたり形成され、他方のスリットが前端開口から所定長さ置いた位置からシート巻取部の長さと同程度の長さにわたり形成されていることを特徴とする。
【0015】
請求項8に記載の発明は、請求項1ないし5のいずれかにおいて、軸方向スリットは、相対向する両方のスリットとも外套管の前端開口から所定長さ置いた位置からシート巻取部の長さと同程度の長さにわたり形成されていることを特徴とする。
【0016】
請求項9に記載の発明は、請求項1ないし8のいずれかにおいて、軸方向スリットが形成されている位置が確認可能なマークが、外套管又はシャフトに設けられていることを特徴とする。この場合、マークは、例えば前端開口から形成されている軸方向スリットの開口端近くとかに設けるのが、よりシートの挿入位置が明確となって好ましい。
【0017】
請求項10に記載の発明は、請求項1ないし9のいずれかにおいて、シート巻取部付きシャフト把持部を具え、この把持部は先端が外套管内まで延びる第2のシャフトを有し、この第2のシャフトの先端には1対の等長リンクの基端が枢支され、これら等長リンクの先端には中間部が押出部材に設けたシャフトに枢支された1対の等長アームの後端が枢支され、これらアームの先端にはシート巻取部の二つの板部の後端が固定されてなり、前記第2のシャフトを後方に引くと、両等長リンクと両等長アームが内方に押されるとともに、シート巻取部の両板部の後端も内方に押され、これにより両板部の先端が開いた状態から閉じた状態になるように構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
この発明は、前記のようであって、請求項1に記載の発明によれば、前後端が開口し、内部がシート収納部に形成された円筒状の外套管と、この外套管内に管軸方向となる前後方向に進退可能、かつ回転可能に挿入されるシート押し出し用の押出部材とを具え、前記押出部材は、外套管より長さの長いシャフトと、該シャフトの先端部に設けられた二股状のシート巻取部と、前記シャフトの後端部に設けられた操作用把持部とを有し、前記シート巻取部は、前記押出部材の前進により外套管の前端開口から突出されるとともに、後退により外套管内に収納され、前記外套管は、前端部の相対向する壁に前記シートを差し込める大きさの軸方向スリットがシート巻取部の長さと同程度の長さにわたり形成されているので、内視鏡下手術においても、シートを簡単に目的部位へ挿入することができ、その後の目的部位における内視鏡下手術でのシートの貼り付けや留置も上手く簡易に行うことができて手術時間の短縮を図ることができる。また、小口径のトロカーも使用することが可能となるという効果が期待できる。
【0019】
請求項2に記載の発明によれば、押出部材の把持部と外套管の後端部との間には、押出部材のシート巻取部を外套管内のシート収納部に収納する方向に付勢する付勢部材が設けられ、外套管に対して押出部材を押し込んで前進させたときは付勢部材が圧縮されてシート巻取部を外套管から外部へ突出させ、後退させたときは付勢部材が伸張してシート巻取部を外套管内に収納するので、押し出し後のシャフトの後退を付勢部材により容易に行うことができる。
【0020】
請求項3に記載の発明によれば、押出部材のシート巻取部は、シートを差し込める大きさの空隙をおいて相対向して配置された二つの部分を有し、その軸方向の長さは外套管のスリットの軸方向の長さよりやや長くなっているとともに、先端は外向きに拡開状になっているので、シートをシート巻取部の二つの部分の空隙と外套管のスリットに同時に差し込んで外套管内で巻き取り、収納することができる。
【0021】
請求項4に記載の発明によれば、外套管の内周面と押出部材のシャフトの外周面には外套管のスリットとシャフトのシート巻取部の空隙の円周方向の位置合わせを行う位置合わせ手段が設けられているので、シートの差し込み作業を容易に行うことができる。
【0022】
請求項5に記載の発明によれば、外套管の内周面に設けられた第1の係止部材と押出部材のシャフトの外周面に設けられた第2の係止部材とからなり、シャフトの後退により第2の係止部材が第1の係止部材に係止してシャフトがそれ以上後退するのを阻止するストッパ機構が設けられているので、シャフトの後退をストッパ機構の両係止部材により阻止して後退方向への押出部材の脱落を防止することができる。
【0023】
請求項6〜8に記載の発明によれば、軸方向スリットは、(1)相対向する両方のスリットとも外套管の前端開口から、(2)相対向する一方のスリットが外套管の前端開口、他方のスリットが前端開口から所定長さ置いた位置から、(3)両方のスリットとも外套管の前端開口から所定長さ置いた位置から、それぞれシート巻取部の長さと同程度の長さにわたり形成されているので、軸方向スリットとして各種のタイプのものが使用できるのに加え、特に請求項7,8の軸方向スリットは1対のうち少なくとも1つが外套管の先端開口から所定長さ置いて、つまり軸方向スリットを形成する壁が周方向に繋がった形になっているため、外套管を金属製以外、例えば合成樹脂製としてもシートの巻き付き時に該スリットを境にして引き裂かれるということがない。
【0024】
請求項9に記載の発明によれば、軸方向スリットが形成されている位置が確認可能なマークが、外套管又はシャフトに設けられているので、術者が瞬時にスリット形成位置を把握できて内視鏡下手術の迅速化を図ることができる。
【0025】
請求項10に記載の発明によれば、シート巻取部付きシャフト把持部を具え、この把持部は先端が外套管内まで延びる第2のシャフトを有し、この第2のシャフトの先端には1対の等長リンクの基端が枢支され、これら等長リンクの先端には中間部が押出部材に設けたシャフトに枢支された1対の等長アームの後端が枢支され、これらアームの先端にはシート巻取部の二つの板部の後端が固定されてなり、前記第2のシャフトを後方に引くと、両等長リンクと両等長アームが内方に押されるとともに、シート巻取部の両板部の後端も内方に押され、これにより両板部の先端が開いた状態から閉じた状態になるように構成されているので、術者による内視鏡下手術において、両板部の先端を閉じることによりシートをしっかり挟持して体腔内でシートを落とすことなく目的部位まで確実に誘導することができる。そのため、その後の目的部位でシートの貼り付けや留置も上手く簡易に行うことができ、手術時間の短縮を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】この発明の実施の形態1に係るシート挿入用ディバイスを示す正面図である。
【図2】同上の左側の側面図である。
【図3】同上の右側の側面図である。
【図4】同上の正断面図である。
【図5】同上の長さ方向を一部省略した拡大断面図である。
【図6】把持部でシャフトを外套管内へ押し込んだ状態を示す正面図である。
【図7】(A)〜(F)は作用説明図である。
【図8】トロカーを用いて体内へ挿入した本ディバイスによりフィルムを体内へ押し出した状態を示す作用説明図である。
【図9】軸方向スリットの変形例1に係るシート挿入用ディバイスをその長さ方向の一部を破断して示す正面図である。
【図10】同上の背面図である。
【図11】同上の左側の拡大側面図である。
【図12】同上の把持部でシャフトを外套管内へ押し込んだ状態を示す正面図である。
【図13】軸方向スリットの変形例2に係るシート挿入用ディバイスをその長さ方向の一部を破断して示す正面図である。
【図14】同上の背面図である。
【図15】同上の左側の拡大側面図である。
【図16】この発明の実施の形態2に係るシート挿入用ディバイスをその長さ方向の一部を破断して示す拡大正断面図で、フィルム巻取部の先端が開いた状態を表している。
【図17】同上の先端側のみを示す拡大側断面図である。
【図18】同上のディバイスをその長さ方向の一部を破断して示す拡大正断面図で、フィルム巻取部の先端が閉じた状態を表している。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照しながら、この発明の実施の形態に係るシート挿入用ディバイスについて説明する。
(実施の形態1)
【0028】
図1〜4において、1はシート挿入用ディバイスであり、このディバイス1は、金属又は樹脂などからなり、合成吸収性癒着防止シートとしてのフィルムFを収納するディバイス本体(シース)としての外套管2と、同じく金属又は樹脂などからなり、フィルムFを挟んで外套管2内で巻き取るとともに、巻き取ったフィルムFを外套管2外へ押し出す把持部付き押出部材3と、を具え、全体としてフレキシブル化されている。フィルムFは、ある程度腰のある樹脂シートからなり、体内の目的部位である術部の組織同士が癒着するのを防止することを主目的にするものであり、形状としては図7,8に示すような方形を呈している。
【0029】
外套管2は、前後端が開口された円筒状の管本体4を有し、該管本体の外径は、トロカーT(図8参照)の内腔(5.0mm)に挿通可能な大きさとなっている。管本体4の前端部には前端開口から後端方向に所定長さにわたり180°対角のスリット5が相対向する壁に形成されている。すなわち、スリット5は軸方向の長さLがフィルムFの幅より大きく、かつ円周方向の幅WがフィルムFを差し込める大きさとなっていて、前端側からフィルムFを差し込んで保持可能になっている。また、管本体4の後端には径大の把持管6の一端側が嵌合して固着されている。
【0030】
押出部材3は外套管2より長さの長い巻き取り兼押し出し用の中空シャフト11と、該シャフトの先端部に設けられた二股状のフィルム巻取部12と、シャフト11の後端部に設けられた操作用把持管13と、を有している。シャフト11の外径は外套管2の管本体4の内径よりやや小径に形成され、管本体4に対してその管軸方向である前後方向に進退(移動)可能、かつ円周方向に回転可能になっている。フィルム巻取部12は2枚の板部12a,12bがフィルムFを差し込める大きさの空隙をおいて相対向して配置された形態を呈し、その軸方向の長さは外套管2のスリット5の軸方向の長さLよりやや長くなっていて、先端は外向きに拡開した形状となっている。両先端を拡開した形状にしたのはフィルムFを差し込み易くするためである。
【0031】
前記のようなフィルム巻取部12の板部12a,12b間の空隙と外套管2のスリット5の円周方向の位置を合わせることにより、これら空隙とスリット5にフィルムFを差し込むことができる。外套管2のスリット5の幅Wとフィルム巻取部12の板部12a,12b間の空隙は、共に1.0mm程度となっている。なお、本実施の形態では図示していないが、この位置合わせを行うための位置合わせ手段(例えば凹凸形状による係合等)を外套管2の内周面と押出部材3の外周面の適所に設けてもよく、その形状等は任意に設計可能である。前記のような位置合わせ手段を設けると、使用前の通常状態において位置合わせが可能となるので、フィルム巻取部12の板部12a,12b間の空隙と外套管2のスリット5へのフィルムFの差し込みが容易となり、その後の巻き取り作業を迅速に行うことができる。
【0032】
把持管13はその後端側の外周面に径大で多角形状の把持部14が設けられ、指で摘まみ易くなっている。また、シャフト11の後端側にはシャフトの周りに凹所15が形成され、この凹所15と外套管2の把持管6の他端側に形成されている凹所16との間にはつる巻きばね17がシャフト11に介装して配設されている。ばね17は通常状態では図1に示すように伸張した状態となっていて、フィルム巻取部12の板部12a,12bの先端を外套管2の先端開口から僅かに突出させている。そして、把持管13が把持管6に最接近した使用状態では図6に示すようにフィルム巻取部12のほぼ全体を外套管2から外部に突出させることが可能になっている。
【0033】
前記のようにフィルムFをフィルム巻取部12の空隙と外套管2のスリット5との間に差し込んだ状態でシャフト11を回転させると、フィルムFが外周側を外套管2の管本体4で抑えられた形でシャフト11に巻き付き、外套管2内に簡単に巻き取り収納される。つまり、外套管2の管本体4は内部がフィルムFの収納部に形成される。そして、巻き取られたフィルムFはシャフト11を前方に押し出すことで外套管2から管外へ突き出される。この突き出された時点で自らの腰の力により巻き径が反発で大きくなり、シャフト11を引き戻すことで外套管2の前端に引っ掛かり、体内腔へリリースされる。
【0034】
図5において、21は外套管2の内周面に設けられた係止突部であり、押出部材3のシャフト11の外周面に設けられた係止部材22が係止可能になっている。これら係止突部21及び係止部材22は押出部材3のストッパ機構を構成し、フィルムFの挿入後に押出部材3がばね17の付勢力によりシャフト11が後退したとき係止部材22が係止突部21に係止してシャフト11がそれ以上後退するのを阻止する。係止部材22はフィルム巻取部12の固定部でもあり、基端がシャフト11の前端に嵌合して固定され、先端に扁平形状の開口を2つ有し、該2つの開口にフィルム巻取部12の板部12a,12bの基端部を受け入れて固定している。板部12a,12bは基端が前記のように固定されることにより、先端側が互いに平行に伸びた状態にされ、両者間に空隙を形成する。
【0035】
この実施の形態に示すディバイス1の各部の寸法を参考に示すと次の通りである。すなわち、把持管6を含む外套管2の軸方向長さは225mm程度、把持管13及びフィルム巻取部12を含むシャフト11の軸方向長さは245mm程度、フィルム巻取部12の軸方向長さは60mm程度、外套管2のスリット5の軸方向長さは60mm程度である。また、外套管2の外径は5mm程度、把持管6の外径は7mm程度、把持管13の外径は12mm程度、シャフト11の外径は3mm程度である。そして、図1に示すように通常状態ではフィルム巻取部12の先端が外套管2の先端開口より少し突出し、図6に示すように把持管13を把持管6に最接近させた使用状態ではフィルム巻取部12の基端が外套管2の先端開口から突出するようになっている。
【0036】
次に、本ディバイス1の使用方法について、図7,8を用いて以下に説明する。
【0037】
本ディバイス1を使用する際には、図1に示すように外套管2に把持部付き押出部材3をセットした状態において、まず外套管2のスリット5とシャフト11のフィルム巻取部12の空隙の位置合わせを行う。この位置合わせは外套管2に対してシャフト11を回転させることにより行うが、前記のように位置合わせ手段を設けて通常状態で位置合わせされるようにしてもよい。位置合わせ後、予め所定のサイズにカットしたフィルムFをフィルム巻取部12の板部12a,12bの空隙と外套管2のスリット5へと差し込んで通し、図7(A)に示すようにフィルムFをセットする。このときに位置合わせ手段を設けておけば、フィルムFの差し込み作業はより迅速に行うことができる。
【0038】
次に、外套管2を一方の手で持ちながら、他方の手で把持部14を有する把持管13を持ってシャフト11を回転し、フィルム巻取部12の外周にフィルムFを巻き付ける。この際には従来のように術者の手をフィルムFに添えるような必要がなく、簡単にその巻き付けと巻き取りを行うことができる。図7(B)はフィルムFを巻き取り開始直後の状態の図、図7(C)はフィルムFの巻き取りが完了した状態の図を示す。図7(C)から明らかなように巻き取りが完了すると、フィルムFは全体が外套管2内に収納された状態となる。
【0039】
そして、フィルム巻取部12へのフィルムFの巻き取りが完了した後、本ディバイス1を図8に示すようにフィルムFを挿入すべき個所の体部位に装着しているトロカーTの内腔内に挿入してやる。そして、挿入後に把持部14を持ってシャフト11をばね17に抗して前進させ、フィルム巻取部12を巻き取ったフィルムFごと外套管2から押し出す。図7(D)はフィルムFの押し出している途中の図、図7(E)はフィルムFの押し出しが完了した状態の図を示す。図7(E)から明らかなように押し出しが完了すると、フィルムFは後端が外套管2の前端開口端から僅かに突出し、それにより全体が外部に突出した状態となる。
【0040】
そして、前記の押し出しが完了した後、把持部14によるシャフト11の前進を解くと(術者が把持部14から手を離すと)、シャフト11はばね17の力により元の状態に復帰し、それまで外套管2から外部に突出した状態となっていたフィルムFはこのシャフト11の引き戻し作用によりその後端が外套管2の前端開口端に当って引っ掛かりフィルム巻取部12から外れる。そして、外れた後その腰の強さにより巻き解かれる。図7(F)はフィルムFがフィルム巻取部12から外れた状態の図、図8はその術中における作動途中の図を示す。
【0041】
このような状態に置かれたフィルムFは、本ディバイス1を抜去した後に挿入される内視鏡により適宜に摘まれ、体内の目的部位である術部にもたらされて患部に貼り付けられることになる。
【0042】
前記のように実施の形態のディバイス1によれば、フィルムFの巻き取りに際して、従来のようにフィルムFに手を添える必要がなく、簡単に体内の目的部位へ挿入することができ、きわめて挿入操作が便利である。したがって、その後の目的部位での内視鏡下手術でのフィルムFの貼り付けや留置も上手く簡易に行うことができ、手術時間の短縮を図ることができる。しかも、フィルムFの挿入に際してばね17の作用でフィルムFを外套管2の前端開口端に引っ掛けて簡単に挿入することができるので、操作性がよい。また、実施の形態のように内腔が5.0mmの小口径のトロカーにも十分に使用することができる。
<変形例1>
【0043】
図9〜11は軸方向スリットの変形例1を示す。この変形例1が適用されるシート挿入用ディバイス31は、実施の形態1のディバイス1と多少その形態が異なっているが、軸方向スリットに限ってみれば外套管32の管本体34の前端部の相対向する壁に形成の軸方向スリットのうち、一方のスリット35aが管本体34の前端開口からフィルム巻取部42の長さと同程度の長さにわたり形成され、他方のスリット35bが前端開口から所定長さ(例えば数mm)置いた位置(換言すると前端開口から所定長さ離れた位置)からフィルム巻取部42の長さと同程度の長さにわたり形成されている。つまり、実施の形態1の軸方向スリットが両方とも外套管32の前端開口から該開口と連通した形で形成されているのに対して、この変形例1ではその一方を前端開口から所定長さ置いた位置から形成しており、つまり先端開口と連通するスリットを1つにしている。なお、ディバイス31ではディバイス1で設けたような、つる巻きばねが押出部材33のシャフト41に介装されていない。その他の構成も細部において若干の相違が見られるものの、機能的には大差がない形になっている。
【0044】
軸方向スリットの構成を前記のようにしたのは次のような理由による。すなわち、外套管32を金属で製作して使用する場合には問題ないものの、金属より柔らかい合成樹脂で製作して使用する場合にはフィルムFを挿入したところ、巻き取ったフィルムの厚みに外套管の強度が持たず、外套管32の先端部が軸方向スリットと先端開口との境目から大きく開いてしまい、実用化が困難であるという課題が見出された。そこで、スリットの一方は先端数ミリに切れ目を入れず軸方向スリットを形成する壁が周方向に繋がった形にすることで、フィルム巻き取り時の厚みに対しても外套管先端部が開くのを防止することを可能としたものである。
【0045】
本ディバイス31を用いてフィルムFを挿入するには、例えば前端開口からスリットが形成された一方のスリット35aを経てフィルムFを斜めに入れてフィルム巻取部42の板部42a,42bの空隙、対向側のスリット35bへと差し込みセットする。そして、このセットされたフィルムFをシャフト41の回転によりフィルム巻取部42の外周に巻き付け、巻き取ることになる。図12はフィルムFを巻き取った後、シャフト41を押し込んでフィルム巻取部42を外套管32の先端開口から突出させた状態を示すものである(フィルムFは図示せず)。同図において、44は把持部、36は把持管を示す。
【0046】
なお、本ディバイス31にあってはスリットの一方が先端開口から、他方が先端開口から所定長さ置いてから、形成しているため、術者が、どちら側のスリットが先端開口から形成されているのかよくわからない場合がある。そのため、ここでは特に図示していないが、スリットのどちらが前端開口から形成されているかを確認するマークが、外套管又はシャフトに設けられている。このマークは先端開口からのスリットの近くに設けてもよいし、先端開口から所定長さ置いてからのスリットのいずれに設けてもよい。マークの態様は術者が眼で認識できるものであれば任意である。このようなマークを設けると、術者が瞬時にフィルムの挿入位置を把握できて手術の迅速化を図ることが可能となる。
<変形例2>
【0047】
図13〜15は軸方向スリットの変形例2を示す。この変形例2が適用されるシート挿入用ディバイス51は、軸方向スリット以外は変形例1のディバイス31とほぼ同じ構造となっているので、同様の部分には同一符号に数字の20をプラスして示す。すなわち、ディバイス51は、外套管52の管本体54の前端部に相対向して形成の軸方向スリットの両方とも、すなわちスリット55a,55bが管本体54の前端開口から所定長さ置いた位置から形成されている。
【0048】
ディバイス51を用いてシートを挿入するには、いずれか一方のスリット、例えばスリット55aからフィルムFを斜めに入れてフィルム巻取部62の板部62a,62bの空隙、対向側のスリット55bへと差し込みセットする。そして、このセットされたフィルムFをシャフト61の回転によりフィルム巻取部62の外周に巻き付け、巻き取ることになる。これにより、フィルムFは変形例1のときと同様にフィルム巻取部62の外周に巻き取られる。
【0049】
変形例2の軸方向スリット55a,55bは前記のように両方とも前端開口から所定長さ置いた位置から形成され、該スリットを形成する壁は周方向に完全に繋がり切れ目のない構造となるので、一方のスリット35bのみ壁が周方向に繋がった形の変形例1よりも軸方向スリットの強度が増して引き裂きにも強いものとなる。
(実施の形態2)
【0050】
図16〜18は実施の形態2を示し、この実施の形態のシート挿入用ディバイス71は、軸方向スリットについて、一方のスリット75aが管本体74の前端開口からフィルム巻取部82の長さと同程度の長さにわたり形成され、他方のスリット75bが前端開口から所定長さ置いた位置からフィルム巻取部82の長さと同程度の長さにわたり形成されている点では、変形例2と同様であるが、フィルムFを挟みつける、いわゆるピンセットタイプの構造を有する点で、これと相違する。そのほかの点は変形例2と同様となっているので同様の部分には同一符号に数字の20をプラスして示す。
【0051】
すなわち、実施の形態2のディバイス71は、フィルム巻取部付きシャフト把持部85を具え、この把持部には先端がシャフト把持部84、さらに外套管の管本体内を通って、該管本体内に移動可能に設けられた係止部材93まで延びるシャフト86を有している。シャフト86の先端には第1の等長リンク87aと第2の等長リンク87bが基軸89により枢支され、第1の等長リンク87aと第2の等長リンク87bの先端には固定軸90により中間部が枢支された等長アーム91a,91bの後端が連結軸92a,92bにより枢支されている。固定軸90は、その両端が係止部材93の内腔のある周壁に固定されている。
【0052】
また、等長アーム91a,91bの先端にはフィルム巻取部82の板部82a,82bの後端が固定されている。これにより、図16,17のように板部82a,82bの先端が開いた状態から把持部84を持ってシャフト把持部85を図18の矢印で示すように後方に引くと、同時にシャフト86も引かれ、このシャフト86によって第1の等長リンク87aと第2の等長リンク87bが内方に押される。これに伴いフィルム巻取部82の板部82a,82bの後端も内方に押され、板部82a,82bがあたかもピンセットのようにその先端が互いに内方に接近して閉じ(図18の状態)、巻き取りのため板部82a,82b間に差し込まれるフィルムFを挟持することが可能になる。
【0053】
そして、フィルム巻取部82の板部82a,82bを再び開くには、引いたシャフト把持部84を持ってシャフト把持部85を元のように押し込む。すると、同時に押し込まれるシャフト86により第1の等長リンク87aと第2の等長リンク87bが外方に押され、板部82a,82bの後端も外方に押されてその先端が図16,17のように開いた状態に戻る。
【0054】
したがって、実施の形態2にあっては、実施の形態1で期待される、フィルムFをフィルム巻取部12の外周に簡単に巻き付けることは勿論、シャフト把持部85の操作によりシャフト86を前後方向に移動させることによってフィルム巻取部82の板部82a,82bの先端の開閉が可能となり、閉じることによりフィルムFをしっかり挟持して体腔内でフィルムを落とすことなく目的部位まで誘導することができる。そのため、その後の目的部位でシートの貼り付けや留置も上手く簡易に行うことができ、手術時間の短縮を図ることができる。
【0055】
前記のように実施の形態や変形例として示したディバイスは、あくまでも好ましい一例であり、この発明は特許請求の範囲に記載した範囲内であれば細部の設計等は任意に変更、修正が可能であることは言うまでもない。軸方向スリットのどちらが前端開口から形成されているかを確認するマークに関して変形例2のディバイスでのみ説明したが、このマークは他の変形例や実施の形態のディバイスでも適用可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0056】
1,31,51,71 シート挿入用ディバイス
2,32,52,72 外套管
3,33,53,73 押出部材
4,34,54,74 管本体
5,35a,35b,55a,55b,75a,75b スリット
6,36,56,76 把持管
11,41,61,81 シャフト
12,42,62,82 フィルム巻取部
12a,12b,42a,42b,62a,62b 板部
13 把持管
14 把持部
17 つる巻きばね(付勢部材)
21 係止突部(第1の係止部材)
22 係止部材(第2の係止部材)
85 フィルム巻取部付きシャフト把持部
86 シャフト(第2のシャフト)
87a 第1の等長リンク
87b 第2の等長リンク
91a,91b 等長アーム
F フィルム(合成吸収性癒着防止シート)
T トロカー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内視鏡下手術において合成吸収性癒着防止シートなどのシートをトロカーの内腔を通じて体内の目的部位へ挿入するのに用いられるものであって、
前後端が開口し、内部がシート収納部に形成された円筒状の外套管と、この外套管内に管軸方向となる前後方向に進退可能、かつ回転可能に挿入されるシート押し出し用の押出部材と、を具え、
前記押出部材は、外套管より長さの長いシャフトと、該シャフトの先端部に設けられた二股状のシート巻取部と、前記シャフトの後端部に設けられた操作用把持部と、を有し、前記シート巻取部は、前記押出部材の前進により外套管の前端開口から突出されるとともに、後退により外套管内に収納され、
前記外套管は、前端部の相対向する壁に前記シートを差し込める大きさの軸方向スリットがシート巻取部の長さと同程度の長さにわたり形成されていることを特徴とするシート挿入用ディバイス。
【請求項2】
押出部材の把持部と外套管の後端部との間には、押出部材のシート巻取部を外套管内のシート収納部に収納する方向に付勢する付勢部材が設けられ、外套管に対して押出部材を押し込んで前進させたときは付勢部材が圧縮されてシート巻取部を外套管から外部へ突出させ、後退させたときは付勢部材が伸張してシート巻取部を外套管内に収納する請求項1に記載のシート挿入用ディバイス。
【請求項3】
押出部材のシート巻取部は、シートを差し込める大きさの空隙をおいて相対向して配置された二つの部分を有し、その軸方向の長さは外套管のスリットの軸方向の長さよりやや長くなっているとともに、先端は外向きに拡開状になっている請求項1又は2に記載のシート挿入用ディバイス。
【請求項4】
外套管の内周面と押出部材のシャフトの外周面には外套管のスリットとシャフトのシート巻取部の空隙の円周方向の位置合わせを行う位置合わせ手段が設けられている請求項1ないし3のいずれかに記載のシート挿入用ディバイス。
【請求項5】
外套管の内周面に設けられた第1の係止部材と押出部材のシャフトの外周面に設けられた第2の係止部材とからなり、シャフトの後退により第2の係止部材が第1の係止部材に係止してシャフトがそれ以上後退するのを阻止するストッパ機構が設けられている請求項1ないし4のいずれかに記載のシート挿入用ディバイス。
【請求項6】
軸方向スリットは、相対向する両方のスリットとも外套管の前端開口からシート巻取部の長さと同程度の長さにわたり形成されている請求項1ないし5のいずれかに記載のシート挿入用ディバイス。
【請求項7】
軸方向スリットは、相対向する一方のスリットが外套管の前端開口からシート巻取部の長さと同程度の長さにわたり形成され、他方のスリットが前端開口から所定長さ置いた位置からシート巻取部の長さと同程度の長さにわたり形成されている請求項1ないし5のいずれかに記載のシート挿入用ディバイス。
【請求項8】
軸方向スリットは、相対向する両方のスリットとも外套管の前端開口から所定長さ置いた位置からシート巻取部の長さと同程度の長さにわたり形成されている請求項1ないし5のいずれかに記載のシート挿入用ディバイス。
【請求項9】
軸方向スリットが形成されている位置が確認可能なマークが、外套管又はシャフトに設けられている請求項1ないし8のいずれかに記載のシート挿入用ディバイス。
【請求項10】
シート巻取部付きシャフト把持部を具え、この把持部は先端が外套管内まで延びる第2のシャフトを有し、この第2のシャフトの先端には1対の等長リンクの基端が枢支され、これら等長リンクの先端には中間部が押出部材に設けたシャフトに枢支された1対の等長アームの後端が枢支され、これらアームの先端にはシート巻取部の二つの板部の後端が固定されてなり、前記第2のシャフトを後方に引くと、両等長リンクと両等長アームが内方に押されるとともに、シート巻取部の両板部の後端も内方に押され、これにより両板部の先端が開いた状態から閉じた状態になるように構成されている請求項1ないし9のいずれかに記載のシート挿入用ディバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2013−106938(P2013−106938A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−221143(P2012−221143)
【出願日】平成24年10月3日(2012.10.3)
【特許番号】特許第5198680号(P5198680)
【特許公報発行日】平成25年5月15日(2013.5.15)
【出願人】(508303324)富士システムズ株式会社 (10)
【Fターム(参考)】