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シート状細胞培養物の強度測定システム
説明

シート状細胞培養物の強度測定システム

【課題】 シート状の細胞培養物の強度測定を行う際に、解離状態を機械的に評価することにより測定のバラツキを最小限にする。
【解決手段】 (i)解離処理を受けたシート状細胞培養物の形状の維持状態に関係する情報を取得するセンサー部(ii)センサー部により取得された情報および解離処理時間に基づいてシート状細胞培養物の強度に関する指標を出力する解析部を含む、シート状細胞培養物の強度を測定するためのシステム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状の細胞培養物の強度を測定するためのシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の心臓病に対する治療の革新的進歩にかかわらず、重症心不全に対する治療体系は未だ確立されていない。心不全の治療法としては、βブロッカーやACE阻害剤による内科治療が行われるが、これらの治療が奏功しないほど重症化した心不全には、補助人工心臓や心臓移植などの置換型治療、つまり外科治療が行われる。
このような外科治療の対象となる重症心不全には、進行した弁膜症や高度の心筋虚血に起因するもの、急性心筋梗塞やその合併症、急性心筋炎、虚血性心筋症(ICM)、拡張型心筋症(DCM)などによる慢性心不全やその急性憎悪など、多種多様の原因がある。
【0003】
これらの原因と重症度に応じて弁形成術や置換術、冠動脈バイパス術、左室形成術、機械的補助循環などが適用される。
この中で、ICMやDCMによる高度の左室機能低下から心不全を来たしたものについては、心臓移植や人工心臓による置換型治療のみが有効な治療法とされてきた。しかしながら、これら重症心不全患者に対する置換型治療は、慢性的なドナー不足、継続的な免疫抑制の必要性、合併症の発症など解決すべき問題が多く、すべての重症心不全に対する普遍的な治療法とは言い難い。
【0004】
このような心臓移植の厳しい状況から、一時期、バチスタ手術などの他の外科治療が試みられるようになり、心臓移植の代替治療として大いに注目されるようになったが、最近ではこれらの手術の限界も次第に明らかにされるようになり、手術法の改良や適応の確立への努力が続けられている。
【0005】
このような状況から、重症心不全治療の解決策として新しい再生医療の開発が進められている。
重症心筋梗塞等においては、心筋細胞が機能不全に陥り、さらに線維芽細胞の増殖、間質の線維化が進行し心不全を呈するようになる。心不全の進行に伴い、心筋細胞は傷害されて細胞死に至るが、心筋細胞は殆ど細胞分裂をおこさないため、心筋細胞数は減少し心機能の低下もさらに進む。
このような重症心不全患者に対する心機能回復には細胞移植法が有用とされ、既に自己骨格筋芽細胞による臨床応用が開始されている。
【0006】
しかし、これまで行われてきた移植方法は、細胞の懸濁液を注射器などで直接心筋組織内に注入するものであった。この方法では、移植細胞の70〜80%が失われ、その効果を十分に発揮できないという問題があった。また、不整脈等の副作用の問題があり、大量且つ安全な移植が困難であるという問題があった。さらに、細胞注入箇所で炎症反応がおきることや、局所的な細胞移植しか行えないため、例えば拡張型心筋症のように心臓全体に病変がある場合の治療に限界がある。
近年、これらの問題に対し、組織工学を応用した温度応答性培養皿を用いることによって、成体の心筋以外の部分に由来する細胞を含む心臓に適用可能な三次元に構成されたシート状細胞培養物と、その製造方法が提供された(特許文献1)。
【0007】
このような細胞培養物を臨床応用する場合には、その適用可能性や有効性、安全性などを担保するため、シート状細胞培養物の強度を測定することが必要である。かかる強度測定には、材料の一般的な強度尺度である引っ張り強さが指標として利用され、引っ張り試験、応力・歪み特性の測定、クリープ特性インデンテーション試験などが用いられているのが現状である(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−528755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
シート状の細胞培養物は、ヒト及び動物へ移植し、治療することを目的としているため、移植可能な強度を有していなければならない。しかしながら、本発明者らは、移植用のシート状細胞培養物の研究を進める中で、シート状細胞培養物の中には、脆弱なため、従来用いられる上述のような強度試験による強度測定が困難なものがあることを見出した。したがって、本発明の目的は、従来の強度試験では強度測定が困難なものを含めたシート状細胞培養物一般に広く適用可能な強度測定システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
シート状細胞培養物は、細胞同士が付着(細胞間接着)、あるいは細胞が細胞外マトリックスに付着(細胞−マトリックス接着)することで、シート状の形態を維持しており、この個々の接着の積算として、シート状細胞培養物の強度が確保される。そこで、本発明者らは、シート状細胞培養物の接着を切断する解離処理を受けたシート状培養物の経時的な形状の変化を指標にすることで、強度を測定できること、そしてこれにより、同一の培養条件で作製したシート状培養物の強度を担保できることを見出した。
【0011】
すなわち本発明は、以下に関する。
(1)シート状細胞培養物の強度を測定するためのシステムであって、(i)解離処理を受けたシート状細胞培養物の形状の維持状態に関係する情報を取得するセンサー部(ii)センサー部により取得された情報および解離処理時間に基づいてシート状細胞培養物の強度に関する指標を出力する解析部を含む、前記システム。
(2)シート状細胞培養物が、骨格筋芽細胞を含む、上記(1)に記載のシステム。
(3)解離処理が、化学作用、生化学作用、機械作用または温度調整により行われる、上記(1)に記載のシステム。
(4)解析部が、解離処理を受けたシート状細胞培養物の粒度分布を算出することによりシート状細胞培養物の形状の維持状態を評価する、上記(1)に記載のシステム。
【0012】
(5)シート状細胞培養物の解離処理を行う反応部をさらに含む、上記(1)に記載のシステム。
(6)シート状細胞培養物の強度を測定する方法であって、解離処理を受けたシート状細胞培養物の形状の維持状態および解離処理時間に基づいて、シート状細胞培養物の強度に関する指標を取得する工程を含む、前記方法。
(7)シート状細胞培養物が、骨格筋芽細胞を含む、上記(6)に記載の方法。
(8)(i)シート状細胞培養物を解離処理に供する工程(ii)解離処理を受けたシート状細胞培養物の形状の維持状態に関係する情報を取得する工程(iii)解離処理時間を計測する工程をさらに含む、上記(6)または(7)に記載の方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のシステムによれば、解離処理を受けたシート状細胞培養物の形状の維持状態および解離処理時間を指標にすることで、従来の強度試験の適応が困難だった脆弱なシート状細胞培養物の強度測定が可能となり、同一の培養条件で作製したシート状培養物の強度を担保することができる。また、本システムを用いることにより、かかる強度測定を、簡便・確実かつ自動的に行うことができ、作業者の労力を大幅に削減することができる。さらに、本システムは、細胞培養用のインキュベーターや、シート状細胞培養物の剥離装置、ならびに解離された細胞の特性を解析する装置、例えば細胞数を測定する細胞計数装置(ベックマン社製コールターカウンター)、バイアビリティを測定する生死細胞自動測定装置、純度を測定するフローサイトメーターと一体化することにより、細胞の培養からシート状の細胞培養物の作製、その品質管理までを自動化することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明のシステムの一態様におけるブロック図である。
【図2】図2は、本発明のシステムの一態様における強度測定処理のフロー図である。
【図3】図3は、解離が進んだ、凝集体を含まないシート状細胞培養物の粒度分布図である。
【図4】図4は、解離途上の、凝集体を含むシート状細胞培養物の粒度分布図である。
【図5】図5は、本発明のシステムの一態様の全体図である。
【図6】図6は、本発明のシステムの一態様の部分断面図である。
【図7】図7は、本発明のシステムの一態様における強度測定処理のフロー図である。
【図8】図8は、本発明のシステムの一態様における温度調整サブルーチン処理のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、シート状細胞培養物の強度を測定するためのシステムであって、
(i)解離処理を受けたシート状細胞培養物の形状の維持状態に関係する情報を取得するセンサー部
(ii)センサー部により取得された情報および解離処理時間に基づいてシート状細胞培養物の強度に関する指標を出力する解析部
を含む、システムに関する。
本システムは、シート状細胞培養物の解離処理を行う反応部を任意に含んでいてもよい。
【0016】
本発明のシステムによる強度測定の対象となる「シート状細胞培養物」には、シート状細胞培養物を形成し得る任意の細胞が含まれる。かかる細胞の例としては、限定されずに、筋芽細胞(例えば、骨格筋芽細胞)、心筋細胞、線維芽細胞、滑膜細胞、上皮細胞、内皮細胞などが含まれる。これらのうち、本発明においては、単層の細胞培養物を形成するもの、例えば、筋芽細胞などが好ましい。細胞は、細胞培養物による治療が可能な任意の生物に由来し得る。かかる生物には、限定されずに、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ブタ、ウマ、ヤギ、ヒツジなどが含まれる。また、シート状細胞培養物の形成に用いる細胞は1種類のみであってもよいが、2種類以上の細胞を用いることもできる。本発明の好ましい態様において、細胞培養物を形成する細胞が2種類以上ある場合、最も多い細胞の比率(純度)は、細胞培養物製造終了時において、65%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上である。
【0017】
本発明において、「シート状細胞培養物」は、細胞が互いに連結してシート状になったものをいい、典型的には1の細胞層からなるものであるが、2以上の細胞層から構成されるものも含む。細胞同士は、直接および/または介在物質を介して、互いに連結していてもよい。介在物質としては、細胞同士を少なくとも物理的(機械的)に連結し得る物質であれば特に限定されないが、例えば、細胞外マトリックスなどが挙げられる。介在物質は、好ましくは細胞由来のもの、特に、細胞培養物を構成する細胞に由来するものである。細胞は少なくとも物理的(機械的)に連結されるが、さらに機能的、例えば、化学的、電気的に連結されてもよい。
本発明において強度測定の対象となるシート状細胞培養物は、典型的には、培養基材から剥離された状態のものであるが、少なくとも一部が培養容器などの培養基材に付着した状態であってもよい。前者の場合には、基材から剥離したシート状細胞培養物を入れた容器を本システムの反応容器として利用してもよいし、剥離したシート状培養物を容器から取出し、本システムの反応容器に移し替えてもよい。後者の場合には、シート状細胞培養物を培養装置から培養基材ごと本システムに組み込んでもよい。
【0018】
ここで、「解離処理を受けた」とは、解離処理が最初に開始された後の状態をいい、解離処理を受けている状態、解離処理が中断されている状態、解離処理が終了している状態などを含む。解離処理が中断されている状態とは、例えば、細胞解離剤を添加し、振動を加えてから、振動を一時的に止めた状態や、温度調整などにより細胞解離剤の作用を一時的に止めた状態などを指し、また、解離処理が終了している状態とは、例えば、細胞解離剤を添加し、振動を加えてから、振動を最終的に止めた状態や、解離中和剤や温度調整などにより細胞解離剤の作用を最終的に止めた状態を指す。
【0019】
また、本発明において、シート状細胞培養物は、好ましくは、細胞培養物を構成する細胞由来の物質のみからなり、それら以外の物質を含まない。本発明における、シート状細胞培養物は、同一条件で作製された複数のシート状細胞培養物からなるシート状細胞培養物のロットを代表するものであってもよい。したがって、本システムによりかかるシート状細胞培養物に対してなされた強度測定の結果を、同培養物が属するロット全体に適用することができる。
本発明のシステムは、従来の強度試験が適用困難な脆弱なシート状細胞培養物の強度測定に特に有効である。従来の強度試験である引っ張り試験の測定限界は、一般に1N程度であるため、上記脆弱なシート状細胞培養物としては、例えば、限定されずに、これを下回る強度のものが挙げられる。また、かかる脆弱なシート状培養物を形成する細胞種としては、例えば、限定されずに、筋芽細胞(骨格筋芽細胞など)が挙げられる。しかし当然ながら、本発明のシステムの強度測定対象はこれら脆弱なシート状細胞培養物に限定されず、解離処理により細胞間の解離が生じる任意のシート状細胞培養物をも含むことはいうまでもなく、極めて脆弱なシート状細胞培養物から、従来の強度試験が適用可能な強靱なシート状細胞培養物に至る、あらゆる強度のシート状細胞培養物の強度を同一尺度で統一的に測定できることが、本システムの特徴の一つである。
【0020】
本発明において「反応部」は、そこでシート状細胞培養物の解離が行なわれ、そこから形状の維持状態に関する情報が取得される部分を指し、シート状細胞培養物を収容する反応容器と、これを支持する支持部とを含む。反応容器と支持部は相互に分離していても、一体化されていてもよい。
反応容器は、シート状細胞培養物を収容し、解離処理を行い、形状維持状態関連情報を取得できるものであれば特に限定されず、市販の細胞用容器、例えば、シャーレ、チューブ、フラスコなどであっても、本発明のために特別に作製したものであってもよく、種々の材質、形状および寸法のものを含み得る。シート状細胞培養物の解離を、例えば、培地、生理食塩水、PBSなどの細胞の生存に適した媒体中で、細胞解離剤等を作用させて行う場合には、反応容器の材質は、これらの液体を通過させない性状、細胞解離剤等により劣化しないか、劣化しにくい性状、および/または細胞の状態に影響を与えない性状を有するものが好ましい。また、形状としては1または2以上の面、辺および/または頂点を有する多角体、錐体、球体、半球体、またはこれらの組合わせなどであってもよく、細胞の観察のための少なくとも1の平坦な面を有してもよい。寸法も特に限定されず、シート状細胞培養物の大きさや粒度分布関連情報の取得手法などに応じて適宜決定することができる。好ましい寸法としては、例えば、最大断面積が1〜400cm、4〜225cm、9〜144cm、16〜100cm、25〜81cmであるもの、または、断面の最大径が1〜20cm、2〜15cm、3〜12cm、4〜10cm、5〜9cmであるものなどが挙げられる。反応容器は、複数回使用可能なものであってもディスポーザブルであってもよい。また、反応容器は、その少なくとも1部、例えばその上面が開放されていてもよく、さらに、開放部が、コンタミネーションの回避などのために、所望により蓋などで閉鎖できるようになっていてもよい。
【0021】
支持部は、反応容器を少なくとも安定して支持できる構造を有するものであれば特に限定されず、市販の種々のインキュベーター、恒温槽、ヒートブロック、ホットプレート、シェーカーなどを利用しても、本発明のために特別に作製したものであってもよい。
反応部(反応容器および/または支持部)は、その全体または一部を、光透過性の材質で作製してもよい。少なくとも反応容器を光透過性の材質、特に透明の材質とした場合には、反応容器内のシート状細胞培養物の解離状態に関する光学的情報(例えば、画像、レーザー回折像など)を、反応容器の外部から、反応容器を開放せずに取得することができる。この場合、光学的情報の取得に必要な部分が光透過性であれば、それ以外の部分が遮光性であっても同様の効果が得られる。また、外部の光の影響を遮断するために、反応容器の周囲を遮光性の材料で覆ってもよい。
【0022】
反応部は、反応部内に存在するシート状細胞の形状の維持状態に関係する情報を取得する方法に適した性状のものを利用するか、かかる性状に作製してもよい。また、シート状細胞の形状の維持状態は、解離処理を受けたシート状細胞培養物の粒度分布を測定することにより判断してもよいため、使用する粒度分布測定法に適した性状のものを利用するか、かかる性状に作製してもよい。例えば、粒度分布測定法として光学的情報を利用する画像解析法やレーザー回折散乱法などを利用する場合は、反応容器の少なくとも一部を透明にするか、開放しておいてもよい。また、細胞の状態を均一に測定できるように、反応容器の底面を平坦に作製してもよく、画像取得時やレーザー照射時に細胞同士が平面的に重なり合うことを避けるため、反応容器の底面積を解離処理前のシート状細胞培養物の表面積と同等か、それより広く、例えば、シート状細胞培養物の表面積の1.1倍以上、1.25倍以上、1.5倍以上、2倍以上などとなるように作製してもよい。光学情報取得の際に光源を利用する場合には、反応部、例えば支持部に光源、例えば、ランプ、ランプと接続された光ファイバー、レーザー、光を反射する手段、例えば反射板などを設けてもよい。光源は、例えば、反応容器の光透過性部分近傍の支持部に設けてもよい。光源の位置は、センサー部が画像を良好に取得できれば特に限定されず、反応容器の上方、下方、側方のいずれか、または、複数の光源をこれらの2つ以上の位置に配置することもできる。また、支持部が複数の反応容器を支持できるように作製し、複数の反応容器から同時にまたは順次情報を取得できるようにすることも可能である。
【0023】
電気的検知帯法を利用する場合は、例えば、反応容器を電気的検知帯法用の細孔(アパチャー)を介して少なくとも2つの部分に隔てられた構造とし、解離処理中の細胞を細孔に通し、その際に電圧パルスの変化等のデータを取得できるように作製してもよい。具体的には、例えば、支持部が上記少なくとも2つの部分の高さを調整することにより反応容器内の細胞が自重および重力により生じる水流によって細孔を通過する構造としてもよい。この場合、例えば、細孔で隔てられた2つの部分を互いに上下させることにより、細胞が細孔を介して両部分を往復する構造としてもよい。データは細胞が一方の部分から他方の部分に移動するときと、戻ってくるときの両方で取得してもよいし、いずれか一方で取得してもよい。いずれか一方で取得する場合は、データを取得しない期間のみ開放される、両部分をつなぐ別の連絡部を設けてもよい。別の態様においては、反応容器を略ドーナツ状の形態とし、その少なくとも1箇所に細胞が通過する細孔を設け、反応容器内を循環し、かつ細孔を通過する水流を発生させ、細胞をこの水流に乗せて細孔を通過させる構造としてもよい。上記いずれの態様おいても、細胞の細孔周囲への付着や損傷を回避するために細孔の上流をテーパー形状(すり鉢状)としてもよい。ここで、「上流」とは、細胞の流れる方向を基準としたものであり、細胞が一方向にしか流れない場合は、細孔の対応する側をテーパー形状とすればよく、両方向に流れ得る場合は、細孔の両側をテーパー形状とすればよい。上記のような構造とすることで、液流による細胞同士の解離の促進と、粒度分布関連情報の取得を同時並行で行なうことができる。
【0024】
本発明における「センサー部」は、シート状細胞の形状の維持状態に関係する情報を取得するための部分である。形状の維持状態に関係する情報には、シート状細胞培養物の形状そのものに関係する情報のほか、解離処理を受けたシート状細胞培養物の粒度分布に関係する情報を含んでもよい。したがって、本発明において、形状の維持に着目した「形状の維持状態」は、細胞同士の解離の進み具合を示す「解離状態」と実質的にほぼ同義であり、互換的に用いることがある。粒度分布に関係する情報としては、画像、例えば静止画および動画など、電気信号の変化、レーザー回折像および3次元計測値等が挙げられ、利用する特定の粒度分布の算出手法に適したものを取得することができる。粒度分布の算出手法としては、既知の任意の方法、例えば、画像解析法、レーザー回折散乱法、電気的検知帯法、またはこれらを組み合わせた方法等が利用可能である。
【0025】
画像解析法は、取得した画像を解析して画像に含まれる粒子(例えば細胞など)のサイズや数を測定し、これをもとに粒度分布を算出する手法であり、具体的には、例えば、個々の細胞または細胞塊の輪郭を抽出し、サイズに関する指標、例えば、短軸径、長軸径、定方向折線径(Feret径)、定方向最大径(Krummbein径)、面積等分径(Martin径)、長短平均径、外接長方形相当径、正方形相当径、円相当径(Heywood径)、投影面積などを算出し、これらを集計して粒度分布を算出する。個々の細胞または細胞塊の輪郭を抽出するために、かかる輪郭が強調された画像、例えば、暗視野像、位相差像、微分干渉像などを利用することができる。また、細胞の輪郭を強調するために、細胞質や細胞膜を染色する色素で細胞を染色してもよい。画像解析法は、反応容器内の画像を取得する手段、例えばCCDカメラなどが少なくともあれば実行できるため、装置を簡素化でき、また、設計の自由度も高い。
画像は、反応容器全体から取得してもよいし、反応容器の一部から取得してもよい。反応容器の一部から取得する場合、反応容器の1箇所から取得してもよいし、複数箇所、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10箇所またはそれ以上から取得してもよい。
【0026】
レーザー回折散乱法は、媒体中の粒子(例えば細胞など)にレーザーを照射し、その際に生じるレーザーの回折・散乱像に基づいて粒子分布を算出する方法である。粒子にレーザーを照射すると、粒子のサイズに応じて特有の回折・散乱パターンが生じるため、これを利用して粒子のサイズを推定する。例えば、レーザーの光束に対して粒子が大きい場合、回折・散乱光は前方(レーザーの進行方向)に集中するが、粒子が小さくなるにつれ、回折・散乱光の分布域は側方に広がるようになり、粒子がさらに小さくなると、後方にも広がるようになる。したがって、回折・散乱光の分布(例えば光強度分布など)を検出することにより個々の粒子のサイズを推定することができる。本手法は、回折・散乱光の分布を検出するため、データ処理が比較的単純であり、測定時間も短いため、短時間で粒度分布を算出することができる。このため、粒度分布算出を高頻度で、さらにはリアルタイムで行なうことが容易である。また、検出部の検出位置や検出感度を調節することにより、例えば、あるサイズ以上、またはあるサイズ以下の粒子のみを検出するようにすることもでき、これにより、すべての粒子のデータを取得することなく、必要なデータのみを効率的に取得し、処理効率を高めることが可能となる。
回折・散乱像は、反応容器全体から取得してもよいし、反応容器の一部から取得してもよい。反応容器の一部から取得する場合、反応容器の1箇所から取得してもよいし、複数箇所、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10箇所またはそれ以上から取得してもよい。
【0027】
電気的検知帯法は、電解質溶液中の粒子が細孔を通過する際の細孔内の電解質溶液の電気抵抗(インピーダンス)の変化を利用して粒子の体積を推定する手法である。粒子が細孔を通過する際には、細孔において粒子体積分の電解質溶液が粒子によって置換されることになり、置換された電解質溶液の体積に応じて細孔内の電解質溶液の電気抵抗が変化するため、この変化を、例えば細孔に電流を流し、電圧パルスの変化により計測することができる。本手法は、電気的な測定値を利用するためデータ処理が比較的単純であり、また、細胞または細胞塊の輪郭の抽出が困難な条件であっても適用できる。
【0028】
また、形状の維持状態に関係する情報として、解離処理を受けたシート状細胞培養物の形状そのものに関係する情報を利用してもよい。形状に関する情報としては、シート状細胞培養物の輪郭、寸法、面積、輪郭内部の亀裂や欠落部分などの有無もしくはその形状などが挙げられ、利用する形状評価手法に適したものを取得することができる。形状の評価手法としては、既知の任意の方法、例えば、画像解析法、輝度分析法、またはこれらを組み合わせた方法などが利用可能である。
画像解析法の原理は、粒度分布の算出手法について上記したとおりであるが、形状を評価する場合は、取得した画像を解析して画像に含まれるシート状細胞培養物の輪郭、寸法、面積、輪郭内部の亀裂や欠落部分などの有無もしくはその形状などを描出・測定し、これをもとにシート状細胞の形状を評価する。また、輪郭に関する情報を輝度分析により行ってもよい。具体的には、シート状細胞培養物に光をあて、細胞が存在する部分と存在しない部分の光の反射率や透過率の違いにより生じる反射光や透過光の輝度の差によりシート状細胞培養物の輪郭および/または輪郭内部の亀裂や欠落部分などを特定する。
【0029】
また、動画等から差分画像を抽出することで、シート状細胞培養物の形状の維持状態を評価してもよい。具体的には、例えば、強度測定を開始した時点でのシート状細胞培養物の画像を初期画像、解離処理が進んだ時点でのシート状細胞培養物の画像を測定画像として、2枚の画像からの画素間の差分を測定してもよい。形状の変化が起こった部分は、初期画像と測定画像の差分として現れるため、単に初期画像と測定画像を見比べる場合と比べて、形状の変化を明確に測定することができる。差分値は、微分法等により簡単に計算でき、画像を取得する手段は、例えばCCDカメラなどが少なくともあれば実行できるため装置を簡素化でき、設計の自由度も高い。ビニング技法を用いて、CCDカメラ内の光学素子内で隣合う素子をまとめ、受光面積を大きくし、CCDカメラの感度を上げることにより、被写体の光量が十分でない場合に対応してもよい。また、この技法により、画像のデータサイズを小さくすることができ、処理速度を高めることもできる。
【0030】
センサー部は上記算出方法に必要な情報を取得する手段を含んでもよい。例えば、画像解析法においては、画像を光学的に拡大または縮小するレンズ、CCDカメラ、光源、反射板、増幅器(例えば、光信号増幅器や電気信号増幅器)等を含んでもよい。また、電気的検知帯法においては、電気・電子回路、細胞が通過する細孔(アパチャー)、電気抵抗または電圧パルスを測定する素子、デジタル波形解析処理回路等を含んでもよい。また、レーザー回析散乱法においては、レーザー、フーリエレンズ、マルチディテクター、CMOSセンサー等を含んでもよい。
センサー部はさらに反応部内の環境に関する情報を取得してもよく、例えば、反応部内の温度、湿度、圧力、照度、二酸化炭素濃度、酵素濃度、振動等の情報を計測することができる。
なお、これらの情報(粒度分布関連情報および反応部内環境関連情報を含む)はある特定の時点におけるものでも、一定間隔で得た複数の時点におけるものでも、リアルタイムに取得されたものでもよい。
【0031】
センサー部は反応部と独立していても、これと一体化されていてもよい。例えば、センサー部は、反応容器の上方、側方および/または下方の支持部に設けてもよい。反応部が反応容器を複数有する場合や、本発明のシステムが反応部を複数有する場合、センサー部を反応容器や反応部と同数設けてもよいが、1つのセンサー部に複数の反応容器や反応部を担当させてもよい。この場合、センサー部の設置場所を固定し、反応容器や反応部を対応するセンサー部の測定位置に移動させても、逆に反応容器や反応部を固定し、センサー部を各反応容器や反応部に対応する測定位置に移動させてもよい。前者の場合、例えば、支持部を回転可能に作製することにより、支持部上に環状に並べた複数の反応容器を、支持部を回転させて、順次測定位置に移動させることができる。
【0032】
本発明における「解析部」は、センサー部からの情報を受け取り、その情報を解析する部分である。解析部は、センサー部からの情報を受け取り、その情報を解析するプロセッサおよび解離処理時間を測定する計時手段を少なくとも含むが、記憶部、制御部、入力部および出力部などをさらに含んでもよい。計時手段は、プロセッサに内蔵されていても、プロセッサとは別構成であってもよい。記憶部は、センサー部から受け取った情報、解析結果などを保存する部分であり、種々の電子記憶媒体、例えば、半導体メモリ、ハードディスクなどを含む。制御部は、解析結果に基づき反応調整部などに信号を送る部分であり、信号発生回路などを含む。入力部は、システム利用者または他のシステムが必要に応じて設定パラメータなどの情報を入力する部分であり、種々の入力インターフェース、例えば、電気や光などの信号を他のシステムから受け取る手段(電線、光ファイバー、コネクタ、無線通信装置など)、ボタン、キーボード、タッチパネルなどを含む。出力部は、解析結果に基づき、所定の信号を発する部分であり、種々の出力インターフェース、例えば、電気や光などの信号を他のシステムなどに伝達する手段(電線、光ファイバー、コネクタ、無線通信装置など)、モニタ、プリンタ、表示灯、ブザー、音声合成装置などを含む。入力部と出力部は、入力インターフェースと出力インターフェースとを含む、入出力インターフェースとして一体化してもよく、このために汎用コンピュータを利用してもよい。
【0033】
解析部は、例えば、以下のような処理を行なう。まずセンサー部からの情報を受け取り、シート状細胞培養物の解離状態を測定パラメータとして算出し、設定パラメータと比較する。そして、比較結果からシート状細胞培養物の解離状態を判断し、解離状態と解離処理時間に基づいて、シート状細胞培養物の強度に関する指標を出力する。解離状態の判断に必要な設定パラメータは、あらかじめ決められたものでも、システムの利用者が入力部から入力したものでもよい。また、解離処理前の測定パラメータや、解離処理中、時間的に先に算出した測定パラメータを設定パラメータとしてもよい。
【0034】
シート状細胞培養物の強度に関する指標は、解離処理を受けているシート状細胞培養物が、ある所定の解離状態に達するのに要した時間、所定の設定時間内で到達した解離状態、解離処理前や解離処理中の時間的により前の時点での解離状態に対する、所定の設定時間での解離状態の変化量または変化率、または、これらの各々または組合せに基づく強度値、例えば、前記パラメータの1または2以上をスコア化した強度スコア、強度試験の合否、強度を段階的に区分した強度クラスなどを含んでもよい。
所定の設定時間としては、例えば、限定されずに、0.5〜30分、1〜25分、2〜20分、3〜15分、4〜12分、5〜10分などを採用してもよく、解離状態の変化率としては、例えば、解離処理前の定方向径に対する、解離処理後の測定時のシート状細胞培養物の定方向径の50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上の変化などを採用してもよい。また、所定の解離状態としては、例えば、シート状細胞培養物の面積が、解離処理前の面積の50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上などである状態を採用してもよい。また、解離状態を粒度分布から判断する場合は、単細胞の個数または体積比率が全体の50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上などである状態を採用してもよい。所定の解離状態としてはまた、解離の完了、例えば、粒度分布の変化量または変化率が設定パラメータ未満になる状態を採用してもよい。
【0035】
出力部では設定パラメータ、測定パラメータ、センサー部により取得された画像等をモニタ表示させてもよいし、設定時間の経過を知らせるインジケータを点灯出力させてもよい。強度測定の完了は、ブザーや、音声案内などの音声出力により利用者に知らせることもできるし、電気信号や光信号などを介して他のシステムに伝達することもできる。
【0036】
センサーにより取得された測定パラメータと設定パラメータとの比較は、種々の様式で行なうことができる。例えば、取得した粒度分布関連情報から平均粒径、例えば、限定されずに、個数平均径、長さ平均径、面積平均径、質量平均径、平均表面積径、平均体積径、比表面積球相当径、中位径(メディアン径)、モード径等を算出し、これを対応する設定平均粒径と比較してもよいし、所定粒径以上または所定粒径以下の粒子の個数もしくは体積または全体に対するその比率を対応する設定値と比較してもよいし、粒度分布図の形状を、設定した形状と比較してもよい。細胞同士の解離が十分に進んでいないと、複数の細胞が結合した細胞塊(凝集体)の残存数が多くなるため、解離が完全な状態、すなわち、細胞塊が1つも存在しない状態、または解離が十分に進んでいる状態と比べ、通常は平均粒径は大きく、所定粒径以上の粒子の個数もしくは体積または全体に対するその比率は大きく、そして、粒度分布図は、単細胞の平均粒径を中心とするピークに加え、粒径が大きくなる方向(通常は図の右側)に1または2以上のさらなるピークを有する形状となる。解離処理が進むにつれ、細胞塊は個別の細胞へ解離し、上記測定パラメータは変化していく。そして、上記測定パラメータが設定パラメータに合致したときに、設定値に達したと判断するよう設定することができる。
【0037】
また、測定パラメータと設定パラメータとの比較は、シート状細胞培養物の形状を比較することにより行ってもよい。例えば、解離処理を受けたシート状細胞の輪郭を抽出し、その総延長距離や寸法、面積などを求め、あらかじめ設定された距離や寸法、面積などと比較してもよいし、描出した輪郭と、解離処理前の輪郭や、解離処理中の時間的に前の時点で描出した輪郭との変化を、差分法などにより算出し、その変化量や変化率を設定値と比較してもよい。また、描出した輪郭内の亀裂や欠落部分などの有無、個数、大きさなどを直接、または、スコアリングなどにより指標化して、設定値と比較してもよい。さらに、描出した輪郭内の色度、輝度、光透過率を設定値と比較してもよい。輪郭内に亀裂や欠落部分などが存在する場合、色度、輝度、光透過率の平均値や分布が変化するため、間接的に亀裂や欠落部分の有無や程度を比較することが可能となる。
【0038】
設定パラメータには種々の細胞の解離状態に関するパラメータのみならず、解離反応の特性、解離調整に適した温度、酵素濃度、解離処理時間、振動の振幅や周期等を設定しておくこともできる。また、入力部は操作スイッチを兼ねてもよく、センサー部を介してカメラや光源等を操作して細胞の解離状態を把握し、入力部から最適な設定パラメータを手動で入力して変更してもよい。
【0039】
本発明における「反応調整部」は、反応容器内での細胞の解離を調整する部分である。反応調整部は、化学作用調整部、機械作用調整部および/または環境調整部を含んでもよい。これらは、測定毎の解離条件を一定に保ち、強度測定のバラツキを最小限に抑えるために利用してもよい。
【0040】
化学作用調整部は、反応容器内の細胞の解離反応を化学的/生化学的作用により調整する部分である。化学作用調整部は、反応部内に添加する化学物質、例えばタンパク質分解酵素などの細胞解離剤、細胞解離中和剤、pH調整剤、色素などの量、濃度、添加する場所やタイミングを調整する手段(例えば、プロセッサ、薬品調製装置など)、前記化学物質を添加する手段(例えば、液体注入装置など)、反応容器内の液体を増量または排出する手段(例えば、液体注入装置、液体吸引装置など)などを備えていてもよい。化学作用調整部は、反応容器に細胞解離剤を添加し、解離処理を開始させるよう構成してもよい。また、化学作用調整部は、細胞解離剤が添加された反応容器に細胞解離中和剤、冷却された液体などを加え、解離処理を終了させるよう構成してもよい。さらに、化学作用調整部は、解離処理の進行が遅い場合に、反応容器内の細胞解離剤を増量するよう構成することもできる。細胞解離剤の量は、強度測定のバラツキを最小限に抑えるために、一定に保つことが好ましいが、細胞解離剤を増量する場合には、その影響を解析部で補正して、測定値の比較可能性を担保することもできる。
【0041】
細胞解離剤としては、細胞間の連結を解離できる物質であれば特に限定されず、例えば、タンパク質分解酵素および/またはキレート剤などを用いることができる。タンパク質分解酵素としては、例えば、限定されずに、セリンプロテアーゼ(トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、プラスミン等)、チオールプロテアーゼ(パパイン、カテプシンB、カテプシンH、カテプシンL等)、カルボキシプロテアーゼ(ペプシン、カテプシンD、カテプシンE、レニン等)、メタロプロテアーゼ(コラゲナーゼ、ディスパーゼ等)などが、キレート剤としては、例えば、限定されずに、EDTA、EGTAなどが利用できる。細胞解離剤は、上記成分のいずれか1種を含んでも、2種以上を含んでもよい。
【0042】
細胞解離中和剤としては、例えば、限定されずに、細胞解離剤の濃度を低下させるための、培地、生理食塩水、PBSなどの細胞の生存に適した媒体、細胞解離剤に含まれるタンパク質分解酵素の基質、細胞解離剤に含まれるキレート剤によりキレートされる金属などが挙げられる。
化学作用調整部はまた、細胞同士が平面的に重なり合うことを避けるために、反応容器内の液量を調整することができるように構成してもよい。反応容器内の液量は、例えば、液面検出センサーや重量センサー等で適宜測定することができる。液量を少なくすることで、細胞同士が平面的に重なり合う確率が低くなり、解離状態を画像解析法やレーザー回折散乱法などで評価する場合に有利である。
【0043】
機械作用調整部は、反応容器内の細胞の解離反応を機械的作用により調整するためのものであり、反応容器を振動、回転、上下運動させたり、反応容器内で超音波、水流などを発生させたりする機械作用手段を備え、これを操作して解離反応を調整する。機械作用手段としては、例えば、限定されずに、シェーカー、棒状、板状、プロペラ状などの種々の形状および材質の攪拌子、水流を発生させるポンプ、超音波発生器などが挙げられる。反応容器に機械的作用を加えることで、シート状細胞培養物の解離を促進することができる。加える機械的作用は常に一定であっても、所定の信号、例えば、解析部からの信号に応じて変化させてもよい。機械的作用は、強度測定のバラツキを最小限に抑えるために、一定に保つことが好ましいが、機械的作用を変化させる場合には、その影響を解析部で補正して、測定値の比較可能性を担保することもできる。
本発明のシステムにおいて、解離は化学的/生化学的作用および機械的作用のいずれか、またはこれらの組合わせにより行なうことができる。
【0044】
環境調整部は、反応部内の環境を調整することにより細胞の解離反応を調整するための部分である。環境調整部は、反応部内の環境、例えば、限定されずに、温度、湿度、二酸化炭素濃度、気圧などを調整する。したがって、環境調整部は、限定されずに、温度調整装置(例えば、ヒーター、ペルチェ素子、サーモスタットなどを含む)、湿度調整装置(例えば、除湿装置、加湿装置、湿度計、制御装置などを含む)、二酸化炭素調整装置(例えば、二酸化炭素発生装置、排気装置、制御装置などを含む)、気圧調整装置(例えば、減圧装置、コンプレッサー、制御装置などを含む)などを備えていてもよい。細胞解離剤としてタンパク質分解酵素を用いる場合、環境調整部は、反応容器内の温度を酵素の好適な作用温度に調整・維持して解離反応を開始・進行させてもよく、また、酵素の作用温度外に調整して、解離反応を抑制・停止してもよい。タンパク質分解酵素の至適温度はその種類によって異なり得るが、具体的には、例えば、限定されずに、35〜40℃、36〜39℃、37〜38℃などである。反応容器内の温度調節は、反応容器を直接加熱または冷却することにより行なってもよいし(例えば、反応容器に接触または近接する温度調整装置を介して)、反応容器の周囲(例えば、反応容器を取り巻く空気など)を加熱または冷却することにより行なってもよい。
【0045】
本発明において、本システムは、これら調整部を含んでいてもよいし、含まなくてもよい。例えば、システム外において反応部内の温度調整を環境調整部により行ってもよい。したがって、本発明において、シート状細胞培養物の強度測定システムは、反応部および/または反応調整部を含まなくてもよい。本システムは、例えば、本システムとは別のインキュベーターやシェーカーなどで解離処理を受けたシート状細胞培養物における細胞の解離状態に関係する情報、例えば画像などをセンサー部で取得して、シート状細胞の強度を測定し、利用者などに、音声やインジケータの点灯などで知らせることができる。
【0046】
反応調整部は反応部の内側にあっても外側にあってもよく、一部が内側、一部が外側にあってもよい。例えば、反応調整部は支持部に取り付けられていてもよいし、反応部を支持するか、またはこれを取り囲む構造を有していてもよいし、一部が支持部に取り付けられ、一部が反応部を支持するか、またはこれを取り囲んでいてもよい。具体的には、例えば、支持部と温度調整装置とを一体化させてホットプレート状のものとしてもよく、支持部と機械作用調整部を一体化させてシェーカー状のものとしてもよく、支持部と環境調整部とを一体化させてインキュベーター状のものとしてもよく、また、支持部と機械作用調整部を一体化させたシェーカー状のものを、インキュベーター状の環境調整部の内部に設置してもよいし、支持部と環境調整部とを一体化させたインキュベーター状のものを、シェーカー状の機械作用調整部に搭載してもよい。
このように、本発明のシステムを構成する各構成要素は、所定の目的を達成することができる範囲で様々な様式で配置することができ、必要に応じて組合わせたり、一体化することもできる。
【0047】
図1に、本発明のシステムの一態様のブロック図を示す。本態様において、システムは、反応容器および支持部を含む反応部と、機械作用調整部、化学作用調整部および環境調整部を含む反応調整部と、センサー部、プロセッサ、制御部、記憶部、入力部および出力部を含む解析部とを備え、反応調整部は反応部内に支持部と一体化されて存在し、センサー部は反応容器の上部に位置し、解析部はこれらの外部に、これらと相互に接続された状態で存在しており、設定パラメータ、測定パラメータ、制御信号等の送受信が行なわれるようになっている。いうまでもないが、同ブロック図は本発明のシステムの一態様を示すものにすぎず、同ブロック図とは異なる可能な各部の配置や組合わせが数多く存在することを理解すべきである。
【0048】
図2に、本発明のシステムの一態様における細胞解離の処理フロー図を示す。本態様においては、システムがシート状細胞培養物の強度測定開始指示を受けると、システムは設定パラメータを確認し、細胞解離処理に適したパラメータ(設定パラメータ)を反応調整部に送る。反応調整部内の環境調整部は反応部内の温度を測定し、設定された温度となるように温度調整する。反応調整部内の化学作用調整部は、反応部内に化学/生化学処理を行い、細胞解離剤による細胞間結合の解離を進める。反応調整部内の機械作用調整部は、反応容器に機械的操作、例えば適度な振動等を与え解離を進める。センサー部は反応容器内に存在するシート状細胞の解離状態に関係する情報を取得する。
【0049】
解析部はセンサー部が取得した情報から反応部内に存在するシート状細胞培養物の形状や細胞の粒度分布を算出する。解離が進むと、粒子径の小さい単細胞の割合が支配的となるため、粒度分布は、例えば、図3に示すように単細胞の平均粒径にピークを有するほぼ単峰性のものとなる。一方、解離処理の途中で、未解離の細胞塊(凝集体)が残っている場合は、例えば、図4に示すように粒子径の小さい単細胞のピーク(左側)と、粒子径の大きい凝集体のピーク(右側)とを含むものとなる。さらに解離処理を進めると、凝集体の解離が進み、粒子径の小さい単細胞のピークだけになり、ほぼ変化しなくなる。すなわち粒度分布が経時的に変化しなくなり、安定することは、解離がそれ以上進まないこと、ひいては解離が完了したことを意味する。したがって、本発明の一態様において、解析部は、粒度分布の変化量または変化率が設定パラメータ未満になると、解離が完了したと判断することができる。
【0050】
システムはシート状細胞培養物が所定の解離状態に達したと判断すると、解離処理時間を測定し、シート状細胞培養物の強度に関する指標を出力し、処理フローを終了させる(A)。また、別の方法では、解離処理開始から一定時間をカウントし、前記一定時間後の解離状態や、解離処理前もしくは解離処理中の前記一定時間より前の時点の解離状態に対する、前記一定時間後の解離状態の変化量や変化率に基づいて、シート状細胞の強度に関する指標を出力し、処理フローを終了させる(B)。ここで、反応調整部は解析部とは独立して作動してもよい。たとえば、解析処理中に、反応調整部による温度調整や振動調整が行われていてもよい。
いうまでもないが、同フロー図は本発明のシステムの作動様式の一態様を示すものにすぎず、同フロー図とは異なる作動様式が数多く存在することを理解すべきである。
【0051】
本発明のシステムは、細胞培養用のインキュベーターや、シート状細胞培養物の剥離装置、ならびに解離された細胞の特性を解析する装置、例えば細胞数を測定する細胞計数装置(例えば、ベックマン社製コールターカウンター)、バイアビリティを測定する生死細胞自動測定装置、純度を測定するフローサイトメーターなどと接続および/または一体化してもよい。かかる構成とすることにより、細胞の培養からシート状の細胞培養物の作製、その品質管理までを自動化することが可能となる。
【0052】
本発明はまた、シート状細胞培養物の強度を測定する方法であって、解離処理を受けたシート状細胞培養物の形状の維持状態および解離処理時間に基づいて、シート状細胞培養物の強度に関する指標を取得する工程を含む、前記方法に関する。
【0053】
本方法における解離処理には、シート状細胞培養物を構成する細胞間の連結を解離できる任意の処理が含まれ、具体的には、例えば、培地、生理食塩水、PBSなどの細胞の生存に適した媒体中で、細胞解離剤を作用させて細胞を解離させても、振動や水流、超音波などの機械的作用により細胞を解離させても、この両者を組合わせてもよい。細胞解離剤については、細胞解離システムについて上記したとおりである。細胞解離剤としてタンパク質分解酵素を利用する場合には、シート状細胞培養物を含む反応液の温度を、酵素の好適な作用温度に調整・維持することにより、解離を促進することができる。タンパク質分解酵素の至適温度については、上記したとおりである。また、細胞解離剤の添加後にシート状細胞培養物を媒体中で動かすと、解離が促進される。この操作は、例えば、シート状細胞培養物を入れた容器を振動、回転、上下運動させたり、同容器内で超音波、水流などを発生させたりすることなどにより行なうことができる。また、本方法における解離処理は、上記細胞解離システムの少なくとも反応部および反応調整部を介して行なってもよい。
【0054】
本方法における、解離処理を受けたシート状細胞培養物の細胞の形状維持状態に関係する情報の取得、解離状態の判断、および、シート状細胞培養物の強度に関する指標は、シート状細胞培養物の強度測定システムについて上記したとおりであり、同システムの少なくともセンサー部および解析部を介して行なってもよい。本法の一態様としては、上記で説明した、図2のフロー図が挙げられる。
本方法は、それ自体で完結してもよいが、シート状細胞培養物構成細胞の培養、シート状細胞培養物の作製、培養基材からの剥離、細胞同士の解離、解離された細胞の分析(例えば、生存率、純度など)などの工程を含む、シート状細胞培養物の作製から品質管理に至るフローの一部として組み込まれていてもよい。
【0055】
以下に、本発明の細胞解離システムを図面を参照してより詳細に説明するが、これは本発明の特定の具体例を示すものであり、本発明はこれに限定されるものではない。
図5および6に本発明のシート状細胞培養物の強度を測定するためのシステムの一態様を示す。図5は、システム全体の概要図であり、図6は、フード(5)内の各要素の配置を示す断面図である。本態様においては、シート状細胞培養物(7)を入れた反応容器(1)を、フード(5)内に配置された温度調整機能を有する振動可能な支持部(2)に載せる構造となっており、細胞解離剤等を反応容器に注入する添加ノズル(4)と、反応容器内の画像を取得するカメラ(3)が、反応容器(1)上に配置されている。支持部は、温度測定センサー(9)とペルチェ素子(8)とを備えた温度調整プレート(10)上に反応容器を支持し、反応容器を下側から照らす光源(11)を備えている。光源と反応容器との間に位相差コンデンサ等を設けることにより、反応容器内のコントラスト像を取得することができる。支持部は振動装置と連結され、振動可能となっている。本体(12)内部には、振動装置、試薬タンク、解離状態と解離処理時間に基づいて、強度に関する指標を出力するプロセッサ、電源ユニットが備えられ、本体正面には、入出力インターフェース(6)が設置されている。
【0056】
次に、上記システムにおける細胞解離処理の流れを、図7のフロー図を参照して説明する。シート状細胞培養物を入れた反応容器を支持部に設置した後、システムが、入出力インターフェース(6)から、強度測定開始指示を受けると、システムは初期化処理(K000)として、各要素の正常な作動や、反応容器の温度、反応容器内の液量や液面の高さなどの初期測定パラメータをチェックして、システム初期状態を確認する。システムはその後、初期状態に基づいた設定パラメータの確認(K001)を行う。例えば、反応部内の温度は、システムを初めて利用する場合は室温に近く、断続的に利用している場合は前回の設定温度に近いため、システムは最適な温度調整の時間を設定することができる。また、設定パラメータは入力部から入力されたパラメータや、あらかじめ記憶されているパラメータから設定することもできる。
【0057】
設定パラメータの確認後、システムは反応容器内での細胞の解離反応が一定の状態になるように調整する(K002)。温度調整は、温度調整プレートにより、反応容器内の温度を例えば37℃に調整し、酵素反応等が適切に行われるようにする(K002’)。解離剤量の調整は、酵素反応による細胞間結合の解離を進めるため、反応容器内の解離剤濃度を調整する(K002’’)。振動調整は、解離の速度を調整するために振動装置の振動時間や振幅を調整する(K002’’’)。これらの調整は、順番に行われても、同時に行われても、別々に行われてもよい。また、反応調整は、図8に示す温度調整のためのサブルーチンを含む、様々なサブルーチンの組み合わせとして、強度測定処理のフローとは独立して作動してもよい。すなわち、支持部の温度を常に一定に保った状態で、強度測定が完了した反応容器を取り出し、次の反応容器を入れてもよい。
【0058】
反応調整を適切に行った後、システムは反応容器内に存在する細胞の画像を取得する(K003)。この時、システムは、最適な撮像条件が得られるように、例えば光源を調整したり、カメラの焦点を合わせたりすることができる。また、細胞の輪郭が検出し難い場合や、細胞のバイアビリティなどを同時に測定する場合などには、システムは添加ノズルから細胞染色用の色素を反応容器に注入し、反応容器内の細胞を染色することもできる。その後、システムは、取得した画像から、細胞の大きさ、体積、数量等を測定して解離状態を評価する(K004)。次いで、システムは、シート状細胞培養物の形状や粒度分布を含む測定パラメータを、設定パラメータと比較し(K005)、解離状態(例えば、平均粒径、平均粒径の経時変化量/率、粒度分布パターンなど)が設定値に達しているかを判断する(K006)。
【0059】
設定値に達している場合は、解離処理時間を測定し(K007)、解離状態および解離処理時間に基づいた強度に関する指標を出力する(K008)。
一方、解離状態が設定値に達していないと判断した場合、システムは、解離処理時間が設定値を超過していないか判断し(K010)、超過していない場合には、必要に応じて設定パラメータを変更し(K009)、K001以降の手順を繰り返す。逆に解離処理時間が設定値を超過している場合には、エラーを通知(K012)し、処理を終了する。また、この場合、エラーを通知することなく、設定時間を延長して再度K001〜K006の処理を行なってもよく、その際、反応調整の設定パラメータを変更し、解離剤の増量、振動の強化などにより解離処理を促進してもよい。
【0060】
上記フローにおいて、これら一連の処理は、同時に行ってもよいし、順番を変えて行ってもよいし、そのいくつかを省略してもよい。例えば、温度調整(K002’)を行った後に、測定パラメータと設定パラメータの比較(K005)を行い、解離剤量の調整(K002’’)や振動調整(K002’’’)を行ってもよい。すなわち、反応容器での解離操作を、予め反応部の外で進めておいた後で、システムに収納して解離状態を判断する場合は、測定パラメータと設定パラメータの比較(K005)により、反応調整を行う必要がないと判断して、次の解離剤量の調整(K002’’)や振動調整(K002’’’)を省略したりすることができる。また、上記フローにおいて、解離状態が設定値に達していないと判断(K006)した場合は、システムは測定パラメータと設定パラメータの比較結果(K005)から、最適なパラメータを算出して、設定パラメータを変更(K009)してもよい。
【0061】
以上、本発明の細胞解離システムを説明したが、上記以外の様々な態様が可能である。したがって、上記態様を、本発明の思想を逸脱しない範囲で改変した種々の態様もまた本発明の範囲に包含され、かかる改変は当業者にとっては容易に理解可能である。
【符号の説明】
【0062】
1 反応容器
2 支持部
3 カメラ
4 添加ノズル
5 フード
6 入出力インターフェース
7 シート状細胞培養物
8 ペルチェ素子
9 温度測定センサー
10 温度調整プレート
11 光源
12 本体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状細胞培養物の強度を測定するためのシステムであって、
(i)解離処理を受けたシート状細胞培養物の形状の維持状態に関係する情報を取得するセンサー部
(ii)センサー部により取得された情報および解離処理時間に基づいてシート状細胞培養物の強度に関する指標を出力する解析部
を含む、前記システム。
【請求項2】
シート状細胞培養物が、骨格筋芽細胞を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
解離処理が、化学作用、生化学作用、機械作用または温度調整により行われる、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
解析部が、解離処理を受けたシート状細胞培養物の粒度分布を算出することによりシート状細胞培養物の形状の維持状態を評価する、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
シート状細胞培養物の解離処理を行う反応部をさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
シート状細胞培養物の強度を測定する方法であって、解離処理を受けたシート状細胞培養物の形状の維持状態および解離処理時間に基づいて、シート状細胞培養物の強度に関する指標を取得する工程を含む、前記方法。
【請求項7】
シート状細胞培養物が、骨格筋芽細胞を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
(i)シート状細胞培養物を解離処理に供する工程
(ii)解離処理を受けたシート状細胞培養物の形状の維持状態に関係する情報を取得する工程
(iii)解離処理時間を計測する工程
をさらに含む、請求項6または7に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−29598(P2012−29598A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−170668(P2010−170668)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】