説明

シート状物の切断装置

【課題】下刃、上刃を容易にかつ高精度で所望の位置関係に設定でき、下刃、上刃の位置設定時間を含む所定幅のシート状物の生産時間の短縮に貢献でき、上刃の傾きを望ましい条件に簡単に設定できる、シート状物の切断装置を提供する。
【解決手段】下刃を装着する下刃軸と、下刃の刃先の側面に対し上刃の刃先の側面を接離可能に上刃を保持する個別上刃ホルダとを有し、下刃軸を回転可能に支持するフレーム体と個別上刃ホルダを下刃軸の軸方向と平行な方向に位置調整可能に支持するガイドを有するフレーム体とを一体化し、該一体化フレームを、下刃軸および個別上刃ホルダとともに、切断装置の所定箇所に対し進退可能なユニットとして構成したことを特徴とするシート状物の切断装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状物を走行させながら所定の幅に切断するシート状物の切断装置に関し、とくに、丸刃からなる下刃、上刃による剪断切断によってシート状物を切断するようにしたシート状物の切断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
合成樹脂シートや電池用積層シート、アルミニウム箔等のシート状物を走行させながら幅方向において所定の幅に切断していく切断装置においては、丸刃からなる下刃と丸刃からなる上刃との協働による剪断切断(通常、シヤーカットと呼ばれている。)の方式が採用されることが多い。この方式においては、例えば、下刃軸の軸方向の所定位置に装着された下刃の刃先の側面に対し、上刃の刃先の側面を押し当て、両刃を回転させながら、走行されてくるシート状物を下刃と上刃による剪断によって切断していく。シート状物を所定の幅に精度良く切断していくためには、下刃の下刃軸への位置設定精度(軸方向設定精度等)と下刃に対する上刃の位置設定精度(軸方向設定精度、下刃に対する角度設定精度、下刃刃先に対する上刃刃先のオーバーラップ代の設定精度等)を高くしなければならない。また、シート状物を円滑に切断し、シャープな望ましい切断面(つまり、ヒゲ等の発生がなく、歪みや切断端の盛り上がり等のない、美麗な切断面)を得るためには、下刃に対する上刃の接圧(刃先側面同士の接圧)をシート状物に応じた望ましい接圧に設定することも求められる。この望ましい接圧としては、一般に、数十グラム〜数百グラムの比較的微小な接圧であることが多い。
【0003】
通常、下刃が装着される下刃軸と、上刃が装着される上刃ホルダは、切断装置においてそれぞれ別の機械フレームに取り付けられるようになっている。例えば、軸方向の所定の位置に各下刃を装着した下刃軸が、それ用のあるフレーム体に取り付けられ、別のフレーム体に取り付けられた上刃ホルダ用支持軸(例えば、上刃ホルダ用ガイドレール)上で、各上刃が各下刃に対し所定の位置関係に設定されるように、各上刃ホルダが位置調整される。
【0004】
切断装置において、シート状物に対する良好な切れ味を確保するためには、下刃の刃先と上刃の刃先のオーバーラップ代を、例えば0.2mm程度と非常に浅くする必要がある場合が多く、また、切断の際の下刃、上刃の円滑な動作、さらには刃の摩耗を抑えて刃の長寿命化を確保すること等を考慮すると、上刃回転軸と下刃回転軸は同じ平面上にあることが求められる。このような要求を満たすためには、下刃軸に対する上刃ホルダの取付精度が非常に重要となるが、下刃軸と上刃ホルダが別々の機械フレームに取り付けられる上記のような従来構造では、上刃ホルダの取付状態を、下刃軸の長手方向のどの場所でも同じ条件に調整するのが非常に困難なことが多い。とくに、下刃軸に対する上刃ホルダの取付精度を望ましい範囲内に納めようとすると、多大な調整時間を要し、その調整時間が、所定幅のシート状物の生産性を大きく低下させる要因となっている。
【0005】
また、下刃の刃先部に対する上刃の刃先部の位置関係としては、刃先部の摩耗抑制およびシート状物に対する良好な切れ味確保、維持の観点から、刃先部の側面(いわゆる、腹部)同士が完全に平行状態で接触することは、好ましくない場合が多い。完全に平行状態とする場合には、刃先部の側面間に微小な隙間を持たせ、刃先部の側面同士を非接触状態に保って切断を行う、いわゆるクリアランスカットと呼ばれる切断方式が採用されることが多い。一方、刃先部の側面同士を接触状態に保って切断を行う場合には、下刃に対して上刃を若干傾けて、つまり、下刃の刃先部の先端にのみ上刃の側面(腹部)が接するように若干傾けて、上刃を設定することが好ましい場合が多い。しかし、上記のように上刃ホルダが上刃ホルダ用支持軸上を単にスライドされて位置調整される従来構造では、下刃に対する上刃の接離動作が軸方向の直線移動動作となるため、上刃の刃先部に傾きを持たせる場合にあってもその刃先部の傾きは一定のままとなり、傾きを調整することは困難である。とくに、上刃ホルダは上刃自体に比べはるかに大きい質量を持っているので、上刃ホルダを上刃とともに軸方向に移動調整することにより、前述の如き微小な接圧を維持しつつ、上刃の刃先部を望ましい傾きに調整することは極めて困難である。
【0006】
さらに、刃先側面同士の接圧を前述の如き微小な接圧に調整する場合には、その接圧を高精度に検出できるようにしておくことが望ましい。接圧力を検出する構造として、上刃保持部材に歪みゲージを取り付け該保持部材の歪み検出を介して上刃の接圧力を測定するようにした構造が知られている(特許文献1)。しかし、このような構造では、上刃の保持強度を維持するためには、上刃保持部材の剛性を低下させることはできず、したがって、上刃の接圧力の測定精度向上のために上刃保持部材の機械的な剛性を犠牲にすることはできないので、結局歪みゲージの感度を上げることは困難であり、前述の如き微小な接圧の高精度検出は困難となっている。また、この特許文献1に記載の構造では、上刃の回転駆動用のベルトの張力が外力として上刃の接圧に直接的に影響する構造となっているが、このベルト張力には多かれ少なかれ変動が存在し、その変動は、上刃の接圧の変動となって現れることになるから、前述の如き微小な接圧に対しては無視できない変動要因となる。したがって、この面からも、微小接圧の高精度検出が困難となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4230275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明の課題は、上記のような従来技術における問題点に着目し、下刃、上刃を容易にかつ高精度で所望の位置関係に設定でき、しかも、該下刃、上刃の位置設定時間を含む所定幅のシート状物の生産時間の短縮に大いに貢献できる、シート状物の切断装置を提供することにある。
【0009】
また、本発明のもう一つの課題は、クリアランスカット、上刃の下刃への接圧切断のいずれも好ましい形態で容易に実行でき、とくに接圧切断については、上刃の傾きを望ましい条件に簡単に設定でき、微小な接圧力にあっても高精度で検出、調整可能としたシート状物の切断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係るシート状物の切断装置は、丸刃からなる下刃を軸方向の所定位置に装着する回転可能な下刃軸と、丸刃からなる上刃を回転可能に保持するとともに前記下刃の刃先の側面に対し上刃の刃先の側面を接離可能に上刃を保持する個別上刃ホルダとを有し、前記下刃軸を回転可能に支持するフレーム体と前記個別上刃ホルダを下刃軸の軸方向と平行な方向に位置調整可能に支持するガイドを有するフレーム体とを一体化し、該一体化フレームを、前記下刃軸および個別上刃ホルダとともに、切断装置の所定箇所に対し進退可能なユニットとして構成したことを特徴とする切断装置からなる。
【0011】
このような本発明に係るシート状物の切断装置においては、機械的に一体化された一つの一体化フレーム内にて下刃軸と個別上刃ホルダの両方が所定の位置関係にセットされ、これらがセットされた一体化フレームが、一つのユニットとして切断装置の所定箇所、つまり、下刃、上刃の協働により所定の切断を行う装置内場所に対して進退される、つまり、該所定箇所に着脱される。このように下刃軸と個別上刃ホルダが切断装置に対して着脱可能な形態でユニット化されることにより、実質的に切断装置外で、換言すれば、外段取りにて、下刃軸に対する各個別上刃ホルダの所定の位置関係への設定、装着、各下刃、各上刃の所定の位置関係への設定、装着、さらには必要に応じて刃物交換等の、実際の切断動作のための準備作業を行うことができる。したがって、従来長時間を要していたこれらの準備作業のための時間の、所定幅への切断工程を含む帯状シート状物の生産時間全体に対する割合を大幅に低減できることになり、シート状物の生産時間の短縮に貢献できる。また、切断装置外で設定、調整できるから、下刃に対する上刃の位置関係についても、容易に高精度で望ましい位置関係に設定でき、かつ、上刃の下刃に対する姿勢についても、容易に望ましい姿勢に設定できるようになる。
【0012】
また、上記のようなシート状物の切断装置において、本発明では、さらに、上刃、下刃間の接圧をもって切断を行う場合について、次のような改良構造が提供される。すなわち、上記個別上刃ホルダが、該個別上刃ホルダに保持された上刃の刃先の側面が下刃の刃先の側面に接触され接触後にさらに下刃の刃先の側面方向に押し込まれた際、上刃の刃先が円弧動作により下刃の刃先の側面方向とは反対の方向に逃げるように、上刃回動機構を有している構造が提供される。このような構造においては、クリアランスカットを行う場合は上刃と下刃は平行となるが、下刃に上刃を当てる接圧切断を行う場合には、上記上刃回動機構を介して、個別上刃ホルダに保持されている上刃を下刃に対して自然に望ましい角度に傾けることが可能になり、上刃の姿勢を含めて、上刃、下刃間の望ましい位置関係を極めて簡単に実現できる。これによって、より確実に、望ましい切断面が得られる望ましい切断形態が実現され、しかも、上刃、下刃の刃先部の面接触を回避し、刃先部の耐摩耗性を向上して刃の長寿命化をはかることも可能となる。
【0013】
上記上刃回動機構には、上刃の刃先の側面の下刃の刃先の側面への接触圧を検出可能な接圧センサを設けることができる。このような接圧センサを設けておけば、前述の如き微小な接圧の検出、調整まで可能となる。とくに、この接圧センサが、上刃の刃先の側面の下刃の刃先の側面への接触圧を機械的に増幅可能な位置に設けておくと、微小な接圧でも増幅した値として検出可能になるので、より高精度の検出、調整が可能となる。また、上刃回動機構に、上記接圧センサに予め所定圧を付与しておく予圧付与手段が設けられており、該予圧付与手段により付与されている上記所定圧以上の検出圧が(上記所定圧を超えて検出される検出圧が)、上記接圧センサによって検出される前記接触圧とされるようにしておくと、例えば、個別上刃ホルダが上刃とともに回動される際に加わる自重成分等の力の成分を予圧成分によって打ち消す(相殺させる)ことが可能になり、上刃、下刃間の接圧の値のみを精度良く拾い出すことが可能になって、一層高精度の検出、調整が可能となる。
【0014】
また、本発明においては、上記個別上刃ホルダが、該個別上刃ホルダに保持された上刃を回転駆動するモータを有している構造とすることが好ましい。とくに、上記上刃回動機構を有している構造と併用することが好ましい。このように構成すれば、モータから上刃へと回転駆動力を伝達するベルトも上刃回動機構の回動とともに回動させることが可能になり、ベルト張力を上刃圧接動作の内力とすることが可能になって、ベルト張力の変動等が上刃の接圧に実質的に影響を及ぼさなくなる構造を実現できる。したがって、微小な接圧であっても、高精度の設定、調整がより確実に可能となる。
【0015】
なお、本発明においては、上記下刃軸への下刃の装着、軸方向位置設定に関しては、とくに限定されないが、例えば、下刃が所定の間隔で装着されるように下刃間にスペーサを有する構造を採用できる。いずれの下刃の装着構造にあっても、本発明では前述の如く外段取りが可能であるから、下刃の設定についても容易に高精度で行うことができる。
【発明の効果】
【0016】
このように、本発明に係るシート状物の切断装置によれば、下刃、上刃、下刃軸、個別上刃ホルダを一体化フレーム内に納め、切断装置に対し進退可能な一体化ユニットとして取り扱えるようにしたので、下刃、上刃を容易にかつ高精度で所望の位置関係に設定でき、しかも、それらの位置設定、調整を外段取りで行うことが可能になって、設定、調整に要する時間を帯状シート状物の生産時間の範囲外として、該シート状物の生産性向上に貢献することができる。
【0017】
また、クリアランスカット、上刃の下刃への接圧切断のいずれも好ましい形態で容易に実行できるようになり、とくに接圧切断の場合においては、上刃を簡単に望ましい傾きに設定でき、しかも、微小な接圧力にあっても高精度での検出、調整が可能となる。その結果、切断されたシート状物の切断部の品質の向上をはかることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施態様に係るシート状物の切断装置の要部の概略正面図である。
【図2】図1の装置における個別上刃ホルダの斜視図である。
【図3】図2とは異なる角度から見た個別上刃ホルダの斜視図である。
【図4】図1の装置における個別上刃ホルダの側面図である。
【図5】図1の装置における個別上刃ホルダ周りの概略構成図である。
【図6】図1の装置における上刃、下刃の調整状態を示す概略構成図である。
【図7】図1の装置における切断形態に対応した上刃、下刃の調整状態を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の望ましい実施の形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施態様に係るシート状物の切断装置の要部を示しており、切断装置全体中の所定箇所に対し進退(着脱)可能なユニット部1を示している。図1において、2は、丸刃からなる下刃3を軸方向の所定位置に装着する回転可能な下刃軸を示している。この下刃3に対し、下刃3と協働して走行されてくるシート状物4を所定の幅に剪断切断していく丸刃からなる上刃5が設けられる。各上刃5は、回転可能に、かつ、下刃3の刃先の側面に対し上刃5の刃先の側面を接離可能に、個別上刃ホルダ6に保持されている。下刃軸2は、フレーム体7に回転可能に支持されており、各個別上刃ホルダ6は、フレーム体8に一体的に設けられた、下刃軸2の軸方向と平行な方向に延びるガイド9に、下刃軸2の軸方向と平行な方向に位置調整可能に支持されている。これら両フレーム体7、8が機械的に一体化されて、該一体化フレームとして、上記下刃軸2および個別上刃ホルダ6とともに、切断装置の所定箇所に対し進退可能なユニット部1として構成されている。図1における10は、ユニット部1を切断装置の所定箇所に対し進退させるときの移動用車輪を示しており、ユニット部1は矢印の方向に移動される。したがって、外段取りのために装置外に移動されたときには、実質的に図1に示した部分のみが準備作業のための対象部位となる。なお、各下刃3は、下刃軸2の軸方向に、スペーサ11を介して位置決めされている。下刃軸2には、駆動源からの回転駆動力が伝達され、切断動作時には、下刃軸2は各下刃3とともに回転される。
【0020】
このように一体化フレーム構成を有するユニット部1が切断装置の所定箇所に対し進退できるので、下刃軸2に対する各個別上刃ホルダ6の所定の位置への設定、装着、各下刃3、各上刃5の所定の位置関係への設定、装着、さらには必要な場合には下刃3、上刃5のいずれかの交換など、実際の切断動作のためのほとんど全ての準備作業を外段取りで行うことができる。したがって、従来長時間を要していた装置内での準備作業時間がほとんどかからなくなる。例えば、上記ユニット部1が2基あれば、準備作業を行っている間に実際のシート状物の切断動作を行わせることも可能になり、帯状シート状物の生産性が疑いなく大幅に向上される。外段取りでの設定や調整は、周辺機器が存在しないかほとんど存在しないため、機内設定や調整の場合に比べはるかに容易であり、その分、設定や調整の高精度化が期待できることとなる。
【0021】
次に、上記個別上刃ホルダ6について、図2〜図5を参照しながら説明する。各個別上刃ホルダ6は、切断動作に必要な個数、ガイド9上に配置される。ガイド9への着脱は、クランプ機構部21の開閉を伴って行われ、ガイド9に沿って下刃軸2の軸方向と平行な方向に所定の位置に調整された後、クランプ機構部21によって位置が固定される。また、各個別上刃ホルダ6は、装着されている上刃5が対向する下刃3から離反する方向に円弧状に回動できるように構成されており、本実施態様では、図5に示すように、各個別上刃ホルダ6の下部側部分が回動可能となる、上刃回動機構22(図5に図示)が設けられている。また、各個別上刃ホルダ6の下端部側、つまり、上記回動可能な部分の下端部側には、上刃5を回転駆動するモータを内蔵したモータ内蔵部23が設けられており、内蔵されたモータからは、ベルト(図示略)を介して回転駆動力が上刃5へと、より正確には上刃軸24上に回転駆動可能に支持されている上刃5へと、伝達されるようになっている。
【0022】
上刃回動機構22では、図5に示すように、ガイド9に固定保持された個別上刃ホルダ6の上部側部分6aに対して、ピン31を中心にして、個別上刃ホルダ6の下部側部分6bが回動される。より具体的には、個別上刃ホルダ6の上部側部分6aがガイド9に対し、上刃5の刃先の側面が下刃3の刃先の側面に接触する方向に移動され、接触後にさらに下刃3の刃先の側面方向に押し込まれた際、上刃5の刃先が円弧動作により下刃3の刃先の側面方向とは反対の方向(図5の円弧状矢印で示す方向)に逃げるように、個別上刃ホルダ6の下部側部分6bが上刃5とともに回動される。また、上刃回動機構22には、上記の如く上刃5の刃先の側面が下刃3の刃先の側面に接触した時の、さらには接触後にさらに下刃3の刃先の側面方向に押し込まれた時の、上刃5の刃先の側面の下刃3の刃先の側面への接触圧は、回動する下部側部分6bと回動しない固定側の上部側部分6aとの間に介装された接圧センサ32によって検出可能となっている。この接圧センサ32は、例えば歪ゲージを内蔵した伸縮可能な弾性体やロードセルを付設した弾性体等から構成できる。さらに、図5に示す例では、回動中心となるピン31を間にして、上記接圧センサ32と反対側の位置で、かつ、回動する下部側部分6bと回動しない固定側の上部側部分6aとの間には、接圧センサ32に予め所定圧を付与しておく予圧付与手段としてのスプリング33が、伸長方向に予圧を発揮する状態にて介装されている。この予圧付与手段としてのスプリング33によって付与されている予圧は、本実施態様では、下部側部分6bと上刃5の自重成分によってピン31周りに作用するモーメントにより接圧センサ32に加わる接圧成分を打ち消すだけの圧力に相当するように設定されている。したがって、接圧センサ32に実際に加わる接圧成分は、つまり、接圧センサ32により実際に検出される接圧は、上刃5の刃先の側面の下刃3の刃先の側面への接触圧そのものとして検出される。ただし、ピン31周りにおける、上刃5の刃先の側面部位までの腕の長さと、下部側部分6bの接圧センサ32への接触部までの腕の長さとの違いにより、接圧センサ32で検出される接圧は、実際の上刃5の刃先の接圧に比べ、上記腕の長さの比率分、機械的に大きく増幅された値として検出されることになる。したがって、増幅されている分、高感度となり、高精度の検出が可能となっている。
【0023】
次に、上記のような個別上刃ホルダ6を用いた切断形態について説明する。
図6は、基本的な概略形態について示している。図6(A)に示すように、ガイド9に沿う方向に個別上刃ホルダ6の位置調整を行うことにより、上刃5の位置を、下刃3に接近する方向、さらには両刃の刃先部が接触する方向、あるいは下刃3から離反する方向、下刃3に対しクリアランスを持つ方向に、自在に調整できる。また、図6(B)に示すように、上刃5と下刃3の刃先部は互いにオーバーラップするように高さ方向の位置関係が調整されるが、例えば、個別上刃ホルダ6に適切な高さ調整機構を設けておけば、該機構の調整により、簡単に最適なオーバーラップ代に調整することが可能になる。
【0024】
また、上記のような下部側部分6bが回動可能な個別上刃ホルダ6の構成としておくことで、例えば、図7(A)に示すように、上刃5の刃先の側面5aと下刃3の刃先の側面3aとの間にクリアランスCを持たせ、両側面を平行にすることも容易に設定でき、いわゆるクリアランスカットの最適な状態を容易に実現できる。また、図7(B)に示すように、上刃5の刃先の側面5aと下刃3の刃先の側面3aとが接触した後に、さらに個別上刃ホルダ6を移動させて上刃5の刃先の側面5aが下刃3の刃先の側面3aの方向にさらに押し込まれようとする際、下刃3は実際には軸方向の位置が固定されているから、個別上刃ホルダ6の上刃回動機構22により、上刃5の刃先を円弧動作により下刃3の刃先の側面3a方向とは反対方向(図7(B)の矢印方向)に逃がすことができる。この状態では、図7(B)に示すように、上刃5の刃先部と下刃3の刃先部との耐摩耗上好ましくない面接触が回避され、上刃5の刃先部の先端5bは下刃3の刃先の側面3aとは接触せず、下刃3の刃先部の先端3bが上刃5の刃先の側面5aに接触する状態となる。このような条件は、耐摩耗性向上、良好な切れ味の面から、好ましい条件であり、このような好ましい条件が、上記個別上刃ホルダ6の上刃回動機構22により、容易にかつ自然に達成される。しかも、前述の如く、このような接圧切断における接圧は、図5に示したような接圧センサ32を含む一連の機構によって、微小接圧が要求される場合にあっても、容易にかつ確実に実現可能である。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明に係るシート状物の切断装置は、丸刃からなる下刃、上刃を使用して帯状シート状物に切断しようとするあらゆるシート状物切断装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0026】
1 ユニット部
2 下刃軸
3 下刃
4 シート状物
5 上刃
6 個別上刃ホルダ
6a 個別上刃ホルダの上部側部分
6b 個別上刃ホルダの下部側部分
7、8 フレーム体
9 ガイド
10 車輪
11 スペーサ
21 クランプ機構部
22 上刃回動機構
23 モータ内蔵部
24 上刃軸
31 ピン
32 接圧センサ
33 予圧付与手段としてのスプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
丸刃からなる下刃を軸方向の所定位置に装着する回転可能な下刃軸と、丸刃からなる上刃を回転可能に保持するとともに前記下刃の刃先の側面に対し上刃の刃先の側面を接離可能に上刃を保持する個別上刃ホルダとを有し、前記下刃軸を回転可能に支持するフレーム体と前記個別上刃ホルダを下刃軸の軸方向と平行な方向に位置調整可能に支持するガイドを有するフレーム体とを一体化し、該一体化フレームを、前記下刃軸および個別上刃ホルダとともに、切断装置の所定箇所に対し進退可能なユニットとして構成したことを特徴とするシート状物の切断装置。
【請求項2】
前記個別上刃ホルダが、該個別上刃ホルダに保持された上刃の刃先の側面が下刃の刃先の側面に接触され接触後にさらに下刃の刃先の側面方向に押し込まれた際、上刃の刃先が円弧動作により下刃の刃先の側面方向とは反対の方向に逃げるように、上刃回動機構を有している、請求項1に記載のシート状物の切断装置。
【請求項3】
前記上刃回動機構に、上刃の刃先の側面の下刃の刃先の側面への接触圧を検出可能な接圧センサが設けられている、請求項2に記載のシート状物の切断装置。
【請求項4】
前記接圧センサが、上刃の刃先の側面の下刃の刃先の側面への接触圧を機械的に増幅可能な位置に設けられている、請求項3に記載のシート状物の切断装置。
【請求項5】
前記上刃回動機構に、前記接圧センサに予め所定圧を付与しておく予圧付与手段が設けられており、該予圧付与手段により付与されている前記所定圧以上の検出圧が、前記接圧センサによって検出される前記接触圧とされる、請求項3または4に記載のシート状物の切断装置。
【請求項6】
前記個別上刃ホルダが、該個別上刃ホルダに保持された上刃を回転駆動するモータを有している、請求項1〜5のいずれかに記載のシート状物の切断装置。
【請求項7】
前記下刃軸が、下刃が所定の間隔で装着されるように下刃間にスペーサを有している、請求項1〜6のいずれかに記載のシート状物の切断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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