説明

シート状細胞培養物剥離システム

【課題】
強度の低いシート状細胞培養物であっても、皺、破れ、破損およびコンタミネーションなどの危険性を低減して容易に培養容器から剥離することができるシステムを提供することを目的とする。
【解決手段】
(i)シート状細胞を培養している培養容器を収納する収納部
(ii)収納部内の培養容器に振動を与えて、シート状細胞培養物を剥離させる振動部
(iii)培養容器内のシート状細胞培養物の初期状態および振動後の状態を測定するセンサー部
(iv)該センサー部によって測定された初期状態と振動後の状態との測定値の差が設定値を超えた場合に、剥離状態であると解析する解析部
を含むシステムを提供することにより、上記課題が解決された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状の細胞培養物を培養容器から剥離するためのシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の心臓病に対する治療の革新的進歩にかかわらず、重症心不全に対する治療体系は未だ確立されていない。心不全の治療法としては、βブロッカーやACE阻害剤による内科治療が行われるが、これらの治療が奏功しないほど重症化した心不全には、補助人工心臓や心臓移植などの置換型治療、つまり外科治療が行われる。
【0003】
このような外科治療の対象となる重症心不全には、進行した弁膜症や高度の心筋虚血に起因するもの、急性心筋梗塞やその合併症、急性心筋炎、虚血性心筋症(ICM)、拡張型心筋症(DCM)などによる慢性心不全やその急性憎悪など、多種多様の原因がある。
これらの原因と重症度に応じて弁形成術や置換術、冠動脈バイパス術、左室形成術、機械的補助循環などが適用される。
【0004】
この中で、ICMやDCMによる高度の左室機能低下から心不全を来たしたものについては、心臓移植や人工心臓による置換型治療のみが有効な治療法とされてきた。しかしながら、これら重症心不全患者に対する置換型治療は、慢性的なドナー不足、継続的な免疫抑制の必要性、合併症の発症など解決すべき問題が多く、すべての重症心不全に対する普遍的な治療法とは言い難い。
【0005】
このような心臓移植の厳しい状況から、一時期、バチスタ手術などの他の外科治療が試みられるようになり、心臓移植の代替治療として大いに注目されるようになったが、最近ではこれらの手術の限界も次第に明らかにされるようになり、手術法の改良や適応の確立に努力が続けられている。
【0006】
その一方、最近、重症心不全治療の解決策として新しい再生型治療法の展開が不可欠と考えられている。
重症心筋梗塞等においては、心筋細胞が機能不全に陥り、さらに線維芽細胞の増殖、間質の線維化が進行し心不全を呈するようになる。心不全の進行に伴い、心筋細胞は傷害されてアポトーシスに陥るが、心筋細胞は殆ど細胞分裂をおこさないため、心筋細胞数は減少し心機能の低下もさらに進む。
このような重症心不全患者に対する心機能回復には細胞移植法が有用とされ、既に自己骨格筋芽細胞による臨床応用が欧米で開始されている。
【0007】
しかし、実際に細胞移植法により臨床的に心機能を十分に向上させるためには、直接心筋内注入による方法では移植細胞の70〜80%が失われその効果を十分に発揮できない点や、不整脈等の副作用の問題、大量且つ安全な細胞源の確保などの問題点の解決が不可欠であるうえ、細胞注入局所へ炎症を惹起するとともに局所的な細胞移植しか行えないため、例えば拡張型心筋症のように心臓全体の心機能が低下した場合に限界がある。
【0008】
近年、これらの問題に対し、組織工学を応用した温度応答性培養皿を用いることによって、成体の心筋以外の部分に由来する細胞を含む心臓に適用可能な三次元に構成された細胞培養物と、その製造方法が提供された(特許文献1)。
【0009】
このような細胞培養物を、目的とする患部(移植部位)に移植するには、例えば、細胞培養物の端部をピンセット等で摘んで、細胞培養物を包装容器から取り出し、患部まで移送し、その患部に移植(貼付)するといった一連の操作が必要となるが、細胞培養物は、絶対的な物理的強度が低く、皺、破れ、破損などが生じ易いことから、この一連の操作には高度な技術が要求され、かつ細心の注意を払う必要がある。
【0010】
特許文献1に記載の温度応答性培養皿は、培養皿からの細胞培養物の剥離を容易にしたものの、完全に剥離させ得るものではなく、完全な剥離のためにはピペッティングなどの人為的操作が必要となり、コンタミネーションや皺、破れ、破損などが生じる原因となっている。
【0011】
一方、細胞を培養容器から剥離する際に、培養容器内の輝度情報を測定し、かかる輝度情報に基づいてその剥離状態を判定する装置も提供された(特許文献2)。このような装置は、細胞培養容器内に、剥離のためにトリプシンを添加し、細胞を剥離させる系において用いられるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2007−528755号公報
【特許文献2】WO2007/136073
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、ヒト及び動物の疾病、傷病の治療に用いるシート状の細胞培養物を、皺、破れ、破損などを生じることなく、容易に剥離させることができるシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、シート状の細胞培養物を培養した容器に振動を与えることで、コンタミネーションを起こすことなくシート状細胞培養物を容易に剥離可能であることを見出した。しかしながら、過剰の振動はシート状細胞培養物のダメージとなりうることも同時に見出し、さらに鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成させるに至った。
【0015】
すなわち本発明は、シート状細胞培養物を培養容器から剥離するシステムであって、
(i)シート状細胞を培養している培養容器を収納する収納部
(ii)収納部内の培養容器に振動を与えて、シート状細胞培養物を剥離させる振動部
(iii)培養容器内のシート状細胞培養物の状態を測定するセンサー部
(iv)該センサー部によって測定された測定値と初期値との差が設定値を超えた場合に、剥離状態であると解析する解析部
を含む、前記システムに関する。
【0016】
本発明はまた、解析部が、測定値と初期値との差が設定値を超えた場合は振動部の振動を停止する信号を振動部に出力し、設定値を超えない場合は前記信号を出力しない信号出力部を有する、前記のシステムに関する。
本発明はさらに、解析部が、初期値および/または設定値を入力するための入力部を有する、前記のシステムに関する。
本発明はさらに、センサー部が、距離を測定する、前記のシステムに関する。
本発明はさらにまた、収納部が、培養容器の周辺環境を制御し得る制御部を有する、前記のシステムに関する。
また、本発明は、制御部が、温度制御部を含み、培養容器周辺の温度を一定に保つことができる、前記のシステムに関する。
さらに、本発明は、制御部によって、細胞培養に適した環境を保つことができる、前記のシステムに関する。
【0017】
さらにまた、本発明は、シート状細胞培養物を製造する方法であって、
(i)培養容器の表面上で、シート状に細胞を培養する工程、
(ii)(i)の培養容器に振動を与えて、シート状細胞培養物を剥離する工程、および
(iii)培養容器内のシート状細胞培養物の剥離状態を測定するセンサーにより測定された測定値と、振動を与える前の初期値との差が設定した値を超えた場合に、前記振動を停止する工程、
を含む、前記方法に関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明のシステムによれば、培養容器内のシート状細胞培養物を、コンタミネーション、皺、破れ、破損などを生じることなく、容易に剥離することが可能となる。また、培養インキュベーターと一体化することにより、培養によるシートの作成から剥離までの工程を自動化することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明の1つの態様における剥離処理のフロー図を示す。
【図2】図2は、本発明の1つの態様における温度管理のフロー図を示す。
【図3】図3は、本発明の1つの態様における、解析サブルーチンのフロー図を示す。
【図4】図4は、本発明の1つの態様におけるブロック図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、シート状細胞培養物を培養容器から剥離するシステムであって、
(i)シート状細胞を培養している培養容器を収納する収納部
(ii)収納部内の培養容器に振動を与えて、シート状細胞培養物を剥離させる振動部
(iii)培養容器内のシート状細胞培養物の状態を測定するセンサー部
(iv)該センサー部によって測定された測定値と初期値との差が設定値を超えた場合に、剥離状態であると解析する解析部
を含む、前記システムに関する。
【0021】
シート状細胞培養物は、典型的には哺乳動物、例えば、ヒトや家畜等の疾病、傷病の治療等に用いられるものであるが、これに限定されるものではない。細胞培養物とは、典型的には培養した細胞および/またはその産生物で構成されるが、生体の所定部(例えば患部等)を補填および/または支持するための各種の材料(補填材料や支持材料)なども含む。
【0022】
シート状細胞培養物は、任意の細胞種、例えば、限定されずに、筋芽細胞(例えば、骨格筋芽細胞)、心筋細胞、線維芽細胞、滑膜細胞、上皮細胞、内皮細胞などに由来してもよい。本発明においては、治療上の有用性や、慣用の技法によるハンドリングの難しさなどの観点から、例えば骨格筋芽細胞からなるシート状細胞培養物が好ましい。シート状細胞培養物を構成する細胞が由来する動物も特に限定されず、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ブタ、ウマ、ヤギ、ヒツジなどが含まれる。
【0023】
シート状細胞培養物はいわゆる温度応答性培養皿(例えば、特開平2−211865参照)上で培養されて培養皿から剥離されたものでもよいが、これ以外の手法で得られたものであってもよい。したがって、培養容器は、好ましくは温度応答性培養皿であるが、これに限定されない。
【0024】
培養容器の収納部の形状は限定されず、例えば倉庫状のものであってもよく、培養容器を振動台に固定するだけのものであってもよい。倉庫状とは収納部として温度や湿度を制御可能な密閉された空間に一つ以上の配置用棚部材を設け棚部材の上に複数の培養容器を配置できることを意味する。振動部は、収納部の内部にあっても外部にあってもよく、培養容器のみを振動させるものであっても収納部ごと振動させるものであってもよい。振動の種類は限定されないが、好ましくは水平方向の振動、より好ましくは円振動である。本発明に用いることができる振動機としては、例えばTAITEC社製ロータリーシェーカーNR-2などが挙げられる。
シートの損傷の軽減という観点から、振動は必要以上に与えないことが好ましい。したがって振動部は、一定時間後に振動が停止するような機構を備えていてもよいし、後述の解析部または制御部によって振動および/または振動時間を制御されていてもよい。
【0025】
センサー部によって測定される状態には、例えばセンサーとシート上細胞培養物との距離、屈折率、透過率、反射率などが挙げられるが、これに限定されるものではない。本発明に用いることができるセンサーとしては、例えばキーエンス社製レーザー式変位センサーLT-9000などが挙げられる。センサー部に存在するセンサーの個数は限定されないが、好ましくは2つ以上のセンサーを有する。複数のセンサーを有する場合、測定値は各センサーごとに解析されてもよいし、全センサーの測定値の平均値を用いて解析されてもよい。センサー部による測定は、常時測定していてもよいし、一定時間の振動後、振動を一旦停止した後に測定してもよい。
【0026】
前記測定値は、解析部によって解析される前に、解析部内の記録媒体に記録され得る。したがって解析部は、記録部を有していてもよい。記録部としては、例えば磁気テープ、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、フラッシュメモリなど、電気的に記録されるものであってもよいし、例えば紙、写真など、物理的に記録されるものであってもよい。
【0027】
センサー部によって測定された測定値は、解析部において初期値との比較によって解析される。初期値は剥離前の状態を表す数値であり、例えばセンサー部において測定される振動開始前の測定値であってもよいし、使用の形態に応じて入力される任意の値であってもよいし、あらかじめ上記記録部に記録された値でもよい。したがって解析部は入力部を備えていてよい。入力部の形態は、例えばキーボード、センサー(該センサーはセンサー部のセンサーと同一のものであってもよい)、タッチパネルなど、当業者に知られたあらゆる入力部が用いられ得る。
【0028】
振動開始後、センサー部が振動開始後の状態を測定し、その測定値と初期値とを比較することで剥離状態を解析する。測定値と初期値を比較し、その差が設定値を超えた場合に剥離が完了したと判断される。かかる判断は、全センサーで個別に判断されてもよいし、全センサーの平均値を用いて判断されてもよいし、例えば全センサーの平均値の差が設定値を超えかつ中央のセンサーの測定値と初期値との差も設定値を超えた場合に剥離完了と判断するなど、組み合わせて判断されてもよい。
【0029】
設定値は、センサーによって測定される値や望まれる剥離状態に依存して変化するため、設定値は使用の際に任意に入力され得る。設定値の入力部は、上記初期値の入力部と共通であってもよいし、異なっていてもよい。したがって、解析部は初期値および/または設定値を入力するための入力部を有していてよい。前記記録部が入力部を兼ねていてもよい。例えば初期値と測定値に差が生じた場合に剥離と判断する(すなわち設定値=0)など、センサーに応じた固定の初期値および/または設定値を記録部に記録され、かかる記録された値が解析に用いられてもよい。また、振動部の制御を解析部において行ってもよく、前記入力部が該制御のための設定値の入力部を兼ねていてもよい。
【0030】
解析部において、好ましくは初期値と測定値の差が設定値を超えたこと、超えていないこと、または剥離の進捗の度合いが、情報として外部に出力される。したがって解析部は、該情報の出力部を備えていてよい。情報の出力手段としては、例えば外部モニター、ランプ、ブザー、予め登録された携帯電話やインターネットメールアドレスへの送信など、剥離完了の情報を操作する人間に知らせるものであってもよいし、プリンタなど、記録部に出力されるものであってもよい。好ましくは、剥離完了と判断した場合に、解析部から振動部へ振動を停止する信号が出力される。また、該情報は、例えば外部モニターおよび振動部など、複数の箇所へ同時に出力されてもよい。
【0031】
センサー部における測定は、前述のように、例えば距離、屈折率、透過率、反射率などが挙げられるが、利便性や正確性の観点から、好ましくは距離が測定される。ここにおいて測定される距離とは、センサーの位置などに依存して異なるが、例えば振動台と細胞培養物との距離などが挙げられる。
【0032】
収納部は、培養容器の周辺環境を制御し得る制御部を有していてよい。周辺環境とは、これに限定されるものではないが、例えば温度、圧力、湿度、CO濃度などが挙げられる。したがって制御部は、制御すべき設定を入力する入力部や、設定値を記録しておく記録部、現在の周辺環境の状態を測定する測定部、測定部にて測定した情報などを出力する出力部などを有していてよい。また、かかる制御部は、解析部とCPU、入力部、出力部および/または記録部を共有していてもよい。例えば、本発明の1つの態様において、培養容器として前述の温度応答性培養皿を用いることができ、培養容器周辺の温度を剥離に適した範囲に制御することで、剥離効率を上げることが可能となる。
【0033】
また、本発明の1つの態様において、該収納部は、培養容器周辺を細胞培養に適した環境に保つことが可能である。したがって、かかる態様における収納部は、細胞培養インキュベーターとして機能することができる。この態様において、収納部をインキュベーターとして用いて細胞を培養し、培養完了後、細胞培養物を剥離するステップへとそのまま移行することも可能である。
【0034】
したがって、本発明には、シート状細胞培養物の培養から剥離までを自動的に行うシート状培養細胞物の製造方法も本願発明に包含される。前記方法は具体的には、
(i)培養容器の表面上で、シート状に細胞を培養する工程、
(ii)(i)の培養容器に振動を与えて、シート状細胞培養物を剥離する工程、および
(iii)培養容器内のシート状細胞培養物の剥離状態を測定するセンサーにより測定された測定値と、振動を与える前の初期値との差が設定した値を超えた場合に、前記振動を停止する工程、
を含む。
【0035】
本方法において、培養容器の表面上のシート状細胞培養物を剥離するために、培養容器に振動を与えて剥離する。この振動は、与え過ぎるとシート状細胞培養物にダメージを与えることになるため、シート状細胞培養物の剥離状態を1または2以上のセンサーにより監視して、剥離が完了した場合に、前記振動を停止する。前記センサーによる測定値と、振動を与える前の初期値との差が一定の閾値を超えた場合に剥離完了と判断することができるが、該初期値および閾値は任意に設定してよい。
以下に本発明の具体的な態様を列挙するが、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。
【0036】
図1には、本発明の1つの態様における処理のフローチャートを例示する。この例において、収納部は温度制御部を備えた倉庫状の収納部であり、収納部内の温度をTに制御するように設定されている。そしてセンサー部は距離を測定するセンサーを備えている。解析部には、温度制御部のものと共通する入力部を有し、該入力部によって庫内設定温度や剥離判断のための初期値および設定値、振動時間などを入力することが可能である。
本発明のシステムがシート状細胞培養物の剥離開始指示を受けると、制御部がまず収納部内の温度を測定し、設定温度Tに温度調節する(調温サブルーチン)。温度調節が終了すると、剥離完了インジケータが点灯しているか否かを判断する(<H001>)。
【0037】
完了インジケータが点灯している場合、剥離工程の停止指示があるか否かを判断し、指示があれば終了、無ければ調温サブルーチンへと処理が戻り、停止指示を受けるまでTに温度を保つ。
完了インジケータが点灯していない場合、距離センサーによって細胞シートの剥離状態が測定される(<H002>)。解析部の入力部を有さない態様においては、一番最初に測定された測定値を記憶し、剥離状態判断のための初期値とすることもできる。
【0038】
この例において、シートの剥離状態(測定値)が設定値を満たしている(すなわち、測定値と初期値との差が設定値を超えている)場合、シート剥離完了インジケータを点灯し、停止指示有無の判断へと移行する(<H003>)。シートの剥離状態が設定値を満たしていない場合は、振動部に振動開始のシグナルが出力される(<H005>)。一定時間t経過後、振動停止のシグナルを出力し、調温サブルーチンへと戻る。
【0039】
この態様において、調温サブルーチンは振動が止まっている間にのみ作動することとなる。しかしながら、調温サブルーチンは振動とは独立して作動してもよい。例えば振動のルートとは独立して、常に容器の周辺温度を設定温度Tに保つように、振動中も作動していてもよい。
この態様において、解析サブルーチンもまた、振動が停止している間に作動する。しかしながら、解析サブルーチンもまた振動とは独立して作動してもよい。例えば、振動中に常に剥離状態をモニタするように作動してもよい。この場合は、シート剥離完了インジケータ点灯と並列して、振動部に振動停止シグナルを出力する処理が行われる。
【0040】
図中、Tは培養容器周辺の一定に保ちたい温度であり、任意に設定が可能である。一定時間tは振動継続時間であり、これも任意に設定が可能である。またある態様においては、細胞シートの剥離状態を判断するための閾値もまた任意に設定可能である。これら任意に設定可能な値を入力する工程も任意に含み得る。入力工程を含む場合、あらゆる設定値は、その設定値が参照される時までに入力されていればよいが、好ましくは開始指示後、庫内温度が測定されるまでの間に入力される。
【0041】
本発明の収納部は制御部を備えていてもよいため、その一態様において剥離前および/または剥離後の細胞シートを一定温度で保存しておくことが可能である。図2は、保存のために培養容器周辺を一定温度に保つ工程のフロー図を示す。これは、図1における調温サブルーチンに対応するフロー図である。したがって、上記のように調温サブルーチンが剥離作業と独立して作動する態様においては、図2のフロー図に基づいて調温サブルーチンが作動する。かかる態様における停止指示は、図1の態様における停止指示と同一のシグナルでもよいし、異なるシグナルであってもよい。
【0042】
図3は、独立して作動する態様における、解析サブルーチンのフロー図を示す。該サブルーチンにおいて、剥離状態が設定値を満たす場合、シート剥離完了インジケータの点灯後または点灯と同時に振動部に振動停止シグナルを出力し、サブルーチンが終了する。剥離状態が設定値を満たさない場合、一定時間t経過後、再び細胞シート剥離状態を測定する。時間tは任意に設定することができ、解析部が有する入力部から入力されてよい。例えばtを0に設定することによって、待機時間なしで連続的に剥離状態を監視することもできる。
【0043】
図4には本発明の1つの態様におけるブロック図が描かれている。本態様において、収納部は保温庫となっている。保温庫内部にはトレーが置かれ、該トレーには振動部である振動機、制御部の測定部である温度センサーおよび制御部のペルチェ素子が付属している。振動機がトレーを振動させることで培養容器に振動を伝える。センサー部は距離センサーになっており、トレーと細胞シートとの距離を複数箇所で測定することができる。該距離センサーにて測定された情報は、解析部であるCPUへと入力される。温度センサーおよびペルチェ素子は収納部に備えられた制御部を構成する要素であり、前記CPUによって同時に制御され、温度センサーによって庫内温度を管理し、ペルチェ素子によって調温する。したがって、本態様において、解析部のCPUと制御部のCPUは共有されている。
【0044】
CPUはまた、センサーからの入力情報を解析した情報を出力する。該出力部として機能する表示部と連結していると共に、振動機にも連動し、前記情報を表示部と振動機とに出力している。また、解析部および制御部における入力部として、操作部が設けられている。
【0045】
以上、本発明におけるシステムを説明したが、各部について、様々な形態を考えることができる。したがって、本発明の目的を達成する範囲において、本発明の改変した態様もまた本発明の範囲に包含され、かかる改変は当業者にとっては容易に理解可能である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明のシステムによれば、今まで採取が難しかった強度の低いシート状細胞培養物であっても、皺、破れ、破損することなく、短時間で容易に採取することが可能となる。また、ピペッティングなどの作業を要しないため、コンタミネーションの危険性なども低減することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状細胞培養物を培養容器から剥離するシステムであって、
(i)シート状細胞を培養している培養容器を収納する収納部
(ii)収納部内の培養容器に振動を与えて、シート状細胞培養物を剥離させる振動部
(iii)培養容器内のシート状細胞培養物の状態を測定するセンサー部
(iv)該センサー部によって測定された測定値と初期値との差が設定値を超えた場合に、剥離状態であると解析する解析部
を含む、前記システム。
【請求項2】
解析部が、測定値と初期値との差が設定値を超えた場合は振動部の振動を停止する信号を振動部に出力し、設定値を超えない場合は前記信号を出力しない信号出力部を有する、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
解析部が、初期値および/または設定値を入力するための入力部を有する、請求項1または2に記載のシステム。
【請求項4】
センサー部が、距離を測定する、請求項1〜3のいずれかに記載のシステム。
【請求項5】
収納部が、培養容器の周辺環境を制御し得る制御部を有する、請求項1〜4のいずれかに記載のシステム。
【請求項6】
制御部が、温度制御部を含み、培養容器周辺の温度を一定に保つことができる、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
制御部によって、細胞培養に適した環境を保つことができる、請求項5または6に記載のシステム。
【請求項8】
シート状細胞培養物を製造する方法であって、
(i)培養容器の表面上で、シート状に細胞を培養する工程、
(ii)(i)の培養容器に振動を与えて、シート状細胞培養物を剥離する工程、および
(iii)(i)の培養容器内のシート状細胞培養物の剥離状態を測定するセンサーにより測定された測定値と、振動を与える前の初期値との差が設定した値を超えた場合に、前記振動を停止する工程、
を含む、前記方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−115080(P2011−115080A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−274245(P2009−274245)
【出願日】平成21年12月2日(2009.12.2)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】