説明

シート状アイテムの認証のための指紋認識機器の使用方法

本発明は、印刷された書類または製品の認証、特に銀行券、有価書類、または本人確認書類に凹版印刷された識別印の認証のための、生体測定用指紋検出機器の使用方法および対応するデータ処理アルゴリズムを開示するものである。対応する認証装置も開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイテムの自動認識の分野に属する。特に本発明は、通貨、有価書類、および本人確認書類のようなシート状アイテムの、指紋センサを用いた認識および認証に関する。
【背景技術】
【0002】
紙幣、ブランド品、および本人確認書類の自動化された認識および認証に対する関心は、ますます高まってきている。そのような認証は、銀行券、製品ラベル、またはパスポートの個人識別ページのようなシート状アイテムが担う情報の適切な認識に依拠することが多い。
【0003】
本開示の関連において、シート状アイテムとは、第3の次元が第1および第2の次元と比べて小さな、2次元的に広がる物体と理解されたい。シート状物体の例は、紙シート、布地シート、ボール紙、プラスチック箔、クレジットカードなどである。
【0004】
本開示の関連において、保護対象アイテム(security item)とは、有価書類、本人確認書類、カード、ラベル等の、複製および偽造から保護されるべきものである。
【0005】
伝統的な認証の必要性は、主に銀行券の認証の分野において認められていた。銀行券は、人間の使用者による視覚的および触覚的な認証に向いており、これはほぼ通貨だけのために確保されたいくつかの物理的特徴によって行われる。これらの特徴のうちで、凹版印刷された識別印は、おそらく最も卓越したものであろう。
【0006】
凹版印刷(彫り込みによる銅版印刷)は、通貨の製造で用いられる重要な印刷工程である。この工程では、彫り込まれた銅版(またはそのニッケル複製)に高粘度の糊状のインクが付けられ、その表面が再びきれいに拭われる。次に、版の彫り込みに残っているインクが紙幣用紙に高圧で転写される。そのようにして作り込まれた凹版印刷された特徴は独特の感触を有しているが、これは、印刷工程における用紙の圧縮と、インクの厚みおよび部分的に型押しされた用紙の相乗効果により生成された、印刷された特徴の浮き出しとの結果である。
【0007】
この独特の感触は、街の人々が「通貨」であると感じるのに慣れているものである。しかし、人間の使用者にとって通貨上の凹版印刷された識別印を識別することが容易である一方で、この種の印刷された特徴を検出して認証する自動装置を実現することは、過去において困難であった。
【0008】
自動凹版認証に対する最初の取り組みは、遠回りな道をたどった。米国特許第3,599,153号明細書(Lewis、US Banknote Corporation)は、凹版印刷された識別印の磁気読み取りを開示しており、ここでは印刷される凹版インクが磁性顔料を含有しなければならない。同様の取り組みが、米国特許第3,463,907号明細書、米国特許第3,778,598号明細書、および特開2002−269616号公報に開示された。他の印刷技術は十分な量の磁性材料を付着させないので、この方法は凹版印刷に対する選択性がある。しかし、これらの方法は、磁性凹版インクで印刷された書類の1ラインまたは数ラインに沿った走査に限定され、印刷された凹版模様の全体的な2次元画像を提供しない。
【0009】
光学的手法によって自動凹版認証へと直行する取り組みは、Sidlerらによって米国特許第4,594,514号明細書および欧州特許第0088169(B1)号明細書「Copperplate printing detection method and device therefor」(銅版印刷検知方法およびそのための装置)に開示された。ここでは被試験書類が約45度の角度で照らされ、それにより、凹版印刷された浮き出しが特有の影を生成し、そしてその影が光電セルによって読み取られる。凹版以外で印刷された平坦な識別印は、開示された条件では同様の信号を生成しない。同様の取り組みが、米国特許第3,634,012号明細書(Mustert)や、特開平06−171071号明細書、特開平06−301840号明細書、特開2003−248852号明細書、および特開2001−236544号明細書に開示された。これらの方法は、凹版印刷された識別印の非接触検出を考慮に入れており、単純な光電セルの代わりにカメラを用いることで、印刷された模様の2次元画像を得ることが可能である。しかしながら、これらの方法は、小型化にはまず適さないような、複雑でかさばる光学的構成に依存している。
【0010】
凹版認証のもう一つの直接的手法が、Bayhaによって米国特許第3,583,237号明細書(ARDAC/USA)に開示された。機械的な針を用いて書類の表面が探知され、生成された機械的振動が、後者の凹版印刷された識別印の浮き出しの特性として取り込まれる。針の代わりにブラシを用い、音響的検出手段を用いた同様の技術が、Rossによって米国特許第5,974,883号明細書、欧州特許第00880114(B1)号明細書、および米国特許第6,253,603号明細書に開示されており、また特開平9−106466号公報にも開示されている。しかしながら、これらの機械的走査方法は、印刷された凹版模様の2次元画像を提供しない。
【0011】
このように、先行技術において開示された技術は、かさばる光学的構成の関与なしには、書類上の印刷された凹版浮き出し模様の直接的な2次元撮像を提供しない。
【発明の概要】
【0012】
そして、以降に開示する所定の条件が与えられれば、生体の指紋浮き出し模様の取り込みに用いられる小型機器が、銀行券などの凹版印刷された書類の凹版浮き出し模様の画像データの取り込みに最適であることが分かったことは驚きであった。また、書類やアイテムのさまざまな他の特徴の画像データが、この種の機器の働きによって取得され得ることも分かった。
【0013】
指紋読取技術は、生体識別の目的で開発されてきており、現在は、多数の異なる供給業者から入手することができる。対応するセンサチップは、例えば、ATMEL、カシオ、富士通、AuthenTec、ソニー、STマイクロエレクトロニクス、インフィニオン、フィリップス、日立、NEC、Ethenticaなど、大手半導体製造業者の多くによって製造されている。
【0014】
そうしたセンサにはいくつかの異なる物理的原理が適用され、それぞれが人間の指の微小な溝に関する情報を与えることができる。
【0015】
a)ガラス板における光学式漏れ(減衰)全反射(米国特許第4,805,223号明細書)は、2次元CMOSカメラと共に、ガラス板の上に置かれた対象物(例えば指)の触れている部分の2次元画像を生じる。この種のセンサは、1次元走査型センサとしても入手可能であり、その場合は、対象物(指)が検知領域上を滑らされ(スイープされ)なければならない。
【0016】
b)薄膜トランジスタ(TFT)ディスプレイは、光センサとして利用可能であり、ディスプレイの上ガラスに当てられた指から指紋を取り出すことができる(米国特許第7,023,503号明細書、米国特許第7,009,663号明細書、米国特許第5,325,442号明細書、国際公開第2004/036484(A1)号、Jeong Hyun Kimらによる「Fingerprint Scanner Using a-Si: H TFT-array」(a−Si:H TFTアレイを用いた指紋スキャナ)、SID '00 Digest、May 14、2000)。
【0017】
c)展開された微小な蓄電板のアレイを有する超小型電子式静電容量センサは、対象物のごく近傍を検知するために用いられ得るものであり、従って、触れている指の溝と丘、すなわち指紋の位置を精密に特定するために用いられ得る(米国特許第4,353,056号明細書、米国特許第5,952,588号明細書、米国特許第6,643,389号明細書)。
【0018】
d)微小構造の電極アレイが付随した導電膜センサもまた、指紋を検知するために用いられ得る(米国特許第4,577,345号明細書)。
【0019】
e)触覚型微小電気機械装置(MEMS)は、表面の浮き出しを検知できる(圧力センサ、欧州特許第769754(B1)号明細書、米国特許第7,013,013号明細書、米国特許第5,844,287号明細書、米国特許第4,394,773号明細書)。
【0020】
f)熱(マイクロボロメータ型、焦電型、または光電型)センサは、生体からの指紋の取り出しのための、より新しい選択肢である(米国特許第6,459,804号明細書、米国特許第6,061,464号明細書、米国特許出願公開第2004/0208345(A1)号明細書)。
【0021】
g)超音波センサもまた、指紋情報を取り出すために用いられてきた(米国特許第4,385,831号明細書)。
【0022】
本発明によれば、所定の条件が与えられれば、当技術分野で知られ、用いられているこれらの技術のうちのいずれの指紋読取機器であっても、シート状アイテムの認証に用いることができる。ここで、シート状アイテムは、紙、プラスチック、ボール紙、布地などであってよい。
【0023】
さらに、指紋センサは、1次元の走査アレイ型か、または2次元の静止アレイセンサ型であってよい。センサによって取り出された画像データを用いて、オリジナルのアイテムに対応するあらかじめ記録されたデータと比較することにより、アイテムを認証することができる。本開示の関連において、「画像データ」という用語は、検知された画像に応じてセンサにより供給される任意のデジタル出力を含む。
【0024】
ここで不可欠なのは、センサが、シート状アイテムの物理的特性の局所的な変化を区別できるということである。認証は、アイテム中またはアイテム上に生成された少なくとも1つの物理的特性に基づくことができる。
【0025】
そのような特性は、製造工程においてアイテムに与えられた固有特性から導出されてよい。あるいは、そのような特性は、シート状アイテムの表面または裏面の少なくとも一方に含まれる印刷された特徴、好ましくは凹版印刷された特徴として導入されてよい。
【0026】
ある種のセンサ、特に熱センサは、主に印刷された色に対して感受性があるのではなく、シート状アイテムの浮き出しの高い部分と低い部分とをうまく区別する。従って、通貨などの書類の、凹版印刷された識別印の認証に特に適している。つまり、アイテムの、センサ表面にわずかに近い部分と、アイテムの、センサ表面からわずかに離れた他の部分とを区別することができる。指紋における高さの変化は凹版印刷された識別印における高さの変化と同じくらいなので、指紋センサは、凹版印刷された書類の浮き出しの画像データを取得するのに実に適している。
【0027】
本発明の関連において特に好ましいのは、マイクロボロメータ型、光電型、または焦電型センサなどの熱センサである。
【0028】
ここで、センサは、静止型または走査型のいずれかであってよい。前者の場合、試料がセンサの上または中に置かれるか、あるいはセンサが試料上に置かれる。後者の場合、試料が手動または機械でセンサ領域上を移動させられるか、あるいはセンサが手動または機械で試料の関心領域上を移動させられる。
【0029】
指紋センサは、一般に入手可能な機器である。実際、生体測定用指紋走査機器は、あらゆる種類のアクセス管理およびユーザ識別用に普及してきている。これは本用途にとって有利である。すなわち、この種のすでに入手可能となっている機器を新たに銀行券やパスポート等の真正性を試験するために用いることは、上記のように実装が容易であり、必要なのはプログラムパッチによって実装される対応する画像処理アルゴリズムだけである、という点において有利である。
【0030】
[詳細な説明]
本発明者らは、認証の目的で、異なる種類の指紋センサを用いて、銀行券などの凹版印刷された書類から凹版浮き出し印刷された識別印の画像データを取得することに成功している。
【0031】
さらに概要を述べると、本発明者らは、例えば織材または不織材などの任意のシート状アイテムが上記のような方法で認証され得ることを見いだしている。認証特徴、すなわちセンサによって検出される特徴は、浮き出し模様、織網模様、透かし、または濃度模様などの、測定可能な特性をもつ模様であってよい。
【0032】
本発明によれば、指紋センサは、1次元アレイセンサまたは2次元アレイセンサのいずれかであってよい。
【0033】
指紋センサは、光学式漏れ全反射センサと、薄膜トランジスタ光センサと、超小型電子式静電容量センサと、導電膜センサと、触覚型微小電気機械センサ(micro−electromechanical sensor、MEMS)と、超音波センサと、熱センサとからなる群から選択され得るものであり、熱センサでは、焦電センサと、光電センサと、マイクロボロメータ型センサとが特に好ましい。
【0034】
熱型指紋センサは、半導体回路のアレイに基づくものであり、書類の高い領域と低い領域の間のわずかな温度差を明らかにできる。熱型指紋センサは、印刷された凹版浮き出し模様の取得に特に適していることが分かった。
【0035】
光電センサの場合は、熱赤外放射の量子エネルギーが、適切な半導体材料の内部の光効果を介して直接利用される。量子エネルギーは比較的小さいので、これらの検出器は、動作中は極低温度にまで冷却して、環境からの放射による乱れを低減しなければならない。
【0036】
マイクロボロメータ型センサは、入射してくる赤外(および/または他の)放射の、蓄積された熱エネルギーを単純に検出し、それに対応する電圧信号を画素ごとに生成する。この電圧は、参照温度に対する画素の温度を表し、全体では半導体チップの温度と見なされる。ここでは、電圧は、センサの構造に応じて熱電効果または熱抵抗効果により生じるものであってよい。マイクロボロメータ型センサは、原理的には静的デバイスである。
【0037】
焦電センサもまた、入射してくる赤外(および他の)放射の、蓄積された熱エネルギーを検出する。ただし、この場合の放射は、分極したポリフッ化ビニリデンの焦電性の箔によってまとめて集められ、温度がわずかに変化するたびに動的に電荷が生成される。一方、焦電性の箔は電界効果トランジスタのアレイ上に配置され、焦電材により生じた電荷によって電界効果トランジスタのゲートにトリガがかかる。焦電センサは温度変化を検知することができるので、たいていは、走査型の検出を目的とした動的デバイスである。
【0038】
シート状アイテムを認証するには、対象アイテムの各部分がセンサの指紋検出領域と接触させられるか、または指紋センサがアイテムの各部分と接触させられ、それにより、指紋センサに接続されたコンピュータまたはプロセッサによって、模様の画像データが取得される。その後、取り出されたデータがアイテムの認証に用いられる。
【0039】
焦電センサの場合、対象アイテムの各部分が指紋検出領域上を滑らされるか、または指紋センサがアイテムの各部分上を滑らされる。
【0040】
焦電センサは、温度の時間変動を明らかにするので、特に走査型の検出に適している。実際、この種のセンサは、単に静的な温度差には反応せず、模様を取得するためには、アイテムがセンサアレイ上を動的に滑らされなければならない。
【0041】
焦電センサは、発熱体を備え、発熱体の温度は周囲温度よりもわずかに高く保持されており、また発熱体は、走査方向上でセンサの検知領域に先行するように配置される。画像を取得するには、アイテムは、適切な速度で発熱体およびそれに続くセンサ領域上を滑らされなければならない。
【0042】
マイクロボロメータ型または光電アレイ型のような他の種類の熱センサは、静的な温度または温度差に対して感度を有している。それらのセンサもまた、例えば、滑らせる必要のないカメラ状の実施の形態における2次元センサアレイとして、本発明を実施するために用いられ得る。
【0043】
熱センサによって取得された画像、すなわち画像データの元となるものは、熱的な性質をもっている。それは、例えば書類などのアイテムが発熱体に短時間さらされた後にアイテムの表面に現われるわずかな温度差を画像が反映する、という点においてである。
【0044】
試料表面による熱の取り込みは試料の局所的な形状的特徴に注目に値するほど依存するので、熱画像は試料の局所的な形状的特徴を反映することになる。
【0045】
局所的な形状的特徴は、凹版印刷によって生成された表面浮き出しのような浮き出しや、網模様、濃度変化、熱伝導率の変化などを含んでよい。それらすべてが熱画像を生じさせ得る。さらに、たとえ裏面(すなわち、書類の、走査される面とは反対側の面)に存在する浮き出しであっても上記のような熱画像で明らかにされる、ということが分かっている。従って、熱画像により、特に、表裏の凹版印刷を簡単な片面走査で明らかにできる。
【0046】
アイテムまたは書類を識別または認証するため、真正の模様を持つオリジナルのアイテムの特徴的な部分に対応するデータを、認証装置のメモリまたは認証装置に接続された遠隔サーバに基準としてあらかじめ記録することができ、対象アイテムから取得された画像データを、適切なアルゴリズムおよび真正性判断基準を用いて、格納された情報と比較することができる。この比較の結果として、対象のアイテムまたは書類がオリジナルの基準と合致するか否かが示される。
【0047】
熱画像は、インクなしの凹版印刷で得られるような型押しも明らかにする。さらに、1枚の紙の上に置かれた1枚の紙に筆記することによる圧力の効果で先の紙に生成されるような、あるいは置かれるのが数枚の紙であっても生成されるような「圧痕筆記」を、熱画像が明らかにすることが分かっている。こうした「圧痕筆記」は、特に法科学の分野における書類検査に有用である。
【0048】
静電容量センサは、代替となる実施の形態において用いられ得る。ただし、この種のデバイスは、金属性の物体または金属被覆された物体(金属性の凹版印刷、金属化紙、生地等)に対してのみ感度を有することが分かっている。金属性の印刷または金属化紙は、導電性であり、センサの蓄電器の充電/放電を可能にする。さらに、静電容量センサは、静的な型であってもよいし、高周波型であってもよい。静的センサは、遍在する環境の電界に依存し、高周波センサは、意図的に加えられる所定の周波数の交流電界に依存する。
【0049】
他のセンサの種類、特に超音波センサは注目に値するが、それらも本発明の他の実施の形態において用いられてよい。しかしながら、好ましいのは熱センサである。熱センサは、銀行券のような、凹版で跡が付くように押された書類の、凹版印刷/型押しに対して注目に値するほど敏感である。印刷されていない紙の場合でも、このセンサは紙の繊維のきめの画像も明らかにすることができる。
【0050】
従って、熱センサは紙の特性を検出することができ、紙の特性が、真正な紙の固有の特徴として取得され得る。この特徴は、製造工程において、特に紙パルプの脱水に用いられるスクリーンによって、紙に与えられた特性に由来してよい。そのようなスクリーンは、典型的には、規則的な間隔と特有の模様を有する金網として作られる。
【0051】
紙の特徴は、製紙工場において、透かしの生成(紙厚の調節、紙の密度の調節)または紙の意図的な型押しのような、他の作業を通じて導入されてもよい。さらに、色のないワニスで跡が付くように紙を押して、透かしの模倣を生成するようにしてもよい。
【0052】
こうして、真正な紙から取り出された熱画像はさまざまな種類の特徴を含み得るものであり、それらによって、当業者は紙の種類を区別することができる。くしゃくしゃにされたり擦れたりすることによって特定の1枚の紙が損傷を受けることはあったとしても、こうした紙の特徴は、時間が経過しても安定しており、存在し続けるものである。
【0053】
所定の模様または紙の特徴の検出を、折り目が妨げる可能性はある。しかし、そのような乱れは、取り出される情報と同じ特性を有していない。つまり、そのような乱れは、適切な画像処理アルゴリズムによって除去され得るということである。また、紙が持つ印刷された特徴から独立した紙の特徴を得るため、書類(例えば銀行券)上の最適な場所が用いられてよい。
【0054】
熱センサは、熱放射に違いのある表面性状も取り出す。従って、周囲よりも低いかまたは高い熱放射をもつ黒または色付きのインクでなされた平坦な印刷も、ある程度まで明らかにする。
【0055】
表裏に凹版印刷された識別印を持つ書類を熱型の指紋検出器で片面走査すると、1回の片面走査で両面(表および裏)の重なった浮き出し画像を取り出すことができる。これにより、例えば表裏に凹版印刷された銀行券の認証を、簡単な片面走査によって行うことができる。凹版以外の印刷技術による模造銀行券は、指紋検出器による1回の走査では表裏の浮き出しの重ね合わせを生成できないため、真正ではないと容易に認識される。
【0056】
さらなる実施の形態では、指紋検出器を用いて、織材、特に布地を認証する。布地は、独特な織網模様によって内部から印を付けられることは注目に値する。そのような模様は、数値制御の織機で容易に生成され得る。そして、印の付けられた布地は、例えばブランド品の布製品のラベルとして用いることができる。
【0057】
一般に、走査型指紋センサの画像処理アルゴリズムは、画像取得部分と画像再構築部分とを含む。画像取得部分は、指紋の一部について、一連の画像フレームを適度な解像度で取得する。画像再構築部分は、取得されたフレームを組み立てて完全な指紋の画像を構成する。この画像データは、その後、さらなる処理に利用することができる。
【0058】
本発明のいくつかの実施の形態において用いられる焦電型走査センサは、例えば、それぞれが8×280画素をもつ一連のフレームを4ビットの強度分解能で出力する。連続するフレームは、画像再構築アルゴリズムにより、互いの部分的な重複が考慮されつつ組み立てられて、完全な指紋の画像が構成される。再構築された画像データは、その後、シート状アイテムを識別するために用いられ得る。
【0059】
第1の実施の形態によれば、例えば焦電センサ、マイクロボロメータ型センサ、または光電センサといった熱センサが、印刷された書類またはラベルのようなシート状の保護対象アイテム(security item)の認証に用いられる。ここでは、アイテムは、画像データが取得されるようにセンサ領域と接触させられ、画像データ、または少なくともその一部、またはそれらから導出されたデータは、オリジナルのアイテムに対応するあらかじめ記録されたデータと比較される。そして、適切なアルゴリズムおよび所定の真正性判断基準を用いて、真正性結果が導出される。
【0060】
代替となる好ましい実施の形態によれば、画像データは、まず、変換および/またはフィルタの機能を含み得る信号処理アルゴリズムで処理され、次にあらかじめ記録されたデータと比較される。この信号処理は、特に、背景ノイズを除去するためのハイパスフィルタ処理、および/または折り目およびかき跡を除去するためのローパスフィルタ処理を含んでよい。
【0061】
信号処理は、数学的な変換、特に積分変換(例えばフーリエ変換、ラプラス変換、メリン変換、ハンケル変換、アーベル変換、ヒルベルト変換、ハートレー変換、ラドン変換、ウェーブレット変換、スターリング変換、アダマール変換、またはZ変換)、好ましくはフーリエ変換をさらに含んでよい。
【0062】
フーリエ変換の結果は、画像取得の際に起こり得る横方向の移動から独立している。この独立性により、所定の特徴または模様を識別することが容易になる。フーリエ変換の利用は、頑健性の理由からも推奨される。フーリエ変換されたデータセットの各点は元のデータセットの各点から注目に値するほど独立しているので、部分的な破壊によって起こり得るような元のデータの一部分の損失は、背景ノイズを増加させること以外には、フーリエ変換されたデータに影響を及ぼさない。従って、フーリエ変換された特徴は、汚れおよびしわに対して非常に耐性がある。
【0063】
画像データの変換は、2次元変換として行われてもよいし、好ましくは、変換されたデータを動径分布へ換算して、向き(走査方向)とは無関係な1次元表現として行われてもよい。回転に対するこの不変性、すなわち、取り出された情報の、選択された走査方向からの不変性により、実際の応用においてアイテムの迅速な識別が可能になる。
【0064】
さらに別の実施の形態では、2次元フーリエ変換を用いて、シート状アイテムに意図的に埋め込まれた特徴を検出することもできる。この目的のために、例えば中央銀行のロゴを構成する、いくつかの別個の「特徴点」が2次元フーリエ図において定義され、それに対応する線の間隔および方向が計算されて、例えば凹版画像の異なる部分における別個の領域として、印刷技術により具体化される。すると、画像データのフーリエ変換のみが、隠された特徴を明らかにすることになる。当業者に明白なように、そのような特徴は他の印刷処理(輪郭の印刷など)によっても実現され得るものであり、さらに、例えば透かしとして、シート状アイテムである紙または基材に埋め込まれてもよい。
【0065】
さらに一般化した方法では、特徴画像全体が2次元フーリエ図において定義されて、実空間において対応する模様が逆フーリエ変換によって計算され得るようにしてもよい。実数の値のみを有する変換模様を用意することにより、模様を、例えば透かしとして、シート状アイテムである紙または基材に埋め込むことができ、そうでなければ、シート状アイテム上の印刷された識別印として実施することができる。模様に対応する特徴画像は、画像データのフーリエ変換によってのみ明らかにされる。そのような特徴は、紙の損傷(しわ、汚れ)に対して高い耐性がある。
【0066】
当業者に明白なように、埋め込まれる特徴は、さらに暗号化されて、適切な解読キーによってのみアクセスされ得るようにしてもよい。
【0067】
あるいは、画像データにおいて、印刷された凹版のストローク模様の主要な方向を好適なアルゴリズムを用いて求め、刻み跡が類似の向きになっている画像領域の境界を決定して、その画像領域を、オリジナルから取得された、対応するあらかじめ記録されたデータと比較することも可能である。この比較は、認証の目的で、例えば、印刷された模様における特徴的形状または所定の識別印を識別するために行われてよい。
【0068】
また、シート状アイテムを認証する方法であって、a)アイテムを上記に開示されたように指紋センサと接触させるステップと、b)アイテム中またはアイテム上に備わる少なくとも1つの特性を表す画像データを指紋センサから取得するステップと、c)適切なアルゴリズムおよび真正性判断基準を用いて、画像データをオリジナルのアイテムに対応する参照データと比較し、これにより真正性結果を導出するステップとを含む方法も開示される。画像データの取得は、1次元アレイの指紋センサを用いて走査モードで行われてもよいし、2次元アレイの指紋センサを用いて静止モードで行われてもよい。
【0069】
有価書類またはラベルのような、保護対象アイテムを認証するさらなる方法は、a)焦電型指紋センサのセンサ領域上にアイテムを滑らせ、またはこの逆を行うステップと、b)アイテムの画像データを取得するステップと、c)画像データまたは画像データから導出されたデータを、オリジナルのアイテムに対応するあらかじめ記録されたデータと比較するステップとを特徴とする。画像データは、アイテム上の印刷された特徴を、好ましくは凹版印刷された特徴を表してよい。
【0070】
本発明に係るさらなる方法では、画像データは、アイテムの一方の第1の面から取得され、取得された画像データは、アイテムの第1および第2の面の両方に存在する情報を表す。本発明によれば、画像データは、あらかじめ記録されたデータとの比較の前に、変換および/またはフィルタの機能を含む信号処理アルゴリズムで処理されてよい。上記変換は、2次元変換、好ましくはフーリエ変換であってよく、2次元変換は、迅速な認証を容易にするため、1次元表現に換算されることが好ましい。
【0071】
凹版印刷された書類のような、シート状アイテムを認証するためのある特定の方法では、アイテムの表面から画像データを取得する第1の熱センサと、アイテムの裏面から画像データを取得する第2の熱センサとの組み合わせが用いられる。このようにして、例えば凹版印刷された識別印の真正性を、アイテムの1回の走査と、それに続く取り出された各画像データの関係付けとによって、確認し、または無効とすることができる。凹版以外の印刷技術は、凹版印刷の、この特徴的な、表裏で視認できる型押し効果を再生することができないことは注目に値する。
【0072】
本発明のさらなる実施の形態では、書類認証装置は、好ましくは熱センサである少なくとも1つの指紋センサと、少なくとも1つの光学センサとの組み合わせと、両センサからの取得画像を処理し関係付けて真正性結果を導出する処理手段とを備える。
【0073】
指紋センサは、一方で、例えば凹版印刷工程によって書類に生成された、隆線および谷の画像を取り込む。他方、光学センサは、組みひも飾りまたは人物像のような、書類の色付きの印刷されたインクによる特徴の画像を取り込む。こうして、凹版印刷工程によって生成された書類は、一度は型押しされた稜線および谷として、一度は色付きのインクによる特徴として、両センサにおいて同じ画像を生成することになる。指紋センサおよび光学センサの両方は、例えば、型押しの画像が例えば熱センサにより書類の裏面において取り込まれ、色付きのインクによる特徴が例えば光学センサにより書類の前面において取り込まれるのであれば、書類の同じ部分を同時に取り込むように配置されてよい。
【0074】
両方の種類のセンサによって取得された画像の処理および関係付けは処理手段によって行われ、それにより、認証装置に挿入された例えば凹版印刷された書類の真正性の判定が可能になる。この実施の形態に係る装置が、凹版印刷された書類、特に銀行券について頑健な認証を提供することは注目に値するが、これは、印刷された特徴に対応する型押しを示さない凹版模造品を、この装置によって区別できるからである。
【0075】
光学センサは、例えばCCD型またはCMOS型のエリアカメラまたはライン走査カメラとして実施され得る画像取り込み部を、例えばレンズまたはフレネルレンズとして実施され得る画像形成システムと、随意に、例えばプリズム、鏡、または光ファイバとして実施され得る画像方向変更システムと、随意に、例えばハイパスフィルタ、ローパスフィルタ、バンドパスフィルタ、ノッチフィルタ、偏光フィルタ、もしくはこれらの組み合わせ、または電気光学的なフィルタとして実施され得るフィルタシステムと、紫外線(200〜400nm)、可視光線(400〜700nm)、または赤外線(700〜2500nm)の波長領域で発光する、例えば少なくとも1つの単色または多色の発光ダイオード(LED)で実施され得る照明システムと共に備える。照明システムは、白色LEDが特に好ましい。
【0076】
書類は、好ましくは、走査モードで認証される。すなわち、画像の各ラインが、光学センサおよび指紋センサそれぞれにより同時に取り出される。両方の種類のセンサは、光学センサおよび指紋センサによってそれぞれ取得される両データストリームの精密な関係付けが可能になるように、互いに対して正確に位置決めされる。こうして、凹版印刷された書類の表面の印刷された色付き模様を明らかにする、光学センサからの取得画像が、同じ書類の裏面の隆線および谷の浮き出しを明らかにする、指紋センサからの取得画像と対応することになる。無関係に型押しされた紙の平版印刷物のような凹版模造品は、それぞれ表面および裏面の光学画像と浮き出し画像との対応関係を示すことがない。
【0077】
書類認証装置の内部では、適切な保持搬送手段を用いて、認証対象の書類が案内路の中を前方へと移動させられるが、その際、書類は、光学センサの焦平面に保持されるとともに指紋センサとの接触が保たれ、適切な速度で装置を通り抜けるようにされる。書類は手動で動かされてよく、その場合、好ましくはエンコーダが設けられて実際の移動速度が取り出される。あるいは、書類は適切な電気機械的手段の働きにより動かされてもよい。
【0078】
当業者に明白なように、ここに開示された技術は、銀行券、有価書類、本人確認書類などに用いられ得る。
【0079】
さらに、指紋センサと、電子処理装置と、処理装置に実装されたデータ処理アルゴリズムとを備える、シート状アイテムを認証するシステムが開示される。
【0080】
また、本発明は、銀行券のような有価書類の認証を目的とする、現金自動預払機(ATM)または自動販売機(AVM)のような、現金自動処理機の一部としての指紋センサの使用方法も開示する。
【0081】
次に、図面および例示的な実施の形態を用いて、本発明をさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】書類上の凹版印刷された識別印の認証のための、焦電型スイープ式指紋センサの使用方法を模式的に示す図である。
【図2】ATMEL社製の焦電型指紋センサAT77C104B-EK3の写真を示す図である。
【図3a】流通しているものから回収された50スイスフランのスイス銀行券の一部を示す図である。
【図3b】焦電センサによって取得された、紙幣上の通貨単位名の印刷に対応する凹版印刷された識別印の画像データの一部を示す図である。
【図4a】流通しているものから回収された20ユーロ銀行券の一部を示す図である。
【図4b】アーチの継ぎ目からの、微細な線の凹版模様の詳細の画像データを示す図である。
【図4c】ISARDの凹版線模様の詳細の画像データを示す図である。
【図5a】流通しているものから回収された20米ドル銀行券の一部を示す図である。
【図5b】図示の領域において銀行券の裏面から取得された、凹版印刷の画像データを示す図である。
【図5c】デジタルフィルタ処理で折り目、かき跡、およびノイズを除去した後の、同じ画像データを示す図である。
【図5d】アルゴリズムによって識別された、凹版ストロークの主要な方向の境界が決定された領域を示す図である。
【図5e】図5bで取得された画像データの2次元フーリエ変換を示す図である。
【図5f】図5eの2次元フーリエ変換の1次元換算を示す図である。
【図6a】布地ラベルを示す図である。
【図6b】図示の領域から取得された、布地ラベルの画像データを示す図である。
【図6c】デジタルフィルタ処理で折り目、かき跡、およびノイズを除去した後の、同じ画像データを示す図である。
【図6d】同じ画像データの、アルゴリズムによって識別された、主要な方向の境界が決定された領域を示す図である。
【図6e】図6bで取得された画像データの2次元フーリエ変換を示す図である。
【図6f】図6eの2次元フーリエ変換の1次元換算を示す図である。
【図7a】浮き出しおよび光学画像データの同時取り込みのための書類認証装置の例を示す図であり、閉じた状態の認証装置であり、書類(D)が挿入され、走査方向が示されている。
【図7b】は、開いた状態の書類認証装置であり、装置の上部および底部の両方のそれぞれが光学センサ(701)と熱センサ(708)とを含んでおり、これらのセンサは、書類の上部および底部の両方の、光学画像と浮き出し画像とが組み合わさったものを取り込むように、互いに位置合わせされている。
【図7c】は、閉じた状態の書類認証装置を通る模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0083】
図1に係る第1の例示的な実施の形態では、熱型指紋センサ(ATMEL社のAT77C104B-EK3、図2)を用いて、新しい銀行券および使用された銀行券の、凹版印刷された識別印の画像データが取得された。それぞれの銀行券について、凹版印刷された識別印を与える領域が、適切な速度(約5cm/秒)でセンサ上を滑らされる。センサは、凹版浮き出し印刷の特徴である隆線および谷の画像データを返した(図3b、図4b、図4c、図5b)。
【0084】
図3aは、流通しているものから回収された50スイスフランのスイス銀行券の一部を示し、この部分がATMEL社の熱センサの指紋検出領域上を滑らされた。図3bは、図3aに示された位置特定枠から取得された熱画像データ、すなわち通貨単位名「Funfzig Franken」に対応する凹版印刷された識別印を示す。凹版による通過単位名の印刷の文字が、流通銀行券の使用によりできた視認可能な紙のしわの跡と共に、明瞭に識別されている。
【0085】
同様に、図4は、20ユーロ銀行券の一部を示しており、2つの枠が銀行券上に示されている。図4bは、アーチの継ぎ目に対応する凹版の詳細の熱画像データを示し、図4cは、ISARDの凹版線模様から取得された熱画像データを示す。
【0086】
銀行券を識別(認証)するために、オリジナルの凹版印刷された識別印の特性に対応する参照データが認証装置のメモリにあらかじめ記録され、対象の書類を走査して得られた画像データが、適切なアルゴリズムを用いて、あらかじめ記録されたデータと比較された。比較の結果を用い、所定の真正性判断基準に従って、対象の書類がオリジナルの基準と合致するか否かが示された。
【0087】
図5および図6は様々な信号処理法の効果を示しており、これらの信号処理法は、所定の特性の正確性および/または視認性を高めたり、特徴的な認証特徴を導出したりするために、取得された生の熱画像データに適用され得るものである。図5aは、流通しているものから回収された20米ドル紙幣の一部を示しており、この紙幣は、表面に、凹版印刷された人物像(アンドリュー・ジャクソン)を有する。図6aは、布地ラベルを示す。図5b、図6bは、それぞれ図5a、図6aに示された領域から取得された熱画像データを示す。20米ドル紙幣の画像データは、ここでは、凹版印刷された人物像の裏面から取得された。この浮き出し印刷は、銀行券の両面からアクセス可能である。熱センサが、刻印された紙の1回の片面走査によって、表裏に凹版印刷された識別印を検出できることは注目に値する。このような、簡単な片面走査による両面凹版画像データの検出は、独特なものである。
【0088】
図5c、図6cは、同じ画像データにデジタル信号処理演算が施された後の状態を示す。デジタル信号処理として注目に値するのは、折り目、かき跡、および高周波ノイズ成分をそれぞれ除去するためのローパスフィルタ処理およびハイパスフィルタ処理である。
【0089】
図5d、6dは、以下のアルゴリズムを適用することにより、それぞれ図5c、図6cから取得された方位図を示す。
【0090】
画像の各点について、一列に並ぶn個の隣接画素の画素値の合計を、いくつかの選択された方向に沿って「一回り」計算し、得られた最大値に基づいて、その点における列のうちで最良となる向きを決定する。
【0091】
こうして得られた方位図に基づいて、刻み跡が類似の向きになっている画像の領域の境界を決定し、オリジナルから取得したあらかじめ記録されたデータと比較することができる。この比較の結果、あらかじめ設定された真正性判断基準に従って、対象の書類がオリジナルの基準と合致するか否かが示される。
【0092】
方位図は、凹版印刷が、所定の領域においておよそ同じ方向を有するほぼ等間隔の線ストロークからなる場合に、特に有用である。図5dは、そのような凹版印刷された領域の識別を示すものである。布地の場合(図6d)は、織材の糸が交差しているため、明瞭に定まったストローク方向が得られない。
【0093】
本発明のさらなる実施の形態によれば、取得された画像データに対してスペクトルデータ処理が施される。好ましいアルゴリズムはフーリエ変換である。フーリエ変換は、データを空間から周波数領域へと取り出し、走査作業の際に起こり得る移動の影響を除去できる。凹版印刷は、等間隔で延びることの多い刻み線を含むので、スペクトル表現によって、走査された領域に生じるこれらの特有の周波数を区別し強調することができる。
【0094】
図5e、図6eは、それぞれ図5b、図6bの熱画像データの2次元フーリエ変換を示す。このような変換は、クーリーとチューキーの高速フーリエ変換アルゴリズム(FFT)を用いて効率的に計算できる。2次元FFTは、特性周波数と、画像面におけるそれらの相対的な方向とを表す。図5e、図6eに見える暗い領域は、それぞれ図5b、図6bで与えられた元の画像データの主要な周波数成分の方向および重みを示す。
【0095】
対象アイテムの熱画像データの2次元FFTの特性を用い、保証されたオリジナルから取得したあらかじめ記録されたデータ(参照データ)と比較することにより、アイテムを識別することができる。
【0096】
元の画像の回転(すなわち、参照データを生成するために用いられた走査方向とは異なる方向で書類を走査することによる回転)があると、2次元FFT図が相応に回転することになる。移動が起こる可能性はないので、比較アルゴリズムは、そのような起こり得る回転に容易に対応することができる。例えば、当業者に知られているように、回転角度を相関パラメータとして用いて、参照データおよび試料データの両方の数学的関係付けを行うことによって、回転に対応してよい。正規化された相関値が所定の回転角度で単位元(unity)に近づけば、対象アイテムの真正性が確認される。あるいは、対象アイテムが参照データと合致するか否かを、試行錯誤法を用いて探り出すこともできる。
【0097】
あるいはまた、角度依存性を排除するため、2次元フーリエ変換図を1次元表現に換算することもできる。これは、以下の形式の簡単なアルゴリズムで実現され得る。ここで、f(x,y)は、(−xmax,−ymax)から(xmax,ymax)にわたる2次元フーリエ変換図を表し、I(r)は、0からrmaxにわたる1次元表現を表す。

For r:= 0 to rmax do I[r]:=0;
For x:= -xmax to xmax do begin
For y:= -ymax to ymax do begin
r:= integer(sqrt(x*x+y*y));
I[r]:= I[r] + f[x,y];
(* threshold option *)
If f[x,y] > threshold then I[r]:=I[r]+f(x,y);
End (* for y *);
End (* for x *).
(* scaling option *)
For r:=1 to rmax do I[r]:=I[r]/r

【0098】
こうして得られたフーリエ図の1次元表現は、凹版などの模様の、走査方向および移動とは無関係な特徴であり、これを用いて、対象アイテムの特性を対応する参照データと直接比較することができる。
【0099】
図7は、書類で凹版浮き出しと印刷された色付きの特徴とを同時に認証するための、本発明のさらなる実施の形態を示す。少なくとも1つの光学センサと、少なくとも1つの熱センサとが、凹版印刷された書類の表面および裏面を同時に走査するように、互いに位置合わせされている。
【0100】
図7aを参照すると、書類認証装置に書類が挿入され、図示の方向に沿って横に走査される。図7bに示すように、認証装置は、上部および底部の両方に、それぞれ光学センサ(701)と、熱センサ(708)とを備え、これらのセンサは、書類の上部および底部の両方の、光学画像と浮き出し画像とが組み合わさったものを取り込むように、互いに位置合わせされている。また、装置は、書類を前方へと移動させる搬送手段と、書類を光学センサの焦平面に保持するとともに熱センサと接触させ続ける案内路とをさらに備える。
【0101】
図7cは、書類認証装置を通る模式的な断面図を示す。光学センサと熱センサとの組み合わせが2組存在し、2種類のセンサの1つずつからなる2つのセンサは、それぞれ向かい合わせに位置合わせされている。すなわち、底部左方の熱センサ(708)が光学センサ(701)の前に位置合わせされ、光学センサ(701)は、45度のプリズム(705)として実施される画像方向変更システムと、集束レンズ(704)として実施される画像形成システムと、赤外線カットフィルタ(703)として実施されるフィルタシステムと、ライン走査型CCDカメラ(702)として実施される画像取り込み部と、2つの白色LED(706)として実施される照明システムとを備える。書類をセンサの近くに保つ保持搬送手段(707、707’)も設けられる。
【0102】
書類を反対側から同時に走査するために、光学センサと熱センサとの第2の組み合わせ(701’、702’、703’、704’、705’、706’、708’)が設けられる。これは、書類が凹版の跡を両面に含む場合、特に望ましい。
【0103】
2つのセンサを向かい合わせに配置することにより、取得される画像の関係付けが容易になる。2組の光学センサと熱センサとによって得られた取得画像データは、処理ユニットが処理する。処理ユニットに実装された対応アルゴリズムによって、画像を比較すること、すなわち、光学センサ(701、701’)によって明らかにされた凹版印刷が熱センサ(708、708’)によって明らかにされた型押しによる浮き出しと合致するかどうかを識別することができる。
【0104】
書類認証装置内における書類の進行を容易にするため、人間工学的な書類案内路が用いられる。保持搬送手段(707)を用いて、熱センサおよび光学センサによる正確な画像取得が確実に行われ、さらに、これらの手段によって、書類を案内路に正確に位置決めされるように維持できる。エンコーダを設けて、案内路における書類の実際の移動速度を処理手段が取り出せるようにしてもよい。
【0105】
当業者に明白なように、例えば紙の特徴のような、製造工程において紙またはシート状アイテムの基材に生成または導入された、印刷された識別印以外の特性を識別することにも、本発明の開示された技術を用いることができる。そのような紙の特徴は、製造工程において、紙パルプの脱水に用いられるスクリーンにより、および/または製紙工場で実施される他の工程により、紙に与えられた固有特性に由来してよい。
【0106】
印刷された識別印と共に紙の特徴を導入し検出することが可能であることによって、銀行券または他の有価書類もしくは本人確認書類の素性だけでなく、種類の機械検出にとっても新たな可能性がもたらされる。例えば、現金自動預払機(ATM)が単一の一般的な種類の銀行券だけを受け入れることになっている場合、ATMに組み込まれた熱型指紋センサが、対応する紙の特徴に基づいて容易にそれを検出できるであろう。
【0107】
本発明のさらなる実施の形態では、熱型指紋センサが、銀行券の識別のために現金自動預払機(ATM)に組み込まれる。
【0108】
一般に、銀行券の追跡可能性を考慮に入れたそのような識別は、2通りの方法で行われ得る。一方は、例えば銀行券の通過単位名の識別のような、グループレベルでの識別であり、もう一方は、アイテムレベルでの識別、すなわち、個別の銀行券の真正性および一意性の明確化である。
【0109】
銀行券などのシート状アイテムの活版印刷された通し番号は、熱型の指紋検出器の働きで取得された画像データからも読み取れる(復号できる)ことが明らかになった。個別の銀行券の視認できる通し番号と、紙の特徴または凹版印刷された識別印などのような、あらかじめ記録されたその銀行券の「特徴」とを照合することにより、その銀行券の個別の素性を確認できる。あらかじめ記録された「特徴」とはオリジナルのアイテムの特徴であり、データベースに格納しておくことができる。
【0110】
一般に、ATMは銀行間ネットワークに接続され、人々はATMによって、どこであっても、自身の口座から金を引き出したり、自身の口座へ預金したりすることができる。預金用または自動両替用の銀行券受入装置には、受け入れた銀行券の確実な認証が必要である。そのような銀行券認証を行うための速くて簡単なツールとして、本発明に従って、少なくとも1つの熱型指紋センサをATMに組み込んで用いることができる。
【0111】
他の応用例では、少なくとも1つの熱型指紋センサが、AVM(自動販売機)に組み込まれる。販売機は、顧客が必要な量の金銭を与えた時に商品または輸送機関の切符を出すものである。AVMが偽造銀行券を受け入れてしまうことは、繰り返し起こる問題である。商品用または公共交通機関の切符用の自動販売機に実装された熱型指紋センサは、この問題の解決に効率的に貢献できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状アイテムの認証のための指紋センサの使用方法であって、前記シート状アイテムの画像データが、前記指紋センサによって取得される使用方法。
【請求項2】
前記アイテムは、紙と、プラスチックと、ボール紙とで構成される群から選択される請求項1に記載の使用方法。
【請求項3】
前記アイテムは、布地である請求項1に記載の使用方法。
【請求項4】
前記指紋センサは、1次元アレイの走査型センサである請求項1〜3のいずれかに記載の使用方法。
【請求項5】
前記指紋センサは、2次元アレイのセンサである請求項1〜3のいずれかに記載の使用方法。
【請求項6】
前記指紋センサは、光学式漏れ全反射センサと、薄膜トランジスタ光センサと、超小型電子式静電容量センサと、導電膜センサと、触覚型微小電気機械センサ(micro−electromechanical sensor、MEMS)と、超音波センサと、熱センサとからなる群から選択される請求項1〜5のいずれかに記載の使用方法。
【請求項7】
前記熱センサは、焦電センサと、マイクロボロメータ型センサと、光電センサとからなる群から選択される請求項6に記載の使用方法。
【請求項8】
印刷された書類またはラベルのような、保護対象アイテム(security item)の認証のための、例えば焦電センサ、マイクロボロメータ型センサ、または光電センサといった、熱センサの使用方法であって、前記アイテムは、画像データが取得されるようにセンサ領域と接触させられ、前記画像データまたは前記画像データから導出されたデータは、オリジナルのアイテムに対応するあらかじめ記録されたデータと比較される使用方法。
【請求項9】
前記認証は、前記アイテム中または前記アイテム上に生成された少なくとも1つの物理的特性に基づく請求項1〜8のいずれかに記載の使用方法。
【請求項10】
前記特性は、製造工程において前記アイテムに与えられた固有特性から導出される請求項9に記載の使用方法。
【請求項11】
前記特性は、表面または裏面の少なくとも一方に含まれる印刷された特徴、好ましくは凹版印刷された特徴である請求項9に記載の使用方法。
【請求項12】
前記特性は、透かしである請求項9に記載の使用方法。
【請求項13】
前記特性は、織模様である請求項9に記載の使用方法。
【請求項14】
前記画像データは、信号処理アルゴリズムで、好ましくは変換および/またはフィルタの機能を含む信号処理アルゴリズムで処理され、次にあらかじめ記録されたデータと比較される請求項8に記載の使用方法。
【請求項15】
前記信号処理は、ハイパスフィルタ処理および/またはローパスフィルタ処理を含む請求項14に記載の使用方法。
【請求項16】
前記信号処理は、刻み跡が類似の向きになっている画像領域の境界決定を含み、前記画像領域は、対応する、オリジナルから取得されたあらかじめ記録されたデータと比較される請求項14に記載の使用方法。
【請求項17】
前記信号処理は、数学的変換を、特に積分変換を、好ましくはフーリエ変換を含む請求項14〜16のいずれかに記載の使用方法。
【請求項18】
前記変換は、2次元変換である請求項17に記載の使用方法。
【請求項19】
前記変換は、1次元表現に換算される請求項17または18に記載の使用方法。
【請求項20】
シート状アイテムを認証する方法であって、a)前記アイテムを指紋センサと接触させるステップと、b)前記アイテム中または前記アイテム上に備わる少なくとも1つの特性を表す画像データを前記指紋センサから取得するステップと、c)適切なアルゴリズムおよび真正性判断基準を用いて、前記画像データをオリジナルのアイテムに対応する参照データと比較し、これにより真正性結果を導出するステップとを含む方法。
【請求項21】
前記画像データの前記取得は、1次元アレイの指紋センサを用いて走査モードで行われる請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記画像データの前記取得は、2次元アレイの指紋センサを用いて静止モードで行われる請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記指紋センサは、光学式漏れ全反射センサと、薄膜トランジスタ光センサと、超小型電子式静電容量センサと、導電膜センサと、触覚型微小電気機械センサ(micro−electromechanical sensor、MEMS)と、超音波センサと、熱センサとからなる群から選択される請求項20〜22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
前記熱センサは、焦電センサと、マイクロボロメータ型センサと、光電センサとからなる群から選択される請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記アイテムの表面から画像データを取得する第1の熱センサと、前記アイテムの裏面から画像データを取得する第2の熱センサとの組み合わせが用いられる請求項24に記載のシート状アイテム認証方法。
【請求項26】
有価書類またはラベルのような、保護対象アイテムを認証する方法であって、a)焦電型指紋センサのセンサ領域上に前記アイテムを滑らせ、またはこの逆を行うステップと、b)前記アイテムの画像データを取得するステップと、c)前記画像データまたは前記画像データから導出されたデータを、オリジナルのアイテムに対応するあらかじめ記録されたデータと比較するステップとを特徴とする方法。
【請求項27】
前記画像データは、前記アイテム上の印刷された特徴を、好ましくは凹版印刷された特徴を表す請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記画像データは、前記アイテムの一方の第1の面から取得され、前記取得された画像データは、前記アイテムの第1および第2の面の両方に存在する情報を表す請求項26または27に記載の方法。
【請求項29】
前記画像データは、あらかじめ記録されたデータとの比較の前に、信号処理アルゴリズムで処理される請求項26〜28のいずれかに記載の方法。
【請求項30】
前記信号処理は、変換および/またはフィルタの機能を含む請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記信号処理は、ハイパスフィルタ処理および/またはローパスフィルタ処理を含む請求項29または30に記載の方法。
【請求項32】
前記信号処理は、数学的変換を、特に積分変換を、好ましくはフーリエ変換を含む請求項29〜31のいずれかに記載の方法。
【請求項33】
前記変換は、2次元変換である請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記変換は、1次元表現に換算される請求項32または33に記載の方法。
【請求項35】
少なくとも1つの指紋センサと、電子処理装置と、前記処理装置に実装されたデータ処理アルゴリズムとを備え、前記指紋センサを用いて前記シート状アイテムの画像データを取得するシート状アイテムを認証するシステム。
【請求項36】
前記指紋センサは、銀行券のような有価書類の認証を目的とする、現金自動預払機または自動販売機のような、現金自動処理機の一部である請求項1に記載の指紋センサ使用方法。
【請求項37】
銀行券のような有価書類の認証のための指紋センサを備える現金自動処理機の、請求項1に記載の使用方法。
【請求項38】
書類認証装置であって、前記書類の隆線および谷の画像を取り込む少なくとも1つの指紋センサと前記書類の色付きの印刷されたインクによる特徴の画像を取り込む少なくとも1つの光学センサとの組み合わせと、処理手段とを備え、両センサからの前記取得画像を処理し互いに関係付けて真正性結果を導出する書類認証装置。
【請求項39】
前記指紋センサは、熱センサである請求項38に記載の書類認証装置。
【請求項40】
前記光学センサは、画像取り込み部と、画像形成システムと、照明システムとを備える請求項38または39に記載の書類認証装置。
【請求項41】
前記光学センサは、画像方向変更システムを備える請求項38〜40のいずれかに記載の書類認証装置。
【請求項42】
前記光学センサは、フィルタシステムを備える請求項38〜41のいずれかに記載の書類認証装置。
【請求項43】
前記光学センサおよび前記指紋センサは、前記書類の同じ部分を裏面および前面から同時に取り込むように位置合わせされる請求項38〜42のいずれかに記載の書類認証装置。
【請求項44】
少なくとも1つの指紋センサと少なくとも1つの光学センサとの少なくとも1つの第2の組み合わせが、前記書類を両面から同時に走査するように設けられる請求項43に記載の書類認証装置。
【請求項45】
少なくとも1つの指紋センサと少なくとも1つの光学センサとの組み合わせと、処理手段とを備える認証装置を用いて、隆線および谷と、色付きの印刷されたインクによる特徴とを有する書類を認証する方法であって、
a)前記書類の隆線および谷の画像を前記指紋センサで取り込むステップと、
b)前記書類の色付きの印刷されたインクによる特徴の画像を前記光学センサで取り込むステップと、
c)両センサからの前記取得画像を前記処理手段において処理し互いに関係付けるステップと、
d)真正性結果を導出するステップと
を含む方法。
【請求項46】
前記指紋センサは、熱センサである請求項45に記載の書類認証方法。
【請求項47】
前記光学センサの画像および前記熱センサの画像は、前記書類の前面および裏面からそれぞれ同時に取得される請求項45または46に記載の書類認証方法。
【請求項48】
前記光学センサの画像および前記指紋センサの画像は、走査モードで取得される請求項45〜47のいずれかに記載の書類認証方法。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4a】
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【図4b】
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【図4c】
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【図5a】
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【図5b】
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【図5c】
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【図5d】
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【図5e】
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【図5f】
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【図6a】
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【図6b】
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【図6c】
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【図6d】
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【図6e】
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【図6f】
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【図7a】
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【図7b】
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【図7c】
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【公表番号】特表2010−510108(P2010−510108A)
【公表日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−537712(P2009−537712)
【出願日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際出願番号】PCT/IB2007/003580
【国際公開番号】WO2008/062287
【国際公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(500269417)シクパ・ホールディング・ソシエテ・アノニム (23)
【Fターム(参考)】