説明

シールドジャッキの制御装置及び制御方法

【課題】シールドジャッキを縮退させる前に、縮退対象のシールドジャッキの縮退が可能であるか否かを判断することができるとともに、シールドジャッキの縮退を正確に制御することができるシールドジャッキの制御装置を提供することを課題とする。
【解決手段】シールド掘進機1におけるシールドジャッキSJの制御装置30であって、セグメント2に押し当てられた各シールドジャッキSJから、縮退対象のシールドジャッキSJを除いた残りの各シールドジャッキSJの保持力を合算して総保持力を算出する総保持力算出手段32と、総保持力とシールド本体10が切羽面から受ける圧力に抗するための必要保持力とを比べて、総保持力が必要保持力以上である場合に、シールドジャッキSJの縮退を許可する縮退許可手段33と、を備えていることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド掘進機におけるシールドジャッキの制御装置及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル内に施工されたセグメントに複数のシールドジャッキを押し当てることで、シールド本体の推進反力を得るように構成されたシールド掘進機では、シールド本体の後方でセグメントを組み立てるときに、複数のシールドジャッキの中から数体を縮退させて、セグメントを設置するスペースを確保している。
【0003】
このようなシールド掘進機では、シールド本体を支持するシールドジャッキが減少したときに、シールド本体が切羽面から受ける圧力によって後退するのを防ぐため、シールドジャッキの縮退を制御する制御装置が設けられている。
従来の制御装置では、各シールドジャッキの保持力をそれぞれ検出しており、所定のシールドジャッキを縮退させたときに、セグメントに押し当てられたシールドジャッキのうち、何れかのシールドジャッキの保持力が上限値に達したときには、シールドジャッキの縮退を停止するように構成されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特許第3093163号公報(段落0022、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記した従来の制御装置では、実際にシールドジャッキを縮退させてみないと、シールドジャッキの保持力が上限値に達するか否かが分からない。したがって、シールドジャッキの保持力が上限値に達した場合には、その時点で作業計画を変更する必要があり、作業が煩雑になってしまうという問題がある。
【0006】
また、シールドジャッキを縮退させた直後には、シールド本体の姿勢が変化するため、シールド本体を支持している各シールドジャッキの保持力が一時的に均等にならない場合がある。
前記した従来の制御装置では、シールド本体の姿勢が復帰して、各シールドジャッキの保持力が均等になったときには、各シールドジャッキの保持力が上限値以下となる場合であっても、シールドジャッキを縮退させた直後に、何れかのシールドジャッキの保持力が一時的に上限値に達した場合には、シールドジャッキの縮退を停止してしまうという問題がある。
【0007】
そこで、本発明では、前記した問題を解決し、シールドジャッキを縮退させる前に、縮退対象のシールドジャッキの縮退が可能であるか否かを判断することができるとともに、シールドジャッキの縮退を正確に制御することができるシールドジャッキの制御装置及び制御方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明の制御装置は、トンネル内に施工されたセグメントに複数のシールドジャッキを押し当てることで、シールド本体の推進反力を得るように構成されたシールド掘進機におけるシールドジャッキの制御装置であって、伸長している前記各シールドジャッキから、縮退対象の前記シールドジャッキを除いた残りの前記各シールドジャッキの保持力を合算して総保持力を算出する総保持力算出手段と、前記総保持力と、前記シールド本体が前記切羽面から受ける圧力に抗するための必要保持力とを比べて、前記総保持力が前記必要保持力以上である場合に、前記シールドジャッキの縮退を許可する縮退許可手段と、を備えていることを特徴としている。
【0009】
前記課題を解決するため、本発明の制御方法は、トンネル内に施工されたセグメントに複数のシールドジャッキを押し当てることで、シールド本体の推進反力を得るように構成されたシールド掘進機におけるシールドジャッキの制御方法であって、伸長している前記各シールドジャッキから、縮退対象の前記シールドジャッキを除いた残りの前記各シールドジャッキの保持力を合算して総保持力を算出する総保持力算出工程と、前記総保持力と、前記シールド本体が前記切羽面から受ける圧力に抗するための必要保持力とを比べて、前記総保持力が前記必要保持力以上である場合に、前記シールドジャッキを縮退させる縮退工程と、を備えていることを特徴としている。
【0010】
本発明の制御装置及び制御方法では、縮退対象のシールドジャッキを縮退させる前に、シールドジャッキを縮退させた後のシールドジャッキの総保持力と、シールド本体を後退させないために必要な必要保持力とを比べることで、シールドジャッキの縮退が可能であるか否かを判断するため、作業効率を向上させることができる。
また、シールドジャッキの総保持力に基づいて、シールドジャッキの縮退の可否を判断するため、シールドジャッキの保持力が均等になった状態に対応して、シールドジャッキの縮退を正確に制御することができる。したがって、シールドジャッキを縮退させた直後に、一部のシールドジャッキの保持力が一時的に大きくなるような場合であっても、シールドジャッキの縮退を停止することがない。
【0011】
前記したシールドジャッキの制御装置において、縮退許可手段は、伸長している前記各シールドジャッキから、縮退対象の前記シールドジャッキを除いたときの個数が、設定された必要個数以上であるとともに、前記総保持力が必要保持力以上である場合に、前記シールドジャッキの縮退を許可するように構成することができる。
【0012】
この構成では、縮退可能なシールドジャッキの個数を制限することで、シールド本体を安定して支持することができる。
【0013】
前記したシールドジャッキの制御装置において、前記必要保持力は、前記シールド本体が前記切羽面から受ける圧力を測定した測定値に基づいて設定することができる。
【0014】
この構成では、必要保持力を正確に設定することができるため、シールドジャッキの縮退を正確に制御することができる。
【0015】
前記したシールドジャッキの制御装置において、前記総保持力算出手段では、前記シールドジャッキの前記保持力が、設定された有効設定値以上である場合に、そのシールドジャッキの保持力を前記総保持力の合算対象とするように構成することができる。
【0016】
ここで、セグメントに押し当てられていないシールドジャッキの保持力が総保持力に合算されてしまった場合には、実際にシールド本体を支持している各シールドジャッキの保持力を合算した真の総保持力よりも総保持力が大きくなり、真の総保持力が必要保持力未満であるにも関わらず、シールドジャッキの縮退が許可されてしまう場合がある。
前記した制御装置では、保持力が有効設定値よりも小さいシールドジャッキは、セグメントに押し当てられていないものとして、総保持力の合算対象から除かれるため、シールドジャッキを正確に制御することができる。
【0017】
前記したシールドジャッキの制御装置において、前記縮退許可手段では、前記シールドジャッキの前記保持力が、設定された有効設定値以上である場合に、そのシールドジャッキを前記必要個数の比較対象に加えるように構成することができる。
【0018】
ここで、セグメントに押し当てられていないシールドジャッキが必要個数の比較対象に加えられてしまった場合には、実際にシールド本体を支持している各シールドジャッキの真の個数よりも個数が大きくなり、真の個数が必要個数未満であるにも関わらず、シールドジャッキの縮退が許可されてしまう場合がある。
前記した制御装置では、保持力が有効設定値よりも小さいシールドジャッキは、セグメントに押し当てられていないものとして、必要個数の比較対象から除かれるため、シールドジャッキを正確に制御することができる。
【0019】
前記したシールドジャッキの制御装置は、前記シールドジャッキを伸長させたときに、前記シールドジャッキの前記保持力が前記有効設定値に達すると、前記シールドジャッキの伸長を停止させる伸長停止手段を備えているように構成することができる。
【0020】
この構成では、シールドジャッキがセグメントに押し当てられることで保持力が大きくなり、その保持力が有効設定値に達した状態で、シールドジャッキの伸長が停止することになる。したがって、セグメントに対してシールドジャッキを確実に押し当てることができるため、シールド本体を支持しているシールドジャッキの個数を増やすことができる。これにより、縮退させるシールドジャッキの個数を増えても、縮退後にシールド本体を支持するシールドジャッキの個数を十分に確保することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のシールドジャッキの制御装置及び制御方法によれば、縮退対象のシールドジャッキを縮退させる前に、シールドジャッキの縮退が可能であるか否かを判断することができるため、作業効率を向上させることができる。
また、シールドジャッキの保持力が均等になった状態に対応して、シールドジャッキの縮退を正確に制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
本実施形態の制御装置は、図1に示すシールド掘進機1の推進反力を得るためのシールドジャッキSJの伸縮を制御するものである。
【0023】
シールド掘進機1は、円筒状のシールド本体10の前面に切羽面を掘削するカッタ20が設けられ、シールド本体10の後方開口部の内周面には、掘進方向に伸縮自在なロッドRを有する複数のシールドジャッキSJ・・・が取り付けられている。本実施形態では、図2(a)に示すように、十体のシールドジャッキSJ・・・がシールド本体10の周方向に等間隔で取り付けられている。そして、図1に示すように、各シールドジャッキSJ・・・のロッドRを伸長させ、トンネルT内に施工されたセグメント2の前端面に押し当てることで、シールド本体10の推進反力を得ることができる。
本実施形態のシールド掘進機1の主要部は、各種公知のシールド掘進機と同様の構成であるため、その詳細な説明を省略する。
なお、以下の説明において、シールドジャッキSJの保持力とは、シールドジャッキSJのシリンダ内の実際の圧力にシリンダの面積を積算したものである。
【0024】
シールド掘進機1に設けられた制御装置30は、図3に示すように、各シールドジャッキSJ1〜10の伸縮を制御するものであり、シールドジャッキSJの伸長を停止させる伸長停止手段31と、シールドジャッキSJの総保持力を算出する総保持力算出手段32と、シールドジャッキSJの縮退を許可する縮退許可手段33と、を備えている。
この制御装置は、CPU(Central Processing Unit)及び記憶装置を備えており、各手段は、各種メモリやハードディスクドライブなどの記憶装置に記憶されたプログラムをCPUが実行することで具現される。
【0025】
伸長停止手段31は、シールドジャッキSJを伸長させたときに、シールドジャッキSJの保持力が有効設定値に達すると、そのシールドジャッキSJの伸長を停止させるものである。この有効設定値は、セグメント2の組み立て工程におけるシールドジャッキSJのリリーフ圧よりも小さい値であり、予め設定された値である。
【0026】
総保持力算出手段32は、伸長しているシールドジャッキSJから、縮退対象のシールドジャッキSJを除いた残りのシールドジャッキSJの保持力を合算した総保持力を算出するものである。
なお、総保持力算出手段32では、掘進工程においてシールド本体10の推進反力を得るために伸長させ、その後に縮退していないシールドジャッキSJの保持力を総保持力の合算対象としている。また、総保持力算出手段32では、セグメント2の組み立て工程において、組み立て対象のセグメント2を既設のセグメント2に押し付けるために伸長させ、保持力が有効設定値以上となっているシールドジャッキSJの保持力を総保持力の合算対象としている。すなわち、シールドジャッキSJの保持力が有効設定値未満である場合には、そのシールドジャッキSJがセグメント2に押し当てられていないものとして、総保持力の合算対象から除いている。
【0027】
縮退許可手段33は、縮退対象のシールドジャッキSJの縮退が可能であるか否かを判断するものである。
まず、縮退許可手段33では、伸長しているシールドジャッキSJから、縮退対象のシールドジャッキSJを除いたときの個数と、設定された必要個数とを比べる。なお、設定された必要個数とは、シールド本体10を安定して支持するために必要なシールドジャッキSJの個数である。
また、縮退許可手段33では、掘進工程においてシールド本体10の推進反力を得るために伸長させ、その後に縮退していないシールドジャッキSJを必要個数の比較対象に加えている。また、縮退許可手段33では、セグメント2の組み立て工程において、組み立て対象のセグメント2を既設のセグメント2に押し付けるために伸長させ、保持力が有効設定値以上となっているシールドジャッキSJを必要個数の比較対象に加えている。すなわち、シールドジャッキSJの保持力が有効設定値未満である場合には、そのシールドジャッキSJがセグメント2に押し当てられていないものとして、必要個数の比較対象から除いている。
【0028】
続いて、縮退許可手段33では、伸長しているシールドジャッキSJから、縮退対象のシールドジャッキSJを除いたときの個数が、必要個数以上である場合には、総保持力算出手段32で算出された総保持力と、シールド本体10が切羽面から受ける圧力に抗するための必要保持力とを比べる。なお、必要保持力は、シールド本体10の切羽面側に設けられた圧力計34によって測定した切羽面の土水圧に基づいて設定されており、切羽面から受ける圧力によってシールド本体10を後退させないために必要な保持力である。
【0029】
そして、縮退許可手段33では、総保持力が必要保持力以上である場合には、縮退対象のシールドジャッキSJの縮退を許可する。
また、縮退許可手段33では、伸長しているシールドジャッキSJから、縮退対象のシールドジャッキSJを除いたときの個数が、必要個数未満である場合や、総保持力が必要保持力未満である場合には、縮退対象のシールドジャッキSJの縮退を許可しない。
なお、縮退許可手段33では、縮退対象のシールドジャッキSJの縮退が可能であるか否かを操作パネルなどの表示手段に表示して作業員に知らせる。
【0030】
次に、図3に示す制御装置30を用いたシールド掘進機1におけるセグメント2の組み立て作業について説明する。なお、以下の説明では、シールド本体10の推進反力を得るために、十体のシールドジャッキSJ1〜10を伸長させて掘進工程が完了した状態から、図2(a)に示すように、三体のシールドジャッキSJ1〜3を縮退させてセグメントを組み立てた後に、図2(b)に示すように、縮退させたシールドジャッキSJ1〜3を伸長させてセグメントに押し当て、さらに、三体のシールドジャッキS4〜6を縮退させてセグメントを組み立てる手順について、図4のフローチャートを適宜に参照しながら説明する。
【0031】
(第一総保持力算出工程)
第一総保持力算出工程は、掘進工程において伸長したシールドジャッキSJ1〜10から、縮退対象のシールドジャッキSJ1〜3を除いた残りのシールドジャッキSJ4〜10の保持力を合算して総保持力を算出する工程である。
制御装置30の総保持力算出手段32では、シールドジャッキSJ4〜10のそれぞれについて、掘進工程で伸長させた後に縮退しているか否かが判定される。
そして、総保持力算出手段32では、掘進工程で伸長させた後に縮退しておらず、伸長しているシールドジャッキSJ4〜10の保持力を合算して総保持力を算出する(ステップS1)。
【0032】
(第一縮退工程)
第一縮退工程は、総保持力算出手段32で算出された総保持力と、シールド本体10が切羽面から受ける圧力に抗するための必要保持力とを比べて、縮退対象のシールドジャッキSJ1〜3の縮退が可能であるか否かを判断する工程である。
【0033】
制御装置30の縮退許可手段33では、シールドジャッキSJ4〜10のそれぞれについて、掘進工程で伸長させた後に縮退しているか否かが判定される。
そして、縮退許可手段33では、掘進工程で伸長させた後に縮退しておらず、伸長しているシールドジャッキSJ4〜10の個数が、シールド本体10を安定して支持するために必要な必要個数以上であるか否かが判定される(ステップS2)。例えば、必要個数が七体である場合には、十体のシールドジャッキSJ1〜10から、三体のシールドジャッキSJ1〜3を縮退させることができる。
【0034】
縮退許可手段33では、シールドジャッキSJ4〜10の個数が、必要個数以上である場合には(ステップS2のYES)、総保持力算出手段32で算出された総保持力と必要保持力とを比べる(ステップS3)。
縮退許可手段33では、総保持力が必要保持力以上である場合には(ステップS3のYES)、縮退対象のシールドジャッキSJ1〜3の縮退が可能であることを、操作パネルなどの表示手段に表示して、シールドジャッキS1〜3の縮退を許可する(ステップS4)。作業者は縮退対象のシールドジャッキSJ1〜3が縮退可能であることを確認して、シールドジャッキSJ1〜SJ3を縮退させる(ステップS5)。
【0035】
また、縮退許可手段33では、シールドジャッキSJ4〜10の個数が、必要個数未満である場合や(ステップS2のNO)、総保持力が必要保持力未満である場合には(ステップS3のNO)、縮退対象のシールドジャッキSJ1〜3の縮退を許可しない(ステップS6)。このような場合には、縮退させるシールドジャッキSJの個数を減らして(ステップS7)、ステップ1からステップS3を繰り返す。
なお、掘進工程で伸長させた後に縮退させていると判定されたシールドジャッキSJが存在する場合には、そのシールドジャッキSJを伸長させてセグメント2に押し当てることで、伸長しているシールドジャッキSJの個数を増やしてもよい。
【0036】
(伸長工程)
伸長工程は、前記した第一縮退工程においてシールドジャッキSJ1〜3を縮退させることで形成されたスペースにセグメント2のピースを設置した後に、縮退させたシールドジャッキSJ1〜3をセグメント2に押し当てる工程である。
【0037】
制御装置30の伸長停止手段31では、伸長させたシールドジャッキSJ1〜3のそれぞれについて、保持力が有効設定値に達すると、シールドジャッキSJ1〜3の伸長を停止する。このように、シールドジャッキSJ1〜3を保持力が有効設定値に達するまで伸長させることで、セグメント2に対してシールドジャッキSJ1〜3を確実に押し当てる(ステップS8)。
【0038】
(第二総保持力算出工程)
第二総保持力算出工程は、伸長しているシールドジャッキSJ1〜10から、縮退対象のシールドジャッキSJ4〜6を除いた残りのシールドジャッキSJ1〜3、7〜10の保持力を合算して総保持力を算出する工程である。
制御装置30の総保持力算出手段32では、シールドジャッキSJ1〜3、7〜10のそれぞれについて、掘進工程で伸長させた後に縮退しているか否かが判定される。さらに、総保持力算出手段32では、掘進工程で伸長させた後に縮退していると判断されたシールドジャッキSJ1〜3のそれぞれについて、保持力が有効設定値以上であるか否かが判定される。
そして、総保持力算出手段32では、掘進工程で伸長させた後に縮退しておらず、伸長しているシールドジャッキSJ7〜10、及び保持力が有効設定値以上で伸長しているシールドジャッキSJ1〜3の保持力を合算して総保持力を算出する(ステップS9)。
【0039】
(第二縮退工程)
第二縮退工程は、総保持力算出手段32で算出された総保持力と、シールド本体10が切羽面から受ける圧力に抗するための必要保持力とを比べて、縮退対象のシールドジャッキSJ4〜6の縮退が可能であるか否かを判断する工程である。
【0040】
制御装置30の縮退許可手段33では、シールドジャッキSJ1〜3、7〜10のそれぞれについて、掘進工程で伸長させた後に縮退しているか否かが判定される。さらに、縮退許可手段33では、掘進工程で伸長させた後に縮退している判断されたシールドジャッキSJ1〜3のそれぞれについて、保持力が有効設定値以上であるか否かが判定される。
そして、縮退許可手段33では、掘進工程で伸長させた後に縮退しておらず、伸長しているシールドジャッキSJ7〜10、及び保持力が有効設定値以上で伸長しているシールドジャッキSJ1〜3の個数が、シールド本体10を安定して支持するために必要な必要個数以上であるか否かが判定される(ステップS10)。
仮に、前記した伸長工程において伸長させたシールドジャッキSJ1〜3のうち、シールドジャッキSJ1の保持力が有効設定値に達していない場合には、シールドジャッキSJ1を除いたシールドジャッキSJ2、3、7〜10の個数を必要個数と比べることになる。
【0041】
縮退許可手段33では、シールドジャッキSJ1〜3、7〜10の個数が、必要個数以上である場合には(ステップS10のYES)、総保持力算出手段32で算出された総保持力と必要保持力とを比べる(ステップS11)。
縮退許可手段33では、総保持力が必要保持力以上である場合には(ステップS11のYES)、縮退対象のシールドジャッキSJ4〜6の縮退が可能であることを、操作パネルなどの表示手段に表示して、シールドジャッキS4〜6の縮退を許可する(ステップS12)。作業者は縮退対象のシールドジャッキSJ4〜6が縮退可能であることを確認して、シールドジャッキSJ4〜6を縮退させる(ステップS13)。
【0042】
また、縮退許可手段33では、シールドジャッキSJ4〜6の個数が、必要個数未満である場合や(ステップS10のNO)、総保持力が必要保持力未満である場合には(ステップS11のNO)、縮退対象のシールドジャッキSJ4〜6の縮退を許可しない(ステップS14)。このような場合には、縮退させるシールドジャッキSJの個数を減らして(ステップS15)、ステップS9からステップS11を繰り返す。
なお、保持力が有効設定値に達していないと判定されたシールドジャッキSJが存在する場合には、そのシールドジャッキSJの保持力が有効設定値に達するまで伸長させることで、伸長しているシールドジャッキSJの個数を増やしてもよい。
【0043】
さらに、前記した伸長工程と同様にして、シールドジャッキSJ4〜6を縮退させることで形成されたスペースにセグメント2のピースを設置し、シールドジャッキSJ4〜6を伸長させてセグメント2に押し当てる(ステップS16)。
そして、前記した総保持力算出工程、縮退許可工程と同様にして、シールドジャッキSJ7〜10を縮退させる(ステップS18〜S21)。また、前記した伸長工程と同様にして、シールドジャッキSJ7〜10を縮退させてセグメント2のピースを設置した後に、縮退させたシールドジャッキSJ7〜10を伸長させてセグメント2に押し当てることで(ステップS22)、シールド本体2の後方にトンネルTの全周に亘ってセグメント2を設置する。
【0044】
以上のように、本実施形態の制御装置30及び制御方法では、縮退対象のシールドジャッキSJを縮退させる前に、シールドジャッキSJを縮退させた後のシールシールドジャッキSJの総保持力と、シールド本体10を後退させないために必要な必要保持力とを比べることで、縮退対象のシールドジャッキSJの縮退が可能であるか否かを判断するため、作業効率を向上させることができる。
【0045】
また、シールドジャッキSJの総保持力に基づいて、シールドジャッキSJの縮退の可否を判断するため、シールドジャッキSJの保持力が均等になった状態に対応して、シールドジャッキSJの縮退を正確に制御することができる。したがって、シールドジャッキSJを縮退させた直後に、一部のシールドジャッキSJの保持力が一時的に大きくなるような場合であっても、シールドジャッキSJの縮退を停止することがない。
【0046】
また、縮退可能なシールドジャッキSJの個数を制限することで、シールドジャッキSJによってシールド本体10を安定して支持することができる。
【0047】
また、シールド本体10の切羽面側に設けられた圧力計34によって測定した切羽面の土水圧に基づいて必要保持力を設定することで、必要保持力を正確に設定することができるため、シールドジャッキSJの縮退を正確に制御することができる。
【0048】
また、総保持力算出手段32では、保持力が有効設定値よりも小さいシールドジャッキSJは、セグメント2に押し当てられていないものとして、総保持力の合算対象から除かれるため、シールドジャッキSJを正確に制御することができる。
【0049】
また、縮退許可手段33では、保持力が有効設定値よりも小さいシールドジャッキSJは、セグメント2に押し当てられていないものとして、必要個数の比較対象から除かれるため、シールドジャッキSJを正確に制御することができる。
【0050】
また、伸長停止手段31では、シールドジャッキSJがセグメントに押し当てられることで保持力が大きくなり、その保持力が有効設定値に達した状態で、シールドジャッキSJの伸長が停止することになる。したがって、セグメント2に対してシールドジャッキSJを確実に押し当てることができるため、シールド本体10を支持しているシールドジャッキSJの個数を増やすことができる。これにより、縮退させるシールドジャッキSJの個数が増えても、縮退後にシールド本体10を支持するシールドジャッキSJの個数を十分に確保することができる。
【0051】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜に設計変更が可能である。
例えば、本実施形態では、図3に示すように、圧力計34によって測定した切羽面の土水圧に基づいて必要保持力を設定しているが、過去のデータ(工事前のボーリングデータによる地下水位のように、土水圧との相関関係を有するデータを含む)に基づいて、又は過去のデータを加味して必要保持力を設定してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本実施形態のシールド掘進機を示した側面部分断面図である。
【図2】本実施形態のシールド掘進機を後方から見た図で、(a)はシールドジャッキSJ1〜SJ3を縮退させた状態の説明図、(b)はシールドジャッキSJ4〜SJ6を縮退させた状態の説明図である。
【図3】本実施形態の制御装置を示した構成図である。
【図4】本実施形態の制御方法のフローチャートである。
【符号の説明】
【0053】
1 シールド掘進機
2 セグメント
10 シールド本体
20 カッタ
30 制御装置
31 伸長停止手段
32 総保持力算出手段
33 縮退許可手段
34 圧力計
SJ シールドジャッキ
T トンネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル内に施工されたセグメントに複数のシールドジャッキを押し当てることで、シールド本体の推進反力を得るように構成されたシールド掘進機におけるシールドジャッキの制御装置であって、
伸長している前記各シールドジャッキから、縮退対象の前記シールドジャッキを除いた残りの前記各シールドジャッキの保持力を合算して総保持力を算出する総保持力算出手段と、
前記総保持力と、前記シールド本体が前記切羽面から受ける圧力に抗するための必要保持力とを比べて、前記総保持力が前記必要保持力以上である場合に、前記シールドジャッキの縮退を許可する縮退許可手段と、
を備えていることを特徴とするシールドジャッキの制御装置。
【請求項2】
前記縮退許可手段は、
伸長している前記各シールドジャッキから、縮退対象の前記シールドジャッキを除いたときの個数が、設定された必要個数以上であるとともに、
前記総保持力が前記必要保持力以上である場合に、
前記シールドジャッキの縮退を許可するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のシールドジャッキの制御装置。
【請求項3】
前記必要保持力は、前記シールド本体が前記切羽面から受ける圧力を測定した測定値に基づいて設定されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のシールドジャッキの制御装置。
【請求項4】
前記総保持力算出手段では、前記シールドジャッキの前記保持力が、設定された有効設定値以上である場合に、そのシールドジャッキの保持力を前記総保持力の合算対象とするように構成されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のシールドジャッキの制御装置。
【請求項5】
前記縮退許可手段では、前記シールドジャッキの前記保持力が、設定された有効設定値以上である場合に、そのシールドジャッキを前記必要個数の比較対象に加えるように構成されていることを特徴とする請求項2に記載のシールドジャッキの制御装置。
【請求項6】
前記シールドジャッキを伸長させたときに、前記シールドジャッキの前記保持力が前記有効設定値に達すると、前記シールドジャッキの伸長を停止させる伸長停止手段を備えていることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載のシールドジャッキの制御装置。
【請求項7】
トンネル内に施工されたセグメントに複数のシールドジャッキを押し当てることで、シールド本体の推進反力を得るように構成されたシールド掘進機におけるシールドジャッキの制御方法であって、
伸長している前記各シールドジャッキから、縮退対象の前記シールドジャッキを除いた残りの前記各シールドジャッキの保持力を合算して総保持力を算出する総保持力算出工程と、
前記総保持力と、前記シールド本体が前記切羽面から受ける圧力に抗するための必要保持力とを比べて、前記総保持力が前記必要保持力以上である場合に、前記シールドジャッキを縮退させる縮退工程と、
を備えていることを特徴とするシールドジャッキの制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−235861(P2009−235861A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−86030(P2008−86030)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【Fターム(参考)】