説明

シールゴムの洗浄方法および超音波洗浄装置

【課題】インクジェット方式の機能液滴吐出ヘッドの内部流路に介設したシールゴムに付着した機能液やその他の異物を効率的に除去することのできるシールゴムの洗浄方法等を提供する。
【解決手段】インクジェット方式の機能液滴吐出ヘッド1を分解して取り出したシールゴム4を、付着した機能液が乾燥する前に機能液の溶媒に浸漬する浸漬工程S1と、浸漬工程S1の後、シールゴム4を洗浄液で超音波洗浄する洗浄工程S2と、洗浄工程S2の後、シールゴム4をアルコールで洗浄するアルコール洗浄工程S3と、アルコール洗浄工程S3の後、シールゴム4を自然乾燥させる乾燥工程S4と、乾燥工程S4の後、シールゴム4の外観を顕微鏡で検査する検査工程S5と、から成り、洗浄工程S2では、洗浄液を循環させ且つフィルタリングしながら超音波洗浄を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット方式の機能液滴吐出ヘッドの内部流路に介設したシールゴムの洗浄方法および超音波洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、超音波洗浄機に洗浄液(1−ブロモプロパン)を入れ、これにシリコーンゴム製品を浸漬させ、10分間超音波による処理を施すシリコーンゴム製品の洗浄方法が知られている。
この洗浄方法では、洗浄液がシリコーンゴム製品の内部に浸透することで、シリコーンゴム製品内部に残留する異物(低分子ジメチルポリシロキサン)が、洗浄液に溶出するようになっている。
【特許文献1】特開2006−124489号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、シリコーンゴム製品の使用により、その表面に塵埃等が付着した場合、これを除去するには、洗浄液に浸漬した後、ブラシ等を用いて付着物をかき取らなければならず、シリコーンゴム製品表面に傷が付き、そのシール性能を大きく低下させてしまうという問題があった。
【0004】
本発明は、シールゴムを傷めることなく、付着した機能液やその他の異物を効率的に除去することのできるシールゴムの洗浄方法および超音波洗浄装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のシールゴムの洗浄方法は、インクジェット方式の機能液滴吐出ヘッドの内部流路に介設したシールゴムの洗浄方法であって、機能液滴吐出ヘッドを分解して取り出したシールゴムを、付着した機能液が乾燥する前に機能液の溶媒に浸漬する浸漬工程と、浸漬工程の後、シールゴムを洗浄液で洗浄する洗浄工程と、を備えたことを特徴とする。
【0006】
この構成によれば、シールゴムを洗浄液で洗浄する前に、機能液の溶媒に浸漬させることで、機能液の成分が乾燥によりシールゴムにこびり付くことを防止することができる。つまり、その後の本格的な洗浄を行う洗浄工程の前の下処理(予備洗浄)を行うことができる。これにより、洗浄工程において汚れを効率良く洗い落とすことができる。
【0007】
この場合、洗浄液が、溶媒に界面活性剤を添加したものであることが好ましい。
【0008】
この構成によれば、洗浄液に含まれる界面活性剤により、シールゴムに付着した機能液を効率良く洗浄することができる。
【0009】
また、この場合、洗浄工程は、洗浄液を貯留した第1洗浄液容器に、シールゴムを浸漬してすすぐ洗浄液すすぎ工程と、洗浄液を貯留した第2洗浄液容器にシールゴムを浸漬して超音波洗浄する超音波洗浄工程と、から成ることが好ましい。
【0010】
この構成によれば、機能液の溶媒に浸漬した後に、洗浄液に浸漬することでシールゴムの表面に付着している機能液の固形成分等の異物をすすぐことができる。これにより、あらかた洗浄されたシールゴムに対して超音波洗浄を施すことができるため、より有効な洗浄を行うことができると共に、異物による第2洗浄液容器内の洗浄液の汚染を抑制することができる。
【0011】
この場合、超音波洗浄工程は、第2洗浄液容器内の洗浄液を循環させ且つフィルタリングしながら行われることが好ましい。
【0012】
この構成によれば、第2洗浄液容器内のシールゴムは、常に異物が取り除かれた汚染のない洗浄液に曝されるため、洗浄液の洗浄力の低下を抑制することができると共に、異物の再付着を防止することができる。
【0013】
また、この場合、フィルタリングは、機能液滴吐出ヘッドのノズル径以上の大きさの異物を濾過することが好ましい。
【0014】
この構成によれば、万が一、洗浄後のシールゴムに、洗浄し剥離したはずの異物が再付着した場合であっても、このシールゴムの再使用時にノズル詰りを生じさせることがない。
【0015】
この場合、洗浄工程の後、シールゴムをアルコールで洗浄するアルコール洗浄工程を、更に備えたことが好ましい。
【0016】
また、この場合、アルコール洗浄工程は、アルコールを貯留した第1アルコール容器に、シールゴムを浸漬してすすぐアルコールすすぎ工程と、アルコールを貯留した第2アルコール容器にシールゴムを浸漬して超音波洗浄するアルコール超音波洗浄工程と、から成ることが好ましい。
【0017】
これらの構成によれば、洗浄後のシールゴムの表面に付着した洗浄液をすすぐことができる。また、アルコールですすいだシールゴムに対して、アルコールによる超音波洗浄を行うことができるため、洗浄液による第2アルコール容器内のアルコールの汚染を抑制することができる。
【0018】
さらに、この場合、アルコール洗浄工程の後、シールゴムを自然乾燥させる乾燥工程と、乾燥工程の後、シールゴムの外観を顕微鏡で検査する検査工程と、を更に備えることが好ましい。
【0019】
この構成によれば、シールゴムが完璧に洗浄されたことを確認でき、洗浄後のシールゴムの再利用による機能液滴吐出ヘッドのノズル詰り等の不良を確実に防止することができる。
【0020】
本発明の超音波洗浄装置は、上記したシールゴムの洗浄方法における超音波洗浄工程を実施する超音波洗浄装置であって、洗浄液を貯留した洗浄液容器と、洗浄液容器に接続され、超音波を作用させる超音波発信器と、洗浄液容器に両端を連通し、洗浄液容器内の洗浄液を循環させる循環流路と、循環流路に介設され、洗浄液容器内の洗浄液を循環させる循環手段と、循環流路に介設され、循環する洗浄液を濾過する濾過手段と、から成ることを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、機能液の付着したシールゴムを機能液の溶媒に浸漬させる下処理(予備洗浄)および洗浄液によるすすぎを行った後、超音波洗浄装置を用いた洗浄液による洗浄を行うことで、機能液の成分が乾燥によりシールゴムにこびり付くことを防止することができると共に、効率良く汚れを洗い落とすことができる。また、超音波洗浄装置の洗浄液容器内の洗浄液を濾過手段により濾過しつつ循環させることにより、洗浄液容器内のシールゴムは、常に異物が取り除かれた汚染のない洗浄液に曝されるため、洗浄液の洗浄力の低下を抑制することができると共に、異物の再付着を防止することができる。なお、超音波洗浄装置は、洗浄液容器と超音波発信器とが分離しているセパレート型を用いてもよいし、洗浄液容器と超音波発信器とが一体となった一体型を用いてもよい。
【0022】
この場合、濾過手段は、機能液滴吐出ヘッドのノズル径以上の大きさの異物を濾過可能なフィルタで構成されていることが好ましい。
【0023】
この構成によれば、万が一、洗浄後のシールゴムに、洗浄し剥離したはずの異物が再付着した場合であっても、このシールゴムの再使用時にノズル詰りを生じさせることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、添付図面を参照して、本発明の一実施形態に係るシールゴムの洗浄方法について説明する。この洗浄方法は、機能液滴吐出ヘッドを分解して取り出したシールゴムを洗浄する。そこで、洗浄方法の説明に先立ち、機能液滴吐出ヘッドについて説明する。
【0025】
図1に示すように、機能液滴吐出ヘッド1は、2本の接続針21を有する機能液導入部2と、機能液導入部2の下側に連なり機能液滴を吐出させる吐出機能部3と、で構成されている。また、吐出機能部3は、機能液導入部2の下側に連なるヘッド基板31と、ヘッド基板31の下側に連なり2本のノズル列51を有する吐出部本体32と、で構成されている。
【0026】
機能液導入部2は、機能液の導入口となる2本の接続針21と、接続針21の下側に連なる導入部本体22と、で構成されている。導入部本体22の接続針21側の面には、一対の窪み部が形成されており、この部分に2つのフィルタ23が組み込まれている。各接続針21は、各フィルタ23を内包して導入部本体22に熱圧着されている。また、導入部本体22の吐出機能部3側の面には、吐出機能部3に連通する2つの接続口24が形成されている(図3参照)。一方、導入部本体22の長辺方向の両端部には、一対の貫通孔25が形成されており、機能液導入部2は、この貫通孔25およびヘッド基板31を貫通させて吐出部本体32に螺合した2本のネジにより、吐出機能部3に固定されている。
【0027】
各接続針21の先端には、機能液を供給するための複数の導入孔26が形成されており、配管接続部材(図示省略)を介して機能液を供給する機能液タンク(図示省略)に接続されている。各接続針21から流入した機能液は、フィルタ23で濾過され、接続口24につながる流路を流れて、吐出機能部3に流下する。
【0028】
ヘッド基板31には、制御用回路配線が形成されており、ヘッド基板31の機能液導入部2側の面には、制御ケーブルが接続される2つのコネクタ33が設けられている。この制御ケーブルを介して、後述する圧電素子41に電力を印加することにより、吐出部本体32から機能液滴が吐出される。また、ヘッド基板31には、導入部本体22の各貫通孔25と連通する位置に、一対の遊嵌孔34が形成されている。
【0029】
吐出部本体32は、ヘッド基板31の下側に連なる略方形のフランジ部35と、フランジ部35の下側に連なり各ノズル列51に対応する2つのポンプ部36と、ポンプ部36の下側に接着され、複数の吐出ノズル52を形成したノズルプレート37と、で構成されている。
【0030】
フランジ部35には、ヘッド基板31の各遊嵌孔34に嵌合されるように突出した一対のネジ孔部35aが設けられている(図3参照)。各ネジ孔部35aには、導入部本体22の貫通孔25を通るネジと螺合するように、一対のネジ孔35bが形成されている(図3参照)。
【0031】
図2(a)に模式的に示すように、各ポンプ部36は、吐出ノズル52の数に対応する圧電素子41と、圧電素子41を収容した機構部42と、接着フィルム43を介してノズルプレート37と共に機構部42に接合されるシリコンキャビティ44と、で構成されている。つまり、ノズルプレート37は、シリコンキャビティ44に接着されている。シリコンキャビティ44は、接着フィルム43を介して、機構部42に接着され、圧力室45を構成している。
【0032】
また、図2(b)に示すように、ポンプ部36内には、吐出する機能液を溜める圧力室45と、各圧力室45に供給するための機能液を溜めると共に上記の接続口24に連通する共通室46と、各圧力室45と共通室46とをつなぐ供給路47と、が形成されている。そして、各圧力室45は、吐出ノズル52(圧電素子41)の数に対応しており、各吐出ノズル52に連通している。
【0033】
ポンプ部36の機能液導入部2側の面には、フランジ部35を貫通して、2つの流入口48が形成されている(図3参照)。流入口48と導入部本体22の接続口24とは、シールゴム4(図3参照)を介して連通しており、各流入口48から流入した機能液は、各ポンプ部36内の流路を満たす。これにより、各接続針21から流入した機能液は、機能液滴吐出ヘッド1全体のヘッド内流路を満たす。
【0034】
ノズルプレート37は、ステンレス板等で形成されおり、そのノズル面には、2本のノズル列51が相互に平行に列設されている。各ノズル列51は、等ピッチで並べた180個(図1(b)では模式的に表している)の吐出ノズル52で構成されており、2本のノズル列51は半ピッチずれた状態で配設されている。そして、各吐出ノズル52のノズル口53は、撥水層54を形成した円形窪み部55の奥に開口している。
【0035】
ところで、機能液滴吐出ヘッド1は、液滴吐出装置等の装置に組み込む前に、吐出試験を個別に行い、吐出不良となった機能液滴吐出ヘッド1は、廃棄処分されてしまう。しかし、ポンプ部36の流入口48と導入部本体22の接続口24との接続をシールするシールゴム4は、特殊な機能液の使用にも耐えるように、耐溶剤性・耐熱性等に優れた特殊なフッ素ゴム(パーフロロゴム)から造られている。このフッ素ゴムは、非常に高価であるため、コストの面から機能液滴吐出ヘッド1からシールゴム4を取り出して再利用する必要性がある。また、フッ素ゴムからなるシールゴム4の表面は、粘り気があり、一度汚れが付着すると汚れを除去することが非常に困難であり、ブラシ等を用いて付着物をかき取ろうとすると、その表面に傷が付き、そのシール性能を大きく低下させてしまうという問題もあった。
そこで、機能液滴吐出ヘッド1を分解して取り出したシールゴム4を再利用すべく、本実施形態では、以下のような、洗浄方法を用いてシールゴム4の洗浄を実施している。
【0036】
洗浄対象物であるシールゴム4は、上記したように、フッ素ゴム製であり、ポンプ部36の2つの流入口48に対応するように平面視「8の字」形状に形成されている。機能液の流入する2つのリングの部分に対し、連結部分は薄手に形成されており、この2つのリング部分が2つの流入口48に嵌合し、上から導入部本体22の接続口24が押し付けられてシールされるようになっている。
【0037】
以下、図4ないし図6を参照して、本実施形態に係るシールゴム4の洗浄方法および洗浄方法に用いる各種容器について詳細に説明する。この洗浄方法は、機能液滴吐出ヘッド1を分解して取り出したシールゴム4を、付着した機能液が乾燥する前に機能液の溶媒に浸漬する浸漬工程S1と、浸漬工程S1の後、シールゴム4を洗浄液で洗浄する洗浄工程S2と、洗浄工程S2の後、シールゴム4をエタノールで洗浄するアルコール洗浄工程S3と、アルコール洗浄工程S3の後、シールゴム4を自然乾燥させる乾燥工程S4と、乾燥工程S4の後、シールゴム4の外観を顕微鏡で検査する検査工程S5と、に大別される。
【0038】
浸漬工程S1では、溶媒容器61が使用され、溶媒容器61は、機能液の溶媒を貯留する。
洗浄工程S2では、第1洗浄液容器71および第2洗浄液容器73を有し、超音波洗浄を行う超音波洗浄装置72が使用される。第1洗浄液容器71および第2洗浄液容器73には、溶媒に界面活性剤を添加した洗浄液が貯留されている。
アルコール洗浄工程S3では、第1アルコール容器81および第2アルコール容器83を有し、超音波洗浄を行うアルコール超音波洗浄装置82が使用される。第1アルコール容器81および第2アルコール容器83には、すすぎ用アルコールであるエタノールが貯留されている。
【0039】
浸漬工程S1に用いる溶媒容器61は、ステンレス製の箱状に形成されており、機能液滴吐出ヘッド1を分解して取り出したシールゴム4を、付着した機能液が乾燥する前に浸漬するための機能液の溶媒を貯留している。シールゴム4を機能液の溶媒に浸漬させることで、機能液の成分が乾燥によりシールゴム4にこびり付くことを防止することができる。つまり、その後の本格的な洗浄を行う洗浄工程S2の前の下処理(予備洗浄)を行うことができる。これにより、洗浄工程S2において汚れを効率良く洗い落とすことができる。また、予備洗浄を行うことで、後の洗浄工程S2において用いる洗浄液の機能液による汚染を最小限に抑えることができ、洗浄液を頻繁に交換する必要がなく、シールゴム4の洗浄にかかるコストを削減することもできる。
【0040】
浸漬工程S1では、先ず、機能液滴吐出ヘッド1を分解して、シールゴム4を取り出しておき、シールゴム4に付着した機能液が乾燥する前に溶媒容器61に貯留した機能液の溶媒に浸漬する。浸漬する時間は、シールゴム4に付着した機能液の種類等により異なるが、本実施形態では、24時間浸漬させている。
【0041】
洗浄工程S2に用いる第1洗浄液容器71は、ステンレス製の箱状に形成されており、溶媒容器61において機能液の溶媒に浸漬した後に、シールゴム4を洗浄液に浸漬してすすぐための洗浄液を貯留している。洗浄液に浸漬することでシールゴム4の表面に付着している機能液の固形成分等の異物をすすぐことができる。これにより、あらかた洗浄されたシールゴム4に対して超音波洗浄を施すことができるため、より有効な洗浄を行うことができる。なお、本実施形態では、シールゴム4に付着した機能液を効率良く洗浄するために、機能液の溶媒に、重量比5%の界面活性剤を添加したものを洗浄液として用いているが、洗浄液はこれに限ったものではない。
【0042】
図5に示すように、洗浄工程S2に用いる超音波洗浄装置72は、洗浄液を貯留した第2洗浄液容器73と、第2洗浄液容器73に接続され、第2洗浄液容器73内の洗浄液に浸漬したシールゴム4に超音波を作用させる超音波発信器74と、第2洗浄液容器73に両端を連通し、第2洗浄液容器73内の洗浄液を循環させるための流路となる循環チューブ75(循環流路)と、循環チューブ75に介設され、第2洗浄液容器73内の洗浄液を循環させる循環ポンプ76(循環手段)と、循環ポンプ76により循環する洗浄液を濾過する循環フィルタ77(濾過手段)と、から構成されている。
【0043】
第2洗浄液容器73は、ステンレス製の箱状に形成されており、第1洗浄液容器71の洗浄液に浸漬した後に、シールゴム4を洗浄液に浸漬して超音波洗浄を行うために洗浄液を貯留し、超音波洗浄を行う上での洗浄槽となっている。
【0044】
超音波発信器74は、汎用製品であり、専用ケーブルで第2洗浄液容器73に接続され、第2洗浄液容器73内の振動板(図示省略)を超音波振動させる。機能液の付着したシールゴム4は、機能液の溶媒に浸漬させる予備洗浄および洗浄液によるすすぎが行われているため、異物による第2洗浄液容器73内の洗浄液の汚染を抑制することができる。なお、本実施形態では、洗浄槽である第2洗浄液容器73と超音波を発生させる超音波発信器74とが、分離しているセパレート型の超音波洗浄装置72を用いているが、洗浄槽と超音波発信器74とが、一体となった超音波洗浄装置72を用いてもよい。
【0045】
循環ポンプ76は、第2洗浄液容器73内の洗浄液が、循環チューブ75を一方向に流れるようにする(図5においては時計回り)。また、循環チューブ75の上流側に介設された循環フィルタ77は、機能液滴吐出ヘッド1の吐出ノズル52径以上の異物を濾過可能なメッシュ状のもので構成されている。これにより、第2洗浄液容器73内のシールゴム4は、常に異物が取り除かれた汚染のない洗浄液に曝されるため、洗浄液の洗浄力の低下を抑制することができると共に、異物の再付着を防止することができる。また、万が一、洗浄後のシールゴム4に、洗浄し剥離したはずの異物が再付着した場合であっても、その異物は機能液滴吐出ヘッド1の吐出ノズル52径以下の大きさである。このため、シールゴム4を機能液滴吐出ヘッド1に組み込み、使用し、その異物が脱落したとしても、その異物がノズル詰りを生じさせることがない。
また、第2洗浄液容器73内の洗浄液は、第2洗浄液容器73の一方の側面下部に、一端を接続した循環チューブ75内を通って流出し、循環フィルタ77を経由して、第2洗浄液容器73の他方の側面上部に、他端を接続した循環チューブ75内を通って、再び第2洗浄液容器73内に貯留される。このため、第2洗浄液容器73内底部に溜まった異物を、効果的に循環チューブ75内に導いて循環フィルタ77により濾すことができる。
なお、循環フィルタ77の異物除去性能(濾過可能径)は任意であるし、循環フィルタ77を循環ポンプ76の下流側に介設してもかまわない。
【0046】
洗浄工程S2は、洗浄液を貯留した第1洗浄液容器71に、シールゴム4を浸漬してすすぐ洗浄液すすぎ工程S21と、洗浄液すすぎ工程S21を経た後に、洗浄液を貯留した第2洗浄液容器73にシールゴム4を浸漬して超音波洗浄装置72により超音波洗浄する超音波洗浄工程S22と、から成る。
【0047】
溶媒容器61から取り出されたシールゴム4は、第1洗浄液容器71に貯留した洗浄液に浸漬され、シールゴム4の表面に残留している機能液およびその溶媒がすすがれる(洗浄液すすぎ工程S21)。数分のすすぎ時間が経過した後、超音波洗浄装置72の第2洗浄液容器73に貯留した洗浄液にシールゴム4を浸漬させ、超音波発信器74および循環ポンプ76を駆動して超音波洗浄を10分間実施する(超音波洗浄工程S22)。
【0048】
図4に示すように、アルコール洗浄工程S3に用いる第1アルコール容器81は、ステンレス製の箱状に形成されており、超音波洗浄装置72において超音波洗浄を行った後のシールゴム4を、浸漬してすすぐためのエタノール(すすぎ用アルコール)を貯留している。エタノールに浸漬することで、洗浄液による洗浄後のシールゴム4の表面に付着している洗浄液、或いは再付着した異物をすすぐことができる。なお、本実施形態では、すすぎ用のアルコールとして、エタノールを使用しているが、その機能に相違がなければエタノール以外のアルコールを用いてもよい。
【0049】
アルコール洗浄工程S3に用いるアルコール超音波洗浄装置82は、ステンレス製の箱状に形成され、エタノールを貯留した洗浄槽となる第2アルコール容器83と、第2アルコール容器83に組み込まれ、第2アルコール容器83内のシールゴム4に超音波を作用させる内蔵超音波発信器84と、で構成されている。これにより、エタノールですすいだシールゴム4に対して、エタノールによる超音波洗浄を行うことができるため、洗浄液による第2アルコール容器83内のエタノールの汚染を抑制することができる。また、万が一、洗浄後のシールゴム4に異物が再付着した場合でも、その異物を確実に除去することができる。なお、本実施形態では、洗浄槽と内蔵超音波発信器84とが一体となったアルコール超音波洗浄装置82を用いているが、超音波洗浄装置72と同様のセパレート型を用いてもよい。また、アルコール超音波洗浄装置82を別途設けず、超音波洗浄装置72の第2洗浄液容器73内の洗浄液とエタノールとを交換して用いてもかまわない。
【0050】
アルコール洗浄工程S3は、エタノールを貯留した第1アルコール容器81に、シールゴム4を浸漬してすすぐアルコールすすぎ工程S31と、アルコールすすぎ工程S31を経た後に、エタノールを貯留した第2アルコール容器83にシールゴム4を浸漬して超音波洗浄するアルコール超音波洗浄工程S32と、から成る。
【0051】
第2洗浄液容器73から取り出されたシールゴム4は、第1アルコール容器81に貯留したエタノールに浸漬され、シールゴム4の表面に残留している洗浄液がすすがれる(アルコールすすぎ工程S31)。数分のすすぎ時間が経過した後、アルコール超音波洗浄装置82の第2アルコール容器83に貯留したエタノールにシールゴム4を浸漬させ、内蔵超音波発信器84を駆動して超音波洗浄を10分間実施する(アルコール超音波洗浄工程S32)。
【0052】
そして、アルコール洗浄工程S3の後、シールゴム4の表面のエタノールが気化し完全に乾燥するように常温で一定時間(12時間)放置する(乾燥工程S4)。自然乾燥させた後、シールゴム4の外観を顕微鏡で観察し、機能液の付着の有無や一連の洗浄作業において傷が付いていないかどうか等を検査する(検査工程S5)。これにより、シールゴム4が完璧に洗浄されたことを確認でき、洗浄後のシールゴム4の再利用による機能液滴吐出ヘッド1のノズル詰り等の不良を確実に防止することができる。
【0053】
なお、シールゴム4の洗浄は、空気中の塵埃による影響を避けるため、クリーンブース等で行われることが好ましい。また、一度に洗浄できるシールゴム4の数は、各容器61,71,73,81,83の大きさ、貯留する洗浄液等の量および超音波洗浄装置72等(超音波発信器74等)の性能に依存しており、単数でもよいし複数でもよい。また、各工程S1,S2,S3,S4,S5は、単数または複数のシールゴム4を専用の治具にセットした状態で実施してもよいし、治具等を用いずシールゴム4のみを各容器61,71,73,81,83に浸漬させて実施してもよい。
【0054】
以上の構成によれば、シールゴム4を洗浄液で洗浄する前に、機能液の溶媒に浸漬させることで、機能液の成分が乾燥によりシールゴム4にこびり付くことを防止することができる。つまり、その後の本格的な洗浄を行う洗浄工程S2の前の下処理(予備洗浄)を行うことができる。これにより、洗浄工程S2において汚れを効率良く洗い落とすことができる。
また、超音波洗浄装置72の第2洗浄液容器73内の洗浄液を循環フィルタ77により濾過しつつ循環させることにより、第2洗浄液容器73内のシールゴム4は、常に異物が取り除かれた汚染のない(少ない)洗浄液に曝されるため、洗浄液の洗浄力の低下を抑制することができると共に、異物の再付着を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】機能液滴吐出ヘッドの表裏外観斜視図である。
【図2】機能液滴吐出ヘッドのポンプ部を模式的に表した拡大断面図(a)および拡大斜視図(b)である。
【図3】機能液滴吐出ヘッドの分解斜視図である。
【図4】本実施形態の洗浄方法の概略を示す模式図である。
【図5】本実施形態のシールゴムの洗浄方法で用いる超音波洗浄装置の模式図である。
【図6】シールゴムの洗浄方法のフローチャートである。
【符号の説明】
【0056】
1:機能液滴吐出ヘッド、4:シールゴム、71:第1洗浄液容器、72:超音波洗浄装置、73:第2洗浄液容器、74:超音波発信器、75:循環チューブ、76:循環ポンプ、77:循環フィルタ、81:第1アルコール容器、83:第2アルコール容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット方式の機能液滴吐出ヘッドの内部流路に介設したシールゴムの洗浄方法であって、
前記機能液滴吐出ヘッドを分解して取り出した前記シールゴムを、付着した機能液が乾燥する前に前記機能液の溶媒に浸漬する浸漬工程と、
前記浸漬工程の後、前記シールゴムを洗浄液で洗浄する洗浄工程と、を備えたことを特徴とするシールゴムの洗浄方法。
【請求項2】
前記洗浄液が、前記溶媒に界面活性剤を添加したものであることを特徴とする請求項1に記載のシールゴムの洗浄方法。
【請求項3】
前記洗浄工程は、前記洗浄液を貯留した第1洗浄液容器に、前記シールゴムを浸漬してすすぐ洗浄液すすぎ工程と、
前記洗浄液を貯留した第2洗浄液容器に前記シールゴムを浸漬して超音波洗浄する超音波洗浄工程と、から成ることを特徴とする請求項1または2に記載のシールゴムの洗浄方法。
【請求項4】
前記超音波洗浄工程は、前記第2洗浄液容器内の前記洗浄液を循環させ且つフィルタリングしながら行われることを特徴とする請求項3に記載のシールゴムの洗浄方法。
【請求項5】
前記フィルタリングは、前記機能液滴吐出ヘッドのノズル径以上の大きさの異物を濾過することを特徴とする請求項4に記載のシールゴムの洗浄方法。
【請求項6】
前記洗浄工程の後、前記シールゴムをアルコールで洗浄するアルコール洗浄工程を、更に備えたことを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のシールゴムの洗浄方法。
【請求項7】
前記アルコール洗浄工程は、前記アルコールを貯留した第1アルコール容器に、前記シールゴムを浸漬してすすぐアルコールすすぎ工程と、
前記アルコールを貯留した第2アルコール容器に前記シールゴムを浸漬して超音波洗浄するアルコール超音波洗浄工程と、から成ることを特徴とする請求項6に記載のシールゴムの洗浄方法。
【請求項8】
前記アルコール洗浄工程の後、前記シールゴムを自然乾燥させる乾燥工程と、
前記乾燥工程の後、前記シールゴムの外観を顕微鏡で検査する検査工程と、を更に備えたことを特徴とする請求項6および7に記載のシールゴムの洗浄方法。
【請求項9】
請求項4に記載のシールゴムの洗浄方法における超音波洗浄工程を実施する超音波洗浄装置であって、
前記洗浄液を貯留した洗浄液容器と、
前記洗浄液容器に接続され、超音波を作用させる超音波発信器と、
前記洗浄液容器に両端を連通し、前記洗浄液容器内の洗浄液を循環させる循環流路と、
前記循環流路に介設され、前記洗浄液容器内の前記洗浄液を循環させる循環手段と、
前記循環流路に介設され、循環する前記洗浄液を濾過する濾過手段と、から成ることを特徴とする超音波洗浄装置。
【請求項10】
前記濾過手段は、前記機能液滴吐出ヘッドのノズル径以上の大きさの異物を濾過可能なフィルタで構成されていることを特徴とする請求項9に記載の超音波洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−110713(P2010−110713A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−286821(P2008−286821)
【出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】