説明

シート状ワーク加工用の刃物装置

【課題】 カッターに加えるワークの厚み方向への前後振動が実際の切込作業に悪影響を及ぼさないようにした新規な刃物装置を提供する。
【解決手段】 本発明の刃物装置5は、刃物ホルダ52に取り付けたカッターブレード53を、カム装置54によって前後動させながら切込加工を行う装置であって、刃物ホルダ52には、カム本体55の作用リブ551を内・外から挟む一対のカムフォロワ56が設けられる一方、刃物ホルダ52の対向側にはカウンタバランサ57を設け、該部材にも作用リブ551を挟む一対のカムフォロワ573を設け、カッターブレード53を前後動させるにあたっては、カム本体55を回転させることにより、刃物ホルダ52側のカムフォロワ56を往復動させてカッターブレード53を前後動させるとともに、カウンタバランサ57側のカムフォロワ573も往復動させて刃物ホルダ52と相反する方向に前後動させるようにしたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば紙製段ボール、樹脂製段ボール、樹脂シート、スポンジシート等、シート状のワークから、所望形状の製品ブランクを切り出す装置に関するものであって、特に一本のカッターをワークの厚み方向に前後動(振動)させながら切込加工を行い、なお且つその振動が切込作業に悪影響を及ぼさないようにした新規な刃物装置に係るものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、紙製段ボール、樹脂製段ボール、樹脂シート、スポンジシート等を加工対象として、ここから希望する形状の製品ブランクを得るにあたっては、多くはコスト的に有利な打抜手法が採られている。
具体的には製品ブランクの形状に応じた抜き型を用いるものであり、例えば合板等の平板状部材に抜き型刃を所定形状に配した状態に支持させ、この抜き型をワークに接触させて、所望の製品ブランクを打ち抜く手法が挙げられる(例えば特許文献1、2参照)。
また、打ち抜き刃を回転するローラ上に設け、順次、移送されてくるシート状ワークをこのローラによって、連続的に打ち抜く手法も採られている(例えば特許文献3参照)。
しかし、このような手法では、例えば打ち抜き抵抗が少ない紙製ダンボール、紙板等を加工対象とし、且つ大量生産により低コスト化を追求するものについては、好都合であるものの、ワーク自体の機械的負荷が大きいものや、多品種少ロット生産(加工)が要求されるもの、あるいはプロトタイプの試作品等には対応し難いものであった。
【0003】
このようなことを考慮してか、シート状ワークから所望形状の部材を一枚ずつ切り抜く手法も既に存在し、例えばシート状ワークを水平面上に載置しながら、その上から昇降自在のペンタイプのカッターを、二次元的に自在に移動させて、所望形状の製品を切り出す手法(いわゆるプロッティングカッター)も知られている(例えば特許文献4参照)。
しかし、この特許文献4は、そもそもペンタイプのカッターの刃先を切込方向に正確に設定するための発明であり、カッターをワークの厚み方向に前後動させるということについては全く開示がない(装置構成からしてもペンタイプのカッターを前後動させる機構がないものである)。
【0004】
その一方で、切込加工時にカッターを振動させる技術も既に公知となっている(例えば特許文献5参照)。しかし、この特許文献5では、単にカム機構によって刃物に上下動(ワークへの食い込み方向への振動)を加えるのみである。このため、刃物を比較的遅い速度で上下動させる場合には作業上支障がないものの、刃物を高速で振動させるには、振動バランス等の点で相応の対策が必要となるものであった。
【特許文献1】特開2004−160580号公報
【特許文献2】特開平11−178602号公報
【特許文献3】国際公開WO02/070213号公報
【特許文献4】特開平10−264088号公報
【特許文献5】特開平5−146996号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような背景を認識してなされたものであって、一本のカッターによってシート状ワークから所望形状の製品ブランクを一枚ずつ切り出す際、カッターにワークの厚み方向への前後動(振動)を加えることを前提としながらも、この振動が実際の切込作業に悪影響を及ぼさないようにした新規な刃物装置の開発を試みたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち請求項1記載の、シート状ワーク加工用の刃物装置は、シート状のワークに対し、刃物ホルダに取り付けたカッターブレードを、カム装置によってワークの厚み方向に前後動させながら切込加工を行う装置であって、前記カム装置は、カッター駆動モータによって回転駆動されるカム本体を具え、このカム本体には、作用リブが周状に連続して形成されて成るものであり、また前記刃物ホルダには、この作用リブを内側と外側とから挟み込む一対のカムフォロワが設けられる一方、刃物ホルダの対向側にはカウンタバランサが設けられるとともに、このカウンタバランサにも、カム本体の回転軸に対し、刃物ホルダ側のカムフォロワと点対称の位置となるカムリフト部において、前記作用リブを内側と外側とから挟み込む一対のカムフォロワが設けられるものであり、カッターブレードを前後動させるにあたっては、カッター駆動モータによってカム本体を回転させ、刃物ホルダ側のカムフォロワを往復動させてカッターブレードを前後動させるとともに、刃物ホルダの反対側においても、カウンタバランサ側のカムフォロワを往復動させ、刃物ホルダと相反する方向にカウンタバランサを繰り返し前後動させるようにしたことを特徴として成るものである。
【0007】
また請求項2記載の、シート状ワーク加工用の刃物装置は、前記請求項1記載の要件に加え、前記カッターブレードは、尖端状の両刃タイプのものであることを特徴として成るものである。
【0008】
また請求項3記載の、シート状ワーク加工用の刃物装置は、前記請求項1または2記載の要件に加え、前記カッターブレードの周囲には、ワークを常にカッターブレードの先端側に押圧するワーク押さえが設けられていることを特徴として成るものである。
【発明の効果】
【0009】
これら各請求項記載の発明の構成を手段として前記課題の解決が図られる。
まず請求項1記載の発明によれば、カッターブレードをワークの厚み方向に往復動させる際(振動させる際)、カウンタバランサを、カム本体に対して刃物ホルダと対向するように往復動させるため、刃物装置として機械的な動的バランスがとれる(装置全体の振動バランスが図られる)。このためカッターブレードを高速振動させた際のガタが極めて低く抑えられ、カッターブレードの前後動(振動)が確実に行える。
なお、カム本体のリブを挟持する一対のカムフォロワの間隔を維持するにあたっては、カムフォロワを同一部材(リニアベアリング)に取付けて、この間隔を維持することが好ましいが、一対のカムフォロワをバネ等によって作用リブを挟持する方向に付勢し、一対のカムフォロワ同士の間隔を維持することも可能である。
【0010】
また請求項2記載の発明によれば、カッターブレードには、適宜の剛性が確保されるため、比較的厚いワークや素材として硬いワークであっても、カッターブレードを前後振動させることと相まってより確実に切込加工が行える。
【0011】
また請求項3記載の発明によれば、カッターブレードの前後振動に起因するワークの浮き沈み(あばれ)が防止でき、より一層確実に切込作業が行える。すなわち、ワーク押さえがない場合には、カッターブレードの前後動(往復動)に追随して、加工部位のワークが一緒に前後動してしまうことがあるが(あたかもカッターブレードがワークを引き連れて戻るような作動)、本発明では、ワーク押さえによって、このようなワークの浮き上がりが確実に防止できるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明を実施するための最良の形態は、以下の実施例に述べるものをその一つとするとともに、更にその技術思想内において改良し得る種々の手法を含むものである。
【実施例】
【0013】
まず、本発明の「シート状ワーク加工用の刃物装置」の説明に先立ち(以下、この装置を単に刃物装置5とする)、加工対象となるシート状ワークW(以下、単にワークWとする)と、このものから得られる製品ブランクBについて説明する。
ワークWとしては、種々のシート状素材が適用でき、例えば、紙製段ボール、樹脂製段ボール、ゴムシート、樹脂シート、スポンジシート等が挙げられる。また、ワークWの形状としては、一定の矩形状に断裁された単枚のシート状のものが一般的であるが、樹脂シート、ゴムシート、発泡樹脂シート等、巻取原反状のものは、そのままブランク加工装置1に供給して(シート状に繰り出して)、加工するようにしても構わない。
また、製品ブランクBの製品用途(目的製品)としては、包装資材としての外箱、あるいはその内部に適用される保持用の中仕切部材、あるいは耐久性を強化した通い箱、コンテナ等が一般的な用途として挙げられるが、その他にも工業用ゴム製ガスケット等を得ることも可能である。
【0014】
なお、以下の説明では、長方形状を成す単枚のワークW(一例として縦2m×横3m程度)から、製品ブランクB(例えば包装資材としての外箱)を展開形状で切り抜く場合を例に挙げて説明する。すなわち、製品ブランクBを得るには、ワークWに対し適宜の部位に切込加工や筋押加工(適宜の折れ線を形成する加工)等を施して、ワークWから切り出すものであり、本実施例では図1に示すように、ワークWに形成される切込線をL1、折れ線をL2として示している。なお、折れ線L2には、山折り/谷折り/重ね合わせ折り(面同士をほぼ密着させて重ね合わせ状に折る折り方)等、本来は目的の折り方に応じた折曲線が多種存在するが、図1では、これらを全て折れ線L2として示している。また、ワークWから切り出される製品ブランクB内において、更に切り抜き状に形成される把手等の抜き落し部を中抜き部b1とするものであり、また製品ブランクBが抜き取られた後のワークWをウェイストブランクW0とする。
【0015】
また、本実施例では、このようなワークWを、垂直方向(垂直面)に対して幾らか傾けた状態(例えば本実施例では水平面から約70度傾斜させた状態)で固定して、ワークWに切込加工や筋押加工等を施すものであり、通常は長方形状ワークWの長辺部分(横)をほぼ水平に設定して安定的な載置保持を図るため、これに基づき以下のように方向を定義する。まず、ワークWの横方向に相当する水平方向を左右方向(X方向)、ワークWの縦方向に沿う方向(ここでは水平面に対し70度傾斜した方向(面)であり鉛直方向ではない)を上下方向(Y方向)、ワークW(表面)に対して直交する方向を前後方向(Z方向)ないしは奥側/手前側と定義する(ワークWの表面側すなわち装置の前面側が手前側となる)。なお、前後方向(Z方向)は、ワークWへの切り込み深さ(切込量)や筋押し深さ(筋押量)に相当する方向となる。
【0016】
以下、本発明の刃物装置5について説明する。なお、説明にあたっては、この刃物装置5を一構成部材とする「シート状ワークからのブランク加工装置(以下、単にブランク加工装置1とする)」について説明しながら、併せて刃物装置5について説明する。本実施例では上述したように、加工中、ワークWを傾斜させた状態で固定保持するため、ブランク加工装置1を大別すると、ワーク保持に関する部材と、適宜選択した工具によって目的に応じた切込加工や筋押加工を行う部材(これを実加工に関する部材とする)とに分けられる。なお、ワークWにおける工具の作用開始位置や、ここから工具をどの方向に作用させるか等の設定は、ある点(原点)を基準にした上記X、Y、Z方向の数値成分(いわゆる直交座標系)で決定することが可能であり、この手法自体は、従来からあるプロッティングカッター等の手法とほぼ同様である。
【0017】
まずワーク保持に関する部材としては、ワークWを傾斜状態で支持する装置フレーム10が主要部材となるものであり、このものはワークWを傾斜させるのに適した枠状の固定部材を骨格部材とする。もちろん、実際の装置構成においては、装置全体の軽量化等を考慮して、アルミ素材等のフレーム構成が好ましい。そして、装置フレーム10の前面を実質的に形成するようにワーク支持板11が設けられるものであり、例えば段ボールシート等の最大寸法、あるいは専らユーザが使用するサイズ等を考慮した寸法設定がされるのである。
【0018】
なお、ワークWをワーク支持板11に固定設置(定置)するにあたっては、例えばワーク支持板11のほぼ全面に吸気孔を均一に穿孔しておき、背面側からの吸引によってワークWを均等にワーク支持板11に吸着保持することができる。また、この際、ワークWとワーク支持板11の間に、通気性を有するシート11a(例えばフェルト製シート)を介在させれば、ワークWの吸着保持を阻害することなく、カッターによる切込加工等においても当該シート11aが緩衝作用として機能し、カッター先端部やワーク支持板11を保護することができる。もちろん、ワークWの固定は、このような吸着保持手法だけでなく、製品ブランクBに対して余白部となるウェイストブランクW0が、その周囲に充分押さえ棒等の配置を許容するときには、そのような押さえ手段を採ることも可能である。なお、このような固定手法を採っても、ワークWとワーク支持板11の間に、上記シート11aを設けることが好ましく、この場合、シート11aは専ら緩衝作用を担うものとなる。
【0019】
次に、実加工に関する部材について説明する。実加工に関する部材としては、設置されたワークWの表面に沿って二次元的に移動できるように構成された移動架台2と、この移動架台2に搭載され、カッターや筋押ローラ等を具えた工具装置TをZ方向に移動できるようにした加工ヘッド3と、この加工ヘッド3の一部を構成する工具支持回転盤4と、この工具支持回転盤4の外周側にカッターや筋押ローラ等の複数の工具が設置される工具装置T(本実施例では刃物装置5と筋押装置6とから成る)とが主要部材と成るものである。なお、ここで移動架台2をX方向の任意の位置に移動させる機構を横移動機構SX とし、移動架台2をY方向の任意の位置に移動させる機構を縦移動機構SY とし、加工ヘッド3をZ方向の任意の位置に移動させる機構を前後動機構SZ とするものである。また、本実施例では、目的の加工に応じて工具を選択し、これに切り替える機構を工具選択機構7とし、選択した工具の作用方向を設定する機構を工具方向設定機構8とするものである。
そして、このような機構(構成)により、ブランク加工装置1は、各種の工具から目的の工具を選択し、選択した工具をX・Y・Z方向の任意の位置に移動させるとともに、その作用方向を適宜変更(設定)でき、ワークWに対して適宜の切込加工や筋押加工が行えるものである。以下、各構成部材を各機構と併せて説明する。
【0020】
まず、ワークWの表面に沿って二次元的な移動が行えるように構成された移動架台2について説明するものであり、このうち主に横移動機構SX に関与する部材(要素)から説明する。まず上記装置フレーム10においてワーク支持板11のほぼ上下縁に横行案内機枠12を設け、ここにワーク支持板11に対して上下方向(縦方向)に横行機枠13を架設して成るものである。移動架台2は、この横行機枠13に支持されることによりX方向(左右方向)への任意の移動が実現される。また、この横行機枠13の上下両端部には、横行用ローラ13aを設け、横行案内機枠12に沿って、横行作動ベルト14を固定状態に張設する。この横行作動ベルト14には、タイミングベルト(歯付ベルト)が適用され、ベルトの歯が横行案内機枠12に面するように設けられる。また、横行作動ベルト14と横行案内機枠12との間には、横行用ピニオン15を設けるものであり(上下一対)、横行用ピニオン15の左右両側を横行作動ベルト14の外側から挟み込むように、一対の横行用押さえプーリ16を設ける。これにより、横行用ピニオン15は、その約半周程が横行作動ベルト14と確実に噛み合うように(係合するように)構成される。また、横行用ピニオン15は、例えば横行機枠13の上端側に設けられた横行モータMX によって駆動されるものである。なお、図中符号17は、上下に設けられた横行用ピニオン15を同調回転させるための連結シャフト17である。
【0021】
ここで、横移動機構SX による横行機枠13(移動架台2)の横行作動について説明する。まず、横行モータMX によって横行用ピニオン15を駆動させ、これを回転させるが、この横行用ピニオン15は、上述したように一対の横行用押さえプーリ16によって、横行作動ベルト14との係合状態(噛み合い状態)が常に維持されており、且つこの横行作動ベルト14は固定状態に張られている。このため横行用ピニオン15は、横行作動ベルト14との係合状態を保ちながら回転することとなり、横行用ピニオン15が横行用押さえプーリ16を伴って相対的にX方向(左右方向)に移動するものである。
【0022】
次に、移動架台2において、主に縦移動機構SY に関与する部材(要素)について説明する。縦移動機構SY は、上記横移動機構SX とほぼ同様の構成を採るものであり、具体的には、横行機枠13に沿って縦行レール18を設けて成るものであり、この縦行レール18に対し、移動架台2におけるベースプレート20が、上下動自在に支持され、これにより移動架台2のY方向(上下方向)の任意の移動を実現している。そして、これらを基礎部材として更に関連する諸部材が設けられるものであり、以下詳細に説明する。
【0023】
まず、ベースプレート20に対して縦行用リニアベアリング20aを横行機枠13の前後方向に(装置の手前側から見て前後に)二条設けるものであり、これはベースプレート20が縦行レール18上を確実且つ円滑に上下動できるようにするためである。また、横行機枠13に沿って縦行作動ベルト21を固定状態に張設するものであり、ここでもベルトの歯が横行機枠13に向くように設けるものである。また、縦行作動ベルト21と横行機枠13との間には、縦行用ピニオン22を設けるものであり、この縦行用ピニオン22の上下両側を縦行作動ベルト21の外側から挟み込むように、一対の縦行用押さえプーリ23を設けるものである。これにより、縦行用ピニオン22は、その約半周程が縦行作動ベルト21と確実に噛み合うように(係合するように)構成される。また、縦行用ピニオン22は、ベースプレート20に搭載された縦行モータMY により駆動されるものである。
【0024】
ここで、縦移動機構SY による移動架台2の上下作動について説明する。まず、縦行モータMY によって縦行用ピニオン22を駆動させると縦行用ピニオン22が回転するが、上記横移動機構SX の場合と同様に、縦行用ピニオン22は縦行用押さえプーリ23により縦行作動ベルト21との係合状態が常に保たれているため、この状態を保ちながら回転することとなる。このため縦行用ピニオン22が縦行用押さえプーリ23を伴って相対的にY方向(上下方向)に移動するものである。
なお、図中符号19Aは、横行移動する移動架台2への給電ケーブルを安定的に案内する屈曲自在のケーブルガイドであり、符号19Bは、縦行移動に関する給電ケーブルを安定的に案内する屈曲自在のケーブルガイドである。
【0025】
次に、移動架台2において加工ヘッド3を支持するための部材について説明しながら、併せて前後動機構SZ に関与する部材(要素)について説明する。まず、図1、2に示すように、ベースプレート20において横行機枠13の反対側の面(これが左右方向の右となる)に、ほぼワーク面に直交するように前後移動レール24を設け、更に、その近傍に、前後シフトスクリューシャフト25を設ける。この前後シフトスクリューシャフト25は、前後シフトモータMZ によって駆動されるものであり、具体的には、図3に示すように、前後シフトモータMZ の駆動プーリ26から、前後シフトスクリューシャフト25の手前側端部に設けられた従動プーリ25aに対し、駆動ベルト27を介して回転が伝達される。
【0026】
このような構成上、ベースプレート20は、加工ヘッド3を前後動させる際の基準(ベース)となる部材であり、ベースプレート20自体はワークWに接近/離反せず、一定の距離を保ってX−Y平面上を移動するものである。
なお、上述した前後移動レール24、前後シフトスクリューシャフト25、前後シフトモータMZ 、従動プーリ25a、駆動プーリ26、駆動ベルト27等が前後動機構SZ に関与する部材となるものである(後述するリニアベアリング31、メネジブロック32も前後動機構SZ に関与する部材となる)。
【0027】
次に、移動架台2における他の部材(前後動機構SZ に関与しない部材)について説明する。まずベースプレート20に対し、その前後方向、より詳細にはワークWの表面に直交して手前側から奥側に伸びるようにプッシュロッド28が設けられる。このものは、後述する工具装置Tの切り替えを行うためのものである。すなわち、工具の切り替えはゼネバ機構によって行うものであり、上記プッシュロッド28は、このゼネバ機構を駆動するための部材であり、ゼネバ機構の右転用プッシュロッド28Aと、左転用プッシュロッド28Bとを具えている(ここでの「右転」・「左転」は、後述するシフトロータ71を平面から視た場合の回転)。なお、プッシュロッド28A・28Bは、前後動しないベースプレート20に対して、プッシュロッドブラケット280により固定設置されており、その配置としては後述する傾倒旋回軸340からの距離(回転半径)が異なるように取り付けられている(図3参照)。
また、図中符号29は、加工ヘッド3が前後方向に移動(進退)することを考慮して、このものへの給電ケーブルを安定的に案内するための屈曲自在のケーブルガイドである。
【0028】
次に、移動架台2に対して前後動自在つまりワークWに対して接近/離反自在に支持された加工ヘッド3について説明する。図中符号30は、工具支持回転盤4を保持する加工ヘッド架台であって、このものは正面板301と側面板302と上面板303と下面板304とを組み合わせて成る枠状部材である。このうち側面板302には、ベースプレート20側(左側)にリニアベアリング31が設けられ、これが前後移動レール24に嵌まり、加工ヘッド架台30の前後移動(前後摺動)を実現している。また、リニアベアリング31の近傍には、前後シフトスクリューシャフト25に噛み合うメネジブロック32が設けられる(図2の要部説明図参照)。
【0029】
なお、上述したように、前記リニアベアリング31やメネジブロック32も前後動機構SZ に関与する部材(要素)であり、以下、この前後動機構SZ による加工ヘッド3(加工ヘッド架台30)の前後作動について説明する。
これには、まず図3に示す前後シフトモータMZ を駆動させるものであり、これにより駆動プーリ26、駆動ベルト27、従動プーリ25aを介して、前後シフトスクリューシャフト25が回転する。次いで、図2に示すように、この回転を受けて、このシャフトと噛み合うメネジブロック32がZ方向(前後方向)に移動し、ベースプレート20に対して加工ヘッド架台30を前後動させるものである。
【0030】
また、ブランク加工装置1にあっては、工具の作用方向をX・Y軸に沿った横・縦方向のみならず、これらに対して傾斜した任意の方向にも設定できるように、後述する保持ブラケット34(工具支持回転盤4を支持する部材)を、Z方向に沿った回転軸(傾倒旋回軸340)を軸芯として回転自在に支持するものであり、本明細書では、このような保持ブラケット34(工具支持回転盤4)のZ軸回りの回転を特に傾倒旋回と称し、これを担う機構を傾倒旋回機構ST とするものである。また、このために上記回転軸を傾倒旋回軸340と称するものである。以下、この保持ブラケット34について説明しながら、併せて傾倒旋回機構ST について説明する。
【0031】
保持ブラケット34は、カッターや筋押ローラ等の工具を設置した工具支持回転盤4を支持するものであり、加工ヘッド架台30の正面板301に設けられた傾倒支持ベアリング33によって傾倒旋回自在に支持されるものである。また、保持ブラケット34は、正面板301より奥側に向かって二股状に張り出すように形成された部材であり、種々の工具が取り付けられた工具支持回転盤4を回転自在に保持するものである(図1の初期状態では工具支持回転盤4をY軸回りに回転できるように保持する)。すなわち、保持ブラケット34は、まず基部となる傾倒旋回軸340に対し、その奥側に上保持板341と下保持板342とを対設状態に具えて成るものである。なお、図中符号343は、これら上保持板341と下保持板342とを一定間隔で取り付ける接続板であり、これらにより保持ブラケット34は側面から視て略コの字型を呈するように形成される。そして、このコの字型の内側空間(上保持板341と下保持板342との間)に、工具支持回転盤4が回転自在に支持されるものである。
【0032】
また、前記傾倒旋回軸340の手前側端部には、従動プーリ35が設けられ、このもの対し、加工ヘッド架台30(下面板304)に搭載された工具方向設定モータMT からの回転が伝達される。ここで、図中符号36は、工具方向設定モータMT によって直接駆動される駆動プーリであり、符号36aは、駆動プーリ36から従動プーリ35に駆動を伝達する駆動ベルトである。
そして、これら工具方向設定モータMT 、駆動プーリ36、駆動ベルト36a、従動プーリ35、傾倒旋回軸340等が保持ブラケット34(工具支持回転盤4)の傾倒旋回(傾倒旋回機構ST )に主に関与する部材(要素)であって、以下、当該機構による保持ブラケット34の傾倒旋回作動について説明する。まず工具方向設定モータMT を駆動させると、この駆動が駆動プーリ36、駆動ベルト36a、従動プーリ35を介して傾倒旋回軸340の回転として伝達され、これにより工具支持回転盤4を支持した保持ブラケット34が傾倒旋回するものである。
なお、本実施例では、図1に示す保持ブラケット34の状態を初期状態(基準)とし、手前側から視て、保持ブラケット34を時計回り(右回り)・反時計回り(左回り)のいずれの方向にも450度ずつ傾倒旋回する設定(仕様)である。また、このため、上記上保持板341・下保持板342は、傾倒旋回中において、名称として付した上下の位置関係が逆になることもある(名称は図1の初期状態に基づいて付したものに過ぎない)。
【0033】
また加工ヘッド架台30の正面板301にはプッシュロッド挿入孔30Aが開口されており(図3、4参照)、ここにはプッシュロッドブラケット280によりベースプレート20に対して固定されたプッシュロッド28が臨むように形成される。すなわち加工ヘッド3(加工ヘッド架台30)を手前側に退去させた際には、プッシュロッド28がプッシュロッド挿入孔30Aを通過(貫通)して、あたかもワーク側に(工具支持回転盤4の方に)突出するような構造を採るものである。もちろん、プッシュロッド28自体は、上述したようにベースプレート20に固定された部材であって前後動しないため、上記突出は、あくまでも相対的な突出である。なお、詳細は後述するが、このプッシュロッド挿入孔30Aも、上述したプッシュロッド28と同様に、工具装置Tの切り替えを担うゼネバ機構(駆動)に関与する部位(要素)となる。
【0034】
また、本実施例では、保持ブラケット34(工具支持回転盤4)の傾倒旋回角(回転限度)を制限するリミット機構SL が、加工ヘッド3(正面板301)に設けられるものである。すなわち、本実施例では、傾倒旋回機構ST により保持ブラケット34を左右いずれの方向にも約450度(保持ブラケット34を手前側から視て約5/4回転)回転できるように構成しながら、リミット機構SL により、この限界角を超えないように規制しているのである。このリミット機構SL に関与する部材(要素)としては、傾倒旋回軸340に設けられた軸側ギヤ371と、これより歯数の多いリミットギヤ372との一対のギヤの組み合わせ(これをセンサギヤ37とする)を主要部材とし、これにリミットギヤ372と同じ回転軸を有するアイドルロータ38を具えて成るものである。
【0035】
ここで、アイドルロータ38を用いたのは、リミットギヤ372の外径を大きくしたくないためである。すなわち、本実施例では、保持ブラケット34(傾倒旋回軸340)の傾倒旋回角が、360度を超す約450度という大きな回転角であるため、リミットギヤ372の外径を大きくすれば、アイドルロータ38を用いなくても約450度という傾倒旋回角を確保することは可能である。しかし、本実施例では加工ヘッド3を前後動させるために、リミットギヤ372の外径を大きくし過ぎると、これがベースプレート20に干渉してしまうことが考えられ、これを避けるためにアイドルロータ38を用いてリミットギヤ372を小さく形成するようにしたものである。
【0036】
以下、リミット機構SL に関与する部材を、図4に基づいて更に詳細に説明する。センサギヤ37におけるリミットギヤ372の端面部分には、手前側に突出する作動ピン372aが形成される。また、アイドルロータ38には、外周部において径方向に張り出す受動ピン381が形成されるものであり、前記作動ピン372aは、この受動ピン381に当接し、この当接によってアイドルロータ38を回転させるものである。また、アイドルロータ38には、受動ピン381のほぼ対向位置に、端面部分から手前側に突出するリミッタピン382が形成され、これがリミットスイッチ39を直接押圧するものである。なお、リミットスイッチ39は、スイッチブラケット390によって、正面板301に対して取り付けられ、前記アイドルロータ38のリミッタピン382の移動軌跡上に位置するように設置される。因みに、通常時のアイドルロータ38は、全体のモーメントバランス上、外周方向に張り出す受動ピン381を下方に位置させた状態で待機するものである。また、リミットスイッチ39は、リミットスイッチ39Aと、リミットスイッチ39Bとが一対設けられて成り、このうち符号39Aは、手前側から視て(正面から視て)、保持ブラケット34(工具支持回転盤4)の時計回り(右回り)の傾倒旋回(限界)を規制する右転停止用リミットスイッチであり、符号39Bは、保持ブラケット34(工具支持回転盤4)の反時計回り(左回り)の傾倒旋回(限界)を規制する左転停止用リミットスイッチである。
【0037】
次に、このリミット機構SL によって保持ブラケット34の傾倒旋回角を450度に規制する経緯(状況)について説明する。
まず、工具方向設定モータMT の駆動によって傾倒旋回軸340が傾倒旋回するものであり、これにより軸側ギヤ371も適宜の角度回転(傾倒旋回)する。この軸側ギヤ371の回転を受けてリミットギヤ372が適宜の角度回転すると(例えばほぼ一回転すると)、当該ギヤの作動ピン372aがアイドルロータ38の受動ピン381に当接し、アイドルロータ38を回転させる。この際、アイドルロータ38の回転に伴い、当然リミッタピン382も円弧状を描くように回転(移動)するため、例えばアイドルロータ38が約半周程度回転すると、リミッタピン382がいずれかのリミットスイッチ39A・39Bに当接し、保持ブラケット34(工具支持回転盤4)の傾倒旋回を停止させるものである。
このように、本実施例では、アイドルロータ38を設けることにより、リミットギヤ372の径寸法を過度に大きくすることなく、軸側ギヤ371の450度という大きな傾倒旋回角を獲得し、またこれを傾倒旋回の限界角としたものである。
【0038】
なお、上述した傾倒旋回機構ST は、主に加工にあたって工具の作用方向を設定するものであり、またリミット機構SL は、加工中における工具の作用方向の限界を規制するものであるため、これらを総じて工具方向設定機構8とするものである。すなわち、上述した傾倒旋回機構ST やリミット機構SL が実質的に工具方向設定機構8の一部を構成するものである。
【0039】
保持ブラケット34は、このような傾倒旋回機構ST やリミット機構SL により、正面板301に対して傾倒旋回自在に形成されるものであり、以下、この保持ブラケット34に取り付けられ、前記加工ヘッド3の一部を構成する工具支持回転盤4について説明する。
工具支持回転盤4は、上述したように、カッターや筋押ローラ等を具えた工具装置Tを取り付けるものであり、保持ブラケット34に回転自在に支持される。このため、工具支持回転盤4は、全体としてターンテーブル状に形成され、上面板41と下面板42とが対向するように設けられ、回転軸43回りの特定の平面上を回転できるように構成されている(図1の初期状態で見ればY軸回りの回転となる)。なお、図中符号44は、上面板41と下面板42との間隔を保って、これらを組み付けるためのディスタンスロッドである。そして、この上面板41と下面板42との間(空間)に、各種の工具(カッターや数種の筋押ローラ)を具えた工具装置Tが設置されるものである(この空間を工具設置部45とする)。
【0040】
因みに、この上面板41・下面板42についても、保持ブラケット34が大きく傾倒旋回することから、前記上保持板341・下保持板342と同様に、傾倒旋回中の状況において、名称として付した上下の位置関係が逆になることがある。もちろん、傾倒旋回中は、回転軸43もY軸からずれるのが一般的である(保持ブラケット34が180度または360度の傾倒旋回角となったときのみ回転軸43がY軸に沿うものである)。
なお、前記保持ブラケット34における下保持板342には、ケーブル案内筒344が設けられ、これは保持ブラケット34及びこれに支持される工具支持回転盤4が、例えば450度傾倒旋回するときに、その駆動用の給電ケーブル等を安定的に保持ないしは円滑に案内するための部材である。
【0041】
次に、工具支持回転盤4に設置される工具装置Tについて説明する。工具装置Tは、切込加工または筋押加工を行うために複数の工具を具えて成るものであり、本実施例では一例として図5に示すように、一基の刃物装置5と、複数種の筋押ローラを具えた筋押装置6とを具えて成るものである。しかし、工具装置Tとしては、刃物装置5を少なくとも一基具え、工具装置T全体として複数基になればよいため、工具装置Tとしては、以下のような構成が採り得る。
(a) 刃物装置5を一基のみ設け、且つ筋押装置6を一基以上設ける構成(本実施例がこれ に該当する)
(b) 刃物装置5及び筋押装置6ともに複数基設ける構成
(c) 複数基の刃物装置5のみを用い、筋押装置6を用いない構成
なお、刃物装置5を複数基具える場合とは、ワークWに色々な切込加工を施したい場合であって、このような種々の切り込み方(切込線L1)に応じて、各刃物装置5に専用のカッターを具える場合を想定したものである。以下、本発明の刃物装置5と、筋押装置6とについて説明する。
【0042】
本発明の刃物装置5は、工具支持回転盤4における工具設置部45の中央、すなわち工具支持回転盤4における適宜の直径線上に設置されるものであり、一例としてチャンネル状断面の装置機枠50を支持部材とし、その側枠板501の外部にカッター駆動モータMC が支持される。一方、側枠板501(カッター駆動モータMC が取り付けられている側枠板501の対向側)には、ガイドレール51が側枠板501の長手方向に沿って設けられ、このものに刃物ホルダ52がリニアベアリング521を介して往復動自在に設けられている。この刃物ホルダ52には、工具支持回転盤4の外周側端部に、刃物本体であるカッターブレード53が取り付けら、このカッターブレード53には、一例として尖端状の両刃タイプのものが適用される。なお、切込加工時には、カッターブレード53をワークWの厚み方向に対し、前後動させながら(出没させながら)加工を施すものであり、そのため刃物装置5には、この往復動を生起するカム装置54が設けられる。
【0043】
カム装置54は、前記カッター駆動モータMC により回転駆動されるカム本体55と、これに応動するカムフォロワ56とを主要部材とする。まずカム本体55は、カム曲線が一例として単弦曲線で形成されたベース部分に対し、作用リブ551が環状に設けられ、このものの対向二カ所にカムリフト部552が形成される(図5(b)参照)。なお、カムリフト部552は、必ずしも二カ所に限定されるものではなく、カム軸(カム本体55の回転軸)に対して点対称となる位置に、四カ所以上の偶数配置されても構わない。また、前記カムフォロワ56は、前記作用リブ551を外周面及び内周面から挟み込むように一対でリニアベアリング521に設けられ、これを内側カムフォロワ56Aと外側カムフォロワ56Bとするものである。因みに、刃物装置5におけるカッターブレード53の往復動の振動数は、毎分約10000回程度であり、カムリフト部552が二カ所ある本実施例の場合には、少なくともカム本体55の回転数は5000回転程度となる。
【0044】
また、このような作動から、前記刃物ホルダ52を含んだ往復慣性モーメントを考慮すると、刃物ホルダ52の反対側には、カウンタバランサ57を設けることが好ましい。すなわち、このカウンタバランサ57は、装置機枠50内において前記刃物ホルダ52と対向するように設けられ、実質的には刃物ホルダ52と同様の基本構成を具えて成るものである。このため、カウンタバランサ57は、バランサブロック571を、刃物ホルダ52に対向する外周端側に具えるとともに、リニアベアリング572を介して往復動自在に構成される。更に前記刃物ホルダ52と同様に、一対のカムフォロワ573が、作用リブ551を挟み込むようにリニアベアリング572に設けられ、刃物ホルダ52と相反する方向への移動(往復動)を繰り返し行い、刃物装置5全体の振動バランスを取るように構成されている。
【0045】
なお、図5(c)に示すように、カム本体55における作用リブ551の厚みt1と、一対のカムフォロワ56同士の間隔(一対のカムフォロワ573同士の間隔)t2とは、高精度に管理され(隙間が生じないように管理され)、カッターブレード53の高速振動時のガタを低減するようにしている。ここで本実施例では、カムフォロワ56(573)同士の間隔t2を保持するにあたっては、上述したように一対のカムフォロワ56(573)を、同一部材(リニアベアリング521/572)に取付け、維持している。しかしながら、必ずしもこのような手法に限定されるものではなく、例えば図5(d)に示すように、一対のカムフォロワ56A・56BをバネSPによって作用リブ551を挟持する方向に付勢することも可能である。
【0046】
また、カッターブレード53の周縁には、常にワークWをワーク支持板11側に押し込むように作用するワーク押さえ58が設けられる。これは、ワークWに切込加工を施す際、カッターブレード53の前後動(往復動)に伴い、加工部位のワークWが一緒に前後動してしまうことがあり(ワーク支持板11側から浮き上がるような、ばたつく作動)、このようなワークWの浮き沈み(あばれ)をワーク押さえ58によって防止するものである。
このようなことからワーク押さえ58については、以下のような構造を採ることが好ましい。まず前記工具支持回転盤4の上面板41及び下面板42に対して、保持プレート581をヒンジ582によって開閉自在に取り付け、作業時にはロックピン583により保持プレート581を閉鎖状態でロックし、当該プレートをワークWの表面に対向的に保持する。そして、この保持プレート581に対し、戻しパッド584が、セットスプリング585を介して設けられるものである。具体的には、戻しパッド584の背面にセットスプリング585を縮設して、常に、戻しパッド584をワークW側に弾性的に突出させるものである。
【0047】
なお、保持プレート581及び戻しパッド584には、カッターブレード53を貫通させるためのブレード孔586が形成され、このブレード孔586の大きさは、前記カム装置54によるカッターブレード53の前後動(出没)を阻害しないように設定される。因みに、保持プレート581を開閉自在に構成したのは、カッターブレード53の点検や交換等を考慮しての構造であり、点検時においては、ロックピン583を外して、保持プレート581を開放すれば(ヒンジ582が回動基軸)、このようなメンテナンス作業が能率良く且つ確実に行えるものである。
【0048】
次に、工具装置Tの一部を成す筋押装置6について説明する。このものは、一例として図5に示すように、四種の筋押ローラ61、62、63、64を具えて成るものである。なお、このように種々の筋押ローラ61、62、63、64を具えているのは、例えばワークWに筋押加工を施す場合、目的部位の折り方によって異なる折れ線L2を形成することが多いためである。因みに、符号61A、62A、63A、64Aは、各ローラをフリー回転状態に保持する支持ブラケットであり、各支持ブラケット61A、62A、63A、64Aは、工具支持回転盤4に対して固定状態に取り付けられる。
【0049】
ここで、刃物装置5と筋押装置6との工具配置、すなわち一種のカッターブレード53と四種の筋押ローラ61、62、63、64の計五種の工具本体の配置について説明する。これらは、一例として図5に併せ示すように、工具支持回転盤4(工具設置部45)に対して六等配された位置に設置される。このため、一カ所は特に工具がない言わばニュートラル位置となるが、本明細書では、このニュートラル位置を含め、六等配された位置を取付位置と称する。具体的には、カッターブレード53が設けられる工具支持回転盤4の反対側に(直径線上に)筋押ローラ63が設けられ、カッター駆動モータMC 側の半円弧上における筋押ローラ63寄りの取付位置に筋押ローラ64が設けられる。また、非モータ側の反対の半円弧上において筋押ローラ61、62が、カッターブレード53と筋押ローラ63との間に60度間隔で設置される。なお、各工具の具体的な配置は、加工ヘッド3が傾倒旋回するため、その作動を含めた全体の重量バランスやモーメントバランス等を考慮して決定される。
【0050】
次に、このような工具装置Tの中から、目的にあった工具を選択し切り替える工具選択機構7について説明する。工具選択機構7は、一例として図6に示すように、工具支持回転盤4を支持する保持ブラケット34(上保持板341)に搭載される機構であって、本実施例では工具支持回転盤4の一定角度のポジティブストップモーションをゼネバ機構によって行うものである。なお、後述するように、この工具選択機構7は、ゼネバホイール70を間欠的に回転させて工具の切り替えを行うため、通常はゼネバ機構を駆動させるための専用のモータ等が具備されるが、本実施例では、加工ヘッド3を手前側に退去させることにより(通常の切込加工や筋押加工では使用しない位置に退去させることにより)、ゼネバホイール70を間欠回転させている(シフトさせている)。このため、本実施例では、工具選択用のための専用モータは特に具えておらず、加工ヘッド3をZ方向に移動させるための前後シフトモータMZ が、実質的にこの作用を担っている。
【0051】
以下、更に工具選択機構7の詳細について説明する。まず工具支持回転盤4における回転軸43の上端に(保持ブラケット34よりも上方)、工具支持回転盤4とともに回転するゼネバホイール70を取り付ける。このようなゼネバ機構は、周知の通り一定角度ずつ間欠回転して(一般的には60度ずつ)、位置決めを行う割出機構であり、ゼネバホイール70には、例えば工具の数(本実施例ではニュートラル位置を含めた計六カ所の取付位置となる)に応じた六本のゼネバ溝701が形成される。一方、このゼネバホイール70を駆動させるためのシフトロータ71は、保持ブラケット34の上保持板341において回転自在に支持されるものであり、このものは前記ゼネバ溝701に噛み合うシフトピン711を具えている。
【0052】
更に、シフトロータ71は、そのロータ軸71Aの上端にピニオンギヤ72を具えている。このピニオンギヤ72は、工具支持回転盤4を平面から視て時計回り(右回り)/反時計回り(左回り)のいずれにも回転させ得るために一対のギヤを上下に具えて成るものであり、平面から視てシフトロータ71を時計回りに回転させるものを右転用ピニオンギヤ72Aとし(図6では上側のギヤ)、反時計回りに回転させるものを左転用ピニオンギヤ72Bとする(図6では下側のギヤ)。なお、ここで言う「右転」/「左転」は、あくまでシフトロータ71を中心に述べたものであり(これを平面から視た回転であり)、これが一回転してゼネバホイール70を間欠回転させることを考慮すると、ゼネバホイール70での回転方向は逆になるものである。
【0053】
なお、これら右転用ピニオンギヤ72Aと左転用ピニオンギヤ72Bとは、内装されたワンウェイクラッチにより、一方向のみの回転となるものである。すなわち、ピニオンギヤ72は、駆動時(作用回転時)のみにシフトロータ71を応動させるものであり、戻り時にはフリー状態を維持し、シフトロータ71を逆回転させないものである。
そして、各ピニオンギヤ72A・72Bには、外接状態で噛み合うピニオンラック73が設けられるものであり、これも同様に右転用ピニオンラック73Aと、左転用ピニオンラック73Bとする。このピニオンラック73は、保持ブラケット34の上保持板341に固定されたラックホルダ731に対して、前後方向に往復摺動できるように支持されるとともに、そのラックエンド732は、中央が凹陥状に形成され、前述のプッシュロッド28の受け部として構成されている。また、これら各ピニオンラック73A・73Bは、常時リターンスプリング74により付勢されており、プッシュロッド28による押込作用を受けない常態にあっては、各ピニオンラック73A・73Bの待機部73a、73bが、常に各ピニオンギヤ72A・72Bに位置するように(戻るように)設定されている。なお、リターンスプリング74は、ピニオンラック73側のスプリングフック741と、保持ブラケット34における上保持板341上のスプリングフック742との間に張架される。
【0054】
また本実施例では、ピニオンギヤ72A・72Bが、上保持板341に対して上下2段に設置されており、言わばピニオンラック73A・73Bを段違い状に設置しているが、これは上記図3で示したように、各ピニオンラック73A・73Bの傾倒旋回軸340からの距離(回転半径)を互いに異ならせるようにしたためである。すなわち、傾倒旋回軸340から右転用ピニオンラック73Aまでの距離は、傾倒旋回軸340から前記右転用プッシュロッド28Aまでの距離と同一に設定し、且つ傾倒旋回軸340から左転用ピニオンラック73Bまでの距離は、傾倒旋回軸340から前記左転用プッシュロッド28Bまでの距離と同一に設定することに起因して、両方のラックを段違い状に設置したものである。因みに図3では、対応する各回転半径が、図面上微妙に異なっているが、これはワークWつまり正面板301が70度傾斜しているためである(傾倒旋回軸340からピニオンラック73までの距離が短く投影されている)。
【0055】
なお、図1・2・4・6は、プッシュロッド28Aによって押し込まれた際のピニオンラック73Aの状態を示しているが、プッシュロッド28による押し込みは、各ピニオンラック73A・73Bが各プッシュロッド28A・28Bに対応する位置(プッシュロッド挿入孔30A)まで工具支持回転盤4(保持ブラケット34)を傾倒旋回させた状態で行うため(図7参照)、上記図示した初期状態でのピニオンラック73Aの押圧作動は、本来、起こらないものである。もちろん、ピニオンラック73Aは、上述したように通常、リターンスプリング74によって常に待機部73aに戻されるので、このような押込状態を維持し続けるものでもない。
また、シフトロータ71におけるシフトピン711は、図6の要部平面図に示すように、通常の状態ではゼネバホイール70のゼネバ溝701に係合していないため(ゼネバホイール70を間欠回転させるときに係合する)、保持ブラケット34には、一回転した後のシフトロータ71を定位置(例えば図6の要部平面図の状態)にリセットするための位置決めを設けることが好ましい。
【0056】
次に、工具方向設定機構8について概略的に説明する。工具方向設定機構8は、ワークWに対する工具の作用方向を加工に応じて適宜設定するとともに、その作用限界を傾倒旋回角として規制する機構であり、本実施例では、上述したように傾倒旋回機構ST とリミット機構SL とを具えて成るものである。すなわち、傾倒旋回機構ST によって工具支持回転盤4(保持ブラケット34)を傾倒旋回させることにより工具本体の作用方向を適宜設定するものであり、またリミット機構SL によって工具支持回転盤4(保持ブラケット34)の傾倒旋回限界を規制することにより、工具本体の作用方向(傾倒旋回)限界を制限するものである。なお、この機構の作動態様については、後述する。
【0057】
ブランク加工装置1は、以上述べた基本構造を有するものであり、以下、この装置によってワークWから製品ブランクBを加工する作動態様について説明しながら、併せて本発明の刃物装置5による切込加工の作動態様について説明する。
〔1〕始発・準備状態
〈ワークの設置〉
まず、実際の作業に先立ちワークWを設置するものであり、本実施例では水平面から約70度の傾斜で立ち上げられたワーク支持板11に、加工対象となるワークWを載置するものである。この際、ワークWの支持は、ワーク支持板11の背面側からバキューム(吸引)によって行い得るものである。なお、このような吸引保持を行う場合には、通気性を有する例えばフェルト製のシート11aを、ワーク支持板11とワークWとの間に挟めば、吸着保持を阻害することなく、またカッターブレード53の刃先などがワークWに当接した場合の緩衝体としても機能するものである。
【0058】
〈加工ヘッドの初期状態〉
一方、これに対し実質的な加工を担う加工ヘッド3は、例えばその動きがCAD等のデータに基づいて入力されることから、通常は初期位置(ワークWを正面から視て左下方すなわち直交座標系の原点位置)に待機させておく。もちろん、加工ヘッド3は、ユーザの特殊仕様に応じて原点以外の適宜の位置を初期位置とすることも可能である。
また、この初期状態においては、通常、適宜の工具(例えば五種の工具の中央に位置する筋押ローラ62)が、ワークWから一定の距離を保って、ワークWに対向(体面)した状態に設定されるのが一般的である。そのため、この工具が最初に加工する工具であれば、当初の工具選択は行われないが、この工具が最初に加工を行う工具でなければ、この初期状態で、工具選択機構7を作動(機能)させて目的の工具選択(切り替え)を行うことができる。もちろん、工具選択については、移動架台2を目的の加工位置(X−Y平面上の適宜の位置)まで移動させてから行うことも可能である(工具選択の詳細な作動は後述する)。
また、この初期状態では、工具支持回転盤4の傾倒旋回角は0度(図1等に示す初期状態)に設定され、このものの回転軸43がほぼY軸に設定された状態となっている。
【0059】
〔2〕加工位置への移動
その後、ワークWに面した工具がワークWと一定の距離を保ったまま、加工ヘッド3を目的の加工位置に移動させるものであり、これには横移動機構SX と縦移動機構SY とを作動(機能)させて行うものである。
まず横移動(横移動機構SX )については、横行モータMX の駆動により、横行用ピニオン15を回転させるものである。ここで当該ピニオンは、固定状態に張られた横行作動ベルト14と常に係合状態が維持されるために、一対の横行用押さえプーリ16を伴って横方向に移動し、これにより横行機枠13つまり加工ヘッド3がX方向の任意に位置に移動するものである。
また、縦移動(縦移動機構SY )についても、横移動と同様に、縦行モータMY の駆動により、縦行用ピニオン22を回転させるものである。ここでも当該ピニオンは、固定状態に張られた縦行作動ベルト21と常に係合状態が維持されるために、一対の縦行用押さえプーリ23を伴ってY方向の適宜の位置に移動するものであり、これらにより移動架台2つまり加工ヘッド3は、X−Y平面上における任意に位置に移動するものである。
【0060】
なお、ここでは説明の都合上、横移動と縦移動とを別々に行うかのように説明したが、これらは同時に行っても構わないし、また別々に行う場合には、いずれを先に行っても構わない。
また、本実施例では、ワークWに対する加工ヘッド3の二次元的な移動は、ワークWを完全に固定するとともに、このワークWに対して、移動架台2をX−Y方向の任意の位置に移動させることにより実現している。しかし、加工ヘッド3の二次元移動はワークWと相対的な関係であっても良いため(実質的に同じ作動となるため)、例えばワークWをX方向の一方向のみに移送しながら、移動架台2をY方向のみに移動するように構成しても構わない。
【0061】
〔3〕工具装置の選択
上述したように加工ヘッド3をX−Y平面上の任意に位置に移動させた後、工具装置Tの選択(切り替え)が行い得るため、ここで工具装置Tの選択について説明する。なお、説明にあたっては、例えば筋押ローラ62が、ワークWに対面した状態となっており(図2参照)、この状態から平面視で右側60度の位置にある筋押ローラ61を選択する場合について説明する。この場合には、工具支持回転盤4を左回り(反時計回り)に60度回転させることになり、これはゼネバホイール70を、ゼネバ溝701で一ピッチ分、左転させる動作となる。この操作は、上述したようにシフトロータ71で見れば、シフトロータ71を右回りに一回転(右転)させる動作となる。従って、この場合には、右転用ピニオンラック73A、右転用ピニオンギヤ72Aを作用させてシフトロータ71の右転(ゼネバホイール70の60度左転)を行うものである。
【0062】
なお、この段階では、上述したように工具装置T(ここでは筋押ローラ62)が、通常、ワークWと干渉しない位置になっているため、そのまま工具選択作業に移れるが、加工途中において工具選択を行う場合には、まず工具装置Tを充分手前側に退去させ、工具支持回転盤4を傾倒旋回させても工具がワークWと接触しないように設定するものである。そして、傾倒旋回機構ST における工具方向設定モータMT を駆動させて、工具支持回転盤4(保持ブラケット34)を傾倒旋回させる。この工具支持回転盤4の傾倒旋回は、右転用ピニオンラック73Aが右転用プッシュロッド28Aと合致する位置まで行われる(図3の二点鎖線、図7の斜視図参照)。もちろん、プッシュロッド28A・28Bは、どちらもプッシュロッド挿入孔30Aに臨むように設けられ、プッシュロッド挿入孔30Aからワーク側に突出(相対的な突出)し得るように形成されるため、上記傾倒旋回を行った状態では、プッシュロッド挿入孔30Aを通して(貫通して)、右転用ピニオンラック73Aが右転用プッシュロッド28Aと合致し、押し込み可能な状態となる。また、この際、一方へのシフト作動を行う場合には、もう一方のシフト作動が行われないように予め設定されている。このため右転用のシフトを行う上記作動の場合には、左転用のピニオンラック73Bがプッシュロッド28Bと合致しないように予め設定がなされている。因みに、工具支持回転盤4の傾倒旋回は、図1に示す初期状態つまり回転軸43がY軸方向に沿った状態を始発状態として左右への傾倒旋回角が設定される。
【0063】
そして、この状態で、前後動機構SZ における前後シフトモータMZ を駆動することにより、前後シフトスクリューシャフト25が回転し、加工ヘッド架台30(加工ヘッド3)全体が手前側に退去するものである。このときプッシュロッド28は、前後動しないベースプレート20に固定されており、その相対位置が変わらないものである。そのため、加工ヘッド架台30の退去作動は、右転用プッシュロッド28Aからすれば、プッシュロッド挿入孔30Aから右転用ピニオンラック73A側に突き出る作動(相対的接近)となり、やがては右転用ピニオンラック73A(ラックエンド732)を奥側に押し込む作動となる(このときに押し込まれた右転用ピニオンラック73Aの状態が図1・2・4・6の状態)。
このような右転用プッシュロッド28Aによる右転用ピニオンラック73Aのワーク側への相対的な押し込みによって右転用ピニオンギヤ72Aが右転し、シフトロータ71を右回りに一回転させる。するとシフトピン711が、ゼネバホイール70におけるゼネバ溝701を一ピッチ分(60度分)左転させることになり、工具支持回転盤4が左回り(反時計回り)に60度回転することになる。つまりワークWに面する工具が、筋押ローラ61に変換されるものである。
【0064】
なお、工具選択後は、加工ヘッド架台30(加工ヘッド3)全体が、今度は奥側に前進し、右転用プッシュロッド28Aによる相対的な押し込みが解除される。また、このとき、右転用ピニオンラック73Aは、リターンスプリング741の付勢力によって、自然に待機部73aまで戻るものである。そして、この右転用ピニオンラック73Aが戻るときには(復動時には)、右転用ピニオンラック73Aに噛み合っている右転用ピニオンギヤ72Aが逆転(左回りの回転)することになるが、ピニオンギヤ72は、ワンウェイクラッチ構造を採るため、シフトロータ71の逆転(左転)は行われないものである。
【0065】
このようにピニオンラック73Aの一回の前後摺動(シフト作動)が、右転用ピニオンギヤ72A及びシフトロータ71を右回りに一回転(右転)させることとなり、これがゼネバホイール70におけるゼネバ溝701を一ピッチ分(60度)左転させることになり、最終的には、工具装置T(工具支持回転盤4)の一ピッチ分(60度)の左転となって、工具を切り替えることになる。
従って、この後、更に刃物装置5(カッターブレード53)を選択したい場合には、同じ方向にゼネバ機構を作動させて、工具支持回転盤4を更に左回りに60度、間欠回転させるものである。
なお、本実施例では、上述したように工具支持回転盤4を間欠回転させて、工具装置Tを切り替える形態を基本とするものであるが、工具本体のみを取り換えるATC〔automatic tool changer〕の形態を採ることも可能である。すなわち、上記実施例のように筋押ローラが複数種ある場合には、支持ブラケットを共通化させローラのみを交換することが可能である。もちろん、これは刃物装置5においても適用できる思想であり、複数種のカッターブレードを具備した場合に、カッターブレードのみを交換することが可能である。ただし、筋押加工の場合には、ワークWの厚み方向への前後動を、筋押ローラに付与しないため、筋押ローラとカッターブレードとの交換は現実的でないと思われる。
そして、このような工具選択作業が終わった後には、再び工具支持回転盤4を傾倒旋回させ初期状態に戻すことが可能であるが、傾倒旋回角を0度に戻す当該作業は、この後に行う工具方向の設定作業まで見合わせることも可能である。すなわち、筋押加工や切込加工の方向は、必ずしも縦・横方向に限定されないため、例えば工具方向を傾斜させて加工することが多い場合には、傾倒旋回角を初期状態に戻さずに、そのまま事後の工具方向設定段階まで工具支持回転盤4の傾倒旋回状態を維持する方が能率的な加工(設定)が行えるものである。
【0066】
また、上記実施例では、右転用のピニオンラック73A等を作用させて工具支持回転盤4を60度ずつ間欠的に左転(シフトロータ71では右回りの一回転)させる場合について説明したが、当然、左転用のピニオンラック73B等を作用させれば、工具支持回転盤4を60度ずつ間欠的に右転(シフトロータ71では左回りの一回転)させることが可能であり、このため工具の選択にあたっては、工具支持回転盤4を近い方に間欠回転させることが可能である。
ただし、本実施例では、取付位置の中に、工具が何も取り付けられていないニュートラル位置が存在するため、このニュートラル位置がワークWに面することのないようにストッパ41aを設けた場合には、このストッパ41aを通過して工具支持回転盤4を間欠回転させることはできないため、遠回りでも工具支持回転盤4を一定の方向に間欠回転させて、工具選択を行うこともあり得る。因みに、上記ストッパ41aは、例えば図2に示すように、上面板41においてニュートラル位置の反対側の部位(ここでは筋押ローラ62の取付位置近傍)に設けられるものである。
このような操作により、目的の加工に応じた適宜の工具装置Tを選択し、ワークWに対向(対面)させるものである。
【0067】
〔4〕筋押加工
その後、実際の作業にあたっては、切込加工を先行させるか、筋押加工を先行させるか、種々の状況に適した順序が考えられるが、切込加工を先行させ、製品ブランクBの外形(輪郭)をワークW(ウェイストブランクW0)から全周切り離してしまった場合には、製品ブランクB自体の保持(ワーク支持板11による吸着)が不安定となり、その後の製品ブランクBに施す筋押加工が正確に行えないことが予想されるため、実際には、筋押加工を先行させる方が現実的と考えられる。もちろん一部、筋押加工に先立つ、もしくは筋押加工に伴う切込加工を行うことは考えられる。
筋押加工を行うにあたっては、各部位の折り方、すなわち製品ブランクBを立体成形するにあたり、各部位が谷折りされるか、山折りされるか、更にはその間の45度の屈曲角、あるいは完全に折り重ねられるように180度折り込まれるか等により、種々の筋押加工が施されるものである。因みに、そのために本実施例においても、各種の筋押ローラ61、62、63、64を具えているものである。
【0068】
〔5〕筋押加工の工具方向設定
筋押加工の際、加工ヘッド3の二次元的な移動は、上述したように横移動機構SX ・縦移動機構SY により移動架台2をX−Y平面上の任意の位置に移動させるものであるが、X軸やY軸に対して傾斜した斜め方向に筋押加工を行う場合には、適宜のコンピュータ指示により工具方向設定モータMT を駆動して、工具支持回転盤4を傾倒旋回させ、目的の方向に筋押装置6を設定するものである。
このようにして作用方向を設定した後、加工ヘッド3を奥側に移動させ、工具(筋押装置6)をワークWに押し込むようにし、この押し込み量を維持しながら、適宜の折れ線L2を形成して行く。もちろん、ここで設定された筋押装置6の方向は、当初の設定であるから、この設定を変更して別の方向に同種の折れ線L2を形成する場合には、当初設定の筋押加工の途中において、作用方向を適宜変更するものである。すなわち、その場合には、筋押加工中、工具支持回転盤4を適宜傾倒旋回させ筋押装置6の向きを変更するものである。
【0069】
〔6〕切込加工
その後、切込加工に変更するには、まず加工ヘッド3を手前側に退去させ、筋押装置6(筋押ローラ)をワークWから離反させる。なお、この退去作動は、工具支持回転盤4を傾倒旋回させても筋押装置6がワークWと接触しない位置まで行われる。
その後、切込作業の開始位置まで加工ヘッド3を二次元移動させる前または移動させた後において、工具選択(切り替え)を行う。これには上述したように、工具支持回転盤4(保持ブラケット34)を全体的に傾倒旋回させ、ゼネバ機構により筋押装置6から刃物装置5(カッターブレード53)に切り替える。
そして、工具選択後に、再度、工具支持回転盤4を傾倒旋回させ、カッターブレード53の作用方向を設定する。なお、ここでの傾倒旋回は、ワークWに対する最初の切込角度の設定であり、通常は、切込加工の途中において、この角度を適宜変更して行くのが一般的である。そのため、切込加工中に、工具支持回転盤4を適宜傾倒旋回させ、カッターブレード53の向きを変更する設定が行われる。
【0070】
次に、カッターブレード53自体の切込加工の態様について説明する。既に述べたように刃物装置5のカッターブレード53は、ワークWに対し、例えば毎分10000回程度の往復動を行うものであり、その操作は、カム装置54によって行われる。この際の技術的な困難性としては、カッターブレード53の往復動ストロークを比較的大きくとる必要があること、その往復動の毎分作動数が極めて多いこと等が挙げられる。すなわち、カッターブレード53の往復動は、図5に示すように、カッター駆動モータMC を駆動源とするものであり、カム本体55の作用リブ551を挟み込んでいる内側カムフォロワ56Aと外側カムフォロワ56Bとをシフトさせて、刃物ホルダ52に往復動を生起させている。このときカウンタバランサ57を、刃物ホルダ52と対向するように往復動させ、刃物装置5としての機械的な動的バランスをとり、カム装置54全体に無理が生じない状態を得るものである。
そして、このような往復動を行うカッターブレード53をワークWに突き刺しながら、加工ヘッド3を全体的に動かして、目的に合った切込線L1をワークWに形成して行く。 なお、切込線L1は、必ずしも一つのラインがつながっていなくても良く(切込開始点から切込終点までがつながっていなくても良く)、例えば短い切込線L1が一定の間隔をおいて断続した、いわゆるミシン目状に形成されても構わない。
【0071】
また、切込加工中は、カッターブレード53の往復動、とりわけカッターブレード53の戻り作動に追随して、ワークWがワーク支持板11から浮き上がるようになることがあるため(あたかもカッターブレード53がワークWを引き連れて戻るような作動)、これを防止すべく本実施例においては、常にワークWをワーク支持板11へと押圧するワーク押さえ58を作用させるものである。すなわち、ワーク押さえ58は、セットスプリング585の作用により、常時、戻しパッド584を、カッターブレード53の先端側すなわちワークW側に偏寄させるように付勢している。もちろん、カッターブレード53の動き自体は、ワーク押さえ58のブレード孔586の存在により支障なく行われる。なお、戻しパッド584は、このような単板状の部材ではなく、幾つかの独立した部材であっても差し支えなく、要は、カッターブレード53の周辺においてワークWを押さえることができれば良いのである。
また、カッターブレード53は、切込作業を行う主要部材であり、その点検あるいは交換等が、一定のインターバルで必要とされることから、このような作業が行い易いように、ワーク押さえ58は、保持プレート581が開閉自在に形成されている。
【0072】
〔7〕切込加工における工具方向設定の具体例
切込加工中、カッターブレード53の作用方向は、かなり連続的に大きな角度で変更され得るものである。ここで図1に示すように、製品ブランクB内において、凹字状の中抜き部b1(把手等)を切り抜く場合について説明する。なお、カッターブレード53は尖端状の両刃タイプであることから、根元(被保持部)に向かう程、両刃間の距離が広がるように形成され、このため中抜き部b1の隅部は幾らかのコーナRが付加形成される(ここで各屈曲点にA、B、C、D、E、F、G、Hと付すものである)。
このような中抜き部b1を切り抜く場合、例えばA点のR止まりから出発してB−C間を切り込む際には、B点をコーナリングするときにカッターブレード53を時計回りに90度回転させるものであり、次いでC−D間を切り込む際にはC点をコーナリングするときに更に時計回りに90度回転させるものである(この状態で、切込開始点から見ればカッターブレード53を時計回りに180度回転したことになる)。次いでD−E間を切り込む際にはD点をコーナリングするときに、更に時計回りに90度回転させ(計270度の回転)、E−F間を切り込む際にはE点をコーナリングするときに、更に時計回りに90度回転させるものである(計360度の回転)。次いでF−G間を切り込む際には、F点をコーナリングするときに更に時計回りに90度回転させるものである(計450度の回転)。なお、本実施例においては、工具支持回転盤4の傾倒旋回が、時計回り/反時計回りのいずれにも450度回転できるように構成されているため、このような加工(工具の作用角度がトータルで360度を超える加工)でも能率的に行えるものである。
【0073】
もちろん、工具支持回転盤4の傾倒旋回が片側360度までに設定されている場合でも同様の加工は行える。例えば上記の例で言えば、E−F間を切り込む際にE点をコーナリングするときに計360度の回転に達したカッターブレード53をF点の手前で一旦抜いて、傾倒旋回角が0度の初期状態に戻してから再び刺し込み、切込加工を再開させ、F点をコーナリングする際に、カッターブレード53を時計回りに90度回転させF−G間の切り込みを行うものである。しかし、このような加工では、切込加工を中断しなければならないことがあり(連続して切込加工が行えないことがあり)、このために作業能率が低下することは否めなかった。逆に言えば、本実施例では、このようなことを考慮して、時計回り/反時計回りのいずれにおいても360度を超す大きな傾倒旋回角を確保したとも言える。
【0074】
〔8〕工具回転(傾倒旋回)の限界規制
また、本実施例では、このような構成上、工具支持回転盤4の傾倒旋回角が450度を超えないように規制するリミット機構SL が設けられている。このリミット機構SL は、工具支持回転盤4(保持ブラケット34)の傾倒旋回角が450度に達した段階で、その回転を停止させるものであり、以下、この作動について説明する。
この作動としては例えば図4に示すように、軸側ギヤ371の傾倒旋回を受けてリミットギヤ372が適宜の角度回転すると(例えばほぼ一回転すると)、当該ギヤの作動ピン372aがアイドルロータ38の受動ピン381に当接し、アイドルロータ38を回転させ始める。アイドルロータ38が回転を始めると、当然リミッタピン382も円弧状を描くように回転(移動)するため、例えばアイドルロータ38が約半周程度回転すると、リミッタピン382がいずれかのリミットスイッチ39A・39Bに当接し、保持ブラケット34(工具支持回転盤4)の傾倒旋回を停止させるものである。
【0075】
〔9〕製品ブランクの取り出し
以上のようにして、筋押加工・切込加工が全て終了すると、加工ヘッド3を手前側に退去させ、ワークWから工具装置T(カッターブレード53)を離反させる。なお、この加工ヘッド3は、その後、原点位置に戻され、ここで次回の加工を待機するのが一般的である。
また、このような作動に伴い、ワークWを固定設置していたワーク支持板11による吸引保持も解除され、ワークWから製品ブランクBが取り出される。その後、余白部であるウェイストブランクW0もワーク支持板11から取り外されて全ての一連の加工が終了となる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の刃物装置を具えたブランク加工装置を示す斜視図、並びにこのブランク加工装置によって得られる製品ブランクを示す説明図である。
【図2】ブランク加工装置における移動架台を主に示す平面図である。
【図3】同上正面図である。
【図4】ブランク加工装置における傾倒旋回機構やリミット機構を主に示す斜視図である。
【図5】ブランク加工装置における工具装置を示す斜視図(a)、並びに刃物装置のカム本体を正面及び平面から視た説明図(b)・(c)、並びに作用リブを挟み込む一対のカムフォロワの間隔を保持する他の手法を示した説明図(d)である。
【図6】ゼネバ機構による工具選択機構を示す斜視図、並びにゼネバホイールとシフトロータとの関係を示す説明図である。
【図7】右転用プッシュロッドを適用して工具選択(切り替え)を行う場合の工具支持回転盤の傾倒旋回状況を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0077】
1 ブランク加工装置(シート状ワークからのブランク加工装置)
2 移動架台
3 加工ヘッド
4 工具支持回転盤
T 工具装置
5 刃物装置
6 筋押装置
7 工具選択機構
8 工具方向設定機構
10 装置フレーム
11 ワーク支持板
11a シート
12 横行案内機枠
13 横行機枠
13a 横行用ローラ
14 横行作動ベルト
15 横行用ピニオン
16 横行用押さえプーリ
17 連結シャフト
18 縦行レール
19A ケーブルガイド
19B ケーブルガイド
2 移動架台
20 ベースプレート
20a 縦行用リニアベアリング
21 縦行作動ベルト
22 縦行用ピニオン
23 縦行用押さえプーリ
24 前後移動レール
25 前後シフトスクリューシャフト
25a 従動プーリ
26 駆動プーリ
27 駆動ベルト
28 プッシュロッド
28A 右転用プッシュロッド
28B 左転用プッシュロッド
280 プッシュロッドブラケット
29 ケーブルガイド
3 加工ヘッド
30 加工ヘッド架台
301 正面板
302 側面板
303 上面板
304 下面板
30A プッシュロッド挿入孔
31 リニアベアリング
32 メネジブロック
33 傾倒支持ベアリング
34 保持ブラケット
340 傾倒旋回軸
341 上保持板
342 下保持板
343 接続板
344 ケーブル案内筒
35 従動プーリ
36 駆動プーリ
36a 駆動ベルト
37 センサギヤ
371 軸側ギヤ
372 リミットギヤ
372a 作動ピン
38 アイドルロータ
381 受動ピン
382 リミッタピン
39 リミットスイッチ
39A 右転停止用リミットスイッチ
39B 左転停止用リミットスイッチ
390 スイッチブラケット
4 工具支持回転盤
41 上面板
41a ストッパ
42 下面板
43 回転軸
44 ディスタンスロッド
45 工具設置部
5 刃物装置
50 装置機枠
501 側枠板
51 ガイドレール
52 刃物ホルダ
521 リニアベアリング
53 カッターブレード
54 カム装置
55 カム本体
551 作用リブ
552 カムリフト部
56 カムフォロワ
56A 内側カムフォロワ
56B 外側カムフォロワ
57 カウンタバランサ
571 バランサブロック
572 リニアベアリング
573 カムフォロワ
58 ワーク押さえ
581 保持プレート
582 ヒンジ
583 ロックピン
584 戻しパッド
585 セットスプリング
586 ブレード孔
6 筋押装置
61 筋押ローラ
61A 支持ブラケット
62 筋押ローラ
62A 支持ブラケット
63 筋押ローラ
63A 支持ブラケット
64 筋押ローラ
64A 支持ブラケット
7 工具選択機構
70 ゼネバホイール
701 ゼネバ溝
71 シフトロータ
711 シフトピン
71A ロータ軸
72 ピニオンギヤ
72A 右転用ピニオンギヤ
72B 左転用ピニオンギヤ
73 ピニオンラック
73A 右転用ピニオンラック
73B 左転用ピニオンラック
73a 待機部
73b 待機部
731 ラックホルダ
732 ラックエンド
74 リターンスプリング
741 スプリングフック
742 スプリングフック
8 工具方向設定機構
T 工具装置
W ワーク(シート状ワーク)
W0 ウェイストブランク
B 製品ブランク
b1 中抜き部
L1 切込線
L2 折れ線
MX 横行モータ
MY 縦行モータ
MZ 前後シフトモータ
MT 工具方向設定モータ
MC カッター駆動モータ
SX 横移動機構
SY 縦移動機構
SZ 前後動機構
ST 傾倒旋回機構
SL リミット機構
SP バネ
t1 厚み(作用リブの)
t2 間隔(一対のカムフォロワの)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状のワークに対し、刃物ホルダに取り付けたカッターブレードを、カム装置によってワークの厚み方向に前後動させながら切込加工を行う装置であって、
前記カム装置は、カッター駆動モータによって回転駆動されるカム本体を具え、このカム本体には、作用リブが周状に連続して形成されて成るものであり、
また前記刃物ホルダには、この作用リブを内側と外側とから挟み込む一対のカムフォロワが設けられる一方、
刃物ホルダの対向側にはカウンタバランサが設けられるとともに、このカウンタバランサにも、カム本体の回転軸に対し、刃物ホルダ側のカムフォロワと点対称の位置となるカムリフト部において、前記作用リブを内側と外側とから挟み込む一対のカムフォロワが設けられるものであり、
カッターブレードを前後動させるにあたっては、カッター駆動モータによってカム本体を回転させ、刃物ホルダ側のカムフォロワを往復動させてカッターブレードを前後動させるとともに、刃物ホルダの反対側においても、カウンタバランサ側のカムフォロワを往復動させ、刃物ホルダと相反する方向にカウンタバランサを繰り返し前後動させるようにしたことを特徴とする、シート状ワーク加工用の刃物装置。
【請求項2】
前記カッターブレードは、尖端状の両刃タイプのものであることを特徴とする請求項1記載の、シート状ワーク加工用の刃物装置。
【請求項3】
前記カッターブレードの周囲には、ワークを常にカッターブレードの先端側に押圧するワーク押さえが設けられていることを特徴とする請求項1または2記載の、シート状ワーク加工用の刃物装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−142898(P2010−142898A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−322081(P2008−322081)
【出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第3項適用申請有り 博覧会名 2008東京国際包装展 主催者名 社団法人日本包装技術協会 開催日 平成20年10月7日〜11日
【出願人】(599166208)株式会社岩間工業所 (3)
【出願人】(596057631)篠田商事株式会社 (13)
【Fターム(参考)】