説明

シート状物搬送装置

【課題】一対の無端チェーンに取り付けられたクリップでフィルム(シート状物)の両側端部を把持し、無端チェーンを駆動してフィルムを移動させる機構を有するフィルム延伸機などのシート状物搬送装置において、磨耗により生じる金属粉を抑制し、シート状物への金属粉の付着を抑制する。
【解決手段】クリップCのクリップベース部52が摺接するガイド溝28の表面のうち、クリップベース部52の側方から下方に亘る案内面27aと、クリップベース部52の浮き上がりを規制する26a押さえ面とに、第1供給手段60および第2供給手段70により、潤滑油を供給する。かつ、無端チェーン40,41を駆動するスプロケットにも、第3供給手段により、潤滑油を供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば樹脂フィルムなどのシート状物を幅方向に延伸しつつ搬送するフィルム延伸機などのシート状物搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば樹脂フィルムなどのシート状物を幅方向に延伸しつつ搬送する延伸機として、一対の無端チェーンに取り付けられたクリップでシート状物の両側端部を把持し、無端チェーンをスプロケットにより駆動してシート状物を流れ方向に移動させるとともに、対向するクリップ間の距離を拡げることにより、シート状物を連続的に横延伸する(幅出し)、いわゆるテンター式の横延伸機が知られている(例えば特許文献1および2参照。)。
【0003】
このような横延伸機などのシート状物搬送装置が具備するクリップは、シート状物を把持する把持部を備えたクリップ本体と、把持部よりも下方に形成されたクリップベース部とを有し、クリップベース部が無端チェーンに取り付けられるとともに、ガイドレールのガイド溝に嵌入され、走行するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭59−218820号公報
【特許文献2】特開昭59−48123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このようなシート状物搬送装置の運転時には、クリップのクリップベース部、無端チェーン、ガイド溝などが互いに摺接するとともに、無端チェーンを構成する部材(例えば、ピンリンク、ローラリンクなど。)同士も摺接する。そのため、これらが磨耗して金属粉が発生し、金属粉がシート状物に付着し、シート状物の品質に悪影響を及ぼす場合があった。
金属粉の発生を抑制するためには、ガイドレールのガイド溝に潤滑油を供給する方法があるが、この方法を単に採用しても、金属粉の発生を充分に抑制することは困難であった。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、金属粉の発生を充分に抑制して、シート状物への金属粉の付着を抑制できるシート状物搬送装置の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は鋭意検討した結果、ガイド溝の表面とスプロケットとに、潤滑油を供給することにより、金属粉の発生を効果的に抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明のシート状物搬送装置は、一対のガイドレールと、スプロケットにより駆動され、各ガイドレールに沿って走行する一対の無端チェーンと、各無端チェーンに取り付けられたクリップとを備えたシート状物搬送装置であって、前記クリップは、シート状物の側端部を把持する把持部を備えるクリップ本体と、前記無端チェーンに取り付けられるとともに、前記ガイドレールのガイド溝に摺接しつつ走行するクリップベース部とを有し、前記ガイド溝には、前記クリップベース部の側方から下方に亘って位置し、前記クリップベース部の走行を規制する案内面と、前記クリップベース部の上方への浮き上がりを規制する押さえ面とが形成され、前記案内面に潤滑油を供給する第1供給手段と、前記押さえ面に潤滑油を供給する第2供給手段と、前記スプロケットに潤滑油を供給する第3供給手段とが設けられたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のシート状物搬送装置によれば、金属粉の発生を充分に抑制して、シート状物への金属粉の付着を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態であるフィルム横延伸機(シート状物搬送装置)を概略的に示す平面図である。
【図2】図1のフィルム横延伸機の要部を示す部分縦断面図である。
【図3】図1のフィルム横延伸機の第3供給手段を示す部分拡大平面図である。
【図4】第3供給手段を説明する構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のシート状物搬送装置として、フィルム延伸機を例示して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態であるフィルム横延伸機(以下、横延伸機という。)を概略的に示す平面図であり、この横延伸機10は、一対のガイドレール20,21と、スプロケット30,31,32,33により駆動され、各ガイドレール20,21に沿って走行する一対の無端チェーン40,41と、各無端チェーン40,41に取り付けられた多数のクリップC,C,・・・とを備えている。
なお、図1では、多数のクリップC,C,・・・のうちの一部のみを図示している。
【0011】
この横延伸機10では、多数のクリップC,C,・・・が、水平配置されたフィルム(シート状物)Fの両側端部(幅方向の端部。)を把持した状態において、各無端チェーン40,41をスプロケット30,31,32,33により駆動して走行させ、フィルムFを流れ方向(図中α方向。)に移動させ、搬送する。ここで一対のガイドレール20,21は、延伸ゾーンSにおいて、互いの距離が徐々に大きくなるように配置されている。そのため、延伸ゾーンSでは、対向するクリップC,C,・・・間の距離が拡がってフィルムFが幅方向(図中β方向。)に引っ張られ、フィルムFが連続的に横延伸されるようになっている。
【0012】
各クリップC,C,・・・は、図2に示すように、フィルムFを挟んで把持する把持部51を有するクリップ本体50と、無端チェーン40,41に取り付けられるクリップベース部52とを有している。
クリップ本体50は、把持部51を支持する台座部53を有し、この台座部53の下方に、クリップベース部52が設けられている。また、台座部53には、クリップC,C,・・・の走行方向に対して把持部51の先端側とは反対側において、水平方向に延出する延出片54が形成されている。
【0013】
クリップベース部52は、上板55および下板56と、これらをつなぐ縦板57とを備えた縦断面コ字状に形成され、上板55と下板56とを掛け渡すように垂設された連結ピンPにより、無端チェーン40,41を軸支している。これにより、クリップベース部52は、無端チェーン40,41に取り付けられている。そして、このクリップベース部52が、ガイドレール20,21のガイド溝28に上方より嵌入し、ガイド溝28に沿って走行する。
【0014】
なお、以下、クリップC,C,・・・の走行方向に対して把持部51の先端側を「フィルム側」、延出片54が形成された側を「外側」という場合がある。
【0015】
ガイドレール20,21は、底部23と、底部23から立ち上がるフィルムF側の側壁部24および外側の側壁部25と、外側の側壁部25の上部において、フィルムF側に向けて水平に延出する押さえ板26とを有し、これらに囲まれた部分が、ガイド溝28となっている。
ガイド溝28において、フィルムF側の側壁部24と底部23の表面には、縦断面L字状に摺動板27が配置されている。摺動板27は、クリップベース部52の側方から下方に亘って位置し、その表面は、クリップベース部52の走行を規制する案内面27aとされている。クリップベース部52は、この案内面27aに摺接しつつ走行する。
また、ガイド溝28において、押さえ板26の下面は、クリップC,C,・・・の台座部53に形成された延出片54を上方から押さえる押さえ面26aであり、押さえ面26aが延出片54を押さえることにより、クリップベース部52の走行時における上方への浮き上がりが抑制される。
【0016】
そして、この例の横延伸機10には、その運転時において、クリップベース部52、無端チェーン40,41、ガイド溝28などが互いに摺接したり、無端チェーン40,41を構成する部材同士が摺接したりすることに起因して発生する金属粉を抑制するために、潤滑油を供給する手段が設けられている。
具体的には、案内面27aの表面に潤滑油を供給する第1供給手段60と、押さえ面26aの表面に潤滑油を供給する第2供給手段70と、無端チェーン40,41を駆動するスプロケット31,33に潤滑油を供給する、図1に示す第3供給手段80とが設けられている。
【0017】
第1供給手段60は、潤滑油を案内面27aの上部に供給する第1供給管61を具備している。第1供給管61は、その先端が案内面27aと面一になるように、摺動板27の裏面側(案内面とは反対側の面。)から挿入配置されている。
第2供給手段70は、潤滑油を押さえ面26aに供給する第2供給管71を具備している。第2供給管71は、その先端が押さえ面26aと面一になるように、押さえ板26の上面側から挿入配置されている。
そして、この例では、第1供給管61および第2供給管71の上流側には潤滑油を貯蔵する給油タンク(図2おいては図示略。)が配置され、給油タンクの潤滑油が、第1供給管61および第2供給管71をそれぞれ経て、これらの各先端から、案内面27aと押さえ面26aとに供給されるようになっている。
【0018】
第3供給手段80は、この例では図1に示すように、4つのスプロケット30,31,32,33のうち、フィルムFの流れ方向の下流側に位置する2つのスプロケット31,33に対して潤滑油を噴霧するように設けられている。
【0019】
具体的には、図3にスプロケット31および無端チェーン40の部分拡大平面図を示して説明するように、第3供給手段80は、先端から潤滑油を霧状に噴霧して、スプロケット31の歯に付着させるミストノズル81を具備している。
ミストノズル81には、図4に示すように、給油タンク82からの潤滑油が配管を経て供給されるようになっている。この例では、配管の途中に、該配管を2つに分岐するとともに、分岐された各ラインからの潤滑油の吐出量を調節する吐出量調整バルブ83が設けられている。また、その下流には、分岐され、吐出量が調整された2つのラインの各潤滑油に対して、空気を混合するミキシングブロック84が設けられている。各ミキシングブロック84には、エアレギュレータ85を経て空気が供給され、この空気の作用により、ミストノズル81の先端から吐出される潤滑油が霧状とされる。
【0020】
このような横延伸機10を運転する場合には、図1に示すように、フィルムFの一方の側端部を一方の無端チェーン40に取り付けられたクリップC,C,・・・で把持し、他方の側端部を他方の無端チェーン41に取り付けられたクリップC,C,・・・で把持する。そして、その状態で、各無端チェーン40,41をスプロケット30,31,32,33で駆動する。これにより、フィルムFは水平方向に沿って図中α方向に移動、搬送されつつ、延伸ゾーンSにおいて幅出しされ、横延伸される。
【0021】
その間、第1供給手段60、第2供給手段70、第3供給手段80のそれぞれにより、案内面27a、押さえ面26a、スプロケット31,33に対して、連続的または間欠的に潤滑油を供給する。
第1供給手段60により供給された潤滑油は、案内面27aに沿って流下し、案内面27aとクリップベース部52との間の摩擦を低減する。第2供給手段70により供給された潤滑油は、押さえ面26aの表面に付着し、押さえ面26aと延出片54との間の摩擦を低減する。第3供給手段80により供給された潤滑油は、スプロケット31,33に付着した後、これらのスプロケット31,31により駆動される無端チェーン40,41にも移行し、無端チェーン40,41を構成する部材間の摩擦などを低減する。
【0022】
このような横延伸機10によれば、潤滑油を供給する手段として、案内面27aに潤滑油を供給する第1供給手段60と、押さえ面26aに潤滑油を供給する第2供給手段70と、スプロケット31,33に潤滑油を供給する第3供給手段80とが設けられているため、クリップベース部52、無端チェーン40,41、ガイド溝28などが互いに摺接したり、無端チェーン40,41を構成する部材同士が摺接したりすることで発生する金属粉を効果的に抑制でき、金属粉の付着のない高品質なフィルムを提供できる。
【0023】
なお、この例の第3供給手段80は、4つのスプロケット30,31,32,33のうち、フィルムFの流れ方向の下流側に位置する2つのスプロケット31,33に対して潤滑油を噴霧するように設けられているが、全てのスプロケット30,31,32,33に噴霧する形態でもよいし、フィルムFの流れ方向の上流側に位置する2つのスプロケット30,32に噴霧する形態でもよい。
【0024】
また、この例では、シート状物搬送装置の一例であるフィルム延伸機として横延伸機10を例示したが、無端チェーンとしてパンタグラフ状のユニットを有するものなどを採用して、縦横の同時2軸延伸が可能とされた延伸機であってもよい。
さらには、シート状物搬送装置としては、フィルムを延伸しつつ搬送するフィルム延伸機に限定されず、各種シート状物を搬送する機構を有するものであれば、延伸機構を備えていなくてもよい。
また、シート状物としては、樹脂フィルムなどのフィルムの他、金属シート、紙、不織布なども挙げられる。
【符号の説明】
【0025】
10 フィルム横延伸機(シート状物搬送装置)
20,21 ガイドレール
26a 押さえ面
27a 案内面
28 ガイド溝
30,31,32,33 スプロケット
40,41 無端チェーン
51 把持部
50 クリップ本体
52 クリップベース部
60 第1供給手段
70 第2供給手段
80 第3供給手段
C クリップ
F フィルム(シート状物)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のガイドレールと、スプロケットにより駆動され、各ガイドレールに沿って走行する一対の無端チェーンと、各無端チェーンに取り付けられたクリップとを備えたシート状物搬送装置であって、
前記クリップは、シート状物の側端部を把持する把持部を備えるクリップ本体と、前記無端チェーンに取り付けられるとともに、前記ガイドレールのガイド溝に摺接しつつ走行するクリップベース部とを有し、
前記ガイド溝には、前記クリップベース部の側方から下方に亘って位置し、前記クリップベース部の走行を規制する案内面と、前記クリップベース部の上方への浮き上がりを規制する押さえ面とが形成され、
前記案内面に潤滑油を供給する第1供給手段と、前記押さえ面に潤滑油を供給する第2供給手段と、前記スプロケットに潤滑油を供給する第3供給手段とが設けられたことを特徴とするシート状物搬送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−218832(P2012−218832A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−83615(P2011−83615)
【出願日】平成23年4月5日(2011.4.5)
【出願人】(000106726)シーアイ化成株式会社 (267)
【Fターム(参考)】