説明

シームレス中間転写ベルトおよびその製法

【課題】低コストで、表面摩擦係数等のベルト物性および電気特性に優れ、クリーニング不良等の発生を抑制することができるシームレス中間転写ベルトを提供する。
【解決手段】単層構造のシームレス中間転写ベルト1であって、下記の(A)〜(D)を必須成分とするベルト形成材料を用いて形成されているとともに、シームレス中間転写ベルト1の表面の摩擦係数が、裏面の摩擦係数よりも小さくなっている。
(A)ポリエーテルスルホン樹脂。
(B)ポリアミドイミド樹脂。
(C)シリコーン、シリコーン変性化合物、フッ素化合物およびフッ素変性化合物からなる群から選ばれた少なくとも一つの化合物。
(D)導電性充填剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シームレス中間転写ベルトおよびその製法に関するものであり、詳しくはフルカラーLBP(レーザービームプリンター)やフルカラーPPC(プレーンペーパーコピア)等の電子写真技術を採用した電子写真機器に用いられる、シームレス中間転写ベルトおよびその製法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、フルカラーLBPやフルカラーPPC等の電子写真技術を採用した電子写真機器において、トナー像の転写用,紙転写搬送用,感光体基体用等の用途に、シームレスベルト(無端ベルト)が多用されている。このようなシームレスベルトとしては、例えば、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)等のフッ素系樹脂,ポリカーボネート樹脂,ポリイミド樹脂等に、導電性カーボンブラックを配合したものを、ディッピング法,押出成形法,遠心成形法等の成形方法により、筒状フィルムに形成したものが用いられている(特許文献1〜3参照)。
【特許文献1】特開2001−162691号公報
【特許文献2】特開平10−10880号公報
【特許文献3】特開2000−355432号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記フッ素系樹脂製ベルトは、電気特性には優れるものの、弾性率等のベルト物性が低く、コストが高くなるという難点がある。また、上記ポリカーボネート樹脂製ベルトは、コストが安いという利点はあるものの、通常、押出成形により形成されるため、電気抵抗のばらつきが大きく、屈曲性等のベルト物性に劣るという難点がある。また、上記ポリイミド樹脂製ベルトは、ベルト物性については特に問題はないものの、電気特性においてロット毎のばらつきが大きく、コストも高いという難点がある。
【0004】
また、上記フッ素系樹脂製ベルト,ポリカーボネート樹脂製ベルトもしくはポリイミド樹脂製ベルトを、中間転写ベルトとして用いた場合、ベルト用クリーニングブレードの鳴きやびびり等が生じ、それに基づくクリーニング不良が発生するとともに、ベルト用クリーニングブレードの先端を巻き込み、システムが停止したり、部品が破損する等の難点がある。
【0005】
そこで、クリーニング不良やベルト用クリーニングブレードの先端巻き込みを防止するために、中間転写ベルトの表面や、中間転写ベルトとベルト用クリーニングブレードとの当接部分に、滑材塗布を行うことが一般的であるが、この場合、中間転写ベルトと感光体との表面摩擦係数が近似となり、一次転写効率が悪化して、虫食い画像が発生する。また、滑材塗布の手間や、滑材を定期的に塗布する機構を設ける必要があるため、マシンコストがアップする等の難点もある。なお、感光体の表面にも滑材塗布を行う場合があるが、この場合、中間転写ベルトと感光体との表面摩擦係数が同値となり、一次転写効率がさらに悪化するという難点がある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、低コストで、表面摩擦係数等のベルト物性および電気特性に優れ、クリーニング不良等の発生を抑制することができるシームレス中間転写ベルトおよびその製法の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明は、単層構造のシームレス中間転写ベルトであって、下記の(A)〜(D)を必須成分とするベルト形成材料を用いて形成されているとともに、シームレス中間転写ベルトの表面の摩擦係数が、裏面の摩擦係数よりも小さくなっているシームレス中間転写ベルトを第1の要旨とする。また、本発明は、上記単層構造のシームレス中間転写ベルトの製法であって、下記の(A)〜(D)を必須成分とするベルト形成材料と,金型となる円筒形基体とを準備する工程と、上記円筒形基体の表面に上記ベルト形成材料をコーティングすることにより円筒形基体の表面にシームレス中間転写ベルトを形成する工程と、上記円筒形基体からシームレス中間転写ベルトを脱型する工程とを備えているシームレス中間転写ベルトの製法を第2の要旨とする。
(A)ポリエーテルスルホン樹脂。
(B)ポリアミドイミド樹脂。
(C)シリコーン、シリコーン変性化合物、フッ素化合物およびフッ素変性化合物からなる群から選ばれた少なくとも一つの化合物。
(D)導電性充填剤。
【0008】
すなわち、本発明者らは、低コストで、ベルト物性および電気特性に優れ、クリーニング不良等の発生を抑制することができるシームレス中間転写ベルトを得るため、鋭意研究を重ねた。そして、ポリエーテルスルホン樹脂とポリアミドイミド樹脂とを主成分とするベースポリマーに、シリコーン、シリコーン変性化合物、フッ素化合物およびフッ素変性化合物を単独でもしくは併せて配合してなるベルト形成材料を用いて、シームレス中間転写ベルトを形成すると、好結果が得られるのではないかと想起し、実験を重ねた。その実験の過程で、シームレス中間転写ベルトの表面(外周面)の摩擦係数を低下させることで、クリーニング性が向上するが、同時にシームレス中間転写ベルトの裏面(内周面)の摩擦係数を低下させると、架張しているロールとの間でスリップが起こり、二次的不具合が発生することを突き止めた。そこで、シームレス中間転写ベルトの摩擦係数を中心に研究を続けた結果、単層構造のシームレス中間転写ベルトにおいて、シームレス中間転写ベルトの表面の摩擦係数を、裏面の摩擦係数よりも小さくなるよう構成すると、低コストで、ベルト物性および電気特性に優れ、クリーニング不良等の発生を抑制することができることを見いだし、本発明に到達した。
【発明の効果】
【0009】
このように、本発明のシームレス中間転写ベルトは、上記(A)〜(D)を必須成分とするベルト形成材料を用いて形成されているとともに、上記シームレス中間転写ベルトの表面の摩擦係数が裏面の摩擦係数よりも小さいため、低コストで、ベルト物性および電気特性に優れ、クリーニング不良等の発生を抑制することができるという効果が得られる。
【0010】
また、上記(C)成分の配合量が、(A)成分の固形分と、(B)成分の固形分との合計量100重量部に対して、0.01〜10重量部の範囲内に設定されていると、クリーニング不良等の発生をより効果的に抑制することができるようになる。
【0011】
そして、金型(円筒形基体)の表面に、上記ベルト形成材料をコーティングすることにより、本発明のシームレス中間転写ベルトを作製すると、作製の過程で、ベルト形成材料中に存在する珪素もしくはフッ素が、金型の表面(シームレス中間転写ベルトの裏面)側から、空気面(シームレス中間転写ベルトの表面)側に移動して、シームレス中間転写ベルト自体の表面に珪素もしくはフッ素が偏在するようになると考えられる。その結果、シームレス中間転写ベルト自体の表面の摩擦係数のみが、裏面の摩擦係数よりも小さくなり、低コストで、ベルト物性および電気特性に優れ、クリーニング不良等の発生を抑制できるシームレス中間転写ベルトを、極めて容易に作製することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
つぎに、本発明の実施の形態について説明する。
【0013】
図1に示すように、本発明のシームレス中間転写ベルト1は、単層構造である。
【0014】
本発明においては、シームレス中間転写ベルト1が、下記の(A)〜(D)を必須成分とするベルト形成材料を用いて形成されているとともに、シームレス中間転写ベルト1の表面の摩擦係数が裏面の摩擦係数よりも小さいくなっているのであって、これらが最大の特徴である。
(A)ポリエーテルスルホン樹脂。
(B)ポリアミドイミド樹脂。
(C)シリコーン、シリコーン変性化合物、フッ素化合物およびフッ素変性化合物からなる群から選ばれた少なくとも一つの化合物。
(D)導電性充填剤。
【0015】
なお、本発明において、シームレス中間転写ベルト1の表面とは、シームレス中間転写ベルト1の外周面をいい、裏面とは、シームレス中間転写ベルト1の内周面をいう。
【0016】
また、必須成分とは、任意成分に対するものであって、構成上必ず含有される成分のことをいい、量的な制約は受けない。
【0017】
上記ポリエーテルスルホン(PES)樹脂(A成分)としては、芳香族環が、スルホニル基(−SO2 −)またはエーテル基(−O−)を介して結合された構造単位を繰り返し単位とするものであれば特に限定はない。上記PES樹脂(A成分)は、このような構造単位を繰り返し単位として高分子化した固形ポリマーであって、有機溶媒に可溶であり、また熱によって可塑化し、押出成形等の各種の成形法によってフィルム状に成形可能な高分子量体である。この熱による可塑化温度(軟化温度)は、重合度(n)により若干の差はあるものの、通常、200〜270℃程度の範囲内にある。
【0018】
上記PES樹脂(A成分)の構造単位としては、特に限定はないが、下記の化学式(1)〜(3)で表される構造単位が好適に用いられる。上記PES樹脂(A成分)としては、上記化学式(1)〜(3)で表される構造単位の1種を単独で繰り返し単位とするものに限定されず、上記化学式(1)〜(3)で表される構造単位の2種以上を繰り返し単位とするものであっても差し支えない。
【0019】
【化1】

【0020】
【化2】

【0021】
【化3】

【0022】
上記化学式(1)で表される構造単位を繰り返し単位とするPES樹脂(A成分)は、例えば、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホンと、4,4′−ジクロロジフェニルスルホンとの当モルを、有機極性溶媒中で混合し、通常、150〜350℃の加熱下で、縮合重合することによって合成することができる。
【0023】
また、上記化学式(2)で表される構造単位を繰り返し単位とするPES樹脂(A成分)は、4,4′−ジクロロフェニルスルホンと、1,4−ジヒドロキシフェニルとの当モルを、有機極性溶媒中で混合し、通常、150〜350℃の加熱下で、縮合重合することによって合成することができる。
【0024】
さらに、上記化学式(3)で表される構造単位を繰り返し単位とするPES樹脂(A成分)は、4,4′−ジクロロフェニルスルホンと、4,4−ジヒドロキシジフェニルとの当モルを、有機極性溶媒中で混合し、通常、150〜350℃の加熱下で、縮合重合することによって合成することができる。
【0025】
上記有機極性溶媒としては、特に限定はないが、出発原料および合成したPES樹脂(A成分)の双方を溶解可能であるものが好ましく、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)等があげられる。
【0026】
なお、上記化学式(3)で表される構造単位は、2つのフェニル基が直結されているものに限定されず、アルキレン基等を介して、2つのフェニル基が結合されていても差し支えない。
【0027】
上記PES樹脂(A成分)の数平均分子量(Mn)は、10,000〜500,000の範囲内が好ましく、特に好ましくは20,000〜400,000の範囲内である。
【0028】
つぎに、上記PES樹脂(A成分)とともに用いられるポリアミドイミド(PAI)樹脂(B成分)としては、ベンゼン環と、イミド基およびアミド基との組み合わせによる分子構造を有するものであれば特に限定はなく、分子末端等の分子構造中に、各種の反応基や官能基等を変性させたものであっても差し支えない。
【0029】
上記PAI樹脂(B成分)は、例えば、酸クロリド法またはイソシアネート法等の公知の方法によって製造されるものがあげられる。
【0030】
上記PAI樹脂(B成分)の製造に用いるジアミンまたはジイソシアネートとしては、例えば、エチレンジアミン,プロピレンジアミン,ヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミンおよびこれらのジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジアミン,1,3−シクロヘキサンジアミン,イソホロンジアミン,4,4′−ジシクロヘキシルメタンジアミン等の脂環族ジアミンおよびこれらのジイソシアネート、m−フェニレンジアミン,p−フェニレンジアミン,4,4′−ジアミノジフェニルメタン,4,4−ジアミノジフェニルエーテル,4,4′−ジアミノジフェニルスルホン,ベンジジン,o−トリジン,2,4−トリレンジアミン,2,6−トリレンジアミン,キシリレンジアミン等の芳香族ジアミンおよびこれらのジイソシアネートがあげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらのなかでも、耐熱性、機械的特性,溶解性等の点から、4,4′−ジアミノジフェニルメタンおよびそのジイソシアネート、2,4−トリレンジアミンおよびそのジイソシアネート、o−トリジンおよびそのジイソシアネート、イソホロンジアミンおよびそのジイソシアネートが好適に用いられる。
【0031】
また、上記PAI樹脂(B成分)の製造に用いる酸成分としては、例えば、トリメリット酸およびその無水物または酸塩化物の他、ベンゼン−1,2,4,5−テトラカルボン酸(ピロメリット酸),ビフェニルテトラカルボン酸,ビフェニルスルホンテトラカルボン酸,ベンゾフェノンテトラカルボン酸,ビフェニルエーテルテトラカルボン酸,エチレングリコールビストリメリテート,プロピレングリコールビストリメリテート等のテトラカルボン酸およびこれらの無水物、シュウ酸,アジピン酸,マロン酸,セバチン酸,アゼライン酸,ドデカンジカルボン酸,ジカルボキシポリブタジエン,ジカルボキシポリ(アクリロニトリル−ブタジエン),ジカルボキシポリ(スチレン−ブタジエン)等の脂肪族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸,1,3−シクロヘキサンジカルボン酸,4,4′−ジシクロヘキシルメタンジカルボン酸,ダイマー酸等の脂環族ジカルボン酸、テレフタル酸,イソフタル酸,ジフェニルスルホンジカルボン酸,ジフェニルエーテルジカルボン酸,ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらのなかでも、反応性、耐熱性、溶解性等の点から、トリメリット無水物が好適に用いられる。
【0032】
上記PAI樹脂(B成分)は、DMF、DMAC、NMP、γ−ブチロラクトン等の極性溶剤中、60〜200℃に加熱しながら撹拌することで容易に製造することができる。
【0033】
上記PES樹脂(A成分)と、PAI樹脂(B成分)との混合比は、重量比で、A成分/B成分=99/1〜1/99の範囲内が好ましく、特に好ましくはA成分/B成分=90/10〜10/90の範囲内である。すなわち、A成分とB成分との混合比は、この範囲内で要求特性に応じて最適な比率に設定され、例えば、小径ローラを配置したり、曲がり角が大きいベルトユニットに用いる場合には、カール癖特性が良くなるように、A成分の割合が高くなるうような比率に設定され、一方、耐久性が重視される場合には、靱性に富み、高引き裂き力が得られるように、B成分の割合が高くなるような比率に設定される。
【0034】
上記PAI樹脂(B成分)は、数平均分子量(Mn)が5,000〜100,000の範囲内が好ましく、特に好ましくはMnが10,000〜50,000の範囲内である。すなわち、PAI樹脂(B成分)のMnが5,000未満であると、引き裂き強度が低くなり、耐久性が悪化し、逆にPAI樹脂(B成分)のMnが100,000を超えると、溶液粘度が高くなり加工性が悪化する傾向がみられるからである。なお、数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)法により測定することができる。
【0035】
本発明においては、上記PES樹脂(A成分)およびPAI樹脂(B成分)とともに、シリコーン、シリコーン変性化合物、フッ素化合物およびフッ素変性化合物からなる群から選ばれた少なくとも一つの化合物(C成分)が用いられる。これらシリコーン等のC成分は、ベルトが搭載される複写機やプリンタ等のシステムや、トナーの種類に応じて、適宜用いられる。
【0036】
上記シリコーンとしては、特に限定はなく、例えば、ジメチルシリコーン、メチルフェニルシリコーン、メチル水素シリコーン、アルキル変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、カルボキシル変性シリコーン、アルコール変性シリコーン等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0037】
また、上記シリコーン変性化合物としては、特に限定はなく、例えば、シリコーン変性ポリアミドイミド(PAI)樹脂、シリコーン変性アクリル、シリコーン変性アミノアルキド、シリコーン変性ウレタン、シリコーン変性ポリエステル等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。なお、上記シリコーン変性PAI樹脂は、エステルを共重合させたシリコーン変性エステル共重合PAI樹脂等であっても差し支えない。
【0038】
なお、上記シリコーン変性化合物中のシリコーン変性量は、5〜100重量%の範囲内が好ましく、特に好ましくは10〜50重量%の範囲内である。
【0039】
上記フッ素化合物としては、特に限定はなく、例えば、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリビニルクロライド(PVF)、ポリビニリデンクロライド(PVDF)等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0040】
また、上記フッ素変性化合物としては、特に限定はなく、例えば、フッ素変性アクリル、フッ素変性ウレタン、フッ素変性エステル等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0041】
なお、上記フッ素変性化合物中のフッ素変性量は、5〜100重量%の範囲内が好ましく、特に好ましくは10〜50重量%の範囲内である。
【0042】
上記シリコーン等のC成分の配合量は、A成分の固形分とB成分の固形分との合計100重量部(以下「部」と略す)に対して、0.01〜10部の範囲内が好ましく、特に好ましくは0.05〜5部の範囲内である。すなわち、上記C成分の配合量が0.01部未満であると、表面摩擦係数を下げる効果が小さくなる傾向がみられ、逆にC成分の配合量が10部を超えると、表面摩擦係数とともに裏面摩擦係数も低下し、実使用のベルト駆動時にスリップが発生する傾向がみられるからである。
【0043】
つぎに、上記A〜C成分とともに用いられる導電性充填剤(D成分)としては、特に限定はないが、例えば、カーボンブラック,グラファイト等の導電性粉末、アルミニウム粉末,ステンレス粉末等の金属粉末、導電性酸化亜鉛(c−ZnO),導電性酸化チタン(c−TiO2 ),導電性酸化鉄(c−Fe3 4 ),導電性酸化錫(c−SnO2 )等の導電性金属酸化物、第四級アンモニウム塩,リン酸エステル,スルホン酸塩,脂肪族多価アルコール,脂肪族アルコールサルフェート塩のようなイオン性導電剤等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0044】
なお、上記ベルト形成材料には、上記A〜D成分とともに、DMF,DMAC,トルエン,アセトン,NMP等の有機溶剤や、炭酸カルシウム等の通常の充填剤を、必要に応じて含有させることも可能である。
【0045】
上記ベルト形成材料は、例えば、前記PES樹脂(A成分)と、PAI樹脂(B成分)と、シリコーン等のC成分と、導電性充填剤(D成分)と、有機溶剤と、充填剤とを必要に応じて適宜に配合し、撹拌羽根で混合した後、リングミル,ボールミル,サンドミル等を用いて分散させることにより調製することができる。
【0046】
ここで、前記図1に示した、本発明のシームレス中間転写ベルト1は、例えばつぎのようにして作製することができる。すなわち、前記と同様にして、ベルト形成材料を調製し、これを金型(円筒形基体)の表面にディスペンサーコート法等によりコーティングし乾燥した後、これを150〜300℃で3〜6時間乾燥することにより、金型の表面にベルトを形成する。つぎに、ベルトと円筒形基体との間にエアーを吹き付けることにより、円筒形基体を抜き取り、単層構造のシームレス中間転写ベルト1を作製することができる。
【0047】
このようにして得られる本発明のシームレス中間転写ベルト1は、表面(外周面)の摩擦係数が、裏面(内周面)の摩擦係数よりも小さくなるよう形成されている。すなわち、表面の摩擦係数が、裏面の摩擦係数と同じであるか、それ以上であると、シームレス中間転写ベルト1と駆動ローラとの間にスリップが発生し、色ずれ(カラー画像の各色重ね時)や画像歪等の画像不具合が発生するからである。
【0048】
上記シームレス中間転写ベルト1の表面の摩擦係数(内面摩擦係数)および裏面の摩擦係数(裏面摩擦係数)は、例えば、ポータブル摩擦係数測定機(ヘイドン社製、STATIC FRICTION TESTER μs Type 94i)を用いてそれぞれ測定することができる。
【0049】
上記表面摩擦係数は、0.1〜1.0の範囲内が好ましく、特に好ましくは0.2〜0.4の範囲内である。すなわち、シームレス中間転写ベルト1の表面摩擦係数が上記範囲内であると、通常、感光体の表面摩擦係数よりも大きく、かつ、紙の表面摩擦係数よりも小さくなるため、トナー転写効率の最適化を図ることができるからである。また、上記裏面摩擦係数は、0.2〜1.2の範囲内が好ましく、特に好ましくは0.3〜0.8の範囲内である。すなわち、裏面摩擦係数が0.2未満であると、駆動時のベルトと駆動ローラ間のスリップが発生し、色ずれ(カラー画像の各色重ね時)、画像歪等の画像不具合が発生するおそれがあり、逆に1.2を超えると、駆動ローラまたはベルト表面の摩擦が増加する傾向がみられるからである。ただし、本発明においては、前述のように、表面摩擦係数が、裏面摩擦係数よりも小さくなければならない。
【0050】
本発明のシームレス中間転写ベルト1の厚みは、通常、30〜300μmの範囲内であり、好ましくは50〜200μmの範囲内である。また、本発明のシームレス中間転写ベルト1は、内周長が90〜1500mmで、幅が100〜500mm程度のものが好ましい。すなわち、上記寸法の範囲内に設定すると、電子写真複写機等に組み込んで使用するのに適した大きさとなるからである。
【0051】
本発明のシームレス中間転写ベルト1は、フルカラーLBPやフルカラーPPC等の電子写真技術を採用した電子写真機器に好適に用いられるが、これに限定するものではなく、例えば、フルカラーではない、単色の電子写真複写機にも用いることも可能である。
【0052】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。
【0053】
まず、実施例および比較例に先立ち、下記に示す材料を準備した。
【0054】
〔PES樹脂〕
前記化学式(1)で表される構造単位を繰り返し単位とするPES粉末。
【0055】
〔PAI樹脂〕
Solvay Advanced Polymers社製、トーロンAI−10
【0056】
〔シリコーン〕
東レ・ダウコーニング・シリコーン社製、SH−200
【0057】
〔PVDF樹脂〕
ダイキン工業社製、VT−100
【0058】
〔シリコーン変性ポリイミド(PI)樹脂〕
信越化学工業社製、X−22−8904
【0059】
〔フッ素変性エステル樹脂〕
住友スリーエム社製、フロラードFC−4430
【0060】
〔カーボンブラック〕
昭和キャボット社製、ショウブラックN220
【実施例】
【0061】
〔実施例1〜12、比較例1〕
(ベルト形成材料の調製)
後記の表1〜表3に示す各成分を、同表に示す割合で配合して撹拌羽根で混合し、ボールミル分散させた後、再度NMP溶剤を追加して、ベルト形成材料を調製した。
【0062】
(シームレスベルトの作製)
金型(円筒形基体)を準備し、この表面に上記ベルト形成材料を、ディスペンサーコート法にてコーティングした後、250℃で2時間加熱処理して、金型の表面にシームレスベルトを形成した。つぎに、このシームレスベルトと円筒形基体との間にエアーを吹き付けることにより、円筒形基体を抜き取り、単層構造のシームレスベルト(厚み:80μm)を作製した。
【0063】
〔比較例2〕
(ベルト形成材料の調製)
PVDF樹脂(ダイキン工業社製、VT−100)100部と、カーボンブラック(昭和キャボット社製、ショウブラックN220)10部と、NMP溶剤500部とを配合して撹拌羽根で混合し、リングミルを用いて分散させた後、再度NMP溶剤を追加してベルト形成材料を調製した。
【0064】
(シームレスベルトの作製)
上記ベルト形成材料を用いる以外は、実施例1と同様にして、シームレスベルトを作製した。
【0065】
〔比較例3〕
(ベルト形成材料の調製)
ポリカーボネート樹脂(住友ダウ社製、301V−4)100部と、カーボンブラック(昭和キャボット社製、ショウブラックN220)10部とを配合し、ロールを用いて混練して、ベルト形成材料を調製した。
【0066】
(シームレスベルトの作製)
上記ベルト形成材料を押出成形し、厚み150μmの筒状の単層構造のシームレスベルトを作製した。
【0067】
〔比較例4〕
(ベルト形成材料の調製)
ポリイミド樹脂(ユニチカ社製、Vイミド・タイプC)100部と、カーボンブラック(昭和キャボット社製、ショウブラックN220)10部と、NMP溶剤500部とを配合して撹拌羽根で混合し、リングミルを用いて分散させた後、再度NMP溶剤を追加してベルト形成材料を調製した。
【0068】
(シームレスベルトの作製)
上記ベルト形成材料を用いる以外は、実施例1と同様にして、シームレスベルトを作製した。
【0069】
このようにして得られた実施例および比較例のシームレスベルトを用い、下記の基準に従って各特性の評価を行った。これらの結果を後記の表1〜表3に併せて示した。
【0070】
〔摩擦係数〕
各シームレスベルトの表面の摩擦係数(表面摩擦係数)および裏面の摩擦係数(裏面摩擦係数)を、ポータブル摩擦係数測定機(ヘイドン社製、STATIC FRICTION TESTER μs Type 94i)を用いてそれぞれ測定した。
【0071】
〔クリーニングブレード摺動性〕
各シームレスベルトを複写機に装着して、クリーニングブレードの摺動性を評価した。評価は、ベルト駆動時のクリーニングブレードのめくれや、びびりがいずれもないものを○、クリーニングブレードのめくれはないが、びびりがあるものを△、クリーニングブレードのめくれがあるものを×とした。
【0072】
〔クリーニング性〕
各シームレスベルトを複写機に装着して、1000枚の画出し評価を行い、クリーニング性を目視で評価した。評価は、クリーニング不良のないものを○、ベルトは回転するが、クリーニング不良があるものを△、クリーニングブレードがめくれ、高負荷がかかりベルトが駆動しないものを×とした。
【0073】
〔伸び率〕
各シームレスベルトを20mm×180mmの大きさに切断して、短冊状のテストピースを作製した。このテストピースの一端に、250±5gの荷重をかけて吊るし、50℃×95%RHの環境下、24時間放置した後の伸び率を計算した。
【0074】
〔開き角度〕
図2に示すように、シームレスベルトを25mm×150mmの大きさに切断して、短冊状のテストピース20を作製した。このテストピース20を、直径13mmの金属製パイプ21に巻き付けた後、テストピース20の端部どうしを重ね合わせ、ここに0.3kgのオモリ(図示せず)をかけて吊るし、50℃×95%RHの環境下、24時間放置した。ついで、オモリを外し、図3に示すように、重ね合わせたテストピース20の両端を開放した後、テストピース20の円弧状部分を中心に、これを挟む左右のテストピース20の表面を上方に延長させたと仮想し、その左右仮想延長部23で作った角度θを、開き角度θとして測定した。この開き角度θが180°に近い方が、曲がり癖(カール癖)が少ないことを示しており、開き角度θが90°以上であれば画像に影響しない。
【0075】
〔電気抵抗の均一性〕
周方向に等分したシームレスベルトの内周側8箇所の体積電気抵抗率を、JIS K6911に準じて測定し、その最大値と最小値のばらつきを桁で表示した。印加電圧は10Vであった。評価は、ばらつきが0.5桁以下のものを○、ばらつきが0.5桁を超えて1桁以下のものを△とした。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】

【0078】
【表3】

【0079】
上記結果から、いずれの実施例品も、表面摩擦係数が裏面摩擦係数よりも小さいため、クリーニングブレード摺動性およびクリーニング性に優れるとともに、伸びが小さく、開き角度が大きく、電気特性に優れていた。
【0080】
これに対して、比較例1品は、シリコーンを配合していないため、クリーニングブレード摺動性やクリーニング性がやや劣っていた。比較例2品は、伸びが大きく、開き角度が小さかった。比較例3品は、クリーニングブレード摺動性やクリーニング性がやや劣るとともに、電気特性も劣っていた。比較例4品は、クリーニングブレード摺動性やクリーニング性が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明のシームレス中間転写ベルトは、フルカラーLBPやフルカラーPPC等の電子写真技術を採用した電子写真機器に好適に用いられるが、これに限定するものではなく、例えば、フルカラーではない、単色の電子写真複写機にも用いることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明のシームレス中間転写ベルトの一例を示す部分断面図である。
【図2】シームレス中間転写ベルトの開き角度の測定方法を示す説明図である。
【図3】測定する開き角度を示す説明図である。
【符号の説明】
【0083】
1 シームレス中間転写ベルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単層構造のシームレス中間転写ベルトであって、下記の(A)〜(D)を必須成分とするベルト形成材料を用いて形成されているとともに、シームレス中間転写ベルトの表面の摩擦係数が、裏面の摩擦係数よりも小さくなっていることを特徴とするシームレス中間転写ベルト。
(A)ポリエーテルスルホン樹脂。
(B)ポリアミドイミド樹脂。
(C)シリコーン、シリコーン変性化合物、フッ素化合物およびフッ素変性化合物からなる群から選ばれた少なくとも一つの化合物。
(D)導電性充填剤。
【請求項2】
上記(C)成分の配合量が、(A)成分の固形分と、(B)成分の固形分との合計量100重量部に対して、0.01〜10重量部の範囲内に設定されている請求項1記載のシームレス中間転写ベルト。
【請求項3】
請求項1または2記載の単層構造のシームレス中間転写ベルトの製法であって、下記の(A)〜(D)を必須成分とするベルト形成材料と,金型となる円筒形基体とを準備する工程と、上記円筒形基体の表面に上記ベルト形成材料をコーティングすることにより円筒形基体の表面にシームレス中間転写ベルトを形成する工程と、上記円筒形基体からシームレス中間転写ベルトを脱型する工程とを備えていることを特徴とするシームレス中間転写ベルトの製法。
(A)ポリエーテルスルホン樹脂。
(B)ポリアミドイミド樹脂。
(C)シリコーン、シリコーン変性化合物、フッ素化合物およびフッ素変性化合物からなる群から選ばれた少なくとも一つの化合物。
(D)導電性充填剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−58561(P2006−58561A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−239734(P2004−239734)
【出願日】平成16年8月19日(2004.8.19)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】