説明

シート搬送用ローラ及び画像形成装置

【課題】シリコーンゴム層から発生した揮発性有機化合物の放散を抑制することができるシート搬送用ローラを提供する。
【解決手段】剛性の高いステンレスや鉄材料からなるローラ軸芯30上にシリコーンゴム層31が設けられ、シリコーンゴム層31の外周面に樹脂チューブ32が設けられ、シリコーンゴム層31の両端と空隙34を存して対向するキャップ部材33がローラ軸芯30に設けられると共に、そのキャップ部材30の少なくとも外周が樹脂チューブ32に覆われて空隙34が封止されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機,レーザビームプリンタ,ファクシミリ及びこれらを組み合わせた複合機等の画像形成装置に装着されるシート搬送用ローラに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複写機,レーザビームプリンタ,ファクシミリ及びこれらを組み合わせた複合機等の画像形成装置には、その装置本体内にシート材の表面に形成された画像を定着させるための定着部を設けたものが周知である。
【0003】
この定着部には、シート材の表面側(画像形成側)に位置して外周温度が定着温度(例えば、170〜180℃度前後)にまで昇温された定着ローラ(加熱ローラ)と、この定着ローラに対向配置されてシート材を裏面側から加圧する加圧ローラとを備えている。
【0004】
また、ここで使用されている加圧ローラには、対向配置された定着ローラが高温であることから、ある程度の耐熱性を備えている必要がある。
【0005】
そこで、図5に示すように、一般的な加圧ローラ1は、ローラ軸芯2上にシリコーンゴム層3を設けると共に、その外周面に樹脂チューブ4を設けたものが一般的である。
【0006】
また、加圧ローラ1の熱伝導率を制御するため、シリコーンゴム層3の両端に高熱伝導ゴムを設けたものも知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−258651号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、近年の環境保護の観点から、画像形成装置等においても各種の規制等が設定されつつあり、VOC(例えば、ホルムアルデヒドやベンゼン等の揮発性有機化合物)に由来する大気汚染防止もその一つとされている。
【0008】
また、画像形成装置で配慮する必要があるものとしては、上述した加熱方式(トナー方式)を採用した場合、オゾン・粉塵・VOCに対する環境面からの配慮が必要とされ、特に上述したVOCに関する放散量の低減が叫ばれつつある。
【0009】
そして、上述したシリコーンゴム層3にあっては、加熱・加圧によってシリコーンゴム中の低分子量シロキサンの分離放散が観測されており、この低分子量シロキサンの画像形成装置本体内からの放散を少なくするために吸着フィルターを排風ダクト部に設ける等の対策が考えられている。
【0010】
しかしながら、画像形成装置にあっては、例えば、用紙の補充やジャムの発生・メンテナンス等を行うために画像形成装置のカバーが開放された際に、吸着フィルターで吸着し得なかった低分子量シロキサンが外部に漏れてしまう虞があった。
【0011】
そこで、本発明は、上記事情を考慮し、シリコーンゴム層から発生した揮発性有機化合物の放散を抑制することができるシート搬送用ローラを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一実施形態に係るシート搬送用ローラは、ローラ軸芯上に設けられたシリコーンゴム層と、該シリコーンゴム層の外周面に設けた樹脂チューブとを備えたシート搬送用ローラにおいて、前記シリコーンゴム層の両端と空隙を存して対向するキャップ部材が前記ローラ軸芯に設けられると共に、前記キャップ部材の少なくとも外周が前記樹脂チューブに覆われて前記空隙が封止されていることを特徴とする。
【0013】
このような構成によれば、シリコーンゴム層から発生した揮発性有機化合物を空隙内で封止することにより、揮発性有機化合物の放散を抑制することができる。
【0014】
この際、キャップ部材の少なくとも外周を樹脂チューブで覆うことにより、特別な密閉手段を設けることなく空隙を封止することができる。
【0015】
また、樹脂チューブをフッ素系樹脂チューブとすると共に、キャップ部材を熱伝導率の高い金属とすることにより、空隙内の気体をローラの両端側から効率よく冷却凝結させることができるため、よって空隙部の気体膨張に伴う樹脂チューブ膨張やシリコーンゴム層と樹脂チューブとの間での気泡の発生を防止することができる。
【0016】
本発明の画像形成装置は、上記した発明に記載のシート搬送ローラを備えていることにより、シリコーンゴム層から発生した揮発性有機化合物の外部への漏れ(放散)を抑制することにより、揮発性有機化合物の画像形成装置外への漏れを抑制することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一実施形態に係るシート搬送用ローラは、シリコーンゴム層から発生した揮発性有機化合物の放散を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明の一実施形態に係るシート搬送用ローラについて、画像形成装置としてのプリンターに適用し、図面を参照して説明する。
【0019】
図1は本発明の一実施形態に係る画像形成装置としてのプリンタの説明図である。
【0020】
画像形成装置11は、本体12の側面に着脱可能に設けられてシート材(図示せず)を収納する給紙カセット13と、この給紙カセット13の上方に配置され且つ本体12に回動可能に保持されてシート材を収納する給紙トレイ14と、本体12の上面に設けられて排紙口15から排出された画像形成済みのシート材を収容する排紙トレイ部16と、給紙カセット13に収納されたシート材を取り出す給紙部17と、給紙トレイ14にセットされたシート材を取り出す手差し給紙部18と、各給紙部17,18から供給されたシート材が搬送される搬送経路19と、搬送経路19のシート搬送方向上流側で各給紙部17,18の合流部よりもシート搬送方向下流側に配置されたレジストローラ対20と、このレジストローラ対20よりも搬送経路19のシート搬送方向下流側に配置されてシート材の一面に画像を形成する画像形成部21と、この画像形成部21よりも搬送経路19のシート搬送方向下流側に配置されてシート材の一面に形成された画像(トナー画像)を定着する定着部22と、定着部22を通過したシート材の他面に画像を形成する場合に搬送経路19の定着部22よりも搬送経路下流側からレジストローラ対20よりも搬送経路19のシート搬送方向上流側に引き戻す反転経路23と、画像形成部21にトナーを提供するトナーカートリッジ24と、図示を略するパーソナルコンピュータ等からの画像情報に基づいて画像形成部21の感光体ドラム25にレーザ光26を照射する光学部27とを備えている。
【0021】
尚、定着部22には、図示を略するシート材の表面側(画像形成側)に位置して外周温度が定着温度(例えば、180度前後)にまで昇温された定着ローラ(加熱ローラ)28と、この定着ローラ28に対向配置されてシート材を裏面側から加圧する加圧ローラ29とを備えている。
【0022】
(加圧ローラ29の構成)
図2は、本発明の一実施形態に係るシート搬送用ローラとしての加圧ローラの断面図である。
【0023】
図2において、加圧ローラ29は、対向配置された定着ローラ28が高温であることから、ある程度の耐熱性を備えている必要がある。また、加圧ローラ29は、剛性の高いステンレスや鉄材料からなるローラ軸芯30と、このローラ軸芯30の外周に設けられたシリコーンゴム層31と、シリコーンゴム層31の外周面に設けられたフッ素系の樹脂チューブ32と、シリコーンゴム層31の両端に位置するローラ軸芯30上に設けられたキャップ部材33とを備えている。
【0024】
シリコーンゴム層31は、アスカーC硬度計基準で55°のものを使用するが、発泡させることにより低硬度にしてもよい。
【0025】
樹脂チューブ32には、例えば、トナーとの分離性の高いパーフルオロアルコキシ樹脂(PFA)等が使用され、シリコーンゴム層31に装着する前に予めエッチング処理を施して租面に仕上げておくことが好ましい。尚、樹脂チューブ32の厚さは40μmである。また、長さは、使用される画像形成装置11の仕様(例えば、A4サイズ用かA3対応か等)に応じて、その仕様よりも予め長めにしておく。
【0026】
キャップ部材33には、アルミやアルミ合金等の熱伝導率の高い材料からなる金属部材が用いられている。また、このキャップ部材33は、シリコーンゴム層31の両端と空隙34を介して対向配置されており、その外周は樹脂チューブ32に覆われている。
【0027】
空隙34は、シリコーンゴム層31に対する熱並びに圧力によって発生した低分子量シロキサンを主とする揮発性有機化合物の蓄積室としての機能を果たす。また、空隙34は、シリコーンゴム層31に対する熱の断熱層としての機能を具備しており、キャップ部材33を熱伝導率の高い金属から構成していることと相俟って、シリコーンゴム層31の熱、結果的に定着ローラ28の昇温を妨げることなく定着温度の維持に貢献することもできる。
【0028】
上記の構成において、画像形成装置11の仕様に応じてカッティング処理した樹脂チューブ32にプライマー(接着剤)を塗布したものを予め成形金型(図示せず)内にセットした後、その樹脂チューブ32内にシリコーンゴム層31としての液状シリコーンゴム材料を注入し、加熱・硬化後に樹脂チューブ32の両端をカッティング処理し、シリコーンゴム層31の両端にキャップ部材33を設ける。
【0029】
この際、樹脂チューブ32によってキャップ部材33の外周を覆うのが好ましいため、樹脂チューブ32の両端をカッティング処理する際には、このキャップ部材33の厚さを考慮してカッティング処理を行う。
【0030】
定着ローラ28の昇温に伴う加圧ローラ29への熱伝導による昇温、即ち、実施的なシリコーンゴム層31の昇温により、揮発性有機化合物(主として、低分子量シロキサン)が発生するが、シリコーンゴム層31の外周は樹脂チューブ32に覆われていることから、揮発性有機化合物はシリコーンゴム層31の両端から放散することとなる。
【0031】
そのシリコーンゴム層31の両端から放散した揮発性有機化合物(放散ガス)は、樹脂チューブ32とキャップ部材33とによって大気(画像形成装置11の内部)と隔絶されていることから、空隙34内に蓄積される。
【0032】
その空隙34内に蓄積された放散ガスは、冷却によって液化し、そのまま空隙34内に捕集され、次回以降の放散ガスの圧力上昇を緩和することができる。
【0033】
また、単にシリコーンゴム層31の両端に密着するようにキャップ部材33を設けたのでは、放散ガスがシリコーンゴム層31の外周と樹脂チューブ32の内周との間に溜まって泡やガスによる膨れが発生し、シリコーンゴム層31の劣化や画像ムラ(表面欠陥)が発生してしまうが、空隙34を設けたことにより、このような不具合を防止することができる。
【0034】
尚、空隙34の容積を充分に確保することができる場合には冷却の必要は無い。逆に、空隙34の容積を充分に確保することができない場合には、加圧ローラ29の端部付近に風を流す(既設のファン等を利用)ようにすることで空隙34内の圧力を低下させ、シリコーンゴム層31の外周と樹脂チューブ32の内周との間への放散ガスの流入(逆流)を防止する。
【0035】
そして、このように作成された加圧ローラ29を実機に装着し、VOC測定チャンバーに入れ、画像形成装置に関する環境基準のひとつであるドイツ国のブルーエンジェル基準にのっとった測定方法で計測を行った結果、低分子量シロキサンの放出量が低下した。
【0036】
図3及び図4は、本実施の形態に係る加圧ローラ29を用いた場合の低分子量シロキサンの放散量(図3)と従来の加圧ローラ1を用いた場合の低分子量シロキサンの放散量(図4)とを示したグラフ図である。
【0037】
この図3及び図4に示すように、本実施の形態に係る加圧ローラ29を用いた場合の低分子量シロキサンの放散量(ピーク値P1,P2,P3)は従来の加圧ローラ1を用いた場合の低分子量シロキサンの放散量(ピーク値p1,p2,p3)に対して約1/3に抑えることができた。
【0038】
図3及び図4の縦軸は放散量、横軸は時間軸である。また、この測定には、5m3換気(3回/時)の環境試験室を用いて加圧ローラ29を装着した実機で20分間プリント出力を行い、プリント出力開始から80分間試験室内のエアーを100ml/minポンプで吸引して吸着管(テナックス管)に吸着させ、ガスクロマトグラフィ質量分析計(GCMS)て定量分析を行ったものである。
【0039】
また、上記実施の形態では、本発明のシート搬送用ローラを加圧ローラ29に適用して説明したが、その他のシート搬送用ローラへの適用も可能である。また、本発明の画像形成装置をプリンタ11に適用して説明したが、複写機、ファクシミリ、スキャナー或いはこれら組み合わせた複合機など、上記実施の形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施形態に係る画像形成装置としてのプリンタの説明図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るシート搬送用ローラとしての加圧ローラの断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るシート搬送用ローラを用いた場合のVOC放散量の検出分布を示すグラフ図である。
【図4】従来のシート搬送用ローラとしての加圧ローラの断面図である。
【図5】従来のシート搬送用ローラを用いた場合のVOC放散量の検出分布を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0041】
11…プリンタ(画像形成装置)
29…加圧ローラ(シート搬送用ローラ)
30…ローラ軸芯
31…シリコーンゴム層
32…樹脂チューブ
33…キャップ部材
34…空隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローラ軸芯上に設けられたシリコーンゴム層と、該シリコーンゴム層の外周面に設けた樹脂チューブとを備えたシート搬送用ローラにおいて、
前記シリコーンゴム層の両端と空隙を存して対向するキャップ部材が前記ローラ軸芯に設けられて前記空隙が封止されていることを特徴とするシート搬送用ローラ。
【請求項2】
前記キャップ部材は、少なくともその外周が前記樹脂チューブに覆われていることを特徴とする請求項1に記載のシート搬送用ローラ。
【請求項3】
前記樹脂チューブがフッ素系樹脂チューブであり、前記キャップ部材には熱伝導率の高い金属が用いられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のシート搬送ローラ。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載のシート搬送用ローラを備えていることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−9264(P2008−9264A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−181478(P2006−181478)
【出願日】平成18年6月30日(2006.6.30)
【出願人】(000006150)京セラミタ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】