説明

シームレスベルトの製造方法及び製造装置

【課題】熱可塑性樹脂を主成分とする高品位なシームレスベルトを低コストで製造可能にする。
【解決手段】
筒状金型4と把持部材7を、互いに対向する端部同士の間に間隙20が生じるように配置する。プランジャ3による溶融体30の加圧と開口幅変化機構による吐出口2cの開口幅の縮小とを開始し、環状ダイ2の吐出口2cから間隙20へ溶融体30を吐出する。間隙20に吐出された溶融体30を筒状金型4と把持部材7との端部で挟持し、筒状金型4の内部と把持部材7の内部との間を遮断する。吐出口2cの開口幅の縮小を停止する。溶融体30を挟持した状態で筒状金型4及び把持部材7を軸方向に移動させながら、筒状金型4の内壁へ溶融体30を吐出して筒状の層1を形成する。筒状の層1と筒状金型4と把持部材7とで仕切られた内部空間50に気体を充填し筒状の層1を筒状金型4の内壁に密着させ、固化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シームレスベルトの製造方法及びその製造装置に関する。特に、レーザービームプリンターや複写機等の電子写真画像形成装置において、中間転写ベルト、転写搬送ベルト、感光ベルト、定着ベルト等に用いられるシームレスベルトの製造方法及びその製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザービームプリンターや複写機等の電子写真画像形成装置において、中間転写ベルト、転写搬送ベルト、感光ベルト、定着ベルト等に用いられるシームレスベルトの製造方法が、特許文献1に開示されている。特許文献1に開示された製造方法では、筒状金型に内接している押出筒金型から、熱硬化性樹脂の溶液を筒状金型内壁の下部から上部まで順次押し出して、筒状の樹脂溶液の層を形成する。このとき、樹脂溶液の層の内部に気体を注入して加圧し、その後、樹脂溶液の層を硬化させることによってシームレスベルトが得られる。この製造方法によれば筒状金型の内壁に短時間で樹脂溶液を塗布可能で、しかも塗布スジおよびうねりの発生や樹脂溶液の残留を抑えることが可能である旨が、特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−237695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、電子写真画像装置の高画質かつ低価格化が進んでおり、シームレスベルトの品質および価格に対する要求が益々高まっている。そこで、本発明者は、特許文献1に記載の製造方法を、硬化反応プロセスが不要で、熱硬化性樹脂よりも安価な熱可塑性樹脂を主成分とするシームレスベルトの製造に適用することについて検討した。その結果、次のような課題を見出すに至った。
【0005】
すなわち、特許文献1に記載の製造方法では、樹脂溶液を筒状金型の底面に流下させて樹脂溶液の層を形成している。このとき、筒状金型の温度が熱可塑性樹脂の融点よりも低いと、熱可塑性樹脂を含む樹脂溶液は、筒状金型の内壁に触れた時点で固化し始める。そのため、樹脂溶液の層と筒状金型の底面との密着性が不十分になる可能性がある。その場合、筒状金型の底面に設けられた注入口から気体が注入されたときに、筒状金型の底面と樹脂溶液の層との隙間から気体が入り込むことがある。その結果、樹脂溶液の層の筒状金型の内壁への密着が気体によって妨げられ、筒状金型の内壁の表面粗さを樹脂溶液の層の外面に確実に転写できなくなることがあった。
【0006】
そこで、本発明は、熱可塑性樹脂を主成分とする高品位なシームレスベルトを低コストで製造することができるシームレスベルトの製造方法および製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るシームレスベルトの製造装置は、第1の円筒と、第1の円筒と同一の内径を有し、第1の円筒と同軸の位置関係を維持しつつ第1の円筒に対して相対的に軸方向に移動可能な第2の円筒と、第1の円筒及び第2の円筒と同軸の位置関係で第1の円筒及び第2の円筒の内側に、第1の円筒及び第2の円筒の少なくとも一方の内壁に近接するように配置され、第1の円筒及び第2の円筒に対して相対的に軸方向に移動可能であり、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物の溶融体を収容可能であって、溶融体を放射方向外側に向かって吐出する吐出口を有する環状ダイと、環状ダイの内部に収容された溶融体を加圧するプランジャと、を備えていることを特徴とする。
【0008】
本発明に係るシームレスベルトの製造方法は、前記した本発明の製造装置を用いて、第1の円筒と第2の円筒の互いに対向する端部同士の間に間隙が生じるように、第1の円筒と第2の円筒とを配置する工程と、プランジャによる溶融体の加圧を開始して、吐出口から間隙へ溶融体を吐出する工程と、間隙に吐出された溶融体を、第1の円筒と第2の円筒の互いに対向する端部で挟持して、第1の円筒の内部と第2の円筒の内部との間の気体の流通を遮断する工程と、溶融体を挟持した状態で第1の円筒及び第2の円筒を環状ダイに対して相対的に軸方向に移動させながら、吐出口から第1の円筒または第2の円筒の内壁へ溶融体を吐出して、溶融体からなる筒状の層を形成する工程と、少なくとも筒状の層と第1の円筒または第2の円筒の内壁とで仕切られた内部空間に気体を充填し、気体の圧力で筒状の層を第1の円筒または第2の円筒の内壁に密着させる工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、表面性に優れた、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物からなるシームレスベルトを低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のシームレスベルトの製造装置の一実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明のシームレスベルトの製造方法の一実施形態の各工程における製造装置の状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0012】
図1は、本発明のシームレスベルトの製造装置の一実施形態を示す断面図である。本実施形態の製造装置は、図1に示すように、第1の円筒である筒状金型4と、第2の円筒である把持部材7と、環状ダイ2とを有している。
【0013】
筒状金型4は、上端部が開口し、下端部がステージ6に支持されている。ステージ6は、鉛直方向に延びるガイド5に支持されている。ステージ6はガイド5に沿って移動可能であり、従って筒状金型4は昇降可能である。
【0014】
把持部材7は、ガイド5に支持された状態で筒状金型4の上方に配置されており、筒状金型4の上端開口と対向している。把持部材7は、ガイド5に沿って昇降可能である。把持部材7の上部には、注入口8が設けられている。注入口8は、不図示の気体注入手段に連結されており、気体が注入口8を通じて把持部材7の内部に注入可能になっている。
【0015】
環状ダイ2は、断熱ベース9に支持された状態で筒状金型4の内側に配置されている。環状ダイ2は、断熱ベース9に固定された下ダイ2bと、鉛直方向に昇降可能な上ダイ2aを有している。上ダイ2aと下ダイ2bに挟まれた領域が、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物の溶融体30(簡略化のために、以下「樹脂溶融体」と言う)を収容可能な流路2dである。流路2dの下端には、外周方向に向けて開口しており、樹脂溶融体30を放射方向外側に向かって吐出する吐出口2cが設けられている。上ダイ2aの昇降によって吐出口2cの開口幅は変化する。すなわち、本実施形態では、上ダイ2aおよびその駆動機構が開口幅変化機構を構成している。
【0016】
環状ダイ2の流路2dにはプランジャ3が嵌合しており、プランジャ3の環状の押圧面が環状ダイ2の流路2d内に進入している。このプランジャ3によって、環状ダイ2の流路2d内に収容された樹脂溶融体30が、吐出口2cから放射方向外側に押し出されるように加圧される。環状ダイ2の流路2dには分岐点および合流点が存在せず、プランジャ3が環状の押圧面を有しているので、流路2dの各々における圧力および流速分布が均一になる。これにより、樹脂溶融体30が吐出口2cから筒状金型4の内壁の全周に向けて均一に吐出されるので、筒状の層1を形成する際に流れの不連続により生じる線、いわゆるウェルドラインの発生を避けることが可能である。したがって、強度と厚さが均一なシームレスベルトの製造が可能である。なお、樹脂溶融体30の吐出方向は、水平方向であることが望ましいが、仰角方向または俯角方向であってもよい。
【0017】
第1の円筒体である筒状金型4と、第2の円筒体である把持部材7と、環状ダイ2と、プランジャ3とは、全て同軸の位置関係であり、この同軸の位置関係は、各々が相対的に軸方向に移動する際にも維持される。
【0018】
次に、本願発明に係るシームレスベルトの製造方法について説明する。本発明に係るシームレスベルトの製造方法は、前記したように第1の円筒である筒状金型4と第2の円筒である把持部材7と環状ダイ2とを備えた製造装置を用いる。把持部材7は、筒状金型4と同一の内径を有し、筒状金型4と同軸の位置関係を維持しつつ筒状金型4に対して相対的に軸方向に移動可能である。環状ダイ2は、筒状金型4及び把持部材7と同軸の位置関係で、筒状金型4と把持部材7の少なくとも一方の内壁に近接するように配置され、筒状金型4及び把持部材7に対して相対的に軸方向に移動可能である。従って、プランジャ3によって、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物の溶融体30(樹脂溶融体)を加圧して、環状ダイ2から放射方向外側に吐出可能であり、樹脂溶融体30を吐出する吐出口2cの開口幅を変化させることが可能である。
【0019】
本発明に係るシームレスベルトの製造方法は、以下に記載する工程(1)〜(7)を含む。
【0020】
工程(1)は、第1の円筒である筒状金型4と第2の円筒である把持部材7とを、筒状金型4及び把持部材7の互いに対向する端部同士の間に間隙20が生じるように配置する工程である。
【0021】
工程(2)は、プランジャ3による樹脂溶融体30の加圧と、開口幅変化機構による吐出口2cの開口幅の縮小とを開始し、筒状金型4と把持部材7の互いに対向する端部同士の間の間隙20に、環状ダイ2の吐出口2cから樹脂溶融体30を吐出する工程である。
【0022】
工程(3)は、筒状金型4及び把持部材7の互いに対向する端部間の間隙20に押し出された樹脂溶融体30を、筒状金型4及び把持部材7の互いに対向する端部で挟持する工程である。それにより、筒状金型4の内部と把持部材7の内部との間の気体の流通が遮断される。
【0023】
工程(4)は、開口幅変化機構による吐出口2cの開口幅の縮小を停止する工程である。
【0024】
工程(5)は、樹脂溶融体30からなる筒状の層1を形成する工程である。具体的には、樹脂溶融体30を挟持した状態で、筒状金型4及び把持部材7と環状ダイ2とを軸方向に相対移動させながら、吐出口2cから筒状金型4または把持部材7の内壁へ樹脂溶融体30を連続的に吐出する工程である。
【0025】
工程(6)は、少なくとも筒状の層1と筒状金型4または把持部材7の内壁とで仕切られる空間内に気体を充填し、その気体の圧力で、筒状の層1を筒状金型4または把持部材7の内壁に密着させる工程である。
【0026】
工程(7)は、筒状の層1を固化させる工程である。
【0027】
次に、この製造方法のより具体的な例を詳細に説明する。工程(1)における製造装置の状態は図2(a)に、工程(2)〜(4)における製造装置の状態は図2(b)に、工程(5)〜(7)における製造装置の状態は図2(c)に、それぞれ示されている。
【0028】
工程(1)では、筒状金型4および把持部材7を、図2(a)に示すように筒状金型4の上端開口と把持部材7との間に間隙20が存在し、環状ダイ2の吐出口2cと間隙20とが同等の高さになるように配置する。
【0029】
工程(2)では、まず、環状ダイ2の流路2dに常温の熱可塑性樹脂のペレット(樹脂組成物)を投入する。投入されたペレットは、環状ダイ2の流路2d内で溶融され、樹脂溶融体30となる。次に、上ダイ2aの押し下げを開始して吐出口2cの開口幅を小さくしつつ、プランジャ3の押し下げを開始して、環状ダイ2の吐出口2cから間隙20に向かって、樹脂溶融体30を連続して放射状に吐出する。
【0030】
ただし、環状ダイ2で樹脂組成物を溶融するのではなく、既に溶融状態になった樹脂溶融体30を環状ダイ2に投入する構成であってもよい。また、樹脂溶融体30を吐出口2cから間隙20に向かって連続して放射状に吐出する際に、上ダイ2aに対して下ダイ2bを押し上げてもよい。すなわち、工程(2)では、上ダイ2aを下ダイ2bに対して相対的に軸方向に移動させることによって、樹脂溶融体30を吐出口2cから間隙20に向かって連続して放射状に吐出すればよい。
【0031】
工程(3)では、図2(b)に示すように把持部材7を下降させて、間隙20に吐出した樹脂溶融体30を、筒状金型4と把持部材7とで挟持する。これにより、筒状金型4の内部と把持部材7の内部との間の気体の流通を遮断する。ただし、筒状金型4を上昇させること、または、筒状金型4の上昇と把持部材7の下降とを同時に行うことによって、樹脂溶融体30を筒状金型4と把持部材7で挟持してもよい。すなわち、工程(3)では、筒状金型4と把持部材7のいずれか一方または両方を、互いに近づく方向に移動させることによって、樹脂溶融体30を筒状金型4と把持部材7とで挟持すればよい。
【0032】
工程(4)では、上ダイ2aの押し下げ動作または下ダイ2bの押し上げ動作を停止して、吐出口2cの開口幅の縮小を停止する。すなわち、工程(4)では、上ダイ2aと下ダイ2bの相対的な軸方向の移動を停止すればよい。なお、工程(2)で開始されたプランジャ3の押し下げ動作(加圧動作)は、この段階でも継続する。
【0033】
この段階で、筒状金型4と把持部材7とで樹脂溶融体30を挟持した状態、すなわち、筒状金型4の内部と把持部材7の内部との間の気体の流通を遮断した状態が維持されている。そして、工程(5)では、その状態からさらにプランジャ3を所望の速度で押し下げて、環状ダイ2の吐出口2cから樹脂溶融体30を半径方向外側に放射状に連続して吐出しつつ、環状ダイ2に対して筒状金型4及び把持部材7を上昇させる。それによって、図2(c)に示すように、樹脂溶融体30を筒状金型4の内壁の上部から下部へ順次塗布していく。このようにして、筒状の層1を筒状金型4の内壁に形成する。プランジャ3を押し下げる速度は吐出口2cからの樹脂溶融体30の流出速度に対応しており、この流出速度と筒状金型4の上昇速度とを制御することによって、筒状の層1の厚さを制御することができる。
【0034】
工程(5)では、不図示の温度センサと、その検出結果に基づいて制御可能な不図示のヒータおよび冷却器とを用いて、筒状金型4の温度を、樹脂組成物のガラス転移点以上かつ融点以下の温度範囲内に設定することが好ましい。これは、筒状金型4の温度が樹脂組成物のガラス転移点以上かつ融点以下であると、筒状の層1は筒状金型4の内壁に近接して徐々に冷却されるため、結晶化度が高くなって強度が高くなるからである。
【0035】
なお、工程(5)では、筒状の層1を形成する際に、吐出口2cからの樹脂溶融体30の吐出を続行したまま、筒状金型4および把持部材7に対して環状ダイ2を下降させてもよい。または、筒状金型4および把持部材7を上昇させるとともに環状ダイ2を下降させてもよい。すなわち、工程(5)では、吐出口2cから樹脂溶融体30を吐出しながら、環状ダイ2を筒状金型4及び把持部材7に対して相対的に軸方向に移動させることによって、筒状の層1を筒状金型4の内壁に形成すればよい。
【0036】
それから、工程(6)〜(7)において、筒状の層1を筒状金型4の内壁に密着させ、固化させる(図2(c)参照)。具体的には、工程(5)に引き続いて、または工程(5)と並行して、不図示の気体注入手段から注入口8を介して、把持部材7の内部に気体を注入する。このとき、把持部材7の端部と筒状金型4の端部とが樹脂溶融体30を挟持することによって、把持部材7の内部と筒状金型4の内部との間の気体の流通が遮断されている。従って、把持部材7の内部に注入された気体によって、把持部材7と筒状の層1と環状ダイ2とで仕切られた内部空間50が加圧される。その結果、筒状の層1は、筒状金型4の内壁に密着させられる(工程(6))。なお、注入口8から注入する気体は、空気や、窒素ガスに代表される不活性ガスであることが望ましい。
【0037】
筒状の層1が筒状金型4の内壁に密着すると、筒状の層1を構成する樹脂溶融体30は筒状金型4に熱を奪われ、冷却される。このとき、筒状金型4の温度を樹脂組成物の融点以下に設定しておくと、筒状の層1は固化する(工程(7))。
【0038】
一般的に、熱可塑性樹脂を含む樹脂溶融体が固化する際には収縮が起こるため、筒状の層1は固化時に筒状金型4の内壁から剥がれやすくなる。しかし、本実施形態では、工程(3)で筒状金型4の内部空間が密封されている。そして、工程(5)において形成された筒状の層1は、樹脂溶融体30の、筒状金型4と把持部材7に挟持された部分と、プランジャ3の押圧面と下ダイ2bとの間に位置する部分とにつながったままである。さらに、工程(6)において、上述した内部空間50のみが加圧される。そのため、工程(6)では、筒状金型4の内壁と筒状の層1との隙間に気体が入り込まない。従って、注入口8から注入した気体で内部空間50を加圧することによって、筒状の層1を筒状金型4の内壁に密着させたまま固化させることが可能である。その結果、筒状金型4の内壁の表面が、筒状の層1の外面に確実に転写される。さらに、筒状金型4の内壁に形成される、樹脂溶融体からなる筒状の層1が固化した成形品の外径精度を、筒状金型4の内径と同じレベルに安定させることが可能である。
【0039】
その後、前記した工程(1)〜(7)によって筒状金型4の内壁に形成された樹脂組成物からなる成形品(筒状体)を、内壁から取り外す。具体的には、樹脂溶融体30からなる筒状の層1が十分に固化した後に、注入口8からの気体の注入を停止する。続いて、把持部材7を筒状金型4に対して上昇させ、把持部材7と筒状金型4とを離れさせる。それから、不図示の取り出し手段を用いて筒状体を筒状金型4から取り出す。その後、筒状体からシームレスベルトを切り出す。
【0040】
本発明の方法によって製造されたシームレスベルトの表面には、筒状金型4の内壁の表面が正確に転写されるため、表面形状が均一でムラが少ないシームレスベルトを低コストで製造できる。
【0041】
筒状金型4が樹脂組成物のガラス転移温度以上かつ融点以下になるように積極的に温度制御することなく、一般的な室温(25℃)程度の状態で前記した各工程を行なうことも可能である。この場合、樹脂溶融体30は、筒状金型4に付着して直ぐに固化し始める。筒状金型4が常温であるため、樹脂溶融体30の固化時に、あまり急激に冷却されて結晶化が進行することがなく、柔軟性が高く屈曲疲労強度の高いシームレスベルトが得られる。また、筒状金型4の温度を樹脂組成物の融点以上に調整しておいて、成形が完了してから筒状金型4の温度を融点以下に冷却することも可能である。この場合、冷却する速度を調整することで、成形品の結晶化度を調整することが可能である。
【0042】
本発明では、熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂組成物は特に限定されない。しかし、製造したシームレスベルトが電子写真装置に用いられる場合には、樹脂組成物としては以下に列挙する材料が望ましい。ポリプロピレン、(高密度、中密度、低密度、直鎖状低密度の)ポリエチレン、プロピレンエチレンブロックまたはランダム共重合体、ゴムまたはラテックス成分、エチレン・プロピレン共重合体ゴム、スチレン・ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体またはその水素添加誘導体、ポリブタジエン、ポリイソブチレン、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアセタール、ポリアリレート、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル、ポリイミド、液晶性ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリビスアミドトリアゾール、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、アクリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、エチレンテトラフロロエチレン共重合体、クロロトリフルオロエチレン共重合体、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、アクリル、アクリル酸アルキルエステル共重合体、ポリエステルエステル共重合体、ポリエーテルエステル共重合体、ポリエーテルアミド共重合体、ポリウレタン共重合体、またはこれらの混合物。さらに、耐久性を考慮すると、樹脂組成物としては、エンジニアリングプラスチック、スーパーエンジニアリングプラスチックに分類されるものが望ましい。具体的には、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンサルファイド、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートが特に望ましい。
【0043】
また、製造したシームレスベルトが電子写真装置に用いられる場合には、その用途に応じて様々な添加材を分散させて機能を付与する必要がある。例えば、転写搬送ベルトや中間転写ベルトなどに使用する場合には、特に抵抗率制御を目的として無機添加材を分散させる。無機添加材としては、カーボンブラック、黒鉛、金属、金属酸化物の微粉末が考えられる。この金属には、銅、スズ、アルミニウム、インジウム等が含まれる。また、金属酸化物の微粉末には、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化インジウム、酸化アンチモン、酸化ビスマス、アンチモンをドープした酸化スズ、スズをドープした酸化インジウム等が含まれる。無機添加材としては、カーボンブラックが特に望ましい。このカーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラックが考えられる。また、無機添加材として、滑り性の付与を目的とした二硫化モリブデン等の潤滑性粒子や、硬度向上等を目的とした二酸化ケイ素や酸化チタン等も用いることができる。
【実施例】
【0044】
(実施例1)
図1に示した構成を有するシームレスベルトの製造装置を用い、工程(1)〜(7)に沿って電子写真用シームレスベルトを製造した。
【0045】
前準備としてポリエーテルエーテルケトン(商品名:VICTREX PEEK;ビクトレックス(Victrex)社製)にアセチレンブラック(電気化学工業株式会社製)を混合し、2軸成形機にて均一に混練して、樹脂組成物のペレットを製造した。このペレットの体積抵抗率は1×1010〜5×1010Ωcmであった。この樹脂組成物のガラス転移点は約150℃、融点は約340℃であった。
【0046】
本実施例の筒状金型4の内径は290mm、軸方向の長さは420mmであった。筒状金型4の内壁の表面は、製造するシームレスベルトの表面が所定の表面粗さ[十点平均粗さ(Rzjis、JIS K0601-2001)=0.4μm]となるように、この表面粗さに対応した表面粗さを有するように表面処理した。また、不図示の温度調節手段(ヒータおよび冷却器)により、筒状金型4の内壁の表面を200℃に予め制御しておいた。
【0047】
本実施例の把持手段7の内径は290mm、軸方向の長さは250mmであった。環状ダイ2のサイズは、最外径が282mm、流路2dの幅が10mm、吐出口2cの開口幅(スリット幅)が1mmであった。環状ダイ2の上方の貫通穴(不図示)と吐出口2cとが、プランジャ3が上端位置まで上昇した時に連通するようにした。また、環状ダイ2は不図示の温度調節手段により380℃に予め制御しておいた。
【0048】
まず、図2(a)に示すように、プランジャ3を上端位置まで上昇させて流路2dとなる空間を確保し、この流路2dに常温のペレットを適量投入してペレットを溶融させ、樹脂溶融体30を形成した。次に、筒状金型4の端部と把持部材7の端部との間に10mmの間隙20が生じるとともに、この間隙20の位置と環状ダイ2の吐出口2cの位置とが概ね一致するように、筒状金型4と把持部材7の高さを調整した(工程(1))。
【0049】
次いで、図2(b)に示すように、プランジャ3と上ダイ2aの押し下げを開始して、樹脂溶融体30を吐出口2cから間隙20に向かって連続して放射状に吐出した(工程(2))。その後、把持部材7を下降させて、間隙20に吐出された樹脂溶融体30を、筒状金型4の端部と把持部材7の端部とで挟持した(工程(3))。このように樹脂溶融体30を挟持するのとほぼ同時に、押し下げられている上ダイ2aの動作を停止した(工程(4))。
【0050】
次に、図2(c)に示すように、樹脂溶融体30を筒状金型4と把持部材7とで挟持した状態で、プランジャ3を0.2mm/秒の速度で下降させつつ、筒状金型4および把持部材7を15mm/秒の速度で上昇させた(工程(5))。それと同時に把持部材7の注入口8から、把持部材7の内壁と樹脂溶融体30と環状ダイ2とで仕切られた内部空間50に、圧縮空気を注入した(工程(6))。これにより、吐出口2cから筒状金型4の内壁に向けて樹脂溶融体30を連続的に吐出して、筒状金型4の内壁に樹脂溶融体30の筒状の層1を形成して密着させた。このとき、筒状金型4は樹脂組成物30の融点以下である200℃に温度調節されていたため、樹脂溶融体30からなる筒状の層1は筒状金型4の内壁に形成された際に徐々に熱を奪われて固化した(工程(7))。
【0051】
このようにして形成された筒状の層1の高さが約400mmに到達したら、プランジャ3の下降を停止して樹脂溶融体30の吐出を停止した。そして、筒状金型4および把持部材7をさらに上昇させて、吐出口2cの部分で樹脂溶融体30を切断し、筒状の層1と、それにつながっている樹脂溶融体30とを分離した。次いで、圧縮空気の注入を止め、把持部材7を筒状金型4から離れさせてから、筒状金型4の内壁に形成された樹脂組成物からなる成形品(筒状体)を取り出した。最後に、取り出した筒状体の両端を切断してシームレスベルトを得た。
【0052】
このような方法によって製造されたシームレスベルトは、2本の平行なローラに掛け回して張力をかけても歪みが生じず、肉厚100μmの安定した形状を有していた。また、流路2d内に分岐点および合流点がないためウェルドラインが発生せず、シームレスベルトの全面において均一な強度を示した。体積抵抗率と関しても、シームレスベルトの全面に斑がなく成形できた。さらに、筒状金型4をガラス転移点以上かつ融点以下の温度に予め制御していたため、結晶化度が20%以上であって、引張り強度が高く、表面硬度の高いシームレスベルトが得られた。
【0053】
(実施例2)
本実施例では、筒状金型4の温度を120℃に制御し、その他の工程は実施例1と同様にして電子写真画像形成装置用のシームレスベルトを製造した。
【0054】
本実施例によって製造されたシームレスベルトは、2本の平行なローラに掛け回して張力をかけても歪みが生じず、肉厚100μmの安定した形状を有していた。また、流路2d内に分岐点および合流点がないためウェルドラインが発生せず、シームレスベルトの全面において均一な強度を示した。体積抵抗率に関しても、シームレスベルトの全面に斑がなく成形できた。さらに、筒状金型4をガラス転移点以下の温度に予め制御していたため、結晶化度が10%以下であって、弾性が高く、屈曲耐久性に優れたシームレスベルトが得られた。
【符号の説明】
【0055】
1 筒状の層
2 環状ダイ
2c 吐出口
2d 流路
3 プランジャ
4 筒状金型(第1の円筒)
7 把持部材(第2の円筒)
20 間隙
30 樹脂溶融体
50 内部空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の円筒と、該第1の円筒と同一の内径を有し、該第1の円筒と同軸の位置関係を維持しつつ該第1の円筒に対して相対的に軸方向に移動可能な第2の円筒と、該第1の円筒及び該第2の円筒と同軸の位置関係で該第1の円筒及び該第2の円筒の内側に、該第1の円筒及び該第2の円筒の少なくとも一方の内壁に近接するように配置され、該第1の円筒及び該第2の円筒に対して相対的に軸方向に移動可能であり、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物の溶融体を収容可能であって、該溶融体を放射方向外側に向かって吐出する吐出口を有する環状ダイと、該環状ダイの内部に収容された該溶融体を加圧するプランジャと、を備えている製造装置を用いて、シームレスベルトを製造する方法であって、
該第1の円筒と該第2の円筒の互いに対向する端部同士の間に間隙が生じるように、該第1の円筒と該第2の円筒とを配置する工程と、
該プランジャによる該溶融体の加圧を開始して、該吐出口から該間隙へ該溶融体を吐出する工程と、
該間隙に吐出された該溶融体を、該第1の円筒と該第2の円筒の互いに対向する端部で挟持して、該第1の円筒の内部と該第2の円筒の内部との間の気体の流通を遮断する工程と、
該溶融体を挟持した状態で該第1の円筒及び該第2の円筒を該環状ダイに対して相対的に軸方向に移動させながら、該吐出口から該第1の円筒または該第2の円筒の内壁へ該溶融体を吐出して、該溶融体からなる筒状の層を形成する工程と、
少なくとも該筒状の層と該第1の円筒または該第2の円筒の内壁とで仕切られた内部空間に気体を充填し、該気体の圧力で該筒状の層を該第1の円筒または該第2の円筒の内壁に密着させる工程と、
を含むことを特徴とする、シームレスベルトの製造方法。
【請求項2】
該気体の圧力で該筒状の層を該第1の円筒または該第2の円筒の内壁に密着させる工程の後に、該筒状の層を固化させる、請求項1に記載のシームレスベルトの製造方法。
【請求項3】
前記製造装置は、該環状ダイに設けられ該吐出口の開口幅を変化させる開口幅変化機構を備えており、
該吐出口から該間隙へ該溶融体を吐出する工程で、該プランジャによる該溶融体の加圧とともに、該開口幅変化機構による該吐出口の開口幅の縮小を開始し、
該溶融体からなる筒状の層を形成する工程の前に、該開口幅変化機構による該吐出口の開口幅の縮小を停止する工程を含む、
請求項1または2に記載のシームレスベルトの製造方法。
【請求項4】
該溶融体からなる筒状の層を形成する工程では、該溶融体を挟持した状態で該第1の円筒及び該第2の円筒を該環状ダイに対して相対的に軸方向に上昇させながら、該吐出口から該第1の円筒または該第2の円筒の内壁へ該溶融体を吐出することによって、該第1の円筒または該第2の円筒の内壁の上部から下部へ該溶融体を塗布して該筒状の層を形成する、請求項1から3のいずれか1項に記載のシームレスベルトの製造方法。
【請求項5】
第1の円筒と、
該第1の円筒と同一の内径を有し、該第1の円筒と同軸の位置関係を維持しつつ該第1の円筒に対して相対的に軸方向に移動可能な第2の円筒と、
該第1の円筒及び該第2の円筒と同軸の位置関係で該第1の円筒及び該第2の円筒の内側に、該第1の円筒及び該第2の円筒の少なくとも一方の内壁に近接するように配置され、該第1の円筒及び該第2の円筒に対して相対的に軸方向に移動可能であり、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物の溶融体を収容可能であって、該溶融体を放射方向外側に向かって吐出する吐出口を有する環状ダイと、
該環状ダイの内部に収容された該溶融体を加圧するプランジャと、
を有することを特徴とする、シームレスベルトの製造装置。
【請求項6】
該環状ダイに設けられ、該吐出口の開口幅を変化させる開口幅変化機構をさらに有する、請求項5に記載のシームレスベルトの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−171321(P2012−171321A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−38270(P2011−38270)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】