説明

シーリング材の劣化診断方法

【課題】外壁目地部に充填したシーリング材と外壁材小口面との接着界面付近での界面破壊の危険性を、現場において簡単に確認する。
【解決手段】経年劣化に伴うシーリング材3の側面部分の硬化が、界面破壊の発生に大きな影響を与えていることを見出し、このシーリング材3の側面部分の硬化度合を判定すべく、現場において、切断具10を用いて外壁目地部2からシーリング材3を部分的に切り抜いて、試験体20を採取するとともに、その試験体20の少なくとも切断側面21の硬度を、デュロメータ30等の硬度計を用いて測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、住宅等の建物の外壁目地部に充填したシーリング材の劣化を診断するための劣化診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、住宅等の建物の外壁目地部には、防水性能を確保する目的で、建築用シーリング材が充填されている。この種のシーリング材は、紫外線、熱、雨水等の外部環境、さらには温度変化に伴う小さな伸び縮みの繰り返し疲労等の影響を受けることで、徐々に柔軟性を失って硬くなり、最終的にひび割れや界面破壊(界面剥離や被着体の破壊等)を生じるといった欠点がある。このため、定期的にシーリング材の劣化を診断して、劣化が進行している場合には、補修や取り替えといったメンテナンスを行うようにしている。
【0003】
従来より、建物の外壁目地部に充填したシーリング材の劣化診断に際しては、例えば以下のような方法が採用されている。まず第1に、シーリング材の表面におけるクラックの発生状況を目視により観察することで、劣化度合を把握するといった方法がある。第2に、シーリング材の表面硬度をデュロメータ等の硬度計を用いて測定して、その測定結果から劣化度合を把握するといった方法がある。
【0004】
第3に、シーリング材の表面を指又は木製のへら等で強く押して、シーリング材と被着体(外壁材小口面)との接着界面での破壊の有無を確認することで、劣化度合を把握するといった方法がある(非特許文献1参照)。
【0005】
第4に、シーリング材をカッター等で根元部分を残しながらひも状に切断して、その切断したひも状のシーリング材を破断するまで手で引っ張って、そのときの伸び量を測定するとともに、破壊状態を観察することで、劣化度合を把握するといった方法がある(非特許文献1参照)。なお、この場合、バネばかり等で引張強度を測定する方法も見受けられる。
【0006】
第5に、シーリング材をカッター等で部分的に切断して試験体を採取し、その試験体を実験室に持ち帰って層状にスライスして、そのスライスした試験片について外観検査を行った後、硬さ試験や引張試験等の物性試験を行うことで、劣化度合を把握するといった方法がある(非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】日本シーリング材工業会発行「建築用シーリング材ハンドブック(2008年版)」115頁参照
【非特許文献2】日本建築学会発行「外壁接合部の水密設計および施工に関する技術指針・同解説(2008年版)」202〜208頁参照
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年使用されている建築用シーリング材としては、耐候性の向上によって、表面にクラックが発生し難く、凝集破壊し難いものが多く見受けられる。その反面、劣化時におけるモジュラス上昇によって、外壁材小口面との接着界面における負担が大きくなって、結果として界面破壊(界面剥離や外壁材小口面の破壊等)が生じ易いといった傾向にある。
【0009】
このため、近年使用されている建築用シーリング材の劣化診断に際しては、ひび割れの危険性を確認することに重点をおいた方法よりも、界面破壊の危険性を確認することに重点をおいた方法が望まれることが多くなっている。
【0010】
ここで、上記の第1〜第5の方法を検討すると、これら第1〜5の方法のうち、シーリング材と外壁材小口面との接着性を把握できるような第3〜第5の方法が、近年使用されている建築用シーリング材の劣化診断に即したものとなっている。
【0011】
しかしながら、第3の方法では、劣化度合を定量化することができず、シーリング材の表面を指又は木製のへら等で押すときの力の入れ具合によって、診断結果にバラツキが生じ易いといった不具合があった。
【0012】
また、第4の方法では、ひも状のシーリング材を破断させながらその伸び量を測定しつつ、破壊状態を観察する必要があって、劣化度合を簡便に定量化することができず、診断結果が観察者の経験等によって左右され易いといった不具合があった。しかも、診断後にシーリング材を元の状態に容易に戻すことができず、専門業者による修復作業が必要であった。
【0013】
さらに、第5の方法では、実験室に持ち帰った試験体に対して層状にスライスする等の加工を施した後に、外観検査や物性試験を行うといった面倒な工程が必要となり、劣化度合を簡便に定量化することができず、現場において診断結果を即座に得ることができないといった不具合があった。しかも、比較的長尺な試験体を採取する必要があることから、診断後にシーリング材を元の状態に容易に戻すことができず、専門業者による修復作業が必要であった。
【0014】
そこで、この発明は、上記の不具合を解消して、シーリング材の劣化度合を簡便に定量化しながら、シーリング材と外壁材小口面との接着界面付近での界面破壊の危険性を、現場において簡単に確認することができ、診断後の修復作業も簡単に済ますことができるシーリング材の劣化診断方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、シーリング材と外壁材小口面との接着性を直接的に確認するような種々の不具合を生じる従来の方法に代わって、界面破壊の危険性を現場において簡単に予測し得るような劣化診断方法について検討したところ、経年劣化に伴うシーリング材の側面(目地深さ方向の面)部分の硬化が、界面破壊の発生に大きな影響を与えていることを見出し、このような知見に基づき本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明のシーリング材の劣化診断方法は、建物の外壁目地部2に充填したシーリング材3の劣化診断を対象としており、前記外壁目地部2から前記シーリング材3を部分的に切り抜いて試験体20、22を採取するとともに、その試験体20、22の少なくとも切断側面21、23の硬度を測定するようにしたことを特徴とする。
【0017】
具体的には、前記試験体20、22の切断側面21、23のうち、前記外壁目地部2を構成する外壁材1、1の小口面4、4に対向していた部位21a、23aの硬度を測定している。
【0018】
また、前記シーリング材3を目地幅W1全長に亘って切り抜いて、前記目地幅W1と同等の幅W2、W3を有する前記試験体20、22を採取している。さらに、先端部に環状刃部11を有する円筒状の切断具10を前記シーリング材3の表面から押し込んで、円柱状の前記試験体20を採取している。さらにまた、前記試験体20、22の切断側面21、23の硬度を、現場においてデュロメータ30を用いて測定している。
【発明の効果】
【0019】
この発明のシーリング材の劣化診断方法によれば、シーリング材と外壁材小口面との接着界面付近での界面破壊の発生に大きく影響するシーリング材の側面部分の硬化度合を、シーリング材の劣化度合として捉えて、この硬化度合を判定すべく、シーリング材を部分的に切り抜いて採取した試験体の切断側面の硬度を、デュロメータ等を用いて測定していることから、シーリング材の劣化度合を簡便に定量化しながら、界面破壊の危険性を現場において簡単に確認することができる。
【0020】
しかも、このように試験体の切断側面の硬度を測定する場合、伸び量を測定したり、引張試験を行うときのような長尺な試験体を必要としないことから、試験体の切り抜き箇所を小さく抑えることができる。従って、この切り抜き箇所にシーリング材を注入するだけで、シーリング材を元の状態に容易に戻すことができ、診断後の修復作業も簡単に済ますことができる。
【0021】
また、試験体の切断側面のうち、外壁材の小口面に対向していた部位の硬度を測定することで、界面破壊の危険性をより精度良く把握することができる。さらに、外壁目地部の目地幅と同等の幅を有する試験体を採取したり、円筒状の切断具を使用して円柱状の試験体を採取することで、採取箇所にかかわらず略一定した幅(厚み)を有する試験体を得ることができ、これによって測定した硬度を補正する必要がなく、硬度測定を精度良く安定して行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】住宅の外壁部の要部横断面図である。
【図2】円柱状の試験体の採取作業を示す斜視図である。
【図3】同じくその要部横断面図である。
【図4】デュロメータを用いた硬度測定作業を示す斜視図である。
【図5】直方体状の試験体の採取作業を示す斜視図である。
【図6】デュロメータを用いた硬度測定作業を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、この発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は、外壁材1、1間の外壁目地部2に湿式の建築用シーリング材3を充填してなる住宅の外壁部を示している。外壁材1、1は、例えばコンクリート製板材からなり、その側端面(小口面)4、4によって外壁目地部2が構成されている。シーリング材3は、例えばシリコーンシーラントからなり、ペースト状態で外壁目地部2に注入されて、外壁材1、1の小口面4、4に接着しながら固化することで、外壁目地部2をシールするようになっている。なお、5は、シーリング材3を受ける例えば軟質樹脂製のバックアップ材である。
【0024】
この外壁目地部2に充填したシーリング材3は、耐候性に優れていて、表面にクラックが発生し難く、凝集破壊し難いといった特徴を有しているが、その反面、劣化して硬くなるとモジュラスが上昇して、外壁材1、1の小口面4、4との接着界面における負担が大きくなって、結果として界面破壊(界面剥離や外壁材1、1の小口面4、4の破壊等)が生じ易くなるといった傾向にある。このような界面破壊の危険性を予測するための1つの指標として、表1に示すような経年数とともに高くなるシーリング材3の側面(目地深さ方向の面)部分の硬度が挙げられる。
【0025】
【表1】

【0026】
そこで、上記のシーリング材3の劣化診断に際しては、ひび割れの危険性を予測するための指標となるシーリング材3の表面硬度を測定するよりも、界面破壊の危険性を予測するための指標となるシーリング材3の側面硬度を測定するようにしている。
【0027】
以下、シーリング材3の劣化診断方法について具体的に説明する。まず、切断具10を使用して、図2に示すように、外壁目地部2からシーリング材3を部分的に切り抜いて試験体20を採取する。
【0028】
切断具10は、外壁目地部2の目地幅W1と略同等の外径を有する円筒状に形成されていて、その先端部が環状刃部11となっている。そして、この切断具10の環状刃部11を、図3に示すように、シーリング材3の表面からバックアップ材5の表面に到達するまで押し込むことで、シーリング材3を目地幅W1の略全長に亘って切り抜いて、目地幅W1と略同等の幅(直径)W2を有する円柱状の試験体20を採取している。なお、切断具10は、その後端部に把手12が取り付けられているが、このような構造のものだけに限らず、例えばドリルドライバーに装着可能な装着軸を後端部に取り付けたものであっても良い。
【0029】
次に、図4に示すように、採取した試験体20の切断側面21の硬度を、現場においてデュロメータ30等の硬度計を用いて測定する。この場合、試験体20の切断側面21のうち、特に外壁目地部2を構成する外壁材1、1の小口面4、4に対向していた部位21a、21aの硬度を測定するのが望ましい。このような部位21a、21aは、シーリング材3と外壁材1、1の小口面4、4との接着界面に近いことから、その硬度を測定することで、界面破壊の危険性をより精度良く把握することができるからである。
【0030】
なお、デュロメータ30は、外装ケース31の下端中央部から図示しないバネによって付勢した押針を突出させた構造となっており、試験体20の切断側面21に押し付けた押針の食い込み量から硬度を検出するようになっている。
【0031】
ここで、測定物の硬度は、測定物の厚さに依存することから、測定物の厚さがまちまちであれば、それに応じて測定した硬度を補正する必要がある。従来の第2の方法のように、充填状態のままでシーリング材3の表面の硬度を測定する場合、測定物の厚みに相当するシーリング材3の深さが、充填時の均し方や充填量に左右されて一定しておらず、さらにバックアップ材5の影響も加味されることから、測定箇所によって硬度にバラツキが生じ易く、しかも硬度を補正するにもシーリング材3の深さが不明であって、測定した硬度の信頼性が低いといった問題がある。また、外壁目地部2からシーリング材3を部分的に切り抜いて試験体20を採取しても、その試験体20の表面の硬度を測定する場合には、依然として測定物の厚みに相当する試験体20の深さが、採取箇所によって異なることが多くて一定しておらず、測定した硬度を補正する必要性が高いといった問題がある。
【0032】
これに対して、上記のように円柱状に切り抜いた試験体20の切断側面21の硬度を測定する場合、測定物の厚みに相当する試験体20の幅(直径)W2が、円筒状の切断具10の内径と同じ(目地幅W1と略同等)であって、採取箇所にかかわらず略一定していることから、測定した硬度を補正する必要がなく、硬度測定を精度良く安定して行うことができる。
【0033】
そして、試験体20の切断端面21の硬度を測定した後、その測定硬度値と予め実験等によって得られた基準硬度値とを比較することで、シーリング材3の側面部分の硬化度合を判定して、シーリング材3と外壁材1、1の小口面4、4との接着界面付近における界面破壊の危険性を予測するようにしている。
【0034】
上記のような劣化診断方法によれば、現場において、シーリング材3の劣化度合を簡便に定量化しながら、シーリング材3と外壁材1、1の小口面4、4との接着界面付近での界面破壊の危険性を簡単に確認することができる。しかも、試験体20を切り抜いた箇所に、新しくシーリング材をスポット的に注入するだけで、シーリング材3を切り抜き前の元の状態に容易に戻すことができ、診断後の修復作業も簡単に済ますことができる。
【0035】
この発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、この発明の範囲内で上記実施形態に多くの修正及び変更を加え得ることは勿論である。
【0036】
例えば、上記実施形態においては、円筒状の切断具10を使用して、円柱状の試験体20を採取していたが、図5に示すように、カッター40等を使用して、例えばシーリング材3を目地幅W1の略全長に亘って切り抜いて、目地幅W1と略同等の幅W3を有する直方体状の試験体22を採取しても良い。そして、図6に示すように、試験体22の切断側面23のうち、特に外壁材1、1の小口面4、4に対向していた部位23a、23aの硬度を、デュロメータ30等の硬度計を用いて測定すれば良い。なお、この場合においても、測定物の厚みに相当する試験体22の幅W3が、目地幅W1と略同等であって、採取箇所にかかわらず略一定していることから、測定した硬度を補正する必要がなく、硬度測定を精度良く安定して行うことができる。
【0037】
また、シーリング材3の劣化診断に際しては、界面破壊の危険性を予測するための指標となる試験体20、22の切断側面21、23の硬度を測定するだけでなく、ひび割れの危険性を予測するための指標となる試験体20、22の表面の硬度も同時に測定して、界面破壊とひび割れの双方の危険性を確認するようにしても良い。
【符号の説明】
【0038】
1・・外壁材、2・・外壁目地部、3・・シーリング材、4・・小口面、10・・切断具、11・・環状刃部、20、22・・試験体、21、23・・切断側面、21a、23a・・切断側面の部位、30・・デュロメータ、W1・・目地幅、W2、W3・・試験体の幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の外壁目地部(2)に充填したシーリング材(3)の劣化を診断するための劣化診断方法であって、前記外壁目地部(2)から前記シーリング材(3)を部分的に切り抜いて試験体(20)(22)を採取するとともに、その試験体(20)(22)の少なくとも切断側面(21)(23)の硬度を測定するようにしたことを特徴とするシーリング材の劣化診断方法。
【請求項2】
前記試験体(20)(22)の切断側面(21)(23)のうち、前記外壁目地部(2)を構成する外壁材(1)(1)の小口面(4)(4)に対向していた部位(21a)(23a)の硬度を測定するようにした請求項1記載のシーリング材の劣化診断方法。
【請求項3】
前記シーリング材(3)を目地幅(W1)全長に亘って切り抜いて、前記目地幅(W1)と同等の幅(W2)(W3)を有する前記試験体(20)(22)を採取するようにした請求項1又は2記載のシーリング材の劣化診断方法。
【請求項4】
先端部に環状刃部(11)を有する円筒状の切断具(10)を前記シーリング材(3)の表面から押し込んで、円柱状の前記試験体(20)を採取するようにした請求項1乃至3のいずれかに記載のシーリング材の劣化診断方法。
【請求項5】
前記試験体(20)(22)の切断側面(21)(23)の硬度を、現場においてデュロメータ(30)を用いて測定するようにした請求項1乃至4のいずれかに記載のシーリング材の劣化診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−256236(P2010−256236A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−108108(P2009−108108)
【出願日】平成21年4月27日(2009.4.27)
【出願人】(000198787)積水ハウス株式会社 (748)