説明

シート状試料作製方法及び試料付きテープ

【課題】 試料ブロックから皺や丸みが生じることを極力防止しつつ、それぞれ完全に独立した状態で容易に極薄のシート状の試料を作製すること。
【解決手段】 柱状の試料ブロック3の上面3aに露出した試料1の端面を少なくとも囲むように開口5aが形成され、表面に粘着剤が塗布されたテープ5を、開口5aが試料1の端面を囲むように柱状の試料ブロック3の上面3aに貼り付ける貼付工程と、該貼付工程後、柱状の試料ブロック3を上面3aから所定距離離間した位置で該上面3aに平行な面で切断し、テープ5の表面にシート状の試料1’及び包理剤2’からなるシート状の試料ブロック3’が貼り付いた試料付きテープ3’を作製する切断工程と、該切断工程後、開口5aを通してシート状の試料1’を打ち抜き、試料付きテープ5’から該シート状の試料1’を分離させる分離工程とを有するシート状試料作製方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物、動物、植物、食品等から選ばれた試料を検査、観察する際に用いられる試料ブロックを切断して極薄のシート状の試料を作製するシート状試料作製方法及び該シート状試料作製方法の途中工程で作製された試料付きテープに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、生物、動物、植物、食品等の試料を検査、観察する方法の1つとして、試料と該試料の周囲を覆う包理剤とからなる試料ブロックを、例えば、厚さが5μmの極薄でシート状にスライス(切断)して切片試料を作製し、スライス後、包理剤を溶かすことで得られたシート状の試料を観察する方法が知られている。
【0003】
具体的には、上記試料としては、医療分野、製薬分野、食品分野、生物分野等から適時選択された生物、動物、植物、食品等が用いられ、例えば、鼠の生体試料である。また、包理剤としては、液状化と冷却固化とが可能とされると共に、エタノール等の特定溶液に浸漬した際に、溶解する樹脂やろう等のパラフィン等が使用される。
また、試料ブロックをスライスする際には、専用のミクロトーム(薄切り装置)を利用してスライスを行っている。そして、スライスして得られたシート状の切片試料を、特定溶液に浸漬して包理剤を溶解することで、シート状の試料を取り出すことができる。その後、シート状の試料を、プレート等に複数並べて、ISH(In Situ Hybridization)させることで、鼠の生体試料を遺伝子レベルで観察、分析することができる。
特に、試料ブロックを可能な限り薄く(極薄状に)スライスすることで、試料の厚さを細胞レベルの厚さに近付けることができるので、より正確で強い観察データを得ることができる。従って、可能な限り厚さが薄いシート状の試料を作製することが求められている。
【0004】
ここで、通常、ミクロトームが有するカッターにより、試料ブロックを極薄の厚さでシート状にスライスして切片試料を作製すると、厚さの関係によりその殆どが皺がついた状態や、丸まった状態(例えば、Uの字状)となってしまう。しかしながら、このような状態になった切片試料を特定溶液に浸漬すると、包理剤が溶解すると共に、試料が特定溶液の表面張力と自身の厚さとの関係により、皺や丸みが取れて延びた状態となる(伸展する)。これにより、極薄でシート状の試料を得ることができる。
ところが、特定溶液に浸漬する際、丸まった状態の切片試料は、その丸まり具合や特定溶液に浸漬するときの投入角度によっては、伸展が正確に行われずに、逆に二つ折り等のように潰れた状態となる恐れがあった。
【0005】
伸展がされずに潰れてしまった試料は、その後の観察等に使用することはできないので、無駄になってしまう。そこで、従来より試料ブロックをスライスする際に、切片試料が丸まらないように、作業者がピンセット等で切片試料の端部を保持していた。即ち、カッターで試料ブロックをスライスした瞬間に、試料ブロックから浮き上がった切片試料の端部をピンセット等で把持し、その後、カッターの速度に合わせピンセットを移動させて、切片試料が丸まらないように保持を行っていた。
しかしながら、この方法は、ピンセットで切片試料を把持する力加減、把持するタイミングやカッターに合わせて移動するタイミング等が難しく、熟練した作業者が行った場合でも非常に手間と時間のかかるものであった。
【0006】
そこで、試料ブロックをスライスして切片試料を作製する際に、手動ではなく自動的に切片試料が丸まらないようにスライスすることができる各種装置や方法が提供されている。
その1つとして、表面に粘着剤が被覆されたキャリアテープを利用した薄片試料作製方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
この特許文献1に記載されている薄片試料作製方法は、試料ブロックをカッターでスライスする前に、試料ブロックの表面に上記キャリアテープを接着し、接着後、カッターで試料ブロックのスライスを行う。こうすることで、薄片試料は、キャリアテープにより姿勢が常に保持されている状態であるので、従来のように皺や丸まりが生じることなく、良好な状態で作製される。また、薄片試料は、スライスされると同時にキャリアテープに貼り付く。
【特許文献1】特開2001−235402号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の方法では、以下の課題が残されている。
即ち、上記特許文献1記載の薄片試料作製装置では、薄片試料の作製後、該薄片試料をキャリアテープに貼り付けてしまうので、キャリアテープから薄片試料を剥す必要があった。ところが、薄片試料は、厚さが薄いので、無理に剥そうとすると破損する恐れがあった。そのため、薄片試料を手作業で慎重に剥す必要があり、手間と時間がかかるうえ、困難な作業であった。
また、このような理由から、薄片試料をキャリアテープから剥さずに、キャリアテープに貼り付けた状態のまま、その後の観察や分析を行う場合もあった。ここで、薄片試料は、観察や分析等の目的に応じて、様々な溶液を添加する必要がある。ところが、薄片試料をキャリアテープから剥さない場合においては、各種の溶液を添加することが難しいので、多角的な観察や分析を行うことができないという問題が生じていた。
【0008】
本発明は、このような事情に考慮してなされたもので、その目的は、試料ブロックから
皺や丸みが生じることを極力防止しつつ、それぞれ完全に独立した状態で容易に極薄のシート状の試料を作製することができるシート状試料作製方法を提供すること、更には、その作製工程の途中で作製された試料付きテープを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記課題を解決するために以下の手段を提供する。
本発明のシート状試料作製方法は、試料と、該試料の周囲を覆うと共に特定溶液に浸漬したときに溶解する包理剤とからなる柱状の試料ブロックを切断して、シート状の試料を作製するシート状試料作製方法であって、前記柱状の試料ブロックの上面に露出した前記試料の端面を少なくとも囲むように開口が形成され、表面に粘着剤が塗布されたテープを、開口が試料の端面を囲むように柱状の試料ブロックの上面に貼り付ける貼付工程と、該貼付工程後、前記柱状の試料ブロックを上面から所定距離離間した位置で該上面に平行な面で切断し、前記テープの表面にシート状の試料及び包理剤からなるシート状の試料ブロックが貼り付いた試料付きテープを作製する切断工程と、該切断工程後、前記開口を通して前記シート状の試料を打ち抜き、前記試料付きテープから該シート状の試料を分離させる分離工程とを有することを特徴とするものである。
【0010】
この発明に係るシート状試料作製方法においては、まず、貼付工程により、柱状の試料ブロックの上面に粘着剤が塗布されたテープの表面を貼り付ける。この際、開口が柱状の試料ブロックの上面に露出した試料の端面を囲むようにテープを貼り付ける。つまり、テープは、試料ブロックの上面に露出した包理剤の領域のみに粘着剤を介して貼り付いた状態となり、試料の端面には貼り付かないようになっている。
この貼付工程後、柱状の試料ブロックを上面から所定距離離間した位置で上面に平行な面で切断し、テープにシート状の試料ブロックが貼り付いた試料付きテープを作製する切断工程を行う。この切断工程を行う際、切断される側の試料ブロックには、テープが貼り付けられているので、上記所定距離が仮に10μm程度の微小な厚さ(極薄状)であっても、シート状の試料ブロックの姿勢が崩れ難い。よって、従来のように、シート状の試料ブロックに皺が生じたり、極端な丸み(例えば、U字状)が生じたりすることはない。また、切断工程の際、柔軟性を有するテープを利用しているので、例えば、カッター等による切断時にシート状の試料ブロックが浮き上がって曲げが生じたとしても、この曲げに合わせてテープが撓むので、テープとシート状の試料ブロックとが剥がれ難く、シート状の試料ブロックの姿勢を崩すことはない。そして、切断されたシート状の試料ブロックは、テープに貼り付いた状態となる。
【0011】
この切断工程後、例えば、ポンチ等の打ち抜き用具によりテープの開口を通して、テープに貼り付いたシート状の試料ブロックのうち、シート状の試料を打ち抜く分離工程を行う。この際、上述したように、テープは、試料に貼り付いていない状態であるので、従来のように、シート状の試料を分離する際にテープにくっついて破損等することなく確実且つ容易に、完全に独立した状態で分離する。
このように、従来のように、テープから試料を剥す手間を必要とせず、容易に皺や極端な曲がりが防止されたシート状の試料を作製することができるので、作製時間の短縮化及び作製工程の単純化を図ることができる。
【0012】
また、本発明のシート状試料作製方法は、上記本発明のシート状試料作製方法において、前記分離工程の際、前記試料の端面を少なくとも囲むように形成された貫通孔を有するプレートを、該貫通孔と前記シート状の試料とが対向するように前記シート状の試料ブロック又は前記試料付きテープの裏面に当接させ、プレートを当接させた側の反対側からシート状の試料を打ち抜くことを特徴とするものである。
【0013】
この発明に係るシート状試料作製方法においては、分離工程の際に、プレートをシート状の試料又は試料付きテープの裏面に当接させ、プレートの反対側から打ち抜きを行うので、打ち抜き時に生じるテープの反りや変形を抑えることができる。従って、シート状の試料の分離をより円滑に行うことができる。
【0014】
また、本発明のシート状試料作製方法は、上記本発明のシート状試料作製方法において、前記テープが、前記開口が長手方向に所定間隔を空けて複数形成された帯状テープであり、前記開口の数に応じて前記貼付工程及び前記切断工程を繰り返して行い、全ての開口に対して貼付工程及び切断工程が終了した後、前記分離工程を連続して行うことを特徴とするものである。
【0015】
この発明に係るシート状試料作製方法においては、帯状テープに複数のシート状の試料ブロックを貼り付けた状態にすることができ、分離工程により、連続的にシート状の試料を効率的に作製することができる。従って、作業効率をより向上させることができる。
【0016】
また、本発明のシート状試料作製方法は、上記本発明のいずれかに記載のシート状試料作製方法において、前記分離工程後、前記シート状の試料を、前記特定溶液に浸漬させる浸漬工程を有することを特徴とするものである。
【0017】
この発明に係るシート状試料作製方法においては、分離工程により分離したシート状の試料を、エタノール等の特定溶液に浸漬することで、シート状の試料を伸展させて若干の反り等をなくすことができる。よって、高品質なシート状の試料を作製することができる。また、分離工程の際に、シート状の試料に包理剤が付着していたとしても、特定溶液によりこの包理剤を溶解できることからも、高品質なシート状の試料を作製することができる。
【0018】
また、本発明のシート状試料作製方法は、上記本発明のシート状試料作製方法において、前記貼付工程後、前記テープの開口に、前記特定溶液に浸漬したときに溶解すると共に冷却固化可能な液状の補強剤を塗布し、該塗布後、補強剤を冷却固化させて開口を塞ぐ塗布工程を有することを特徴とするものである。
【0019】
この発明に係るシート状試料作製方法においては、貼付工程後、塗布工程により、テープの開口に補強剤を塗布すると共に該補強剤を冷却固化させて開口を塞ぐので、柱状の試料ブロックの上面全体がテープに貼り付いた状態となり、貼り付け状態がより強化なものになる。つまり、テープは、開口が形成されていない状態に擬制される。従って、その後の切断工程により、柱状の試料ブロックを、例えば、10μm以下程度でさらに極薄に切断したとしても、開口とシート状の試料ブロックとの間に裂け目等が入ることがなく確実に切断される。また、この補強剤は、分離工程により、シート状の試料にくっついた状態で共に分離され、その後、浸漬工程時に特定溶液に溶解する。上述したように、補強剤を利用することで、特に極薄(例えば、10μm以下)のシート状の試料を確実に作製することができる。
【0020】
また、本発明の試料付きテープは、試料と、該試料の周囲を覆うと共に特定溶液に浸漬したときに溶解する包理剤とからなる柱状の試料ブロックの上面に、該上面に露出した試料の端面を少なくとも囲むように開口が形成されて表面に粘着剤が塗布されたテープを、開口が試料の端面を囲むように貼り付け、貼付後、柱状の試料ブロックを上面から所定距離離間した位置で該上面に平行な面で切断して作製された、前記テープと、該テープの表面に貼り付けられたシート状の試料ブロックとからなることを特徴とするものである。
【0021】
この発明に係る試料付きテープにおいては、開口が柱状の試料ブロックの上面に露出した試料の端面を囲むように、テープとシート状の試料ブロックとが貼り付いている。つまり、テープは、包理剤の領域のみに粘着剤を介して貼り付き、試料には貼り付いていない状態である。また、シート状の試料ブロックは、テープを貼り付けた後に、柱状の試料ブロックを上面から所定距離離間した位置で上面に平行な面で切断して形成されているので、上記所定距離が仮に10μm程度の微小な厚さ(極薄状)であっても、姿勢が崩れ難く、従来のように皺が生じたり、極端な丸み(例えば、U字状)が生じることがない。特に、柔軟性を有するテープを利用しているので、例えば、カッター等による切断時にシート状の試料ブロックに曲げが生じたとしても、この曲げに合わせてテープが撓むので、テープとシート状の試料ブロックとが剥がれ難く、シート状の試料ブロックの姿勢を崩すことはない。
このように、皺や極端な丸みが防止されたシート状の試料ブロックが、試料への接触をなくした状態でテープに貼り付いている。そして、このシート状の試料ブロックを、テープを介して容易にハンドリングすることができるので、扱い易い。更に、必要時に開口を通してシート状の試料のみを容易にテープから分離させることも可能である。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係るシート状試料作製方法によれば、テープが試料に貼り付いていない状態であるので、従来のようにテープから試料を剥す手間を必要とせず、容易に皺や極端な曲がりが防止されたシート状の試料を作製することができ、作製時間の短縮化及び作製工程の単純化を図ることができる。
また、本発明に係る試料付きテープによれば、皺や極端な曲がりが防止されたシート状の試料ブロックを、テープを介して容易にハンドリングすることができ、扱い易い。更に、必要時に開口を通してシート状の試料のみを容易にテープから分離させることも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明に係るシート状試料作製方法及び試料付きテープの一実施形態を、図1から図6を参照して説明する。
本実施形態のシート状試料作製方法は、図1から図6に示すように、試料1と、該試料1の周囲を覆うと共にエタノール(特定溶液)に浸漬したときに溶解する包理剤2とからなる柱状の試料ブロック3をスライス(切断)して、シート状の試料1’を作製する方法であって、柱状の試料ブロック3の上面3aに露出した上記試料1の端面を少なくとも囲むように開口5aが形成され、表面に粘着剤が塗布されたテープ(例えば、セロハンテープ(登録商標)等)5を、開口5aが試料1の端面を囲むように柱状の試料ブロック3の上面3aに貼り付ける貼付工程と、該貼付工程後、上記柱状の試料ブロック3を上面3aから所定距離t離間した位置で上面3aに平行な面でスライスし、上記テープ5の表面にシート状の試料1’及びシート状の包理剤2’からなるシート状の試料ブロック3’が貼り付いた試料付きテープ5’を作製する切断工程と、該切断工程後、開口5aを通してシート状の試料1’を打ち抜き、試料付きテープ5’から該シート状の試料1’を分離させる分離工程と、該分離工程後、シート状の試料1’を、エタノールに浸漬させる浸漬工程とを有している。これら各工程について、以下に詳細に説明する。
【0024】
なお、本実施形態のシート状試料作製方法は、図1から図3に示すように、カッターAと、柱状の試料ブロック3を上面3aに対して垂直なZ方向に移動可能なZステージBとを有するミクロトームを利用するものとして説明する。また、上記所定距離tを、10μmに設定した場合を例にして説明する。
【0025】
また、上記試料1は、医療分野、製薬分野、食品分野、生物分野等から適時選択された生物、動物、植物、食品等が用いられる。本実施形態では、例えば、鼠の生体試料として説明する。また、上記包理剤2は、液状化と冷却固化とが可能とされると共に、エタノールに浸漬した際に溶解する樹脂やパラフィン等である。本実施形態では、例えば、“ろう”として説明する。そして、柱状の試料ブロック3は、例えば、直径6mmの円柱状に形成されているものとして説明する。
また、上記テープ5は、開口5aが長手方向に所定間隔を空けて複数形成された帯状テープとして説明する。
【0026】
まず、上記柱状の試料ブロック3をZステージB上に載置する。なお、このZステージBは、図示しない制御部の指示を受けて、Z方向に向けて10μm毎に上昇と停止とを順次繰り返しながら作動するようになっている。また、上記カッターAは、ZステージBの上面3aと平行な方向、即ち、柱状の試料ブロック3の上面3aと平行な方向にスライドするようになっており、そのスライド速度は制御部によって制御されている。更に、制御部は、カッターAを一度作動させて元の位置に戻した後に、上記ZステージBを10μm上昇させると共にその位置で停止させ、その後、カッターAを作動させるようZステージB及びカッターAの作動タイミングの調整を行うようになっており、また、これら動作を繰り返し行うよう制御を行っている。
【0027】
柱状の試料ブロック3をZステージB上に載置後、該柱状の試料ブロック3の上面3aと、カッターAのスライス位置とが一致するようZステージBの高さを調整する。調整後、上記貼付工程により、図1に示すように、柱状の試料ブロック3の上面3aにテープ5の表面を貼り付ける。この際、上述したように、開口5aが柱状の試料ブロック3の上面3aに露出した試料1の端面を囲むようにテープ5を貼り付けるので、該テープ5は、試料ブロック3の上面3aに露出した包理剤2の領域のみに、接着剤を介して貼り付いた状態となる。即ち、テープ5は、試料1の端面に貼り付かないようになっている。
【0028】
この貼付工程後、図1から図3に示すように、柱状の試料ブロック3を上面3aから10μm離間した位置で、該上面3aに平行な面でスライスする切断工程を行う。即ち、制御部は、ZステージBをZ方向に10μm上昇させた後に、カッターAを作動させる。この際、切断される側の柱状の試料ブロック3には、テープ5が貼り付けられているので、10μm程度の微小な厚さ(極薄状)であっても、シート状の試料ブロック3’の姿勢が崩れ難い。よって、従来のように、シート状の試料ブロック3’に皺が生じたり、極端な丸み(例えば、U字状)が生じたりすることはない。
また、柔軟性を有するテープ5を利用しているので、図2及び図3に示すように、カッターAによる切断時にシート状の試料ブロック3’が浮き上がって曲げが生じても、この曲げに合わせて(応じて)テープ5が撓むので、テープ5とシート状の試料ブロック3’とが剥がれ難く、シート状の試料ブロック3’の姿勢が崩れることはない。よって、確実にシート状の試料ブロック3’に皺が生じたり極端な丸みが生じたりすることを防止できる。
そして、この切断工程により、図4に示すように、テープ5にシート状の試料ブロック3’が貼り付いた試料付きテープ5’を作製することができる。
【0029】
次いで、上述した貼付工程及び切断工程を繰り返して、テープ5に形成された複数の開口5aに応じてシート状の試料ブロック3’を貼り付ける。全ての開口5aに対して、貼付工程及び切断工程を行った後、上記分離工程を行う。
まず、試料付きテープ5’を、図5に示すように、96穴ウェルプレート10上に位置させる。この際、シート状の試料ブロック3’は、テープ5に貼り付けられているので、ハンドリングが容易であり、96穴ウェルプレート10が上記切断工程を行う場所から離れていた場所に設置されていたとしても移動が容易で扱い易い。
【0030】
次いで、試料1の端面、即ち、シート状の試料1’の端面を少なくとも囲むように形成された貫通孔11aを有するプレート11を、該貫通孔11aとシート状の試料1’とが対向するようにシート状の試料ブロック3’に当接させる。即ち、プレート11は、96穴ウェルプレート10とシート状の試料ブロック3’との間に位置させる。これにより、96穴ウェルプレート10の孔10a上に、貫通孔11a及びシート状の試料1’が順に位置する状態となる。
なお、本実施形態においては、図5に示すように、シート状の試料1’の直径d1よりプレート11の貫通孔11aの直径d2が大きく、また、該貫通孔11aの直径d2よりテープ5の開口5aの直径d3が大きくなるように設定されている。更に、この開口5aの直径d3は、96穴ウェルプレート10の孔10aの直径d4と略同じ大きさである。
【0031】
そして、図5及び図6に示すように、打抜き用チャックCを利用して上記分離工程を行う。即ち、プレート11を当接させた反対側(試料付きテープ5’側)から、開口5aを通して打抜き用チャックCによりシート状の試料1’の打ち抜きを行う。なお、この打抜き用チャックCの直径d5は、“シート状の試料1’の直径d1<d5<プレート11の貫通孔11aの直径d2”となるように設定されている。よって、シート状の試料1’と共にシート状の包理剤2’の一部が打ち抜かれる。これら打ち抜かれたシート状の試料1’及びシート状の包理剤2’の一部は、96穴ウェルプレート10の孔10a内に落下する。
この分離工程の際、試料付きテープ5’は、試料1に貼り付いていない状態であるので、従来のように、シート状の試料1’を分離する際にテープ5にくっついて破損等することはなく、確実且つ容易に分離する。
【0032】
また、分離工程の際に、プレート11を利用するので、打ち抜き時に生じる試料付きテープ5’の反りや変形等を抑えることができるので、シート状の試料1’の分離を円滑に行うことができる。
更に、打抜き用チャックCの先端を、常温又は加熱した状態で打ち抜きを行う。特に、加熱した状態で打ち抜きを行うことで、シート状の包理剤2’を溶かしながら打ち抜きできるので、より円滑にシート状の試料1’を分離させることができる。
更には、打抜き用チャックCの内部に、先端部に開口を有する流路Dを設け、シート状の試料1’を打ち抜いた後に、該流路Dに空気を流すようにしても構わない。こうすることで、打ち抜いた後のシート状の試料1’が、打抜き用チャックCの先端に自身の粘性で付着することがないのでより好ましい。
【0033】
次いで、上述した分離工程を、試料付きテープ5’に貼り付いたシート状の試料ブロック3’に対して繰り返し連続的に行い、96穴ウェルプレート10の各孔10a内にシート状の試料1’(シート状の包理剤2’の一部を含む)を落下させる。
全てのシート状の試料1’の分離を行った後、96穴ウェルプレート10の各孔10aにエタノールを注入し、シート状の試料1’を浸漬させる。これにより、シート状の試料1’を伸展させて、若干の反り等をなくすことができる。これにより、高品質なシート状の試料1’を作製することができる。また、同時に、シート状の試料1’と共に打ち抜かれたシート状の包理剤2’の一部は、エタノールによって溶解する。従って、完全に独立した状態でシート状の試料1’を抽出することができる。なお、この浸漬工程により、シート状の包理剤2’は溶解するので、上述した分離工程の際にどのような形状或いは多くの量のシート状の包理剤2’が打ち抜かれたとしても構わない。
【0034】
また、図5及び図6に示すような流路Dを有する打抜き用チャックCを利用した場合には、空気を流してシート状の試料1’を確実に落下させた後に、該流路Dにエタノールを流して96穴ウェルプレート10の孔10a内に注入しても構わない。こうすることで、作業時間のさらなる短縮を図ることができる。
【0035】
その後、96穴ウェルプレート10の各孔10aから溶解したシート状の包理剤2’を含んだエタノールを吸引することで、図6に示すように、96穴ウェルプレート10内に厚さ10μmの極薄のシート状の試料1’を載置することができる。そして、各シート状の試料1’に、観察や分析等の目的に応じた様々な溶液を添加することで、鼠の生態試料1を細胞レベルで多角的に観察や分析することができる。
【0036】
上述したように、本実施形態のシート状試料作製方法によれば、テープ5が試料1に貼り付いていない状態であるので、従来のようにテープ5から試料1を剥す手間を必要とせず、容易に皺や極端な曲がりが防止されたシート状の試料1’を作製することができ、作製時間の短縮化及び作製工程の単純化を図ることができる。特に、浸漬工程を行うことで、より高品質なシート状の試料1’を作製することができる。更に、テープ5が帯状テープであるので、連続的にシート状の試料1’を作製することができ、作業効率をより向上させることができる。
また、本発明の試料付きテープ5’によれば、シート状の試料ブロック3’を、テープ5を介して容易にハンドリングすることができ、扱い易い。
【0037】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0038】
例えば、上記実施形態では、シート状の試料を、厚さ10μmの極薄に作製したが、10μmに限らず任意の厚さに作製して構わない。また、特定溶液としてエタノールを例に説明したが、エタノールに限られるものではない。また、エタノール以外の特定溶液を採用した場合には、該特定溶液に溶解するように包理剤の材質を選択すれば良い。
【0039】
また、テープは、複数の開口を有する帯状のテープを採用したが、帯状でなくても構わない。また、テープの表面に塗布された接着剤は、テープの全体に塗布されている必要はなく、例えば、柱状の試料ブロックの上面に露出している包理剤の領域の範囲で塗布されていれば構わない。
更に、分離工程の際、プレートを利用したが、プレートを利用せずに、例えば、試料付きテープを水平方向に引張って張力を与えた状態で、打ち抜きを行っても構わない。但し、プレートを利用することが好ましい。
更には、上記実施形態においては、シート状の試料の直径d1に対して、テープの開口の直径を大きく設定したが、シート状の試料の直径d1とテープの開口の直径d2とを同じにすることで、シート状の試料のみを高精度に打ち抜くことも可能である。
【0040】
また、上記実施形態において、貼付工程後、テープの開口に、エタノールに浸漬したときに溶解すると共に冷却固化可能な液状の補強剤、例えば、“ろう”を塗布し、該塗布後、補強剤を冷却固化させてテープの開口を塞ぐ塗布工程を行っても構わない。
こうすることで、柱状の試料ブロックの上面全体が、テープに貼り付いた状態となり、貼り付け状態がより強固なものとなる。つまり、テープは、開口が形成されていない状態に擬制される。従って、その後の切断工程により、柱状の試料ブロックを、5μm程度でさらに極薄で切断したとしても、開口とシート状の試料ブロックとの間に裂け目等が入ることがなく、確実に切断される。よって、特に極薄で(例えば、10μm以下)のシート状の試料を確実に作製することができる。
なお、補強剤は、分離工程によりシート状の試料と共に分離し、その後、浸漬工程時にエタノールによって溶解する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係るシート状試料作製方法を説明するための一工程図であって、柱状の試料ブロックの上面に開口を有するテープを貼り付け、その後、カッターにより該柱状の試料ブロックを、上面から10μm離間した位置で上面に平行な方向にスライスする直前の状態を示す図である。
【図2】本発明に係るシート状試料作製方法を説明するための一工程図であって、図1に示す状態から、カッターを作動させて柱状の試料ブロックを切断している最中を示す図である。
【図3】本発明に係るシート状試料作製方法を説明するための一工程図であって、図2に示す状態から、カッターをさらに作動させて柱状の試料ブロックを切断した状態を示す図である。
【図4】図3に示す切断により作製された、テープと、該テープに貼り付いたシート状の試料及び包理剤からなるシート状の試料ブロックとからなる試料付きテープを示す図であって、(a)は断面図、(b)は下面図である。
【図5】本発明に係るシート状試料作製方法を説明するための一工程図であって、図4に示す試料付きテープをプレートを間に挟んで、96穴ウェルプレート上に配置した状態を示す図である。
【図6】本発明に係るシート状試料作製方法を説明するための一工程図であって、図5に示す状態から、打抜き用チャックによりテープの開口を通してシート状の試料を打ち抜き、該シート状の試料を96穴ウェルプレートの孔内に落下させた状態を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
1 試料
1’ シート状の試料
2 包理剤
3 柱状の試料ブロック
3’ シート状の試料ブロック
3a 試料ブロックの上面
5 テープ
5’ 試料付きテープ
5a 開口
11 プレート
11a 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料と、該試料の周囲を覆うと共に特定溶液に浸漬したときに溶解する包理剤とからなる柱状の試料ブロックを切断して、シート状の試料を作製するシート状試料作製方法であって、
前記柱状の試料ブロックの上面に露出した前記試料の端面を少なくとも囲むように開口が形成され、表面に粘着剤が塗布されたテープを、開口が試料の端面を囲むように柱状の試料ブロックの上面に貼り付ける貼付工程と、
該貼付工程後、前記柱状の試料ブロックを上面から所定距離離間した位置で該上面に平行な面で切断し、前記テープの表面にシート状の試料及び包理剤からなるシート状の試料ブロックが貼り付いた試料付きテープを作製する切断工程と、
該切断工程後、前記開口を通して前記シート状の試料を打ち抜き、前記試料付きテープから該シート状の試料を分離させる分離工程とを有することを特徴とするシート状試料作製方法。
【請求項2】
請求項1記載のシート状試料作製方法において、
前記分離工程の際、前記試料の端面を少なくとも囲むように形成された貫通孔を有するプレートを、該貫通孔と前記シート状の試料とが対向するように前記シート状の試料ブロック又は前記試料付きテープの裏面に当接させ、プレートを当接させた側の反対側からシート状の試料を打ち抜くことを特徴とするシート状試料作製方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載のシート状試料作製方法において、
前記テープは、前記開口が長手方向に所定間隔を空けて複数形成された帯状テープであり、
前記開口の数に応じて前記貼付工程及び前記切断工程を繰り返して行い、全ての開口に対して貼付工程及び切断工程が終了した後、前記分離工程を連続して行うことを特徴とするシート状試料作製方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のシート状試料作製方法において、
前記分離工程後、前記シート状の試料を、前記特定溶液に浸漬させる浸漬工程を有することを特徴とするシート状試料作製方法。
【請求項5】
請求項4記載のシート状試料作製方法において、
前記貼付工程後、前記テープの開口に、前記特定溶液に浸漬したときに溶解すると共に冷却固化可能な液状の補強剤を塗布し、該塗布後、補強剤を冷却固化させて開口を塞ぐ塗布工程を有することを特徴とするシート状試料作製方法。
【請求項6】
試料と、該試料の周囲を覆うと共に特定溶液に浸漬したときに溶解する包理剤とからなる柱状の試料ブロックの上面に、該上面に露出した試料の端面を少なくとも囲むように開口が形成されて表面に粘着剤が塗布されたテープを、開口が試料の端面を囲むように貼り付け、貼付後、柱状の試料ブロックを上面から所定距離離間した位置で該上面に平行な面で切断して作製された、前記テープと、該テープの表面に貼り付けられたシート状の試料ブロックとからなることを特徴とする試料付きテープ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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