説明

シート状物の延伸機

【課題】走行抵抗が小さく走行安定性を維持してリンク装置の浮上がり防止したシート状物の延伸機を提供する。
【解決手段】シート状物の端部を把持する複数の掴み装置を前記シート状物の両側端に具備した無端リンク装置を設け、入口側及び出口側のスプロケットにより駆動され、前記入口側から送り出され平行状態と末広がり状態に配置された案内用ガイドレールに案内されてシート状物を延伸させるシート状物の延伸機において、前記リンク装置の折尺部を構成するリンクプレートの2ヶ所の各ジョイント用リンク軸の下方に前記ガイドレールに接触して移動するリンク軸ホルダを設け、一方のリンク軸側のリンクプレートの端に前記掴み装置を固定け、他方のリンク軸にはリンクプレートを突き抜けた上端に鍔付きローラを回転可能に設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状物、例えば、熱可塑性樹脂フィルム等を延伸するシート状物の延伸機に関する。
【背景技術】
【0002】
シート状物の延伸機は、特許文献1(特開2005−246956号公報)に示すように、案内用ガイドレールに沿って折尺状に形成された複数の等長リンク装置からなる無端リンク装置を駆動して、シート状物を延伸するシート状物の延伸機は、等長リンク装置の折尺部を構成するリンクプレートの結合用の2ヶ所のリンク軸の下端に取付けた一対のラジアル軸受(ローラ)をリンク装置の動きを規制する2本の案内用ガイドレールの両側面を転動するように配置している。
【0003】
上記案内用ガイドレールは進行方向に平行状態と末広がり状態に配置され、各リンクプレートの一方のリンク軸側の端にはシート状物の端部を把持する掴み装置が固定され、案内用ガイドレールに案内されて等長リンク装置が走行することにより、上記各掴み装置によりシート状物がMD方向とTD方向の2方向に同時に延伸される。上記延伸に際しては特にTD方向の延伸によって、上記掴み装置にTD方向と反対方向の反力が加わる。この反力は、上記掴み装置が固定されている側の一方のリンク軸の下方を支点としたモーメントとしてリンクプレートに加わり、リンクプレートの他方側に浮上がり力が作用して走行動作が不安定になる恐れがある。
【0004】
上記特許文献1では、リンクプレートの浮上がりの防止対策は考慮されてないが、リンク装置の浮上がりを防止するため、リンクプレートの上面にスライドプレート又はローラ状の浮上がり防止部材を設け、この浮上がり防止部材に上方から案内ガイドを当接させる等の対策が考えられる。ローラ状の浮上がり防止部材は、リンクプレートに設けた水平軸にローラを軸支しており、リンクプレートの開閉角度によってローラ軸の角度も変わる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−246956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、スライドプレートの浮上がり防止部材は、等長リンク装置の走行時の摺動抵抗が大きくなり、また、ローラ状の浮上がり防止部材は、リンクプレートの開閉角度と共にローラ軸の角度が変わってローラの向きが変わるため、浮上がりを規制する案内ガイドとの接触角によって異音や走行脈動が起り易く、追従性の面で問題がある。
【0007】
本発明は、上記従来技術の欠点に鑑み、走行抵抗が小さく走行安定性を維持してリンク装置の浮上がり防止したシート状物の延伸機を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記課題を解決するため、シート状物の端部を把持する複数の掴み装置を前記シート状物の両側端に具備した無端リンク装置を設け、上記無端リンク装置は折尺状に形成された複数個の等長リンク装置よりなり、入口側及び出口側のスプロケットにより駆動され、前記入口側スプロケットから送り出され進行方向に平行状態と末広がり状態に配置された案内用ガイドレールに案内されてシート状物を延伸させ、延伸後にシート状物を外して前記出口側スプロケットを介して前記入口側スプロケットに戻るように構成されたシート状物の延伸機において、
前記等長リンク装置の折尺部を構成するリンクプレートの2ヶ所の各ジョイント用リンク軸の下方に前記ガイドレールに接触して移動するリンク軸ホルダを設け、一方のリンク軸側のリンクプレートの端に前記掴み装置を固定し、他方のリンク軸にはリンクプレートを突き抜けた上部に鍔付きローラを回転可能に設けたことを特徴とする。
【0009】
また、上記に記載のシート状物の延伸機において、更に前記他方のリンク軸の前記鍔付きローラを突き抜けた上端に抜け止め部材が嵌合していることを特徴とする。
【0010】
また、上記に記載のシート状物の延伸機において、前記鍔付きローラはその鍔部がリンクプレート側に位置するように配置されたことを特徴とする。
【0011】
また、上記に記載のシート状物の延伸機において、前記鍔付きローラは前記各スプロケットに嵌合して駆動されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、案内用ガイドレールに沿って走行するに際し、小さな走行抵抗で安定走行を維持して装置の浮上がりを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明実施例の延伸機の平面図である。
【図2】図1の延伸機の等長リンク装置の断面図である。
【図3】図2のリンク軸の上方を一部断面で示す部分拡大図である。
【図4】図2のリンク軸の下方のリンク軸ホルダの断面図である。
【図5】本発明実施例の延伸機の等長リンクを閉じた状態の平面図である。
【図6】本発明実施例の延伸機の等長リンクを開いた状態の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施例を図で詳細に説明する。まず、本発明の基本形態である同時二軸延伸機を、図1、図2を用いて説明する。
【0015】
図1は本発明の実施例である同時二軸延伸機の平面図で、図2は実施例である等長リンク装置31の断面図で、その構成および動作は以下の通りである。
【0016】
シート状物1の端部を把持する複数(多数)の掴み装置2をシート状物1の両側に具備した無端リンク装置3(図中リンクの一部並びに片側の無端リンクは省略)は、折尺状に形成された複数個(多数個)の等長リンク装置31より構成される。さらに、無端リンク装置3は、シート状物の入口側スプロケット4で駆動される。そして、入口に設けられた開閉ガイド等の開閉手段(図示せず)により掴み装置2が開閉されてシート状物1を掴み、予熱区間(図示せず)で延伸に必要な温度に加熱される。さらに、無端リンク装置3は、延伸区間において、進行方向に末広がり状に配置された案内用ガイドレール5、6に案内されて掴みピッチP1からP2に徐々に拡大することにより、シート状物1を縦横二方向(MD方向およびTD方向)に同時に延伸し、その後、熱処理区間において所定の温度で熱固定し、冷却区間で急冷し、出口に設けられた開閉ガイド等の開閉手段(図示せず)により掴み装置2を開閉してシート状物1を外し、外されたシート状物1はそのまま進行させることになる。さらに、無端リンク装置3は、出口側スプロケット7により駆動されて、入口側スプロケット4に戻るように構成される。
【0017】
即ち、本発明に係るシート状物の延伸機は、熱可塑性樹脂のシート状物1の端部を把持する多数の掴み装置2をシート状物1の両側端に具備した無端リンク装置3を設け、該無端リンク装置3は折尺状に形成された多数個の等長リンク装置31よりなり、シート状物の入口側スプロケット4より駆動され、進行方向に末広がり状に配置された案内用ガイドレール5、6に案内されてシート状物1を延伸させた後シート状物1を外し、出口側スプロケット7により駆動されて、入口側スプロケット4に戻るように構成される。なお、無端リンク装置3における等長リンク装置31の最大ピッチを制限するチェーンリンク25a、25bは,隣接したリンク軸9の間に設けられている。
【0018】
案内用ガイドレール5,6は、図2に示すように凸状部材で断面が矩形に形成され、シート状物側と反シート状物側との一対の組になっている。シート状物側ガイドレール5にはシート状物1を把持する掴み装置2が連結された一方のジョイント用リンク軸8が配置され、他方の反シート側ガイドレール6には掴み装置2を有さない他方のジョイント用リンク軸9が配置される。リンク軸8とリンク軸9は、リンクプレート15及び16を貫通して回転自在にジョイントするためのリンク軸である。
【0019】
リンク軸8,9の最下端にはそれぞれ案内用ガイドレール5、6を跨ぐようにリンク軸ホルダ10,11が取付けられ、リンク軸ホルダ10,11の両側下方にそれぞれ一対の横ローラ(ラジアル軸受)12,13が回転自在に取付けられている。上記横ローラ12,13は、等長リンク装置31の動きを規制する案内用ガイドレール5,6の両側面を挟んで転動するように配置されている。
【0020】
図5と図6はそれぞれ等長リンクが閉じた状態と開いた状態の平面図である。リンク軸ホルダ10,11にそれぞれ取付けられた横ローラ12、13は、その働き(回動)により、常に案内用ガイドレール5,6の両側面に対して実質的に垂直に位置するよう変化する(回動する)。したがって、リンク軸8,9は横ローラ12,13の働き(回動)により案内用ガイドレール5,6の両側面に沿って高速で移動することにより、等長リンク装置31を案内用ガイドレールに案内されて高速走行することが可能となる。
【0021】
図3、図4を用いて掴み装置2を有さない他方のジョイント用リンク軸9とその上方と下方の詳細構造を説明する。
【0022】
図3で、リンク軸9は前述のようにリンクプレート15及び16を貫通して回転自在にジョイントしており、リンクプレートを突き抜けたその上部に鍔付きローラ17がローラベアリング17aを介して回転自在に設けられている。鍔付きローラ17は鍔部17bがリンクプレート16側に位置するように設けられている。リンク軸9は鍔付きローラ17を突き抜けて上端が僅かに突出しており、この突出した上端には鍔付きローラ17の抜け止め用のEリングまたはC形止め輪の抜け止め部材18を嵌合させている。上記の鍔付きローラ17の抜け止めの構成により、リンクプレート16の上面がローラ17の面積の大きい鍔17bによって上方への浮上がりが効果的に阻止される。
【0023】
図1に示すように、鍔付きローラ17は入口と出口を通過するときに、図2に示すように鍔17bの上方の外周が前記スプロケット6、8の歯と歯の間に嵌合して駆動され、無端リンク装置3が走行する。無端リンク装置3の上記駆動に際し、鍔付きローラ17はリンク軸9との間で回転自在なので、スプロケット6、8の歯の間で摺動することがなく駆動抵抗(走行抵抗)を大幅に少なくできる。
【0024】
図4で、リンク軸9の下端に固定されたリンク軸ホルダ11は、段状に高くなった中央部11aと両側部11bからなる。両側部11bには下方に伸びるようにローラ軸13aが突設され、このローラ軸13aにローラベアリングを介して横ローラ13が支持されている。横ローラ13は、前述のように案内用ガイドレール6の両側面6bに当接して回動できるように配置される。6cは案内用ガイドレール6の取付けボルトである。
【0025】
リンク軸ホルダ11の中央部11aには下方に開口した収納穴が形成され、この中に回転自在に取付けられた一対の縦ローラ14が内蔵される。縦ローラは一対で無く1個でも良い。図3に示すように、一対の縦ローラ14は独立に回転できるように取付けられ、案内用ガイドレール6の上面6aの幅方向に離間した位置に当接するように配置される。したがって、前記等長リンク装置31を案内用ガイドレールに案内されて走行するとき、縦ローラ14は等長リンク装置31の垂直荷重を受けながら案内用ガイドレール6の上面6aを回動して移動する。
【0026】
このとき、一対のローラは各等長リンク装置31の垂直荷重を2箇所で水平に受けることができるので、案内用ガイドレール6の長さ方向に並べて配置された多数の等長リンク装置31は捩れることなく水平に保たれ、延伸時にシート状物が上下に波打つことなくを高品質に維持できる。
【0027】
横ローラ13として鍔付ローラ(特許文献1で鍔付ラジアル軸受に相当)を用いて、鍔付ローラの側面と鍔部をそれぞれ、ガイドレール6の両側面6bと上面6aに当接させて走行するように構成すれば、縦ローラ14は不要となる。すなわち、鍔付ローラの鍔部分がガイドレール6の上面6aに当接して、各等長リンク装置31の垂直荷重を受けて走行することができ、案内用ガイドレール6の長さ方向に並べて配置された多数の等長リンク装置31は捩れることなく水平に保たれ、延伸時にシート状物が上下に波打つことなくを高品質に維持できる。
【0028】
図3、図4ではリンク軸9とその下方に設けられたリンク軸ホルダ11の詳細構造を説明したが、リンク軸8とその下方に設けられたリンク軸ホルダ10も同一構成なので説明を省略する。
【0029】
上記構成において、案内用ガイドレールに案内される等長リンク装置31の走行動作について説明する。等長リンク装置31が、シート状物の入口側スプロケット4より駆動されると、リンク軸ホルダ11の横ローラ13と縦ローラ14とが、それぞれ案内用ガイドレール6の側面6bと上面6aに接触して回転しながら移動する。縦ローラ14は等長リンク装置31の垂直荷重を上面6aの2箇所で受けながら移動し、横ローラ13は案内用ガイドレール5、6の進行方向の案内形状に沿って等長リンク装置31を走行案内する。
【0030】
上記案内用ガイドレールの平行部分と末広がり部分を走行することにより、各リンクプレートの一方のリンク軸側の端に固定された掴み装置2が入口でシート状物を把持した状態でMD方向とTD方向の2方向に同時に延伸する。こシート状物の延伸に際しては特にTD方向の延伸によって、上記掴み装置2にTD方向と反対方向の反力が加わる。この反力は、上記掴み装置2が固定されている側の一方のリンク軸8の下方を支点としたモーメントとしてリンクプレート15、16に加わり、リンクプレート15、16の他方側であるリンク軸9付近で、浮上がり力が作用する。
【0031】
本実施例では、前記したようにリンクプレート16上面にローラ17の面積の大きい鍔分17bが配置され、リンク軸9の上端に勘合した抜け止め部材18によりローラ17に抜け止めが施されているので、上方への浮上がりが効果的に阻止される。
【0032】
また、鍔付きローラ17は入口と出口を通過するときに、出入り口のスプロケット6、8の歯と歯の間に嵌合して駆動されて、等長リンク装置31が走行するが、鍔付きローラ17はリンク軸9との間で回転自在なので、スプロケット6、8の歯の間で摺動することがなく駆動抵抗(走行抵抗)を大幅に少なくできる。
【符号の説明】
【0033】
1…シート状物、2…掴み装置、3…無端リンク装置、4…入口側スプロケット、5,
6…案内用ガイドレール、5a…案内用ガイドレールの上面、5b…案内用ガイドレールの両側面、7…出口側スプロケット、8,9…ジョイント用リンク軸、10、11…リンク軸ホルダー、12,13…横ローラ、12a、13a…ローラ軸、14…縦ローラ,15,16…リンクプレート、17…鍔付きローラ、17a…ローラベアリング、17b…鍔部、18…抜け止め部材、31…等長リンク装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状物の端部を把持する複数の掴み装置を前記シート状物の両側端に具備した無端リンク装置を設け、上記無端リンク装置は折尺状に形成された複数個の等長リンク装置よりなり、入口側及び出口側のスプロケットにより駆動され、前記入口側スプロケットから送り出され進行方向に平行状態と末広がり状態に配置された案内用ガイドレールに案内されてシート状物を延伸させ、延伸後にシート状物を外して前記出口側スプロケットを介して前記入口側スプロケットに戻るように構成されたシート状物の延伸機において、
前記等長リンク装置の折尺部を構成するリンクプレートの2ヶ所の各ジョイント用リンク軸の下方に前記ガイドレールに接触して移動するリンク軸ホルダを設け、一方のリンク軸側のリンクプレートの端に前記掴み装置を固定け、他方のリンク軸にはリンクプレートを突き抜けた上部に鍔付きローラを回転可能に設けたことを特徴とするシート状物の延伸機。
【請求項2】
請求項1に記載のシート状物の延伸機において、更に前記他方のリンク軸の前記鍔付きローラを突き抜けた上端に抜け止め部材が嵌合していることを特徴とするシート状物の延伸機。
【請求項3】
請求項1または2に記載のシート状物の延伸機において、前記鍔付きローラはその鍔部がリンクプレート側に位置するように配置されたことを特徴とするシート状物の延伸機。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のシート状物の延伸機において、前記鍔付きローラは前記各スプロケットに嵌合して駆動されることを特徴とするシート状物の延伸機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−230292(P2011−230292A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−99949(P2010−99949)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】