説明

シート状固形物の捕集・抽出用装置およびシート状固形物の分析方法

【課題】シート状固形物の表面に残留している揮発性成分と難揮発性成分の分析を簡
便に且つ短時間に実施できるようにする為の装置を提供すること。
【解決手段】シート状固形物の表面と裏面に存在する揮発性成分を同時に捕集することができ、且つ、難揮発性成分を溶媒抽出することができる捕集・抽出用装置であって、シート状固形物を2つの容器で挟み込むことにより、前記シート状固形物の表裏にそれぞれの前記容器によって密閉空間が形成され、前記容器には、それぞれ開口部が設けられており、
前記開口部には、それぞれセプタムが設けられていて前記密閉空間を密閉でき、前記セプタムには、前記揮発性成分を吸着する捕集体を保持する支持体が設けられていることを特徴とするシート状固形物の捕集・抽出用装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状の測定対象物の表面に残留している物質を、表裏別々に測定する測定装置と測定方法に関するものである。更に具体的には、シート状の測定対象物を、容器を向い合せにして挟み込む事によって、おもて面とうら面を別々の閉空間で封鎖する事によって、それぞれの面に残留している揮発性溶剤やその他の残留成分を分析可能とする装置と方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック製品や金属加工品などあらゆる物品の表層には、素材の強度、遮光性、バ
リア性、シール性等、様々な特性を持たせるためのコーティング処理が施されている。そのコーティング処理剤には様々な化学物質が添加剤として含まれており、これら化学物質の含有及び含有量によっては、消費者が健康被害を受けることが知られている。
【0003】
製造前に、メーカーでは、あらゆる素材に含まれる化学物質の有害性を、安全データシ
ート(MSDS)等で確認しているはずであるが、使用材料や製造工程の変更等において、有害な化学物質が生成されていることを見落としたことが原因で、消費者が甚大な健康被害を受ける、という報道が後を絶たないのも事実である。
【0004】
すべての化学物質を、メーカー内の検査部門で検査することは困難であるが、出荷検査
の一部に、有害な化学物質の定性及び定量分析することができるガスクロマトグラフ、液体クロマトグラフなどを導入し、検査するメーカーが出てきている。
【0005】
しかしながら、ガスクロマトグラフ、液体クロマトグラフなど機器分析においては、以
下に示す通り、化学物質の分析及び試料前処理方法が複雑であり、分析作業に時間を要し場合によっては、製品出荷を停滞させてしまう、という問題を抱えている。
【0006】
従来、固形物からの残留溶剤成分を捕集する方法として、固形物をバイアル瓶容器内に
入れ密封し、容器内ヘッドスペース部に発生させるという方法が広く用いられている(非特許文献1)。また、固形物表面に残留している難揮発性成分を抽出する方法として、固形物ごとヘキサフルオロイソプロパノールに浸漬させ、固形物に残留している難揮発性成分をヘキサフルオロイソプロパノールで抽出し、この抽出液をガスクロマトグラフにて分析し、成分の定性と定量を行う方法が示されている(特許文献1)。
しかしながら、上記、非特許文献1記載の捕集方法は固形物全体からの揮発性成分捕集
を目的としており、固形物表面と裏面からの捕集を別々には行えないという問題がある。また、特許文献1記載の抽出方法も固形物全体からの残留成分抽出を目的としており、
上記、非特許文献1記載の捕集方法と同様に、固形物表面及び裏面のみからの抽出が行えないという問題がある。さらに、上記、2つの文献の捕集・抽出方法による分析では、固形物の表面及び裏面を単独で捕集・抽出する場合、試料量及び抽出作業が比較的多くなるため、非効率的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004-309436号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】平成17年、特許庁標準技術集、質量分析技術(マススペクトロメトリー)P.224〜225「3−1−2−1−2 ヘッドスペース−GC−MS」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、シート状固形物の表面に残留している揮発性成分と難揮発性成分の分析を簡便に且つ短時間に実施できるようにする為の装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明において上記課題を解決するため、第1の発明は、シート状固形物の表面と裏面に存在する揮発性成分を同時に捕集することができ、且つ、難揮発性成分を溶媒抽出することができる捕集・抽出用装置であって、
シート状固形物を2つの容器で挟み込むことにより、前記シート状固形物の表面と裏面にそれぞれの前記容器によって密閉空間が形成され、
前記容器には、それぞれ開口部が設けられており、
前記開口部には、それぞれセプタムが設けられていて前記開口部を密閉でき、
前記セプタムには、前記揮発性成分を吸着する捕集体を保持する支持体が設けられていることを特徴とするシート状固形物の捕集・抽出用装置である。
【0011】
また第2の発明は、2つ容器の形状と容積が同じであることを特徴とする請求項1に記載のシート状固形物の捕集・抽出用装置である。
【0012】
また第3の発明は、請求項1に記載の捕集・抽出用装置を用いて、測定対象であるシート状固形物を挟み込み、
前記シート状固形物の表面と裏面に密閉空間を形成し、
その後、少なくとも前記シート状固形物を加熱し、前記シート状固形物に存在する揮発
性成分を密閉空間中に放出させることによって、表面と裏面があるそれぞれの密閉空間中に設けられた捕集体に前記揮発性成分を吸着させることによって、前記シート状固形物の揮発性成分を捕集した捕集体を同時に得ることにより、前記揮発性成分を分析することを特徴とするシート状固形物の分析方法である。
【0013】
また第4の発明は、請求項1に記載の捕集・抽出用装置を用いて、測定対象であるシー
ト状固形物を挟み込み、
前記シート状固形物の表面と裏面に密閉空間を形成し、前記シート状固形物の一方の面
がある容器の開口部を開けて、前記シート状固形物に存在する難揮発性成分を溶媒抽出できる溶媒のうち、1種類または2種類以上の溶媒を混合した溶媒を容器内に注入し、前記シート状固形物の表面をその溶媒に浸漬することで溶媒中に抽出し、その溶媒を分析することにより、一方の面に存在する難揮発性成分を分析することができることを特徴とするシート状固形物の分析方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の捕集・抽出用装置を用いることにより、シート状固形物の表面と裏面に残留する揮発性成分を短時間で容易に分析できるようになる。また、シート状固形物の表面と裏面に残留する難揮発性成分についても、容易に分析できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の捕集・抽出用装置の概要断面図
【図2】本発明の捕集・抽出用装置にて難揮発性を溶媒抽出する方法の概念を示す断面図
【図3】実施例1に対応した分析結果
【図4】実施例2に対応した分析結果
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態を図1〜図4に基づいて詳細に説明する。
【0017】
図1は本発明の捕集・抽出装置のVOC捕集時の概念を示す断面図である。それぞれの面から発生するVOCを捕集する場合としては、容器(1、1’)同士を固定する前に、予め、支持体(5、5’)に捕集体(6、6’)を固定させた後、通気口密栓用セプタム(4、4’)に取り付け、2つの容器(1、1’)で固形物(2)を挟み込み、接続金具(3)にて固定させ、VOCの捕集を行うことができる。
【0018】
図2は本発明の捕集・抽出装置で難揮発性成分の溶媒抽出及び溶媒回収時の概念を示す
断面図である。難揮発性成分を溶媒抽出する場合は、最初に、固形物(2)を2つの容器(1、1’)で挟み込み、接続金具(3)にて固定し、抽出側の通気口密栓用セプタムを取り外した後、片面にスポイト(7)で溶媒を滴下し、固形物表面が溶媒で均一に浸されたのを確認後、通気口密栓用セプタムで通気口に密栓し、一定時間静置する。一定時間経過後、溶媒をスポイト(7)で回収することで、固形物表面に残留している難揮発成分の抽出を行うことができる。
【0019】
本発明の説明の例として捕集・抽出装置の容器(1、1’)は、実験用ガラス器具のセパラブルフラスコを改良したものを使用した。容器(1、1’)の材料としては、ガラス製がもっとも望ましく、容器底形状は、実験台に安定に置くことが出来るような円筒形状が望ましい。さらに、容器開口部は、容器内と外を完全に遮断できる、気密性が高い構造が望ましい。
【0020】
支持体(5、5’)の材料としては、ステンレス製、ガラス製などが望ましく、捕集体を安定に維持できるものであれば良い。例えば、クリップを使用することが可能である。
【0021】
セプタム(4、4’)の材料としては、シリコンゴム製が望ましく、形状は図3に示すようなT型が望ましい。なお、セプタム(4、4’)は、材質的に劣化及び磨耗することから、
適度な頻度で交換することが望ましい。
【0022】
接続金具(3)は、実験用ガラス器具のセパラブルフラスコ用接続金具またはクランプ型
が望ましい。
【0023】
捕集体の材料としては、磁石を内包するガラス製攪拌子の外側にポリジメチルシロキサン(PDMS)が塗布されているもの、または活性炭またはシリカゲル等の吸着剤が一般的であるが、吸着対象物を吸着し、加熱などによって放出させることが容易な材料であれば適用できることは言うまでもない。
【実施例】
【0024】
以下に、本発明の捕集・抽出装置を用いた固形物からのVOCの捕集、及び難揮発性成分を抽出方法について、具体的に実施例を挙げて、さらに詳しく説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限られるものではない。
【0025】
<実施例1>
図1に示した捕集・抽出装置を用いて、印刷フィルム(10×10cm)からのVOC
成分を捕集した。予め、2つの350ml容量の捕集・抽出容器(図1の1、1’に相当)に活性炭タイプの捕集体(図1の6、6’に相当)を支持体に固定させた後、試料である印刷フィルムを、一方の捕集・抽出容器に載せ、もう一方の捕集・抽出容器をかぶせるように挟み込み、接続金具で2つの捕集・抽出容器を接続し固定した。この接続後の捕集・抽出容器を80℃オーブンに30分間入れた後、捕集・抽出容器をオーブンから取りだし、2つの捕集・抽出容器のそれぞれの通気口密栓用セプタム(図1の4、4’に相当)から、活性炭タイプの捕集体を取りだし、GERSTEL製のパージアンドトラップ装置に、とりだした活性炭タイプの捕集体をセットし、加熱することでガスを放出させ、GC/MSにてVOC成分の分析を実施した。
【0026】
<実施例2>
難揮発性成分の分析方法を説明する。
実施例1で使用したVOC捕集後の印刷フィルム(試料)に残留している難揮発性成分を溶媒抽出する場合、表面と裏面の同時抽出は不可能であるため、表面の印刷面から抽出した。最初に、試料である印刷フィルムを2つの捕集・抽出容器で挟み込み、接続金具にて固定し、抽出側の通気口密栓用セプタムを取り外した後、印刷面側にスポイトでクロロホルム溶媒5mlを滴下し、固形物表面に均一に浸した。(図2参照)通気口密栓用セプタムで通気口を密栓し、1分間静置した後、このクロロホルム溶媒をスポイトで全量回収し、GC/MSにて分析した。
【0027】
<実施例3>
次に、実施例1のVOC捕集後の印刷フィルムの裏面からの難揮発性成分を抽出した。実施例2と同様の手順で、試料の印刷フィルムを2つの捕集・抽出容器で挟み込み、接続金具にて固定し、抽出側の通気口密栓用セプタム取り外した後、裏面側にスポイトでクロロホルム溶媒5mlを滴下し、固形物表面に均一に浸し、通気口密栓用セプタムで通気口に密栓し、1分間静置した後、このクロロホルム溶媒をスポイトで全量回収し、GC/MSにて分析した。
【0028】
<分析結果>
実施例1のGC/MS分析して得られたトータルイオンクロマトグラム(以下TICと記す。)を図3に示す。
図3に示されるように、試料の印刷フィルムの印刷面(表面)側は、裏面に比べ、印刷インキ由来と思われる成分のピークが、検出時間6分〜14分の比較的低沸点の化合物のピークとして大きく現れ、また、検出時間16分以降のピークは、裏面(フィルムのみで、印刷物が無い。)同じ検出時間の範囲に出ていることから、これらの成分はフィルム由来と推定され、本発明の捕集・抽出装置による結果は、妥当と思われる結果が得られた。
【0029】
実施例2、3のGC/MS分析して得られたTICを図4に示す。
図4に示されるように、試料の印刷フィルムの印刷面(表面)と裏面から、検出時間29分に酸化防止剤成分及び、沸点が250℃以上ある比較的高沸点の炭化水素化合物が検出され、これらの成分の由来はインキと推定された。なお、裏面が印刷面と同様の成分が検出されたのは、このフィルムがロール巻き取りされているため、裏面側に印刷面インキ成分が一部移行したものと推測される。図4の結果も、妥当と思われる結果が得られた。
【符号の説明】
【0030】
1 ・・・容器
1’・・・容器
2 ・・・固形物(試料)
3 ・・・接続金具
4 ・・・セプタム
4’・・・セプタム
5 ・・・支持体
5’・・・支持体
6 ・・・捕集体
6’・・・捕集体
7 ・・・スポイト
8 ・・・接続金具を締めつけるネジ金具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状固形物の表面と裏面に存在する揮発性成分を同時に捕集することができ、且つ、難揮発性成分を溶媒抽出することができる捕集・抽出用装置であって、
シート状固形物を2つの容器で挟み込むことにより、前記シート状固形物の表面と裏面にそれぞれの前記容器によって密閉空間が形成され、
前記容器には、それぞれ開口部が設けられており、
前記開口部には、それぞれセプタムが設けられていて前記開口部を密閉でき、
前記セプタムには、前記揮発性成分を吸着する捕集体を保持する支持体が設けられていることを特徴とするシート状固形物の捕集・抽出用装置。
【請求項2】
2つ容器の形状と容積が同じであることを特徴とする請求項1に記載のシート状固形物の捕集・抽出用装置。
【請求項3】
請求項1に記載の捕集・抽出用装置を用いて、測定対象であるシート状固形物を挟み込み、
前記シート状固形物の表面と裏面に密閉空間を形成し、
その後、少なくとも前記シート状固形物を加熱し、前記シート状固形物に存在する揮発
性成分を密閉空間中に放出させることによって、表面と裏面があるそれぞれの密閉空間中に設けられた捕集体に前記揮発性成分を吸着させることによって、前記シート状固形物の揮発性成分を捕集した捕集体を同時に得ることにより、前記揮発性成分を分析することを特徴とするシート状固形物の分析方法。
【請求項4】
請求項1に記載の捕集・抽出用装置を用いて、測定対象であるシート状固形物を挟み込
み、
前記シート状固形物の表面と裏面に密閉空間を形成し、前記シート状固形物の一方の面
がある容器の開口部を開けて、前記シート状固形物に存在する難揮発性成分を溶媒抽出できる溶媒のうち、1種類または2種類以上の溶媒を混合した溶媒を容器内に注入し、前記シート状固形物の表面をその溶媒に浸漬することで溶媒中に抽出し、その溶媒を分析することにより、一方の面に存在する難揮発性成分を分析することができることを特徴とするシート状固形物の分析方法。

【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−63147(P2012−63147A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−205329(P2010−205329)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】