説明

シート製造方法、シート製造用基板および光電変換素子

【課題】金属材料および半導体材料のうち少なくともいずれかを一方を含有材料の融液から直接基板の主面上に作製されるシートの厚さの分布を低減する。
【解決手段】本シート製造方法は、一方の主面100mに複数の凸部100pを有する基板の主面100mを金属材料および半導体材料のうち少なくともいずれか一方を含有する材料の融液に接触させ、材料の固相を主面100m上で凸部100pを起点として成長させることにより、材料を主成分とするシートを得るシート製造方法であって、基板100の一部分の凸部101pの熱抵抗値が基板100の他の部分の凸部104pの熱抵抗値に比べて大きいことを特徴とする

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート製造方法、シート製造用基板および光電変換素子に関する。詳しくは、シート厚さの分布を低減するシート製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のシリコンシート製造方法の1つとして、たとえば、特開2001−223172号公報に開示される「シート製造方法、シート、シート製造装置および太陽電池」が挙げられる。
【0003】
この製造方法によれば、原料の融液に冷却された凹凸構造を持つ基板を浸漬し、その基板表面上に板状シリコンシートを成長させるというものである。このときこの基板の凹部深さ、言い換えれば溝深さを面内で変更することにより、基板面内の冷却度合いを制御することにより、浸漬前の基板面内温度分布を制御し、作製された板状シリコンシートの厚さの分布を制御しようとするものである。
【0004】
また、特開2002−94098号公報に開示される「結晶薄板の製造方法および結晶薄板を用いた太陽電池」によれば、熱伝導率の異なる多層基体材料を用いることにより、基体表面温度を制御し、材料融液に基体を浸漬させたときの、基体表面に作製された薄板の厚さを制御しようというものである。
【特許文献1】特開2001−223172号公報
【特許文献2】特開2002−94098号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1および特許文献2に記載されているシートの厚さの分布の低減の方策は、何れも、基板を材料融液に浸漬する前に冷却し、基板溝部の形状、若しくは熱伝導率の異なる多層基体材料を用いることにより、浸漬前基板面内温度分布を制御し、結果的に作製されるシリコンシートの厚さの分布を低減しようとするものである。このような手段を用いてもシリコンシートの厚さの分布の低減は可能であるが、生産性という観点から鑑みると、シリコンシートの厚さの分布を低減するために、基板の冷却手段を必要とすることによる装置設備費およびランニングコストの上昇という課題がある。また、基板を冷却した場合、所望の基板面内の温度分布に達するまで、一定の所要時間を要することによる、生産性が低下し太陽電池のコストが上昇するといった課題がある。
【0006】
また、基板の主面内の熱抵抗値の分布を制御することなく基板を融液に浸漬した場合、最初に浸漬される前端側の基板温度に比べて、基板温度よりも温度の高い融液からの熱伝導により、基板中央部または後端側の基板温度が高くなる。ここで、シートを構成する結晶の成長速度は、融液から基板への熱移動量に依存することが知られている。すなわち、基板温度が低い程、融液との温度差が大きくなる。かかる温度差が大きいと熱移動量も大きくなり、シートを構成する結晶の成長速度も大きくなる。同様に基板温度が高い程、融液との温度差が小さくなる。かかる温度差が小さいと熱移動量も小さくなり、シートを構成する結晶の成長速度も小さくなる。
【0007】
上述の理由より、主面内の熱抵抗の分布が実質的に一様な基板を融液に浸漬させた場合、基板前端部上に成長したシートは、その基板中央部および基板後端部上に成長したシートに比べてより厚く成長する。このように主面内における厚さの分布の大きいシートから、太陽電池を作製するプロセスにおいて、電極の印刷をはじめ、さまざまな不良の原因となり、歩留りを低下させるという課題がある。
【0008】
本発明は、金属材料および半導体材料のうち少なくともいずれかを一方を含有材料の融液から直接基板の主面上に作製されるシートの厚さの分布を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、一方の主面に複数の凸部を有する基板の主面を金属材料および半導体材料のうち少なくともいずれか一方を含有する材料の融液に接触させ、この材料の固相を主面上で凸部を起点として成長させることにより、材料を主成分とするシートを得るシート製造方法であって、基板の一部分の凸部の熱抵抗値が基板の他の部分の凸部の熱抵抗値に比べて大きいことを特徴とするシート製造方法である。
【0010】
本発明にかかるシート製造方法において、一部分を基板の融液への浸漬方向における基板前部とし、他の部分を浸漬方向における基板後部とすることができる。また、一部分を記基板の融液への浸漬方向と垂直な方向における基板中部とし、他の部分を垂直な方向における基板側部とすることができる。さらに、基板の融液への浸漬方向において、基板前端部から基板中央部へ向かって凸部の熱抵抗値を徐々に小さくすることができる。また、基板の融液への浸漬方向と垂直な方向において、基板中央部から基板側端部へ向かって凸部の熱抵抗値を徐々に小さくすることができる。
【0011】
また、本発明にかかるシート製造方法において、凸部の熱抵抗値を変えることは、凸部の構成材料の熱伝導率または凸部の断面積を変えることにより行うことができる。また、基板の融液への浸漬方向において、基板前部の凸部の構成材料の熱伝導率を基板後部の凸部の構成材料の熱伝導率に比べて大きくすることができる。また、基板の融液への浸漬方向と垂直な方向に対して、基板中部の凸部の構成材料の熱伝導率を基板側部の凸部の構成材料の熱伝導率に比べて大きくすることができる。
【0012】
また、本発明は、一方の主面に複数の凸部を有し、主面を金属材料および半導体材料のうち少なくともいずれか一方を含有する材料の融液に接触させ、主面上にこの材料を主成分とするシートを製造するためのシート製造用基板であって、基板の一部分の凸部の熱抵抗値が基板の他の部分の凸部の熱抵抗値に比べて大きいことを特徴とするシート製造用基板である。
【0013】
本発明にかかるシート製造用基板において、一部分を基板の融液への浸漬方向における基板前部とし、他の部分を浸漬方向における基板後部とすることができる。また、一部分を基板の融液への浸漬方向と垂直な方向における基板中部とし、他の部分を垂直な方向における基板側部とすることができる。
【0014】
また、本発明は、半導体材料を主成分とし、上記の製造方法により得られたシートを光電変換部に用いたことを特徴とする光電変換素子である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、金属材料および半導体材料のうち少なくともいずれかを一方を含有材料の融液から直接基板の主面上に作製されるシートの厚さの分布を低減することができる。かかるシートの厚さの分布が低減されることにより、必要最低の厚さに合わせてシート全体の厚さの分布を低減することが可能となる。また、シート全体の平均厚さを低減することにより、低コストで太陽電池を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明にかかるシート製造方法は、図1〜図12を参照して、一方の主面100mに複数の凸部100pを有する基板100の主面100mを金属材料および半導体材料のうち少なくともいずれか一方を含有する材料の融液306に接触させ、材料の固相を主面100m上で凸部を起点として成長させることにより、前記材料を主成分とするシートを得るシート製造方法であって、基板100の一部分の凸部101p,102p,106pの熱抵抗値が基板の他の部分の凸部104p,107p,114p,117pの熱抵抗値に比べて大きいことを特徴とする。本発明は、基板の凸部100pのうち一部分の凸部101p,102p,106pの熱抵抗値を他の部分の凸部104p,107p,114p,117pの熱抵抗値に比べて大きくすることにより、基板100の主面100m上に形成されるシートの厚さの分布を低減するものである。
【0017】
上記一部分および他の部分がどの部分とするかは、基板のどの方向についてその基板上に形成されるシートの厚さの分布を低減するかによって異なり、特に制限はない。図1〜図4、図8および図9を参照して、基板100の融液への浸漬方向Dにおけるシートの厚さの分布を低減するためには、一部分は基板の融液への浸漬方向における基板前部101,102であり、他の部分は浸漬方向における基板後部104,114であることが好ましい。また、図5〜図7、図10および図11を参照して、一部分は基板100の融液への浸漬方向Dと垂直な方向における基板中部106であり、他の部分は垂直な方向における基板側部107,117であることが好ましい。以下、より具体的に説明する。
【0018】
(実施形態1)
本発明にかかるシート製造方法の一実施形態は、図1〜図4を参照して、一方の主面100mに複数の凸部100pを有する基板100の主面100mを金属材料および半導体材料のうち少なくともいずれか一方を含有する材料の融液に接触させ、材料の固相を主面上で凸部100pを起点として成長させることにより、材料を主成分とするシートを得るシート製造方法であって、基板100の融液への浸漬方向Dにおいて基板前部101(領域F)の凸部101pの熱抵抗値が基板後部104(領域B)の凸部104pの熱抵抗値に比べて大きいことを特徴とする。ここで、熱抵抗値とは熱抵抗の値をいい、熱抵抗とは単位時間当たりの発熱量当たりの温度上昇量をいい、単位は℃・W-1である。
【0019】
本実施形態のシート製造方法においては、たとえば図1を参照して、基板100は、その一方の主面100mに複数の凸部100pを有し、その主面100mを上記材料の融液に浸漬することにより、その材料の固相をその主面100m上で、各凸部100pを起点として成長させて、その材料を主成分とするシートが得られる。ここで、基板100の主面100mに凸部100pが無く単なる平面である場合、シートの結晶成長の核となる部分が非常に少なく、その結果、結晶サイズの大きなデンドライト結晶の成長が支配的なシートが形成される場合がある。かかるデンドライト結晶は、結晶の成長方向によって成長速度が大きく異なる。たとえば、シリコン結晶の成長速度は、(110)面に垂直な方向([110]方向)については非常に高く、また(112)面に垂直な方向([112]方向)については非常に低い。この様な成長であるため、作製されたシート面内でデンドライト結晶の(112)面同士の成長が重ならず、局所的に穴の開いたシートが形成されてしまい、通常の製品として使用するためには不都合となる。
【0020】
そこで、本実施形態に示されるように、基板の主面にシートの結晶成長の起点となる凸部100pを設けることにより、結晶成長核の制御されたシートを形成することが可能となる。
【0021】
ここで、シートの原料となる材料(以下、シート材料ともいう)の融液からシートを形成するためには、基板100の主面100mの凸部100pと接する融液部分を融点以下にする必要がある。具体的には、基板の主面の凸部100pが高温の融液と接することにより、融液の熱が凸部100pを通じて基板100側に流れ、融点以下となることにより、基板表面の各凸部100pの先端近傍が成長の起点となって複数の結晶が成長し、それらの結晶が繋がってシートが形成されることとなる。結晶の成長速度、すなわちシートの厚さは、主に融液の過冷却度に関係し、過冷却度が大きい程結晶の成長速度も大きいと推測される。ここで、過冷却度とは、液体が凝固点(すなわち、転移点)を過ぎて冷却されても固体化せず、液体の状態を保持する現象において、その液体の温度と凝固点との温度差をいう。
【0022】
従来の基板のように、基板100の全ての凸部100pの熱抵抗値が実質的に等しい場合、基板前端部101eをシート材料の融液に浸漬したとき、その基板前端部101eは融液からの熱を受けて昇温し、次に、基板内の熱伝導により、基板後端部104eへ熱が移動することとなる。その結果、融液に浸漬する瞬間の基板温度は、基板前端部101eほど高く、基板後端部104eほど低くなる。融液から基板100への熱の移動量は、融液と基板との温度差が大きいほど大きくなるため、基板前端部101e側に位置する基板前部101での凸部101pにおける熱の移動量は、基板後端部104e側に位置する基板後部104での凸部104pにおける熱の移動量に比べて大きくなる。結果、基板の主面上に形成されるシートは、基板前端部ほど厚く、基板後端部ほど板厚分布が薄くなる。
【0023】
そこで、本実施形態においては、図1および図2を参照して、基板前部101の凸部101pの裾部分を切削することにより、凸部101pの断面積を小さくすることが可能となる。かかる裾部分を切削した凸部(基板前部の凸部101p)は裾部分を切削していない凸部(基板後部の凸部104p)に比べて断面積が小さくなるため、熱容量も小さくなり、一定の伝熱量に対してより高温になる。高温となって融液との温度差が小さくなるほどその凸部の熱抵抗値は大きくなる。基板前部101の凸部101pの熱抵抗値を基板後部104の凸部104pの熱抵抗値に比べて大きくすることにより、基板前部101におけるシートの結晶成長を抑制することができ、基板前部101におけるシートの厚さを低減することができる。こうして、基板の主面上に形成されるシートの前部の厚さを低減することが可能となる。
【0024】
ここで、基板前部101の凸部101pの熱抵抗値を大きくする方法としては、特に制限はなく、図2に示すような凸部101pの裾部分を切削する方法の他、図3に示すような凸部101pの凸部形状そのものを鋭角化する方法がある。
【0025】
上記のように、図2および図3に示すような本実施形態の基板においては、基板前部101の一定部分が他の部分(基板後部104)に比べて凸部の熱抵抗値が大きい構造を有する。かかる構造を有する基板においては、基板前部の熱抵抗値の大きな凸部上で形成されたシートの厚さは、基板前部の熱抵抗値を制御していない基板の場合と比べて、シート前半部が薄くなっているため、シート全体の厚さ分布は低減している。しかし、厳密には基板前部101の熱抵抗値の大きな凸部101p上で形成されたシートにおいても、基板前端部から基板中央部へかけシート厚さの分布の傾きが存在する。そこで、図4を参照して、基板100の融液への浸漬方向において、基板前端部101eから基板中央部105cへ向かって凸部101pの熱抵抗値が徐々に小さくすることにより、基板前部101におけるシートの厚さ分布の傾きを抑制することができる。ここで、凸部101pの熱抵抗低値を徐々に変える方法は、特に制限はなく、図4に示すような凸部101pの凸部形状そのものを徐々に鋭角化する方法の他、凸部の裾部分の切削深さを徐々に変える方法(図示せず)がある。
【0026】
ここで、シートを形成するための材料は、シート形成が可能な金属材料および半導体材料のうち少なくともいずれか一方を含有するものあれば特に制限はなく、金属材料としてはチタン(Ti)、アルミニウム(Al)などが挙げられ、半導体材料としてはシリコン(Si)、砒素化ガリウム(GaAs)などが挙げられる。
【0027】
(実施形態2)
本発明にかかるシート製造方法の他の実施形態は、図5〜図7を参照して、一方の主面100mに複数の凸部100pを有する基板100の主面100mを金属材料および半導体材料のうち少なくともいずれか一方を含有する材料の融液に接触させ、材料の固相を主面上で凸部100pを起点として成長させることにより、材料を主成分とするシートを得るシート製造方法であって、基板100の融液への浸漬方向Dと垂直な方向において基板中部106(領域C)の凸部106pの熱抵抗値が基板側部107(領域S)の凸部107pの熱抵抗値に比べて大きいことを特徴とする。なお、通常の場合、基板側部107は、基板中部106の両側に存在しており、両側の基板側部を意味する。
【0028】
図12を参照して、通常、坩堝301に保持されたシート材料の融液306は、坩堝301を通して加熱されるために、融液中央部306cに比べて坩堝301近傍の融液周辺部306rの融液温度は高くなる。坩堝サイズに比べて、融液306に浸漬してその主面上に結晶シートを形成する基板サイズが十分小さくないとき、言い換えれば、坩堝301の壁と基板側端107eとの距離が十分に取れない場合、従来の基板を用いると、基板側端107e付近の基板側部107に形成されるシートは、基板中部106に形成されるシートに比べて結晶成長速度が遅くなる。すなわち基板中部106に形成されるシートの厚さに比べて、基板側部107で形成されるシートの厚さは薄くなる。
【0029】
そこで、本発明では、図5および図6に示すように、基板側端部107e付近に位置する基板側部107の凸部107pの断面積を基板中部106の凸部106pの断面積に比べて大きくすることにより、基板端部107の凸部107pの熱抵抗値に比べて基板中部106の凸部106pの熱抵抗値を大きくすることができる。この結果、基板端部および基板中部で同断面積の凸部を用いた従来の基板の主面上に形成されたシートに比べて、本実施形態の基板の主面上に形成されるシートは、基板端部上では比較的厚く、基板中央部上では比較的薄く形成される。すなわち、本実施形態の基板の主面上に形成されるシートは、シート全体でみると、基板側端部上のシート厚さと基板中央部上でのシートの厚さの差が小さくなり、シート厚さの分布が低減される。
【0030】
ここで、基板中部106の凸部106pの熱抵抗値を大きくする方法としては、特に制限はなく、図6に示すような凸部101pの裾部分を切削する方法の他、凸部106pの凸部形状そのものを鋭角化する方法がある(図示せず)。
【0031】
また、基板100の融液への浸漬方向と垂直な方向において、基板中央部106cから基板側端部107eへ向かって凸部107pの熱抵抗値を徐々に小さくすることにより、基板の主面上に形成されるシートの厚さの分布の傾きを低減することが可能となる。
【0032】
(実施形態3)
本発明にかかるシート製造方法のさらに他の実施形態は、図8および図9を参照して、実施形態1と同様に、一方の主面100mに複数の凸部100pを有する基板100の主面100mを金属材料および半導体材料のうち少なくともいずれか一方を含有する材料の融液に接触させ、材料の固相を主面上で凸部100pを起点として成長させることにより、材料を主成分とするシートを得るシート製造方法であって、基板100の融液への浸漬方向Dにおいて基板前部102(領域F)の凸部102pの熱抵抗値が基板後部114(領域B)の凸部114pの熱抵抗値に比べて大きいことを特徴とする。
【0033】
ここで、基板後部の凸部に比べて基板前部の凸部の熱抵抗値を大きくする方法が、実施形態1においては基板前部101の凸部101pの裾部分を切削することまたは凸部を鋭角化する方法であるのに対して、本実施形態においては基板前部102の凸部102pの構成材料の熱伝導率を基板後部114の凸部114pの構成材料の熱伝導率に比べて小さくする方法である点で相違する。すなわち、本実施形態においては、熱伝導率の異なる材料を組み合わせることにより、基板前部102の凸部102pの熱抵抗値を基板後部114の凸部114pの熱抵抗値に比べて大きくして、基板100の主面100m上に形成されるシートの厚さの分布を低減する。
【0034】
たとえば、基板前部102の凸部102pの構成材料の熱伝導率κ1とし基板後部114の凸部114pの構成材料の熱伝導率κ2とするとき、κ1<κ2となるような材料を用いると、基板前部における融液から基板側への熱移動量Q1と基板後部における融液から基板側への熱移動量Q2との関係はQ1<Q2となる。このため、基板前部において、シートの結晶成長が抑制され、シートの厚さが低減する。この結果、基板の浸漬方向におけるシートの厚さの分布は低減する。また、本実施形態においては、基板前部の凸部の構成材料と基板後部の凸部の構成材料とを互いに熱伝導率の異なる材料を用いることにより、基板全体の凸部の形状を同一にでき、基板表面の凹凸加工が同一刃物で加工することが可能となり、基板の生産性が向上する。図8および図9においては、2種類の異なる熱伝導率を持つ材料の組み合わせで基板を構成しているが、3種類以上の異なる熱伝導率を持つ材料を組み合わせて基板を構成してもよい。
【0035】
(実施形態4)
本発明にかかるシート製造方法のさらに他の実施形態は、図10および図11を参照して、実施形態2と同様に、一方の主面100mに複数の凸部100pを有する基板100の主面100mを金属材料および半導体材料のうち少なくともいずれか一方を含有する材料の融液に接触させ、材料の固相を主面上で凸部100pを起点として成長させることにより、材料を主成分とするシートを得るシート製造方法であって、基板100の融液への浸漬方向Dと垂直な方向において基板中部106(領域C)の凸部106pの熱抵抗値が基板側部117(領域S)の凸部117pの熱抵抗値に比べて大きいことを特徴とする。
【0036】
ここで、基板後部の凸部に比べて基板前部の凸部の熱抵抗値を大きくする方法が、実施形態2においては基板中部106の凸部106pの裾部分を切削することまたは凸部106pを鋭角化する方法であるのに対して、本実施形態においては基板中部106の凸部106pの構成材料の熱伝導率を基板後部117の凸部117pの構成材料の熱伝導率に比べて小さくする方法である点で相違する。すなわち、本実施形態においては、熱伝導率の異なる材料を組み合わせることにより、基板中部106の凸部106pの熱抵抗値を基板側部117の凸部117pの熱抵抗値に比べて大きくして、基板100の主面100m上に形成されるシートの厚さの分布を低減する。
【0037】
たとえば、基板中部106の凸部106pの構成材料の熱伝導率κ3とし基板後部117の凸部117pの構成材料の熱伝導率κ4とするとき、κ3<κ4となるような材料を用いると、基板中部における融液から基板側への熱移動量Q3と基板側部における融液から基板側への熱移動量Q4との関係はQ3<Q4となる。このため、基板中部において、シートの結晶成長が抑制され、シートの厚さが低減する。この結果、基板の浸漬方向におけるシートの厚さの分布は低減する。また、本実施形態においては、基板中部の凸部の構成材料と基板側部の凸部の構成材料とを互いに熱伝導率の異なる材料を用いることにより、基板全体の凸部の形状を同一にでき、基板表面の凹凸加工が同一刃物で加工することが可能となり、基板の生産性が向上する。
【0038】
(実施形態5)
本発明にかかる光電変換素子は、図17を参照して、半導体材料を主成分として、実施形態1〜4の製造方法により得られたシリコンのシートを光電変換部に用いたことを特徴とする。具体的には、図17を参照して、p型シリコンシート171の一方の主面(受光面)およびその内側にn層172が形成され、n層172上に反射防止膜としての窒化シリコン膜174が形成され、表面電極175がシリコン窒化膜174を貫通して、n層172と接している。また、p型シリコンシート171にp型シリコンシートの他方の主面(裏面)およびその内側にp+層173が形成され、p+層173上に裏面電極176が形成されている。
【実施例】
【0039】
シートとしてシリコンシートを製造する場合についての実施例を、図を用いて以下に具体的に説明する。
【0040】
(実施例1)
図12を参照して、得られる結晶シートの比抵抗が2Ω・cmになるようにボロン濃度を調整したシリコン原料を、高純度黒鉛製の坩堝301に入れ、その坩堝301を装置内に設置した。次に、チャンバ302内の真空引きを行い、その後Arガスを導入し、800hPaを保ちつつ、常に100L/minでチャンバ上部よりArガスを導入したままにした。
【0041】
次に、坩堝301の周囲に配置されているシリコンを溶融するためのヒータ303の制御用熱電対の設定温度を1500℃に設定し、完全にシリコンを溶融状態にして融液306とする。最初に仕込んだシリコンは、溶融することで嵩が低くなるために、追加でシリコンを投入することにより、シリコン融液面の高さを所定の高さにした。その後、制御温度を1430℃に設定し、30分間保持し融液温度の安定化を図った。
【0042】
その後、浸漬装置304の先端にシートを成長させるための、黒鉛で形成された基板100をセットした。このとき用いる基板100の主面100mには、図1に示すように、凸部100pが形成されており、シリコンの融液306への浸漬方向Dにおいて基板前部101の凸部101pの熱抵抗値が、基板後部104の凸部104pの熱抵抗値に比べて大きなものであった。凸部100pは四角錐で構成されており、その底部の一辺の長さは2mm、高さは0.5mmであった。また、基板前部101の凸部101pの四角錐の裾部の切削深さは、基板の前後方向の2辺について、それぞれ0.3mm切削されており、切削されている凸部の範囲は基板前端部より60mmであった。基板100の外寸は150mm×150mmであり、基板100の厚さは一方の主面の凸部の頂点から他方の主面までが20mmであった。
【0043】
次に、上記基板100を、浸漬深さ10mmでシリコンの融液306中へ浸漬し、基板の主面100上にシート200を成長させた。その後、基板100をコンベア308にて副室309に搬送し、副室309と主室311を仕切るゲートバルブ310を閉じた後、副室309内をロータリーポンプで真空排気し、大気で置換後、副室309外へシート200が形成された状態の基板100を取り出す。基板100上に形成されたシート200は容易に剥離可能である。その後、レーザー切断装置を用いて、126mm×126mmに切断した。
【0044】
切断されたシートの厚さの分布を静電容量センサーにて測定し、シートの前端から浸漬方向に10mm毎の平均の厚さの分布を図13の実線で示す。また、従来の同一形状の凸部で形成された基板を用いた他は実施例1と同様にして作製されたシート(比較例1という、以下同じ)の厚さの分布を図13の破線で示す。図13を参照して、実施例1のシートは比較例1のシートに比べて、シートの前端部における最大厚さは約50μm低減し、シート全体の平均厚さは約20μm低減した。すなわち、実施例1のシートは比較例1のシートに比べてシート厚さの分布が低減した。
【0045】
次に、図17を参照して、レーザー切断により得られた126mm×126mmサイズのp型シリコンシートを用いて太陽電池の作製を行った。得られたp型シリコンシート171は、硝酸とフッ酸との混合溶液でエッチングを行い、その後、水酸化ナトリウム水溶液を用いてアルカリエッチングを行った。その後POCl3拡散によりp型シリコンシートの両側の主面およびその内側にn層172を形成した。次に、n層172の形成の際に、固相シリコンのシート表面に形成されたPSG(リン−珪酸ガラス)膜をフッ酸で除去した後、太陽電池の受光面側になる一方の主面のn層172上にプラズマCVD法を用いてシリコン窒化膜174を形成した。次に、このシリコン窒化膜174上に、スクリーン印刷法により銀ペーストをグリッド状に形成し焼成することにより、シリコン窒化膜174を貫通してn層172と接触する表面電極175を形成した。次に、太陽電池の裏面側になる他方の主面およびその内側に形成されているn層を硝酸とフッ酸との混合溶液でエッチング除去し、p型シリコンシート171の裏面を露出させた。次に、p型シリコンシート171の裏面上にスクリーン印刷法を用いて、Alペーストを印刷し焼成することにより、p型シリコン171の裏面上に裏面電極176(裏面Al電極)を形成するとともに、p型シリコンシート171にp型シリコンシートの裏面およびその内側にp+層173を同時に形成した。その後、半田コートを行い、太陽電池を作製した。
【0046】
上記方法にて作製された太陽電池100枚を、AM1.5(100mW/cm2)の照射下にてセル特性の測定を行ったところ、平均開放電圧612mV、平均短絡電流31.2mA/cm2、平均フィルファクター0.745、平均変換効率14.2%と良好な結果が得られた。
【0047】
(実施例2)
図4に示すような基板100の浸漬方向に基板前端部101eから基板中央部105cにかけて、凸部101pの熱抵抗値を徐々に小さくした基板100を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてシートを作製した。実施例2で用いた基板は、具体的には基板中央部105cから基板後端部104eにかけての一定形状の凸部は一辺2mm、高さ0.5mmの四角錐で構成されており、基板前端部101eから60mm基板中央部105cに入った位置から、基板前端部101eにかけての基板前部101の凸部101pの四角錐は、浸漬方向に対して前後2辺が一凸部あたり0.015mmづつ切削深さを大きくしていった。また、作製された126mm×126mmのシートの厚さの分布を実施例1と同様にして測定し、シートの前端から浸漬方向に10mm毎の平均の厚さの分布を図14の実線で示す。また、従来の同一形状の凸部で形成された基板を用いた他は実施例2と同様にして作製されたシート(比較例2という、以下同じ)の厚さの分布を図14の破線で示す。図14を参照して、実施例2のシートは比較例2のシートに比べて、シートの前端部における最大厚さは約90μm低減し、シート全体の平均厚さは約34μm低減した。すなわち、実施例2のシートは比較例2のシートに比べてシート厚さの分布が大きく低減した。
【0048】
(実施例3)
図5および図6に示すような基板100の融液への浸漬方向と垂直な方向において基板中部106の凸部106pの熱抵抗値が基板端部107の凸部107pの熱抵抗値に比べて大きい基板100を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてシートを作製した。実施例3で用いた基板は、具体的には、基板の凸部は四角錐で構成されており、その底部の一辺の長さは2mm、高さは0.5mmであった。また、基板中部の凸部の四角錐の裾部の切削深さは、浸漬方向に対して垂直な辺をそれぞれ0.3mmづつ切削した。基板の外寸は200mm×200mm、基板の厚みは凸部頂点まで20mmであった。また切削された凸部106pの四角錐が占める範囲は、浸漬方向に対して、中央から左右50mmの範囲である。また、作製された結晶シートを155×155mmに切断し、シートの厚さの分布を静電容量センサーにて測定し、浸漬方向と垂直な方向について10mm毎の平均の厚さの分布を図15の実線で示す。また、従来の同一形状の凸部で形成された基板を用いた他は実施例3と同様にして作製されたシート(比較例3という、以下同じ)の厚さの分布を図15の破線で示す。図15を参照して、実施例3のシートにおける最大厚さと最小厚さとの差は比較例3のシートに比べて約70μm低減した。また、比較例3のシートの平均厚さが393μmであったのに対し、実施例3のシートの平均厚さは380μmに低減した。
【0049】
(実施例4)
図8および図9に示すような基板100の融液への浸漬方向において基板前部102の凸部102pの構成材料の熱伝導率が基板後部114の凸部114pの構成材料の熱伝導率に比べて小さい基板100を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてシートを作製した。実施例4で用いた基板は、具体的には、基板外寸は150×150mmで、基板前部102の領域Fは基板前端部102eから60mmの範囲であり、基板後部114の領域Bは90mmの範囲であった。また、基板前部102の凸部102pの構成材料の熱伝導率は104W・m-1・K-1であり基板後部114の凸部114pの構成材料の熱伝導率は139W・m-1・K-1であった。また、作製された126mm×126mmのシートの厚さの分布を実施例1と同様にして測定し、シートの前端から浸漬方向に10mm毎の平均の厚さの分布を図16の実線で示す。また、従来の同一材料および同一形状の凸部で形成された基板を用いた他は実施例4と同様にして作製されたシート(比較例4という、以下同じ)の厚さの分布を図16の破線で示す。図16を参照して、実施例4のシートは比較例4のシートに比べて、シートの前端部における最大厚さは約70μm低減し、シート全体の平均厚さは約15μm低減した。すなわち、実施例4のシートは比較例4のシートに比べてシート厚さの分布が低減した。
【0050】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明でなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内のすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明にかかるシート製造用基板の一例を示す概略斜視図である。
【図2】図1のIIにおける概略断面図である。
【図3】本発明にかかるシート製造用基板の他の例を示す概略断面図である。
【図4】本発明にかかるシート製造用基板のさらに他の例を示す概略断面図である。
【図5】本発明にかかるシート製造用基板のさらに他の例を示す概略斜視図である。
【図6】図5のVIにおける概略断面図である。
【図7】本発明にかかるシート製造用基板のさらに他の例を示す概略断面図である。
【図8】本発明にかかるシート製造用基板のさらに他の例を示す概略斜視図である。
【図9】図8のIXにおける概略断面図である。
【図10】本発明にかかるシート製造用基板のさらに他の例を示す概略斜視図である。
【図11】図10のXIにおける概略断面図である。
【図12】本発明で用いられるシート製造用の装置を示す概略断面図である。
【図13】実施例1および比較例1で得られたシートの厚さの分布を示す図である。
【図14】実施例2および比較例2で得られたシートの厚さの分布を示す図である。
【図15】実施例3および比較例3で得られたシートの厚さの分布を示す図である。
【図16】実施例4および比較例4で得られたシートの厚さの分布を示す図である。
【図17】本発明にかかる光電変換素子の一例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0052】
100 基板、100m 主面、100p,101p,102p,104p,106p,107p,114p,117p 凸部、101,102 基板前部、102e 基板前端部、104,114 基板後部、104e 基板後端部、105c,106c 基板中央部、106 基板中部、107,117 基板側部、107e 基板側端部、171 p型シリコンシート、172 n層、173 p+層、174 窒化シリコン膜、175 表面電極、176 裏面電極、200 シート、302 チャンバ、303 ヒータ、304 浸漬装置、306 融液、308 コンベア、309 副室、310 ゲートバルブ、311 主室、B 基板後部の領域、C 基板中部の領域、D 浸漬方向、F 基板前部の領域、S 基板側部の領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の主面に複数の凸部を有する基板の前記主面を金属材料および半導体材料のうち少なくともいずれか一方を含有する材料の融液に接触させ、前記材料の固相を前記主面上で前記凸部を起点として成長させることにより、前記材料を主成分とするシートを得るシート製造方法であって、
前記基板の一部分の前記凸部の熱抵抗値が前記基板の他の部分の前記凸部の熱抵抗値に比べて大きいことを特徴とするシート製造方法。
【請求項2】
前記一部分は前記基板の前記融液への浸漬方向における基板前部であり、前記他の部分は前記浸漬方向における基板後部である請求項1に記載のシート製造方法。
【請求項3】
前記一部分は前記基板の前記融液への浸漬方向と垂直な方向における基板中部であり、前記他の部分は前記垂直な方向における基板側部である請求項1に記載のシート製造方法。
【請求項4】
前記基板の前記融液への浸漬方向において、基板前端部から基板中央部へ向かって前記凸部の熱抵抗値が徐々に小さくなることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかに記載のシート製造方法。
【請求項5】
前記基板の前記融液への浸漬方向と垂直な方向において、基板中央部から基板側端部へ向かって前記凸部の熱抵抗値が徐々に小さくなることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれかに記載のシート製造方法。
【請求項6】
前記凸部の熱抵抗値を変えることは、前記凸部の構成材料の熱伝導率または前記凸部の断面積を変えることによって行われることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載のシート製造方法。
【請求項7】
前記基板の前記融液への浸漬方向において、基板前部の前記凸部の構成材料の熱伝導率が基板後部の前記凸部の構成材料の熱伝導率に比べて小さいことを特徴とする請求項6に記載のシート製造方法。
【請求項8】
前記基板の融液への浸漬方向と垂直な方向に対して、基板中部の前記凸部の構成材料の熱伝導率が、基板側部の前記凸部の構成材料の熱伝導率に比べて小さいことを特徴とする請求項6に記載のシート製造方法。
【請求項9】
一方の主面に複数の凸部を有し、前記主面を金属材料および半導体材料のうち少なくともいずれか一方を含有する材料の融液に接触させ、前記主面上に前記材料を主成分とするシート製造するためのシート製造用基板であって、
前記基板の一部分の前記凸部の熱抵抗値が前記基板の他の部分の前記凸部の熱抵抗値に比べて大きいことを特徴とするシート製造用基板。
【請求項10】
前記一部分は前記基板の前記融液への浸漬方向における基板前部であり、前記他の部分は前記浸漬方向における基板後部である請求項9に記載のシート製造用基板。
【請求項11】
前記一部分は前記基板の前記融液への浸漬方向と垂直な方向における基板中部であり、前記他の部分は前記垂直な方向における基板側部である請求項9に記載のシート製造用基板。
【請求項12】
半導体材料を主成分とし、請求項1から請求項8のいずれかに記載の製造方法により得られたシートを光電変換部に用いたことを特徴とする光電変換素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2009−102193(P2009−102193A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−275088(P2007−275088)
【出願日】平成19年10月23日(2007.10.23)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】