説明

シート類の判別方法及び判別装置

【課題】 印刷インキ等による特定波長の吸収や透過又は基材や貼付物による分子振動等に由来する特定波長の吸収に影響されずに真偽を判別するシート類の判別方法及び判別装置を提供する。
【解決手段】 シート類に中赤外線乃至遠赤外線の領域である波長2〜15μmの範囲の電磁波を照射して、照射された電磁波のエネルギのうち、シート類を透過するエネルギ及びシート類に吸収されたエネルギがシート類の裏面から放射されたエネルギを、受光素子で指定の角度で検知し、検知したエネルギを、あらかじめ測定しておいた各シート類のエネルギの基準値と照合することで、シート類の材質と材料の状態を認識して判別することを特徴とするシート類の判別方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート類の判別方法及び判別装置に関する。特に、貴重印刷物(有価証券、商品券、身分証明書、銀行券等)の真偽を判別するために、中赤外線乃至遠赤外線の透過により、赤外線放射エネルギ及び赤外電磁放射が合わせられた混合エネルギ及び/又は材料に固有の指向放射率及び赤外電磁放射(λT)が重なった混合指向性の広がり状態を基にして、真偽を判別する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
顔料の分光反射率特性に基づきシート類を判別する方法として、近赤外線領域の特定波長を吸収又は透過する特性の特殊インキを印刷しておき、印刷物に近赤外線等の特定波長を照射し、特殊インキの反射、吸収又は透過特性を検知して真偽を判別する方法(例えば、特許文献1参照。)が従来技術として知られている。
【0003】
また、印刷されたインキの影響を除外して、印刷物等に付着物が付着したことを判別する方法として、インキに対して特定の分光透過率をもつ第1の赤外線波長と、インキに対して特定の分光透過率を持ち、かつ、付着物に対して低い分光透過率を持つ第2の赤外線波長を用い、これら二つの特定波長を印刷物に照射して測定を行い、得られた検知レベルの差から付着物の有無を検知する方法(例えば、特許文献2参照。)が従来技術として知られている。
【0004】
また、特定の材料を選択的に検知するための方法として、中赤外線や遠赤外線の特定波長を吸収するポリアクリロニトリル(シアノ基、カルボン基)等によりパターンを形成しておき、特定波長の赤外線を照射した際に得られる吸収又は透過特性を検知することで真偽を判別する方法(例えば、特許文献3参照。)が従来技術として知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63−307996号公報
【特許文献2】特許第3869026号公報
【特許文献3】特許第3068483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1は、真正なインキの近赤外線における吸収又は透過の特性を検知して真偽を判別する方法であるため、偽造するときに、分光反射率特性が類似している他の材料を配合した偽造インキを用いて印刷した偽造印刷物は、真正印刷物と判別することが困難である。つまり、吸収又は透過の特性を元に判別する場合、手間をかけて偽造インキを作製し、緻密な印刷調整を行って印刷すれば、近赤外線領域の特定波長を用いても、本物と差別化することができない偽造品ができてしまうおそれがあるという課題があった。
【0007】
また、特許文献2は、近赤外線より長波長側である中赤外線から遠赤外線における、分子振動に由来する吸収の異なる二つの特定波長を用いて検知した際に、得られた検知レベルの差から、インキの影響を除外して印刷物等に付着物が付着したことを判別する方法であり、特許文献3は、近赤外線より長波長側である、中赤外線や遠赤外線の特定材料を吸収する材料を印刷物等に付与しておき、中赤外線や遠赤外線を用いて、分子振動に由来して特定波長を吸収することにより本物と偽造品を判別するものであるが、特許文献2及び特許文献3を用いて印刷物の真偽を判別する場合、分子振動による特定材料の吸収は、帯域幅が狭く、かつ、吸収量が僅かであるため、中赤外線から遠赤外線の電磁波を用いて測定する場合、紙等の基材による減衰が大きな阻害要素となってしまう。さらに、基材に外的な変形が加わった場合には、中赤外線や遠赤外線における大きな変動要素となり、正確に評価が行えないという課題があった。
【0008】
また、上記特許文献1、2及び3を用いて読取装置を作製し、作製した読取装置を機械処理装置等に搭載する場合は、赤外線の特定波長で吸収を検知する方式であるため、投光側に半値幅の狭いLEDやレーザを用いることや、受光側に特定波長を透過するバンドパスフィルタを搭載して狭帯域の特定波長を検知する必要があるため、装置の光学系に非常に高精度が要求され、かつ、高コストになるという課題があった。
【0009】
本発明は、上述した従来の問題点を解決するためのものであり、本発明のシート類の判別方法及び判別装置は、特許文献1のように、近赤外線領域における分光反射率特性に基づき、特定波長を吸収又は透過する顔料を印刷しておく方式ではなく、また、特許文献2及び3のように、中赤外線や遠赤外線における分子振動に由来する特定波長の吸収を検知する方式でもない。本発明の目的は、印刷インキ等による特定波長の吸収や透過又は基材や貼付物による分子振動等に由来する特定波長の吸収に影響されずにシート類の真偽を判別するものである。
【0010】
本発明のシート類の判別方法は、中赤外線乃至遠赤外線の領域である波長2μm〜15μmの範囲における広い帯域又は狭い帯域の波長の赤外放射エネルギを用い、シート類に対して指定の角度で照射し、シート類を透過する際のエネルギが反射、吸収及び/又は拡散を生じて、結果としてシート類の裏面から放射されたエネルギをシート類に対して指定の角度で受光する。また、赤外放射エネルギを用い、シート類に対して指定の角度で照射し、照射の角度に対して裏面から放射される放射の角度分布を測定することにより、シート類に用いられている基材や保護層等の材料形態を評価することによって、真偽を判別するシート類の判別方法及び判別装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は、シート類の材質と材料の状態を、中赤外線乃至遠赤外線の領域である波長2〜15μmの範囲の広い波長帯域又は任意の単一波長の電磁波を利用して非接触で判別する方法であって、前述のシート類の表面側に向けて、中赤外線乃至遠赤外線の領域である波長2〜15μmの範囲の広い波長帯域又は任意の単一波長の電磁波を任意の角度で照射し、照射された電磁波のエネルギのうち、シート類を透過するエネルギ及びシート類に吸収されたエネルギがシート類の裏面から放射され、放射されたエネルギをシート類の裏面側に配置された受光素子で指定の角度で検知し、検知したエネルギを、あらかじめ測定しておいた各シート類のエネルギの基準値と照合することで、シート類の材質と材料の状態を認識して判別することを特徴とするシート類の判別方法である。
【0012】
また、本発明のシート類の判別方法における受光素子で検知されるエネルギは、赤外放射エネルギ及び赤外電磁放射が合わせられた混合エネルギ又は混合指向性であるシート類の判別方法である。
【0013】
また、本発明のシート類の判別方法における受光素子は、照射する電磁波の光軸に対して、光軸を0°以外の範囲に配置し、受光素子は、角度を移動させて測定するシート類の判別方法である。
【0014】
また、本発明のシート類の判別方法にける受光素子は、二つ以上の受光素子を、照射する電磁波の光軸に対して、少なくとも一つは、光軸を0°以外の範囲で異なる角度に配置するシート類の判別方法である。
【0015】
また、本発明のシート類の判別方法における受光素子の配置角度は、好ましくは光軸を3°以上とするシート類の判別方法である。
【0016】
また、本発明は、シート類の材料の状態を、中赤外線乃至遠赤外線の領域である波長2〜15μmの範囲の広い波長帯域又は任意の単一波長の電磁波を利用して、非接触で判別する判別装置であって、前述のシート類の表面側に向けて、中赤外線乃至遠赤外線の領域である波長2〜15μmの範囲の広い波長帯域又は任意の単一波長の電磁波を照射する赤外源と、照射された電磁波を、チョッパコントローラによって回転羽を回転制御して断続して照射するチョッパとを備える照射手段と、チョッパにより断続して照射された電磁波のエネルギのうち、シート類を透過したエネルギ及びシート類に吸収されたエネルギを、シート類の裏面で検知する、中赤外線乃至遠赤外線の領域である波長2〜15μmの範囲の広い波長帯域又は任意の狭い単一波長に感度を有する少なくとも一つの受光素子と、受光素子で指定の角度で検知したエネルギを増幅するアンプと、チョッパにより断続した電磁波のエネルギを外乱ノイズから検知するロックインアンプとを備える受光手段と、シート類について、あらかじめ測定した中赤外線乃至遠赤外線の領域である波長2〜15μmの範囲の広い波長帯域又は任意の単一波長の放射による赤外放射エネルギ及び赤外電磁放射が合わせられた混合エネルギ又は混合指向性の基準の検出値とを照合する照合手段との各手段を備えたことを特徴とするシート類の判別装置である。
【0017】
また、本発明のシート類の判別装置は、受光手段に受光素子を一つ配置し、照射する電磁波の光軸に対して、光軸を0°以外の範囲に配置し、受光素子は、角度を移動させる構成としたシート類の判別装置である。
【0018】
また、本発明のシート類の判別装置は、受光手段に受光素子を二つ以上配置し、照射する電磁波の光軸に対して、少なくとも一つは、光軸を0°以外の範囲で異なる角度に配置するシート類の判別装置である。
【0019】
また、本発明のシート類の判別装置における受光素子の設置位置は、好ましくは、光軸を3°以上とするシート類の判別装置である。
【発明の効果】
【0020】
本発明のシート類の判別方法及び判別装置によれば、印刷インキ等による特定波長の吸収又は透過や、基材や貼付物による分子振動等に由来する特定波長の吸収に影響されず、シート類の真偽を判別することができるという効果を奏する。
【0021】
また、受光素子は、中赤外線又は遠赤外線の領域である波長2μm〜15μmの範囲内であれば、中心波長や半値幅に制限がなく、広い波長帯域を受光すれば、波長大域が積分されて大きな検知電圧が得られるため、ノイズ対信号の強度を大きく取ることができ、安定した真偽の判別を行うことができるという効果を奏する。
【0022】
また、本発明のシート類の判別方法及び判別装置によれば、安定した判別が行えることから、光学調整や波長設定を厳密に行う必要がないため、比較的コストを低くすることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】赤外線を検出する装置を模式的に示した図である。
【図2】赤外線放射エネルギ及び赤外電磁放射の模式図を示す。
【図3】本発明に係る、混合エネルギ及び混合指向性の測定によりシートの判別を行うための判別装置の概略模式図を示す図である。
【図4】本発明に係るシートの判別方法のフローを示す図である。
【図5】二つの受光素子を設置した混合指向性の測定方法による材料の評価方法を示す。
【図6】本発明の実施例1に係る、図3(a)を用いた判別装置の一形態例の構成を示すブロック図である。
【図7】本発明の実施例1に係る、図5の判別装置を用いた被測定シートの判別方法を示す図である。
【図8】本発明の実施例1に係る、図6の判別装置を用いた被測定シートの判別方法を示す図である。
【図9】本発明の実施例2に係る、混合指向性を評価して、被測定シートを判別する判別装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
始めに、本発明に係るシート類の判別方法及び判別装置に関する原理的事項の簡単な説明をする。従来技術においては、印刷物の真偽を判定する場合、インキの近赤外線の吸収又は透過の特性を元に判別するか、又は分子振動に由来する特定波長の吸収により判別する必要があった。また、波長2μmより短波長側の可視光及び近赤外線では、照射部と受光部による透過方式でシート類を測定すると、透過率のみが受光される。これに対し、波長2〜15μmの範囲の中赤外線から遠赤外線では、照射部と受光部による透過方式でシート類を測定すると、透過率に加え、赤外電磁放射も受光される。この赤外電磁放射は、物質を構成する材料ごとに固有の放射率や放射指向性(放射角度)を持つ特性があるため、これを捉えて、シート類の材料を確定することができる。
【0025】
一般に、シート類を構成する物性が、シート類からの光として受光部で検出され、このシート類からの光としては、光源からシート類に照射された光の反射光又は透過光、シート類自体から発する放射光等がある。
【0026】
また、一般的に、ある温度の物体の表面からは、その温度に応じて定まった放射エネルギ(電磁波)を放射している。物体の放射率は、その物体が放射エネルギを吸収する割合に等しく、その物体の反射率と透過率との間には、反射率+吸収(放射)率+透過率=1の関係が成立するので、物体の放射率をε、ある温度tの黒体から放射されるエネルギEとすると、ある温度の物体から放射されるエネルギ(E)は、E(t)=ε×E(t)となり、黒体から放射されるエネルギについては、プランクの放射則で算出することができるが、放射率は物体の種類、表面状態、測定条件(温度、角度、波長)によって変化することがわかっている。
【0027】
そこで、本発明では、シート類に対して中赤外線乃至遠赤外線の領域である波長2μm〜15μmの範囲における広い帯域又は狭い帯域の波長の赤外放射エネルギを指定の角度で照射すると、シート類を透過する際にエネルギが反射、吸収又は拡散を生じ、シート類を透過したエネルギのみがシート類の裏面から放射され、この放射されたエネルギがシート類に対して指定の角度で受光されることでシート類を判別する。また、赤外放射エネルギをシート類に対して指定の角度で照射し、照射の角度に対して裏面から放射される放射の角度分布を測定することにより、シート類に用いられている基材や保護層等の材料形態を評価することで印刷基材を判別するものであり、近赤外線領域における分光反射率特性に基づき、特定波長を吸収又は透過する顔料をあらかじめ印刷しておくことや、中赤外線や遠赤外線における分子振動に由来する特定波長の吸収を検知しなければならない従来技術の問題点を排除している。
【0028】
本発明を説明する前に、本発明におけるいくつかの用語や文章が意味する内容を定義する。以下の定義が本出願全体を通して使用され、通常使用される意味と異なる場合等において、特に断らない限り、以下に提供する定義を利用する。
【0029】
本発明について、「印刷基材」とは、(1)基材上の一部が、不織紙(合成繊維、カーボン繊維、ガラス繊維)、樹脂フィルム(セキュアウインドウ)により構成されて成り、又は(2)基材上の一部に、OVD(フィルム+アルミ蒸着)等が貼付されて成り、又は(3)基材にレーザ穿孔等により孔を開け、基材の材料のない部分が構成されて成っているものをいう。
【0030】
このような構成の印刷基材をシートの構成としているため、シートの判別に際して、シートの一部分が材料に固有の指向放射率があることを検知し、その変化を電気信号として捉えるものである。そのため、波長2μm〜15μmの範囲における任意の狭い波長帯域の照射エネルギを用いる場合は、判別装置に所定のエネルギのみを検出するバンドパスフィルタを搭載しても良い。
【0031】
以下の実施の形態で用いるシート類は、上述した構成を考慮したシートを代表しており、紙、プラスチック、不織紙、不織布、さらに、これらに塗工層を塗布したものを採用し得る。
また、このような印刷基材を構成するシートの材料形態は、一つ又は複数の受光素子を、シートの裏面に所定の角度に配置して測定でき、材料の固有指向放射率に基づくエネルギの広がりを評価することによって判別でき、紙の場合は、厚さや密度、不織紙の場合は、繊維材料、樹脂フィルムの場合は、厚さの違い等により判別される。
【0032】
本発明について、「赤外電磁放射」とは、赤外光源が発生したエネルギの総称として、二とおりに用いている。一つ目は、図1(b)に示すように、シートに照射するエネルギを示し、二つ目は、図2(a)に示すように、シートを通り抜けた後のエネルギ(直接光)を示す。
【0033】
本発明について、中赤外線乃至遠赤外線の領域である波長2μm〜15μmの範囲における広い帯域又は狭い帯域の波長の赤外放射エネルギをシート類に対し指定の角度で照射するということを述べているが、この「指定の角度」とは、任意に設定することができる角度のことであり、任意の角度でシート類にエネルギを照射するものである。このとき、シート類の裏面からシート類の材料における特性によって、固有の広がりでエネルギが放射され、裏面全体にエネルギが分布することを利用している。そのため、照射の角度及び測定の角度の組み合わせを変えても、適切な相互関係にあればシート類を評価することが可能となる。なお、この分布を測定する方法としては、照射した角度を基準として、裏面に一つの受光素子を設置して角度を移動させるもの、又は二つ以上の受光素子を異なる角度に設置することで、材料固有の広がり(角度分布)を測るものがある。
【0034】
受光素子を設置する角度は自由に設定することができるが、例えば、0°のみで測定してもエネルギの広がり状態を評価することができないため、シートの材質を評価することができない。つまり、一つの受光素子を規定の角度に設置する場合は、光軸を0°以外、好ましくは3°以上の範囲の角度に配置して、広がりを評価できるようにする必要がある。なお、受光素子が二つ以上の場合も、少なくとも一つは光軸を0°以外、好ましくは3°以上の範囲の角度に配置する必要がある。
【0035】
本発明について、混合エネルギの測定とは、「混合エネルギのレベルを測定する」ことであり、その測定方法としてシート類の裏面において光軸を0°以外、好ましくは3°以上の範囲の所定の角度に受光素子を設置する。光軸を0°以外、好ましくは3°以上の範囲にすることにより、混合エネルギの内訳が、「赤外線放射エネルギ<赤外電磁放射」の割合になるため、赤外電磁放射の広がりを評価し易くなる。得られた混合エネルギの中の赤外放射率の成分は、装置の光学系における照射光の広がり率であるため、装置固有の値で固定値と考えられ、もう一つの成分である材料固有の赤外線放射エネルギの成分をおおよそ特定することができる。つまり、「混合エネルギのレベルを測定する」ためには、材料固有の赤外電磁放射の成分をできるだけ多く受光するように、受光素子の角度を振るところにある。
これに対して、公知の技術は0°で測定しているため、混合エネルギの内訳として、「赤外線放射エネルギ>赤外電磁放射」の割合となり、材料固有の赤外電磁放射の評価が困難となっている。
なお、本発明では、角度を振って測定した混合エネルギのレベルから、材料に固有の指向放射率を予測することができることに着目している。判別の方法は、角度を振ってシートを測定した値と、あらかじめ測定した各材料の混合エネルギの基準値とを照合して、シートの材料を特定するものである。
【0036】
本発明について、シート類の材料に固有の指向放射率及び赤外電磁放射が重なった混合指向性の測定とは、「混合指向性の広がり状態を測定する」ことであり、具体的な例を示すと、例えば、シート類の裏面において、0°と15°の二箇所に受光素子を設けて測定し、二箇所の受光素子が検知した値の相違から混合指向性の広がり状態を得る。得られた混合指向性において、赤外放射率の成分は、装置の光学系に由来した光の広がりであるため固定値と考える。測定した混合指向性から、固定値である赤外放射率を引くと、材料固有の指向放射率を推定することができ、シートの材料をおおよそ判別することができる。
なお、本発明では、角度を振って測定した混合指向性から、材料に固有の指向放射率を予測することができることに着目している。判別の方法は、角度を振ってシートを測定した値と、あらかじめ測定した各材料の混合指向性の基準値とを照合して、シートの材料を特定するものである。
【0037】
本発明を実施するための形態について、図面を用いて説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる発明を実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている技術の範疇であれば、その他いろいろな実施の形態が含まれる。
【0038】
次に、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。図1は、赤外線を検出する装置を模式的に示した図である。図2は、赤外線放射エネルギ及び赤外電磁放射の模式図を示す図である。図3は、本発明に係る、混合エネルギ及び混合指向性の測定によりシートの判別を行うための判別装置の概略模式図を示す図である。図4は、本発明に係るシートの判別方法のフローを示す図である。図5は、二つの受光素子を設置した混合指向性の測定方法による材料の評価方法を示す図である。図6は、本発明の実施例1に係る、図3(a)を用いた判別装置の一形態例の構成を示すブロック図である。図7は、本発明の実施例1に係る、図6の判別装置を用いた被測定シートの判別方法を示す図である。図8は、本発明の実施例1に係る、図7の判別装置を用いた被測定シートの判別方法を示す図である。図9は、本発明の実施例2に係る、混合指向性を評価して被測定シートを判別する判別装置を示す図である。
【0039】
本発明において用いる赤外線領域は電磁波であり、物理学では、近赤外線(0.75〜2μm)、中赤外線(2〜6μm)、遠赤外線(6〜15μm)、極遠赤外線(テラヘルツ波と重なる)(15〜1000μm)の四つの領域に分けられている。本発明で利用する中赤外線乃至遠赤外線は、伝導、対流及び放射の三要素に基づく熱自体として言及されるものではなく、波長を持ち、かつ、電界及び磁界の形態で伝達される電磁波の概念として言及される。このため、赤外線の光源から照射した赤外電磁放射のエネルギは、赤外線が光源、シート及び受光素子の間を進行するための媒体は必要ないものと考えられる(つまり、熱と異なり安定して空気を伝達する。)。
【0040】
赤外線を検出する能動的な公知の装置としては、赤外放射温度計1があるが(図1(a)参照)これは、物質の発熱又は太陽や熱源のエネルギを吸収して赤外線を放射する際の放射エネルギを赤外放射温度計1の赤外線素子が検知し、校正を行って温度の値を得ているものである。これに対して、本発明は、赤外線を用いた能動的な方法であり(図1(b)参照)放射エネルギの源としてランプやヒータの赤外源2を用い、赤外電磁放射3をシート4に照射して、シート4の裏面から放射される赤外照射エネルギ5を受光素子6で受けて、エネルギ量を測定して評価するものである。
ここでいう評価とは、一つ又は複数の受光素子を、シートの裏面の所定の角度に配置して測定することにより、材料に固有の指向放射率に基づくエネルギの広がりを評価することを指し、おおよその材料を判別するものである。
【0041】
赤外電磁放射3(放射エネルギ)が、物体(シート)に入った場合、キルヒホッフの法則から、次の関係が成り立つ。
λA+λR+λT=1
・照射を受けたシート4が透過したスペクトル放射エネルギの比率 λT
・照射を受けたシート4が反射したスペクトル放射エネルギの比率 λR
・照射を受けたシート4が吸収したスペクトル放射エネルギの比率 λA
【0042】
キルヒホッフの法則は、物体固有の赤外線放射率がその物体の吸収率に等しいことを表した法則であり、熱平衡状態においては、放射される赤外線と吸収される赤外線の量が一致することになる。仮に、理想的な黒体であれば、赤外線をすべて吸収するが、本発明のように、被測定物がシート4の場合は、吸収以外に一部が反射し、一部が透過する。このため、シートにおいては、次の三つの形態に分類される。
【0043】
第一の形態では、(1)シート4を透過した成分は、ランプやヒータからの赤外電磁放射3が、シート4を抜けた一部が直接光として受光素子に入射し、それ以外のエネルギは消滅する。
第二の形態では、(2)シート4で反射した成分は、ランプやヒータからの赤外電磁放射3が、シート4で反射したもので、全部のエネルギが消滅する。
第三の形態では、(3)シート4で吸収した成分は、キルヒホッフの法則により吸収と放射の係数が同じであるため、同時に、電子及び原子又は分子の励起により赤外線放射エネルギ(∈)5として、シート4から周囲に放射される。この赤外線放射エネルギの量は、物体の表面における分子のエネルギレベルに直接的に依存する光子エネルギと考えられる。
【0044】
なお、放射の理論は、プランクの法則及びボルツマンの法則で証明されている。
プランクの放射法則は、温度と波長によって求められる、黒体が半球空間に放射する熱放射エネルギであり、絶対温度以上の温度の物体は、その表面から赤外線(電磁波)を放射しており、この赤外線の放射エネルギ密度と物体の表面温度との間には一定の関係があるということが一般的にいわれており、図1(a)の 赤外放射温度計1はプランクの法則を用いたものである。ボルツマンの法則は、絶対温度と全放射エネルギの関係は、プランクの放射法則を全波長で積分したもので、絶対温度の4乗に比例するというものである。
【0045】
上述した(1)〜(3)の三つの形態から、シート4に入射した赤外電磁放射3は、∈+λT=1と置き換えられる。しかし、本発明の方式が透過方式であり、受光素子6がシート4の裏面に位置することから、シート4で反射した成分が受光素子6に入射しないため、反射は無視することができる。よって、受光素子6がシート4の裏面から測定するエネルギは、赤外線放射エネルギ5(∈)及び赤外電磁放射3(λT)の混合値と考えられ、∈+λTとなる。
【0046】
ここで、赤外線放射エネルギ5及び赤外電磁放射3について、図2を用いてさらに概説する。図2(a)は、赤外電磁放射3の模式図を示すものである。赤外源2から赤外電磁放射3をシート4に照射すると、赤外電磁放射3は、シート4を透過した成分であるため、赤外線放射エネルギ5とは反対に、吸収されずにシート4を抜けた成分が直接光として得られる。図2(b)は、赤外線放射エネルギ5の模式図を示すものである。赤外源2から赤外電磁放射3をシート4に照射すると、赤外線放射エネルギ5は、シート4が吸収した成分を放射する際に発生するため、放射や吸収の効率である放射率により決まる。この放射率は材質によって固有の係数であり、例えば、シート4の例として、紙の放射率が0.8 〜0.9程度、プラスチックが0.86程度である。
【0047】
放射率は、材質に固有の係数であるが、放射率に影響する要素として、この材質以外に、波長(波数)、温度、材料状態(厚さ、密度、表面粗さ等)、角度の四つの固定要素があり、以下に説明する。
【0048】
(イ)波長に関しては、ボルツマンの法則から、波長と放射エネルギが無関係であるため、本発明では、例えば、紙(基材)によって吸収する波長であれば、所望の波長を用いることができる。一方、樹脂フィルムの場合は、吸収する波長が材料ごとに複数あるが、それぞれ帯域幅が狭いため、本発明の判別方法においては、吸収レベルは誤差の範囲である。
(ロ)温度に関しては、測定における外乱ノイズとなるため、赤外光源を断続するチョッパ7とロックインアンプ8を用いて、外乱ノイズの中から目的の信号を選別する方法をとる。
(ハ)材料状態に関しては、紙を例にすると、坪量による厚さ、圧力による繊維密度及び型付け機構による表面粗さがあげられる。
本発明は、中赤外線により紙の特徴を特定して、印刷基材の判別を行うものであるため、紙とそれ以外の材料を差別化することを目標としている。
(ニ)角度に関しては、本発明の測定では、受光素子6を設置する角度が最も重要な要素であり、図2(a)及び図2(b)に示すように、赤外源2からみて、シート4の裏面に受光素子6を設置して測定を行えば、赤外線放射エネルギ5と赤外電磁放射3が合わせられた混合エネルギ9のレベルを評価することができる。つまり、受光素子6をいろいろな角度に変化させ測定すると、混合エネルギの広がりを把握することができ、赤外線放射エネルギのレベル(広がり状態)を評価することができる。
以上の四つの固定要素又は変動要素を基に、シート4を判別しようとするものである。
【0049】
次に、シートの測定方法について述べる。図3は、本発明に係るシートの判別を行う判別装置を構成する照射手段と受光手段の構成例を模式的に表した図である。図3(a)は、混合エネルギ9を、図3(b)は、混合指向性10(内容は後述)を測定する照射手段と受光手段の構成例であり、混合指向性10の方がより正確に判別することができる。
【0050】
図3(a)は、混合エネルギ9の測定を行う照射手段と受光手段の構成の一例であり、例えば、照射手段としての赤外源2と受光手段としての一つの受光素子6から構成され、受光素子6を規定の角度に設置して測定を行い、得られた検知電圧からシート4を判別する方法である。赤外線放射エネルギ5と赤外電磁放射3が合わせられたレベルを評価して、紙やプラスチック等のシートにおけるおおよその材質及び/又は状態(厚さや密度)を認識して判別するものである。混合エネルギや混合指向性は、シートを構成する材料に固有の指向放射率に基づくため、判別する際には、あらかじめ設定した各材料の指向放射率を基準値として、測定により得たレベルと比較し、照合することでシートのおおよその特性を判別することができる。
【0051】
受光素子6を設置する角度は自由に設定することができるが、例えば、0°のみで測定しても、エネルギの広がり状態を評価することができないため、シートの材質を評価することができない。そのため、受光素子6を規定の角度に設置する場合は、0°以外の角度に配置して、広がりを評価できるようにする必要がある。なお、受光素子が二つ以上の場合も、少なくとも一つは0°以外の角度に配置する必要がある。
【0052】
また、赤外線放射エネルギ5と赤外電磁放射3が合わせられたレベルを評価するためには、一つ又は複数の受光素子6を規定の角度に設置して、混合エネルギ9や混合指向性10を測定する必要があるため、エネルギの広がりを評価する必要がある。この一つ又は複数の受光素子6の信号を基にエネルギの広がり状態を推定することで、シート材料の特性を判別し、さらに、一つ又は複数の受光素子6の信号をもとにエネルギの広がり状態を推定して、シートのおおよその材質や状態(厚さや密度)を認識するものである。
【0053】
図3(b)は、混合指向性10の測定を行う照射手段と受光手段の構成の一例であり、例えば、照射手段としての赤外源2と受光手段としての二つの受光素子6から構成され、二つの受光素子6を異なる角度に設置して測定を行い、二つの検知電圧を比較し、指向性の広がりを評価してシート4を判別する方法であり、第一の角度による検知レベルと第二の角度による検知レベルの二つの比により、大・中・小と判別するものである。材料に固有の指向放射率と赤外電磁放射3(λT)が重なった混合指向性10の広がり状態を評価して、紙やプラスチック等のシート4におけるおおよその材質、及び/又は、状態(厚さや密度)を認識して判別するものである。
例えば、シート類の裏面において、二つの受光素子6の角度を7°と40°の二箇所に設置して測定し、この二つの相違から混合指向性の広がり状態を得る。紙を測定した場合、測定した角度とエネルギレベルの関係(7°、40°)から、広がりが広いことを評価することができる。一方、同じ方法で透明プラスチックを測定した場合、測定した角度とエネルギレベルの関係(7°、40°)から、広がりが狭いことを評価することができる。このように、受光素子を異なる角度に設置して混合指向性を測定すると、得られた混合指向性において、赤外放射率の成分は、装置の光学系に由来した光の広がりであるため固定値と考えられ、測定した混合指向性から、固定値である赤外放射率を引くと、材料固有の指向放射率が分かり、シートの材料を特定することができる。
【0054】
以上のように、本発明では、赤外線放射エネルギと赤外電磁放射とが合わせられたものを直接測定することができ、一方、指向放射率と赤外電磁放射は、理論上重なったものを指し、計算によって得られた重なりから、広がり状態が得られるものである。
【0055】
図4は、本発明に係る、混合エネルギ及び混合指向性によるシートの判別方法のフローを示す図である。図3の判別装置を構成する照射手段と受光手段の構成例を用いた判別方法としてのフローの例を示す。
混合エネルギによる判別は、図3(a)に示される、照射手段としての赤外源2と受光手段としての一つの受光素子6から構成される判別装置を用いる。最初に、赤外源2からシート4の表面に、赤外線放射エネルギ3及び赤外電磁放射5を照射する(S1)と、照射されたエネルギのうち、シート4を透過した赤外線放射エネルギ3及び赤外電磁放射5がシート4の裏面から放射され(S2)、放射された赤外線放射エネルギ3及び赤外電磁放射5が合わせられた混合エネルギ9を、シート4の裏面側に、0°以外の指定の角度に設置された受光素子6で検知(S3)する。混合エネルギは、シートを構成する材料に固有の指向放射率に基づくため、検知した混合エネルギ値を、あらかじめ設定した各シートの指向放射率を基準値化したものと比較し、照合することで(S4)、シートの材質や状態(厚さや密度等)を認識して、判別する(S5)。
【0056】
混合指向性による判別は、図3(b)に示される、照射手段としての赤外源2と受光手段としての二つの受光素子6から構成される判別装置を用いる。最初に、赤外源2からシート4の表面に、赤外線放射エネルギ3及び赤外電磁放射5を照射する(S1)と、照射されたエネルギのうち、シート4を透過した赤外線放射エネルギ3及び赤外電磁放射5がシート4の裏面から放射され(S2)、放射された赤外線放射エネルギ3及び赤外電磁放射5が重なった混合指向性10を、シート4の裏面側に指定の角度で配置された二つの受光素子6で検知(S3´)する。二つの検知電圧を比較し、シートを構成する材料に固有の指向放射率と赤外電磁放射が重なった混合指向性の広がり状態は、検知した混合指向性10を、あらかじめ測定しておいた各シートの混合指向性の基準値と照合することで(S4´)、シートの材質や状態(厚さや密度等)を認識して、判別する(S5)。
【0057】
次に、図5を用いて、二つの受光素子6を設置した混合指向性10の測定方法を例に、材料を評価する方法を説明する。図5(a)は、シート4が薄い紙の場合、図5(b)は厚い紙の場合、図5(c)はシート4が透明フィルムの場合を示すものである。図5(a)に示す薄い紙の場合、透過(λT)が大きいため赤外電磁放射3も大きく、それと逆に、赤外線放射エネルギ5が小さい。このため、混合指向性10が放射方向に長く伸びる。図5(b)に示す厚い紙の場合、透過(λT)が小さいため赤外電磁放射3も小さく、それと逆に、赤外線放射エネルギが大きい。このため、混合指向性10が横方向に広がる。図5(c)に示す透明フィルムの場合、透過(λT)が非常に大きいため赤外電磁放射3も非常に大きく、それと逆に、赤外線放射エネルギ5が小さいため、混合指向性の放射方向が殆どない。
以上の三つの材料状態における測定において、シート4が厚い紙の場合は、紙に固有の指向放射率が広いことから、赤外線放射エネルギ5の割合が大きくなることが分かる。
【0058】
以上、混合指向性10の測定方法を例として材料を評価する方法を説明したが、混合エネルギ9の測定方法の場合は、図3(a)に示すように、一つの受光素子6を適切な角度に配置して測定を行うと、例えば、厚い紙>薄い紙>透明フィルムの順となり、赤外線放射エネルギ5と赤外電磁放射3が合わせられた透過量によって材料の評価を行うことができる。なお、先述したように、精度としては混合指向性10の方が正確であるが、混合エネルギ9の利点は、受光素子6が一つであるため低コストの装置を実現することができることである。
【実施例1】
【0059】
図6〜図8を用いて、赤外線放射エネルギ5と赤外電磁放射3が合わせられた混合エネルギ9のレベルを評価して、シート4を判別する実施例1の判別装置及びこの装置を用いた判別方法を説明する。
【0060】
図6は、図3(a)に示した実施の形態の測定方法を実施するための判別装置の一形態例の構成を示すブロック図である。
判別装置は、赤外源2、チョッパ7(浜松ホトニクス社製、C4696)、PbSe光導電素子12(浜松ホトニクス社製、P2680-02)、アンプ13(浜松ホトニクス社製、C3757-02)、ロックインアンプ8(エヌエフ回路ブロック社製、LI5640)、チョッパコントローラ14(浜松ホトニクス社製、C4696)、オシロスコープ15、バンドパスフィルタ19から構成される。
【0061】
赤外源2から照射された赤外電磁放射3が、波長2μm〜15μmの範囲の広い波長帯域又は任意の狭い単一波長の照射エネルギ17を発生し、チョッパ7はチョッパコントローラ14により回転羽を回転制御して照射エネルギ17を断続し、断続した照射エネルギ17がシート4に照射される。PbSe光導電素子12は、波長2μm〜15μmの範囲の広い波長帯域又は任意の狭い単一波長に感度のある受光素子を用いて、シート4の裏面から照射エネルギ17を検知し、アンプ13は検知した照射エネルギ17を増幅し、ロックインアンプ8はチョッパ7により断続した照射エネルギ17を温度等の外乱ノイズの中から検知するものである。ロックインアンプ8からの出力は、オシロスコープ15に接続して電圧を測定し、混合エネルギ9としてレベルを得てシート4を判別する。なお、オシロスコープ15は、これ以外の装置として、測定した結果を表示及び/又は出力できるデジタル表示器等を用いても良い。また、赤外検出器としてのPbSe光導電素子12は、測定に用いる赤外領域に感度を持つものであれば、これに限定されない。
中赤外線乃至遠赤外線の領域である波長2μm〜15μmの範囲における任意の狭い単一波長を受光する場合は、受光素子にバンドパスフィルタ19を搭載すれば良い。
【0062】
図7は、図6の判別装置を用いて、シート4を判別する判別方法を示す図である。
図7(a)は、図6の判別装置に光学的な調整を施した判別装置の概略図である。シート4に照射される照射エネルギ17が、6×6mmの照射面積(受光の量を確保することができる面積)になるようにレンズ16の設計を行うとともに、レンズ16、チョッパ7及び赤外源2である赤外線ランプ11の位置を調整する。また、シート4の裏面のPbSe光導電素子12は、照射エネルギ17の光軸に対して、シート4を中心として角度0°〜45°に連続移動することができる機構とする。
【0063】
この判別装置を用いて、材料が不明なシート4を測定するときには、光軸角度を0°〜45°の間で段階的に変化させて測定する。段階的に変化させた場合の角度と検知電圧の関係から、赤外線放射エネルギ5と赤外電磁放射3が合わせられた混合エネルギ9のレベルが得られることで、材料や状態(厚さや密度等)を認識し、シート4を判別することができる。
【0064】
混合エネルギ9のレベルが得られるということは、混合エネルギや混合指向性を測定する必要があるため、一つ又は複数の受光素子を規定の角度に設置して、エネルギの広がりを評価し、一つ又は複数の受光素子の信号を基にエネルギの広がり状態を確認することにより、おおよその材料の状態を推定することができ、これを基にしてシート材料を判別するものである。
【0065】
図7(a)の判別装置は、実施例1で説明する二つの測定を行うために作製した測定装置である。この判別装置を用いて行った二つの測定と測定結果について説明する。
【0066】
(1)一つ目の測定と測定結果
一つの受光素子を光軸に対して0°に設定した場合に、検知電圧からシート材料の特定まで行えるかどうかを判定するために、水準設定したサンプルの赤外線放射エネルギと赤外電磁放射が合わせられた混合エネルギの測定をして、その結果から判定するものである。
【0067】
図7(b)は、図7(a)の判別装置の光学的な調整により、PbSe光導電素子12の角度を0°に固定し、シート4を測定したグラフである。シート4として、厚さがn、2n、3n、4n、5n、6n(μm)の6水準の紙を用い、これに紙なしを加えた7水準をサンプルとして測定したときの、水準と検知電圧の関係を示している。つまり、赤外線放射エネルギと赤外電磁放射が合わせられた検知電圧(レベル)をプロットしたものである。図7(b)のカーブaを見ると、厚さが小さくなるほど検知電圧が上昇し、紙なしとnの間において急激に左上り曲線を示した。カーブaの線形を評価するために、図7(b)を元に縦軸を対数表示した結果、図7(c)のカーブbが得られ、この判別装置の検量線が、対数より大きな比をもつことが分かった。このことから、図7(a)の判別装置は、線形として扱い難いが、シート4の評価が行えることが分かった。
【0068】
(2)二つ目の測定と測定結果
上述したように、図7(a)の判別装置がシートの評価に有効であることが分かったため、一つの受光素子を、光軸を0°〜15°の範囲における任意の角度に連続移動して、検知電圧からシート材料の特定まで行えるかどうかを判定するために、水準設定したサンプルの赤外線放射エネルギと赤外電磁放射が合わせられた混合エネルギの測定をして、その結果から判定するものである。
【0069】
図8を用いて説明する。図8(a)の判別装置は、図7(a)の判別装置を用いたものである。図8(b)は、図8(a)の判別装置の光学的な調整により、PbSe光導電素子12の角度を角度0°、3°、6°、9°、12°、15°と段階的に変化させて移動して、シート4を測定したグラフである。シート4として、厚さがn、2n、3n、4n、5n、6n(μm)の6水準の紙を用い、これに紙なしの水準を加えた7水準をサンプルとして測定したときの、水準と検知電圧の関係を示している。図8(b)のカーブを見ると、厚さn〜6nの範囲では、すべての角度において同様なカーブであるのに対して、厚さn〜シートなしの範囲では、PbSe光導電素子12の角度が大きいほどカーブの傾斜が水平となった。また、角度15°の場合は、厚さn〜シートなしの範囲において左下がりを示した。これらのことから、PbSe光導電素子12の角度を調整することにより、検量線の線形を直線に近似することができることが分かった。このことから、図8(a)の装置、つまり、図7(a)の判別装置は、受光素子の角度を0°〜15°の範囲に振ることにより、線形として扱いやすく、シート4の評価が行えることが分かった。
【実施例2】
【0070】
図9を用いて、材料に固有の指向放射率と赤外電磁放射3が重なった混合指向性を評価して、シート4を判別する実施例2の判別装置及びこの装置を用いた判別方法を説明する。
【0071】
図9(a)は、図5に示した実施の形態の測定方法を実施するための判別装置の一形態例を示す図である。判別装置は、赤外線ランプ11、チョッパ7、PbSe光導電素子12、アンプ13、ロックインアンプ8、チョッパコントローラ14、判別回路18、バンドパスフィルタ19から構成される。赤外線ランプ11は赤外源2として、波長2μm〜15μmの範囲の広い波長帯域又は任意の狭い単一波長の照射エネルギ17を発生し、チョッパ7はチョッパコントローラ14により回転羽を回転制御して照射エネルギ17を断続し、断続した照射エネルギ17をシート4に照射し、PbSe光導電素子12は、波長2μm〜15μmの範囲の広い波長帯域又は任意の狭い単一波長に感度のある三つの受光素子を用いて、照射エネルギの光軸に対して異なる光軸(0°、15°、45°)に配置し、シート4の裏面から照射エネルギ17を検知し、アンプ13は検知した照射エネルギ17を増幅し、ロックインアンプ8はチョッパ7により断続した照射エネルギ17を温度等の外乱ノイズの中から検知するものである。三つの記録部20は、ロックインアンプ8で得られた三つの照射エネルギ17を多値化するために、あらかじめ閾値を比較及び照合し、判別回路18は、照合部21が出力する三つの照合結果の比を演算して、混合エネルギ9と混合指向性10の値を求める。
【0072】
混合エネルギ9と混合指向性10の値の求め方を以下に示す。
(1)混合エネルギ9の演算方法は、三つの照合部21の照合結果によって分類される。各光軸角度に対する混合エネルギが大の場合はH、中の場合はM、小の場合はLで表す。また、照合結果は、「0°のエネルギ値、15°のエネルギ値、45°のエネルギ値」で表され、0°のエネルギ値が優先される。照合結果が「H、*、*」の場合の混合エネルギは大、「M、*、*」の場合は中、「L、L、L」の場合は小の三つに分類した。ここで、「H、*、*」と表される「*」は、「M」、「L」のどちらでも良く、「H、M、M」「H、L、L」、「H、M、L」又は「H、L、M」のいずれかとなる。また、「M、*、*」の場合は、「M、M、M」、「M、M、L」、「M、L、L」又は「M、L、M」のいずれかとなる。なお、詳細は図9(c)、(e)に記載した。
(2)混合指向性10の演算方法は、三つの照合部21の照合結果の中で光軸が0°に近い受光素子の結果の値を100%として、他の照合部21の照合結果の値の%値を求めた。なお、詳細は図9(d)、(e)に記載した。このように、混合エネルギ9及び混合指向性10を認識して、シート4を判別する。中赤外線乃至遠赤外線の領域である波長2μm〜15μmの範囲における任意の狭い単一波長を受光する場合は、受光素子にバンドパスフィルタ19を搭載すれば良い。
【0073】
図9(b)は、図9(a)の判別装置に光学的な調整を施した判別装置の概略図である。シート4に照射される照射エネルギ17が6×6mmの照射面積になるように、レンズ16の設計を行うとともに、レンズ16、チョッパ7及び赤外線ランプ11の位置を調整した。また、シート4の裏面におけるbSe光導電素子12は、照射エネルギ17の光軸に対してそれぞれ、0°、15°及び45°になるように配置した。この判別装置を用いて、材料が不明なシート4を測定すると、光軸角度0°、15°及び45°の三つの信号の比から、材料に固有の指向放射率及び赤外電磁放射3が重なった混合指向性10の広がり状態が得られ、材料や状態(厚さや密度等)を認識し、シート4を判別することができる。
【0074】
図9(b)の判別装置を用いて行った二つの測定と測定結果について説明する。
測定に用いたシート類としては、実験紙(厚さ40及び60μm)、トレース紙5枚を重ねたもの(以下、「トレース5枚」という。)、上質紙、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム6枚を重ねたもの(以下、「PET6枚」という。)、カーボン繊維、ガラス繊維、キムワイプ(商品名)の八種類である。
【0075】
(1)一つ目の測定と測定結果
図9(c)は、図9(b)の判別装置に設置された三つのPbSe光導電素子12の角度を0°、15°及び45°として、各種シート4を測定したグラフである。シートなしのレベルを基準にして各シートの受光角度0°のレベルを評価した結果、次の二つに大別することができた。
(イ)受光角度0°のレベルが大きいものとして、PET6枚、カーボン繊維及びガラス繊維の三種類であり、シートなしの結果に類似している。これは、照射エネルギがシート4に吸収されずに、シート4を抜けた成分が直接光として得られたことにより、シート4を抜けて広がらないために、受光角度0°のレベルが受光角度15°及び45°のレベルに比較して大きい。よって、これらのシート4は、他のシート4と比べて、赤外電磁放射3が大きいことが特徴である。
(ロ)受光角度0°のレベルが小さい実験紙(厚さ40及び60μm)、トレース5枚及び上質紙は、シート4を抜けて光が広がったため、受光角度0°のみでなく受光角度15°及び45°のレベルも大きい。これらのシート4は、他のシート4と比べて、赤外線放射エネルギ5が大きいことが特徴である。
材料が紙の場合は、固有の指向放射率の広がりが広いため、通り抜けた光の広がりが大きい。これに対して、材料がPET6枚、カーボン繊維及びガラス繊維の場合は、指向放射率の広がりが狭いため、通り抜けた光の広がりが小さい。
【0076】
(2)二つ目の測定結果
図9(d)は、図9(c)の測定結果を基に、受光角度0°に対する、光軸15°及び45°の比を計算したグラフである。
受光素子6の角度によるレベル・ダウンを評価した結果、次の三つに大別することができた。
(イ)実験紙(厚さ40、60μm)、トレース5枚及び上質紙は、赤外線放射エネルギ5が大きいため、受光角度45°においてレベル・ダウンが約50%を下回った。
(ロ)PET6枚、カーボン繊維及びガラス繊維は、赤外電磁放射3が大きいため、受光角度45°において、レベル・ダウンが約80%を上回った。
(ハ)キムワイプは、厚さにもよるが、上記(イ)と(ロ)の中間的な結果であった。
【0077】
図9(e)は、図9(d)に示す光軸0°、15°及び45°の検知電圧の比等を基にして得た判別の指標であり、次のように整理を行った。
(1)混合エネルギ:図9(c)において、光軸0°と光軸15°の検知電圧が1〜3mvより大きい材料を、混合エネルギが大きいものと規定した。この結果、PET6枚、カーボン繊維及びガラス繊維が「大」、実験紙(厚さ60μm)、トレース5枚及び上質紙が「小」、実験紙(厚さ40μm)及びキムワイプが「中」に分類することができた。
(2)混合指向性:図9(d)において、光軸0°と光軸45°の比が100:30より大きい材料を混合指向性が大、100:30から100:20の範囲の材料を混合指向性が中、100:20より小さい材料を混合指向性が小と規定した。この結果、実験紙(厚さ60μm)、実験紙(厚さ40μm)、トレース5枚及び上質紙が「大」、PET6枚、カーボン繊維及びガラス繊維が「小」、キムワイプが「中」に分類することができた。
以上のように、未知の被測定シートを0°、15°及び45°の角度で測定して検知電圧の比を演算し、図9(e)のように、混合エネルギと混合指向性の大小の状態を得ることにより、シート材料が判別することができるものである。
【0078】
上記したように、図9では、受光素子を三個設置した測定方法において、実施例2のように静止状態で測定してシートを評価している。シートを搬送して測定する場合はチョッパ、ロックインアンプ等の応答速度が間に合えば、出力電圧のスキャン波形が変化し、シート材料を判別することが可能となる。
【符号の説明】
【0079】
1 赤外放射温度計
2 赤外源
3 赤外電磁放射
4 シート
5 赤外放射エネルギ
6 受光素子
7 チョッパ
8 ロックインアンプ
9 混合エネルギ
10 混合指向性
11 赤外線ランプ
12 PbSe光導電素子
13 アンプ
14 チョッパコントローラ
15 オシロスコープ
16 レンズ
17 照射エネルギ
18 判別回路
19 バンドパスフィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート類の材質と材料の状態を、中赤外線乃至遠赤外線の領域である波長2〜15μmの範囲の広い波長帯域又は任意の単一波長のエネルギを利用して非接触で判別する方法であって、
前記シート類の表面側に向けて、中赤外線乃至遠赤外線の領域である波長2〜15μmの範囲の広い波長帯域又は任意の単一波長の電磁波を任意の角度で照射し、
前記照射された電磁波のエネルギのうち、前記シート類を透過するエネルギ及び前記シート類に吸収されたエネルギが前記シート類の裏面から放射され、
前記放射されたエネルギを、前記シート類の裏面側に配置された受光素子で指定の角度で検知し、
前記検知したエネルギを、あらかじめ測定しておいた各シート類のエネルギの基準値と照合することで、シート類の材質と材料の状態を認識して判別することを特徴とするシート類の判別方法。
【請求項2】
前記受光素子で検知されるエネルギは、赤外放射エネルギ及び赤外電磁放射が合わせられた混合エネルギ又は混合指向性である請求項1記載のシート類の判別方法。
【請求項3】
前記受光素子は、照射する電磁波の光軸に対して、光軸を0°以外の範囲に配置し、前記受光素子は、角度を移動させて測定する請求項1又は2記載のシート類の判別方法。
【請求項4】
前記受光素子は、二つ以上の受光素子の少なくとも一つは、照射する電磁波の光軸に対して、光軸を0°以外の範囲で異なる角度に配置する請求項1又は2記載のシート類の判別方法。
【請求項5】
前記受光素子を配置する指定の角度は、光軸を3°以上とする角度である請求項3又は4記載のシート類の判別方法。
【請求項6】
シート類の材料の状態を、中赤外線乃至遠赤外線の領域である波長2〜15μmの範囲の広い波長帯域又は任意の単一波長の放射を利用して非接触で判別する判別装置であって、
前記シート類の表面側に向けて、中赤外線乃至遠赤外線の領域である波長2〜15μmの範囲の広い波長帯域又は任意の単一波長の電磁波を照射する赤外源と、前記照射された電磁波をチョッパコントローラによって回転羽を回転制御して断続して照射するチョッパとを備える照射手段と、
前記チョッパにより断続して照射された電磁波のエネルギのうち、前記シート類を透過して裏面から放射されるエネルギ及び前記シート類に吸収され裏面から放射されるエネルギを、前記シート類の裏面で検知する、中赤外線乃至遠赤外線の領域である波長2〜15μmの範囲の広い波長帯域又は任意の狭い単一波長に感度を有する少なくとも一つの受光素子と、前記受光素子を指定の角度で検知したエネルギを増幅するアンプと、前記チョッパにより断続した電磁波を外乱ノイズから検知するロックインアンプとを備える受光手段と、
前記シート類について、あらかじめ測定した中赤外線乃至遠赤外線の領域である波長2〜15μmの範囲の広い波長帯域又は任意の単一波長の放射による赤外放射エネルギ及び赤外電磁放射が合わせられた混合エネルギ又は混合指向性の基準の検出値とを照合する照合手段との各手段を備えたことを特徴とするシート類の判別装置。
【請求項7】
前記受光手段に、前記受光素子を一つ配置し、前記受光素子は、照射する電磁波の光軸に対して、光軸を0°以外の範囲に配置し、前記受光素子は、角度を移動させる構成とする、請求項6記載のシート類の判別装置。
【請求項8】
前記受光手段に、前記受光素子を二つ以上配置し、前記受光素子は、前記照射する電磁波の光軸角度に対して、少なくとも一つは、光軸を0°以外の範囲で異なる角度に配置する、請求項6記載のシート類の判別装置。
【請求項9】
前記受光素子を配置する指定の角度は、光軸を3°以上とする角度である請求項7又は8記載のシート類の判別装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−22011(P2011−22011A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−167431(P2009−167431)
【出願日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】