説明

シーム溶接性、加工性に優れた溶接缶用鋼板

【課題】 シーム溶接性、加工性、耐食性、密着性に優れた溶接缶用鋼板を提供する。
【解決手段】 質量%でC:0.0005〜0.003%、N:0.0005〜0.008%、Mn:0.01〜0.5%、Si:0.001〜0.10%、P:0.002〜0.040%、S:0.002〜0.040%の極低炭素鋼板の少なくとも片面に、C:0.05〜20%を含む0.1〜10g/m2 のFe−C合金めっき層を有し、その上層にNi、Sn、Crの1種以上をめっきする事を特徴としたシーム溶接性、加工性に優れた溶接缶用鋼板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は製缶素材として、特にシーム溶接性、加工性、耐食性、密着性に優れた溶接缶用鋼板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
主に飲料缶分野で使用されている溶接缶はワイヤーシーム抵抗溶接法により製缶されている。この溶接缶に使用される鋼板には、一般的にSnを電気めっきしたブリキ(Snめっき鋼板)が使用されている。しかし、Snは高価な金属であることから、例えば特開昭60−208494号公報(特許文献1)に開示されているように、Snのめっき量を少なくした薄Snめっき鋼板や、特開昭60−13098号公報(特許文献2)に開示されているように、Niをプレめっきした薄Snめっき鋼板に塗装またはフィルムをラミネートして実用に供されている。
【0003】
また、特開昭57−2896号公報(特許文献3)や特開昭62−297473号公報(特許文献4)に開示されているように、Snを全く使用していない溶接缶用鋼板も発明され実用に供されている。
【特許文献1】特開昭60−208494号公報
【特許文献2】特開昭60−13098号公報
【特許文献3】特開昭57−2896号公報
【特許文献4】特開昭62−297473号公報
【特許文献5】特開平4−214895号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、飲料缶分野では、PETボトルに代表されるプラスチック容器やガラス、紙、アルミを使った容器が各素材の特徴を生かし、熾烈なシェア争いを繰り広げている。これらの他素材に対抗する為、飲料缶には、缶胴部に凹凸の加工を施したエンボス缶や樽状に加工した樽缶、ネジ加工を行ってスクリュウキャップ取り付けたリシール缶が登場している。これらの加工は従来の飲料缶で施されていたネック加工やフランジ加工に比べて、複雑で厳しい加工になるため、缶材に用いる鋼板には従来以上の加工性が求められるようになった。
【0005】
鋼板の加工性を向上させるには、鋼中のCやNを非常に少なくした極低炭素鋼を用い、軟質にすることで加工性を向上させられる事が知られているが、鋼中のCやNを非常に少なくすると、溶接部が軟化し、溶接強度が確保出来ない事が知られている。従って、先述の複雑で厳しい加工を可能にし、しかも、溶接部の強度も確保できる溶接缶用鋼板が求められていた。
【0006】
上記の課題に対して、従前技術として、例えば特開平4−214895号公報「めっき性に優れた表面処理鋼板およびその製造方法」(特許文献5)に開示されているように、Fe−Cめっきを鋼板に施す事により亜鉛めっき鋼板のスポット溶接性を改善する技術について記載されている。スポット溶接では、鋼板界面を溶融させる為、1つのナゲット形成に数秒から十数秒を要し、その際に昇温、溶融した亜鉛めっき層が電極と融着し、電極が徐々に劣化するが、この技術を用いればスポット溶接時の連続打点性数を向上させる事は出来る。
【0007】
しかし、NiやSnをめっきした鋼板を、常に新鮮なワイヤーを供給しながら、連続して溶接を行なうワイヤーシーム溶接では、1つのナゲット形成が0.1秒以下で非常に早く、また、鋼板界面を溶融させずに、圧接によって接合する為、完全に鋼板界面を溶融する溶接技術に対応する該従前技術を適用しても、本件課題のNi、Sn、Crを使用した鋼板から製造される溶接缶の製法であるワイヤーシーム抵抗溶接法での溶接性の強度を確保することは出来ない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、これらの問題点に対して、極低炭素鋼の表層にFe−C合金めっきを行うことにより、極低炭素鋼の優れた加工性と溶接性を確保できる事を知見した。これは、表層のFe−Cめっき層のCが溶接することによって溶接部に取り込まれ、固溶あるいは析出強化元素として働き、極低炭素鋼であっても十分な強度を有するに至ったと考えられる。
【0009】
すなわち、本発明は、
質量%で、C:0.0005〜0.003%、N:0.0005〜0.008%、Mn:0.01〜0.5%、Si:0.001〜0.10%、P:0.002〜0.040%、S:0.002〜0.040%の極低炭素鋼板の少なくとも片面に、C:0.05〜20%を含む0.1〜10g/m2 のFe−C合金めっき層を有し、その上層にNi、Sn、Crの1種以上をめっきする事を特徴としたシーム溶接性、加工性に優れた溶接缶用鋼板を提供せんとするものである。
【発明の効果】
【0010】
以上述べたように、本発明により、後述する表1に示すような、製造された溶接缶用鋼板は、極めて優れた溶接性、加工性、耐食性、密着性を有することが明らかになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明の作用である、溶接性、耐食性、塗料及びフィルム密着性優れた溶接缶用鋼板について詳細に説明する。
本発明において使用される極低炭素鋼は、通常の鋼片製造工程から熱間圧延、酸先、冷間圧延、焼鈍等の工程を経て製造され、その材質は調質圧延で任意のテンパー(硬さ)で調整されるが、加工性を確保する為には、鋼中のC:0.0030%以下、かつ、N:0.0080%以下の極低炭素鋼を使用する必要がある。
【0012】
鋼中のCが0.0030%超える、またはNが0.0080%を超えると、固溶したC、Nの影響で硬質化する為、良好な加工性を確保することが困難になる為、鋼中のC:0.0030%以下、かつN:0.0080%以下の極低炭素鋼を使用する必要がある。C,Nは低いほうが加工性が良いが、二次精錬コストを考えて下限値を0.0005%とした。
【0013】
Mnについては過度な添加は材料を硬化させ延性が劣化するので0.5%以下とする。製鋼コストを考えて下限値を0.010%とした。また、通常の鋼板に不可避的に含有されるSi、P、S等は一般に容器用に用いられる鋼板に含有される程度に含有される。その範囲は、Si:0.001〜0.10%、P:0.002〜0.040%、S:0.002〜0.040%である。
【0014】
上記の原板にFe−C合金めっき層が付与される。Fe−Cめっき層は溶接時に溶接部の中央に位置し、溶接時の発熱によって、Fe−Cめっき層中のCが溶接部に固溶する事により溶接部の強度を増加させる効果がある。従って、Fe−C合金めっき量やめっき層中のC含有率が重要であり、Fe−C合金めっき量が0.1g/m2 以上で、溶接部が十分な強度を発揮し始める。Fe−Cめっき量が増加するほど、溶接部の強度が向上するが、Fe−C合金めっき量が10g/m2 を超えると、溶接部のC量が過多になり、溶接部の硬度が硬くなり過ぎ、ネックやフランジ加工で溶接部の割れが発生し易くなる事から、Fe−Cめっき量は10g/m2 以下にする必要がある。
【0015】
また、Fe−C合金めっき層中のC含有率が増加する程、溶接部の強度が向上し、0.05%以上で溶接部が実用上、十分な強度を発揮し始める。Fe−C合金めっき層中のC含有率が増加する程、溶接部の強度が向上するが、C含有率が20%を超えると溶接部の硬度が硬くなり過ぎ、ネックやフランジ加工で溶接部の割れが発生し易くなる事から、Fe−Cめっき層中のC含有率は20%以下にする必要がある。
【0016】
上記の鋼板に、Niめっき、Snめっき、Crめっきが行われる。NiおよびSnめっきを行う目的は、NiおよびSn金属自体が有する優れた耐食性と優れた接合性を活用して、耐食性、溶接性を確保する為である。NiおよびSnめっきの方法は特に規制するものでは無く、公知の電気めっき法を用いれば良い。また、Snめっきを行った後に、リフロー処理によりSn−Fe合金層を形成させても本発明の本質とする所は不変である。
【0017】
Crめっきを行う目的は、塗料密着性および塗装後耐食性の確保である。ここで言うCrめっきとは、金属CrとオキサイドCrの2層構造からなるクロメート皮膜、または、オキサイドCrからクロメート皮膜を示し、ブリキ製品やティンフリースチール(TFS)製品で一般に行われている表面処理の事である。Niめっき、Snめっき、Crめっきの付着量は通常行われる範囲でよく、金属としてNi:10〜1000mg/m2、Sn:1000〜10000mg/m2、Cr:3〜150mg/m2程度である。
【実施例】
【0018】
次に本発明の実施例及び比較例について述べ、その結果を表1に示す。
以下の(1)〜(4)に示す方法で試料を作製し、(A)〜(D)の各項目について性能評価を行った。
(1)試料作製方法1
真空溶解により所定のC量に調整した鋼片を熱間圧延、冷間圧延、焼鈍、調質圧延を行い、板厚0.2mm、テンパー4のめっき原板を作製した。この現板に、硫酸第一鉄とクエン酸を溶解させためっき浴中でカソード電解を行い、Fe−Cめっきを施し、引続きワット浴からNiめっき、重クロム酸溶液からからCrめっきを施した。Fe−Cめっき量やC含有率、Ni、Crめっき量は、電流密度、電解時間などのめっき条件を調整して制御した。
(2)試料作製方法2
真空溶解により所定のC量に調整した鋼片を熱間圧延、冷間圧延、焼鈍、調質圧延を行い、板厚0.22mm、テンパー4のめっき原板を作製した。この現板に、硫酸第一鉄とクエン酸を溶解させためっき浴中でカソード電解を行い、Fe−Cめっきを施し、引続きサージェント浴からCrめっきを施した。Fe−Cめっき量やC含有率、Crめっき量は、電流密度、電解時間などのめっき条件を調整して制御した。
(3)試料作製方法3
真空溶解により所定のC量に調整した鋼片を熱間圧延、冷間圧延、焼鈍、調質圧延を行い、板厚0.19mm、テンパー5のめっき原板を作製した。この現板に、塩化第一鉄とシュウ酸を溶解させためっき浴中でカソード電解を行い、Fe−Cめっきを施し、引続き硫酸鉄を添加したワット浴からNi−Fe合金めっき、フェロスタン浴からSnめっきを行いリフロー処理した後、重クロム酸溶液でCrめっきを施した。Fe−Cめっき量やC含有率、Ni、Sn、Crめっき量は、電流密度、電解時間などのめっき条件を調整して制御した。
(4)試料作製方法4
真空溶解により所定のC量に調整した鋼片を熱間圧延、冷間圧延、焼鈍、調質圧延を行い、板厚0.19mm、テンパー5のめっき原板を作製した。この現板に、塩化第一鉄とシュウ酸を溶解させためっき浴中でカソード電解を行い、Fe−Cめっきを施し、引続きフェロスタン浴からSnめっきを行いリフロー処理した後、重クロム酸溶液でCrめっきを施した。Fe−Cめっき量やC含有率、Sn、Crめっき量は、電流密度、電解時間などのめっき条件を調整して制御した。
(A)溶接試験
試験片にエポキシフェノール樹脂を塗布し、ラップ代0.5mm、加圧力45kgf、溶接ワイヤースピード80m/minの条件で、電流を変更して溶接を実施し、十分な溶接強度が得られる最小電流値と散りなどの溶接欠陥が目立ち始める最大電流値からなる適正電流範囲の広さから総合的に判断し、4段階(◎:非常に広い、○:広い、△:実用上問題なし、×:狭い)で評価した。
(B)加工性試験
溶接した缶体のフランジ加工を行い、加工後の缶体のフランジ精度や皴などの発生状況を観察し、総合的に4段階(◎:皴や座屈が無くフランジ加工性に非常に優れる、○:僅かな皴が発生するが、座屈が無くフランジ加工性に優れる、△:やや大きな皴が目立つが、座屈が無くフランジ加工が可能である、×:皴や座屈が多発しフランジ加工が出来ない)で評価した。
(C)耐食性
耐食性は、以下の条件で行ったUCC(アンダーカッティングコロージョン)評価テストで実施した。試験片に厚さ20μmのエポキシフェノール系の樹脂を塗布し、200℃、30minで焼き付けを行い、その後、地鉄に達するまでクロスカットを入れ、1.5%クエン酸−1.5%食塩混合液からなる試験液中に大気開放下55℃×4日間浸漬した。試験終了後、速やかにスクラッチ部および平面部をテープで剥離して、スクラッチ部近傍の腐食状況、スクラッチ部のピッティング状況および平面部の塗料の剥離状況を4段階(◎:剥離が無く腐食も認められない、○:実用上問題無い程度の極僅かな剥離が有るが腐食は認められない、△:僅かな剥離があり微小な腐食が認められる、×:大部分で剥離し激しい腐食が認められる)で評価した。
(D)塗料密着性
試験片に厚さ20μmのエポキシフェノール系の樹脂を塗布し、200℃、30minで焼き付けを行い、その後、1mm間隔で碁盤目上に地鉄に達するまでのクロスカットを入れ、テープ剥離を行い、樹脂の剥離状況を4段階(◎:剥離が全く認められない、○:極僅かな剥離が認められる、△:半分程度の面積で剥離が認められる、×:大部分で剥離が認められる)で評価した。
【0019】
【表1】

表1に示すように、No.1〜9は本発明例であり、No.10〜12は比較例である。比較例No.10は鋼中成分のC、N含有量が高く、Fe−C含有率が高いために、皴や座屈が多発しフランジ加工が出来ない。比較例No.11は比較例No.10と同様に、鋼中成分のC、N含有量が高く、Fe−Cめっき量が高く、かつFe−Cめっき量が多いために、溶接性が劣り、加工性が悪い。比較例No.12は鋼中成分のC含有量が高く、Fe−Cめっき量が少なく、含有率が低いために加工性が悪い。これに対し、本発明例であるNo.1〜9のいずれも本発明の要件を満たしていることから、その性能である溶接性、加工性、耐食性および密着性にいずれも優れていることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%でC:0.0005〜0.003%、N:0.0005〜0.008%、Mn:0.01〜0.5%、Si:0.001〜0.10%、P:0.002〜0.040%、S:0.002〜0.040%の極低炭素鋼板の少なくとも片面に、C:0.05〜20%を含む0.1〜10g/m2 のFe−C合金めっき層を有し、その上層にNi、Sn、Crの1種以上をめっきする事を特徴としたシーム溶接性、加工性に優れた溶接缶用鋼板。



【公開番号】特開2007−284742(P2007−284742A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−112867(P2006−112867)
【出願日】平成18年4月17日(2006.4.17)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】