説明

シーラー用樹脂組成物

【課題】優れた防水性及び防湿性を維持し、難燃性に優れ、更に、貯蔵安定性、基材密着性及び上塗り適性等にバランス良く優れ、総合的な性能に優れるシーラー用樹脂組成物、及びそのような組成物を含む水性シーラーが塗布された無機質形成部材を提供する。
【解決手段】(A)水性エマルジョンと、(B)難燃剤とを有し、(B)難燃剤が、臭素化合物とアンチモン化合物の両方を含むシーラー用樹脂組成物は、優れた防水性及び防湿性を維持し、難燃性に優れ、更に、基材密着性、上塗り適性及び貯蔵安定性にバランス良く優れるので、総合的な性能に優れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シーラー用樹脂組成物及びその組成物を含む水性シーラーが塗布された無機質形成部材に関する。
【背景技術】
【0002】
建築外装材及び屋根材等には、珪カル板、セメント系押出し成形板、ALC板及び硬質木片セメント板等の無機質成形部材が用いられることが多い。無機質成形部材は、一般に多孔質であり、その表面の強度が小さく、かつ水を吸収しやすいという特徴を有する。
このような無機質形成部材の表面を何の処理することなく、そのままの状態で仕上げ材をその表面に塗工すると、表面の粉が仕上げ材と混じるために表面が美しく仕上がらないことがある。また、無機質形成部材に吸収された水が凍結及び融解を繰り返すことでブリスターが発生し、無機質形成部材の表面が膨れ、仕上げ材が無機質形成部材の表面から剥離することもある。
【0003】
従って、無機質形成部材の表面に仕上げ材を塗装する前に、「シーラー」と呼ばれる下塗り材を塗布する処理をすることが一般的である。
「シーラー」とは、例えば、無機質形成部材等の基材の表面に塗布され、その表面から基材の内部に浸透して硬化する組成物であって、基材の表面を補強するとともに、基材の表面の性質を改良して、後に塗工される仕上げ材の基材に対する密着性(基材密着性)等の性能を向上させ、基材の外観等も向上させる組成物をいう。
【0004】
シーラーを基材の表面に塗布した後、通常、基材の表面に「中塗り材」を塗布し、さらに「上塗り材」(上述の「仕上げ材」とは、一般に「中塗り材」及び/又は「上塗り材」をいう)を塗布して基材の表面の仕上げを完了する。
このように、一般的に「シーラー」とは、基材の内部に浸透して硬化する組成物であるから、基材に塗布されてその表面で硬化する「中塗り材」、「上塗り材」等とは、全く機能が異なる。シーラーを用いて基材の表面の性質を改良することで、結果として仕上げ材の性能を向上することができるので、シーラーについても種々の検討が行われている。
【0005】
特許文献1及び2のシーラー用樹脂組成物は、無機質形成部材の吸水性を考慮し、防水性、防湿性が改良されている。特許文献1は(メタ)アクリル酸エステル系エマルジョンにワックス系エマルジョンが配合されたシーラー用樹脂組成物を開示する(特許文献1特許請求の範囲、[0059]及び実施例等参照)。
特許文献2は、長鎖(メタ)アクリル酸エステル、短鎖(メタ)アクリル酸エステルの乳化重合で得られたエマルジョンを主成分とするシーラー用樹脂組成物を開示する。この樹脂組成物は、防水性、防湿性および基材密着性にも優れ、上塗り剤(トップコート)のハジキが生じないことも開示する(特許文献2特許請求の範囲、[0064]参照)。
このように、特許文献1及び2のシーラーは、共に、防水性、防湿性に優れ、無機質形成部材用途に適する。しかし、年々、建築材料の評価基準が厳しくなり、無機質形成部材用シーラーにも、防水性、防湿性以外の様々な性能が要求されている。
【0006】
建築材料の評価基準の一つとして、難燃性が挙げられる。従来、建材の難燃性を向上させる手段としては、難燃性に優れたトップコートを建材表面に塗布することが一般的であった。特許文献3〜5は、難燃剤を含んだ塗料を開示する。
特許文献3第5頁に記載の表には、難燃剤として、臭素化合物及びアンチモン化合物が記載されている。特許文献4は、難燃剤として臭素化ポリスチレン、又は難燃性相乗作用剤としてジグミルパーオキサイド又はビスクミルを含むエマルジョン組成物を開示する(特許文献4第5頁の表1参照)。特許文献5は、リン系/窒素系の難燃剤を有する防火塗料を開示する(特許文献5請求項1及び[0071]参照)。しかし、これら文献に記載された塗料は、防湿性、防水性が充分に優れているとは言えない。
【0007】
特許文献3の防火塗料は、その第3頁左下欄第18行〜同頁右下欄第1行に記載されているように、建材等に塗布された後、自然乾燥して防火塗膜を建材表面に形成する塗料である。従って、同文献の塗料は、トップコートであり、シーラーとしては好適とは言えない。
特許文献4には防湿性に関する記載がなく、特許文献5に開示されたリン系/窒素系の難燃剤では、充分な防湿性、難燃性を塗料に付与することは難しい。
塗料業界では、シーラーには、ますます高い性能が求められる。防湿性や難燃性が優れることに加え、貯蔵安定性、基材密着性及び上塗り適性にバランス良く優れ、総合的な性能に優れることが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004-189839号公報
【特許文献2】特開2007-254632号公報
【特許文献3】特開平3-244674号公報
【特許文献4】特開平4-036359号公報
【特許文献5】特開2006-057091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような事情を鑑みなされたもので、優れた防水性及び防湿性を維持し、難燃性に優れ、更に、貯蔵安定性、基材密着性及び上塗り適性等にバランス良く優れ、総合的な性能に優れるシーラー用樹脂組成物、及びそのような組成物を含む水性シーラーが塗布された無機質形成部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は鋭意研究を重ねた結果、水分散樹脂組成物に特定の難燃剤を含ませると、防水性、防湿性及び難燃性が向上し、更に、基材密着性、上塗り適性及び貯蔵安定性にバランス良く優れ、総合的な性能が優れる樹脂組成物が得られ、無機質形成部材に塗布するシーラー用樹脂組成物として好適な組成物が得られることを見出し、本発明を完成させるに至ったものである。
【0011】
即ち、本発明は一の要旨において、
(A)水性エマルジョンと、(B)難燃剤とを有し、
(B)難燃剤が臭素化合物およびアンチモン化合物の両方を含むシーラー用樹脂組成物を提供する。
本発明は、一の態様において、臭素化合物はデカブロモジフェニルエーテルを含み、アンチモン化合物は三酸化アンチモンを含む上述のシーラー用樹脂組成物を提供する。
【0012】
本発明は、好ましい態様として、(A)水性エマルジョンが(a)重合性不飽和単量体を重合して得られ、(a)重合性不飽和単量体が(a1)スチレン系単量体を含むシーラー用樹脂組成物を提供する。
(a)重合性不飽和単量体は、更に、(a2)アルコキシシリル基及びエチレン性二重結合を有する単量体を含むことが好ましい。
(a)重合性不飽和単量体は、更に、(a3)その他単量体を含むことがより好ましい。
【0013】
本発明は、別の好ましい態様として、(A)水性エマルジョンが、ワックス系エマルジョンを含むシーラー用樹脂組成物を提供する。
本発明は、最も好ましい態様として、無機質形成部材用の水性シーラーに用いられるシーラー用樹脂組成物を提供する。
本発明は第二の要旨において、上述のシーラー用樹脂組成物を含む水性シーラーが塗布された無機質形成部材を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るシーラー用樹脂組成物は、(A)水性エマルジョンと、(B)難燃剤を含み、(B)難燃剤が臭素化合物およびアンチモン化合物の両方を含むので、優れた防水性及び防湿性を維持し、難燃性に優れ、更に、基材密着性、上塗り適性及び貯蔵安定性にバランス良く優れるので、総合的な性能に優れる。
本発明に係るシーラー用樹脂組成物は、臭素化合物がデカブロモジフェニルエーテルを含み、アンチモン化合物が三酸化アンチモンを含む場合、難燃性がよりいっそう向上する。
【0015】
本発明に係るシーラー用樹脂組成物は、(A)水性エマルジョンが(a)重合性不飽和単量体を重合して得られ、(a)重合性不飽和単量体が(a1)スチレン系単量体を含むことで、更に、防水性、防湿性が向上し、シーラー用途により好ましい。
本発明に係るシーラー用樹脂組成物は、(a)重合性不飽和単量体が、更に、(a2)アルコキシシリル基及びエチレン性二重結合を有する単量体を含むことで、更に、基材密着性が向上する。
【0016】
本発明に係るシーラー用樹脂組成物は、(a)重合性不飽和単量体が、更に、(a3)その他単量体を含むことで、防水性および防湿性がさらに向上したり、ガラス転移温度(Tg)を制御しやすくなり、基材密着性が向上し、上塗り剤のハジキを防止すること(上塗り適性の向上)が可能となる。
本発明に係るシーラー用樹脂組成物は、(A)水性エマルジョンが、ワックス系エマルジョンを含む場合、防水性、防湿性がよりいっそう優れる。
【0017】
本発明に係るシーラー用樹脂組成物は、上述の性能を有するので、無機質形成部材用の水性シーラーとして好適である。
本発明に係る無機質形成部材は、上述のシーラー用樹脂組成物が塗布されているので、湿気や水分に対して強い抵抗力を持ち、防火性にも優れ、更に、基材密着性が向上し、上塗り剤を部材表面ではじき難くする。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係るシーラー用樹脂組成物は、(A)水性エマルジョン及び(B)難燃剤を含む。
本明細書において「水性」とは、樹脂等が水性媒体中に存在している状態を意味し、これは樹脂等が水性媒体に溶解している状態、及び/又は溶解していない状態(例えば、分散及び懸濁等)をいう。
従って、本発明における(A)水性エマルジョンとは、水性媒体中に粒子状態で分散している樹脂を意味する。
【0019】
また、「水性媒体」とは、一般的な水、例えば蒸留水、イオン交換水および純水をいうが、「水」と「水可溶性溶媒」との混合溶媒とすることができる。さらに、水性媒体は、目的とするシーラー用樹脂組成物の性質に悪影響を与えない範囲でオリゴマー樹脂等の不純物を含むこともできる。尚、「水可溶性溶媒」とは、水に可溶な溶媒であれば特に制限されることはなく、具体的にはメタノール、エタノール及びイソプロパノール等のアルコール類、並びにホルムアルデヒド及びアセトアルデヒド等の低級アルデヒド類を例示できる。
【0020】
(A)水性エマルジョンは、(a)重合性不飽和単量体を重合することで得られる。
「(a)重合性不飽和単量体」とは、エチレン性二重結合を有するラジカル重合性単量体をいう。(a)重合性不飽和単量体として、「(a1)スチレン系単量体」、「(a2)アルコキシシリル基およびエチレン性二重結合を有する単量体」、「(a3)その他単量体」を例示できる。(a)重合性不飽和単量体は、(a1)単量体を含むことが好ましく、更に、(a2)単量体、(a3)単量体を含むことがより好ましい。
【0021】
本明細書において「エチレン性二重結合」とは、重合反応(ラジカル重合)し得る炭素原子間二重結合をいう。そのようなエチレン性二重結合を有する官能基として、例えば、ビニル基(CH=CH−)、(メタ)アリル基(CH=CH−CH−及びCH=C(CH)−CH−)、(メタ)アクリロイルオキシ基(CH=CH−COO−及びCH=C(CH)−COO−)、(メタ)アクリロイルオキシアルキル基(CH=CH−COO−R−及びCH=C(CH)−COO−R−)及び−COO−CH=CH−COO−等を例示できる。
【0022】
尚、本明細書においては、アクリル酸及びメタクリル酸を総称して「(メタ)アクリル酸」ともいい、アクリル酸エステルとメタクリル酸エステル」又は「(メタ)アクリレート」ともいう。アリル基及びアクリロイルオキシ基についても同様である。
【0023】
本発明において、(a1)スチレン系単量体とは、スチレンに基づく単量体を意味し、通常、スチレン系単量体と認められるものが含まれる。本発明が目的とするシーラー用樹脂組成物を得ることができるものであれば特に制限されるものではない。スチレン系単量体として、例えばスチレン、ビニルトルエン、メチルスチレン等を例示できる。本発明では、スチレンが好ましい。(a)重合性不飽和単量体が(a1)スチレン系単量体を含むことで、本発明のシーラー用樹脂組成物の防湿性、防水性が向上する。
【0024】
本発明における「(a2)アルコキシシリル基およびエチレン性二重結合を有する単量体」(以下「(a2)単量体」ともいう)とは、ラジカル重合反応によって得られる(A)水性エマルジョンに、アルコキシシリル基を付与することができる化合物をいい、目的とするシーラー用樹脂組成物を得ることができるものであれば特に制限されるものではない。(a2)アルコキシシリル基およびエチレン性二重結合を有する単量体は、アルコキシシリル基とエチレン性二重結合を共に有し、アルコキシシリル基とエチレン性二重結合は、例えば、エステル結合、アミド結合及びアルキレン基等の他の官能基を介して結合してよい。
【0025】
ここで「アルコキシシリル基」とは、加水分解することによってケイ素に結合するヒドロキシル基(Si−OH)を与えるケイ素含有の官能基をいう。「アルコキシシリル基」としては、例えば、トリメトキシシル基、トリエトキシシリル基、ジメトキシシリル基、ジメトキシメチルシリル基、ジエトキシシリル基、モノエトキシシリル基、及びモノメトキシシリル基等のアルコキシシルリ基を例示できる。特に、トリメトキシシリル基およびトリエトキシシリル基が好ましい。「エチレン性二重結合」については、上述の通りである。
【0026】
(a)重合性不飽和単量体が(a2)単量体を含むことで、(A)水性エマルジョンがアルコキシシリル基を有するようになる。アルコキシシリル基は脱水縮合反応し、架橋するので、(A)水性エマルジョンには架橋構造が形成される。この架橋構造がシーラー用樹脂組成物の基材密着性を向上させる。
【0027】
(a2)単量体として、下記式(I)で示される化合物を例示できる。
(I):R1Si(OR2)(OR3)(OR4
[但し、式(I)において、R1はエチレン性二重結合を有する官能基であり、R2、R3及びR4は、炭素数1〜5のアルキル基である。R2、R3及びR4は、相互に同一でも異なってもよい。]
【0028】
1のエチレン性二重結合を有する官能基として、例えば、ビニル基、(メタ)アリル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル基、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピル基、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル基、2−(メタ)アクリロイルオキシブチル基、3−(メタ)アクリロイルオキシブチル基、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルを例示できる。
2、R3、R4の炭素数1〜5のアルキル基として、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、及びn−ペンチル基等の直鎖または分岐鎖のアルキル基を例示できる。
【0029】
(a2)アルコキシシリル基を含有しエチレン性二重結合を有する単量体として、(a2−1)ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン及びビニルトリn−ブトキシシランなどのビニルトリアルコキシシラン:及び下記式(II)で示される化合物
(II):CH=CR5−COO−Z−Si(OR6
[但し、式(II)において、R5は、HもしくはCH、R6は、炭素数1〜3のアルキル基、Zは炭素数1〜6のアルキレン基を表す。]である化合物が好ましい。
【0030】
式(II)で示される化合物として、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン及び3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシランが好ましく、特に、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランが好ましい。
これらの(a2)単量体は、(A)水性エマルジョンを含むシーラー用樹脂組成物の性質に応じて適宣選択することができ、単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0031】
本発明では、(a3)その他の単量体(以下、「(a3)単量体」ともいう)は、(a1)単量体、(a2)単量体以外の単量体のことを意味する。
(a3)単量体は、(A)水性エマルジョンの種々の物性を制御するために配合される。種々の物性を制御することで、シーラー用樹脂組成物の基材密着性や、上塗り適性等の性能が向上すると考えられる。
(a3)単量体として、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステル類を例示することが例示できる。
本発明では、(メタ)アクリル酸としては、メタクリル酸が好ましい。
【0032】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル類として、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクレレートオクチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ミリスチル(メタ)アクリレート及びセチル(メタ)アクリレート等を例示できる。
【0033】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル類の好ましい形態として、メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレートが挙げられる。
シーラー用樹脂組成物の防水性、防湿性を向上させるには、(メタ)アクリル酸アルキルエステル類として、ラウリル(メタ)アクリレート、特にラウリルアクリレートが好ましい。
【0034】
本発明における(a)重合性不飽和単量体の最も好ましい実施形態は、
(a1)単量体がスチレン、
(a2)単量体が3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、
(a3)単量体がメチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレートであり、シーラー用樹脂組成物の防水性、防湿性、基材密着性、上塗り適性を向上させる。
【0035】
本発明に係る(A)水性エマルジョンは、(a)重合性不飽和単量体を、通常のラジカル重合(又は付加重合)で得ることができる。そのような重合として、例えば水性媒体を用いる水溶液重合を例示できる。水溶液重合では、乳化剤を用いる乳化重合が好ましい。
【0036】
乳化重合は水を媒体とした乳化剤を用いたラジカル重合であり、公知の方法を用いることができる。乳化重合の方法として、例えば、エチレン性二重結合を有する単量体と乳化剤を水性媒体中に仕込んで重合させる方法、エチレン性二重結合を有する単量体と乳化剤を連続的又は間欠的に水性媒体中に滴下して重合させる方法、エチレン性二重結合を有する単量体と乳化剤に水を加えて乳化液を調製し、これを連続的又は間欠的に水性媒体中に滴下して重合させる方法等を例示することができる。
本発明における重合反応条件、例えば、触媒や連鎖移動剤、乳化剤の種類、並びにそれらの濃度、さらに反応温度、反応時間、攪拌速度は、目的とするシーラー用樹脂組成物の物性によって適宜選択され得るものである。
【0037】
ここで「触媒」とは、少量の添加によって単量体(又は単量体混合物)の重合反応を起こすことができる化合物であり、水性媒体及び有機化合物中で使用できるものである。例えば過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、t−ブチルヒドロペルオキシド、t−ブチルペルオキシベンゾエート、2,2−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス(2−ジアミノプロパン)ヒドロクロリド、2,2−アゾビス(2,4−ジメチル)バレロニトリル等を例示することができるが、特に過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムが好ましい。
【0038】
「連鎖移動剤」とは、少量の添加によって重合体の分子量を調節することができる化合物であって、水に可溶性の溶媒および水中で使用できるものが好ましい。このような「連鎖移動剤」として、例えばメルカプトエタノール、チオグリセロール、チオグリコール酸、チオグリコール酸オクチル、メルカプトプロピオン酸メチル、及びn−ドデシルメルカプタン等を例示できる。
【0039】
乳化剤はモノマー乳化力を有し、乳化重合の過程ではミセルを形成してモノマーに重合の場を提供し、重合中又は重合後はポリマー粒子の表面に固定化して粒子の分散安定性を図る。乳化剤としては、例えば、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤、高分子界面活性剤等を例示できる。
また、耐水性、耐アルカリ性、及び防水性の向上のために乳化剤の一分子内にラジカル重合可能な二重結合を有する「反応性界面活性剤」を使用するのが好ましい。尚、「反応性界面活性剤」は、(a)重合性単量体に含まれるものではない。
【0040】
アニオン系界面活性剤として、例えば、
ナトリウムドデシルサルフェート、カリウムドデシルサルフェート等のアルカリ金属アルキルサルフェート;
ナトリウムドデシルポリグリコールエーテルサルフェート;
アンモニウムドデシルサルフェート等のアンモニウムアルキルサルフェート;
ナトリウムスルホシノエート;
スルホン化パラフィンのアルカリ金属塩、スルホン化パラフィンのアンモニウム塩等のアルキルスルホネート;
ナトリウムラウレート、トリエタールアミンオレエート、トリエタールアミンアビエテート等の脂肪酸塩;
ナトリウムドデシルベンゼンスルホネート、アルカリフェノールヒドロキシエチレンのアルカリ金属サルフェート等のアルキルアリールスルホネート;
高アルキルナフタレンスルホン酸塩;
ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物;
ジアルキルスルホコハク酸塩;
ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩;
ポリオキシエチレンアルキルアリールサルフェート塩
等を例示できる。
【0041】
ノニオン系界面活性剤として、例えば、
ポリオキシエチレンアルキルエーテル;
ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル;
ソルビタン脂肪酸エステル;
ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;
グリセロールのモノラウレート等の脂肪酸モノグリセライド;
ポリオキシエチレンオキシプロピレン共重合体;
エチレンオキサイドと脂肪族アミン、アミド又は酸との縮合生成物
等を例示できる。
【0042】
カチオン系界面活性剤として、例えば、
モノアルキルアンモニウム塩、ジアルキルアンモニウム塩、エチレンオキサイド付加型アルキルアンモニウム塩等を例示できる。
両性界面活性剤として、例えば、
アミドプロピルベタイン、アミノ酢酸ベタイン等を例示できる。
【0043】
高分子界面活性剤として、例えば、
ポリビニルアルコール;
ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウム、ポリ(メタ)アクリル酸カリウム、ポリ(メタ)アクリル酸アンモニウム;
ポリ(メタ)アクリレート等を例示できる。
【0044】
反応性界面活性剤として、例えば、ポリオキシエチレンアリルグリシジルノニルフェニルエーテルの硫酸エステル塩(アデカリアソープSEシリーズ、旭電化工業社製)、α−スルホ−ω−(1−(アルコキシ)メチル−2−(2−プロペニルオキシ)エトキシ)−ポリ(オキシ−1,2−エタンジイル)のアンモニウム塩(アデカリアソープSRシリーズ、旭電化工業社製)、ポリオキシエチレン(又はアルキレン)アルキル(又はアルケニル)エーテル硫酸アンモニウム塩(PDシリーズ、花王社製)、スルホコハク酸型反応性活性剤(ラテムル180シリーズ、花王社製)、アルキルアリルスルホコハク酸ナトリウム塩(エレミノールJS−2、三洋化成工業社製)、ポリオキシエチレンノニルプロペニルフェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩(アクアロンHSシリーズ、第一工業製薬社製)、ポリオキシエチレン−1−(アリルオキシメチル)アルキルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩(アクアロンKHシリーズ、第一工業製薬社製)、ポリオキシエチレンアリルグリシジルノニルフェニルエーテル(アデカリアソープNEシリーズ、旭電化工業社製)、ポリオキシエチレンノニルプロペニルエーテル(アクアロンRNシリーズ、第一工業製薬社製)、α−ヒドロ−ω−(1−(アルコキシ)メチル−2−(プロペニルオキシ)エトキシ)−ポリ(オキシ−1,2−エタンジイル)(アデカリアソープERシリーズ、旭電化工業社製)等を例示できる。これらは単独で又は2種以上併せて用いられる。
【0045】
本発明では、(A)水性エマルジョンは、ワックス系エマルジョンを含むことが好ましい。
ワックス系エマルジョンとは、通常、ワックス系エマルジョンと呼ばれるものであって、シーラー用樹脂組成物の防水性、防湿性を向上することを目的に添加される。
ワックス系エマルジョンのワックスの融点は、30〜150℃であることが好ましく、40〜120℃であることがより好ましく、50〜110℃であることが特に好ましい。尚、ワックスの融点とは、JIS K2207に規定される軟化点試験方法(環球法)によって測定された値をいう。
【0046】
また、ワックス系エマルジョンのエマルジョン粒子の粒子径は、0.05〜10.0μmであることが好ましく、0.05〜3.0μmであることがより好ましく、0.08〜2.0μmであることが特に好ましい。ここで、エマルジョン粒子の粒子径とは、光散乱法(水等の溶媒中でブラウン運動をしている粒子に、レーザー光を照射した際の、レーリー散乱による散乱光から粒子径を求める方法)によって測定された値をいう。
【0047】
ワックス系エマルジョンとして、例えば石油系ワックスエマルジョン、ポリエチレン系ワックスエマルジョン及びポリプロピレン系ワックスエマルジョンを例示でき、石油系ワックスエマルジョンが好ましい。ワックス系エマルジョンは、単独で又は組み合わせて使用できる。
【0048】
「石油系ワックスエマルジョン」として、例えば、パラフィンワックスエマルジョン、マイクロクリスタリンワックスエマルジョン及びペトロラタムワックスエマルジョンを例示できるが、特にパラフィンワックスエマルジョンが好ましい。
「パラフィンワックスエマルジョン」として、例えば、近代化学工業(株)製のペルトールPA418(商品名)、クラリアント(株)製のE701K(商品名)、ビックケミー、ジャパン(株)製のAQUACER498(商品名)等を例示することができる。
【0049】
尚、「ポリエチレン系ワックスエマルジョン」および「ポリプロピレン系ワックスエマルジョン」とは、通常ポリエチレン系ワックスエマルジョンおよびポリプロピレン系ワックスエマルジョンと呼ばれ、本発明のシーラー用樹脂組成物を得ることができるものであれば、特に制限されるものではない。
ワックス系エマルジョンは、(a)重合性単量体と共に混合されても良いが、予め調製された(A)水性エマルジョンに対して添加されるのが好ましい。
【0050】
本発明では、(A)水性エマルジョンは、さらに、シランカップリング剤を含むことができる。シランカップリンク剤を含むことによって、シーラー用樹脂組成物の基材密着性がさらに向上する。
本明細書では、「シランカップリング剤」としては、エチレン性二重結合を有さないシラン化合物のことであり、特にエポキシ系シランカップリング剤が好ましい。
【0051】
エポキシ系シランカップリング剤を大別すると、グリシジル系シランカップリング剤、エポキシシクロヘキシル系シランカップリング剤に分かれる。
グリシジル系シランカップリング剤は、グリシドキシ基を有するもので、具体的には、3−グリシドキシプロピルメチルジイソプロペノキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルジエトキシシランが例示される。
【0052】
エポキシシクロヘキシル系シランカップリング剤は、3,4−エポキシシクロヘキシル基を有するもので、具体的には、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシランが挙げられる。
これらのエポキシ系シランカップリング剤は、単独で又は組み合わせて用いることができる。本発明では、シランカップリング剤としては、グリシジル系シランカップリング剤が好ましく、グリシジル系シランカップリング剤の中でも、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランが特に好ましい。
【0053】
本明細書では、(B)難燃剤とは、樹脂、紙、建築材料等の素材に添加し、それらを燃えにくくし、あるいは炎が広がらないようにする薬剤をいう。
本発明における(B)難燃剤は、臭素化合物およびアンチモン化合物の両方を含む。
臭素化合物として、具体的には、例えば、ペンタブロモジフェニルエーテル、オクタブロモジフェニルエーテル、デカブロモジフェニルエーテル、テトラブロモビスフェノールA、ヘキサブロモシクロドデカンを臭素系難燃剤として例示できる。本発明では、デカブロモジフェニルエーテルが特に有効である。
【0054】
アンチモン化合物として、例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモンがアンチモン系難燃剤として例示される。本発明では、三酸化アンチモンが特に有効である。
従って、本発明における(B)難燃剤は、デカブロモジフェニルエーテルおよび三酸化アンチモンの両方を含むことが特に好ましい。
本発明では、(B)難燃剤を、シーラー用樹脂組成物に配合する際、粉末で添加しても良いが、エマルジョンで添加することがより好ましい。
【0055】
(B)難燃剤がエマルジョンである場合、最終的に得られるシーラー用樹脂組成物の貯蔵安定性が向上する。
尚、(B)難燃剤は、臭素化合物およびアンチモン化合物の両成分を含んでいれば、本発明の目的を損なわない範囲で「難燃作用を持つその他化合物」を含んでも良い。
【0056】
「難燃作用を持つその他化合物」とは、
トリフェニルホスフェート等のリン化合物;
塩素化パラフィン等の塩素化合物;
水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物;
が挙げられる。
【0057】
(B)難燃剤は、(A)水性エマルジョン100重量部に対し、40〜140重量部添加されるのが好ましく、60〜120重量部添加されるのが特に好ましい(固形分換算値)。(B)難燃剤の添加量が40〜140重量部であることによって、シーラー用樹脂組成物の難燃性がより向上し、防水性、防湿性等の性能も維持される。
【0058】
本発明では、(a)重合性単量体を重合して(A)水性エマルジョンを得るが、(B)難燃剤は、(a)重合性単量体と共に混合されても良いし、予め調製された(A)水性エマルジョンに対して添加されても良い。
【0059】
本発明に係る「シーラー用樹脂組成物」は、そのまま「水性シーラー」として使用することができるが、必要に応じて、例えば、顔料、充填剤、防錆剤、殺菌剤、防腐剤、消泡剤、可塑剤、流動調整剤、増粘剤及びpH調整剤等の添加剤をシーラー用樹脂組成物に混合、分散することで、水性シーラーとすることができる。
【0060】
「顔料」とは、通常、顔料とされるものであれば特に限定されることはない。顔料は、通常、有機顔料と無機顔料に分類される。
有機顔料として、例えばファストエロー、ジアゾエロー、ジアゾオレンジおよびナフトールレッド等の不溶性アゾ顔料;銅フタロシアニン等のフタロシアニン系顔料;ファナールレーキ、タンニンレーキ、およびカタノール等の染色レーキ;イソインドリノエローグリーニッシュやイソインドリノエローレディシュ等のイソインドリノ系顔料;キナクリドン系顔料;ペリレンスーカットやペリレンマルーン等のペリレン系顔料等を例示できる。
無機顔料として、カーボンブラック、鉛白、鉛丹、黄鉛、銀朱、群青、酸化コバルト、二酸化チタン、チタニウムイエロー、ストロンチウムクロメート、モリブテン赤、モリブテンホワイト、鉄黒、リトボン、エメラルドグリーン、ギネー緑およびコバルト青等を例示できる。
【0061】
「充填剤」とは、性能向上、コスト低減等の目的で添加される物質をいい、通常充填剤とされるものであれば、特に制限されるものではない。具体的には、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、シリカ、タルク、クレーおよびアルミナ等を例示できる。充填剤は単独で又は組み合わせて使用できる。
【0062】
「防錆剤」とは、素材の腐食を抑制するために加えられる物質をいい、通常、防錆剤とされるものであれば特に制限されるものではない。具体的には、例えば鉛丹、白鉛、亜鉛化鉛、塩基性硫酸白鉛、塩基性クロム酸鉛、鉛酸カルシウム、クロム酸亜鉛、鉛酸シアナミド、亜粉末、ジクロロメート、バリウムクロメート、亜硝酸ソーダ、ジシクロヘキシルアンモニウムニトリル、シクロヘキシルアミンカーボネート及び防錆油等を例示できる。防錆剤は、単独で又は組み合わせて使用できる。
【0063】
添加剤を「混合」及び「分散」する方法として、通常使用されている方法、例えばボールミキサー、ホモジナイザー又は羽付き攪拌機等の混合機を用いる方法を使用することができる。「混合」及び「分散」することができる限り、これら混合機の使用について特に制限されることはない。
より具体的には、例えば上述の「シーラー用樹脂組成物」に、必要であれば更に適当な水性媒体を加えた後、上述の「添加剤」を加えて水性シーラーを得ることができる。
【0064】
更に適当な水性媒体に「添加剤」を加えた後、「シーラー用樹脂組成物」を加えてもよく、「シーラー用樹脂組成物」と「添加剤」との混合順序は、適宜選択することができ、特に制限されるものではない。
更に、シーラー用樹脂組成物を一旦製造することなく、(A)水性エマルジョン、(B)難燃剤、添加剤を混合することで、シーラー用樹脂組成物を含んだ「水性シーラー」を製造することもできる。
【0065】
本発明に係るシーラー用樹脂組成物は、無機質形成部材用の水性シーラーに好ましく用いられる。「シーラー用樹脂組成物」あるいは「シーラー用樹脂組成物を含んだ水性シーラー」は、特に、例えばセメント板及び瓦等の無機質成形板に塗工(又は塗布)して使用される。ここで「塗工」とは、特に限定されることなく、塗料業界で用いられる通常の方法であれば差し支えない。例えば、ロールコーター、カーテンフローコーターおよびスプレー塗装等の方法を例示できる。
【0066】
本発明は、上述のシーラー用樹脂組成物(水性シーラー)が塗工された「無機質成形部材」を提供する。「無機質成形部材」とは、例えば、珪酸カルシウム、石膏、ロックウール、コンクリート、セメント、モルタル及びスレート等の材料が、例えば、押出し成型等によって種々の形態(板、ブロック等)に成型された部材をいう。
無機質成形部材の好ましい態様の一つとして、「無機質成形板」を例示できる。「無機質成形板」とは、例えば、珪カル板、セメント系押出し成形板、ALC板(軽量気泡コンクリート板)、硬質木片セメント板、瓦及び炭酸マグネシウム板等の無機質の材料が成形された板状の部材をいう。
【0067】
本発明に係る無機質形成部材(無機質形成板を含む)は、上述のシーラー用樹脂組成物(水性シーラー)を無機質形成部材に塗工することで得ることができるが、以下に記載するように無機質形成部材の素材である未硬化の生の部材(生原板を含む)にシーラー用樹脂組成物(水性シーラー)を塗工した後、両者を同時に硬化して得ることもできる。
本発明に係る無機質形成部材の製造方法の一例として、無機質形成板の未硬化の生原板を使用する製造方法を、以下に具体的に説明する。
【0068】
本発明に係る無機質成形板の素材である未硬化の「生原板」として、例えば未硬化の石綿セメント板、珪酸カルシウム板、パルプセメント板、炭酸マグネシウム板を例示できる。これらは、例えば乾式法、湿式法、押出し成形法等の通常使用されているいずれの方法を用いて製造してもよい。
【0069】
乾式法を用いる場合、セメント質原料、骨材(例えば珪石粉及びクレー等)、繊維補強材(例えばアスベスト及びパルプ等)並びにセメント質原料を完全に硬化させるために必要な水を加えて原料スラリーを作成した後、100〜300kg/cmの圧力で加圧することで、初期接着強度が発揮した段階の未硬化の生原板が製造される。湿式法を用いる場合、上述の原料スラリーを敷いた後、プレスロールを通して過剰の水を除去しながら成形後の初期接着強度が発揮した段階の未硬化の生原板が製造される。押出し成形法を用いる場合、押出し機により成形した後、数時間放置して、初期強度が発揮した段階の未硬化の生原板が得られる。
【0070】
上述のようにして得た初期強度が発揮した段階の未硬化の生原板の表面に、本発明に係るシーラー用樹脂組成物を、上述した通常の塗工方法、例えばロールコーター、カーテンフローコーター及びスプレー塗装等を用いて塗工して生原板を得ることができる。
この生原板を、例えば加圧釜内で、好ましくは150℃以上の温度、より好ましくは160〜180℃の温度にて、好ましくは5kg/cm以上の圧力、より好ましくは6〜10kg/cmの圧力で、過熱蒸気を用いて好ましくは5〜20時間熱処理を行うことによって、未硬化の生原板とシーラー用樹脂組成物を同時に硬化させる。このようにして、本発明に係る「無機質成形板」を得ることができる。
【0071】
以下に、本発明の主な態様を記載する。
1.(A)水性エマルジョンと、(B)難燃剤とを有し、
(B)難燃剤が、臭素化合物とアンチモン化合物の両方を含むシーラー用樹脂組成物。
2.臭素化合物は、デカブロモジフェニルエーテルを含み、アンチモン化合物は三酸化アンチモンを含む上記1.に記載のシーラー用樹脂組成物。
3.(A)水性エマルジョンは、(a)重合性不飽和単量体を重合して得られ、
(a)重合性不飽和単量体は、(a1)スチレン系単量体を含む上記1.又は2.に記載のシーラー用樹脂組成物。
4.(a)重合性不飽和単量体は、更に、(a2)アルコキシシリル基及びエチレン性二重結合を有する単量体を含む上記3.に記載のシーラー用樹脂組成物。
5.(a)重合性不飽和単量体は、更に、(a3)その他単量体を含む上記4.に記載のシーラー用樹脂組成物。
6.(A)水性エマルジョンは、ワックス系エマルジョンを含む上記1.〜5.のいずれかに記載のシーラー用樹脂組成物。
7.無機質形成部材用の水性シーラーに用いられる上記1.〜6.のいずれかに記載のシーラー用樹脂組成物。
8.上記7.に記載のシーラー用樹脂組成物を含む水性シーラーが塗布された無機質形成部材。
【実施例】
【0072】
以下、本発明を実施例および比較例により具体的かつ詳細に説明するが、これらの実施例は本発明の一態様にすぎず、本発明はこれらの例によって何ら制限されるものではない。また、実施例及び比較例において、重量部及び重量%は、特に記載しない限り、媒体(溶媒)を含まない部分を基準とする。
【0073】
次に、実施例について比較例と併せて説明する。
まず、(A)水性エマルジョンを調製するために下記成分を準備した。
(a)重合性不飽和単量体
(a1)スチレン(和光純薬工業社製)
(a2)3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン
(東レ・ダウコーニング(株)製のSZ−6030(商品名))
(a3−1)ラウリルアクリレート(日本油脂社製)
(a3−2)N−ブチルメタクリレート(和光純薬工業社製)
(a3−3)メチルメタクリレート(和光純薬工業社製)
(a3−4)2−エチルヘキシルアクリレート(和光純薬工業社製)
(a3−5)メタクリル酸(和光純薬工業社製)
【0074】
・ワックス系エマルジョン
パラフィンワックスエマルジョン
(近代化学工業(株)製ペルトールPA418(商品名))
・シランカップリング剤(グリシジル系シランカップリング剤)
3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
(エボニック(株)製Dynasylan GLYMO (商品名))
・乳化剤(反応性界面活性剤)
アルキルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩
(第一工業製薬社製アクアロンKH10(商品名))
・防腐剤
複合型イソチアゾリン系防腐剤
(ソージャパン社製ACTICIDE LG(商品名))
・消泡剤
混合物系(鉱油、ポリエーテル、疎水性シリカ)消泡剤
(サンノプコ社製SNデフォーマー777(商品名))
【0075】
(B)難燃剤
(B1)エマルジョン型難燃剤
(デカブロモジフェニルエーテルと三酸化アンチモンの両方を含む)
(丸菱油化工業(株)製ノンネンSM−18(商品名))
(B2)粉末デカブロモジフェニルエーテル難燃剤
(東ソー(株)製フレームカット110R(商品名))
(B3)粉末三酸化アンチモン難燃剤
(ケムチュラジャパン社製Timonox Red star TMS(商品名))
(B’4)縮合リン酸エステル難燃剤(大八化学工業社製CR−733S(商品名))
(B’5)燐/窒素系難燃剤(丸菱油化工業社製ノンネンR022−3(商品名))
(B’6)水酸化アルミニウム(巴工業社製B315(商品名))
(B’7)シリカ系難燃剤(東レ・ダウコーニング社製DC4-7081(商品名))
【0076】
<(A1)水性エマルジョンの製造>
攪拌機、温度計、還流冷却器及び窒素導入管を備えた4つ口フラスコに、80重量部の蒸留水及び0.25重量部の乳化剤(第一工業製薬社製アクアロンKH10(商品名))を加え、窒素ガスを吹き込みながら攪拌を開始し、加熱して、液温を80℃に調節した。
一方、1.8重量部の乳化剤(第一工業製薬社製アクアロンKH10(商品名))を、25重量部の蒸留水に溶解した溶液に、50重量部の(a1)スチレン、0.1重量部の(a2)3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、5重量部の(a3−1)ラウリルアクリレート、5重量部の(a3−2)N−ブチルメタクリレート、9重量部の(a3−3)メチルメタクリレート、28重量部の(a3−4)2−エチルヘキシルアクリレート及び2重量部の(a3−5)メタクリル酸を加えて乳化して、乳化液(又はエマルジョン)を用意した。
更に、0.2重量部の過硫酸ナトリウムを7重量部の蒸留水に溶解した溶液を開始剤水溶液として用意した。
【0077】
4つ口フラスコ内に、先に調製した乳化液の約10体積%と開始剤水溶液の10体積%とを攪拌しながら加えた後、さらに乳化液の残部と開始剤水溶液の残部の各々を約3時間かけて、攪拌しながら、滴下して反応させた。
滴下終了後、液温を(80℃)に保ちつつ、約1時間攪拌を続けて反応を完結させた。得られた反応混合物を冷却後、アンモニア水を加えてpHを9に調整して水性エマルジョンを得た。
更に、0.2重量部の防腐剤(ソージャパン社製ACTICIDELG(商品名))、及び0.1重量部の消泡剤(サンノプコ社製SNデフォーマー777(商品名))を加え、その後パラフィンワックスエマルジョン(近代化学工業(株)製ペルトールPA418(商品名))を1.0重量部配合し、1重量部の3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(エボニック(株)製DynasylanGLYMO(商品名))を配合し(A1)水性エマルジョンとした。
尚、各成分の重量部は、全て固形分換算値である。
【0078】
<(A2)〜(A10)水性エマルジョンの製造>
表1に示す(a)重合性単量体を実施例1と同様の操作で重合し、各種添加剤についても同様に配合して(A2)〜(A10)水性エマルジョンを製造した。
【0079】
【表1】

【0080】
<シーラー用樹脂組成物の製造>
実施例1〜15及び比較例1〜7
(A1)〜(A10)に対し、表2に示される組成で(B)難燃剤を添加し、シーラー用樹脂組成物を得た。
尚、表1、表2における各成分の重量部は、全て固形分換算値である。
【0081】
【表2】

【0082】
シーラー用樹脂組成物の評価方法
実施例及び比較例のシーラー用樹脂組成物は、以下のように評価した。
[防水性]
JIS A6909(透水試験B法)に準拠して、透水量を測定することによって防水性を評価した。即ち、実施例および比較例の各樹脂組成物を15重量%の水溶液となるように希釈して試験液とした。尚、必要であれば適宜ブチルセロソルブ(可塑剤)を加えて最低造膜温度を0℃に低下させて試験液とした。この試験液をケイカル板(比重0.8)に100g/mの量となるようにはけ塗りし、100℃にて10分間乾燥して塗板を作製した。44cmの面積の塗板を1日当たりで透過する水量(ml)を測定することで透水量を測定した。透水量が大きいほど防水性は小さく、透水量が小さいほど防水性が大きい。評価結果は以下のように表示した。
◎:透水量は0.1ml以下である。
○:透水量は0.1mlより多く、0.2ml以下である。
△:透水量は0.2mlより多く、0.3ml以下である。
×:透水量は0.3mlより多い。
【0083】
[防湿性]
35重量%の水溶液となるように、実施例および比較例の各樹脂組成物を希釈して試験液とした。尚、必要であれば適宜ブチルセロソルブ(可塑剤)を加えて最低造膜温度を0℃に低下させて試験液とした。次に、5mil又は10milのアプリケーターを用いて、この試験液を濾紙(東洋濾紙社製 ♯131)に塗工し、100℃で10分間乾燥して塗工紙を作製した。塗工紙を直径が3.4cmである円形に切断した後、瞬間接着剤を用いて予め10gの塩化カルシウムを入れたシャーレ(直径3cm)の上部に隙間が生じないように接着し、濾紙を接着したシャーレの重量を測定した。さらに、硝酸バリウム飽和水溶液を入れたデシケーターの中に上述の濾紙を接着したシャーレを並べた後、デシケーターを20℃、湿度65%の恒温室内に保管した。定常状態と成った後、濾紙を接着したシャーレの重量を測定し、試験前の重量との差から透湿量(g/m)を求めて、防湿性を評価した。透湿量が大きいほど防湿性は小さく、透湿量が小さいほど防湿性は大きい。評価結果は以下のように表示した。
◎:透湿量は55g/m以下である。
○:透湿量は55g/mより多く、75g/m以下である。
△:透湿量は75g/mより多く、95g/m以下である。
×:透湿量は95g/mより多い。
【0084】
[上塗りハジキ性]
15重量%の水溶液となるように、実施例および比較例の各樹脂組成物を希釈して試験液とした。尚、必要であれば適宜ブチルセロソルブ(可塑剤)を加えて最低造膜温度を0℃に低下させて試験液とした。この試験液を、ケイカル板(比重0.8)に100g/mの量となるようにはけ塗りし、100℃にて10分間乾燥して塗板を作製した。さらに、上塗り用樹脂組成物(ヘンケルジャパン(株)製のヨドゾールAD137(商品名))を上述の塗膜の上に100g/mの量となるようにはけ塗りした。このときに、塗板上で上塗り用樹脂組成物のハジキの有無、均一に塗布されるか否かを目視にて確認した。評価結果は以下のように表示した。
◎:上塗り用樹脂組成物は塗板上でハジキがなく、均一に塗布される。
○:上塗り用樹脂組成物は塗板上でハジキがないが、不均一に塗布される。
△:上塗り用樹脂組成物は塗板上でハジキは生じるが、塗布される。
×:上塗り用樹脂組成物は塗板上でハジキを生じ、まったく塗布されない。
【0085】
[基材密着性]
15重量%の水溶液となるように、実施例および比較例の各樹脂組成物を希釈して試験液とした。尚、必要であれば適宜ブチルセロソルブ(可塑剤)を加えて最低造膜温度を0℃に低下させて試験液とした。この試験液をケイカル板(比重0.8)に100g/mの量となるようにはけ塗りし、100℃にて10分間乾燥して塗板を作製した。さらに、上塗り用樹脂組成物(ヘンケルジャパン(株)製のヨドゾールAD137(商品名))を上述の塗膜の上に100g/mの量となるようにはけ塗りした。塗板上の皮膜をカッターにて4mm間隔で碁盤の目状に切り、25個の桝目を形成し、その上を粘着テープで圧着した。その後、粘着テープを一気に引き剥がし、剥がれずに塗板上に残存した皮膜の面積を確認することで、基材密着性を評価した。皮膜の残存面積が大きいほど、基材密着性は良く、皮膜の残存面積が小さいほど、基材密着性は悪い。評価結果は以下のように表示した。
◎:大変良好、皮膜の残存面積は90%以上である。
○:良好、皮膜の残存面積は70%以上、90%未満である。
△:普通、皮膜の残存面積は50%以上、70%未満である。
×:不良、皮膜の残存面積は50%未満である。
【0086】
[難燃性]
必要であれば、実施例および比較例の各樹脂組成物に適宜ブチルセロソルブ(可塑剤)を加え、最低造膜温度を0℃に低下させ試験液とした。この試験液をポリエチレン板に土台を作成し固形分が5g/100cmの量となるように樹脂組成物を流しこみ、50℃にて24時間乾燥して塗膜を作製した。
その塗膜を縦10cm×横1cmにカットし短冊フィルムを作製する。そのフィルムをクランプに垂直に取り付けフィルム下部1cmのところに接炎を行う。
◎:まったく着火しない。
○:炎をフィルムからはずすと消火する。
△:フィルムに着火するが5秒以内に消火する。
×:フィルムに着火し燃え尽きる。
【0087】
[貯蔵安定性]
各樹脂組成物を100mlのガラス瓶に入れ、24℃にて1ヶ月養生後の難燃剤の沈降を目視により観察する。
◎:難燃剤の沈降が観察されない。
○:難燃剤がガラス瓶の下部より1mm以下の沈降が観察される。
△:難燃剤がガラス瓶の下部より1mmより多く5mm以下の沈降が観察される。
×:難燃剤がガラス瓶の下部より5mmより多い沈降が観察される。
【0088】
[総合評価]
下記の表3に記載の結果を参照して、下記基準に基づいて評価した。
◎:難燃性が◎であり、かつ、その他の性能が◎若しくは○である。
○:難燃性が◎であり、その他の性能のいずれかに△があるが、×がない。
又は、難燃性が○であり、その他の性能が○もしくは◎である。
△:難燃性が△であり、全ての性能に×がないが、防水性、防湿性、貯蔵安定性のいずれかに△がある。
×:難燃性が×であるか、又は難燃性以外のいずれかの性能に×がある。
【0089】
【表3】

【0090】
表3に示すように、実施例1〜15のシーラー用樹脂組成物は、難燃性および貯蔵安定性に著しく優れ、他の性能(防水性、防湿性等)についても優れており、総合的にバランス良い性能を有する。比較例1〜7のシーラー用樹脂組成物は、本発明の(B)難燃剤に該当しない薬剤が添加されているので、実施例1〜15のシーラー用樹脂組成物と比較すると、総合的な性能が劣る。
これより、(B)臭素化合物およびアンチモン化合物の両方を含む難燃剤を(A)水性エマルジョンに加えると、樹脂組成物の難燃性が著しく向上するだけでなく、防水性、防湿性、貯蔵安定性、基材密着性、上塗り適性にも優れる樹脂組成物が得られることが実証された。これらの特性に優れる樹脂組成物は、無機質形成部材用の水性シーラーとして好適である。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明は、シーラー用樹脂組成物を提供する。本発明に係るシーラー用樹脂組成物は、無機質形成部材用の水性シーラーに用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)水性エマルジョンと、(B)難燃剤とを有し、
(B)難燃剤が、臭素化合物とアンチモン化合物の両方を含むシーラー用樹脂組成物。
【請求項2】
臭素化合物は、デカブロモジフェニルエーテルを含み、アンチモン化合物は三酸化アンチモンを含む請求項1に記載のシーラー用樹脂組成物。
【請求項3】
(A)水性エマルジョンは、(a)重合性不飽和単量体を重合して得られ、
(a)重合性不飽和単量体は、(a1)スチレン系単量体を含む請求項1又は2に記載のシーラー用樹脂組成物。
【請求項4】
(a)重合性不飽和単量体は、更に、(a2)アルコキシシリル基及びエチレン性二重結合を有する単量体を含む請求項3に記載のシーラー用樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のシーラー用樹脂組成物を含む水性シーラーが塗布された無機質形成部材。

【公開番号】特開2013−6932(P2013−6932A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−139584(P2011−139584)
【出願日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(391047558)ヘンケルジャパン株式会社 (43)
【Fターム(参考)】