説明

シーム溶接装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は例えば、鉄鋼プロセスラインで前後するストリップの端部を僅かに重ね合わせ、回転する一対の円板電極により加圧通電し、重ね合わせた部分を押しつぶしながら抵抗発熱により溶接するシーム溶接装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来の技術に属するシーム溶接装置についてまず、その概要を説明する。図5はすでに周知のシーム溶接装置の概要を示す斜視図、図6は図5のシーム溶接装置のキャリッジを示す斜視図、図7はマッシュシーム溶接の状況を示す斜視図である。シーム溶接装置は鉄鋼のプロセスラインで連続処理するために先行ストリップ1と後行ストリップ2を溶接するものであり、図5では溶接に要する時間を短縮するため、後行ストリップ2の上方に次の後行ストリップ2aを待機させている。コモンベース3の上に先行ストリップ1を固定する出側クランプ4と後行ストリップ2を固定する入側クランプ5を装着しており、詳細な図示は省略しているが、出側クランプ4はコモンベース3に対し傾動可能であり、入側クランプ5はコモンベース3の上を出側クランプ4に対し前進後退可動になっている。出側クランプ4と入側クランプ5の間にはキャリッジ6を配置し、これには先行ストリップ1と後行ストリップ2の重ね合わせた部分に回転しながら加圧通電する一対の円板電極8、先行ストリップ1の後端と後行ストリップ2の先端を同時に切断するダブルカットのギロチンシャー9、円板電極8と溶接変圧器10とを接続する二次導体7などを取り付ける。このキャリッジ6はコモンベース3の上に固定したガイドレール(図5〜7には図示せず)に沿って駆動機構11により移動する。先行ストリップ1の後端と後行ストリップ2の先端をギロチンシャー9で切断したのち、出側クランプ4を傾動させ、入側クランプ5を前進させて先行ストリップ1の後端部と後行ストリップ2の先端部を僅かに重ね合わせ、一対の円板電極8で加圧通電してキャリッジ6の移動により重ね合わせた部分を押しつぶしながら抵抗発熱により溶接する。
【0003】次に、このシーム溶接装置の構成の詳細と動作について説明する。図8と図9はシーム溶接装置の構成を示す正面図と側面図である。図8において、コモンベース3の上に出側クランプ4と入側クランプ5を装着し、これらの間をキャリッジ6がコモンベース3に固定したガイドレール12に沿って駆動機構11で駆動されて移動する。コモンベース3の上に架台30を載置し、この架台30にガイドレール31を固定する。ガイドレール31の上にはベース33が載っており、シリンダ32で駆動されて図8の紙面に垂直方向に移動する。これは出側クランプ4で固定した先行ストリップ1に入側クランプ5で固定した後行ストリップを幅合わせするためである。ベース33にはガイドレール37とストッパ34を取り付け、ガイドレール37の上に移動ベース38を載せてシリンダ36で駆動されて図8の左右方向に移動、すなわち、前進後退する。後退は移動ベース38に取り付けたストッパ35がストッパ34に当たって停止し、前進もストッパ(図示せず)に当たって停止する。前進の停止する位置が溶接位置である。移動ベース38には下クランプ39を固定すると共にガイドロッド42の下端部を固定し、このガイドロッド42には上クランプ40を取り付けたガイドブッシュ41を嵌合させる。ガイドロッド42の上端部はビーム43に固定する。ビーム43にはシリンダ44を取り付け、このシリンダ44と上クランプ20を操作ロッド(図示せず)で連結する。シリンダ44を作動させると上クランプ40はガイドロッド42に案内されて昇降する。また、図8と図9において、コモンベース3の上に架台13を載置し、この架台13にクランプベース18をピン14で回動自在に取り付ける。クランプベース18には下クランプ19を固定すると共にガイドロッド22の下端部を固定し、このガイドロッド22には上クランプ20を取り付けたガイドブッシュ21を嵌合させる。ガイドロッド22の上端部はビーム23に固定する。ビーム23にはシリンダ24を取り付け、このシリンダ24と上クランプ20を操作ロッド29で連結する。シリンダ24を作動させると上クランプ20はガイドロッド22に案内されて昇降する。また、クランプベース18の下部と傾動シリンダ26をピン25で連節し、傾動シリンダ26をコモンベース3に回動自在に取り付ける。傾動シリンダ26を作動させると、クランプベース18はピン14の回りを反時計方向に傾動する。クランプベース18を再び復帰させると、クランプベース18に取り付けたストッパ27が架台13に取り付けたストッパ28に当り、下クランプ19は水平状態になる。なお、下クランプ39と上クランプ40を総称して入側クランプ5とし、下クランプ19と上クランプ20を総称して出側クランプ4とする(図5、図7参照)。
【0004】図10はマッシュシーム溶接の過程を示す説明図であり、先行ストリップ1の後端と後行ストリップ2の先端をギロチンシャー9の両刃の中央部に停止させ、出側クランプ5と入側クランプ4でそれぞれ先行ストリップ1、後行ストリップ2を固定したのち、ギロチンシャー9で先行ストリップ1と後行ストリップ2を同時に切断する(図10(A)参照)。次いで、先行ストリップ1を固定した出側クランプ5を傾動させ、後行ストリップ2を固定した入側クランプ4を先行ストリップ1の後端部に後行ストリップ2の先端部が僅かに重なるまで前進させる(図10(B)参照)。先行ストリップ1と後行ストリップ2の重ね合わせた部分に一対の円板電極8で加圧通電した状態でキャリッジ6を移動させ、重ね合わせた部分を押しつぶしながら抵抗発熱により溶接する(図10(C)参照)。溶接が完了すると出側クランプ5、入側クランプ4の固定を解き、溶接された先行ストリップ1、後行ストリップ2を通板させて次の処理装置に送る。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】従来のシーム溶接装置は以上のように構成され、切断した先行ストリップ1の後端部と後行ストリップ2の先端部を互いに平行にして板厚の100 〜200 %だけ重ね合わせ、一対の円板電極8で加圧通電してその重ね合わせた部分を押しつぶしながら溶接するので、出側クランプ5と入側クランプ4に押し広げる力が作用し、溶接終了端に近づくに従って重ね合わせた部分の幅が小さくなって溶接不良を生じるという解決すべき技術的課題があった。この課題を解決するには入側クランプ5と出側クランプ4の機械的剛性を高める方法が考えられるが、入側クランプ5はその固定する後行ストリップ2の先端部を出側クランプ4の固定する先行ストリップ1の後端部に重ね合わせる部分の幅を決める機能を備え、また出側クランプ4はその固定する先行ストリップ1の後端部を入側クランプ5の固定する後行ストリップ2の先端部に重ね合わせるため傾動する機能を備えており、かつまた、限られたスペースでは実現は困難と考えられる。また、別の方法として特公昭47-19322号公報に開示されたものがある。この方法は切断した先行ストリップの後端面と後行ストリップの先端面とが互に平行でその間隔が先行ストリップ、後行ストリップの幅員に亘って同一であると溶接の開始で溶接入熱により歪を生じて未溶接部分の間隔が広がるので、その間隔を先行ストリップ、後行ストリップの幅員に亘って傾斜させようとするものであり、先行ストリップの後端、後行ストリップの先端、あるいはその双方を斜めに切断して溶接するのであるが、この装置の構造はかなり複雑である。
【0006】この発明は以上のような事情を考慮し、その課題を解決するためになされたもので、先行ストリップの後端部に後行ストリップの先端部を重ね合わせる部分の幅を溶接開始端より溶接終了端へ溶接による広がりを補正して大きくする機能を備えた構成の簡単なシーム溶接装置を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】この発明に係るシーム溶接装置は水平に対向する出側クランプと入側クランプを前者は後者に対し傾動可能にして、また、後者は前者に対し前進後退可能にしてそれぞれコモンベースに装着すると共に、シャーと一対の円極電極とを取り付けたキャリッジを出側クランプと入側クランプの間でコモンベースの上に入側クランプの前進後退方向と直角に水平移動可能に装着し、出側クランプで固定した先行ストリップの後端と入側クランプで固定した後行ストリップの先端をシャーで切断したのち、出側クランプを傾動させ、入側クランプを前進させて先行ストリップの後端部に後行ストリップの先端部を重ね合わせ、円板電極で加圧通電してキャリッジを移動させ、重ね合わせた部分を押しつぶしながら抵抗発熱により溶接するシーム溶接装置において、先行ストリップの後端部に後行ストリップの先端部を重ね合わせる部分の幅を溶接開始端より溶接終了端へ溶接による広がりを補正して大きくする調整手段を出側クランプの側に設けたものである。
【0008】
【作用】この発明における調整手段は先行ストリップの後端部に後行ストリップの先端部を重ね合わせる部分の幅を溶接開始端より溶接終了端へ溶接による広がりを補正して大きくする。
【0009】
【実施例】
実施例1.図1と図2はこの発明の一実施例の構成を示す正面図と側面図、図3と図4は図1、図2の腰部を示す平面図と側面図である。図1〜3において、1〜3、6、8、11、12、18〜24、27、30〜44は従来のシーム溶接装置におけるものと同じである。従来のシーム溶接装置と異なるところについて説明すると、コモンベース3の上に架台50を載置し、この架台50にクランプベース18を球面軸受51で回動自在に取り付ける。球面軸受51を支持するガイドブロック52はネジ53をモータ54で回転駆動すると水平方向に移動する。この移動にともなってストッパ27も移動するので、送りネジ63をモータ64で回転駆動して送りネジ63の先端部がストッパ27に当たるように調節する。また、クランプベース18の下部と傾動シリンダ62を球面軸受61で連節し、傾動シリンダ62をコモンベース3に回動自在に取り付ける。傾動シリンダ62を作動させると、クランプベース18は球面軸受51の回りを反時計方向に傾動する。クランプベース18を再び復帰させるとストッパ27が送りネジ63の先端部に当たる。
【0010】この実施例は以上のように構成され、先行ストリップ1の後端と後行ストリップ2の先端を所定位置に停止させて出側クランプ5と入側クランプ4でそれぞれ先行ストリップ1、後行ストリップ2を固定したのち先行ストリップ1と後行ストリップ2を同時に切断する。次いで、傾動シリンダ62を作動させてクランプベース18、したがって先行ストリップ1を固定した出側クランプ4を傾動させるか、あるいは更に、後行ストリップ2を固定した入側クランプ4を前進させて先行ストリップ1の後端部に後行ストリップ2の先端部を僅かに重ね合わせてから、ネジ53をモータ54で回転駆動して片方のクランプベース18を水平方向に移動させる。これにより先行ストリップ1の後端部に後行ストリップ2の先端部を重ね合わせた部分の幅が溶接開始端より溶接終了端へかけて大きくなる。以上が調整手段に相当する。なお、クランプベース18を移動させるのに伴ってネジ63をモータ64で回転駆動して送りネジ63の先端部がストッパ27に当たるように調節する。その他の動作については従来のシーム溶接装置と同じであるので、説明を省略する。
【0011】鉄鋼プロセスラインにおいては薄板から厚板までの種々の板厚のストリップを通板させるので、シーム溶接装置は厚板に応じて電流、加圧力、溶接速度重ね合わせ部分の幅などの溶接条件を変える必要がある。従って、重ね合わせ部分の幅を溶接開始端より溶接終了端へ溶接による広がりを補正して大きくするのも板厚に応じて行なうことになる。
【0012】実施例2.実施例1では先行ストリップ1の後端と後行ストリップ2の先端を切断したのち、片方のクランプベース18を水平方向に移動させて重ね合わせ部分の幅を溶接開始端より溶接終了端へ大きくしているが、先行ストリップ1の後端と後行ストリップ2の先端を切断する前に片方のクランプベース18を水平方向に移動させておいて切断し、この切断後に出側クランプ4を入側クランプ5と平行状態にもどしても同じ効果が得られる。また、球面軸受51を支持するガイドブロック52はネジ53をモータ54で回転駆動することにより水平方向に移動するものとしているが、油圧シリンダで駆動してもよい。
【0013】
【発明の効果】この発明は以上説明したとおり、先行ストリップの後端部に後行ストリップの先端部を重ね合わせる部分の幅を溶接開始端より溶接終了端へ溶接による広がりを補正して大きくする調整手段を出側クランプの側に設けたので、構成の簡単なシーム溶接装置が得られる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の一実施例の構成を示す正面図である。
【図2】図1の実施例の構成を示す側面図である。
【図3】図1の実施例の要部を示す平面図である。
【図4】図1の実施例の要部を示す側面図である。
【図5】従来のシーム溶接装置の概要を示す斜視図である。
【図6】図5のシーム溶接装置のキャリッジを示す斜視図である。
【図7】マッシュシーム溶接の状況を示す斜視図である。
【図8】従来のシーム溶接装置の構成を示す正面図である。
【図9】図8のシーム溶接装置の構成を示す側面図である。
【図10】マッシューム溶接の過程を示す説明図である。
【符号の説明】
1 先行ストリップ
2 後行ストリップ
3 コモンベース
4 出側クランプ
5 入側クランプ
6 キャリッジ
8 円板電極
9 ギロチンシャー
12 ガイドレール
18 クランプベース
19 下クランプ
20 上クランプ
21 ガイドブッシュ
22 ガイドロッド
23 ビーム
24 シリンダ
27 ストッパ
29 操作ロッド
30 架台
31 ガイドレール
32 シリンダ
33 ベース
34 ストッパ
35 ストッパ
36 シリンダ
37 ガイドレール
38 移動ベース
39 下クランプ
40 上クランプ
41 ガイドブッシュ
42 ガイドロッド
43 ビーム
44 シリンダ
50 架台
51 球面軸受
52 ガイドブロック
53 ネジ
54 モータ
61 球面軸受
62 傾動シリンダ
63 送りネジ
64 モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 水平に対向する出側クランプと入側クランプを前者は後者に対し傾動可能にして、また、後者は前者に対し前進後退可能にしてそれぞれコモンベースに装着すると共に、シャーと一対の円板電極とを取り付けたキャリッジを上記出側クランプと上記入側クランプの間で上記コモンベースの上に入側クランプの前進後退方向と直角に水平移動可能に装着し、上記出側クランプで固定した先行ストリップの後端と上記入側クランプで固定した後行ストリップの先端を上記シャーで切断したのち、上記出側クランプを傾動させ、上記入側クランプを前進させて上記先行ストリップの後端部に上記後行ストリップの先端部を重ね合わせ、上記円板電極で加圧通電して、上記キャリッジを移動させ、重ね合わせた部分を押しつぶしながら抵抗発熱により溶接するシーム溶接装置において、上記先行ストリップの後端部に上記後行ストリップの先端部を重ね合わせる部分の幅を溶接開始端より溶接終了端へ溶接による広がりを補正して大きくする調整手段を上記出側クランプ側に設けたことを特徴とするシーム溶接装置。

【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【特許番号】第2677097号
【登録日】平成9年(1997)7月25日
【発行日】平成9年(1997)11月17日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−20914
【出願日】平成4年(1992)2月6日
【公開番号】特開平5−212549
【公開日】平成5年(1993)8月24日
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【参考文献】
【文献】特開 昭62−161485(JP,A)
【文献】実開 平1−135176(JP,U)