説明

シールドトンネル用セグメント

【課題】構造部材にFRPを利用することでセグメント厚の薄肉化や掘削径の縮小を可能とし、特に下水道トンネルにおいてはトンネル内径の縮小化も可能とし、掘削に伴う残土処理量も減少させることで工事費の低減と環境負荷の低減を目的としたシールドトンネル用セグメントを提供する。
【解決手段】FRPとコンクリートでセグメントが構成され、FRPは、外殻部材、内部部材の両方もしくはいずれか一方に用いられ、外殻部材は、セグメントの外面、内面、側面、前面の少なくともいずれかを形成し、内部部材は、トンネル軸方向もしくは円周方向に対し、I形、H形、円形、多角形のいずれかの横断面形状を有することを特徴とするシールドトンネル用セグメント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールドマシンを用いてトンネルを構築するシールド工法において、トンネルの壁体となるシールドトンネル用セグメントの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、都市部内に構築する道路トンネル、鉄道トンネルや下水道トンネルを計画する場合、シールド工法が一般的に採用されている。シールド工法とは、先端に掘削刃を備えたシールドマシンを地中で掘進させながら、シールドマシン後方で掘削したトンネル内面周囲にトンネル壁体となるセグメントを順次組み立ててトンネルを構築する工法である。シールドトンネルの断面形状は一般的には真円形となるが、地下鉄駅ホームや道路トンネルの分岐箇所の構築などの特殊な場合においては、矩形もしくは複数の円形が重なり連なって串団子状の多連円形をとることもある。例えば東京湾横断道路トンネルは真円形のシールドトンネルであり、都営地下鉄六本木駅ホームは、2連円形トンネルである。
【0003】
セグメントの種類は、鉄筋コンクリート製セグメントを筆頭に鋼製セグメント、鋳鉄製セグメント、外殻を鋼製にしコンクリートを充填して一体化させた複合構造のサンドイッチ型合成セグメントがある。
【0004】
セグメントは、円周方向に複数に分割(例えば、道路トンネルで内径11mの場合は8分割、下水道トンネルで内径2mの場合は3分割)された大きさであり、トンネル進行方向には1〜2m程度の大きさとなる。
【0005】
トンネルの大きさの決定には、例えば道路トンネルの場合、道路構造例で定められる建築限界(交通車両の支障にならない寸法)を基準に耐熱板や20〜50cm程度の2次覆工コンクリート(補強目的のコンクリート)の厚みとセグメント厚を加えた寸法が掘削径となる。例えば東京湾横断道路トンネルの場合、建築限界で求めた通路部の内径を11.9mとし、2次覆工コンクリート厚35cm、セグメント厚65cmで掘削径が13.9mとなる。また、多連円形の円と円を接合する箇所のウィング型セグメントの場合には、接合部に応力が集中することもあってセグメント厚が2mにも及ぶこともある。下水道トンネルの場合、計画通水量を満足できるトンネル内径にセグメント厚を加えた径が掘削径となる。
【0006】
ところでシールドトンネル工事費には掘削径が非常に重要となる。掘削径は、シールドマシン制作費、トンネルの掘進費、掘削に発生する残土処理費に大きな影響を及ぼす。近年の財政不況に伴って社会資本整備費のコスト縮減が求められる中、シールドトンネル工事も同様に建設コストの削減が課題となる。
【0007】
また近年では、残土の埋立てなどによる環境負荷を小さくするために各自治体における残土処分に関する条例が厳格化し、容易に埋立てなどの処分ができなくなってきた理由から、残土の排出を少なくすることも課題となる。
【0008】
上記の点を解決するために、鋼や鉄筋コンクリートより薄くて強度の高いFRP(繊維強化プラスチック)をセグメントの外殻部材や内部部材に利用することで、2次覆工省略型でかつ従来セグメントより薄いFRP合成セグメントが考えられる。特に下水道トンネルにおいて、FRPをセグメント内面に利用することで通水能力が向上し、その結果トンネル内径が縮小可能となるため、掘削径の縮小化が図れる。
【0009】
セグメント壁体の一部にFRPを利用するケースとして、シールド工法にてトンネルを構築した後に、そのトンネルとは異なる方向への掘削を開始する場合に、掘削する範囲をFRP積層体に置き換えることがある(例えば特許文献1)。これは本発明がセグメントの構造部材として、断面I形や円形等のFRP内部部材を配置する構成とは異なる。
【特許文献1】特開2005−61212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、上記のような従来技術における問題点を鑑み、構造部材にFRPを利用することでセグメント厚の薄肉化や掘削径の縮小を可能とし、特に下水道トンネルにおいてはトンネル内径の縮小化も可能とし、よって掘削に伴う残土処理量を減少させることで工事費の低減と環境負荷の低減を目的としたシールドトンネル用セグメントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明に係るシールドトンネル用セグメントは、FRPとコンクリートでセグメントが構成され、前記FRPは、外殻部材、内部部材の両方もしくはいずれか一方に用いられ、前記外殻部材は、セグメントの外面、内面、側面、前面の少なくともいずれかを形成し、前記内部部材は、トンネル軸方向もしくは円周方向に対し、I形、H形、円形、多角形のいずれかの横断面形状を有することを特徴とするものからなる。
【0012】
上記内部部材の多角形形状としては、3〜12角形の範囲から選択できる。
【0013】
また、本発明に係るシールドトンネル用セグメントにおいては、上記FRP間または上記FRP内にコンクリートが充填されていることが好ましい。
【0014】
上記FRPとしては、連続繊維からなる強化繊維とマトリックス樹脂で構成されていることが好ましい。
【0015】
FRPの強化繊維としては、例えば、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、PBO(ポリパラフェニレンベンズオキサゾール)繊維、高強度ポリエチレン繊維、ポリアリレート繊維の少なくともいずれかを用いることができる。マトリックス樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル、エポキシ、フェノールのいずれかを用いることができる。
【0016】
さらに、上記コンクリートは、その設計基準強度が18N/mm2 〜100N/mm2 の範囲に設定されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、シールドトンネル用セグメントの外殻部材、内部部材の両方もしくはいずれかにFRPを用いることによりセグメント厚を従来セグメントよりも薄肉化することができ、それによってシールドトンネル築造にかかる総工事費を削減することができる。また、残土処分量も減少するため、残土処理に伴う環境負荷を小さくすることもできる。特に下水道トンネルにおいては、トンネル内径も縮小化できるため、道路トンネルや鉄道トンネルに比べて工事費の削減効果や環境負荷の減少効果が大きくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明の望ましい実施の形態を、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の対象となるシールドトンネル用セグメントの一例を示す説明図であり、とくに円形横断面形状のトンネルの場合におけるシールドトンネル用セグメントを示している。図1において、1はシールドトンネルを示しており、2は、トンネル軸方向A(トンネル進行方向)に所定の長さに形成され、トンネル円周方向Bに複数に分割されたシールドトンネル用セグメントを示している。
【0019】
本発明においては、このシールドトンネル用セグメント2が、FRPとコンクリートで構成され、該FRPは、外殻部材、内部部材の両方もしくはいずれか一方に用いられ、前記外殻部材は、セグメントの外面、内面、側面、前面の少なくともいずれかを形成し、前記内部部材は、トンネル軸方向もしくは円周方向に対し、I形、H形、円形、多角形のいずれかの横断面形状を有するものからなる。また、シールドトンネルセグメントに発生する円周方向の断面力は、土質条件により曲げモーメント卓越型、あるいは軸力卓越型に分かれ、破壊のクライテリアが異なってくる。曲げモーメント卓越型の場合、セグメント内に前記内部部材を入れることで曲げ剛性が増加し、セグメントの曲げ耐力が向上できる。軸力卓越型では、前記内部部材を入れることで、コンクリートの拘束効果が発揮されることでコンクリートの圧縮強度が増加し、セグメントの軸力耐力が向上できる。本発明に係るシールドトンネル用セグメントの代表的な構造例を、図2〜図4に示す。
【0020】
図2に、紙面手前側を断面表示したシールドトンネル用セグメント2aの斜視図を示す。図2に示すシールドトンネル用セグメント2aは、強化繊維として連続炭素繊維を用いた炭素繊維強化プラスチック(CFRP)3aと、コンクリート4aで構成され、CFRP3aは、円周方向に円弧状に延び、セグメントの外面、内面、側面および/または前面を形成する外殻部材構成部および、セグメントの肉厚内に位置する内部部材構成部からなる、四角形断面(箱型断面)形状部を連接した横断面形状に形成されている。このCFRP3aの各四角形断面形状部内に、コンクリート4aが充填されている。充填コンクリート4aは、前述の如く、その設計基準強度が18N/mm2 〜100N/mm2 の範囲に設定されている。
【0021】
図3に示すシールドトンネル用セグメント2bは、強化繊維として連続炭素繊維を用いた炭素繊維強化プラスチック(CFRP)3bと、コンクリート4b、4dで構成され、CFRP3bは、円周方向に円弧状に延び、セグメントの外面、内面、側面および/または前面を形成する外殻部材構成部と、セグメントの肉厚内に位置し、円形断面形状を有し円周方向に延びる複数の円筒形状部を連接した内部部材構成部とを有する横断面形状に形成されている。このCFRP3bの各円形断面形状部内にコンクリート4bが充填され、各円形断面形状部と外殻部材構成部との間に、コンクリート4bとは別のコンクリート4dが充填されている。充填コンクリート4bは、前述の如く、その設計基準強度が18N/mm2 〜100N/mm2 の範囲に設定されている。別コンクリート4dについても、設計基準強度が18N/mm2 〜100N/mm2 の範囲に設定されていることが好ましい。
【0022】
図4に示すシールドトンネル用セグメント2cは、強化繊維として連続炭素繊維を用いた炭素繊維強化プラスチック(CFRP)3cと、コンクリート4cで構成され、CFRP3cは、円周方向に円弧状に延び、セグメントの外面、内面、側面および/または前面を形成する外殻部材構成部と、セグメントの肉厚内に位置し、I形断面形状を有し円周方向に延びるI形断面形状部を複数、間隔をもってセグメント幅方向に平行に配設した内部部材構成部とを有する横断面形状に形成されている。各I形断面形状部は、その上下面で外殻部材構成部の内面に接合されている。このCFRP3cの外殻部材構成部内に、各I形断面形状部間およびI形断面形状部と外殻部材構成部との間を埋めるように、コンクリート4cが充填されている。充填コンクリート4cは、前述の如く、その設計基準強度が18N/mm2 〜100N/mm2 の範囲に設定されている。
【0023】
このように構成されたシールドトンネル用セグメント2a、2b、2cが、図1に示したようにシールド工法による掘削の進行に伴って接合されてされていき、トンネルが順次組み立てられていく。組み立てに用いられる各セグメントは、それらの外面または側面、前面を形成しているCFRP同士が接着により接合されていけばよい。
【0024】
上記のようなシールドトンネル用セグメント2a、2b、2cにおいては、FRP(CFRP)とコンクリートが密着した一体型のセグメントに構成されるので、とくに強度や剛性の高いFRP(CFRP)により、薄肉でも全体として極めて高い強度、剛性を発現できる。
【0025】
その結果、セグメント厚を従来セグメントよりも薄肉化することができ、それによってシールドトンネル工事における掘削径を小さくすることができ、シールドマシン制作費、トンネルの掘進費、掘削で発生する残土の処理費の低減が可能になる。また、残土処分量も減少するため、残土処理に伴う環境負荷を小さくすることもできる。
【0026】
なお、シールドトンネル用セグメントにおけるFRP部材の横断面形状としては、図2〜図4に示したもの以外にも各種の断面形状を採り得る。例えば、図4のI形断面以外に、H形断面のFRP内部部材を使用できる。さらには、L形やZ形断面形状も採用可能である。また、図2に示した四角形断面以外に、三角形断面(例えば、セグメント内部にFRP内部部材をトラス状に連接した構造)としたものや、図3に示した円形断面以外に、6角形〜12角形断面の中空筒状FRP内部部材を連接した構造等も採用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、都市部内に構築する道路トンネルや鉄道トンネル、下水道トンネルの築造に用いて好適なものであり、円形断面トンネルに限らず、2連円形トンネルや多連円形トンネル用のシールド工法にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の対象となるシールドトンネル用セグメントの一例を示す説明図である。
【図2】本発明の一実施例に係るシールドトンネル用セグメントの、紙面手前側を断面表示した斜視図である。
【図3】本発明の別の実施例に係るシールドトンネル用セグメントの、紙面手前側を断面表示した斜視図である。
【図4】本発明のさらに別の実施例に係るシールドトンネル用セグメントの、紙面手前側を断面表示した斜視図である。
【符号の説明】
【0029】
1 シールドトンネル
2、2a、2b、2c シールドトンネル用セグメント
3a、3b、3c FRP(CFRP)
4a、4b、4c コンクリート
4d 別コンクリート
A トンネル軸方向
B トンネル円周方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
FRPとコンクリートでセグメントが構成され、前記FRPは、外殻部材、内部部材の両方もしくはいずれか一方に用いられ、前記外殻部材は、セグメントの外面、内面、側面、前面の少なくともいずれかを形成し、前記内部部材は、トンネル軸方向もしくは円周方向に対し、I形、H形、円形、多角形のいずれかの横断面形状を有することを特徴とするシールドトンネル用セグメント。
【請求項2】
上記多角形が3〜12角形の範囲であることを特徴とする、請求項1に記載のシールドトンネル用セグメント。
【請求項3】
前記FRP間または前記FRP内にコンクリートが充填されていることを特徴とする、請求項1または2に記載のシールドトンネル用セグメント。
【請求項4】
前記FRPは、連続繊維からなる強化繊維とマトリックス樹脂で構成されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のシールドトンネル用セグメント。
【請求項5】
前記強化繊維が、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、PBO(ポリパラフェニレンベンズオキサゾール)繊維、高強度ポリエチレン繊維、ポリアリレート繊維の少なくともいずれかからなる、請求項4に記載のシールドトンネル用セグメント。
【請求項6】
前記マトリックス樹脂が、不飽和ポリエステル、エポキシ、フェノールのいずれかからなる、請求項4または5に記載のシールドトンネル用セグメント。
【請求項7】
前記コンクリートの設計基準強度が18N/mm2 〜100N/mm2 の範囲に設定されている、請求項1〜6のいずれかに記載のシールドトンネル用セグメント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−9420(P2007−9420A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−187871(P2005−187871)
【出願日】平成17年6月28日(2005.6.28)
【出願人】(505245014)
【出願人】(599104369)日鉄コンポジット株式会社 (51)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】