説明

シート状車両用副資材、車両用部材及びその製造方法

【課題】低コスト及び複雑な金型形状に追従することのできるシート状車両用副資材、この車両用副資材を用いた車両用部材、及びその製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】内側周縁部にセットピンを立設した上金型と、下金型を用いて車両用部材を製造するときに使用されるシート状車両用副資材であり、縁部に切り込み14を有するとともに、この切り込み14を挟んで向い合う切り込み辺11a,11bに、該切り込み辺同士を前記セットピンに重ね留めするための孔13bを夫々有することを特徴とするシート状車両用副資材11。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クッション体の裏面側に取付けられるシート状車両用副資材、車両用部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、座席(座部、背もたれ)、アームレスト等のクッション体とフレーム等の金属部材との擦れ音発生の防止等のために、クッション体の裏面側にシート状の車両用副資材を一体発泡成形した車両用部材が知られている。ところで、例えばクッション体の裏面側の形状は複雑な三次元曲線を有しているので、クッション体を製造するための金型の内側も複雑な形状の凹凸部を有している。そのため、何ら加工されていない一枚のシート状の車両用副資材を用いて一体発泡成形させた場合、車両用副資材が複雑な金型形状に追従できず、クッション体裏面の複雑な凹凸形状を出すことができないため、フレームに確実に装着できない。
【0003】
こうしたことから、従来技術においては、例えばクッション体裏面の複雑な凹凸形状を出すために、図4(A),(B)に示すような縫製を施し、凹凸形状を車両用副資材に付与する手法が一般的に行われている。ここで、図4(A)は車両用副資材本体1aに該副資材本体1aと同素材の裁断片3を縫製する前の状態を説明するための平面図、図4(B)は縫製後の車両用副資材1の要部の斜視図を示す。即ち、この手法は、上金型の凸部23に対応する位置の車両用副資材1に開口部2を形成し、金型の凹凸部の形状に合わせて図4(B)のように裁断片3の辺3aと辺3bとを縫製した箱型の副資材3’を開口部2に当てて車両用副資材本体1aに縫製するというものである。なお、図4において、符番4は上金型の内側の周縁部に立設された複数のセットピンに車両用副資材1を留めるための孔、符番5は上金型の内側に設けられた凸部に対応した開口部、符番6は車両用副資材本体1aと箱型の副資材3’の縫製ラインを示す。
【0004】
また、車両用副資材全体を熱プレスにより金型の凹凸に合うような凹凸を付与させたものも知られている。
従来、車両用副資材に関連する技術としては、例えば特許文献1、特許文献2が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−1147号公報
【特許文献2】特開平5−130923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、縫製(特許文献1)においては、一縫い単位、更には縫製作業上のひっくり返しなど一つ一つの工程毎に費用が掛かり、複雑な金型形状ほど作業工数が増えコスト高を招く要因となっていた。また、多くの作業工数、コストを要しても、一体発泡成形の際、金型の内側の形状に沿うように密着することもできない欠点を有する。
【0007】
熱プレス(特許文献2)においては、成形された副資材は高価な上に、重く、また形状が固定されているため、嵩張り、保管のための場所が多く必要とされていた。
【0008】
本発明はこうしたことを考慮してなされたもので、複雑な金型形状の場合でも、従来のような熱プレス品を使用することなく、又縫製についても削減乃至省略することができ、上金型にセットして使用する低コストのシート状車両用副資材、この車両用副資材を用いた車両用部材、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のシート状車両用副資材は、内側周縁部にセットピンを立設した上金型と下金型を用いて車両用部材を製造するときに使用されるシート状車両用副資材であり、切り込みを有するとともに、少なくともこの切り込みを挟んで向い合う切り込み辺に、該切り込み辺同士を前記装着ピンに重ね留めするための孔又は切欠きを夫々有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、複雑な金型形状の場合でも、従来のような熱プレス品を使用することなく、又縫製についても削減乃至省略することができ、上金型にセットして使用する低コストのシート状車両用副資材、この車両用副資材を用いた車両用部材、及びその製造方法が得られる。
【0011】
また、本発明の副資材は、形状が固定されていないため、ウレタン発泡原液の発泡圧により金型へ沿うように密着させられるため、縫製や熱プレスという手法を用いることなく、クッション体裏面の凹凸形状が出せる。更には、熱プレス品のように嵩張らないため、保管に場所をとらずに済む。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は本発明に係るシート状車両用副資材の説明図である。
【図2】図2は本発明に係る金型の説明図である。
【図3】図3は本発明に係る車両用部材の断面図である。
【図4】図4は従来のシート状車両用副資材の説明図である。
【図5】図5は本発明に係るシート状車両用副資材に設ける切り込みと、孔、切欠きの例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係るシート状車両用副資材の実施例について説明する。
図1(A),(B)はシート状車両用副資材の説明図であり、図1(A)は平面図、図1(B)は図1(A)のシート状車両用副資材の切り込み部分の切り込み辺同士を重ね留めした状態の部分斜視図である。
【0014】
図中の符番11は、不織布からなるシート状車両用副資材を示す。この副資材11の縁部には、副資材11を後述する上金型の内側に立設された複数のセットピン12に装着するための孔13aが複数設けられている。また、金型内側の複雑な凹凸部に対応するために副資材11の縁部には、V字状の切り込み14が左右対称的な位置に夫々形成されている。この切り込み14を挟んで向い合う切り込み辺(切り込みにより形成された辺)11a,11bには、該切り込み辺同士をセットピン12に重ね留めするための孔13bが夫々形成されている。なお、符番15は、上金型の内側に設けられた凸部18に対応した開口部(切り抜き部)である。
【0015】
こうした構成の副資材11は、図2に示す上金型16と下金型17からなるクッション体成形金型のうち、上金型16の内側にセットされて使用される。即ち、上金型16の周縁部に副資材11を留めるためのセットピン12が複数個立設して設けられているので、これらのセットピン12に副資材11の縁部に形成された孔13a,13bを嵌めることにより係止(セット)される。この際、孔13aにはセットピン12に単に差し込むだけでよい。一方、切り込み14を挟んで向い合う孔13bの場合は、図1(B)に示すように、切り込み14を挟んで向かい合う一方の切り込み辺11aをセットピン12に差し込んだ後、他方の切り込み辺11bを切り込み辺11aの孔13bに重ねるようにセットピン12に差し込むことにより重ね留めする。なお、この切り込み辺11a,11bをセットピン12に係止することで、上金型16に設けられた凸部23に対応する凹部を形成できる。
【0016】
車両用部材は、例えば図2のクッション体成形金型を用いて次のように製造される。まず、前記副資材11を、該副資材11の孔13aをセットピン12に差し込むとともに、切り込み14近くでは切り込み辺11a,11b同士の孔13bをセットピン12に差し込むことにより重ね留めし、上金型16の内側にセットする。つづいて、ポリウレタン発泡原液を下金型17内に供給した後、上金型16を閉じる。その後、上金型16と下金型17の間に形成されたキャビティ内でポリウレタン発泡原液が発泡充填され、脱型すると、図3のようにクッション体19の裏面側に副資材11が一体発泡成形された車両用部材20が得られる。
【0017】
上記実施例に係るシート状車両用副資材は、図1に示すようにクッション体成形金型の内側の凸部23に対応させるために副資材11の縁部にV字状の切り込み14を左右対称的な位置に有するとともに、この切り込み14を挟んで向い合う切り込み辺11a,11bに、該切り込み辺同士をセットピン12に重ね留めするための孔13bを夫々有した構成になっている。従って、複雑な形状を有したクッション体成形金型の上金型16に副資材11をセットする場合でも、図1(B)に示すように、一方の切り込み辺11aをセットピン12に差し込んだ後、他方の切り込み辺11bを切り込み辺11aに重ねるようにセットピン12に差し込むことにより簡単に重ね留めでき、金型の内側の複雑な凹凸部に追従させることができる。即ち、従来のように熱プレス品を使用することなく、又縫製についても削減乃至省略することができ、複雑な金型形状に対処しうる低コストのシート状車両用副資材を得ることができる。
【0018】
また、一体発泡成形するときにセットピン12に重ね留めした切り込み辺11a,11bの孔13bとセットピン12の隙間から染み出した僅かなポリウレタン発泡原液により重ね留めした切り込み辺11a,11bが接着され、縫製した従来の副資材1と同じように形状を保持することができる。
【0019】
なお、上記実施例では、切り込みがV字状である場合について述べたが、これに限らず、例えば、図5(A)〜(T)に示す様々な形態の切り込みを採用することができる。即ち、切り込みが副資材の縁部の側辺に垂直又は傾斜したスリット21の場合(図5(A),(B)図示)、スリット21が途中で屈曲している場合(図5(C)図示)、V字状の切り込み14が途中で屈曲している場合(図5(D)図示)、切り込み14が曲線部14aを有している場合(図5(E)図示)、切り込み14が円形状の場合(図5(F)図示)、切り込み14が三角形状の場合(図5(G)図示)、切り込みがスリット21で先端が三角形状,円形,四角形状,星型、菱形形状に切り抜かれている場合(図5(H)〜(L)図示)、V字型形状の切り込み14の先端が円形,三角形状に切り抜かれている場合(図5(M),(N)図示)、切り込みがある程度の幅を有したスリット21である場合(図5(O)図示)、切り込みがスリット21でかつ向い合う切り込み辺11a,11bに夫々大きさが異なる孔13bが形成されている場合(図5(P)図示)、切り込みがスリット21でかつ他方の切り込み辺11aに切欠き22が形成されている場合(図5(Q)図示)、切り込みがスリット21でかつ向い合う切り込み辺11a,11bに夫々切欠き22が形成されている場合(図5(R)図示)、切り込みがスリット21でかつ向い合う切り込み辺11a,11bに夫々大きさが異なる切欠き22が形成されている場合(図5(S)図示)、V字型形状の切り込み14でかつ他方の切り込み辺11aに切欠き22が形成されている場合(図5(T)図示)が挙げられる。
【0020】
なお、図5(R),(S)のようにスリット21を介して向い合う切り込み辺に切欠きが夫々形成されている場合、セットピンに切り込み辺を係止すると、切り込み辺同士の摩擦力だけで重ね留めすることができるが、接着テープや接着スプレー等で切り込み辺を仮留めしてもよい。
【0021】
また、図5は請求項2〜5の要素を夫々例示したものであり、これに限らず、自由に組み合わせることが可能である。なお、切り込みは、副資材の外周縁部だけに限らず、例えば、開口部(切り抜き部)15の縁部にも必要に応じて設けてもよい。これらは、クッション体の裏面形状に合わせて適宜変更することができる。
【0022】
更に、切り込み辺をセットするのに用いられるセットピンは、孔や切欠きの大きさ、形状に合わせて外れにくいようにセットピンの頭部形状や太さを調整することができる。
【0023】
上記実施例では、副資材に形成される切り込みが上金型の凸部23に対応する左右対称に夫々1箇所ずつ形成されている場合のみについて述べたが、これに限らず、金型形状(クッション体裏面形状)の複雑さに合わせて1箇所であってもよいし、3箇所以上に切り込みを形成するなど適宜設けることができる。また、切り込み辺2つを重ね留めする場合について述べたが、これに限らず、3つ以上の切り込み辺を一つのセットピンに重ね留めしてもよい。更に、本発明の車両用副資材には縫製を併用することも可能である。さらには、副資材の材料として不織布を用いた場合について述べたが、これに限らず、粗毛布、フェルト、寒冷紗等、従来使用されているものを用いてもよい。
【0024】
なお、副資材の切り込み、切り抜き加工は、打ち抜きやNC裁断等の従来知られている方法を用いることができる。
【0025】
本発明によれば、例えば従来縫製では一縫いに5円掛かり、縫製上のひっくり返しに2円掛かっていたが、本発明によれば、車両用副資材一枚につき12円のコストダウンができる。1円単位でコストダウンが要求される昨今においては、このクッション体を1万ピース/月生産しているとすると、更には他のクッション体にも横展開が可能なことを考慮すれば効果が歴然としていることが明らかである。更に、従来のように擦れ音を防止できるとともに、熱プレス品を使用することなく、また、縫製の削減乃至省略しても、複雑な金型形状に追従させ一体発泡成形することができる。
【符号の説明】
【0026】
11…シート状車両用副資材、11a,11b…切り込み辺、12…セットピン、13a,13b…孔、14…V字状の切り込み、15…開口部、16…上金型、17…下金型、18,23…凸部、19…クッション体、20…車両用部材、21…スリット、22…切欠き。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側周縁部にセットピンを立設した上金型と、下金型を用いて車両用部材を製造するときに使用されるシート状車両用副資材であり、
切り込みを有するとともに、少なくともこの切り込みを挟んで向い合う切り込み辺に、該切り込み辺同士を前記セットピンに重ね留めするための孔又は切欠きを夫々有することを特徴とするシート状車両用副資材。
【請求項2】
前記切り込みはV字状であることを特徴とする請求項1記載のシート状車両用副資材。
【請求項3】
前記切り込みはスリット状であることを特徴とする請求項1記載のシート状車両用副資材。
【請求項4】
前記切り込みは屈曲部及び/又は曲線部を有することを特徴とする請求項1乃至3いずれか一記載のシート状車両用副資材。
【請求項5】
前記切り込みの先は、円形、楕円形、三角形、多角形、星型のいずれかに切り抜かれていることを特徴とする請求項1乃至4いずれか一記載のシート状車両用副資材。
【請求項6】
シートクッション、シートバック、アームレストのいずれかのクッション体と、このクッション体の裏面側に一体発泡成形した請求項1乃至5いずれか記載のシート状車両用副資材とを具備することを特徴とする車両用部材。
【請求項7】
請求項1乃至5いずれか記載のシート状車両用副資材をセットピンに係止させて上金型の内側にセットし、ウレタン発泡原液を下金型内に供給した後、上金型を閉じて一体発泡成形させることを特徴とする車両用部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−126291(P2012−126291A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−280586(P2010−280586)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(000003425)株式会社東洋クオリティワン (18)
【Fターム(参考)】