説明

シート状蛋白質成形材の製造方法及びこの方法により製造された蛋白質成形材

【課題】 従来十分に活用されなかった、動物性由来の蛋白質、α−ケラトースの液状化物又は液体分散物から、簡単な操作で、合成樹脂の接着剤を使用することなく、使用するとしても僅かな量で、低湿度環境でも、亀裂の発生が無く、保温性、保湿性、外観、成形性、物性等での特段に優れたシート状蛋白質成形材を製造する。
【解決手段】 微細化したα−ケラトースを含む再生蛋白質を水性媒体に分散して分散液を調製し、この散液に還元剤及びδが19.0を超え26.0未満の範囲内にある完全な水溶性の物質を添加した後、アルコキシシランを添加して前記再生蛋白質を繊維化する。続いて繊維化した再生蛋白質にトランスグルタミナーゼ酵素、ゾル化シラン及びエポキシシランを添加して繊維化した再生蛋白質を架橋反応させることにより、シート状蛋白質成形材を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低湿度の環境でも、亀裂の発生の無い、α−ケラトース由来のシート状蛋白質成形材の製造方法及びこの方法により製造された蛋白質成形材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
動物性由来の蛋白質資源の内、比較的長繊維の羊毛及び獣毛は、糸、編物、織物、不職布及びフェルトとして利用された後、最終的に破棄されるか、又は焼却されることが多い。一方利用された蛋白資源を溶解、液体化して、天然皮革のようなシート状成形物として再利用が試みられているが、再生蛋白質を高比率で含んで作られた成形物は、低湿度環境状態で亀裂が発生し、硬く脆くなり、僅かな力でも微細片化してシート状成形材としては使用が不能であった。
【0003】
羊毛等の蛋白質資源を再利用する第1の方法として、酸化剤による前処理と加熱、加圧処理によって獣毛ケラチン蛋白質を水溶化処理した後、酸化分解型ケラチン蛋白として再利用しかつジスルフィド結合(S−S結合)の復元がされないための物性低下を防止するために、この水溶化処理した獣毛ケラチン蛋白質を多量のポリイソシアネ−ト化合物と反応させ、蛋白質−イソシアネ−ト化合物として水不溶化することが開示されている(例えば、特許文献1参照)。この方法では、蛋白質とボリイソシアネ−ト化合物とを共存させることにより成形材としての使用を可能にしている。
【0004】
また第2の方法として、ケラチン本来の特性を再現するために、ケラチン及びセルロ−スの共通の溶媒に両者を溶解してセルロ−スの再生物を形成する時にケラチンも同時に、複合再生して、成形物を製造する方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。また第3の方法として、ケラチン蛋白質に約55%のポリビニルアルコ−ル樹脂を含有させることにより、ケラチンの特性を有するシート状成形物を再生させる方法が開示されている(例えば、非特許文献1参照)。更に第4の方法として、粉末あるいは繊維状もしくは液状蛋白質を事前にシート状に成形した後に、トランスグルタミナ−ゼおよび/またはリジルオキシダ−ゼ酵素により架橋結合させて、シート状蛋白質成形材を製造する方法が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2000−234268
【特許文献2】特開2002−167401
【特許文献3】特開平7−247373
【非特許文献1】愛知県産業技術研究所尾張繊維技術センタ−の平成13年2月6日付けのプレスリリ−ス情報「羊毛を原料とした環境に優しい素材の開発−羊毛を溶かしてフィラメント糸やプラスチック板に再生−」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記第1の方法では、水溶化方法が強い酸化状態で実施されているので、ケラチン蛋白質は酸化型加水分解物となり、ケラチンへの再生能力が失われるという不具合があり、またイソシアネ−ト基が酸性亜硫酸ナトリウムによりブロックされたポリイソシアネ−ト化合物を必要とした。また上記第2及び第3の方法では、シート状成形物に製造するために、非蛋白質であるセルロースやポリビニルアルコールを多量に用いる必要があった。更に第4の方法では、液状の蛋白質が酸化型加水分解物のα−ケラトースである場合には、液状の蛋白質をシート状に成形しても、シートにならないか、強度の低いシートしか製造できない問題点があった。
【0006】
酸化環境である地球環境では、ケラチンのジスルフィド結合(S−S結合)は、酸化型に切断されることが一般的であり、ケラチン蛋白はケラトース蛋白に加水分解される。液状のケラトース蛋白質のみで、酵素架橋させたシート状蛋白質成形材は少しの力でも砕片化して、シートでの使用が不能となる。こうした理由から、液状のケラトース蛋白質を高い比率で利用した場合には、得られたシートが低湿度の環境において亀裂を生じないようにすることは不可能であった。一般的に動物性由来の蛋白質資源は優れた特性を有するから、溶解してシート状製品にすれば優れた特性を有する成形物が得られ、環境保全に役立ち、資源活用の高効率化にも繋がるけれども、再生しなければならないケラトース蛋白質は、酸化型加水分解物が多いので、上記技術的な問題が未解決であった。
【0007】
本発明の目的は、 従来十分に活用されなかった、動物性由来の蛋白質、α−ケラトースの液状化物又は液体分散物から、簡単な操作で、合成樹脂の接着剤を使用することなく、使用するとしても僅かな量で、シート状蛋白質成形材を製造する方法を提供することにある。
本発明の別の目的は、低湿度環境でも、亀裂の発生が無く、保温性、保湿性、外観、成形性などの物性において優れた特性を有する画期的なシート状蛋白質成形材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願請求項1に係る発明は、微細化したα−ケラトースを含む再生蛋白質を水性媒体に分散して分散液を調製する工程と、前記分散液に還元剤及びδ(溶解度パラメータ)が19.0を超え26.0未満の範囲内にある完全な水溶性の物質を添加した後、アルコキシシランを添加して前記再生蛋白質を繊維化する工程と、前記繊維化した再生蛋白質にトランスグルタミナーゼ酵素、ゾル化シラン及びエポキシシランを添加して前記繊維化した再生蛋白質を架橋反応させてシート状蛋白質成形材を得る工程とを含むシート状蛋白質成形材の製造方法である。
請求項1に係る方法では、分散液に還元剤とδ物質を添加すると、再生蛋白質の高次構造の弛緩が起こる。これに更に繊維状にゾル化したアルコキシシランを加えると、これにより生成されたヒドロキシシランが蛋白質の活性水素と速やかに反応して、繊維状に連なったシリカが再生蛋白質に枝付き状になり、構造物の骨組みとなる。この骨組みを有する繊維化した再生蛋白質原料に更にトランスグルタミナ−ゼ酵素とゾル化シラン、エポキシシランである3者の反応架橋剤を添加することによって、蛋白との架橋ができ、三次元構造物であるシ−ト状蛋白質成形材が形成される。この三次元構造物は高次構造を構成している物理的結合がδ物質に依って最高の均衡をとるために、低湿度環境でも亀裂が発生しない強力な結合ができる。
【0009】
本願請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明であって、α−ケラトースを含む再生蛋白質が、α−ケラトースと、前記α−ケラトース100重量部に対して21〜31重量部のコラーゲンとを含む製造方法である。
本願請求項3に係る発明は、請求項1又は2に係る発明であって、アルコキシシランが、メトキシシラン、エトキシラン、イソプロピルシラン又はテトラシランである製造方法である。
本願請求項4に係る発明は、請求項3に係る発明であって、エトキシシランをα−ケラトースを含む再生蛋白質100重量部に対して1.19〜3.16重量部の割合で添加する製造方法である。
【0010】
本願請求項5に係る発明は、請求項1に係る発明であって、還元剤が、L−システィン又はその誘導体のいずれか一方又は双方であり、前記還元剤をα−ケラトースからなる再生蛋白質100重量部に対して2.5〜7.5重量部の割合で添加する製造方法である。
本願請求項6に係る発明は、請求項1に係る発明であって、δが19.0を超え26.0未満の範囲内にある完全な水溶性の物質は、エチルアルコ−ル(δ:26.0)、プロピルアルコ−ル(δ:23.1)、イソプロピルアルコ−ル(δ:23.4)、第3ブタノ−ル(δ:20.6)及び3−メトキシ3−メチル1−ブタノ−ル(δ:19.0)からなる群より選ばれ、エチルアルコ−ル又は3−メトキシ3−メチル1−ブタノ−ルを含むときには前記群より選ばれた2種以上の化合物であり、エチルアルコ−ル又は3−メトキシ3−メチル1−ブタノ−ルを含まないときには前記群より選ばれた1種又は2種以上の化合物であり、前記物質はα−ケラトースを含む再生蛋白質100重量部に対して25重量部の割合で添加される製造方法である。
【0011】
本願請求項7に係る発明は、請求項1に係る発明であって、トランスグルタミナーゼ酵素、ゾル化シラン及びエポキシシランをα−ケラトースを含む再生蛋白質100重量部に対してそれぞれ0.019重量部、5.3重量部及び6.1重量部の割合で添加する製造方法である。
本願請求項8に係る発明は、請求項1に係る発明であって、繊維化した再生蛋白質の架橋反応が、繊維化した再生蛋白質にトランスグルタミナーゼ酵素、ゾル化シラン及びエポキシシランを添加した液を離型紙上にシート状に塗布又は押出した後、相対湿度30〜90%の雰囲気中20〜60℃の温度に保持して行われる製造方法である。
本願請求項9に係る発明は、請求項1又は8に係る発明であって、繊維化した再生蛋白質を架橋反応させて得られたシート状蛋白質成形材をエメリ−起毛処理機で処理して、成形材表面に微細な凹凸を発生させる工程を更に含む製造方法である。
本願請求項10に係る発明は、請求項1ないし9いずれか1項に記載の方法により製造されたシート状蛋白質成形材である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法によれば、α−ケラトース由来のシート状蛋白成形材の製造方法が従来は焼却か、破棄されていた蛋白資源を、溶解、液体化して、天然皮革の様なシート状成形物を製造することが可能となり、資源の高効率利用には、輝く結果をもたらし、将来に大きく寄与することができる。
また本発明で得られたシート状蛋白質成形材は、低湿度環境でも亀裂の発生が無く、保温性、保湿性、外観、成形性などの物性において優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の最良の実施の形態について説明する。
本発明におけるα−ケラトースは平均分子量が約3万、アミノ酸が300個位連なった蛋白質であるため、周りの環境に応じてその立体構造を変えることができる。α−ケラトースは親水性アミノ酸と疎水性アミノ酸がおよそ1:1であるため、水に溶けた状態では疎水性部分を中に、親水性部分を外に出したような丸まった状態で安定化している。α−ケラトースを含む再生蛋白質は、羊毛、カシミヤ、アルパカ、アンゴラ、モヘヤ等の獣毛繊維類、蛋白繊維製品としてこれらの繊維から作られる、バラ毛、糸、織物、編物、不織布等がある。本発明では、獣毛繊維類、蛋白繊維製品を開毛機、反毛機、工毛機などを用いて、長さ約30mmの単繊維になるように、微細化する。
酸化環境である地球環境では、ケラチンのジスルフィド結合(S−S結合)は酸化型に切断され、ケラトース蛋白質水分解物になる。再生蛋白質の高効率利用の面からは、液状化が重要である。上記の原料は脱脂して、過蟻酸や過酢酸の水溶液で処理する既知の方法でケラトースを作り、濾過、透析、中和の工程を得てα−ケラトースを得る。α−ケラトースを含む再生蛋白質の分散液は、約24%ows(on the weight of solution)がシート類を製造する適用濃度である。
【0014】
α−ケラトース以外の再生蛋白質は、コラーゲン、ゼラチン、卵白等であるが、構造体の構築では細くて長い繊維状物質の寄与が重要であり、また造膜後の物性からコラーゲンの存在が製造上、優れた結果を与える。
α−ケラトース100重量部に対しコラーゲンを21〜31重量部、好ましくは23〜29重量部含有させると、α−ケラトースを含むシート状蛋白質の製造において、水性媒体への分散が均一になるとともに成形性能を著しく向上する。即ち、上記下限値未満では成形時に亀裂又は穴あきが起こり易く、上記上限値を超えると収縮むらが起こり易くなる。水性媒体としては、水の他に低分子アルコ−ル含有水溶液、多価アルコ−ル含有水溶液などが挙げられる。
α−ケラトースとコラーゲンの再生蛋白質を水性媒体に分散するときには、冷却機付高速攪拌機により450rpm以上の回転速度、60℃以下の温度で、中性領域にて、約20時間物理的な均一化処理を施す。この処理により上記再生蛋白質を約100μmの濾紙で濾過できる大きさの粒子に分散させることができ、α−ケラトースを含む再生蛋白質の均一な水性媒体分散液が調製される。
【0015】
蛋白質を再利用する効率を向上させるためには、水溶化する必要があるけれども、水溶化しただけでは、本発明の最終的な蛋白質成形材である構造物としての再構築はできない。即ち、蛋白質成形材である構造物には必ず骨組みが必要である。このためにアルコキシシランを添加する。本発明でのアルコキシシランは、メチルシラン、エチルシラン、イソ-プロピルシラン及びテトラシランであり、水とゾル−ゲル反応を起こし、水の存在量に依存して、デンドリマー型になるか、或いは繊維状型になる。その境界は水の存在量がモル比4である。モル比4未満にすると繊維状になる。即ち、水性媒体に対するアルコキシシランの量を、アルコキシシラン1モルに対して加水分解用の水が4モル未満の系になるようにすると、このような条件下では、繊維状に連なったシランゾルができる。同時に、共存しているヒドロキシシランが蛋白質の活性水素と速やかに反応して、繊維状に連なったシリカが再生蛋白質に枝付き状になり、構造物の骨組みとなる。
【0016】
上記のように構造体の構築では細くて長い繊維状物の寄与が必要であり、繊維状で、一次元の重合体に変換した、アルコキシシランゾルを、前もって繊維化シランゾルに変換した物を、再生蛋白質と反応せしめることによって、繊維化したα−ケラトースを含む再生蛋白質を得る。
また、α−ケラトースを含む再生蛋白質を繊維化するアルコキシシランは、低湿度環境での亀裂発生挙動の観点から最適範囲がある。エトキシシランを代表例として考察すれば、α−ケラトースを含む再生蛋白質100重量部に対して、1.19〜3.16重量部、好ましくは1.34〜2.97重量部の割合での添加が、繊維化したα−ケラトースを含む再生蛋白質原料で製造するシート状蛋白質の成形体は低湿度環境で亀裂の発生が無い。また、この最適範囲外では、低湿度環境で亀裂が発生する。
【0017】
更に、本発明での還元剤はL−システィン又はその誘導体のいずれか一方又は双方であることが好ましい。羊毛でのα−ケラトースのアミノ酸組成をみると、一般の人毛及び羊毛ケラチン中の、シスチンの存在量は13〜17重量%存在し、一方α−ケラトース中においては、平均約4重量%のシスチンを含有しているため、α−ケラトース中での−SH/−SS−交換反応は速やかに行われる。成形時に無理な応力が加わったときに速やかな交換反応による緩和によって、安定なシート状蛋白質成形材を構成するのにL−システィン又はその誘導体が必要である。
その他の還元剤では、この−SH/−SS−交換反応は起きないので、Lシスティン又はその誘導体のいずれか一方又は双方である還元剤のみが使用できる。その添加量は含有するシスチンのパーセントに依存するが、α−ケラトースである再生蛋白質100重量部に対して、2.5〜7.5重量部、好ましくは2.56〜5.4重量部の割合のLシスティン又はその誘導体のいずれか一方又は双方が存在すれば、成形時においても、低湿度環境においても、シ−ト状蛋白質成形材に無理な応力が加わったときに、応力の緩和が自由に行い得る環境になり、この結果、成形収縮むら、亀裂の発生の無いシート状蛋白質成形材を得ることができる。上記下限値未満では応力が緩和しにくく、上記上限値を超えるとシスチンの白色粉末の発生する不具合がある。
【0018】
更に、本発明では、δが19.0を超え26.0未満、好ましくは21.4〜24.9の範囲内にある水と自由に溶ける物質との共存が重要である。上記下限値未満では再生蛋白質中に疎水性油性成分が析出し、上記上限値を超えると低湿度環境でシ−ト状蛋白質成形材に亀裂が発生する。ここでδとは、J. H. Hildebrandが名付けた、正則溶液理論における凝集エネルギ密度の平方根である溶解度パラメータ(Solubility Parameter)をいい、δ=(E/V)1/2で定義される。ここでEはモル当りの凝集エネルギであり、エネルギの単位はジュ−ル(J)である。またVは分子のモル容積でありその単位は立方センチメ−トル(cm3)である。即ち、δはポリマーの溶解性に関係し、分子間の大きさを表し、ポリマーと溶剤の各溶解度パラメータの値が接近していれば良く溶けることを意味する。
上記範囲内の物質を例示すれば、エチルアルコ−ル(δ:26.0)、プロピルアルコ−ル(δ:23.1)、イソプロピルアルコ−ル(δ:23.4)、第3ブタノ−ル(δ:20.6)及び3−メトキシ3−メチル1−ブタノ−ル(δ:19.0)からなる群より選ばれ、前記物質は、エチルアルコ−ル又は3−メトキシ3−メチル1−ブタノ−ルを含むときには前記群より選ばれた2種以上の化合物であり、エチルアルコ−ル又は3−メトキシ3−メチル1−ブタノ−ルを含まないときには前記群より選ばれた1種又は2種以上の化合物である。この物質は、α−ケラトースを含む再生蛋白質100重量部に対して25重量部の割合で添加される。
【0019】
δが19.0を超える物質が添加されると、アミノ酸構造の疎水性が増すためにα−ケラトースの3次構造が変化し、アミノ酸構造は表面に疎水性、内部に親水性のアミノ酸置換基が多い構造をとるようになる。δが19.0を超える物質の例としては、疎水性である3−メトオキシ3−メチル1−ブタノ−ルに微量のエチルアルコールを添加した物質がある。これと反対にδが26.0未満の物質が添加されると、アミノ酸構造の親水性が増すためにα−ケラトースの3次構造が変化し、アミノ酸構造は表面に親水性、内部に疎水性のアミノ酸置換基が多い構造をとるようになる。δが26.0未満の物質の例としては、親水性であるエチルアルコールに微量の3−メトオキシ3−メチル1−ブタノ−ルを添加した物質がある。
水性媒体分散液中のアミノ酸の物理結合挙動はこのδに依存し、このδがアミノ酸の物理結合と非常に強い関連を示し、また、低湿度環境でも亀裂の発生しない物理結合を形成する指針を示す。
【0020】
また、本発明では繊維化した再生蛋白質をシート化するために、架橋反応によってその目的を達成している。天然由来の蛋白質素材の分子中にはグルタミンもリジンも構成成分として含まれるが、本発明に使用されているα−ケラトース蛋白も同様なアミノ酸構成である。しかし、トランスグルタミナ−ゼ酵素は天然の蛋白質素材に対しては、グルタミンとリジンとの間で架橋反応を行い強力な共有結合を構成することは公知の事実であるが、α−ケラトース蛋白のように変性された蛋白質では、酵素によって架橋反応をした蛋白質材料では、低湿度環境中で、亀裂が発生して強度が弱くなる欠点を示す。そのために、更なる架橋剤の添加が必要となる。即ち繊維化した再生蛋白質と蛋白質とを架橋する架橋剤として、ゾル化シラン及びエポキシシランが有効であり、その3者が相互効果を示す。その3者である、トランスグルタミナ−ゼ酵素、ゾル化シラン及びエポキシシランをα−ケラトースを含む再生蛋白質100重量部に対してそれぞれ0.019重量部、5.3重量部及び6.1重量部の割合で添加し架橋反応させることにより、低湿度環境でも亀裂の無いα−ケラトース蛋白質由来のシート状蛋白質成形材を得ることができる。ゾル化シランとは、メトキシシラン、エトキシシラン、イソプロポキシシラン等の各種アルコキシシラン化合物の溶液から出発し、この溶液中の化合物を加水分解し、重合することによって得られた、Si酸化物(SiO2)の微粒子が溶解したゾル溶液をいう。具体的には、テトラメトキシシランSi(OCH3)4を加水分解して重縮合することにより得られた、CH3OHにSiO2が溶解した溶液、テトラエトキシシランSi(OC25)4を加水分解して重縮合することにより得られた、C25OHにSiO2が溶解した溶液、テトライソプロピルシランSi(iso-OC37)4を加水分解して重縮合することにより得られた、iso-C37OHにSiO2が溶解した溶液等が挙げられる。出発原料が異なっても、微粒子のSi酸化物は同じである一方、副生成されるアルコ−ルは異なる。
【0021】
更に、本発明のシート状蛋白質成形材は、繊維化した再生蛋白質の架橋反応に、トランスグルタミナ−ゼ酵素、ゾル化シラン及びエポキシシランを添加し調整した原料液を離型紙上にシート状に塗布又は押出しをして、一定の形に成形した後、相対湿度30〜90%の雰囲気中、20〜60℃の温度で、4〜48時間保持すると、α−ケラトース由来シート状蛋白質成形材ができ、これは、低湿度環境においても亀裂の発生の無い、シート状蛋白質成形材である。本発明のシート状蛋白質成形材は、原料及び製造条件にもよるが、JIS K6552及びK6553に準拠した方法で測定すると、引張切断荷重53.9N、伸び75%、引き裂き強度14.7N、密度1.35g/cm2、厚さ0.8〜1.0mmの範囲内の範囲内の物性を示す。
また、得られたシート状蛋白質成形材をエメリ−起毛機で処理することにより成形材表面に微細な凹凸を発生させると、表面が柔軟になる効果が得られる。また、本発明により製造されたシート状蛋白質成形材は、天然皮革に非常に類似した風合い挙動を示す。
【0022】
本発明の具体的な製造方法を次に説明する。
水性媒体である水100重量部に対して再生蛋白質を24重量部(α−ケラト−ス19.0、コラーゲン5.0)分散して分散液を調製する。この分散液にL−システィン系の還元剤(10%水溶液)5重量部と、完全な水溶性でδが24.0である物質6重量部(δ;26.0;エチルアルコ−ル、3部、δ;19.0;3−メトキシ3−メチル1−ブタノ−ル、3部)と水によって全量を98.5重量部とする。この液を冷却機付四つ口フラスコ中に入れ、450rpmで攪拌し、中性領域、60℃、20時間処理した後、更に繊維化されたアルコキシシランゾル(エトキシシランゾル)(純分35.6%wt)1.5重量部を添加して、同条件で3時間処理する。処理後、この液を約100μmの濾紙で濾過ことにより、繊維化した再生蛋白質原料を96重量部を得る。
更に、上記で得られた繊維化した再生蛋白質原料を77.5重量部に、ゾル化シランとエポキシシランの架橋剤(純分、ゾル化シラン19.8%wt;エポキシシラン22.5%wt)5重量部を添加し均一化させた後、トランスグルタミナ−ゼ酵素(1%)の14%水溶液を2.5重量部を加えで全量を100重量部に調節した液を得る。この液をシート状の型に3mmの厚さに押出成形し、30℃、相対湿度70%、40時間放置した後、0.8mm厚さのシート状蛋白質成形材を得る。このシート状蛋白質成形材は、コラーゲン比率が26.3%であり、繊維化シラン量(対全蛋白)が2.23%であり、還元剤含有量が2.63%(対α−ケラトース)であり、δ値が24でその添加量が25%(対全蛋白)であり、ゾル化シラン/エポキシシラン/酵素が5.3%wt/6.1%wt/0.019%wt(対全蛋白)であり、低湿度環境で亀裂の無いものである。
【実施例】
【0023】
次に本発明の実施例を比較例とともに説明する。ここで示す実施例は一例であって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
<原材料の内容>
(1) α−ケラトースとして、艶金興業(株)製、平均分子量約3万〜4万のα−ケラトースSHP顆粒粉末(以下SHPと称する)を用いた。
(2) コラーゲンとして、新田ゼラチン(株)製、平均分子量約十万のコラーゲンPK100(以下KORと称する)を用いた。
(3) 還元剤として、ツヤック(株)製、L−システィン塩酸塩及びアセチルシスティンの10%水溶液である、22―SS―55(以下SS−55と称する)を用いた。
(4) 水溶性のδ物質として、関東化学(株)製、特級試薬、分子量約46のエチルアルコ−ル(以下EtOHと称する)、分子量約32のメチルアルコ−ル(以下MeOHと称する)、分子量約60のプロピルアルコ−ル(以下NPAと称する)、分子量約60のイソプロピルアルコ−ル(以下IPAと称する)及び分子量約74の第3ブチルアルコ−ル(以下t−BAと称する)を用いた。更に、水溶性のδ物質として、クラレ(株)製、平均分子量約118、ソルフィットS110(3−メトオキシ3−メチル1−ブタノ−ル)(以下S110と称する)を用いた。
(5) ゾル化シラン剤であるアルコキシシランとして、キシダ化学(株)製、特級試薬、分子量約208のエトキシシラン(以下TEOSと称する)、分子量約152のメトキシシラン(以下TMOSと称する)及び分子量約264のイソプロピルシラン(以下TIPOSと称する)を用いた。更に、アルコキシシランの溶解安定剤として、キシダ化学(株)製、特級試薬、分子量約73のN、Nジメチルホルムアミド(以下DMFと称する)を用いた。加水分解−重縮合触媒として、キシダ化学(株)製、特級試薬、分子量約36.5の塩酸(以下HClと称する)を用いた。エトキシシランを用いたゾル化シランは表1のように調製した(以下Cat2と称する)。メトキシシランを用いたゾル化シランは表2のように調製した(以下Cat3と称する)。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
(6) シート化架橋剤であるエポキシシランとして、信越化学(株)製、KBM403(3−グリシドキシプロピルトリメトオキシシラン)分子量約236(以下EP−Siと称する)を用いた。繊維化再生蛋白質の架橋ゾル化シラン及びエポキシシラン剤は表3のように調製した(以下CatXと称する)。
【0027】
【表3】

【0028】
更に、酵素架橋剤として、アクティバTGS、味の素(株)製、蛋白合成酵素、トランスグルタミナ−ゼ1%粉末(以下TGSと称する)を用いて表4のように調製した(以下Cat1と称する)。
【0029】
【表4】

【0030】
<実施例1>
再生蛋白質原料、還元剤及び水溶性のδ物質を、表5に示す処方に従い、冷却機付1Lの四つ口ガラスフラスコに水とともに入れて8種類の液を準備した。これらの液を中性領域で450rpmで攪拌し、60℃、20時間処理することにより、分散化処理した。これら8種類の分散液100重量部に表6に示す割合でゾル化シランを更に添加し、450rpm、60℃、3時間処理した後、繊維化した再生蛋白質を得た。更に、この繊維化した再生蛋白質原料77.5重量部をそれぞれ採取し、表7に示す割合でCatX(架橋ゾル化シラン及びエポキシシラン溶液)5重量部、酵素架橋剤Cat1(TGS水溶液)2.5重量部を添加し、均一に混合して全量100重量部の液を得た。これらの液をシート状の型に3mmの厚さで押出成形して30℃で40時間架橋させて、8種類の0.8mmの厚さで1.35g/cm2の密度のシート状蛋白質成形材を得た。
なお、表5において、「KOR/SHP」は再生蛋白質中のα−ケラトースに対するコラーゲンの重量割合を示す。また「SS−55/SHP」は還元剤のα−ケラトースに対する重量割合を示し、これはα−ケラトース中の−SH/−SS−の交換反応の目安である。更に「δ」は水溶性のδ物質のδ値であって、その添加量は全蛋白質の25重量%である。このδ(19.0超〜26.0未満)の設定は各成分のモル分率に依存する。更に表6において、「ゾル化シラン/全蛋白」は繊維化した再生蛋白質の反応の完成度合いを意味し、全蛋白質に対するゾル化シランの重量割合を示す。更に、表7において、「ゾル化シラン/全蛋白」、「エポキシシラン/全蛋白」、「酵素触媒(TGS)/全蛋白」は、それぞれ繊維化した蛋白質原料からシ−ト状蛋白質成形材に形成されるための架橋反応の完成度合いの程度を意味し、シ−ト用に使用された全蛋白に対する全架橋剤の寄与度の割合を示す。
【0031】
【表5】

【0032】
【表6】

【0033】
【表7】

【0034】
<比較例1>
実施例1と同様の方法で、表8に示す処方に従い、6種類の液を準備し、実施例1と同様の処理をして6種類の分散液を得た。これら6種類の分散液100重量部に表9に示す割合でゾル化シランを更に添加し、実施例1と同様の方法で繊維化した再生蛋白質を得た。更に、この繊維化した再生蛋白質原料77.5重量部をそれぞれ採取し、表10に示す割合でCatX又はCat1を添加し、或いは全く添加せずに、均一に混合して全量100重量部の液を得た。これらの液をシート状の型に3mmの厚さで押出成形した。CatX(架橋剤)及びCat1(酵素触媒)を全く添加しない処方13及び14では、シート状蛋白質成形材が形成されなかったが、その他の処方9〜12では、液を押出成形した後、30℃で40時間架橋させることにより、4種類のシート状蛋白質成形材を得た。
【0035】
【表8】

【0036】
【表9】

【0037】
【表10】

【0038】
<比較評価>
(a) 亀裂の有無
実施例1の処方1〜8及び比較例1の処方9〜14でそれぞれシート状蛋白質成形材を押出成形した時、成形した後80℃で30分乾燥した後、及び、成形した後相対湿度15%、温度25℃の雰囲気中で24時間放置した後の3段階で各シート状蛋白質成形材を直接手で触り、また目視による観察を行って、亀裂の有無を調べた。その結果を表11に示す。表11から明らかなように、比較例1の処方9〜12では、成形中に既に亀裂が見られたため、成形時、成形後の乾燥時及び成形後の低湿度下の放置時には、すべてのシート状蛋白質成形材に亀裂が見られた。なお、比較例1の処方13及び14で得られた液を押出成形してシート状蛋白質成形材を形成しようとしたが、この液からは成形材を形成することができなかった。これに対して、実施例の処方1〜8では、得られたシート状蛋白質成形材では上記3段階でいずれも亀裂は全く見られなかった。
【0039】
【表11】

【0040】
(b) 表面加工の結果
実施例1の処方1〜8で得られたシート状蛋白質成形材、及び比較例1の処方9〜12で得られた亀裂、穴、収縮むらのあるシート状蛋白質成形材をエメリー起毛機で処理して、各成形材の表面に微細な凹凸を発生させる試験を行った。その結果、比較例1の処方9〜12で得られたシート状蛋白質成形材は、不良品としての亀裂発生のため、起毛処理ができなかった。これに対して実施例の処方1〜8で得られたシート状蛋白質成形材では、表面に微細な凹凸を発生させることができた。
【0041】
(c) 天然皮革との比較
実施例1の処方1〜8で得られたシート状蛋白質成形材(厚さ0.8mm、密度1.35g/cm2)、及び比較例1の処方9〜12で得られたシート状蛋白質成形材と、豚の天然皮革(厚さ0.8mm、密度1.25g/cm2)とを比較したところ、比較例1のものは亀裂、穴、収縮むらがあり、ぼろぼろの塊のものもあり、天然皮革と風合いが雲泥の差があったが、実施例1のものは風合いが天然皮革に非常に類似していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細化したα−ケラトースを含む再生蛋白質を水性媒体に分散して分散液を調製する工程と、
前記分散液に還元剤及びδが19.0を超え26.0未満の範囲内にある完全な水溶性の物質を添加した後、アルコキシシランを添加して前記再生蛋白質を繊維化する工程と、
前記繊維化した再生蛋白質にトランスグルタミナーゼ酵素、ゾル化シラン及びエポキシシランを添加して前記繊維化した再生蛋白質を架橋反応させてシート状蛋白質成形材を得る工程と
を含むシート状蛋白質成形材の製造方法。
【請求項2】
α−ケラトースを含む再生蛋白質が、α−ケラトースと、前記α−ケラトース100重量部に対して21〜31重量部のコラーゲンとを含む請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
アルコキシシランが、メトキシシラン、エトキシラン、イソプロピルシラン又はテトラシランである請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
エトキシシランをα−ケラトースを含む再生蛋白質100重量部に対して1.19〜3.16重量部の割合で添加する請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
還元剤が、L−システィン又はその誘導体のいずれか一方又は双方であり、前記還元剤をα−ケラトースからなる再生蛋白質100重量部に対して2.5〜7.5重量部の割合で添加する請求項1記載の製造方法。
【請求項6】
δが19.0を超え26.0未満の範囲内にある完全な水溶性の物質は、エチルアルコ−ル(δ:26.0)、プロピルアルコ−ル(δ:23.1)、イソプロピルアルコ−ル(δ:23.4)、第3ブタノ−ル(δ:20.6)及び3−メトキシ3−メチル1−ブタノ−ル(δ:19.0)からなる群より選ばれ、前記エチルアルコ−ル又は前記3−メトキシ3−メチル1−ブタノ−ルを含むときには前記群より選ばれた2種以上の化合物であり、前記エチルアルコ−ル又は前記3−メトキシ3−メチル1−ブタノ−ルを含まないときには前記群より選ばれた1種又は2種以上の化合物であり、前記物質はα−ケラトースを含む再生蛋白質100重量部に対して25重量部の割合で添加される請求項1記載の製造方法。
【請求項7】
トランスグルタミナーゼ酵素、ゾル化シラン及びエポキシシランをα−ケラトースを含む再生蛋白質100重量部に対してそれぞれ0.019重量部、5.3重量部及び6.1重量部の割合で添加する請求項1記載の製造方法。
【請求項8】
繊維化した再生蛋白質の架橋反応が、繊維化した再生蛋白質にトランスグルタミナーゼ酵素、ゾル化シラン及びエポキシシランを添加した液を離型紙上にシート状に塗布又は押出した後、相対湿度30〜90%の雰囲気中20〜60℃の温度に保持して行われる請求項1記載の製造方法。
【請求項9】
繊維化した再生蛋白質を架橋反応させて得られたシート状蛋白質成形材をエメリ−起毛処理機で処理して、成形材表面に微細な凹凸を発生させる工程を更に含む請求項1又は8記載の製造方法。
【請求項10】
請求項1ないし9いずれか1項に記載の方法により製造されたシート状蛋白質成形材。

【公開番号】特開2007−70766(P2007−70766A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−260064(P2005−260064)
【出願日】平成17年9月8日(2005.9.8)
【出願人】(505340478)
【Fターム(参考)】