説明

シート製造装置及びシートの製造方法

【課題】所望の厚みを有するシートを製造するまでの製造時間の短縮化を図ることができるシート製造装置及びシートの製造方法を提供すること。
【解決手段】溶融樹脂をシート状に吐出し、該樹脂の吐出間隙21を調整する複数の厚み調整手段22を有するダイ20と、吐出された樹脂から成るシートの厚みを、その幅方向に沿って測定する厚み測定器50と、その測定結果から作成した厚みプロファイルに基づいて複数の厚み調整手段22の操作量を制御する制御手段60を備え、制御手段60は、厚みプロファイルと所望の厚みプロファイルとの偏差プロファイルを作成する偏差プロファイル作成処理部613と、偏差プロファイルを複数の空間周波数帯域成分に分離する帯域分離処理部614と、分離された複数の空間周波数帯域成分のうち択一的に選択された空間周波数帯域成分について、所定の制御定数を用いて操作量を算出する操作量算出処理部616を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばフィルム等のシート製造装置及びシートの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばフィルム等のシートを製造する装置は、ダイと、延伸機と、巻取機と、厚み測定器と、制御手段とを備えて構成されているのが一般的である。ダイは、押出機より押し出された溶融樹脂をシート状に吐出するものである。このようなダイには、吐出間隙を調整する複数の厚み調整手段が配設されている。延伸機は、ダイより吐出されたシート状の樹脂を、その搬送方向(以下、MD(Machine Direction)方向ともいう)及びその幅方向(以下、TD(Transversal Direction)方向ともいう)に延伸してシートを形成するものである。巻取機は、延伸機により形成されたシートをロール状に巻き取るものである。
【0003】
厚み測定器は、ダイと延伸機との間、及び/又は延伸機と巻取機との間に配設されるのが一般的であり、センサをシートの幅方向に沿って予め決められた一定速度で往復移動させることで該シートの厚みをTD方向の分布として測定するものである。
【0004】
制御手段は、厚み測定器での測定結果より厚みプロファイルを作成し、作成した厚みプロファイルを用いてシートの幅方向の厚みが目標値となるよう複数の厚み調整手段の操作量を例えばPID制御により制御するものである。より詳細には、制御手段は、作成した厚みプロファイルと、所望の厚みプロファイルとから偏差プロファイルを求め、シート幅方向の位置ごとの偏差の大きさに応じて、そのシート幅方向の位置に対応する厚み調整手段を、PID制御等によって算出された量だけ操作する。これにより、シート幅方向の全体(全幅)に亘って偏差プロファイルを小さくすることが可能になり、所望の厚みを有するシートを製造することが可能になる。
【0005】
上記制御においては、厚み調整手段によってシートの厚みの偏差を小さくするが、このとき、偏差プロファイルの(シート幅方向の)空間周波数を考慮することが重要になる。あるシート幅方向の位置におけるシート厚みの偏差を小さくするためには、一般に、そのシート幅方向の位置に対応する厚み調整手段と、その近傍の厚み調整手段とを操作する。隣同士等の近傍の厚み調整手段は、ダイ構造や剛性により、それぞれの操作が相互に干渉するため、近傍の厚み調整手段が同じ方向に厚みを調整するときはシートの厚みへの影響が大きくなり、反対の方向に厚みを調整するときはシートの厚みに与える影響が小さくなる。従って、偏差プロファイルに存在する厚みムラのシート幅方向の空間周波数が低ければ厚み調整手段の操作量に対するシートの厚みへの影響が大きくなり、空間周波数が高ければ厚み調整手段の操作量に対するシートの厚みへの影響が小さくなる。
【0006】
従って、偏差プロファイルに存在する厚みムラのシート幅方向の空間周波数が低い場合には操作量を小さく設定するような制御定数に変化させる一方、空間周波数が高い場合には操作量を大きく設定するような制御定数に変化させることが望ましい。この考え方を実現しているのが、特許文献1である。
【0007】
特許文献1では、偏差プロファイルを作成した後、各厚み調整手段に対応したシート幅方向の位置を中心に、所定のシート幅の偏差プロファイルを切り出し、その切り出した偏差プロファイルを周波数変換して主成分となる代表空間周波数成分を見出し、その空間周波数に応じて制御定数を調整するものである。こうすることで、偏差プロファイルに存在する厚みムラの空間周波数に応じた制御を実施することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−103066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、上述した特許文献1に提案されている製造装置では、2つの問題点があった。1つ目は、切り出すシート幅の設定である。近傍の厚み調整手段との操作干渉を考慮することが可能な空間周波数を見極めるためには、一般に左右2つ以上に亘る厚み調整手段に対応する程度のシート幅の切り出しを実施する必要がある。しかし、シート幅が大きくなると、見極めた代表空間周波数成分を有する厚みムラの存在する位置が、対象としている厚み調整手段から離隔してしまっている可能性があった。2つ目は、近傍の厚み調整手段において、対象とする代表空間周波数成分が異なる(可能性を有する)点である。両隣の厚み調整手段において代表空間周波数成分が異なった場合、1つの厚み調整手段では小さい操作量であったにも関わらず、隣の厚み調整手段の大きな操作量によって、シートの厚みへの影響が予期せぬ形になる可能性があった。いずれの場合でも制御効果が低下する可能性があり、結果として、所望の厚みを有するシートを製造するまでに要する製造時間の長大化を招来していた。
【0010】
本発明は、上記実情に鑑みて、所望の厚みを有するシートを製造するまでの製造時間の短縮化を図ることができるシート製造装置及びシートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係るシート製造装置は、溶融した樹脂をシート状に吐出するものであり、溶融樹脂の吐出間隙を調整する複数の厚み調整手段を有するダイと、前記ダイより吐出されたシート状の樹脂から形成されたシートの厚みを、その幅方向に沿ってスキャンしながら測定する厚み測定手段と、前記厚み測定手段による測定結果から厚みプロファイルを作成し、作成した厚みプロファイルに基づいて、前記シートの幅方向の厚みが目標値となるよう前記複数の厚み調整手段の操作量を制御する制御手段とを備え、自動厚み制御を行ってシートを製造する装置において、前記制御手段は、前記厚みプロファイルと、所望の厚みプロファイルとの偏差プロファイルを作成する偏差プロファイル作成手段と、前記偏差プロファイル作成手段により作成された偏差プロファイルを、予め決められた複数の空間周波数帯域成分に分離する帯域分離手段と、前記帯域分離手段により分離された複数の空間周波数帯域成分のうち択一的に選択された空間周波数帯域成分について、空間周波数帯域毎に予め決められている制御定数を用いて前記操作量を算出する操作量算出手段とを備えたことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項2に係るシート製造装置は、上述した請求項1において、前記制御手段は、前記帯域分離手段を通じて分離された複数の空間周波数帯域成分を低い周波数帯域成分から高い周波数帯域成分へと順次択一的に選択する選択手段を備えており、前記操作量算出手段は、前記選択手段を通じて選択された空間周波数帯域成分のうち、予め設定されたシート幅方向の範囲における最大値と最小値との差が空間周波数帯域毎に予め決められた閾値を超えるものについては、前記制御定数を用いて前記操作量を算出することを特徴とする。
【0013】
また、本発明の請求項3に係るシート製造装置は、上述した請求項1又は請求項2において、前記帯域分離手段は、多重解像度解析を用いて前記偏差プロファイルを複数の空間周波数帯域成分に分離することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の請求項4に係るシート製造装置は、上述した請求項1又は請求項2において、前記帯域分離手段は、帯域フィルタを用いて前記偏差プロファイルを複数の空間周波数帯域成分に分離することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の請求項5に係るシートの製造方法は、複数の厚み調整手段を有するダイから吐出された樹脂より形成されたシートの厚みを、該シートの幅方向に沿ってスキャンする厚み測定手段によって測定する厚み測定工程と、前記厚み測定工程の測定結果から厚みプロファイルを作成する厚みプロファイル作成工程と、前記厚みプロファイルに基づいて前記シートの厚みが目標値となるよう前記複数の厚み調整手段の操作量を算出する算出工程とを備え、自動厚み制御を行ってシートを製造する方法において、前記厚みプロファイル作成工程を通じて作成した厚みプロファイルと、所望の厚みプロファイルとの偏差プロファイルを作成する偏差プロファイル作成工程と、前記偏差プロファイル作成工程を通じて作成された偏差プロファイルを、予め決められた複数の空間周波数帯域成分に分離する帯域分離工程とを含み、前記算出工程は、前記帯域分離工程を通じて分離された複数の空間周波数帯域成分のうち択一的に選択された空間周波数帯域成分について、空間周波数帯域毎に予め決められている制御定数を用いて前記操作量を算出することを特徴とする。
【0016】
また、本発明の請求項6に係るシートの製造方法は、上述した請求項5において、前記帯域分離工程を通じて分離された複数の空間周波数帯域成分を低い周波数帯域成分から高い周波数帯域成分へと順次択一的に選択する選択工程を含み、前記算出工程は、前記選択工程を通じて選択された空間周波数帯域成分のうち、予め設定されたシート幅方向の範囲における最大値と最小値との差が空間周波数帯域毎に予め決められた閾値を超えるものについては、前記制御定数を用いて前記操作量を算出することを特徴とする。
【0017】
また、本発明の請求項7に係るシートの製造方法は、上述した請求項5又は請求項6において、前記帯域分離工程は、多重解像度解析を用いて前記偏差プロファイルを複数の空間周波数帯域成分に分離することを特徴とする。
【0018】
また、本発明の請求項8に係るシートの製造方法は、上述した請求項5又は請求項6において、前記帯域分離工程は、帯域フィルタを用いて前記偏差プロファイルを複数の空間周波数帯域成分に分離することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明のシート製造装置によれば、制御手段が、偏差プロファイル作成手段により厚みプロファイルと所望の厚みプロファイルとの偏差プロファイルを作成し、帯域分離手段により偏差プロファイルを複数の空間周波数帯域成分に分離し、複数の空間周波数帯域成分のうち択一的に選択された空間周波数帯域成分について、操作量算出手段により空間周波数帯域毎に予め決められている制御定数を用いて操作量を算出するので、シートの幅方向の厚みムラを空間周波数成分毎に分離して、それぞれの空間周波数成分での最適な制御定数を用いて操作量を算出でき、シートの幅方向における厚みムラが収束するのに要する時間を低減させることができる。従って、所望の厚みを有するシートを製造するまでの製造時間の短縮化を図ることができるという効果を奏する。
【0020】
また、本発明のシートの製造方法によれば、偏差プロファイル作成工程において厚みプロファイルと所望の厚みプロファイルとの偏差プロファイルを作成し、帯域分離工程において偏差プロファイルを複数の空間周波数帯域成分に分離し、算出工程において、複数の空間周波数帯域成分のうち択一的に選択された空間周波数帯域成分について、空間周波数帯域毎に予め決められている制御定数を用いて操作量を算出するので、シートの幅方向の厚みムラを空間周波数成分毎に分離して、それぞれの空間周波数成分での最適な制御定数を用いて操作量を算出でき、シートの幅方向における厚みムラが収束するのに要する時間を低減させることができる。従って、所望の厚みを有するシートを製造するまでの製造時間の短縮化を図ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明の実施の形態であるシート製造装置の概略構成図である。
【図2】図2は、図1に示したシート製造装置を構成するダイを示す斜視図である。
【図3】図3は、図1に示したシート製造装置の特徴的な制御系を模式的に示すブロック図である。
【図4】図4は、偏差プロファイルを模式的に示す説明図である。
【図5】図5は、図4に示した偏差プロファイルから抽出した高周波数帯域成分を模式的に示す説明図である。
【図6】図6は、図4に示した偏差プロファイルから図5に示した高周波数帯域成分を減算して得られた第1偏差データを模式的に示す説明図である。
【図7】図7は、図1及び図3に示した制御手段が実施する厚み制御処理の処理内容を示すフローチャートである。
【図8】図8は、図7に示した操作量算出処理の処理内容を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に添付図面を参照して、本発明に係るシート製造装置及びシートの製造方法の好適な実施の形態について詳細に説明する。尚、シートの製造方法については、シート製造装置の説明の中で説明する。
【0023】
図1は、本発明の実施の形態であるシート製造装置の概略構成図である。ここで例示するシート製造装置1は、押出機10、ダイ20、延伸機30、巻取機40、厚み測定器(厚み測定手段)50及び制御手段60を備えて構成してある。押出機10は、シートの原料となる樹脂(例えばPET(ポリエチレンテレフタレート))を加熱溶融した状態で押し出すものである。
【0024】
図2は、図1に示したシート製造装置1を構成するダイ20を示す斜視図である。この図2に示すように、ダイ20は、スリット状の吐出間隙21を有しており、押出機10より押し出された溶融樹脂を、該吐出間隙21からシート状に吐出するものである。この吐出間隙21からシート状に吐出された樹脂は、冷却ドラム2に冷却されて凝固することになる。
【0025】
また、ダイ20には、複数の厚み調整手段22が設けてある。これら厚み調整手段22は、吐出間隙21の長手方向に沿って並ぶ態様で等間隔に設けてあり、吐出間隙21の大きさを調整するものである。ここで本実施の形態である厚み調整手段22としては、カートリッジヒータを内蔵したボルトを熱的に膨張収縮させて吐出間隙21の大きさを調整するヒートボルト方式を採用している。
【0026】
延伸機30は、冷却ドラム2で冷却され、かつ搬送ローラ3を介して搬送されたシート状樹脂を、その搬送方向(MD方向)及び/又はその幅方向(TD方向)に延伸してシートを形成するものである。この延伸機30は、搬送方向だけの延伸でも良いし、幅方向だけの延伸でも良いし、それぞれの延伸が複数回あっても良いし、搬送方向・幅方向の延伸を同時に行っても良い。本実施の形態における延伸機30としては、搬送方向に延伸し、その後幅方向に延伸するものを採用している。
【0027】
巻取機40は、延伸機30により形成され、かつ搬送ローラ3を介して搬送されたシートをロール状に巻き取るものである。
【0028】
厚み測定器50は、延伸機30と巻取機40との間に配設してあり、センサ51(図3参照)をシートのTD方向に沿って往復移動させることで該シートの厚みを、所定の個所(すなわち、各厚み調整手段22の操作点に対応した調整可能領域)毎に計測してTD方向の分布として測定するものである。
【0029】
このような厚み測定器50としては、β線、赤外線、紫外線、X線等の吸収率を利用したもの、光の干渉現象を利用したもの等、任意のものを採用することができ、本実施の形態における厚み測定器50としては、β線の吸収現象を用いたものを採用している。
【0030】
図3は、図1に示したシート製造装置1の特徴的な制御系を模式的に示すブロック図である。この図3に示すように、制御手段60は、制御処理部61を備えている。
【0031】
制御処理部61は、メモリ62に格納されたデータやプログラムに従って複数の厚み調整手段22の操作量を制御するものであり、入力処理部611、厚みプロファイル作成処理部612、偏差プロファイル作成処理部613、帯域分離処理部614、選択処理部615、操作量算出処理部616及び出力処理部617を主たる構成要素として備えている。
【0032】
入力処理部611は、厚み測定器50を構成するセンサ51がシートの厚みを測定した場合に、該センサ51よりその測定結果である測定信号を入力するものである。この入力処理部611によって入力された測定結果は、適宜メモリ62に格納される。
【0033】
厚みプロファイル作成処理部612は、入力処理部611を通じて入力した測定結果からシートのTD方向における各厚み調整手段22の操作点に対応した個所毎の厚みプロファイルを作成するものである。このとき、厚み測定器50の毎スキャンにおけるシート厚みのみを用いても良いし、過去のスキャンにおいて取得したシート厚み情報も利用しても良い。例えば、入力処理部611を通じて入力した測定結果と、メモリ62に格納してある直近の所定回数分(例えば9回分)の測定結果とを積算処理し、つまり最近の10回分の測定結果を積算処理し、その後に積算回数の数値(10)で除算して、シートのTD方向における各厚み調整手段22の操作点に対応した個所毎の厚みプロファイルを加算平均にて作成しても良い。本実施の形態においては、上述したように過去10回分の測定結果を用いて厚みプロファイルを作成した。
【0034】
偏差プロファイル作成処理部613は、厚みプロファイル作成処理部612を通じて作成した厚みプロファイルから所望の厚みプロファイル(以下、ターゲットプロファイルとも称する)を減算して偏差プロファイルを作成するものである。ここでターゲットプロファイルは、予めセンサ設定されていたものでも良いし、ある時間帯において作成した厚みプロファイルにローパスフィルタを施した結果のプロファイルでも良い。このローパスフィルタは、シート品番やプロセス等によって異なっていても良い。また、任意のタイミングでターゲットプロファイルを更新しても良い。このようにして得られたターゲットプロファイルを用いて作成された偏差プロファイルは、メモリ62に適宜格納されることになる。
【0035】
帯域分離処理部614は、偏差プロファイル作成処理部613を通じて作成された偏差プロファイルを、予め決められた複数の空間周波数帯域成分に分離するものである。これら空間周波数帯域成分の区分や数は、シート品番やプロセス等により決められるものであり、例えばプロセスで発生しやすい厚みムラ周期が判っていれば、その情報に基づいて設定しても良い。また、例えば制御を開始した時と制御が安定している時とでは、その区分や数を変化させても良い。本実施の形態においては、高周波数帯域成分(偏差プロファイルにおける厚みムラ周期が、厚み測定器50で測定するシートの搬送方向の位置における厚み調整手段22のa本未満に対応する成分)、中周波数帯域成分(偏差プロファイルにおける厚みムラ周期が、厚み測定器50で測定するシートの搬送方向の位置における厚み調整手段22のa本以上b本未満に対応する成分)、低周波数帯域成分(偏差プロファイルにおける厚みムラ周期が、厚み測定器50で測定するシートの搬送方向の位置における厚み調整手段22のb本以上c本未満に対応する成分)、超低周波数帯域成分(偏差プロファイルにおける厚みムラ周期が、厚み測定器50で測定するシートの搬送方向の位置における厚み調整手段22のc本以上に対応する成分)とする。ここで、a<b<cである。
【0036】
このような帯域分離処理部614では、次のようにして偏差プロファイルを、高周波数帯域成分、中周波数帯域成分、低周波数帯域成分及び超低周波数帯域成分に分離するものである。すなわち、メモリ62から図4に示すような偏差プロファイルを読み出し、この偏差プロファイルからハイパスフィルタを用いて、図5に示すような高周波数帯域成分を抽出する。かかる高周波数帯域成分を抽出した後、偏差プロファイルから高周波数帯域成分を減算して、図6に示すような第1偏差データを得る。以降、図には明示しないが、第1帯域フィルタを用いて第1偏差データから中周波数帯域成分を抽出し、第1偏差データから中周波数帯域成分を減算した第2偏差データを得る。この第2偏差データから、第2帯域フィルタを用いて低周波数帯域成分を抽出し、第2偏差データから低周波数帯域成分を減算した第3偏差データを得、この第3偏差データを超低周波数帯域成分とする。
【0037】
選択処理部615は、帯域分離処理部614により分離された複数の空間周波数帯域成分から1つの空間周波数帯域成分を択一的に選択するものである。より詳細には、帯域分離処理部614を通じて分離された複数の空間周波数帯域成分を低い周波数帯域成分から高い周波数帯域成分へと順次択一的に選択するものである。
【0038】
操作量算出処理部616は、上記選択処理部615とともに後述する操作量算出処理を実行して対象となる厚み調整手段22の操作量を算出するものである。より詳細に説明すると、操作量算出処理部616は、選択処理部615を通じて選択された空間周波数帯域成分のうち、予め設定されたシート幅方向の範囲における最大値と最小値との差が空間周波数帯域毎に予め決められた基準値R1,R2を超えるものについては、該空間周波数帯域成分に応じて予め決められた制御定数K,M,Lを用いてPID演算にて操作量を算出するものである。これら各基準値R1,R2及び各制御定数K,M,Lは、メモリ62に予め格納されている。予め設定されたシート幅方向の範囲とは、例えばシート厚みを管理する幅方向位置(幅)であっても良いし、シートの厚みを自動制御する幅方向位置(幅)であっても良い。
【0039】
ここで基準値R1は、超低周波数帯域成分(第3偏差データ)における最大値と最小値との差の閾値であり、基準値R2は、低周波数帯域成分における最大値と最小値との差の閾値である。制御定数Kは、中周波数帯域成分でのPID制御を行う際の定数群であり、例えばハンチングを起こさない弱い制御を実現する大きさとする。制御定数Mは、低周波数帯域成分でのPID制御を行う際の定数群であり、例えば小さくハンチングしながら収束するやや強い制御を実現する大きさとする。制御定数Lは、超低周波数帯域成分でのPID制御を行う際の定数群であり、例えばハンチングしながら収束する強い制御を実現する大きさとする。こうした基準値R1,R2や制御定数K,M,Lは、シート品番やプロセス等によって変化する。例えば、R1,R2はシート品番が実現すべき厚みムラ品位によって決めても良いし、制御定数K,M,Lはそれぞれの厚みムラにおいて許容できる範囲(ハンチング等)において強い制御が行えるように設定しても良い。
【0040】
また、操作量算出処理部616では、高周波数帯域成分については制御不可能であるとして、かかる高周波数帯域成分での操作量の算出を行わないものである。これはダイ20の構造や剛性に依存することが一般的であり、それに応じて設定しても良い。
【0041】
出力処理部617は、操作量算出処理部616を通じて算出された操作量を図示せぬパワーユニットを介して対象となる厚み調整手段22に出力するものである。
【0042】
図7は、図1及び図3に示した制御手段60が実施する厚み制御処理の処理内容を示すフローチャートである。本実施の形態においては、この厚み制御処理は、厚み測定器50がシートの厚みを1回測定する毎、つまりシートの幅方向に沿って往復移動する場合の片道(往路若しくは復路)の移動が終了する毎(厚み測定工程が終了する毎)に実施されるものである。
【0043】
この厚み制御処理において制御手段60は、入力処理部611を通じて厚み測定器50を構成するセンサ51から測定結果を入力した場合(ステップS110:Yes)、厚みプロファイル作成処理部612を通じて厚みプロファイルを作成する(ステップS120;厚みプロファイル作成工程)。
【0044】
かかるステップS120においては、制御手段60は、入力処理部611を通じて入力された測定結果と、メモリ62に格納してある直近の所定回数分(例えば9回分)の測定結果とを積算処理し、その後に積算回数の数値(例えば10)で除算して、シートのTD方向における各厚み調整手段22の操作点に対応した個所毎の厚みプロファイルを加算平均にて作成する。
【0045】
厚みプロファイルを作成した制御手段60は、偏差プロファイル作成処理部613を通じて偏差プロファイルを作成する(ステップS130;偏差プロファイル作成工程)。
【0046】
かかるステップS130においては、制御手段60は、偏差プロファイル作成処理部613を通じて、厚みプロファイルから、予め設定されていたターゲットプロファイルを減算して偏差プロファイルを作成する。
【0047】
偏差プロファイルを作成した制御手段60は、帯域分離処理部614を通じて、偏差プロファイルを、予め決められた例えば4つの空間周波数帯域成分(高周波数帯域成分、中周波数帯域成分、低周波数帯域成分、超低周波数帯域成分)に分離する帯域分離処理を行う(ステップS140;帯域分離工程)。
【0048】
かかるステップS140においては、制御手段60は、偏差プロファイル作成処理部613を通じて作成した偏差プロファイルをメモリ62から読み出し、この偏差プロファイルからハイパスフィルタを用いて高周波数帯域成分を抽出する。かかる高周波数帯域成分を抽出した後、偏差プロファイルから高周波数帯域成分を減算して第1偏差データを得る。この第1偏差データから、第1帯域フィルタを用いて中周波数帯域成分を抽出し、第1偏差データから中周波数帯域成分を減算した第2偏差データを得る。この第2偏差データから、第2帯域フィルタを用いて低周波数帯域成分を抽出し、第2偏差データから低周波数帯域成分を減算した第3偏差データを得、この第3偏差データを超低周波数帯域成分とする。
【0049】
帯域分離処理を行った制御手段60は、操作量算出処理を行う(ステップS150)。図8は、図7に示した操作量算出処理の処理内容を示すフローチャートである。かかる図8を参照しながら操作量算出処理について説明する。
【0050】
操作量算出処理において制御手段60は、選択処理部615を通じて超低周波数帯域成分を選択し(ステップS151;選択工程)、操作量算出処理部616を通じてかかる超低周波数帯域成分における予め設定されたシート幅方向の範囲における最大値と最小値との差がメモリ62から読み出した基準値R1以下であるか否かを監視する(ステップS152)。
【0051】
このステップS152において最大値と最小値との差が基準値R1を上回る場合には(ステップS152:No)、制御手段60は、超低周波数帯域成分と、メモリ62から読み出した制御定数LとによりPID演算を行って所定の厚み調整手段22の操作量を算出し(ステップS153;算出工程)、その後に手順をリターンさせて今回の操作量算出処理を終了する。
【0052】
一方、最大値と最小値との差が基準値R1以下となる場合には(ステップS152:Yes)、制御手段60は、選択処理部615を通じて低周波数帯域成分を選択し(ステップS154;選択工程)、操作量算出処理部616を通じてかかる低周波数帯域成分における予め設定されたシート幅方向の範囲における最大値と最小値との差がメモリ62から読み出した基準値R2以下であるか否かを監視する(ステップS155)。
【0053】
このステップS155において最大値と最小値との差が基準値R2を上回る場合には(ステップS155:No)、制御手段60は、低周波数帯域成分と、メモリ62から読み出した制御定数MとによりPID演算を行って所定の厚み調整手段22の操作量を算出し(ステップS156;算出工程)、その後に手順をリターンさせて今回の操作量算出処理を終了する。
【0054】
一方、最大値と最小値との差が基準値R2以下となる場合には(ステップS155:Yes)、制御手段60は、選択処理部615を通じて中周波数帯域成分を選択し(ステップS157;選択工程)、操作量算出処理部616を通じて中周波数帯域成分と、メモリ62から読み出した制御定数KとによりPID演算を行って所定の厚み調整手段22の操作量を算出し(ステップS158;算出工程)、その後に手順をリターンさせて今回の操作量算出処理を終了する。
【0055】
かかる操作量算出処理においては、制御手段60は、帯域分離処理部614を通じて分離された複数の空間周波数帯域成分を、選択処理部615を通じて低い周波数帯域成分から高い周波数帯域成分へと順次択一的に選択し、操作量算出処理部616を通じて、選択処理部615で選択された空間周波数帯域成分のうち最大値と最小値との差が空間周波数帯域毎に予め決められた閾値を超えるものについては、所定の制御定数を用いて操作量を算出するようにしている。
【0056】
このようにして操作量算出処理を実行した制御手段60は、算出した操作量を所定の厚み調整手段22に出力処理部617を通じて出力し(ステップS160)、その後に手順をリターンして今回の処理(厚み制御処理)を終了する。但し、ステップS150及びステップS160は、厚み測定器50が、予め設定した回数だけ、シート厚みを測定する毎に実施するようにしてもよい。その回数は、一般にプロセスに基づいて決める。この回数に応じて、基準値R1,R2や制御定数K,M,Lを調整しても良い。
【0057】
このように制御手段60は、厚み測定器50による測定結果から厚みプロファイルを作成し、作成した厚みプロファイルに基づいて、シートのTD方向の厚みが目標値となるよう複数の厚み調整手段22の操作量を制御するものである。
【0058】
本発明の実施の形態であるシート製造装置1においては、制御手段60が、偏差プロファイル作成処理部613を通じて厚みプロファイルとターゲットプロファイルとの偏差プロファイルを作成し、帯域分離処理部614を通じて偏差プロファイルを複数の空間周波数帯域成分(高周波数帯域成分、中周波数帯域成分、低周波数帯域成分、超周波数帯域成分)に分離し、操作量算出処理部616を通じて、選択処理部615で選択された空間周波数帯域成分のうち最大値と最小値との差が基準値R1,R2を超えるものについては、制御定数K,M,Lを用いて操作量を算出している。これにより、シートのTD方向の厚みムラを空間周波数成分毎に分離して、それぞれの空間周波数成分での最適な制御定数を用いて操作量を算出でき、シートのTD方向における厚みムラが収束するのに要する時間を低減させることができる。従って、本実施の形態であるシート製造装置1によれば、所望の厚みを有するシートを製造するまでの製造時間の短縮化を図ることができる。
【0059】
また、本発明の実施の形態であるシートの製造方法によれば、偏差プロファイル作成工程において厚みプロファイルと、ターゲットプロファイルとの偏差プロファイルを作成し、帯域分離工程において偏差プロファイルを、複数の空間周波数帯域成分(高周波数帯域成分、中周波数帯域成分、低周波数帯域成分、超周波数帯域成分)に分離し、算出工程において選択工程で選択された空間周波数帯域成分のうち最大値と最小値との差が基準値R1,R2を超えるものについては、制御定数K,M,Lを用いて操作量を算出している。これにより、シートのTD方向の厚みムラを空間周波数成分毎に分離して、それぞれの空間周波数成分での最適な制御定数を用いて操作量を算出でき、シートのTD方向における厚みムラが収束するのに要する時間を低減させることができる。従って、本実施の形態であるシートの製造方法によれば、所望の厚みを有するシートを製造するまでの製造時間の短縮化を図ることができる。
【0060】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、種々の変更を行うことができる。
【0061】
上述した実施の形態では、帯域分離処理部614による偏差プロファイルの各空間周波数帯域成分への分離を、ハイパスフィルタや各帯域フィルタを用いて行っていたが、本発明においては、これらハイパスフィルタや各帯域フィルタを用いずに、フーリエ変換等の関数を用いて多重解像度解析にて各空間周波数成分に分離してもよい。
【0062】
上述した実施の形態では、偏差プロファイルの分離の一例として、高周波数帯域成分、中周波数帯域成分、低周波数帯域成分及び超低周波数帯域成分の4つに分離したが、本発明においては、これに限定されないことはいうまでもなく、シートの品番やプロセスに応じて、複数の空間周波数帯域成分に分離すればよい。
【0063】
上述した実施の形態では、制御手段60の厚みプロファイル作成処理部612が、例えば10回分の測定結果を積算処理して厚みプロファイルを作成していたが、本発明においては、測定結果を積算処理するだけでなく、重み付け等を行って積算処理してもよいし、積算処理以外の方法を用いて厚みプロファイルを作成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0064】
以上のように、本発明に係るシート製造装置及びシートの製造方法は、所定の厚みを有するフィルム等のシートを製造するのに有用である。
【符号の説明】
【0065】
1 シート製造装置
10 押出機
20 ダイ
21 吐出間隙
22 厚み調整手段
30 延伸機
40 巻取機
50 厚み測定器
51 センサ
60 制御手段
61 制御処理部
611 入力処理部
612 厚みプロファイル作成処理部
613 偏差プロファイル作成処理部
614 帯域分離処理部
615 選択処理部
616 操作量算出処理部
617 出力処理部
62 メモリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融した樹脂をシート状に吐出するものであり、溶融樹脂の吐出間隙を調整する複数の厚み調整手段を有するダイと、
前記ダイより吐出されたシート状の樹脂から形成されたシートの厚みを、その幅方向に沿ってスキャンしながら測定する厚み測定手段と、
前記厚み測定手段による測定結果から厚みプロファイルを作成し、作成した厚みプロファイルに基づいて、前記シートの幅方向の厚みが目標値となるよう前記複数の厚み調整手段の操作量を制御する制御手段と
を備え、自動厚み制御を行ってシートを製造する装置において、
前記制御手段は、
前記厚みプロファイルと、所望の厚みプロファイルとの偏差プロファイルを作成する偏差プロファイル作成手段と、
前記偏差プロファイル作成手段により作成された偏差プロファイルを、予め決められた複数の空間周波数帯域成分に分離する帯域分離手段と、
前記帯域分離手段により分離された複数の空間周波数帯域成分のうち択一的に選択された空間周波数帯域成分について、空間周波数帯域毎に予め決められている制御定数を用いて前記操作量を算出する操作量算出手段と
を備えたことを特徴とするシート製造装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記帯域分離手段を通じて分離された複数の空間周波数帯域成分を低い周波数帯域成分から高い周波数帯域成分へと順次択一的に選択する選択手段を備えており、
前記操作量算出手段は、前記選択手段を通じて選択された空間周波数帯域成分のうち、予め設定されたシート幅方向の範囲における最大値と最小値との差が空間周波数帯域毎に予め決められた閾値を超えるものについては、前記制御定数を用いて前記操作量を算出することを特徴とする請求項1に記載のシート製造装置。
【請求項3】
前記帯域分離手段は、多重解像度解析を用いて前記偏差プロファイルを複数の空間周波数帯域成分に分離することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のシート製造装置。
【請求項4】
前記帯域分離手段は、帯域フィルタを用いて前記偏差プロファイルを複数の空間周波数帯域成分に分離することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のシート製造装置。
【請求項5】
複数の厚み調整手段を有するダイから吐出された樹脂より形成されたシートの厚みを、該シートの幅方向に沿ってスキャンする厚み測定手段によって測定する厚み測定工程と、
前記厚み測定工程の測定結果から厚みプロファイルを作成する厚みプロファイル作成工程と、
前記厚みプロファイルに基づいて前記シートの厚みが目標値となるよう前記複数の厚み調整手段の操作量を算出する算出工程と
を備え、自動厚み制御を行ってシートを製造する方法において、
前記厚みプロファイル作成工程を通じて作成した厚みプロファイルと、所望の厚みプロファイルとの偏差プロファイルを作成する偏差プロファイル作成工程と、
前記偏差プロファイル作成工程を通じて作成された偏差プロファイルを、予め決められた複数の空間周波数帯域成分に分離する帯域分離工程と
を含み、
前記算出工程は、前記帯域分離工程を通じて分離された複数の空間周波数帯域成分のうち択一的に選択された空間周波数帯域成分について、空間周波数帯域毎に予め決められている制御定数を用いて前記操作量を算出することを特徴とするシートの製造方法。
【請求項6】
前記帯域分離工程を通じて分離された複数の空間周波数帯域成分を低い周波数帯域成分から高い周波数帯域成分へと順次択一的に選択する選択工程を含み、
前記算出工程は、前記選択工程を通じて選択された空間周波数帯域成分のうち、予め設定されたシート幅方向の範囲における最大値と最小値との差が空間周波数帯域毎に予め決められた閾値を超えるものについては、前記制御定数を用いて前記操作量を算出することを特徴とする請求項5に記載のシートの製造方法。
【請求項7】
前記帯域分離工程は、多重解像度解析を用いて前記偏差プロファイルを複数の空間周波数帯域成分に分離することを特徴とする請求項5又は請求項6に記載のシートの製造方法。
【請求項8】
前記帯域分離工程は、帯域フィルタを用いて前記偏差プロファイルを複数の空間周波数帯域成分に分離することを特徴とする請求項5又は請求項6に記載のシートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−95052(P2013−95052A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−239755(P2011−239755)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】