説明

シート状物の延伸機

【課題】
信頼性とシート状物の品質を向上させるシート状物の延伸機を提供する。
【解決手段】
熱可塑性を有するシート状物の幅方向両端で向かい合って配置され、相互に連結されて折れ尺状に伸縮しつつ前記シート状物の各端部を把持する複数の等長リンクを略水平面上の略閉じた経路に沿って案内して前記シート状物を入口側から出口側に搬送しつつ延伸した後入口側に戻して走行させる無端リンク装置の対を備えたシート状物の延伸機であって、前記シート状物搬送される空間であってこれを延伸する延伸領域において前記シート状物の上方に配置されてこのシート状物に熱を放射するヒータと、前記ヒータからの熱を受けて加熱される熱伝導性部材から構成され前記シート状物の下方に配置された部材とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状物、例えば熱可塑性樹脂フィルム等を延伸する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の同時二軸延伸機は、特開2000−334832号公報(特許文献1)に記載のように、ガイドレールを挟んでシート状物の延伸力を支える一対のラジアル軸受を設け、ラジアル軸受にガイドレールに設けた凸部が噛み合う溝を設けてリンク装置の自重も同時に支えるようにしリンク装置を支持したものがある。また、ガイドレールの一方の位置を移動可能にしリンク装置の開き角度を規制することが可能にしてある。本方式によれば、グリース封入方式のラジアル軸受を採用することにより外部からの強制給油が不要となり油飛散を未然に防止でき、高速走行も可能となる。また、ガイドレール位置を移動させることによりMD倍率を無段変換可能となる。
【0003】
また、このような従来技術においても、何れ摺動抵抗が増大して徐々にリンク装置にタイミングのズレが発生したり、延伸の繰返し動作の際に等長リンクの連結部の摩耗等による機械的なズレによってズレが発生する。このリンク装置のズレによって、フィルム両端の無端リンク装置の同調が崩れ、延伸フィルム(製品フィルム)の性能低下、ひいては生産性の低下を招いてしまうという問題が有った。
【0004】
このような課題を解決するため、特開2004−155138号公報(特許文献2)に開示される技術のように、シート状物の両端側に配置された無端リンク装置を駆動するシート状物入口側及び出口側のスプロケットの間のガイドレールの延伸区間の最大屈曲部交流にリンク装置を感知するセンサを配置して、このセンサで検知された特定のリンク位置の情報を示す信号に基づいてスプロケットによる駆動を調節するものが知られている。
【0005】
また、近年は、延伸する対象となる熱可塑性のシート状物の材質が多岐にわたり変化しており、種々の材料に応じた適切な条件を実現して延伸することが求められている。例えば、多孔室の薄膜を延伸する場合には、延伸するに好適な温度が、延伸の領域において
320〜330℃以下にされ、予熱の領域においても150℃以上の温度にされている。
【0006】
このような高い温度の条件を実現する上では、内部が所定の温度に調節された室内にシート状物を搬送して、この室内で延伸することが考えられている。例えば、特開2005−16282号公報(特許文献3)では、予備加熱,延伸,冷却の各工程の領域を異なる室として区画して、この領域毎に異なる温度に調節し、このような温度にされた室内に配置された延伸機によりシート状物を搬送しつつ延伸する技術が開示されている。
【0007】
このようなシート状物の加熱に用いる装置は、従来は、ヒータを用いて昇温させた空気をシート状物に吹き付けてシート状物を加熱する熱風循環式が多く用いられてきた。このような従来の技術では、シート状物を吹き付ける熱風の温度を適切な値にすることで、シート状物が最適温度となるようにしていた。しかし、このような温度の高い空気をシート状物に送風するとシート状物がたわみ、延伸の不均一が生起してしまう虞がある。
【0008】
そこで、このような延伸の精度の向上及び加熱装置のコンパクト化の要求から、遠赤外線による輻射式ヒータを用いた加熱装置が考えられている。例えば、特開2005−
16282号公報(特許文献3)では、予備加熱,延伸,冷却の各工程の領域を異なる室として区画して、この領域の特に延伸する領域に輻射式のヒータを配置してシート状物を延伸に適した温度に調節し、このような温度にされた室内に配置された延伸機によりシート状物を搬送しつつ延伸する技術が開示されている。
【0009】
【特許文献1】特開2000−334832号公報
【特許文献2】特開2004−155138号公報
【特許文献3】特開2005−162824号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献3は、高温にされた条件でシート状物を延伸する構成を開示しているとはいえ、各工程の領域に応じて延伸機とシート状物が搬送されるスペースとを一纏まりに区画するに過ぎず、高温に調節された状態で生じる問題点については十分に考慮されていなかった。
【0011】
すなわち、シート状物の種類によっては、延伸に好適な温度がより高温になり延伸機の駆動に好適な温度の範囲と異なる温度の条件となってしまう場合が有る。このような条件で延伸機を駆動するとその機械的な動作に支障を生じてしまうことになる。さらには、このような延伸機の動作に伴うシート状物への延伸機からの影響、例えば、潤滑油の飛散による汚染等の問題が生起してしまう。このような問題点について、従来技術では考慮がされていなかった。
【0012】
さらにまた、上記従来技術では、予備加熱で温風を用いて加熱した際に生じる波打ち等の影響を遠赤外線を用いたヒータによりシート状物を内部加熱することによって打ち消して解消することは開示されているものの、ヒータを使用するものであってもシート状物の表面での温度の不均一さが生じてしまうこと、これを抑制するためのヒータの構成については何ら考慮されていなかった。このため、シート状物を高温で延伸する場合に、信頼性や品質が著しく損なわれてしまうという問題について十分に考慮されていなかった。
【0013】
すなわち、輻射によるヒータを用いて電磁波の透過性が高いシート状物を加熱する場合、輻射のエネルギーはシート状物に効率良く伝わらない。さらに、ヒータが複数のヒータのエレメントが連結されて構成されている場合にはこれらエレメントの配置によれば、シート状物の表面に当たる輻射エネルギーがシート状物の幅方向に均一とならず、シート状物表面に温度のむらが生起してしまい、延伸の性能が不均一となってしまうという問題が生じる点について、上記従来技術では考慮されていなかった。
【0014】
本発明の目的は、シート状物を安定して延伸でき信頼性とシート状物の品質を向上させるシート状物の延伸機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的は、熱可塑性を有するシート状物の幅方向両端で向かい合って配置され、相互に連結されて折れ尺状に伸縮しつつ前記シート状物の各端部を把持する複数の等長リンクを略水平面上の略閉じた経路に沿って案内して前記シート状物を入口側から出口側に搬送しつつ延伸した後入口側に戻して走行させる無端リンク装置の対を備えたシート状物の延伸機であって、前記無端リンク装置の各々は、前記シート状物の入口側であってこのシート状物を搬送して予熱するための予熱領域と、この後流側に配置されこのシート状物を前記経路の末広がり状の部分に沿って搬送し延伸するための延伸領域と、この後流側に配置され前記シート状物を搬送して熱固定するための熱固定領域と、前記経路の内側であって前記シート状物の入口側及び出口側に配置され前記複数の等長リンクを駆動する入口側スプロケット及び出口側スプロケットとを有し、前記シート状物搬送される空間であって前記延伸領域において前記シート状物の上方に配置されてこのシート状物に熱を放射するヒータと、前記ヒータからの熱を受けて加熱される熱伝導性部材から構成され前記シート状物の下方に配置された部材とを備えたシート状物の延伸機により達成される。
【0016】
さらに、前記シート状物の下方に配置された部材が前記シート状物の下面に対向してその幅方向について平行に配置された上面を備えたことにより達成される。
【0017】
さらには、前記シート状物の下方に配置された部材の温度を検出する検出器と、この検出器からの出力に応じて前記ヒータの動作を調節する制御装置とを備えたことにより達成される。
【0018】
さらには、前記シート状物の上方であって前記ヒータとの間に配置され前記シート状物の中央側と幅方向の両端側とで開口率が異なる多孔板を備えたことにより達成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて詳細に説明する。
【実施例】
【0020】
図1乃至図10を用いて本発明に係るシート状物の延伸機の一実施例を説明する。
【0021】
まず、図1乃至図5を用いて、上記実施例の構成の概略を説明する。図1は、本発明のシート状物の延伸機の構成の概略を説明する上面である。図2は、図1に示すシート状物の延伸機のリンク装置の構成の概略を模式的に示す図である。
【0022】
まず、図1および図2を用いて、本発明の実施例に係るシート状物の延伸機1およびこれに用いられるリンク装置の構成について説明する。
【0023】
図1に示す、シート状物の延伸機1は、中央部に延伸する熱可塑性を有する樹脂等から構成されたシート状物が搬送される搬送空間2と、閉じた経路を構成するリンクガイドレール3上を駆動され周回しつつシート状物の両端端部の各々を掴んで搬送し解放する無端リンク装置4,5が搬送空間2のシート状物の搬送方向の両側に配置されている。
【0024】
これらの無端リンク装置4,5では、各々ステージ10,11上に配置され搬送空間2のシート状物の入口側および出口側に配置されたスプロケット6,7,8と、リンクガイドレール3及びこの上を走行するリンク装置200とが備えられ、スプロケット6,7,8の何れか1つが図示しないモータ等の駆動装置と連結されて回転駆動され、これらのスプロケット6,7,8に噛み合わされたリンク装置200がリンクガイドレール3上を摺動して移動する。
【0025】
すなわち、図2に示すように、シート状物の両側に配置された無端リンク装置4または5(図中リンクの一部並びに片側の無端リンクは省略)は、相互に連結されて折れ尺状に形成されシート状物の端部を把持する掴み装置202をそのシート状物側の先端に備えた複数個(多数個)の等長リンク201が連結されて環状に閉じて構成されたリンク装置
200を備えている。このリンク装置200は、シート状物の入口側スプロケット6または7により駆動されてリンクガイドレール3上を走行し、搬送空間2の入口に設けられた開閉ガイド等の開閉手段(図示せず)により掴み装置202が開閉されてシート状物を掴み予熱領域12で延伸に必要な温度にシート状物を加熱しつつリンクガイドレール3の搬送側のレール上を走行する。
【0026】
さらに、後流の延伸領域13において、進行方向に末広がり状に配置されたリンクガイドレール3に案内されて掴み装置同士の間の掴みピッチをP1からP2に徐々に拡大することにより、シート状物を縦横二方向に同時に延伸する。その後、熱固定領域14においてシート状物を所定の温度で熱固定した後、出口に設けられた開閉ガイド等の開閉手段
(図示せず)により掴み装置202を開閉してシート状物から外し、外されたシート状物をそのまま進行させる。さらに、リンク装置200は、出口側のスプロケット8により駆動されリンクガイドレール3の戻り側レール上を走行して入口側スプロケット6に戻るように構成される。
【0027】
即ち、本発明に係るシート状物の延伸機1は、熱可塑性樹脂のシート状物の端部を把持する多数の掴み装置202をシート状物の両側端に具備した無端リンク装置4,5が配置され、該無端リンク装置4,5は折尺状に形成された多数個の等長リンク201が環状に連結されたリンク装置200備えて、シート状物の入口側スプロケット6または7より駆動される。本実施例では、リンク装置200が、シート状物の幅方向両端側で対向して配置された内外周一対のレールからなり進行方向に末広がり状に配置されたリンクガイドレール3に案内されてシート状物を延伸させた後シート状物を外し、搬送空間2出口側のスプロケット8により駆動されて、入口側のスプロケット6に戻るように構成される。なお、無端リンク装置4または5のリンク構成としては、特公平5−4896号公報に記載された無端リンク装置を参照することができる。
【0028】
図3,図4を用いて、本実施例の延伸機100に用いられるリンク装置の構成を、さらに、詳細に説明する。図3は、図1に示す実施例のリンク装置の構成の概略を示す縦断面図である。図4は、図3に示すリンク装置の構成の概略を示す上面図である。特に、図4では、リンク装置200を構成する各等長リンク201が展長した状態を示している。
【0029】
これらの図に示すように、本実施例に係る延伸機100のリンク装置200は、複数
(本実施例では2つ)のリンクガイドレール3上を走行する等長リンク201複数が相互に連結され、これら等長リンク201がリンクガイドレール3の間隔の変化に応じて折れ尺上に伸縮,展長する構成となっている。上記リンクガイドレール3は、図3に示すように台上で上方に凸状になるように配置された断面略矩形状の梁状部材で構成された、内周および外周の側の一対の組になるレールで構成されている。
【0030】
このガイドレール3上方に載せられて配置される等長リンク201は、この等長リンク201がシート状物を把持しつつ走行する搬送側のレールにおいてシート状物に近い方の外周側のレール205にはシート状物を把持する掴み装置202が連結されたジョイント用リンク軸207が配置され、内周側のレール206には掴み装置202を有さないジョイント用リンク軸208が配置される。
【0031】
シート側のリンク軸207と反シート側のリンク軸208とはリンクプレート209及び210により連結される。また、等長リンク201の最大ピッチを制限するチェーンリンク203a,203bは、隣接した反シート側のリンク軸208同士を連結してリンクプレート209の間に設けられている。
【0032】
また、等長リンク201を構成するリンクプレート209,210は、リンク軸207の上で同軸状に連結されており、この軸を中心にした周りに両者が回転して等長リンク
201の形状が変化する。さらに、各リンクプレート209,210は、反シート側のガイドレール206上の端部で各々リンク軸208と連結されるとともに、リンク軸207の下部でリンクアーム209,210と連結されている。このため、上記変形の際に上下のリンクは、同じ形状となるように同期して変形される。
【0033】
リンク軸207,208の最下端には第1の転がり軸受である軸受ローラ211a,
212aを有する軸受ホルダ211,212が連結され、軸受ホルダ211,212の両側、すなわち、軸受ローラ211a,212aの外周部に一対の第2の転がり軸受である鍔付ラジアル軸受213a,213b,214a,214bが取り付けられている。これら鍔付ラジアル軸受213a,213b,214a,214bは等長リンク201の動きを規制するレール205,206の両側面を転動し、かつ、レール205,206の上面と鍔付ラジアル軸受213,214の鍔の接触で等長リンク201の自重を保持するように配置されている。
【0034】
上記の通り、等長リンク201のシート側端部には掴み装置202が配置されている。本実施例の掴み装置は、リンクアーム210のシート側先端に連続した部材として配置されて上下に分岐した2つの腕を備える掴みアーム210aと、この掴みアーム210aに連結されてシート側または反シート側に回転する回動アーム215及び、この回動アーム215の下端に回転可能に連結された上掴み子216,掴みアーム210aの下側のアーム上面に配置されて上掴み子216との間でシート状物を挟んで保持する下掴み子217とを備えている。
【0035】
さらに、回動アーム215の回転軸の上方の部分は、コイルバネ218が係号されてリンクアーム210の上側アームである掴みアーム210aと連結されている。この構成により、回動アーム215の回転に特定方向(本実施例では上掴み子216をシート側に向かわせる方向)について付勢している。シート状物を把持する場合には、コイルバネ218に抗して回動アーム215上端をシート側及び下端を反シート側に移動するように回転させて下掴み子217上にシート状物が位置するようにした後に回動アーム218をコイルバネ218の付勢力を利用して回転させ上掴み子216と下掴み子217との間でシート状物を挟んで保持する。シート状物を開放する場合には、再度上記回動アーム215の回転動作を行わせて上掴み子216,下掴み子217との間を遊離させて隙間を開けた状態でシート状物を下掴み子217上方から移動させる。
【0036】
掴み装置202とガイドレール205,206とこれらの上方で走行するリンクプレート209,210,軸受ホルダ211,212,ラジアル軸受213,214等を含むリンク本体との間は、仕切壁220が配置されており、これらが配置された空間である装置側空間221と搬送空間2とを区画している。つまり、本実施例では、掴み装置202が含まれる搬送空間2とリンク本体を含む無端リンク装置4,5のリンク装置200が配置された装置側空間221とを別の空間にするように壁が配置されて区画されている。
【0037】
この仕切壁220は、高温にされる搬送空間2と装置側空間221とを仕切ることで、これらの間の熱のやりとりを低減することで、温度条件の調節を容易にするとともに装置の駆動、シート状物の品質への悪影響を低減している。また、コイルバネ218は仕切壁218を介してリンクアーム209等に連結せず、掴み装置202を構成する掴みアーム210aと回動アーム215と係号されている。
【0038】
図2の予熱領域12及び熱固定領域14におけるリンク装置200の等長リンク201同士の間隔P1,P2に示すように、等長リンク201が閉じた状態と開いた状態とでは、上方から見た状態で、図上上側のガイドレール205上方においてリンク軸207により相互に連結されたリンクプレート209a,209bの交差角度が異なる。つまり、ガイドレール205,206の両方に係号して走行しリンク軸207で連結された2つのリンクプレート209a,209bは、リンク軸207の位置を支点に走行に伴って相対的に回転して交差の角度が変化可能に構成されている。このときでも、軸受ホルダ211,212に支持された鍔付ラジアル軸受213a,213b,214a,214bは、リンク軸207,208に対する軸受ローラ211a,212aの働き(回動)により、常にレール205,206の両側面に対して実質的に垂直に位置するよう変化する(回動する)、すなわち、ガイドレール205,206の長手方向に対し直交する。
【0039】
従って、本実施例によれば、一対の鍔付ラジアル軸受をガイドレールに対して常に一定の角度にすることができるので、リンクプレート209a,209bの交差角度やガイドレール幅に依存することなくリンク装置200を走行させることが可能となる。
【0040】
図2の延伸領域13においてMD方向の延伸の量(倍率,シート状物の長手方向の倍率)が1.0 より大きくした状態となる。つまり、レール206とレール205との間が接近して等長リンク201のリンクの開き角度が大きくなる。これにより、シート状物は進行方向に延伸される(図中掴み装置は省略)。更に、図示していない部分のガイドレールと図中ガイドレールの連結にはバネ鋼を用いることで、ガイドレールを無端状に配置可能となる。このように等長リンク201は、ガイドレール205,206上の走行に伴って交差角度を増減しつつ伸縮するものである。
【0041】
尚、本実施例ではシート状物をフィルムの進行方向に対して延伸する方法を示したが、図示の左側のレール206とレール205との間を右側での距離を同じくすることで各領域において交差角度を略同一にする、つまり、MD方向の延伸の量を同じにすることも、逆に図上左側でのレール206とレール205との間の距離を右側での距離をよりも接近させてリンク装置の開き角度を図示の左側で小さくすることで、シート状物をフィルムの進行方向に対して収縮させることも可能である。なお、この場合、TD方向にシート状物が延伸される。更に、TD方向の延伸の量(倍率)の無段可変技術(リンクガイドレール3を末広がり状に配置させる構成と組み合わせることで、TD方向,MD方向の延伸の量を自由に設定することが可能である。
【0042】
上記の通り、無端リンク装置4,5の間の搬送空間2は、概略3つの領域に分けられており、入口側から出口側に向かって予熱領域12,延伸領域13,熱固定領域14に分けられる。これらの領域の各々ではシート状物を把持するリンク装置の端部の下方に図示しない複数のブロワが配置されている。各ブロワは、そのシート端側の側方に延在するダクトと連結されて、このダクトから導入される加熱された気体である空気がブロワに導入される。ブロワ内の空間に導入された高温の空気は、ブロワ上部の上方に向けて開口された吹き出し口からその上方を通るシート状物の下面に向けて吹き出される。
【0043】
複数のブロワからこのような高温の空気の供給を受けて、予熱領域12では、シート状物が加熱され高温にされることで、熱可塑性を有するシート状物の変形が容易にされ、後方の領域での変形の際の損傷や変形の偏りの発生等が抑制される。また、この予熱領域
12はシート状物が搬送空間2に導入される入口であり、この入口においてリンクガイドレール3に案内されて駆動されたリンク装置のフィルム側端部がシート状物の端部を把持してリンク装置の周回の動作の方向である搬送空間2の出口側に向かってシート状物を引っ張って搬送を開始する。
【0044】
予熱領域12の後方に隣接する領域である延伸領域13では、シート状物の両端側で向かい合う無端リンク装置4,5のリンクガイドレール3は、一方に対して末広がり状に配置され、このようなリンクガイドレール3に案内されるリンク装置は把持するシート状物の端部を両端の方向に伸ばす(延伸する)ことができる。また、延伸領域13においても、複数のブロワより高温の空気がシート状物下面に供給されて吹き付けられ、シート状物延伸の際の損傷や延伸量の偏りが抑制される。
【0045】
延伸領域13の後方でこれに隣接する領域である熱固定領域14では、無端リンク装置4,5のリンクガイドレール3は、一方に対して予熱領域10の出口部の距離で略並行に配置され、リンク装置に把持されたシート状物は略一定の幅で搬送されるとともに、この領域の下方に配置された複数のブロワからの高温の空気の供給を受けて、所定の量だけ延伸された状態を維持して加熱され、その形状や長さが固定される。
【0046】
熱固定領域14を搬送されたシート状物はその下流端部に配置された出口側のスプロケット8の直前で無端リンク装置4,5から開放され、さらに下流側に移動して延伸機1から取り出される。延伸機1のシート状物の搬送方向下流側には、シート状物を巻き取る巻き取り機等のシート状物を回収する手段が配置されている。あるいは、延伸を受けたシート状物に更なる加工を施すための別の装置が配置されていても良い。
【0047】
なお、本実施例の延伸機1は、シート状物の搬送は両側の無端リンク装置4,5の把持と運動により行われるものであり、延伸機1の無端リンク装置4,5のみの動作のみによってシート状物を搬送しているものであるが、延伸機1の下流側に配置されてこれから取り出されたシート状物を受ける別の装置からの力も受けつつ無端リンク装置4,5の動作によりシート状物を搬送しても良い。
【0048】
また、後述の通り、本実施例では、リンク装置はシート状物の両端側の方向(幅方向,TD方向)についての延伸のみでなく、シート状物の搬送方向(MD方向)にも延伸可能に構成され、また、これらの方向への延伸の倍率を可変に構成されている。すなわち、リンクガイドレール3のフィルム側レール同士の距離を可変に構成することで、フィルム端同士の距離を搬送方向について変化させて幅方向(TD方向)に延伸可能にするとともに、及びこれと半フィルム側レールの間の距離を可変に構成することで、延伸領域13においてリンク装置の開度を可変にして、シート状物の搬送方向(MD方向)についての延伸の量(例えば、延伸倍率)を変更可能に構成している。
【0049】
また、本実施例では、このようなTD方向の延伸の量の変更は、MD方向の変更と独立に行うことが可能であり、またMD方向の延伸の量の変更をTD方向の変更と並行して行うことが可能に構成されている。
【0050】
本実施例では、シート状物の延伸をこれに好適な温度の条件で行うことが必要であり、特に、常温よりも高い温度、本実施例では200℃以上、望ましくは300℃以上で行うことが必要となるため、これを実現する構成を備えている。すなわち、図1に示すように本実施例ではその搬送空間2及び無端リンク装置4,5を覆って内外の環境を区画する延伸チャンバ101が備えられている。
【0051】
この延伸チャンバ101は、延伸機100が据え付けられた製造ラインの建屋の床面上に配置されて、この床面と上,側方を囲む略直方体形状の容器であって、搬送空間2,無端リンク装置4,5の外周側の空間と外部とを区画している。本実施例では、さらに延伸チャンバ101内部に、無端リンク装置4,5及び搬送空間2の各々の予熱領域12,延伸領域13,熱固定領域14に属する空間を、各々予熱装置室102,102′,延伸装置室103,103′,第1熱固定装置室104,104′,第2熱固定装置室105,105′及び予熱搬送室106,延伸搬送室107,第1熱固定搬送室108,第2熱固定搬送室109とを配置して、これら個々を温度条件や雰囲気の条件等環境を区画している。
【0052】
これらの延伸チャンバ101内に配置された各々の室及びその外側であって延伸チャンバ101の容器内の空間では、その温度条件を含む環境が独立して調節可能に成されている。例えば、後述のように、予熱装置室102,102′,延伸装置室103,103′,第1熱固定装置室104,104′,第2熱固定装置室105,105′には、各々に温度が調節された空気を導入する送風ダクト及び排気ダクト114,114′,115,115′,116,116′,117,117′が備えられている。
【0053】
さらに、予熱搬送室106,延伸搬送室107,第1熱固定搬送室108,第2熱固定搬送室109には、それぞれ内部の室の温度を調節してシート状物の温度を適切な範囲に維持できるように、それぞれヒータ110,111,112,113、がその天井面の内側に配置されて、上方から輻射による熱を放射している。さらに、これらの室内には、所定の温度にされた空気がブロワから供給されて、室内全体の温度ムラを抑制してシート状物をより均一な温度に調節している。
【0054】
図5を用いて、本実施例がシート状物を延伸する動作について概略を説明する。図5は、図1に示すシート状物の延伸機の装置各部分の配置の概略を示す縦断面図である。図5(a)は、図1に示すA−A線に示す面における構成を示す縦断面図である。この図では、予熱領域における構成を示しており、シート状物の幅方向の延伸の量が0(延伸の倍率が1.0 )である状態の配置を示す図である。図5(b)は、図1に示すB−B線に示す面における構成を示す縦断面図である。この図では、延伸が行われた後の熱固定領域における構成を示しており、シート状物の幅方向の延伸の量が1以上(延伸の倍率が1.0 以上)である状態での装置の配置を示す図である。
【0055】
図5(a)に示す予熱領域12では、搬送空間2の入口でのシート状物の幅方向の延伸の量が0である。このため、シート状物は、搬送空間2入口と予熱領域12とで、その幅は略同一となっている。
【0056】
すなわち、この予熱領域12では、ここにおける搬送空間2である予熱搬送室106内のシート状物の両端側に配置された予熱装置室102,102′内の無端リンク装置4,5のそれぞれのリンクガイドレール3の対向して面するレール同士は略同じ高さで略並行に配置されており、これらの予熱装置室102,102′内のレール上でこれに案内されて走行するリンク装置200がシート状物側端部を把持する把持装置の把持位置も、略並行となっている。
【0057】
延伸チャンバ101内に配置された予熱装置室102,102′及びこれらの間に配置された予熱搬送室106は、略同一の高さに構成されており、これらの内部にはリンク装置200を含む無端リンク装置4,5及び掴み装置とシート状物の予熱領域12の部分とが配置されている。さらに、これら予熱装置室102,102′及びこれらの間に配置された予熱搬送室106の外側であって延伸チャンバ101の内側の空間には大気圧の雰囲気があり、所定の温度に調節されていても良い。
【0058】
予熱装置室102,102′の外側壁である側壁には送風ダクト402,402′の出口部分が連結されており、この送風ダクト402,402′の入口側の端部は、延伸チャンバ101の外側まで延在している。上記の通り、この送風ダクト402,402′の出口を通して所定の温度にされた空気が、図示しない送風機により延伸チャンバ101の外側から予熱装置室102,102′内の内部空間403,403′に供給される。
【0059】
また、予熱装置室102,102′の天井壁には排気ダクト114,114′の入口側端部が連結されており、この排気ダクト114,114′の出口側端部は延伸チャンバ
101の外側まで延在している。この送風ダクト402,402′の入口を通して予熱装置室102,102′内の内部空間403,403′の空気が延伸チャンバ101の外側に排出される。このような構成により、予熱装置室102,102′の内部空間403,403′内の温度が所定の範囲内となるように調節され、リンク装置200を含む無端リンク装置4,5の温度が適切に調節される。
【0060】
さらに、予熱搬送室106内側であってその内部空間404の上部の天井面の内側にはヒータ110が配置されており、このヒータ110からの輻射熱を中心とする熱が、下方を搬送されるシート状物に対して放射されて所定の範囲の温度となるように加熱される。さらに、上述の通り、図示しないブロワから所定の温度の空気が供給されて内部空間404内の全体の温度のムラを抑制してシート状物の温度をより均一にする。なお、図示されていないがブロワから内部空間404に供給された空気はその天井面の上方の空間であって延伸チャンバ101との間の空間である空間405に移動されてそこからさらに延伸チャンバ101の外側に排出される。
【0061】
このようにして、それぞれが別室として壁部材により区画された予熱装置室102,
102′及び予熱搬送室106内の内部空間403,403′,404は、それらの温度が独立して調節される。本実施例では、例えば、予熱搬送室106内の内部空間の温度は400℃、その両側の内部空間403,403′の温度は、200℃に調節されている。
【0062】
内部空間404は、シート状物の延伸に適した温度400℃に設定されている。このような温度にする場合、機械装置の駆動に問題が生じる場合が有る。例えば、本実施例のようにリンクガイドレール3上をリンク装置200が走行する場合には、各ガイドレール
205,206とリンク装置200のラジアル軸受213,214等の軸受、等長リンク201のリンク軸207,208等の回転部分に用いられた潤滑油等の流体、半流体の部材が温度の影響を受ける。
【0063】
400℃の高温の場合、潤滑油の潤滑性能が低下したり、粘度が著しく低下して流動性が大きくなり、リンク装置200走行時の振動や隙間の圧縮に伴って、表面の潤滑油が飛散して生じた潤滑油の飛抹がシート状物表面に付着してしまい汚染が生起されるといった問題が生じてしまう。
【0064】
これを抑制する上で、本実施例のように予熱,延伸,熱固定の各領域において無端リンク装置4,5及び搬送空間2の各々を別の空間となるように区画して、各空間での温度条件を含む環境を独立して調節可能に構成することが有効である。なお、搬送空間2には、リンク装置200の掴み装置202が搬送空間2と無端リンク装置4,5との間を仕切る仕切壁220の搬送空間2側に配置されて、シート状物をこの空間内で把持している。
【0065】
なお、上記の通り、延伸チャンバ101と予熱装置室102,102′との間の空間
401,401′は、予熱装置室102,102′,予熱搬送室106とは区画されて別の環境にされている。このような空間を備えることで、さらに内側の予熱装置室102,102′,予熱搬送室106を延伸チャンバ101外側から熱的により隔離して温度の調節を独立して行うことを容易にしている。
【0066】
また、ヒータ110は、本実施例では、放熱する棒状に配置された複数のヒータが隣り合わされて配置され放熱する側が面をなしてパネル状にされた構成となって、この放熱面から熱が輻射されて放熱面と対向する下方のシート状物の上面を加熱する構成である。パネル状に配置された放熱面を備えていることから、シート状物の上面全体の加熱の量をより均一にして、シート状物の延伸の特性が局所的に偏ってしまい延伸の量が不均一となってしまうことを抑制している。
【0067】
本実施例では、棒状の各ヒータは、シート状物の幅(TD)方向に配置され、複数のヒータからの輻射熱がシート状物の幅方向に届くように構成される。さらに、各棒状のヒータが同一の発熱量を備えたものでは、シート状物の両端部に伝達される熱の量が小さくなるため、両端側のヒータの出力を中央側のものより大きくなるように調節する、あるいは発熱量の大きなものにする、より小型のヒータで数を多くするように配置してもよい。
【0068】
なお、本実施例の棒状の各ヒータは、内側でシート状物幅方向に線状に延在するヒータ線及びこの上方に配置されてヒータ線からの輻射熱を下方に反射する断面が円弧状で軸方向がヒータ線の線の延在方向に略平行に配置された半円弧筒形状の反射部材を備えている。また、このようなラインヒータの他に、セラミクスパネルから輻射熱を放射するヒータやシーズヒータ等を用いても良い。
【0069】
さらに、本実施例では、内部空間404のヒータ110の放射面の下方にこれと対向して配置された板状の部材411を備え、この板状の部材411がヒータ110から放射されてシート状物を透過してきた輻射熱を受けて加熱された結果生じた熱を上方のシート状物に伝達する構成を備えている。このような板状の部材は、熱伝導率の高い金属製の材料から構成され、内部空間404においてシート状物の下方でその下面に近接して配置されてこの下面に対向して略平行にほぼ全幅にわたり配置された平面状の上面を備えている。
【0070】
このような上方のヒータ110からの輻射熱と下方の板状の部材411からの輻射熱、さらにはブロワからの温風の供給により、シート状物の温度ムラを低減してより均一な温度が実現されている。また、これらに共有される温度の高い空気は、送風ダクト402,402′から無端リンク装置4,5の下方から供給され上方から排気ダクト117,
117′を通り排出される。このような構成は少なくとも延伸搬送室107に配置されている。このようにして、予熱搬送室106のシート状物幅方向の両側に隣接して配置された予熱装置室102,102′内が200℃に維持されて、潤滑の問題の生起や装置の駆動に支障の発生が抑制される。
【0071】
図5(b)に示す熱固定領域14は、延伸領域13においてシート状物の幅方向についての延伸の量が0以上(延燐の倍率が1.0 以上)にされて延伸された後流側であって、リンクガイドレール3は、図5(a)に示される状態と比べて上記幅方向についてシート状物の外側に位置しておりシート状物両端側に位置するリンクガイドレール3同士の距離が大きくなるように配置されている。
【0072】
さらに、本実施例では、熱固定領域14での無端リンク装置4,5のリンクガイドレール3同士は延伸領域13の終端におけるこれらの間の距離を維持して平行に配置されている。これにより、シート状物は、その幅方向の長さを延伸領域13出口のものと略同等に維持されて、その形状を固定するように上方向から加熱されつつ温度をできるだけ一定に維持して熱固定領域14の搬送空間2である第2熱固定搬送室109の出口に搬送された後、延伸チャンバ101から搬出されて冷却領域15において冷却された後リンク装置
200が外される。
【0073】
本図では、熱固定領域14の第2熱固定装置室105,105′及び第2熱固定搬送室109の構成を示しており、図5(a)と同様に、第2熱固定搬送室109に隣接したシート状物幅方向の両側に第2熱固定装置室105,105′が配置された構成を示している。さらに、図5(a)と同様に、第2熱固定装置室105,105′とその外側の延伸チャンバ101との間の空間406,第2熱固定搬送室109の天井面上方の空間であって延伸チャンバ101との間の空間410が配置され、それぞれが所定の温度に調節されている。
【0074】
すなわち、第2熱固定装置室105,105′及びこれらの間に配置された熱固定搬送室109は、略同一の高さに構成されており、これらの内部にはリンク装置200を含む無端リンク装置4,5及び掴み装置とシート状物の予熱領域12の部分とが配置されている。さらに、これら第2熱固定装置室105,105′及びこれらの間に配置された第2熱固定搬送室109の外側であって延伸チャンバ101の内側の空間である406,
406′には大気圧の雰囲気があり、所定の温度に調節されていても良い。
【0075】
図5(a)の場合と同様、第2熱固定装置室105,105′の外側壁である側壁には送風ダクト407,407′の出口部分が連結されており、また、第2熱固定装置室105,105′の天井壁には排気ダクト117,117′の入口側端部が連結されており、この送風ダクト407,407′の出口を通して所定の温度にされた空気が内部空間408,408′に供給され、排気ダクト117,117′の入口を通して第2熱固定装置室
105,105′内の内部空間408,408′の空気が延伸チャンバ101の外側に排出され、内部空間408,408′内の温度が所定の範囲内となるように調節される。
【0076】
本実施例では、第2熱固定搬送室109の内部空間409は400℃、第2熱固定装置室105,105′の内側空間408,408′は200℃に温度が調節されている。このような温度を実現するため、第2熱固定搬送室109の天井面の内側には、ヒータ113が配置されており、このヒータ113からの輻射熱を中心とする熱が、下方を搬送されるシート状物に放射されて所定の範囲の温度となるように加熱される。さらに、内部空間
409のヒータ113の放射面の下方にこれと対向して配置され熱伝導率の高い金属製の材料から構成される板状の部材412を備えている。シート状物の下方でその下面に近接してほぼ全幅にわたり配置された板状の部材412がヒータ113から放射されてシート状物を透過してきた輻射熱を受けて加熱された結果生じた熱を上方のシート状物に伝達する構成を備えている。
【0077】
さらに、上述の通り、図示しないブロワから所定の温度の空気が供給されて内部空間
409内の温度のムラを抑制してシート状物の温度をより均一にする。なお、図示されていないがブロワから内部空間409に供給された空気はその天井面の上方の空間であって延伸チャンバ101との間の空間である空間410に移動されてそこからさらに延伸チャンバ101の外側に排出される。
【0078】
また、ヒータ113は、図5(a)のヒータ110と同様に、棒状に配置された複数のヒータが隣り合わされて配置され放熱する側が面をなしてパネル状にされた構成を有して、この放熱面と対向する下方のシート状物の上面を所定の温度に維持する構成である。このような構成により、シート状物の上面全体の温度を均一化することができ、シート状物の延伸量が不均一となってしまうことを抑制して、シート状物の品質を向上させている。
【0079】
リンク装置200の走行により第2熱固定搬送室109から搬出されたシート状物は、延伸チャンバ101内より低音にされた外側の雰囲気に接触して冷却されて、掴み装置
202の動作により解放されて搬送(MD)方向に搬出される。
【0080】
上記の通り、本実施例では無端リンク装置4,5及び搬送空間2の予熱,延伸,熱固定の各領域を異なる空間として仕切られてその内部の温度の条件を含む環境を独立に調節可能にされた各室に区画されている。さらに、搬送空間2の内側の温度が200℃以上、望ましくは300℃以上の高温にされ、無端リンク装置4,5が配置された空間は200℃というより低い温度に調節された状態で、延伸機100を動作させている。
【0081】
また、予熱搬送室106,延伸搬送室107,第1熱固定搬送室108,第2熱固定搬送室109のそれぞれに、リンク装置200の上方であってシート状物の上方に配置され輻射による熱を放射する加熱器と、シート状物の下方で下面に近接して幅の全体にわたり配置され上方の加熱器からの熱を受け且つ熱を上方に放射する加熱器と、さらには各室内に所定の温度の空気を供給し排出して室内の全体の温度を均一化する循環装置が備えられている。このような構成により、延伸機を安定して動作させるとともにシート状物への悪影響を低減して、信頼性と延伸した結果としての製品の品質とを向上させることができる。
【0082】
次に、上記実施例の予熱搬送室106,延伸搬送室107,第1熱固定搬送室108,第2熱固定搬送室109のそれぞれにおいてシート状物またはリンク装置200の上下に配置された加熱器の構成を図6を用いて説明する。図6は、図1に示す実施例の延伸室内の搬送空間内側の構成の概略を模式的に示す縦断面図である。
【0083】
この図において、延伸チャンバ101内の搬送空間2をシート状物600の搬送方向から見た図となっており、図上垂直方向が搬送方向であり、左右方向が無端リンク装置4,5が配置されているシート状物600の幅方向である。このシート状物600の幅方向の両端部はリンク装置200の掴み装置により把持,開放されるが、詳細な構成は図2乃至図4に説明したものと同等である。
【0084】
シート状物600の上方にはその上面に対向して配置され輻射熱を放射する放射面を備えたヒータ601が配置されている。この放射面からの輻射熱のエネルギーがシート状物に到達して伝達されシート状物が加熱される。一方、輻射のエネルギーはシート状物600に対して反射・吸収・透過のそれぞれに分けられる。本実施例のシート状物600は透明または半透明であり、これに吸収される輻射エネルギーの割合は高くない。残る輻射エネルギーの大部分は透過してしまう。
【0085】
従来の技術においては、このようなヒータ601のシート状物600を挟んだ反対の側(下方側)に反射板を設置したり、別のヒータを設置したりしていたが、反射板では基本的に透過した輻射エネルギーを対称的に放射するもので、上方のヒータ601からの輻射エネルギーの強弱の分布はそのままに上方のシート状物に向けて供給される。あまた、ヒータ601をシート状物600の上下に設置する場合では、ヒータエレメント配置等の影響が相乗的に顕在化することになる。
【0086】
ヒータ601では、複数の小さなヒータ603を有するエレメントを連結して全体として1つのヒータとして構成しても良いが、各エレメントからシート状物600に対して輻射熱が全体的に放射されることから、シート状物600の中央部が受ける熱量は必然的に大きくなりやすい。ここで、シート状物600中央部のエレメントが放射する熱の量と両端側のエレメントの熱の量とを異ならせるように電源602からの出力を調節し、中央部側を小さくすることでシート状物の加熱を幅方向に均一化することも考えられる。
【0087】
一方、このような構成はヒータ601の構造を複雑にし、異なるシート状物600の幅に応じて延伸機1の無端リンク装置4,5間の間隔を変化させる場合にもヒータ601をこれに合わせて構成しなおしたり別のヒータを設置したりする必要が有り、設置,運用のコストが増大してしまう。さらに、リンク装置200に近接する箇所からより大きな熱量が供給され、上記のリンク装置200の信頼性を損なう虞が増大してしまう。
【0088】
本実施例では、図6に示すようにヒータ601により発せられシート状物600を透過した輻射のエネルギーは、シート状物600の下方でその下面に近接してシート状物600のほぼ全幅にわたり配置された板状の部材である蓄熱板604により吸収される構成となっている。この蓄熱板604は、輻射(黒体)率が高くかつ熱伝導率の良い金属等の材質、例えばアルミニウム及びその合金により構成され、ヒータ601から受けた熱が蓄熱板604の内部全体に短時間でかつ均一に伝導され、蓄熱板604の上表面の全体を偏りやムラの少ない温度にすることができる。
【0089】
この蓄熱板604の表面温度はシート状物600の温度以上に保たれており、蓄熱板
604から上方へ放射される均一化された輻射エネルギーによりシート状物600に発生する温度ムラを抑制してこれを加熱することができる。蓄熱板604の上面には、熱の吸収を向上させるため熱の吸収率の高い黒色の部材を配置しても良く、特にシート状物600の幅方向両端側にこれを配置することが有効である。このような構成により、シート状物600の下方に、熱伝導率が高く、加熱されて表面が全体的に均一化される板状の部材を近接して配置することで、シート状物600の上方で離れた位置に配置された輻射によるヒータ601からの熱の不均一を抑制してより均等にシート状物600を加熱してその温度の偏りを抑制できる。
【0090】
本実施例の効果を、従来技術と比較した結果を図9に示す。図9に示す上方の太実線、破線は、本実施例の構成である蓄熱板5使用した場合の結果の例であり、太実線がシート状物600の表面温度、太破線がシート状物600の裏面温度、太一点鎖線がシート状物600の表裏面平均温度T1,ΔT1がシート状物の表裏面最高・最低温度差、Q1がヒータ601への入力容量を示している。
【0091】
また、下方の細実線、破線は、従来の技術に基づくシート状物600の下方に反射板を設置した場合の結果の例であり、細実線がシート状物600の表面温度、細破線が裏面温度、細一点鎖線がシート状物600の表裏面平均温度T2,ΔT2がシート状物600の表裏面最高・最低温度差、Q2がヒータ601への入力容量を示すものである。
【0092】
この図において、従来の技術シート状物600の裏面の温度は常にその表面の温度以下であるが、蓄熱板604を使用した本実施例では太破線で示すシート状物600の裏面温度は太実線で示す表面温度とほぼ同一となり、且つシート状物600の表裏面最高・最低温度差も小さくされシート状物600の幅方向で温度の均一化が達成されている。さらに、シート状物600の表裏面平均温度が従来の技術よりも向上されているにも関わらず、ヒータ601への入力はQ1≦Q2であり加熱の効率が向上される。
【0093】
図7は、図6に示す実施例の構成において、蓄熱板604の表面の温度を検知して出力する温度計701を設置し、この温度計701の出力を受信した結果に基づいて、本温度を一定とするよう電力変換器(サイリスタ)703を介して輻射式ヒータ601の入力電源の動作を調節する温度調節器702を備えている例である。シート状物600の表面の温度は、接触式で測定することは困難であり、放射式温度計等で間接的に測定する場合でもシート状物600の材質や厚さに応じて動作の調整が必要となり、長期間にわたる精度や信頼性を得ることが困難であるという問題が有った。
【0094】
本実施例では、蓄熱板604の表面温度は、平衡した状態においてはシート状物600の表面の温度より所定値だけ高い温度になるとともにこの温度差は安定して実現される。この特性を利用して、シート状物600と蓄熱板604の温度の関係の情報を予め実験等で得ておき、この情報と温度計701からの出力から検出した蓄熱板604表面の温度とに基づいてシート状物600の温度を容易に検出でき、これに基づいて温度調節器702が電源602の動作、ヒータ601の放熱量を調節して精度良くシート状物600の温度の調節を行うことが出来る。特に、シート状物600の輻射吸収率等が延伸によるフィルム厚さの変化で変わった場合においても、蓄熱板604はヒータ601の余熱により加熱されているので、温度バランスを検知してシート状物600が長時間不必要に加熱されることを抑制できる。
【0095】
本実施例の変形例の構成を図8に、さらに、その効果を図10を用いて説明する。図
10に示す上方の太実線、破線は、本実施例の構成である蓄熱板604使用した場合の結果の例であり、太実線がシート状物600の表面温度、太破線がシート状物600の裏面温度、太一点鎖線がシート状物600の表裏面平均温度T1,ΔT1がシート状物の表裏面最高・最低温度差、Q1がヒータ601への入力容量を示している。
【0096】
図8は、上記実施例で示した図6のヒータ601と蓄熱板604の間に多孔板801を設置し、ヒータ601の中央部よりの輻射エネルギーが高い部分からシート状物600へ入射する輻射エネルギーとシート状物600両端側の部分からの輻射エネルギーとを均等になるように調節している。この多孔板801は、シート状物600の中央部と両端側とで孔の面積を異ならせた反射率の高い表面を有する金属製の板状の部材やその目の粗さを異ならせた金網でもよく、シート状物600の上方でヒータ601の放射面との間に配置されている。
【0097】
本変形例の多孔板801は、容易に孔の面積や開口率を調整して形成することができヒータ601の各エレメントの配置等を調整しなくとも単一の構成のヒータ及びエレメントの配置であっても、シート状物600へ直接入射する輻射エネルギーを均一化することができる。また、本多孔板801をシート状物600上方に配置することで、ヒータ601から入射する輻射エネルギーが低くなった領域が発生しても、シート状物600下方に配置した蓄熱板604から得られる均一な輻射エネルギーで補償され、シート状物600の温度むらの生起が抑制される。
【0098】
本変形例の効果を実施例における蓄熱板604のみ使用した構成である図6の構成との効果と比較して図10を用いて説明する。図10において、上方の太実線、破線が変形例の構成である蓄熱板604+多孔板801を備えた場合の結果の例であり、太実線がシート状物600の表面温度、太破線が裏面温度、太一点鎖線が表裏面平均温度T3,ΔT3がシート状物600の表裏面最高・最低温度差、Q3がヒータ601への供給電力を示す。
【0099】
さらに、下方の細実線、及び破線は上記実施例の蓄熱板604のみを備えた場合の結果の例であり、細実線がシート状物600の表面温度、細破線が裏面温度、細一点鎖線が表裏面平均温度T1,ΔT1が表裏面最高・最低温度差、Q1がヒータ601の入力を示している。この図に示すように、蓄熱板604と多孔板801を使用した場合には、蓄熱板604のみを備えたものと比べ、シート状物600の表裏面最高・最低温度差が小さくなり温度の更なる均一化が達成されている。
【0100】
このように、上記実施例によれば、シート状物600裏面に設置した蓄熱板604に透過した輻射エネルギーが蓄積されてその表面が均一化された温度にされる。この蓄熱板
604からの輻射熱によりシート状物600の裏面を均一に加熱すると共に、シート状物600の温度の応答性を向上させて短時間で所望の温度に調節することができる。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本発明のシート状物の延伸機の構成の概略を説明する上面である。
【図2】図1に示すシート状物の延伸機のリンク装置の構成の概略を模式的に示す図である。
【図3】図1に示す実施例のリンク装置の構成の概略を示す縦断面図である。
【図4】図3に示すリンク装置の構成の概略を示す上面図である。
【図5】図1に示すシート状物の延伸機の装置各部分の配置の概略を示す縦断面図である。
【図6】図1に示す実施例の延伸室内の搬送空間内側の構成の概略を模式的に示す縦断面図である。
【図7】図6に示す実施例の変形例を示す縦断面図である。
【図8】図6に示す実施例の変形例を示す縦断面図である。
【図9】図1に示すの実施例に係るシート状物の温度の例を示すグラフである。
【図10】図8に示すの変形例に係るシート状物の温度の例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0102】
1 延伸機
2 搬送空間
3 リンクガイドレール
4,5 無端リンク装置
6,7,8 スプロケット
10,11 ステージ
12 予熱領域
13 延伸領域
14 熱固定領域
15 冷却領域
101 延伸チャンバ
102,102′ 予熱装置室
103,103′ 延伸装置室
104,104′ 第1熱固定装置室
105,105′ 第2熱固定装置室
106 予熱搬送室
107 延伸搬送室
108 第1熱固定搬送室
109 第2熱固定搬送室
110,111,112,113,601,603 ヒータ
114,114′,115,115′,116,116′,117,117′ 排気ダクト
600 シート状物
602 電源
604 蓄熱板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性を有するシート状物の幅方向両端で向かい合って配置され、相互に連結されて折れ尺状に伸縮しつつ前記シート状物の各端部を把持する複数の等長リンクを略水平面上の略閉じた経路に沿って案内して前記シート状物を入口側から出口側に搬送しつつ延伸した後入口側に戻して走行させる無端リンク装置の対を備えたシート状物の延伸機であって、
前記無端リンク装置の各々は、前記シート状物の入口側であってこのシート状物を搬送して予熱するための予熱領域と、この後流側に配置されこのシート状物を前記経路の末広がり状の部分に沿って搬送し延伸するための延伸領域と、この後流側に配置され前記シート状物を搬送して熱固定するための熱固定領域と、前記経路の内側であって前記シート状物の入口側及び出口側に配置され前記複数の等長リンクを駆動する入口側スプロケット及び出口側スプロケットとを有し、
前記シート状物搬送される空間であって前記延伸領域において前記シート状物の上方に配置されてこのシート状物に熱を放射するヒータと、前記ヒータからの熱を受けて加熱される熱伝導性部材から構成され前記シート状物の下方に配置された部材とを備えたシート状物の延伸機。
【請求項2】
請求項1に記載のシート状物の延伸機であって、
前記シート状物の下方に配置された部材が前記シート状物の下面に対向してその幅方向について平行に配置された上面を備えたシート状物の延伸機。
【請求項3】
請求項1または2に記載のシート状物の延伸機であって、
前記シート状物の下方に配置された部材の温度を検出する検出器と、この検出器からの出力に応じて前記ヒータの動作を調節する制御装置とを備えたシート状物の延伸機。
【請求項4】
請求項1乃至3に記載のシート状物の延伸機であって、
前記シート状物の上方であって前記ヒータとの間に配置され前記シート状物の中央側と幅方向の両端側とで開口率が異なる多孔板を備えたシート状物の延伸機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2008−221542(P2008−221542A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−61189(P2007−61189)
【出願日】平成19年3月12日(2007.3.12)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】