説明

シールドガス流量制御装置

【課題】共通の体積流量計を用いて種類の異なるシールドガスの流量を制御することのできるシールドガス流量制御装置を提供する。
【解決手段】種類が異なるシールドガス3A,3Bを供給する複数のシールドガス供給源3と、レーザ溶接加工位置へシールドガスを噴射するガス噴射ノズル13と、当該ガス噴射ノズル13と前記シールドガス供給源3とを接続した接続管路14中に配置され、前記ガス噴射ノズル13へのシールドガスの流量を制御するための体積流量計11と、当該体積流量計11に流入されるシールドガスの圧力を所望の圧力に制御自在の圧力制御弁9とを備え、前記体積流量計11に対してシールドガスの流量を指令する流量指令制御部29に、前記圧力制御弁9の設定圧とシールドガスのガス種とガス流量とを関連付けして格納した流量・圧力データテーブル35を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工機によってレーザ溶接を行うときに、レーザ溶接部へ噴射供給するシールドガスの流量制御を行う流量制御装置に係り、さらに詳細には、例えば窒素、アルゴンなどのように、種類の異なるシールドガスをレーザ溶接部へ選択的に供給するとき、共通の体積流量計を使用しても各シールドガスを適正量に制御して供給することのできるシールドガス流量制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ加工機によってレーザ溶接を行うとき、溶接部の冷却、酸化反応の低減を図るために、溶接部に対して不活性ガス(シールドガス)の噴射が行われている。前記シールドガスとしては窒素、アルゴンが一般的に使用されている。そして、シールドガスとしての窒素、アルゴンを使いわけるために、シールドガス供給源には窒素ガス供給源とアルゴンガス供給源が備えられており、各シールドガス供給源にそれぞれ接続した配管に備えた開閉弁の開閉を選択的に制御することによって、窒素、アルゴンの選択を行っている。そして、窒素又はアルゴンの流量を制御するために、質量流量センサを使用した質量流量計(マスフローコントローラ)を使用している。なお、本発明に関係する先行文献として特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−174261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1に記載の構成においては、シールドガスの吐出部に備えた圧力センサーの検出値を制御装置にフィードバックして、比例制御弁により圧力制御を行い、かつ質量流量センサーの検出値をフィードバックして、前記比例制御弁によって質量流量を制御している。すなわち圧力を補正しながら質量流量の制御を行っている。したがって、目的の質量流量に制御するのに時間を要するという問題がある。
【0005】
また、前記特許文献1に記載の構成においては、質量流量センサーを使用してシールドガスの質量流量を測定するものである。ところで、質量流量センサーは、ガスの比熱、密度などによってガスの物性値が異なると感度が異なるので、質量流量制御を行う場合には、例えば窒素ガスの測定値をアルゴンガスに補正するときにはアルゴンガスのコンバージョンファクター(CF、補正係数)を用いて補正演算を行うものである。
【0006】
因みに、前記コンバージョンファクター(CF)は、窒素ガスは基準としての1であり、アルゴンガスのコンバージョンファクター(CF)は窒素ガスに対して1.4となる。したがって、窒素ガスに適用すべく作られたマスフローコントローラ(質量流量制御器)によってアルゴンガスの流量を測定する場合、アルゴンガスのコンバージョンファクター(CF)が大きい分だけより多い流量となるものである。
【0007】
すなわち、質量流量センサーを使用したマスフローコントローラを使用することにより、シールドガスの種類が変わった場合であっても質量流量を正確に制御することができるものである。しかし、マスフローコントローラは極めて大きく、かつ非常に高価であるという問題がある。
【0008】
そこで、使用するシールドガスの種類毎に各シールドガスに対応して体積流量を制御するための体積流量計を個々に設けた構成とすることも可能である。この場合、ガス種毎に流量計を備えることとなり、全体的構成が大きくなると共にコスト高になるという問題がある。したがって、例えばシールドガスとしての窒素に対応した体積流量計を利用して、他方のシールドガスとしての例えばアルゴンの流量をも制御することが望まれていた。すなわち、1つの体積流量計でもって複数種のガスに対応することが望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前述のごとき従来の問題に鑑みてなされたもので、種類が異なるシールドガスを供給する複数のシールドガス供給源と、レーザ溶接加工位置へシールドガスを噴射するガス噴射ノズルと、当該ガス噴射ノズルと前記シールドガス供給源とを接続した接続管路中に配置され、前記ガス噴射ノズルへのシールドガスの流量を制御するための体積流量計と、当該体積流量計に流入されるシールドガスの圧力を所望の圧力に制御自在の圧力制御弁とを備え、前記体積流量計に対してシールドガスの流量を指令する流量指令制御部に、前記圧力制御弁の設定圧とシールドガスのガス種とガス流量とを関連付けして格納した流量・圧力データテーブルを備えていることを特徴とするものである。
【0010】
また、種類が異なるシールドガスを供給する複数のシールドガス供給源と、レーザ溶接加工位置へシールドガスを噴射するガス噴射ノズルと、当該ガス噴射ノズルと前記シールドガス供給源とを接続した接続管路中に配置され、前記ガス噴射ノズルへのシールドガスの流量を制御するための体積流量計とを備え、前記体積流量計は、一方のシールドガスに適した体積流量計であって、他方のシールドガスの流量を制御するときの補正係数を格納した補正係数格納部を備えていることを特徴とするものである。
【0011】
また、前記シールドガス流量制御装置において、前記シールドガスは窒素及びアルゴンであり、前記体積流量計は空気及び窒素対応用の体積流量計であり、当該体積流量計によってアルゴンの流量を制御する場合には、前記体積流量計に流量の指令する指令値を0.85倍して指令することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、レーザ溶接加工位置へシールドガスとしての窒素又はアルゴンを供給するとき、共通の体積流量計によってシールドガスのガス流量を適正値に制御することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係るシールドガス流量制御装置の全体的構成を概念的、概略的に示した構成説明図である。
【図2】アルゴン用流量計に窒素を流したときの指令値と実測値との関係を示した説明図である。
【図3】指令値と実測値と設定圧との関係を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1に概念的、概略的に示すように、本発明の実施形態に係るシールドガス流量制御装置1は、種類が異なるシールドガスを供給するシールドガス供給源3を備えている。このシールドガス供給源3には窒素ガスを供給するための窒素ガス供給源3Aとアルゴンガスを供給するためのアルゴンガス供給源3Bを備えている。上記窒素ガス供給源3A、アルゴンガス供給源3Bにはそれぞれ電磁開閉弁5A,5Bが接続してある。そして、各電磁開閉弁5A,5Bにはそれぞれ逆流防止弁7A,7Bが接続してあり、各逆流防止弁7A,7Bは共通の圧力制御弁(圧力調整弁:レギュレータ)9に接続してある。
【0015】
前記圧力制御弁9は、流量コントローラ11のハウジング11Hに備えた流入口11Aに接続してあり、この流量コントローラ11の流出口11Bには、レーザ加工装置(図示省略)によるレーザ溶接加工位置へシールドガスを噴射するガス噴射ノズル13に接続してある。すなわち、前記流量コントローラ11は、前記シールドガス供給源3と前記ガス噴射ノズル13とを接続した接続管路14中に配置してあり、一般的な流量コントローラと同様の構成であって、前記流入口11Aから流出口11Bに至るシールドガスの流路15中には、流路15内を流れるシールドガスの体積流量を測定する流量センサー17が備えられている。
【0016】
前記流量センサー17の下流側には開口が一定の固定オリフィス19が備えられている。そして、前記ハウジング11H内には、前記固定オリフィス19を開閉自在かつ前記流路15内を流れるシールドガスの流量を調節するために弁開度を制御自在の電磁比例弁21を備えている。すなわち、電磁比例弁21は、前記固定オリフィス19に対する弁開度を制御するための比例ソレノイド23を備えると共に、当該比例ソレノイド23の励磁によって作動される可動鉄心25を備えた構成である。
【0017】
さらに、前記ハウジング11H内には、前記電磁比例弁21の弁開度を制御するための制御回路27を備えている。この制御回路27は、入力された目標値と前記流量センサー17の検出値とを比較して、目標値と検出値との差に基づいて、検出値が目標値と等しくなるように前記電磁比例弁21に対する制御信号の出力を制御するものである。すなわち流量コントローラ11は流路15内を流れるシールドガスのガス流量(体積流量)をフィードバック制御するものである。
【0018】
ところで、前記流量コントローラ11にシールドガスとして窒素を流した場合、又はアルゴンを流した場合に問題を生じないか否かを確認するために、先ず、アルゴン用の流量コントローラにアルゴン用流量センサ及び窒素用流量センサを順次直列に接続し、アルゴンを流した場合及び窒素を流した場合の各流量センサの検出値を調べた。同様に窒素用の流量コントローラに窒素用流量センサー及びアルゴン用流量センサーを順次直列に接続し、窒素を流した場合及びアルゴンを流した場合の各流量センサの検出値を調べた。
【0019】
因みに、圧力制御弁9の設定圧を0.2MPaに設定してアルゴン用流量コントローラに窒素を流したときの指令値(L/min)と実測値(L/min)の関係は図2に示すとおりであった。すなわち、アルゴン用の流量コントローラに窒素を流すと、指令値の0.85倍流れた(補正係数は1.17)。
【0020】
そして、窒素用の流量コントローラにアルゴンを流した場合には、指令値の1.17倍流れた(補正係数は0.85)。すなわち、アルゴン用の流量コントローラに窒素を流すこと、及び窒素用の流量コントローラにアルゴンを流すことが可能であるが、ガス流量を適正値に制御するためには補正が必要である。
【0021】
レーザ溶接としてファイバーレーザを用いると、従来の一般的なレーザ溶接よりも溶接速度が速くなる。そして、溶接速度の向上により加工条件が多様になり、シールドガスの流量を固定した条件下では溶接品質に問題を生じることがある。したがって、加工条件によってシールドガスの流量を制御する必要がある。ここで、シールドガスとして窒素を使用し最大100L/minまで流量を制御しようとすると、圧力制御弁9の設定圧が0.2MPaは不充分である。
【0022】
そこで、シールドガスの流量と圧力制御弁9の設定圧との関係を実験したところ、図3に示すとおりであった。すなわち、約10L/min以下の範囲では圧力制御弁9の設定圧を0.1MPaに設定し、約10L/min〜55L/minの範囲では、圧力制御弁9の設定圧を0.2MPaに設定してシールドガスの流量制御を行い、そして、約55L/min〜約85L/minの範囲では圧力制御弁9の設定圧を0.3MPaに設定し、約85L/min〜100L/minの範囲では設定圧を0.4MPaに設定する。このように、シールドガスの流量範囲に対応して圧力制御弁9の設定圧を制御することにより、シールドガスの流量を比例的に制御することができるものである。
【0023】
前述したように、シールドガスの流量を適正量に制御するために、前記シールドガス流量制御装置1には流量指令制御部29を備えている。この流量指令制御部29は、前記電磁開閉弁5A,5Bの開閉制御を行うと共に、前記圧力制御弁9に設定圧を指令し、かつ前記流量コントローラ11の制御回路27に対してシールドガスの流量の目標値を指令する作用をなすものである。
【0024】
前記流量指令制御部29には、シールドガスのガス種やガス流量等を入力する入力手段31が接続してあると共に、シールドガスのガス種に対応した補正係数を格納した補正係数格納部33が備えられている。なお、前記流量コントローラ11としては、圧縮空気、窒素に対応した、すなわち窒素用の流量コントローラを採用しているので、シールドガスとしてアルゴンを使用するときの補正係数である0.85が格納してあるものである。
【0025】
さらに、前記流量指令制御部29には流量・圧力データテーブル35が備えられている。この流量・圧力データテーブル35には、前記補正係数格納部33に格納した補正係数に基づいてガス流量を補正演算したシールドガスのガス種毎のガス流量と圧力制御弁9の設定圧との関係を予め実験により求めて関連付けして格納してある。そして、前記入力手段31から入力されたシールドガスのガス種とガス流量に対応して前記流量・圧力データテーブル35を検索する検索手段37が備えられていると共に、当該検索手段37の検索結果に対応して前記電磁開閉弁5A,5BにON,OFFの指令信号を出力すると共に前記圧力制御弁9に対して設定圧の指令信号(設定圧指令値)を出力し、かつ前記流量コントローラ11の制御回路27に対して流量の指令信号(流量目標値)を出力する出力手段39が備えられている。
【0026】
前記構成により、シールドガスとして使用するガス種及びガス流量が入力手段31から入力されると、入力されたガス種とガス流量に基づいて検索手段37が流量・圧力データテーブル35を検索する。そして、検索した流量・圧力の関係に基づいて圧力制御弁9に対して設定圧を指令すると共に流量コントローラ11の制御回路27に対してガス流量の指令値(流量目標値)を入力する。また、電磁開閉弁5A,5Bの適正な一方にON信号を出力して開作動する。
【0027】
上述のように、入力手段31から入力されたシールドガスのガス種に対応した電磁開閉弁5A又は5Bが開かれると、シールドガスは圧力制御弁9によって設定された圧力でもって流量コントローラ11内に流入する。そして、流量コントローラ11においては、流量センサー17の検出値と制御回路27に入力された流量目標値との差に基づいて電磁比例弁21における比例ソレノイド23に対する励磁電流が制御され、固定オリフィス19に対する開度が制御される。すなわちフィードバック制御が行われてシールドガス流量が適正量に制御される。
【0028】
したがって、流量コントローラ11内に流入したシールドガスは、前記固定オリフィス19に対する開度に対応した流量でもってガス噴射ノズル13へ流出するものである。よって、レーザ溶接加工位置に対して適正なシールドガスを適正なガス流量に制御して噴射することができ、レーザ溶接の品質の向上を図ることができるものである。
【0029】
以上のごとき説明より理解されるように、質量流量計(マスフローコントローラ)を用いることなしに、1個の体積流量計(流量コントローラ)を採用して種類が異なるシールドガスの流量を制御することができ、前述したごとき従来の問題を解消し得るものである。
【0030】
なお、本発明は前述したごとき実施形態に限ることなく、適宜の変更を行うことにより、その他の形態でもって実施可能である。すなわち、前記説明においては、流量・圧力データテーブル35を備えた場合について説明した。しかし、流量・圧力データテーブル35に代えて演算手段を備え、前記補正係数格納部33に格納した補正係数を用いて該当するシールドガスの流量を補正演算し、この演算結果に基づいてシールドガスの流量を制御することも可能である。
【符号の説明】
【0031】
1 シールドガス流量制御装置
3 シールドガス供給源
3A 窒素ガス供給源
3B アルゴンガス
9 圧力制御弁
11 流量コントローラ
13 ガス噴射ノズル
17 流量センサー
19 固定オリフィス
21 電磁比例弁
23 比例ソレノイド
27 制御回路
29 流量指令制御部
31 入力手段
33 補正係数格納部
35 流量・圧力データテーブル
37 検索手段
39 出力手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
種類が異なるシールドガスを供給する複数のシールドガス供給源と、レーザ溶接加工位置へシールドガスを噴射するガス噴射ノズルと、当該ガス噴射ノズルと前記シールドガス供給源とを接続した接続管路中に配置され、前記ガス噴射ノズルへのシールドガスの流量を制御するための体積流量計と、当該体積流量計に流入されるシールドガスの圧力を所望の圧力に制御自在の圧力制御弁とを備え、前記体積流量計に対してシールドガスの流量を指令する流量指令制御部に、前記圧力制御弁の設定圧とシールドガスのガス種とガス流量とを関連付けして格納した流量・圧力データテーブルを備えていることを特徴とするシールドガス流量制御装置。
【請求項2】
種類が異なるシールドガスを供給する複数のシールドガス供給源と、レーザ溶接加工位置へシールドガスを噴射するガス噴射ノズルと、当該ガス噴射ノズルと前記シールドガス供給源とを接続した接続管路中に配置され、前記ガス噴射ノズルへのシールドガスの流量を制御するための体積流量計とを備え、前記体積流量計は、一方のシールドガスに適した体積流量計であって、他方のシールドガスの流量を制御するときの補正係数を格納した補正係数格納部を備えていることを特徴とするシールドガス流量制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載のシールドガス流量制御装置において、前記シールドガスは窒素及びアルゴンであり、前記体積流量計は空気及び窒素対応用の体積流量計であり、当該体積流量計によってアルゴンの流量を制御する場合には、前記体積流量計に流量の指令する指令値を0.85倍して指令することを特徴とするシールドガス流量制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−58066(P2013−58066A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195795(P2011−195795)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(390014672)株式会社アマダ (548)
【Fターム(参考)】