説明

シート搬送装置及び画像形成装置

【課題】本発明の目的は、複雑な構成や制御を用いることなく、静電力を用いたシートの搬送を行いつつ幅方向の位置ズレを精度良く調整できるようにすることである。
【解決手段】絶縁体100aの表面に複数の帯状電極100bをシートの搬送方向に間隔をあけて並設した固定子100と、固定子100の電極100bに2系統以上の電圧を切り替えて印加する帯電制御手段401とを有し、静電力を利用してシートを搬送するシート搬送装置20であって、シートを搬送方向と直交する幅方向に誘導するためにシートの複数の個所を帯電させる帯電器200a,200bと、シートを幅方向に誘導するための複数の誘導路300a,300b,300cを有し、複数の誘導路の中から選択的に電圧を印加することで、前記シートの帯電した個所を前記電圧を印加した誘導路に沿わせるシート誘導手段403と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電力を利用してシートを搬送するシート搬送装置及び前記シート搬送装置を有する画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、画像形成部にて形成したトナー像をシートに転写する画像形成装置においては、シート上の所望の位置に正確にトナー像を転写することが要求されている。このような画像形成装置において、シートの搬送方向と直交する幅方向の位置ズレが生じた場合は、斜送ローラによってシートを斜め方向に搬送し、シートの幅方向の端部を突き当て板に突き当てて、補正していた。
【0003】
しかしながら、シートを斜め方向に搬送する斜送ローラでは、シートにストレスがかかり、特に薄い紙など剛性(腰)の弱いシートを搬送する場合、シートにシワが寄ったり折れたりするおそれがある。また、斜送ローラでシートを斜め方向に搬送する際には、斜送ローラの上流側及び下流側においてシートを挟持搬送するローラ対の圧力を解除してシートの動きを開放する必要があり、複雑な機構が必要である。
【0004】
そこで、従来から、シートを挟持することなく、静電力を利用してシートを搬送する静電搬送装置が提案されている。特許文献1には、シート搬送方向に複数の電極が並設された静電搬送装置をシートの幅方向に一対設け、複数のセンサの検知信号を元に一対の静電搬送装置の駆動状態を変えることで、シートを静電力で搬送しつつ幅方向の位置ズレを調整する構成が開示されている。また特許文献2には、搬送経路に当たる位置の電界強度が他の部分より強くなるように、静電搬送装置で用いる電極のパターンを変えることで、シートの幅方向の位置を拘束した状態で搬送する構成が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平08−12118号
【特許文献2】特開平10−150782号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1では、複数のセンサを用いてシートの姿勢を判別し、その情報に基づいて一対の静電搬送装置の駆動状態を制御している。このため、シートの姿勢制御に複雑な機構及び構成が必要であり、コストアップの要因となる。
【0007】
また上記特許文献2では、シートの幅方向の位置を拘束した状態で搬送できるものの、シートの幅方向の位置ズレを調整する機能がない。このため、前述の如く拘束される前に既にシートに幅方向の位置ズレがあった場合、この位置ズレを精度良く調整することはできない。
【0008】
そこで、本発明の目的は、複雑な構成や制御を用いることなく、静電力を用いたシートの搬送を行いつつ幅方向の位置ズレを精度良く調整できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明の代表的な構成は、絶縁体の表面に複数の帯状電極をシートの搬送方向に間隔をあけて並設した固定子と、前記固定子の電極に2系統以上の電圧を切り替えて印加する制御手段と、を有し、静電力を利用してシートを搬送するシート搬送装置であって、シートを搬送方向と直交する幅方向に誘導するためにシートの複数の個所を帯電させる帯電手段と、シートを幅方向に誘導するための複数の誘導路を有し、複数の誘導路の中から選択的に電圧を印加することで、前記シートの帯電した個所を前記電圧を印加した誘導路に沿わせるシート誘導手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、静電力を利用して搬送されるシートは、帯電した箇所が、電圧を印加した誘導路に沿って搬送される。したがって、複雑な構成や制御を用いることなく、静電力を用いたシートの搬送を行いつつ幅方向の位置ズレを精度良く調整できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。ただし、以下の実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、それらの相対配置などは、本発明が適用される装置の構成や各種条件により適宜変更されるべきものである。従って、特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0012】
まず、静電力を利用したシート搬送装置を有する画像形成装置の概略構成について説明する。図6はシート搬送装置を備えた画像形成装置の全体構成を示す断面図であり、電子写真方式のフルカラープリンタの概略構成を例示している。
【0013】
図6において、1a〜1dは4色の感光体ドラム、2a〜2dは一次帯電手段、3a〜3dは露光手段、4a〜4dは現像手段、5a〜5dは一次転写ローラ、6a〜6dはクリーナである。また、51は中間転写ベルト、52,53,54は中間転写ベルト51を支持しているローラ、55はクリーナ、56は二次転写ローラである。
【0014】
11は給送トレイ、12はピックアップローラ、13は給送ローラ、14はレジストローラである。15は定着器、16は排出ローラ、17は排出トレイである。20は後述するシート搬送装置であり、ここでは給送ローラ13とレジストローラ14の間に配置した構成を例示している。
【0015】
上記構成のプリンタにおいては、一次帯電手段2a〜2dによって各感光体ドラム1a〜1dが一様に帯電された後、画像信号に応じた露光が露光手段3a〜3dによってなされることにより、各感光体ドラム1a〜1d上に静電潜像が形成される。この静電潜像は各現像手段4a〜4dによりトナー画像として現像される。そして、各感光ドラム1a〜1d上に現像された各色のトナー画像は、各一次転写ローラ5a〜5d部で中間転写ベルト51上に重ね合わせて転写される。
【0016】
一方、シートPは給送トレイ11からピックアップローラ12、給送ローラ13によって一枚ずつ給送され、後述するシート搬送装置20によって静電力を利用して搬送され、レジストローラ14で画像とのタイミングをとりつつ二次転写ローラ22へ搬送される。
【0017】
そして、前述したように転写ベルト51上に重畳転写されたトナー画像は、二次転写ローラ56部でシートに4色が一括転写される。シートに一括転写されたトナー画像は、定着器15によって加熱及び加圧されてシートに定着される。画像が定着されたシートは、排出ローラ16によって排出トレイ17上に排出される。
【0018】
ここで、図1〜図3を用いて、静電力を利用してシートを搬送するシート搬送装置について説明する。図1は、シート搬送装置が有する固定子を説明する平面図である。図2はシート搬送装置が有する固定子と帯電器を説明する斜視図である。図3はシート搬送装置が有する固定子と誘導路を説明する平面図である。
【0019】
図1において、100は固定子であって、シートの搬送経路の一方の面(本実施形態ではシートの下面側)に配置されている。この固定子100は、平面形状の絶縁体100aと、前記絶縁体100aの表面に所定の間隔をあけてシートの搬送方向に櫛状に配置された複数の帯状電極100bとを有している。複数の電極100bには、電源(不図示)から2系統以上の電圧を印加するように構成してある。ここでは複数の電極100bを3つの群に分け、各群の電極を交互に配置している。そして、各群の電極100bにはそれぞれ固定子用電源(不図示)から3系統の電圧Va,Vb,Vcを印加するように構成してある。これら電圧Va,Vb,Vcは制御手段としての帯電制御手段(図6中401)によって所定の条件で切り替えて各電極100bに印加されるようになっている。
【0020】
図2において、200a,200bは帯電器であり、シートを搬送方向と直交する幅方向に誘導するためにシートの複数の個所を帯電させる帯電手段である。帯電器200a,200bは、シートの幅方向一方の端部からシートを帯電させる構成となっている。ここでは、2つの帯電器200a,200bを、固定子100のシート幅方向一端側に配置した構成を例示しているが、例えばシートを収納してあるカセットなどのシート収納部に帯電器を設置しても良い。このように構成すれば、電荷量分布はシートの幅方向端部をもっとも高くすることができる。具体的には、図7のようなイメージでx=0の端面に帯電される。図7の縦軸は電荷量を示し、シートの特性によって実際に電荷量の分布は異なるため単位は記載しない。また、誘導用の帯電器200a,200bは(X=0,Y=0〜10)と(X=0,Y=90〜100)に突き当てられているとする。ここで、図7ではシートの搬送を目的として帯電させた箇所と誘導を目的として帯電させた箇所で電荷量が異なる。この理由は、搬送を目的として帯電させる電極は隣り合う電極の距離が狭い(数mm程度)ため、印加できる電圧が限定されてしまうが、誘導を目的として帯電するために印加する電圧は限定されないので、電荷量を増やす事ができるからである。また、仮に電荷量がA倍であるとすると、クーロン力は電荷量の2乗で影響するためA倍となる。そのため、搬送力を作る面積と比べて誘導に用いる面積が小さくてもシートを誘導する力を作り出すことはできる。また、この帯電したシートは図8に示すように電極の中心に対して電荷分布の中心(電荷分布を仮想的に1点で示すことができる所)が重なるようにクーロン力は働く。そのため、シートの端部から同じような電荷分布を作ることができるならば、誘導路に対するシートの幅方向の位置合わせの精度を上げることができる。
【0021】
図3において、300a,300b,300cは誘導路であり、前記帯電器200a,200bによって帯電された電荷を用いてシートを幅方向に誘導させるためのシート誘導手段403(図4参照)を構成している。ここでは、この誘導路の中から、誘導路300cと、誘導路300aもしくは誘導路300bのどちらかに選択的に電圧を印加することによって、シートを幅方向に誘導させるための誘導路を選択することができる。そして、前記帯電器200a,200bによって複数の箇所が帯電されたシートは、その帯電された箇所が前記電圧を印加された誘導路(図3では誘導路300a,300c)に沿って誘導される。なお、この誘導路300a,300b,300cは、シートの帯電量が減少してしまうことを回避するために、印加される電圧は間欠的(ここでは一定間隔)に印加することもできる。
【0022】
ここで、前述したシート搬送装置の制御系について説明する。図4は、シート搬送装置の制御系を示すブロック図である。
【0023】
図4において、400はそれぞれ複数の電極からなる電極群であって、図1〜図3に示す固定子100が有する各群の電極100bがこれにあたる。401は帯電制御手段であり、図1〜図3には図示しないが、各群の電極に印加する電圧Va,Vb,Vcを切り替え制御するものである。402は帯電手段であって、図2に示す帯電器200a,200bがこれにあたる。403はシート誘導手段であって、図3に示す誘導路300a,300b,300cがこれにあたる。404はシート搬送装置全体の制御部である中央制御手段であり、システム全体の制御を行う。また、404はシートサイズ設定手段(不図示)でもあり、シート搬送装置の操作部(不図示)もしくは自動シートサイズ検知によってシートのサイズが設定される。
【0024】
次に、シート搬送装置の動作の流れを説明する。図5は、シート搬送装置の動作の流れを示すフローチャート図である。
【0025】
まず、搬送されるシートのシートサイズをシートサイズ設定手段によって設定する(S100)。次に、前記ステップS100によって設定されたシートサイズに応じて誘導路300aもしくは300bを選択し、シートが誘導されるように電圧を印加する(S101)。そして、前記ステップS101によって作られたシート誘導路にシートを沿わせるために、シートに対し幅方向一方の端面から電圧を加え帯電させる(S102)。このとき、シートの搬送方向に並んだ2箇所のみ帯電させることで、シートの搬送方向の直線が決定され、シートの位置合わせの精度を上げることができる。ここまでが、シートを誘導路に沿わせるための手順であって、以降はシートを静電搬送させるための手順となる。
【0026】
シートを静電搬送させるには、まず、図1aに示すように、上記構成の固定子100上に高抵抗の材質からなるシートPを送り、この状態で前記固定子100の電極100bに系統の異なる電圧Va,Vb,Vcを夫々印加する。尚、ここでは電圧Vaを+1000V、電圧Vbを−1000V、電圧Vcを0Vとしている。前記電極100bに電圧Va,Vb,Vcを夫々印加すると、シートP内の電荷が移動し、前記シートPは図1bに示すように帯状に帯電する(S103)。この平衡状態から電極100bへの印加電圧の極性を図1cに示す如く切り換えると、前記電極100bの電荷は瞬時に入れ替わるが、シートP内の電荷は高い抵抗に妨げられてしばらく元の位置にとどまっている。そのため、前記電極100bとシートP内の電荷間の作用により、前記シートPに垂直方向への反発力とシート搬送方向への推進力が発生し、図1dに示すようにシートPは電極100bの1ピッチ分だけ動く(S104)。この動作後、ステップS103・ステップS104の動作を繰り返すことによってシートPの搬送が行われる。
【0027】
上述したように、シートの幅方向一方の端面から帯電させる構成を用いることによってシート端の電位をもっとも高くすることができる。すると、シート端を基準として搬送の誘導ができるため、センサ等を用いた複雑な構成や制御を用いることなく、シートの幅方向の位置ズレを精度良く調整することができる。また、シートの搬送方向に対して前後2個所のシート端を基準とすることができるので、所望の誘導路に両方の基準端が誘導されればシートの斜行を補正することができる。
【0028】
なお、上述した実施形態では誘導路は2系統で説明したが、2系統の構成に限定されるものではなく、シートの種類に応じて誘導路を複数設けても良い。また、誘導路を進行方向に向かってテーパ状に形成すれば、より精度の高いシート幅方向の位置合わせが可能となる。
【0029】
また前述した実施形態では、2つの帯電器200a,200bをシートの搬送方向上流側と下流側にそれぞれ配置した構成を例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、1つの帯電器でシートの複数の箇所に帯電させる構成など、必要に応じて適宜設定すれば良い。また、シートの複数の箇所も、前述した2箇所に限定されるものではなく、必要に応じて適宜設定すれば良い。
【0030】
また前述した実施形態では、画像形成装置としてプリンタを例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば複写機、ファクシミリ装置等の他の画像形成装置や、或いはこれらの機能を組み合わせた複合機等の他の画像形成装置であっても良い。これらの画像形成装置に用いられるシート搬送装置に本発明を適用することにより同様の効果を得ることができる。
【0031】
また前述した実施形態では、画像形成装置に一体に設けたシート搬送装置を例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば画像形成装置に着脱可能に装着されるシート搬送装置であっても良い。このシート給送装置に本発明を適用することにより同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1a】シート搬送装置が有する固定子を説明する平面図
【図1b】シート搬送装置が有する固定子を説明する平面図
【図1c】シート搬送装置が有する固定子を説明する平面図
【図1d】シート搬送装置が有する固定子を説明する平面図
【図2】シート搬送装置が有する固定子と帯電器を説明する斜視図
【図3】シート搬送装置が有する固定子と誘導路を説明する平面図
【図4】シート搬送装置の制御系を示すブロック図
【図5】シート搬送装置の動作の流れを示すフローチャート図
【図6】シート搬送装置を有するタンデム型のカラー画像形成装置の概略構成図
【図7】シートに電荷を帯電させたときの電荷量を示した分布図
【図8】誘導路に対してシートが誘導される原理を示した図
【符号の説明】
【0033】
Va,Vb,Vc …電圧
20 …シート搬送装置
100 …固定子
100a …絶縁体
100b …電極
200a,200b …帯電器
300a,300b,300c …誘導路
400 …電極群
401 …帯電制御手段
402 …帯電手段
403 …シート誘導手段
404 …中央制御手段(シートサイズ設定手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁体の表面に複数の帯状電極をシートの搬送方向に間隔をあけて並設した固定子と、前記固定子の電極に2系統以上の電圧を切り替えて印加する制御手段と、を有し、静電力を利用してシートを搬送するシート搬送装置であって、
シートを搬送方向と直交する幅方向に誘導するためにシートの複数の個所を帯電させる帯電手段と、
シートを幅方向に誘導するための複数の誘導路を有し、複数の誘導路の中から選択的に電圧を印加することで、前記シートの帯電した個所を前記電圧を印加した誘導路に沿わせるシート誘導手段と、
を有することを特徴とするシート搬送装置。
【請求項2】
前記帯電手段はシートの幅方向一方の端部からシートを帯電させることを特徴とする請求項1に記載のシート搬送装置。
【請求項3】
前記シート誘導手段は誘導路に間欠的に電圧を印加することを特徴とする請求項1又は2に記載のシート搬送装置。
【請求項4】
シートサイズを設定するシートサイズ設定手段を有し、前記シート誘導手段はシートサイズに応じた誘導路に電圧を印加することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のシート搬送装置。
【請求項5】
シートに画像を形成する画像形成装置において、静電力を利用してシートを搬送するシート搬送装置として請求項1乃至4のいずれか1項に記載のシート搬送装置を有することを特徴とする画像形成装置。

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図1d】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−1355(P2009−1355A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−161986(P2007−161986)
【出願日】平成19年6月20日(2007.6.20)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】